説明

レーダ装置

【課題】受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出する。
【解決手段】レーダ装置1の制御部11は、複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信部12を介して互いに相違する領域に向けて送出する送信指示部111と、受信部13を介して、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に、MUSIC法等を用いて、物体の存在する方位(=前記受信信号の到来する方位)を高分解能で検出する受信信号処理部114と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、送信信号を送出すると共に受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置に関する。より特定的には、例えば、車両に搭載されたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モノパルス測角を実施しているレーダ装置では、同一ビーム内に複数個の物体が存在する場合には、各物体の方位検出誤差が大きく、検出精度の低下が生じていた。そこで、レーダ装置の方位検出精度を向上するための種々の方法、装置等が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、モノパルス測角方式と、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等の高分解能信号処理演算を実施して物体の方位を検出する高分解能測角方式と、を備えるレーダ装置が記載されている。このレーダ装置によれば、物体が複数個だけ存在する場合には、モノパルス測角方式から高分解能測角方式に切り換えることによって、物体の方位検出精度を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−14843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のレーダ装置では、MUSIC法等を用いる高分解能測角方式を実施して物体の方位を検出するが、このような高分解能測角方式では、受信アンテナの個数によって検出可能な物体の方位の個数が制限されている。具体的には、MUSIC法では、受信アンテナの個数以上の個数の物体が存在する場合には、正しい演算を行うことができない。
【0006】
そこで、MUSIC法等を用いる高分解能測角方式を実施して物体の方位を検出する場合に、多くの物体を検出可能とするためには、受信アンテナの個数を多くする必要があると共に、複雑な演算をする必要がある。特に、レーダ装置の検出範囲の広角化に伴い、多くの物体を検出可能とする必要性が増大している。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することの可能なレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を有している。第1の発明は、送信信号を送出すると共に受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置であって、複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、互いに相違する領域に向けて送出する送信手段と、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する受信信号処理手段と、を備える。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記複数個の送信信号毎に、対応する受信信号を受信し、前記複数個の送信信号に対応する領域に、それぞれ、物体が存在するか否かを判定する物体判定手段を備え、前記受信信号処理手段が、前記物体判定手段によって物体が存在すると判定された領域に限って、前記物体の存在する方位を検出する。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、該レーダ装置が、車両に搭載され、前記物体判定手段によって物体が存在すると判定された場合に、検出された物体が車両と衝突する可能性があるか否かを判定する衝突判定手段を備え、前記受信信号処理手段が、前記衝突判定手段によって衝突する可能性があると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位を検出する。
【0011】
第4の発明は、上記第1の発明において、前記受信信号処理手段が、高分解能で前記受信信号の到来する方位を検出する高分解能方位検出法を用いて、前記物体の存在する方位を検出する。
【0012】
第5の発明は、上記第4の発明において、受信アンテナが、2個以上の第1所定個数のアンテナ素子を有し、前記受信信号処理手段が、前記第1所定個数によって検出可能な方位の個数が制限される前記高分解能方位検出法を用いて、前記物体の存在する方位を検出する。
【0013】
第6の発明は、上記第5の発明において、前記高分解能方位検出法が、最小ノルム法、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法、Capon法、又は、Pisarenko法である。
【0014】
第7の発明は、上記第1の発明において、前記受信信号処理手段によって検出された物体の方位に、受信アンテナの指向性のヌル点を向ける指向性変更手段を備える。
【0015】
第8の発明は、上記第7の発明において、前記受信アンテナが、2個以上の第1所定個数のアンテナ素子を有し、前記第1所定個数のアンテナ素子を介して受信される各受信信号の位相及び振幅の少なくとも一方をそれぞれ調整するウエイト調整手段を備え、前記指向性変更手段が、前記ウエイト調整手段を介して、前記受信信号処理手段によって検出された物体の方位に、前記受信アンテナの指向性のヌル点を向ける。
【0016】
第9の発明は、上記第1の発明において、送信アンテナが、2個以上の第2所定個数のアンテナ素子を有し、前記送信手段が、互いに電波特性の相違する前記複数個の送信信号を生成する送信信号生成部と、前記送信信号生成部において生成された前記複数個の送信信号の合成波を生成する合成波生成部と、前記第2所定個数のアンテナ素子を介して、前記合成波生成部で生成された合成波の送信信号の電波特性に基づいてビームの指向性を変化させて送信する合成波送信部、とを備える。
【0017】
第10の発明は、上記第9の発明において、前記電波特性が、周波数であって、前記送信信号生成部が、周波数の相違する前記複数個の送信信号を生成し、前記合成波生成部が、前記送信信号生成部からの複数個の送信信号を合成して合成波を生成し、前記合成波送信部が、前記合成波の送信信号の周波数に基づいてビームの指向性を変化させて前記第2所定個数のアンテナ素子を介して送信する。
【0018】
第11の発明は、上記第10の発明において、前記第2所定個数のアンテナ素子が、アレーアンテナを形成し、前記合成波送信部が、隣接するアンテナ素子間を通電可能に接続する位相調整線路を備え、前記合成波生成部が、前記合成波を前記第2所定個数のアンテナ素子の内、一方端のアンテナ素子に入力し、他のアンテナ素子へは、前記位相調整線路を介して入力される。
【0019】
第12の発明は、上記第10の発明において、前記第2所定個数のアンテナ素子が、アレーアンテナを形成し、前記合成波送信部が、前記合成波の送信信号の周波数に応じて、隣接するアンテナ素子に供給される送信信号の位相差を変更する可変位相器を備える。
【発明の効果】
【0020】
上記第1の発明によれば、複数個の送信信号が生成され、各送信信号が、それぞれ、互いに相違する領域に向けて送出される。そして、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号が受信され、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出される。従って、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することが可能となる。
【0021】
すなわち、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるため、例えば、MUSIC法を用いる高分解能測角方式を実施して物体の方位を検出する場合には、受信信号毎に((受信アンテナの個数)−1)個以下に相当する個数の物体の方位を高精度に検出することができる。そこで、複数個の送信信号が送出される領域が重ならない場合には、最大で((受信アンテナの個数)−1)の(送信信号の個数)倍に相当する個数の物体の方位を高精度に検出することができるのである。
【0022】
例えば、送信信号の個数が3個で、受信アンテナの個数が3個である場合には、最大で((受信アンテナの個数)−1=2)の(送信信号の個数=3)倍に相当する6個の物体の方位を高精度に検出することができる。
【0023】
また、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるため、複雑な演算をする必要がない。例えば、送信信号の個数が3個で、受信アンテナの個数が3個である場合には、受信アンテナの個数が3個である場合に行われるMUSIC法を、最大で、送信信号の個数に相当する3回だけ繰り返し実行すれば良いので、複雑な演算をする必要がないのである。
【0024】
上記第2の発明によれば、前記複数個の送信信号毎に、対応する受信信号が受信され、前記複数個の送信信号に対応する領域に、それぞれ、物体が存在するか否かが判定される。そして、物体が存在すると判定された領域に限って、前記物体の存在する方位が検出される。従って、物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を軽減することができる。
【0025】
すなわち、物体が存在すると判定された領域に限って、前記物体の存在する方位が検出されるため、物体が存在しないと判定された領域に対応するMUSIC法等の演算処理が省略されるのである。
【0026】
上記第3の発明によれば、該レーダ装置が、車両に搭載されており、物体が存在すると判定された場合に、検出された物体が自車両と衝突する可能性があるか否かが判定される。そして、衝突する可能性があると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位が検出される。従って、物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を更に軽減することができる。
【0027】
すなわち、物体が存在すると判定され、且つ、該物体と衝突する可能性があると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位が検出されるため、衝突する可能性がある物体は存在しないと判定された領域に対応するMUSIC法等の演算処理が省略されるのである。つまり、物体が存在しないと判定された領域、及び、物体は存在するが、該物体は自車両と衝突する可能性がないと判定された領域、に対応するMUSIC法等の演算処理が省略されるのである。
【0028】
上記第4の発明によれば、高分解能で前記受信信号の到来する方位を検出する高分解能方位検出法を用いて、前記物体の存在する方位が検出される。従って、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。
【0029】
上記第5の発明によれば、受信アンテナが、2個以上の第1所定個数のアンテナ素子を有し、前記第1所定個数によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法(例えば、最小ノルム法、MUSIC法等)を用いて、前記物体の存在する方位が検出される。従って、前記第1所定個数(=受信アンテナの個数に相当する)によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法であるMUSIC法等を用いる場合であっても、受信アンテナ(ここでは、アンテナ素子)の個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。
【0030】
すなわち、MUSIC法等の受信アンテナの個数によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いる場合には、上述のように、多くの物体を検出可能とするために、受信アンテナの個数を多くする必要がある。しかしながら、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるため、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。つまり、MUSIC法等の受信アンテナの個数によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いる場合には、本発明の効果が更に顕在化するのである。
【0031】
上記第6の発明によれば、前記高分解能方位検出法が、最小ノルム法、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法、Capon法、又は、Pisarenko法である。また、最小ノルム法、MUSIC法、Capon法、及び、Pisarenko法は、受信アンテナの個数によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法である。従って、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができるとの本発明の効果が更に顕在化する。
【0032】
上記第7の発明によれば、検出された物体の方位に、受信アンテナの指向性のヌル点が向けられる。従って、物体の方位を更に高精度に検出することができる。
【0033】
上記第8の発明によれば、前記受信アンテナが、2個以上の第1所定個数のアンテナ素子を有している。そして、前記第1所定個数のアンテナ素子を介して受信される各受信信号の位相及び振幅の少なくとも一方がそれぞれ調整されて、検出された物体の方位に、前記受信アンテナの指向性のヌル点が向けられる。従って、検出された物体の方位に、前記受信アンテナの指向性のヌル点を正確に向けることができる。
【0034】
上記第9の発明によれば、送信アンテナが、2個以上の第2所定個数のアンテナ素子を有している。また、互いに電波特性の相違する前記複数個の送信信号が生成される。そして、生成された前記複数個の送信信号の合成波が生成される。更に、生成された合成波の送信信号の電波特性に基づいて、ビームの指向性が変化されて、前記第2所定個数のアンテナ素子を介して送信される。従って、前記複数個の送信信号を、それぞれ、前記送信アンテナを介して互いに相違する領域に向けて送出することができる。
【0035】
すなわち、互いに電波特性の相違する前記複数個の送信信号が、それぞれ対応する電波特性に基づいてビームの指向性が変化されて送信されるため、前記複数個の送信信号の電波特性を適正な特性に設定することによって、それぞれ、所望する領域に向けて送出することができるのである。
【0036】
上記第10の発明によれば、周波数の相違する前記複数個の送信信号が生成される。そして、生成された複数個の送信信号が合成されて合成波が生成される。更に、前記合成波の送信信号の周波数に基づいてビームの指向性が変化されて、前記第2所定個数のアンテナ素子を介して送信される。従って、前記複数個の送信信号を、それぞれ、前記送信アンテナを介して互いに相違する領域に向けて送出することができる。
【0037】
すなわち、互いに周波数の相違する前記複数個の送信信号が、それぞれ対応する周波数に基づいてビームの指向性が変化されて送信されるため、前記複数個の送信信号の周波数を適正な値に設定することによって、それぞれ、所望する領域に向けて送出することができるのである。
【0038】
上記第11の発明によれば、前記第2所定個数のアンテナ素子が、アレーアンテナを形成している。また、位相調整線路によって、隣接するアンテナ素子間が通電可能に接続されている。そして、前記合成波が前記第2所定個数のアンテナ素子の内、一方端のアンテナ素子に入力され、他のアンテナ素子へは、前記位相調整線路を介して入力される。従って、前記位相調整線路の線路長を適正に形成することによって、簡素な構成で、前記複数個の送信信号を、それぞれ所望する領域に向けて送出することができる。
【0039】
上記第12の発明によれば、前記第2所定個数のアンテナ素子が、アレーアンテナを形成している。また、可変位相器によって、前記合成波の送信信号の周波数に応じて、隣接するアンテナ素子に供給される送信信号の位相差が変更される。従って、前記可変位相器に設定する位相差を適正に設定することによって、前記複数個の送信信号を、それぞれ所望する領域に向けて送出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るレーダ装置の構成の一例を示すブロック図
【図2】図1に示す送信部の構成の一例を示すブロック図
【図3】送信部(アンテナ素子)から送出される送信信号の一例を示す平面図
【図4】図1に示す受信部の構成の一例を示すブロック図
【図5】ウエイト調整部によって形成された受信部(受信アンテナ)の指向性PAの一例を示す平面図
【図6】制御部の動作の一例を示すフローチャート(前半部)
【図7】制御部の動作の一例を示すフローチャート(後半部)
【図8】図1に示す送信部の構成の、図2とは相違する他の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明に係るレーダ装置の実施形態について説明する。本発明に係るレーダ装置は、送信アンテナを介して送信信号を送出すると共に、受信アンテナを介して受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出する。本実施形態では、レーダ装置が、車両VC(図3、図5参照)に搭載され、車両VCの前方の物体を検出する場合について説明する。
【0042】
図1は、本発明に係るレーダ装置1の構成の一例を示すブロック図である。レーダ装置1は、制御部11、送信部12、及び、受信部13を備えている。制御部11は、レーダ装置1全体の動作を制御するものであって、機能的に、送信指示部111、物体判定部112、衝突判定部113、受信信号処理部114、及び、指向性変更部115を備えている。送信部12(送信アンテナに相当する)は、制御部11(送信指示部111)からの指示に従って、送信信号を送出するものである。受信部13(受信アンテナに相当する)は、制御部11(指向性変更部115等)からの指示に従って、受信信号を受信するものである。
【0043】
なお、制御部11は、制御部11の適所に配設されたマイクロコンピュータに、制御部11の適所に配設されたROM(Read Only Memory)等に予め格納された制御プログラムを実行させることにより、当該マイクロコンピュータを、機能的に、送信指示部111、物体判定部112、衝突判定部113、受信信号処理部114、指向性変更部115等の機能部として機能させる。
【0044】
送信指示部111(送信手段の一部に相当する)は、送信部12を介して送信信号を送出する機能部である。具体的には、送信指示部111は、送信部12を介して、複数個(ここでは、3個)の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12:図2参照)を介して互いに相違する領域(ここでは、領域AR1〜AR3(図3参照))に向けて送出する。また、送信指示部111は、物体判定部112によって物体(例えば、物体TG3、TG4:図5参照)が検出され、且つ、該物体(ここでは、物体TG3、TG4:図5参照)が衝突判定部113によって、車両VCと衝突する可能性があると判定された場合に、該物体が検出された領域(ここでは、領域AR3)に限って、送信信号を送出する(図5参照)。
【0045】
物体判定部112(物体判定手段に相当する)は、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号毎に、受信部13を介して対応する受信信号を受信し、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号に対応する領域(ここでは、領域AR1〜AR3(図3参照))に、それぞれ、物体が存在するか否かを判定する機能部である。具体的には、物体判定部112は、例えば、物体からの反射波が受信部13を介して受信信号として受信されたか否かに応じて、物体が存在するか否かを判定する。また、物体判定部112は、送信部12を介して送出された送信信号、及び、受信部13を介して受信された受信信号に基づいて、物体の自車両VCに対する相対位置及び相対速度を検出する。
【0046】
衝突判定部113(衝突判定手段に相当する)は、物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に、検出された物体が自車両VCと衝突する可能性があるか否かを判定する機能部である。具体的には、衝突判定部113は、例えば、物体判定部112によって検出された物体の自車両VCに対する相対位置及び相対速度に基づいて、検出された物体が自車両VCと衝突する可能性があるか否かを判定する。
【0047】
受信信号処理部114(受信信号処理手段に相当する)は、受信アンテナ(=受信部13:図4参照)を介して、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する機能部である。ただし、ここでは、受信信号処理部114は、物体判定部112によって物体が存在すると判定された領域(例えば、領域AR3:図3参照)であって、且つ、衝突判定部113によって該領域(ここでは、領域AR3:図3参照)に存在する物体(ここでは、物体TG3、TG4:図3参照)が自車両VCに衝突する可能性があると判定された場合に限って、物体(ここでは、物体TG3、TG4:図3参照)の存在する方位を検出する。
【0048】
また、受信信号処理部114は、高分解能で受信信号の到来する方位を検出するMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等の高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出する。ここで、「高分解能方位検出法」とは、フーリエ変換の原理に基づいて、受信信号の到来する方位を高分解能で検出する方法全般を指す概念であって、Beamformer法、最小ノルム法、MUSIC法、Capon法、Pisarenko法、ESPRIT(Estimation of SignalParameters via Rotational Invariance Techniques)法等を含む。
【0049】
ただし、ここでは、受信信号処理部114は、MUSIC法等の受信アンテナに含まれるアンテナ素子131(図4参照)の個数である第1所定個数N(ここでは、3個)によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出する。具体的には、高分解能方位検出法として、最小ノルム法、MUSIC法、Capon法、又は、Pisarenko法を用いる。ここでは、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法としてMUSIC法を用いる場合について説明する。
【0050】
ここで、MUSIC法において、信号到来方向(=物体の存在する方位)を検出する原理について簡単に説明する。まず、アレーアンテナを構成するの各アンテナ素子131(図4参照)の時系列出力データから相関行列を作成する。そして、作成された相関行列の固有値と固有ベクトルとを算出する。次に、それらの固有値の大小を判別して、信号空間に属する固有ベクトルと雑音空間に属する固有ベクトルとに分類し、それぞれが互いに直交することを利用して到来方向推定を行う。すなわち、雑音空間に属する固有ベクトル行列に信号到来方向ベクトルを乗算する項を分母において、信号到来方向の角度をスキャンすると、その角度が実際の信号信号到来方向に一致した時に、分母の値が零に近づくことから急峻なピークが得られる。MUSIC法は、この作用を利用して信号の到来方向推定を行うものである。
【0051】
このようにして、受信信号処理部114によって、高分解能で受信信号の到来する方位を検出する高分解能方位検出法(ここでは、MUSIC法)を用いて、物体の存在する方位が検出されるため、受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。
【0052】
本実施形態では、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法としてMUSIC法を用いる場合について説明するが、受信信号処理部114が、その他の高分解能方位検出法を用いる形態でも良い。例えば、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法として、最小ノルム法、Capon法、又は、Pisarenko法を用いる形態でも良い。更に、例えば、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法として、Beamformer法、又は、ESPRIT法を用いる形態でも良い。
【0053】
ここで、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法として、MUSIC法等の受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)によって検出可能な方位の個数が制限される方法を用いる場合には、多くの物体を検出可能とするために、受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)を多くする必要がある。しかしながら、受信信号処理部114によって、受信された受信信号毎に(ここでは、図3に示す3つの領域AR1〜AR3毎に)物体の存在する方位が検出されるため、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。つまり、MUSIC法等の受信アンテナの個数によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いるため、本発明の効果が更に顕在化するのである。
【0054】
本実施形態では、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法としてMUSIC法を用いる場合について説明するが、受信信号処理部114が、受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いる形態でも良い。例えば、受信信号処理部114が、最小ノルム法、Capon法、又は、Pisarenko法を用いる形態でも良い。
【0055】
また、物体判定部112によって物体が存在すると判定され、且つ、衝突判定部113によって該物体と衝突する可能性があると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位が検出されるため、衝突する可能性がある物体は存在しないと判定された領域(ここでは、領域AR1、AR2:図3参照)に対応するMUSIC法等の演算処理が省略されるのである。つまり、物体が存在しないと判定された領域(ここでは、領域AR2:図3参照)、及び、物体は存在するが、該物体は自車両と衝突する可能性がないと判定された領域(ここでは、領域AR1:図3参照)、に対応するMUSIC法等の演算処理が省略される。従って、受信信号処理部114によって物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を軽減することができる。
【0056】
本実施形態では、受信信号処理部114が、物体が存在すると判定され、且つ、該物体と衝突する可能性があると判定された領域(ここでは、領域AR3:図3参照)に限って、前記物体の存在する方位を検出する場合について説明したが、受信信号処理部114が、物体が存在すると判定され領域(ここでは、領域AR1、AR3:図3参照)に限って、前記物体の存在する方位を検出する形態でも良い。この場合には、衝突判定部113による処理(=衝突の可能性があるか否かの判定処理)を省略することができる。
【0057】
指向性変更部115(指向性変更手段に相当する)は、受信信号処理部114によって検出された物体の方位に、受信部13を介して、受信アンテナ(ここでは、3個のアンテナ素子131を含むアレーアンテナ:図4参照)の指向性のヌル点NP(図5参照)を向ける機能部である。具体的に、受信アンテナの指向性を変更する方法については、図4を用いて後述する。
【0058】
このようにして、指向性変更部115によって、受信信号処理部114により検出された物体の方位に、受信アンテナ(ここでは、3個のアンテナ素子131を含むアレーアンテナ:図4参照)の指向性のヌル点NP(図5参照)が向けられるため、物体の方位を更に高精度に検出することができる。
【0059】
本実施形態では、指向性変更部115が、受信信号処理部114により検出された物体の方位に受信アンテナの指向性のヌル点を向ける場合について説明するが、指向性変更部115が、受信信号処理部114により検出された物体の方位に受信アンテナの指向性の良好な点を向ける形態でも良い。
【0060】
図2は、図1に示す送信部12の構成の一例を示すブロック図である。図に示すように、送信部12は、送信指示部111からの指示に従って送信信号を送出するものであって、送信信号生成部121、合成波生成部122、位相調整線路123、及び、アンテナ素子124を備えている。
【0061】
送信信号生成部121は、送信指示部111からの指示に従って、互いに電波特性の相違する複数個(ここでは、3個)の送信信号を生成するものであって、送信信号生成部121a、121b、121cを備えている。また、送信信号生成部121は、生成した送信信号を合成波生成部122へ出力する。ここでは、前記電波特性は、周波数であって、送信信号生成部121a、121b、121cは、それぞれ、互いに周波数fの相違する複数個(ここでは、3個)の送信信号を生成する。例えば、送信信号生成部121a、121b、121cは、周波数fが、それぞれ、f1=75.5GHz、f2=76.0GHz、f3=76.5GHzの送信信号を生成する。
【0062】
ただし、送信指示部111から、車両VCと衝突する可能性があると判定された物体が検出された領域(ここでは、領域AR3)に限って、送信信号を送出する旨の指示を受け付けた場合には、送信信号生成部121は、該領域に対応する周波数の送信信号だけを生成する。
【0063】
合成波生成部122は、送信信号生成部121によって生成された周波数fの相違する複数個(ここでは、3個)の送信信号を合成して、合成波を生成するものである。また、合成波生成部122は、生成された合成波を、位相調整線路123の一方端に形成された端子123aへ出力する。
【0064】
位相調整線路123(合成波送信部に相当する)は、合成波生成部122によって生成された合成波の送信信号の周波数に基づいてビームEBの指向性を変化させて第2所定個数M(ここでは、5個)のアンテナ素子124を介して送信するものである。また、位相調整線路123は、隣接するアンテナ素子124間を通電可能に接続する線路である。図に示すように、位相調整線路123の一方端に形成された端子123aへ合成波生成部122から合成波が入力される。
【0065】
また、端子123aへ入力された合成波は、端子123aを介して一方端(図では右端)のアンテナ素子124に入力され、他のアンテナ素子124へは、位相調整線路123を介して入力される。位相調整線路123は、その線路長L及び周波数f(波長λ)に応じて、合成波を遅延させ、ビームEBの投射方向を規定する角度θを設定する。角度θは、アンテナ素子124の配列された面を基準とする角度である。ここで、位相調整線路123は、誘電体(図示省略)内に配線されている。角度θは、次の(1)式で求められる。
sinθ=−(λ×L)/(λg×d)±(n×λ)/d (1)
ただし、λg:誘電体内の波長、d:アンテナ間隔、n:任意の自然数、である。
【0066】
(1)式に示すように、周波数f(波長λ)に応じて、角度θが設定されるため、端子123aへ入力された合成波は、その周波数に応じて、(1)式で決定される向きに放射される。ここでは、合成波は、複数個(ここでは、3個)の周波数f(例えば、f1=75.5GHz、f2=76.0GHz、f3=76.5GHz)の送信信号を含んでいるため、各周波数f1、f2、f3に対応する方向(ここでは、3つの方向θ1、θ2、θ3:図3参照)に送信信号が送出される。
【0067】
アンテナ素子124は、アレーアンテナを形成するものであって、端子123aを介して入力された送信信号を送出するものである。
【0068】
このようにして、送信部12によって、互いに周波数fの相違する複数個(ここでは、3個)の送信信号が、それぞれ対応する周波数f1、f2、f3に基づいてビームEBの指向性が変化されて送信されるため、複数個(ここでは、3個)の送信信号の周波数f1、f2、f3、及び線路長Lを適正な値に設定することによって、それぞれ、所望する領域に向けて送出することができる。
【0069】
本実施形態では、送信信号生成部121が、互いに周波数fの相違する複数個の送信信号を生成する場合について説明するが、送信信号生成部121が、互いに電波特性の相違する複数個の送信信号を生成する形態であれば良い。例えば、送信信号生成部121が、互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成する形態でも良い。ただし、この場合には、位相調整線路123に換えて、送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等を配設する必要がある。
【0070】
また、位相調整線路123の線路長Lを適正に形成することによって、簡素な構成で、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号を、それぞれ所望する領域に向けて送出することができる。なお、図8を用いて後述するように、送信部12が、位相調整線路123に換えて、送信信号の周波数fに応じて、隣接するアンテナ素子124に供給される送信信号の位相差を変更する可変位相器126を備える形態でも良い。
【0071】
図3は、送信部12(アンテナ素子124)から送出される送信信号の一例を示す平面図である。図に示すように、本発明に係るレーダ装置1は、車両VCの前部の幅方向中央位置に、前方(図の上側)を向けて配設されている。そして、上記(1)式によって決定される角度θ1、θ2、θ3の向きに、合成波に含まれる各周波数f1、f2、f3に対応する送信信号が送出される。そして、各周波数f1、f2、f3にそれぞれ対応する領域AR1、AR2、AR3内の物体が検出される。
【0072】
ここでは、領域AR1及び領域AR3内に、それぞれ2個の物体TG1、TG2及び物体TG3、TG4が存在する場合について説明する。図4を用いて後述するように、受信アンテナを構成するアンテナ素子131の個数(第1所定個数Nに相当する)は、ここでは、3個であるため、図3に示すように、レーダ装置の検出領域AR1〜AR3に4個の物体TG1〜TG4が存在する場合には、従来は、MUSIC法等によって信号到来方向(=物体の存在する方位)を検出することはできなかった。
【0073】
しかしながら、上述のように、本発明に係るレーダ装置1では、送信部12から図3に示すように、領域AR1〜AR3にそれぞれ周波数f1、f2、f3の送信信号が送出され、受信信号処理部114によって、複数個(ここでは、3個)の送信信号にそれぞれ対応する受信信号毎に(=領域AR1〜AR3毎に)物体の存在する方位が検出されるため、4個の物体TG1〜TG4の信号到来方向(=物体の存在する方位)をMUSIC法等によって検出することができる。
【0074】
例えば、まず、送信指示部111によって、領域AR1に向けて送信信号が送出され、受信信号処理部114によって、領域AR1に存在する物体TG1、TG2の信号到来方向(=物体の存在する方位)がMUSIC法等によって検出される。次に、送信指示部111によって、領域AR3に向けて送信信号が送出され、受信信号処理部114によって、領域AR3に存在する物体TG3、TG4の信号到来方向(=物体の存在する方位)がMUSIC法等によって検出される。このようにして、4個の物体TG1〜TG4の信号到来方向(=物体の存在する方位)をMUSIC法等によって検出することができるのである。
【0075】
図4は、図1に示す受信部13の構成の一例を示すブロック図である。図に示すように、受信部13は、物体によって反射された反射波を受信信号として受信し、制御部11(物体判定部112、受信信号処理部114等)へ出力するものであって、アンテナ素子131、ウエイト調整部132、及び、加算部133を備えている。
【0076】
アンテナ素子131は、送信部12から送出され、物体によって反射された反射波を受信信号として受信する受信アンテナを構成する素子であって、ここでは、アレーアンテナを構成する第1所定個数N(ここでは、3個)のアンテナ素子である。アンテナ素子131で受信された受信信号は、ウエイト調整部132に出力される。
【0077】
ウエイト調整部132(ウエイト調整手段に相当する)は、図1に示す指向性変更部115からの指示に従って、第1所定個数N(ここでは、3個)のアンテナ素子131を介して受信される各受信信号の位相及び振幅の少なくとも一方をそれぞれ調整するものである。具体的には、例えば、ウエイト調整部132は、受信信号処理部114によって検出された物体の方位に、受信アンテナ(=受信部13)の指向性のヌル点を向けるべく、第1所定個数N(ここでは、3個)のアンテナ素子131を介して受信される各受信信号の位相及び振幅をそれぞれ調整する。
【0078】
加算部133は、ウエイト調整部132を介して出力される受信信号を加算して、図1に示す制御部11(物体判定部112、受信信号処理部114)で出力するものである。
【0079】
図5は、ウエイト調整部132によって形成された受信部13(受信アンテナ)の指向性PAの一例を示す平面図である。ここでは、受信信号処理部114によって検出された、領域AR3に存在する物体TG3、TG4の方位(図の矢印の向き)に、ヌル点NPを向けるべくウエイト調整部132が調整されて形成された指向性PAの一例を示す。
【0080】
すなわち、ウエイト調整部132は、図1に示す指向性変更部115からの指示に従って、領域AR3に存在する物体TG3、TG4の方位(図の矢印の向き)に、ヌル点NPを向けるべく調整される。そして、受信部13の指向性PAは、物体TG3、TG4の方位(図の矢印の向き)に、ヌル点NP有する指向性として調整される。
【0081】
このようにして、検出された物体TG3、TG4の方位に、受信アンテナ(=受信部13)の指向性PAのヌル点NPが向けられるため、検出された物体TG3、TG4の方位に、物体TG3、TG4の方位を更に高精度に検出することができる。
【0082】
本実施形態では、指向性変更部115が、受信信号処理部114によって検出された物体TG3、TG5の方位に、受信アンテナ(=受信部13)の指向性PAのヌル点NPを向ける場合について説明するが、指向性変更部115が、物体TG3、TG5の方位を高精度に検出可能な別の指向性とする形態でも良い。例えば、指向性変更部115が、物体TG3、TG5の向きを指向性良好な向きとする形態でも良い。
【0083】
また、ウエイト調整部132が、領域AR3に存在する物体TG3、TG4の方位(図の矢印の向き)にヌル点NPを向けるべく、アンテナ素子131を介して受信される各受信信号の位相及び振幅をそれぞれ調整するため、受信アンテナ(=受信部13)の指向性PAのヌル点NPを正確に物体TG3、TG4の方位に向けることができる。
【0084】
図6、図7は、本発明に係るレーダ装置1(主に、制御部11)の動作の一例を示すフローチャートである。まず、図6に示すように、送信指示部111によって、送信部12を介して、複数個(ここでは、3個)の送信信号が、それぞれ、互いに相違する領域AR1〜AR3(図3参照)に向けて送出される(ステップS101)。次に、物体判定部112によって、領域AR1〜AR3毎に、受信信号が受信されているか否か(=物体が存在するか否か)が判定される(S103)。
【0085】
全ての領域AR1〜AR3(図3参照)について、受信信号が受信されていないと判定された場合(S103でNO)には、処理がステップS101にリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。受信信号が受信された領域ARがあると判定された場合(S103でYES)には、物体判定部112によって、受信信号が受信された領域AR(ここでは、領域AR1、AR3)に存在する物体TG(ここでは、物体TG1〜TG4)との相対距離及び相対速度が検出される(S105)。
【0086】
次に、衝突判定部113によって、ステップS105で検出された相対距離及び相対速度に基づいて、物体TG毎に、車両VCと衝突する可能性があるか否かの判定が行われる(S107)。全ての物体が、車両VCと衝突する可能性がないと判定された場合(S107でNO)には、処理がステップS101にリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。少なくとも1つの物体TGが車両VCと衝突する可能性があると判定された場合(S107でYES)には、受信信号処理部114によって、車両VCと衝突する可能性がある物体TG(ここでは、TG3、TG4)の存在する領域AR(ここでは、領域AR3)が特定される(S109)。
【0087】
次に、図7に示すように、受信信号処理部114によって、ステップS109において特定された領域ARの内、1つの領域AR(ここでは、領域AR3)が選定される(S111)。次に、送信指示部111によって、ステップS111において選定された領域AR(ここでは、領域AR3)に向けて、送信信号が送出される(S113)。次いで、受信信号処理部114によって、ステップS111において特定された領域AR(ここでは、領域AR3)内に存在する物体TG(ここでは、物体TG3、TG4)からの反射波(=受信信号)の到来方向が、MUSIC法を用いて検出される(S115)。そして、指向性変更部115によって、ステップS115において検出された到来方向にヌル点NPを向けるべく、受信部13の指向性PAが変更される(S117)。
【0088】
次いで、送信指示部111によって、ステップS111において選定された領域AR(ここでは、領域AR3)に向けて、送信信号が送出され、物体判定部112によって、受信部13を介して受信された受信信号に基づいて、物体TG(ここでは、物体TG3、TG4)の自車両VCに対する相対位置及び相対速度が検出される(S119)。次に、受信信号処理部114によって、図6のステップS109において特定された全ての領域ARが選定されたか否かの判定が行われる(S121)。全ての領域ARが選定されたと判定された場合(S121でYES)には、処理がステップS101にリターンされ、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。未だ選定されていない領域ARがあると判定された場合(S121でNO)には、処理がステップS111に戻され、ステップS111以降の処理が繰り返し実行される。
【0089】
図8は、図1に示す送信部の構成の、図2とは相違する他の一例を示すブロック図である。図に示す送信部12’は、図2に示す送信部12と比較して、位相調整線路123に換えて、振幅調整器125及び可変位相器126を備える点で相違している。そこで、ここでは、便宜上、振幅調整器125及び可変位相器126について主に説明する。
【0090】
可変位相器126(合成波送信部の一部に相当する)は、合成波生成部122によって生成された合成波の送信信号の周波数に基づいてビームEBの指向性を変化させて第2所定個数M(ここでは、5個)のアンテナ素子124を介して送信するものである。また、可変位相器126は、各アンテナ素子124に供給する送信信号の位相を、合成波に含まれる周波数f(ここでは、周波数f1、f2、f3)に基づいて変化させて、ビームEBの指向性を変化させる。この方式は、「周波数走査方式」と呼ばれている。
【0091】
振幅調整器125(合成波送信部の一部に相当する)は、可変位相器126から出力される各送信信号の振幅を増幅して、それぞれ、アンテナ素子124に供給する増幅器である。
【0092】
ここで、周波数走査方式について説明する。送信信号の周波数fを変化させる(ここでは、周波数f1、f2、f3に設定する)ことによって、各アンテナ素子124から送出されるビームEBの指向性(=角度θ)を変化させて走査させる方式である。図8に示すアレーアンテナ(=送信部12’)のメインローブ(=指向性の最も良好な範囲)をある角度θに向けるための条件は、次の(2)式で示される。
δk=2π×f×(dk/c)×sinθ (2)
ここで、δk:右からk番目の可変位相器126に設定される位相、dk:各アンテナ素子124の基準点(例えば、右端のアンテナ素子124の位置)からの距離、c:光速、k:1〜5、である。
【0093】
上記(2)式に示すように、角度θは、送信信号の周波数f(ここでは、周波数f1、f2、f3)、各アンテナ素子124の基準点からの距離dk、及び、可変位相器126に設定される位相δkに基づいて決定される。従って、図8に示すアレーアンテナ(=送信部12’)メインローブを、所望する角度θ1、θ2、θ3(図3参照)に向けるためには、送信信号の周波数f1、f2、f3毎に、適正な、位相δkを可変位相器126に設定すれば良い。
【0094】
以上の説明のように、本発明に係るレーダ装置1によれば、受信された受信信号毎に物体TGの存在する方位が検出されるため、例えば、MUSIC法を用いる高分解能測角方式を実施して物体TGの方位を検出する場合には、受信信号毎に((受信アンテナの個数)−1)個以下に相当する個数の物体TGの方位を高精度に検出することができる。そこで、複数個(ここでは、3個)の送信信号が送出される領域AR(ここでは、領域AR1〜AR3)が重ならない場合には、最大で((受信アンテナの個数)−1)の(送信信号の個数)倍に相当する個数の物体TGの方位を高精度に検出することができるのである。
【0095】
例えば、送信信号の個数が3個で、受信アンテナの個数が3個である場合には、最大で((受信アンテナの個数)−1=2)の(送信信号の個数=3)倍に相当する6個の物体TGの方位を高精度に検出することができる。
【0096】
また、受信された受信信号毎に物体TGの存在する方位が検出されるため、複雑な演算をする必要がない。例えば、送信信号の個数が3個で、受信アンテナの個数が3個である場合には、受信アンテナの個数が3個である場合に行われるMUSIC法を、最大で、送信信号の個数に相当する3回だけ繰り返し実行すれば良いので、複雑な演算をする必要がないのである。
【0097】
なお、本発明に係るレーダ装置1は、上記実施形態に限定されず、下記の形態でも良い。
(A)本実施形態においては、レーダ装置1が、車両VCに搭載されている場合について説明したが、レーダ装置1が、その他の乗り物(例えば、飛行機、船舶等)に搭載されている形態でも良いし、ビル等の建築物に配設されている形態でも良い。
【0098】
(B)本実施形態においては、レーダ装置1が、車両VCの前方にある物体を検出する場合について説明したが、レーダ装置1が、車両VCの周囲にある物体を検出する形態であれば良い。例えば、レーダ装置1が、車両VCの後方にある物体を検出する形態でも良いし、レーダ装置1が、車両VCの側方にある物体を検出する形態でも良い。
【0099】
(C)本実施形態においては、制御部11が、送信指示部111、物体判定部112、衝突判定部113、受信信号処理部114、指向性変更部115等の機能部を備える場合について説明したが、送信指示部111、物体判定部112、衝突判定部113、受信信号処理部114、及び、指向性変更部115の内、少なくとも1つの機能部が回路等のハードウェアによって実現されている形態でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、例えば、送信信号を送出すると共に受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置に適用することができる。より特定的には、本発明は、例えば、車両に搭載されたレーダ装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 レーダ装置
11 制御部
111 送信指示部(送信手段の一部)
112 物体判定部(物体判定手段)
113 衝突判定部(衝突判定手段)
114 受信信号処理部(受信信号処理手段)
115 指向性変更部(指向性変更手段)
12、12’ 送信部(送信アンテナ)
121 送信信号生成部
122 合成波生成部
123 位相調整線路(合成波送信部)
124 アンテナ素子
125 振幅調整器(合成波送信部の一部)
126 可変位相器(合成波送信部の一部)
13 受信部(受信アンテナ)
131 アンテナ素子
132 ウエイト調整部
133 加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を送出すると共に受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置であって、
複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、互いに相違する領域に向けて送出する送信手段と、
前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する受信信号処理手段と、を備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記複数個の送信信号毎に、対応する受信信号を受信し、前記複数個の送信信号に対応する領域に、それぞれ、物体が存在するか否かを判定する物体判定手段を備え、
前記受信信号処理手段は、前記物体判定手段によって物体が存在すると判定された領域に限って、前記物体の存在する方位を検出する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
該レーダ装置は、車両に搭載され、
前記物体判定手段によって物体が存在すると判定された場合に、検出された物体が自車両と衝突する可能性があるか否かを判定する衝突判定手段を備え、
前記受信信号処理手段は、前記衝突判定手段によって衝突する可能性があると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位を検出する、請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記受信信号処理手段は、高分解能で前記受信信号の到来する方位を検出する高分解能方位検出法を用いて、前記物体の存在する方位を検出する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
受信アンテナは、2個以上の第1所定個数のアンテナ素子を有し、
前記受信信号処理手段は、前記第1所定個数によって検出可能な方位の個数が制限される前記高分解能方位検出法を用いて、前記物体の存在する方位を検出する、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記高分解能方位検出法は、最小ノルム法、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法、Capon法、又は、Pisarenko法である、請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記受信信号処理手段によって検出された物体の方位に、受信アンテナの指向性のヌル点を向ける指向性変更手段を備える、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記受信アンテナは、2個以上の第1所定個数のアンテナ素子を有し、
前記第1所定個数のアンテナ素子を介して受信される各受信信号の位相及び振幅の少なくとも一方をそれぞれ調整するウエイト調整手段を備え、
前記指向性変更手段は、前記ウエイト調整手段を介して、前記受信信号処理手段によって検出された物体の方位に、前記受信アンテナの指向性のヌル点を向ける、請求項7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
送信アンテナは、2個以上の第2所定個数のアンテナ素子を有し、
前記送信手段は、
互いに電波特性の相違する前記複数個の送信信号を生成する送信信号生成部と、
前記送信信号生成部において生成された前記複数個の送信信号の合成波を生成する合成波生成部と、
前記第2所定個数のアンテナ素子を介して、前記合成波生成部で生成された合成波の送信信号の電波特性に基づいてビームの指向性を変化させて送信する合成波送信部、とを備える請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記電波特性は、周波数であって、
前記送信信号生成部は、周波数の相違する前記複数個の送信信号を生成し、
前記合成波生成部は、前記送信信号生成部からの複数個の送信信号を合成して合成波を生成し、
前記合成波送信部は、前記合成波の送信信号の周波数に基づいてビームの指向性を変化させて前記第2所定個数のアンテナ素子を介して送信する、請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記第2所定個数のアンテナ素子は、アレーアンテナを形成し、
前記合成波送信部は、隣接するアンテナ素子間を通電可能に接続する位相調整線路を備え、
前記合成波生成部は、前記合成波を前記第2所定個数のアンテナ素子の内、一方端のアンテナ素子に入力し、他のアンテナ素子へは、前記位相調整線路を介して入力される、請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記第2所定個数のアンテナ素子は、アレーアンテナを形成し、
前記合成波送信部は、前記合成波の送信信号の周波数に応じて、隣接するアンテナ素子に供給される送信信号の位相差を変更する可変位相器を備える、請求項10に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−197138(P2010−197138A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40589(P2009−40589)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】