説明

ロータリエンコーダの角度補正方法

【課題】ロータリエンコーダの目盛盤の角度目盛の間の角度を内挿計算で求める際に角度とびが発生しないような角度補正方法を提供する。
【解決手段】モデルから算出される位置と実際に読み取った位置Pとの残差rを求め、残差rを角度目盛像番号xに関する多項式f(x)に当て嵌めて、残差曲線r=f(x)を求める残差曲線算出工程(S2)と、残差曲線の接線の傾きf’(x)を算出する傾き算出工程(S4)と、残差r及び傾きf’(x)から角度目盛像位置の補正量Cを算出し、該補正量Cを使用して測角値θを求め、角度目盛像の組合せを前方側と後方側へ切換えて、測角値θ−1及びθ+1を求めて、角度とび量を算出する角度とび量算出工程(S5)と、角度とび量が最小となるように多項式f(x)の次数を決定する次数決定工程(S7)と、残差及び接線の傾きを記録する角度補正データ記録工程(S8)とを経て、角度補正データを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量機に用いられるロータリエンコーダの角度補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測量機には、水平角と鉛直角を測定するために、ロータリエンコーダが備えられている(下記特許文献1参照)。ロータリエンコーダとは、図1に示したように、望遠鏡とともに回転する目盛盤1があり、目盛盤1の周方向に沿って設けられたスリット11からなる角度目盛に対して、光源2から光を照射し、スリット11を通過した光をCCDリニアセンサ3で受光し、CCDリニアセンサ3の出力をA/D変換器5を介してCPU(演算制御部)6へ送るものである。そして、CPU6は、CCDリニアセンサ3上のスリット像(角度目盛像)の位置(ピクセル座標)に基づいて、角度を決定し、表示部7へ表示する。
【0003】
ところで、従来の測量機に用いられるロータリエンコーダでは、微小な角度分解能を達成するために、スリット11とスリット11の間の角度を内挿計算で求めている。内挿計算を行うには、CCDリニアセンサ3上での連続する複数のスリット像を予め定めたモデルに当て嵌めて計算する。
【0004】
この内挿計算に用いるモデルを説明する。図2に示したように、目盛盤1の平面図において、目盛盤1の中心OとCCDリニアセンサ3との距離をR、目盛盤1の中心OからCCDリニアセンサ3へ引いた垂線の足の位置(ピクセル番号)をP、この位置の角度をAとする。また、連続する複数のスリット像のうち、i番目のスリット像の位置(ピクセル番号)をP、この位置の角度をAとする。三角形POPを考えると次式が成立し、これを内挿計算のモデルにしている。
【0005】
=Rtan(A−A)+P(1)
【特許文献1】特開2002−13949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記(1)式について、回帰分析によってR、A、Pを求め、それぞれR’、A’、P’とすると、連続するスリット像のうち、i番目のスリット像の位置残差rは次式で表される。
【0007】
=R’tan(A−A’)+P’−P(2)
【0008】
この残差の測定データを図3に示す。横軸はスリット像番号xで、縦軸は残差rである。ロータリエンコーダでは、連続する複数本数のスリット像を使用して内挿計算をしている。この図3には、ランダムなばらつきの他に系統的な歪も発生している。残差rに歪が生じていると、内挿計算時のスリット像の切替わり時に不連続な角度誤差が発生することがある。スリット像の切替わりとは、目盛盤1を回転させていくと、CCDリニアセンサ3上に投影されているスリット像もCCDリニアセンサ3上を移動していくが、内挿計算に使用する連続した複数本のスリット像からなる組合せのうち、両端のスリット像が目盛盤1の回転に応じて変化する。つまり、スリット像からなる組合せのうち、片側の端のスリット像が抜けて内挿計算に使用されなくなり、他端に一本のスリット像が入ってきて内挿計算に使用されるようになる。このように内挿計算に使用されるスリット像の組合せのうち、一端から一本のスリット像が抜け、他端に一本のスリット像が入ってくることをスリット像の切替わりという。従来は、そのとき、内挿計算に使用する複数のスリット像がCCDリニアセンサ3上に占める領域がスリット像1区画分不連続的に変化するため、角度とびと呼ぶ0.2〜0.3秒程度の測角値の不連続を生じるという問題があった。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、ロータリエンコーダの目盛盤が回転して、内挿計算に使用される複数のスリット像の組合せにスリット像の切替わりが生じても、角度とびが発生しないような角度補正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、角度目盛が付された目盛盤と、前記角度目盛を通過した光の角度目盛像位置を読み取る検出器と、前記角度目盛像位置から内挿計算して測角値を得る演算手段とを備えたロータリエンコーダの角度補正方法において、前記角度目盛像位置について、モデルから算出される位置と実際に読み取った位置Pとの残差rを求めて記録するとともに、該残差rを角度目盛像番号xに関する予め設定した次数の多項式f(x)に当て嵌めて、残差曲線r=f(x)を求める残差曲線算出工程と、i番目の角度目盛像番号をxとして、x=xの点における前記残差曲線の接線の傾きf’(x)を算出する傾き算出工程と、i番目の残差r及び前記傾きf’(x)を記録する角度補正データ記録工程とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、角度目盛が付された目盛盤と、前記角度目盛を通過した光の角度目盛像位置を読み取る検出器と、前記角度目盛像位置から内挿計算して測角値を得る演算手段とを備えたロータリエンコーダの角度補正方法において、前記角度目盛像位置について、モデルから算出される位置と実際に読み取った位置Pとの残差rを求めて記録するとともに、該残差rを角度目盛像番号xに関する0次以上の各次数の多項式f(x)に当て嵌めて、残差曲線r=f(x)を求める残差曲線算出工程と、各次数の多項式毎に、連続する複数個の角度目盛像のi番目の角度目盛像番号をxとして、x=xの点における前記残差曲線の接線の傾きf’(x)を算出する傾き算出工程と、各次数の多項式毎に、前記i番目の角度目盛像番号の残差r及び前記傾きf’(x)から角度目盛像位置の補正量Cを算出するとともに、該補正量Cを使用して測角値θを求め、内挿計算に用いる連続する角度目盛像の組合せを角度目盛が小さくなる方向と角度目盛が大きくなる方向にそれぞれ切換えて、前記補正量Cを使用して測角値θ−1及びθ+1を求めて、前記測角値θと前記測角値θ−1及びθ+1の差θ−1−θ、θ+1−θから角度とび量を算出する角度とび量算出工程と、各次数の多項式毎に算出した前記角度とび量を比較して、前記多項式f(x)の次数を決定する次数決定工程と、前記残差r及び決定された次数の多項式f(x)から得られた接線の傾きf’(x)を記録する角度補正データ記録工程とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、請求項2に係る発明において、前記多項式の次数は0〜7次の範囲であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、請求項3に係る発明において、赤池情報量基準(AIC)が最小となるように前記多項式の次数を決定することを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明では、請求項4に係る発明において、前記多項式が最小次数となるように前記多項式の次数を決定することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明では、角度目盛が付された目盛盤と、前記角度目盛を通過した光の角度目盛像位置を読み取る検出器と、前記角度目盛像位置から内挿計算して測角値を得る演算手段とを備えたロータリエンコーダにおいて、前記演算手段は、請求項1、2、3、4又は5に記載された角度補正方法によって作成して記録された前記残差r及び前記接線の傾きf’(x)を用いて測角値を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、角度とびが最も起こり難い予め定められた次数の残差曲線を求めて、残差r及び前記残差曲線の接線の傾きf’(x)を角度補正データとして記憶するから、この角度補正データを記憶した測量機では、角度とびが極めて小さい測角値の補正量を算出できて、高精度の測角値を得ることができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、0次以上の各次数の多項式からなる残差曲線r=f(x)のうちから、角度とびが最も起こり難い次数の残差曲線を求めて、残差r及び前記残差曲線の接線の傾きf’(x)を角度補正データとして記憶するから、この角度補正データを記憶した測量機では、角度とびが極めて小さい測角値の補正量を算出できて、請求項1に係る発明よりも、さらに高精度の測角値を得ることができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、さらに、残差曲線r=f(x)の多項式の次数を0〜7次の範囲に制限して最も適切な次数の残差曲線を求めて角度補正データを作成したから、いっそう迅速に角度補正データを作成できる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、さらに、残差曲線r=f(x)の多項式の次数をAICが最小となるように決定したから、最も適切な多項式の次数が選択され、いっそう高精度の測角値を得ることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、さらに、残差曲線r=f(x)の多項式が最小次数となるように決定したから、いっそう安定した角度補正データを作成することができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、請求項1、2、3、4又は5に記載された角度補正方法によって、角度補正データとして、残差r及び残差曲線r=f(x)の接線の傾きf’(x)を測量機内に記録するから、この角度補正データを用いることによって、角度とびの極めて小さい高精度のロータリエンコーダが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施例について詳細に説明する。 図1は、本発明のロータリエンコーダのブロック図である。図2は、ロータリエンコーダにおいて、測角時における内挿計算に用いるモデルを説明する図である。図3は、連続する複数のスリット像を前記モデルの形に回帰分析して、得られた各スリット像の残差の測定例を示す図である。図4は、残差曲線r=f(x)を説明する図である。図5は、前記f(x)の各係数及び定数を算出する式である。図6は、前記内挿計算の際の補正量を算出する方法を説明する図である。図7も、前記内挿計算の際の補正量を算出する方法を説明する図である。図8は、前記内挿計算に用いる角度補正データを作成する手順を説明するフローチャートである。
【0023】
本実施例のロータリエンコーダは、図1に示した従来のものと同じく、目盛盤1と、この目盛盤1の周縁に設けられた角度目盛であるスリット11と、このスリット11を照射する光源2と、スリット11の投影像を読み取るCCDリニアセンサ3と、このCCDリニアセンサ3からの出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器5と、A/D変換器の出力信号から角度を算出するCPU(演算手段)6と、算出した角度を表示する表示部7とを備える。
【0024】
ただし、本実施例のロータリエンコーダでは、CPU6による測角時における内挿計算の際に角度とびを起き難くすることができる。以下に、このロータリエンコーダにおいて、角度とびを起き難くする補正量の算出方法について詳細に説明する。
【0025】
まず、前記(2)式から連続する複数のスリット像のうち、i番目のスリット像の残差rを求める。内挿計算に使用された複数本のスリット像の残差rを示したものが、図3である。図の横軸にはスリット像番号x、図の縦軸には残差rをとっている。スリット像番号xは、内挿計算に使用した連続する複数本のスリット像に対して、片側の端から順次、整数値を割り振ったものである。つまり、片側の端のスリット像のスリット像番号は1、その隣のスリット像番号は2、さらに、その隣のスリット像番号は3というように、順次連続番号を付したものである。図3の残差rの特徴として、個別のスリットによる差異よりも、むしろ送光系と受光系の光学的な歪に大きく依存している。つまり、目盛盤1のどの位置がCCDリニアセンサ3に投影されたとしても、残差rの大きさは、CCDリニアセンサ3の各位置で略同じ大きさになり、目盛盤1上のどのスリットを検出しているかには、それほど関係しない。言い換えれば、目盛盤1が回転しても、図3の残差rの形状は変化せず保持される。
【0026】
ここで、図4にスリット像番号xと残差rとの関係を表す。そして、残差曲線r=f(x)を求める。f(x)としては、次のようなn次多項式を考える。
【0027】
f(x)=a+an−1n−1+・・・・・+ax+a(3)
【0028】
この多項式f(x)の形にスリット像番号xにおける残差rを当て嵌める。内挿計算に使用するスリット像の本数をN本とすると、スリット像番号xは、角度目盛が小さい側となる片側の端のスリット像をxとし、その隣がx、またその隣がxというように、全部でxからxまでとなる。また、xからxまでのN本に対して、内挿計算に使用するスリット像の範囲の両端のスリット像を加えて、スリット像番号をx、xN+1とし、具体的な数値としては、0とN+1を割り振る。したがって、スリット像番号xは、次のようになる。
【0029】
=(x,x,x,・・・,x,・・・,x,xN+1
=(0,1,2,・・・,i,・・・・・,N,N+1) (4)
【0030】
スリット像番号x,xN+1として示されるスリット像の残差r,rN+1は、(2)式から求められる。各係数は、図5に示した(5)式から計算できる。ただし、(5)式の計算は、内挿計算に使用するN本のスリット像だけを使って行い、その範囲の両側のスリット像は使っていないことに注意する。
【0031】
こうして求めたf(x)を用いれば、角度とびを補正できる可能性があるが、このままでは、信頼性の高い補正を行うという観点からは、好ましい形になっていない。残差曲線r=f(x)は、一般に測定された残差の点(x,r)を通らないので精度不充分で、さらに高精度の角度とびの補正をするため、次のようにする。
【0032】
図6に示したように、残差曲線r=f(x)のx=xの点における接線を求めると、次式のようになる。
【0033】
r−f(x)=f’(x)(x−x) (6)
【0034】
ただし、f’(x)=df(x)/dxであり、接線の傾きf’(x)は、次式で表される。
【0035】
f’(x)=nan−1+(n−1)an−1n−2+・・・・+a (7)
【0036】
(6)式で示される接線は、一般に(x,r)の点を通過しない。f(x)とrとの差Δrは次式で表される。
【0037】
Δr=r−f(x) (8)
【0038】
目盛盤1上のスリット11やCCDリニアセンサ3にゴミが付着する等して、検出するスリット像に大きな歪が発生すると、それらのスリット像は内挿計算に使用せず、歪のないその他のスリット像のみを使って内挿計算を行う。(8)式で与えられるΔrの絶対値が大きな数値を示すスリット像がゴミ等によって大きく歪み、内挿計算への使用から除外されると、この差Δrに起因する角度誤差が発生するという問題が生じてしまう。
【0039】
そこで、i番目のスリット像番号xのスリット像位置Pに対する補正量Cを次式のように決める。
【0040】
=f’(x)(x−x)+r(9)
【0041】
i番目のスリット像番号xに係る補正領域Bは次式の範囲となる。
【0042】
−0.5<x≦x+0.5 (10)
【0043】
前記(10)式からは次式が得られる。
【0044】
−0.5<x−x≦0.5 (12)
【0045】
ここで、次の(13)式を前記(12)式に代入すると、次の(14)式が得られる。
【0046】
x=x+X (13)
【0047】
−0.5<X≦0.5 (14)
【0048】
また、このXを用いると前記(9)式は、次式のようになる。
【0049】
=f’(x)X+r(15)
【0050】
ここで、Xの求め方を説明する。内挿計算に使用する連続する複数のスリット像からなるスリット像の組合せは、目盛盤1中心OからCCDリニアセンサ3に下ろした垂線の足Pを挟む2つのスリット像位置P、Pk+1(ピクセル番号を座標にとったときの位置、すなわちCCDピクセル番号座標)よって決められる。P、P、Pk+1の関係を図7に示す。スリット像位置Pとなるスリット像が示すCCDピクセル番号座標が、スリット像位置Pk+1となるスリット像が示すCCDピクセル番号座標よりも小さい座標値を表すとする。このとき、内挿計算に使用されるスリット像は、Pとなるスリット像から、そのスリット像も含めてCCDピクセル番号座標の小さい側にN/2本、Pk+1となるスリット像から、そのスリット像も含めてCCDピクセル番号座標の大きい側にN−N/2本となる。以上を踏まえて、Xを次式のように決める。
【0051】
X=(Pk+1−P)/(Pk+1−P)−0.5 (16)
【0052】
Xが大きくなると、スリット像はPに対して相対的にCCDリニアセンサ3のCCDピクセル番号座標が大きいほうへ移動する。(16)式を(15)式に代入すると次式が得られる。
【0053】
=f’(x){(Pk+1−P)/(Pk+1−P)−0.5}+r (17)
【0054】
角度とび補正を行うには、(1)式のP、A、Rの最確値を求める計算において、予め角度補正データとして(17)式に示されるf’(x)及びrを求めて記録しておき、測定時に(Pk+1−P)/(Pk+1−P)を測定し、内挿計算に使用するスリット像のi番目のスリット像位置Pに、(17)式で算出される補正量Cを加算して、P+Cを計算し、この値を新たにスリット像位置として回帰分析を行い、(1)式のP、A、Rの最確値を求めて、角度を算出すればよい。
【0055】
(4)式及び(5)式から求まる残差曲線r=f(x)に係る多項式f(x)の次数は予め定めておかず、各エンコーダユニットに最適な次数を選択させることにする。ただし、最大次数の範囲には制限を設け、0次から7次までにした。これは、多くの実験から最大でも7次まであれば充分であることが分かったからである。
【0056】
図8のフローチャートを用いて、角度補正データを作成する手順を説明する。まず、ステップS1として、内挿計算に使用される連続したN本のスリット像の各スリット像毎に残差rを測定して記憶する。次にステップS2に進み、残差rデータをn次多項式f(x)の残差曲線r=f(x)に当て嵌めて、f(x)の各係数a〜aと定数aを算出する。ただし、スタート時のf(x)の次数は0次である。
【0057】
次にステップS3に進み、一般にモデル選択の目安として利用されるAIC(赤池情報量基準)を算出する。分散が未知の場合のAICは、次式で計算される。
【0058】
AIC=N・lnS+2M (23)
【0059】
ただし、Sは当て嵌め計算により求められたn次多項式とその計算に使用された残差rとの残差εの残差二乗和、Nはデータ数、Mはパラメータの数であり、(3)式のn次多項式では、M=n+1となる。このAICは、得られたモデルの悪さの程度を表し、この数値が大きいほどモデルとして悪いことになる。
【0060】
次にステップS4に進んで、残差曲線r=f(x)のx=xの点(内挿計算に使用されるスリット像とその範囲の両端のスリット像を含めてi番目のスリット像番号)での接線の傾きf’(x)を算出して記憶する。
【0061】
次にステップS5に進んで、記憶している残差r及び接線の傾きf’(x)を用いて、i番目のスリット像位置Pの補正量Cを算出する。この補正量Cを用いて、スリット像位置PをP+Cのように修正して、(1)式の形にして回帰分析を行い、角度θを求める。そして、内挿計算に使用する連続するN本のスリット像の組合せを前方側(角度目盛が小さくなる側、又はピクセル番号が小さくなる側)へ1本、後方側(角度目盛大きくなる側、又はピクセル番号が大きくなる側)へ1本それぞれ切換えて補正量Cを使用して、スリット像位置PをP+Cのように修正して、角度θ-1とθ+1とを求める。スリット像の組合せを切換える前の角度θとスリット像の組合せの切換えの後の角度θ-1とθの変化の大きさの絶対値|θ-1−θ|、|θ+1−θ|から、それぞれの角度とび量を算出して記憶する。
【0062】
次にステップS6に進んで、0次式から7次式までの多項式f(x)の全てについて、それぞれの角度とび量を算出したか否か調べる。もし、算出していない次数nがあれば、ステップS1へ戻って、ステップS1〜S5を繰り返す。0次式から7次式までの全ての多項式f(x)についての角度とび量を算出したときは、次のステップS7に進む。
【0063】
ステップS7に進むと、ステップS5で記憶した各多項式f(x)におけるスリット像の組合せの切換えの前後の角度とび量を比較して、角度とびが最も起き難い多項式f(x)の次数、すなわち、角度とび量が最小となる頻度が最大となる多項式f(x)の次数を求めて、f(x)の次数を決定する。ただし、そのような次数が、複数存在するときには、(23)式で示したAICが最小になる次数に決定する。AICも等しい場合は、その中で最も低い次数に決定する。
【0064】
次にステップS8に進んで、角度補正データとして、残差rとともにステップS7で決定された次数のf(x)の接線の傾きf’(x)を記録する。
【0065】
これで、以後の測定に際しては、ステップS8で記録された角度補正データの残差r及び接線の傾きf’(x)を用いて、角度とびの小さい内挿計算が可能になる。本実施例では、角度補正データ作成に用いた残差rは、CCDリニアセンサ3による1回の読み取りで検出されたスリット像から求めたが、より高精度な角度補正データを作成するために目盛盤1を一定角度ずつ回転させて、目盛盤1の複数の個所でスリット像を検出して、それらの残差rをそれぞれ求め、各スリット像位置における残差rを平均して、平均残差eを求めて、この平均残差eに本実施例を適用して角度補正データを作成してもよい。
【0066】
以上の説明から明らかなように、本実施例のロータリエンコーダによれば、次のような効果を奏する。0次〜7次の中から角度とびの最も起こり難い次数の残差曲線r=f(x)を求めて、残差r及び残差曲線r=f(x)の接線の傾きf’(x)を角度補正データとして記憶するから、この角度補正データを用いて補正量Cを算出すると、角度とびの小さい測角値を迅速に高精度で得ることができる。そして、残差曲線r=f(x)の多項式f(x)の次数をAICが最小となるとともに最小次数ともなるように決定したから、いっそう高精度でかつ安定した補正データを作成できる。
【0067】
また、補正量Cは測定した残差値の点(x,r)を通過するため、ゴミ等によってスリット像が歪み内挿計算に使用されなくなっても、角度誤差をほとんど生じない。その上、補正量Cは一次式であるため、プログラム中で整数演算が可能で、処理の負荷を小さく抑え高速化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のロータリエンコーダのブロック図である。
【図2】前記ロータリエンコーダにおいて、測角時における内挿計算に用いるモデルを説明する図である。
【図3】前記モデルにより求めた測定値の残差の測定例を示す図である。
【図4】残差曲線r=f(x)を説明する図である。
【図5】前記f(x)の各係数及び定数を算出する式である。
【図6】前記内挿計算の際の補正量を算出する方法を説明する図である。
【図7】前記内挿計算の際の補正量を算出する方法を説明する図である。
【図8】前記内挿計算に用いる角度補正データを取得する手順を説明するフロー図である。
【符号の説明】
【0069】
1 目盛盤
2 光源
3 CCDリニアセンサ(検出器)
6 演算制御部(CPU)
11 スリット(角度目盛)
補正量
f(x) 多項式
f’(x)、f’(x) 多項式の接線の傾き(角度補正データ)
P、P スリット像位置(角度目盛像位置)
r、r 残差(角度補正データ)
x、x スリット像番号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度目盛が付された目盛盤と、前記角度目盛を通過した光の角度目盛像位置を読み取る検出器と、前記角度目盛像位置から内挿計算して測角値を得る演算手段とを備えたロータリエンコーダの角度補正方法において、
前記角度目盛像位置について、モデルから算出される位置と実際に読み取った位置Pとの残差rを求めて記録するとともに、該残差rを角度目盛像番号xに関する予め設定した次数の多項式f(x)に当て嵌めて、残差曲線r=f(x)を求める残差曲線算出工程と、
i番目の角度目盛像番号をxとして、x=xの点における前記残差曲線の接線の傾きf’(x)を算出する傾き算出工程と、
i番目の残差r及び前記傾きf’(x)を記録する角度補正データ記録工程とを有することを特徴とするロータリエンコーダの角度補正方法。
【請求項2】
角度目盛が付された目盛盤と、前記角度目盛を通過した光の角度目盛像位置を読み取る検出器と、前記角度目盛像位置から内挿計算して測角値を得る演算手段とを備えたロータリエンコーダの角度補正方法において、
前記角度目盛像位置について、モデルから算出される位置と実際に読み取った位置Pとの残差rを求めて記録するとともに、該残差rを角度目盛像番号xに関する0次以上の各次数の多項式f(x)に当て嵌めて、残差曲線r=f(x)を求める残差曲線算出工程と、
各次数の多項式毎に、連続する複数個の角度目盛像のi番目の角度目盛像番号をxとして、x=xの点における前記残差曲線の接線の傾きf’(x)を算出する傾き算出工程と、
各次数の多項式毎に、前記i番目の角度目盛像番号の残差r及び前記傾きf’(x)から角度目盛像位置の補正量Cを算出するとともに、該補正量Cを使用して測角値θを求め、内挿計算に用いる連続する角度目盛像の組合せを角度目盛が小さくなる方向と角度目盛が大きくなる方向にそれぞれ切換えて、前記補正量Cを使用して測角値θ−1及びθ+1を求めて、前記測角値θと前記測角値θ−1及びθ+1の差θ−1−θ、θ+1−θから角度とび量を算出する角度とび量算出工程と、
各次数の多項式毎に算出した前記角度とび量を比較して、前記多項式f(x)の次数を決定する次数決定工程と、
前記残差r及び決定された次数の多項式f(x)から得られた接線の傾きf’(x)を記録する角度補正データ記録工程とを有することを特徴とするロータリエンコーダの角度補正方法。
【請求項3】
前記多項式の次数は0〜7次の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のロータリエンコーダの角度補正方法。
【請求項4】
赤池情報量基準(AIC)が最小となるように前記多項式の次数を決定することを特徴とする請求項3に記載のロータリエンコーダの角度補正方法。
【請求項5】
前記多項式が最小次数となるように前記多項式の次数を決定することを特徴とする請求項4に記載のロータリエンコーダの角度補正方法。
【請求項6】
角度目盛が付された目盛盤と、前記角度目盛を通過した光の角度目盛像位置を読み取る検出器と、前記角度目盛像位置から内挿計算して測角値を得る演算手段とを備えたロータリエンコーダにおいて、
前記演算手段は、請求項1、2、3、4又は5に記載された角度補正方法によって作成して記録された前記残差r及び前記接線の傾きf’(x)を用いて測角値を補正することを特徴とするロータリエンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−309689(P2008−309689A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158607(P2007−158607)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000148623)株式会社 ソキア・トプコン (114)
【Fターム(参考)】