説明

ロボットの走行軌道制御システム

【課題】 ロボットの移動方向を定める上で必要な情報を、ICタグから確実に取得することができる走行軌道制御システムを提供する。
【解決手段】 放射方向に向いた複数のICタグで構成される移動標識モジュールと、走行機能を備えたロボットとからなり、移動標識モジュールをロボットの移動空間内の床、天井、壁、備品、障害物等の物体に取り付けて、移動標識モジュールのICタグに記憶された情報を、いずれの方向からでもロボットが読み取ってロボットが取得した情報に基づいて自律移動するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律移動ロボットの走行軌道制御システムに関し、殊に、ロボットの移動径路脇に配置されたショーケースや商品ワゴン等の商品を収納又は陳列する備品などに取り付けられたICタグやRFIDタグ等の電子記録媒体(以下これらを総称してICタグという)を手掛かりに自律走行する自律移動ロボットの走行軌道制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、移動ロボットの走行軌道制御は、磁気テープや反射テープによる誘導方式、誘導ケーブルによる電磁誘導方式、レーザーなどの光学的な誘導方式、超音波センサーによるデドレコニング誘導方式などが知られている。殊に誘導ケーブルによる電磁誘導方式は原理が簡単であるため無人搬送車等に広く実用化されているが、誘導ケーブルの敷設にコストがかかると共に、軌道変更が簡単にできないことが大きな課題であった。
【0003】
また、上記した誘導方式に代えて、ロボットが移動する施設内のルートにICタグを離散配置させ、ロボットをICタグのデーターを読み取りながら設定ルートに沿って走行させる方式が特許文献1で提案されている。
【0004】
この従来のICタグによる誘導方式では、ロボットの現在位置を把握するのに、予め端末機に地図データーを格納しておき、この端末機からの地図データーとICタグからの識別情報とを照らし合わせて作業ルート上の自らの位置を読み取り、行動する方式がとられている。
【特許文献1】特開平2003−232881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した、従来のICタグによる誘導方式では、地図データーの作成(マッピング)の際に、移動ルート空間内の備品や障害物の位置、寸法計測をして入力しなければならないので、作業が非常に面倒であるとともに端末機等の付加設備が必要となってコスト高となる。殊に移動ルート空間内に置かれる備品の大きさや位置がしばしば変更される場合には、その都度マッピングしなければならず大変煩雑であった。
【0006】
また、従来のICタグによる誘導方式では、ICタグが平面的な形状であることから、ロボットの現在位置と、備品等の物体に取り付けられたICタグとの角度関係、すなわちロボットの現在位置とICタグが取り付けられた物体表面との角度によっては、ロボットが接近しても、的確なタイミングでICタグ情報を受信すること自体が困難となり、ロボットが走行するときに、必要な情報を取得することができない場合があった。
【0007】
さらに、ICタグとロボットとの間で情報信号の送受信ができたとしても、ロボットの現在位置とICタグが取り付けられた物体表面との角度(方向)に関する情報を十分に得ることが困難であり、ロボットとICタグとが接近してきたときに、両者の間の大まかな角度(ロボットの移動方向)は把握できるものの、正確な方向付けを行うことが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、地図データーを作成することなく、ロボットの移動方向を定める上で必要な情報を、ICタグから確実に取得することができる走行軌道制御システムを提供することを目的とする。特に、平面形状のICタグと、ロボットとの角度関係がどのようであっても、ICタグから必要な情報を確実に取得して、ロボットを的確に誘導することができる走行軌道制御システムを提供することを目的とする。
また、ロボットの周囲にある物体表面との正確な角度関係を把握することができ、ロボットの移動方向を正確に定めることができる走行軌道制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明に係る自律移動ロボットの走行軌道制御システムは、放射方向に向いた複数のICタグで構成される移動標識モジュールと、走行機能を備えたロボットとからなり、前記移動標識モジュールがロボットの移動空間内の床、天井、壁、備品、障害物等の物体に取り付けられ、移動標識モジュールのICタグに記憶された情報を読み取ってロボットが自律移動するようにしている。
本発明によれば、移動標識モジュールには、複数のICタグが放射方向を向くように取り付けられているため、ICタグが向けられている放射方向のうちの、いずれの方向からロボットが接近すると、その方向に最も直面するいずれか1つのICタグが確実にロボットとの間で駆動電力およびICタグに記憶されたデータの送受を行うことになる。
【発明の効果】
【0010】
したがって、本発明によれば、ICタグが取り付けられた移動標識モジュールとロボットとの角度関係がどのようであっても、移動標識モジュールのいずれかのICタグから必要な情報を確実に取得して、ロボットを的確に誘導することができる。
また、移動標識モジュールが取り付けられた物体表面との正確な角度関係を把握することができ、ロボットの移動方向を正確に定めることができる。
さらには、移動標識モジュールのICタグに記録された情報を、確実に読み取りながら移動できるようにしたから、ロボットに特別な地図データーを与えなくても無軌道上を自律走行することが可能となる。
【0011】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、移動標識モジュールが、放射方向に向いた複数のタグ取付面を有するボデイの前記タグ取付面にICタグを夫々貼り付けることによって形成されるようにしてもよい。
例えば正八角柱を半裁した形状を有するボデイの取付座面(裁断面)を除く5面を夫々タグ取付面とし、この5面の夫々にICタグを取り付けることによって移動標識モジュールを形成することができる。
これにより、複数の平面状のICタグをタグ取付面に固定することができ、予めタグ取付面の角度を測定しておくことにより、正確な角度情報を取得することができる。
【0012】
上記発明において、移動標識モジュールにおける複数のICタグには、少なくとも移動標識モジュールの物体への取付面を基準としたICタグの取付角度情報と、移動標識モジュールの物体への取付位置情報が記憶されているようにしてもよい。
これにより、ロボットの現在位置と物体の取付面(物体表面)との角度関係とともに、物体への取付位置が把握できるので、ロボットが接近した場合であっても、角度情報と取付位置情報とに基づいて、ロボットが物体表面と平行な方向で衝突しない方向にロボットの進行方向を定めることができる。
【0013】
上記発明において、ロボットは送信部と受信部を含み、送信部は電力用電波信号を送信し、受信部はICタグから送り出される情報信号を受信し、受信部がICタグからの情報信号を受信したときの電力用電波信号の送信電力値からICタグとの距離を把握するようにしてもよい。
これにより、受信部がICタグからの信号を受信したときの、送信部からの送信電力値からICタグとの距離を把握することができ、ロボットが物体に接近しすぎたり、衝突することを阻止することができる。
【0014】
上記発明において、移動標識モジュールが取付けられる物体が、店舗内でロボットの移動経路脇に置かれたショーケースであるようにしてもよい。
これにより、ショーケースに移動標識モジュールを取り付けているので、店舗内でのショーケースの配置を自由に変更することができ、その場合にあっても、移動標識モジュールにより、ロボットがどのような方向から接近した場合でも、確実に、ロボットとショーケースとの位置関係や角度関係を把握することができる。
【0015】
上記発明において、移動標識モジュールが取付けられる物体が、店舗内でロボットの移動経路脇に置かれたショーケースであって、該ショーケースに収納された商品に商品情報を入力したICタグが貼り付けられ、移動標識モジュールのICタグからの情報取得と同時に収納商品の管理に必要な情報を取得できるようにしてもよい。
これにより、ショーケースに設置された移動標識モジュールのICタグからの情報取得と同時に、収納商品の数量等の商品管理情報を取得できるようにすることにより、商品の補充や売れ筋商品との交換などの商品管理を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下において本発明にかかる自律移動ロボットの走行軌道制御システムを実施例に基づき説明する。
図1は本発明をスーパーマッケットの店内に応用した実施例を示すものである。店内には各種商品を陳列又は格納したショーケースやワゴン等の物体(以下ショーケースという)1a〜1nが買い物客やロボット3が巡回する通路を空けて配置されている。各ショーケース1a〜1nには移動標識モジュール2a〜2nが取り付けられている。
【0017】
ショーケース1a〜1nに取り付けられた移動標識モジュール2a〜2nは、図2並びに図3に示すように正八角柱を半裁した形状を有するボデイ21の取付座面(裁断面)22を除く5面が夫々タグ取付面23…として形成され、これら5面の取付面23…に夫々にICタグ4a〜4eを貼り付けることによって形成されている。これにより各ICタグ4a〜4eは夫々放射方向に向かうように配置されている。またICタグ4a〜4eには取付座面21を基準とする取付角度、ショーケースのサイズ、ショーケースに収納又は陳列された商品の種別、移動標識モジュールのショーケースへの取付位置、ICタグ番号の情報が入力されている。例えばショーケース1aの移動標識モジュール2aのICタグ4a〜4eには図4の(イ)に示すような情報が、ショーケース1bの移動標識モジュール2bのICタグ4a〜4eには図2の(ロ)に示すような情報が夫々入力されている。またショーケース1a〜1nに収納された各商品にも商品の名前、値段、商品履歴などの商品情報が記録されたICタグが貼り付けられている。
【0018】
ロボット3は、図5に示すように、制御部によってコントロールされて車輪3aにより走行する自走機構と、移動モジュール2a〜2nのICタグ4a〜4eの情報を読み取るために、ICタグを駆動させるための電力電波信号を発信する送信部と、電力電波信号により駆動されたICタグが情報信号を発したときに、この情報信号を受信する受信部とを備えている。ここで、送信部はキャリア信号を変調して電力用電波信号として送信する。制御部は、ICタグから送信される情報信号を受信したときに、そのときの送信電力値からICタグとの距離を把握する。
【0019】
図1に示すように、スタート地点からロボット3を直進させると、送信部からの電波信号によって最短で且つ最も指向性がよくて受信効率の高い位置にある移動標識モジュールのICタグ、即ち、ショーケース1aの移動標識モジュール2aにおけるICタグ4bが検出され、このショーケース1aのサイズ、収納されている商品の種別が識別される。同時に収納されている各商品に貼り付けられたICタグによって商品の数量が把握される。この把握された情報はロボット制御部のメモリーに記憶して巡回終了後に読み取るか、或いはロボットに通信手段を設けておいて商品管理コンピューターに通信することにより商品の補充や売れ筋商品との交換などの商品管理が可能となる。
【0020】
また、検出されたICタグ4bの角度情報からショーケース1aの位置を把握することができ、さらに次のICタグ4c、4dを順次検出することによりこれらICタグの角度情報とショーケースサイズ情報からロボット3をショーケース2aの前面に並行して正確に直進させることができる。進行に従って次のショーケース1bの移動標識モジュール2bのICタグ2aまたは2bを最短のICタグとして特定してこのICタグに記憶された情報を読み取る。この情報により前記と同じようにショーケース1bのサイズ、収納されている商品の種別並びに収納されている各商品に貼り付けられたICタグによって商品の数量が把握される。同時に前記同様にICタグの角度情報とショーケースサイズ情報からからロボット3をショーケース2bの前面に並行して直進させることができる。
【0021】
次いでロボット3が進行して次のショーケース1cの移動標識モジュール2cの何れかのICタグを検出しこれに記憶された情報を読み取ることによりショーケース2cの位置およびサイズと、ロボット3のショーケース1cに対する進行方向が把握される。これによりロボットがさらに直進すれば、ショーケース1cの前面に衝突することが予知される。衝突が予知された場合、本実施例では予めロボット3がショーケースなどの障害物に所定の距離まで近づいた時に右折するように、ロボットの走行指令が入力されている(但し、右折としたのは移動標識モジュールの取付場所がショーケースの左端とする約束があることを前提としている)。右折時のショーケース2cとの距離はICタグが受信したときの送信電力値から設定することができる。このようにして、ロボット3は走行しながら順次最短で受信効率のよい位置にある移動標識モジュールのICタグを特定してそれに記録された位置、角度、物体内容などの情報を読み取って自律巡回移動し、移動径路脇にあるショーケースに収納又は陳列された商品の管理を行うことができる。またICタグが受信したときのロボット送信電力値からICタグとの距離を把握することによってロボット3がショーケースに接近しすぎたり、衝突することを阻止することができる。
【0022】
また本実施例では、受信環境条件の変化によって計測される距離に誤差が生じないように、図1に示す距離校正用モジュール20が、ロボットスタート地点から送受信できる店内の天井コーナー部に取り付けられている。この距離校正用モジュール20は、前記した移動標識モジュールと同じように放射方向に向かった5個のICタグを備え、これらICタグには、図6に示すようにロボットスタート地点を基準とした距離校正用モジュール20の取付位置並びに各ICタグの取付角度を示す角度情報が記憶されている。図に示されたXは、図1におけるロボットスタート地点からの横方向の距離であり、Yは縦方向の距離であり、Zは床面からの高さを示す。
【0023】
スタートに先立って、図7に示すように、ロボットの送信部からキャリア信号を変調して電力用電波信号として階段状に変化させて送信し、距離校正用モジュール20のICタグが電力用電波信号を受信して、ICタグから信号を発するまで順次送信電力を増大させていく。ICタグが電力電波信号を受信して駆動することにより、信号を発信する。この信号をロボット3の受信部が受信したときの送信電力値がそのときの距離の相関値となる。即ち、スタート地点から距離校正用モジュール20までの距離が一定であるので、受信部が信号を受信したときの送信電力値がスタート地点から距離校正用モジュール20までの距離と関係することとなる。従ってモジュール20までの距離とこの送信電力との値を基準として、走行時の各移動標識モジュールとの距離を受信時の送信電力値から正確に演算把握することができる。またスタート時に、もしロボットのスタート位置に誤差があれば、距離校正用モジュール20のICタグの角度情報並びに取付位置情報によってロボットの位置が把握され、予め設定された正確なスタート位置に自動的に移動修正するように設定することも可能である。
【0024】
本発明では、上記した実施例に限らず、その構成要旨を逸脱しない範囲内で適宜改変して実施することが可能である。
例えばロボットを巡回走行させるのに、巡回走行ルートを挟んだ左右の物体に設置した移動標識モジュールを同時に手掛かりにして、自律走行させることもできる。この場合は、移動標識モジュールからの角度情報や電力電波信号の大小による距離情報に基づいて、左右の物体の中間位置を認識しながら進行させればよい。また、右折や左折等のターン箇所や方向変換箇所または必要と思われる箇所にのみ動作を指示するICタグを床面や天井面に貼り付けるようにしてもよい。
また前記した移動標識モジュール並びに距離校正用モジュールは5面体としたが、放射方向に向かった4面体或いは3面体、逆に6面体以上で形成してもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明はスーパーマッケット等の大型店舗内に置かれるショーケースや商品ワゴン等に移動標識モジュールを夫々設置し、これら移動標識モジュールのICタグからの情報を正確に読み取りながらロボットを自律走行させることにより、ショーケース内の商品内容を把握して商品管理を自動的に行うのに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかるロボットの走行軌道制御システムをスーパーマッケットに応用した実施例を示す概略的な平面図。
【図2】本発明に於ける移動標識モジュールの一例を示す斜視図。
【図3】本発明に於けるロボットが移動標識モジュールを手掛かりに進行する状態を説明するための平面図。
【図4】上記移動標識モジュールのICタグに入力された情報を示す図。
【図5】本発明にかかるロボットの概略的な説明図。
【図6】距離校正用モジュールのICタグに入力された情報を示す図。
【図7】距離校正時の動作を示す説明図。
【符号の説明】
【0027】
1a〜1n ショーケース
2a〜2n ショーケース(物体)に取り付けられた移動標識モジュール
3 ロボット
4a〜4e 移動標識モジュールのICタグ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射方向に向いた複数のICタグで構成される移動標識モジュールと、走行機能を備えたロボットとからなり、前記移動標識モジュールがロボットの移動空間内の床、天井、壁、備品、障害物等の物体に取り付けられ、移動標識モジュールのICタグに記憶された情報を読み取ってロボットが自律移動するようにしたことを特徴とするロボットの走行軌道制御システム。
【請求項2】
移動標識モジュールが、放射方向に向いた複数のタグ取付面を有するボデイの前記タグ取付面にICタグを夫々貼り付けることによって形成されている請求項1に記載のロボットの走行軌道制御システム。
【請求項3】
移動標識モジュールにおける複数のICタグには、少なくとも移動標識モジュールの物体への取付面を基準としたICタグの取付角度情報と、移動標識モジュールの物体への取付位置情報とが記憶されている請求項1に記載のロボットの走行軌道制御システム。
【請求項4】
前記ロボットは送信部と受信部を含み、送信部は電力用電波信号を送信し、受信部はICタグから送り出される情報信号を受信し、受信部がICタグからの情報信号を受信したときの電力用電波信号の送信電力値からICタグとの距離を把握するようにした請求項1に記載のロボットの走行軌道制御システム。
【請求項5】
移動標識モジュールが取り付けられる物体が、店舗内でロボットの移動経路脇に置かれたショーケースである請求項1に記載のロボットの走行軌道制御システム。
【請求項6】
移動標識モジュールが取り付けられる物体が、店舗内でロボットの移動経路脇に置かれたショーケースであって、該ショーケースに収納された商品に商品情報を入力したICタグが貼り付けられ、移動標識モジュールのICタグからの情報取得と同時に収納商品の管理に必要な情報を取得できるようにした請求項1に記載のロボットの走行軌道制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−195684(P2006−195684A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5803(P2005−5803)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】