説明

ワークの切断方法及びワイヤソー

【課題】ワイヤソーによるワークの切断において、特にピッチを狭くしたワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなり、TTVが悪化するのを抑制できるワークの切断方法及びワイヤソーを提供することを目的とする。
【解決手段】複数の溝付きローラに巻掛けされたワイヤを軸方向に往復走行させ、前記ワイヤにスラリを供給しつつ、ワークを相対的に押し下げて、往復走行する前記ワイヤに押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワークの切断方法であって、前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された前記溝付きローラを準備する工程と、前記ワイヤ供給側のワイヤが前記ワイヤ回収側のワイヤよりも先に前記ワークに押し当てられるようにして前記ワークを切断する工程とを含むことを特徴とするワークの切断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーを用いてワークをウェーハ状に切断する方法及びワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンインゴットや化合物半導体インゴットなどのワークからウェーハを切り出す手段として、ワイヤソーが知られている。このワイヤソーでは、複数のローラの周囲にワイヤが多数巻掛けられることによりワイヤ列が形成されており、そのワイヤが軸方向に高速駆動され、かつ、スラリが適宜供給されながらワイヤ列に対してワークが切り込み送りされることにより、このワークが各ワイヤ位置で同時に切断されるようにしたものである。
【0003】
ここで、図8に、従来の一般的なワイヤソーの一例の概要を示す。
図8に示すように、ワイヤソー101は、主に、ワークを切断するためのワイヤ102、ワイヤ102を巻掛けした溝付きローラ103、ワイヤ102に張力を付与するための機構104、104’、ワークを下方へと送り出す手段105、切断時にスラリを供給する手段106で構成されている。
【0004】
ワイヤ102は、一方のワイヤリール107から繰り出され、トラバーサを介してパウダクラッチ(定トルクモータ)やダンサローラ(デッドウェイト)(不図示)等からなる張力付与機構104を経て、溝付きローラ103に入っている。ワイヤ102がこの溝付きローラ103に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。ワイヤ102はもう一方の張力付与機構104’を経てワイヤリール107’に巻き取られている。
【0005】
また、溝付きローラ103は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に複数の溝を切ったローラであり、巻掛けられたワイヤ102が、駆動用モータ110によって予め定められた走行距離で往復方向に駆動できるようになっている。この際、往復走行するワイヤのそれぞれの方向への走行距離は同じではなく、片方向の走行距離の方が長くなっている。これにより、ワイヤは往復走行を続けながら長く走行する方向側にワイヤ新線が供給されていく。
【0006】
ワークの切断時には、ワーク送り手段105によって、ワークを保持しつつ押し下げ、溝付きローラ103に巻掛けされたワイヤ102の方向に送り出すことができるようになっている。
また、溝付きローラ103、巻掛けられたワイヤ102の近傍にはノズル111が設けられており、温度が調整されたスラリをスラリ供給手段106からワイヤ102に供給できるようになっている。
【0007】
このようなワイヤソー101を用い、ワイヤ102にワイヤ張力付与機構104を用いて適当な張力をかけて、駆動用モータ110により、ワイヤ102を往復方向に走行させながらワーク送り手段105によって保持されたワークを往復走行するワイヤに押し当てて切り込み送りし、ワークを切断する。
この際、上記したように、ワイヤは往復走行しながらその新線が供給されていく。従って、溝付きローラ103に巻掛けされたワイヤのうち新線が供給されていく側、つまりワイヤ供給側より、ワイヤが回収されていく側、すなわちワイヤ回収側の方がワイヤの摩耗量が大きくなり、従って、ワイヤ径が小さくなる。このため、ワイヤ回収側で切断されたウェーハの方がワイヤ供給側で切断されたウェーハより厚さが厚くなる傾向にある。このように1つのワークから得られるウェーハの厚さにばらつきが生じてしまうという問題があった。
【0008】
この問題に対し、従来、溝付きローラの複数の溝間のピッチをワイヤ供給側よりワイヤ回収側の方が狭くなるようにしたものを用いることによって、上記したウェーハの厚さのばらつきを抑制する方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−249701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のようにしてワークを切断すると、特に溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側でワークの切り始めが中心部に比べて薄くなってしまい、切断されたウェーハのTTV(Total Thickness Variation)が悪化するという問題が生じる。
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、ワイヤソーによるワークの切断において、特に溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなり、TTVが悪化するのを抑制できるワークの切断方法及びワイヤソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば、複数の溝付きローラに巻掛けされたワイヤを軸方向に往復走行させ、前記ワイヤにスラリを供給しつつ、ワークを相対的に押し下げて、往復走行する前記ワイヤに押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワークの切断方法であって、前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された前記溝付きローラを準備する工程と、前記ワイヤ供給側のワイヤが前記ワイヤ回収側のワイヤよりも先に前記ワークに押し当てられるようにして前記ワークを切断する工程とを含むことを特徴とするワークの切断方法が提供される。
【0012】
このようなワークの切断方法であれば、溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側のワークが摩耗していないワイヤにより切断されるのを避けることができ、特にワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなってしまうのを抑制でき、TTVを改善できる。
【0013】
このとき、前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差を1mm以上、5mm以下の範囲内とすることが好ましい。
このように、この最大差を1mm以上とすることで、特にワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなってしまうのを確実に抑制できる。また、この最大差を5mm以下とすることで、溝付きローラの周囲に形成したポリウレタンなどの樹脂シェルの厚さの範囲内で溝を形成でき、さらに溝を再加工できる厚さを残すこともできるので、溝加工を低コストで容易に行うことができる。
【0014】
またこのとき、前記溝付きローラを準備する工程において、前記溝付きローラの直径が一定であり、前記複数の溝の深さがワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に深く形成された前記溝付きローラを準備することができる。
このようにすることで、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された溝付きローラを、深さが異なる溝を形成するだけで容易に準備することができる。
【0015】
またこのとき、前記溝付きローラを準備する工程において、前記複数の溝の深さが同じであり、前記溝付きローラの直径がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に小さくなるように形成された前記溝付きローラを準備することもできる。
このようにすることで、溝付きローラを準備する際に、溝の加工を容易に行うことができる。また、溝をV字形状にして溝加工をより容易にできる。
【0016】
また、本発明によれば、複数の溝付きローラに巻掛けされ、軸方向に往復走行するワイヤと、該ワイヤにスラリを供給するノズルと、ワークを保持しつつ該ワークを相対的に押し下げて前記ワイヤへ送るワーク送り手段を具備し、前記ノズルから前記ワイヤにスラリを供給しつつ、前記ワーク送り手段により保持された前記ワークを、往復走行する前記ワイヤに押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーであって、前記溝付きローラは、該溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成されたものであり、前記ワイヤ供給側のワイヤが前記ワイヤ回収側のワイヤよりも先に前記ワークに押し当てられるようにして前記ワークを切断できるものであることを特徴とするワイヤソーが提供される。
【0017】
このようなワイヤソーであれば、溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側のワークが摩耗していないワイヤにより切断されることを避けることができ、特にワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなってしまうのを抑制でき、TTVを改善できるものとなる。
【0018】
またこのとき、前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差が1mm以上、5mm以下の範囲内であることが好ましい。
このように、この最大差が1mm以上であれば、ワイヤ回収側のワークを摩耗していないワイヤにより切断することを確実に避けることができ、TTVを確実に改善できる。また、この最大差が5mm以下であれば、溝付きローラの周囲に形成したポリウレタンなどの樹脂シェルの厚さの範囲内で溝を形成でき、さらに溝を再加工できる厚さを残すこともできるので、溝加工を低コストで容易に行うことができるものとなる。
【0019】
またこのとき、前記溝付きローラの直径が一定であり、前記溝付きローラの複数の溝の深さがワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に深く形成されたものとすることができる。
このようなものであれば、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された溝付きローラを、深さが異なる溝を形成するだけで容易に構成できる。
【0020】
またこのとき、前記溝付きローラの複数の溝の深さが同じであり、前記溝付きローラの直径がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に小さくなるように形成されたものとすることもできる。
このようなものであれば、溝付きローラの溝の加工が容易なものとなる。また、溝をV字形状にして溝加工がより容易なものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ワイヤソーによるワークの切断において、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された溝付きローラを準備し、ワイヤ供給側のワイヤが前記ワイヤ回収側のワイヤよりも先に前記ワークに押し当てられるようにしてワークを切断するので、溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側のワークを摩耗していないワイヤにより切断することを避けることができ、特にワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなってしまうのを抑制できるので、TTVを改善できる。これにより、後工程での例えばラッピング加工、研磨加工における加工代を小さくすることができる。そのため、切断されるウェーハの厚さを薄く設定して切断することができ、カーフロスを低減できるとともに、後工程のラップ工程、研磨工程の生産性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のワイヤソーの一例を示した概略図である。
【図2】本発明のワイヤソーの溝付きローラを示した概略図である。(A)溝付きローラの上面概略図。(B)溝付きローラの溝の一例。
【図3】本発明のワイヤソーの溝付きローラの一例を示した概略図である。
【図4】本発明のワイヤソーの溝付きローラの一例を示した概略図である。
【図5】実施例におけるウェーハの厚さ分布を示した図である。
【図6】比較例におけるウェーハの厚さ分布を示した図である。
【図7】実施例、比較例におけるTTVの結果を示した図である。
【図8】従来ののワイヤソーの一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記したような、切断されるウェーハの厚さを揃えるためにワイヤの摩耗を考慮して溝ピッチを変化させた溝付きローラを有するワイヤソーを用いて、例えばシリコンインゴットなどのようなワークを切断すると、ワイヤの摩耗が進んでいない切り始めにおいてウェーハの厚さが局所的に薄くなる現象が生じ、特に溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側でこの現象が顕著になるという問題を生じる。
【0024】
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、切断開始時のワークとワイヤの接触のタイミングをワイヤ供給側とワイヤ回収側とで変化させ、溝間のピッチが狭くなるワイヤ回収側のワイヤの方を遅く接触させることで、ワイヤの摩耗が進んでいない切り始めにおけるウェーハの厚さの局所的な薄さを抑制できることに想到し、本発明を完成させた。
【0025】
図1は、本発明のワイヤソーの一例を示す概略図である。
図1に示すように、本発明のワイヤソー1は、主に、ワークWを切断するためのワイヤ2、溝付きローラ3、ワイヤ2に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構4、4’、ウェーハ状に切断されるワークWを保持しつつ相対的に押し下げて切り込み送りするワーク送り手段5、切断時にワイヤ2にスラリを供給するためのスラリ供給手段14等で構成されている。
【0026】
ワイヤ2は、一方のワイヤリール7から繰り出され、トラバーサを介してパウダクラッチ(定トルクモータ)やダンサローラ(デッドウェイト)等からなるワイヤ張力付与機構4を経て、溝付きローラ3に入っている。ワイヤ2が複数の溝付きローラ3に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。ワイヤ2はもう一方のワイヤ張力付与機構4’を経てワイヤリール7’に巻き取られている。
【0027】
スラリ供給手段14はスラリタンク11、スラリチラー12、ノズル13等から構成される。ノズル13は溝付きローラ3に巻掛けられたワイヤ2の上方に配置されている。このノズル13はスラリタンク11に接続されており、供給されるスラリはスラリチラー12により供給温度が制御されてノズル13からワイヤ2に供給できるようになっている。
ここで、切断中に使用するスラリの種類は特に限定されず、従来と同様のものを用いることができ、例えば炭化珪素の砥粒を液体に分散させたものとすることができる。
【0028】
また、溝付きローラ3は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に所定のピッチで溝を切ったローラであり、駆動用モータ10によって、巻掛けられたワイヤ2が軸方向に往復走行できるようになっている。ここで、ワイヤ2を往復走行させる際、ワイヤ新線が供給されるように、ワイヤ2の両方向への走行距離を同じにするのではなく、片方向への走行距離の方が長くなるようにする。このようにして、ワイヤの往復走行を行いながら長い走行距離の方向に新線が供給される。
【0029】
例えば、図2(A)に示すように、A方向に新線が供給されていく場合、図2(A)中に示すBがワイヤ供給側となり、Cがワイヤ回収側となる。
また、図2(A)に示すように、溝付きローラ3の複数の溝6は、溝間のピッチがワイヤ供給側Bよりワイヤ回収側Cの方が狭くなるように形成される(t>t)。
また、本発明のワイヤソーでは、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成される。すなわち、この溝付きローラに巻掛けされるワイヤのワークに対向する側の高さ位置が、ワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に低くなるようになる。ここで、溝付きローラの複数の溝は、ワイヤの横ぶれを防止するため、図2(B)に示すような、ワイヤの直径と同じR形状及び溝幅を持つU字形状であることが好ましい。
【0030】
ワークWの切断を行う際、ワークWはワーク送り手段5により相対的に下方に位置するワイヤ2へと送られる。このワーク送り手段5はワークWを相対的に下方へと押し下げることによって、ワークWを往復走行するワイヤ2に押し当てて切り込み送りする。この際、本発明ではワイヤ供給側のワイヤがワイヤ回収側のワイヤよりも先にワークに押し当てられることになる。ここで、このワーク送り手段5はコンピュータ制御で予めプログラムされた送り速度で保持したワークWを送り出すことが可能である。また、ワークWの切断を完了させた後、ワークWの送り出し方向を逆転させることにより、ワイヤ列から切断済みワークWを引き抜くことができる。
【0031】
このような本発明のワイヤソーであれば、切断開始時のワークとワイヤの接触のタイミングをワイヤ供給側のワイヤより溝間のピッチの狭くなるワイヤ回収側のワイヤの方を遅く接触させることにより、ワイヤ回収側のワークが摩耗していないワイヤにより切断されることを避けることができる。これにより、特にワイヤ回収側でワークの切り始めが中心部に比べて薄くなってしまうのを抑制でき、TTVを改善できるものとなる。
【0032】
ここで、本発明のワイヤソーの溝付きローラの一例の概略を図3に示す。
図3に示すように、溝付きローラ31の直径は一定であり、溝付きローラ31の複数の溝6の深さ(図3中のh)がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に深く形成されている(図3中の斜線)。尚、図3は、溝付きローラの両端から2つずつの溝のみを示したものであり、他の溝は省略してある。この溝付きローラ31の複数の溝6の底部9の位置と溝付きローラ31の回転軸8との間の距離(図3中のd)はワイヤ供給側Bからワイヤ回収側Cに向かって徐々に短くなっている。この溝付きローラ31は、既存の設備を用いて深さが異なる溝を形成するだけで容易に構成できる。この場合、溝をU字形状とするのが好ましく、特に溝がより深くなるワイヤ回収側で隣接する溝との干渉を避けることができる。
【0033】
或いは、図4に示すように、溝付きローラ32の複数の溝6の深さが同じであり、溝付きローラ32の直径がワイヤ供給側Bからワイヤ回収側Cに向かって徐々に小さくなるように形成されたものとすることもできる。
この溝付きローラ32においても同様に、複数の溝6の底部9の位置と溝付きローラ32の回転軸8との間の距離dはワイヤ供給側Bからワイヤ回収側Cに向かって徐々に短くなっている。この溝付きローラ32では、溝の加工を容易に行うことができる。また、この場合も溝をU字形状とすることが好ましいが、溝の深さhが同じなので溝をV字形状にすることもでき、さらに溝加工が容易なものとなる。
【0034】
このとき、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差は、溝付きローラの直径、ワイヤを溝付きローラに巻掛ける回数、切断されるウェーハの厚さなどによって適宜設定できるが、1mm以上、5mm以下の範囲内であることが好ましい。
この最大差が1mm以上であれば、ワイヤ回収側のワークを摩耗していないワイヤにより切断することを確実に避けることができ、TTVを確実に改善できる。また、この最大差が5mm以下であれば、溝付きローラの周囲に形成したポリウレタンなどの通常用いられる樹脂シェルの厚さの範囲内で溝を形成できる。さらに、溝を再形成する場合に、樹脂シェルを再形成することなく、樹脂シェルの溝が形成された領域のみ除去して溝を再形成することもできる。すなわち、通常用いられる樹脂シェルの厚さの範囲内で溝形成を2回行うことができるので、コストを低減できる。
【0035】
次に本発明のワークの切断方法について説明する。ここでは、図1に示すようなワイヤソー1を用いた場合について述べる。
まず、溝付きローラ3の複数の溝の底部の位置と溝付きローラ3の回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された溝付きローラ3を準備する。
【0036】
このとき、図3に示すような、溝付きローラの直径が一定であり、複数の溝6の深さがワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に深く形成された溝付きローラ31を準備することができる。
このようにすることで、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された溝付きローラを、既存の設備を用いて深さが異なる溝を形成するだけで容易に準備することができる。この場合、溝をU字形状とするのが好ましく、特に溝がより深くなるワイヤ回収側で隣接する溝との干渉を避けることができる。
【0037】
またこのとき、図4に示すような、複数の溝6の深さが同じであり、溝付きローラの直径がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に小さくなるように形成された溝付きローラ32を準備することもできる。
このようにすることで、溝付きローラを準備する際に、溝の加工を容易に行うことができる。また、この場合も溝をU字形状とすることが好ましいが、溝をV字形状にすることもでき、さらに溝加工が容易に行うことができる。
【0038】
次に、ワーク送り手段5によりワークWを保持する。
そして、ワイヤ2に張力を付与して軸方向へ往復走行させ、スラリ供給手段14によりワイヤ2へのスラリ供給を行った状態で、ワーク送り手段5によりワークWを相対的に押し下げてワークWをワイヤ列に対して切り込み送りさせてワークWを切断していく。この際、ワイヤ供給側のワイヤがワイヤ回収側のワイヤよりも先にワークに押し当てられるようにする。
【0039】
このような切断方法であれば、切断開始時のワークとワイヤの接触のタイミングをワイヤ供給側のワイヤより溝間のピッチの狭くなるワイヤ回収側のワイヤの方を遅く接触させることにより、ワイヤ回収側のワークを摩耗していないワイヤにより切断することを避けることができる。これにより、特にワイヤ回収側でワークの切り始めが中心部に比べて薄くなってしまうのを抑制でき、TTVを改善できる。
【0040】
このとき、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差は、溝付きローラの直径、ワイヤを溝付きローラに巻掛ける回数、切断されるウェーハの厚さなどによって適宜設定できるが、1mm以上、5mm以下の範囲内とするが好ましい。
この最大差が1mm以上であれば、ワイヤ回収側のワークを摩耗していないワイヤにより切断することを確実に避けることができ、TTVを確実に改善できる。また、この最大差が5mm以下であれば、溝付きローラの周囲に形成したポリウレタンなどの通常用いられる樹脂シェルの厚さの範囲内で溝を形成できる。さらに、溝を再形成する場合に、樹脂シェルを再形成することなく、樹脂シェルの溝が形成された領域のみ除去して溝を再形成することもできる。すなわち、通常用いられる樹脂シェルの厚さの範囲内で溝形成を2回行うことができるので、コストを低減できる。
【0041】
なお、ここでは、図1に示すようなワイヤソーのワーク送り手段を用い、ワークを下方に送るようにして切り込み送りしているが、本発明のワークの切断方法及びワイヤソーでは、これに限定されず、ワークの送り出しは相対的に押し下げることにより行われれば良い。すなわち、ワークWを下方に送るのではなく、ワイヤ列を上方へと押し上げることによって、ワークWの送り出しを行うようにしても良い。
【0042】
ここで、ワイヤ2に付与する張力の大きさや、ワイヤ2の走行速度等は適宜設定することができる。例えば、ワイヤの走行速度を、400〜800m/minとすることができる。また、ワイヤ列に対して切り込み送りさせる時の切り込み送り速度を、例えば0.2〜0.4mm/minとすることができる。これらの条件は、これに限定されるわけではない。
【0043】
またここで、特に限定されるわけではないが、切断時にワイヤ2に供給されるスラリとして、例えば#2000砥粒とクーラントとを混ぜたものを用いることができ、その重量比を、例えば50:50の割合とすることができる。また、スラリの温度は、例えば、15℃〜30℃とすることができる。
【0044】
以上説明したように、本発明では、特に溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなってしまうのを抑制でき、TTVを改善できるので、後工程での例えばラッピング加工、研磨加工における加工代を小さくすることができる。そのため、切断されるウェーハの厚さを薄く設定して切断することができ、カーフロスを低減できるとともに、後工程のラップ工程、研磨工程の生産性向上も期待できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図3に示すような溝付きローラを有する図1に示すような本発明のワイヤソーを用い、本発明のワークの切断方法に従ってワークの切断を行い、切断されたウェーハのTTVを評価した。ここで、ワークとして、直径300mm、長さ400mmのシリコンインゴットを用いた。また、溝の最小深さを0.25mm、最大深さを2mmとし、溝付きローラの複数の溝の底部の位置と溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差を1.75mmとした。また、溝の形状は、図2(B)に示すような、ワイヤの直径0.14mmと同じR形状及び溝幅を持つU字形状とした。
【0047】
図5に切断されたウェーハの切断方向の厚さ分布を示す。図5に示すように、ワイヤ供給側と回収側の切り始めの厚さの差がほとんどなく、図6に示す後述する比較例1の結果と比べ厚さのばらつきが改善されていることが分かった。
図7にTTVの結果を示す。図7に示すように、TTVの平均は8.0μm、分散は0.3μmと後述する比較例の平均8.7μm、分散2.0μmと比べ大幅に改善されていることが分かった。なお、測定器はコベルコ科研SBW−330を用いた。
【0048】
また、図4に示すような溝付きローラを用いた場合も同様の結果が得られた。
このように、本発明のワイヤソー及びワークの切断方法は、ワイヤソーによるワークの切断において、特に溝間のピッチを狭くしたワイヤ回収側でワークの切り始めが局所的に薄くなり、TTVが悪化するのを抑制できることが確認できた。
【0049】
(比較例)
図8に示すような、溝付きローラの直径が一定で、複数の溝の深さも一定である従来のワイヤソーを用い、ワイヤ供給側と回収側のワイヤが同時にワークに押し当てられるようにした以外、実施例と同様の条件でシリコンインゴットを切断し、実施例と同様に評価した。
図6に切断されたウェーハの切断方向の厚さ分布を示す。図6に示すように、ワイヤ供給側と回収側の切り始めの厚さの差が大きくなり、切り始めの厚さは回収側の方が薄くなっていることが分かった。
図7にTTVの結果を示す。図7に示すように、TTVの平均は8.7μm、分散は2.0μmと実施例1の結果と比べ大幅に悪化してしまった。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
1…ワイヤソー、 2…ワイヤ、 3、31、32…溝付きローラ、
4、4’…ワイヤ張力付与機構、 5…ワーク送り手段、 6…溝、
7、7’…ワイヤリール、 8…回転軸、 9…底部、 10…駆動モータ、
11…スラリタンク、 12…スラリチラー、 13…ノズル、
14…スラリ供給手段、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溝付きローラに巻掛けされたワイヤを軸方向に往復走行させ、前記ワイヤにスラリを供給しつつ、ワークを相対的に押し下げて、往復走行する前記ワイヤに押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワークの切断方法であって、
前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成された前記溝付きローラを準備する工程と、
前記ワイヤ供給側のワイヤが前記ワイヤ回収側のワイヤよりも先に前記ワークに押し当てられるようにして前記ワークを切断する工程とを含むことを特徴とするワークの切断方法。
【請求項2】
前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差を1mm以上、5mm以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1に記載のワークの切断方法。
【請求項3】
前記溝付きローラを準備する工程において、前記溝付きローラの直径が一定であり、前記複数の溝の深さがワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に深く形成された前記溝付きローラを準備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワークの切断方法。
【請求項4】
前記溝付きローラを準備する工程において、前記複数の溝の深さが同じであり、前記溝付きローラの直径がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に小さくなるように形成された前記溝付きローラを準備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワークの切断方法。
【請求項5】
複数の溝付きローラに巻掛けされ、軸方向に往復走行するワイヤと、該ワイヤにスラリを供給するノズルと、ワークを保持しつつ該ワークを相対的に押し下げて前記ワイヤへ送るワーク送り手段を具備し、前記ノズルから前記ワイヤにスラリを供給しつつ、前記ワーク送り手段により保持された前記ワークを、往復走行する前記ワイヤに押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーであって、
前記溝付きローラは、該溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に短くなるように形成されたものであり、
前記ワイヤ供給側のワイヤが前記ワイヤ回収側のワイヤよりも先に前記ワークに押し当てられるようにして前記ワークを切断できるものであることを特徴とするワイヤソー。
【請求項6】
前記溝付きローラの複数の溝の底部の位置と該溝付きローラの回転軸との間の距離の最大差が1mm以上、5mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のワイヤソー。
【請求項7】
前記溝付きローラの直径が一定であり、前記溝付きローラの複数の溝の深さがワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に深く形成されたものであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のワイヤソー。
【請求項8】
前記溝付きローラの複数の溝の深さが同じであり、前記溝付きローラの直径がワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々に小さくなるように形成されたものであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のワイヤソー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−78824(P2013−78824A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220093(P2011−220093)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】