説明

不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体の製造方法及びこれを用いたガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体

【課題】
工業的に優位な不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体の製造方法、およびそれを用いたガスバリア性膜を提供する。
【解決手段】
ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物とを反応系に可溶な酸触媒、もしくは固体酸触媒の存在下に反応させることを特徴とする、少なくとも不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体を含む溶液の製造方法、およびそれを用いたガスバリア性膜であり、その代表的な構成としては、(1)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを反応系に可溶な酸触媒の存在下に反応させ不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を形成させる反応工程、 (2)陰イオン交換樹脂により酸性化合物のうち少なくとも酸触媒を除去するイオン交換工程の2工程からなる、 不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)の製造方法が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の製造方法及びこれを用いたガスバリア性膜に関する。さらに詳しくは、(1)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを反応系に可溶な酸触媒存在下反応させ、次いで陰イオン交換樹脂により酸性化合物のうち少なくとも酸触媒を除去し、その後、必要に応じて不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物により中和する不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液の製造方法、さらには(2)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを固体酸触媒存在下反応させ、 次いで濾過などにより固体酸触媒を除去し、その後、必要に応じて陰イオン交換樹脂により不飽和カルボン酸化合物(イ)を除去する、もしくは不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物により中和する不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液の製造方法、およびこれを用いたガスバリア性膜に関する。
上記方法(1)および(2)で得られた不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液はガスバリアコート材として有用であり、これを用いたガスバリア性膜は高いガスバリア性を有する。
【背景技術】
【0002】
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の製造方法としてはこれまでに主として、例えば[1]有機溶媒中で(メタ)アクリル酸塩化物とポリビニルアルコールとを反応させる方法(特許文献1参照)、[2]有機溶媒中で(メタ)アクリル酸無水物とポリビニルアルコールとを反応させる方法(特許文献2参照)等が報告されている。
上記方法[1]および[2]ではポリビニルアルコールとの反応性を高めるためにエステル化剤として(メタ)アクリル酸の塩化物や無水物を用いている。しかしながら、(メタ)アクリル酸塩化物や無水物は高価であり、工業的入手も容易でない。さらに、精製に有機溶媒を貧溶媒に用いた再沈殿操作を行うため、これらの製造方法は工業的に有利な製造方法とはいえない。
そのため、工業的に安価で入手が容易な不飽和カルボン酸化合物を原料とした不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体の合成もわずかではあるが検討されており、例えば[3]塩酸水溶液中で(メタ)アクリル酸とポリビニルアルコールとを反応させる方法(非特許文献1参照)が知られている。しかしながら、方法[3]では精製に透析を用いているため工業的に有利な製造方法ではない。
また上記方法[3]とは別に、[4]塩酸を酸触媒に用い、ポリビニルアルコールと酢酸、および(メタ)アクリル酸とを反応させる方法(非特許文献2参照)が知られているが、方法[4]では酢酸の添加が必要であり、得られる変性ビニルアルコール系重合体には不飽和カルボン酸化合物の(メタ)アクリル酸だけでなく、飽和カルボン酸化合物の酢酸もビニルアルコール系重合体に導入されてしまう。さらに、精製に有機溶媒を貧溶媒に用いた再沈殿操作を行うため、工業的に有利な製造方法ではない。
よって、これまでのところ不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体の工業的に十分有利な製造方法は知られていない。
さらに、上記方法で得られる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体を利用したガスバリ ア性の膜については、知られていない。
【特許文献1】米国特許5373034号
【特許文献2】独国公開特許3322993号
【非特許文献1】Angewandte Makromolekulare Chemie 179―202頁、113巻、1983年
【非特許文献2】Journal of Polymer SciencesA:Polyme r Chemistry 3603―3611頁、35巻、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液の工業的に十分有利な製造方法は未だ見出されておらず、安価な原料から効率よく該化合物を含む溶液を製造する方法が熱望されていた。本発明の課題は安価な工業原料から効率よく不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液の製造方法を提供し、それにより得られる高ガスバリア製膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討した結果、工業的に安価であり入手が容易な不飽和カルボン酸化合物(イ)を原料とし、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液の工業的に充分有利な製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の第一は(1)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを反応系に可溶な酸触媒の存在下に反応させ不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を形成させる反応工程、(2)陰イオン交換樹脂により酸性化合物のうち少なくとも酸触媒を除去するイオン交換工程の2工程からなる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)、(B)、または(C)の製造方法、さらには上記反応工程、イオン交換工程に次いで、(3)溶液(C)中の不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を形成させる中和工程からなる、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを含む溶液(D)の製造方法であり、本発明の第二は(1)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを固体酸触媒の存在下に反応させ不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を形成させる反応工程、(2)固体酸触媒を濾過などにより除去する濾過工程の2工程からなる、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを含む溶液(C)の製造方法、さらには上記反応工程、濾過工程に次いで、(3)陰イオン交換樹脂により不飽和カルボン酸化合物(イ)を除去するイオン交換工程からなる、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(B)の製造方法、さらには上記反応工程、濾過工程に次いで、(3)溶液(C)中の不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を形成させる中和工程からなる、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを含む溶液(D)の製造方法であり、本発明の第三はこれらの製造方法により得られる、少なくとも不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)、(B)、(C)、または(D)である。
【0005】
また、本発明は、これらの溶液(A)、(B)又は(C)と共に、不飽和カルボン酸化合物多価金 属塩(ハ)からなる溶液からなることを特徴とするガスバリア性膜であり、さらに溶液(D)からなることを特徴とするガスバリア性膜である。
本発明は、また、このようにして得られるガスバリア性膜が、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0 と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0 /A)が0.25未満である。
さらに本発明は、基材層(I)の少なくとも片面に、これらのガスバリア性膜が形成されてなるガスバリア性積層体である。
さらに本発明は、基材若しくは基材層(I)の少なくとも片面に、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を含む溶液(D)を塗工した後、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合体(X)を形成させることを特徴とするガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)、(B)、もしくは不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを含む溶液(C)、もしくは不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを含む溶液(D)を安価な原料から従来の方法に比べて工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
<反応工程>
ビニルアルコール系重合体
本発明の方法の原料であるビニルアルコール系重合体とはビニルアルコールを主体とする重合体で、例えばポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ビニルアルコール系重合体の製造方法に特に制限はないが、一般的には酢酸ビニルを用いて(共)重合を行い、次いで酢酸ビニル(共)重合体のビニルエステル成分を鹸化することにより得られる。ビニルアルコール系重合体の製造時に用いられるビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル、例えばプロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等も使用することができる。また、ビニルアルコール系重合体の製造時におけるビニルエステル成分の鹸化度は通常55%以上であり、好ましくは70%以上であり、より好ましくは90%以上である。
さらに、ビニルアルコール系重合体が共重合体である場合、ビニルエステルと共に共重合できる単量体の例としては、エチレンを始めとし、例えばプロピレン、ブテン、イソブテン、4−メチルペンテン−1、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン類、例えばイタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、もしくはその塩類、その部分または完全エステル類、そのニトリル類、そのアミド類、その酸無水物類、例えばアクリルアミドなどのアクリルアミド類、もしくはそのN−モノアルキルアクリルアミド類、そのN,N−ジアルキルアクリルアミド類、例えばビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物類、例えば2−アクリルアミドプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸類、もしくはその塩類、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミドなどのN−ビニルアミド類、例えば塩化ビニルなどのハロゲン化 ビニル類などが挙げられる。ビニルエステルと共に共重合させる単量体は通常ビニルエステルに対し20モル%以下、好ましくは15モル%以下である。
本発明のビニルアルコール系重合体の重合度に特に制限はないが、通常平均重合度10〜5000のものが用いられる。
【0008】
不飽和カルボン酸化合物(イ)
本発明の方法の原料である不飽和カルボン酸化合物(イ)とは、炭素−炭素二重結合基とカルボキシル基とを同一分子内に持つ化合物であればどのような化合物であってもよく、より具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸などのα、β−不飽和カルボン酸類、例えばビニル酢酸、3−ヘキセン酸、3−ヘキセン二酸などの非共役不飽和カルボン酸類が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸化合物(イ)のうち、α、β−不飽和カルボン酸類の使用は好ましく、また炭素数10以下の不飽和カルボン酸化合物の使用は好ましい。さらにアクリル酸またはメタクリル酸の使用はより好ましい。使用する不飽和カルボン酸化合物(イ)の量としては原料であるビニルアルコール系重合体の水酸基1モルに対して、通常不飽和カルボン酸化合物(イ)の酸性基が0.01ないし100モルの範囲であり、好ましくは0.1ないし50モルの範囲であり、より好ましくは1ないし20モルの範囲である。これら不飽和カルボン酸化合物(イ)は、一種でも二種以上の混合物で使用してもよい。
【0009】
反応系に可溶な酸触媒
本発明における反応系に可溶な酸触媒とは、反応工程における反応系に可溶であればブレンステッド酸でもルイス酸のいずれでもよい。このような酸触媒としては有機酸、無機酸のいずれであってもよく、より具体的には、例えば塩酸、ホウ酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸類、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、クロロ酢酸、グリコール酸、安息香酸、フタル酸などの有機カルボン酸類、例えばメチルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフロロメタンスルホン酸などの有機スルホン酸類、例えばリン酸ジエチル、リン酸フェニルなどの有機リン酸類などを例示することができる。これらの反応系に可溶な酸触媒のうち無機酸類、有機スルホン酸類の使用が好ましく、無機酸類の使用がより好ましい。無機酸類の中でも塩酸の使用がより好ましい。使用する反応系に可溶な酸触媒の量としては原料であるビニルアルコール系重合体の水酸基に対して通常0.01〜100mol%、好ましくは0.1〜50mol%の範囲である。これら酸触媒は、一種でも二種以上の混合物で使用してもよい。
【0010】
固体酸触媒
本発明における固体酸触媒とは、反応工程における反応系に不溶であればブレンステッド酸でもルイス酸のいずれでもよい。このような固体酸触媒としては有機酸、無機酸のいずれであってもよく、より具体的には、例えばスルホン酸型イオン交換樹脂等の陽イオン交換樹脂、例えばシリカ・マグネシア、シリカ・アルミナ、シリカ・チタニア、チタニア・ジルコニア、アルミナ・ボリアなどの2種以上の金属酸化物からなる複合酸化物、例えば酸性白土、モンモリロナイト、カオリンなどの天然の粘土鉱物、例えばけいそう土、シリカゲル、セライト、アルミナ、ジルコニアなどの担体にリン酸または硫酸などを担持させた担持酸、例えばY型ゼオライト、モルデナイト、ZSM−5などの天然または合成ゼオライト、例えばニオブ酸、酸化亜鉛、アルミナ、酸化チタンなどの単元系金属酸化物などを例示することができる。これらの固体酸触媒のうち、陽イオン交換樹脂の使用が好ましい。使用する固体酸触媒の量としては原料であるビニルアルコール系重合体に対して通常0.01〜500重量%、好ましくは0.1〜200重量%の範囲である。これら固体酸触媒は、 一種でも二種以上の混合物で使用してもよい。
【0011】
溶媒
本発明における反応工程は溶媒の非存在下にも実施できるが、好ましくは溶媒の存在下に実施される。用いる場合の溶媒としては、具体的には、水、例えばメタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、例えばn−ヘキサン、n−ペンタンまたはシクロヘキサンなどの脂肪族または脂環族炭化水素類、例えばクロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの脂肪族または芳香族ハロゲン化物、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、例えばジフェニルエーテル、アニソール、1, 2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、例えばアセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、例えば酢酸エチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類、例えば1−メチル−2−ピロリジノンなどのN−アルキルラクタム類、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのN,N−ジアルキルアミド類、例えばジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、例えばスルホランなどのスルホラン類などが挙げられる。これらの溶媒のうち、水、アルコール類、ニトリル類、エーテル類、ケトン類、エステル類、N−アルキルラクタム類、N,N−ジアルキルアミド類、スルホキシド類、スルホラン類などの極性溶媒が好ましく、水がより好ましい。使用する溶媒の量は、通常ビニルアルコール系重合体1重量部に対し、0.1ないし500重量部、好ましくは1ないし200重量部の範囲である。これらの溶媒は、一種でも二種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0012】
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)
本発明の反応工程では、原料であるビニルアルコール系重合体の水酸基と不飽和カルボン酸化合物のカルボキシル基とが縮合反応することによりエステル基が生成される。従って、本発明における不飽和カルボン酸変性とは上記縮合反応によるエステル基の生成を意味する。すなわち本発明の方法により得られる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)は、使用したビニルアルコール系重合体の水酸基の一部が不飽和カルボン酸化合物由来の不飽和カルボキシル基に変換された構造を有している。不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の変性率とは不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)における不飽和カルボン酸化合物の導入率であり、(不飽和カルボン酸ビニル単位のモル数)/(ビニルアルコール単位のモル数+不飽和カルボン酸ビニル単位のモル数)で表される。不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の変性率は使用目的により適宜変え得るが、通常は0.01〜40モル%、好ましくは0.1〜30モル%の範囲である。
【0013】
反応工程の形態
本発明の反応工程は重合禁止剤の非存在下にも実施できるが、重合禁止剤の存在下で実施することは好ましい。不飽和カルボン酸化合物(イ)には安定化剤として通常重合禁止剤が含まれているが、必要であれば反応工程において重合禁止剤をさらに添加してもよい。このような重合禁止剤としては炭素−炭素二重結合の重合反応を阻害する化合物であれば特に制限は無く、例えばヒドロキノン、p−メトキシフェノールなどのフェノール類、例えばフェノチアジンなどのアミン類などを例示することができる。添加する重合禁止剤の量は、反応工程で使用する不飽和カルボン酸化合物に対し0.1ないし50000重量ppm、好ましくは1ないし10000重量ppm、より好ましくは10ないし5000重量ppmの範囲である。
本発明の反応温度は通常0〜200℃の範囲であり、好ましくは20〜100℃の範囲である。反応時間は通常100時間以内であり、好ましくは0.1〜50時間の範囲である。
反応の際の反応雰囲気は大気下、酸素/ 不活性ガス混合ガス雰囲気下、または不活性ガス雰囲気下 いずれでも実施できる。不活性ガスとは反応において不活性なガスであれば特に制限は無いが、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどを例示することができる。酸素/ 不活性ガス混合ガス雰囲気下で反応を実施する際の酸素/ 不活性ガス混合ガス中の酸素濃度は0.01ないし25%の範囲であり、好ましく0.05ないし22%の範囲である。
反応の際の圧力は減圧、常圧または加圧のいずれでも実施できる。
本発明の反応方法としては特に限定されず、回分式、半回分式または連続流通式のいずれでも構わない。
反応工程で得られた反応液はそのままイオン交換工程、もしくは濾過工程に用いることができるが、必要であれば溶媒で希釈した後にイオン交換工程、もしくは濾過工程に用いることもできる。希釈する場合の溶媒としては、具体的には、反応工程で用いる場合の溶媒として例示した化合物、および不飽和カルボン酸化合物(イ)として例示した化合物を挙げることができる。これらの希釈する場合の溶媒のうち、水、不飽和カルボン酸化合物類、アルコール類、ニトリル類、エーテル類、ケトン類、エステル類、N−アルキルラクタム類、N,N−ジアルキルアミド類、スルホキシド類、スルホラン類などの極性溶媒が好ましく、水、または不飽和カルボン酸化合物類がより好ましい。また、希釈する場合の溶媒は反応工程で用いた溶媒または不飽和カルボン酸化合物と同種であることが好ましい。希釈する場合に使用する溶媒の量は、通常ビニルアルコール系重合体1重量部に対し、0.01ないし5000重量部、好ましくは0.1ないし1000重量部の範囲である。これらの希釈する場合に使用する溶媒は、一種でも二種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0014】
<濾過工程>
本発明においては、固体酸触媒を用いた場合の反応工程終了後、濾過や遠心分離などの通常の固液分離の方法により固体酸触媒を除去する。従って、本発明における濾過工程とは、上記記載の通常の固液分離の方法による固体酸触媒の除去を意味する。
【0015】
濾過工程の形態
本発明の濾過工程において、固体酸触媒を除去する際の温度は通常0〜100℃の範囲であり、好ましくは10〜80℃の範囲である。
固体酸触媒を除去する際の所要時間は通常100時間以内であり、好ましくは50時間以内である。
本発明の中和工程において、固体酸触媒を除去する際の圧力は減圧、常圧、または加圧のいずれでも実施できる。
本発明の中和反応の方法としては特に限定されず、回分式、半回分式または連続流通式のいずれでも構わない。
本発明の濾過工程において、固体酸触媒を濾過により除去する場合、必要に応じて、例えばセライト、活性炭、ガラスウールなどの濾過助剤を使用することも可能である。
本発明の濾過工程により得られる溶液が、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体を含む溶液(B)である。
【0016】
<イオン交換工程>
本発明においては、反応系に可溶な酸触媒を用いた場合の反応工程で得られた反応液中の酸性化合物のうち少なくとも酸触媒、もしくは固体酸触媒を用いた場合の濾過工程で得られた濾液中の不飽和カルボン酸化合物(イ)を、陰イオン交換樹脂を用いて除去する。本発明のイオン交換工程における酸性化合物とは反応工程で用いた反応系に可溶な酸触媒、および不飽和カルボン酸化合物である。
【0017】
陰イオン交換樹脂
本発明において使用する陰イオン交換樹脂とは、反応工程で用いる反応系に可溶な酸触媒として例示した化合物、不飽和カルボン酸化合物(イ)として例示した化合物、例えばカルボン酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオンのような陰イオン類などを除去できる樹脂であれば特に制限がなく、強塩基性陰イオン交換樹脂であっても弱塩基性イオン交換樹脂であってもよく、ゲル型であってもポーラス型であってもよい。また、イオン交換工程において酸性化合物を除去する際に使用する陰イオン交換樹脂はイオン型がOH型のものを使用する。使用する陰イオン交換樹脂の量としては、除去しようとする酸性化合物1モルに対し陰イオン交換樹脂の体積容量が0.01ないし100L、好ましくは0.1ないし50Lの範囲である。これら陰イオン交換樹脂は、一種でも二種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
イオン交換工程の形態
イオン交換工程で処理する溶液はそのままイオン交換工程に用いることができるが、必要に応じて不溶の触媒成分などを濾過などの前処理を行った後にイオン交換工程に用いても構わない。
反応系に可溶な酸触媒を用いた場合のイオン交換工程においては、陰イオン交換樹脂により酸性化合物のうち少なくとも酸触媒を除去する。除去する酸性化合物としては不飽和カルボン酸化合物(イ)と酸触媒両方の場合と、酸触媒のみの場合とがある。陰イオン交換樹脂で酸触媒のみを除去する場合、同時に一部の不飽和カルボン酸化合物(イ)が除去されても構わない。イオン交換工程において酸性化合物を除去した際、酸触媒は完全に除去されている必要はなく、溶液(A)、(B)、または(C)中に残留している、例えば塩化物イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオンなど酸触媒由来の陰イオンの量は、通常5000重量ppm以下であり、好ましくは500重量ppm以下であり、より好ましくは100重量ppm以下である。
【0019】
反応系に固体酸触媒を用いた場合のイオン交換工程においては、陰イオン交換樹脂により不飽和カルボン酸化合物(イ)を除去する。イオン交換工程において不飽和カルボン酸化合物(イ)を除去した際、不飽和カルボン酸化合物(イ)は完全に除去されている必要はなく、溶液(B)中に残留している、例えばアクリル酸イオン、メタクリル酸イオン、マレイン酸イオンなど不飽和カルボン酸化合物由来の陰イオンの量は、通常15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下である。
本発明のイオン交換工程において、陰イオン交換樹脂で酸性化合物を除去する際の温度は通常0ないし150℃の範囲であり、好ましくは10ないし100℃の範囲である。陰イオン交換樹脂で酸性化合物を除去する際の処理時間は通常100時間以内であり、好ましくは50時間以内である。
陰イオン交換樹脂で酸性化合物を除去する際の圧力は常圧、または加圧のいずれでも実施できる。
本発明のイオン交換工程において、陰イオン交換樹脂で酸性化合物を除去する際の方法としては特に限定されず、回分式、または連続流通式のいずれでも構わないが、連続流通式が好ましい。
反応系に可溶な酸触媒を用いた場合のイオン交換工程により得られる溶液が、本発明の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)である。反応系に可溶な酸触媒を用いた場合のイオン交換工程において酸触媒と不飽和カルボン酸化合物(イ)の両方を除去した際、もしくは固体酸触媒を用いた場合のイオン交換工程において不飽和カルボン酸化合物(イ)を除去した際に得られる溶液が、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(B )である。また、反応系に可溶な酸触媒を用いた場合のイオン交換工程において酸触媒を除去した際に得られる溶液が、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを含む溶液(C)である。
【0020】
<中和工程>
本発明においては溶液(C)中の不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和することで不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)としてもよい。
【0021】
多価金属化合物
本発明において使用する多価金属化合物とは多価金属原子を含む化合物であれば特に制限はない。多価金属原子とは周期表の第2ないし第13族に属する金属原子、もしくは第14族の第5周期および第6周期に属する金属原子であり、例えばMg、Ca、Sr、Baなどの第2族に属する金属原子、例えばSc、Yなどの第3族に属する金属原子、例えばTi、Zr、Hfなどの第4族に属する金属原子、例えばVなどの第5族に属する金属原子、例えばCr、Mo、Wなどの第6族に属する金属原子、例えばMnなどの第7族に属する金属原子、例えばFe、Ruなどの第8族に属する金属原子、例えばCo、Rhなどの第9族に属する金属原子、例えばNi、Pd、Ptなどの第10族に属する金属原子、例えばCu、Agなどの第11族に属する金属原子、例えばZn、Cd、Hgなどの第12族に属する金属原子、例えばAl、Gaなどの第13族に属する金属原子、第14族第5周期の金属原子であるSn、第14族第6周期の金属原子であるPb等を挙げることができる。その中でもMg、Ca、Zn、Ba、Al、またはTiが多価金属原子であることが好ましく、Znが多価金属原子であることがより好ましい。多価金属化合物である多価金属原子を含む化合物とは、具体的には、例えばマグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムなどの金属類、例えば酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛などの酸化物類、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛などの水酸化物類、例えば塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などのハロゲン化物類、例えばジメトキシカルシウム、ジメトキシ亜鉛、トリメトキシアルミニウムなどのアルコキシ塩類、例えば酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸錫などのカルボン酸塩類、例えば炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛などの炭酸塩類、例えばリン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩類、例えば亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウムなどの亜リン酸塩類、例えばジ亜リン酸マグネシウム、ジ亜リン酸カルシウムなどの次亜リン酸塩類、例えば硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛などの硫酸塩類、例えば亜硫酸マグネシウム、亜硫酸カルシウムなどの亜硫酸塩類などを挙げることができる。その中でも酸化物類、水酸化物類、アルコキシ塩類、カルボン酸塩類、炭酸塩類の使用が好ましく、酸化物類、水酸化物類、炭酸塩類の使用がより好ましい。中和工程において使用する多価金属化合物の量は、溶液(C)中に含まれる不飽和カルボン酸化合物(イ)の酸性基1モルに対し、使用する多価金属化合物の多価金属原子が0.1ないし10モルの範囲であり、好ましくは0.2ないし5モルの範囲である。これらの多価金属化合物は、一種でも二種以上の混合物として使用してもよい。
【0022】
中和工程の形態
本発明の中和工程において、不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和する際の温度は通常0ないし100℃の範囲であり、好ましくは10ないし80℃の範囲である。不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和する際の処理時間は通常100時間以内であり、好ましくは0.1ないし50時間の範囲である。
本発明の中和工程において、不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和する際の圧力 は減圧、常圧、または加圧のいずれでも実施できる。
本発明の中和反応の方法としては特に限定されず、回分式、半回分式または連続流通式のいずれでも構わない。
中和工程終了後、場合によっては未反応の固体の多価金属化合物を、濾過や遠心分離などの通常の固液分離の方法により除去することも可能である。この際、必要に応じて、例えばセライト、活性炭、ガラスウールなどの濾過助剤を使用することも可能である。
本発明の中和工程により得られる溶液が、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを含む溶液(D)である。
【0023】
これらの溶液(A)、(B)又は(C)と共に、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)からなる溶液からはガスバリア性膜を製造することができる。また溶液(D)は直接それからガスバリア性膜を製造することができる。
この場合、溶液中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の含有量が50重量%以下であり、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を50重量%以上の溶液を用いることが望ましい。
得られるガスバリア性膜は、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0 と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0 /A)が0.25未満である優れたガスバリア性を有する膜である。
用いられる不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の多価金属は、Mg、Ca、Zn、Ba及びAlから選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
さらに、本発明は基材層(I)の少なくとも片面に、ガスバリア性膜が形成されてなるガスバリア性積層体である。
【0024】
ガスバリア性膜
本発明のガスバリア性膜は、上記の溶液(A)、(B)又は(C)である不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と共に不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)からなる溶液、或いは溶液(D)から製造される。また、上記の溶液(D)から製造される。
その際、溶液(A)、(B)又は(C)中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)との比率は、溶液(A)、(B)又は(C)中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)が、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40ないし0.001重量%、とくに好ましくは30ないし0.01重量%の範囲であり、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)が、好ましくは50重量%を越え、より好ましくは60重量%を越え、特に好ましくは70ないし99.9重量%の範囲である(両者で100重量%とする)。
【0025】
また、溶液(D)を用いる場合は、溶液(D)中における、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)との比率が上記の範囲となるように、予め、溶液(D)を調製する際にその比率をコントロールすることが望ましい。また、溶液(D)には、必要に応じて不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を追加配合することにより、上記の比率に調整することが望ましい。
本発明のガスバリア性膜は、好ましくは赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0 と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0 /A)が0.25未満、より好ましくは0.20未満、さらに好ましくは0.15未満の範囲にあるガスバリア性膜である。
本発明のガスバリア性膜は、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含むので、低湿度下でのガスバリア性が改良され、且つ、熱水処理後のガスバリア性(耐熱水性)の低下もなく、膜に靭性(伸び)が付与される。不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の含有量が50重量%を超える場合は、得られる膜のガスバリア性、とくに高湿度下でのガスバリア性(酸素バリア性)が幾分低下する虞がある。一方、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の含有量が少なすぎると低湿度下でのガスバリア性の改良効果が不十分な場合がある。
【0026】
本発明のガスバリア性膜は、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)のカルボン酸基と多価金属とがそれぞれイオン架橋してなるカルボキシレートイオンと遊離のカルボン酸基が存在し、夫々、赤外線スペクトルで、遊離のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸収が1700cm-1付近にあり、カルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸収が1520cm-1付近にある。
本発明に係るガスバリア性膜において、(A0 /A)が0.25未満であるということは、遊離のカルボン酸基が存在しないか、少ないことを示しており、0.25を越える層は、遊離のカルボン酸基の含有量が多く、高湿度下での耐ガスバリア性が改良されない虞があるので、(A0 /A)が0.25未満であることが好ましい。
本発明における1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0 と赤外線吸収スペクトルにおける1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0 /A)は、ガスバリア性膜から1cm×3cmの測定用サンプルを切り出し、その表面[重合体(A)層]の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR法)に得、以下の手順で、先ず、吸光度A0 及び吸光度Aを求めた。
【0027】
1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0 :赤外線吸収スペクトルの1660cm-1と1760cm-1の吸光度とを直線(N)で結び、1660〜1760cm-1間の最大吸光度(1700cm-1付近)から垂直に直線(O)を下ろし、当該直線(O)と直線(N)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度A0 とした。
1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度A:赤外線吸収スペクトルの1480cm-1と1630cm-1の吸光度とを直線(L)で結び、1480〜1630cm-1間の最大吸光度(1520cm-1付近)から垂直に直線(M)を下ろし、当該直線(M)と直線(L)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度Aとした。尚、最大吸光度(1520cm-1付近)は、対イオンの金属種によりピーク位置が変化することがあり、例えば、カルシウムでは1520cm-1付近、亜鉛では1520cm-1付近、マグネシウムでは1540cm-1付近である。
【0028】
次いで、上記方法で求めた吸光度A0 及び吸光度Aから比(A0 /A)を求めた。
なお、本発明のおける赤外線スペクトルの測定(赤外線全反射測定:ATR法)は、日本分光社製FT−IR350装置を用い、KRS−5(Thallium Bromide−Iodide)結晶を装着して、入射角45度、室温、分解能4cm-1、積算回数150回の条件で行った。
本発明のガスバリア性膜の厚さは種々用途により決め得るが、通常は、0.0ないし〜100μm、好ましくは0.05ないし50μm、より好ましくは0.1ないし10μmの範囲にある。
【0029】
本発明のガスバリア性膜には、本発明の目的を損なわない範囲で、前記不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の他に澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、多糖類等の天然系水溶性高分子、メチルセルロース、エチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、変性澱粉等の半合成水溶性高分子、ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等の合成水溶性高分子アクリル酸エステル重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン等の他の高分子量の化合物(重合体)を含んでいてもよい。
【0030】
また、本発明のガスバリア性膜には、本発明の目的を損なわない範囲で、エチレングリコール・ジアクリレート、ジエチレングリコール・ジアクリレート、トリエチレングリコール・ジアクリレート、PEG#200・ジアクリレート、PEG#400・ジアクリレート、PEG#600・ジアクリレート等の多価不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸化合物一価金属塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル化合物、酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物、エチレンなどのオレフィン化合物等、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤等の各種添加剤が含まれていてもよいし、後述の基材との濡れ性、密着性等を改良するために、各種界面活性剤等が含まれていてもよい。
そのため、上記で調製された溶液(A)、(B)又は(C)に、さらには(D)に必要に応じて、上記したような他の成分を配合することも行われる。
【0031】
ガスバリア性積層体
本発明のガスバリア性積層体は、基材層(I)の少なくとも片面に上記の溶液(A)、(B)又は(C)である不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)からなる溶液からガスバリア性膜を形成して製造される。また、基材層(I)の少なくとも片面に溶液(D)から形成されるガスバリア性膜を形成して製造される。
かかるガスバリア性膜を形成(積層)することにより、透明性を有し、高湿度下及び低湿度下でのガスバリア性(酸素バリア性)に優れ、熱水処理後のガスバリア性(耐熱水性)の低下もなく、且つ靭性を有する積層体となる。
また、基材層(I)としてフィルム基材(I−1)を用いたガスバリア性積層体を包装材等に用いる場合、ヒートシール強度が改良されるという特徴を有する。
【0032】
本発明のガスバリア性積層体のその他の態様には、後述の基材層(I)として、基材層(I)の少 なくとも片面に後述の無機化合物蒸着層(II)が形成されてなる基材層がある。かかる無機化合物蒸着層(II)の少なくとも片面上に前記ガスバリア性膜が形成されてなる積層体である。基材層としてかかる無機化合物蒸着層(II)が形成されてなる基材層を用いることにより、防湿性が付与されたガスバリア性積層体とすることができる。
本発明のガスバリア性積層体のその他の態様は、前記ガスバリア性積層体を形成するガスバリア性膜の少なくとも片面上に後述の無機化合物蒸着層(II)が形成されてなるガスバリア性積層体である。ガスバリア性膜上に無機化合物蒸着層(II)を形成することにより、防湿性が付与されたガスバリア性積層体とすることができる。
【0033】
また、基材層(I)にガスバリア性膜を積層する際に、例えば、基材層(I)/ガスバリア性膜/無機化合物蒸着層(II)/ガスバリア性膜/無機化合物蒸着層(II)/ガスバリア性膜と幾重にもガスバリア性膜と無機化合物蒸着層(II)とが積層されていてもよい。
かかる幾重にも積層されたガスバリア性積層体は酸素等のガスあるいは水蒸気等をほぼ完全に遮断できる。
本発明のガスバリア性積層体は、後述の基材層(I)の形状により、また用途に応じ、積層フィルム(シート)、中空容器、カップ、トレー等の種々公知の形状を有する積層体とすることができる。
本発明のガスバリア性積層体の厚さは用途に応じて種々決定され得るが、通常は、基材層(I)の厚さが5ないし1500μm、好ましくは5ないし500μm、より好ましくは9ないし100μm、さらに好ましくは9ないし30μm、無機化合物蒸着層(II)を有する場合は、蒸着層(II)の厚さが15ないし5000Å、好ましくは15ないし2000Å、より好ましくは20ないし1500Å、重合体(X)層からなるガスバリア性膜の厚さが0.01ないし100μm、好ましくは0.05ないし50μm、より好ましくは0.1ないし10μm、ガスバリア性積層体の全体の厚さが5ないし1600μm、好ましくは5ないし550μm、より好ましくは10ないし150μm、さらに好ましくは10ないし40μmの範囲にある。
【0034】
基材層(I)
本発明のガスバリア性積層体を形成する基材層(I)は、通常、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂からなるシートまたはフィルム等のフィルム状物、トレー、カップあるいは中空体等の容器状の形状を有するもの、紙若しくはアルミニウム箔等のフィルム状物、あるいはそれらの複合物からなる。かかる基材層(I)は単層であっても同一あるいは異なる樹脂等の多層体であってもよい。
熱硬化性樹脂としては、種々公知の熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド等を例示することができる。
熱可塑性樹脂としては、種々公知の熱可塑性樹脂、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル・1−ペンテン、ポリブテン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの混合物等を例示することができる。これらのうちでは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等、延伸性、透明性が良好な熱可塑性樹脂が好ましい。
【0035】
また、基材層(I)としてフィルム基材(I−1)を用いる場合は、一軸あるいは二軸延伸されたフィルム基材であってもよい。フィルム基材(I−1)として二軸延伸フィルム基材を用いると、透明性、耐熱性、剛性等に優れた積層体が得られる。
また、基材層(I)の表面に、無機化合物蒸着層(II)が形成されていてもよい。
かかる基材層(I)の表面あるいはガスバリア性膜の表面に蒸着される無機化合物としては、蒸着できる無機化合物であればとくに限定はされないが、具体的には、例えば、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)及び珪素(Si)等の金属あるいはこれら金属の酸化物、窒化物、硫化物、リン化物等が挙げられる。これら無機化合物の中でも、酸化物、とくに酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ(酸化珪素)等の酸化物が透明性に優れるので好ましい。
【0036】
これら無機化合物の蒸着層(II)を基材層(I)表面あるいはガスバリア性膜の表面に形成させる方法としては、化学蒸着(CVD)、低圧CVD及びプラズマCVD等の化学蒸着法、真空蒸着法(反応性真空蒸着)、スパッタリング(反応性スパッタリング)及びイオンプレーティング(反応しイオンプレーティング)等の物理蒸着法(PVD)、低圧プラズマスプレイ及びプラズマスプレイ等のプラズマスプレイ法が例示出来る。
また、基材層(I)の表面にポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニアルコール共重合体、アクリル樹脂、ウレタン系樹脂等がコーティングされていてもよい。
これら基材層(I)は、ガスバリア性膜との接着性を改良するために、その表面を、例えば、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、アンダーコート処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理を行っておいてもよい。
基材若しくは基材層(I)の少なくとも片面に、上記の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を含む溶液(D)を塗工した後、重合体を形成させることによりガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造することができる。
【0037】
ガスバリア性膜及びガスバリア性積層フィルムの製造方法
本発明のガスバリア性膜及びガスバリア性積層体の製造方法(以下、ガスバリア性膜等の製造方法ともいう)としては、基材若しくは基材層(I)の少なくとも片面に、上記の溶液(A)、(B)又は(C)である不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と共に、不飽和カルボン酸多化合物価金属塩(ハ)からなる溶液からガスバリア性膜を形成して、ガスバリア性膜あるいはガスバリア性積層体を製造する方法があり、基材若しくは基材層(I)の少なくとも片面に、溶液(D)からガスバリア性膜を形成して、ガスバリア性膜或いはガスバリア性積層体を製造する方法がある。
特に、上記の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多 価金属塩(ハ)を含む溶液(D)を用いれば、ガスバリア性膜の製造のために、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を、改めて混合して調整する必要がない。なお、場合によっては必要に応じ、濃度調整のため溶液(D)に不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を追加配合することが行われるが、最初から混合することに比べれば、容易な作業である。
【0038】
その際、溶液(A)、(B)又は(C)中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)との比率は、溶液(A)、(B)又は(C)中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)が、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40ないし0.001重量%、とくに好ましくは30ないし0.01重量%の範囲であり、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)が、好ましくは50重量%を越え、より好ましくは60重量%を越え、特に好ましくは70ないし99.9重量%の範囲である(両者で100重量%とする)。
また、溶液(D)を用いる場合は、溶液(D)中における、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)との比率が上記の範囲となるように、予め、溶液(D)を調製する際にその比率をコントロールすることが望ましい。また、溶液(D)には、必要に応じて不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を追加配合することにより、上記の比率に調整することが望ましい。
【0039】
本発明のガスバリア性膜等の製造方法に於いて、基材として前記基材層(I)を用いれば、本発明の少なくとも片面にガスバリア性膜が積層されたガスバリア性積層体が得られる。また、基材として前記基材層(I)若しくは、ガラス、セラミック、金属等の無機物等あるいはその他の材料を用い、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)等を重合して得られる重合体(X)を基材から剥離すれば単層の本発明のガスバリア性膜が得られる。
基材層(I)等の少なくとも片面に、ガスバリア性膜を形成させる方法としては、例えば、上記溶液(A)、(B)又は(C)の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と共に、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを所望の量で水等の溶媒に溶解した後、当該混合物に、必要に応じて前記の他の高分子量化合物、各種添加剤を配合した溶液を塗工する方法がある。さらに溶液(D)に必要に応じて前記の他の高分子量化合物、各種添加剤を配合した溶液を塗工する方法がある。
【0040】
また、基材層(I)等の少なくとも片面に当該溶液を塗工する方法としては、基材層(I)に刷毛、コーター等で溶液を塗布する方法、当該溶液に基材層(I)等を浸漬する方法、当該溶液を基材層(I)等の表面に噴霧する方法等、基材層(I)等の形状により、種々公知の塗工方法を採り得る。
溶液に用いる溶媒は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール若しくはアセトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒が挙げられるが、水が最も好ましい。
基材層(I)等の少なくとも片面に不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の溶液を塗工する方法としては、当該溶液に基材層(I)等を浸漬する方法、当該溶液を基材層(I)等の表面に噴霧する方法等に加え、例えば、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター等種々公知の塗工機を用いて、塗工される。
【0041】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)/又は不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を溶解させる際若しくは不飽和カルボン酸化合物と多価金属化合物とを溶解させる際には、前述した如く、本発明の目的を損なわない範囲で、エチレングリコール・ジアクリレート、ジエチレングリコール・ジアクリレート、トリエチレングリコール・ジアクリレート、PEG#200・ジアクリレート、PEG#400・ジアクリレート、PEG#600・ジアクリレート等の多価不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸化合物一価金属塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル化合物、酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物、エチレンなどのオレフィン化合物等の単量体あるいは低分子量の化合物、澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、多糖類等の天然系水溶性高分子、メチルセルロース、エチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、変性澱粉等の半合成水溶性高分子、ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等の合成水溶性高分子アクリル酸エステル重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン等の高分子量の化合物(重合体)等を添加してもよい。
【0042】
また、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)及び/又は不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を溶解させる際には、本発明の目的を損なわない範囲で、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤等の各種添加剤を添加しておいてもよいし、基材層との濡れ性を改良するために、各種界面活性剤等を添加しておいてもよい。
基材層(I)等の少なくとも片面に形成した(塗工した)不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の溶液(塗工層)を重合させるには、種々公知の方法、具体的には例えば、電離性放射線の照射また加熱等による方法が挙げられる。
【0043】
電離性放射線を使用する場合は、波長領域が0.0001ないし800nmの範囲のエネルギー線であれば特に限定されないが、かかるエネルギー線としては、α線、β線、γ線、X線、可視光線、紫外線、電子線等が上げられる。これらの電離性放射線の中でも、波長領域が400ないし800nmの範囲の可視光線、50ないし400nmの範囲の紫外線および0.01ないし0.002nmの範囲の電子線が、取り扱いが容易で、装置も普及しているので好ましい。
電離性放射線として可視光線および紫外線を用いる場合は、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の溶液に光重合開始剤を添加することが必要となる。光重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、2−ヒドロキシ−2メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;ダロキュアー 1173)、1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー 184)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー819)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー 2959)、α―ヒドロキシケトン、アシルホスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン及び2,4,6−トリメチルベンゾフェノンの混合物(ランベルティ・ケミカル・スペシャルティ社製 商品名;エサキュアー KT046)、エサキュアー KT55(ランベルティー・ケミカル・スペシャルティ)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(ラムソン・ファイア・ケミカル社製 商品名;スピードキュアTPO)等の商品名で製造・販売されているラジカル重合開始剤を挙げることができる。さらに、重合度または重合速度を向上させるため重合促進剤を添加することができ、例えば、N、N- ジメチルアミノ- エチル- (メタ)アクリレート、N- (メタ)アクリロイル- モルフォリン等が挙げられる。
【0044】
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を重合させる際は、溶液が水等の溶媒を含んだ状態で重合させてもよいし、一部乾燥させた後に重合させてもよいが、溶液を塗工後直ぐに重合させた場合は、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)が重合する際に溶媒の蒸発が多いためか、得られる重合体(X)層が白化する場合がある。一方、溶媒(水分)が少なくなるとともに、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)が結晶として析出する場合があり、かかる状態で重合を行うと得られる重合体層の形成が不十分になり、重合体(X)層が白化を起こしたりしてガスバリア性が安定しない虞がある。したがって、塗工した不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を重合させる際には、適度な水分を含んだ状態で重合することが好ましい。
また、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を重合させる際は、電離性放射線を一度に照射して重合させてもよいし、二度以上に分けて、あるいは連続的に照射して重合させてもよい。また、二度以上照射する場合は、例えば、一度目を弱く、二度目以上を強く照射してもよいし、照射強度を同一あるいは連続的に変化させてもよい。
また、得られた重合体をさらに熱処理することも行われる。熱処理は、通常30ないし350℃、好ましくは50ないし300℃、さらに好ましくは100ないし250℃の温度範囲で行うことが望ましく、不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。また、圧力は特に限定されず、加圧下、減圧下、常圧下のいずれでもよい。加熱処理時間は、通常30秒から90分程度であり、中でも1分から70分が好適であり、特に5分から60分が好適である。
【0045】
本発明のガスバリア性積層体は、積層体が積層フィルムであれば、その少なくとも片面に、熱融着層を積層する(貼り合わせる)ことにより、ヒートシール可能な包装用フィルムとして好適な積層フィルム(多層フィルム)が得られる。かかる熱融着層としては、通常熱融着層として公知のエチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチル・ペンテン−1、オクテン−1等のα−オレフィンの単独若しくは共重合体、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリブテン、ポリ4−メチル・ペンテン−1、低結晶性あるいは非晶性のエチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン・ブテン−1ランダム共重合体等のポリオレフィンを単独若しくは2種以上含む組成物、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体あるいはその金属塩、EVAとポリオレフィンとの組成物等から得られる層である。
【0046】
中でも、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン等のエチレン系重合体から得られる熱融着層が低温ヒートシール性、ヒートシール強度に優れるので好ましい。
本発明のガスバリア性積層体には、種々用途に応じて、ガスバリア性積層体のガスバリア性膜面に、あるいはガスバリア性膜が形成されていない面に前記基材層(I)が積層されていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
<実施例1>
(1)反応工程
500mLの丸底四つ口フラスコに攪拌羽、温度計、冷却管、および三方コックを取り付け、フラスコ内を窒素置換した。フラスコ内にアクリル酸162.18g(2.25mol)、脱イオン水80.94g(4.49mol)を加えてスリーワンモーターを使用して攪拌を開始した。ポリビニルアルコール(重合度1000、鹸化度98.5モル%、クラレ製、商品名:PVA110)33.056g(ビニルアルコール単位として0.75mol、以下同様)、p−メトキシフェノール0.1236g(0.996mmol)をフラスコ内に加えた。フラスコ内を2%酸素/98%窒素混合ガスに置換した後、36%塩酸6.041g(0.0597mol)をフラスコ内に加えた。65℃に昇温し、反応を開始した。9時間後、脱イオン水1275gを用いて反応液を希釈することで反応を停止させ、ポリマー液1548.68gを得た。得られたポリマー液中のアクリル酸変性ビニルアルコール系重合体の変性率を1 H―NMRで測定したところ7.5モル%であった。得られたポリマー液中の酸性化合物の濃度を酸中和滴定により測定したところ、1.454mmol/gであった。
【0048】
(2)イオン交換工程
イオン交換カラムにコンディショニング済みのダイヤイオンWA30(三菱化学(株)製)1.5Lを充填し、上記反応工程で得られたポリマー液687.76g(酸性化合物含量、1.00mol)をSV=5で通液させ、アクリル酸変性ビニルアルコール系重合体を含む溶液(B−1)2331.5gを得た。溶液(B−1)中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体の濃度を測定したところ、0.083mmol/gであった。また、酸性化合物の濃度を酸中和滴定により測定したところ、酸性化合物は検出されなかった。
【0049】
<実施例2>
反応工程で36%塩酸を7.592g(0.0750mol)用いた以外は実施例1の反応工程お よびイオン交換工程と同様な操作を行った。得られたポリマー液の1 H−NMR測定を行ったところ、溶液(B−2)中のアクリル酸変性ビニルアルコール系重合体の変性率は8.8%であり、酸中和滴定により酸性化合物は検出されなかった。
【0050】
<実施例3>
反応工程で36%塩酸を9.133g(0.0902mol)用いた以外は実施例1の反応工程およびイオン交換工程と同様な操作を行った。得られたポリマー液の1 H−NMR測定を行ったところ、溶液(B−3)中のアクリル酸変性ビニルアルコール系重合体の変性率は10.8%であり、酸中和滴定により酸性化合物は検出されなかった。
【0051】
<実施例4>
イオン交換カラムにコンディショニング済みのダイヤイオンWA30(三菱化学(株)製)0.040Lを充填し、実施例1の反応工程で得られたポリマー液821.57g(塩酸含量、30.84mmol)をSV=5で通液させ、アクリル酸変性ビニルアルコール系重合体とアクリル酸とを含む溶液(C−4)849.22gを得た。溶液(C−4)中のアクリル酸変性ビニルアルコール系重合体の濃度を測定したところ、0.43mmol/gであった。溶液(C−4)中の酸性化合物の濃度を酸中和滴定により測定したところ、1.279mmol/gであった。また、燃焼ガス吸着法−イオンクロマトグラフィー法により得られた溶液(C−4)中のClの定量を行ったところ、5重量ppm以下であった。
【0052】
<実施例5>
(3)中和工程
200mLの丸底三つ口フラスコに攪拌羽、温度計、および三方コックを取り付け、実施例4で得られた溶液(C−4)70.0g(酸性化合物含量、87.8mmol)をフラスコ内に加えた。この溶液をスリーワンモーターを用いて攪拌し、酸化亜鉛3.572g(43.9mmol)を反応液が35℃を超えないように添加した。30℃で4時間反応させた後、わずかに溶け残った酸化亜鉛を濾別して溶液(D−5)65.0gを得た。溶液(D−5)中のZn含量をICP発光分光法で定量したところ、4.1wt%であった。また、溶液(D−5)中のCl含量を燃焼ガス吸収法−イオンクロマトグラフィー法で定量したところ、5重量ppm以下であった。溶液(D−5)の1 H−NMR分析からアクリル酸変性ビニルアルコール系重合体の濃度は0.32mmol/g、アクリレート基の濃度は1.11mmol/gであった。
【0053】
<実施例6>
1000mLの丸底四つ口フラスコに攪拌羽、温度計、冷却管、および三方コックを取り付け、フラスコ内を窒素置換した。フラスコ内にアクリル酸162.18g(2.25mol)、脱イオン水80.94g(4.49mol)を加えてスリーワンモーターを使用して攪拌を開始した。ポリビニルアルコール(重合度1000、鹸化度98.5モル%、クラレ製、商品名:PVA110)33.056g(0.75mol)、p−メトキシフェノール0.1236g(0.996mmol)をフラスコ内に加えた。フラスコ内を2%酸素/98%窒素混合ガスに置換した後、固体酸触媒としてPK208LH(陽イオン交換樹脂、三菱化学(株)製)402gをフラスコ内に加えた。80℃に昇温し、反応を開始した。9時間後、脱イオン水1275gを用いて反応液を希釈することで反応を停止させた。濾過により固体酸触媒を除去して溶液(C−6)1312.0gを得た。得られた溶液(C−6)中のアクリル酸変性ビニルアルコール系重合体の変性率を1 H―NMRで測定したところ0.5モル%であった。得られた溶液(C−6)中の酸性化合物の濃度を酸中和滴定により測定したところ、1.39mmol/gであった。
【0054】
<実施例7>
実施例5で作製した溶液(D−5)に、メチルアルコールで25重量%に希釈した光重合開始剤〔1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名;イルガキュアー 2959)〕及び界面活性剤(花王社製 商品名;エマルゲン120)を、固形分重量比率でそれぞれ1.1重量%、0.2重量%(全体で100重量%)となるように混合し、塗工用溶液を得た。
次に、塗工用溶液を厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製商品名;エンブレットPET12)からなる基材フィルムのコロナ処理面に、メイヤーバーで固形分が1.8g/m2 になるように塗布し、熱風乾燥器を用いて乾燥した。この後、速やかに塗布面を上にしてステンレス板に固定し、UV照射装置(アイグラフィック社製EYE GRANDAGE 型式ECS 301G1)を用いて、UV強度:180mW/cm2 、積算光量:180mJ/cm2 の条件で紫外線を照射して重合を行い、ガスバリア性積層フィルムを得た。得られたガスバリア性積層フィルムを上記記載の方法で評価した。
評価結果を表1に示す。
【0055】
<実施例8>
実施例7で用いた基材フィルムを、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製商品名;エンブレットPET12)から厚さ12μmの酸化アルミニウム蒸着二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(蒸着PET:東セロ社製 商品名;TL−PET H)に代える以外は実施例5と同様に行い、ガスバリア性積層フィルムを得た。得られたガスバリア性積層フィルムを上記記載の方法で評価した。
評価結果を表1に示す。
【0056】
<評価方法>
(1)重合率(%): 本発明における不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合率(予備重合及び本重合後)は、以下の測定方法により求めた。
重合率(%):〔1−(B1 /B)UV後/(B1 /B)モノマー〕×100
*(B1 /B)UV後:紫外線照射(重合後)後の(B1 /B)
*(B1 /B)モノマー:モノマー(重合前)の(B1 /B)
*モノマー:不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)
(B1 /B)については下記に記載のとおり規定した。
830cm-1付近のビニル基に結合する水素のδC−Hに基づく吸光度B1 と赤外線吸収スペクトルにおける1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Bとの比(B1 /B)は、ガスバリア性積層フィルムから、1cm×3cmの測定用サンプルを切り出し、その表面(重合体層)の赤外線吸収スペクトルを赤外線全反射測定(ATR法)により得、以下の手順で、先ず、吸光度B1 及び吸光度Bを求める。
830cm-1付近のビニル基に結合する水素のδC−Hに基づく吸光度B1 :赤外線吸収スペクトルの800cm-1と850cm-1の吸光度とを直線(P)で結び、800ないし850cm-1間の最大吸光度(830cm-1付近)から垂直に直線(Q)を下ろし、当該直線(Q)と直線(P)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度B1 とする。
1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度B:赤外線吸収スペクトルの1480cm-1と1630cm-1の吸光度とを直線(L)で結び、1480ないし1630cm-1間の最大吸光度(1520cm-1付近)から垂直に直線(M)を下ろし、当該直線(M)と直線(L)との交点と最大吸光度との吸光度の距離(長さ)を吸光度Bとした。尚、最大吸光度(1520cm-1付近)は、対イオンの金属種によりピーク位置が変化することがあり、例えば、カルシウムでは1520cm-1付近、亜鉛では1520cm-1付近、マグネシウムでは1540cm-1付近である。
次いで、上記方法で求めた吸光度B1 及び吸光度Bから比(B1 /B)を求める。また重合率は上記計算式のように、モノマーの吸光度比(B1 /B)モノマーとUV照射(重合後)後の(B1 /B)UV後を測定し求める。
なお、本発明のおける赤外線スペクトルの測定(赤外線全反射測定:ATR法)は、日本分光社製FT−IR350装置を用い、KRS−5(Thallium Bromide−Iodide)結晶を装着して、入射角45度、室温、分解能4cm-1、積算回数150回の条件で行う。
(2)吸光度比(A0 /A):上記記載の方法で測定した。
(3)酸素透過度[ml/(m2 ・day・MPa)]:ガスバリア性積層フィルムもしくは後述の線状低密度ポリエチレンフィルムを貼り合わせた多層フィルムを、モコン社製 OX−TRAN2/21 MLを用いて、JIS K 7126(等圧法)に準じ、温度20℃、湿度90%RHの条件に3時間調整した後、及びモコン社製 OX−TRAN2/20 SMを用いて、JIS K 7126(等圧法)に準じ、温度20℃、湿度0%RHの条件に3時間調整した後測定した。
(4)多層フィルムの作製:厚さ50μmの線状低密度ポリエチレンフィルム(東セロ社製 商品名:T.U.X. FCS)の片面に、ウレタン系接着剤〔ポリウレタン系接着剤(三井武田ケミカル社製 商品名:タケラックA310):12重量部、イソシアネート系硬化剤(三井武田ケミカル社製 商品名:タケネートA3):1重量部〕及び酢酸エチル(関東化学社製):7重量部)を塗工・乾燥後、実施例及び参考例で得られたガスバリア性積層フィルムのアクリル酸Zn塩重合体層(不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合体層)面を貼り合わせて(ドライラミネートして)多層フィルムを作製した。
(5)ボイル処理:上記方法で得た多層フィルムを、95℃の熱水中で30分間処理した。
(6)ヒートシール強度(HS強度;N/15mm):上記方法で得た多層フィルムを用い、多層フィルムの線状低密度ポリエチレンフィルム面同士を、130℃、1秒、2kg/cm2 でヒートシールした後、15mm幅にサンプリングし、温度;23℃、湿度;50%RHの条件下で、引張試験機(オリエンテック社製;テンシロン万能試験機 RTC−1225)を用いて速度300mm/分でヒートシール強度を測定した。
【0057】
参考例1
実施例7で用いた塗工用溶液に代えて、アクリル酸亜鉛塩溶液を水で固形分濃度が16重量%になるように調整して塗工用溶液を用いる以外は、実施例7と同様に行い、ガスバリア性積層フィルムを得た。得られたガスバリア性積層フィルムを上記記載の方法で評価した。
評価結果を表1に示す。
【0058】
参考例2>
参考例1で用いた基材フィルムを、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製 商品名;エンブレットPET12)から厚さ12μmの酸化アルミニウム蒸着二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(蒸着PET:東セロ社製 商品名;TL−PET H)に代える以外は参考例1と同様に行い、ガスバリア性積層フィルムを得た。次いで得られたガスバリア性積層フィルムを上記記載の方法で線状低密度ポリエチレンフィルムを貼り合わせて多層フィルムを得た。得られた多層フィルムを上記記載の方法で評価した。
評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む系では、低湿度下での酸素バリア性が改善され、さらにボイル処理によりデラミネーションなども起こらず、耐熱水性も向上しているのに対し、無添加の系(参考例1、参考例2)では、90%RHでの酸素バリア性、耐熱水性は優れるものの低湿度での酸素バリア性が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
ガスバリアコート材として有用な不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液、およびそれを用いたガスバリア性膜が得られる。
さらに、本発明の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合体からなるガスバリア性膜及びかかるガスバリア性膜を形成してなるガスバリア性積層体は、高湿度下及び低湿度下での耐酸素透過性(ガスバリア性)に優れているので、かかる特徴を活かして、乾燥食品、水物、ボイル・レトルト食品、サプリメント食品等の包装材料、なかでも特に高いガスバリア性が要求される内容物の食品包装材料を始め、シャンプー、洗剤、入浴剤、芳香剤等のトイレタリー製品の包装材料、粉末、顆粒状、錠剤等の医薬品、輸液バックをはじめとする液状の医薬品、医療用器具の包装袋および包装容器部材等の医療用途、ハードディスク、配線基盤、プリント基盤等の電子部品包材、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、無機・有機ELディスプレイ、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ用バリア部材、太陽電池のバリア部材等の電子材料、真空断熱材用バリア部材、インクカートリッジ等の工業製品の包装材料等、さまざまな製品の包装材料、あるいは電子材料、精密部品、医薬品等をはじめ、酸素ガスの透過及び湿気を嫌う材料の保護材としても好適に使用し得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを反応系に可溶な酸触媒の存在下に反応させ不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を形成させる反応工程、
(2)陰イオン交換樹脂により酸性化合物のうち少なくとも酸触媒を除去するイオン交換工程の2工程からなる、
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のイオン交換工程において、陰イオン交換樹脂により除去する酸性化合物が不飽和カルボン酸化合物(イ)と酸触媒の両方である、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(B)の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のイオン交換工程において、陰イオン交換樹脂により除去する酸性化合物が酸触媒である、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを含む溶液(C)の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法の反応工程、イオン交換工程、および
(3)溶液(C)中の不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を形成させる中和工程からなる、
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを含む溶液(D)の製造方法。
【請求項5】
(1)ビニルアルコール系重合体と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを固体酸触媒の存在下に反応させ不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を形成させる反応工程、
(2)固体酸触媒を濾過などにより除去する濾過工程の2工程からなる、
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを含む溶液(C)の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法の反応工程、濾過工程、および
(3)陰イオン交換樹脂により不飽和カルボン酸化合物(イ)を除去するイオン交換工程からなる、
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(B)の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の製造方法の反応工程、濾過工程、および
(3)溶液(C)中の不飽和カルボン酸化合物(イ)を多価金属化合物で中和し、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を形成させる中和工程からなる、
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)とを含む溶液(D)の製造方法。
【請求項8】
反応工程を溶媒の存在下に行う請求項1ないし7のいずれか1項記載の溶液(A)、 (B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項9】
反応工程で使用する溶媒が極性溶媒である請求項8記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項10】
反応工程で使用する溶媒が水である請求項9記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項11】
反応工程で使用するビニルアルコール系重合体の鹸化度が70%以上である請求項1ないし10のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項12】
不飽和カルボン酸化合物(イ)がα、β−不飽和カルボン酸類である請求項1ないし11のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項13】
不飽和カルボン酸化合物(イ)が炭素数10以下の不飽和カルボン酸化合物である請求項1ないし12のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項14】
不飽和カルボン酸化合物(イ)がアクリル酸、またはメタクリル酸である請求項1ないし13のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項15】
反応工程で使用する反応系に可溶な酸触媒が無機酸類、または有機スルホン酸類である請求項1ないし4、および8ないし14のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項16】
反応工程で使用する反応系に可溶な酸触媒が無機酸類である請求項15記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項17】
反応工程で使用する反応系に可溶な酸触媒が塩酸である請求項16記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項18】
反応工程で使用する固体酸触媒が陽イオン交換樹脂である請求項5ないし14のいずれか1項記載の溶液(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項19】
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)における変性率が、原料のビニルアルコール系重合体の水酸基に対して0.1モル%ないし30モル%である請求項1ないし18のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)、(C)、または(D)の製造方法。
【請求項20】
中和工程で使用する多価金属化合物の多価金属原子がMg、Ca、Zn、Ba、Al、またはTiである請求項4、および7ないし19のいずれか1項記載の溶液(D)の製造方法。
【請求項21】
中和工程において、不飽和カルボン酸化合物(イ)の酸性基1モルに対し、使用する多価金属化合物の多価金属原子が0.1ないし10モルの範囲である請求項4、および7ないし20の井記載の溶液(D)の製造方法。
【請求項22】
請求項1、8ないし17、および19のいずれか1項記載の製造方法により得られる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(A)。
【請求項23】
請求項2、6、および8ないし19のいずれか1項記載の製造方法により得られる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む溶液(B)。
【請求項24】
請求項3、5、および8ないし19のいずれか1項記載の製造方法により得られる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物(イ)とを含む溶液(C)。
【請求項25】
請求項4、および7ないし21のいずれか1項記載の製造方法により得られる不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を含む溶液(D)。
【請求項26】
請求項22ないし24のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)又は(C)と共に、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の溶液の塗工液から重合により得られることを特徴とするガスバリア性膜。
【請求項27】
請求項25に記載の溶液(D)の塗工液から重合により得られることを特徴とするガスバリア性膜。
【請求項28】
溶液中の不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の含有量が50重量%以下であり、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)が50重量を越える溶液の塗工液から重合により得られることを特徴とする請求項26又は27に記載のガスバリア性膜。
【請求項29】
ガスバリア性膜が、赤外線吸収スペクトルにおける1700cm-1付近のカルボン酸基のνC=Oに基づく吸光度A0 と1520cm-1付近のカルボキシレートイオンのνC=Oに基づく吸光度Aとの比(A0 /A)が0.25未満である請求項26ないし28のいずれか1項記載のガスバリア性膜。
【請求項30】
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)が、(メタ)アクリル酸変性ビニルアルコール系重合体である請求項26ないし29のいずれか1項記載のガスバリア性膜。
【請求項31】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の多価金属が、Mg、Ca、Zn、Ba、Al及びTiから選ばれる少なくとも1種である請求項26ないし30のいずれか1項記載のガスバリア性膜。
【請求項32】
基材層(I)の少なくとも片面に、請求項26ないし31のいずれか1項記載のガスバリア性膜が形成されてなるガスバリア性積層体。
【請求項33】
請求項22ないし24のいずれか1項記載の溶液(A)、(B)又は(C)と共に、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の溶液を塗工した後、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合体(X)を形成させることを特徴とするガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項34】
基材若しくは基材層(I)の少なくとも片面に、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)と不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)を含む溶液(D)を塗工した後、不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)を含む不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合体(X)を形成させることを特徴とするガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項35】
不飽和カルボン酸変性ビニルアルコール系重合体(ロ)の含有量が50重量%以下である請求項34記載のガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項36】
不飽和カルボン酸化合物(イ)が、(メタ)アクリル酸である請求項32ないし34のいずれか1項記載のガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項37】
溶液が水溶液である請求項33ないし36のいずれか1項記載のガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項38】
不飽和カルボン酸化合物多価金属塩(ハ)の重合を水分の存在下に行う請求項32ないし36のいずれか1項記載のガスバリア性膜若しくはガスバリア性積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−321099(P2007−321099A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155031(P2006−155031)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】