説明

ワーク搬送装置及びワーク搬送装置におけるワーク把持方法

【課題】適正な力でワークをクランプすることができるワーク搬送装置を提供する。
【解決手段】図(a)において、作業者は第1レバー47を図反時計方向に回す。ドライバ部材46が反時計方向に回されたため、下部ローラ45は上昇する。この結果、(b)に示す下部ローラ45は第4カム溝39から離れる。歯部はラックに完全に噛み合った状態を維持する。このため、想像線で示す第2スライダ27は左右に移動する心配はない。(a)で、位置決めされた第2スライダ27を支点にして、上部ローラ44でカムプレート33を図左へ強制移動させる。
【効果】後部把持部材を確実にドアに押し付けることができる。挟持したドアに、揺れや加減速に起因する水平力が作用したとしても、後部把持部材がずれる心配がないため、ドアを確実に且つ安定して搬送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立てた状態の板状ワークを運搬する作業に好適なワーク搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板状ワークは各種のものがあるが、ここでは車両ドア単体(以下、ドアという)を例に説明する。
車両組立ラインには、ドアを車体まで運搬して車体に取付ける作業や、車体から外したドアを別のラインへ運搬する作業が含まれる。このときに、ドアを運搬するワーク搬送装置が必要となる。
【0003】
そして、前部把持部材を有してワークの前部を支える前部支持部と、後部把持部材を有してワークの後部を支持する後部支持部とでワークを拘束して、搬送に供するワーク搬送装置が多数提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実用新案登録第2571180号公報(図3)
【0004】
特許文献1の図3において、符号511はスプリングであり、このスプリング511の弾発作用で、後部把持部材を前部把持部材へ付勢し、ワークRの位置決めを行う。
運搬移動に伴ってワークRに水平力が作用する。特に、起動、停止時に大きな水平力が加わり、スプリング511に抗してワークRが、ずれることがありワークRの位置精度不良を招く。スプリングRのばね定数を高めると、ワークRに傷を付ける虞がある。
したがって、板状ワークをスプリングで抑えながら運搬することは、好ましくない。
【0005】
特許文献1の問題を解消するために、スプリングを用いないワーク搬送装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献2】特開平11−348777号公報(図1、図5、図7)
【0006】
特許文献2の技術を次図で説明する。
図7は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(b)を先に説明する。
(b)は従来のワーク搬送装置の正面図であり、ワーク搬送装置100は、ハンガー101に固定クランプ装置102と、受け部材103、104と、可動クランプ装置105を設けてなる。
【0007】
実線で示されるドア106や想像線で示される大型ドア107は受け部材103、104に載せ、固定クランプ装置102と可動クランプ装置105とで挟持する。この状態でドア106又は107を運搬する。
【0008】
(a)は(b)のa矢視図であり、固定クランプ装置105は、図面表裏方向に延びる長尺板材108にガイド部材109を設け、このガイド部材109にスライダ111を図面表裏方向に移動自在に収納し、このスライダ111に操作レバー112を左右揺動可能に取付け、この操作レバー112の下端にねじ部材113を取付け、このねじ部材113に対応するねじ部材114を長尺板材108に設けてなる。
【0009】
操作レバー112を想像線で示すように図反時計方向に揺動させると、ねじ部材114からねじ部材113が離れて、スライダ111は図面表裏方向へ移動可能となる。この状態で、スライダ111を移動し、可動クランプ部115をドア106又は107((b)参照)に当て、操作レバー112を戻す。この結果、ねじ部材114にねじ部材113が噛合し、可動クランプ部115が固定される。
【0010】
以上の述べた特許文献2の技術は、スプリングを主要素としないため、スプリングに起因する位置ずれは発生しない。
しかし、(c)において、ねじ部材114にねじ部材113が噛み合うときに問題が発生する。
【0011】
すなわち、想像線Dで示す歯先116が、歯先117にほぼ合致した場合は、歯先116は、矢印E又は矢印Fのごとく進み、結果的に可動クランプ部115は、矢印G又は矢印Hのごとくずれる。
矢印Gの場合は、ねじ部材113の歯先116がねじ部材114の歯谷118にしっかり係合せず、歯先117と歯谷118との間に留まった状態となる。また、運搬移送時の水平力、振動等によりねじ部材113の歯先116が矢印H方向にズレ、この結果、挟持力が不足してドアがガタつく心配がある。
すなわち、特許文献2では適正な力でドアをクランプすることが難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、適正な力でワークをクランプすることができるワーク搬送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、前部把持部材を有してワークの前部を支える前部支持部と、後部把持部材を有してワークの後部を支持する後部支持部とでワークを拘束して、搬送に供するワーク搬送装置において、
前記後部支持部は、ワークを載せる装置ベースに立設した支柱と、この支柱に互いに平行に設けると共に前部把持部材に向かって延ばしたガイドレール及びラックと、このラックより上位に設けた前記ガイドレールに移動自在に且つ直列に取付けた第1スライダ及び第2スライダと、第1スライダに第2スライダを弾性的に連結する連結部材と、第2スライダの一部に被さるようにして前記第1スライダに付設するとともに前記後部把持部材を支えるカムプレートと、このカムプレートの後端上部に形成した第1カム溝と、この第1カム溝に繋がると共に第1カム溝より後方位置にてカムプレートの後端に形成した第2カム溝と、前記第2スライダに上下揺動自在に設けた揺動部材と、この揺動部材の途中に設けた第3カム溝と、この第3カム溝に繋がると共に第3カム溝より下方まで切込み形成した第4カム溝と、前記ラックに噛み合わせるために揺動部材の先端側に設けた歯部と、この歯部が前記ラックに当たるように揺動部材を押し上げる弾発部材と、第2スライダに揺動可能に設けると共に前記第1カム溝又は第2カム溝に噛み合わせることができる上部ローラ及び前記第3カム溝又は第4カム溝に噛み合わせることができる下部ローラを備えるドライバ部材と、人手で操作するためにドライバ部材から延ばした握り部と、からなり、
上部ローラが第1カム溝と第2カム溝との何れにも噛み合わない待機状態では、下部ローラが第3カム溝に噛み合って、歯部をラックから分離させ、
上部ローラが第1カム溝に噛み合った、第1作動状態では、下部ローラが第4カム溝に噛み合って、歯部がラックに噛み合い、
上部ローラが第2カム溝に噛み合った、第2作動状態では、固定状態とされた第2スライダを基準にして上部ローラが第1スライダ並びにカムプレートを前進させて、前記後部把持部材をワークへ押出すことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明は、ドライバ部材から第1レバーと第2レバーからなる2本の握り部を延ばし、前記第2作動状態で第1レバーは、ほぼ縦向きにしたクランプ操作用レバーとし、第2レバーは、ほぼ水平向きにしたアンクランプ操作用レバーとしたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、前部支持部と後部支持部によりワークを拘束して搬送するワーク搬送装置におけるワーク把持方法であり、
前記後部支持部は、前記前部支持部の方向に延設されたガイドレール及びラックと、前記ガイドレールに沿って移動し、2段のカム溝で構成される第1カム手段及び後部把持部材を有する第1スライダと、
前記ガイドレールに沿って移動し、第1スライダに弾発部材により連結され、2段のカム溝で構成される第2カム手段と、前記ラックに係合する歯部を有する揺動部材を常時反時計方向に弾発付勢して軸支し、
前記第1カム手段と第2カム手段に係合する第1ローラと第2ローラ及び握り部を有するドライバ部材を回転自在に軸支する第2スライダより構成されるワーク搬送装置におけるワーク把持方法であって、
ワークを前部支持部に当接させ、この状態で後部支持部の握り部を操作し、
第1ローラと第1カム手段とを非係合の状態とし、第2ローラと第2カム手段の1段目のカム溝とを係合状態として歯部をラックから分離させ、第1スライダと第2スライダを前部支持部方向に移動させ、後部把持部材をワークに当接させ、
次いで第1ローラと第1カム手段の1段目のカム溝とを係合状態とし、第2ローラと第2カム手段の2段目のカム溝とを係合状態として歯部とラックを係合し、第2スライダの位置を固定し、
次いで第1ローラと第1カム手段の2段目のカム溝とを係合状態とし、第2ローラと第2カム手段の2段目のカム溝とを非係合の状態として、第1スライダを更にワーク方向へ押し出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、待機状態、第1作動状態、第2作動状態の順で作動させるように、ワーク搬送装置を構成した。
第1作動状態にて、ラックに歯部を噛み合わせ、第2スライダを固定する。歯部はラックに完全に噛み合わせることができるため、噛み合わせ不良に基づく位置ずれが発生する心配はない。
【0017】
次に、第2作動状態にて、第2スライダを基準にして第1スライダを前進させる。この前進動作でワークのクランプを完成する。噛み合わせ不良に基づく位置ずれが無いため、適正な力でワークをクランプすることができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、ほぼ縦向きにした第1レバーで、クランプ操作を実施し、ほぼ水平向きにした第2レバーで、アンクランプ操作を実施する。
第2レバーを押し下げることで、アンクランプ操作が実施できるため、アンクランプ操作が楽になり、操作及び作業の能率化を図ることができる。
【0019】
請求項3に係る発明は、握り部を操作する工程と、第2スライダの位置を固定する工程と、第1スライダを更にワーク方向へ押し出す工程とからなるワーク把持方法であり、歯部はラックに完全に噛み合わせることができるため、噛み合わせ不良に基づく位置ずれが発生する心配はない。そして、噛み合わせ不良に基づく位置ずれが無いため、適正な力でワークをクランプすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るワーク搬送装置の正面図であり、ワーク搬送装置10は、パレット状の装置ベース11と、ワークとしてのドア12を受けるために装置ベース11に設けたV字受け部13、14及び平坦受け部15と、装置ベース11の前部(図では左側)から立てた前部支持部16と、この前部支持部16の上部に備える前部把持部材17と、装置ベース11の後部から立てた後部支持部20とからなる。
【0021】
後部支持部20の詳細は後述する。前部把持部材17はドア12の前縁に倣ったV字断面部18を含む。
【0022】
図2は本発明に係る後部支持部の拡大図であり、後部支持部20は、装置ベース11に立設した支柱21と、この支柱21の上部に水平に渡した基板22と、この基板22に設けたガイド板23及びガイドレール24と、このガイドレール24に平行に且つ基板22の下辺に沿って設けたラック25と、ガイドレール24に移動自在に且つ直列に取付けた第1スライダ26及び第2スライダ27とを備える。これらの第1スライダ26及び第2スライダ27と、これらに付属させた要素を、次図で説明する。
【0023】
図3は本発明に係る後部支持部の要部分解斜視図であり、後部支持部20は、さらに、第1スライダ26に第2スライダ27を弾性的に連結する連結部材としての引張りばね31と、第2スライダ27の一部に被さるようにして第1スライダ26に付設するとともに後部把持部材32を支えるカムプレート33と、このカムプレート33の後端上部に形成した第1カム溝34と、この第1カム溝34に繋がると共に第1カム溝34より後方位置にてカムプレート33の後端に形成した第2カム溝35と、第1ピン36を介して第2スライダ27に上下揺動自在に設ける揺動部材37と、この揺動部材37の途中に設けた第3カム溝38と、この第3カム溝38に繋がると共に第3カム溝38より下方まで切込み形成した第4カム溝39と、ラック25に噛み合わせるために揺動部材37の先端側に設けた歯部41と、この歯部41がラック25に当たるように揺動部材37を押し上げる弾発部材としての圧縮ばね42と、第2スライダ27に第2ピン43を介して揺動可能に設けると共に第1カム溝34又は第2カム溝35に噛み合わせることができる上部ローラ44及び第3カム溝38又は第4カム溝39に噛み合わせることができる下部ローラ45を備えるドライバ部材46とからなる。
【0024】
ドライバ部材46は、人手で操作するために第1レバー47及び第2レバー48からなる2本の握り部を備える。第1レバー47及び第2レバー48の作用は後述する。
また、51は圧縮ばね座であり、この圧縮ばね座51は第2スライダ27から延ばす。52、53は引張りばね31を掛けるためのピン52、53である。
【0025】
なお、連結部材は引張りばね31と同等の作用を発揮するゴムひもでもよく、要は弾性的に2つの部材を連結する部材であればよい。
弾発部材は圧縮ばね42と同等の作用を発揮するゴムブロックでもよく、要は揺動部材37を弾発する部材であれば種類は問わない。
また、上部ローラ44はカムフォロアなどの回転体が好適であるが、ドライバ部材46に一体的に形成した半円突起であってもよい。下部ローラ45も同様である。
【0026】
54はカムプレート33に開けた長穴、55はピン受け穴であり、第1ピン36はピン受け穴55、長穴54の順で挿通する。したがって、揺動部材37は第2スライダ27に揺動可能に取付けることができる。
【0027】
また、カムプレート33には、左右のガイド57、58を設け、右のガイド58に凹溝59を設けた。
一方、後部把持部材32はドアの後縁に対応したV溝61を備え、このような後部把持部材32は、連結金具62を用いて縦長のバー63に結合する。縦長のバー63には複数個の位置決め穴64・・・(・・・は複数を示す。以下同じ)を開ける。加えて、カムプレート33からL字金具65を延ばし、このL字金具65にロックピン66を挿抜自在に設けておく。
【0028】
縦長のバー63を左右のガイド57、58間に上から挿入し、位置決め穴64・・・のうちの1つの位置決め穴64にロックピン66を挿入することで、縦長のバー63を固定することができる。
【0029】
なお、縦長のバー63は、図2及び図3に示すとおりに、カムプレート33に取り付けられたL型ステー67の起立部に開設された孔部を挿通し、連結金具62の基部に接合された支持部材68と、この支持部材68に先端が連結されたロッド69と、L型ステー67の起立部と支持部材68間にロッド69を挿通状態で配設されたスプリング71で上方へ付勢するようにした。また、ロッド69の基端側には抜け止めリング72が配設されている。
【0030】
この結果、後部把持部材32を含んで重くなった縦長のバー63を、楽に上昇させることができる。後部把持部材32はドアの種類や形状変更からの要求により、把持位置を変更することが頻繁に発生するが、スプリング71を設けたので位置変更作業が容易になる。
【0031】
以上の構成からなるワーク搬送装置の作用を次に説明する。
図4は本発明の待機状態を説明する図である。
(a)において、上部ローラ44が第1カム溝34と第2カム溝35の何れにも噛み合っていない状態を待機状態と呼ぶ。下部ローラ45は図奥へ突出するためカムプレート33には当たらない。
この状態ではカムプレート33は右へ移動可能である。第1スライダ26は引張りばね31の引き作用で図右へ移動し、カムプレート33も同時に右へ移動し、長穴54の図左端が第1ピン36に当たることで停止する。すなわち、第1スライダ26が第2スライダ27に最も接近したと言える。
【0032】
(b)はラック25及び揺動部材37の相対関係を示す図であり、第1ピン36及び下部ローラ45は(a)の位置と同じである。下部ローラ45が揺動部材37に設けた第3カム溝38に噛み合っており、このときには歯部41はラック25から離される。
【0033】
歯部41がラック25から離れているため、(a)に示す第1スライダ26、カムプレート33及び第2スライダ27を一括して、図左右へ移動させることができる。この移動には、ほぼ水平向きである第2レバー48を使用する。仮に、ほぼ縦向きの第1レバー47を使用し且つ第1レバー47を図左へ押すと、第1レバー47が反時計方向に回転して、(b)に示す歯部41が上昇し、ラック25に噛み合う可能性がある。この点、ほぼ水平向きの第2レバー48であれば作業者は上下動を抑えながら、第2レバー48を水平に移動させることができるため、歯部41がラック25に噛み合う心配はない。
【0034】
図5は本発明の第1作動状態を説明する図である。
(a)において、作業者は第1レバー47を図反時計方向に回すことで、上部ローラ44を第1カム溝34に噛み合わせる。上部ローラ44が第1カム溝34に完全に噛み合うと、一旦停まるため、作業者は上部ローラ44が第1カム溝34に完全に噛み合った事実を認識することができる。カムプレート33及び第1スライダ26は少し前進する。
【0035】
ドライバ部材46が図反時計方向に回転したため、下部ローラ45は第2ピン43を中心に回転する。この結果、(b)において、下部ローラ45は第3カム溝38から第4カム溝39へ移動する。揺動部材37は、圧縮ばね42の押し上げ作用で、第1ピン36を中心に上へ揺動し、歯部41がラック25に噛み合う。 以上の操作で第1作動状態を達成するが、この達成のための一連の操作は歯部41をラック25に噛み合わせ、第2スライダ27を固定状態にすることを目的としたものである。
【0036】
ところで、第1作動状態に至る過程で、歯部41の歯先とラック25の歯先が当たって噛み合わせが不十分になることが想定される。しかし、次の第2作動状態に至る過程で、想像線で示す第2スライダ27に、水平反力が作用して第2スライダ27と共に歯部41は図右へ付勢される。噛み合わせ不十分の場合は、第2スライダ27及び歯部41が右に半ピッチだけ移動して、ラック25に歯部41が完全に噛み合う。すなわち、本発明によれば、噛み合わせ不良を完全に解消することができる。
【0037】
図6は本発明の第2作動状態を説明する図である。
(a)において、作業者は第1レバー47をさらに図反時計方向に回す。ドライバ部材46が反時計方向に回されるため、下部ローラ45は上昇する。この結果、(b)に示す下部ローラ45は第4カム溝39から離れる。歯部41はラック25に完全に噛み合った状態を維持する。このため、想像線で示す第2スライダ27は左右に移動する心配がない。すなわち、第2スライダ27は固定状態が維持される。
【0038】
(a)に戻って、下部ローラ45が上昇する時、上部ローラ44は、第1カム溝34から第2カム溝35へ移動する。この時、固定状態の第2スライダ27を基準にして、上部ローラ44でカムプレート33を図左へ強制移動させることとなる。
この結果、図1に示す後部把持部材32を確実にドア12に押し付けることができ、ドアのクランプが完成する。前部把持部材17と後部把持部材32とで挟持したところのクランプ状態のドア12に、揺れや加減速に起因する水平力が作用したとしても、後部把持部材32がずれる心配がないため、ドア12を確実に且つ安定して搬送することができる。
【0039】
次に、クランプを解除(アンクランプ)するには、第2レバー48を押し下げ、ドライバ部材46を図時計方向に回す。アンクランプ操作は、第1レバー47でも可能であるが、第1レバー47は、ほぼ縦向きであるため、図時計方向に回すには水平力を加えることになる。
この点、第2レバー48であれば、押し下げるだけですみ、押し下げ作業は、押し上げ作業及び水平移動作業より、格段に楽であるから、作業能率を向上させることができる。
【0040】
以上に述べた本発明の作用は次のようにまとめることができる。
前部支持部16と後部支持部20によりワーク12を拘束して搬送するワーク搬送装置10におけるワーク把持方法であり、
後部支持部20は、前部支持部16の方向に延設されたガイドレール24及びラック25と、ガイドレール24に沿って移動し、2段のカム溝(第1カム溝34及び第2カム溝35)で構成される第1カム手段34、35及び後部把持部材32を有する第1スライダ26と、
ガイドレール24に沿って移動し、第1スライダ26に弾発部材42により連結され、2段のカム溝(第3カム溝38、第4カム溝39)で構成される第2カム手段38、39と、ラック25に係合する歯部41を有する揺動部材37を常時反時計方向に弾発付勢して軸支し、
第1カム手段34、35と第2カム手段38、39に係合する第1ローラ(上部ローラ)44と第2ローラ(下部ローラ)45及び握り部47、48を有するドライバ部材46を回転自在に軸支する第2スライダ27より構成されるワーク搬送装置10におけるワーク把持方法であって、
ワーク12を前部支持部16に当接させ、この状態で後部支持部20の握り部47、48を操作し、
第1ローラ44と第1カム手段34、35とを非係合の状態とし、第2ローラ45と第2カム手段38、39の1段目のカム溝34とを係合状態として歯部41をラック25から分離させ、第1スライダ26と第2スライダ27を前部支持部16方向に移動させ、後部把持部材32をワーク12に当接させ、
次いで第1ローラ44と第1カム手段34、35の1段目のカム溝34とを係合状態とし、第2ローラ45と第2カム手段38、39の2段目のカム溝39とを係合状態として歯部41とラック25を係合し、第2スライダ27の位置を固定し、
次いで第1ローラ44と第1カム手段34、35の2段目のカム溝35とを係合状態とし、第2ローラ45と第2カム手段38、39の2段目のカム溝39とを非係合の状態として、第1スライダ26を更にワーク方向へ押し出すことを特徴とする。
【0041】
この発明は、握り部を操作する工程と、第2スライダの位置を固定する工程と、第1スライダを更にワーク方向へ押し出す工程とからなるワーク把持方法であり、歯部はラックに完全に噛み合わせることができるため、噛み合わせ不良に基づく位置ずれが発生する心配はない。そして、噛み合わせ不良に基づく位置ずれが無いため、適正な力でワークをクランプすることができる。
【0042】
尚、本発明のワーク搬送装置で搬送するワークは、ドアの他、ボンネット、サンルーフ、窓ガラスなどでもよく、種類や形状を格別に限定するものではない。
また、請求項1では握り部は1本のレバーで構成してもよい。
【0043】
上部ローラを第1ローラ、下部ローラを第2ローラと読み替えたことから明らかなように、ローラに付した上部、下部は便宜的な表記であって、第1、第2や左、右であってもよい。
同様に、前部支持部や後部支持部に付した前部、後部は便宜的な表記であって、第1、第2や左、右であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ドアを搬送するワーク搬送装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るワーク搬送装置の正面図である。
【図2】本発明に係る後部支持部の拡大図である。
【図3】本発明に係る後部支持部の要部分解斜視図である。
【図4】本発明の待機状態を説明する図である。
【図5】本発明の第1作動状態を説明する図である。
【図6】本発明の第2作動状態を説明する図である。
【図7】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
10…ワーク搬送装置、11…装置ベース、12…ワークとしてのドア、16…前部支持部、17…前部把持部材、20…後部支持部、21…支柱、22…基板、24…ガイドレール、25…ラック、26…第1スライダ、27…第2スライダ、31…連結部材としての引張りばね、32…後部把持部材、33…カムプレート、34…第1カム溝、35…第2カム溝、37…揺動部材、38…第3カム溝、39…第4カム溝、41…歯部、42…弾発部材としての圧縮ばね、44…上部ローラ、45…下部ローラ、46…ドライバ部材、47…第1レバー、48…第2レバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部把持部材を有してワークの前部を支える前部支持部と、後部把持部材を有してワークの後部を支持する後部支持部とでワークを拘束して、搬送に供するワーク搬送装置において、
前記後部支持部は、ワークを載せる装置ベースに立設した支柱と、この支柱に互いに平行に設けると共に前部把持部材に向かって延ばしたガイドレール及びラックと、このラックより上位に設けた前記ガイドレールに移動自在に且つ直列に取付けた第1スライダ及び第2スライダと、第1スライダに第2スライダを弾性的に連結する連結部材と、第2スライダの一部に被さるようにして前記第1スライダに付設するとともに前記後部把持部材を支えるカムプレートと、このカムプレートの後端上部に形成した第1カム溝と、この第1カム溝に繋がると共に第1カム溝より後方位置にてカムプレートの後端に形成した第2カム溝と、前記第2スライダに上下揺動自在に設けた揺動部材と、この揺動部材の途中に設けた第3カム溝と、この第3カム溝に繋がると共に第3カム溝より下方まで切込み形成した第4カム溝と、前記ラックに噛み合わせるために揺動部材の先端側に設けた歯部と、この歯部が前記ラックに当たるように揺動部材を押し上げる弾発部材と、第2スライダに揺動可能に設けると共に前記第1カム溝又は第2カム溝に噛み合わせることができる上部ローラ及び前記第3カム溝又は第4カム溝に噛み合わせることができる下部ローラを備えるドライバ部材と、人手で操作するためにドライバ部材から延ばした握り部と、からなり、
上部ローラが第1カム溝と第2カム溝との何れにも噛み合わない待機状態では、下部ローラが第3カム溝に噛み合って、歯部をラックから分離させ、
上部ローラが第1カム溝に噛み合った、第1作動状態では、下部ローラが第4カム溝に噛み合って、歯部がラックに噛み合い、
上部ローラが第2カム溝に噛み合った、第2作動状態では、固定状態とされた第2スライダを基準にして上部ローラが第1スライダ並びにカムプレートを前進させて、前記後部把持部材をワークへ押出すことを特徴とするワーク搬送装置。
【請求項2】
前記ドライバ部材から第1レバーと第2レバーからなる2本の握り部を延ばし、前記第2作動状態で第1レバーは、ほぼ縦向きにしたクランプ操作用レバーとし、第2レバーは、ほぼ水平向きにしたアンクランプ操作用レバーとしたことを特徴とする請求項1記載のワーク搬送装置。
【請求項3】
前部支持部と後部支持部によりワークを拘束して搬送するワーク搬送装置におけるワーク把持方法であり、
前記後部支持部は、前記前部支持部の方向に延設されたガイドレール及びラックと、前記ガイドレールに沿って移動し、2段のカム溝で構成される第1カム手段及び後部把持部材を有する第1スライダと、
前記ガイドレールに沿って移動し、第1スライダに弾発部材により連結され、2段のカム溝で構成される第2カム手段と、前記ラックに係合する歯部を有する揺動部材を常時反時計方向に弾発付勢して軸支し、
前記第1カム手段と第2カム手段に係合する第1ローラと第2ローラ及び握り部を有するドライバ部材を回転自在に軸支する第2スライダより構成されるワーク搬送装置におけるワーク把持方法であって、
ワークを前部支持部に当接させ、この状態で後部支持部の握り部を操作し、
第1ローラと第1カム手段とを非係合の状態とし、第2ローラと第2カム手段の1段目のカム溝とを係合状態として歯部をラックから分離させ、第1スライダと第2スライダを前部支持部方向に移動させ、後部把持部材をワークに当接させ、
次いで第1ローラと第1カム手段の1段目のカム溝とを係合状態とし、第2ローラと第2カム手段の2段目のカム溝とを係合状態として歯部とラックを係合し、第2スライダの位置を固定し、
次いで第1ローラと第1カム手段の2段目のカム溝とを係合状態とし、第2ローラと第2カム手段の2段目のカム溝とを非係合の状態として、第1スライダを更にワーク方向へ押し出すことを特徴とするワーク搬送装置におけるワーク把持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−203410(P2007−203410A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25138(P2006−25138)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】