説明

レーザ加工方法及びレーザ加工装置

【課題】
高い効率で精度の良い加工を行うことができるレーザ加工装置及びその加工方法を提供すること。
【解決手段】
fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅が、他方のガルバノミラーによって走査される幅よりも大きくなるように、スキャンエリア7を設定した。これにより、スキャンエリア7内の加工精度を高めながら、広いスキャンエリア7を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関し、特にプリント配線基板等への微小サイズの穴加工に好適である。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板等の穴あけ加工では、大きい穴の加工はマイクロドリルで行われ、φ200μm以下のような小さい穴の加工は特許文献1等に示されるレーザ加工装置によって行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−308981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の小型化・高機能化に伴い、電子機器に搭載されるプリント配線基板の多層化や高密度化が進んでいる。 これに伴い、プリント配線基板への穴加工は、穴の小径化だけでなく、高い精度での加工が要求されている。そこで、本発明の課題は、精度の良い加工を高い効率で行うためのレーザ加工方法及びその加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のレーザ加工方法では、まず、レーザ源から出力されたレーザ光は、前記第1のガルバノミラー2a、前記第2のガルバノミラー2bの順に入射される。その後、レーザ光1はfθレンズ4によって集光照射され、スキャンエリア7内のワーク5を加工する。このとき、スキャンエリア7の、前記fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅が、他方のガルバノミラーによって走査される幅よりも大きくなるようにガルバノスキャナ3a,3bを制御する。
【0006】
本発明のレーザ加工方法としては、その全域で波面収差のRMS値が回折限界以下であることが好ましい。なお、波面収差の回折限界は、一般的にはRMS値(波面全域にわたって、波面収差の2乗の平均値を求め、その1/2乗としたもの)が0.07λ程度とされている。
【0007】
本発明のレーザ加工方法としては、前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される方向において、加工領域の幅Mを、全走査領域の幅の50%よりも大きくすることが好ましい。
【0008】
本発明のレーザ加工方法としては、スキャンエリア7が、前記fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅をWとし、fθレンズの有効焦点距離をFとした場合に、W/F>0.65となっていることが好ましい。
【0009】
本発明のレーザ加工装置では、レーザ光をある方向に偏向走査する第1のガルバノミラー2aと、この第1のガルバノミラー2aが偏向走査する方向とほぼ直交する方向にレーザ光を偏向走査する第2のガルバノミラー2bと、それぞれのガルバノミラー2a,2bの方向を調整するためのガルバノスキャナ3a,3bと、第1のガルバノミラー2aから第2のガルバノミラー2bを経て位置決めされたレーザ光1を集光してスキャンエリア7内のワーク5に照射するfθレンズ4とを備えている。さらに、fθレンズ4の前側焦点位置に近い場所にあるガルバノミラーを走査するガルバノスキャナの駆動軸の可動領域が、他方のガルバノミラーを走査するガルバノスキャナの駆動軸の可動領域よりも大きくなっている。なお、可動領域とは、動かすことができる領域のことではなく、スキャンエリア7の端から端まで動かすための領域をいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スキャンエリア7内の加工穴の精度を高めながら、広いスキャンエリア7を確保することができる。従って、精度の良い加工を高い効率で行うことができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に使用するレーザ加工装置の構成を示す概念図である。
【図2】スキャンエリアの概念図である。
【図3】本発明をプリント基板の穴あけ加工に適用する際の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。以下の例では、Y軸方向を走査するガルバノミラー2bが、X軸方向を走査するガルバノミラー2aよりもfθレンズ4の前側焦点位置に近い場合について説明する。図1は、本発明に使用するレーザ加工装置の構成を示す概念図である。レーザ加工装置は、レーザ発振器から出力されたレーザ光1を2次元的に走査するための2つのガルバノミラー2a,2bと、ガルバノスキャナ3a,3bと、fθレンズ4と、ワーク5を載せるテーブルとを備えている。
【0013】
レーザ発振器が出力するレーザ光1は、まず第1のガルバノミラー2aに入射される。第1のガルバノミラー2aは、そのミラー面がガルバノスキャナ3aの駆動軸の回転に伴って変位し、入射されたレーザ光1の光軸をX軸方向に偏向走査し、レーザ光1を第2のガルバノミラー2bに送出する。第1のガルバノミラー2aからレーザ光を受ける第2のガルバノミラー2bは、そのミラー面がガルバノスキャナ3bの駆動軸の回転に伴って変位する。さらに、入射されたレーザ光1の光軸を第1のガルバノミラー2aの走査方向にほぼ直交するY軸方向に偏向走査してfθレンズ4にレーザ光1を送出する。fθレンズ4は、XY面内で2次元的に走査されたレーザ光をワーク5上の目的の位置に集光照射する。これによって、ガルバノスキャナ3a,3bによってレーザ光を2次元走査できる範囲、すなわちスキャンエリア7にあるワーク5に多数の加工穴6が形成される。
【0014】
加工穴6の精度を上げるには、加工ワーク5に入射するレーザ光の垂直性を高める、いわゆるテレセントリックエラーを小さくする必要がある。テレセントリックエラーを小さくするためには、いくつかの方法がある。
【0015】
例えば、2つのガルバノミラー2a,2b間の距離を縮めることが有効であるが、それぞれのガルバノミラーが回転する際に干渉しない距離を保つ必要がある。そのため、2つのガルバノミラーの距離は、ある程度までしか小さくすることができない。また、その他の方法として、スキャンエリア7を小さくする方法がある。上記のレーザ加工装置では、スキャンエリア7の中心側ほど精度が高い加工をすることができる傾向があるため、中心付近のエリアのみを穴加工に使用すれば、加工穴6の精度を高めることができる。ただし、小数の穴しか加工できないため、加工効率が低下する。その他に、fθレンズを構成するレンズの枚数を増やすことで、テレセントリックエラーを小さくすることもできるが、非常に僅かしか改善できない割に大きなコストアップに繋がることが多く、好ましくない。
【0016】
これに対し、本発明では、スキャンエリア7を、fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅が、他方のガルバノミラーによって走査される幅よりも大きくなるようにした。このようなスキャンエリア7とするには、第1のガルバノミラー2aを走査するガルバノスキャナ3aの駆動軸の可動領域よりも、第2のガルバノミラー2bを走査するガルバノスキャナ3bの駆動軸の可動領域を大きくする方法がある。例えば、従来の正方形のスキャンエリア7’と同じ大きさを確保するには、図2に示すように、第1のガルバノミラー2aの可動領域を小さくし、第2のガルバノミラーの可動領域を大きくすることによって、スキャンエリア7’’として示すようなY軸方向に長辺を有する長方形の領域とすれば良い。
【0017】
長方形のスキャンエリア7’’の長辺の幅、すなわちfθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅Wは、有効焦点距離をFとした場合に、W/F>0.65とすることが好ましい。従来の正方形のスキャンエリア7’では、W/Fは0.4〜0.6程度となっている。これは、正方形のスキャンエリアでW/F>0.65にしようとすると、fθレンズの径を大きくしたり、枚数を大きくしたりする必要があるためである。また、装置の機構上の制約もあり、W/Fを大きくすることができなかった。これに対し、今回の発明では、fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーが走査する幅のみを大きくしているので、fθレンズの径を抑え、枚数を増やすことなくW/Fを大きくすることができる。なお、W/Fの値としては、W/F>0.75とすることがより好ましい。
【0018】
なお、上述した例では、第1のガルバノミラー2aが偏向走査する方向をX軸方向としたが、Y軸方向を先に偏向走査しても良い。さらに、加工される穴の配置によってはそれ以外の方向でも構わない。
【0019】
また、fθレンズ4の前側焦点位置が、第1のガルバノミラー2aに近い位置にある場合は、第1のガルバノミラーによって偏向走査される方向(上述した例ではX軸方向)に長辺を有するようなスキャンエリア7を設定すればよい。
【0020】
<試験例>
図1に示す加工装置において、図2に示す正方形のスキャンエリア7’を有するように設計されたfθレンズAを使用する場合と、長方形のスキャンエリア7’’を有するように設計されたfθレンズBを使用する場合とについて比較を行った。この加工装置では、第2のガルバノミラーをfθレンズの前側焦点位置に近い位置に設けている。そのため、fθレンズBのスキャンエリア7’’はY軸方向が長辺となるような長方形とした。また、試験では、波面収差のRMS値が回折限界以下(今回は0.07λ以下とした)となっているスキャンエリアの全域において、テレセントリックエラーの比較を行った。なお、テレセントリックエラーの大きさは、幾何光学計算で光線追跡することで算出することができる。
【0021】
<試験条件>
【表1】

【0022】
レンズAを用いた場合
【表2】

【0023】
レンズBを用いた場合
【表3】

【0024】
表1の結果からわかるように、スキャンエリアを長方形とした場合は、スキャンエリアを正方形とした場合に比べ、そのエリアの全域でテレセントリックエラーが小さく、高い精度で加工ができる。また、回折限界以下となっている全ての領域において、テレセントリックエラーが小さくなっている。なお、今回の試験では、対称の位置にあるエリアについては比較を行っていないが、同等の結果が得られると考えられる。
【0025】
特に、第2のガルバノミラーによって偏向走査するY軸方向の全域で高い精度の加工が行えていることがわかる。加工効率を高めるためには、この方向のスキャンエリアをできるだけ広く使用することが好ましいが、必ずしも全てのエリアを使用する必要はない。加工効率を考慮すると、加工領域の幅(例えば、最も遠い位置にある2つの穴の間隔:図2ではb1とb2のY軸方向の距離M)が、スキャンエリアの幅の50%よりも大きくなるように設定することが好ましい。
【0026】
また、本発明はプリント配線板の加工に好適である。本発明では、従来技術よりも広幅なスキャンエリアを有しているため、特に長尺でフレキシブルなシート状の基板を加工する際に有用である。長尺でフレキシブルなシート状の基板の場合、加工工程の途中で図3に示すようにロール状に巻いた状態にある。従来技術の場合、シート状の基板を加工しやすいサイズに分断してから穴あけ加工をする必要があるため、分断したシート状の基板の取扱いや位置決め等の手間がかかっていた。それに対し、本発明を利用すれば、シート状の基板を分断する前に穴あけ加工を行うことが出来るので、1枚ごとに位置決めを行う手間が無くなり、工程を短縮することができる。
【0027】
なお、上述した説明では、穴明け加工に適用した場合について説明したが、ワークへのレーザーマーキング等、その他の加工にも適用することができる。また、上述した例は、あくまでも例示であって、本発明は実施例によって限定されるものではない。当業者であれば特許請求の範囲によって画定される本発明の技術的思想を逸脱することなく様々な変形若しくは変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関し、特にプリント配線基板等への微小サイズの穴加工に好適である。
【符号の説明】
【0029】
1 レーザ光
2a,2b ガルバノミラー
3 ガルバノスキャナ
4 fθレンズ
5 ワーク
6 加工穴
7 スキャンエリア
11 フレキシブルプリント基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ源から出力されたレーザ光を、ある方向に偏向走査する第1のガルバノミラー2aと、この第1のガルバノミラー2aが偏向走査する方向とほぼ直交する方向に偏向走査する第2のガルバノミラー2bとによって位置決めしてfθレンズ4に入射し、
前記fθレンズ4から照射されるレーザ光1によって、スキャンエリア7内のワーク5の加工を行うレーザ加工方法であって、
前記スキャンエリア7において、前記fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅が、他方のガルバノミラーによって走査される幅よりも大きくなるようにガルバノスキャナ3a,3bを制御することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記スキャンエリア7は、その全域で波面収差のRMS値が回折限界以下である請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される方向において、加工領域の幅Mが、スキャンエリアの幅の50%よりも大きくした請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記スキャンエリア7は、前記fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーによって走査される幅をWとし、fθレンズの有効焦点距離をFとした場合に、W/F>0.65となる請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ加工方法
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ加工方法に使用するレーザ加工装置であって、
レーザ光をある方向に偏向走査する第1のガルバノミラー2aと、
この第1のガルバノミラー2aが偏向走査する方向とほぼ直交する方向にレーザ光を偏向走査する第2のガルバノミラー2bと、
それぞれのガルバノミラー2a,2bの方向を調整するためのガルバノスキャナ3a,3bと、
前記第1のガルバノミラー2aから第2のガルバノミラー2bを経て位置決めされたレーザ光1を集光してスキャンエリア7内のワーク5に照射するfθレンズ4とを備え、
前記fθレンズ4の前側焦点位置に近い位置にあるガルバノミラーを走査する前記ガルバノスキャナの駆動軸の可動領域が、他方のガルバノミラーを走査するガルバノスキャナの駆動軸の可動領域よりも大きくしたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
前記ワーク5がフレキシブル配線基板である請求項5に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148001(P2011−148001A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283892(P2010−283892)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】