説明

レーザ加工装置

【課題】 加工対象物に照射されるレーザビームの断面内における光強度分布の変動を抑制できるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】 レーザ加工装置は、レーザビームを出射するレーザ光源1と、外部から入力される制御信号に基づいて、前記レーザ光源から出射したレーザビームの拡がり角を変化させる拡がり角調節器3と、前記拡がり角調節器から出射したレーザビームの断面内の光強度分布を測定する測定器9と、前記測定器が測定した光強度分布に基づき、光強度分布が目標とする分布に近づくように、前記拡がり角調節器を制御する制御装置10とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関し、レーザ光源から出射したレーザビームの断面内の光強度分布を調整することができるレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に非晶質シリコン膜が形成された基板に、例えば、エキシマレーザのパルスの照射を繰り返すことにより、非晶質シリコン膜を多結晶化するレーザアニールが行われている。レーザ照射により非晶質シリコン膜が一時的に溶融して、多結晶化が行われる。多結晶シリコン膜が形成された基板は、例えば、アクティブマトリクス型液晶表示装置に用いられる。
【0003】
上述のようなレーザアニール処理を行うとき、ホモジナイザを用いて、レーザビームの断面を細長い形状に整形するとともに、整形されたビーム断面内の長尺方向の光強度分布を均一化することが行われる。ホモジナイザを出射したレーザビームが、基板に照射される。基板表面上の光照射領域を、光照射領域の長尺方向に直交する方向に移動させながら、パルスレーザビームの照射を繰り返す。パルスレーザビームのあるショットで照射される光照射領域と、その次のショットで照射される光照射領域とが、光照射領域の幅方向(光照射領域の短尺方向)に関して部分的に重なるような速さで、基板表面上の光照射領域を移動させる。このようにして、被加工面全面にレーザビームが照射される。
【0004】
基板表面に照射されるレーザビームの断面内の光強度分布が適切でないと、形成される多結晶シリコン膜の品質を高めることができない。そこで、ホモジナイザから出射したレーザビームの断面内の光強度分布を監視することができるレーザ加工装置が考えられている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されたレーザ加工装置は、光強度分布を測定するためのプロファイルモニタを有する。このプロファイルモニタは、折り返しミラーと、結像レンズと、ビーム断面内の光強度分布を測定することができるCCDカメラとを有し、移動可能に設置されている。例えばアニール処理の開始前等に、以下のようにして光強度分布の測定を行う。
【0006】
プロファイルモニタを移動させて、折り返しミラーを、ホモジナイザから出射し、基板に照射されるレーザビームの光路上に配置する。ホモジナイザから出射したレーザビームは、折り返しミラーで反射され、ホモジナイザから被加工面まで到達する光路長だけ進行した位置で、断面を所望の形状に整形され、断面内の光強度分布が均一化される。この位置のビーム断面が、結像レンズで結像され、結像面に配置されたCCDカメラが、ビーム断面内の光強度分布を測定する。このようにして、被加工面に照射されるレーザビームの断面内の光強度分布に対応する光強度分布を測定することができる。アニール処理を行うときは、基板に照射されるレーザビームと折り返しミラーとが干渉しないような退避位置に、プロファイルモニタが配置される。
【0007】
また、特許文献2には、以下に説明するようなレーザ加工装置が記載されている。レーザ光源から出射したレーザビームが、アッテネータを通過し、アクチュエータにより揺動可能な折り返しミラーで反射され、ホモジナイザへ入射する。ホモジナイザから出射したレーザビームが、入射光の大部分を反射し、残りを透過させる部分反射鏡に入射する。部分反射鏡で反射したレーザビームが、基板に照射される。部分反射鏡を透過したレーザビームが、レーザビームの断面の長尺方向の両端部と中央部の光がそれぞれ入射するように配置された3台のCCDカメラに入射する。
【0008】
このレーザ加工装置では、上述のように配置された3台のCCDカメラにより、ビーム断面内の光強度分布が監視される。光強度分布が適正でない場合に、アクチュエータにより折り返しミラーを揺動させ、ホモジナイザに入射するレーザビームの入射方向を変化させて、ビーム断面内の光強度分布の適正化が図られる。また、長尺方向の両端の光強度の差が、許容範囲を超えた場合に、レーザ光源への媒質ガスの注入や、冷却水の注入等が行われ、その差の低減が図られる。また、ビーム断面内に照射されるエネルギが設定値からずれた場合に、アッテネータが制御され、エネルギが設定値となるように調整される。
【0009】
このレーザ加工装置では、ホモジナイザから出射したレーザビームを、部分反射鏡に入射させ、その反射光を基板に照射し、その透過光をCCDカメラに入射させる。これにより、アニール処理を行いながら、ビーム断面内の光強度分布を監視することができる。
【0010】
【特許文献1】特開2001−77046号公報
【特許文献2】特開2003−258349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ホモジナイザにより、長尺に整形されたビーム断面の幅方向(短尺方向)に関する光強度分布も均一化することができる。ビーム断面内の幅方向の光強度は、両端からある程度の緩やかさで立ち上がり、両端を除く内部でほぼ一様となる。レーザアニール処理では、パルスレーザビームの各ショットの光照射領域を、光照射領域の幅方向に関して、部分的に重ねる。ビーム断面の幅方向に関する光強度分布の、立ち上がり部分の形状が、時間的に変動すると、形成される多結晶シリコン膜の品質がばらつく。
【0012】
本発明の一目的は、加工対象物に照射されるレーザビームの断面内における光強度分布の変動を抑制できるレーザ加工装置を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、レーザ光源から出射したレーザビームを、加工対象物に照射しながら、ビーム断面内の光強度分布を測定し、光強度分布の立ち上がり部分の形状を監視することができるレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点によれば、レーザビームを出射するレーザ光源と、外部から入力される制御信号に基づいて、前記レーザ光源から出射したレーザビームの拡がり角を変化させる拡がり角調節器と、前記拡がり角調節器から出射したレーザビームの断面内の光強度分布を測定する測定器と、前記測定器が測定した光強度分布に基づき、光強度分布が目標とする分布に近づくように、前記拡がり角調節器を制御する制御装置とを有するレーザ加工装置が提供される。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、レーザビームを出射するレーザ光源と、前記レーザ光源から出射したレーザビームを分岐させる分岐器と、前記分岐器から出射して、ある1つの光路に沿って伝搬したレーザビームが照射される位置に、加工対象物を保持する保持台と、前記分岐器から出射して、他の1つの光路に沿って伝搬したレーザビームの、断面内の第1の方向に関する光強度分布を測定し、該光強度分布内でビーム断面の縁から内部に向かって光強度が上昇する外周近傍領域において、強度が第1の値から第2の値まで変化する範囲の、該第1の方向に関する長さを検出する検出器とを有するレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
レーザビームの断面内における光強度分布の形状(例えば、光強度分布の立ち上がりの急峻さ)が、レーザビームの拡がり角に依存する。本発明の第1の観点によるレーザ加工装置において、測定器が測定した光強度分布に基づいて、制御装置が拡がり角調節器を制御することにより、光強度分布が目標の分布に近づく。例えば、レーザアニール処理において、加工対象物に照射されるレーザビームの断面内における光強度分布が時間的に変動しないことが好ましい。このレーザ加工装置を、レーザアニール処理装置に応用すれば、光強度分布が時間的に変動することを抑制できる。
【0017】
本発明の第2の観点によるレーザ加工装置において、分岐器でレーザビームが分岐されることにより、加工対象物と検出器とに、同時にレーザビームを照射することが可能となる。検出器により、ビーム断面内における光強度分布の立ち上がり部分の形状に対応する物理量が検出される。例えば、レーザアニール処理において、加工対象物に照射されるレーザビームの断面内における光強度分布の立ち上がり部分の形状が、時間的に変動しないことが好ましい。このレーザ加工装置を、レーザアニール処理装置に応用すれば、レーザアニール処理を行いながら、ビーム断面内における光強度分布の立ち上がり部分の形状の、時間的な変動を監視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。レーザ光源1がレーザビームを出射する。レーザ光源1として、例えば、エキシマレーザが用いられる。レーザ光源1から出射したレーザビームが、レーザビームの強度を変化させるフィルタ2に入射する。制御装置10が、フィルタ2を制御して、レーザビームの強度を所望の値に調節する。フィルタ2を通過したレーザビームが、ビーム断面の拡大率可変のズームレンズ3に入射する。
【0019】
ズームレンズ3は、入射したレーザビームの断面を拡大し、断面を拡大したレーザビームを、ほぼ平行光として出射する。レーザビームの光路上の一定の位置において、ビーム径と拡がり角との積が一定値となることが知られている。例えば、ズームレンズ3からレーザビームが出射する位置におけるビーム径を、ズームレンズ3を配置しない場合のその位置におけるビーム径の2倍に拡大すると、拡がり角が、ビーム径を拡大しない場合の1/2に減少する。ズームレンズ3により、ビーム断面を拡大することで、レーザ光源1から出射したレーザビームの拡がり角を低減させることができる。
【0020】
ビーム断面の拡大率を変化させることにより、ズームレンズ3から出射したレーザビームの拡がり角を変化させることができる。制御装置10が、ズームレンズ3を制御して拡大率を変化させ、レーザビームの拡がり角を所望の値に調節する。
【0021】
ズームレンズ3から出射したレーザビームが、アレイレンズ4を透過して、部分反射鏡5に入射する。部分反射鏡5は、入射光の大部分(例えば、99.5〜99.9%)を反射し、残り(例えば、0.1%〜0.5%)の光を透過させる。部分反射鏡5で反射されたレーザビームが、フォーカスレンズ6aに入射する。アレイレンズ4とフォーカスレンズ6aとを含んで、ビーム断面の整形とビーム断面内の光強度分布の均一化とを行うホモジナイザ11aが構成される。
【0022】
部分反射鏡5を透過したレーザビームが、フォーカスレンズ6bに入射する。フォーカスレンズ6bは、フォーカスレンズ6aと同一の光学特性を有する。また、アレイレンズ4からフォーカスレンズ6aまでの光路長と、アレイレンズ4からフォーカスレンズ6bまでの光路長とが等しくなるように、フォーカスレンズ6bが配置されている。アレイレンズ4とフォーカスレンズ6bとを含んで、ビーム断面の整形とビーム断面内の光強度分布の均一化とを行うホモジナイザ11bが構成される。
【0023】
図2(A)及び図2(B)を参照して、アレイレンズ4とフォーカスレンズ6bとを有するホモジナイザ11bについて説明する。なお、図において、部分反射鏡5を省略している。アレイレンズ4に入射する光線束の光軸に平行なZ軸を有するXYZ直交座標系を考える。図2(A)は、YZ面に平行な断面図、図2(B)は、XZ面に平行な断面図を示す。
【0024】
図2(A)に示すように、等価な7本のシリンドリカルレンズが、各々の母線方向をX軸と平行にし、かつY軸方向に配列し、XY面に平行な仮想平面に沿ったシリンダアレイ15Aと15Bが構成されている。シリンダアレイ15A及び15Bの各シリンドリカルレンズの光軸面はXZ面に平行である。ここで、光軸面とは、シリンドリカルレンズの面対称な結像系の対称面のことを意味する。シリンダアレイ15Aは光の入射側(図の左方)に配置され、シリンダアレイ15Bは出射側(図の右方)に配置されている。
【0025】
図2(B)に示すように、等価な7本のシリンドリカルレンズが各々の母線方向をY軸と平行にし、かつX軸方向に配列し、XY面に平行な仮想平面に沿ったシリンダアレイ16Aと16Bが構成されている。シリンダアレイ16A及び16Bの各シリンドリカルレンズの光軸面はYZ面に平行である。シリンダアレイ16Aはシリンダアレイ15Aの前方(図の左方)に配置され、シリンダアレイ16Bはシリンダアレイ15Aと15Bとの間に配置されている。シリンダアレイ15Aと15Bの対応するシリンドリカルレンズの光軸面は一致し、シリンダアレイ16Aと16Bの対応するシリンドリカルレンズの光軸面も一致する。シリンダアレイ15A、15B、16A及び16Bを含んで、アレイレンズ4が構成される。
【0026】
シリンダアレイ15Bの後方の、シリンダアレイ15Bから所定の光路長だけ離れた位置に、フォーカスレンズ6bが配置されている。フォーカスレンズ6bの光軸は、Z軸に平行である。
【0027】
図2(A)を参照して、YZ面内に関する光線束の伝搬の様子を説明する。YZ面内においては、シリンダアレイ16A及び16Bは単なる平板であるため、光線束の収束、発散に影響を与えない。シリンダアレイ16Aの左方からZ軸に平行な光軸を有する平行光線束17がシリンダアレイ16Aに入射する。平行光線束17は、例えば曲線21Yで示すように、中央部分で強く周辺部分で弱い光強度分布を有する。
【0028】
平行光線束17がシリンダアレイ16Aを透過し、シリンダアレイ15Aに入射する。入射光線束は、シリンダアレイ15Aにより各シリンドリカルレンズに対応した7つの収束光線束に分割される。図2(A)では、中央と両端の光線束のみを代表して示している。7つの収束光線束は、それぞれ曲線21ya〜21ygで示す光強度分布を有する。シリンダアレイ15Aによって収束された光線束は、シリンダアレイ15Bにより再度収束される。
【0029】
シリンダアレイ15Bにより収束した7つの収束光線束18は、それぞれフォーカスレンズ6bの前方で結像する。この結像位置は、フォーカスレンズ6bの入射側焦点よりもレンズに近い。このため、フォーカスレンズ6bを透過した7つの光線束はそれぞれ発散光線束となり、フォーカスレンズ6bから所定の光路長だけ離れたホモジナイズ面20上において重なる。ホモジナイズ面20を照射する7つの光線束のY軸方向の光強度分布は、それぞれ光強度分布21ya〜21ygをY軸方向に引き伸ばした分布に等しい。光強度分布21yaと21yg、21ybと21yf、21ycと21yeは、それぞれY軸方向に関して反転させた関係を有するため、これらの光線束を重ね合わせた光強度分布は、実線22yで示すように均一な分布に近づく。
【0030】
図2(B)を参照して、XZ面内に関する光線束の伝搬の様子を説明する。XZ面内においては、シリンダアレイ15A及び15Bは単なる平板であるため、光線束の収束、発散に影響を与えない。平行光線束17がシリンダアレイ16Aに入射する。平行光線束17は、例えば曲線21Xで示すように、中央部分で強く周辺部分で弱い光強度分布を有する。
【0031】
平行光線束17がシリンダアレイ16Aにより各シリンドリカルレンズに対応した7つの収束光線束に分割される。図2(B)では、中央と両端の光線束のみを代表して示している。7つの収束光線束は、それぞれ曲線21xa〜21xgで示す光強度分布を有する。
【0032】
各光線束は、シリンダアレイ16Bの前方で結像し、発散光線束となってシリンダアレイ16Bに入射する。シリンダアレイ16Bに入射した各光線束は、それぞれある出射角を持って出射し、フォーカスレンズ6bに入射する。フォーカスレンズ6bを透過した7つの光線束はそれぞれ収束光線束となり、ホモジナイズ面20上において重なる。
【0033】
ホモジナイズ面20を照射する7つの光線束のX軸方向の光強度分布は、実線22xで示すように均一な分布に近づく。以上説明したようにして、ホモジナイズ面20上の光照射領域が、Y軸方向に長く、X軸方向に短い線状の形状となる。
【0034】
なお、アレイレンズ4とフォーカスレンズ6aとを有するホモジナイザ11aは、アレイレンズ4を出射したレーザビームが部分反射鏡5で反射されて、フォーカスレンズ6aに入射することにより、アレイレンズ4とフォーカスレンズ6bとを有するホモジナイザ11bと同様に作用する。ホモジナイザ11aのホモジナイズ面において、一方向に細長い領域に光が照射され、光照射領域内の光強度がほぼ均一となる。
【0035】
図1に戻って説明を続ける。アレイレンズ4を出射し、部分反射鏡5で反射され、フォーカスレンズ6aを透過したレーザビームが、表面に非晶質シリコン膜が形成された基板7に照射される。基板7の被加工面が、ホモジナイザ11aのホモジナイズ面上に配置される。これにより、被加工面上の細長い線状領域が、ほぼ均一に照射される。
【0036】
基板7が、XYステージ8に保持される。XYステージ8は、基板7を、被加工面に平行な2次元方向に移動させることができる。XYステージ8で、基板上の光照射領域の長尺方向と直交する方向に、基板7を移動させながら、被加工面へのレーザビーム照射を行うことにより、非晶質シリコン膜のアニール処理が行われる。
【0037】
アレイレンズ4を出射し、部分反射鏡5を透過し、フォーカスレンズ6bを透過したレーザビームが、ビーム断面内の1次元方向に関する光強度分布を測定することができるラインセンサ9に入射する。ラインセンサ9の受光面が、ホモジナイザ11bのホモジナイズ面上の、ビーム断面の長尺方向の適当な位置に、光強度分布の測定方向が、ビーム断面の長尺方向と直交するように(つまり、ビーム断面の幅方向と平行になるように)配置される。ラインセンサ9が、ビーム断面内の、幅方向(短尺方向)の光強度分布を測定する。ラインセンサ9が測定した光強度分布に対応した信号が、例えば、1秒当たり1回の頻度で、制御装置10に送出される。
【0038】
ホモジナイザ11aと11bとは同様に作用するので、ホモジナイザ11aのホモジナイズ面上のビーム断面と、ホモジナイザ11bのホモジナイズ面上のビーム断面とが合同となる。ホモジナイザ11bのホモジナイズ面上のビーム断面内の光強度分布に、部分反射鏡5の反射光と透過光の強度比に応じた係数を掛けることにより、ホモジナイザ11aのホモジナイズ面上のビーム断面内の光強度分布と一致させることができる。このように、両ビーム断面内の光強度分布は、互いに対応する。
【0039】
これにより、ラインセンサ9が測定した光強度分布は、被加工面上のビーム断面の、長尺方向のある位置の、幅方向の光強度分布に対応する。このように、ラインセンサ9で、ホモジナイザ11bのホモジナイズ面における光強度分布を監視することにより、被加工面に照射されるレーザビームの光強度分布を監視することができる。
【0040】
なお、部分反射鏡5でレーザビームが分岐される(部分反射鏡5の入射光が、透過光と反射光とに分かれる)分岐点、フォーカスレンズ6a、及び、XYステージ8に保持された基板7の被加工面の相対位置関係が、該分岐点、フォーカスレンズ6b、及び、ラインセンサ9が光強度分布を測定する受光面の相対位置関係と等しい。
【0041】
図3は、ラインセンサ9が測定する光強度分布を概略的に示すグラフである。グラフの縦軸が光強度を示し、横軸がビーム断面内の幅方向の位置を示す。分布内の強度の最大値(ピーク強度)がPである。
【0042】
図に示すように、ビーム断面内の幅方向の一端から中心までの強度は、一端から緩やかに増加していき、ある位置から急激に増加し、ほぼ最大値Pに達してからは、ほぼ一定となる。ビーム断面の中心で、強度が最大値Pとなる。ビーム断面の他端からビーム断面の中心までの強度も、同様に変化する。
【0043】
光強度分布の形状を表すために、例えば、以下のような指標が定義される。強度が最大値Pの50%以上である範囲の幅が、半値全幅Wである。これは、光強度分布の幅を表す。ビーム断面の中心から一端側(図では左方)で、ビーム断面の縁から内部に向かって光強度が上昇する外周近傍領域において、強度がPからPまで変化する範囲の幅が、左スロープ幅WSAである。また、ビーム断面の中心から他端側(図では右方)で、ビーム断面の縁から内部に向かって光強度が上昇する外周近傍領域において、強度がPからPまで変化する範囲の幅が、右スロープ幅WSBである。左右のスロープ幅は、光強度分布の立ち上がりの急峻さを表す。これらのスロープ幅が狭いほど、光強度分布の立ち上がりが急峻であり、これらのスロープ幅が広いほど、光強度分布の立ち上がりが緩慢である。スロープ幅を規定する強度P及びPを、例えば、それぞれピーク強度Pの20%及び80%に設定する。
【0044】
図1の制御装置10が、ラインセンサ9から入力された光強度分布に対応する信号に基づいて、ピーク強度P、半値全幅W、左スロープ幅WSA、及び右スロープ幅WSBを算出する。なお、光強度を幅方向について積算することにより、ビーム断面を通過するラインセンサを照射するエネルギを算出することもできる。また、異なる時刻の光強度分布のデータに基づいて、光強度分布の中心位置(ポインティング)の幅方向に関する変動を算出することもできる。
【0045】
さて、本発明者らは、光強度分布の立ち上がりの急峻さを表す左右のスロープ幅WSA及びWSBが、図1のアレイレンズ4に入射するレーザビームの拡がり角に依存して変動することに着目した。拡がり角が小さいとき、両スロープ幅はともに短くなる。つまり、光強度分布の立ち上がりが急峻になる。一方、拡がり角が大きいとき、両スロープ幅はともに長くなる。つまり、光強度分布の立ち上がりが緩慢になる。なお、拡がり角がゼロとなる極限では、両スロープ幅はともにゼロとなる。
【0046】
エキシマレーザ光源の出力は、レーザ発振を数十時間続けると、レーザ媒質のガスが劣化したり、ウインドウが汚れたりすることに起因して低下する。これに伴い、エキシマレーザ光源から出射するレーザビームの拡がり角が増加する。これにより、時間が経過するにしたがって、左右のスロープ幅が増加する(光強度分布の立ち上がりが緩慢になる)現象が起こる。加工品質の安定性の観点から、被加工面に照射されるレーザビームの光強度分布の形状が、時間的に変動することは好ましくない。
【0047】
図1に示したレーザ加工装置において、ラインセンサ9から制御装置10へ、所定の頻度で順次、光強度分布に対応する信号が入力される。制御装置10が、各時刻の光強度分布に対して、左右のスロープ幅WSA及びWSBを算出する。左右のスロープ幅のそれぞれについて、目標値からのずれが検出された場合は、制御装置10が、スロープ幅のずれが小さくなるように、ズームレンズ3の拡大率を変化させる。
【0048】
図1に示したレーザ加工装置は、このようにして、左右のスロープ幅が変動することを抑制できる。被加工面に照射されるレーザビームの光強度分布の形状が、時間的に変動することが抑制されるので、加工品質の安定性が高まる。
【0049】
なお、光強度分布内のピーク強度が目標値からずれた場合や、ビーム断面を通過するラインセンサを照射するエネルギが、目標値からずれた場合は、制御装置10がフィルタ2を制御して、ピーク強度やエネルギのずれが小さくなるように、レーザビームの強度を変化させる。
【0050】
図1に示したレーザ加工装置は、部分反射鏡5の反射光を被加工面に照射し、透過光をラインセンサ9に入射させて、その光強度分布を監視する。上述したように、ラインセンサ9が監視する光強度分布は、被加工面に照射されるレーザビームの断面内の光強度分布に対応する。これにより、アニール処理を行いながら、アニール処理に用いられるレーザビームの光強度分布を監視することができる。特に、左右のスロープ幅WSA及びWSBを算出することによって、光強度分布の立ち上がり部分の形状の乱れ(変動)を監視することができる。なお、部分反射鏡5が、入射光の大部分を透過し、残りを反射するようにして、透過光を被加工面に照射し、反射光をラインセンサ9に入射させるような構成としても構わない。
【0051】
なお、ラインセンサは、ビーム断面の長尺方向について、複数個配置しても構わない。複数個のラインセンサを、長尺方向の複数の位置に配置することにより、長尺方向について、光強度分布が均一化されているかどうかを監視することができる。なお、ラインセンサの光強度分布の測定方向は、必要に応じて、ビーム断面の長尺に直交する方向以外にしても構わない。
【0052】
なお、ビーム断面内の1次元方向に関する光強度分布を測定するラインセンサの代わりに、ビーム断面内の光強度分布を2次元方向に関して測定できるCCDカメラを配置しても構わない。
【0053】
なお、図1(B)に示すように、ラインセンサ9を、ビームホモジナイザ11bのホモジナイズ面20a以外の位置に配置することも可能である。ビームホモジナイザ11bのホモジナイズ面20a上のビーム断面を結像させるレンズ12を、該ホモジナイズ面の後方に配置し、ビーム断面が結像する面上にラインセンサ9の受光面を配置する。結像面上の光照射領域は、ホモジナイズ面20a上のビーム断面と相似な形状となる。ホモジナイズ面20a上のビーム断面と、ラインセンサ9への入射光のビーム断面とは大きさが異なり得るが、両ビーム断面内の光強度分布は互いに対応する。このようにラインセンサ9を配置しても、被加工面に照射されるレーザビームの光強度分布に対応する光強度分布を監視することができる。
【0054】
次に、図4を参照して、第2の実施例によるレーザ加工装置について説明する。図4に示すレーザ加工装置は、図1に示したレーザ加工装置からフォーカスレンズ6a及び6bを取り除き、アレイレンズ4から部分反射鏡5までの間の光路上にフォーカスレンズ6を配置した構成を有する。図4に示すレーザ加工装置において、アレイレンズ4とフォーカスレンズ6とがホモジナイザ11を構成し、ホモジナイザ11から出射したレーザビームが、部分反射鏡5に入射する。
【0055】
部分反射鏡5の反射光が基板7に照射され、透過光がラインセンサ9に入射する。ラインセンサ9の受光面が、ホモジナイザ11のホモジナイズ面に配置される。フォーカスレンズ6からラインセンサ9の受光面までの光路長と、フォーカスレンズ6から基板7の被加工面までの光路長とが等しく設定される。これにより、被加工面もホモジナイザ11のホモジナイズ面上に配置される。図4に示したレーザ加工装置は、ホモジナイザを構成するためのフォーカスレンズが1枚で済む。
【0056】
なお、以上説明したレーザ加工装置では、ホモジナイザを通過したレーザビームの断面内の光強度分布を測定したが、上記のレーザ加工装置からホモジナイザを取り除き、レーザ光源から出射したレーザビームの拡がり角をズームレンズで調節し、ズームレンズから出射したレーザビームの断面内の光強度分布を測定しても構わない。光強度分布の測定器に入射するレーザビームの断面内の光強度分布の形状が、拡がり角に依存する。測定器で測定された光強度分布に基づいて、拡がり角を調節することにより、光強度分布を目標の分布に近づけることができる。なお、レーザビームの拡がり角を、ズームレンズ3以外の装置で調節しても構わない。また、以上説明したレーザ加工装置を、レーザアニール処理以外の用途に用いても構わない。
【0057】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1(A)は、本発明の第1の実施例によるレーザ加工装置の概略図であり、図1(B)は同実施例の変形例によるレーザ加工装置の一部を示す概略図である。
【図2】図2(A)及び図2(B)は、ホモジナイザの構成例を示す概略図である。
【図3】ホモジナイザで整形されたビーム断面内の光強度分布を概略的に示すグラフである。
【図4】第2の実施例によるレーザ加工装置の概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1 レーザ光源
2 フィルタ
3 ズームレンズ
4 アレイレンズ
5 部分反射鏡
6a、6b、6 フォーカスレンズ
7 基板
8 XYステージ
9 ラインセンサ
10 制御装置
11a、11b、11 ホモジナイザ
12 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出射するレーザ光源と、
外部から入力される制御信号に基づいて、前記レーザ光源から出射したレーザビームの拡がり角を変化させる拡がり角調節器と、
前記拡がり角調節器から出射したレーザビームの断面内の光強度分布を測定する測定器と、
前記測定器が測定した光強度分布に基づき、光強度分布が目標とする分布に近づくように、前記拡がり角調節器を制御する制御装置と
を有するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記拡がり角調節器が、ビーム断面の拡大率を変化させる請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記測定器が、ビーム断面内の第1の方向に関する光強度分布を測定し、前記制御装置が、該第1の方向に関する光強度分布内の、ビーム断面の縁から内部に向かって光強度が上昇する外周近傍領域において、強度が第1の値から第2の値まで変化する範囲の、該第1の方向に関する長さを算出し、算出された該長さが目標値からずれたとき、そのずれが小さくなるように、前記拡がり角調節器を制御する請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
さらに、前記拡がり角調節器から出射したレーザビームの断面を、一方向に細長い形状に整形するビーム整形器を有し、
前記第1の方向が、ビーム断面の長尺方向と直交する方向である請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
さらに、
前記拡がり角調節器から前記測定器までの間の光路上に配置され、該拡がり角調節器から出射したレーザビームを分岐させる分岐器と、
前記分岐器から出射して、ある1つの光路に沿って伝搬したレーザビームが照射される位置に、加工対象物を保持する保持台と
を有し、
前記測定器は、前記分岐器から出射して、他の1つの光路に沿って伝搬したレーザビームの光強度分布を測定する請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
さらに、
前記拡がり角調節器から出射したレーザビームが入射するように配置され、入射したレーザビームの断面内で、レーザビームを複数に分割するアレイレンズと、
前記アレイレンズから出射したレーザビームを分岐させる分岐器と、
前記分岐器から出射し、ある1つの光路に沿って伝搬するレーザビームが入射し、該アレイレンズによりレーザビームの断面内で分割されたレーザビームを、共通の領域に照射する第1のフォーカスレンズと、
前記第1のフォーカスレンズから出射したレーザビームが照射される位置に、加工対象物を保持する保持台と、
前記分岐器から出射し、他の1つの光路に沿って伝搬するレーザビームが入射し、前記第1のフォーカスレンズと同一の光学特性を有する第2のフォーカスレンズと
を有し、
前記測定器は、前記第2のフォーカスレンズを出射したレーザビームの光強度分布を測定する請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記分岐器でレーザビームが分岐される分岐点、前記第1のフォーカスレンズ、及び前記保持台に保持された加工対象物の被加工面の相対位置関係が、該分岐点、前記第2のフォーカスレンズ、及び前記測定器が光強度分布を測定する受光面の相対位置関係と等しい請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
さらに、前記第2のフォーカスレンズから前記測定器までの間の光路上に配置されたレンズを有し、前記第2のフォーカスレンズから該レンズまでの光路と交差する仮想平面であって、前記分岐器でレーザビームが分岐される分岐点、前記第2のフォーカスレンズ、及び該仮想平面の相対位置関係が、該分岐点、前記第1のフォーカスレンズ、前記保持台に保持された加工対象物の被加工面の相対位置関係と等しい該仮想平面を考えたとき、該レンズが、該仮想平面上のビーム断面を、該測定器が光強度分布を測定する受光面に結像させる請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
レーザビームを出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射したレーザビームを分岐させる分岐器と、
前記分岐器から出射して、ある1つの光路に沿って伝搬したレーザビームが照射される位置に、加工対象物を保持する保持台と、
前記分岐器から出射して、他の1つの光路に沿って伝搬したレーザビームの、断面内の第1の方向に関する光強度分布を測定し、該光強度分布内でビーム断面の縁から内部に向かって光強度が上昇する外周近傍領域において、強度が第1の値から第2の値まで変化する範囲の、該第1の方向に関する長さを算出する長さ算出手段と
を有するレーザ加工装置。
【請求項10】
レーザビームを出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射したレーザビームが入射するように配置され、入射したレーザビームの断面内で、レーザビームを複数に分割するアレイレンズと、
前記アレイレンズから出射したレーザビームを分岐させる分岐器と、
前記分岐器から出射して、ある1つの光路に沿って伝搬するレーザビームが入射し、該アレイレンズによりレーザビームの断面内で分割されたレーザビームを、共通の領域に照射する第1のフォーカスレンズと、
前記第1のフォーカスレンズから出射したレーザビームが照射される位置に、加工対象物を保持する保持台と、
前記分岐器から出射して、他の1つの光路に沿って伝搬するレーザビームが入射し、前記第1のフォーカスレンズと同一の光学特性を有する第2のフォーカスレンズと、
前記第2のフォーカスレンズから出射したレーザビームの断面内の光強度分布を測定する測定器と
を有するレーザ加工装置。
【請求項11】
前記分岐器でレーザビームが分岐される分岐点、前記第1のフォーカスレンズ、及び前記保持台に保持された加工対象物の被加工面の相対位置関係が、該分岐点、前記第2のフォーカスレンズ、及び前記測定器が光強度分布を測定する受光面の相対位置関係と等しい請求項10に記載のレーザ加工装置。
【請求項12】
さらに、前記第2のフォーカスレンズから前記測定器までの間の光路上に配置されたレンズを有し、前記第2のフォーカスレンズから該レンズまでの光路と交差する仮想平面であって、前記分岐器でレーザビームが分岐される分岐点、前記第2のフォーカスレンズ、及び該仮想平面の相対位置関係が、該分岐点、前記第1のフォーカスレンズ、前記保持台に保持された加工対象物の被加工面の相対位置関係と等しい該仮想平面を考えたとき、該レンズが、該仮想平面上のビーム断面を、該測定器が光強度分布を測定する受光面に結像させる請求項10に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−49606(P2006−49606A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229035(P2004−229035)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】