説明

ロック装置、伝達比可変装置、及び車両用操舵装置

【課題】電源電圧の低下時においても速やかにロック状態を解除することのできるロック装置、伝達比可変装置、及び車両用操舵装置を提供することにある。
【解決手段】モータ11の各モータコイル11u,11v,11w、並びにIFSECUに設けられたノイズ除去コイル73をエネルギー蓄積用のコイルとして用いる。そして、ロック解除時において電源電圧が所定電圧よりも小さい場合には、ソレノイド37に対し、これら各コイルに蓄積されたエネルギー、即ちサージ電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック装置、伝達比可変装置、及び車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転体に形成された係合溝にロックアームの一端を係合させることにより同回転体の回転を拘束、即ちロック状態とすることが可能なロック装置がある。そして、このようなものには、ソレノイドによりロックアームを駆動し同ロックアームの一端を回転体の係合溝から脱離させることにより、そのロック状態を解除するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−320943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば、このようなロック装置を車両に設けられた伝達比可変装置に適用した場合、低温時やエンジン始動時等、上記ソレノイドの電力供給源である車載電源(バッテリ)に電圧低下が生ずることがある。このため、こうした電源電圧の低下時には、係合溝との摩擦に抗してロックアームを同係合溝から脱離させるだけの出力をソレノイドが発生できない場合があり、その結果、速やかにロック状態を解除することができないおそれがある。
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、電源電圧の低下時においても速やかにロック状態を解除することのできるロック装置、伝達比可変装置、及び車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、係合溝を有する回転体と、前記係合溝に係合されることにより前記回転体の回転を拘束可能なロックアームと、前記ロックアームを前記係合溝から脱離させて前記拘束を解除すべく該ロックアームを駆動可能なソレノイドと、前記ソレノイドに対してサージ電圧を印加可能なコイルと、を備えること、を要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、モータと、該モータの回転軸、入力軸及び出力軸に連結されることにより、前記入力軸の回転を前記出力軸に伝達するとともに前記回転軸の回転を減速して該出力軸に伝達する差動機構と、前記入力軸と前記出力軸とを相対回転不能にロック可能なロック装置とを備えた伝達比可変装置において、前記ロック装置は、前記モータの回転軸と一体回転するように設けられ、その回転の拘束により前記入力軸と前記出力軸とを相対回転不能にロック可能な回転体と、前記回転体に形成された係合溝に係合されることにより前記回転体の回転を拘束可能なロックアームと、前記ロックアームを前記係合溝から脱離させて前記拘束を解除すべく該ロックアームを駆動可能なソレノイドと、前記ソレノイドに対してサージ電圧を印加可能なコイルと、を備えること、を要旨とする。
【0007】
上記各構成によれば、電源電圧が低下した場合であっても、係合溝との摩擦に抗してロックアームを同係合溝から脱離させるだけの十分な出力をソレノイドに発生させることができる。その結果、こうした電源電圧の低下時であっても速やかにロック状態を解除することができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記コイルは、前記モータのモータコイル及び前記モータに対する電力供給経路に設けられたノイズ除去コイルの少なくとも何れか一つであること、を要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、モータコイルやノイズ除去コイルといった伝達比可変装置に既存の構成をエネルギー蓄積用のコイルとして用いるため、コストが上昇することもない。
請求項4に記載の発明は、前記モータは三相の駆動電力の供給により回転するものであって、前記ソレノイドに対する前記サージ電圧の印加は、前記モータに対する通電相を固定した電力供給の後に行われるとともに、該固定通電相は、前記モータの回転位置に応じて、該モータが回転しない通電相が選択されること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、モータコイルに対する通電によりモータが回転し、回転体の回転位置がずれることで、ロックアームと係合溝との摩擦力が大となることを防止することができる。従って、より速やかにロック状態の解除ができるようになる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記サージ電圧の印加は、電源電圧が所定電圧より小さい場合に行われること、を要旨とする。
上記構成によれば、電源電圧の低下により係合溝との摩擦に抗してロックアームを同係合溝から脱離させるだけの出力をソレノイドが発生できない場合において、効果的に同ソレノイドの出力を向上させることができる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜請求項5の何れか一項に記載の伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電源電圧の低下時においても速やかにロック状態を解除することの可能なロック装置、伝達比可変装置、及び車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をギヤ比可変システムを備えた車両用操舵装置(ステアリング装置)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のステアリング装置1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角、即ちタイヤ角が可変することにより、車両の進行方向が変更されるようになっている。
【0015】
また、本実施形態のステアリング装置1は、ステアリングホイール2の舵角(操舵角)に対する操舵輪6の舵角(タイヤ角)の比率、即ち伝達比(ギヤ比)を可変させる伝達比可変装置としてのギヤ比可変アクチュエータ7と、該ギヤ比可変アクチュエータ7の作動を制御する制御手段としてのIFSECU8とを備えている。
【0016】
図2に示すように、本実施形態のギヤ比可変アクチュエータ7は、駆動源としてのモータ11と、差動機構としてのハーモニックドライブ(登録商標)12とを備えており、第1シャフト9の回転を第2シャフト10に伝達するとともにモータ11の回転を減速して第2シャフト10に伝達する。そして、ステアリング操作に伴う第1シャフト9の回転に、モータ駆動に基づく回転を上乗せして第2シャフト10に伝達することにより、ラックアンドピニオン機構4に入力されるステアリングシャフト3の回転を増速(又は減速)し、これにより操舵角に対する操舵輪6の伝達比を可変させる。
【0017】
詳述すると、モータ11を収容するハウジング13は、略有底筒状に形成されており、モータ11は、その回転軸であるモータ軸11aとハウジング13とが同軸になるように同ハウジング13内に固定されている。また、ハウジング13の上壁部13aには、同ハウジング13と同軸となる位置に筒状の嵌合部14が設けられており、同嵌合部14は、その軸方向外側(図中上方向)に向かって延設されている。そして、ハウジング13は、その嵌合部14と第1シャフト9の一端とが嵌合されることにより同第1シャフト9に固定され、これにより、第1シャフト9とともに一体回転するようになっている。
【0018】
一方、ハーモニックドライブ12は、同軸に並置されたステータギヤ21及びドリブンギヤ22と、これらの各ギヤと噛み合うように同軸配置された筒状のフレキシブルギヤ23とを備えている。ステータギヤ21は、ハウジング13と同軸となるように同ハウジング13に固定されており、ドリブンギヤ22は、連結部材25を介して第2シャフト10と同軸に連結されている。ステータギヤ21及びドリブンギヤ22には、互いに異なる歯数が設定されており、フレキシブルギヤ23は、楕円状に撓められた状態でこれら各ギヤの内側に配置されることにより、その外歯が該各ギヤの内歯とそれぞれ部分的に噛合されている。そして、ハウジング13とともにステータギヤ21が回転し、そのステータギヤ21の回転がフレキシブルギヤ23を介してドリブンギヤ22に伝達されることにより、ステアリング操作に伴う第1シャフト9の回転が第2シャフト10に伝達されるようになっている。
【0019】
また、フレキシブルギヤ23の内側には、上記ステータギヤ21及びドリブンギヤ22とともにハーモニックドライブ12を構成する波動発生器27が配置されている。波動発生器27は、モータ軸11aに連結されており、モータ軸11aの回転に伴いフレキシブルギヤ23の内側を回転することにより、上記撓められたフレキシブルギヤ23の楕円形状、即ちステータギヤ21及びドリブンギヤ22との噛合部を回転させる。そして、ステータギヤ21とドリブンギヤ22との間の歯数差に基づいて、ドリブンギヤ22が波動発生器27の回転と逆方向に回転することにより、モータ軸11aの回転が減速されて第2シャフト10に伝達されるようになっている。尚、本実施形態のギヤ比可変アクチュエータ7では、ハウジング13の上壁部13aにスパイラルケーブル装置24が設けられている。そして、このスパイラルケーブル装置24により、所定の回転範囲(許容回転範囲)においてモータ11とIFSECU8、並びに後述するロック機構30のソレノイド37とIFSECU8とが電気的に接続されるようになっている。
【0020】
また、ギヤ比可変アクチュエータ7は、入力軸である第1シャフト9と出力軸である第2シャフト10とを相対回転不能にロック可能なロック機構30を備えており、同ロック機構30は、ハウジング13側に設けられたロックアーム31と、モータ軸11aの一端に固定され該モータ軸11aとともに一体回転するロックホルダ32とを備えている。
【0021】
図3に示すように、本実施形態では、ロックホルダ32は環状に形成され、モータ軸11aと同軸に固定されている。そして、その周面には、ロックアーム31が係合される被係合部として、その厚み方向(軸方向)に延びる複数の係合溝33が凹設されている。一方、図2及び図3に示すように、ロックアーム31は、ロックホルダ32の外側において、回動可能にハウジング13内に軸支されている。具体的には、ハウジング13(詳しくはハウジング13に固定されたモータハウジング11の一端)には、モータ軸11aの軸線方向に沿って延びる回動軸34が設けられており、ロックアーム31は、この回動軸34により、ロックホルダ32と対向する位置(ロックホルダ32の回転平面と略同一の平面上)において回動可能に軸支されている。本実施形態では、ロックアーム31の一端(フック部31a)には、ロックホルダ32の周面に向かって突出する係合爪35が設けられている。そして、ロックアーム31は、その回動により、この係合爪35がロックホルダ32側の係合溝33と係合するようになっている。
【0022】
本実施形態のロック機構30では、ロックアーム31は、コイルバネ36の弾性力により、そのフック部31aがロックホルダ32側に向かって回動するよう付勢されている。尚、本実施形態では、回動軸34に遊嵌された捻りコイルバネを用いるが、説明の便宜のため、図中では、その機能のみを概念的に図示するものとする。そして、ロックアーム31の他端、即ち回動軸34を挟んで上記係合爪35と対向する側の端部(カウンタバランサ部31b)には、ロック機構30の駆動源であるソレノイド37のプランジャ38が連結されている。具体的には、ソレノイド37は、ロックホルダ32の外側において、そのプランジャ38がモータ軸11aの軸線方向と略直交する方向に突出するように配設されており、同プランジャ38の先端は、ロックアーム31のカウンタバランサ部31bと回動可能に連結されている。本実施形態では、プランジャ38は、弾性力により、その先端がソレノイド本体39から突出する方向に付勢されている。そして、本実施形態のソレノイド37は、その励磁コイル41への通電がなされる、即ちオン状態となることにより、その弾性力に抗してプランジャ38をソレノイド本体39の内部へと引き込むようになっている。
【0023】
即ち、ロック時には、ソレノイド37をオフ状態とすることで、コイルバネ36の弾性力により、そのフック部31aがロックホルダ32に近接する方向にロックアーム31を回動させる。そして、フック部31a先端の係合爪35をロックホルダ32側の係合溝33と係合させることにより、同ロックホルダ32の回転を拘束、即ちロックアーム31が設けられたハウジング13とロックホルダ32が設けられたモータ軸11aとを連結し、これにより、第1シャフト9と第2シャフト10とを相対回転不能にロックするようになっている。
【0024】
一方、ロック解除時には、ソレノイド37をオン状態とし、ロックアーム31のカウンタバランサ部31bに連結されたプランジャ38を引き込むことにより、そのフック部31aがロックホルダ32から離間する方向にロックアーム31を回動させる。そして、フック部31a先端の係合爪35をロックホルダ32側の係合溝33から脱離させることにより、そのロック状態を解除するようになっている。
【0025】
また、図1に示すように、ステアリング装置1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ47と、該EPSアクチュエータ47の作動を制御するEPSECU48とを備えている。本実施形態のEPSアクチュエータ47は、その駆動源であるモータ49がラック5と同軸に配置される所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ49の発生するアシストトルクは、ボール送り機構(図示略)を介してラック5に伝達される。そして、EPSECU48は、このモータ49が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する。
【0026】
本実施形態では、上記のギヤ比可変アクチュエータ7を制御するIFSECU8、及びEPSアクチュエータ47を制御するEPSECU48は、車内ネットワーク(CAN:Controller Area Network)50を介して接続されており、該車内ネットワーク50には、車両状態量を検出するための複数のセンサが接続されている。具体的には、車内ネットワーク50には、操舵角センサ51、操舵トルク検出手段としてのトルクセンサ52、及び車速センサ53が接続されている。そして、上記各センサにより検出される複数の車両状態量、即ち操舵角θs(操舵速度ωs)、操舵トルクτ、車速Vは、車内ネットワーク50を介してIFSECU8及びEPSECU48に入力される。尚、本実施形態では、操舵速度ωsは、操舵角θsを微分することにより求められる。また、IFSECU8及びEPSECU48は、車内ネットワーク50を介した相互通信により、制御信号の送受信を行う。そして、IFSECU8及びEPSECU48は、車内ネットワーク50を介して入力された上記各車両状態量及び制御信号に基づいて、ギヤ比可変アクチュエータ7並びにギヤ比可変アクチュエータの作動を制御する。
【0027】
次に、本実施形態のステアリング装置の電気的構成及び制御態様について説明する。
図4は、本実施形態のステアリング装置1の制御ブロック図である。同図に示すように、IFSECU8は、モータ制御信号を出力するマイコン61と、モータ制御信号に基づいてモータ11に駆動電力を供給する駆動回路62とを備えている。尚、本実施形態では、ギヤ比可変アクチュエータ7の駆動源であるモータ11は、ブラシレスモータであり、駆動回路62は入力されるモータ制御信号に基づいてモータ11に三相(U,V,W)の駆動電力を供給する。また、以下に示す各制御ブロックは、マイコン61が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。
【0028】
詳述すると、マイコン61は、ギヤ比可変制御演算部63及び微分ステア制御演算部64を備え、これら各制御演算部は、それぞれ入力される車両状態量に基づいてACT角θtaの制御目標成分を演算する。
【0029】
具体的には、ギヤ比可変制御演算部63には、操舵角θs及び車速Vが入力され、微分ステア制御演算部64には、車速V及び操舵速度ωsが入力される。そして、ギヤ比可変制御演算部63は、車速Vに応じてギヤ比を可変させるための制御目標成分であるギヤ比可変ACT指令角θgr*を演算し、微分ステア制御演算部64は、操舵速度に応じて車両の応答性を向上させるための制御目標成分である微分ステア指令角θls*を演算する。
【0030】
ギヤ比可変制御演算部63及び微分ステア制御演算部64により演算されたギヤ比可変ACT指令角θgr*及び微分ステア指令角θls*は、加算器65へと入力される。そして、この加算器65において、これらギヤ比可変ACT指令角θgr*及び微分ステア指令角θls*が重畳されることによりACT角θtaの制御目標であるACT指令角θta*が演算される。
【0031】
加算器65にて演算されたACT指令角θta*は、モータ11に設けられた回転角センサ66の出力信号に基づき検出されるACT角θtaとともに、位置制御演算部67に入力される。位置制御演算部67は、入力されたACT指令角θta*及びACT角θtaに基づくフィードバック演算により電流指令εを演算し、その電流指令εをモータ制御信号出力部68に入力する。そして、モータ制御信号出力部68が、その電流指令εに基づくモータ制御信号を生成し、駆動回路62が入力されたモータ制御信号に基づく駆動電力をギヤ比可変アクチュエータ7のモータ11に供給することにより、同ギヤ比可変アクチュエータ7の作動が制御されるようになっている。
【0032】
また、本実施形態では、IFSECU8は、上記モータ駆動用の駆動回路62に加え、ロック制御用、即ちソレノイド37に駆動電力を供給する駆動回路70を備えており、同駆動回路70は、マイコン61の出力するロック制御信号に基づいて、ソレノイド37への電力供給をオン/オフする。
【0033】
詳述すると、マイコン61は、ロック制御部71を備えており、同ロック制御部71には、バッテリ74の電源電圧Vb、IGオン信号、モータ出力電圧Vm、PS停止信号、及びギヤ比可変アクチュエータ7の異常を示す異常信号等の制御信号(若しくは車両状態量)が入力される。尚、「IGオン信号」はイグニッションON信号の略称である。そして、ロック制御部71は、入力されるこれらの制御信号に基づいてロック機構30をロック状態とすべきか、及びそのロック状態を解除すべきか否かを判定し、駆動回路70に出力するロック制御信号を生成する。尚、本実施形態では、エンジンの始動、即ちIGオン信号の入力によりロック解除判定が行われる。また、駆動回路70は、スイッチング素子(パワーMOSFET、以下単にFET)により構成され、ロック制御信号は、同スイッチング素子のDuty比(オンDuty比)として出力される。そして、このロック制御信号に基づいて、ソレノイド37に供給される駆動電力がオン/オフされることによりロックアーム31、即ちロック機構30の作動が制御されるようになっている。
【0034】
(ロック解除制御)
次に、本実施形態におけるロック解除制御について説明する。
上述のように、低温時やエンジン始動時等には、上記ソレノイドの電力供給源である車載電源(バッテリ)に電圧低下が生ずることがあり、これにより、係合溝33との摩擦に抗してロックアーム31を同係合溝から脱離させるだけの出力をソレノイド37が発生できず、その結果、速やかなロック解除ができない可能性がある。
【0035】
この点を踏まえ、本実施形態では、モータ11の各モータコイル11u,11v,11w、並びにIFSECU8に設けられたノイズ除去コイル73をエネルギー蓄積用のコイルとして用いる(図5参照)。そして、ロック解除時においてバッテリ74の電源電圧Vbが所定電圧V0よりも小さい場合には、ソレノイド37に対し、これら各コイルに蓄積されたエネルギー、即ちサージ電圧を印加することにより、係合溝33からロックアーム31を速やかに脱離させることの可能な出力を確保するように構成されている。即ち、本実施形態では、ロック機構30、IFSECU8、及びモータ11(のモータコイル11u〜11w)並びにノイズ除去コイル73によりロック装置が構成されている。
【0036】
詳述すると、本実施形態では、モータ駆動用の駆動回路62は、モータ11の各相に対応する複数(2×3個)のFETにより構成されている。具体的には、駆動回路62は、FET76a,76d、FET76b,76e、及びFET76c,76fの各組の直列回路を並列接続してなり、FET76a,76dの接続点77uはモータコイル11uに、FET76b,76eの接続点77vはモータコイル11vに、FET76c,76fの接続点77wはモータコイル11wに接続されている。そして、各FET76a〜76fのゲート端子はマイコン61に接続され、これにより、同マイコン61から出力されるモータ制御信号に応答して各FET76a〜76fがオン/オフするようになっている。
【0037】
また、本実施形態では、ロック機構30のソレノイド37は、駆動回路62と並列に接続されており、ロック制御用の駆動回路70を構成するFET70aは、ソレノイド37と直列に接続されている。そして、FET70aのゲート端子はマイコン61に接続され、これにより、同マイコン61から出力されるロック制御信号に応答してFET70aがオン/オフするようになっている。
【0038】
また、ノイズ除去コイル73は、バッテリ74と駆動回路62及びソレノイド37との間の電力供給経路の途中に設けられている。そして、同電力供給経路には電圧センサ78が設けられ、該電圧センサ78により検出される電源電圧Vbは、IGオン信号とともにマイコン61に入力されるようになっている。
【0039】
一方、図4に示すように、マイコン61に入力された電源電圧Vbは、ロック制御部71に入力され、同ロック制御部71において、所定電圧V0より小さいか否か判定される。そして、ロック制御部71は、ロック解除条件成立時において所定電圧V0よりも小さい場合には、モータ制御信号出力部68に対して、各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73にエネルギーを蓄積させるべく駆動回路62を制御するためのビルトアップ信号Sbを出力する。
【0040】
具体的には、本実施形態では、各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73へのエネルギーの蓄積は、通電相を固定したモータ11への通電により行われる(相固定通電)。そして、ロック制御部71は、この相固定通電から所定時間t0が経過した後、モータ制御信号出力部68に対して、これら各コイルに蓄積されたエネルギーをサージ電圧としてソレノイド37に印加すべく駆動回路62を制御するためのリリース信号Srを出力し、及びソレノイド37に通電を行うべくロック制御信号を出力する。尚、本実施形態では、エネルギー蓄積時の固定通電相は、モータ11の回転角θmに対応して、同モータ11が回転しない通電相が選択される。そして、エネルギー蓄積時間である所定時間t0は、各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73の時定数に基づいて決定される。
【0041】
即ち、図6(a)(b)に示す例では、FET76a,76e,76fをオン(FET76d,76b,76cはオフ)とし、U相に対応するモータコイル11uからV,W相に対応するモータコイル11v,11wへと通電することにより(U−V,W相通電)、各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73にエネルギーを蓄積する。そして、所定時間t0経過後、FET76b,76cをオン、FET76aをオフ(FET76e,76fはオフ、FET76dはオン)として、駆動回路70を構成するFET70aをオンとすることにより、これら各コイルに蓄積されたエネルギー(逆起電力)をサージ電圧としてソレノイド37に印加するようになっている。
【0042】
次に、ロック解除制御の処理手順について説明する。
図7のフローチャートに示すように、マイコン61は、ロック解除条件が成立すると、先ず電源電圧Vbが所定電圧V0よりも小さいか否かを判定する(ステップ101)。そして、電源電圧Vbが所定電圧V0よりも小さい場合(ステップ101:YES)には、モータ11に対して上記相固定通電を行うことにより各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73にエネルギーを蓄積する(ステップ102)。次に、マイコン61は、ステップ102の相固定通電の開始から所定時間t0が経過したか否かを判定する(ステップ103)。そして、所定時間t0が経過したと判定した場合(ステップ103:YES)には、各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73に蓄積されたエネルギーを放出し、ソレノイド37にそのサージ電圧を印加すべくモータ制御信号を出力するとともに(ステップ104)、ロック解除をすべくロック制御信号を出力する(ステップ105)。
【0043】
尚、本実施形態では、上記ステップ101において、電源電圧Vbが所定電圧V0以上である場合(ステップ101:NO)には、ステップ102〜ステップ104の処理を実行することなく、ステップ105においてロック解除をすべくロック制御信号を出力する。そして、上記ステップ103において、所定時間t0を経過していないと判定した場合(ステップ103:NO)には、所定時間t0を経過するまでステップ102の相固定通電を継続する。
【0044】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)モータ11の各モータコイル11u,11v,11w、並びにIFSECU8に設けられたノイズ除去コイル73をエネルギー蓄積用のコイルとして用いる。そして、ロック解除時においてバッテリ74の電源電圧Vbが所定電圧V0よりも小さい場合には、ソレノイド37に対し、これら各コイルに蓄積されたエネルギー、即ちサージ電圧を印加する。
【0045】
上記構成によれば、電源電圧Vbが低下した場合であっても、係合溝33との摩擦に抗してロックアーム31を同係合溝から脱離させるだけの十分な出力をソレノイド37に発生させることができる。その結果、こうした電源電圧Vbの低下時であっても速やかにロック状態を解除することができる。更に、各モータコイル11u,11v,11w及びノイズ除去コイル73をエネルギー蓄積用のコイルとして用いるため、コストが上昇することもない。
【0046】
(2)各モータコイル11u〜11w及びノイズ除去コイル73へのエネルギーの蓄積は、通電相を固定したモータ11への通電により行われる。そして、このエネルギー蓄積時の固定通電相は、モータ11の回転角θmに対応して、同モータ11が回転しない通電相が選択される。
【0047】
上記構成によれば、モータコイル11u〜11wに対する通電によりモータ11が回転し、ロック機構30を構成する回転体としてのロックホルダ32の回転位置がずれることで、ロックアーム31と係合溝33との摩擦力が大となることを防止することができる。従って、より速やかにロック状態の解除ができるようになる。
【0048】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、モータ11の各モータコイル11u,11v,11w、並びにIFSECU8に設けられたノイズ除去コイル73をエネルギー蓄積用のコイルとして用いることとした。しかし、これに限らず、ノイズ除去コイルのみ、或いはモータコイルのみをエネルギー蓄積用のコイルとして利用する構成としてもよい。即ち、ノイズ除去コイルを有しないもの等においては、モータコイルを利用すればよく、また、例えばブラシ付きDCモータのように相固定通電のできないものでは、ノイズ除去コイルを利用すればよい。尚、ブラシレスモータにおいてノイズ除去コイルのみを利用する場合、モータコイルに蓄積されたエネルギーはモータコイルにおいて消費するようにすればよい。更に、エネルギー蓄積用のコイルを別途設ける構成としてもよい。
【0049】
・本実施形態では、本発明を伝達比可変装置のロック装置に具体化した。しかし、これに限らず、回転体に形成された係合溝にロックアームを係合させることにより同回転体の回転を拘束するとともに、ソレノイドによりロックアームを回転体の係合溝から脱離させることによりそのロック状態を解除する構成であれば、その他のロック装置に具体化してもよい。
【0050】
・本実施形態では、ロック解除時において電源電圧Vbが所定電圧V0よりも小さい場合に、ソレノイド37に対してサージ電圧を印加することとしたが、ロック解除時においては、電源電圧Vbに関わらずサージ電圧を印加する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ステアリング装置の概略構成図。
【図2】ギヤ比可変アクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図3】ロック機構の概略構成を示す模式図。
【図4】ステアリング装置の制御ブロック図。
【図5】本実施形態の伝達比可変装置の回路図。
【図6】(a)(b)ソレノイドに対するサージ電圧印加の態様を示す説明図。
【図7】ロック解除制御の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0052】
1…ステアリング装置、7…ギヤ比可変アクチュエータ、8…IFSECU、9…第1シャフト、10…第2シャフト、11…モータ、11a…モータ軸、11u,11v,11w…モータコイル、12…ハーモニックドライブ、30…ロック機構、31…ロックアーム、32…ロックホルダ、33…係合溝、37…ソレノイド、61…マイコン、62,70…駆動回路、71…ロック制御部、73…ノイズ除去コイル、Vb…電源電圧、V0…所定時間、θm…回転角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合溝を有する回転体と、
前記係合溝に係合されることにより前記回転体の回転を拘束可能なロックアームと、
前記ロックアームを前記係合溝から脱離させて前記拘束を解除すべく該ロックアームを駆動可能なソレノイドと、
前記ソレノイドに対してサージ電圧を印加可能なコイルと、
を備えること、を特徴とするロック装置。
【請求項2】
モータと、該モータの回転軸、入力軸及び出力軸に連結されることにより、前記入力軸の回転を前記出力軸に伝達するとともに前記回転軸の回転を減速して該出力軸に伝達する差動機構と、前記入力軸と前記出力軸とを相対回転不能にロック可能なロック装置とを備えた伝達比可変装置において、
前記ロック装置は、
前記モータの回転軸と一体回転するように設けられ、その回転の拘束により前記入力軸と前記出力軸とを相対回転不能にロック可能な回転体と、
前記回転体に形成された係合溝に係合されることにより前記回転体の回転を拘束可能なロックアームと、
前記ロックアームを前記係合溝から脱離させて前記拘束を解除すべく該ロックアームを駆動可能なソレノイドと、
前記ソレノイドに対してサージ電圧を印加可能なコイルと、
を備えること、を特徴とする伝達比可変装置。
【請求項3】
請求項2に記載の伝達比可変装置において、
前記コイルは、前記モータのモータコイル及び前記モータに対する電力供給経路に設けられたノイズ除去コイルの少なくとも何れか一つであること、
を特徴とする伝達比可変装置。
【請求項4】
請求項3に記載の伝達比可変装置において、
前記モータは三相の駆動電力の供給により回転するものであって、
前記ソレノイドに対する前記サージ電圧の印加は、前記モータに対する通電相を固定した電力供給の後に行われるとともに、該固定通電相は、前記モータの回転位置に応じて、該モータが回転しない通電相が選択されること、を特徴とする伝達比可変装置。
【請求項5】
請求項2〜請求項4の何れか一項に記載の伝達比可変装置において、
前記サージ電圧の印加は、電源電圧が所定電圧より小さい場合に行われること、
を特徴とする伝達比可変装置。
【請求項6】
請求項2〜請求項5の何れか一項に記載の伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−106227(P2007−106227A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298298(P2005−298298)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】