説明

ロボットハンドの制御装置

【課題】簡易な構成で硬さの異なる被接触体に対応することができるロボットハンドの制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係るロボットハンドの制御装置は、指が被接触体に接触した時における関節の状態を推定する接触時関節状態推定器131と、指が被接触体に接触していない時における関節の状態を推定する非接触時関節状態推定器132と、指が被接触体に接触したか否かを判定する接触判定器133と、関節に印加されるトルク外乱を推定するトルク外乱推定器134と、被接触体の剛性を推定する剛性推定器135と、接触判定結果が接触状態の場合、関節の制御剛性を、指が被接触体の押し込み状態を維持できる最小値に演算する制御剛性演算器137と、関節モータ121を制御する制御器138と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットハンドの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なロボットハンドは、複数の指と、当該指が根元部分において動作可能(回転可能)に連結されたベースと、を備える。当該指は、複数のリンクと、隣り合う2つのリンクを動作可能に連結する関節と、関節を駆動する関節モータと、を備える。このような構成により、ロボットハンドは人間の手の機能の一部を模倣可能な構成とされている。
【0003】
図7はロボットハンドの概略図を示す。図7に示すロボットハンドは、第1指〜第4指がベース723に動作可能に連結されている。
詳細には、第1指は、第1指第1リンク701と、第1指MP(metacarpophalangeal)関節702と、第1指第2リンク703と、第1指IP(interphalangeal)関節704と、を備える。
【0004】
第2指は、第2指第1リンク705と、第2指MP関節706と、第2指第2リンク707と、第2指PIP(proximal interphalangeal)関節708と、第2指第3リンク709と、第2指DIP(distal interphalangeal)関節710と、を備える。
【0005】
第3指は、第3指第1リンク711と、第3指MP関節712と、第3指第2リンク713と、第3指PIP関節714と、第3指第3リンク715と、第3指DIP関節716と、を備える。
【0006】
第4指は、第4指第1リンク717と、第4指MP関節718と、第4指第2リンク719と、第4指PIP関節720と、第4指第3リンク721と、第4指DIP関節722と、を備える。
【0007】
これらの指の関節はトーションばねを備える。隣り合った2つの関節は連動リンク部材(不図示)により連動して動作するようになっている。連動リンク部材を、関節モータ(不図示)で回転させることにより、各指の曲げ伸ばしを実施する。このとき、指の曲げ伸ばし動作中に指が被接触体に接触し反力を受けると、上述のトーションばねがその反力を吸収する。
【0008】
このようなロボットアームの構成を利用し、特許文献1のロボットハンドは、複数の指それぞれの関節の剛性を変えることで、柔らかい被接触体を扱う際には関節の剛性の低い指を用い、硬い被接触体を扱う際には関節の剛性の高い指を用いる構成とされている。
【0009】
また、特許文献2にも、硬さの異なる被接触体を良好に把持することができるように構成されたロボットハンドが開示されている。特許文献2のロボットハンドは、指の先端に設けられた探触子の検出情報に基づいて、被接触体への接触検出、及び滑り検出を行い、被接触体が重力方向の相対的移動を生じないように、被接触体を最小限度の把持力で把持する構成とされている。
【0010】
ちなみに、特許文献3、4には、被接触体を良好に把持できるように構成されたロボットハンドが開示されている。特許文献3のロボットハンドは、指リンクを剛性が低い被覆部材で被覆し、更にその上から摩擦係数が高い被覆部材で被覆した構成とされている。特許文献4のロボットハンドは、力検出手段により検出されたロボットハンドに加わる外力が増加した時に把持力を増加させる構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−125888号公報
【特許文献2】特開2010−149262号公報
【特許文献3】特開2005−88096号公報
【特許文献4】特開平10−100089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のロボットハンドは、関節の剛性が予め定められているので、硬さの異なる被接触体に柔軟に対応することができない。
特許文献2のロボットハンドは、当該ロボットハンドの先端に探触子を設ける必要があり、構成が煩雑になる。
【0013】
本発明の目的は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡易な構成で硬さの異なる被接触体に対応することができるロボットハンドの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一形態に係るロボットハンドの制御装置は、リンクと、前記リンクの関節と、を有する指を備えたロボットハンドの制御装置において、前記関節の角度検出値である関節角度検出値に基づいて、前記指が被接触体に接触した時における関節角度、関節速度、関節加速度である前記関節の状態を推定する接触時関節状態推定器と、前記指が前記被接触体に接触していない時における前記関節の状態を推定する非接触時関節状態推定器と、前記関節角度検出値と、前記接触時関節状態推定器が出力する接触時関節状態推定値と、前記非接触時関節状態推定器が出力する非接触時関節状態推定値と、に基づいて、前記指が前記被接触体に接触したか否かを判定する接触判定器と、前記接触判定器が出力する判定結果が接触状態の場合、前記接触時関節状態推定値に基づいて、前記関節に印加されるトルク外乱を推定するトルク外乱推定器と、前記接触判定結果が接触状態の場合、前記接触時関節状態推定値と、前記トルク外乱推定器が出力するトルク外乱推定値と、に基づいて、前記被接触体の剛性を推定する剛性推定器と、前記接触判定結果が接触状態の場合、前記関節角度検出値と、前記剛性推定値と、に基づいて、前記関節の制御剛性を、前記指が前記被接触体の押し込み状態を維持できる最小値に演算し、前記接触判定結果が非接触状態の場合、前記関節の制御剛性を、予め推定された前記指が前記被接触体に接触した状態である場合における前記関節の制御剛性より大きな値に演算する制御剛性演算器と、前記制御剛性演算器が出力する制御剛性演算値に基づいて、前記関節を駆動する関節モータを制御する制御器と、を備える。
【0015】
前記ロボットハンドの指は、第1関節、第2関節、第3関節を備え、前記被接触体は、家電のキー又は楽器の鍵盤若しくはボタンと弾性体とを備え、前記制御装置は、前記接触判定結果が接触状態の場合、前記接触時関節状態推定値に基づいて、前記被接触体が押し込み底に到達したか否かを判定する到達判定器をさらに備え、前記制御剛性演算器は、前記接触判定結果が非接触状態の場合、前記剛性推定値を前記第1関節及び前記第2関節回りの回転剛性に等価変換した値よりも大きく、前記指の第1関節及び第2関節の制御剛性を演算し、前記接触判定結果が接触状態の場合、前記剛性推定値を前記第1関節及び前記第2関節回りの回転剛性に等価変換した値と略等しい値に、前記第1関節及び第2関節の制御剛性を演算し、かつ前記到達判定器が出力する到達判定結果が前記押し込み底に非到達状態の場合、前記剛性推定値を前記第3関節回りの回転剛性に等価変換した値よりも大きな値に、前記第3関節の制御剛性を演算し、前記到達判定結果が前記押し込み底に到達状態の場合、前記剛性推定値を前記第3関節回りの回転剛性に等価変換した値と等しい値に、前記第3関節の制御剛性を演算すること、が好ましい。
【0016】
前記接触判定器は、前記関節角度から前記接触時関節状態推定値の成分である接触時関節角度推定値を減算した接触時関節角度推定誤差の絶対値の時間平均値が、前記関節角度から前記非接触時関節状態推定値の成分である非接触時関節角度推定値を減算した非接触時関節角度推定誤差の絶対値の時間平均値より小さい場合、接触状態であると判定し、それ以外の場合は非接触状態であると判定すること、が好ましい。
【0017】
前記トルク外乱推定器は、前記トルク外乱推定値を[数1]により算出すること、が好ましい。
【数1】

ただし、記号の意味は以下の通りであり、d^、q^、f^、Tはベクトル、Jは行列である。
d^:トルク外乱推定値
J:慣性行列
^:接触時の非線形力の推定値(接触時非線形力推定値)
q^:接触時の関節の状態の推定値(一般化座標推定値)
T:関節モータのトルク
【0018】
前記剛性推定器は、前記剛性推定値を[数2]により算出すること、が好ましい。
【数2】

ただし、記号の意味は以下の通りである。
k^:被接触体の剛性推定値[N/m]
:第1関節の質量[kg]
10:第1関節の慣性モーメント[kg・m]
θ:第1関節の角度[rad]
θ:第2関節の角度[rad]
θ:第3関節の角度[rad]
m:キー等の質量[kg]
g:重力加速度[m/s]、
:第1リンクの長さ[m]
:第2リンクの長さ[m]
:第3リンクの長さ[m]
10:第1リンクの重心と第1関節との距離[m]
20:第2リンクの重心と第2関節との距離[m]
30:第3リンクの重心と第3関節との距離[m]
:第1関節の関節モータが発生する反時計回りを正としたトルク(第1関節モータトルク)[N・m]
d1^:第1関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値(第1関節トルク外乱推定値)[N・m]
:被接触体を支持する弾性体の自然長
【0019】
前記到達判定器は、前記関節角度から前記接触時関節状態推定値の成分である接触時関節角度推定値を減算した接触時関節角度推定誤差の時間平均値と、前記関節角度から前記非接触時関節状態推定値の成分である非接触時関節角度推定値を減算した非接触時関節角度推定誤差の時間平均値との両方が発散した場合、前記指が前記被接触体の押し込み底に到達したと判定し、それ以外の時は到達していないと判定すること、が好ましい。
【0020】
前記制御剛性演算器は、前記第1関節、第2関節及び第3関節の制御剛性演算値を[数3]により演算すること、が好ましい。
【数3】

ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節の制御剛性(第1関節制御剛性)[N・m/rad]
:第2関節の制御剛性(第2関節制御剛性)[N・m/rad]
:第3関節の制御剛性(第3関節制御剛性)[N・m/rad]
1n:非接触時の第1関節制御剛性[N・m/rad]
2n:非接触時の第2関節制御剛性[N・m/rad]
3n:押し込み底未到達時の第3関節制御剛性[N・m/rad]
10:第1関節回りにおいて被接触体の剛性を等価変換した値(第1関節等価制御剛性)[N・m/rad]
20:第2関節回りにおいて被接触体の剛性を等価変換した値(第2関節等価制御剛性)[N・m/rad]
30:第3関節回りにおいて被接触体の剛性を等価変換した値(第3関節等価制御剛性)[N・m/rad]
k^:キー剛性推定値[N/m]
k:キー剛性
:第1制御剛性のパラメータ
:第2制御剛性のパラメータ
:第3制御剛性のパラメータ
θ:第1関節の角度検出値[rad]
θ:第2関節の角度検出値[rad]
θ:第3関節の角度検出値[rad]
【0021】
前記第1関節を駆動する関節モータは、[数4]で表される第1関節モータトルクTを発生し、前記第2関節を駆動する関節モータは、[数5]で表される第2関節モータトルクTを発生し、前記第3関節を駆動する関節モータは、[数6]で表される第3関節モータトルクTを発生すること、が好ましい。
【数4】

【数5】

【数6】

ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節の制御剛性[N・m/rad]
:第2関節の制御剛性[N・m/rad]
:第3関節の制御剛性[N・m/rad]
:第1関節における制御減衰[N・m・s/rad]
:第2関節における制御減衰[N・m・s/rad]
:第3関節における制御減衰[N・m・s/rad]
10:第1リンクの重心と第1関節の距離[m]
20:第2リンクの重心と第2関節の距離[m]
30:第3リンクの重心と第3関節の距離[m]
:第1リンクの長さ[m]
:第2リンクの長さ[m]
:第3リンクの長さ[m]
:第1関節の質量[kg]
θ:第1関節の角度[rad]
θ^:第1関節の角度推定値[rad]
:第2関節の質量[kg]
θ:第2関節の角度[rad]
θ^:第2関節の角度推定値[rad]
:第3関節の質量[kg]
θ:第3関節の角度[rad]
θ^:第3関節の角度推定値[rad]
m:キー等の質量[kg]
g:重力加速度[m/s]
d1^:第1関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値[N・m]
d2^:第2関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値[N・m]
d3^:第3関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値[N・m]
θ1r:第1関節の角度指令[rad]
θ2r:第2関節の角度指令[rad]
θ3r:第3関節の角度指令[rad]
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように、本発明によると、簡易な構成で硬さの異なる被接触体に対応することができるロボットハンドの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るロボットハンドの制御装置及びその周辺装置を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るロボットハンドにおける、指機構を示すフリーボディー図である。
【図3】本発明のシミュレーションにおける第1関節の角度の時間変化を示す図である。
【図4】本発明のシミュレーションにおける第2関節の角度の時間変化を示す図である。
【図5】本発明のシミュレーションにおける第3関節の角度の時間変化を示す図である。
【図6】本発明のシミュレーションにおける制御剛性の時間変化を示す図である。
【図7】ロボットハンドを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0025】
本発明の実施形態に係るロボットハンドの制御装置(以下、単に制御装置と云う場合がある。)は、例えば家電のキー等を操作する場合又はピアノの鍵盤やトランペットのボタン等を操作するロボットハンドを制御するために良好に適用される。但し、当該制御装置は、家電のキー操作やピアノの鍵盤操作やトランペットのボタン操作等のように、押圧動作を伴う被接触体への接触に限らず、被接触体を把持する場合等にも良好に適用できる。ちなみに、本実施形態の被接触体は、家電のキー等又は楽器の鍵盤若しくはボタン等と、これらを接触前の位置に復帰させる弾性体と、を備えたものである。
【0026】
先ず、当該制御装置によって制御されるロボットハンドの構成を説明する。図2は、ロボットハンドの指機構を示すフリーボディー図である。
指機構は、第1リンク201と、第2リンク203と、第3リンク205と、を備える。第1リンク201と第2リンク203とは、第1関節202を介して動作可能に連結されている。第2リンク203と第3リンク205とは、第2関節204を介して動作可能に連結されている。第3リンク205は、第3関節206を介して動作可能に例えばベースに連結されている。
【0027】
第1関節202、第2関節204、第3関節206それぞれは関節モータ(不図示)を備え、当該関節モータの回転駆動により第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θを変化させてキー207を操作する。
【0028】
ここで、本実施形態の指機構は、図2に示すように、パソコンのキーボードのキー、電化製品の操作部に設置されたボタン、鍵盤楽器の鍵盤等であるキー207を操作する。キー207は、バネ208によって支持されている。
【0029】
次に、当該指機構を制御する制御装置及びその周辺装置の構成を説明する。図1は、制御装置及びその周辺装置を示す機能ブロック図である。図1に示すように、制御装置130の周辺装置として、関節角度指令発生器110と、制御対象120と、を備える。
【0030】
関節角度指令発生器110は、制御装置130から入力されるキー接触判定値とキー底到達判定値とに基づいて、指機構122がキー207を押す際の第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θの目標値である関節角度指令を、第1リンク201がキー207と接触する前、接触して押している間、及び押したキー207がキー底に到達した後に対して生成し出力する。ここで、キー接触判定値とは、キー207が第1リンク201と接触しているか否かを判定した結果である。キー底到達判定値とは、押されたキー207がキー底に到達したか否かを判定した結果である。
【0031】
制御対象120は、一般的なロボットハンドである。制御対象120は、指のメカ機構である指機構122と、制御装置130から入力されるモータ電流に基づいて、第1関節202、第2関節204、第3関節206それぞれを駆動する関節モータ121と、第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θを検出し関節角度検出値として出力する関節角度検出器123と、を備える。
【0032】
制御装置130は、キー接触時関節状態推定器131と、キー非接触時関節状態推定器132と、キー接触判定器133と、トルク外乱推定器134と、剛性推定器135と、キー底到達判定器136と、制御剛性演算器137と、制御器138と、を備える。
【0033】
キー接触時関節状態推定器131は、制御対象120の関節角度検出器123から入力される関節角度検出値(第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θ)等を用いて導出した、第1リンク201がキー207に接触している間における運動方程式に基づいて、関節角度、関節速度、関節加速度(即ち、関節の状態)を推定しキー接触時関節状態推定値として出力する。
【0034】
キー非接触時関節状態推定器132は、制御対象120の関節角度検出器123から入力される関節角度検出値等を用いて導出した、第1リンク201がキー207に接触していない間における運動方程式に基づいて、関節角度、関節速度、関節加速度を推定しキー非接触時関節状態推定値として出力する。
【0035】
キー接触判定器133は、制御対象120の関節角度検出器123から入力される関節角度検出値と、キー接触時関節状態推定器131から入力されるキー接触時関節状態推定値と、キー非接触時関節状態推定器132から入力されるキー非接触時関節状態推定値と、に基づいて、キー接触時における第1関節角度推定誤差θ1c(キー接触時における一般化座標推定誤差q=q−qの第1成分)と、キー非接触時における第1関節角度推定誤差θ1nc(キー非接触時における一般化座標推定誤差q=q−qの第1成分)と、を算出する。キー接触判定器133は、キー接触時における第1関節角度推定誤差θ1cの絶対値がキー非接触時における第1関節角度推定誤差θ1ncの絶対値より小さい場合(abs(θ1c)<abs(θ1nc))、第1リンク201はキー207に接触していると判定し、それ以外の場合は接触していないと判定し、その判定結果をキー接触判定結果として出力する。
【0036】
トルク外乱推定器134は、キー接触判定器133から入力されるキー接触判定結果が、第1リンク201がキー207に接触しているとの判定結果のとき、キー接触時関節状態推定器131から入力されるキー接触時関節状態推定値に基づいて、第1関節202、第2関節204、第3関節206それぞれに掛かるトルク外乱を推定し、第1関節トルク外乱推定値Td1、第2関節トルク外乱推定値Td2、第3関節トルク外乱推定値Td3として出力する。一方、トルク外乱推定器134は、キー接触判定器133から入力されるキー接触判定結果が、第1リンク201がキー207に接触していないとの判定結果のとき、何も出力しない。
【0037】
剛性推定器135は、第1リンク201がキー207に接触している場合のみに、トルク外乱推定器134から入力されるトルク外乱推定値(第1関節トルク外乱推定値Td1、第2関節トルク外乱推定値Td2、第3関節トルク外乱推定値Td3)と、キー接触時関節状態推定器131から入力されるキー接触時関節状態推定値と、に基づいて、被接触体の剛性(本実施形態では、ばね208のばね定数)を推定し、剛性推定値k^として出力する。
【0038】
キー底到達判定器136は、接触判定器133から入力されるキー接触判定結果が、第1リンク201がキー207に接触しているとの判定結果のとき、キー接触時関節状態推定器131から入力されるキー接触時関節状態推定値の絶対値が発散したら、キー207がキー底に到達したと判定し、それ以外の場合はキー底に到達していないと判定し、その判定結果をキー底到達判定結果として出力する。
【0039】
制御剛性演算器137は、関節角度検出器123から入力される関節角度検出値と、キー接触判定器133から入力されるキー接触判定結果と、剛性推定器135から入力される剛性推定値k^と、キー底到達判定器136から入力されるキー底到達判定結果と、に基づいて、第1リンク201がキー207に接触しているか否か、キー207に接触している場合はキー底に到達しているか否かを判定し、この判定結果に応じた、第1関節202、第2関節204、第3関節206それぞれの制御剛性を、剛性推定値k^と関節角度検出値とに基づいて演算し、制御剛性演算値として出力する。ここで、制御剛性とは、関節のメカ機構による剛性と、関節が備える関節モータや減速機等の剛性と、を加えた剛性のことである。
【0040】
制御器138は、関節角度姿勢発生器110から入力される関節角度指令である、第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θの目標値と、制御剛性演算器137から入力される制御剛性演算値と、を実現するべく、第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θそれぞれを制御する制御ゲインを設定し、その制御ゲインに基づいて算出されたモータ電流を出力する。
【0041】
なお、制御装置130は、電気・電子・プログラマブル電子制御系として実現する。例えば、制御装置130は、演算処理等を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアにより、制御装置130の各器を実現しても良い。
【0042】
次に、制御装置130を構成する各機能ブロックの詳細な動作原理を導出して説明する。
先ず、図2を用いて被接触体及び指機構122の運動方程式を導出する。図2より被接触体の運動方程式は[数7]と導出できる。
【0043】
【数7】

【0044】
ただし、記号の意味は以下の通りである。
:図2の上方向を正としたばね208の自然長[m]
:第3関節206を基準とし、図2の上方向を正とした第1リンク201の先端(指先)の垂直位置(指先垂直位置)[m]
f:図2の上方向を正とした打鍵力[N]
m:キー質量[kg]
g:重力加速度[m/s]
k:ばね208の剛性[N/m]
【0045】
次に、指機構122の運動方程式を解析力学の手法に基づいて導出する。指機構122の運動エネルギーK及びポテンシャルエネルギーUは、[数8]及び[数9]と導出できる。
【0046】
【数8】

【0047】
【数9】

【0048】
ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節202の質量(第1関節質量)[kg]
:第2関節204の質量(第2関節質量)[kg]
:第3関節206の質量(第3関節質量)[kg]
θ:第1関節202の角度(第1関節角度)[rad]
θ:第2関節204の角度(第2関節角度)[rad]
θ:第3関節206の角度(第3関節角度)[rad]
10:第3関節206を基準とし、図2の左方向を正とした第1リンク201の重心の水平位置(第1リンク重心水平位置)[m]
10:第3関節206を基準とし、図2の上方向を正とした第1リンク201の重心の垂直位置(第1リンク重心垂直位置)[m]
20:第3関節206を基準とし、図2の左方向を正とした第2リンク203の重心の水平位置(第2リンク重心水平位置)[m]
20:第3関節206を基準とし、図2の上方向を正とした第2リンク203の重心の垂直位置(第2リンク重心垂直位置)[m]
30:第3関節206を基準とし、図2の左方向を正とした第3リンク205の重心の水平位置(第3リンク重心水平位置)[m]
30:第3関節206を基準とし、図2の上方向を正とした第3リンク205の重心の垂直位置(第3リンク重心垂直位置)[m]
10:第1関節202の慣性モーメント[kg・m]
20:第2関節204の慣性モーメント[kg・m]
30:第3関節206の慣性モーメント[kg・m]
【0049】
第1リンク重心水平位置x10、第1リンク重心垂直位置y10、第2リンク重心水平位置x20、第2リンク重心垂直位置y20、第3リンク重心水平位置x30、第3リンク重心垂直位置y30を、第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θを用いて書き換えると[数10]から[数15]と表される。
【0050】
【数10】

【0051】
【数11】

【0052】
【数12】

【0053】
【数13】

【0054】
【数14】

【0055】
【数15】

【0056】
ただし、記号の意味は以下の通りである。
10:第1リンク201の重心と第1関節202との距離[m]
20:第2リンク203の重心と第2関節204との距離[m]
30:第3リンク205の重心と第3関節206との距離[m]
:第2リンク203の長さ[m]
:第3リンク205の長さ[m]
【0057】
同様に、第1リンク201の指先垂直位置yを、第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θを用いて書き換えると[数16]と表される。
【0058】
【数16】

ただし、lは第1リンク201の長さ[m]である。
【0059】
指機構122の運動方程式は、[数17]から[数19]のオイラーラグランジ方程式で表される。
【0060】
【数17】

【0061】
【数18】

【0062】
【数19】

【0063】
ここで、Q、Q、Qは一般化力であり、指先がキー207に接触している場合、[数20]から[数22]で表される。
【0064】
【数20】

【0065】
【数21】

【0066】
【数22】

【0067】
ここで、記号の意味は以下のようになる。
:第1関節202の関節モータ121が発生する反時計回りを正としたトルク(第1関節モータトルク)[N・m]
:第2関節204の関節モータ121が発生する反時計回りを正としたトルク(第2関節モータトルク)[N・m]
:第3関節206の関節モータ121が発生する反時計回りを正としたトルク(第3関節モータトルク)[N・m]
d1:第1関節202に加わる反時計回りを正としたトルク外乱(第1関節トルク外乱)[N・m]
d2:第2関節204に加わる反時計回りを正としたトルク外乱(第2関節トルク外乱)[N・m]
d3:第3関節206に加わる反時計回りを正としたトルク外乱(第3関節トルク外乱)[N・m]
【0068】
[数8]から[数16]及び[数20]から[数22]を、[数17]から[数19]に代入すると、指機構122の運動方程式は[数23]から[数25]と導出できる。
【0069】
【数23】

【0070】
【数24】

【0071】
【数25】

【0072】
一方、指先がキー207に接触していない場合、一般化力Qは[数20]に代えて、[数26]と表される。
【0073】
【数26】

【0074】
指先がキー207に接触していない場合、[数26]により、[数23]は[数27]に置き換えられる。
【0075】
【数27】

【0076】
キー接触時における指機構122の運動方程式は、[数23]から[数25]より[数28]と書き換えられる。
【0077】
【数28】

【0078】
ただし、記号の意味は以下のようになる。
J:慣性行列
:[数23]から[数25]の非線形項から構成されるベクトル(キー接触時非線形力)
q:一般化座標
T:関節モータトルク
d:トルク外乱
【0079】
同様にキー非接触時の指機構122の運動方程式は、[数24]、[数25]、及び[数27]より[数29]と書き換えられる。
【0080】
【数29】

【0081】
ただし、fncは[数24]、[数25]、及び[数27]の非線形項から構成されるベクトル(キー非接触時非線形力)である。
【0082】
キー接触時関節状態推定器131は、[数30]によりキー接触時における一般化座標qとその1階及び2階時間微分値(キー接触時関節状態)とを、ノイズを含まないように推定する。
【0083】
【数30】

【0084】
ただし、記号の意味は以下のようになる。
L:推定器ゲイン
q^:一般化座標推定値
^:キー接触時非線形力推定値
【0085】
同様に、キー非接触時関節状態推定器132は、[数31]によりキー非接触時における一般化座標qとその1階及び2階時間微分値(キー非接触時関節状態)とを、ノイズを含まないように推定する。
【0086】
【数31】

【0087】
ただし、fnc^はキー非接触時非線形力推定値である。
【0088】
キー接触時におけるキー接触時関節状態推定器131の推定誤差方程式は、[数28]から[数30]を減算することにより[数32]と導出される。
【0089】
【数32】

【0090】
ただし、q~は一般化座標推定誤差である。
ここで、推定器ゲインLの各要素が十分に大きな負の実数となるように設定すると、[数33]が成立し、キー接触時関節状態が推定される。
【0091】
【数33】

【0092】
一方、キー接触時におけるキー非接触時関節状態推定器132の推定誤差方程式は、[数28]から[数31]を減算することにより[数34]と導出される。
【0093】
【数34】

【0094】
キー接触時において、[数32]の非線形項f−f^の時間平均値は、[数34]の非線形項f−fnc^の時間平均値よりも常に小さい値をとるため、キー接触時関節状態推定器131の推定誤差方程式[数32]より算出した一般化座標推定誤差qの時間平均値の方が、キー非接触時関節状態推定器132の推定誤差方程式[数34]より算出した値より小さい。
【0095】
同様に、キー非接触時におけるキー非接触時関節状態推定器132の推定誤差方程式は、[数29]から[数31]を減算することにより[数35]と導出される。
【0096】
【数35】

【0097】
ここで、推定器ゲインLの各要素が十分に大きな負の実数となるように設定すると、[数33]が成立し、キー非接触時関節状態が推定される。
【0098】
キー接触時の場合と同様の理由から、キー非接触時においては、キー非接触時関節状態推定器132の推定誤差方程式より算出した一般化座標推定誤差qの時間平均値の方が、キー接触時関節状態推定器131の推定誤差方程式より算出した値より小さい。
【0099】
上述の原理に基づいてキー接触判定器133は、キー接触時関節状態推定器131及びキー非接触時関節状態推定器132のうち、前者が出力する一般化座標推定誤差qの時間平均が後者よりも小さい場合はキー接触時であると判定し、それ以外の場合はキー非接触時であると判定する。
【0100】
キー接触判定器133がキー接触時であると判定した場合、一般化座標推定値q^は一般化座標qに収束するので、[数28]よりトルク外乱推定器134は[数36]を用いてトルク外乱推定値を算出できることが分かる。
【0101】
【数36】

ただし、d^はトルク外乱推定値である。
【0102】
[数23]とトルク外乱推定値d^を用いて剛性推定器135は、剛性推定値k^を[数37]により算出する。
【0103】
【数37】

【0104】
ただし、記号の意味は以下のようになる。
d1^:第1関節202に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値(第1関節トルク外乱推定値)[N・m]
θ1^:第1関節角度推定値[rad]
θ2^:第2関節角度推定値[rad]
θ3^:第3関節角度推定値[rad]
【0105】
キー底到達判定器136は、キー接触判定器133がキー接触時であると判定している間に、キー接触時関節状態推定器131が出力するキー接触時関節状態推定誤差の時間平均、及びキー非接触時関節状態推定器132が出力するキー非接触時関節状態推定誤差の時間平均の両方が発散することをもって、キー底に到達したと判定する。
【0106】
図2において、キー207からの反力と第1関節202、第2関節204、第3関節206の発生するモータトルクが静的に釣り合っている場合、各関節における制御剛性それぞれを第1関節等価制御剛性k10、第2関節等価制御剛性k20、第3関節等価制御剛性k30とすると、[数38]から[数40]が成立する。
【0107】
【数38】

【0108】
【数39】

【0109】
【数40】

【0110】
ただし、記号の意味は次の通りである。
δ:キー207の垂直方向微小変位量[m]
δθ1:第1関節角度θ1の微小変位量[rad]
δθ2:第2関節角度θ2の微小変位量[rad]
δθ3:第3関節角度θ3の微小変位量[rad]
【0111】
[数38]から[数40]において、δとδθ1、δθ2、δθ3は微小量であり相殺するので、[数41]から[数43]が得られる。
【0112】
【数41】

【0113】
【数42】

【0114】
【数43】

【0115】
制御剛性演算器137は、第1関節202の制御剛性である第1関節制御剛性kと、第2関節204の制御剛性である第2関節制御剛性kと、第3関節206の制御剛性である第3関節制御剛性kと、をそれぞれ[数44]に基づいて決定する。
【0116】
【数44】

【0117】
ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節制御剛性k1のパラメータ
:第2関節制御剛性k2のパラメータ
:第3関節制御剛性k3のパラメータ
1n:非接触時の第1関節制御剛性
2n:非接触時の第2関節制御剛性
3n:キー底未到達時の第3関節制御剛性
【0118】
制御剛性演算器137は、[数44]で決定した制御剛性となるように、制御器138の制御ゲインを設定する。これにより、指機構122がキー207を押すまでは、第1関節202、第2関節204、第3関節206それぞれに対する制御剛性が被接触体の剛性(ばね208のばね定数)kを第1関節202、第2関節204、第3関節206回りの回転剛性に等価変換した値より大きいため、第1リンク201の先端(指先)と、第1関節角度θ、第2関節角度θ、第3関節角度θを素早く正確にキー207を押すのに適した位置に移動させることができる。
【0119】
また、キー接触後は、第1関節202、第2関節204それぞれに対する制御剛性が被接触体の剛性kを第1関節202、第2関節204回りの回転剛性に等価変換した値と等しく、第3関節206に対する制御剛性が被接触体の剛性kを第3関節206回りの回転剛性に等価変換した値より大きいため、主に第3関節206のみの動作によりキー207を傷つけないように必要最小限の力でキー207を押すことができる。
【0120】
さらにキー底に到達したら、第1関節202、第2関節204、第3関節206それぞれに対する制御剛性が被接触体の剛性kを第1関節202、第2関節204、第3関節206回りの回転剛性に等価変換した値と等しく、キー207をキー底に保持するために必要最小限の力のみを残して第1関節202、第2関節204、第3関節206をリラックスさせることができる。
【0121】
キー接触時において、各関節における制御剛性を[数44]とする第1関節モータトルクT、第2関節モータトルクT、第3関節モータトルクTは、[数23]から[数25]より、[数45]から[数47]と導出できる。
【0122】
【数45】

【0123】
【数46】

【0124】
【数47】

【0125】
ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節202における制御減衰(第1関節制御減衰)
:第2関節204における制御減衰(第2関節制御減衰)
:第3関節206における制御減衰(第3関節制御減衰)
d2^:第2関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値(第2関節トルク外乱推定値)[N・m]
d3^:第3関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値(第3関節トルク外乱推定値)[N・m]
ここで、制御減衰とは、関節のメカ機構による減衰と、関節が備える関節モータや減速機等の減衰と、を加えた減衰のことである。
【0126】
一方、キー非接触時において、第2関節モータトルクT、第3関節モータトルクTは[数46]、[数47]と同じであり、第1関節モータトルクTは[数27]より[数48]と表される。
【0127】
【数48】

【0128】
上述のように、被接触体の剛性を推定するので、簡易な機構で硬さの異なる被接触体に柔軟に対応することができる。特に、本実施形態の制御装置を、キー操作等を行うロボットハンドに適用すると、サービスロボットがパソコンのキーボード操作する場合や、家電のキー操作をする場合に、キーを傷つけることなく早く正確にキーを押すことが可能となり、サービスロボットが楽器を演奏する場合は、鍵盤やボタンを傷つけることなく正確に早く洗練された演奏をすることが可能となる。
【0129】
このように、本実施形態によるとサービスロボットが家電のキー、楽器の鍵盤やボタンを傷つけることなく、早く正確に洗練されたキー操作や演奏をすることができる。
【0130】
<シミュレーション結果>
本シミュレーションは、サービスロボットのロボットハンドがパソコンのキー操作をする場合を模擬している。シミュレーションに用いた数値は以下のとおりである。
=20×10−3[m]
=20×10−3[m]
=20×10−3[m]
10=10×10−3[m]
20=10×10−3[m]
30=10×10−3[m]
=30×10−3[kg]
=30×10−3[kg]
=30×10−3[kg]
10=1.42×10−6[kg・m]
20=1.42×10−6[kg・m]
30=1.42×10−6[kg・m]
m=1.9×10−3[kg]
k=140[N/m]
=3×10−3[m]
g=9.8[m/s]
d1=0[N・m]
d2=0[N・m]
d3=0[N・m]
=3
=3
=3
=2×10−1[N・m・s/rad]
=6×10−1[N・m・s/rad]
=9×10−1[N・m・s/rad]
1n=1×10[N・m/rad]
2n=1×10[N・m/rad]
3n=1×10[N・m/rad]
【0131】
ただし、キー質量m及びばね(弾性体)の剛性kは標準的なパソコンのキーボードの値とし、第1関節制御減衰d、第2関節制御減衰d、第3関節制御減衰dの値は、各関節より先端の部分の慣性モーメントの大きさに合わせて設定した。
【0132】
図3は本シミュレーションにおける第1関節角度の時間変化、図4は本シミュレーションにおける第2関節角度の時間変化、図5は本シミュレーションにおける第3関節角度の時間変化、図6は本シミュレーションにおける制御剛性の時間変化である。
【0133】
図3から図5において、破線は関節角度指令、実線は実際の関節角度を示す。また、図6において、実線は第1関節制御剛性k、破線は第2関節制御剛性k、一点鎖線は第3関節制御剛性kを示す。
【0134】
図3と図4の2.5[s]において第1関節202の先端(指先)がキー207に接触し、キー接触判定器133が「キー接触した」という判定結果を関節角度指令発生器110に出力し、関節角度指令発生器110は第1関節角度指令θ1r及び第2関節角度指令θ2rとを減速させている。第1関節角度指令θ1rや第2関節角度指令θ2rを、キー接触時の第1関節角度θや第2関節角度θより大きい角度に収束させるのは、1度キー接触した指先をキー207の表面に密着した状態に維持するためである。図6において、制御剛性演算器137が[数38]を用いて算出する第1関節制御剛性k及び第2関節制御剛性kは、キー接触前は関節角度指令に追従するのに必要な制御帯域を確保するのに十分高い値に設定され、2.5[s]でキー接触が判定されると、最小限の制御剛性に抑えられていることが分かる。
【0135】
図5の2.5[s]においてキー接触が判定されると、第3関節角度指令は1度減速し、キー207を押し込む動作に移行する。5.5[s]においてキー底に到達すると、キー207をそれ以上押し込むことが出来なくなるので、第3関節角度θは0.31[rad]で飽和している。この時、キー底到達判定器136は、上述のようにキー接触時関節状態推定値の絶対値が発散するので、キー底に到達したという判定結果を出力する。関節角度指令発生器110は、「キー底に到達した」という判定結果が入力されると、第3関節角度指令θ3rを減速させる。第3関節角度指令θ3rがキー底到達時の第3関節角度θより大きな値に収束しているのは、キー207をキー底にしっかり保持するためである。制御剛性演算器137は、キー底到達前において、第3関節角度θを第3関節角度指令θ3rに追従させるのに必要な制御帯域を確保するために、第3関節制御剛性kを十分に大きな値に設定し、5.5[s]においてキー底に到達した以降において、キー207をキー底に保持するのに必要最小限の値に第3関節制御剛性kを設定していることが分かる。
【0136】
特許文献1のロボットハンドによると、剛性の低い指を使うと早い打鍵動作ができず、剛性の高い指を使うと早い打鍵動作はできるが、キー底到達後にキー207を押し込む力をキー剛性に合わせて適切に変化させることができず、キー207を傷つけてしまう問題がある。一方、本実施形態によると、上述のようにキー接触前、キー押し込み時、キー底到達後の3つの場合において、キー剛性に応じて適切に各関節の制御剛性を時間変化させるので、キー207を傷つけることなく早く正確なタイピングができる。
【0137】
また、ピアノなど鍵盤楽器の演奏に対して本発明を適用すると、上述のようにキー剛性に応じて適切に各関節の制御剛性を時間変化させることにより、鍵盤を傷つけることなく、正確に早い演奏が可能となり、繊細なトナリティーの表現が可能となる。
【0138】
このように、本実施形態によるとサービスロボットが家電のキー、楽器の鍵盤やボタンを傷つけることなく、早く正確に洗練されたキー操作や演奏をすることができる。
【0139】
以上、本発明に係るロボットハンドの制御装置の実施形態を説明したが、上記の構成に限らず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、変更することが可能である。
本実施形態の制御装置は、家電や楽器等のキーを操作するロボットハンドを制御するために適用したが、把持対象物を把持するロボットハンドを制御するために適用しても良い。この場合、キー底到達判定器136を省略しても良い。
本実施形態の指機構は、第1リンク201、第2リンク203、第3リンク205を備えた構成とされているが、リンクや関節の個数は限定されない。
本実施形態の被接触体の弾性体としてバネを用いたが、ゴム等の復元部材を用いても良い。
【符号の説明】
【0140】
110 関節角度指令発生器
120 制御対象
121 関節モータ
122 指機構
123 関節角度検出器
130 制御装置
131 キー接触時関節状態推定器
132 キー非接触時関節状態推定器
133 キー接触判定器
134 トルク外乱推定器
135 剛性推定器
136 キー底到達判定器
137 制御剛性演算器
138 制御器
201 第1リンク
202 第1関節
203 第2リンク
204 第2関節
205 第3リンク
206 第3関節
207 キー
208 ばね
701 第1指第1リンク
702 第1指MP関節
703 第1指第2リンク
704 第1指IP関節
705 第2指第1リンク
706 第2指MP関節
707 第2指第2リンク
708 第2指PIP関節
709 第2指第3リンク
710 第2指DIP関節
711 第3指第1リンク
712 第3指MP関節
713 第3指第2リンク
714 第3指PIP関節
715 第3指第3リンク
716 第3指DIP関節
717 第4指第1リンク
718 第4指MP関節
719 第4指第2リンク
720 第4指PIP関節
721 第4指第3リンク
722 第4指DIP関節
723 ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクと、前記リンクの関節と、を有する指を備えたロボットハンドの制御装置において、
前記関節の角度検出値である関節角度検出値に基づいて、前記指が被接触体に接触した時における関節角度、関節速度、関節加速度である前記関節の状態を推定する接触時関節状態推定器と、
前記指が前記被接触体に接触していない時における前記関節の状態を推定する非接触時関節状態推定器と、
前記関節角度検出値と、前記接触時関節状態推定器が出力する接触時関節状態推定値と、前記非接触時関節状態推定器が出力する非接触時関節状態推定値と、に基づいて、前記指が前記被接触体に接触したか否かを判定する接触判定器と、
前記接触判定器が出力する判定結果が接触状態の場合、前記接触時関節状態推定値に基づいて、前記関節に印加されるトルク外乱を推定するトルク外乱推定器と、
前記接触判定結果が接触状態の場合、前記接触時関節状態推定値と、前記トルク外乱推定器が出力するトルク外乱推定値と、に基づいて、前記被接触体の剛性を推定する剛性推定器と、
前記接触判定結果が接触状態の場合、前記関節角度検出値と、前記剛性推定値と、に基づいて、前記関節の制御剛性を、前記指が前記被接触体の押し込み状態を維持できる最小値に演算し、
前記接触判定結果が非接触状態の場合、前記関節の制御剛性を、予め推定された前記指が前記被接触体に接触した状態である場合における前記関節の制御剛性より大きな値に演算する制御剛性演算器と、
前記制御剛性演算器が出力する制御剛性演算値に基づいて、前記関節を駆動する関節モータを制御する制御器と、
を備えるロボットハンドの制御装置。
【請求項2】
前記ロボットハンドの指は、第1関節、第2関節、第3関節を備え、
前記被接触体は、家電のキー又は楽器の鍵盤若しくはボタンと弾性体とを備え、
前記制御装置は、前記接触判定結果が接触状態の場合、前記接触時関節状態推定値に基づいて、前記被接触体が押し込み底に到達したか否かを判定する到達判定器をさらに備え、
前記制御剛性演算器は、前記接触判定結果が非接触状態の場合、前記剛性推定値を前記第1関節及び前記第2関節回りの回転剛性に等価変換した値よりも大きく、前記指の第1関節及び第2関節の制御剛性を演算し、
前記接触判定結果が接触状態の場合、前記剛性推定値を前記第1関節及び前記第2関節回りの回転剛性に等価変換した値と略等しい値に、前記第1関節及び第2関節の制御剛性を演算し、かつ前記到達判定器が出力する到達判定結果が前記押し込み底に非到達状態の場合、前記剛性推定値を前記第3関節回りの回転剛性に等価変換した値よりも大きな値に、前記第3関節の制御剛性を演算し、前記到達判定結果が前記押し込み底に到達状態の場合、前記剛性推定値を前記第3関節回りの回転剛性に等価変換した値と等しい値に、前記第3関節の制御剛性を演算する請求項1に記載のロボットハンドの制御装置。
【請求項3】
前記接触判定器は、前記関節角度から前記接触時関節状態推定値の成分である接触時関節角度推定値を減算した接触時関節角度推定誤差の絶対値の時間平均値が、前記関節角度から前記非接触時関節状態推定値の成分である非接触時関節角度推定値を減算した非接触時関節角度推定誤差の絶対値の時間平均値より小さい場合、接触状態であると判定し、それ以外の場合は非接触状態であると判定する請求項1又は2に記載のロボットハンドの制御装置。
【請求項4】
前記トルク外乱推定器は、前記トルク外乱推定値を[数49]により算出する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のロボットの制御装置。
【数49】

ただし、記号の意味は以下の通りであり、d^、q^、f^、Tはベクトル、Jは行列である。
d^:トルク外乱推定値
J:慣性行列
^:接触時の非線形力の推定値(接触時非線形力推定値)
q^:接触時の関節の状態の推定値(一般化座標推定値)
T:関節モータのトルク
【請求項5】
前記剛性推定器は、前記剛性推定値を[数50]により算出する請求項2乃至4のいずれか1項に記載のロボットハンドの制御装置。
【数50】

ただし、記号の意味は以下の通りである。
k^:被接触体の剛性推定値[N/m]
:第1関節の質量[kg]
10:第1関節の慣性モーメント[kg・m]
θ:第1関節の角度[rad]
θ:第2関節の角度[rad]
θ:第3関節の角度[rad]
m:キー等の質量[kg]
g:重力加速度[m/s]、
:第1リンクの長さ[m]
:第2リンクの長さ[m]
:第3リンクの長さ[m]
10:第1リンクの重心と第1関節との距離[m]
20:第2リンクの重心と第2関節との距離[m]
30:第3リンクの重心と第3関節との距離[m]
:第1関節の関節モータが発生する反時計回りを正としたトルク(第1関節モータトルク)[N・m]
d1^:第1関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値(第1関節トルク外乱推定値)[N・m]
:被接触体を支持する弾性体の自然長
【請求項6】
前記到達判定器は、前記関節角度から前記接触時関節状態推定値の成分である接触時関節角度推定値を減算した接触時関節角度推定誤差の時間平均値と、前記関節角度から前記非接触時関節状態推定値の成分である非接触時関節角度推定値を減算した非接触時関節角度推定誤差の時間平均値との両方が発散した場合、前記指が前記被接触体の押し込み底に到達したと判定し、それ以外の時は到達していないと判定する請求項2乃至5のいずれか1項に記載のロボットハンドの制御装置。
【請求項7】
前記制御剛性演算器は、前記第1関節、第2関節及び第3関節の制御剛性演算値を[数51]により演算する請求項2乃至6のいずれか1項に記載のロボットハンドの制御装置。
【数51】

ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節の制御剛性(第1関節制御剛性)[N・m/rad]
:第2関節の制御剛性(第2関節制御剛性)[N・m/rad]
:第3関節の制御剛性(第3関節制御剛性)[N・m/rad]
1n:非接触時の第1関節制御剛性[N・m/rad]
2n:非接触時の第2関節制御剛性[N・m/rad]
3n:押し込み底未到達時の第3関節制御剛性[N・m/rad]
10:第1関節回りにおいて被接触体の剛性を等価変換した値(第1関節等価制御剛性)[N・m/rad]
20:第2関節回りにおいて被接触体の剛性を等価変換した値(第2関節等価制御剛性)[N・m/rad]
30:第3関節回りにおいて被接触体の剛性を等価変換した値(第3関節等価制御剛性)[N・m/rad]
k^:キー剛性推定値[N/m]
k:キー剛性
:第1制御剛性のパラメータ
:第2制御剛性のパラメータ
:第3制御剛性のパラメータ
θ:第1関節の角度検出値[rad]
θ:第2関節の角度検出値[rad]
θ:第3関節の角度検出値[rad]
【請求項8】
前記第1関節を駆動する関節モータは、[数52]で表される第1関節モータトルクTを発生し、
前記第2関節を駆動する関節モータは、[数53]で表される第2関節モータトルクTを発生し、
前記第3関節を駆動する関節モータは、[数54]で表される第3関節モータトルクTを発生する請求項2乃至7のいずれか1項に記載のロボットハンドの制御装置。
【数52】

【数53】

【数54】

ただし、記号の意味は以下の通りである。
:第1関節の制御剛性[N・m/rad]
:第2関節の制御剛性[N・m/rad]
:第3関節の制御剛性[N・m/rad]
:第1関節における制御減衰[N・m・s/rad]
:第2関節における制御減衰[N・m・s/rad]
:第3関節における制御減衰[N・m・s/rad]
10:第1リンクの重心と第1関節の距離[m]
20:第2リンクの重心と第2関節の距離[m]
30:第3リンクの重心と第3関節の距離[m]
:第1リンクの長さ[m]
:第2リンクの長さ[m]
:第3リンクの長さ[m]
:第1関節の質量[kg]
θ:第1関節の角度[rad]
θ^:第1関節の角度推定値[rad]
:第2関節の質量[kg]
θ:第2関節の角度[rad]
θ^:第2関節の角度推定値[rad]
:第3関節の質量[kg]
θ:第3関節の角度[rad]
θ^:第3関節の角度推定値[rad]
m:キー等の質量[kg]
g:重力加速度[m/s]
d1^:第1関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値[N・m]
d2^:第2関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値[N・m]
d3^:第3関節に加わる反時計回りを正としたトルク外乱の推定値[N・m]
θ1r:第1関節の角度指令[rad]
θ2r:第2関節の角度指令[rad]
θ3r:第3関節の角度指令[rad]

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−179679(P2012−179679A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44091(P2011−44091)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】