説明

ワイヤソー

【課題】ワイヤソーが大型化してもメンテナンス性が良くコストを低減できる揺動機構を提供する。
【解決手段】本体枠2の開口部12、13の外周にそれぞれ設けた第一及び第二の円弧状レール14、26と、前後揺動壁18、19間に複数の溝ローラー10を軸支すると共に前記開口部12、13に回動可能に嵌入された揺動枠8と、前記第一及び第二の円弧状レール14、16と摺動自在に嵌合した第一及び第二のスライドガイド17、29と、前記揺動枠8の外周に沿ってその外周の一部に設けた歯車30と、前記歯車30を回転駆動させる駆動モーター32とから構成し、前記駆動モーター32を駆動することにより、前記揺動枠8を第一及び第二の円弧状レール14、26に沿って揺動円弧運動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行させたワイヤ列にシリコン、サファイア等の加工物を押し当てて切断するワイヤソーに関する。さらに詳しくは、ワイヤ列を揺動円弧運動させて加工物を切断するワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ダイヤモンド等の砥粒を電着や樹脂によって芯線に固定した固定砥粒ワイヤを用い、この固定砥粒ワイヤを複数の溝が刻まれた複数本の溝ローラーに巻き回し、前記の溝ローラー間に形成されたワイヤ列にシリコンやサファイア等の加工物を押し付けて複数のウエハに切断する固定砥粒方式のワイヤソーが知られている。
【0003】
また、遊離砥粒を用い、この遊離砥粒をワイヤに付着させながらワイヤ列を加工物に押し付けて複数のウエハに切断する遊離砥粒方式のワイヤソーも知られている。
【0004】
上記両ワイヤソーにおいて、ワイヤソー本体に対してクロスローラーベアリングで回動可能に支持された回動部材上に複数の溝ローラーを軸支し、前記回動部材を全回転及び揺動円弧運動を可能にしておき、ワイヤを溝ローラーに巻き回す際は前記回動部材を全回転させながら適宜のトラバース機構でワイヤを溝ローラーの溝に巻き回し、加工物を切断する際は、ワイヤ列を揺動円弧運動させて加工物を効率的に切断するワイヤソーが知られている(例えば特許文献1)。
【0005】
このワイヤ列の揺動円弧運動を行ないながら加工物を切断することで、加工物切断時に発生する切屑の排出が促進されると共に砥粒や加工液の切断部への供給が促進され加工効率が向上する。また、切断部とワイヤの接触が点接触に近づくために切断が効率良く行え、加工速度が向上する。また、揺動円弧運動により、加工物の切断面が研磨され、切断面の精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−35107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のように特許文献1のような揺動円弧運動を可能にしたワイヤソーは数々のメリットを有しているが、回動部材をワイヤソー本体にクロスローラーベアリングで回動可能に支持し、モーター等で回動部材を回転駆動するようにしたり、回動部材の外周全体に歯車を設け、ウォームギアを設けたモーターで回動部材を駆動したりしている。
【0008】
最近では、加工効率を向上させるために加工物が大径化し、1回の切断でできるだけ多くのチップ等が得られるようになってきており、ワイヤソー自体も大型化されてきている。
【0009】
しかしながら、加工物の大径化に伴い、溝ローラーの支持についても剛性を保つために従来の一方端の支持だけでなく両端を支持する必要があり、ワイヤソーの溝ローラー支持部も大型化してきている。
【0010】
また、上記のように大型化したワイヤソーに揺動機構を搭載するには回動部材自体を大型化する必要があり、前記回動部材を回転支持するクロスローラーベアリングも大型化してコストが膨大に高くなったり、メンテナンスも大掛かりになり、交換等も容易でない問題があった。
【0011】
クロスローラーベアリングの使用は、砥粒や切断屑等の侵入により、クロスローラーベアリングの磨耗や破損が起こった場合、回動部材全体を取り外してクロスローラーベアリングを交換する必要があり、特にワイヤソーが大型化した場合、重量物の回動部材等の取り外しが非常に困難でメンテナンス性が悪くなる問題がある。
【0012】
また、回動部材の外周全体に歯車を設け、タイミングベルトやウォームギアで駆動する方式においても大掛かりな歯車機構が必要となりメンテナンスも容易でない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明は、本体枠に設けた前後壁間に複数の溝ローラーを軸支すると共に前記溝ローラーにワイヤを張設することによりワイヤ列を形成し、前記ワイヤを一方向または往復走行させながら前記ワイヤ列に加工物を押し当てて切断するワイヤソーにおいて、前記本体枠の前後壁に設けられた前後の開口部の外周にそれぞれ設けた第一及び第二の円弧状レールと、対向する前後揺動壁が間隔をおいて一体に設けられ、この前後揺動壁間に複数の溝ローラーを軸支すると共に前記開口部に回動可能に嵌入された揺動枠と、前記揺動枠の前後に設けられ、前記第一及び第二の円弧状レールと摺動自在に嵌合した第一及び第二のスライドガイドと、前記揺動枠の外周に沿ってその外周の一部に設けた歯車と、前記歯車を回転駆動させる駆動モーターとから構成し、前記駆動モーターを駆動することにより、前記揺動枠を第一及び第二の円弧状レールに沿って揺動円弧運動させるようにした構成を採用したワイヤソーである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ワイヤソーが大型化してもクロスローラーベアリングを使用せずとも揺動円弧運動させることができ、コストを高めることなく揺動円弧運動が行なえる。また、回動部材の外周全体に歯車を設ける必要もなく、ワイヤソーが大型化しても回動部材を取り外さずに、アクセスが容易なスライドガイドやレールの交換だけでメンテナンスが行なえメンテナンス性が大幅に向上する。
【0015】
また、スライドガイドで支持する箇所も溝ローラーを支持する揺動枠外周の円弧下半分部分で本体枠前後壁と対応する少なくとも2箇所を支持すれば良く、コストが大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のワイヤソーの正面図である。
【図2】図1のA−A方向の矢視断面図である。
【図3】図1のB−B方向の矢視断面図である。
【図4】本発明のワイヤソーの背面図である。
【図5】(a)、(b)は本発明のワイヤソーの揺動動作の説明図である。
【図6】本発明の揺動動作の説明図である。
【図7】本発明の揺動動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図1乃至図7に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明のワイヤソーの正面図であり、ワイヤソー1は、本体枠2の左側に軸支された供給側ワイヤリール50から例えばダイヤモンド砥粒が電着等で固着された固定砥粒ワイヤ9を供給し、供給トラバーサ52でトラバースしながら複数のガイドローラー54に導かれ、その後、テンションアーム55で所定の張力を付与して多数の溝が刻まれた2本の溝ローラー10、10に巻き回される。また、溝ローラー10から前記ワイヤ9が複数のガイドローラー56に導かれ、テンションアーム57で所定の張力が付与された後、回収トラバーサ53を経て、回収側ワイヤリール51に巻き取られるようになっている。
【0019】
この溝ローラー10、10に巻き回されたワイヤ9を一方向又は往復走行させながら加工物7をワイヤ列に押し付けて加工物7がウエハ状に切断されるようになっている。
【0020】
次に、本発明のワイヤソー1の詳細について図1乃至図4に基づいて説明する。
【0021】
ワイヤソー1は、図1乃至図3のように立設された本体枠2と揺動枠8からなり、前記本体枠2は前壁3と後壁5が立設され、前記前壁3と後壁5を支持するように周壁4が設けられ、前記周壁4により前壁3と後壁5が一体構成されている。
【0022】
また、本体枠2の前壁3には、その中央付近に下方が略半円状で上方が矩形状の開口部12が設けられており、後壁5には、円形の開口部13が設けられている。
【0023】
また、本体枠2の上方には図示しない適宜な機構で上下動する加工テーブル6が設けられ、セラミックス、ガラス、カーボン等のダミー部材42が貼り付けられたシリコン、サファイア、SiC等の加工物7が貼付台43を介して前記加工テーブル6に図示しない適宜な機構で固定されるようになっている。
【0024】
また、前壁3前面側の開口部12の円弧部分の外周に沿って円弧状のレール14(第一の円弧状レール)が2分割して設けられており、後壁5裏面側の円形状開口部13の円弧外周に沿った上側と下側にそれぞれ2分割して円弧状のレール22、26(第二の円弧状レール)が設けられている。なお、上記の第一の円弧状のレール14及び第二の円弧状のレール22、26は、それぞれ2分割して設けられているが一体に構成しても良い。また、第二の円弧状レール22及び26のそれぞれを一体化し1本のレールとして構成しても良い。また、第二の円弧状レール22、26は上下に分けて設けられているが、少なくとも下側の円弧状レール26のみ設ければ良い。
【0025】
次に揺動枠8について説明すると、揺動枠8は、間隔を開けて設けられた対向する前方揺動壁18と後方揺動壁19とを支持壁20によって両揺動壁18、19を支持することで一体に構成され、溝ローラー10が前方揺動壁18と後方揺動壁19との間にスピンドル44、45によってベアリング48、49を介して回動可能に軸支されている。
【0026】
また、前方揺動壁18の前面側下方の前方突出部には、前方揺動壁18の外縁に沿った円弧状の支持枠15が前記外縁から突出するように設けられ、この支持枠15の裏面にはスライドガイド16、17(第一のスライドガイド)が設けられており、前記スライドガイド16、17は左右対称にそれぞれ2個ずつ設けられ、本体枠2の前壁3の前面に2分割して設けられたレール14と摺動自在に嵌合されている。
【0027】
また、後方揺動壁19の裏面側の上方には後方揺動壁19の外縁に沿った円弧状の支持枠23が前記外縁から突出するように設けられ、この支持枠23の突出部の前面側に後方揺動壁19と対向するようにスライドガイド24、25(第二のスライドガイド)が設けられており、前記スライドガイド24、25は左右対称にそれぞれ2個ずつ設けられ、前記本体枠2の後壁5の裏面に2分割して設けられたレール22と摺動自在に嵌合されている。
【0028】
また、後方揺動壁19の裏面側の下方には、後方揺動壁19の外縁に沿った円弧状の支持枠27が前記外縁から突出するように設けられ、この支持枠27の前面側にはスライドガイド28、29(第二のスライドガイド)が設けられて、本体枠2の後壁5裏面に設けられたレール26と摺動自在に嵌合されている。
【0029】
上記のことにより、揺動枠8は、本体枠2の前後壁3、5に設けられた両開口部12、13に嵌入されると共に前後壁3、5間に跨るように両開口部12、13内に回動可能に支持され、上記レール14、22、26に沿った揺動円弧運動が可能になっている。
【0030】
また、揺動枠8の外周に位置する支持枠27の下端部分の一部に歯車30が設けられており、この歯車30と係合する歯車31が、本体枠2後方の周壁4に固定された揺動モーター32の軸に接続されている。
【0031】
上記のことにより、揺動モーター32を所定量正逆駆動することで歯車31が駆動され、この歯車31と係合した歯車30が駆動されることで揺動枠8が揺動中心21に対して両側に所定角度ずつ揺動円弧運動することとなる。
【0032】
図5(a)及び(b)は本発明のワイヤソー1の揺動動作を説明する説明図である。
【0033】
図5(a)は、揺動モーター32を駆動し、揺動枠8を揺動中心21に対して左回転させてワイヤ列が左下がりとなった状態を表し、図5(b)は、その逆に揺動枠8を揺動中心21に対して右回転させ、ワイヤ列が右下がりとなった状態を表す。
【0034】
上記、図5(a)及び(b)を連続的に繰り返すことでワイヤ列が揺動中心21に対して揺動円弧運動を行なう。この揺動中心に対する角度や揺動を行なう速度は加工物7の材質や加工精度、加工速度、固定砥粒方式か、遊離砥粒方式か等に応じて適宜選択できる。また、切断途中で段階的に揺動角度や揺動速度を変更するようにしても良い。
【0035】
次に図2に基づいて溝ローラー10について説明すると、溝ローラー10は、芯金の表面にポリエチレンやウレタン等の樹脂が固定され、この樹脂表面に切断するピッチに応じた溝が多数刻まれており、前記芯金とスピンドル44、45が適宜な機構で締結固定されている。また、前記スピンドル45は前方揺動壁18にベアリング48を介して軸支され、スピンドル44は後方揺動壁19にベアリング49を介して軸支されることにより、溝ローラー10は、揺動枠8に対して回動自在になっている。また、前記スピンドル44の後方揺動枠19の裏面部分から突出した後端部に2連のプーリー35が設けられている。
【0036】
また、図2乃至図4のように後方揺動枠19の裏面には、その下方に揺動枠8に対して自由回転する2個のプーリー33、33が設けられ、揺動中心21には駆動軸41が揺動枠8と本体枠2の後方枠47間に軸支されており、その駆動軸41の後方揺動壁19寄りの途中に2連のプーリー46が取り付けられて、上記のプーリー33、35、46が三角形状に配置されている。なお、上記のプーリー33、33、35、35は揺動軸21に対して対称となるようにそれぞれ配置されている。
【0037】
また、上記のプーリー33、35、46にはベルト34が掛け渡され、駆動軸41の回転駆動によりプーリー46を回転させることで、左右の溝ローラー10が回転駆動されるようになっている。また、前記駆動軸41の後端側にはプーリー36、37が嵌着され、前記プーリー36、37と左右のモーター40、40の軸に設けられたプーリー57、58にはそれぞれベルト38、39が掛け渡されており、前記プーリー46は左右の両モーター40、40を同一方向に同期駆動させることで回転駆動されるようになっている。
【0038】
なお、上記モーター40は、1機のモーターでも行なうことが可能であるが、モーター容量が大きくなりコストも高くなるために、2機の容量が小さいモーターで行なえばコストが安くなるメリットがある。
【0039】
上記のようにモーター40の駆動と図示しないモーターで供給側ワイヤリール50及び回収側ワイヤリール51を一方向又は往復回転させることで、ワイヤ9を走行させ、適宜な加工液(遊離砥粒方式であれば砥粒液、固定砥粒方式であれば冷却液)を供給しながら加工テーブル6を下降させて加工物7をワイヤ列に押し当ててウエハ状に切断していく。
【0040】
この時、適宜加工物7の特性に合わせて、揺動条件を設定し、揺動枠8を揺動モーター32を駆動させることで揺動円弧運動させて切断する。
【0041】
次に、図6及び図7に基づいてワイヤソー1で揺動動作を行いながら加工物7を切断する実施形態について説明する。
【0042】
図6は揺動枠8を左右に同じ角度に揺動させながら加工物7を切断していく状態を表し、実線の揺動角0°の状態から二点鎖線の状態まで揺動を周期的に行ないながら切断する状態を表す。このように揺動を行なうことで、加工物7の表面に残るワイヤ軌跡が、ワイヤ9の揺動中心21に対する運動により研磨され、表面精度が向上する。
【0043】
また、ワイヤ9と加工物7との接触が点接触に近づき、加工能力が向上すると共に、ワイヤ9の傾斜により、加工部分への加工液の供給が向上し、切断速度が向上する。
【0044】
図6は、ある一定角度揺動枠8を傾斜させて、その状態を維持して切断する場合を表す。このように加工物7の形状に応じ、揺動枠8を適宜傾斜させ、傾斜角度を固定した状態でも切断できる。なお、初期状態を傾斜状態に設定し、その位置から左右対称に揺動させるなど各種の設定を行えるようにすることが可能である。その他、揺動させる速度を変更したりすることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 ワイヤソー
2 本体枠
3 前壁
4 周壁
5 後壁
6 加工テーブル
7 加工物
8 揺動枠
9 ワイヤ
10 溝ローラー
11 カバー
12 開口部
13 開口部
14 レール
15 支持枠
16 スライドガイド
17 スライドガイド
18 前方揺動壁
19 後方揺動壁
20 支持壁
21 揺動中心
22 レール
23 支持枠
24 スライドガイド
25 スライドガイド
26 レール
27 支持枠
28 スライドガイド
29 スライドガイド
30 歯車
31 歯車
32 揺動モーター
33 プーリー
34 ベルト
35 プーリー
36 プーリー
37 プーリー
38 ベルト
39 ベルト
40 モーター
41 駆動軸
42 ダミー部材
43 貼付台
44 スピンドル
45 スピンドル
46 プーリー
47 後方枠
48 ベアリング
49 ベアリング
50 供給側ワイヤリール
51 回収側ワイヤリール
52 供給トラバーサ
53 回収トラバーサ
54 ガイドローラー
55 テンションアーム
56 ガイドローラー
57 プーリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体枠に設けた前後壁間に複数の溝ローラーを軸支すると共に前記溝ローラーにワイヤを張設することによりワイヤ列を形成し、前記ワイヤを一方向または往復走行させながら前記ワイヤ列に加工物を押し当てて切断するワイヤソーにおいて、
前記本体枠の前後壁に設けられた前後の開口部の外周にそれぞれ設けた第一及び第二の円弧状レールと、
対向する前後揺動壁が間隔をおいて一体に設けられ、この前後揺動壁間に複数の溝ローラーを軸支すると共に前記開口部に回動可能に嵌入された揺動枠と、
前記揺動枠の前後に設けられ、前記第一及び第二の円弧状レールと摺動自在に嵌合した第一及び第二のスライドガイドと、
前記揺動枠の外周に沿ってその外周の一部に設けた歯車と、
前記歯車を回転駆動させる駆動モーターとから構成し、
前記駆動モーターを駆動することにより、前記揺動枠を第一及び第二の円弧状レールに沿って揺動円弧運動させるようにしたことを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−110643(P2011−110643A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268408(P2009−268408)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000132954)株式会社タカトリ (65)
【Fターム(参考)】