説明

レーザ着火エンジン及びレーザ着火エンジンにおける混合気の調整方法

【課題】レーザ着火エンジンにおいて、着火時、着火位置における当量比を算出することができるレーザ着火エンジン及び、このエンジンを用いて混合気の混合状態を調整することができる混合気の調整方法を提供する。
【解決手段】レーザ着火エンジンは、混合気が燃焼室内で燃焼する気筒と、前記混合気の燃焼により動力を発するピストンを含むエンジン本体部と、前記燃焼室内の混合気の着火のために混合気にレーザ光を照射させるレーザ光照射部と、レーザ誘起ブレークダウン分光法を用いて前記混合気の着火位置及び着火時における発光を、前記レーザ光による着火毎に受光して分光分析を行う分析部と、前記分析部の分光分析の結果を用いて、前記混合気の着火位置における前記混合気の当量比を着火毎に算出する演算部と、を有する。算出した前記当量比の情報に基いて、混合気の混合状態を混合調整部で調整し、混合状態が調整された新たな混合気を前記気筒に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて燃焼用の混合気を着火させるレーザ着火エンジン及びこのエンジンにおけるにおける混合気の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用着火装置として、レーザ光を使用した内燃機関用レーザ着火装置が知られている。この内燃機関用レーザ着火装置は、レーザ発振器から照射されたレーザ光をレンズにより内燃機関の燃焼室内で集光し、燃焼室内の混合気を活性化させて着火燃焼させる。
このような着火装置を用いたエンジンは、従来のプラグ着火方式のエンジンに比べて希薄な燃料の条件で運転が可能であり効率がよい。
【0003】
例えば、レーザ光のエネルギーの効率的利用を図りつつ、エミッションの低減を図ることができるエンジンに用いるレーザ点火装置が知られている(特許文献1)。
当該レーザ点火装置は、内燃機関の燃焼室内の混合気に点火用レーザ光を照射して混合気を活性化させる点火用レーザ光照射装置と、エンジンの燃焼室内に濃度計測用レーザ光を照射して濃度計測用レーザ光の強度に基づき混合気が燃焼することにより生成される燃焼生成物の濃度を計測する濃度計測用レーザ光照射装置と、燃焼生成物の濃度に基づき混合気の当量比を変更する制御装置と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−242040公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内燃機関用レーザ着火装置を用いたエンジン、すなわちレーザ着火エンジンにおいて、上述の希薄な燃料の条件を従来に比べて広範囲に拡げようとした場合、着火位置における当量比のばらつきが大きくなり、エンジン出力が不安定になることが想定される。したがって、着火時、着火位置における混合気の当量比を正確に計測することが望まれている。
上述のレーザ点火装置では、燃焼室内の混合気の当量比を、混合気が燃焼することにより生成される燃焼生成物の濃度の計測結果に従って変更するが、この当量比は、燃焼室に供給する混合気の平均した当量比であって、レーザ光が収束した点状の微細な領域における当量比ではない。また、上述のレーザ点火装置は、燃焼生成物の濃度の計測結果から着火時、着火位置における当量比を算出することもできない。このため、エンジンの駆動時、着火毎の、着火時、着火位置における当量比のばらつきの情報を得ることもできない。
【0006】
そこで、本発明は、レーザ光を用いて燃焼用の混合気を着火させて燃焼させるレーザ着火エンジンにおいて、着火時、着火位置における当量比を算出することができるレーザ着火エンジン及び、このエンジンを用いて混合気の混合状態を調整することができる混合気の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、レーザ光を用いて燃焼用の混合気を着火させ燃焼させるレーザ着火エンジンである。当該エンジンは、
混合気が燃焼室内で燃焼する気筒と、前記混合気の燃焼により動力を発するピストンを含むエンジン本体部と、
前記燃焼室内の混合気の着火のために混合気にレーザ光を照射させるレーザ光照射部と、
レーザ誘起ブレークダウン分光法を用いて前記混合気の着火位置及び着火時における発光を、前記レーザ光による着火毎に受光して分光分析を行う分析部と、
前記分析部の分光分析の結果を用いて、前記混合気の着火位置における前記混合気の当量比を着火毎に算出する演算部と、を有する。
【0008】
前記混合気の着火に用いる前記レーザ光を、さらに、前記レーザ誘起ブレークダウン分光法における前記混合気のブレークダウンに用いることが好ましい。
【0009】
また、前記レーザ光照射部は、前記レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光をレーザ光源から前記気筒内に導く光路と、を有し、前記光路の途中には、前記気筒から前記レーザ光源に向かって前記光路を辿ったとき、前記分析部の受光面に向かうように、前記光路の途中から光学素子を用いて分岐する分岐光路が設けられている、ことが好ましい。
【0010】
前記混合気は、例えば、燃料ガスと空気が混合されたガスであり、この場合、前記演算部は、前記分光分析の結果から前記燃料ガスに含まれる原子の発光ピーク強度と、前記空気に含まれる原子の発光ピーク強度との比率を算出し、この比率を用いて前記当量比を算出する、ことが好ましい。
【0011】
さらに、算出した前記当量比の情報に基いて、前記混合気の混合状態を調整する混合調整部を有し、前記混合調整部で混合状態が調整された新たな混合気が前記気筒に供給される、ことが好ましい。
【0012】
その際、前記当量比の情報は、前記当量比に関する前記レーザ光による着火毎のばらつきを含み、前記混合調整部は、前記混合状態を前記ばらつきが少なくなる混合状態に調整する、ことが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の他の一態様は、レーザ光を用いて燃焼用の混合気を着火させて燃焼させるレーザ着火エンジンにおける混合気の調整方法である。当該方法は、
レーザ光を用いて前記レーザ着火エンジンの気筒内で、燃焼用の混合気を着火させて前記レーザ着火エンジンを駆動させるステップと、
レーザ誘起ブレークダウン分光法を用いて前記混合気の着火位置及び着火時における発光を、前記レーザ光による着火毎に受光して分光分析を行うステップと、
前記分光分析の結果を用いて、前記混合気の着火位置における前記混合気の当量比を着火毎に算出するステップと、
算出した前記当量比の情報に基いて、前記混合気の混合状態を調整し、混合状態が調整された新たな混合気を前記気筒に供給するステップと、を有する。
【0014】
その際、前記混合気は、例えば、燃料ガスと空気が混合されたガスである。このとき、前記分光分析の結果から、前記燃料ガスに含まれる原子の発光ピーク強度と、前記空気に含まれる原子の発光ピーク強度との比率を算出し、この比率を用いて前記当量比を算出する、ことが好ましい。
【0015】
前記当量比の情報は、前記当量比に関する前記レーザ光による着火毎のばらつきを含み、前記混合気の混合状態を調整するとき、前記混合状態は前記ばらつきが少なくなるように調整されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述のレーザ着火エンジンは、着火時、着火位置における当量比を、1回の着火毎に算出することができる。このため、このエンジンを用いて、効率のよい混合気の調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のレーザ着火エンジンの構成を示す図である。
【図2】図1に示すレーザ着火エンジンの分析部から供給された着火毎の分析結果の一例をグラフ化した図である。
【図3】図1に示すエンジンを用いて混合気を燃焼させたとき、演算部において算出される当量比と燃料ガスの流量との関係を示す図である。
【図4】図1に示すレーザ着火エンジンの混合調整部の一例を示す構成図である。
【図5】図1に示すレーザ着火エンジンの分析部と異なる他の一例の分析部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のレーザ着火エンジン及びレーザ着火エンジンにおける混合気の調整方法について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態のレーザ着火エンジン(以下、エンジンという)10の構成を示す図である。
エンジン10は、空気と燃料ガスを予め混合して得られる混合気を気筒の燃焼室内に供給し、レーザ光による着火で混合気を燃焼させることにより、ピストンを駆動して動力を発生させる内燃機関である。エンジン10が用いる着火用のレーザ光は、同時に、着火位置における混合気のブレークダウン時の発光強度の計測に用いられる。エンジン10では、分光法を用いて分析を行うことにより、ブレークダウンによって発生する着火の開始時の、着火位置における当量比を算出する。さらに、エンジン10は、着火毎に算出された当量比のばらつきを算出し、このばらつきが小さくなるように、燃焼室内に供給する混合気の混合状態を調整する。
【0020】
エンジン10は、エンジン本体部12と、レーザ光照射部14と、分析部16と、演算部18と、混合調整部20と、コントローラ22と、を主に有する。
【0021】
エンジン本体部12は、気筒12a、ピストン12b、給気弁12c、排気弁12d、及びレーザ照射口12eを含む。
気筒12aは、混合気が燃焼室内で燃焼する燃焼室を有し、壁面に給気弁12c、排気弁12dが設けられる。空気と燃料ガスが予め混合装置によって所定の当量比で混合された混合気が給気弁12cを通して気筒12a内の燃焼室内に供給され、燃焼後、燃焼生成物が排気弁12dを通して排気される。
ピストン12bは、図示されないクランクシャフト等に接続されて、混合気の燃焼により動力を発するようになっている。気筒12aとピストン12bとにより燃焼室が画されている。
気筒12aの上部には、レーザ照射口12eが設けられ、着火用のレーザ光がレーザ照射口12eに設けられた収束レンズ12fを通して、燃焼室内で収束されるようになっている。
【0022】
レーザ光照射部14は、燃焼室内の混合気の着火のために混合気にレーザ光を照射させる。レーザ光照射部14は、レーザ光源14a、λ/2板14b、偏光板14c、ミラー14d、ビームスプリッタ14e、コリメートレンズ14f、ミラー14g,14h、パワーメータ14i、及び集光レンズ14jを含む。
レーザ光源14aは、混合気を着火させることができる投入エネルギを有し、さらに、混合気をブレークダウンさせるレーザ光を出射する。レーザ光源14aとして、例えば波長532nmで、投入エネルギが数100mJのNd:YAGレーザが用いられる。
λ/2板14b及び偏光板14cは、レーザ光の出力ビームプロファイルを一定に維持した状態で出力を制御する。
ミラー14d,14g,14hは、レーザ光を反射して、気筒12aのレーザ照射口12eにレーザ光を導くように配置されている。ミラー14d,14g,14hは、レーザ光の入射に対して耐力を有し、かつ反射特性が広帯域で高いことが望まれる。ミラー14d,14g,14hは、例えば、350〜1100nmの波長範囲で反射率95%以上の反射特性を有し、さらに、レーザ耐力が1J/cm2以上であるミラーが好ましく、上記反射率が99%以上でレーザ耐力が2J/cm2以上であるミラーがより好ましい。
ビームスプリッタ14eは、レーザ光源14aから気筒12aの燃焼室内に向かうレーザ光と、混合気のブレークダウンにより燃焼室内で発し、燃焼室内からビームスプリッタ14eに向かう光の光路を分岐するために配置される。すなわち、レーザ光照射部14の光路を通る光は、図1の上方から下方に透過するとともに、その一部が反射されて、パワーメータ14iに入射する。一方、燃焼室内で発する光は、光路中の収束レンズ12fを通り、ミラー14h,14gで反射され、コリメートレンズ14fを通過した後、ビームスプリッタ14eで反射され、分析部16に入射する。このように、レーザ光とブレークダウン時の光の光路を部分的に共用するとともに、ビームスプリッタ14eを用いることにより、気筒12aからレーザ光源14aに向かって光路を辿ったとき、分析部16の受光面に向かうように、レーザ光の光路の途中から分岐する分岐光路が設けられている。
コリメートレンズ14fは、光を平行光とする。集光レンズ14jは、分析部16の受光面に光を集光するように設けられる。
パワーメータ14iは、レーザ光の投入エネルギを計測する。
【0023】
分析部16は、レーザ誘起ブレークダウン分光法(LIBS:Laser Induced Break down Spectroscopy)を用いて混合気の着火位置及び着火時における発光を、レーザ光の着火毎に受光して分光分析を行う分析装置を備える。レーザ誘起ブレークダウン分光法は、具体的に、高エネルギのレーザパルスを励起源とし、レーザ光を収束させて、混合気等の測定対象物の成分を原子状態にして励起させてプラズマ化させ、このときのプラズマの発する光を分光して分析する方法をいう。また上記プラズマの発生により、混合気は着火する。混合気のブレークダウン時の分析結果により、本実施形態では、ブレークダウンした混合気の成分、すなわち、着火時の混合気の成分を知ることができ、これにより、着火時、着火位置における混合気の当量比を知ることができる。
分析部16の分析装置は、図示されないが、光を分光するスリット、波長分散素子(例えばプリズム)、あるいはレンズ等の光学素子の他、分光した光を受光して撮像するICCDカメラ16aを含む。ICCDカメラ16aは、レーザ光の照射から所定時間経過後の一定期間内において、波長帯域毎に分光された光を撮像し、この撮像信号を用いて、分析部16は着火時の分光スペクトルを求める。上記所定時間経過後の一定期間は、その期間内にレーザ光の照射による混合気のブレークダウンが必ず生じるように定められた期間である。求めた分光スペクトルは、後述する演算部18に供給される。
【0024】
演算部18は、分析部16の分光分析の結果である分光スペクトルを用いて混合気の着火位置における混合気の当量比を着火毎に算出する。さらに、演算部18は、当量比そのものの値の他に、当量比の情報として、レーザ光の着火毎の着火時の着火位置における当量比のばらつきを求める。
図2は、分析部16から供給された50回分の着火毎のブレークダウン時(着火時)の分析結果(発光スペクトル分布)の一例をグラフ化した図である。横軸には600〜850nmの波長をとり、縦軸には発光強度をとっている。この分析結果は、メタンガス(燃料ガス)と空気(空気)を混合した混合気を、YAGレーザ(波長532nm、投入エネルギ60mJ)を用いて着火したときの結果である。このとき、レーザ光の照射のタイミングは、BTDC(Before Top Dead Center)20度とした。図2に示すように、ブレークダウン時(着火時)の発光スペクトル分布は、複数のピークを有する。これらのピークのうち、メタンガス中の水素原子の発光Hα(656nm)と、空気中の酸素原子の発光(777nm)とを少なくとも含む。
【0025】
演算部18は、分析結果からHα(656nm)の発光ピーク強度と、酸素原子の発光(777nm)の発光ピーク強度との比率を算出し、この比率を用いて、当量比を算出する。
具体的に、燃料ガスと空気を混ぜた混合気を着火させたときにLIBS分光分析法で計測される上記ピーク強度の比率と、周知のラムダ計を用いて実際に計測した混合気の当量比との関係を予め見出しておき、この関係を参照テーブルとして演算部18は記憶しておく。演算部18は、記憶した参照テーブルを用いて、エンジン10の各着火時に得られる上記比率から、各着火における当量比を算出する。
【0026】
図3は、燃料ガスの流量を変化させることにより当量比を変化させてエンジン10で燃焼させたとき、演算部18において算出される当量比と燃料ガスの流量との関係を示す図である。図3からわかるように、演算部18において算出される当量比(図中、□で示される値)は、燃料ガスの流量を変化させることにより変化する当量比に対応して変化していることがわかる。これより、演算部18において算出される当量比は妥当な結果を示すといえる。このように算出された当量比は、図示されない混合装置によって空気と燃料ガスとの当量比の調整に用いられることができる。すなわち、演算部18の当量比の算出結果に応じて、混合装置の調整を行うように制御信号を混合装置に送る。なお、図3中の縦棒で示されるエラーバーは、当量比を500回算出して統計的にその平均値から1σ(σ:標準偏差)外れたものを除外した約300回分のばらつきに基づく標準偏差を示している。この当量比のばらつきは、着火時、着火の状態が異なることを示している。なお、当量比がばらつくことは、レーザ光による着火が極めて狭い範囲の位置で発生するが、この位置における混合気の混合状態が均一でないことに依拠するといえる。
本実施形態では、各着火時の着火位置における当量比を算出することができるとともに、さらに、演算部18は、一定期間における算出した当量比をまとめて、当量比のばらつきを算出する。これにより、演算部18は、各着火時の当量比のばらつきを得ることができる。なお、当量比のばらつきがあると、着火の有無やエンジン出力が不安定になり易く好ましくない。したがって、このような当量比のばらつきを抑制するために、エンジン10には混合調整部20が設けられている。
【0027】
混合調整部20は、混合気の混合状態をばらつきが少なくなる混合状態に調整する。
図4は、混合調整部20の一例を示す構成図である。
混合調整部20は、空気及び燃料ガスの混合後の給気管20aの内部に、混合気の流れ方向に対して直交する方向に回転軸を有する網目状の格子を有する乱流格子20bを含む。乱流格子20bの格子面の向きが、混合気の流れ方向に直交するとき、乱流は発生し難く、混合気の流れ方向に平行なとき、乱流は最も多く発生する。したがって、乱流格子20bの向きを演算装置18が調整することにより、混合気の乱流による混合状態を調整することができる。
【0028】
コントローラ22は、レーザ光源14のレーザ光の出射のON,OFFを制御する制御信号を生成しレーザ光源14に送るとともに、分析部16に分光分析の開始と停止を制御する信号を生成し分析部16に送ることにより、混合気の着火の制御及びLIBS分光分析法の制御を実施する。勿論、コントローラ22は、エンジン本体部12aの供気弁12c及び排気弁12dの制御及び、空気及び燃料ガスの当量比の制御を行う。
【0029】
このようなエンジン10では、以下のような、混合気の調整方法が行われる。
まず、レーザ光照射部14は、レーザ光を用いてエンジン10の気筒12a内に給気された燃焼用の混合気を着火させてレーザ着火エンジンを駆動させる。このとき、レーザ光は、混合気のブレークダウンにより、混合気を構成する原子がプラズマ状態となって励起し発光するので、このとき発する光を、レーザ誘起ブレークダウン分光法を用いて計測する。すなわち、分析部16は、混合気の着火位置及び着火時(ブレークダウン時)における発光を、レーザ光の着火毎に受光して分光分析を行う。次に、演算部18は、分析部16の分光分析の結果を用いて、混合気の着火位置における混合気の当量比を、予め記憶した当量比と分析結果との対応関係を表す参照テーブルを用いて着火毎に算出する。演算部18は、算出した当量比を一定期間集め、当量比のばらつき(標準偏差)を求める。算出した当量比のばらつきに基いて、混合気の混合状態を調整するための制御信号を演算部18は生成し混合調整部20に送る。混合調整部20は、演算部18から送られた制御信号に基づいて、混合気の混合状態を調整し、この調整された新たな混合気を気筒12a内に供給する。このときの混合気は、レーザ光による着火毎の当量比のばらつきが小さくなるように、混合状態が調整される。
また、当量比の算出は、燃料ガスに含まれる原子の発光ピーク強度と、空気に含まれる原子の発光ピーク強度との比率を算出し、この比率を用いて当量比を算出する。これにより、当量比をリアルタイムで求めることができる。
【0030】
このように、混合調整部20は、混合気の燃料ガスと空気の混合状態を小さな渦流によって形成される乱流によって均一に混合する。混合調整部20が、乱流を多く発生させることで、混合気における局所的な混合状態のばらつきを抑制するので、空間的にも時間的にも安定した混合状態を作り出すことができると考えられる。しかし、混合気中で乱流を多く発生させると、気筒12aへの供給ロス(給気ロス)が大きくなり、エンジン出力が不安定になる。また、上記乱流により、ブレークダウン時の光が乱反射して受光強度が低くなり、分析結果を用いた当量比の算出の精度が低下する。このため、混合調整部20では、必ずしも混合状態を均一にするために乱流を多く発生させることが好ましいわけではなく、エンジン出力を一定に維持し、かつ当量比の計測を正確に行うために、乱流による混合状態には最適な状態が存在する。したがって、演算部18は、算出する当量比のばらつきが小さくなるように、混合調整部20によって混合気の混合状態を調整する。
【0031】
以上の説明から判るように、エンジン10は、LIBS分析を用いて混合気の着火時、着火位置における発光を分光分析するので、着火時、着火位置における当量比を、1回の着火毎に算出することができる。このため、このエンジン10を用いて、効率のよい混合気の調整方法を実現する。
また、混合気の着火に用いるレーザ光は、さらに、LIBS分析における混合気のブレークダウンに用いられるので、1回のレーザ光の照射により、着火と当量比の算出を同時に行うことができる。特に、当量比の算出をほぼリアルタイムで行うことができる。
また、レーザ光照射部14は、レーザ光源14aから気筒12a内に導く光路を有し、気筒12aからレーザ光源14aに向かって光路を辿ったとき、分析部16の受光面に向かうように、レーザ光の光路の途中からビームスプリッタ等の光学素子を用いて分岐する分岐光路が設けられる。すなわち、着火のためのレーザ光の光路と、ブレークダウン時に発する光の光路とが部分的に光路を共有しているので、エンジン本体部12周りの光学装置や測定装置のレイアウトが簡素化される。また、従来のように、レーザ光の照射のために、光ファイバを用いず、ミラー14d,14g,14hやビームスプリッタ14e、コリメータレンズ14f等の光学素子を用いて光路を形成するので、エンジン本体部12のエンジン振動の影響を受けない位置で分光分析を行うことができるので、分光分析におけるSN比を向上することができる。
混合調整部20は、算出した当量比の情報に基いて、混合気の混合状態を調整し、混合調整部20で混合状態が調整された新たな混合気が気筒12aに供給されるので、エンジン本体部12は、最適な混合状態で混合気を着火することができる。
演算部18は、当量比の情報として、当量比に関するレーザ光の着火毎のばらつきのデータを求める場合、混合調整部20は、混合気の混合状態を、当量比のばらつきが少なくなる混合状態に調整することができる。
【0032】
上記実施形態のエンジン10の分析部16は、LIBS分析を行う分析装置を備えるが、分析部16の代わりに、図5に示すように、入射した光を分光するスリット24aと、スリット24aを通過した光を分光する波長分散素子24b(例えば回折格子)と、フォトダイオード24c,24dを備えた分析部24を用いることもできる。
LIBS分析において、予め計測する発光ピークの波長が定まっている場合、スリット24aと、波長分散素子24bを用いて、その波長における発光ピーク強度のみを計測することで、装置構成を簡素にすることができる。この場合、スリット24bを、定めた波長に対応させて設けるとともに、フォトダイオード24c,24dが、分光した光の中の定められた波長の光のみを受光して、2つのピーク強度を計測するように構成するとよい。空気に含まれる原子の計測する発光ピークの波長と、燃料ガスに含まれる原子の計測する発光ピークの波長とが定められているので、フォトダイオード24c,24dは、分光した光の中から、2つの発光ピークの波長に応じた光のみを受光することにより、2つの発光ピーク強度を計測することができる。
【0033】
当量比を算出するために、上述した例では、発光ピーク強度として、水素原子のHα(656nm)の発光ピーク強度と、酸素原子の発光(777nm)の発光ピーク強度を計測したが、この2つの発光ピーク強度に限られない。例えば、燃料ガス中の炭素原子の発光する光の発光ピーク強度を計測対象とすることもできる。
また、本実施形態において、レーザ光は、混合気の着火のための照射光として、及び混合気の着火時、着火位置におけるLIBS分析を行うための照射光として、同時に利用されるが、着火のために混合気に照射するレーザ光と、LIBS分光法を行うために混合気に照射するレーザ光とが、別のレーザ光として別々のタイミングで照射されてもよい。
【0034】
なお、本実施形態では、図1に示すような燃料ガスと空気を混合した混合気を供気するエンジン本体部12を用いるが、このような構成に限定されない。例えば、気筒12a内に空気を給気するとともに、液体燃料を気筒12a内に直接噴射する方式のエンジンをエンジン本体部12に代えて用いることができる。
【0035】
以上、本発明のレーザ着火エンジン及びレーザ着火エンジンにおける混合気の調整方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0036】
10 レーザ着火エンジン
12 エンジン本体部
12a 気筒
12b ピストン
12c 給気弁
12d 排気弁
12eレーザ照射口
12f 集束レンズ
14 レーザ光照射部
14a レーザ光源
14b λ/2波長板
14c 偏光板
14d,14g,14h ミラー
14e ビームスプリッタ
14f コリメートレンズ
14i パワーメータ
14j 集光レンズ
16,24 分析部
16a ICCDカメラ
18 演算部
20 混合調整部
20a 給気管
20b 乱流格子
22 コントローラ
24a スリット
24b 波長分散素子
24c,24d フォトダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて燃焼用の混合気を着火させ燃焼させるレーザ着火エンジンであって、
混合気が燃焼室内で燃焼する気筒と、前記混合気の燃焼により動力を発するピストンを含むエンジン本体部と、
前記燃焼室内の混合気の着火のために混合気にレーザ光を照射させるレーザ光照射部と、
レーザ誘起ブレークダウン分光法を用いて前記混合気の着火位置及び着火時における発光を、前記レーザ光による着火毎に受光して分光分析を行う分析部と、
前記分析部の分光分析の結果を用いて、前記混合気の着火位置における前記混合気の当量比を着火毎に算出する演算部と、を有することを特徴とするレーザ着火エンジン。
【請求項2】
前記混合気の着火に用いる前記レーザ光を、さらに、前記レーザ誘起ブレークダウン分光法における前記混合気のブレークダウンに用いる請求項1に記載のレーザ着火エンジン。
【請求項3】
前記レーザ光照射部は、前記レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光をレーザ光源から前記気筒内に導く光路と、を有し、
前記光路の途中には、前記気筒から前記レーザ光源に向かって前記光路を辿ったとき、前記分析部の受光面に向かうように、前記光路の途中から光学素子を用いて分岐する分岐光路が設けられている、請求項2に記載のレーザ着火エンジン。
【請求項4】
前記混合気は、燃料ガスと空気が混合されたガスであり、
前記演算部は、前記分光分析の結果から前記燃料ガスに含まれる原子の発光ピーク強度と、前記空気に含まれる原子の発光ピーク強度との比率を算出し、この比率を用いて前記当量比を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ着火エンジン。
【請求項5】
さらに、算出した前記当量比の情報に基いて、前記混合気の混合状態を調整する混合調整部を有し、
前記混合調整部で混合状態が調整された新たな混合気が前記気筒に供給される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ着火エンジン。
【請求項6】
前記当量比の情報は、前記当量比に関する前記レーザ光による着火毎のばらつきを含み、
前記混合調整部は、前記混合状態を前記ばらつきが少なくなる混合状態に調整する、請求項5に記載のレーザ着火エンジン。
【請求項7】
レーザ光を用いて燃焼用の混合気を着火させて燃焼させるレーザ着火エンジンにおける混合気の調整方法であって、
レーザ光を用いて前記レーザ着火エンジンの気筒内で、燃焼用の混合気を着火させて前記レーザ着火エンジンを駆動させるステップと、
レーザ誘起ブレークダウン分光法を用いて前記混合気の着火位置及び着火時における発光を、前記レーザ光による着火毎に受光して分光分析を行うステップと、
前記分光分析の結果を用いて、前記混合気の着火位置における前記混合気の当量比を着火毎に算出するステップと、
算出した前記当量比の情報に基いて、前記混合気の混合状態を調整し、混合状態が調整された新たな混合気を前記気筒に供給するステップと、を有することを特徴とする混合気の調整方法。
【請求項8】
前記混合気は、燃料ガスと空気が混合されたガスであり、
前記分光分析の結果から、前記燃料ガスに含まれる原子の発光ピーク強度と、前記空気に含まれる原子の発光ピーク強度との比率を算出し、この比率を用いて前記当量比を算出する、請求項7に記載の混合気の調整方法。
【請求項9】
前記当量比の情報は、前記当量比に関する前記レーザ光による着火毎のばらつきを含み、
前記混合気の混合状態を調整するとき、前記混合状態は前記ばらつきが少なくなるように調整される、請求項7または8に記載の混合気の調整方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113183(P2013−113183A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258741(P2011−258741)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】