説明

ロボットの制御装置及びロボットの制御方法

【課題】生産サイクルタイムのロスをより確実に低減できるロボットの制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、所定位置に配置されたパレット56について、ロボット51のアーム54が右手系,左手系の各制御系列により動作可能となる領域を計算し、パレット56に対するワーク供給又は取出し位置Pwを基準に初期作業位置を決定すると、その初期作業位置からロボット51が順次作業を進める位置をパレット56内で決定する。そして、アーム54の現在位置Pl(n)に隣接する作業位置が同じ制御系列で作業可能であればその位置を優先して次の作業位置とし、同じ制御系列では作業不可であればそれ以外に継続して作業可能な位置があれば当該位置での作業を同じ制御系列で行い、前記位置がなければ異なる制御系列で作業可能な位置を次の作業位置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば右手系,左手系のような複数の制御系列を有するロボットの制御装置及びロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、例えばXθ機構を有するロボット51は、リニアアクチュエータで構成される直線移動部52と、この直線移動部52によりX方向(図中左右方向)に変位する回転駆動部3と、この回転駆動部53に回転中心となる基部があり、先端部がθ方向に回転移動されるアーム54とを備えている。そして、アーム54の先端部にはツール55が装着され、アーム54の基部をX方向に移動させると共に、アーム54の先端側をZ軸回りにθ方向に回転させてツール55の位置決めを行う。
【0003】
この場合、図9(a)に示すように、X軸上でアーム54の基部が移動する位置に応じて制御系列,制御形態が右手系と左手系とに分かれる。すなわち、アーム54の基部が直線移動部52の中央よりも右側に位置している場合は右手系となり、同中央よりも左側に位置している場合は左手系となる。すると、ロボット51の動作領域は、右手系でのみ作業可能な領域(Area1)と、左手系でのみ作業可能な領域(Area3)と、左右いずれの手系でも作業可能な領域(Area2)との3つに分類される(図9(b)参照)。
【0004】
このように構成されるロボット51の作業効率を向上させるには、右手系,左手系の切り替え回数を極力少なくすることが望ましい。そして、作業対象となるパレット56等は、一般に中心部はArea2に位置しつつ、左右両端部はArea1,3に係ることが多い。したがって、ロボット51が一連の作業を行う場合、一方の手系で作業を継続している状態から、他方の手系に切替えるタイミングが重要となる(図9(c)参照)。
【0005】
例えば特許文献1には、各移動元,移動先の作業点の位置情報より、各移動元の作業点毎に移動時間を最小にするアームの移動元,移動先での各形態の組合せを検出し、この検出を繰り返した結果、アームの移動先での形態として最多数回選択されたものを最適な形態として決定し、その決定後に次の移動先を対象として同様の処理を行うことを繰り返し、各移動元の作業点につき最適なアーム形態を決定する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、移動指令コマンドの実行の際に目標移動位置と右手系禁止領域をRAMから読み込むと、読み込んだ目標移動位置と右手系禁止領域を比較し、その目標移動位置が右手系禁止領域内であれば同位置を左手系に変更して多軸ロボットの各関節回転量を左手系で演算し、目標移動位置が右手系禁止領域外であれば同位置を右手系に変更し、各関節回転量を右手系で演算することで位置決めを行う技術が開示されている
【特許文献1】特開平4−36806号公報
【特許文献2】特開平9−62322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、全ての移動元作業点について最適なアーム形態を決定するには複雑な計算を行う必要があり、コンピュータの計算プログラムを組むのに非常な労力が必要となる。
また、特許文献2の技術では、教示時のインチング動作において、今回の手先位置と次の手先位置とが同じ制御系列に属する場合は、引き続き同じ制御系列で、次の手先位置が異なる制御系列に属する場合は異なる制御系列に切り替えてインチング動作を行うが、この結果に基づき実際にロボットが作業を行った場合、生産サイクルタイムのロスが最小になるかどうかは保証がない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産サイクルタイムのロスをより確実に低減できるロボットの制御装置及びロボットの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載のロボットの制御装置によれば、領域計算手段は、設定された作業領域内について各制御系列による動作可能領域を計算し、作業位置決定手段は、作業領域に対するワーク供給位置,又はワークを取出し位置を基準に初期作業位置を決定すると、初期作業位置からロボットが順次作業を進める位置を作業領域内で決定する。そして、ロボットの現在位置に隣接する作業位置が同一の制御系列で継続して作業可能であればその位置を優先して次の作業位置とし、同一の制御系列では継続して作業不可であれば、それ以外に継続して作業可能な位置があれば当該位置での作業を同一の制御系列で行い、前記位置がなければ異なる制御系列で作業可能な位置を次の作業位置とする。
【0010】
すなわち、ロボットの現在位置を中心として、隣接する作業位置につき同一の制御系列による作業が継続可能か否かを判断するが、隣接する作業位置は複数の場合があるので、それらの内1つの候補については制御系列を切替える必要があるとしても、他の候補については同じ制御系列による作業が継続可能となる可能性がある。それらを全て検討した結果、同一の制御系列による作業が不可と判断した場合に、異なる制御系列で作業可能なものを次の作業位置とする。したがって、制御系列の切り替え回数を極力少なくして、生産サイクルタイムのロスを確実に低減することができる。
【0011】
請求項2記載のロボットの制御装置によれば、ロボットが、直線移動部と、その直線移動部に配置される回転軸を中心に、ツールが着脱される先端部が回転移動する回転部材とを有する、いわゆるXθ機構を備えるものを制御対象とする。この場合、作業位置決定手段は、直線移動部の移動方向に対する開き角がより大きい方向に沿って並ぶ列上にある位置を優先して次の作業位置に決定し、その同一列内での隣接する作業位置がない場合は、直線移動部の移動方向に対する開き角がより小さい方向に沿って並ぶ列上にある位置を次の作業位置に決定する。
【0012】
すなわち、Xθ機構を備えるロボットの場合、回転軸部を直線移動させることなく留めた状態で、回転部材の先端を回転させるだけで次の作業位置に移行させる方が移動時間が短くなる。したがって、直線移動方向に対する開き角がより大きい方向に沿って並ぶ列上にある位置を次の作業位置に決定すれば、回転部材の先端を回転させるだけで次の作業位置に移行できる可能性がより高くなり、作業時間を短縮することができる。
【0013】
請求項3記載のロボットの制御装置によれば、作業位置決定手段は、ワーク供給位置又はワーク取出し位置が複数の制御系列で動作可能な共通領域に属する場合、全ての作業位置が共通領域に属する基準列で作業領域を複数に分割する。そして、分割した各作業領域について、それぞれ各領域に最も近い制御系列で作業させるように切り替えた場合の作業時間の総計を求め、基準列が複数あれば各列について作業時間の総計を求め、作業時間の総計が最小を示した基準列で複数の制御系列を切り替える。したがって、全体の作業時間が確実に最小となるように制御系列を切替えることができる。
【0014】
請求項4記載のロボットの制御装置によれば、作業位置決定手段は、ワークを供給する作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク供給位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定し、ワークを取り出す作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク取出し位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定する。このように制御すれば、無駄な作業領域の切り替えが減るので制御が容易となり、ワークの供給位置又は取出し位置と同じ制御系列で作業できる領域数が増えるので、作業時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例について図1乃至図7を参照して説明する。尚、図8と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。図4乃至図7は、図8でモデル的に示したロボット51の具体的な構成例を示すもので、図4はロボットの斜視図、図5はロボットの正面図である。尚、図4及び図5では、ケーブル、空圧パイプなどの図示を省略している。ロボット1は、直動ユニット2に旋回ユニット(懸架ユニットに相当)3を直線移動可能に懸架して構成されており、直動ユニット2を、天井(静止部位に相当)に水平に固定したり、図示しない脚部(静止部位に相当)に水平に固定したりすることにより所定の作業領域に設置される。
【0016】
直動ユニット2は直動軸4を主体として構成されている。直動軸4には長尺方向に沿ってガイドレール5が設けられており、そのガイドレール5に沿って一対のスライダ6が直線移動可能に装着されている。直動軸4は図示しないボールネジを備えており、そのボールネジがスライダ6に固定されている図示しないナットに螺挿されている。ボールネジは直動軸用モータ7により締結ユニット8で減速された状態で回転するようになっており、その回転に伴ってスライダ6がガイドレール5に沿って直線移動する。
【0017】
直動軸用モータ7はベース部材9を介して締結ユニット8に固定されている。ベース部材9は直動軸4から水平方向に突出しており、その突出部位の一方の側面にボックスコネクタ10が装着されている。ベース部材9の他方の側面にはボックス11が水平方向となるように固定されており、ボックスコネクタ10を通じて、信号ケーブルCや図示しない電源ケーブル及び空圧チューブがボックス11内に導入されている。スライダ6の下面には懸架ベース12が連結されており、その懸架ベース12に旋回ユニット3が固定されている。
【0018】
図6は、ロボット1の下面を示す斜視図で、旋回ユニット3を取外して示している。懸架ベース12は旋回ユニット3がネジ止めされる部材であり、側面にカバー部材13及びL字状のケーブルダクト14が一体に設けられている。
ボックス11には配線保持具としてのケーブルベア(登録商標)15の一端が接続されており、そのケーブルベア15が直動軸4に沿って水平方向に延設している。このケーブルベア15は、直動ユニット2と旋回ユニット3との間を曲面を持つ曲げ状態で接続するもので、曲げ方向が水平方向となるようにボックス11と接続されている。
【0019】
直動軸4の側面には長手方向に沿って長板状の保持部材16がスペーサ17を介して固定されており、ボックス11から直動軸4の側面に沿って延設したケーブルベア15が保持部材16に沿って当接している。ケーブルベア15は、中間部が水平方向への曲げ状態で折り返されてケーブルダクト14に連結されている。
以上のように直動ユニット2が構成されており、直動ユニット2を構成する懸架ベース12に旋回ユニット3が固定されている。ケーブルベア15及びケーブルダクト14を通過したケーブル及び空圧チューブは旋回ユニット3と接続されている。ここで、ケーブルベア15は、ロボット1の最上端よりも低くなるように配置されている。
【0020】
図7は旋回ユニット3を模式的に示す断面図である。旋回ユニット3は、支持部18、駆動部(駆動源に相当)19、従動部20、旋回アーム(可動部材に相当)21、昇降部22から構成されている。支持部18の側方に駆動部19が並設されていると共に、支持部18に従動部20が回転可能に支持されている。駆動部19は、回転軸用モータ23のシャフト24に駆動プーリ25が装着されて構成されている。従動部20は、支持部18に回転可能に支持されたシャフト26の上端に従動プーリ27が装着され、下端に旋回部28が装着されて構成されている。駆動プーリ25と従動プーリ27とはタイミングベルト29により連結されており、回転軸用モータ23により旋回部28が回転するようになっている。この場合、駆動部19は、頭部が直動軸4の側方に位置してカバー部材13に収納された形態となっている。
【0021】
従動部20の旋回部28に旋回アーム21が固定されている。従って、回転軸用モータ23の回転に伴って旋回アーム21が水平方向に旋回するようになっている。旋回アーム21内には昇降用モータ30が配設されている。この昇降用モータ30のシャフト31の先端にはピニオンギア31aが形成されている。
旋回アーム21の先端に昇降部22が装着されている。昇降部22は、ベース部材32と主スライダ33と従スライダ34とを所謂テレスコピック機構により互いに連結して構成されている。従スライダ34にはラック35が固定されており、そのラック35に昇降用モータ30のピニオンギア31aが噛合っている。
【0022】
従スライダ34には回転モータ36が装着されており、その回転モータ36によりフランジ37が回転するようになっている。このフランジ37には図示しないハンドを装着するようになっている。この場合、フランジ37に装着されたハンドが空圧で動作する場合は、ケーブルベア15内を通過した空圧チューブから給圧用ソレノイドバルブの動作に応じて空気がハンドに供給される。主スライダ33及び従スライダ34は昇降用モータ30の駆動に応じて昇降するようになっている。
そして、上記各モータ7,23,30,36及び給圧用ソレノイドバルブは制御装置40により制御されるようになっている。制御装置40には、周辺機器としてティーチィングペンダント41およびプログラム入力用のパソコン42などが接続されている。
【0023】
次に、本実施例の作用について図1乃至図3も参照して説明する。本発明は制御装置(領域計算手段,作業位置決定手段)40によるロボットの制御に特徴を有しており、その作用を説明するには構造がモデル的である方が容易であるため、図8に示すロボット51を用いて説明する。尚、ロボット51の直線移動部52はロボット1の直動ユニット2に対応し、回転駆動部53は旋回ユニット3に対応し、アーム(回転部材)54は旋回アーム21に対応している。
【0024】
図1に示すように、Xθ機構を有するロボット51が、ワークの投入又は取出し(パレタイジング)を行う対象であるパレット56の位置と、ワークの投入又は取出し位置Pwとが決まる。そして、前記位置Pwと、パレット56上でワークの投入又は取出しを行う位置(作業位置,パレタイジングポイント)Pl(n)とを、ロボット51の制御装置40に対してティーチングする。各作業位置Pl(n)は、パレット56が矩形状である場合は、通常行列を成すように配置される。
【0025】
図2は、上記のように決定された各作業位置Pl(n)に対して、ロボット51が制御系列を右手系,左手系の何れにより作業するかを決定するアルゴリズムのフローチャートである。尚、各作業位置Pl(n)が、作業領域Area1〜3に亘って分布していることを前提とする。そして、このアルゴリズムは、ティーチング段階で制御系列を決定するために用いても良いし、ティーチングではワークの投入又は取出し位置Pwや各作業位置Pl(n)等を入力し、実際の作業時にリアルタイムで制御系列を決定するために用いても良い。
【0026】
先ず、投入又は取出し位置Pwが、右手系の作業可能領域Area1にある場合は(ステップS1:YES),作業位置番号nを「1」に設定し(ステップS2)、続いて、作業位置Pl(n)が左手系の作業可能領域Area3にあるか否かを判断する(ステップS3)。領域Area3にあれば(YES)、作業位置Pl(n)は左手系で処理するように設定し(ステップS5)、作業位置番号nが作業位置数Nより小さいか否かを判断する(ステップS6)。「n<N」であれば(YES)、作業位置番号nをインクリメントして(ステップS7)ステップS3に戻る。また、ステップS3において、作業位置Pl(n)が領域Area3に無ければ(NO)、作業位置Pl(n)は右手系で処理するように設定し(ステップS4)、ステップS6に移行する。
【0027】
一方、ステップS1において、投入又は取出し位置Pwが領域Area1に無ければ(NO)、次に領域Area3にあるか否かを判断する(ステップS8)。Area3にある場合(YES)、以降のステップS9〜S14は、上述したステップS2〜S7の処理を領域Area1について行うものとなる。すなわち、ステップS10では、作業位置Pl(n)が領域Area1にあるか否かを判断し、Area1にあれば(YES)右手系に(ステップS11),Area1に無ければ(NO)左手系に(ステップS12)設定する。
【0028】
ステップS8で「NO」と判断した場合は、作業位置Pl(n)が右手系,左手系の何れでも作業可能な領域Area2(共通領域)にあることを示す。この時、図3(a)に示すように、各作業位置の列番号k(1≦k≦K)を「1」に設定し(ステップS15)、そのk列が、全て領域Area2に属しているか否かを判断する(ステップS16)。全て領域Area2に属している場合は(YES)そのk列を基準列として、各作業位置の列を、(1)1〜(k−1)列の群と(2)k〜K列の群とに2分する(ステップS17)。尚、k列が全て領域Area2に属していなければ(ステップS16:NO)ステップS19に移行する。
そして、(1)群の作業を右手系で行い、(2)群の作業を左手系で行った場合をシミュレーションして作業時間ts(k)を計算する(ステップS18)。それから、列番号kをインクリメントして(ステップS19)、「k<K」であれば(ステップS20,YES)ステップS16に戻り、上記の処理を繰り返し実行する。
【0029】
全ての列について作業時間ts(k)を計算し、「k=K」になると(ステップS20,NO)、作業時間ts(k)が最小となった列kをkminに決定し(ステップS21)、パレット56を、(1)1〜(kmin−1)列の群と(2)k〜K列の群とに分割し、(1)の群は右手系で作業し、(2)の群は左手系で作業するように設定する(ステップS22)。そして、パレット56を(1),(2)の群に分割した上で、各群について作業順序を設定すると(ステップS23)処理を終了する。
【0030】
図3(b)には、N=28,K=7,kmin=4であった場合を例示する。この時、第1列〜第3列が右手系で作業を行うパレット56Rとなり、第4列〜第7列が、左手系で作業を行うパレット56Lとなる。したがって、各作業位置Pl(1)〜Pl(28)までパレタイジングを行う場合には、Pl(12)から〜Pl(13)に移行する間に、右手系→左手系の切り替えが1回だけ行われる。
【0031】
以上のアルゴリズムに従って制御装置40がロボット51を制御すれば、ロボット51が右手系で位置Pl(1)から作業を開始し、現在位置Pl(n)に隣接する作業位置が右手系で継続して作業可能であれば[Pl(12)まで]その位置が次の作業位置となる。そして、位置Pl(13)では右手系による作業の継続が不可となるから左手系に切り替えて、最後の位置Pl(28)まで作業を行うことになる。
【0032】
以上のように本実施例によれば、制御装置40は、設定された作業領域内,すなわち所定位置に配置されたパレット56について、ロボット51のアーム54が右手系,左手系の各制御系列により動作可能となる領域を計算し、パレット56に対するワーク供給又は取出し位置Pwを基準に初期作業位置を決定すると、その初期作業位置からロボット51が順次作業を進める位置をパレット56内で決定する。
そして、アーム54の現在位置Pl(n)に隣接する作業位置が同じ制御系列で作業可能であればその位置を優先して次の作業位置とし、同じ制御系列では作業不可であればそれ以外に継続して作業可能な位置があれば当該位置での作業を同じ制御系列で行い、前記位置がなければ異なる制御系列で作業可能な位置を次の作業位置とする。
【0033】
すなわち、アーム54の現在位置Pl(n)を中心に隣接する作業位置は複数の場合があるから、それらの内1つの候補は制御系列を切替える必要があるとしても、他の候補は同じ制御系列で作業が継続可能となる場合がある。したがって、それらを全て検討しても同じ制御系列による作業が不可であれば、異なる制御系列で作業可能なものを次の作業位置とすることで、制御系列の切り替え回数を極力少なくして生産サイクルタイムのロスを確実に低減することができる。
【0034】
具体的には、ロボット51が、直線移動部52に配置される回転軸を中心に、ツール55が着脱される先端部が回転移動するアーム54を有するXθ機構を備えたものを制御対象とし、制御装置40は、直線移動部52の移動方向であるX方向に直交するY方向に並ぶ列上にある位置を優先して次の作業位置に決定し、その列内で隣接する作業位置がなければ、X方向に沿って並ぶ列上で次の作業位置を決定する。
すなわち、Xθ機構を備えるロボット51の場合、回転駆動部53を直線移動させることなく留めた状態で、アーム54の先端を回転させるだけで次の作業位置に移行する方が移動時間が短くなる。したがって、Y方向に沿って並ぶ列上で次の作業位置に決定すれば、アーム54を回転させるだけで次の作業位置に移行できる可能性がより高くなり、作業時間を短縮することができる。
【0035】
また、制御装置40は、ワーク供給位置又はワーク取出し位置PwがArea2に属する場合、全ての作業位置がArea2に属する基準列で作業領域を2つに分割し、分割した各作業領域について、それぞれ各領域に最も近い右手系,左手系で作業させるように切り替えた場合の作業時間の総計ts(k)を求め、その総計ts(k)が最小を示した基準列kminで右手系,左手系を切り替えるので、全体の作業時間が確実に最小となるように制御系列を切替えることができる。
【0036】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形または拡張が可能である。
パレットは、必ずしもその一辺が、ロボット51を基準とするX,Y方向に並行となるように配置されるとは限らない。したがって、優先的に選択する作業位置は、直線移動部の移動方向に対する開き角がより大きい方向に沿って並ぶ列上にある位置とすれば良い。
また、例えばパレットに対してワークを供給する作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク供給位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定し、ワークを取り出す作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク取出し位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定すれば良い。このように制御すれば、無駄な作業領域の切り替えが減るので制御が容易となり、ワークの供給位置又は取出し位置と同じ制御系列で作業できる領域数が増えるので、作業時間を短縮することができる。
【0037】
パレタイジングに限ることなく、例えば塗装作業を行うロボットについても同様に適用することができる。
Xθ機構を備えるロボットに限ることない。したがって、例えば水平多関節型や垂直多関節型等のように、より多くの駆動軸,関節機構を備えており、ツール部の1つの位置又は姿勢に対して異なる軸位置を設定する制御形態が3つ以上選択可能であるものに適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例であり、ロボットの各手系による作業領域とパレットとの位置関係を示す図
【図2】制御アルゴリズムのフローチャート
【図3】(a)はパレットの作業位置をk列を基準に分けた状態、(b)は(a)の一具体例を示す図
【図4】ロボットの斜視図
【図5】ロボットの正面図
【図6】旋回ユニットを取外して示すロボットの下面側斜視図
【図7】旋回ユニットの構造を模式的に示す縦断面図
【図8】従来技術を示す、Xθ機構を備えたロボットの構成をモデル的に示す図
【図9】ロボットの各手系による作業領域を示す図
【符号の説明】
【0039】
図面中、1はロボット、2は直動ユニット(直線移動部)、3は旋回ユニット(回転駆動部)、21は旋回アーム(回転部材)、40は制御装置(領域計算手段,作業位置決定手段)、51はロボット、52は直線移動部、53は回転駆動部、54はアーム(回転部材)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツール部の1つの位置又は姿勢に対して異なる軸位置を設定する制御形態が選択可能であり、選択された各制御形態は、それぞれ異なる系列により制御される複数の制御系列を有するロボットの制御装置において、
前記ロボットについて所定の作業領域が設定されると、前記作業領域内において、各制御系列による動作可能領域を計算する領域計算手段と、
前記作業領域に対してワークが供給される位置,又は前記作業領域よりワークを取り出す位置を基準として初期作業位置を決定し、前記初期作業位置から前記ロボットが順次作業を進める位置を前記作業領域内で決定する作業位置決定手段とを備え、
前記作業位置決定手段は、
前記ロボットの現在位置に隣接する作業位置が同一の制御系列により継続して作業可能である場合は、その位置を優先して次の作業位置に決定し、
前記隣接する作業位置が同一の制御系列では継続して作業不可である場合は、それ以外に継続して作業可能な位置があるか否かを判断し、前記位置があれば当該位置での作業を同一の制御系列により行い、前記位置がなければ、異なる制御系列により作業可能な位置を次の作業位置に決定することを特徴とするロボットの制御装置。
【請求項2】
前記ロボットは、リニアアクチュエータにより直線移動する直線移動部と、その直線移動部に配置される回転軸を中心として、ツールが着脱される先端部が回転移動する回転部材とを備え、
前記作業位置決定手段は、前記ロボットの現在位置に隣接する作業位置で、且つ同一の制御系列により継続して作業可能であるものを選択する場合、
前記直線移動部の移動方向に対する開き角がより大きい方向に沿って並ぶ列上にある位置を優先して次の作業位置に決定し、前記同一列内での隣接する作業位置がない場合は、前記直線移動部の移動方向に対する開き角がより小さい方向に沿って並ぶ列上にある位置を次の作業位置に決定することを特徴とする請求項1記載のロボットの制御装置。
【請求項3】
前記作業位置決定手段は、前記作業領域に対してワークが供給される位置,又は前記作業領域よりワークを取り出す位置が、複数の制御系列の動作可能領域(共通領域と称す)に属する場合、
全ての作業位置が前記共通領域に属する列(基準列と称す)を基準として、前記作業領域を複数に分割し、
分割した各作業領域について、それぞれ直近となる制御系列で作業させるように切り替えた場合の作業時間の総計を求め、前記基準列が複数ある場合は各基準列について同様に前記作業時間の総計を求め、
前記作業時間の総計が最小を示した基準列で、前記複数の制御系列を切り替えることを特徴とする請求項2記載のロボットの制御装置。
【請求項4】
前記作業位置決定手段は、
前記作業領域に対してワークを供給する作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク供給位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定し、
前記作業領域よりワークを取り出す作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク取出し位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のロボットの制御装置。
【請求項5】
ツール部の1つの位置又は姿勢に対して異なる軸位置を設定する制御形態が選択可能であり、選択された各制御形態は、それぞれ異なる系列により制御される複数の制御系列を有するロボットを制御する方法において、
前記ロボットについて所定の作業領域が設定されると、前記作業領域内において、各制御系列による動作可能領域を計算し、
前記作業領域に対してワークが供給される位置,又は前記作業領域よりワークを取り出す位置を基準として初期作業位置を決定し、前記初期作業位置から前記ロボットが順次作業を進める位置を前記作業領域内で決定し、
前記ロボットの現在位置に隣接する作業位置が同一の制御系列により継続して作業可能である場合は、その位置を優先して次の作業位置に決定し、
前記隣接する作業位置が同一の制御系列では継続して作業不可である場合は、それ以外に継続して作業可能な位置があるか否かを判断し、前記位置があれば当該位置での作業を同一の制御系列により行い、前記位置がなければ、異なる制御系列により作業可能な位置を次の作業位置に決定することを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項6】
前記ロボットが、リニアアクチュエータにより直線移動する直線移動部と、その直線移動部に配置される回転軸を中心として、ツールが着脱される先端部が回転移動する回転部材とを備えて構成されており、
前記ロボットの現在位置に隣接する作業位置で、且つ同一の制御系列により継続して作業可能であるものを選択する場合、
前記直線移動部の移動方向に対する開き角がより大きい方向に沿って並ぶ列上にある位置を優先して次の作業位置に決定し、前記同一列内での隣接する作業位置がない場合は、前記直線移動部の移動方向に対する開き角がより小さい方向に沿って並ぶ列上にある位置を次の作業位置に決定することを特徴とする請求項5記載のロボットの制御方法。
【請求項7】
前記作業領域に対してワークが供給される位置,又は前記作業領域よりワークを取り出す位置が、複数の制御系列の動作可能領域(共通領域と称す)に属する場合、
全ての作業位置が前記共通領域に属する列(基準列と称す)を基準として、前記作業領域を複数に分割し、
分割した各作業領域について、それぞれ直近となる制御系列で作業させるように切り替えた場合の作業時間の総計を求め、前記基準列が複数ある場合は各基準列について同様に前記作業時間の総計を求め、
前記作業時間の総計が最小を示した基準列で、前記複数の制御系列を切り替えることを特徴とする請求項6記載のロボットの制御方法。
【請求項8】
前記作業領域に対してワークを供給する作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク供給位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定し、
前記作業領域よりワークを取り出す作業の場合は、どの制御系列でも対応可能な作業領域については、ワーク取出し位置が属する制御系列と同じものを優先的に設定することを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載のロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−169668(P2009−169668A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6994(P2008−6994)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】