ロックウール吸音天井板の保全工法
【目的】ロックウール吸音天井板の吸音性をそのまま保持することができ、長期間に渡って美観を保つことができるように、且つ、エアコンや換気扇の吹出し口や吸込み口の周囲に汚れが付いた場合でもその汚れを容易に除去することができるような状態に、ロックウール吸音天井板を保全するための工法を提供する。
【構成】エアコンや換気扇が設置された天井を構成するロックウール吸音天井板の略全体に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成し、前記第1薄膜の前記エアコン又は換気扇の周囲の所定範囲の領域の上に、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成するものである。
【構成】エアコンや換気扇が設置された天井を構成するロックウール吸音天井板の略全体に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成し、前記第1薄膜の前記エアコン又は換気扇の周囲の所定範囲の領域の上に、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井の少なくとも室内側の面を構成する多孔質板であるロックウール吸音板の保全工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、天井の内装板として、多孔質で高い吸音性を有するロックウール吸音板が多く使用されている(例えば特許文献1参照)。このようなロックウール吸音板の吸音性は、多孔質で内部が複雑な断面形状をした連続気泡であるため、その中に音波が入射して音波が伝搬して行く過程で気泡壁面との粘性摩擦などにより音圧が減少し音波エネルギーが材料中に吸収されることにより生じる、とされている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2803572号公報
【特許文献2】特許第3158808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前述のようなロックウール吸音天井板は、多孔質であることから高い吸音性を発揮できる反面、多孔質であることから表面が極めて微細な凹凸状に形成されているために汚れの除去が困難であり、また上塗り塗装をすると吸音性が失われてしまうという問題があった。特に、天井にエアコンディショナー(以下、エアコン)や換気扇を設置している場合は、その吹出し口や吸込み口の周辺が空気流に含まれる汚れ成分により汚れてしまうことが多く、そして、そのような汚れの除去は極めて困難であり、可能な場合でもその汚れの除去に多大の手間やコストを要してしまう、という問題があった。
【0004】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目して為されたものであって、ロックウール吸音天井板の吸音性をそのまま保持することができ、長期間に渡って美観を保つことができるように、且つ、エアコンや換気扇の吹出し口や吸込み口の周囲に汚れが付いた場合でもその汚れを容易に除去することができるような状態に、ロックウール吸音天井板を保全するための工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により形成されており、前記天井にはエアコンディショナーが配置されており、前記エアコンディショナーには天井に対して略平行若しくは斜め下方向に冷風若しくは温風が吹出される吹出し口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面の略全体に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記エアコンディショナーの吹出し口からその吹出し方向に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域、又は前記第1薄膜の前記エアコンディショナーから周囲に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである(前記ガラスコーティング材は、塗布対象となる基材の材質により、その基材への吸込み具合が異なるので、ガラス膜の重量が同じ場合でも膜厚は異なりうる)。
【0006】
また、本発明は、天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により形成されており、前記天井には換気扇が配置されており、前記換気扇には天井に対して略平行若しくは斜め下方向に吸込み口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記換気扇の吸込み口からその吸込み方向の反対方向に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域、又は前記第1薄膜の前記換気扇から周囲に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである(前記ガラスコーティング材は、塗布対象となる基材の材質により、その基材への吸込み具合が異なるので、ガラス膜の重量が同じ場合でも膜厚は異なりうる)。
【0007】
また、本発明においては、前記の汚れを除去する工程は、前記ロックウール吸音板の表面に向けて、約1mm以下の粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させ工程を含むものである、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明においては、ロックウール吸音天井板の上に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成される第1薄膜を形成するようにしている。一般にロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔は、微小なものではその内径がμmレベルのものなど、様々であるが、そのほとんどは、その内径が少なくとも約6nm以上である。よって、本発明において、前記第1薄膜を前記ロックウール吸音天井板上に形成するようにした場合でも、前記第1薄膜を構成する微粒子が前記ロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔(吸音性を発揮するために必要な部分)を潰してしまうことはないので、前記ロックウール吸音天井板の吸音性はほとんど保持できるようになる(これに対して、従来の塗料を使用する場合は、塗料を構成する粒子の粒径が前記ロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔の内径よりも大きいため、塗料に含まれる各粒子が前記ロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔を潰してしまい、前記ロックウール吸音天井板の吸音性を失わせる結果になってしまっていた)。
【0009】
(2)また、本発明においては、前記第1薄膜は、その重量が約30〜50g/m2と極めて軽いものである。よって、本発明によれば、前記ロックウール吸音天井板の上に前記第1薄膜を形成した場合でも、その自重によって前記第1薄膜が剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうなどの不都合を防止することができる(これに対して、天井に貼られるロックウール吸音天井板は多孔質でその表面が極めて微細な凹凸状に形成されているため、単位面積当たりの重量の大きい薄膜を形成すると、その薄膜が自重により剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうという問題が、従来は存在していた。例えば、従来の合成樹脂エマルジョンを含む塗料をロックウール吸音天井板に塗布する場合は、塗膜の重量が約200〜250g/m2と重くなっていたので、ロックウール吸音天井板に過大な荷重が掛かってしまうという問題があった)。
【0010】
(3)また、本発明においては、前記第1薄膜は、SiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されている。よって、本発明によれば、このような無機物質から成る第1薄膜の上に、直接に(他の上塗り材やバインダーなどを介することなく)、同じ無機質のガラス膜(後述の第2薄膜)を形成することが可能となる(これに対して、一般に有機物質と無機物質とは相性が悪いため、従来の有機物質から成る薄膜の上に直接に無機質であるガラス膜を形成することは困難であった)。よって、本発明によれば、第1薄膜及び第2薄膜が共に無機質であるために第1薄膜の上に第2薄膜を直接に(上塗り材やバインダーを介することなく)形成できるので、荷重による第1薄膜及び第2薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避できるようになる(これに対して、もし、第1薄膜と第2薄膜とが共に無機質でないならば、両者の間に上塗り材やバインダーを介する必要が生じるため、上塗り材やバインダーなどの荷重によって第1薄膜及び第2薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合が生じてしまう)。
【0011】
(4)また、本発明においては、前記第1薄膜の前記エアコンの吹出し口又は前記換気扇の吸込み口からその周囲に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記エアコン又は換気扇からその周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする無機質で硬質の非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)を形成するようにしている。前記ガラス膜(第2薄膜)は、紫外線に強い超耐久性、不燃性、耐透水性、耐汚染性、耐薬品性などを有している。特に、本発明では、前記のガラス膜(第2薄膜)の耐透水性、耐汚染性から、前記領域に前記エアコンの吹出し口からの空気流や前記換気扇の吸込み口への空気流の中に含まれる汚れ成分が付着しても、乾拭きや水拭きで簡単に除去できるようになる。よって、本発明によれば、前記エアコンや換気扇の吹出し口や吸込み口の周囲に汚れが付いた場合でもその汚れを容易に除去することができる状態となるように、ロックウール吸音天井板を保全できるようになる(これに対して、従来は、ロックウール吸音天井板に付着したスス汚れやヤニ汚れなどは、実際上、除去が不可能に近かった)。
【0012】
(5)また、本発明においては、前記第1薄膜の前記エアコンの吹出し口又は前記換気扇の吸込み口からその周囲に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記エアコン又は換気扇からその周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)を形成するようにしている。前記SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)は、前記ロックウール吸音天井板の多孔質の各孔を塞いでしまう(そのため前記ロックウール吸音天井板の吸音性を失わせてしまう)ものであるが、本発明では、前記SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜(第2薄膜)を形成するのは、前記領域に止めている。よって、本発明では、前述のようなSiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)を前記領域の上に形成するようにしても、天井全体のほとんどの部分は多孔質の性質がそのまま保持されるので、天井全体の吸音性はほとんど保持されるようになる。
【0013】
(6)また、本発明においては、前記のSiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)は、その重量が約20〜30g/m2と極めて軽いものである。よって、本発明によれば、前記ロックウール吸音天井板の上に前記第1薄膜を形成し、その上の前記領域にさらに前記第2薄膜を形成した場合でも、前記領域の上の前記第1薄膜及び第2薄膜がその自重によって剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうなどの不都合を防止することができる(これに対して、天井に貼られるロックウール吸音天井板は多孔質でその表面が極めて微細な凹凸状に形成されているため、単位面積当たりの重量の大きい薄膜を形成すると、その薄膜が自重により剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうなどの問題が、従来は存在していた)。
【0014】
(7)さらに、本発明においては、前記のSiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)は、その膜厚が約5〜13μmと極めて薄く形成されている。よって、本発明においては、前記領域の上に前記第2薄膜を形成した場合でも、前述のように前記第2薄膜は透明で且つ極めて薄いため、第2薄膜を形成した前記領域(第2薄膜が露出している部分)と第2薄膜を形成していない前記領域以外の部分(第1薄膜が露出している部分)との境目はほとんど目立つことが無く、天井の全体の美観を損ねることが無い、という効果が得られる。
【0015】
(8)以上のように、(a)本発明によれば、ロックウール吸音天井板の上に「粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されその重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜」を形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、その吸音性をほとんど保持し(前記第1薄膜は粒径が約4〜6nmの微粒子から成るため多孔質の各孔を塞がないから)且つ荷重による第1薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記第1薄膜は極めて軽量であるため)ながら、第1薄膜(塗膜)による表面補強(保護性)の機能や美観を付与することができる。また、(b)本発明によれば、前記第1薄膜の上のエアコン(又はその吹出し口)又は換気扇(又はその吸込み口)の周囲の領域に、「SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜でありその重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜」を直接に(前記第1薄膜との間に上塗り材やバインダーなどを介することなく)形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、荷重による第1及び第2薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記第2薄膜は極めて軽量であるため、且つ、上記の上塗り材やバインダーなどの荷重がプラスされないため)且つ天井全体の美観を損ねるなどの不都合を回避し(前記第2薄膜は極めて薄く透明なので前記第2薄膜の部分がほとんど目立たないため)ながら、その後のエアコンの吹出し口又は換気扇の吸込み口の周辺に生じる汚れに対して拭き取りなどで容易に対処できるような状態にする(前記第2薄膜はガラス膜であるため)という機能を付与することができる。
(9)また、本発明において、前記の汚れを除去する工程を、前記ロックウール吸音板の表面に向けて、約1mm以下の粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させる工程を含むようにしたときは、前記ロックウール吸音天井板の吸音性の元となる多孔質性を損なうことなく(多孔質の各孔を潰すことなく)、また、その表面の意匠性を損なうことなく、表面の汚れを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例1について述べるような形態である。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例1による、天井埋め込み型のエアコン(その側面側に天井に対して略平行若しくは斜め下方向に冷風又は温風の吹出し口が設けられているもの)が設置されている場合における天井のロックウール吸音天井板の保全工法を、図面に基づいて説明する。
【0018】
前述のようなロックウール吸音天井板の保全を行う場合は、まず、前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する必要がある。ただ、ロックウール吸音天井板は多孔質でありその表面が極めて微細な凹凸状になっているため、掃除機や水拭きなどでは必要以上に表面部分(所定のデザインが施されている)を剥離させて美観を損ねてしまう場合が少なくない。そこで、本実施例1では、図1に示すようなショットガン及び集塵装置を使用して、ロックウール吸音天井板の汚れた表層部分のみを、美観をできるだけ損ねないように、薄く剥離・除去するようにしている。すなわち、図1(a)において、51は図示しない粒状のメディアを天井表層に衝突させるためのショットガンである。前記メディアは、平均粒径が約1mm以下(例えば平均粒径0.2mm)でモース硬度2.5以下のもので、例えば、アルミナ(例えば、主成分をボーキサイトとする平均粒径40μmのアルミナ。すなわち、例えば、主としてボーキサイトから成るアルミナ原料を電気炉で溶解し、シリカ、酸化鉄など不純物を還元除去して、適当量のチタニアによって靭性を付加した褐色溶融アルミナ質の研磨剤)、重曹、コーンスターチ、ナイロンなどの素材で形成されたものである(環境面からは再利用が可能な樹脂系素材が望ましい)。前記ショットガン51によるショットの圧力は、0.15〜0.2気圧が望ましい。また、前記ショットガン51の上部のノズル51aから天井を構成するロックウール吸音天井板1までの距離は、約200〜300mm程度が望ましい(このくらいの距離であれば、ロックウール吸音天井板1の表面の意匠を損なうことなく表層の汚れを剥離することができる)。図1(a)において、53は前記ショットガン51のノズル51aとロックウール吸音天井板1との距離を一定に保つためのガイドローラー、54は前記ガイドローラー53の位置を調節するためのガイドローラー調整ボルトである。このショットガン51からメディアのショットを行うと、メディアが飛散する可能性があるので、本実施例1では、図1(a)に示すように、御椀型の塩化ビニル製の集塵カバー(透明)55を備えるようにしている。この集塵カバー55に集められたメディアは、集塵ホース56を介して回収される。なお、図1(a)おいて、57は前記集塵カバー55とロックウール吸音天井板1との間に形成される空気孔である。
【0019】
図1(b)は、前記集塵ホース56の下方に配置された集塵装置を示す概略図である。ゴミや剥離屑(天井の汚れ部分)やメディア(図示せず)が集塵モータ56aの吸引力により集塵ホース56の中に引き込まれた後、ゴミや剥離屑は専用メッシュ57を通過して集塵袋58(回収用ファスナー58a付き)の中に集められる。また、メディアは前記専用メッシュ57を通過しないで回収袋59の中に、再利用可能なように集められる。なお、図1(b)において、60は移動用キャスターである。以上で、本実施例1における天井の汚れ除去工程の説明を終了する。前述のように、本実施例1では、前記天井の汚れ除去のために、微小な粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させるようにしているので、前記ロックウール吸音天井板1の吸音性の元となる多孔質性を損なうことなく(多孔質の各孔を潰すことなく)、また、その表面の意匠性を損なうことなく、表面の汚れを除去することができる
【0020】
上記の汚れ除去工程が終了すると、次に、前記汚れが除去されたロックウール吸音板1の表面の略全体(前記天井埋め込み型エアコンなどを除く全体)に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む水性塗料を塗布し、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような塗膜を、形成する。本実施例1では、株式会社日興(東京都杉並区上荻1−10−5ニュースタインビル3F 電話番号03−3393−7641)が製造している「ナノコート」(商品名)を上記水性塗料として使用して、ローラーにて、1m2当たり約50g塗布し、乾燥させることにより、前記天井の略全体に所望の塗膜を形成する。
【0021】
なお、ここで、上記商品「ナノコート」について説明する。ナノコートに関する公開資料としては、例えば、株式会社日興が作成した、「テクノマート東京2003」への出展時(案件番号:2002TK−137NKO)の資料(タイトル:「水蒸気を通し、水は通さない水性無機塗料。平均粒径5nmのナノコート」)、製品パンフレットなどがある。これらによると、ナノコートは、粒径4〜6mmのSiO2(二酸化珪素。シリカ)を主成分とする微粒子と無機顔料とから成る水性無機塗料(有機溶剤を含まない)である。このナノコートの塗布により得られる塗膜(以下では、この塗膜も「ナノコート」と呼ぶ)は、無機質であることから耐水性、不燃性などの特性を有しており、また、基材への付着性、速乾性に優れている。また、ナノコートにより形成される塗膜は、その重量が約30〜50g/m2であるような極めて軽量の塗膜である(よって、従来の塗装時に生じていた、塗膜の重量が大きいために塗膜がロックウール吸音天井板から剥がれたりロックウール吸音天井板が撓んでしまうなどの不都合を回避できる)。
【0022】
上記の天井の略全体へのナノコートによる塗膜の形成が終了した後は、前記塗膜(ナノコート)の前記エアコンから周囲に向かって約20〜40cm(望ましくは約30cm)の領域の上に、SiO2(二酸化珪素。シリカ)を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような塗膜(ナノコート)を、形成する。
【0023】
図2A,2Bは、前記ガラス膜を形成する領域を説明するための図である。本実施例1では、図2A,2Bにおいて、1は天井の内装面を構成するロックウール吸音天井板(この段階では、前記塗布工程により、ナノコートの塗膜が形成されている)、2はエアコン(天井埋め込み型)、2aはエアコン2の吹出し口、3は前記ナノコートの塗膜の上に本工程のガラス膜を形成する領域を示す部分(図2Bの斜線を付した部分)、である。この領域3は、前記エアコン2の外周からその周囲へ約30cm(約20〜40cm)の距離だけ延びる領域である。ここで、前記領域を画する前記エアコン2からの距離を約30cmとしたのは、エアコン2の吹出し口2aの周囲が汚れるのは大体30cm程度(約20〜40cm)の範囲の領域に止まっていること、一般のロックウール吸音天井板のパネルの一辺の長さは30cm程度であること、などの理由からである。
【0024】
前記領域3(図2A,2B参照)にガラス膜を形成するに際して、本実施例1では、株式会社日興(東京都杉並区上荻1−10−5ニュースタインビル3F 電話番号03−3393−7641)が製造している「ヒートレスグラス」(商品名)の「GS−600−1」(型番)を上記無機ガラスコーティング材として使用する。そして、この「ヒートレスグラス GS−600−1」を、ローラーにて、前記領域の上に、例えば1m2当たり約20〜30g塗布することにより、前記領域3にガラス膜を形成する。
【0025】
なお、ここで、上記商品「ヒートレスグラス」について説明する。ヒートレスグラスに関する公開資料としては、例えば、株式会社日興が製作した、「テクノマート東京2003」への出展時(案件番号:2002TK−140NKO)の資料(タイトル:塗布すれば、ガラスになるコーティング剤「ヒートレスグラス」)、製品パンフレットなどがある。これらによると、ヒートレスグラスは、従来は不可能とされていた常温でガラス膜を形成することを可能にする「常温ガラスコーティング剤」である。ヒートレスグラスは、主成分は変性シリコーンで、水蒸気と触媒により、ガラス化する。ヒートレスグラスは、変性シリコーンを主成分とし、反応触媒の添加によって、常温または低温加熱条件下において、加水分解/脱水縮合反応が起こり、非晶質のセラミック膜(ガラス膜)を形成する。ヒートレスグラスのGS−600は、指蝕乾燥に2〜3時間、使用可能時間(硬度H〜2H)は20時間、9Hの完全硬化に60日を要する。ヒートレスグラスのGO−100SXは、指蝕乾燥に15〜20分、硬度Hに13時間、完全硬化(硬度3〜4H)に3日間を要する。
【0026】
また、株式会社日興が提供している「HEATLESS GLASS GS−600シリーズ」を紹介するWebページ(http://www.nikko−gp.co.jp/gs600.html)によると、ヒートレスグラス GS−600は、1液または2液のシリカ溶液で、常温施工により各種基材に、硬質の非晶質のガラス膜を形成する「常温ガラスコーティング材」である。ヒートレスグラスにより形成される被膜(以下ではこの塗膜も「ヒートレスグラス」と呼ぶ)は、紫外線に強く、超耐久性を発揮すると共に、不燃性、耐透水性、耐薬品性、耐汚染性などの優れた効果を有する。次に、上記Webページに掲載されている、ヒートレスグラスの種類と特性を示す表を、引用しておく。
【表1】
【0027】
また、ヒートレスグラスの塗膜は、その重量が約20〜30g/m2というように極めて軽量の塗膜である(よって、従来の塗装時に生じていた、塗膜の重量が大きいために塗膜がロックウール吸音天井板から剥がれたりロックウール吸音天井板が撓んでしまうなどの不都合を防止できるようになる)。また、ヒートレスグラスの塗膜は、その膜厚が約5〜13μmというように極めて薄い(しかも透明である)ので、前記ナノコートの塗膜の上の一部(前記エアコンの周囲約30cmの領域3)にこのヒートレスグラスの塗膜を形成した場合でも、このヒートレスグラスの塗膜はほとんど目立たないので、天井の全体の美観を損ねることがないというメリットが得られる。
【0028】
次に、本発明者は、市販のロックウール吸音天井板に本実施例1による保全工法を適用した場合のロックウール吸音天井板の吸音率に及ぼす影響を測定するための実験を行った。本実験では、ロックウール吸音天井板の表面への前記ナノコートの塗布が前記ロックウール吸音天井板の吸音性能に及ぼす影響を測定した。なお、本実施例1では、前記ナノコートの塗膜の一部(前記領域3)の上にさらに前記ヒートレスグラスを塗布している。しかし、本実施例1では、前記のヒートレスグラスの塗布は、エアコンの周囲の領域3だけに止めているため、これが天井全体の吸音性能に与える影響は僅かであることは明らかであるので、前記ヒートレスグラスの塗布が吸音性能に与える影響の測定は省略した。以下に、前記のロックウール吸音天井板の表面への前記ナノコートの塗布が前記ロックウール吸音天井板の吸音性能に及ぼす影響の測定結果の詳細を記載する。
【0029】
1.測定概要
(1)測定日時 平成18年8月10日
(2)測定場所 九州大学芸術工学部 残響室(室容積197.23m3/表面積257.23m2)
(3)測定者(本発明者との秘密保持契約を締結した上で本発明者から本測定を委託された者) 株式会社四元音響設計事務所 勝瀬
(4)測定項目 残響室法吸音率(125Hz〜4000Hzの1/3オクターブバンド毎)
(5)試験体
・松下電工(株)準不燃天井材 調湿彫り天 RJC−219
・松下電工(株)準不燃天井材 調湿彫り天 RJC−219(ナノコート塗布)
【0030】
2.測定方法
残響室法吸音率の測定は、「ISO354:Acoustics−Measurement of sound absorption in a reverberation room」、ならびに「JIS1409:残響室法吸音率の測定方法」に準拠して行った。
【0031】
「ISO3382:Acoustics−Measurement of the reverberation time of rooms with reference to other acoustical parameters.」をもとにして測定した残響時間をもとに、次式により吸音率を計算した。
【数1】
【0032】
残響時間は以下の要領で測定した。音源信号(時間伸張パルス:TSP 信号)をスピーカから再生し、このとき観測される時間応答波形をマイクロホンを介してノート型PCに取り込んだ。ノート型PCにてTSP逆フィルター処理、帯域フィルター処理、時間逆積分処理を行い、音圧レベル減衰波形を得た後、周波数帯域毎に減衰波形を最小二乗法によって直線近似して残響時間を求めた。本実験に使用した測定システムのブロック図を図3Aに示す。
【0033】
3.試料について
残響室の形状、試料の位置及びマイクロホンの位置を図3Bに示す。マイクロホンの高さは1,450mmである。また、試料の寸法と残響室への試料の設置方法とを図3Cに示す。
【0034】
4.測定結果
ナノコートを塗布していない試料の残響室法吸音率測定結果を図3Dに、ナノコートを塗布した試料の残響室法吸音率測定結果を図3Eに、ナノコートの有無による吸音率の比較結果を図3Fに示す。
【0035】
5.本実験結果のまとめ
残響室法吸音率測定結果のナノコート未使用の天井吸音板とナノコート塗布後の天井吸音板との比較において、160Hzにあるピークは天井吸音板の板構造による吸音であり、塗布による変化は見られない。吸音材としての吸音性能を示す500Hz以上の周波数域においては、ナノコートを塗布することにより吸音率は約50%低下していると言える。
【0036】
以上より、本実施例1によれば、(a)ロックウール吸音天井板の上に「粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されその重量が約30〜50g/m2であるようなナノコート(塗膜)」を形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、その吸音性をほとんど保持し(前記ナノコートは粒径が約4〜6nmの微粒子から成るので多孔質の各孔を塞がないため)、且つ荷重による塗膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記ナノコートは極めて軽量であるため)ながら、ナノコートによる表面補強(保護性)の機能や美観を付与することができる。
【0037】
また、本実施例1によれば、(b)前記ナノコートの上のエアコン2の吹出し口2aの周囲の前記領域3に、「SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜でありその重量が約20〜30g/m2でその膜厚が約5〜13μmであるようなヒートレスグラス(塗膜)」を直接に(前記ナノコートとの間に上塗り材やバインダーなどを介することなく)形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、荷重によるナノコート及びヒートレスグラスの天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記ヒートレスグラスは極めて軽量であるため、且つ、上記の上塗り材やバインダーなどの荷重が存在しないため)、且つ天井全体の美観を損ねるなどの不都合を回避し(前記ヒートレスグラスは極めて薄く透明なので前記ヒートレスグラスの部分が目立たないため)ながら、その後のエアコン2の吹出し口2aの周辺に生じる汚れに対して拭き取りなどで容易に対処できるような状態にする(前記ヒートレスグラスはガラス膜であるため)という機能を付与することができる。
【実施例2】
【0038】
次に、図4は本発明の実施例2によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。以下では、本実施例2について、前記実施例1と対比しながら前記実施例1と異なる点を中心に説明する。前記実施例1では、ヒートレスグラスの塗膜を、ロックウール吸音天井板1のナノコートの上のエアコン2の周囲約30cmの領域3に形成するようにしていた(図2A,2B参照)。これに対して、本実施例2では、図4に示すように、ヒートレスグラスの塗膜を、ロックウール吸音天井板1のナノコートの上のエアコン2の各吹出し口2a,2b,2c,2dと対向する領域であって前記各吹出し口2a,2b,2c,2dからそれぞれ吹出し方向に向かって約30cmの範囲の各領域3a,3b,3c,3dに、形成するようにしている。一般に、エアコン2の各吹出し口から吹出す空気流(汚れ成分を含んでいる)により天井板が汚れるのはエアコン2の各吹出し口と対向する部分がほとんどであるから、本実施例2のように、前記各領域3a,3b,3c,3dのみにヒートレスグラスの塗膜を形成しておけば、その後、エアコン2から吹出す空気流による天井板の汚れは容易に拭き取りなどの処理ができるような状態となる。よって、本実施例2によっても、前記実施例1とほぼ同様に「ロックウール吸音天井板1に対して、その吸音性の阻害や荷重による剥がれや撓みなどの不都合を回避しながら表面補強(保護性)の機能や美観を付与し、且つ、エアコン12の吹出し口12aからの空気流により生じる汚れに容易に対処できるような状態にする機能を付与する」という効果を得られるようになる。本実施例2に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例1と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【実施例3】
【0039】
次に、図5は本発明の実施例3によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。本実施例3が前記実施例1,2と異なる点は、前記実施例1,2に関する図1のエアコン2は天井埋め込みタイプであるが、本実施例3に関する図5のエアコン12は天井吊り下げタイプであるという点である。本実施例3のように、ロックウール吸音天井板1に固定されるエアコン12が天井吊り下げタイプのものである場合でも、その吹出し口12aからの空気流(汚れ成分を含む)によりその周囲のロックウール吸音天井板1の表面が汚れてしまうことは同様である。よって、このような天井吊り下げタイプのエアコン12が天井に固定されている場合でも、前記実施例1,2と同様に、天井全体を構成する前記ロックウール吸音天井板1の上にナノコートを形成し、その後、このナノコートの上の前記エアコン12の周囲の領域13にヒートレスグラスを形成することにより、前記実施例1,2と同様の効果を得ることができる。本実施例3に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例1,2と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【実施例4】
【0040】
次に、図6は本発明の実施例4によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。以下では、本実施例4について、前記実施例1−3と対比しながら前記実施例1−3と異なる点を中心に説明する。本実施例4が前記実施例1−3と異なる点は、前記実施例1−3がエアコン2,12が固定されたロックウール吸音天井板1の保全工法に関するものであるのに対して、本実施例4は、図6に示すような換気扇22が固定されたロックウール吸音天井板1の保全工法に関するものであるという点である。
【0041】
すなわち、本実施例4の保全工法の概要を図6を参照して説明すると次のとおりである。まず、換気扇22が配置された天井を構成するロックウール吸音天井板1の表面の汚れを除去する。次に、前記汚れが除去されたロックウール吸音板1(天井の全体)の表面に、前記ナノコート(株式会社日興製)の無機塗料を塗布することにより、「粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されその重量が約30〜50g/m2であるような塗膜(ナノコート)」を形成する。次に、前記ナノコートの上の前記換気扇22の周囲の約20〜40cmの領域、例えば約30cmの領域23(図6において斜線を付した部分)の上に、前記ヒートレスグラス(株式会社日興製)の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、「SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるようなガラス膜(ヒートレスグラス)」を形成する。なお、このときの前記ヒートレスグラスの形成に際しては、前記領域23に代えて、前記換気扇22の吸込み口22aからその吸込み方向の反対方向に向かって約20〜40cmの各領域、例えば約30cmの各領域(実施例2に関して説明した図4の符号3a,3b,3c,3dで示す各領域を参照)に、前記ヒートレスグラス(株式会社日興製)の無機ガラスコーティング材を塗布するようにしてもよい。
【0042】
以上のように、本実施例4は、ロックウール吸音天井板1にエアコン2,12ではなく換気扇22が固定されている点で前記実施例1−3と異なるが、それ以外は前記実施例1−3とほぼ同様である。よって、本実施例4によっても、前記実施例1−3におけるとほぼ同様に、「ロックウール吸音天井板1に対して、その吸音性の阻害や荷重による剥がれや撓みなどの不都合を回避しながら表面補強(保護性)の機能や美観を付与し、且つ、換気扇22の吸込み口22aへの空気流により生じる汚れに容易に対処できるような状態にする機能を付与する」という効果を得られるようになる。本実施例4に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例1−3と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【実施例5】
【0043】
次に、図7は本発明の実施例5によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。本実施例5が前記実施例4と異なる点は、前記実施例4に関する図6の換気扇22は4個の吸込み口22aがそれぞれ4つの方向に向けて配置されているタイプのものであるが、本実施例5に関する図7の換気扇32は互いに半径の異なる3個の略リング状(略四角のリング状)の吸込み口32aが略同心円状に配置されるように形成されたものであるという点である。本実施例5のように、換気扇32が互いに半径の異なる3個の略リング状(略四角のリング状)が略同心円状に配置される吸込み口32aを有するようなタイプである場合でも、前記の実施例4のような計4個の吸込み口22aを有する換気扇22の場合と比較して、それが固定されたロックウール吸音天井板1の保全工法の内容(例えば、ロックウール吸音天井板1のナノコート上の前記換気扇32の周囲の約30cmの範囲内の領域33に、又は、前記換気扇32の吸込み口の周囲の約30cmの範囲内の領域に、前記ヒートレスグラスが形成されること)やそれによる効果は基本的に異なるものではない。よって、本実施例5によっても、前記実施例4におけるとほぼ同様の作用効果を得ることができる。本実施例5に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例4と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【0044】
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明及び本発明を構成する各構成要件は、それぞれ、前記の各実施例及び前記の各実施例を構成する各要素として述べたものに限定されるものではなく、様々な修正及び変更が可能である。本発明は、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にある修正及び変形を含むものである。例えば、前記各実施例3,4,5に係る図5,6,7では、いずれもガラス膜をエアコン12又は換気扇22,32からその周囲の全方向に向かって所定距離内の所定領域13,23,33に形成するようにしているが、本発明では、図5,6,7において、ガラス膜をエアコン12の吹出し口12aから吹出し方向に向かって所定距離内の所定領域、又は換気扇22,32の吸込み口22a,32aの吸込み方向と反対方向に向かって所定距離内の所定領域に形成する(前記実施例2に係る図4の場合と同様)ようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1におけるロックウール吸音天井板の表面の汚れの除去工程を説明するための図。
【図2A】本実施例1によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【図2B】本実施例1によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための平面図。
【図3A】本実施例1のナノコートを形成した場合のロックウール吸音天井板の吸音性への影響を測定するために使用した残響時間測定システムを説明するためのブロック図。
【図3B】本実施例1のナノコートを形成した場合のロックウール吸音天井板の吸音性への影響を測定する実験において使用した試料の形状・位置、及びマイクロホンの位置を示す図。
【図3C】本実施例1のナノコートを形成した場合のロックウール吸音天井板の吸音性への影響を測定する実験において使用した試料の寸法、及び試料の設置方法を示す図。
【図3D】本実施例1のナノコートを形成していないロックウール吸音天井板の残響室法吸音率測定結果を示す図。
【図3E】本実施例1のナノコートを形成したロックウール吸音天井板の残響室法吸音率測定結果を示す図。
【図3F】本実施例1のナノコートをロックウール吸音天井板に形成した場合と形成していない場合との測定された吸音率の比較結果を示す図。
【図4】本発明の実施例2によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための平面図。
【図5】本発明の実施例3によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【図6】本発明の実施例4によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【図7】本発明の実施例5によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0046】
1 ロックウール吸音天井板
2,12 エアコン
2a,2b,2c,2d,12a 吹出し口
3,3a,3b,3c,3d,13,23,33 領域
22,32 換気扇
22a,32a 吸込み口
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井の少なくとも室内側の面を構成する多孔質板であるロックウール吸音板の保全工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、天井の内装板として、多孔質で高い吸音性を有するロックウール吸音板が多く使用されている(例えば特許文献1参照)。このようなロックウール吸音板の吸音性は、多孔質で内部が複雑な断面形状をした連続気泡であるため、その中に音波が入射して音波が伝搬して行く過程で気泡壁面との粘性摩擦などにより音圧が減少し音波エネルギーが材料中に吸収されることにより生じる、とされている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2803572号公報
【特許文献2】特許第3158808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前述のようなロックウール吸音天井板は、多孔質であることから高い吸音性を発揮できる反面、多孔質であることから表面が極めて微細な凹凸状に形成されているために汚れの除去が困難であり、また上塗り塗装をすると吸音性が失われてしまうという問題があった。特に、天井にエアコンディショナー(以下、エアコン)や換気扇を設置している場合は、その吹出し口や吸込み口の周辺が空気流に含まれる汚れ成分により汚れてしまうことが多く、そして、そのような汚れの除去は極めて困難であり、可能な場合でもその汚れの除去に多大の手間やコストを要してしまう、という問題があった。
【0004】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目して為されたものであって、ロックウール吸音天井板の吸音性をそのまま保持することができ、長期間に渡って美観を保つことができるように、且つ、エアコンや換気扇の吹出し口や吸込み口の周囲に汚れが付いた場合でもその汚れを容易に除去することができるような状態に、ロックウール吸音天井板を保全するための工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により形成されており、前記天井にはエアコンディショナーが配置されており、前記エアコンディショナーには天井に対して略平行若しくは斜め下方向に冷風若しくは温風が吹出される吹出し口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面の略全体に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記エアコンディショナーの吹出し口からその吹出し方向に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域、又は前記第1薄膜の前記エアコンディショナーから周囲に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである(前記ガラスコーティング材は、塗布対象となる基材の材質により、その基材への吸込み具合が異なるので、ガラス膜の重量が同じ場合でも膜厚は異なりうる)。
【0006】
また、本発明は、天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により形成されており、前記天井には換気扇が配置されており、前記換気扇には天井に対して略平行若しくは斜め下方向に吸込み口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記換気扇の吸込み口からその吸込み方向の反対方向に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域、又は前記第1薄膜の前記換気扇から周囲に向かって約20〜60cm(より望ましくは約20〜40cm)の領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである(前記ガラスコーティング材は、塗布対象となる基材の材質により、その基材への吸込み具合が異なるので、ガラス膜の重量が同じ場合でも膜厚は異なりうる)。
【0007】
また、本発明においては、前記の汚れを除去する工程は、前記ロックウール吸音板の表面に向けて、約1mm以下の粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させ工程を含むものである、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明においては、ロックウール吸音天井板の上に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成される第1薄膜を形成するようにしている。一般にロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔は、微小なものではその内径がμmレベルのものなど、様々であるが、そのほとんどは、その内径が少なくとも約6nm以上である。よって、本発明において、前記第1薄膜を前記ロックウール吸音天井板上に形成するようにした場合でも、前記第1薄膜を構成する微粒子が前記ロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔(吸音性を発揮するために必要な部分)を潰してしまうことはないので、前記ロックウール吸音天井板の吸音性はほとんど保持できるようになる(これに対して、従来の塗料を使用する場合は、塗料を構成する粒子の粒径が前記ロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔の内径よりも大きいため、塗料に含まれる各粒子が前記ロックウール吸音天井板の多孔質の微細な各孔を潰してしまい、前記ロックウール吸音天井板の吸音性を失わせる結果になってしまっていた)。
【0009】
(2)また、本発明においては、前記第1薄膜は、その重量が約30〜50g/m2と極めて軽いものである。よって、本発明によれば、前記ロックウール吸音天井板の上に前記第1薄膜を形成した場合でも、その自重によって前記第1薄膜が剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうなどの不都合を防止することができる(これに対して、天井に貼られるロックウール吸音天井板は多孔質でその表面が極めて微細な凹凸状に形成されているため、単位面積当たりの重量の大きい薄膜を形成すると、その薄膜が自重により剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうという問題が、従来は存在していた。例えば、従来の合成樹脂エマルジョンを含む塗料をロックウール吸音天井板に塗布する場合は、塗膜の重量が約200〜250g/m2と重くなっていたので、ロックウール吸音天井板に過大な荷重が掛かってしまうという問題があった)。
【0010】
(3)また、本発明においては、前記第1薄膜は、SiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されている。よって、本発明によれば、このような無機物質から成る第1薄膜の上に、直接に(他の上塗り材やバインダーなどを介することなく)、同じ無機質のガラス膜(後述の第2薄膜)を形成することが可能となる(これに対して、一般に有機物質と無機物質とは相性が悪いため、従来の有機物質から成る薄膜の上に直接に無機質であるガラス膜を形成することは困難であった)。よって、本発明によれば、第1薄膜及び第2薄膜が共に無機質であるために第1薄膜の上に第2薄膜を直接に(上塗り材やバインダーを介することなく)形成できるので、荷重による第1薄膜及び第2薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避できるようになる(これに対して、もし、第1薄膜と第2薄膜とが共に無機質でないならば、両者の間に上塗り材やバインダーを介する必要が生じるため、上塗り材やバインダーなどの荷重によって第1薄膜及び第2薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合が生じてしまう)。
【0011】
(4)また、本発明においては、前記第1薄膜の前記エアコンの吹出し口又は前記換気扇の吸込み口からその周囲に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記エアコン又は換気扇からその周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする無機質で硬質の非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)を形成するようにしている。前記ガラス膜(第2薄膜)は、紫外線に強い超耐久性、不燃性、耐透水性、耐汚染性、耐薬品性などを有している。特に、本発明では、前記のガラス膜(第2薄膜)の耐透水性、耐汚染性から、前記領域に前記エアコンの吹出し口からの空気流や前記換気扇の吸込み口への空気流の中に含まれる汚れ成分が付着しても、乾拭きや水拭きで簡単に除去できるようになる。よって、本発明によれば、前記エアコンや換気扇の吹出し口や吸込み口の周囲に汚れが付いた場合でもその汚れを容易に除去することができる状態となるように、ロックウール吸音天井板を保全できるようになる(これに対して、従来は、ロックウール吸音天井板に付着したスス汚れやヤニ汚れなどは、実際上、除去が不可能に近かった)。
【0012】
(5)また、本発明においては、前記第1薄膜の前記エアコンの吹出し口又は前記換気扇の吸込み口からその周囲に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記エアコン又は換気扇からその周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)を形成するようにしている。前記SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)は、前記ロックウール吸音天井板の多孔質の各孔を塞いでしまう(そのため前記ロックウール吸音天井板の吸音性を失わせてしまう)ものであるが、本発明では、前記SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜(第2薄膜)を形成するのは、前記領域に止めている。よって、本発明では、前述のようなSiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)を前記領域の上に形成するようにしても、天井全体のほとんどの部分は多孔質の性質がそのまま保持されるので、天井全体の吸音性はほとんど保持されるようになる。
【0013】
(6)また、本発明においては、前記のSiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)は、その重量が約20〜30g/m2と極めて軽いものである。よって、本発明によれば、前記ロックウール吸音天井板の上に前記第1薄膜を形成し、その上の前記領域にさらに前記第2薄膜を形成した場合でも、前記領域の上の前記第1薄膜及び第2薄膜がその自重によって剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうなどの不都合を防止することができる(これに対して、天井に貼られるロックウール吸音天井板は多孔質でその表面が極めて微細な凹凸状に形成されているため、単位面積当たりの重量の大きい薄膜を形成すると、その薄膜が自重により剥がれてしまうとか天井板が撓んでしまうなどの問題が、従来は存在していた)。
【0014】
(7)さらに、本発明においては、前記のSiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜(第2薄膜)は、その膜厚が約5〜13μmと極めて薄く形成されている。よって、本発明においては、前記領域の上に前記第2薄膜を形成した場合でも、前述のように前記第2薄膜は透明で且つ極めて薄いため、第2薄膜を形成した前記領域(第2薄膜が露出している部分)と第2薄膜を形成していない前記領域以外の部分(第1薄膜が露出している部分)との境目はほとんど目立つことが無く、天井の全体の美観を損ねることが無い、という効果が得られる。
【0015】
(8)以上のように、(a)本発明によれば、ロックウール吸音天井板の上に「粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されその重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜」を形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、その吸音性をほとんど保持し(前記第1薄膜は粒径が約4〜6nmの微粒子から成るため多孔質の各孔を塞がないから)且つ荷重による第1薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記第1薄膜は極めて軽量であるため)ながら、第1薄膜(塗膜)による表面補強(保護性)の機能や美観を付与することができる。また、(b)本発明によれば、前記第1薄膜の上のエアコン(又はその吹出し口)又は換気扇(又はその吸込み口)の周囲の領域に、「SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜でありその重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜」を直接に(前記第1薄膜との間に上塗り材やバインダーなどを介することなく)形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、荷重による第1及び第2薄膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記第2薄膜は極めて軽量であるため、且つ、上記の上塗り材やバインダーなどの荷重がプラスされないため)且つ天井全体の美観を損ねるなどの不都合を回避し(前記第2薄膜は極めて薄く透明なので前記第2薄膜の部分がほとんど目立たないため)ながら、その後のエアコンの吹出し口又は換気扇の吸込み口の周辺に生じる汚れに対して拭き取りなどで容易に対処できるような状態にする(前記第2薄膜はガラス膜であるため)という機能を付与することができる。
(9)また、本発明において、前記の汚れを除去する工程を、前記ロックウール吸音板の表面に向けて、約1mm以下の粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させる工程を含むようにしたときは、前記ロックウール吸音天井板の吸音性の元となる多孔質性を損なうことなく(多孔質の各孔を潰すことなく)、また、その表面の意匠性を損なうことなく、表面の汚れを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例1について述べるような形態である。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例1による、天井埋め込み型のエアコン(その側面側に天井に対して略平行若しくは斜め下方向に冷風又は温風の吹出し口が設けられているもの)が設置されている場合における天井のロックウール吸音天井板の保全工法を、図面に基づいて説明する。
【0018】
前述のようなロックウール吸音天井板の保全を行う場合は、まず、前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する必要がある。ただ、ロックウール吸音天井板は多孔質でありその表面が極めて微細な凹凸状になっているため、掃除機や水拭きなどでは必要以上に表面部分(所定のデザインが施されている)を剥離させて美観を損ねてしまう場合が少なくない。そこで、本実施例1では、図1に示すようなショットガン及び集塵装置を使用して、ロックウール吸音天井板の汚れた表層部分のみを、美観をできるだけ損ねないように、薄く剥離・除去するようにしている。すなわち、図1(a)において、51は図示しない粒状のメディアを天井表層に衝突させるためのショットガンである。前記メディアは、平均粒径が約1mm以下(例えば平均粒径0.2mm)でモース硬度2.5以下のもので、例えば、アルミナ(例えば、主成分をボーキサイトとする平均粒径40μmのアルミナ。すなわち、例えば、主としてボーキサイトから成るアルミナ原料を電気炉で溶解し、シリカ、酸化鉄など不純物を還元除去して、適当量のチタニアによって靭性を付加した褐色溶融アルミナ質の研磨剤)、重曹、コーンスターチ、ナイロンなどの素材で形成されたものである(環境面からは再利用が可能な樹脂系素材が望ましい)。前記ショットガン51によるショットの圧力は、0.15〜0.2気圧が望ましい。また、前記ショットガン51の上部のノズル51aから天井を構成するロックウール吸音天井板1までの距離は、約200〜300mm程度が望ましい(このくらいの距離であれば、ロックウール吸音天井板1の表面の意匠を損なうことなく表層の汚れを剥離することができる)。図1(a)において、53は前記ショットガン51のノズル51aとロックウール吸音天井板1との距離を一定に保つためのガイドローラー、54は前記ガイドローラー53の位置を調節するためのガイドローラー調整ボルトである。このショットガン51からメディアのショットを行うと、メディアが飛散する可能性があるので、本実施例1では、図1(a)に示すように、御椀型の塩化ビニル製の集塵カバー(透明)55を備えるようにしている。この集塵カバー55に集められたメディアは、集塵ホース56を介して回収される。なお、図1(a)おいて、57は前記集塵カバー55とロックウール吸音天井板1との間に形成される空気孔である。
【0019】
図1(b)は、前記集塵ホース56の下方に配置された集塵装置を示す概略図である。ゴミや剥離屑(天井の汚れ部分)やメディア(図示せず)が集塵モータ56aの吸引力により集塵ホース56の中に引き込まれた後、ゴミや剥離屑は専用メッシュ57を通過して集塵袋58(回収用ファスナー58a付き)の中に集められる。また、メディアは前記専用メッシュ57を通過しないで回収袋59の中に、再利用可能なように集められる。なお、図1(b)において、60は移動用キャスターである。以上で、本実施例1における天井の汚れ除去工程の説明を終了する。前述のように、本実施例1では、前記天井の汚れ除去のために、微小な粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させるようにしているので、前記ロックウール吸音天井板1の吸音性の元となる多孔質性を損なうことなく(多孔質の各孔を潰すことなく)、また、その表面の意匠性を損なうことなく、表面の汚れを除去することができる
【0020】
上記の汚れ除去工程が終了すると、次に、前記汚れが除去されたロックウール吸音板1の表面の略全体(前記天井埋め込み型エアコンなどを除く全体)に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む水性塗料を塗布し、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような塗膜を、形成する。本実施例1では、株式会社日興(東京都杉並区上荻1−10−5ニュースタインビル3F 電話番号03−3393−7641)が製造している「ナノコート」(商品名)を上記水性塗料として使用して、ローラーにて、1m2当たり約50g塗布し、乾燥させることにより、前記天井の略全体に所望の塗膜を形成する。
【0021】
なお、ここで、上記商品「ナノコート」について説明する。ナノコートに関する公開資料としては、例えば、株式会社日興が作成した、「テクノマート東京2003」への出展時(案件番号:2002TK−137NKO)の資料(タイトル:「水蒸気を通し、水は通さない水性無機塗料。平均粒径5nmのナノコート」)、製品パンフレットなどがある。これらによると、ナノコートは、粒径4〜6mmのSiO2(二酸化珪素。シリカ)を主成分とする微粒子と無機顔料とから成る水性無機塗料(有機溶剤を含まない)である。このナノコートの塗布により得られる塗膜(以下では、この塗膜も「ナノコート」と呼ぶ)は、無機質であることから耐水性、不燃性などの特性を有しており、また、基材への付着性、速乾性に優れている。また、ナノコートにより形成される塗膜は、その重量が約30〜50g/m2であるような極めて軽量の塗膜である(よって、従来の塗装時に生じていた、塗膜の重量が大きいために塗膜がロックウール吸音天井板から剥がれたりロックウール吸音天井板が撓んでしまうなどの不都合を回避できる)。
【0022】
上記の天井の略全体へのナノコートによる塗膜の形成が終了した後は、前記塗膜(ナノコート)の前記エアコンから周囲に向かって約20〜40cm(望ましくは約30cm)の領域の上に、SiO2(二酸化珪素。シリカ)を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような塗膜(ナノコート)を、形成する。
【0023】
図2A,2Bは、前記ガラス膜を形成する領域を説明するための図である。本実施例1では、図2A,2Bにおいて、1は天井の内装面を構成するロックウール吸音天井板(この段階では、前記塗布工程により、ナノコートの塗膜が形成されている)、2はエアコン(天井埋め込み型)、2aはエアコン2の吹出し口、3は前記ナノコートの塗膜の上に本工程のガラス膜を形成する領域を示す部分(図2Bの斜線を付した部分)、である。この領域3は、前記エアコン2の外周からその周囲へ約30cm(約20〜40cm)の距離だけ延びる領域である。ここで、前記領域を画する前記エアコン2からの距離を約30cmとしたのは、エアコン2の吹出し口2aの周囲が汚れるのは大体30cm程度(約20〜40cm)の範囲の領域に止まっていること、一般のロックウール吸音天井板のパネルの一辺の長さは30cm程度であること、などの理由からである。
【0024】
前記領域3(図2A,2B参照)にガラス膜を形成するに際して、本実施例1では、株式会社日興(東京都杉並区上荻1−10−5ニュースタインビル3F 電話番号03−3393−7641)が製造している「ヒートレスグラス」(商品名)の「GS−600−1」(型番)を上記無機ガラスコーティング材として使用する。そして、この「ヒートレスグラス GS−600−1」を、ローラーにて、前記領域の上に、例えば1m2当たり約20〜30g塗布することにより、前記領域3にガラス膜を形成する。
【0025】
なお、ここで、上記商品「ヒートレスグラス」について説明する。ヒートレスグラスに関する公開資料としては、例えば、株式会社日興が製作した、「テクノマート東京2003」への出展時(案件番号:2002TK−140NKO)の資料(タイトル:塗布すれば、ガラスになるコーティング剤「ヒートレスグラス」)、製品パンフレットなどがある。これらによると、ヒートレスグラスは、従来は不可能とされていた常温でガラス膜を形成することを可能にする「常温ガラスコーティング剤」である。ヒートレスグラスは、主成分は変性シリコーンで、水蒸気と触媒により、ガラス化する。ヒートレスグラスは、変性シリコーンを主成分とし、反応触媒の添加によって、常温または低温加熱条件下において、加水分解/脱水縮合反応が起こり、非晶質のセラミック膜(ガラス膜)を形成する。ヒートレスグラスのGS−600は、指蝕乾燥に2〜3時間、使用可能時間(硬度H〜2H)は20時間、9Hの完全硬化に60日を要する。ヒートレスグラスのGO−100SXは、指蝕乾燥に15〜20分、硬度Hに13時間、完全硬化(硬度3〜4H)に3日間を要する。
【0026】
また、株式会社日興が提供している「HEATLESS GLASS GS−600シリーズ」を紹介するWebページ(http://www.nikko−gp.co.jp/gs600.html)によると、ヒートレスグラス GS−600は、1液または2液のシリカ溶液で、常温施工により各種基材に、硬質の非晶質のガラス膜を形成する「常温ガラスコーティング材」である。ヒートレスグラスにより形成される被膜(以下ではこの塗膜も「ヒートレスグラス」と呼ぶ)は、紫外線に強く、超耐久性を発揮すると共に、不燃性、耐透水性、耐薬品性、耐汚染性などの優れた効果を有する。次に、上記Webページに掲載されている、ヒートレスグラスの種類と特性を示す表を、引用しておく。
【表1】
【0027】
また、ヒートレスグラスの塗膜は、その重量が約20〜30g/m2というように極めて軽量の塗膜である(よって、従来の塗装時に生じていた、塗膜の重量が大きいために塗膜がロックウール吸音天井板から剥がれたりロックウール吸音天井板が撓んでしまうなどの不都合を防止できるようになる)。また、ヒートレスグラスの塗膜は、その膜厚が約5〜13μmというように極めて薄い(しかも透明である)ので、前記ナノコートの塗膜の上の一部(前記エアコンの周囲約30cmの領域3)にこのヒートレスグラスの塗膜を形成した場合でも、このヒートレスグラスの塗膜はほとんど目立たないので、天井の全体の美観を損ねることがないというメリットが得られる。
【0028】
次に、本発明者は、市販のロックウール吸音天井板に本実施例1による保全工法を適用した場合のロックウール吸音天井板の吸音率に及ぼす影響を測定するための実験を行った。本実験では、ロックウール吸音天井板の表面への前記ナノコートの塗布が前記ロックウール吸音天井板の吸音性能に及ぼす影響を測定した。なお、本実施例1では、前記ナノコートの塗膜の一部(前記領域3)の上にさらに前記ヒートレスグラスを塗布している。しかし、本実施例1では、前記のヒートレスグラスの塗布は、エアコンの周囲の領域3だけに止めているため、これが天井全体の吸音性能に与える影響は僅かであることは明らかであるので、前記ヒートレスグラスの塗布が吸音性能に与える影響の測定は省略した。以下に、前記のロックウール吸音天井板の表面への前記ナノコートの塗布が前記ロックウール吸音天井板の吸音性能に及ぼす影響の測定結果の詳細を記載する。
【0029】
1.測定概要
(1)測定日時 平成18年8月10日
(2)測定場所 九州大学芸術工学部 残響室(室容積197.23m3/表面積257.23m2)
(3)測定者(本発明者との秘密保持契約を締結した上で本発明者から本測定を委託された者) 株式会社四元音響設計事務所 勝瀬
(4)測定項目 残響室法吸音率(125Hz〜4000Hzの1/3オクターブバンド毎)
(5)試験体
・松下電工(株)準不燃天井材 調湿彫り天 RJC−219
・松下電工(株)準不燃天井材 調湿彫り天 RJC−219(ナノコート塗布)
【0030】
2.測定方法
残響室法吸音率の測定は、「ISO354:Acoustics−Measurement of sound absorption in a reverberation room」、ならびに「JIS1409:残響室法吸音率の測定方法」に準拠して行った。
【0031】
「ISO3382:Acoustics−Measurement of the reverberation time of rooms with reference to other acoustical parameters.」をもとにして測定した残響時間をもとに、次式により吸音率を計算した。
【数1】
【0032】
残響時間は以下の要領で測定した。音源信号(時間伸張パルス:TSP 信号)をスピーカから再生し、このとき観測される時間応答波形をマイクロホンを介してノート型PCに取り込んだ。ノート型PCにてTSP逆フィルター処理、帯域フィルター処理、時間逆積分処理を行い、音圧レベル減衰波形を得た後、周波数帯域毎に減衰波形を最小二乗法によって直線近似して残響時間を求めた。本実験に使用した測定システムのブロック図を図3Aに示す。
【0033】
3.試料について
残響室の形状、試料の位置及びマイクロホンの位置を図3Bに示す。マイクロホンの高さは1,450mmである。また、試料の寸法と残響室への試料の設置方法とを図3Cに示す。
【0034】
4.測定結果
ナノコートを塗布していない試料の残響室法吸音率測定結果を図3Dに、ナノコートを塗布した試料の残響室法吸音率測定結果を図3Eに、ナノコートの有無による吸音率の比較結果を図3Fに示す。
【0035】
5.本実験結果のまとめ
残響室法吸音率測定結果のナノコート未使用の天井吸音板とナノコート塗布後の天井吸音板との比較において、160Hzにあるピークは天井吸音板の板構造による吸音であり、塗布による変化は見られない。吸音材としての吸音性能を示す500Hz以上の周波数域においては、ナノコートを塗布することにより吸音率は約50%低下していると言える。
【0036】
以上より、本実施例1によれば、(a)ロックウール吸音天井板の上に「粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されその重量が約30〜50g/m2であるようなナノコート(塗膜)」を形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、その吸音性をほとんど保持し(前記ナノコートは粒径が約4〜6nmの微粒子から成るので多孔質の各孔を塞がないため)、且つ荷重による塗膜の天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記ナノコートは極めて軽量であるため)ながら、ナノコートによる表面補強(保護性)の機能や美観を付与することができる。
【0037】
また、本実施例1によれば、(b)前記ナノコートの上のエアコン2の吹出し口2aの周囲の前記領域3に、「SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質の透明なガラス膜でありその重量が約20〜30g/m2でその膜厚が約5〜13μmであるようなヒートレスグラス(塗膜)」を直接に(前記ナノコートとの間に上塗り材やバインダーなどを介することなく)形成するようにしたので、ロックウール吸音天井板に対して、荷重によるナノコート及びヒートレスグラスの天井板からの剥がれや天井板の荷重による撓みが生じるなどの不都合を回避し(前記ヒートレスグラスは極めて軽量であるため、且つ、上記の上塗り材やバインダーなどの荷重が存在しないため)、且つ天井全体の美観を損ねるなどの不都合を回避し(前記ヒートレスグラスは極めて薄く透明なので前記ヒートレスグラスの部分が目立たないため)ながら、その後のエアコン2の吹出し口2aの周辺に生じる汚れに対して拭き取りなどで容易に対処できるような状態にする(前記ヒートレスグラスはガラス膜であるため)という機能を付与することができる。
【実施例2】
【0038】
次に、図4は本発明の実施例2によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。以下では、本実施例2について、前記実施例1と対比しながら前記実施例1と異なる点を中心に説明する。前記実施例1では、ヒートレスグラスの塗膜を、ロックウール吸音天井板1のナノコートの上のエアコン2の周囲約30cmの領域3に形成するようにしていた(図2A,2B参照)。これに対して、本実施例2では、図4に示すように、ヒートレスグラスの塗膜を、ロックウール吸音天井板1のナノコートの上のエアコン2の各吹出し口2a,2b,2c,2dと対向する領域であって前記各吹出し口2a,2b,2c,2dからそれぞれ吹出し方向に向かって約30cmの範囲の各領域3a,3b,3c,3dに、形成するようにしている。一般に、エアコン2の各吹出し口から吹出す空気流(汚れ成分を含んでいる)により天井板が汚れるのはエアコン2の各吹出し口と対向する部分がほとんどであるから、本実施例2のように、前記各領域3a,3b,3c,3dのみにヒートレスグラスの塗膜を形成しておけば、その後、エアコン2から吹出す空気流による天井板の汚れは容易に拭き取りなどの処理ができるような状態となる。よって、本実施例2によっても、前記実施例1とほぼ同様に「ロックウール吸音天井板1に対して、その吸音性の阻害や荷重による剥がれや撓みなどの不都合を回避しながら表面補強(保護性)の機能や美観を付与し、且つ、エアコン12の吹出し口12aからの空気流により生じる汚れに容易に対処できるような状態にする機能を付与する」という効果を得られるようになる。本実施例2に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例1と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【実施例3】
【0039】
次に、図5は本発明の実施例3によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。本実施例3が前記実施例1,2と異なる点は、前記実施例1,2に関する図1のエアコン2は天井埋め込みタイプであるが、本実施例3に関する図5のエアコン12は天井吊り下げタイプであるという点である。本実施例3のように、ロックウール吸音天井板1に固定されるエアコン12が天井吊り下げタイプのものである場合でも、その吹出し口12aからの空気流(汚れ成分を含む)によりその周囲のロックウール吸音天井板1の表面が汚れてしまうことは同様である。よって、このような天井吊り下げタイプのエアコン12が天井に固定されている場合でも、前記実施例1,2と同様に、天井全体を構成する前記ロックウール吸音天井板1の上にナノコートを形成し、その後、このナノコートの上の前記エアコン12の周囲の領域13にヒートレスグラスを形成することにより、前記実施例1,2と同様の効果を得ることができる。本実施例3に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例1,2と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【実施例4】
【0040】
次に、図6は本発明の実施例4によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。以下では、本実施例4について、前記実施例1−3と対比しながら前記実施例1−3と異なる点を中心に説明する。本実施例4が前記実施例1−3と異なる点は、前記実施例1−3がエアコン2,12が固定されたロックウール吸音天井板1の保全工法に関するものであるのに対して、本実施例4は、図6に示すような換気扇22が固定されたロックウール吸音天井板1の保全工法に関するものであるという点である。
【0041】
すなわち、本実施例4の保全工法の概要を図6を参照して説明すると次のとおりである。まず、換気扇22が配置された天井を構成するロックウール吸音天井板1の表面の汚れを除去する。次に、前記汚れが除去されたロックウール吸音板1(天井の全体)の表面に、前記ナノコート(株式会社日興製)の無機塗料を塗布することにより、「粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成されその重量が約30〜50g/m2であるような塗膜(ナノコート)」を形成する。次に、前記ナノコートの上の前記換気扇22の周囲の約20〜40cmの領域、例えば約30cmの領域23(図6において斜線を付した部分)の上に、前記ヒートレスグラス(株式会社日興製)の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、「SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるようなガラス膜(ヒートレスグラス)」を形成する。なお、このときの前記ヒートレスグラスの形成に際しては、前記領域23に代えて、前記換気扇22の吸込み口22aからその吸込み方向の反対方向に向かって約20〜40cmの各領域、例えば約30cmの各領域(実施例2に関して説明した図4の符号3a,3b,3c,3dで示す各領域を参照)に、前記ヒートレスグラス(株式会社日興製)の無機ガラスコーティング材を塗布するようにしてもよい。
【0042】
以上のように、本実施例4は、ロックウール吸音天井板1にエアコン2,12ではなく換気扇22が固定されている点で前記実施例1−3と異なるが、それ以外は前記実施例1−3とほぼ同様である。よって、本実施例4によっても、前記実施例1−3におけるとほぼ同様に、「ロックウール吸音天井板1に対して、その吸音性の阻害や荷重による剥がれや撓みなどの不都合を回避しながら表面補強(保護性)の機能や美観を付与し、且つ、換気扇22の吸込み口22aへの空気流により生じる汚れに容易に対処できるような状態にする機能を付与する」という効果を得られるようになる。本実施例4に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例1−3と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【実施例5】
【0043】
次に、図7は本発明の実施例5によるロックウール吸音天井板1の保全工法を説明するための図である。本実施例5が前記実施例4と異なる点は、前記実施例4に関する図6の換気扇22は4個の吸込み口22aがそれぞれ4つの方向に向けて配置されているタイプのものであるが、本実施例5に関する図7の換気扇32は互いに半径の異なる3個の略リング状(略四角のリング状)の吸込み口32aが略同心円状に配置されるように形成されたものであるという点である。本実施例5のように、換気扇32が互いに半径の異なる3個の略リング状(略四角のリング状)が略同心円状に配置される吸込み口32aを有するようなタイプである場合でも、前記の実施例4のような計4個の吸込み口22aを有する換気扇22の場合と比較して、それが固定されたロックウール吸音天井板1の保全工法の内容(例えば、ロックウール吸音天井板1のナノコート上の前記換気扇32の周囲の約30cmの範囲内の領域33に、又は、前記換気扇32の吸込み口の周囲の約30cmの範囲内の領域に、前記ヒートレスグラスが形成されること)やそれによる効果は基本的に異なるものではない。よって、本実施例5によっても、前記実施例4におけるとほぼ同様の作用効果を得ることができる。本実施例5に関しては、以上に説明したこと以外については、前記実施例4と基本的に同様であるので、説明を省略する。
【0044】
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明及び本発明を構成する各構成要件は、それぞれ、前記の各実施例及び前記の各実施例を構成する各要素として述べたものに限定されるものではなく、様々な修正及び変更が可能である。本発明は、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にある修正及び変形を含むものである。例えば、前記各実施例3,4,5に係る図5,6,7では、いずれもガラス膜をエアコン12又は換気扇22,32からその周囲の全方向に向かって所定距離内の所定領域13,23,33に形成するようにしているが、本発明では、図5,6,7において、ガラス膜をエアコン12の吹出し口12aから吹出し方向に向かって所定距離内の所定領域、又は換気扇22,32の吸込み口22a,32aの吸込み方向と反対方向に向かって所定距離内の所定領域に形成する(前記実施例2に係る図4の場合と同様)ようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1におけるロックウール吸音天井板の表面の汚れの除去工程を説明するための図。
【図2A】本実施例1によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【図2B】本実施例1によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための平面図。
【図3A】本実施例1のナノコートを形成した場合のロックウール吸音天井板の吸音性への影響を測定するために使用した残響時間測定システムを説明するためのブロック図。
【図3B】本実施例1のナノコートを形成した場合のロックウール吸音天井板の吸音性への影響を測定する実験において使用した試料の形状・位置、及びマイクロホンの位置を示す図。
【図3C】本実施例1のナノコートを形成した場合のロックウール吸音天井板の吸音性への影響を測定する実験において使用した試料の寸法、及び試料の設置方法を示す図。
【図3D】本実施例1のナノコートを形成していないロックウール吸音天井板の残響室法吸音率測定結果を示す図。
【図3E】本実施例1のナノコートを形成したロックウール吸音天井板の残響室法吸音率測定結果を示す図。
【図3F】本実施例1のナノコートをロックウール吸音天井板に形成した場合と形成していない場合との測定された吸音率の比較結果を示す図。
【図4】本発明の実施例2によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための平面図。
【図5】本発明の実施例3によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【図6】本発明の実施例4によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【図7】本発明の実施例5によるロックウール吸音天井板の保全工法を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0046】
1 ロックウール吸音天井板
2,12 エアコン
2a,2b,2c,2d,12a 吹出し口
3,3a,3b,3c,3d,13,23,33 領域
22,32 換気扇
22a,32a 吸込み口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により構成されており、前記天井にはエアコンディショナーが配置されており、前記エアコンディショナーには天井に対して略平行若しくは斜め下方向に冷風若しくは温風が吹出される吹出し口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、
前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、
前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面の略全体に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、
前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記エアコンディショナーの吹出し口からその吹出し方向に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記エアコンディショナーから周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とするロックウール吸音天井板の保全工法。
【請求項2】
天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により構成されており、前記天井には換気扇が配置されており、前記換気扇には天井に対して略平行若しくは斜め下方向に吸込み口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、
前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、
前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、
前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記換気扇の吸込み口からその吸込み方向の反対方向に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記換気扇から周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とするロックウール吸音天井板の保全工法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記の汚れを除去する工程は、前記ロックウール吸音板の表面に向けて、約1mm以下の粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させる工程を含むものである、ことを特徴とするロックウール吸音天井板の保全工法。
【請求項1】
天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により構成されており、前記天井にはエアコンディショナーが配置されており、前記エアコンディショナーには天井に対して略平行若しくは斜め下方向に冷風若しくは温風が吹出される吹出し口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、
前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、
前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面の略全体に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、
前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記エアコンディショナーの吹出し口からその吹出し方向に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記エアコンディショナーから周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とするロックウール吸音天井板の保全工法。
【請求項2】
天井の少なくとも室内側の面が多孔質板であるロックウール吸音板により構成されており、前記天井には換気扇が配置されており、前記換気扇には天井に対して略平行若しくは斜め下方向に吸込み口が設けられている場合における、前記天井を構成するロックウール吸音天井板の保全工法であって、
前記天井に配置されたロックウール吸音板の表面の汚れを除去する工程と、
前記汚れが除去されたロックウール吸音板の表面に、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料を含む無機水性塗料を塗布することにより、粒径が約4〜6nmのSiO2を主成分とする無機物質から成る微粒子及び無機物質から成る顔料により構成され、その重量が約30〜50g/m2であるような第1薄膜を形成する工程と、
前記第1薄膜を形成した後、前記第1薄膜の前記換気扇の吸込み口からその吸込み方向の反対方向に向かって約20〜60cmの領域、又は前記第1薄膜の前記換気扇から周囲に向かって約20〜60cmの領域の上に、SiO2を主成分とする常温の無機ガラスコーティング材を塗布することにより、SiO2を主成分とする無機質で硬質で非晶質のガラス膜であり、その重量が約20〜30g/m2で、その膜厚が約5〜13μmであるような第2薄膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とするロックウール吸音天井板の保全工法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記の汚れを除去する工程は、前記ロックウール吸音板の表面に向けて、約1mm以下の粒径を有する多数の微小なメディアを所定の圧力で衝突させる工程を含むものである、ことを特徴とするロックウール吸音天井板の保全工法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2008−127816(P2008−127816A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312555(P2006−312555)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(506388211)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(506388211)
【Fターム(参考)】
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