説明

一液型エポキシ樹脂組成物及びそれを用いた接着方法

【課題】貯蔵安定性があり、また、柔軟性を有する硬化物を形成することができるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ当量が400以上である多官能直鎖エポキシ樹脂、
融点が10℃以上である四塩基酸無水物、及び、
有機金属化合物、
を含む一液型エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貯蔵安定性を有する一液型エポキシ樹脂組成物、エポキシ接着剤組成物、それを用いて接着した物品及びそれを用いた接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、エポキシ樹脂組成物は、接着剤、シール材などとして一般に利用され、ガラス転移温度(Tg)を高めること、熱膨張係数(CTE)を低減することなどによって技術的発展を遂げてきた。しかし、電気電子の分野において、モータマグネットの接着、トランス用フェライトの固定においては、被着体は薄く、小さくなってきており、通常のエポキシ樹脂組成物からなる接着剤では被着体の割れの問題が挙がってきた。最近、従来のエポキシ接着剤の技術的要求とは異なる、より柔軟性のある接着剤が求められている。その代表的な要求特性は低Tg及び高い伸び率であり、トランス用途ではこれらの要求に加えて、低ハロゲン化が求められている。
【0003】
このような特性を持つ接着剤として、シリコーン変性配合物に代表される湿気硬化性接着剤や付加硬化型のシリコーン接着剤が挙げられる。また、特開2007−106852号公報(特許文献1)には、エポキシ基を有するビスフェノール−ポリシロキサン共重合体及び熱潜在性硬化剤などを含む加熱硬化性組成物が記載されており、このような組成物は柔軟性を有することが記載されている。
【0004】
シリコーンを含有しない重合性樹脂組成物として、特開平7−33837号公報(引用文献2)には、分子末端及び/又は側鎖に重合可能なエチレン系不飽和二重結合を有するポリブタジエン系樹脂と、光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂組成物が記載されている。
【0005】
米国特許第6,346,330号明細書(特許文献3)にはフォーム・イン・プレイス(FIP)ガスケットに使用される、柔軟性に優れたエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−106852号公報
【特許文献2】特開平7−33837号公報
【特許文献3】米国特許第6,346,330号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冷蔵保管(たとえば、5〜10℃での保管)を可能とするように貯蔵安定性が向上されており、また、柔軟性を有する硬化物を形成することができるエポキシ樹脂組成物が求められている。本開示はこのような特性を備えたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、1つの態様によると、
エポキシ当量が400以上である多官能直鎖エポキシ樹脂、
融点が10℃以上である四塩基酸無水物、及び、
有機金属化合物、
を含む一液型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0009】
エポキシ当量が400以上である多官能直鎖エポキシ樹脂(以下、単に「多官能直鎖エポキシ樹脂」とも呼ぶ)は直鎖状の炭化水素鎖を主鎖に有する、2個以上のエポキシ環を有する化合物である。多官能直鎖エポキシ樹脂は二重結合や三重結合などの炭素−炭素不飽和結合を有する重合可能な炭化水素化合物に由来する単位を主鎖とし、2個以上のエポキシ環を有する。具体的には、直鎖状不飽和炭化水素鎖の鎖内の二重結合をエポキシ化することで得ることができる。二重結合のエポキシ化は、通常、過酸、たとえば、過酢酸、過酸化水素などの過酸化物により行われ、一般的なエピクロロヒドリンを用いる製法とは異なるため、樹脂中の塩素含有量を少なくすることができる。多官能直鎖エポキシ樹脂は、たとえば、ブタジエン又はイソプレンなどのジエンのホモポリマー又はジエンとエチレンなどのアルケンとのコポリマー中の鎖内の二重結合をエポキシ化したものである。多官能直鎖エポキシ樹脂は直鎖状の炭化水素鎖を有することで、得られる硬化物に柔軟性を付与する。多官能直鎖エポキシ樹脂はエポキシ当量が400以上、450以上又は500以上である。このような比較的に大きいエポキシ当量では、主鎖を構成する炭化水素鎖が長鎖になり、硬化物がエラストマー性を示すようになるからである。多官能エポキシ樹脂は、また、たとえば、エポキシ当量が2000以下、1500以下、800以下又は650以下であることができる。エポキシ当量が大きすぎる場合には、架橋密度が小さくなり、耐熱性が低くなったり、熱膨張係数が高くなることがある。なお、「エポキシ当量」は1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq)であり、JIS K7237によって測定される。
【0010】
有用な多官能直鎖エポキシ樹脂として、L207(商品名)(クラレ社から入手可能)を挙げることができる。L207はブタジエン/イソプレンポリマーを部分的に水素添加し、残余の二重結合を過酸によってエポキシ化したポリマーであって、ヒドロキル末端基を有するものであり、エポキシ当量は590である。
【0011】
エポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂のための硬化剤として、融点が10℃以上である四塩基酸無水物を含む。酸無水物硬化剤は、10℃以上の温度において液体である従来の酸無水物硬化剤とは異なり、10℃以上の温度において固体であることによって、一液型エポキシ樹脂組成物であっても、低温での多官能直鎖エポキシ樹脂との反応を抑制し、貯蔵安定性を向上させることができる。また、酸無水物を四塩基酸無水物とすることで、一般的な二塩基性酸無水物と比較して、硬化物の架橋密度を上げることができる。酸無水物は融点が10℃以上であり、たとえば、20℃以上、40℃以上である。
【0012】
硬化剤として使用可能な酸無水物は、たとえば、下記式のメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物(5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物)(B−4400)(融点:165℃)
【0013】
【化1】

【0014】
下記式のエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(TMEG−600)(融点:170℃)
【0015】
【化2】

【0016】
下記式のグリセリンビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート(融点:65〜85℃)
【0017】
【化3】

【0018】
下記式の1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン(融点198℃以上)
【0019】
【化4】

【0020】
下記式の3,3’,4,4’−ジフェニルスルホランテトラカルボン酸二無水物(融点:287℃以上)
【0021】
【化5】

【0022】
及び下記式の1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物(融点:260℃以上)
【0023】
【化6】

【0024】
が挙げられる。十分な硬化のために、酸無水物硬化剤は、通常、多官能直鎖エポキシ樹脂100質量部に対して10〜50質量部の量でエポキシ樹脂組成物中に含まれることができる。
なお、「酸無水物の融点」はJIS K0064に準拠して測定されたものである。
【0025】
エポキシ樹脂組成物は、四塩基酸無水物硬化剤に加えて、この硬化剤による硬化を促進するための硬化促進剤を含む。硬化促進剤は有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物などの、ルイス酸を有する有機金属化合物である。有機金属化合物としては、具体的には、ステアリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナートなどの有機亜鉛化合物、アルミニウムアセチルアセトナートなどの有機アルミニウム化合物を用いることができる。有機金属化合物の量は、通常、多官能直鎖エポキシ樹脂100質量部に対して0.5〜10質量部の量でエポキシ樹脂組成物中に含まれることができる。
【0026】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、反応性希釈剤を含んでよい。反応性希釈剤はエポキシ樹脂組成物の粘度を低下させるために用いられ、通常、分子中に1個又は2個のエポキシ基を含む低粘度の単官能もしくは二官能エポキシ樹脂又はオキセタン樹脂を用いる。具体的には、長鎖脂肪酸の二量体であるダイマー酸の長鎖アルキル基の末端をエポキシ化したエポキシ化樹脂、たとえば、ダイマー酸ジグリシジルエステル、長鎖アルキル基を有する単官能エポキシ樹脂又はオキセタン樹脂、或いは、エポキシ化ポリブタジエンが挙げられる。ダイマー酸ジグリシジルエステルの市販の例としてはYD−171(商品名)(エポキシ当量=390〜470)(東都化成株式会社より入手可能)が挙げられる。また、長鎖アルキル基を有する単官能エポキシ樹脂の市販の例としては、vikolox 12(商品名)(北村化学産業株式会社より入手可能)及びDY-A(商品名)(ハンツマンジャパン株式会社より入手可能)、単官能オキセタン樹脂としてはOXT-212(商品名)(東亞合成株式会社より入手可能)、エポキシ化ポリブタジエンとしてはdenarex R-45EPT(商品名)(グリシジルエーテル末端ポリブタジエン、エポキシ当量=1570)(ナガセケムテックス株式会社より入手可能)が挙げられる。さらに、末端をアルコールに変性したダイマー酸も希釈剤として使用されうる。市販の例としてはPripol 2023(商品名)(ダイマージオール)(クローダジャパンから入手可能)を挙げることができる。希釈剤は、通常、多官能直鎖エポキシ樹脂100質量部に対して100質量部以下の量でエポキシ樹脂組成物中に含まれることができる。
【0027】
エポキシ樹脂組成物は、さらに、エポキシ樹脂組成物の硬化物の凝集力を効果的に向上させ、優れた接着強さ得るために、無機充填材を含んでよい。無機充填材は、たとえば、アルミナ、シリカ、フェライトなどの金属酸化物粒子であり、又は、アルミニウム、銀、ニッケルなどの金属粉である。無機充填材は1マイクロメートル(μm)未満の粒径を有するサブミクロン粒子であることが好ましい。このような微粒子であると、硬化後の初期接着力及び高温時接着力を向上させることができる。一方、無機充填材の粒径は約20ナノメートル(nm)を超えることが好ましい。無機充填材の粒径が小さすぎると、硬化前の組成物の粘度を有意に上昇させてしまうからである。無機充填材の粒径は、たとえば、20nm〜900nmである。市販の有用な無機充填材としては、UFP−30(粒径99nm)及びUFP−80(粒径34nm)(微粉化シリカ、デンカより入手可能)が挙げられる。
【0028】
なお、「無機充填材の粒径」は光散乱法により求められた粒子分布を基にした中位(メジアン)径(d50)を意味する。光散乱法により求められる粒子分布は、流体中に浮遊する微小な粒子に光が当たって生じる散乱現象を基に、乱光量との関係が既知である条件下で散乱の光量とその発生数を計測することで求められる粒径分布であり、或いは、レーザー光の微小な粒子による回折パターンが粒子の大きさにより変化することに基づいて、回折パターンを計測することで求められる粒子分布である。中位(メジアン)径(d50)は、粒子の粒径分布において、ある粒径よりも大きい粒子の個数が全粒子の50%を占めるときの粒径を意味する。
【0029】
無機充填材の量は、エポキシ樹脂組成物の粘度や、エポキシ樹脂組成物から得られる硬化物に要求される物性などに基づいて決定されるべきである。無機充填材の量は、通常、多官能直鎖エポキシ樹脂100質量部に対して80質量部以下の量でエポキシ樹脂組成物中に含まれ、たとえば、多官能エポキシ樹脂100質量部に対して20〜80質量部の量で含まれる。無機充填材の量が少なすぎると、得られる硬化物の接着力向上効果が充分でないことがあり、また、多すぎると、組成物の粘度が高くなりすぎ、塗布が困難になることがある。
【0030】
エポキシ樹脂組成物は、さらに、接着強さを向上させるために、シランカップリング剤を含んでもよい。シランカップリング剤として、エポキシ系、アミノ系、チオール系シランカップリング剤を用いることができるが、組成物の粘度安定性の観点からエポキシ系シランカップリング剤が好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂組成物が高粘度の場合には、組成物製造中の脱泡作業の能率向上のために、鉱物油系の消泡剤を添加してもよい。
【0032】
エポキシ樹脂組成物は融点が10℃以上の四塩基酸無水物を硬化剤として用いているので、一液型エポキシ樹脂組成物であっても、貯蔵安定性が高い。これにより、10℃以上、特に、室温(20℃)での貯蔵寿命を1ヶ月以上、40℃での貯蔵寿命を2週間程度とすることができる。このような組成物は冷蔵保管では1年以上の貯蔵寿命を有する。なお、本明細書中、「貯蔵寿命」は可使時間と同義で用い、初期粘度から2倍の粘度になるまでの時間を意味する。
【0033】
エポキシ樹脂組成物は物品同士の接着のための接着剤組成物、又は、物品間の隙間を埋めるシール材として使用できる。具体的には、エポキシ樹脂組成物を含む組成物は一液型組成物として第一の基材に塗布して、そして硬化前に第二の基材と接合し、組成物を硬化させることで接着剤組成物として使用される。或いは、エポキシ樹脂組成物を含む組成物は物品間の隙間を一液型組成物として充填し、そして組成物を硬化させることでシール材として使用される。組成物の硬化は加熱により行い、たとえば、120℃〜180℃で30〜120分間で硬化を行うことができる。
【0034】
本開示は、1つの態様によると、本開示のエポキシ樹脂組成物を含むエポキシ接着剤組成物の硬化物を介して脆性材料を被着体に対して接着した物品を提供する。ここで、脆性材料としては、たとえば、焼結体が挙げられ、被着体としては、たとえば、金属部材又は焼結体が挙げられる。なお、「脆性材料」とはJIS R3206の試験法で損傷(割れ、ひび割れ)を生じる材料である。
本開示は、また、1つの態様によると、脆性材料又は被着体に対して本開示のエポキシ樹脂組成物を含むエポキシ接着剤組成物を塗布し、脆性材料と被着体とをエポキシ接着剤組成物を介して合わせ、エポキシ接着剤組成物を硬化させる、接着された物品の製造方法を提供する。
【0035】
上述のように、本開示のエポキシ樹脂組成物を含む接着剤組成物は硬化物に可撓性があるので、脆性材料の接着に有利に使用できる。具体的な用途として、上述の接着剤組成物はモータマグネットの固定用接着剤、トランス用フェライトの固定用接着剤に有用である。モータマグネットやトランス用フェライトの接着部は応力がかかり、割れやすいが、本開示のエポキシ樹脂組成物に基づく接着剤は柔軟性があるので、割れを防止できる。また、特に、モータマグネットは120℃程度の高温での使用が想定されるが、組成物中に無機充填材を含ませることで、高温時の接着力も維持できる。
【0036】
上述の接着された物品の製造方法において、脆性材料としては、焼結体、たとえば、ネオジウム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石などの各種マグネット、MnZnフェライトなどの各種トランス用フェライト、あるいは超音波振動子などを挙げることができる。被着体としては、鋼鉄などの金属、あるいは無機金属酸化物などの焼結体が挙げられる。
また、モータマグネットの固定において、焼結体からなるマグネットが脆性材料であり、鋼鉄などの金属からなるロータモータが被着体である。また、トランスのコア、たとえば、EIコアの製作において、E形状のフェライト(焼結体)が脆性材料であり、また、I形状のフェライト(焼結体)が被着体である。
【0037】
さらに、エポキシ樹脂組成物の硬化物はエラストマー性を有するので、振動吸収部材として使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下において、実施例に基づき、本開示の発明をさらに詳細に説明する。本開示の発明は示された実施例に限定されない。
実施例1
多官能直鎖エポキシ樹脂として、L207(商品名)(ブタジエン/イソプレンポリマーを部分的に水素添加し、残余の二重結合を過酸によってエポキシ化したポリマー、エポキシ当量=590、クラレ社から入手可能)100質量部、反応性希釈剤として、YD−171(商品名)(ダイマー酸ジグリシジルエステル、エポキシ当量=390〜470)(東都化成株式会社より入手可能)25質量部、OXT-212(商品名)(単官能オキセタン樹脂、東亞合成株式会社より入手可能)12.5質量部及びPripol2023(商品名)(ダイマージオール、クローダジャパン社より入手可能)25質量部、四塩基酸無水物硬化剤として、B−4400(商品名)(DIC株式会社より入手可能)30質量部、硬化促進剤として、ステアリン酸亜鉛2.5質量部、無機充填材として、UFP−80(粒径34nm)(微粉化シリカ、デンカより入手可能)50質量部、シランカップリング剤として、A−187(商品名)(東レダウコーニング社より入手可能)2.5質量部を混合し、一液型エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0039】
試験内容
1.可使時間測定
得られた一液型エポキシ樹脂組成物の40℃の温度下での粘度(初期粘度)を測定し、その後、40℃に保管後の粘度を測定した。粘度測定はHAKKE社のビスコメータ(VISCOMETER)により、せん断速度200s−1という条件にて行った。
初期粘度は90Pa.sであった。初期粘度から2倍の粘度になるまでの時間を可使時間とし、可使時間は2週間であった。
【0040】
2.硬化物のガラス転移温度(Tg)
得られた一液型エポキシ樹脂組成物を150℃で1時間硬化させた。得られた硬化物のガラス転移温度(Tg)を測定した。Tgの測定は動的粘弾性測定装置において、引っ張りモードで10Hzの歪周波数で歪を加え、昇温速度4℃/分で昇温しながら貯蔵弾性率(G’)/損失弾性率(G”)として定義されるtanδをプロットし、そのピークとなる温度をガラス転移温度(Tg)とした。Tg=10℃であった。
【0041】
3.伸び率
得られた一液型エポキシ樹脂組成物から1mm厚×5cm×5mmの短冊状の硬化物を作成した。硬化条件は150℃で1時間であった。この短冊状の試験片を引っ張り試験機により、50mm/分の引っ張り速度で破断するまで伸張させ、そのときの試験片の伸びを測定した。伸び率=(硬化物破断時のジグの移動距離)/(引っ張り試験機の初期のジグ間距離)×100(%)として求めた。伸び率は170%であった。
【0042】
4.せん断接着強さ試験
2枚のアルミニウム片(2024)(25mm幅×100mm長さ×1.6mm厚み)の間にエポキシ樹脂組成物からなる接着剤を配置し、せん断接着強さを測定した。接着剤の厚さが0.1mmとなるような厚さのマスキングテープを25mm×12.5mmの面積を包囲するように配置し、接着剤を塗布し、事務用クリップで仮固定した後に、150℃で1時間硬化させた。このような接着剤の重ね代25mm×12.5mmで厚さが0.1mmであるサンプルを用いて、引っ張り速度0.5mm/分の引っ張り速度で接着強さを測定した。測定は25℃及び120℃において行った。25℃におけるせん断接着強さは4.8MPaであり、120℃におけるせん断接着強さは2.2MPaであった。
【0043】
5.プレッシャークッカー試験
上記のせん断接着強さ試験について記載したとおりの試験片を、プレッシャー試験機にて、134℃、3気圧、100%相対湿度(RH)の飽和水蒸気圧下で24時間劣化させ、劣化後のせん断接着強さを上記のせん断接着強さ試験に記載のとおりに測定した。試験は25℃において行った。その結果、せん断接着強さは6.3MPaであった。
【0044】
6.全塩素測定
JPCA−ES01(ハロゲンフリー銅張積層基板試験方法)に準拠し、燃焼法により、全塩素の測定を行った。その結果、全塩素は<500ppmであった。
【0045】
7.焼結体への接着力試験
得られた一液型エポキシ樹脂組成物を接着剤組成物として用いて、2cm×2cm×5mmのフェライト焼結体を金属板(鋼板)に接着した。フェライト焼結体に接着剤組成物を塗布し、塗布された面を金属板に適用し、150℃で1時間硬化させた。硬化後に、観察したところ、焼結体はひび割れなどの欠陥を生じず、金属板に強固に接合されていた。
また、比較として、剛直な骨格を持つ通常のヘキシオン社製DGEBAエポキシ(EPON828)に味の素株式会社製硬化剤PN23を20重量部、沈降防止剤として微粉化シリカ A200(日本エアロジル)を2重量部加え、プロペラミキサーでよく攪拌した。このように混練した接着剤組成物を用いて、同様に焼結体を接着したところひび割れが生じた。
このことは、本開示の接着剤組成物が柔軟性を有するため、エポキシ接着剤組成物の硬化後に、硬化物が、薄く、小さい焼結体に応力を与えることがないことによるものと考えられる。
【0046】
実施例2〜8
表1及び2に記載された材料及び組成比でもって実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を作製し、試験した。結果を表2に示す。
実施例1における「7.焼結体への接着力試験」と同様に試験を行ったところ、実施例2〜8においても、ひび割れは生じなかった。
【0047】
比較例1
表1及び2に記載された材料及び組成比でもって実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を作製し、試験した。結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表2の結果から以下のことが確認された。可使時間は酸無水物の種類に依存する。比較例と比較して、実施例では可使時間が長く、2週間であった。これは比較例で使用した酸無水物硬化剤(DDSA)が室温で液体であるのに対して、実施例で使用した酸無水物硬化剤(B−4400及びTMEG−600)が室温で固体であることによるものと考えられる。
【0051】
また、実施例の結果から、得られた硬化物はガラス転移温度(Tg)が低く、エラストマー性を示し、高い伸び率を示す。これにより、低温時における被着体に対する応力を緩和することができ、被着体が焼結体(たとえば、各種マグネットやトランス用フェライト)などの割れやすいものである場合にも、クラックの発生を抑制することができる。また、全塩素が低いので低ハロゲンの要求を満たすことができる。さらに、せん断接着強さについては、十分な接着強さが得られているとともに、粒径が1μm以下のナノ粒径の無機充填材を含有させた実施例1〜5においては120℃での接着強さが高い値に維持されている。さらに、プレッシャークッカー試験の結果から、得られた硬化物の耐久性も確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量が400以上である多官能直鎖エポキシ樹脂、
融点が10℃以上である四塩基酸無水物、及び、
有機金属化合物、
を含む一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記多官能直鎖エポキシ樹脂のエポキシ当量が2000以下である、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記多官能直鎖エポキシ樹脂は炭素−炭素多重結合を有する重合可能な炭化水素化合物に由来する単位を主鎖とし、2個以上のエポキシ環を有する化合物である、請求項1又は2に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記多官能直鎖エポキシ樹脂は直鎖不飽和炭化水素鎖の鎖内の二重結合をエポキシ化したものである、請求項3に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
反応性希釈剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填材をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機充填材の粒径が1μm未満である、請求項6に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記多官能直鎖エポキシ樹脂100質量部に対して、前記四塩基酸無水物を10〜50質量部、前記有機金属化合物を0.5〜10質量部含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含むエポキシ接着剤組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のエポキシ接着剤組成物の硬化物を介して脆性材料を被着体に対して接着した物品。
【請求項11】
脆性材料又は被着体に対して請求項9に記載のエポキシ接着剤組成物を塗布し、前記脆性材料と前記被着体とをエポキシ接着剤組成物を介して合わせ、前記エポキシ接着剤組成物を硬化させる、接着された物品の製造方法。

【公開番号】特開2011−102344(P2011−102344A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257126(P2009−257126)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】