説明

レーザ装置およびレーザ加工装置

【課題】高出力ビームが得られ、エネルギー効率に優れたレーザ装置およびこれを用いたレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ装置は、全反射ミラー11,部分反射ミラー12およびブリュースターウィンドウ13を含むレーザ発振器と、レーザ発振器から出力されたレーザ光を時間的に分配するための音響光学素子21と、ウィンドウ14,ミラー15,16および偏光回転ミラー17を含むレーザ増幅器などで構成される。レーザ光は、レーザ増幅器内に配置された放電励起ガス2を複数回通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザ光を発生するレーザ装置およびこれを用いたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1では、連続レーザ光を出力する光源(レーザダイオード等)と、前記光源に接続し前記連続レーザ光を増幅して出力する前段光増幅器(光ファイバ増幅器等)と、前記前段光増幅器に接続し、前記増幅した連続レーザ光を変調してパルスレーザ光を生成する光変調器と、前記光変調器に接続し前記パルスレーザ光を増幅して出力する後段光増幅器(光ファイバ増幅器等)とを備えるパルスレーザ装置が提案されている。光変調器として、音響光学素子を用いて前記増幅した連続レーザ光を周期的に回折することによって該増幅した連続レーザ光を強度変調する音響光学型の光変調器を使用している。
【0003】
下記特許文献2では、1個のレーザ発振器から出力されるレーザ光を複数の加工ヘッドへ供給するようにしたレーザ加工機が提案されており、レーザ光の光路を偏向可能な光路偏向手段を加工ヘッドの数と同数設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−258323号公報
【特許文献2】特開2000−263271号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Frantz et al., "Theory of Pulse Propagation in a Laser Amplifier", Journal of Applied Physics Vol.34, Num.8, pp.2346-2349 (1963)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るパルスレーザ装置は、信号伝送におけるASE光などの雑音を抑制することを目的としており、レーザ加工に必要な高出力ビームを発生することは想定していない。
【0007】
また、特許文献2に係るレーザ加工機は、光路偏向手段で切り出したパルスレーザを増幅することなく材料加工に直接用いているため、加工に使用できるビーム出力は、光路偏向手段の許容入力パワー(例えば、数100W)以下に制限されてしまう。
【0008】
本発明の目的は、高出力ビームが得られ、エネルギー効率に優れたレーザ装置およびこれを用いたレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ装置は、レーザ発振器と、
レーザ発振器から出力されたレーザ光を時間的に分配するための分配装置と、
分配装置によって分配されたレーザ光を増幅するためのレーザ増幅器とを備え、
レーザ光は、レーザ増幅器内に配置されたレーザ媒質を複数回通過することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザ発振器から出力されたレーザ光を時間的に分配することによって、レーザ増幅器においてパルスレーザ光の増幅を効率的に行うことが可能になる。また、レーザ光はレーザ増幅器内に配置されたレーザ媒質を複数回通過することによって、エネルギー効率に優れた高出力ビームが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】偏光回転ミラーの一例を示す斜視図である。
【図3】レーザビームの時間変化を示すグラフである。
【図4】レーザ増幅器の増幅能力を示すグラフである。
【図5】連続波レーザビームを使用した動作パターンを示す。
【図6】パルス状のレーザビームを使用した動作パターンを示す。
【図7】本発明の実施の形態2を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1を示す構成図である。レーザ装置は、筐体1と、レーザガスGと、全反射ミラー11,部分反射ミラー12およびブリュースターウィンドウ13を含むレーザ発振器と、分配装置として機能する音響光学素子21と、光吸収用のダンパ22と、ミラー31,32と、ポラライザ34と、ウィンドウ14,ミラー15,16および偏光回転ミラー17を含むレーザ増幅器などで構成される。ここで理解容易のため、レーザ発振器およびレーザ増幅器の光軸方向をY方向、レーザガスGを供給する方向をZ方向、Y方向およびZ方向に垂直な方向をX方向とする。
【0013】
筐体1は、レーザガスGを外気と遮断する役割を有し、筐体内部には、熱交換器、ブロワなど(不図示)が設けられる。ブロワは、筐体1の内部空間に封入されたレーザガスGを循環させる。これにより強制対流によって冷却されたレーザガスGが矢印のZ方向に沿って供給される。レーザガスGは、筐体1内で大気圧より低い圧力に維持されており、例えば、速度100m/s程度で移動する。
【0014】
放電によってレーザガスG中の分子または原子がレーザ上準位に励起されると、光の増幅作用を示すようになる。例えば、レーザガスGとして、CO分子を含む混合ガスを使用した場合、CO分子の振動準位間の遷移により波長10.6μmのレーザ発振光が得られる。ここでは、レーザガスGとしてCOを使用した場合を例示するが、他のレーザ物質、例えば、CO,N,He−Cd,HF,Ar,ArF,KrF,XeCl,XeF,YAG,一部のガラスなどを使用した場合も本発明は適用可能である。
【0015】
筐体1内には、レーザガスGを放電励起するための放電電極(不図示)が取り付けられる。放電電極に高周波交流電圧を印加すると、例えば、3cm×3cm×100cm程度の直方体形状からなる放電空間が形成され、この放電空間内に存在するレーザガスGが光増幅作用を示す放電励起ガス2となる。
【0016】
全反射ミラー11および部分反射ミラー12は、放電励起ガス2を挟んで互いに対向するように配置され、レーザ発振器を構成する。全反射ミラー11および部分反射ミラー12は、光軸調整のための角度微調機構を介して筐体1に取り付けられる。
【0017】
レーザ発振器内部の光軸上には、偏光制御素子としてブリュースターウィンドウ13が設けられる。ブリュースターウィンドウ13は、S偏光の反射率が高く、P偏光の反射率が、例えば1%未満と低いウィンドウであり、ここでは紙面平行なYZ面に対して平行な直線偏光を有するレーザ光が選択的に発振するようになる。
【0018】
以上の構成により、レーザ発振器は、直線偏光を有するCW(連続波)レーザビームL1を出力する。
【0019】
レーザ発振器の出射側で筐体1の外部には、分配装置として音響光学素子21が設けられる。音響光学素子21は、透明材料内部の粗密波による屈折率変化を回折格子として利用して、レーザビームL1の出射方向を高速に制御する機能を有する。音響光学素子21には、ドライバ回路から数10MHzの交流電圧が間欠的に供給され、交流電圧が供給された場合、入射したレーザビームL1の進路を曲げ、レーザビームL2として出射する。一方、交流電圧が供給されない場合、入射したレーザビームL1はそのまま直進し、レーザビームL4となってダンパ22に吸収され、熱に変換される。
【0020】
こうして音響光学素子21は、交流電圧の有無に応じて、入射したレーザビームL1をレーザビームL2またはレーザビームL4に時間的に分配することができる。
【0021】
ミラー31,32は、光軸調整のための角度微調機構を介して取り付けられ、レーザビームL2の進路を変える機能を有する。
【0022】
ミラー32とレーザ増幅器の間の光軸上には、偏光制御素子としてポラライザ34が設けられる。ポラライザ34は、筐体等に取り付けられ、S偏光の95%以上を反射し、P偏光の90%以上を透過させる機能を有する。従って、YZ面に対して平行な直線偏光P1を有するレーザビームL2は、ポラライザ34をそのまま通過することになる。
【0023】
次にレーザ増幅器において、ウィンドウ14は、レーザビームに対して高い透過率を示す材料で形成され、筐体1に気密に固定される。ミラー15,16は、レーザビームに対して高い反射率を示す材料で形成される。
【0024】
偏光回転ミラー17は、例えば、図2に示すように、2つの反射面が開き角90度で交差した複合ミラーで構成される。反射面が交差する谷線17aを光軸周りにYZ面に対して45度傾けて設置することにより、YZ面に対して平行な直線偏光P1を有するレーザビームが入射すると、XY面に対して平行な直線偏光P2を有するレーザビームが反射され、結果として、レーザビームの偏光方向を光軸周りに90度回転させることができる。
【0025】
ミラー15,16および偏光回転ミラー17は、光軸調整のための角度微調機構を介して筐体1に取り付けられる。ウィンドウ14とミラー15、ミラー15とミラー16、およびミラー16と偏光回転ミラー17は、放電励起ガス2を挟んで互いに略対向するようにそれぞれ配置され、レーザ増幅器を構成する。即ち、レーザビームL2が、ウィンドウ14→ミラー15→ミラー16→偏光回転ミラー17の順で進行した後、偏光回転ミラー17で反射すると偏光方向が90度回転し、続いてミラー16→ミラー15→ウィンドウ14の順で進行する。こうしてレーザビームは、放電励起ガス2を計6回通過することになり、高い出力レベルまで増幅される。なお、ここでは2個の折り返しミラー15,16を使用した場合を例示したが、1個または3個以上の折り返しミラーを使用することによって、放電励起ガス2の通過回数を変更することが可能である。
【0026】
レーザ増幅器から出射したレーザビームは、XY面に対して平行な直線偏光P2を有するため、ポラライザ34で反射してレーザビームL3として外部に取り出され、例えば、レーザ加工等に利用される。
【0027】
次に、動作について説明する。レーザガスGは、高周波交流電圧によって実質的に連続励起されており、例えば、3cm×3cm×100cm程度の直方体形状の空間内で常に放電励起されたガス2が存在している。こうした放電励起ガス2は、レーザ発振器およびレーザ増幅器の両方において一体的に利用される。
【0028】
レーザ発振器では、ブリュースターウィンドウ13の存在により、YZ面に対して平行な直線偏光を有するCW(連続波)レーザビームL1が発振する。レーザビームL1の出力は、部分反射ミラー12の出射後で50W程度である。
【0029】
続いて、レーザビームL1は、音響光学素子21に入射する。音響光学素子21には、ドライバ回路から数10MHzの交流電圧が間欠的に供給され、例えば、オン期間=3μs、オフ期間=7μsのタイミングで駆動する。このとき、レーザビームL2は、パルス幅=3μs、周期=10μs(即ち、繰り返し周波数100kHz、デューティ30%)のパルスレーザとして、レーザビームL1から分配される(図3)。ここで、音響光学素子21の回折効率を80%と仮定すると、分配されるレーザビームL2の平均出力は12W(=50W×30%×80%)程度となる。
【0030】
分配されたレーザビームL2は、ポラライザ34に入射するときも依然としてYZ面に対して平行な直線偏光であり、ポラライザ34はその90%以上を透過させる。透過したレーザビームは、ウィンドウ14を透過してレーザ増幅器の放電励起ガス2へ進入する。増幅前のレーザビームの平均出力は10W程度である。
【0031】
レーザ増幅器では、ウィンドウ14を透過して入射したレーザビームを増幅し、ウィンドウ14から出力する。ウィンドウ14→ミラー15→ミラー16→偏光回転ミラー17入射前までは、レーザビームはYZ面に対して平行な直線偏光P1である。また、前述した偏光回転ミラー17の働きにより、偏光回転ミラー17出射後→ミラー16→ミラー15→ウィンドウ14では、レーザビームはXY面に対して垂直な直線偏光P2である。
【0032】
上述のように、レーザビームは、レーザ増幅器において、ウィンドウ14→ミラー15(往路)の経路を進み、後に再びミラー15→ウィンドウ14(復路)の経路を進む。2つの光学部品A,Bを結ぶ経路であれば、光軸が幾何学的に完全に重ならなくとも略同一の経路とみなせば、本実施形態では、レーザビームはウィンドウ14〜ミラー15間の経路、ミラー15〜ミラー16間の経路、ミラー16〜偏光回転ミラー17間の経路を2回ずつ通過している。
【0033】
こうした増幅されたレーザビームは、平均出力が約1kWとなってウィンドウ14から出力され、さらにポラライザ34によって95%以上が反射されて、レーザビームL3として取り出される。
【0034】
図3は、レーザビームL1〜L3の時間変化を示すグラフである。縦軸はレーザビームの瞬時出力であり、横軸は時間である。レーザビームL1は、レーザ発振器から出力された連続波レーザの状態である。レーザビームL2は、音響光学素子21によって時間分配されたパルスレーザの状態である。レーザビームL3は、時間分配されたパルスレーザが増幅され、大出力のパルスレーザとなる。
【0035】
本実施形態では、レーザ発振器およびレーザ増幅器がレーザガスGを共有することにより、レーザ発振器とレーザ増幅器とで別々にガスを励起する場合と比べて、ガス励起機構の数を削減できるため、安価で簡便な構成で高い効率のパルスレーザが得られる。また、ガス励起機構の数が少なくなるため、故障確率の低減化が図られる。
【0036】
また、レーザ増幅器において、レーザビームが略同一の経路を複数回通って、放電励起ガス2を複数回通過することにより、エネルギー効率に優れたパルスレーザが得られる。
【0037】
また、本実施形態では、パルスレーザの発生をQスイッチ方式ではなく、分配装置を用いてレーザビームを切り出す方式を採用している。レーザビームを分配する時間は、音響光学素子21に印加する高周波交流電圧の持続時間で直接決定できるため、パルス幅制御が容易で、自由度が高い。一方、連続波発振時より大きなピーク出力を取り出すことができるQスイッチ方式と比べて、分配装置を用いてレーザビームを切り出す方式では、パルスレーザビームL2のピーク出力は、連続波発振のレーザビームL1の出力を超えないため、ピーク出力が低い。
【0038】
レーザ媒質中で、低出力のレーザを増幅する部分は、放電励起等によってレーザ媒質に与えたエネルギーのうちレーザの増幅に使われる割合が小さく、レーザ媒質に与えたエネルギーを有効に使いきれない(この性質は、Frantz−Nodvikのレーザ増幅に関する研究で知られている。上記非特許文献1を参照)。
【0039】
図4は、レーザ増幅器の増幅能力を示すグラフである。横軸は、レーザ増幅器に入射するレーザ光の出力Pinであり、縦軸は、レーザ増幅器によって増幅されたレーザ光の出力増加分Pout−Pinである。グラフにおいて、レーザ増幅器から取り出すことのできる出力は、レーザ増幅器に与えたエネルギーなどで決まるPcapであり、Pinが大きくなるほど、出力増加分はPcapで飽和するようになる。逆に、Pinが小さくなると、レーザ媒質に与えたエネルギーを有効に使いきれない。
【0040】
特に、ウィンドウ14→ミラー15の順で進行したレーザビームは、レーザ増幅器に入射したばかりの低出力のレーザビームであり、ウィンドウ14→ミラー15の1パスだけでは、ウィンドウ14〜ミラー15間のレーザ媒質に与えたエネルギーをレーザ増幅に有効利用できない。そこで、本実施形態では、ウィンドウ14〜ミラー15の経路を2度通過させる構成により、ウィンドウ14〜ミラー15間のレーザ媒質に与えたエネルギーをレーザ増幅に有効利用することが可能になる。
【0041】
このように、レーザビームがレーザ増幅器において、略同一の経路を複数回通る構成は、入射レーザビームの出力が低い場合に有効である。そのため、パルス幅制御が容易であるが出力が低い特徴を有する、本実施形態のパルス発生方式と親和性が高い。即ち、本実施形態では、パルス幅制御が容易で自由度が高く、かつエネルギー効率に優れたパルスレーザが得られる。
【0042】
なお、本実施形態において、レーザ媒質となるガスを強制対流させる構成を例示したが、スラブ型などに見られる拡散冷却レーザでもよく、また、レーザ媒質が気体でなく、例えば、固体、液体であっても同様の効果を奏する。
【0043】
また、本実施形態では、分配装置として音響光学素子21を使用した構成を例示したが、デジタルミラーデバイスや可動式ミラーを用いても同様の効果を奏する。さらに、分配装置として、ナノ秒オーダのスイッチング速度を有する電気光学素子と偏光選択素子との組み合わせを用いてもよく、音響光学素子(マイクロ秒オーダのスイッチング速度)の場合よりもパルスの立ち上がり・立ち下がりが速く、パルス幅制御の自由度がさらに高いといった効果を奏する。
【0044】
また、本実施形態では、レーザ発振器がCW(連続波)レーザビームL1を出力する構成を例示したが、パルス状のレーザビームL1を出力する構成も可能である。
【0045】
図5は、連続波レーザビームL1を使用した動作パターンを示す。Eは、ガスを励起する放電のオン・オフを表す動作パターンであり、本実施形態では連続的に放電励起し、連続波レーザビームL1を得ている。Dは、分配装置の動作パターンであり、分配装置に交流電圧が供給される時間に対応したパルス状のレーザビームL2が得られる。レーザビームL2は、レーザ増幅器において増幅され、最終的に高出力のレーザビームL3が得られる。
【0046】
図6は、パルス状のレーザビームL1を使用した動作パターンを示す。レーザビームL3を利用する態様として、レーザパルスを必要としない停止時間が予め定まっている場合、その停止時間に応じて放電励起を休止させることにより、パルス状の放電励起に対応したパルス状のレーザビームL1が得られる。続いて、分配装置によって、レーザビームL1のパルス幅よりも短いパルス幅を有するレーザビームL2が得られる。レーザビームL2は、レーザ増幅器において増幅され、最終的に高出力のレーザビームL3が得られる。こうした間欠的な放電励起を採用することによって、エネルギー効率をより改善することができる。
【0047】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2を示す構成図である。レーザ装置は、筐体1と、レーザガスGと、全反射ミラー11,部分反射ミラー12およびブリュースターウィンドウ13を含むレーザ発振器と、分配装置として機能する音響光学素子21と、光吸収用のダンパ22と、ミラー31,32と、ポラライザ34と、ウィンドウ14,18およびミラー15,16を含むレーザ増幅器と、ポラライザ35と、ミラー36,37,38と、1/2波長板41などで構成される。ここで理解容易のため、レーザ発振器およびレーザ増幅器の光軸方向をY方向、レーザガスGを供給する方向をZ方向、Y方向およびZ方向に垂直な方向をX方向とする。
【0048】
本実施形態において、レーザ発振器から出射したレーザビームL1が音響光学素子21によって分配され、レーザビームL2がミラー31,32で反射されるところまでは、実施の形態1と同じ構成であるため、重複説明を省く。
【0049】
レーザ増幅器において、ウィンドウ14,18は、レーザビームに対して高い透過率を示す材料で形成され、筐体1に気密に固定される。ミラー15,16は、レーザビームL2に対して高い反射率を示す材料で形成され、光軸調整のための角度微調機構を介して筐体1に取り付けられる。ウィンドウ14とミラー15、ミラー15とミラー16、およびミラー16とウィンドウ18は、放電励起ガス2を挟んで互いに略対向するようにそれぞれ配置され、レーザ増幅器を構成する。
【0050】
ウィンドウ18の後方には、レーザ増幅器から出射したレーザビームをレーザ増幅器のウィンドウ14に再入射させるためのミラー36,37,38が設けられる。こうした再入射経路の途中に、ポラライザ34,35および1/2波長板41が配置され、それぞれ筐体等に取り付けられる。ポラライザ34,35は、S偏光の95%以上を反射し、P偏光の90%以上を透過させる機能を有する。1/2波長板41は、レーザビームの偏光方向を光軸周りに90度回転させる機能を有する。
【0051】
次にレーザ増幅器の動作を説明する。YZ面に対して平行な直線偏光P1を有するレーザビームL2は、ポラライザ34を90%以上透過し、ウィンドウ14(このとき偏光P1)→ミラー15→ミラー16→ウィンドウ18(このとき偏光P1)の順で進行し、続いてポラライザ35を90%以上透過し、ミラー36→ミラー37を経て、1/2波長板41によってXY面に対して平行な直線偏光P2に変換され、ミラー38を経て、ポラライザ34によって95%以上反射され、再びウィンドウ14に入射し(このとき偏光P2)、ミラー15→ミラー16→ウィンドウ18(このとき偏光P2)の順で進行し、続いてポラライザ35によって95%以上反射される。
【0052】
こうした2パス過程により、レーザビームは、ウィンドウ14〜ミラー15間の経路、ミラー15〜ミラー16間の経路、ミラー16〜ウィンドウ17間の経路を2回ずつ通って、放電励起ガス2を計6回通過する度に増幅され、ポラライザ35によってレーザビームL3として外部に取り出され、例えば、レーザ加工等に利用される。なお、ここでは2個の折り返しミラー15,16を使用した場合を例示したが、1個または3個以上の折り返しミラーを使用することによって、放電励起ガス2の通過回数を変更することが可能である。
【0053】
本実施形態におけるレーザビームL1〜L3の時間変化は、図3に示したグラフと同様になる。即ち、レーザビームL1は、レーザ発振器から出力された連続波レーザの状態である。レーザビームL2は、音響光学素子21によって時間分配されたパルスレーザの状態である。レーザビームL3は、時間分配されたパルスレーザが増幅され、大出力のパルスレーザとなる。
【0054】
本実施形態においても、レーザ発振器およびレーザ増幅器がレーザガスGを共有することにより、レーザ発振器とレーザ増幅器とで別々にガスを励起する場合と比べて、ガス励起機構の数を削減できるため、安価で簡便な構成で高い効率のパルスレーザが得られる。また、ガス励起機構の数が少なくなるため、故障確率の低減化が図られる。
【0055】
また、本実施形態では、実施形態1と同様、分配装置でレーザビームを切り出すパルス発生方式を用いるとともに、レーザ増幅器において略同一の経路を複数回通る構成であり、パルス幅制御が容易で自由度が高く、かつエネルギー効率に優れたパルスレーザが得られる。
【0056】
なお、本実施形態において、レーザ媒質となるガスを強制対流させる構成を例示したが、スラブ型などに見られる拡散冷却レーザでもよく、また、レーザ媒質が気体でなく、例えば、固体、液体であっても同様の効果を奏する。
【0057】
また、本実施形態では、分配装置として音響光学素子21を使用した構成を例示したが、デジタルミラーデバイスや可動式ミラーを用いても同様の効果を奏する。さらに、分配装置として、ナノ秒オーダのスイッチング速度を有する電気光学素子と偏光選択素子との組み合わせを用いてもよく、音響光学素子(マイクロ秒オーダのスイッチング速度)の場合よりもパルスの立ち上がり・立ち下がりが速く、パルス幅制御の自由度がさらに高いといった効果を奏する。
【0058】
また、本実施形態では、偏光P1から偏光P2に変換するために1/2波長板41を用いた構成を例示したが、反射型のリターダを用いても同様の効果を奏するとともに、1/2波長板41による熱レンズ効果がなくなるため、高安定なパルスレーザが得られる。
【0059】
また、本実施形態においても、レーザ発振器がCW(連続波)レーザビームL1を出力する構成(図5)だけでなく、パルス状のレーザビームL1を出力する構成(図6)も可能である。間欠的な放電励起を採用することによって、エネルギー効率をより改善することができる。
【0060】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3を示す構成図である。本実施形態では、上述したレーザ装置を用いてレーザ加工装置を構成した例を説明する。なお図8では、実施の形態1の構成を例示しているが、実施の形態2の構成も同様に適用可能である。
【0061】
レーザ加工装置は、実施の形態1〜2に係るレーザ装置と、後続の伝送光学系61と、ガルバノミラー71などで構成される。
【0062】
伝送光学系61は、複数のミラー、レンズ、ビームスプリッタ、マスク、偏光制御素子等で構成され、レーザ増幅器から出力されたレーザビームL3を、加工処理に適したビーム形状に整形し、加工処理に適した偏光に変換する機能を有し、必要に応じてビーム分割を行ってもよい。
【0063】
ガルバノミラー71は、所望の角度で位置決め可能な可動ミラー等で構成され、伝送光学系61から供給されたレーザビームを被加工物の所望の位置に照射する機能を有する。駆動装置72は、モータ等で構成され、ガルバノミラー71を回転駆動する。
【0064】
本実施形態の構成によって、切断、マーキング、穴あけ、溶接、溶着、表面改質などのレーザ加工を実施することができる。なお、パルス幅、パルスエネルギー、パルス数およびビーム形状は、レーザ加工条件、加工材料等に応じて適宜選択できる。
【0065】
本実施形態では、実施の形態1または2に示した、パルス幅制御が容易で自由度が高く、かつエネルギー効率に優れたパルスレーザ装置を用いてレーザ加工装置を構成するため、切断、マーキング、穴あけ、溶接、溶着、表面改質などのレーザ加工の種類や被加工物の種類を広範に選ぶことができ、高速な加工を実現できる。
【0066】
本実施形態では、分配装置によって時間的に分配されたレーザ光を増幅しているため、加工に用いるパルスレーザ出力を少なくとも数10kWまでは拡張した構成が可能である。また、分配装置は、入射するレーザビームの出力が大きくなると、焼損の可能性があるため、分配装置の後にレーザ増幅器を設けることによって、従来よりも高信頼なレーザ加工を実現できる。
【0067】
近年、穴あけ加工などの材料処理における生産性の需要向上により、材料処理用のレーザ装置はより高い出力が求められている。また、加工の多様化によって、パルス幅の制御自由度が高い装置が求められている。また、環境配慮型製品への希求の高まりにより、エネルギー効率の良い製品が求められている。
【0068】
本実施形態では、加工に用いるパルスレーザ出力の拡張性に優れ、パルス幅制御が容易で自由度が高く、かつエネルギー効率に優れたパルスレーザ装置を提供できる。
【符号の説明】
【0069】
1 筐体、 2 放電励起ガス、 11 全反射ミラー、 12 部分反射ミラー、
13 ブリュースターウィンドウ、 14,18 ウィンドウ、
15,16 ミラー、 17 偏光回転ミラー、 17a 谷線、
21 音響光学素子、 22 ダンパ、 31,32,36,37,38 ミラー、
34,35 ポラライザ、 41 1/2波長板、 61 伝送光学系、
71 ガルバノミラー、 72 駆動装置、 G レーザガス、
L1,L2,L3,L4 レーザビーム、 P1 YZ面に平行な偏光、
P2 XY面に平行な偏光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から出力されたレーザ光を時間的に分配するための分配装置と、
分配装置によって分配されたレーザ光を増幅するためのレーザ増幅器とを備え、
レーザ光は、レーザ増幅器内に配置されたレーザ媒質を複数回通過することを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
レーザ発振器およびレーザ増幅器は、レーザ媒質を共有することを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項3】
レーザ媒質を励起する際、レーザ媒質を励起しない休止期間が設定されることを特徴とする請求項2記載のレーザ装置。
【請求項4】
分配装置として、音響光学素子を用いたことを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項5】
分配装置として、電気光学素子を用いたことを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項6】
レーザ発振器の内部には、発振レーザ光を直線偏光に規定するための偏光制御素子が設けられ、
レーザ増幅器では、直交する2つの直線偏光レーザ光が増幅されることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のレーザ装置から出力されるレーザ光を用いて、切断、マーキング、穴あけ、溶接、溶着または表面改質を行うことを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−182397(P2012−182397A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45821(P2011−45821)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】