説明

ワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法、半導体ウエハ

【課題】ワイヤの往復走行でワイヤがワークから抜け切らずに切断することによる切れ味の低下を抑制または防止して切断速度を改善する。
【解決手段】所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ41,42の一方端が供給ボビン51,52に巻き付けられ、その他方端が回収ボビン61,62に巻き付けられて、ワイヤ41,42を往復走行させて複数の溝付ローラ2,3間のワイヤ41,42の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1において、供給ボビン51と回収ボビン61の1対と、供給ボビン52と回収ボビン62の1対との2対設けられ、この2対に対応した2本のワイヤ41,42を往復走行させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ間の外周に巻回した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造するウエハの製造方法、半導体ウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置は、メインローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワークを切断してウエハ素材を作製している。この従来のワイヤソー装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
図6は、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0004】
図6に示すように、従来のワイヤソー装置100は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ101と、この固定砥粒ワイヤ101を巻掛けした二つの溝付きローラ102と、固定砥粒ワイヤ101に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構103A、103Bと、切断するワークWを保持して切り込み送りするワーク送り機構104と、切断されるワークWを冷却するための冷却水供給機構105とを有している。
【0005】
固定砥粒ワイヤ101は、供給側のワイヤボビン106Aから繰り出され、ワイヤ張力付与機構103Aを経て、溝付きローラ102に入っている。固定砥粒ワイヤ101がこの溝付きローラ102に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。固定砥粒ワイヤ101はもう一方のワイヤ張力付与機構103Bを経て回収側のワイヤボビン106Bに巻き取られている。
【0006】
このように、これらのワイヤ張力付与機構103A、103Bにより、溝付きローラ102に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ101に張力を付与し、駆動モータ107によって軸方向へ予め設定した反転サイクル時間、走行速度で往復走行させ、ワークWを往復走行する複数列の固定砥粒ワイヤ101に押し当てて切り込み送りし、ワークWをウエハ状に切断している。
【0007】
上記従来のワイヤソー装置100では、新線供給側と旧線回収側でワイヤ張力付与機構103A、103Bにより固定砥粒ワイヤ101の張力を管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置100では、ワークWが特に長尺インゴットの場合に、1本の固定砥粒ワイヤ101でワークWを切断すると、ワイヤ101の往復走行過程において、ワークWから固定砥粒ワイヤ101が抜け切らずに、切断し続けるワイヤ部分が生じる。これにより、固定砥粒ワイヤ101の固定砥粒が摩擦熱により磨耗したり、ワークWの切込内部で張力が低下して、固定砥粒ワイヤ101が撓んで切れ味が低下してワークWの切断に時間がかかるという問題が生じる。
【0010】
しかも、固定砥粒ワイヤ101の磨耗が激しく固定砥粒ワイヤ101が断線すると、ワイヤ断線修復に要する時間により、ワークWやワイヤソー装置100自体の温度状態が断線直後よりも低下し、切れ方が変わってウエハ素材表面に段差を生じてしまうので、ワークWと固定砥粒ワイヤ101を共に交換する必要があるという問題もあった。
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、ワイヤの往復走行でワイヤがワークから抜け切らずに切断することによる切れ味の低下を抑制または防止して切断速度を改善することができるワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造するウエハの製造方法、半導体ウエハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる複数本の切断用のワイヤの各一方端がそれぞれ、各第1ダンサーローラをそれぞれ介して複数の供給ボビンのそれぞれに巻き付けられ、該複数本のワイヤの各他方端がそれぞれ、各第2ダンサーローラをそれぞれ介して複数の回収ボビンのそれぞれに巻き付けられて、該複数本のワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置であって、該供給ボビンと該回収ボビンの対が複数対設けられ、該複数対に対応するように該複数本のワイヤが設けられているものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0013】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記ワイヤの1往路または1復路の走行距離が、前記第1ダンサーローラから前記複数の溝付ローラを介して前記第2ダンサーローラに至るワイヤ長を少なくとも有している。
【0014】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における供給ボビンと前記回収ボビンの複数対において、該供給ボビンと該回収ボビンがそれぞれ複数設けられ、該複数の供給ボビンからそれぞれ該複数の回収ボビンにそれぞれ至る複数本のワイヤが設けられている。
【0015】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における複数の供給ボビンと前記複数の回収ボビンとがそれぞれ、個別に構成されているかまたは、同軸状に連結されている。
【0016】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における複数の溝付ローラ間に巻き付けられたワイヤに直交する方向に複数のワイヤ巻回領域が均等に設けられ、該複数のワイヤ巻回領域にそれぞれ前記複数本のワイヤのそれぞれが対応するように該複数の溝付ローラ間に巻回されている。
【0017】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における複数の溝付ローラ間の各外周溝にそれぞれ、複数本の切断用のワイヤが複数本1組に順に並べられて互いに隣接して隣接溝に巻き付けられている。
【0018】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における複数本の切断用のワイヤは、全て同一種類のワイヤであるかまたは、交互に異なる種類のワイヤである。
【0019】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記複数対は2対で前記複数本のワイヤは2本であるかまたは、該複数対は3対で該複数本のワイヤは3本である。
【0020】
本発明のワーク切断方法は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる複数本の切断用のワイヤの各一方端をそれぞれ、各第1ダンサーローラをそれぞれ介して複数の供給ボビンのそれぞれに巻き付け、該複数本のワイヤの各他方端をそれぞれ、各第2ダンサーローラをそれぞれ介して複数の回収ボビンのそれぞれに巻き付けて、該複数本のワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0021】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤの1往路または1復路の走行距離を、少なくとも、前記第1ダンサーローラから前記複数の溝付ローラを介して前記第2ダンサーローラに至るワイヤ長とする。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記複数の供給ボビンと前記複数の回収ボビンとをそれぞれ、個別に同時駆動可能とするかまたは、同軸状に同時駆動可能とする。
【0023】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における複数の溝付ローラ間に巻き付けられたワイヤに直交する方向に複数のワイヤ巻回領域を均等に設け、該複数のワイヤ巻回領域にそれぞれ前記複数本のワイヤのそれぞれを対応するように該複数の溝付ローラ間に巻回する。
【0024】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における複数の溝付ローラ間の各外周溝にそれぞれ、複数本の切断用のワイヤを複数本1組に順に並べて互いに隣接して隣接溝に巻き付ける。
【0025】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における複数本の切断用のワイヤを、全て同一種類のワイヤとするかまたは、交互に異なる種類のワイヤとする。
【0026】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記複数対を2対で前記複数本のワイヤを2本とするかまたは、該複数対を3対で該複数本のワイヤを3本とする。
【0027】
本発明のウエハの製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0028】
本発明の半導体ウエハは、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断したウエハ素材の表面と裏面の表面粗さが異なるものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0029】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0030】
本発明においては、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる複数本の切断用のワイヤの各一方端がそれぞれ、各第1ダンサーローラをそれぞれ介して複数の供給ボビンのそれぞれに巻き付けられ、複数本のワイヤの各他方端がそれぞれ、各第2ダンサーローラをそれぞれ介して複数の回収ボビンのそれぞれに巻き付けられて、該複数本のワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置であって、該供給ボビンと該回収ボビンの対が複数対設けられ、該複数対に対応するように該複数本のワイヤが設けられている。
【0031】
これによって、供給ボビンと回収ボビンが複数対設けられて複数本のワイヤでワークを切断するので、1本のワイヤが負担する切断領域が短くなることから、ワイヤの本数や走行速度、サイクル数などの条件にもよるが、往復走行の際に1本のワイヤ時に比べて複数本ある方が、ワイヤがワークをより容易に抜け切ることができて、ワイヤの磨耗およびワークの切込内部の張力低下による切断時間の悪化を改善することが可能となる。
【0032】
また、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置100では、1対の供給側のワイヤボビン106Aと回収側のワイヤボビン106Bが設けられ、使用する固定砥粒ワイヤ101も1本である。ワイヤ径φ80μm以下の細線化を目指した場合、従来のような数百Kmと言った長い芯線を作製するのは難しいため、余りワイヤの破棄の問題が顕在化する。例えばワークのスライス1ショットでワイヤが5Km必要な場合で、余ったワイヤが3Kmしかない場合に、そのワイヤは破棄しているという課題があった。
【0033】
この課題に対して、供給ボビンと回収ボビンが複数対設けられて複数本のワイヤでワークを切断すると、スライス1ショットに必要なワイヤ1本当たりの長さが大幅に減ることから、余ったワイヤの破棄量を低減することができ、より無駄なくワイヤを用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
以上により、本発明によれば、供給ボビンと回収ボビンが複数対設けられて複数の複数本のワイヤでワークを切断するため、ワイヤの往復走行でワークからワイヤが抜け切らずに切断することによる切れ味の低下を抑制または防止することができて、切断時間の悪化を改善することができる。しかも、余りワイヤの破棄量をも軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態3におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態4におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図5】図4のワイヤソー装置の要部構成例とは別の事例を模式的に示す斜視図である。
【図6】特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明のワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法の実施形態1〜4について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0037】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0038】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はその軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔(ガイドピッチPが例えば300μm)で複数の外周溝が形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の右側領域と左側領域の各外周溝にはそれぞれ、2本の切断用のワイヤ41,42が各プーリPをそれぞれ介して巻き付けられている。これらの右側領域と左側領域は均等な領域である。
【0039】
溝付ローラ2,3の右側領域の外周溝に巻き付けられるワイヤ41と、溝付ローラ2,3の左側領域の外周溝に巻き付けられるワイヤ42とはそれぞれ螺旋状に巻き付けられている。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には右側領域と左側領域を合計して数千回程度にもなる。溝付ローラ2,3間の一方端部から中央位置まで螺旋状に巻き付けられたワイヤ41の一方端が新線供給側の供給ボビン51に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収ボビン61に巻き付けられている。また同様に、溝付ローラ2,3間の中央位置から他方端部まで螺旋状に巻き付けられたワイヤ42の一方端が新線供給側の供給ボビン52に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収ボビン62に巻き付けられている。これらの溝付ローラ2、3、個別駆動構成の供給ボビン51、52、個別駆動構成の回収ボビン61、62を互いに同期を取って個別に同時駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられた2本のワイヤ41,42を走行させて2本のワイヤ41,42の各複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、2本のワイヤ41,42で数千枚程度を同時に切断する。2本のワイヤ41,42は同じ種類のワイヤで、芯線径が例えばここでは50μm〜500μm程度のものを用い、芯線の周囲にダイヤモンドなどの砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを用いる。ワイヤ41,42の芯線径によって切り代が決まり例えばワイヤ41,42の径が80μm(0.08mm)の場合に切り代も80μm(0.08mm)程度となるのが理想的であるが、実際には、芯線径80μmであれば、砥粒径8−16の場合で切り代は100μm程度となる。供給ボビン51,52にはそれぞれ、例えば数十〜数百Kmの半分のワイヤ41,42がそれぞれ巻かれている。ワイヤソー装置1は2本のワイヤ41,42を共に往復走行させており、溝付ローラ2,3、個別駆動構成の供給ボビン51、52、個別駆動構成の回収ボビン61、62の駆動が反転して供給ボビン5と回収ボビン6の機能が入れ替わる。ここでは、供給ボビン51,52と回収ボビン61,62は名称を決めて説明している。
【0040】
各溝付ローラ2,3に一方端部から中央位置まで巻き付けられるワイヤ41の一方端に所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給ボビン51との間に第1ダンサローラ81が設けられている。また同様に、ワイヤ41の他方端に所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と回収ボビン61との間に第2ダンサローラ82が設けられている。また、各溝付ローラ2,3に中央位置から他方端部まで巻き付けられるワイヤ42の一方端に所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給ボビン52との間に第1ダンサローラ83が設けられている。また同様に、ワイヤ42の他方端に所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と回収ボビン62との間に第2ダンサローラ84が設けられている。
【0041】
供給ボビン51と第1ダンサローラ81の間にはトラバーサ91が設けられ、トラバーサ91が供給ボビン51のボビン軸方向に移動して、供給ボビン51に整列して巻き付けられているワイヤ41が順次取り出されるように作用する。また、第2ダンサローラ82と回収ボビン61との間にはトラバーサ92が設けられ、トラバーサ92が回収ボビン61のボビン軸方向に移動して、回収ボビン61に整列してワイヤ41が巻き取られるように作用する。また同様に、供給ボビン52と第1ダンサローラ83の間にはトラバーサ93が設けられ、トラバーサ93が供給ボビン52のボビン軸方向に移動して、供給ボビン52に整列して巻き付けられているワイヤ42を順次取り出すように作用する。また、第2ダンサローラ84と回収ボビン62との間にはトラバーサ94が設けられ、トラバーサ94が回収ボビン62のボビン軸方向に移動して、回収ボビン62に整列してワイヤ42が巻き取られるように作用する。これらの場合、供給側のトラバーサ91,93は、個別駆動構成の供給ボビン51,52からワイヤ41,42を取り込むときにボビンワイヤ位置に順次移動して整列巻き付けされたワイヤ41,42をそれぞれスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ92,94は、個別駆動構成の回収ボビン61,62にワイヤ41、42を整列巻き付けするためにボビンワイヤ位置に順次移動してワイヤ41,42をそれぞれスムーズに順次巻き付ける機能を有している。本実施形態1によれば、供給ボビンのそれぞれと複数の回収ボビンのそれぞれが全て個別に駆動可能とされているため、ボビン回転制御の互いの調整が容易になっている。
【0042】
溝付ローラ2、3間のワイヤ41,42の上側ワイヤ列面は半導体インゴットのワーク7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように図示しない加工液供給部がワーク7の前後に設けられている。この切断面の各ワイヤ列に加工液供給部の加工液供給口から冷却用のクーラントをかけながら、例えばワーク7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて切断する。冷却の目的で液体のクーラントをワーク7および各ワイヤ41,42にかけながら多数本のワイヤ41,42で一括して同時にワーク7をその下面側から多数枚のウエハ状に切断する。
【0043】
このワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した図示しない固定部を、図示しないワーク送り機構により降下させて、ワーク7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付ける。巻回領域毎に多数本が平行に並んだワイヤ41,42の複数列上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数枚の薄いウエハ状に同時に切断する。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0044】
本実施形態1では、供給ボビン51と回収ボビン61の1対と、供給ボビン52と回収ボビン62の1対との合計2対で、これに対応してワイヤ41,42の2本の場合であるが、ボビン1対に当たり、プーリPが2個、ダンサーローラが2個、トラバーサが2個必要である。ここでは、1対の供給ボビン51と回収ボビン61に対して、プーリPが2個、ダンサーローラ81,82の2個、トラバーサ91,92の2個を用いている。また、1対の供給ボビン52と回収ボビン62に対して、プーリPが2個、ダンサーローラ83,84の2個、トラバーサ93,94の2個を用いている。
【0045】
要するに、これらの供給ボビン5と回収ボビン6の2対において、供給ボビン51,52と回収ボビン61,62がそれぞれ2個ずつ設けられ、2個の供給ボビン51,52からそれぞれ2個の回収ボビン61,62にそれぞれ至る各ワイヤ41,42が2本設けられている。
【0046】
次に、2対のボビンを構成する供給ボビン51,52および回収ボビン61,62では、1本当たり長さが半分の2本のワイヤ41,42が使用可能になるため、ボビン1個当たりの大きさを小さくすることができる。したがって、この場合、ダブルボビン構造としてサイズが通常の場合比べて2倍ではなくそれほどボビンサイズが変わらない。ボビン1個当たり巻回するワイヤ長が半分のボビンを2個個別に巻回している。これが供給側と回収側で2個設けられている。したがって、ボビンの数が多くなればそれだけ1本当たりのワイヤ長さが短いワイヤの使用が可能となるので、ボビン1個当たりの大きさは小さくなっている。
【0047】
次に、ボビン2対、2本のワイヤ41,42の場合、ワーク7の長手方向の前半部および後半部をそれぞれ2本のワイヤ41,42がそれぞれ分担してワーク7を一括して同時に切断する。このように、ワイヤの本数が多く、ボビン対の数が多いほど、ワーク7をワイヤで切断する領域を、ワイヤの本数およびボビン対の数で分割した、より小さい切断分担領域とすることができる。
【0048】
次に、ワーク7を切断するためにワーク7に入ったワイヤがワーク7を抜けるまでの距離Aについて説明する。この距離Aは、ワーク7の長手方向のワーク長Lを450mm、溝付ローラ2,3のガイドピッチPを300μm、溝付ローラ2,3間のワイヤ巻回1周の長さRを1.5m、ワイヤ本数Bが2本の場合、
A=L÷P×R÷B=450÷0.3×1.5÷2=1125m
となる。
【0049】
したがって、ワイヤ速度およびサイクル数にもよるが、ワイヤ本数Bが多ければ多いほど、ワイヤ往復走行の際にワイヤがワーク7を抜け切ることが容易になる。この場合、ワイヤ41の往路または復路走行距離が、第1ダンサーローラ81から溝付ローラ2,3を介して第2ダンサーローラ82に至るワイヤ長を少なくとも有し、また、ワイヤ42の往路または復路走行距離が、第1ダンサーローラ83から溝付ローラ2,3を介して第2ダンサーローラ84に至るワイヤ長を少なくとも有していれば、往復走行の際にワイヤ41,42がワーク7を抜け切ることができて、ワイヤ41,42の磨耗およびワーク7の切込内部の張力低下を改善することができる。これによって、ワイヤ41,42の断線をも未然に抑制または防止することができる。
【0050】
次に、2本のワイヤ41,42でワーク7を切断する場合に、スライス1ショットに必要なワイヤ1本当たりの長さ(例えばワイヤ長5km)が半分に減るが、1本のワイヤでワークを切断する従来の場合と比較して余りワイヤの破棄量を半減することができることについて説明する。例えば1本のワイヤでワークを切断する従来の場合、ワイヤ長が50km巻回されたボビンで3kmの余りワイヤを破棄しているのに対して、例えば2本のワイヤでワークを切断する本実施形態1の場合で、ワイヤ長が50km巻回されたボビンを2個用い、それぞれ1.5kmずつ余りワイヤが生じる。合計して100km当たり3kmの余りワイヤが生じることになって、1本のワイヤでワークを切断する従来の場合と本実施形態1の2本のワイヤの場合とを比較して、余りワイヤの破棄量を、3km/50kmから3km/100kmに半減することができる。この場合、供給ボビン51、52や回収ボビン61、62の各ボビンサイズは1本のワイヤでワークを切断する従来の場合と同じになる為、ダブルボビン構造としてのサイズは従来の2倍に大きくなる。
【0051】
以上により、本実施形態1によれば、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ41,42の一方端が供給ボビン51,52に巻き付けられ、その他方端が回収ボビン61,62に巻き付けられて、ワイヤ41,42を往復走行させて複数の溝付ローラ2,3間のワイヤ41,42の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1において、供給ボビン51と回収ボビン61の1対と、供給ボビン52と回収ボビン62の1対との合計2対設けられ、この2対に対応した2本のワイヤ41,42を往復走行させている。
【0052】
これによって、2本のワイヤ41,42でワーク7を切断すると、1本のワイヤ41または42が負担するワイヤ長が半分になる。さらに、2本のワイヤ41,42、その走行速度、サイクル数などの条件次第では、往復走行の際にワイヤ41,42がワーク7を抜け切ることが可能となって、ワイヤ41,42の磨耗およびワーク7の内部張力の低下を改善することができる。また、供給ボビン51,52と回収ボビン61,62のように、供給ボビンと回収ボビンが2対設けられて2本のワイヤ41,42でワーク7を切断することにより、スライス1ショットに必要なワイヤ1本当たりの長さが半分に減るので、従来の余りワイヤの破棄量を半減することができ、より無駄なくワイヤ41,42を用いることができる。
【0053】
このように、供給ボビンと回収ボビンが2対設けられて2本のワイヤ41,42でワーク7を切断するため、最終的な余りワイヤ41,42の破棄量を半減すると共に、ワイヤ41,42の往復走行でワーク7からワイヤ41,42が抜け切らずに切断することによる切れ味の低下を抑制または防止することができる。これによって、ワイヤ41,42の断線をも未然に抑制または防止することができる。
【0054】
また、1本のワイヤでワーク7を切断する従来の場合では、ワイヤが切断再開不可能な断線(新線側で断線する等)をした際、ワーク7を1本丸ごと廃棄せざるを得ないが、本実施形態1の2本のワイヤの場合では、一方のワイヤが切断再開不可能な断線をした際でも、他方のワイヤによりワーク7の半分は切断を続行することが可能であり、ワーク7の廃棄量を削減することが可能である。
【0055】
(実施形態2)
本実施形態1では、供給ボビン51と回収ボビン61の1対と、供給ボビン52と回収ボビン62の1対との合計2対で、ワイヤ41,42の本数が2本の場合について説明したが、本実施形態2では、供給ボビンと供給ボビンのボビン対の数が3対で、ワイヤの本数が3本の場合について説明する。
【0056】
図2は、本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。なお、図2では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する部材には同一の符号を付して説明する。
【0057】
図2において、本実施形態2のワイヤソー装置1Aは、所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の右側領域と中間領域と左側領域(均等)の各外周溝にそれぞれ、3本の切断用のワイヤ41A,42A、43Aが各プーリPをそれぞれ介してそれぞれ巻き付けられている。
【0058】
溝付ローラ2,3の右側領域の各外周溝に巻き付けられるワイヤ41Aと、溝付ローラ2,3の中間領域の各外周溝に巻き付けられるワイヤ42Aと、溝付ローラ2,3の左側領域の各外周溝に巻き付けられるワイヤ43Aとはそれぞれ螺旋状に巻き付けられている。溝付ローラ2,3の右側領域の各外周溝に巻き付けられるワイヤ41Aの一方端が、プーリPからダンサーローラ81さらにトラバーサ91を介して新線供給側の供給ボビン51Aに巻き付けられ、その他方端が別のプーリPからダンサーローラ82さらにトラバーサ92を介して旧線回収側の回収ボビン61Aに巻き付けられている。また同様に、溝付ローラ2,3の中間領域の各外周溝に巻き付けられるワイヤ42Aの一方端が別のプーリPからダンサーローラ83さらにトラバーサ93を介して新線供給側の供給ボビン52Aに巻き付けられ、その他方端が別のプーリPからダンサーローラ84さらにトラバーサ94を介して旧線回収側の回収ボビン62Aに巻き付けられている。また同様に、溝付ローラ2,3の左側領域の各外周溝に巻き付けられるワイヤ43Aの一方端が別のプーリPからダンサーローラ85さらにトラバーサ95を介して新線供給側の供給ボビン53Aに巻き付けられ、その他方端が別のプーリPからダンサーローラ86さらにトラバーサ96を介して旧線回収側の回収ボビン63Aに巻き付けられている。
【0059】
これらの溝付ローラ2、3、個別駆動構成の供給ボビン51A、52Aおよび53A、個別駆動構成の回収ボビン61A,62Aおよび63Aを互いに同期を取って個別に同時駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられた3本のワイヤ41A、42A、43Aを走行させて3本のワイヤ41A、42A、43Aの各複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。
【0060】
本実施形態2では、供給ボビン51Aと回収ボビン61Aの1対と、供給ボビン52Aと回収ボビン62Aの1対と、供給ボビン53Aと回収ボビン63Aの1対との合計3対で、ワイヤ41A、42A、43Aの3本の場合であるが、ボビン1対に当たり、プーリPが2個、ダンサーローラが2個、トラバーサが2個必要である。ここでは、1対の供給ボビン51Aと回収ボビン61Aに対して、プーリPが2個、ダンサーローラ81,82の2個、トラバーサ91,92の2個を用いている。また同様に、1対の供給ボビン52Aと回収ボビン62Aに対して、プーリPが2個、ダンサーローラ83,84の2個、トラバーサ93,94の2個を用いている。また同様に、1対の供給ボビン53Aと回収ボビン63Aに対して、プーリPが2個、ダンサーローラ85,86の2個、トラバーサ95,96の2個を用いている。
【0061】
要するに、供給ボビン5と回収ボビン6の3対において、供給ボビン51A〜53Aと回収ボビン61A〜63Aがそれぞれ3個ずつ設けられ、3個の供給ボビン51A〜53Aからそれぞれ3個の回収ボビン61A〜63Aにそれぞれ至る各ワイヤ41A〜43Aが3本設けられている。
【0062】
次に、3対のボビンを構成する供給ボビン51A、52A、53Aおよび回収ボビン61A、62A、63Aでは、ワイヤ1本当たりの長さが1/3の3本のワイヤ41A、42A、43Aが使用可能になるため、3対でボビン1個当たりのボビンの大きさ(ボビンサイズ)は2対の場合に比べても小さくすることができる。したがって、この場合、トリプルボビン構成としてボビンサイズが通常の場合比べて3倍ではなくそれほどサイズが変わらない。ボビン1個当たり巻回するワイヤ長が1/3のボビンを3個個別に巻回している。これが供給側と回収側で2個設けられている。したがって、ボビンの数が多くなればそれだけ1本当たりのワイヤ長さが短いワイヤの使用が可能となるので、ボビン1個当たりの大きさは小さくすることができる。
【0063】
次に、ボビン3対、3本のワイヤ41A,42A,43Aの場合、ワーク7の長手方向の前半領域、中間領域および後半領域をそれぞれ3本のワイヤ41A,42A,43Aがそれぞれ分担してワーク7を一括して同時に切断する。このように、ワイヤの本数が多く、ボビンの対数が多いほど、ワーク7をワイヤで切断する領域を、ワイヤの本数およびボビンの対数で分割した、より小さい切断分担領域となる。
【0064】
次に、ワーク7を切断するためにワーク7に入ったワイヤ41A,42A,43Aがワーク7を抜けるまでの距離Aは、ワーク7の長手方向のワーク長Lを450mm、溝付ローラ2,3のガイドピッチP(溝間距離)を300μm、溝付ローラ2,3間のワイヤ巻回1周の長さRを1.5m、ワイヤ本数Bが3本の場合、
A=L÷P×R÷B=450÷0.3×1.5÷3=750m
となる。
【0065】
前述したが、ワイヤ本数Bが2本の場合は、
A=450÷0.3×1.5÷2=1125m
となって、ワイヤ本数Bが増えるほど、ワイヤがワーク7を抜けるまでの距離Aは短くなっている。
【0066】
したがって、ワイヤ速度およびサイクル数にもよるが、ワイヤ本数Bが多ければ多いほど、ワイヤ往復走行の際にワイヤがワーク7を抜け切ることが容易になる。この場合、ワイヤ41Aの往路または復路走行距離が、第1ダンサーローラ81から溝付ローラ2,3を介して第2ダンサーローラ82に至るワイヤ長を少なくとも有し、また、ワイヤ42Aの往路または復路走行距離が、第1ダンサーローラ83から溝付ローラ2,3を介して第2ダンサーローラ84に至るワイヤ長を少なくとも有し、さらに、ワイヤ43Aの往路または復路走行距離が、第1ダンサーローラ85から溝付ローラ2,3を介して第2ダンサーローラ86に至るワイヤ長を少なくとも有していれば、往復走行の際に3本のワイヤ41A〜43Aがワーク7を抜け切ることができて、ワイヤ41A〜43Aの磨耗およびワーク7の内部張力の低下を改善することができる。これによって、ワイヤ41A〜43Aの断線をも未然に抑制または防止することができる。
【0067】
次に、3本のワイヤ41A〜43Aでワーク7を切断する場合に、スライス1ショットに必要なワイヤ1本当たりの長さ(例えばワイヤ長5km)が1/3に減るが、1本のワイヤでワークを切断する従来の場合と比較して余りワイヤの破棄量を1/3に減らすことができることについて説明する。例えば1本のワイヤでワークを切断する従来の場合、ワイヤ長が50km巻回されたボビンで3kmの余りワイヤを破棄しているのに対して、例えば3本のワイヤ41A〜43Aでワークを切断する本実施形態2の場合で、ワイヤ長が50km巻回されたボビンを3個用い、それぞれ1kmずつ余りワイヤが生じる。合計して150km当たり3kmの余りワイヤが生じることになって、1本のワイヤでワークを切断する従来の場合と本実施形態2の3本のワイヤ41A〜43Aの場合とを比較して、余りワイヤの破棄量を、3km/50kmから3km/150kmに1/3に減らすことができる。この場合、供給ボビン51A〜53Aや回収ボビン61A〜63Aの各ボビンサイズは1本のワイヤでワークを切断する従来の場合と同じになる為、ダブルボビン構造としてのサイズは従来の3倍に大きくなる。
【0068】
以上により、本実施形態2によれば、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ41A、42A、43Aの各一方端が供給ボビン51A、52A、53Aにそれぞれ巻き付けられ、その各他方端が回収ボビン61A,62A、63Aにそれぞれ巻き付けられて、3本のワイヤ41A、42A,43Aを往復走行させて複数の溝付ローラ2,3間のワイヤ41A、42A、43Aの各複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1Aにおいて、供給ボビン51Aと回収ボビン61Aの1対と、供給ボビン52Aと回収ボビン62Aの1対と、供給ボビン53Aと回収ボビン63Aの1対との合計3対設けられ、この3対に対応した3本のワイヤ41A、42A、43Aを往復走行させている。
【0069】
これによって、3本のワイヤ41A、42A、43Aでワーク7を切断すると、1本のワイヤ41A、42Aまたは43Aが負担するワイヤ長が1/3になる。さらに、3本のワイヤ41A、42A、43A、その走行速度、サイクル数などの条件次第では、往復走行の際にワイヤ41A、42A、43Aがワーク7を抜け切ることが可能となって、ワイヤ41A、42A、43Aの磨耗およびワーク7の内部張力の低下を改善することができる。これによって、ワイヤ41A〜43Aの断線をも未然に抑制または防止することができる。また、供給ボビン51A、52A、53Aと回収ボビン61A、62A、63Aのように、供給ボビンと回収ボビンが3対設けられて3本のワイヤ41A、42A、43Aでワーク7を同時に切断することにより、スライス1ショットに必要なワイヤ1本当たりの長さが通常の場合に比べて1/3に減るので、従来の余りワイヤの破棄量を1/3にすることもでき、より無駄なくワイヤ41A、42A、43Aを用いることができる。
【0070】
このように、供給ボビンと回収ボビンが3対設けられて3本のワイヤ41A、42A、43Aでワーク7を切断するため、最終的な余りワイヤ41A、42A、43Aの破棄量を1/3にすると共に、ワイヤ41A、42A、43Aの往復走行でワーク7からワイヤ41A、42A、43Aがそれぞれ抜け切らずに切断することによる切れ味の低下を抑制または防止することができる。
【0071】
また、1本のワイヤでワーク7を切断する従来の場合では、ワイヤが切断再開不可能な断線をした際、ワークを1本丸ごと廃棄せざるを得ないが、本実施形態2の3本のワイヤの場合では、1本のワイヤが切断再開不可能な断線をした際でも、残りのワイヤによりワークの2/3は切断を続行する事が可能であり、前述した2本のワイヤの場合よりも更にワークの廃棄量を削減することが可能である。
【0072】
(実施形態3)
上記実施形態1では、溝付ローラ2,3間に巻き付けられた2本のワイヤ41,42に直交する方向に右側領域と左側領域の各ワイヤ巻回領域が均等に設けられ、この各ワイヤ巻回領域にそれぞれ2本のワイヤ41,42のそれぞれが対応するように巻回されている場合について説明したが、本実施形態3では、所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の各外周溝にそれぞれ、2本の切断用の後述するワイヤ41B,42Bが2本ずつ対に隣接して隣接溝に巻き付けられている場合について説明する。
【0073】
図3は、本発明の実施形態3におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。なお、図3では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する部材には同一の符号を付して説明する。
【0074】
図3において、本実施形態3のワイヤソー装置1Bは、所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の各外周溝にそれぞれ、2本の切断用のワイヤ41B,42Bが2本ずつ隣接して隣接溝に順次巻き付けられている。
【0075】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ41Bの一方端が、プーリPからダンサーローラ81さらにトラバーサ91を介して新線供給側の供給ボビン51に巻き付けられ、その他方端が別のプーリPからダンサーローラ82さらにトラバーサ92を介して旧線回収側の回収ボビン61に巻き付けられている。また同様に、溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ42Bの一方端が別のプーリPからダンサーローラ83さらにトラバーサ93を介して新線供給側の供給ボビン52に巻き付けられ、その他方端が別のプーリPからダンサーローラ84さらにトラバーサ94を介して旧線回収側の回収ボビン62に巻き付けられている。
【0076】
このように、2本の切断用のワイヤ41B,42Bを対にして互いに隣接するように、ワイヤ41B,42Bを溝付きローラ2,3の各外周溝に巻回されている。互いに隣接して平行に並んだ2本のワイヤ41B,42Bの複数列上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数枚の薄いウエハ状に同時に切断することができる。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。このとき、ワイヤ41B,42Bは同一種類のワイヤであってもよいし、異なる種類のワイヤであってもよい。異なる種類のワイヤとしては細線とこれよりも芯径の大きい線や、固定砥粒の細かさの違い、さらにはこれらの組み合わせの違いなどがある。
【0077】
2本の切断用のワイヤ41B,42Bが異なる種類のワイヤである場合に、切断したウエハ素材の表面と裏面の表面粗さを、例えば鏡面と梨地面など互いに異ならせるように構成することができる。切断時に、ワイヤ41Bにより隣接するウエハ素材の表面を2枚同時に鏡面に切断し、ワイヤ41Bに隣接するワイヤ42Bにより、隣接するウエハ素材の裏面を梨地面に切断し、さらに隣接して、ワイヤ41Bにより隣接するウエハ素材の表面を2枚同時に鏡面に切断し、ワイヤ41Bに隣接するワイヤ42Bにより、隣接するウエハ素材の裏面を2枚同時に梨地面に切断することができる。
【0078】
以上により、本実施形態3によれば、2個の溝付きローラ2,3の各外周溝に2本の切断用のワイヤ41B,42Bが2本ずつ隣接して隣接溝に巻き付けられ、かつ、2本の切断用のワイヤ41B,42Bが異なる種類のワイヤである場合、切断されたウエハ素材の表面と裏面の表面状態を異なる表面状態にして切断することができる。
【0079】
また、上記実施形態1の場合と同様に、供給ボビン51,52と回収ボビン61,62のように2対設けられて2本のワイヤ41B、42Bでワーク7を切断するため、最終的な余りワイヤ41B、42Bの破棄量を1/2にすると共に、ワイヤ41B、42Bの往復走行でワーク7からワイヤ41B、42Bがそれぞれ抜け切らずに切断することによる切れ味の低下を抑制または防止することができる。これによって、ワイヤ41B、42Bの断線をも未然に抑制または防止することができる。
【0080】
なお、本実施形態3では、所定の間隔で配置された2個の溝付きローラ2,3の各外周溝にそれぞれ、2本の切断用のワイヤ41B,42Bが各プーリPをそれぞれ介して2本ずつ隣接して隣接溝に巻き付けられている場合について説明したが、これに限らず、ワイヤが3本ずつ順に並べて溝付きローラ2,3に巻きつけられていてもよく、複数の溝付ローラ間の各外周溝にそれぞれ、複数本の切断用のワイヤが複数本ずつ順に並られて互いに隣接して隣接溝に順次巻き付けられていてもよい。
【0081】
なお、本実施形態3では、2本のワイヤ41B,42Bは同一種類のワイヤであるかまたは、異なる種類のワイヤである場合について説明したが、これに限らず、複数本の切断用のワイヤは、全て同一種類のワイヤであるかまたは、交互に異なる種類のワイヤであってもよい。交互に異なる種類のワイヤによって、切断したウエハ素材の表面と裏面の表面粗さを、例えば鏡面と梨地面など互いに異ならせるようにするためには、複数本の切断用のワイヤは、偶数本である必要がある。
【0082】
(実施形態4)
上記実施形態1では、供給ボビン51,52のそれぞれと回収ボビン61,62のそれぞれが個別に連結されている場合について説明したが、本実施形態4では、後述する供給ボビン51C,52Cのそれぞれと回収ボビン61C,62Cのそれぞれが同軸上に構成されている場合について説明する。
【0083】
図4は、本発明の実施形態4におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。なお、図4では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する部材には同一の符号を付して説明する。
【0084】
図4において、本実施形態4のワイヤソー装置1Cの供給ボビン51C、52Cのそれぞれと回収ボビン61C、62Cのそれぞれは、2対のボビン構成であるが、同軸駆動可能に構成されている。この点で上記実施形態1の場合と異なっている。この場合も、上記実施形態1の場合と同様に、溝付ローラ2、3、同軸駆動構成の供給ボビン51C、52C、同軸駆動構成の回収ボビン61C、62Cを互いに同期を取って駆動させることにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられた2本のワイヤ41,42を走行させて2本のワイヤ41,42の各複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断することができるようになっている。
ここで、本実施形態4の同軸の供給ボビン51C,52Cおよび同軸の回収ボビン61C,62Cのようなダブルボビン構成についてさらに詳細に説明する。
【0085】
同軸でそれぞれ2対のボビンを構成する供給ボビン5Cおよび回収ボビン6Cは、供給ボビン51C,52Cと回収ボビン61C,62Cでそれぞれ同芯同軸状で2対同軸同時駆動可能にそれぞれ構成されている。要するに、供給ボビン51C,52Cと回収ボビン61C,62Cがそれぞれ同軸状に連結されている。この場合に、ワイヤ41,42において微妙にワイヤ長に相違があっても、所定の張力をワイヤ41,42に付与する第1ダンサローラ81、83および第2ダンサローラ82、84で吸収することができる。
【0086】
図5は、図4のワイヤソー装置の要部構成例とは別の事例を模式的に示す斜視図である。なお、図5では、図2の構成部材と同一の作用効果を奏する部材には同一の符号を付して説明する。
【0087】
図5において、本実施形態4のワイヤソー装置1Dの供給ボビン51D、52D、53Dのそれぞれと回収ボビン61D、62D、63Dのそれぞれは、3対のボビン構成であるが、それぞれが同軸駆動可能に構成されている。この点で上記実施形態2の場合とは異なっている。この場合も、上記実施形態2の場合と同様に、溝付ローラ2、3、同軸駆動構成の供給ボビン51D、52D、53D、同軸駆動構成の回収ボビン61D、62D、63Dを互いに同期を取って駆動させることにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられた3本のワイヤ41A,42A、43Aを走行させて3本のワイヤ41A、42A、43Aの各複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断することができるようになっている。
【0088】
ここで、本実施形態4の軸駆動の供給ボビン51D、52D、53Dおよび同軸駆動の回収ボビン61D、62D、63Dのようなトリプルボビンについてさらに詳細に説明する。
【0089】
同軸でそれぞれ3対のボビンを構成する供給ボビン5Dおよび回収ボビン6Dは、供給ボビン51D、52D、53Dと、回収ボビン61D、62D、63Dでそれぞれ同芯同軸状で3対同軸同時駆動可能にそれぞれ構成されている。要するに、供給ボビン51D、52D、53Dと回収ボビン61D、62D、63Dがそれぞれ同軸状に連結されている。この場合に、ワイヤ41A〜43Aにおける微妙なワイヤ長の相違が生じても、所定の張力をワイヤ41A〜43Aにそれぞれ付与する第1ダンサローラ81、83、85および第2ダンサローラ82、84、86で吸収することができる。
【0090】
なお、本実施形態4では、供給ボビン51C,52Cのそれぞれと回収ボビン61C,62Cのそれぞれが同軸駆動構成されている場合について説明し、また、供給ボビン51D,52D、53Dのそれぞれと回収ボビン61D,62D、63Dのそれぞれが同軸駆動構成されている場合について説明したが、これらに限らず、一般的に、複数の供給ボビン5のそれぞれと複数の回収ボビン6のそれぞれが同軸駆動されるように構成されていてもよい。
【0091】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1〜4を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1〜4に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1〜4の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワーク切断方法を用いてウエハ素材を製造するウエハの製造方法、半導体ウエハの分野において、供給ボビンと回収ボビンが複数対設けられて複数本のワイヤでワークを切断することにより、スライス1ショットに必要なワイヤ1本当たりの長さが減るので、余りワイヤの破棄量を低減することができ、より無駄なくワイヤを用いることが可能となる。また、複数本のワイヤでワークを切断すると、1本のワイヤが負担するワイヤ長が短くなる。さらに、ワイヤの本数や走行速度、サイクル数などの条件次第では、往復走行の際にワイヤがワークを抜け切ることが可能となり、ワイヤの磨耗およびワーク内部の張力低下を改善することができる。
【符号の説明】
【0093】
・1、1A〜1Dワイヤソー装置
・2、3 溝付ローラ
・41、42、41A、42A、43A、41B、42B ワイヤ
・5、51、52、5A、51A、52A、53A、5C、51C、52C、
5D、51D、52D、53D 新線供給側の供給ボビン
・6、61、62、6A、61A、62A、63A、6C、61C、62C、
6D、61D、62D、63D 旧線回収側の回収ボビン
・7 ワーク(半導体インゴット)
・81、83、85 第1ダンサローラ
・82、84、86 第2ダンサローラ
・91〜96 トラバーサ
・P プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる複数本の切断用のワイヤの各一方端がそれぞれ、各第1ダンサーローラをそれぞれ介して複数の供給ボビンのそれぞれに巻き付けられ、該複数本のワイヤの各他方端がそれぞれ、各第2ダンサーローラをそれぞれ介して複数の回収ボビンのそれぞれに巻き付けられて、該複数本のワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置であって、該供給ボビンと該回収ボビンの対が複数対設けられ、該複数対に対応するように該複数本のワイヤが設けられているワイヤソー装置。
【請求項2】
前記ワイヤの1往路または1復路の走行距離が、前記第1ダンサーローラから前記複数の溝付ローラを介して前記第2ダンサーローラに至るワイヤ長を少なくとも有している請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項3】
前記供給ボビンと前記回収ボビンの複数対において、該供給ボビンと該回収ボビンがそれぞれ複数設けられ、該複数の供給ボビンからそれぞれ該複数の回収ボビンにそれぞれ至る複数本のワイヤが設けられている請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項4】
前記複数の供給ボビンと前記複数の回収ボビンとがそれぞれ、個別に構成されているかまたは、同軸状に連結されている請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項5】
前記複数の溝付ローラ間に巻き付けられたワイヤに直交する方向に複数のワイヤ巻回領域が均等に設けられ、該複数のワイヤ巻回領域にそれぞれ前記複数本のワイヤのそれぞれが対応するように該複数の溝付ローラ間に巻回されている請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項6】
前記複数の溝付ローラ間の各外周溝にそれぞれ、複数本の切断用のワイヤが複数本1組に順に並べられて互いに隣接して隣接溝に巻き付けられている請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項7】
前記複数本の切断用のワイヤは、全て同一種類のワイヤであるかまたは、交互に異なる種類のワイヤである請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項8】
前記複数対は2対で前記複数本のワイヤは2本であるかまたは、該複数対は3対で該複数本のワイヤは3本である請求項1に記載のワイヤソー装置。
【請求項9】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられる複数本の切断用のワイヤの各一方端をそれぞれ、各第1ダンサーローラをそれぞれ介して複数の供給ボビンのそれぞれに巻き付け、該複数本のワイヤの各他方端をそれぞれ、各第2ダンサーローラをそれぞれ介して複数の回収ボビンのそれぞれに巻き付けて、該複数本のワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法。
【請求項10】
前記ワイヤの1往路または1復路の走行距離を、少なくとも、前記第1ダンサーローラから前記複数の溝付ローラを介して前記第2ダンサーローラに至るワイヤ長とする請求項9に記載のワーク切断方法。
【請求項11】
前記複数の供給ボビンと前記複数の回収ボビンとをそれぞれ、個別に同時駆動可能とするかまたは、同軸状に同時駆動可能とする請求項9に記載のワーク切断方法。
【請求項12】
前記複数の溝付ローラ間に巻き付けられたワイヤに直交する方向に複数のワイヤ巻回領域を均等に設け、該複数のワイヤ巻回領域にそれぞれ前記複数本のワイヤのそれぞれを対応するように該複数の溝付ローラ間に巻回する請求項9に記載のワーク切断方法。
【請求項13】
前記複数の溝付ローラ間の各外周溝にそれぞれ、複数本の切断用のワイヤを複数本1組に順に並べて互いに隣接して隣接溝に巻き付ける請求項9に記載のワーク切断方法。
【請求項14】
前記複数本の切断用のワイヤを、全て同一種類のワイヤとするかまたは、交互に異なる種類のワイヤとする請求項9に記載のワーク切断方法。
【請求項15】
前記複数対を2対で前記複数本のワイヤを2本とするかまたは、該複数対を3対で該複数本のワイヤを3本とする請求項9に記載のワーク切断方法。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれかに記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断するウエハの製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置の前記ワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断したウエハ素材の表面と裏面の表面粗さが異なる半導体ウエハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−66950(P2013−66950A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205128(P2011−205128)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】