説明

ローヤルゼリー由来の降圧ペプチド

【課題】安全で降圧作用の高いACE阻害剤を提供する。
【解決手段】ローヤルゼリー素材をトリプシンで処理してなるアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する蛋白分解物であって、以下の4種のペプチドの少なくとも1種を含む蛋白分解物:Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリー由来の蛋白分解物及びその製造方法並びに、該蛋白分解物を含む食品、経口摂取用製剤に関する。本発明の蛋白分解物は、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有し、高血圧の予防ないし治療に有効である。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、自覚症状が無く、放置すると心臓病、脳血管障害といった重大な疾患を二次的に引き起こす疾病であり、高血圧症の治療および予防が大きな課題となっている。高血圧症にはアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme 、以下ACEという)が深く関与することが知られており、ACEを阻害することにより高血圧を予防ないし治療することが可能である。
【0003】
一方、高血圧の予防ないし治療のための医薬品は長期間摂取することが必要となるため、副作用が極めて低いことが重要な要素となっている。予防医学的な健康管理の考え方が普及してきた現在、副作用の心配のない高血圧を予防する食品の開発が求められている。
【0004】
ローヤルゼリーは、ミツバチが女王蜂を育てるために頭部の下咽頭腺と大腮腺から分泌した乳白色のゼリー状の物質で、人の食品としての摂取歴は長く、滋養、強壮、体質改善等の広範な作用があるといわれている。そのタンパク質の酵素分解物について研究され、ACE阻害活性を有するローヤルゼリー由来のペプチドも知られている(特許文献1〜3、非特許文献1〜6)。
【0005】
しかしながら、これらのペプチドはローヤルゼリー素材の加水分解により得られる量とACE阻害活性の強さ、即効性、副作用、作用の持続時間、摂取する形状、保存安定性のバランスの観点から、工業化に向けて改善の余地があった。
【0006】
特許文献4は、ローヤルゼリー由来のACE阻害ペプチドを開示しているが、さらに強力なACE阻害活性を有するペプチドが求められていた。
【特許文献1】特許第3068656号
【特許文献2】特開2002−145899
【特許文献3】特開2002−338594
【特許文献4】特開2005−255670
【非特許文献1】Journal of Nutritional Biochemistry 13 (2002) pp.80-86
【非特許文献2】診断と新薬、第39巻、第2号、2002年、85−90頁
【非特許文献3】日本食品科学工学会誌、第50巻、第10号 457-462頁 (2003).
【非特許文献4】日本食品科学工学会誌、第50巻、第6号 286-288頁 (2003).
【非特許文献5】日本食品科学工学会誌、第50巻、第7号 310-315頁 (2003)
【非特許文献6】日本食品科学工学会誌、第51巻、第1号 34-37頁 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、副作用がなく、高血圧の予防作用を有する蛋白分解物、その製造方法、該蛋白分解物を含む食品及び経口摂取用製剤を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、即効性、効果の持続性及び保存安定性を有するACE阻害物質、該阻害物質を含む高血圧の予防ないし治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、生ローヤルゼリー、乾燥ローヤルゼリーをエタノール処理した変性タンパク質などのローヤルゼリー素材を蛋白分解酵素、例えばトリプシンで加水分解することにより、高血圧を予防することが可能な蛋白分解物が得られることを見出した。
また、本発明の蛋白分解物(単離された4種のペプチドを含む、以下同じ)は強力なACE阻害作用を有するが、ACE阻害作用から予想されるよりも強力な高血圧の予防または治療作用を有しており、その作用の一部は降圧作用を有するブラジキニンの分解抑制作用に基づくものと推測される。
【0010】
該蛋白分解物は、アレルギー作用などの副作用が低く、ローヤルゼリー由来の安全な食品であり、正常高値或いは軽症高血圧などの血圧が高めのヒトに対し特に有用な降圧作用ないし高血圧予防作用を有しており、特定保健用食品などの食品として特に有用である。
【0011】
本発明の蛋白分解物を正常高値及び軽症高血圧のヒトに投与したところ、有意な血圧低下作用が確認され、しかも摂取終了後に血圧が緩やかに上昇し、摂取前値を超えるようなリバウンドはなく、脈拍、体重・BMI、血液検査、尿検査に異常はなく、空咳、皮膚症状、消化器症状などのローヤルゼリー分解物と因果関係があり得る副作用がなく、安全性の高いものであることが確認された。
【0012】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
1. ローヤルゼリー素材をトリプシンで処理してなるアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する蛋白分解物であって、以下の4種のペプチドの少なくとも1種を含む蛋白分解物:
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。
2. ローヤルゼリー素材が、ローヤルゼリーのアルコール変性タンパク質である項1に記載の蛋白分解物。
3. ローヤルゼリー素材に由来する蛋白分解物であって、下記式
【0013】
【数1】

【0014】
で表されるGlyを基準にしたときのLysの酵素分解後の残存率(モル比)が、ローヤルゼリー素材の70%以下である蛋白分解物。
4. ローヤルゼリー素材に由来する蛋白分解物であって、下記式
【0015】
【数2】

【0016】
で表されるLysを基準にしたときのLeuの含有割合(モル比)が、ローヤルゼリー素材の1.3倍以上である蛋白分解物。
5. ローヤルゼリー素材に由来し(1)無機塩類および(2)酸性遊離アミノ酸、塩基性遊離アミノ酸、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸、遊離Alaおよび遊離Glyからなる群から選ばれる少なくとも1種を実質的に含まない項3又は4に記載の蛋白分解物。
6. ローヤルゼリー素材に由来し、(1)無機塩類並びに(2)遊離酸性アミノ酸および遊離塩基性アミノ酸を実質的に含まない項5に記載の蛋白分解物。
7. ローヤルゼリー素材に由来し、(1)無機塩類並びに(2)酸性遊離アミノ酸(Asp,Glu)、塩基性遊離アミノ酸(Lys,His,Arg)、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸(Thr,Ser)、遊離Alaおよび遊離Glyを実質的に含まない項6に記載の蛋白分解物。
8. 糖分の含有量が35重量%以下であり、40℃6ヶ月(アルミニウム袋)の加速試験条件下で実質的に変色しない項3〜5のいずれかに記載の蛋白分解物。
9. ゲル濾過カラムでの分析により分子量10000以上の成分は実質的に認められず、分子量200〜1500程度の範囲に最大のピークを有し、分子量200〜300程度のシャープなピークを有する項3〜6のいずれかに記載の蛋白分解物。
10. 平均分子量が700〜6000程度の範囲内にある項3〜6のいずれかに記載の蛋白分解物。
11. 前記蛋白分解物を下記の特性を有するスチレン・ジビニルベンゼン共重合体のカラム(4.6mmφ×150mm)を通したとき、下記式で表される関与成分含量(%)が40%以上である項1〜10のいずれかに記載の蛋白分解物
・スチレン・ジビニルベンゼン共重合体の特性
粒度分布;30μm
細孔径;250Å
官能基;なし
適用pH範囲:全領域。
【0017】
・関与成分含量(%)=A1/AT×100
T1:トリプトファンの保持時間
T2:10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の保持時間
A1:T1の溶出位置に検出されるピークの後ろから,T2の溶出位置に検出されるピークの前までのピーク面積の合計
AT:全てのピーク面積の合計。
12. 前記関与成分含量が58±5%である項11に記載の蛋白分解物。
13. 前記蛋白分解物を下記の特性を有するスチレン・ジビニルベンゼン共重合体のカラムを通し、水(フラクション1,2)、20%メタノール(フラクション3)、40%メタノール(フラクション4)、60%メタノール(フラクション5)、80%メタノール(フラクション6)、100%メタノール(フラクション7)で溶出したときのフラクションのうち、フラクション3〜6を含む、項1〜11のいずれかに記載の蛋白分解物:
粒度分布:>250μm(250μmより大きい粒子径のものを90%以上含む)
細孔径:400Å
官能基:なし
適用pH範囲:全領域。
14. フラクション4に
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;および
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
からなる群から選ばれる少なくとも1種のペプチドを含み、フラクション5に、
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg
を含む、項13に記載の蛋白分解物。
15. 項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を有効成分とする高血圧の予防ないし治療剤。
16. 項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を含む食品。
17. 高血圧予防用食品である項16に記載の食品。
18. 項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を含む経口摂取用製剤。
19. 次の4種ペプチドから選ばれる少なくとも一種のペプチドを有効成分として含有する高血圧の予防ないし治療剤:
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。
20. 明らか食品および/またはサプリメントからなる食品形態である項18に記載の製剤。
21. 項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
22. ローヤルゼリー素材をブタトリプシンで処理することを特徴とする項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物の製造方法。
23. ブタトリプシン処理で得られた蛋白分解物を合成吸着剤で処理し、(1)無機塩類および(2)酸性遊離アミノ酸、塩基性遊離アミノ酸、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸、遊離Alaおよび遊離Glyからなる群から選ばれる少なくとも1種を除去することを特徴とする項22に記載の方法。
24. ブタトリプシン処理で得られた蛋白分解物をスチレン・ジビニルベンゼン共重合体に吸着し、水洗して無機塩及び水溶性アミノ酸を除去し、次いで含水アルコールで溶出することを特徴とする項22に記載の方法:
25. スチレン・ジビニルベンゼン共重合体が下記の特性を有する項24に記載の方法:
粒度分布:>250μm(250μmより大きい粒子径のものを90%以上含む)
細孔径:400Å
官能基:なし
適用pH範囲:全領域。
26. 以下の4種のペプチドのいずれかからなる新規ペプチド:
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。
【発明の効果】
【0018】
本発明のローヤルゼリー素材由来の蛋白分解物は、経口摂取で強力なACE阻害作用を示し、高血圧の予防ないし治療に有効である。
本発明の蛋白分解物は、抗原となり得る分子量2万以上のタンパク質含量が低下され、好ましい蛋白分解物では抗原となり得る分子量1万以上のタンパク質はほとんど或いは全く有しない。従って、本発明の蛋白分解物は、アレルギー反応をより強く抑制することができ、アレルギー反応はほとんど認められない。
さらに、本発明と蛋白分解物は、脈拍、体重・BMI、血液検査、表検査に異常はなく、空咳、皮膚症状、消化器症状などの副作用のない安全なものである。
【0019】
脱塩操作がなされた本発明の蛋白分解物は、昇圧物質となり得る塩類、特に塩化ナトリウムの含量が極めて低い。また、脱塩操作により遊離アミノ酸や糖質などの他の成分の含量が低下し、吸湿性やメイラード反応などの化学反応が抑制され、より安定性の高い蛋白分解物を得ることができる。
【0020】
本発明の蛋白分解物を長期間摂取することにより、血圧を緩やかに且つ持続的に低下させることができ、正常血圧の被験者が高血圧さらには、高血圧に起因する各種の疾患を予防することができる。
【0021】
本発明の蛋白分解物は、作用持続時間(8〜12時間)が長く、血圧が緩やかに低下するため、当該蛋白分解物を服用した場合、1日の血圧の変動が小さく、血圧のコントロールが容易である。例えば朝服用すれば、活動時間中は血圧を低下させ、就寝中は血圧を低下させないため、血圧が高めのヒトが服用した場合の理想的な作用パターンを有している。また、服用中止後は緩やかに血圧が上昇し、服用前の血圧を超えるようなリバウンドは観察されない。特に拡張期血圧を穏やかに下げる点において、本発明の蛋白分解物あるいは4種のペプチドは優れている。
【0022】
本発明の蛋白分解物は、変異原性や抗原性試験に対し陰性の結果が得られており、血圧変動が少ないことや心拍数・体重に及ぼす影響がほとんどなく、安全性に優れた素材である。
【0023】
本発明の蛋白分解物は、高血圧症の危険因子(遺伝的、環境的素因など)を有する正常高値または軽症高血圧の人ないし高血圧患者が摂取するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において、ローヤルゼリー素材としては、ローヤルゼリーのタンパク質を含む素材を意味するものであり、この要件を満たしていれば特に限定されず、例えば生ローヤルゼリー、乾燥ローヤルゼリー、ローヤルゼリーをエタノール沈殿、硫安処理、加熱処理等の蛋白変性処理を行って得られた蛋白沈殿物(エタノール沈殿物を含む)、或いは、ローヤルゼリーを抽出、濾過、遠心分離、クロマトグラフィー等の種々の手段により分画後のタンパク質を含む素材を意味する。
ローヤルゼリーは、いかなるものであってもよく、女王蜂を育てるために蜜蜂が分泌するものを広く用いることができる。具体的には、ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合してつくる乳白色のゼリー状物質である。
【0025】
ローヤルゼリー由来のタンパク質画分としては、ローヤルゼリーをアルコール沈殿して採取した蛋白画分を好適に用いることができる。特にローヤルゼリー飲料の製造時に水不溶性タンパクとして副生するローヤルゼリーのエタノール変性タンパク質を使用するのが好ましい。エタノール変性タンパク質は、50〜100容量%程度のエタノールを使用してローヤルゼリーからデセン酸等の飲料用の生理活性物質を抽出した残渣の水に対する溶解度が小さいタンパク質として得ることができる。
【0026】
4種のペプチドを含む本発明のローヤルゼリー素材の酵素分解物は、トリプシンにより加水分解を行うことにより得ることができる。トリプシンは、トリプシノーゲンの限定加水分解によって生成する活性型のα−トリプシンとβ−トリプシンがあり、そのいずれを使用してもよい。また、トロンビン、プラスミン、カリクレイン、ウロキナーゼなどの基質特異性と触媒機構が類似するトリプシン類縁酵素をトリプシンとして使用することもできる。さらに、トリプシン(トリプシン類縁酵素を包含する)の1以上のアミノ酸を置換、付加、欠失、挿入等により改変した変異型酵素を使用してもよい。このような変異型トリプシン及びトリプシン類縁酵素も本発明のローヤルゼリー素材の酵素分解に使用されるトリプシンに包含される。トリプシンの由来としては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヒトなどの哺乳動物が挙げられる。ローヤルゼリー素材の加水分解には、ウシ、ブタ等の哺乳動物の膵臓から抽出したトリプシンを使用してもよく、遺伝子組換えにより得られたトリプシンを使用してもよい。
ローヤルゼリー素材をトリプシンで処理する条件としては、例えば、水性溶媒中約15℃から約60℃、好ましくは約20℃から約50℃、特に37℃前後で、1〜72時間程度、好ましくは3〜48時間程度処理することにより好ましく実施することができる。トリプシンの使用量は、例えばタンパク質100g当たり0.01〜3g程度、好ましくは0.05〜1g程度である。トリプシンは遊離の酵素を用いてもよく、担体に固定化した酵素を使用してもよい。トリプシンとしては、具体的にはNovozyme製のブタ由来トリプシンを好ましく使用できる。
酵素反応液のpHは、6〜10程度、好ましくは7〜9程度である。ローヤルゼリー素材をトリプシンで加水分解すると、pHが徐々に低下するので、アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アルカリ金属炭酸塩(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)、アルカリ金属炭酸水素塩(例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)などの塩基を使用してpHを一定の範囲内に保持するのが好ましい。
反応液は水を好適に使用できるが、少量のエタノール等の水混和性有機溶媒を含む、含水エタノール等の水性溶媒中で行ってもよい。
酵素分解物の反応液は、加熱処理、必要に応じてさらに遠心分離、濾過、抽出、脱塩、凍結乾燥やスプレードライ(または、噴霧乾燥)などの後処理を行い、本発明の蛋白分解物を得ることができる。例えば、ローヤルゼリー素材として生ローヤルゼリー或いは乾燥ローヤルゼリーを使用した場合、ローヤルゼリー由来の糖質等の成分を除去することもできる。本発明の好ましい実施形態の1つにおいて、本発明のローヤルゼリー素材の蛋白分解物は、ゲル濾過カラムにより測定された分子量が200〜7000程度、特に250〜6000程度を有し、分子量200〜300程度のシャープなピークと、分子量200〜1500程度の範囲に最大のピークを有する。ゲル濾過カラムの測定結果から推定される蛋白分解物の推定分子量は、700〜6000程度、好ましくは800から5000程度である。
【0027】
本発明の他の好ましい実施形態の1つにおいて、本発明のローヤルゼリー素材の蛋白分解物は、糖類や塩類及び酸性遊離アミノ酸、塩基性遊離アミノ酸、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸、遊離Alaおよび遊離Glyからなる群から選ばれる少なくとも1種を実質的に含まないものである。既述のように、ローヤルゼリー素材をトリプシン処理した場合、蛋白加水分解時、水酸化ナトリウムなどの塩基を加えて反応液のpHをトリプシンの好適なpHである6〜10,特に7〜9程度に維持するのが好ましい。このようにして添加された塩基(例えば水酸化ナトリウム)は、酵素反応後に反応液に酸(例えば塩酸)を加えてpHを3.5〜7程度、好ましくは4〜5.5程度に調整し、塩基(例えば水酸化ナトリウム)を対応する塩(例えば塩化ナトリウム)に導く。この際に生成する多量の塩は、特に塩化ナトリウムのようなナトリウムを含有する塩の場合、ナトリウムが昇圧物質であるため、除去するのが望ましい。この脱塩は、例えば脱塩カラムを使用することにより実施することができ、具体的には、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体を含む疎水性の合成吸着剤(例えばダイヤイオンHP−20(三菱化学製)、セパビーズSP−70(三菱化学製))を用いて蛋白分解物を吸着し、塩化ナトリウムのような塩を水で洗浄除去し、次いで、メタノール、エタノール、アセトニトリルなどの適切な有機溶媒を用いて溶出することにより、脱塩され、無機塩類を実質的に含まない蛋白分解物を得ることができる。脱塩に合成吸着剤を使用すると、例えばAsp,Glu,Lys,Arg等の疎水性の合成吸着剤に吸着されにくい酸性又は塩基性の遊離アミノ酸等は無機塩類とともに除去され、一方、Phe,Leu,Ile,Trp,Val等の疎水性であって、合成吸着剤に吸着されやすい遊離アミノ酸は、脱塩操作によっても除去されにくい。なお、Ser,Thrなどのアルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸、さらに遊離Ala,遊離Glyなどについても疎水性の合成吸着剤に吸着されにくいため、酸性又は塩基性の遊離アミノ酸と同様に無機塩類とともに除去されやすい。
【0028】
本発明の1つの実施形態において、ローヤルゼリーの蛋白分解物中には、遊離Lysが比較的多く産生するが、合成吸着剤カラムを用いた脱塩処理によって大部分が水洗除去されるので、エタノール等で溶出し回収した分画の蛋白分解物には、遊離Lysは実質的に含まれない。
【0029】
本発明の他の実施形態において、ローヤルゼリーの蛋白分解物中には、遊離Alaも多く存在し、遊離Alaについても合成吸着剤カラムを用いた脱塩処理によって大部分が水洗除去されるので、エタノール等で溶出し回収した分画の蛋白分解物には、遊離Alaは実質的に含まれない。
【0030】
ここで、「遊離アミノ酸を実質的に含まない」とは、当該遊離アミノ酸の含量が、約0.01μmol/10mg以下、好ましくは約0.001μmol/10mg以下、より好ましくは0.0001μmol/10mg以下であることを意味する。
【0031】
本明細書において、「酸性アミノ酸」はGluおよびAspを意味し、塩基性アミノ酸はLys,His,Argを意味し、アルコール性水酸基を有するアミノ酸としては、Thr,Serを意味する。
好ましい実施形態の1つにおいて、本発明の蛋白分解物における塩類(特に塩化ナトリウム)の含量は、1重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、特に検出限界以下である。
【0032】
上記のように、脱塩処理により、塩基性遊離アミノ酸、酸性遊離アミノ酸、アルコール性遊離アミノ酸、遊離Ala、遊離Glyなどの濃度は低下するが、ACE阻害活性の低下はほとんど或いは全くない。これは、塩基性遊離アミノ酸、酸性遊離アミノ酸、アルコール性遊離アミノ酸、遊離Ala、遊離GlyなどのACE阻害活性に対する寄与率が低いためと考えられる。
【0033】
本発明の好ましい他の1つの実施形態において、本発明の蛋白分解物は、Glyを基準にしたときのLysの残存率(モル数で比較)が、ローヤルゼリー素材の25〜70%、30〜60%、35〜55%、40〜50%である。例えば本発明の実施例で得られた蛋白分解物に関し、
酵素分解前のローヤルゼリー素材(エタノール沈殿物)
Gly(1モル)に対しLys(1.1モル)
酵素分解物(合成吸着剤を充填したカラム処理で脱塩後、回収したサンプル)
Gly(1モル)に対しLys(0.5モル)
になるので、数1に従いLysの残存率を計算すると、
100×(0.5/1.1)=約45%となる。
【0034】
ローヤルゼリー素材、分解条件により多少の変動はあるが、蛋白分解物を合成吸着剤により吸着して脱塩した場合、遊離Lysの含有濃度はもとの分解物と比較して低くなることが明らかである。
【0035】
本発明の好ましい他の1つの実施形態において、本発明の蛋白分解物は、Lysを基準にしたときのLeuの含有割合(モル比)が、ローヤルゼリー素材の1.3〜3.5倍程度、例えば1.5〜3倍程度、1.7〜2.7倍程度或いは2〜2.5倍程度である。例えば本発明の実施例で得られた蛋白分解物に関し、
酵素分解前のローヤルゼリー素材(エタノール沈殿物)
Lys(1モル)に対しLeu(約1.1モル)
酵素分解物(合成吸着剤を充填したカラム処理で脱塩後、回収したサンプル)
Lys(1モル)に対しLeu(約2.5モル)
になるので、数2に従いLeuの含有割合(モル基準)を計算すると、
2.5/1.1=約2.3倍である。
【0036】
本発明の蛋白分解物において、分解されていないより高分子量のタンパク質、トリプシンなどが残存している場合、必要に応じて、限外濾過などにより除去することが可能である。
【0037】
本発明の好ましい他の1つの実施形態において、本発明の蛋白分解物は、ローヤルゼリー由来の糖質含量が低いものが好ましい。糖質(糖分)含量としては、蛋白分解物の品質を損なわない限りにおいて特に限定されないが、通常35重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。糖分としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、スクロース、などの単糖或いは二糖が挙げられる。これら糖質は、保存中に蛋白分解物と徐々に反応(例えばメイラード反応)して蛋白分解物を褐変させたり吸湿性が高くなる原因となるので、できるだけ除かれていることが望ましい。
【0038】
本発明の蛋白分解物は、酵素処理後の好ましくは脱塩処理をして製造してもよく、さらにカラムなどの処理によりACE阻害活性がより強い分画を集めることも可能である。そして、必要ならば同様の精製を繰り返すことにより、ACE阻害作用を有するペプチドを分離し、当該生理活性ペプチドを単離ないし濃縮して、ACE阻害作用を有する蛋白分解物として使用してもよい。
【0039】
ACE阻害ペプチドは、例えば、本発明の蛋白分解物について合成吸着剤やゲル濾過剤、分子ふるい、逆相クロマトグラフ等にかけ、水、メタノール、エタノール或いはこれらの混合溶液のような適当な溶出液で溶出して種々の分画に分け、ACE阻害活性の強い分画について分取HPLC等の常法によりペプチドを単離し、構造決定することにより、ACE阻害活性の強いペプチドを単離することもできる。
【0040】
本発明の好ましい1つの実施形態において、ローヤルゼリー素材をトリプシン処理した蛋白分解物を合成吸着剤の1つであるHP−20カラムに吸着させ、下記のスキーム1に従って、7つのフラクションに分画することができる。
【0041】
なお、本明細書において、フラクション(分画)を「Fr」または「P」と略記することがある。例えば、フラクション4は、「Fr4」または「P4」と記載され得る。
スキーム1
ローヤルゼリー蛋白加水分解液855mL(凍結乾燥物として50gに相当)

ダイヤイオンHP20に負荷(カラムサイズ:φ11cm×20cm、容量:約1.9L)
↓ 洗浄液:水3260mL使用
↓ 溶出液:20%、40%、60%、80%、100%MeOH
↓ ・20% メタノール 2460mL使用
↓ ・40% メタノール 2340mL使用
↓ ・60% メタノール 2720mL使用
↓ ・80% メタノール 2300mL使用
↓ ・100% メタノール 3200mL使用
洗浄液及び各溶出液
↓ エバポレーター(40℃)を用いて濃縮
各濃縮液

凍結乾燥
水洗浄分画 :フラクション1及び2
20%メタノール溶出分画:フラクション3
40%メタノール溶出分画:フラクション4
60%メタノール溶出分画:フラクション5
80%メタノール溶出分画:フラクション6
100%メタノール溶出分画:フラクション7
【0042】
上記のフラクションのうち、フラクション3〜6を含む製品が好ましい。フラクション7を含んでもよいが、フラクション7は収率が少ないため、フラクション3〜6を含む蛋白分解物は十分な降圧作用を示す。また、フラクション1,2はACE阻害作用を示し得るが、アミノ酸及び無機塩類(例えばNaCl)を含むので、本発明の蛋白分解物に含まれる必要はない。
本発明の蛋白分解物は、下記の特性を有するスチレン・ジビニルベンゼン共重合体(商品名:三菱化学社製MCI−GEL,CHP55Y)のカラム(4.6mmφ×150mm)を通したとき、下記式で表される関与成分含量(%)が35%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは50〜70%、特に好ましくは58±5%、最も好ましくは58±3%であるのがよい:
・関与成分含量(%)=A1/AT×100
T1:トリプトファンの保持時間
T2:10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の保持時間
A1:T1の溶出位置に検出されるピークの後ろから,T2の溶出位置に検出されるピークの前までのピーク面積の合計
AT:全てのピーク面積の合計。
・スチレン・ジビニルベンゼン共重合体の特性
粒度分布;30μm
細孔径;250Å
官能基;なし
適用pH範囲:全領域。
【0043】
カラム:4.6mmφ×150mm
上記A1には、主にフラクション4及びフラクション5が含まれる。
ローヤルゼリー蛋白加水分解物(検体)の関与成分含量の測定は、例えば以下の条件(試験方法)で実施することができる。
【0044】
試験方法
本品0.50gを量り,水/メタノール混液(1:1)10mLを加えて溶かし,50mLとする.この液をメンブランフィルター(0.45μL)でろ過し,ろ液を検液とする.
もしくは,本品0.50gを量り,水/メタノール混液(1:1)10mL及びリン酸緩衝液(pH8.0)1)10mLを加えて溶かし,更に水15mL及び希酢酸2)5mLを加えてよく振りまぜ,水を加えて50mLとする.この液をメンブランフィルター(0.45μL)でろ過し,ろ液を検液とする.
別に,トリプトファン3)1mg及びグリシル-L-ロイシル-L-チロシン4)5mgを量り,酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)5)5mLを加えて溶かし,更に水を加えて10mLとし,A液とする.
10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸標準品6)5mgを量り,水/メタノール混液(1:1)0.5mLを加えて溶かす.この液にA液0.5mLを加えてよく混和し,比較液とする.
検液及び比較液それぞれ50μLにつき,次の操作条件で液体クロマトグラフィーを行う.比較液のトリプトファン及び10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の保持時間をT1及びT2とし,検液におけるT1の溶出位置に検出されるピークの後ろから,T2の溶出位置に検出されるピークの前までのピーク面積の合計A1及び全てのピーク面積の合計ATを測定し,次式により関与成分含量を求める.

関与成分含量(%)=A1/AT×100

操作条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:275nm)
カラム:内径4.6mm,長さ150mmのステンレス管に30μmのスチレン・ジビニルベンゼン共重合体逆相用ポリマー7)を充てんする.
カラム温度:50℃付近の一定温度
移動相A:水/メタノール混液(199:1)
B:メタノール/水混液(19:1)
流速:1mL/分
グラジエント条件
0分 → 10分 A:B=92:8 保持
10分 → 12分 A:B=92:8 → A:B=50:50 直線
12分 → 22分 A:B=50:50 保持
22分 → 30分 A:B=50:50 → A:B=10:90 直線
30分 → 45分 A:B=10:90 保持
45.01分 → 55分 A:B=92:8 保持
面積測定範囲:10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の保持時間の約1.5倍の範囲
*:流速及びグラジエント条件については,下記のシステム適合性が満たされるよう適宜調整する.
【0045】
システム適合性
システムの性能:比較液50μLにつき,上記の操作条件で液体クロマトグラフィーを行うとき,トリプトファン,グリシル-L-ロイシル-L-チロシン,10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の順に溶出し,トリプトファンとグリシル-L-ロイシル-L-チロシンの分離度が3以上で,グリシル-L-ロイシル-L-チロシンと10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の分離度が5以上である.
注:
1) リン酸緩衝液(pH8.0):調製は,食品添加物公定書に準拠.
2) 希酢酸:調製は,食品添加物公定書に準拠.
3) L-トリプトファン: C11H12N2O2 和光純薬工業株式会社製 試薬特級又は同等の品質のものを用いる.
4) グリシル-L-ロイシル-L-チロシン:C17H25N3O5 フルカ(リーデル・デ・ハーン)社製 含量98%以上のもの又は同等の品質のものを用いる.
5) 酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0):酢酸ナトリウム三水和物5.44gを水900mLに溶かし,酢酸(100)を滴加し,pHを4.0に調整した後,水を加えて1000mLとする.
6) 10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸標準品:(E)-10-ヒドロキシ-2-デセン酸標準品(C10H18O3) 和光純薬工業株式会社製又は同等の品質のものを用いる.
7) スチレン・ジビニルベンゼン共重合体逆相用ポリマー:三菱化学社製MCI-GEL CHP55Y又は同等の品質のものを用いる.
次に、フラクション3〜6についての関与成分(ペプチド)の単離とその同定について、以下に記載する
【0046】
(a) 大口径カラムによる分画
HPLC条件
カラム :TSK-gel ODS 120T 55mmφ×300mm 東ソー
ガードカラム:TSK-gel ODS 120T 45mmφ×55mm 東ソー
移動相 :水/アセトニトリル混液/0.05%TFA
流量 :42mL/分
カラム温度 :室温
検出波長 :220nm
* :アセトニトリル濃度 7〜25%、50%(洗い出し)
【0047】
(b) 中口径カラムによる分画
HPLC条件
カラム :COSMOSIL-5C18-AR II 20mmφ×250mm ナカライテスク
および/または COSMOSIL-5C18-AR II 10mmφ×250mm ナカライテスク
移動相 :水/メタノール混液/0.05%TFA
流量 :8mL/分 または 2mL/分
カラム温度 :40℃
検出波長 :220nm
* :メタノール濃度
イソクラティックモード 2〜35%、50%(洗い出し)
グラジエントモード A液0% (0.05%TFA)、B液50%
【0048】
(c) 各分取液の純度の確認
<HPLC条件>
検出器 :紫外分光光度計(測定波長:220nm)
カラム :COSMOSIL-5C18-AR II 4.6mmφ×250mm ナカライテスク
移動相 :水/メタノール混液/0.05%TFA
流量 :0.4mL/分
カラム温度 :40℃
* :メタノール濃度 2〜40%
【0049】
ACE阻害率の測定
純度が85%以上の分画についてACE阻害率の測定を行った。
なお、純度が85%以下のサンプルも一部測定を行った。
【0050】
ACE阻害率の測定方法
試料溶液(反応液中濃度:0.1mg/mL) 25μL
↓ ACE溶液(ウサギ肺由来アンジオテンシンI変換酵素:25mU/mL) 50μL
プレインキュベート37℃−5 分
↓ 基質溶液(Hippuryl-L-Histidyl-L-Leucine:12.5mM) 50μL
インキュベート37℃−60 分
↓ 塩酸(9→200) 125μL
↓ 内標準溶液(m-馬尿酸:0.625mM) 100μL
↓ 酢酸エチル 750μL
↓ ボルテックスミキサー 10sec×2
遠心分離 (2000rpm, 5分)

有機層 500μL
↓ 60℃、窒素ガス気流下で乾固
↓ 移動相 500μL
↓ ボルテックスミキサーで溶解
20μLをHPLCに注入

<HPLC条件>
検出器 :紫外分光光度計(測定波長:228nm)
カラム :L-column ODS 4.6mmφ×150mm 化学物質評価研究機構
移動相 :0.01Mリン酸緩衝液(pH3.0)/アセトニトリル混液(17:3)
流量 :1.0mL/分
カラム温度 :40℃
注入量 :20μL
【0051】
(d) 構成アミノ酸の測定
単離量が2mg以上またはACE阻害率が20%以上の分画について、酸加水分解後にアミノ酸濃度を測定し、構成アミノ酸を求めた。

構成アミノ酸の測定方法
<酸加水分解法−1:トリプトファンを含まない単離ペプチド>
試料溶液(1mg/mL 50%メタノール溶液) 50μL
↓ Pico-Tag (Waters)を用いて減圧乾固(室温)
残留物
↓ +6mol/L塩酸溶液(1%フェノール含有) 0.2mL (反応バイアル内に入れる)
↓ Pico-Tag法により加水分解(110℃、22時間)
↓ 冷後
↓ Pico-Tag を用いて減圧乾固(室温)
残留物
↓ +0.02mol/L塩酸試液 0.25mL(5倍希釈)
20μL/アミノ酸分析
<酸加水分解法−2:トリプトファンを含む単離ペプチド>
試料溶液(1mg/mL 50%メタノール溶液) 50μL
↓ Pico-Tag (Waters)を用いて減圧乾固(室温)
残留物
↓ +4mol/Lメタンスルホン酸溶液(0.2%トリプタミン含有) 20μL
↓ +水0.2mL(反応バイアル内に入れる)
↓ Pico-Tag法により加水分解(110℃、22時間)
↓ 冷後
↓ +4mol/L水酸化カリウム溶液 22μL
↓ Pico-Tag を用いて減圧乾固(室温)
残留物
↓ +0.05mol/L塩酸試液 0.25mL(5倍希釈)
20μL/アミノ酸分析

<アミノ酸分析条件>
(ニンヒドリン反応によるポストラベル法)
装置:L-8500形日立高速アミノ酸分析計
カラム:4.6mmID×80mm日立カスタムイオン交換樹脂(#2622SC・LotNo.K99272)
(Na型・高分離分析・グラジエント法
緩衝液:日立高速アミノ酸分析計用緩衝液L-8500PH-KIT(三菱化学又は和光純薬社製)
V1:PH-1(PH-1 500mLにエタノール(99.5)65mL及び水を加えて1000mLとする)
V2:PH-2
V3:PH-3(未使用)
V4:PH-4
V5:PH-RG
反応液:ニンヒドリン試液-L8500セット(和光純薬社製)
流 量:緩衝液 0.26mL/分
反応液 0.30mL/分
注入量:20μL
測定波長:570nm(Pro:440nm)
【0052】
(e) アミノ酸配列の決定
ACE阻害率及び構成アミノ酸の測定結果を基に、ACE阻害活性率が高く、含有量が多いと推察され、なおかつ純度が高いペプチドについて、N-末端アミノ酸分析法(エドマン分解法)によりアミノ酸配列の解析を試みた。
エドマン分解法の操作条件
試料溶液の調製法
各試料は一定量を量りとり、それぞれに精製水を添加して溶解し、1nmol/μLとした。さらに精製水で10倍に希釈し、100pmol/μLとした。このうち、各2μL(200pmol)を用い、下記装置で測定した。
装置:プロテインシーケンサー(PPSQ-23A、SHIMADZU)
PTHアナライザー(SPD-10A、SHIMADZU)
シーケンススケジュールファイル(Standard GFD)
測定結果
ACE阻害活性率が高く、含有量が多いと推察されるペプチドについて、エドマン分解によるアミノ酸配列の解析を試みた。
その結果、構造を同定することができたのは4検体(A1〜A4)であり、HP-20の粗分画のFr4部分から3種のペプチド、Fr5部分から1種のペプチドの構造を同定することができた。
それらの構造式およびACE阻害率の測定結果より求めたACE阻害活性IC50値を、下記の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
本発明の蛋白分解物(有効成分乃至関与成分として同定された前記4個のペプチドを含む。以下、同じ)は、等電点のpHに調整して遊離(フリー)のタンパク質分解物として使用してもよく、または等電点より酸性側または塩基性側のpHに調整後、溶媒を凍結乾燥、噴霧乾燥等により除去するか、またはエタノール等の溶媒を加えて沈殿させるなどの方法により、酸付加塩(塩酸塩等の無機酸塩またはフマル酸塩等の有機酸塩)あるいは塩基塩(例えばNa,K等のアルカリ金属塩)の形態で取得することができる。塩基塩は、昇圧物質であるナトリウムの含量をできるだけ抑えるのが好ましい。このような蛋白分解物は、溶液の形態で使用してもよいが、通常固形物、例えば結晶、アモルファス或いは粉末の形態で単離し、使用するのが望ましい。
【0055】
本発明の蛋白分解物はそれ自体食品として利用することができ、或いは単独で、もしくは適当な無毒性の経口摂取用担体、希釈剤または賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠など)、カプセル、トローチ、粉末、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、ペースト、クリーム、注射剤(アミノ酸輸液、電解質輸液等の輸液に配合する場合を含む)、或いは腸溶性の錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの徐放性製剤などの食品用もしくは医薬用の製剤にすることが可能である。前記製剤中の蛋白分解物の含有量は適宜選択が可能であるが一般に、0.01〜100重量%の範囲である。
【0056】
また、本発明に係る蛋白分解物(ローヤルゼリー酵素分解物)を添加・配合して調製しうる食品の具体的形態としては、例えば、飲料類(清涼飲料(コーヒー、ココア、ジュース、ミネラル飲料、茶飲料、緑茶、紅茶、烏龍茶等)、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、酒類(日本酒、洋酒、果実酒、はちみつ酒等)等)、スプレッド(カスタードクリーム、バタークリーム、ピーナツクリーム、チョコレートクリーム、チーズクリーム等)、ペースト(フルーツペースト、野菜ペースト、ゴマペースト、海藻ペースト等)、洋菓子(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、エクレア、マフィン、ワッフル、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、スナック菓子、ケーキ、プリン等)、和菓子(飴、煎餅、かりんとう、あられ、団子、おはぎ、大福、豆もち、餅、餡、饅頭、カステラ、あんみつ、羊かん等)、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット、かき氷等)、レトルト食品(カレー、牛丼、中華丼、雑炊、おかゆ、味噌汁、スープ、ミートソース、デミグラスソース、ミートボール、ハンバーグ、おでん種、赤飯、焼き鳥、茶碗蒸し等)、即席食品(即席ラーメン、即席うどん、即席そば、即席焼きそば、即席スパゲティ、即席ワンタン麺、即席しるこ、味噌汁の素、粉末スープの素、粉末ジュースの素、ホットケーキミックス等)、瓶詰・缶詰、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、テリーヌ、ゼリー状飲料等)、調味料(食塩、天然塩、醤油、みりん、酢、砂糖、蜂蜜、味噌、ドレッシング、旨味調味料、複合調味料、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ふりかけ、天つゆ、麺つゆ、だしの素、中華スープの素、中華の素(麻婆豆腐の素、チンジャオロースの素)、ブイヨン、焼肉のたれ、冷しゃぶのたれ、カレールー、シチューのルー等)、養蜂産品(はちみつ、ローヤルゼリー、プロポリス、花粉荷(花粉だんご)、蜂の子等)、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、生クリーム等)、加工果実(ジャム、マーマレード、シロップ漬、干し果実等)、加工野菜(野菜ジャム等)、穀類加工食品(麺、パスタ、パン、ビーフン等)、漬物(たくあん、奈良漬、キムチ漬、福神漬、らっきょう漬、白菜漬、からし漬、しば漬、浅漬け、ピクルス等)、漬物の素(即席漬けのもと、キムチ漬のもと等)、魚肉製品(かまぼこ、ちくわ、はんぺん等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、サラミ、ベーコン等)、珍味(さきするめ、さきタラ、ウニの塩辛、イカの塩辛、タコの塩辛、カワハギのみりんぼし、フグのみりんぼし、イカの薫製、コノワタの塩漬等)、乾物(味付け海苔等)、惣菜類(あえもの、揚げ物、炒め物、焼き物、煮物、酢の物等)、冷凍食品(エビフライ、コロッケ、春巻き、とんかつ、シューマイ、餃子、ハンバーグ、たこ焼き、今川焼き(回転焼き)、肉まん、あんまん等)、油脂食品(サラダオイル、マーガリン、バター)等を挙げることができる。本発明のローヤルゼリー蛋白分解物を添加・配合して調製しうる食品としては、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合わせ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)としてもよく、その場合であれば、素錠、フィルムコート錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセルとソフトカプセルとのいずれも含む。)、チュアブルタイプ、シロップタイプ、ドリンクタイプ等とすることもできる。本発明に係るローヤルゼリー酵素分解物を添加・配合した食品の調製は、それ自体公知の方法で行うことができる。
【0057】
本発明の蛋白分解物を含む特定保健用食品等の食品は、血圧が正常高値(収縮期血圧が130−139mmHg、拡張期血圧が85−89mmHg)及び軽症高血圧(収縮期血圧140−159mmHgないし拡張期血圧90−99mmHg)の両方のヒトに対して高血圧を予防する効果を有する。
【0058】
本発明の蛋白分解物は、軽症高血圧及び正常高値の被験者には、特に有効に降圧作用を示すが、正常ないし低血圧の被験者の血圧に対してはほとんど影響しないか、マイルドな作用しか示さないという理想的な特性を有している。
【0059】
本発明の蛋白分解物は、経口摂取により口腔粘膜或いは小腸から直接吸収されるか、胃腸管で加水分解を受けて吸収された後で強力で持続的なACE阻害作用を示し、高血圧症の予防、高血圧傾向の緩和または血圧調節を目的として、継続的に摂取することが可能であり、高血圧予防のための機能性食品、特に特定保健用食品等として有用である。この目的に本発明の蛋白分解物ないし製剤を用いる場合、一般的に体重60kgの成人では、1日あたり10mg〜10g、好ましくは0.1〜5g、より好ましくは0.5〜3g、特に0.5〜1gの範囲で経口摂取する。
【0060】
また、本発明の蛋白分解物をローヤルゼリー、プロポリス、蜂蜜、花粉、蜂の子等と併用もしくは混合して使用することも可能である。
【0061】
本発明の蛋白分解物は、アレルギー反応などの副作用をほとんど或いは全く有しないこと、作用持続時間が長く、1日1回の摂取(投与)で十分な降圧作用が期待できる。さらに、即効性も有するが、急速な血圧低下や、多量に飲用した場合の大きな血圧低下はなく、安全性の高い降圧作用を有している。また、ヒトにおける降圧作用が優れている。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1
エタノールを加えて沈殿したローヤルゼリーのエタノール変性タンパク質1gを用いてブタトリプシン250mgを添加し、pH8.0で24時間処理した。反応終了後、100℃で10分加熱して酵素失活させた。
【0063】
この反応液をpH4.5に調整し、合成吸着剤(セパビーズSP-70(三菱化学製))にかけ、水洗して塩化ナトリウム及び酸性又は塩基性の遊離アミノ酸、および糖類等を除去した後、エタノールで溶出し、脱塩した本発明の蛋白分解物を得た。
【0064】
脱塩後の蛋白分解物は、塩基性遊離アミノ酸、酸性遊離アミノ酸、アルコール性遊離アミノ酸、遊離Ala、遊離Glyを実質的に含まないものであり、数1に従いLysの残存率を計算すると約45%、数2に従いLeuの含有割合(モル基準)を計算すると、約2.3倍であった。また、糖分の含有量は35重量%以下であり、アルミニウムの袋に入れて40℃、6ヶ月の加速試験でも変色しないことが明らかになった。
【0065】
さらに、24時間処理したブタトリプシン分解物25mgを取り、移動相20mLを加えて超音波処理して溶かし正確に25mLとし、その10μLにつき下記のゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)分析を行い、分子量分布を調査した。
【0066】
<GFC分析>
カラム:TSKgel G2000SWXL7.8mmI.D.×30cm
移動相:0.1%TFA/アセトニトリル
流速:1.0mL/分
カラム温度:25℃
検出:UV(220nm)
GFC分析結果を図1に示す。
【0067】
実施例2:ローヤルゼリー(RJ)蛋白加水分解物の関与成分の構造解析
ローヤルゼリーのエタノール変性蛋白100gを採取し、pH8.0でブタトリプシン(Novozyme製のブタ由来トリプシン)により37℃で24時間酵素分解した。反応液を沸騰水浴中で30分間加熱して酵素を失活させた後、塩酸でpH4.5に調整し、遠心分離(10000rpm、20分間)して得られた上清をメンブランフィルター(0.8μm)で濾過し、RJ蛋白加水分解物1160mLを得た。
【0068】
得られたRJ蛋白加水分解液を上記スキーム1に従い、ダイヤイオンHP20を使用し、水、20%、40%、60%、80%メタノール及びメタノール(100%)で溶出して、フラクション1(Fr1)〜フラクション7(Fr7)を得た。
次に、フラクション3〜6より同定された4個の関与成分(ペプチド)の単離と同定の詳細を以下に示す:
ローヤルゼリー蛋白加水分解物の関与成分の単離・同定
1. 単離同定ペプチド
HP20 Fr 4画分
単離ペプチドA1:Thr-Ser-Asn-Thr-Phe
単離ペプチドA2:Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr
単離ペプチドA3:Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr
HP20 Fr 5画分
単離ペプチドA4:Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg

2. 関与成分同定用検体の調製
(1)ローヤルゼリー蛋白加水分解物の調製
ローヤルゼリーエタノール変性蛋白100gに水1200mLを加え,37℃の水浴中で撹拌しながら20%水酸化ナトリウム溶液を加えてpH8.0に調整し,ブタトリプシン250mgを加えて37℃で24時間酵素分解した後,沸騰水浴中で30分間加熱した。これに薄めた塩酸を加えてpH4.5に調整し,遠心分離(10000rpm,20分間)した後,得られた上清液をメンブランフィルターでろ過し,ローヤルゼリー蛋白加水分解液1160mLを得た。
【0069】
(2)ダイヤイオンHP20による粗分画
ローヤルゼリー蛋白加水分解液855mLを合成吸着剤であるダイヤイオンHP20を充填したガラスカラム(11cmφ×20cm,容量:約1.9L)に負荷し,水,20%,40%,60%,80%及び100%メタノールの順で溶出し,水溶出画分をフラクション(以下Fr)1,2とし,20%,40%,60%,80%及び100%メタノール溶出画分をそれぞれFr3,4,5,6及び7とした。各分画液をエバポレーターで濃縮した後,凍結乾燥し,得られた Fr4画分およびFr5画分を関与成分同定用の検体とした。
【0070】
3. ローヤルゼリー蛋白加水分解物の関与ペプチドの単離・同定
(1)Fr4画分からの関与ペプチドの単離・同定
単離ペプチドA1:Thr-Ser-Asn-Thr-Phe
HP20により粗分画したFr4画分約5gについて,大口径の分取用ODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフ法〔カラム:TSK-gel ODS 120T(55mmφ×300mm),移動相:10%及び50%アセトニトリル(0.05%TFA含有),流量:42mL/分,カラム温度:室温,検出波長:UV 220nm.以下,HPLC〕により再分画を行った。
【0071】
得られた各分画液を濃縮・凍結乾燥してP4(1),, P4(2)(0.536g), P4(3), P4(4)(凍結乾燥を行わず、濃縮後、ペプチド-A3の単離に供した)を得た。
【0072】
P4(2)(0.536g)について、再度、大口径の分取用ODSカラムを用い、移動相として8%及び50%アセトニトリル(0.05%TFA含有)を用いて7分画に再分画し、各分画液を濃縮・凍結乾燥し、P4012-11〜P40121-13、P4012-14(95.4mg)、P4012-15(44.5mg)、P4012-16及びP4012-17を得た。
【0073】
P4012-14(95.4mg)について,さらに,中口径のセミ分取用ODSカラムにより、分取・精製を行った。カラムにCOSMOSIL 5C18 AR-II 20mmφ×250mmを用い,移動相:12.5%及び50%メタノール(0.05%TFA含有)、流量:8mL/分,カラム温度:40℃,検出波長:UV220nmの条件下で,6分画に再分画し、各分画液を濃縮・凍結乾燥し、P40409-1、P40409-2、P40409-3(26.7mg)及びP40409-4〜P40409-6を得た。
【0074】
得られたP40409-3(26.7mg)について,再度、中口径のセミ分取用ODSカラムにより、分取・精製を行った。移動相Aに0.05%TFA、移動相Bに50%メタノール(0.05%TFA含有)を用いた濃度勾配法(0分:B 10%→360分:B 100%)により、保持時間69.7分〜76.3分のピーク部分を分取し、得られた分画液を濃縮・凍結乾燥し、P40409-3-1(8.6mg)を得た。
【0075】
得られたP40409-3-1について、HPLCによる純度の測定,並びに酸加水分解後のアミノ酸分析による構成アミノ酸の測定を実施した後、エドマン分解によるN末端アミノ酸配列分析法により、P40409-3-1(A1)の構造をThr-Ser-Asn-Thr-Pheと決定した。
【0076】
単離ペプチドA2:Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr
先の大口径の分取用ODSカラムによる再分画操作を二回実施して得られたP4012-15(44.5mg)について、さらに、中口径のセミ分取用ODSカラムにより分取・精製を行った。移動相に12.5%メタノール(0.05%TFA含有)を用い、保持時間95.5分〜103.4分のピーク部分を分取し、得られた分画液を濃縮・凍結乾燥し、P40410-4(6.1mg)を得た。
【0077】
得られたP40410-4について、HPLCによる純度の測定,並びに酸加水分解後のアミノ酸分析による構成アミノ酸の測定を実施した後、エドマン分解によるN末端アミノ酸配列分析法により、P40410-4(A2)の構造をTyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thrと決定した。
【0078】
単離ペプチドA3:Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr
大口径の分取用ODSカラムによる再分画で得られたP4(4)について、再度、大口径の分取用ODSカラムを用い、同一条件下で6分画に分画し、各分画液を濃縮・凍結乾燥し、P41206-3、P41206-4(177.8mg)及びP41206-5〜P41206-8を得た。
【0079】
P41206-4(177.8mg)の100mgについて,さらに,中口径のセミ分取用ODSカラムにより、分取・精製を行った。移動相に12.5%及び50%メタノール(0.05%TFA含有)を用い、流量:7.6mL/分,カラム温度:40℃,検出波長:UV220nmの条件下で分取し、得られた分画液を濃縮・凍結乾燥し、P41219-2、P41219-3(11.12mg)及びP41219-4を得た。
【0080】
得られたP41219-3(11.12mg)について、再度、中口径のセミ分取用ODSカラムにより、分取・精製を行った。移動相に17.5%メタノール(0.05%TFA含有)を用い、保持時間63.5分〜70.6分のピーク部分を分取し、得られた分画液を濃縮・凍結乾燥し、P41219-3-2(5.25mg)を得た。
【0081】
得られたP41219-3-2について、HPLCによる純度の測定,並びに酸加水分解後のアミノ酸分析による構成アミノ酸の測定を実施した後、エドマン分解によるN末端アミノ酸配列分析法により、P41219-3-2 (A3)の構造をThr-Asn-Asn-Leu-Tyrと決定した。
【0082】
(2)Fr5画分からの関与ペプチドの単離・同定
単離ペプチドA4:Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg
HP20により粗分画したFr5画分約5gについて,大口径の分取用ODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフ法〔カラム:TSK-gel ODS 120T(55mmφ×300mm),移動相:15%,20%及び50%アセトニトリル(0.05%TFA含有),流量:42mL/分,カラム温度:室温,検出波長:UV 220nm〕により再分画を行った。
【0083】
得られた各分画液を濃縮・凍結乾燥してP5(1)〜P5(5)、P5(6)(0.379g)及びP5(7)〜P5(9)を得た。
【0084】
P5(6)(0.379g)について、さらに、中口径のセミ分取用ODSカラムにより、分取・精製を行った。移動相Aに0.05%TFA、移動相Bに50%メタノール(0.05%TFA含有)を用いた濃度勾配法(0分:B 45%→240分:B 100%)により、流量:8mL/分,カラム温度:40℃,検出波長:UV220nmの条件下で,13分画に再分画し、各分画液を濃縮・凍結乾燥し、P5(vi)-1、P5(vi)-2、P5(vi)-3(20.3mg)及びP5(vi)-4〜P5(vi)-13を得た。
【0085】
得られたP5(vi)-3(20.3mg)について,さらに,口径の小さいODSカラムにより、分取・精製を行った。カラムにCOSMOSIL 5C18 AR-II 10mmφ×250mmを用い,移動相:25%メタノール(0.05%TFA含有)、流量:2mL/分,カラム温度:40℃,検出波長:UV220nmの条件下で,保持時間41.7分〜46.3分のピーク部分を分取し、得られた分画液を濃縮・凍結乾燥し、P5(vi)-3-2 (5.3mg)を得た。
【0086】
得られたP5(vi)-3-2について, HPLCによる純度の測定,並びに酸加水分解後のアミノ酸分析による構成アミノ酸の測定を実施した後、エドマン分解によるN末端アミノ酸配列分析法により、P5(vi)-3-2(A4)の構造をVal-Pro-Ile-Phe-Asp-Argと決定した。
実施例3;蛋白分解物の臨床試験
実施例1と同様にしてRJエタノール変性蛋白のブタトリプシン分解物(本発明の4つの新規ペプチドを含む)を得、これを上記スキーム1に従い、ダイヤイオンHP20に吸着後、水洗してフラクション1と2を除き、次に80%エタノールで溶出してフラクション3〜6を含む本発明の蛋白分解物を調製し、以下の実験に供した。
【0087】
得られたローヤルゼリータンパク質加水分解物(RJPH)含有錠の長期間摂取による血圧降下作用と安全性を検討するために、血圧が高めの人(正常高値血圧者および軽症高血圧者でいずれも未治療)に対してプラセボを対照とした二重盲検試験を実施した。被験者を、性別、年齢、収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍数、体重、BMIに差がないように、被験食群(男/女=26/28、平均年齢49.7±11.2、収縮期血圧140.1±6.9 mmHg、拡張期血圧81.7±7.1 mmHg)とプラセボ群(男/女=24/29、平均年齢52.6±10.5、収縮期血圧140.5±6.6 mmHg、拡張期血圧83.0±7.8 mmHg)に分け、被験食群にはRJPHを含有する錠剤(250 mg/錠)を1日4錠(RJPH 1000 mg/day)、プラセボ群にはRJPHを含有しない錠剤を1日4錠、それぞれ1日1回、12週間連続で摂取させた。
【0088】
その結果は、下表に示すように、収縮期血圧および拡張期血圧においては、被験食群は、10、12週間後にプラセボ群に対して有意な降圧作用を示し顕著な低下を示した。また、12週間の摂取を終えた観察期間4週後に血圧は穏やかにプラセボ群と同程度に復帰し、摂取前値を過度に超えるようなリバウンド現象は認められなかった。
【0089】
また、摂取期間中、試験食に起因すると考えられる血液および尿検査値の変動や、ACE阻害剤で報告されている空咳などの有害事象は認められなかった。
【0090】
以上から、RJPH含有食品は12週間の長期投与においても安全性が高く、正常高値血圧者および軽症高血圧者に対して適度な降圧作用を有することが明らかとなった。
【0091】
【表2】

【0092】
以下に、本発明の蛋白分解物を含む処方例を示す。
処方例1(粒)
下記の原料を常法により混合し、打錠機器で成型して、8mm径の素錠を製造した。この素錠を常法により食品用にフィルムコートして、粒状の健康食品を完成した。
(1粒当たりの組成)
【0093】
【表3】

【0094】
処方例2(ドリンク)
下記の材料を水に十分攪拌後、全量を100mlとした。
(1本分の組成)
【0095】
【表4】

【0096】
処方例3(カプセル剤)
下記の材料を均一に混合し、60メッシュのふるいを通した後、この粉末全量を2号ゼラチンカプセルに充填した。
(1カプセル剤の組成)
【0097】
【表5】

【0098】
処方例4(顆粒)
下記の材料を常法に従い顆粒状にし、スティック状のアルミ分包とした。
(1本分の組成)
【0099】
【表6】

【0100】
処方例5(ソース)
下記の材料を十分に混合し、使用時に十分攪拌してサラダやフライに用いた。
(1人分の組成)
【0101】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】GFC分析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリー素材をトリプシンで処理してなるアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する蛋白分解物であって、以下の4種のペプチドの少なくとも1種を含む蛋白分解物:
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。
【請求項2】
ローヤルゼリー素材が、ローヤルゼリーのアルコール変性タンパク質である請求項1に記載の蛋白分解物。
【請求項3】
ローヤルゼリー素材に由来する蛋白分解物であって、下記式
【数1】

で表されるGlyを基準にしたときのLysの酵素分解後の残存率(モル比)が、ローヤルゼリー素材の70%以下である蛋白分解物。
【請求項4】
ローヤルゼリー素材に由来する蛋白分解物であって、下記式
【数2】

で表されるLysを基準にしたときのLeuの含有割合(モル比)が、ローヤルゼリー素材の1.3倍以上である蛋白分解物。
【請求項5】
ローヤルゼリー素材に由来し(1)無機塩類および(2)酸性遊離アミノ酸、塩基性遊離アミノ酸、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸、遊離Alaおよび遊離Glyからなる群から選ばれる少なくとも1種を実質的に含まない請求項3又は4に記載の蛋白分解物。
【請求項6】
ローヤルゼリー素材に由来し、(1)無機塩類並びに(2)遊離酸性アミノ酸および遊離塩基性アミノ酸を実質的に含まない請求項5に記載の蛋白分解物。
【請求項7】
ローヤルゼリー素材に由来し、(1)無機塩類並びに(2)酸性遊離アミノ酸(Asp,Glu)、塩基性遊離アミノ酸(Lys,His,Arg)、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸(Thr,Ser)、遊離Alaおよび遊離Glyを実質的に含まない請求項6に記載の蛋白分解物。
【請求項8】
糖分の含有量が35重量%以下であり、40℃6ヶ月(アルミニウム袋)の加速試験条件下で実質的に変色しない請求項3〜5のいずれかに記載の蛋白分解物。
【請求項9】
ゲル濾過カラムでの分析により分子量10000以上の成分は実質的に認められず、分子量200〜1500程度の範囲に最大のピークを有し、分子量200〜300程度のシャープなピークを有する請求項3〜6のいずれかに記載の蛋白分解物。
【請求項10】
平均分子量が700〜6000程度の範囲内にある請求項3〜6のいずれかに記載の蛋白分解物。
【請求項11】
前記蛋白分解物を下記の特性を有するスチレン・ジビニルベンゼン共重合体のカラム(4.6mmφ×150mm)を通したとき、下記式で表される関与成分含量(%)が40%以上である請求項1〜10のいずれかに記載の蛋白分解物
・スチレン・ジビニルベンゼン共重合体の特性
粒度分布;30μm
細孔径;250Å
官能基;なし
適用pH範囲:全領域。
・関与成分含量(%)=A1/AT×100
T1:トリプトファンの保持時間
T2:10-ハイドロキシ-δ-2-デセン酸の保持時間
A1:T1の溶出位置に検出されるピークの後ろから,T2の溶出位置に検出されるピークの前までのピーク面積の合計
AT:全てのピーク面積の合計。
【請求項12】
前記関与成分含量が58±5%である請求項11に記載の蛋白分解物。
【請求項13】
前記蛋白分解物を下記の特性を有するスチレン・ジビニルベンゼン共重合体のカラムを通し、水(フラクション1,2)、20%メタノール(フラクション3)、40%メタノール(フラクション4)、60%メタノール(フラクション5)、80%メタノール(フラクション6)、100%メタノール(フラクション7)で溶出したときのフラクションのうち、フラクション3〜6を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の蛋白分解物:
粒度分布:>250μm(250μmより大きい粒子径のものを90%以上含む)
細孔径:400Å
官能基:なし
適用pH範囲:全領域。
【請求項14】
フラクション4に
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;および
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
からなる群から選ばれる少なくとも1種のペプチドを含み、フラクション5に、
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg
を含む、請求項13に記載の蛋白分解物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を有効成分とする高血圧の予防ないし治療剤。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を含む食品。
【請求項17】
高血圧予防用食品である請求項16に記載の食品。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を含む経口摂取用製剤。
【請求項19】
次の4種ペプチドから選ばれる少なくとも一種のペプチドを有効成分として含有する高血圧の予防ないし治療剤:
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。
【請求項20】
明らか食品および/またはサプリメントからなる食品形態である請求項18に記載の製剤。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項22】
ローヤルゼリー素材をブタトリプシンで処理することを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の蛋白分解物の製造方法。
【請求項23】
ブタトリプシン処理で得られた蛋白分解物を合成吸着剤で処理し、(1)無機塩類および(2)酸性遊離アミノ酸、塩基性遊離アミノ酸、アルコール性水酸基を有する遊離アミノ酸、遊離Alaおよび遊離Glyからなる群から選ばれる少なくとも1種を除去することを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ブタトリプシン処理で得られた蛋白分解物をスチレン・ジビニルベンゼン共重合体に吸着し、水洗して無機塩及び水溶性アミノ酸を除去し、次いで含水アルコールで溶出することを特徴とする請求項22に記載の方法:
【請求項25】
スチレン・ジビニルベンゼン共重合体が下記の特性を有する請求項24に記載の方法:
粒度分布:>250μm(250μmより大きい粒子径のものを90%以上含む)
細孔径:400Å
官能基:なし
適用pH範囲:全領域。
【請求項26】
以下の4種のペプチドのいずれかからなる新規ペプチド:
Thr-Ser-Asn-Thr-Phe;
Tyr-Ser-Pro-Val-Ala-Ser-Thr;
Thr-Asn-Asn-Leu-Tyr;
Val-Pro-Ile-Phe-Asp-Arg。

【図1】
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【公開番号】特開2007−261999(P2007−261999A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89566(P2006−89566)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(598162665)株式会社山田養蜂場本社 (32)
【Fターム(参考)】