レーダ装置及びレーダ信号処理方法
【課題】捜索時に素早く目標物を探知し、検定時に目標物までの距離を正確に測距することが可能なレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供する。
【解決手段】まず、パルス信号生成部10に対して高PRFを指定する。そして、高PRFに従って生成された変調パルス信号による反射波に対して、FFT処理部72でFFT処理を施すことによりクラッタ抑圧を行い、捜索処理部73で目標物の捜索を行う。捜索処理部73は、この捜索で目標物が探知された場合、この目標物のドップラ周波数に基づいて低PRFを選択する。続いて、パルス信号生成部10に対して、選択された低PRFを指定する。そして、低PRFに従って生成された変調パルス信号による反射波に対して、MTI処理部74でクラッタ抑圧を行い、検定・追跡処理部75で捜索処理部73により探知された目標物の検定を行う。
【解決手段】まず、パルス信号生成部10に対して高PRFを指定する。そして、高PRFに従って生成された変調パルス信号による反射波に対して、FFT処理部72でFFT処理を施すことによりクラッタ抑圧を行い、捜索処理部73で目標物の捜索を行う。捜索処理部73は、この捜索で目標物が探知された場合、この目標物のドップラ周波数に基づいて低PRFを選択する。続いて、パルス信号生成部10に対して、選択された低PRFを指定する。そして、低PRFに従って生成された変調パルス信号による反射波に対して、MTI処理部74でクラッタ抑圧を行い、検定・追跡処理部75で捜索処理部73により探知された目標物の検定を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送信波を空間へ向けて送信し、この送信波が目標物で反射された反射波を受信し、受信した反射パルスに含まれるクラッタ成分を抑圧するレーダ装置及びその装置で用いられるレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔体誘導用のレーダ装置は、所定のパルス繰り返し周波数PRF(Pulse Repetition Frequency)に従って変調パルス信号を生成し、この変調パルス信号に基づいた送信波をアンテナから送信する。そして、レーダ装置は、送信波が目標物で反射された反射波をアンテナで受信し、目標物の捜索、検定及び追跡を行い、追跡した目標物に飛翔体を誘導する。
【0003】
従来のレーダ装置においては、最大探知距離の測距を満足するようにパルス繰り返し周波数を選択している。このため、レーダ装置における目標物の捜索、検定及び追跡では、必然的に低PRF(Low Pulse Repetition Frequency)方式により行われる(例えば、非特許文献1参照)。ここで、低PRFに基づいて生成された変調パルス信号に基づいた送信波を送信して捜索を行う場合、周波数アンビギュイティが発生する。そのため、レーダ装置は、反射波に含まれるクラッタ成分を、マルチドップラフィルタを用いたMTI(Moving Target indicator)処理により除去するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、目標物を高速で捜索しなければならないレーダ装置及びアンテナの指向性が高速で回転するレーダ装置等では、1方向にビームが向けられている時間が短い。そのため、このようなレーダ装置で、低PRF方式により目標物の捜索を行う場合、強クラッタ環境下では、1方向のパルスヒット数が少ないため、クラッタ抑圧処理が不十分になり、目標物を正確に探知することが困難であるといった問題がある。
【0005】
ここで、パルス繰り返し周期を短くする方法、つまり、高PRF(High Pulse Repetition Frequency)方式を採用することが考えられる。高PRF方式を採用することで、1方向へのパルスヒット数を増加させることが可能となり、クラッタ抑圧能力が向上する。ただし、高PRF方式に従って生成される変調パルスを用いて目標物の捜索、検定及び追跡を行う場合、取得される観測データに周波数アンビギュイティは発生しないが、レンジアンビギュイティが発生するため、目標物の距離を正確に測距することが不可能である。レーダ装置は、複数種類の高PRFを利用したマルチPRFレンジング(Multiple Discrete PRF Ranging)を実施することで、このレンジアンビギュイティを相殺して目標物の測距を行う。しかしながら、マルチPRFレンジングでは、受信した反射パルスの組み合わせにおいて、似た候補が存在するため、測距を間違いやすいといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−271269号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】William H. Long, David H. Mooney, William A. Skillman, " RADAR HANDBOOK Second Edition (CHAPTER 17)", McGRAW-HILL, 17.1-17.25.
【非特許文献2】Sergio Sabatini, Marco Tarantino, "Multifunction Array Radar", Artech House, pp 137-138.
【非特許文献3】William W. Shrader, V. Gregers-hansen, "RADAR HANDBOOK Second Edition (CHAPTER 16)", McGRAW-HILL, 15.1-17.34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来のレーダ装置では、低PRF方式を採用する場合、1方向にビームが向けられている時間が短いと、パルスヒット数が少なくなり、クラッタ抑圧効果が十分に得られないため、目標物の誤探知が起こりやすいという問題がある。また、高PRF方式を採用する場合、レンジアンビギュイティを相殺するためにはマルチPRFレンジングを行う必要があるため、測距に間違いが生じやすいという問題がある。
【0009】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、捜索時に素早く目標物を探知し、検定時に目標物までの距離を正確に測距することが可能なレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るレーダ装置は、指定されたPRF(Pulse Repetition Frequency)に従って送信パルスを繰り返し生成する送信パルス生成手段と、前記送信パルス生成部で生成された送信パルスを空間へ向けて送信し、目標により反射された反射パルスを受信する送受信手段と、前記受信された反射パルスの導出を選択的に切り替える切替手段と、前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成する捜索手段と、前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記捜索手段で探知された目標を検定する検定手段と、前記送信パルス生成手段に対してPRFを指定し、前記切替手段を切替制御する制御手段とを具備し、前記制御手段は、初期状態では、前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記高PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記捜索手段へ導出されるように前記切替手段を切り替え、前記捜索手段で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記検定手段へ導出されるように前記切替手段を切り替えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るレーダ信号処理方法は、送信パルスが目標で反射されて発生する反射パルスに基づいて前記目標の捜索及び検定を行うレーダ装置に用いられるレーダ信号処理方法であって、前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFに従って前記送信パルスを生成し、前記目標からの反射パルスにFFT(Fast Fourier Transform)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記FFT処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成し、前記捜索で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを選定し、当該低PRFに従って前記送信パルスを生成し、前記目標からの反射パルスにMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去し、前記MTI処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記捜索で探知された目標の検定を行うことを特徴とする。
【0012】
上記構成によるレーダ装置及びレーダ信号処理方法では、高PRFに従って捜索手段で目標の捜索を行う。そして、捜索により目標が探知された場合には、捜索により取得されたPRF情報に基づいて低PRFを選定し、この低PRFに従って捜索時に探知された目標の検定を行う。これにより、捜索における1ビームポジション当りのパルスヒット数が増大し、クラッタ抑圧能力が向上する。また、高PRFに従った捜索では、レンジアンビギュイティが発生するが、低PRFに従って探知した目標の検定を行うため、目標までの距離を正確に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、捜索時に素早く目標物を探知し、検定時に目標物までの距離を正確に測距することが可能なレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1の捜索処理部が捜索処理を行う際の処理フローを示すフローチャートである。
【図3】図1の検定・追跡処理部が検定処理及び追跡処理を行う際の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】図1のビームスケジューラが捜索処理部及び検定・追跡処理部の処理に併せてパルス信号生成部及び切替部を制御する際の制御フローを示すフローチャートである。
【図5】図1のレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。
【図6】図1のFFT処理部によるクラッタ成分の除去を模式的に示す図である。
【図7】図1の捜索処理部により検定処理に適したPRIを選択する際の模式図である。
【図8】図1のMTI処理部におけるマルチドップラフィルタのMTIブラインドを示す模式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図10】図9のビームスケジューラの制御フローを示すフローチャートである。
【図11】2種類の高PRFに従って送信される送信波の模式図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図13】図12のレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明に係るレーダ装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図1に示すレーダ装置は、パルス信号生成部10、アンテナ(フェーズドアレイ)40、受信装置50、復調部60、信号処理装置70及びビームスケジューラ80を具備し、目標物からの反射波に基づいて目標物の捜索、検定及び追跡を行う。
【0017】
パルス信号生成部10は、デジタル処理により、予め設定された変調方式によってパルス内が周波数または位相変調された変調パルス信号を生成する。このとき、パルス信号生成部10は、後述するビームスケジューラ80からの指示により、変調パルス信号を生成する繰り返し周波数PRF(Pulse Repetition Frequency)を切り替える。なお、以下では、反射波に基づく目標物の検出に周波数アンビギュイティは発生するが、レンジアンビギュイティは発生しないPRFを低PRFと定義し、周波数アンビギュイティは発生しないが、レンジアンビギュイティは発生するPRFを高PRFと定義する。
【0018】
パルス信号生成部10は、で生成したベースバンドの変調パルス信号を、直交変調し、デジタル−アナログ変換したのち、送信周波数に周波数変換してアンテナ40へ供給する。
【0019】
アンテナ40は、素子アンテナ41、送受信モジュール42及び給電回路43を備える。素子アンテナ41は、送受信モジュール42を介して供給される信号を送信波として空間へ向けて送信する。アンテナ40から送信された送信波は、目標物で反射され、反射波としてアンテナ40で受信される。アンテナ40は、素子アンテナ41で反射波を受信し、受信した反射波に基づく受信信号を送受信モジュール42を介して受信装置50へ供給する。
【0020】
受信装置50は、受け取った受信信号を中間周波数帯域の信号に周波数変換し、アナログ−デジタル変換したのち、直交検波してベースバンドのビデオ信号に変換する。ベースバンドのビデオ信号は復調部60へ供給される。
【0021】
復調部60は、デジタル処理により、パルス信号生成部10の変調方式を用いてビデオ信号を復調する。復調されたビデオ信号は、信号処理装置70へ供給される。
【0022】
信号処理装置70は、切替部71、FFT(Fast Fourier Transform)処理部72、捜索処理部73、MTI(Moving Target indicator)処理部74及び検定・追跡処理部75を備える。切替部71は、後述するビームスケジューラ80からの指示により、供給されるビデオ信号をFFT処理部72又はMTI処理部74のいずれか一方へ導出する。
【0023】
FFT処理部72は、ビデオ信号にFFT処理を施してクラッタ成分の除去を行い、クラッタ信号除去後の信号を捜索処理部73へ供給する。
【0024】
捜索処理部73は、FFT処理部72でクラッタ成分が除去された信号を用いて目標物の捜索処理を行う。捜索処理部73は、捜索結果を記録するメモリ731及び、捜索処理により得られた目標物のドップラ情報と所定のPRI(Pulse Repetition Interval)(PRI=1/PRF)との関係が予め記録されたテーブル732を備える。ここで、所定のPRIとは、検定・追跡処理部75が検定処理を行う際に最も適したPRIのことである。また、捜索処理部73は、検定処理に移行する場合、ビームスケジューラ80に対して検定処理に移行する旨、及び検定処理を行う際のPRIを通知する。
【0025】
MTI処理部74は、ビデオ信号に含まれるクラッタ成分をマルチドップラフィルタにより除去して検定・追跡処理部75へ出力する。
【0026】
検定・追跡処理部75は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去された信号を用いて目標物の検定処理及び追跡処理を行う。検定・追跡処理部75は、検定結果等を記録するメモリ751を備える。
【0027】
ビームスケジューラ80は、例えばマイクロプロセッサからなるCPU(Central Processing Unit)を備え、捜索処理部73及び検定・追跡処理部75で実行される処理に応じて、パルス信号生成部10に対してPRFを指定し、切替部71に対して供給されるビデオ信号の導出先を指示する。
【0028】
次に、上記構成における動作を説明する。
【0029】
図2は捜索処理部73が捜索処理を行う際の処理フローを示すフローチャートであり、図3は検定・追跡処理部75が検定処理及び追跡処理を行う際の処理フローを示すフローチャートである。また、図4は、ビームスケジューラ80が捜索処理部73及び検定・追跡処理部75の処理に併せてパルス信号生成部10及び切替部71を制御する際の制御フローを示すフローチャートである。
【0030】
まず、捜索処理部73は、捜索処理を行う(ステップ21)。
【0031】
ビームスケジューラ80は、捜索処理部73で捜索処理が行われる場合、パルス信号生成部10に対して高PRFを指定し(ステップ41)、切替部71に対してビデオ信号をFFT処理部72へ導出するように指示をする(ステップ42)。ここで、高PRFは、目標速度に基づいて、以下に示す式により求められる。
【0032】
PRF=1/PRI
=目標速度の2倍/送信波の波長 (1)
例えば、目標物の最大速度が2マッハであり、送信波の周波数が3GHzである場合、PRIは73.3μsとなる。パルス信号生成部10は、指定された高PRFに従って変調パルス信号を生成する。このとき、ビームスケジューラ80は、例えば、FFT処理部72におけるクラッタ抑圧が64バンクで行われるように、パルス信号生成部10に変調パルス信号を1ビームポジション当り64回生成させる。
【0033】
図5は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。本実施形態においては、捜索範囲を方位90度、仰角60度とし、3度間隔でビームを換えていくようにしている。図5における円は、各ビームポジションを示す。各ビームポジションへは、パルス信号生成部10で生成された変調パルス信号に基づいた送信波が64回ずつ送信される。
【0034】
アンテナ40は、各ビームポジションへ送信波を送信し、この送信波が目標物で反射された反射波を受信する。アンテナ40で受信された反射波は、受信装置50及び復調部60を介してビデオ信号へ変換され、信号処理装置70へ供給される。
【0035】
図6は、FFT処理部72によるクラッタ成分の除去を模式的に示す図である。FFT処理部72は、64FFTの検出バンク情報のうち、クラッタ成分を含むバンクの値を零としてクラッタ成分を除去する。FFT処理部72は、クラッタ成分除去後の信号を捜索処理部73へ出力する。
【0036】
捜索処理部73は、FFT処理部72でクラッタ成分が除去された信号を受け取り、周波数軸上において予め設定された閾値を超える強度が検出されたバンク番号及びそのときのビームポジションを捜索結果としてメモリ731へ記録する(ステップ22)。捜索処理部73は、全ビームポジションでの送信波の送信が完了すると、メモリ731に記録された捜索結果を参照し、検出強度が閾値を超えるビームポジションがあるか否かを判定する(ステップ23)。捜索処理部73は、閾値を超えるビームポジションがある場合(ステップ23のYes)、そのビームポジションにおけるバンク番号(ドップラ情報)からテーブル732に基づいて検定処理に適したPRIを選択する(ステップ24)。
【0037】
図7は、検定処理に適したPRIを選択する際の模式図を示す。図7において、テーブル732には、例えば5つのPRI(PRI1〜5)が予め登録されている。ここでのPRIは、以下の式を満たす低PRFに基づいて求められる値である。
【0038】
PRI=1/PRF
=処理距離÷(光速/2)+パルス幅 (2)
例えば、処理距離が120kmであり、パルス幅が50μmである場合、PRIは850μsとなる。
【0039】
テーブル732では、閾値を超える強度が検出されたバンク番号に基づいて、
(検出バンク番号×1バンク帯域)×候補のPRI
の計算が行われ、この計算結果の小数が0.4〜0.6の範囲にあるPRIが検定処理に適したPRIとして選択される。図8は、MTI処理部74におけるマルチドップラフィルタのMTIブラインドを示す模式図である。図8に示すように、MTIブラインドは、PRFの倍数に発生する。そのため、図7のようにPRIを選択することにより、目標物のドップラ周波数にドップラフィルタの有効な範囲を合わせる事が可能となり、MTIブラインドを回避することが可能となる。
【0040】
捜索処理部73は、ステップ24において検定処理に適したPRIを選択すると、検定処理へ移行する旨と共に、ステップ24で選択したPRIをビームスケジューラ80へ通知する(ステップ25)。また、捜索処理部73は、検出強度が閾値を超えたバンクが存在するビームポジションのみに検定処理を行うようにビームスケジューラ80へ指示を与える(ステップ26)。一方、検出強度が閾値を超えたバンクが存在するビームポジションがない場合(ステップ23のNo)、処理をステップ21へ移行し、捜索処理を繰り返す。
【0041】
ビームスケジューラ80は、捜索処理部73から検定処理へ移行する旨及び選択したPRIの通知があるか否かを判定する(ステップ43)。ビームスケジューラ80は、捜索処理部73からの通知がある場合(ステップ43のYes)、パルス信号生成部10に対して設定された高PRFを、捜索処理部73から通知されたPRIに基づく低PRFに切り替えるように指示し(ステップ44)、切替部71に対してビデオ信号の導出をMTI処理部74へ切り替えるように指示する(ステップ45)。
【0042】
パルス信号生成部10は、新たに設定された低PRFに従って変調パルス信号を生成する。このとき、ビームスケジューラ80は、捜索処理部73からの検定処理を行うビームポジションの指示に従って、1ビームポジション当り所定回数の変調パルス信号を生成させる(ステップ46)。
【0043】
アンテナ40は、指定されたビームポジションへ送信波を送信し、この送信波が目標物で反射された反射波を受信する。アンテナ40で受信された反射波は、受信装置50及び復調部60を介してビデオ信号へ変換され、信号処理装置70へ供給される。ビデオ信号は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去され、検定・追跡処理部75へ出力される。
【0044】
検定・追跡処理部75は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去された信号を受け取り、時間軸上において予め設定された閾値を超える強度が検出された距離を測定することで、捜索処理で探知された目標物の検定を行う(ステップ31)。そして、検定・追跡処理部75は、検定結果をメモリ751へ記録する(ステップ32)。検定・追跡処理部75は、指定されたビームポジションにおける検定処理が完了すると、検定処理で目標物であると確認した目標物に対して追跡処理を開始する(ステップ33)。なお、追跡処理では、パルス信号生成部10は、検定処理と同一の低PRFに従って、変調パルス信号を生成する。
【0045】
以上のように、上記第1の実施形態では、高PRF方式により目標物の捜索を行い、目標物の検定を行う際には、検定ビームのPRFを、捜索時に取得したドップラ周波数に基づいて選択された低PRFに切り替えるようにしている。このように、捜索を高PRF方式で行っているため、1ビームポジション当りのパルスヒット数が増大し、クラッタ抑圧能力が向上することとなる。つまり、1方向にビームポジションが向けられている時間が短い場合であっても、確実に目標物を探知することが可能となる。
【0046】
また、高PRF方式による目標物の捜索では、レンジアンビギュイティが発生するが、検定時には低PRF方式に切り替えられるため、複数種類の高PRFによるマルチPRFレンジングを利用する必要がなくなり、測距における間違いが減少する。
【0047】
また、検定時の低PRFが捜索時に取得したドップラ周波数に基づいて選択されているため、MTI処理におけるMTIブラインドを回避することが可能となる。
【0048】
また、上記第1の実施形態では、捜索の際に目標物が探知されたビームポジションのみに対して、検定処理を行うようにしている。これにより、検定処理を効率的に行うことが可能となる。
【0049】
したがって、本発明に係るレーダ装置は、捜索の段階で素早く目標物を識別し、検定の段階でその目標物への距離を正確に測定することができる。
【0050】
[第2の実施形態]
図9は、本発明の第2の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図9において図1と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。
【0051】
ビームスケジューラ90は、捜索処理部73が捜索処理を繰り返す度に、パルス信号生成部10におけるPRFを異なる高PRFへ切り替える。図10は第2の実施形態に係るレーダ装置のビームスケジューラ90の制御フローを示すフローチャートであり、図11は2種類の高PRFに従って送信される送信波の模式図である。
【0052】
ビームスケジューラ90は、捜索処理部73で捜索処理が行われる場合、パルス信号生成部10に対して高PRF1を指定し(ステップ101)、切替部71に対してビデオ信号をFFT処理部72へ導出するように指示をする(ステップ102)。
【0053】
ビームスケジューラ90は、捜索処理部73から検定処理へ移行する旨及び選択したPRIの通知があるか否かを判定する(ステップ103)。ビームスケジューラ90は、捜索処理部73からの通知がある場合(ステップ103のYes)、パルス信号生成部10に対して設定された高PRFを、捜索処理部73から通知されたPRIに基づく低PRFに切り替えるように指示し(ステップ104)、切替部71に対してビデオ信号の導出をMTI処理部74へ切り替えるように指示する(ステップ105)。
【0054】
一方、ビームスケジューラ90は、捜索処理部73から検定処理へ移行する旨及び選択したPRIの通知がない場合(ステップ103のNo)、捜索処理部73において再度捜索処理が行われるか否かを判定する(ステップ106)。捜索処理部73において再度捜索処理が行われる場合(ステップ106のYes)、パルス信号生成部10のPRFを他の種類の高PRFに切り替え(例えば、高PRF1から高PRF2へ切り替える)(ステップ107)、処理をステップ103へ移行する。捜索処理部73において再度捜索処理が行われない場合(ステップ106のNo)、処理をステップ103へ移行する。
【0055】
パルス信号生成部10は、新たに設定された低PRFに従って変調パルス信号を生成する。このとき、ビームスケジューラ90は、捜索処理部73からの検定処理を行うビームポジションの指示に従って、1ビームポジション当り所定回数の変調パルス信号を生成させる(ステップ108)。
【0056】
以上のように、上記第2の実施形態では、ビームスケジューラ90により、捜索時のパルス信号生成部10のPRFを複数種類の高PRFで切り替えるようにしている。レーダ装置が高PRF方式を採用する場合、送信波を送信している間は反射波を受信することができないため、図11に示すような送信ブラインドが生じる。この送信ブラインドにより、目標物の距離によっては、反射波を受信できない場合がある。本実施形態に係るレーダ装置では、捜索時に高PRF1及び高PRF2を切り替えることにより、送信ブラインドを回避することが可能となる。
【0057】
なお、上記第2の実施形態では、捜索処理を繰り返す毎に異なる高PRFに切り替える例について説明したが、1ビームポジションの中で異なる高PRFに切り替える場合であっても同様に実施可能である。
【0058】
また、上記第2の実施形態では、2種類の高PRFを切り替える例について説明したが、高PRFの種類は2種類に限定される必要はなく、必要な処理距離に応じて複数の高PRFを用いて切り替えても良い。
【0059】
[第3の実施形態]
図12は、本発明の第3の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図12において図1と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
捜索・検定・追跡処理部76は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去された信号に基づいて目標物の捜索処理、検定処理及び追跡処理を行う。
【0061】
図13は、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。本実施形態においては、低仰角(0度から15度)と高仰角(15度から90度)とでビームスケジューラ100による処理が異なる。低仰角においては、捜索処理部73で捜索処理が行われ、捜索・検定・追跡処理部76で検索処理及び追跡処理が行われる。また、高仰角においては、捜索・検定・追跡処理部76で捜索処理、検索処理及び追跡処理が行われる。
【0062】
ビームスケジューラ100は、低仰角においては、図4に示すフローと同様の処理を行う。つまり、ビームスケジューラ100は、パルス信号生成部10に対して高PRFを指定し、切替部71に対してビデオ信号をFFT処理部72へ導出するように指示をすることで、捜索処理部73で捜索処理が行われるようにする。そして、捜索処理部73での捜索処理により目標が探知された場合には、パルス信号生成部10に対して捜索処理で取得されたドップラ周波数に基づく低PRFを指定し、切替部71に対してビデオ信号をMTI処理部74へ導出するように指示をすることで、捜索・検定・追跡処理部76で検定処理が行われるようにする。また、ビームスケジューラ100は、検定・追跡処理部75で追跡処理が行われる場合、パルス信号生成部10に対して検定時と同一の低PRFを指定する。
【0063】
また、ビームスケジューラ100は、高仰角においては、パルス信号生成部10に対して低PRFを指定し、切替部71に対してビデオ信号をMTI処理部74へ導出するように指示をすることで、捜索・検定・追跡処理部76で目標物の捜索処理、検定処理及び追跡処理が行われるようにする。
【0064】
次に、1ビームポジションにおける高PRF方式による捜索時間と、低PRF方式による捜索時間とを比較する。なお、ここでは、およそ60dBのクラッタ抑圧能を想定する場合についての比較を行う。
【0065】
高PRF方式を採用する際の捜索処理におけるPRIは、(1)式により求められ、目標物の最大速度が2マッハであり、送信波の周波数が3GHzである場合、73.3μsとなる。ここで、60dBのクラッタ抑圧能を達成するため、送信波が1ビームポジション当り64回送信されるとする。このとき、1ビームポジション当りの捜索時間は、
73.3×64=約4.7ms
となる。
【0066】
一方、低PRF方式を採用する際の捜索処理におけるPRIは、(2)式により求められ、処理距離が120kmであり、パルス幅が50μmである場合、850μsとなる。ここで、60dBのクラッタ抑圧能を達成するため、3パルスMTI及び9パルスドップラ処理を1ビームポジション当りに実施するようにする。すなわち、1ビームポジション当り10パルスが必要となるため、1ビームポジション当りの捜索時間は、
850×10=8.5ms
となる。このように、高PRF方式による捜索処理は、低PRF方式による捜索処理よりも捜索時間が短い。すなわち、低仰角において高PRF方式を採用することにより、低PRF方式を採用する場合よりも捜索時間が増大することはない。
【0067】
以上のように、上記第3の実施形態では、低仰角における捜索処理では高PRF方式を採用し、高仰角における捜索処理では低PRF方式を採用するようにしている。つまり、強クラッタ環境であることが想定される低仰角における捜索処理に高PRF方式を採用することで、1ビームポジション当りのパルスヒット数を増大させることが可能となるため、低仰角におけるクラッタ抑圧性能を向上させることが可能となる。また、高PRF方式を採用する際に発生するレンジアンビギュイティは、低PRF方式を採用する検定時に解消するようにしているため、高PRF方式による捜索時間は、低PRF方式を採用した場合と比較しても増大することはない。
【0068】
[その他の実施形態]
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、上記各実施形態におけるレーダ装置は、目標物の捜索、検定及び追跡した後、飛翔体を目標物へ誘導する誘導処理部をさらに具備していてもかまわない。
【0069】
さらに、この発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…パルス信号生成部
40…アンテナ
41…素子アンテナ
42…送受信モジュール
43…給電回路
50…受信装置
60…復調部
70…信号処理装置
71…切替部
72…FFT処理部
73…捜索処理部
731…メモリ
732…テーブル
74…MTI処理部
75…検定・追跡処理部
751…メモリ
76…捜索・検定・追跡処理部
80,90,100…ビームスケジューラ
【技術分野】
【0001】
この発明は、送信波を空間へ向けて送信し、この送信波が目標物で反射された反射波を受信し、受信した反射パルスに含まれるクラッタ成分を抑圧するレーダ装置及びその装置で用いられるレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔体誘導用のレーダ装置は、所定のパルス繰り返し周波数PRF(Pulse Repetition Frequency)に従って変調パルス信号を生成し、この変調パルス信号に基づいた送信波をアンテナから送信する。そして、レーダ装置は、送信波が目標物で反射された反射波をアンテナで受信し、目標物の捜索、検定及び追跡を行い、追跡した目標物に飛翔体を誘導する。
【0003】
従来のレーダ装置においては、最大探知距離の測距を満足するようにパルス繰り返し周波数を選択している。このため、レーダ装置における目標物の捜索、検定及び追跡では、必然的に低PRF(Low Pulse Repetition Frequency)方式により行われる(例えば、非特許文献1参照)。ここで、低PRFに基づいて生成された変調パルス信号に基づいた送信波を送信して捜索を行う場合、周波数アンビギュイティが発生する。そのため、レーダ装置は、反射波に含まれるクラッタ成分を、マルチドップラフィルタを用いたMTI(Moving Target indicator)処理により除去するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、目標物を高速で捜索しなければならないレーダ装置及びアンテナの指向性が高速で回転するレーダ装置等では、1方向にビームが向けられている時間が短い。そのため、このようなレーダ装置で、低PRF方式により目標物の捜索を行う場合、強クラッタ環境下では、1方向のパルスヒット数が少ないため、クラッタ抑圧処理が不十分になり、目標物を正確に探知することが困難であるといった問題がある。
【0005】
ここで、パルス繰り返し周期を短くする方法、つまり、高PRF(High Pulse Repetition Frequency)方式を採用することが考えられる。高PRF方式を採用することで、1方向へのパルスヒット数を増加させることが可能となり、クラッタ抑圧能力が向上する。ただし、高PRF方式に従って生成される変調パルスを用いて目標物の捜索、検定及び追跡を行う場合、取得される観測データに周波数アンビギュイティは発生しないが、レンジアンビギュイティが発生するため、目標物の距離を正確に測距することが不可能である。レーダ装置は、複数種類の高PRFを利用したマルチPRFレンジング(Multiple Discrete PRF Ranging)を実施することで、このレンジアンビギュイティを相殺して目標物の測距を行う。しかしながら、マルチPRFレンジングでは、受信した反射パルスの組み合わせにおいて、似た候補が存在するため、測距を間違いやすいといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−271269号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】William H. Long, David H. Mooney, William A. Skillman, " RADAR HANDBOOK Second Edition (CHAPTER 17)", McGRAW-HILL, 17.1-17.25.
【非特許文献2】Sergio Sabatini, Marco Tarantino, "Multifunction Array Radar", Artech House, pp 137-138.
【非特許文献3】William W. Shrader, V. Gregers-hansen, "RADAR HANDBOOK Second Edition (CHAPTER 16)", McGRAW-HILL, 15.1-17.34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来のレーダ装置では、低PRF方式を採用する場合、1方向にビームが向けられている時間が短いと、パルスヒット数が少なくなり、クラッタ抑圧効果が十分に得られないため、目標物の誤探知が起こりやすいという問題がある。また、高PRF方式を採用する場合、レンジアンビギュイティを相殺するためにはマルチPRFレンジングを行う必要があるため、測距に間違いが生じやすいという問題がある。
【0009】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、捜索時に素早く目標物を探知し、検定時に目標物までの距離を正確に測距することが可能なレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るレーダ装置は、指定されたPRF(Pulse Repetition Frequency)に従って送信パルスを繰り返し生成する送信パルス生成手段と、前記送信パルス生成部で生成された送信パルスを空間へ向けて送信し、目標により反射された反射パルスを受信する送受信手段と、前記受信された反射パルスの導出を選択的に切り替える切替手段と、前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成する捜索手段と、前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記捜索手段で探知された目標を検定する検定手段と、前記送信パルス生成手段に対してPRFを指定し、前記切替手段を切替制御する制御手段とを具備し、前記制御手段は、初期状態では、前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記高PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記捜索手段へ導出されるように前記切替手段を切り替え、前記捜索手段で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記検定手段へ導出されるように前記切替手段を切り替えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るレーダ信号処理方法は、送信パルスが目標で反射されて発生する反射パルスに基づいて前記目標の捜索及び検定を行うレーダ装置に用いられるレーダ信号処理方法であって、前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFに従って前記送信パルスを生成し、前記目標からの反射パルスにFFT(Fast Fourier Transform)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記FFT処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成し、前記捜索で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを選定し、当該低PRFに従って前記送信パルスを生成し、前記目標からの反射パルスにMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去し、前記MTI処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記捜索で探知された目標の検定を行うことを特徴とする。
【0012】
上記構成によるレーダ装置及びレーダ信号処理方法では、高PRFに従って捜索手段で目標の捜索を行う。そして、捜索により目標が探知された場合には、捜索により取得されたPRF情報に基づいて低PRFを選定し、この低PRFに従って捜索時に探知された目標の検定を行う。これにより、捜索における1ビームポジション当りのパルスヒット数が増大し、クラッタ抑圧能力が向上する。また、高PRFに従った捜索では、レンジアンビギュイティが発生するが、低PRFに従って探知した目標の検定を行うため、目標までの距離を正確に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、捜索時に素早く目標物を探知し、検定時に目標物までの距離を正確に測距することが可能なレーダ装置及びレーダ信号処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1の捜索処理部が捜索処理を行う際の処理フローを示すフローチャートである。
【図3】図1の検定・追跡処理部が検定処理及び追跡処理を行う際の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】図1のビームスケジューラが捜索処理部及び検定・追跡処理部の処理に併せてパルス信号生成部及び切替部を制御する際の制御フローを示すフローチャートである。
【図5】図1のレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。
【図6】図1のFFT処理部によるクラッタ成分の除去を模式的に示す図である。
【図7】図1の捜索処理部により検定処理に適したPRIを選択する際の模式図である。
【図8】図1のMTI処理部におけるマルチドップラフィルタのMTIブラインドを示す模式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図10】図9のビームスケジューラの制御フローを示すフローチャートである。
【図11】2種類の高PRFに従って送信される送信波の模式図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図13】図12のレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明に係るレーダ装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図1に示すレーダ装置は、パルス信号生成部10、アンテナ(フェーズドアレイ)40、受信装置50、復調部60、信号処理装置70及びビームスケジューラ80を具備し、目標物からの反射波に基づいて目標物の捜索、検定及び追跡を行う。
【0017】
パルス信号生成部10は、デジタル処理により、予め設定された変調方式によってパルス内が周波数または位相変調された変調パルス信号を生成する。このとき、パルス信号生成部10は、後述するビームスケジューラ80からの指示により、変調パルス信号を生成する繰り返し周波数PRF(Pulse Repetition Frequency)を切り替える。なお、以下では、反射波に基づく目標物の検出に周波数アンビギュイティは発生するが、レンジアンビギュイティは発生しないPRFを低PRFと定義し、周波数アンビギュイティは発生しないが、レンジアンビギュイティは発生するPRFを高PRFと定義する。
【0018】
パルス信号生成部10は、で生成したベースバンドの変調パルス信号を、直交変調し、デジタル−アナログ変換したのち、送信周波数に周波数変換してアンテナ40へ供給する。
【0019】
アンテナ40は、素子アンテナ41、送受信モジュール42及び給電回路43を備える。素子アンテナ41は、送受信モジュール42を介して供給される信号を送信波として空間へ向けて送信する。アンテナ40から送信された送信波は、目標物で反射され、反射波としてアンテナ40で受信される。アンテナ40は、素子アンテナ41で反射波を受信し、受信した反射波に基づく受信信号を送受信モジュール42を介して受信装置50へ供給する。
【0020】
受信装置50は、受け取った受信信号を中間周波数帯域の信号に周波数変換し、アナログ−デジタル変換したのち、直交検波してベースバンドのビデオ信号に変換する。ベースバンドのビデオ信号は復調部60へ供給される。
【0021】
復調部60は、デジタル処理により、パルス信号生成部10の変調方式を用いてビデオ信号を復調する。復調されたビデオ信号は、信号処理装置70へ供給される。
【0022】
信号処理装置70は、切替部71、FFT(Fast Fourier Transform)処理部72、捜索処理部73、MTI(Moving Target indicator)処理部74及び検定・追跡処理部75を備える。切替部71は、後述するビームスケジューラ80からの指示により、供給されるビデオ信号をFFT処理部72又はMTI処理部74のいずれか一方へ導出する。
【0023】
FFT処理部72は、ビデオ信号にFFT処理を施してクラッタ成分の除去を行い、クラッタ信号除去後の信号を捜索処理部73へ供給する。
【0024】
捜索処理部73は、FFT処理部72でクラッタ成分が除去された信号を用いて目標物の捜索処理を行う。捜索処理部73は、捜索結果を記録するメモリ731及び、捜索処理により得られた目標物のドップラ情報と所定のPRI(Pulse Repetition Interval)(PRI=1/PRF)との関係が予め記録されたテーブル732を備える。ここで、所定のPRIとは、検定・追跡処理部75が検定処理を行う際に最も適したPRIのことである。また、捜索処理部73は、検定処理に移行する場合、ビームスケジューラ80に対して検定処理に移行する旨、及び検定処理を行う際のPRIを通知する。
【0025】
MTI処理部74は、ビデオ信号に含まれるクラッタ成分をマルチドップラフィルタにより除去して検定・追跡処理部75へ出力する。
【0026】
検定・追跡処理部75は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去された信号を用いて目標物の検定処理及び追跡処理を行う。検定・追跡処理部75は、検定結果等を記録するメモリ751を備える。
【0027】
ビームスケジューラ80は、例えばマイクロプロセッサからなるCPU(Central Processing Unit)を備え、捜索処理部73及び検定・追跡処理部75で実行される処理に応じて、パルス信号生成部10に対してPRFを指定し、切替部71に対して供給されるビデオ信号の導出先を指示する。
【0028】
次に、上記構成における動作を説明する。
【0029】
図2は捜索処理部73が捜索処理を行う際の処理フローを示すフローチャートであり、図3は検定・追跡処理部75が検定処理及び追跡処理を行う際の処理フローを示すフローチャートである。また、図4は、ビームスケジューラ80が捜索処理部73及び検定・追跡処理部75の処理に併せてパルス信号生成部10及び切替部71を制御する際の制御フローを示すフローチャートである。
【0030】
まず、捜索処理部73は、捜索処理を行う(ステップ21)。
【0031】
ビームスケジューラ80は、捜索処理部73で捜索処理が行われる場合、パルス信号生成部10に対して高PRFを指定し(ステップ41)、切替部71に対してビデオ信号をFFT処理部72へ導出するように指示をする(ステップ42)。ここで、高PRFは、目標速度に基づいて、以下に示す式により求められる。
【0032】
PRF=1/PRI
=目標速度の2倍/送信波の波長 (1)
例えば、目標物の最大速度が2マッハであり、送信波の周波数が3GHzである場合、PRIは73.3μsとなる。パルス信号生成部10は、指定された高PRFに従って変調パルス信号を生成する。このとき、ビームスケジューラ80は、例えば、FFT処理部72におけるクラッタ抑圧が64バンクで行われるように、パルス信号生成部10に変調パルス信号を1ビームポジション当り64回生成させる。
【0033】
図5は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。本実施形態においては、捜索範囲を方位90度、仰角60度とし、3度間隔でビームを換えていくようにしている。図5における円は、各ビームポジションを示す。各ビームポジションへは、パルス信号生成部10で生成された変調パルス信号に基づいた送信波が64回ずつ送信される。
【0034】
アンテナ40は、各ビームポジションへ送信波を送信し、この送信波が目標物で反射された反射波を受信する。アンテナ40で受信された反射波は、受信装置50及び復調部60を介してビデオ信号へ変換され、信号処理装置70へ供給される。
【0035】
図6は、FFT処理部72によるクラッタ成分の除去を模式的に示す図である。FFT処理部72は、64FFTの検出バンク情報のうち、クラッタ成分を含むバンクの値を零としてクラッタ成分を除去する。FFT処理部72は、クラッタ成分除去後の信号を捜索処理部73へ出力する。
【0036】
捜索処理部73は、FFT処理部72でクラッタ成分が除去された信号を受け取り、周波数軸上において予め設定された閾値を超える強度が検出されたバンク番号及びそのときのビームポジションを捜索結果としてメモリ731へ記録する(ステップ22)。捜索処理部73は、全ビームポジションでの送信波の送信が完了すると、メモリ731に記録された捜索結果を参照し、検出強度が閾値を超えるビームポジションがあるか否かを判定する(ステップ23)。捜索処理部73は、閾値を超えるビームポジションがある場合(ステップ23のYes)、そのビームポジションにおけるバンク番号(ドップラ情報)からテーブル732に基づいて検定処理に適したPRIを選択する(ステップ24)。
【0037】
図7は、検定処理に適したPRIを選択する際の模式図を示す。図7において、テーブル732には、例えば5つのPRI(PRI1〜5)が予め登録されている。ここでのPRIは、以下の式を満たす低PRFに基づいて求められる値である。
【0038】
PRI=1/PRF
=処理距離÷(光速/2)+パルス幅 (2)
例えば、処理距離が120kmであり、パルス幅が50μmである場合、PRIは850μsとなる。
【0039】
テーブル732では、閾値を超える強度が検出されたバンク番号に基づいて、
(検出バンク番号×1バンク帯域)×候補のPRI
の計算が行われ、この計算結果の小数が0.4〜0.6の範囲にあるPRIが検定処理に適したPRIとして選択される。図8は、MTI処理部74におけるマルチドップラフィルタのMTIブラインドを示す模式図である。図8に示すように、MTIブラインドは、PRFの倍数に発生する。そのため、図7のようにPRIを選択することにより、目標物のドップラ周波数にドップラフィルタの有効な範囲を合わせる事が可能となり、MTIブラインドを回避することが可能となる。
【0040】
捜索処理部73は、ステップ24において検定処理に適したPRIを選択すると、検定処理へ移行する旨と共に、ステップ24で選択したPRIをビームスケジューラ80へ通知する(ステップ25)。また、捜索処理部73は、検出強度が閾値を超えたバンクが存在するビームポジションのみに検定処理を行うようにビームスケジューラ80へ指示を与える(ステップ26)。一方、検出強度が閾値を超えたバンクが存在するビームポジションがない場合(ステップ23のNo)、処理をステップ21へ移行し、捜索処理を繰り返す。
【0041】
ビームスケジューラ80は、捜索処理部73から検定処理へ移行する旨及び選択したPRIの通知があるか否かを判定する(ステップ43)。ビームスケジューラ80は、捜索処理部73からの通知がある場合(ステップ43のYes)、パルス信号生成部10に対して設定された高PRFを、捜索処理部73から通知されたPRIに基づく低PRFに切り替えるように指示し(ステップ44)、切替部71に対してビデオ信号の導出をMTI処理部74へ切り替えるように指示する(ステップ45)。
【0042】
パルス信号生成部10は、新たに設定された低PRFに従って変調パルス信号を生成する。このとき、ビームスケジューラ80は、捜索処理部73からの検定処理を行うビームポジションの指示に従って、1ビームポジション当り所定回数の変調パルス信号を生成させる(ステップ46)。
【0043】
アンテナ40は、指定されたビームポジションへ送信波を送信し、この送信波が目標物で反射された反射波を受信する。アンテナ40で受信された反射波は、受信装置50及び復調部60を介してビデオ信号へ変換され、信号処理装置70へ供給される。ビデオ信号は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去され、検定・追跡処理部75へ出力される。
【0044】
検定・追跡処理部75は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去された信号を受け取り、時間軸上において予め設定された閾値を超える強度が検出された距離を測定することで、捜索処理で探知された目標物の検定を行う(ステップ31)。そして、検定・追跡処理部75は、検定結果をメモリ751へ記録する(ステップ32)。検定・追跡処理部75は、指定されたビームポジションにおける検定処理が完了すると、検定処理で目標物であると確認した目標物に対して追跡処理を開始する(ステップ33)。なお、追跡処理では、パルス信号生成部10は、検定処理と同一の低PRFに従って、変調パルス信号を生成する。
【0045】
以上のように、上記第1の実施形態では、高PRF方式により目標物の捜索を行い、目標物の検定を行う際には、検定ビームのPRFを、捜索時に取得したドップラ周波数に基づいて選択された低PRFに切り替えるようにしている。このように、捜索を高PRF方式で行っているため、1ビームポジション当りのパルスヒット数が増大し、クラッタ抑圧能力が向上することとなる。つまり、1方向にビームポジションが向けられている時間が短い場合であっても、確実に目標物を探知することが可能となる。
【0046】
また、高PRF方式による目標物の捜索では、レンジアンビギュイティが発生するが、検定時には低PRF方式に切り替えられるため、複数種類の高PRFによるマルチPRFレンジングを利用する必要がなくなり、測距における間違いが減少する。
【0047】
また、検定時の低PRFが捜索時に取得したドップラ周波数に基づいて選択されているため、MTI処理におけるMTIブラインドを回避することが可能となる。
【0048】
また、上記第1の実施形態では、捜索の際に目標物が探知されたビームポジションのみに対して、検定処理を行うようにしている。これにより、検定処理を効率的に行うことが可能となる。
【0049】
したがって、本発明に係るレーダ装置は、捜索の段階で素早く目標物を識別し、検定の段階でその目標物への距離を正確に測定することができる。
【0050】
[第2の実施形態]
図9は、本発明の第2の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図9において図1と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。
【0051】
ビームスケジューラ90は、捜索処理部73が捜索処理を繰り返す度に、パルス信号生成部10におけるPRFを異なる高PRFへ切り替える。図10は第2の実施形態に係るレーダ装置のビームスケジューラ90の制御フローを示すフローチャートであり、図11は2種類の高PRFに従って送信される送信波の模式図である。
【0052】
ビームスケジューラ90は、捜索処理部73で捜索処理が行われる場合、パルス信号生成部10に対して高PRF1を指定し(ステップ101)、切替部71に対してビデオ信号をFFT処理部72へ導出するように指示をする(ステップ102)。
【0053】
ビームスケジューラ90は、捜索処理部73から検定処理へ移行する旨及び選択したPRIの通知があるか否かを判定する(ステップ103)。ビームスケジューラ90は、捜索処理部73からの通知がある場合(ステップ103のYes)、パルス信号生成部10に対して設定された高PRFを、捜索処理部73から通知されたPRIに基づく低PRFに切り替えるように指示し(ステップ104)、切替部71に対してビデオ信号の導出をMTI処理部74へ切り替えるように指示する(ステップ105)。
【0054】
一方、ビームスケジューラ90は、捜索処理部73から検定処理へ移行する旨及び選択したPRIの通知がない場合(ステップ103のNo)、捜索処理部73において再度捜索処理が行われるか否かを判定する(ステップ106)。捜索処理部73において再度捜索処理が行われる場合(ステップ106のYes)、パルス信号生成部10のPRFを他の種類の高PRFに切り替え(例えば、高PRF1から高PRF2へ切り替える)(ステップ107)、処理をステップ103へ移行する。捜索処理部73において再度捜索処理が行われない場合(ステップ106のNo)、処理をステップ103へ移行する。
【0055】
パルス信号生成部10は、新たに設定された低PRFに従って変調パルス信号を生成する。このとき、ビームスケジューラ90は、捜索処理部73からの検定処理を行うビームポジションの指示に従って、1ビームポジション当り所定回数の変調パルス信号を生成させる(ステップ108)。
【0056】
以上のように、上記第2の実施形態では、ビームスケジューラ90により、捜索時のパルス信号生成部10のPRFを複数種類の高PRFで切り替えるようにしている。レーダ装置が高PRF方式を採用する場合、送信波を送信している間は反射波を受信することができないため、図11に示すような送信ブラインドが生じる。この送信ブラインドにより、目標物の距離によっては、反射波を受信できない場合がある。本実施形態に係るレーダ装置では、捜索時に高PRF1及び高PRF2を切り替えることにより、送信ブラインドを回避することが可能となる。
【0057】
なお、上記第2の実施形態では、捜索処理を繰り返す毎に異なる高PRFに切り替える例について説明したが、1ビームポジションの中で異なる高PRFに切り替える場合であっても同様に実施可能である。
【0058】
また、上記第2の実施形態では、2種類の高PRFを切り替える例について説明したが、高PRFの種類は2種類に限定される必要はなく、必要な処理距離に応じて複数の高PRFを用いて切り替えても良い。
【0059】
[第3の実施形態]
図12は、本発明の第3の実施形態に係わるレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図12において図1と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
捜索・検定・追跡処理部76は、MTI処理部74でクラッタ成分が除去された信号に基づいて目標物の捜索処理、検定処理及び追跡処理を行う。
【0061】
図13は、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置の捜索範囲を示す模式図である。本実施形態においては、低仰角(0度から15度)と高仰角(15度から90度)とでビームスケジューラ100による処理が異なる。低仰角においては、捜索処理部73で捜索処理が行われ、捜索・検定・追跡処理部76で検索処理及び追跡処理が行われる。また、高仰角においては、捜索・検定・追跡処理部76で捜索処理、検索処理及び追跡処理が行われる。
【0062】
ビームスケジューラ100は、低仰角においては、図4に示すフローと同様の処理を行う。つまり、ビームスケジューラ100は、パルス信号生成部10に対して高PRFを指定し、切替部71に対してビデオ信号をFFT処理部72へ導出するように指示をすることで、捜索処理部73で捜索処理が行われるようにする。そして、捜索処理部73での捜索処理により目標が探知された場合には、パルス信号生成部10に対して捜索処理で取得されたドップラ周波数に基づく低PRFを指定し、切替部71に対してビデオ信号をMTI処理部74へ導出するように指示をすることで、捜索・検定・追跡処理部76で検定処理が行われるようにする。また、ビームスケジューラ100は、検定・追跡処理部75で追跡処理が行われる場合、パルス信号生成部10に対して検定時と同一の低PRFを指定する。
【0063】
また、ビームスケジューラ100は、高仰角においては、パルス信号生成部10に対して低PRFを指定し、切替部71に対してビデオ信号をMTI処理部74へ導出するように指示をすることで、捜索・検定・追跡処理部76で目標物の捜索処理、検定処理及び追跡処理が行われるようにする。
【0064】
次に、1ビームポジションにおける高PRF方式による捜索時間と、低PRF方式による捜索時間とを比較する。なお、ここでは、およそ60dBのクラッタ抑圧能を想定する場合についての比較を行う。
【0065】
高PRF方式を採用する際の捜索処理におけるPRIは、(1)式により求められ、目標物の最大速度が2マッハであり、送信波の周波数が3GHzである場合、73.3μsとなる。ここで、60dBのクラッタ抑圧能を達成するため、送信波が1ビームポジション当り64回送信されるとする。このとき、1ビームポジション当りの捜索時間は、
73.3×64=約4.7ms
となる。
【0066】
一方、低PRF方式を採用する際の捜索処理におけるPRIは、(2)式により求められ、処理距離が120kmであり、パルス幅が50μmである場合、850μsとなる。ここで、60dBのクラッタ抑圧能を達成するため、3パルスMTI及び9パルスドップラ処理を1ビームポジション当りに実施するようにする。すなわち、1ビームポジション当り10パルスが必要となるため、1ビームポジション当りの捜索時間は、
850×10=8.5ms
となる。このように、高PRF方式による捜索処理は、低PRF方式による捜索処理よりも捜索時間が短い。すなわち、低仰角において高PRF方式を採用することにより、低PRF方式を採用する場合よりも捜索時間が増大することはない。
【0067】
以上のように、上記第3の実施形態では、低仰角における捜索処理では高PRF方式を採用し、高仰角における捜索処理では低PRF方式を採用するようにしている。つまり、強クラッタ環境であることが想定される低仰角における捜索処理に高PRF方式を採用することで、1ビームポジション当りのパルスヒット数を増大させることが可能となるため、低仰角におけるクラッタ抑圧性能を向上させることが可能となる。また、高PRF方式を採用する際に発生するレンジアンビギュイティは、低PRF方式を採用する検定時に解消するようにしているため、高PRF方式による捜索時間は、低PRF方式を採用した場合と比較しても増大することはない。
【0068】
[その他の実施形態]
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、上記各実施形態におけるレーダ装置は、目標物の捜索、検定及び追跡した後、飛翔体を目標物へ誘導する誘導処理部をさらに具備していてもかまわない。
【0069】
さらに、この発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…パルス信号生成部
40…アンテナ
41…素子アンテナ
42…送受信モジュール
43…給電回路
50…受信装置
60…復調部
70…信号処理装置
71…切替部
72…FFT処理部
73…捜索処理部
731…メモリ
732…テーブル
74…MTI処理部
75…検定・追跡処理部
751…メモリ
76…捜索・検定・追跡処理部
80,90,100…ビームスケジューラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指定されたPRF(Pulse Repetition Frequency)に従って送信パルスを繰り返し生成する送信パルス生成手段と、
前記送信パルス生成部で生成された送信パルスを空間へ向けて送信し、目標により反射された反射パルスを受信する送受信手段と、
前記受信された反射パルスの導出を選択的に切り替える切替手段と、
前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成する捜索手段と、
前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記捜索手段で探知された目標を検定する検定手段と、
前記送信パルス生成手段に対してPRFを指定し、前記切替手段を切替制御する制御手段と
を具備し、
前記制御手段は、
初期状態では、前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記高PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記捜索手段へ導出されるように前記切替手段を切り替え、
前記捜索手段で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記検定手段へ導出されるように前記切替手段を切り替えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記捜索手段は、
前記高PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスに対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を行ってクラッタ成分を除去するFFT処理部と、
前記FFT処理部からの信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成する捜索処理部と
を備え、
前記検定手段は、
前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスに対してMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去するMTI処理部と、
前記MTI処理部からの信号に基づいて前記捜索手段で探知された目標の検定をする検定処理部と
を備えることを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記捜索手段は、前記目標が探知された場合、前記目標が探知された探知方向を前記制御手段へ通知し、
前記制御手段は、前記捜索手段から前記目標の探知方向が通知された場合、前記探知方向のみへ送信パルスを送信し、当該方向からの反射パルスを受信するように前記送受信手段を制御することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送受信手段による送信パルスの送信が予め設定された仰角以上である場合、
前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記探知された目標の検定を行う捜索/検定手段をさらに具備し、
前記制御手段は、
前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが、周波数アンビギュイティが発生する低PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記捜索/検定手段へ導出されるように前記切替手段を切り替えることを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記制御手段は、初期状態では、複数種類の高PRFをサイクリックに切り替えて前記送信パルス生成手段に対して指定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記検定手段で検定された目標を追跡する追跡処理手段をさらに具備することを特徴とする請求項1又は4いずれか記載のレーダ装置。
【請求項7】
送信パルスが目標で反射されて発生する反射パルスに基づいて前記目標の捜索及び検定を行うレーダ装置に用いられるレーダ信号処理方法であって、
前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFに従って前記送信パルスを生成し、
前記目標からの反射パルスにFFT(Fast Fourier Transform)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記FFT処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記目標を捜索し、
前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成し、
前記捜索で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを選定し、当該低PRFに従って前記送信パルスを生成し、
前記目標からの反射パルスにMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記MTI処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記捜索で探知された目標の検定を行うことを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項8】
前記捜索により前記目標が探知された場合、
前記低PRFに従って生成された送信パルスを、前記目標が探知された探知方向のみへ送信することを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理方法。
【請求項9】
前記送信パルスが予め設定された仰角以上の方向へ送信される場合、
前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが、周波数アンビギュイティが発生する低PRFに従って前記送信パルスを生成し、
前記目標からの反射パルスにMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記MTI処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記目標を捜索し、
前記捜索で前記目標が探知された場合、前記探知された目標の検定を行うことを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理方法。
【請求項10】
前記送信パルスを生成する際の前記高PRFは、複数種類の高PRFからサイクリックに切り替えられたものであることを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理方法。
【請求項1】
指定されたPRF(Pulse Repetition Frequency)に従って送信パルスを繰り返し生成する送信パルス生成手段と、
前記送信パルス生成部で生成された送信パルスを空間へ向けて送信し、目標により反射された反射パルスを受信する送受信手段と、
前記受信された反射パルスの導出を選択的に切り替える切替手段と、
前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成する捜索手段と、
前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記捜索手段で探知された目標を検定する検定手段と、
前記送信パルス生成手段に対してPRFを指定し、前記切替手段を切替制御する制御手段と
を具備し、
前記制御手段は、
初期状態では、前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記高PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記捜索手段へ導出されるように前記切替手段を切り替え、
前記捜索手段で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記検定手段へ導出されるように前記切替手段を切り替えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記捜索手段は、
前記高PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスに対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を行ってクラッタ成分を除去するFFT処理部と、
前記FFT処理部からの信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成する捜索処理部と
を備え、
前記検定手段は、
前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスに対してMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去するMTI処理部と、
前記MTI処理部からの信号に基づいて前記捜索手段で探知された目標の検定をする検定処理部と
を備えることを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記捜索手段は、前記目標が探知された場合、前記目標が探知された探知方向を前記制御手段へ通知し、
前記制御手段は、前記捜索手段から前記目標の探知方向が通知された場合、前記探知方向のみへ送信パルスを送信し、当該方向からの反射パルスを受信するように前記送受信手段を制御することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送受信手段による送信パルスの送信が予め設定された仰角以上である場合、
前記切替手段から導出された反射パルスに含まれるクラッタ成分を除去し、当該信号に基づいて前記目標を捜索し、前記捜索で前記目標が探知された場合、前記探知された目標の検定を行う捜索/検定手段をさらに具備し、
前記制御手段は、
前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが、周波数アンビギュイティが発生する低PRFを前記送信パルス生成手段に対して指定し、前記低PRFに従って生成された送信パルスによる反射パルスが前記捜索/検定手段へ導出されるように前記切替手段を切り替えることを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記制御手段は、初期状態では、複数種類の高PRFをサイクリックに切り替えて前記送信パルス生成手段に対して指定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記検定手段で検定された目標を追跡する追跡処理手段をさらに具備することを特徴とする請求項1又は4いずれか記載のレーダ装置。
【請求項7】
送信パルスが目標で反射されて発生する反射パルスに基づいて前記目標の捜索及び検定を行うレーダ装置に用いられるレーダ信号処理方法であって、
前記反射パルスの処理に周波数アンビギュイティが発生しないが、レンジアンビギュイティが発生する高PRFに従って前記送信パルスを生成し、
前記目標からの反射パルスにFFT(Fast Fourier Transform)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記FFT処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記目標を捜索し、
前記捜索で前記目標が探知された場合、前記目標のドップラ情報を取得し、前記ドップラ情報に基づいてPRF情報を生成し、
前記捜索で前記目標が探知されて前記PRF情報が生成された場合、前記PRF情報に基づいて、前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが周波数アンビギュイティが発生する低PRFを選定し、当該低PRFに従って前記送信パルスを生成し、
前記目標からの反射パルスにMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記MTI処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記捜索で探知された目標の検定を行うことを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項8】
前記捜索により前記目標が探知された場合、
前記低PRFに従って生成された送信パルスを、前記目標が探知された探知方向のみへ送信することを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理方法。
【請求項9】
前記送信パルスが予め設定された仰角以上の方向へ送信される場合、
前記反射パルスの処理にレンジアンビギュイティが発生しないが、周波数アンビギュイティが発生する低PRFに従って前記送信パルスを生成し、
前記目標からの反射パルスにMTI(Moving Target indicator)処理を行ってクラッタ成分を除去し、
前記MTI処理によりクラッタ成分を除去した信号に基づいて前記目標を捜索し、
前記捜索で前記目標が探知された場合、前記探知された目標の検定を行うことを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理方法。
【請求項10】
前記送信パルスを生成する際の前記高PRFは、複数種類の高PRFからサイクリックに切り替えられたものであることを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−281689(P2010−281689A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135253(P2009−135253)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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