説明

一次元アレイ素子の製造方法および一次元アレイ素子

【課題】製造歩留まりが高い一次元アレイ素子の製造方法および信頼性が高い一次元アレイ素子を提供すること。
【解決手段】III−V族半導体材料からなる一次元アレイ素子の製造方法であって、エピタキシャル成長を用いて、主表面として(100)面を有する基板の該主表面上に、素子領域中の一部に活性領域を有する単一素子を<011>方向に対してゼロよりも大きい角度をなす配列方向に複数配列して構成した一次元アレイ素子を複数形成し、該形成した一次元アレイ素子を素子分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に一次元的に配列した単一素子を備える一次元アレイ素子の製造方法および一次元アレイ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型面発光レーザ素子(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、面発光レーザ素子と称す。)は、光インターコネクションをはじめとする種々の光通信用光源、あるいは他の様々なアプリケーション用デバイスとして利用されている(例えば、特許文献1参照)。面発光レーザ素子は、基板に対して垂直方向にレーザ光を射出するため、従来の端面発光型レーザ素子に比べて同一基板上に複数の素子を容易に一次元配列させて一次元アレイ素子を形成することができる。また、活性層体積が非常に小さいため、極低閾値電流および低消費電力でレーザ発振が可能であるなど、多くの利点を有している。
【0003】
一般に、面発光レーザ素子は、結晶基板面と同一面上に配置された下部反射鏡、活性層、上部反射鏡によって構成される共振構造と、活性層を励起させる構造により構成され、通常は電流注入により活性層を励起させる。活性層は通常半導体で構成されることから、基板と活性層との間に位置する下部反射鏡も、半導体で形成されることが一般的である。そこで、屈折率の大きい材料の層と小さい材料の層のペアを積層した半導体多層膜反射鏡が広く用いられている。なお、面発光レーザ素子は、共振器長が一般の半導体レーザに比べて短いため、低しきい値動作のためには99%以上の高い反射率をもつ反射鏡が必要なので、半導体多層膜反射鏡は通常上記層のペアが20−60ペア積層されて形成される。その結果、その膜厚は数μmから15μm程度の、比較的厚い層となる。また、その層厚は、組み合わせる材料の屈折率差や、反射させるべき波長の設計などによって異なる。また、通常、この下部反射鏡は有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線成長法(MBE法)などによってエピタキシャル成長される。一方、上部反射鏡は電流注入構造や出射方向などとの組み合わせにより、半導体多層膜反射鏡や誘電体多層膜反射鏡、またそれらと金属を組み合わせたものなどから選ばれたものが用いられる。
【0004】
なお、850nm帯を中心に、650nm〜1300nm帯までの波長帯域でそれぞれ発光する面発光レーザ素子の場合、III−V族半導体材料であるGaAs基板上にエピタキシャル層を成長し、下部反射鏡にはAlGa1−xAs/AlGa1−yAs(0<x≦1、0≦y<1、x<y)の組み合わせによるAlGaAs系半導体多層膜反射鏡が広く用いられている。AlGaAs系半導体多層膜反射鏡は、GaAs基板と殆ど同一の格子定数を持ち、多層積層することが可能なため、結果として高反射率を得やすいという特徴を持つ。
【0005】
また、一次元面発光レーザアレイ素子は、互いに電気的に独立した単一の面発光レーザ素子を一列に配列させることにより構成され、通常リソグラフィやエッチングなどの半導体微細加工技術を用いて同一基板から多数のアレイ素子が一括で製造される。たとえば、通常、基板上に規則的かつ二次元的に素子を形成し、アレイ素子のパターンに沿って、回転鋸によるダイシングやスクライビング(表面を引っかいて傷を入れ、押し割る方法)を用いて所望の単一素子の組を切り出して一次元アレイ素子を製造する。また、二次元アレイ素子も同様に製造する。
【0006】
なお、上記の製造の際に用いる基板には、その方向を識別するためにオリエンテーションフラットが形成されている。図11は、III−V族半導体結晶からなる主表面が面方位(100)である(100)基板と面方位との関係を示す図である。なお、符号D1、D2は、III−V族半導体結晶の面方位を示しており、符号F1、F2は、それぞれV族元素(As、P等)の面、III族元素(Ga、In等)面を示している。また、符号W、W1、W2は、それぞれ基板(ウェハ)、US規格によるオリエンテーションフラット(Orientation Flat、OF)、インデックスフラット(Index Flat、IF)を示している。図11に示すように、US規格によれば、OFは(01−1)面に形成され、IFは(011)面に形成されている。なお、EJ規格によれば、OFは(0−1−1)面に形成され、IFは(0−11)に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−117899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一つのアレイ素子がその要求性能を満たし、良品となるためには、その中の各単一素子全てが要求性能を満たす必要がある。すなわち、アレイ素子中の一つの単一素子でも要求性能を満たさなければ、そのアレイ素子は不良品となる。したがって、単一素子の場合と比較すると、アレイ素子の製造歩留まりを所望の高いレベルにするのは格段に難しい。そのため、アレイ素子製造の際には、製造歩留まり低下要因を注意深く取り除く必要がある。
【0009】
なお、一般的に、製造歩留まりを低下させる要因としては、エピタキシャル成長や基板加工プロセスの設計からの乖離や不良などがある。これに対して、製造工程の最適化により製造条件を厳密に制御することで製造歩留まりを向上させている。具体的には、エピタキシャル成長時の不良としては、製造した基板の半導体層の組成が設計からずれて、その結果基板結晶との格子不整合が生じて歪が層中に蓄積することにより、すべり転位などの転位が発生する事が挙げられる。この転位は、通常クロスハッチとして観察され、半導体素子の動作特性に深刻な影響を及ぼす。これらを防止するためには、エピタキシャル成長時の組成制御の精度を向上させることにより、格子不整合を減少させて回避することが必要である。
【0010】
その他に、エピタキシャル成長時の不良としては、エピタキシャル成長時に付着するパーティクルの影響による不良がある。すなわち、アレイ素子とする場合も含めた面発光レーザ素子の製造の場合、発光部を含む周囲、具体的にはメサ内にパーティクルが存在すると、エピタキシャル層構造がかく乱されたり、リーク電流が発生したりして素子不良の原因となる。また、酸化型電流狭窄構造を用いた面発光レーザ素子の場合、メサ内にパーティクルが存在すると、酸化工程時に酸化形状に乱れが生じる。したがって、エピタキシャル成長時のパーティクルは、注意深い取り扱いにより減少させることが必要である。なお、III−V族半導体を用いる場合のパーティクルとしては、MOCVD法を用いる場合は、反応炉の壁などから飛来するAsクラスターや半導体多結晶が多い。一方、MBE法を用いる場合は、Asクラスターや半導体多結晶のほか、オーバルディフェクトと呼ばれるGaなどの金属状ドロップレットに起因するパーティクルが多い。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造歩留まりが高い一次元アレイ素子の製造方法および信頼性が高い一次元アレイ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る一次元アレイ素子の製造方法は、III−V族半導体材料からなる一次元アレイ素子の製造方法であって、エピタキシャル成長を用いて、主表面として(100)面を有する基板の該主表面上に、素子領域中の一部に活性領域を有する単一素子を<011>方向に対してゼロよりも大きい角度をなす配列方向に複数配列して構成した一次元アレイ素子を複数形成し、該形成した一次元アレイ素子を素子分離することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る一次元アレイ素子の製造方法は、上記の発明において、前記単一素子の素子間隔を前記配列方向においてaとし、前記配列方向に垂直な幅方向においてbとすると、前記配列方向のなす角度を、tan-1(a/b)以上にすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る一次元アレイ素子の製造方法は、上記の発明において、前記配列方向を、<01−1>方向にほぼ平行にすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る一次元アレイ素子の製造方法は、上記の発明において、前記エピタキシャル成長終了後の前記基板面内の平均パーティクル密度を1000cm-2以下とすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る一次元アレイ素子の製造方法は、上記の発明において、前記単一素子を垂直共振器型面発光レーザ素子とすることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る一次元アレイ素子は、III−V族半導体材料からなる一次元アレイ素子であって、主表面として(100)面を有する基板の該主表面上に、<011>方向に対してゼロよりも大きい角度をなす配列方向に配列した、素子領域中の一部に活性領域を有する複数の単一素子を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る一次元アレイ素子は、上記の発明において、前記単一素子の素子間隔を配列方向においてaとし、前記配列方向に垂直な該一次元アレイ素子の幅をbとすると、前記配列方向のなす角度は、tan-1(a/b)以上であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る一次元アレイ素子は、上記の発明において、前記配列方向は、<01−1>方向にほぼ平行であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る一次元アレイ素子は、上記の発明において、前記基板面内の平均パーティクル密度が1000cm-2以下であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る一次元アレイ素子は、上記の発明において、前記単一素子が垂直共振器型面発光レーザ素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造歩留まりが高い一次元アレイ素子の製造方法および信頼性が高い一次元アレイ素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施の形態1に係るアレイ素子の模式的な平面図である。
【図2】図2は、図1に示すアレイ素子のA−A線断面図である。
【図3】図3は、基板上の半導体積層構造に発生する転位について説明する図である。
【図4】図4は、<01−1>方向と<011>方向とについての、基板面内のパーティクル密度と3インチ基板面内の線状転位の総数との関係を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態1において、基板上に多数のアレイ素子が形成される状態を模式的に示す図である。
【図6】図6は、多数のアレイ素子が基板上に形成される状態を模式的に示す図である。
【図7】図7は、アレイ素子における面発光レーザの配列方向と<011>方向との角度の規定について説明する図である。
【図8】図8は、角度θ1と不良アレイ数との関係を示した図である。
【図9】図9は、アレイ素子における面発光レーザの配列方向と<011>方向との角度の規定について説明する図である。
【図10】図10は、角度θ2(ラジアン単位)と不良アレイ数との関係を示した図である。
【図11】図11は、図11は、III−V族半導体結晶からなる(100)基板と面方位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明に係る一次元アレイ素子の製造方法および一次元アレイ素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る一次元面発光レーザアレイ素子(以下、適宜アレイ素子と略記する)の模式的な平面図であり、図2は、図1に示すアレイ素子1000のA−A線断面図である。図1に示すように、このアレイ素子1000は、素子領域中の一部に活性領域となるメサポストM1を有する単一素子としての面発光レーザ素子100が、配列方向Ar1の方向に1次元的に10個配列して構成されている、いわゆる10chのアレイ素子である。なお、図1においては、電極構造等の記載を省略している。
【0026】
また、図2に示すように、面発光レーザ素子100は、主表面が(100)面であり、裏面にn側電極1を形成したn型GaAsからなる基板2上に、それぞれの層の厚さがλ/(4n)(λは発振波長、nは屈折率)のn型Al0.9Ga0.1As/n型GaAsの35ペアからなる下部DBRミラー3、n型GaAsからなる下部クラッド層4、GaInNAs/GaAs構造の多重量子井戸からなる活性層5、p型GaAsからなる上部クラッド層6、及び、それぞれの層の厚さがλ/(4n)(λは発振波長、nは屈折率)のp型Al0.9Ga0.1As/p型GaAsの25ペアからなる上部DBRミラー7、2×1019cm-3程度にカーボンをドーピングした高濃度のp型GaAsからなるコンタクト層8を含む積層構造を備えている。n型GaAs層及びp型GaAs層がDBRミラーの高屈折率層を構成し、n型Al0.9Ga0.1As層及びp型Al0.9Ga0.1As層がDBRミラーの低屈折率層を構成する。なお、ここでは、下部DBRミラー3および上部DBRミラー7の反射帯域中心波長を1270nmとしている。
【0027】
上部DBRミラー7では、活性層5に近い側の一層のp型Al0.9Ga0.1As層に代え、酸化狭窄層9が形成されている。この酸化狭窄層9は、AlAs層のAlを周囲から選択的に熱酸化してAlとした電流狭窄領域9aと、中央に残されたAlAsからなる電流注入領域9bからなる。酸化狭窄層9は、面発光レーザ素子100における電流狭窄構造及び光閉込め構造を構成している。
【0028】
また、全体の共振器構造のうち、上部DBRミラー7から下部クラッド層4の下面に到るまでが、例えば直径30μmの円筒形状のメサポストM1に加工されている。
【0029】
メサポストM1の上端には、外周5μm〜10μm程度の幅のリング状(環状)のp側電極10が設けられている。また、メサポストM1は、周囲が例えばポリイミド等の誘電体層(ポリイミド層)11により埋め込まれている。さらに、ポリイミド層11の上には、外部端子とワイヤーで接続するためのp側電極パッド12が形成され、p側電極10と電気的に接続されている。
【0030】
このアレイ素子1000は、面発光レーザ素子100の配列方向Ar1が、結晶方向の<011>方向に対してπ/2ラジアン(rad)の角度をなしており、ほぼ<01−1>方向に平行になっている。これによって、このアレイ素子1000は、転位による故障や不良の発生が低減されており、信頼性が高いものとなっている。その理由については、後に詳細に説明する。
【0031】
このアレイ素子1000を製造する際には、はじめに、たとえばMBE法を用いて、たとえば直径3インチ(76.2mm)の基板2上に、下部DBRミラー3、下部クラッド層4、活性層5、AlAs層を含む上部DBRミラー7、コンタクト層8を順次エピタキシャル成長させる。
【0032】
その後、フォトリソグラフィーによってメサポストM1のパターニングを行い、エッチング加工によってコンタクト層8から所定の深さまでエッチングして、メサポストM1を形成する。なお、アレイ素子1000は、基板2上に一括して多数形成されるので、メサポストM1も、各アレイ素子1000に含まれる面発光レーザ素子100に対応させた数を形成する。ここにおいて、アレイ素子1000における面発光レーザ素子100の配列方向Ar1が決定される。
【0033】
その後、メサポストM1に加工した積層構造を水蒸気雰囲気中にて、約400℃の温度で酸化処理を行い、メサポストM1内のAlAs層の外周側領域を選択的に酸化させる。この選択酸化によって、例えば幅が10μmの外周側領域が酸化され、電流狭窄領域9aとなり、中央に残されたAlAsからなる電流注入領域9bが形成され、酸化狭窄層9が形成される。その後、コンタクト層8上にp側電極10を形成し、メサポストM1をポリイミド層11で埋め込み、p側電極パッド12を形成し、基板2の裏面を適宜研磨して基板厚さを例えば200μmに調整した後に、n側電極1を形成する。さらに、アレイ素子1000ごとに素子分離し、複数のアレイ素子1000が完成する。
【0034】
ここで、本実施の形態1に係る製造方法では、上記のフォトリソグラフィー及びエッチング工程において、面発光レーザ素子100の配列方向Ar1が、結晶方向の<011>方向に対してπ/2radの角度をなし、ほぼ<01−1>方向に平行になるようにパターニング及びエッチングを行なう。これによって、<01−1>方向に配向する線状転位によるアレイ素子1000の不良が低減されるので、アレイ素子1000の製造歩留まりが高くなる。
【0035】
以下、具体的に説明する。上述したように、AlGaAs系半導体多層膜反射鏡は、GaAs基板と殆ど同一の格子定数を持ち、多層積層することが可能なため、結果として高反射率を得やすいという特徴を持つ。通常これらの多層膜反射鏡には、GaAs基板との格子不整合によるクロスハッチは殆ど発生しないと考えられていた。
【0036】
しかしながら、本発明者らがアレイ素子の製造歩留まりを向上させるために、アレイ素子に発生するクロスハッチについて精査したところ、エピタキシャル成長時に基板上に付着するパーティクルがクロスハッチの発生原因となっていることを見出した。
【0037】
すなわち、本発明者らが、上記製造方法においてコンタクト層までを成長させたエピタキシャル基板を、ノマルスキー顕微鏡で観察したところ、Asクラスターを起源とするパーティクルと、Gaドロップレットとみられるパーティクルが、合わせて25cm-2の密度で基板面内にランダムに存在していた。その総数は、基板外周端から6mmを除外した領域に対して約950個であった。また、パーティクルを起点とした、線状の転位が観測され、その転位は基板の端まで伸びていた。また、同様の転位が基板面内で5本見つかった。さらに、これらの線状の転位は、全て<01−1>方向に配向していることを見出した。この線状の転位は、格子不整合によるクロスハッチと形状は殆ど同一であるが、格子不整合によるクロスハッチは<01−1>方向のみならず<011>方向にも転位が配向するのに対して、この線状の転位は一方向に配向していることが異なる。
【0038】
この線状転位は、以下のように発生したものと考えられる。図3は、基板上の半導体積層構造に発生する転位について説明する図である。図3に示すように、基板2上には、上述した大きさが数μm程度までのパーティクルPが表面に付着している。ここに、数μmから15μm程度の下部DBRミラー3等を含む半導体層13をエピタキシャル成長させた場合に、半導体層13はパーティクルPを埋め込むようにして成長する。ところが、その後、エピタキシャル成長中や成長終了後の降温時に、パーティクルPと半導体層13との熱膨張係数差により半導体層13に局所歪みが生じ、パーティクルPを起点として、線状転位DLが半導体層13の面内に形成される。ここで、転位の形成速度(転位速度)は<011>方向よりも<01−1>方向の方が速いため、<01−1>方向に配向する転位がより多く発生すると考えられる。
【0039】
また、図4は、上述した実験において、<01−1>方向と<011>方向とについての、基板面内のパーティクル密度と3インチ基板面内の線状転位の総数との関係を示す図である。なお、パーティクル密度については、製造条件等を変えて、故意に変化させている。図4に示すように、パーティクル密度が1000cm−2以上の、非常に高い欠陥密度の場合には、<01−1>方向だけでなく、<011>方向にも多数の線状の転位が見られ、クロスハッチ状の線状転位の集合状態が観察された。ところがパーティクル密度を減少させると、<01−1>方向と<011>方向に異方性が生じ、1000cm-2以下のパーティクル密度では、<011>方向の線状転位はほぼ0本となり、<01−1>方向のみとなった。
【0040】
本発明者らは、上記のようにして得られた知見にもとづき、面発光レーザ素子100の配列方向Ar1を、<011>方向に対して角度をなすように配列すれば、<01−1>方向に配向する線状転位によるアレイ素子1000の不良が低減され、アレイ素子1000の製造歩留まりが高くなることに想到し、本発明を完成させたものである。以下、これについてさらに説明する。
【0041】
図5は、本実施の形態1において、基板2上に多数のアレイ素子1000が形成される状態を模式的に示す図である。なお、符号基2aは、OFである。図5に示すように、<01−1>方向に配向する線状転位DLが複数の面発光レーザ素子のメサポストM1を貫通し、これらの素子を不良としているとする。このとき、面発光レーザ素子としての不良数をAとし、アレイ素子1000における面発光レーザの配列数をN(=10)とすると、図5からも明らかなように、不良となるアレイ素子1000の数はA/Nとなる。その理由は、不良となっているアレイ素子1000においては、これに含まれる面発光レーザ素子の全てが不良であるからである。
【0042】
一方、図6は、多数のアレイ素子2000が、基板2上に形成される状態を模式的に示す図である。なお、このアレイ素子2000は、図1、2に示すアレイ素子1000と同様の構造を有するが、その中の面発光レーザ素子の配列方向Ar2が、<011>方向である点が異なっている。また、図5と同様に、<01−1>方向の線状転位DLが複数の面発光レーザ素子のメサポストM1を貫通し、これらの素子を不良としているとする。このとき、面発光レーザ素子としての不良数をAとし、アレイ素子2000における面発光レーザ素子の配列数をN(=10)とすると、図6からも明らかなように、不良となるアレイ素子1000の数はAとなる。その理由は、不良となっている面発光レーザ素子は、全て異なるアレイ素子2000に属しているので、面発光レーザ素子の不良数がアレイ素子2000の不良数と等しくなるからである。
【0043】
上記の図5、6を用いた説明から明らかなように、上記の実施の形態1に係る製造方法によれば、線状転位によって不良となってしまう面発光レーザ素子が属するアレイ素子の数を低減することができるので、アレイ素子を製造歩留まり高く製造でき、製造されたアレイ素子は、線状転位の影響が低減され、信頼性が高く、さらには低コストなものとなる。
【0044】
(実施例、比較例)
本発明の実施例として、図1、2に示す構造を有するアレイ素子を製造するために、上記実施の形態1に係る製造方法を行なった。なお、単一の面発光レーザ素子の素子、素子間のジオメトリについては、メサポストの直径を30μmとした。また、素子間隔、すなわちメサポストの間隔を、配列方向と幅方向においてそれぞれ250μmとした。そして、素子分離していない状態でアレイにする前の全素子の動作をテストしたところ、単一の面発光レーザ素子について、全素子数72000素子に対して、270素子が、要求性能を満たせない不良素子であった。つまり、単一の面発光レーザ素子としての製造歩留まりは99.6%であった。
【0045】
つぎに、この各素子のアドレスを考慮した上で、この基板から素子分離して10chのアレイ素子を製造する場合に、その製造歩留まりを見積もったところ、全7000アレイ素子に対し、不良素子を含む不良アレイ素子は27素子であり、製造歩留まりは99.6%と高い値に維持されることが確認された。なお、不良素子の配列を解析した結果、同一直線状に並んでおり、不良アレイ素子内の面発光レーザ素子すべてが、不良素子であった。
【0046】
一方、比較として、図1、2に示す構造を有するが、面発光レーザ素子の配列方向を<011>方向としたアレイ素子を製造するために、上記実施の形態1とほぼ同様の製造方法を行なった。なお、単一の面発光レーザ素子の素子、素子間のジオメトリについては、実施例の場合と同様にした。そして、素子分離していない状態でアレイにする前の全素子の動作をテストしたところ、単一の面発光レーザ素子について、全素子数72000素子に対して、270素子が、要求性能を満たせない不良素子であった。つまり、単一の面発光レーザ素子としての製造歩留まりは、実施例と同様に99.6%であった。
【0047】
つぎに、この各素子のアドレスを考慮した上で、この基板から素子分離して10chのアレイ素子を製造する場合に、その製造歩留まりを見積もったところ、全7000アレイ素子に対し、不良素子を含む不良アレイ素子は261素子であり、製造歩留まりは96.2%と大きく低下した。
【0048】
なお、比較例において、コンタクト層までを成長させたエピタキシャル基板を、ノマルスキー顕微鏡で観察したところ、Asクラスターを起源とするパーティクルと、Gaドロップレットとみられるパーティクルが、合わせて25cm-2の密度で基板面内にランダムに存在した。また、パーティクルを起点とした<01−1>方向に配向する線状転位が基板面内で5本見つかった。
【0049】
そして、比較例における不良の原因を解析してみた結果、上記の顕微鏡観察で発見された5本の線状欠陥のうち、1本が基板上の一列のメサポスト全てを横断しており、更に各メサポストの発光部分を通過しており、それらの素子は動作テスト中に急速に劣化し、その結果発光特性が不十分になっていたことが分かった。さらに、それらの一連の素子から任意の二つを抜き出して平面TEM(透過型電子顕微鏡)像を観察したところ、直線状の転位と、そこから派生する転位ループが発見された。この転位ループは、850nm帯の面発光レーザにおいて報告されているダークライン欠陥と同様であった。さらに、この二つの素子について、発光部分の活性層近傍の断面TEM像を観察したところ、下部DBRミラーから(111)面上と見られる面に平行にすべり転位が見られ、すべり転位が活性層を横切る部分を中心にダークライン欠陥が集中していた。
【0050】
すなわち、上記の素子においては、キャリアが再結合する活性層を、すべり転位が横切ったため、すべり転位を起点として、転位の上昇・下降運動を誘発し、転位ループがすべり転位近傍に増殖し、このため、発光効率が、動作テスト中に急速に劣化したものと考えられる。
【0051】
ただし、転位の増殖速度については、半導体の材料系や波長帯、デバイス構造のみならず、転位がメサポストを横切る場所と発光部分との位置関係などが異なる場合は、その速度が上記の場合と異なることが推測されるため、必ずしも初期測定中に不良が現れるとは限らず、ユーザが使用中に故障するなどの信頼性の問題を誘発する可能性もある。したがって、バーンインなどによる適切なスクリーニング処置が必要となるのは言うまでもない。
【0052】
なお、上記のアレイ素子における製造歩留まりの低下は、アレイ素子内の10個の面発光レーザ素子のうち1素子だけが線状転位と重なって不良となったことが原因である。つまり、同一アレイ素子内の他の9素子は特性を満足するものであったが、アレイ素子としては、通常その中に1素子でも不良素子があると、そのアレイ素子は使用することが出来ないため、不良品となる。
【0053】
また、ここで、不良素子とは、要求性能を満たさない素子を意味する。その要求性能とは、しきい値、光出力、微分量子効率、一定光出力を得るための電流や電圧、一定電流や電圧での光出力、微分抵抗、高速動作時の応答特性など多岐にわたる。ところがこれらの要求性能を満たさないことの物理的要因については、主に一つの要因、すなわち、すべり転位がメサポスト内の活性層を横切ったために、ダークライン欠陥などが原因である非発光再結合の割合が、すべり転位のない正常素子と比べて高くなり、内部量子効率が低下することに帰着すると考えられる。
【0054】
(角度依存性)
なお、上記実施の形態1では、アレイ素子1000における面発光レーザ素子100の配列方向Ar1を、結晶方向の<011>方向に対してπ/2radの角度をなし、ほぼ<01−1>方向に平行になるようにしているが、本発明はこれに限定されない。以下では、面発光レーザ素子の配列方向と<011>方向との角度と、アレイ素子の不良数との関係について説明する。
【0055】
図7は、アレイ素子における面発光レーザの配列方向と<011>方向との角度の規定について説明する図である。以下では、OF2aを有する(100)面基板2上に、図1、2に示すアレイ素子1000と同様の構造を有するが、その配列方向Ar3が、<011>方向に対して角度θ1をなすようなアレイ素子3000について、角度を変化させたときの不良数(不良アレイ数)の変化について検討する。なお、符号DLは<01−1>方向に配向している線状転位を示している。また、基板2上の隣接するアレイ素子3000間またはアレイ素子3000内において、面発光レーザ素子間隔は、配列方向とこれに垂直な幅方向において同一とする。なお、幅方向の素子間隔は、アレイ素子3000の幅とほぼ等しい。ただし、実際に基板2上のアレイ素子3000を素子分離する際には、上述したように、ダイシングやスクライビングを用いる。そのため、各アレイ素子3000間には、10〜100μm程度(通常は20〜50μm)の「切りしろ」を設けるのが通常である。したがって、幅方向の素子間隔と、アレイ素子3000の幅との間には、この「切りしろ」程度の差が存在している。
【0056】
図8は、角度θ1(ラジアン単位)と不良アレイ数との関係を示した図である。なお、図8において、Aは、上述したように面発光レーザ素子としての不良数であり、Nは面発光レーザの配列数である。図8に示すように、角度θ1が0の場合は、配列方向Ar3が<011>方向になる。したがって、不良アレイ数は、図6の場合と同様にAである。つぎに、θ1をゼロから増加させていくと、不良アレイ数は徐々に減少していき、θ1=π/4のときに不良アレイ数はA/√2となる。また、概ねθ1=π/4から急激に不良アレイ数が減少し、θ1=π/2のときに、配列方向Ar3が<01−1>方向になる。したがって、不良アレイ数は、図5に示す実施の形態1の場合と同様にA/Nで最小になる。
【0057】
図8に示すように、本発明において、面発光レーザ素子間隔が配列方向と幅方向において同一の場合は、アレイ素子における面発光レーザ素子の配列方向は、<011>方向に対してπ/2radに限られず、0radより大きければよく、π/4rad以上が好ましい。
【0058】
つぎに、面発光レーザ素子間隔が配列方向と幅方向とで異なる場合について説明する。図9は、アレイ素子における面発光レーザの配列方向と<011>方向との角度の規定について説明する図である。以下では、OF2aを有する(100)面基板2上に、図2に示すアレイ素子1000と同様の断面構造を有するが、面発光レーザ素子間隔が配列方向と幅方向において異なり、その配列方向Ar4が、<011>方向に対して角度θ2をなすようなアレイ素子4000について、角度を変化させたときの不良数(不良アレイ数)の変化について検討する。なお、面発光レーザ素子間隔すなわちメサポストM2の間隔は、配列方向Ar4においてはaであり、幅方向においてはbであるとする。なお、幅方向のメサポストM2の間隔は、アレイ素子4000の幅とほぼ等しいが、上述したように「切りしろ」程度の差は存在する。また、図9では、線状転位DLがアレイ素子4000aに含まれる面発光レーザ素子のメサポストM2aを横断しており、そのためアレイ素子4000aは不良となっている。
【0059】
図10は、角度θ2(ラジアン単位)と不良アレイ数との関係を示した図である。なお、図10において、Aは、上述したように面発光レーザ素子としての不良数であり、Nは面発光レーザの配列数である。図10に示すように、角度θ2が0の場合は、不良アレイ数はAである。つぎに、θ2をゼロから増加させていくと、不良アレイ数は徐々に減少していき、θ2=α=tan-1(a/b)のときに不良アレイ数はA/cosαとなる。また、概ねθ2=αから急激に不良アレイ数が減少し、θ2=π/2のときにA/Nで最小になる。
【0060】
図10に示すように、本発明において、面発光レーザ素子間隔が配列方向においてaであり、幅方向においてbの場合は、アレイ素子における面発光レーザ素子の配列方向は、0radより大きければよく、α=tan-1(a/b)以上が好ましい。
【0061】
なお、図4に示すように、基板面内の平均パーティクル密度については、1000cm-2以下とすれば、<01−1>方向に配向する線状転位の割合がほとんどとなり、本発明の効果が特に顕著になるので好ましいが、1000cm-2より大きくても、線状転位については<011>方向に配向するものよりも<01−1>方向に配向するもののほうが多いので、本発明の効果を奏するものとなる。
【0062】
また、上記実施の形態1では、基板2は主表面として(100)面を有するものであるが、主表面が(100)面ジャストであるものに限られない。たとえば(100)面から±10度程度傾斜させた主表面を有する基板を用いた場合でも、実質的には(100)基板と同様に考えられ、<01−1>方向に配向する線状転位が発生するので、本発明の効果を奏するものとなる。
【0063】
また、上記実施の形態1では、GaAs系半導体材料を用いているが、InP系などの、他のIII−V族半導体材料を用いた場合でも、同様に<01−1>方向に配向する配向の線状転位が発生するので、本発明の効果を奏するものとなる。
【0064】
また、上記実施の形態1では、アレイ素子が面発光レーザアレイ素子であるが、活性領域を一部に有するアレイ素子であれば、本発明の効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0065】
1 n側電極
2 基板
2a OF
3 下部DBRミラー
4 下部クラッド層
5 活性層
6 上部クラッド層
7 上部DBRミラー
8 コンタクト層
9 酸化狭窄層
9a 電流狭窄領域
9b 電流注入領域
10 p側電極
11 ポリイミド層
12 p側電極パッド
13 半導体層
100 面発光レーザ素子
1000〜4000、4000a アレイ素子
Ar1〜Ar4 配列方向
D1、D2 面方位
DL 線状転位
F1 V族元素の面
F2 III族元素の面
M1、M2、M2a メサポスト
P パーティクル
W 基板
W1 OF
W2 IF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族半導体材料からなる一次元アレイ素子の製造方法であって、
エピタキシャル成長を用いて、主表面として(100)面を有する基板の該主表面上に、素子領域中の一部に活性領域を有する単一素子を<011>方向に対してゼロよりも大きい角度をなす配列方向に複数配列して構成した一次元アレイ素子を複数形成し、該形成した一次元アレイ素子を素子分離することを特徴とする一次元アレイ素子の製造方法。
【請求項2】
前記単一素子の素子間隔を前記配列方向においてaとし、前記配列方向に垂直な幅方向においてbとすると、前記配列方向のなす角度を、tan-1(a/b)以上にすることを特徴とする請求項1に記載の一次元アレイ素子の製造方法。
【請求項3】
前記配列方向を、<01−1>方向にほぼ平行にすることを特徴とする請求項2に記載の一次元アレイ素子の製造方法。
【請求項4】
前記エピタキシャル成長終了後の前記基板面内の平均パーティクル密度を1000cm-2以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の一次元アレイ素子の製造方法。
【請求項5】
前記単一素子を垂直共振器型面発光レーザ素子とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の一次元アレイ素子の製造方法。
【請求項6】
III−V族半導体材料からなる一次元アレイ素子であって、
主表面として(100)面を有する基板の該主表面上に、<011>方向に対してゼロよりも大きい角度をなす配列方向に配列した、素子領域中の一部に活性領域を有する複数の単一素子を備えることを特徴とする一次元アレイ素子。
【請求項7】
前記単一素子の素子間隔を配列方向においてaとし、前記配列方向に垂直な該一次元アレイ素子の幅をbとすると、前記配列方向のなす角度は、tan-1(a/b)以上であることを特徴とする請求項6に記載の一次元アレイ素子。
【請求項8】
前記配列方向は、<01−1>方向にほぼ平行であることを特徴とする請求項7に記載の一次元アレイ素子。
【請求項9】
前記基板面内の平均パーティクル密度が1000cm-2以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一つに記載の一次元アレイ素子。
【請求項10】
前記単一素子が垂直共振器型面発光レーザ素子であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の一次元アレイ素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−232502(P2010−232502A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79662(P2009−79662)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】