説明

両性水溶性高分子を含む組成物

【課題】種々の汚泥や抄紙系に対して各種凝集性能に優れる組成物であって、特に高分子凝集剤として優れる組成物の提供。さらに、種々の汚泥に対する脱水性能に優れ、特に造粒性に優れる汚泥脱水剤、並びに高い歩留率を実現できることはもちろんのこと、同時に紙の高地合性が確保でき、さらには使用方法が簡便な新規な歩留向上剤の提供。
【解決手段】多糖類の存在下に、カチオン性ラジカル重合性単量体とアニオン性ラジカル重合性単量体を重合させて得られた下記に示す2種以上の両性水溶性高分子を含む組成物。1.前記高分子として、カチオン性ラジカル重合性単量体のアニオン性ラジカル重合性単量体に対するモル基準の割合(以下Ca/Anという)がCa/An≧1を満たす高分子とCa/An<1を満たす高分子を併用するもの。
2.前記高分子として、Ca/An≧1を満たす2種の高分子を併用するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両性水溶性高分子を含む組成物に関するものであり、本発明の組成物は、高分子凝集剤として有用であり、特に汚泥脱水剤、歩留向上剤及び増粘剤等の用途に有用であり、これら技術分野で賞用され得るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水溶性高分子、特に高分子量の水溶性高分子は、高分子凝集剤、歩留向上剤及び増粘剤等の種々の技術分野で利用されている。
【0003】
上記水溶性高分子としては、特に製紙廃水の汚泥脱水処理においては、廃水中に含まれるパルプとの馴染みが良く、優れた汚泥脱水性能を発揮するため、澱粉を水溶性高分子で変性した高分子(以下澱粉変性高分子という)を使用する場合がある。
又、澱粉変性高分子は、汚泥脱水剤以外の用途として、パルプとの馴染みが良く、得られる紙が各種性能に優れるものとなるため、歩留向上剤等の製紙用添加剤の用途としての検討もなされている。
【0004】
澱粉変性高分子又はその製造方法としては、特定のカチオンエーテル化澱粉を幹ポリマーとし、4級アンモニウム変性したカチオン性基をグラフト側鎖に持ち、特定粘度を有する高分子(特許文献1)、多糖類の幹ポリマーに、側鎖として(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸又はその塩とのコポリマーをグラフトさせたもの(特許文献2)、多糖類とジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩とを、レドックス重合開始剤またはセリウム系重合開始剤を使用して製造して得られたもの(非特許文献1)等がある。
【0005】
ところで、汚泥の脱水処理には、カチオン性高分子凝集剤が単独で使用されることが多かった。
しかしながら、近年、汚泥発生量の増加及び汚泥性状の悪化により、従来のカチオン性高分子凝集剤では、汚泥の処理量に限界があることや、脱水ケーキ含水率、SS回収率等の点で処理状態は必ずしも満足できるものではなく、これらの点を改善することが要求されているため、種々の両性高分子凝集剤やこれらを使用した脱水方法が検討される様になった。
例えば、無機汚泥を含まない無機凝集剤を添加したpHが5〜8の有機質汚泥に、特定イオン当量のカチオンリッチ両性高分子凝集剤を添加する汚泥の脱水方法(特許文献3)、pHが5〜8の有機質汚泥に、アクリレート系カチオン性高分子凝集剤と両性高分子凝集剤を併用する汚泥の脱水方法(特許文献4)、汚泥に無機凝集剤を添加し、pHを5未満に設定し、特定組成のアニオンリッチ両性高分子凝集剤を添加する脱水方法(特許文献5)および排水に無機凝集剤、アニオン性高分子及びカチオンリッチ両性高分子凝集剤を順次添加する有機性排水の処理方法(特許文献6)等が知られている。
【0006】
一方、従来より抄紙工程においては、填料を含む紙料を抄紙機に送入する最終濃度に希釈する際、又は希釈後に、歩留向上剤を添加し、抄紙機からの白水中へのパルプ及び填料流出を抑制し、歩留を向上させている。
【0007】
歩留向上剤としては、通常、水溶性の高分子量ポリエチレンオキサイドやカチオン性ポリアクリルアミド等の水溶性重合体が用いられている。
しかしながら、これら水溶性重合体含む歩留向上剤は、歩留率をより向上させる目的で、歩留向上剤を比較的多量に使用する必要があり、その結果、巨大なフロックが生成し、紙の地合性を極度に悪化させてしまうという問題を有するものであった。
この問題を解決するため、最近では、カチオン性重合体とアニオン性化合物又は重合体を併用するデュアルシステムと呼ばれる方法が脚光を浴びている。その代表例としては、カチオン性重合体を添加後にベントナイト等のアニオン性無機化合物を添加する方法(特許文献7)や、カチオン性重合体の添加後にアニオン性コロイダルシリカを添加する方法等が挙げられる(特許文献8)。
【0008】
【特許文献1】特公昭62−21007号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−254306号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】日本化学会誌、1976年、10巻、1625〜1630頁
【特許文献3】特公平5−56199号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特許2933627号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特公平6−239号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平6−134213号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平4−281095号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特許第2945761号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3〜同6記載の両性高分子からなる汚泥脱水剤は、それなりに特長を有するものではあるが、最近の廃水の難脱水化傾向に対して、必ずしも有効的な方法とは言い難いものであった。
【0010】
又、特許文献7及び同8記載の歩留向上剤は、歩留率と紙の地合性のバランス性に比較的優れているいるものの、そのレベルは未だ不十分であり、さらに、これらの歩留向上剤は2液を併用して使用する必要があるため、抄紙工程においてそれぞれの剤の添加箇所、添加のタイミング及び添加量のバランス等といった、使用方法が煩雑であるという問題を有するものであった。
【0011】
又、特許文献1及び同2並びに非特許文献1記載の澱粉変性高分子を、汚泥脱水剤及び歩留向上剤等の高分子凝集剤として使用した場合、廃水の種類や紙料に含まれる原料パルプ種類等によっては、凝集・脱水性能が不十分となる場合があった。特に、適用する汚泥によっては、造粒性が不十分であった。より具体的には、廃水等に高分子凝集剤を添加した後、フロックを素早く形成し、かつ攪拌を続けても崩れにくいという点で、不十分であった。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため、イオン当量の異なる2種の両性高分子を含む組成物からなる高分子凝集剤を提案している(特許文献9)。
この高分子凝集剤は、前記課題を解決する優れた性能を有するものであるが、さらなる汚泥脱水性能及び歩留り向上性能が要求される用途においては、不十分となる場合があった。特に、汚泥脱水剤として使用する場合、適用する汚泥によっては、造粒性が不十分であり、より具体的には、前記と同様の点で不十分であり、又歩留向上剤として使用する場合、使用する紙料によっては、歩留率が良好であっても紙の地合性が不十分となる場合があった。
【0013】
本発明者らは、種々の汚泥や抄紙系に対して各種凝集性能に優れる組成物であって、特に高分子凝集剤として優れる組成物を見出すため鋭意検討を行い、さらに種々の汚泥に対する脱水性能に優れ、特に造粒性に優れる汚泥脱水剤、並びに高い歩留率を実現できることはもちろんのこと、同時に紙の高地合性が確保でき、さらには使用方法が簡便な新規な歩留向上剤を見出すため、鋭意検討を行ったのである。
【0014】
【特許文献9】特開2003−175302号公報(特許請求の範囲)
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、種々の検討の結果、多糖類にカチオン性単量体とアニオン性単量体を重合させて得られた2種以上の両性水溶性高分子を含む組成物であって、それら高分子として、前記単量体の割合が異なるものを使用したものが有効であること見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書においては、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表し、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表し、アクリルアミド又はメタクリルアミドを(メタ)アクリルアミドと表す。
【0016】
1.両性水溶性高分子
本発明で使用する両性水溶性高分子(以下単に両性高分子という)は、多糖類の存在下に、カチオン性ラジカル重合性単量体(以下単にカチオン性単量体という)とアニオン性ラジカル重合性単量体(以下単にアニオン性単量体という)を重合させて得られたものである。
以下、それぞれの成分及び製造方法について説明する。
【0017】
1−1.多糖類
本発明における多糖類としては、種々のものが使用できる。
例えば、天然物系多糖類としては、澱粉が挙げられ、具体的には、馬鈴薯澱粉、モチ馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、モチトウモロコシ澱粉、高アミローストウモロコシ澱粉、小麦粉澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、グルマンナン及びガラクタン等、並びに小麦粉、トウモロコシ粉、切干甘藷及び切干タピオカ等の原料澱粉等が挙げられる。
澱粉以外の多糖類としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、デキストラン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、キチン並びにキトサン等が挙げられる。
【0018】
多糖類としては、澱粉が好ましく、具体的には、前記したもの等が挙げられ、馬鈴薯澱粉、モチ馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、モチトウモロコシ澱粉、高アミローストウモロコシ澱粉、小麦粉澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、グルマンナン及びガラクタン等が好ましい。
澱粉としては、化学的又は酵素的に修飾して得られる加工澱粉を使用することができる。加工方法としては、例えば、酸化、エステル化、エーテル化及び酸処理化等が挙げられる。
【0019】
本発明における多糖類としては、前記した多糖類を常法によりカチオン化又は両性化されたものが、後記する単量体との共重合性に優れ、又凝集剤としての性能に優れるため好ましい。
【0020】
多糖類のカチオン化は、常法に従えば良い。
カチオン化としては、原料澱粉をカチオン化剤で処理する方法が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、ジエチルアミノエチルクロライド等の3級アミン、並びに3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及びグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。
カチオン化された多糖類のカチオン置換度は、窒素原子換算で0.01〜0.06質量/質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.06質量/質量%である。
【0021】
多糖類としては、カチオン化後に、公知の反応がなされたものであっても良い。例えば、アニオン化反応がなされた両性多糖類でも良い。アニオン化反応の具体例としては、無機リン酸等によるリン酸エステル化;尿素リン酸化及び次亜ハロゲン酸塩等による酸化;モノクロロ酢酸によるカルボキシメチル化;並びに硫酸化等が挙げられる。
【0022】
多糖類としては、糊液として使用することが好ましいため、多糖類にクッキングの処理がなされたものを使用することが好ましい。ここで、クッキングとは、多糖類を糊化温度以上に加熱処理する方法である。この場合の加熱温度としては、使用する澱粉の種類に応じて適宜設定すれば良いが、70℃以上が好ましい。澱粉のクッキングは、バッチ式でも、連続式でも行うことができる。
クッキングは、前記カチオン化後に行うことも、カチオン化と同時に行うこともできる。
使用する澱粉糊液の粘度は、固形分濃度が10〜40質量%で、25℃においてB型粘度計で測定した値が、100〜10000mPa・sであることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する多糖類の糊液は、水で希釈して3〜10質量%のスラリーとしたものを使用することが好ましい。
尚、使用する多糖類の糊液が老化し、固化したり、水への分散性が乏しくなった場合には、使用前にクッキングの処理がなされたものを使用することが好ましい。この場合のクッキングの方法としては、前記と同様の方法が挙げられる。
【0024】
1−2.カチオン性単量体
カチオン性単量体としては、ラジカル重合性を有するものであれば種々の化合物が使用でき、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノ‐2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩酸塩及び硫酸塩等の3級塩;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩酸塩及び硫酸塩等の3級塩;ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩化メチル付加物等のハロゲン化アルキル付加物及び塩化ベンジル付加物等のハロゲン化アリール付加物等の4級塩、並びにジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩化メチル付加物等のハロゲン化アルキル付加物及び塩化ベンジル付加物等のハロゲン化アリール付加物等の4級塩等が挙げられる。
これらの中でも、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩が好ましく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのハロゲン化アルキル付加物がより好ましい。
【0025】
1−3.アニオン性単量体
アニオン性単量体としては、ラジカル重合性を有するものであれば種々の化合物が使用でき、具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸及びその塩が挙げられる。塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0026】
1−4.その他の単量体
本発明における両性高分子は、前記カチオン性単量体及びアニオン性単量体を必須とするものであるが、必要に応じて、ノニオン性ラジカル重合性単量体(以下ノニオン性単量体という)併用することができる。
【0027】
ノニオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド及びヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加メトキシ(メタ)アクリレート及びエチレンオキサイド付加(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0028】
単量体としては、必要に応じて、前記以外の単量体を併用することもできる。当該単量体の例としては、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びビニルアセテート等が挙げられる。
【0029】
1−5.製造方法
本発明の両性高分子は、多糖類の存在下、カチオン性単量体及びアニオン性単量体を重合させて得られたものである。
この場合の製造方法としては、重合開始剤及び多糖類の存在下、カチオン性単量体及びアニオン性単量体を、常法に従い重合させる方法等が挙げられる。
以下、使用するそれぞれの成分及び重合方法等について、説明する。
【0030】
1)多糖類と単量体の割合・組み合わせ
本発明の両性高分子における、多糖類と単量体の割合としては、多糖類及び全単量体の合計量に対して、単量体が50質量%以上が好ましく、50〜99質量%がより好ましい。
単量体の割合が50質量%に満たない場合は、得られる高分子が水に不溶性となったり、得られる高分子を凝集剤として使用する場合において、高分量の高分子が得られない場合がある。
【0031】
本発明における好ましい単量体の組合せとしては、[1]カチオン性単量体としてジアルキルアミノアルキルアクリレートの3級塩又は4級塩、アニオン性単量体としてアクリル酸塩及びノニオン性単量体としてアクリルアミドからなる共重合体、[2]カチオン性単量体としてジアルキルアミノアルキルメタクリレートの3級塩又は4級塩、アニオン性単量体としてアクリル酸塩及びノニオン性単量体としてアクリルアミドからなる共重合体、並びに[3]カチオン性単量体としてジアルキルアミノアルキルメタクリレートの3級塩又は4級塩、ジアルキルアミノアルキルアクリレートの3級塩又は4級塩、アニオン性単量体としてアクリル酸塩及びノニオン性単量体としてアクリルアミドからなる共重合体がある。
【0032】
2)重合開始剤
重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、レドックス系重合開始剤及び光重合開始剤等が挙げられる。以下、それぞれの重合開始剤について説明する。
【0033】
(1)アゾ系重合開始剤
アゾ系重合開始剤としては、種々の化合物が使用でき、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(10時間半減期温度69℃、以下括弧内の温度は同様の意味を示す)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(65℃)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトチル)(67℃)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](86℃)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩(56℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩(44℃)等を挙げることができる。
アゾ系重合開始剤は、単独で使用しても又は2種以上を併用しても良い。
【0034】
前記したアゾ系重合開始剤の中でも、水に対する溶解性が高い点、不溶解分を含有しないか又は含有量の少ない両性高分子を生成する点、高分子量の両性高分子を生成する点、両性高分子中の未反応単量体が少ない点等から、アゾ系重合開始剤として、10時間半減期温度が50℃以上の化合物が好ましく、50〜90℃の化合物がより好ましく、50〜70℃の化合物が更に好ましい。
【0035】
アゾ系重合開始剤の使用割合としては、多糖類及び単量体の合計量に対して、50〜5000ppmが好ましく、より好ましくは100〜3000ppmであり、更に好ましくは300〜1000ppmである。アゾ系重合開始剤の使用割合が50ppmに満たない場合は、重合が不完全で残存モノマーが多くなり、一方5000ppmを超えると得られる水溶液高分子が低分子量体となる。
【0036】
(2)レドックス系重合開始剤
レドックス系重合開始剤は、酸化剤と還元剤を併用したものである。
酸化剤としては、多糖類の水素引抜き効果があり、多糖類に単量体を好ましくグラフトできる点で、過酸化物が好ましい。過酸化物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド等の有機過酸化物、過酸化水素、並びに臭素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、重合開始時の低温状態においても水素引き抜き効果に優れる点で、過硫酸塩が好ましい。
還元剤としては、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸水素塩、アスコルビン酸及びその塩、ロンガリット、亜ニチオン酸及びその塩、トリエタノールアミン、並びに硫酸第一銅が挙げられる。
過酸化物と還元剤の好ましい組合わせとしては、過硫酸塩と亜硫酸塩、過硫酸塩と亜硫酸水素塩等が挙げられる。
【0037】
酸化剤の割合としては、多糖類及び単量体の合計量に対して、10〜1000ppmが好ましく、より好ましくは20〜500ppmであり、特に好ましくは40〜200ppmである。この割合が10ppmに満たないと、水素引き抜きが不十分となり、一方1000ppmを超えると、両性高分子の分子量が小さくなり十分な性能が発揮できないことがある。
還元剤の割合としては、多糖類及び単量体の合計量に対して10〜1000ppmが好ましく、より好ましくは20〜500ppmである。
【0038】
レドックス系重合開始剤を使用する場合には、重合促進剤として、塩化第二銅、塩化第一鉄、等の無機金属系の重合促進剤を添加することが好ましい。
【0039】
(3)光重合開始剤
光重合開始剤としては、多糖類の水素引抜き効果があり、多糖類に単量体を好ましくグラフトできる点で、ケタール型光重合開始剤及びアセトフェノン型光重合開始剤等が好ましい。この場合、光開裂して発生してベンゾイルラジカルが発生し、これが水素引抜き剤として機能する。
ケタール型光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1-オン及びベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
アセトフェノン型光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、4‐(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン及び2−ヒドロキシ−2メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕のオリゴマー等が挙げられる。
これら以外にも、ベンゾイン型光重合開始剤、チオキサントン型光重合開始剤及び特開2002−097236で記載された様なポリアルキレンオキサイド基を有する光重合開始剤も使用することができる。
【0040】
光重合開始剤の割合としては、多糖類及び単量体の合計量に対して、10〜1000ppmが好ましく、より好ましくは20〜500ppmであり、更に好ましくは40〜200ppmである。この量が10ppmに満たないと、水素引き抜きが不十分となるか又は残存モノマーが多くなることがあり、1000ppmを超えると両性高分子の分子量が小さくなり性能が発揮できないことがある。
【0041】
光重合開始剤を使用する場合には、トリエタノールアミン及びメチルジエタノールアミン等のアミン系光増感剤等の光増感剤を併用することもできる。
【0042】
3)重合形式
重合形式としては、水溶液重合、逆相懸濁重合及び逆相エマルション重合等が挙げられ、取り扱いが容易である点で、水溶液重合及び逆相エマルション重合が好ましい。
【0043】
水溶液重合を採用する場合においては、水性媒体中に、多糖類及び単量体を溶解又は分散させ、重合開始剤の存在下10〜100℃で重合させる方法等が挙げられる。原料の多糖類及び単量体は、水中に溶解又は分散させたものを、水性媒体に添加して使用する。
逆相エマルション重合を採用する場合においては、多糖類及び単量体を含む水溶液と、HLBが3〜6である疎水性界面活性剤を含む有機分散媒とを攪拌混合し乳化させた後、重合開始剤の存在下10〜100℃で重合させ、油中水型(逆相)重合体エマルションを得る方法が挙げられる。有機分散媒としては、ミネラルスピリット等の高沸点炭化水素系溶剤等が挙げられる。
水性媒体中又は有機分散媒中の多糖類及び単量体の割合は、目的に応じて適宜設定すれば良く、20〜70質量%が好ましい。
【0044】
重合方法としては、使用する重合開始剤の種類に従い、光重合やレドックス重合等を行えば良い。
具体的な重合方法としては、多糖類及び単量体を含む水溶液に、又は多糖類及び単量体を含む逆相乳化液に重合開始剤を添加すれば良い。
重合方法としては、光重合とレドックス重合を併用することも可能である。
【0045】
分子量の調節を行う場合、連鎖移動剤を使用しても良い。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール及びメルカプトプロピオン酸等のチオール化合物や、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸水素ナトリウム及び次亜リン酸ナトリウム等の還元性無機塩類等が挙げられる。
【0046】
本発明では、水溶液重合が好ましく、この場合、特に重合時間が早く生産性に優れるため、重合を光照射下で行うことが好ましい。
【0047】
光照射重合を行う場合において、照射する光としては、紫外線又は/及び可視光線が用いられ、そのうちでも紫外線が好ましい。
光照射の強度は、単量体の種類、光重合開始剤及び/又は光増感剤の種類や濃度、目的とする両性高分子の分子量、重合時間などを考慮して決定されるが、一般に0.5〜1,000W/m2が好ましく、5〜400W/m2がより好ましい。
光源としては、例えば、蛍光ケミカルランプ、蛍光青色ランプ、メタルハライドランプ及び高圧水銀ランプ等を使用することができる。
【0048】
光照射重合反応において、単量体の水溶液の温度は特に制限されないが、光重合反応を温和な条件下で円滑に進行させるために、通常は、5〜100℃であることが好ましく、10〜95℃であることがより好ましい。重合開始時の温度としては、得られる両性高分子の分子量を大きいものとすることができ、さらに除熱が容易である点で、5〜15℃が好ましい。
【0049】
単量体の水溶液の光照射重合反応は、バッチ式で行っても、又は連続式で行っても良い。
【0050】
4)好ましい重合方法
両性高分子の製造方法としては、多糖類、アゾ系重合開始剤及び水素引抜き剤の存在下、カチオン性単量体及びアニオン性単量体を重合する方法が、多糖類に高分子量の重合体をグラフトすることができるうえ、残存モノマー量が少なく、得られる両性高分子を凝集剤として使用した場合、各種凝集性能に優れたものとなる理由で好ましい。
【0051】
アゾ系重合開始剤としては、前記と同様のものが挙げられる。
水素引抜き剤としては、レドックス系水素引抜き剤(以下RD引抜き剤という)及び光重合開始剤系水素引抜き剤(以下PT引抜き剤という)等が挙げられる。RD引抜き剤及びPT引抜き剤は、多糖類から水素引き抜きする他、単量体の重合開始剤としても機能する。
RD引抜き剤としては、酸化剤等が好ましく、具体例としては、前記と同様のものが挙げられる。この場合、還元剤と併用することが好ましい。
PT引抜き剤としては、ケタール型光重合開始剤及びアセトフェノン型光重合開始剤等が好ましく、具体例としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0052】
5)得られた両性高分子の処理方法
水溶液重合により得られた両性高分子は、通常ゲル状で、公知の方法で細断し、バンド式乾燥機、遠赤外線式乾燥機等で温度60〜150℃程度で乾燥し、ロール式粉砕機等で粉砕して粉末状の高分子とされ、粒度調整され、あるいは添加剤等が加えられて使用される。
油中水型(逆相)エマルション重合で得られた両性高分子を実際に使用する場合には、HLBの比較的高い親水性界面活性剤を添加し、水で希釈、転相させて水中油型エマルションとして使用する。
両性高分子としては、粉末状品のものが好ましく使用される。
【0053】
両性高分子としては、分子量の指標である0.5%塩粘度が10〜200mPa・sのものが好ましく、後記する高分子凝集剤として使用する場合、安定した脱水処理を達成するためには、15〜120mPa・sのものがより好ましく、15〜90mPa・sのものが特に好ましい。
尚、本発明において0.5%塩粘度とは、4%塩化ナトリウム水溶液に両性高分子を0.5%溶解した試料を25℃で、B型粘度計にて、ローターNo.1又は2を用いて、60rpmで測定した値をいう。
【0054】
両性高分子は、多糖類に単量体の高分子がグラフト化した、グラフト共重合体が主成分であれば良いが、多糖類に単量体の高分子がグラフトしなかった重合体が存在していても良い。
【0055】
2.組成物
本発明の組成物は、前記両性高分子として、カチオン性単量体とアニオン性単量体単位の割合が異なる2種以上の両性高分子を含むものであり、具体的には、下記式(1)を満たす両性高分子(以下両性高分子1という)と、下記式(2)を満たす両性高分子(以下両性高分子2という)又は下記式(3)及び式(4)を満たす両性高分子(以下両性高分子3という)を併用してなるものである。
〔式1〕
Ca1/An1≧1 ・・・・(1)
〔式2〕
Ca2/An2<1 ・・・・(2)
〔式3〕
Ca3/An3≧1 ・・・・(3)
〔式4〕
│(Ca1−An1)−(Ca3−An3)│≧1.5 ・・・・(4)
〔尚、上記式(1)〜(4)において、Ca1及びAn1は、それぞれ、両性高分子1における全構成単量体の合計量を100モルに換算した場合における、全カチオン性単量体量及び全アニオン性単量体量のモル数を表し、Ca2及びAn2は、それぞれ前記と同様に、両性高分子2における全カチオン性単量体量及び全アニオン性単量体量のモル数を表し、Ca3及びAn3は、それぞれ前記と同様に、両性高分子3における全カチオン性単量体量及び全アニオン性単量体量のモル数を表す。〕
【0056】
本発明における両性高分子1と両性高分子2を併用した組成物について説明する。当該組成物は、カチオンリッチな両性高分子1とアニオンリッチな両性高分子2を併用したものである。
この場合の両性高分子1としては、さらにCa1/An1が1.5〜10.0のものが好ましく、両性高分子2としてはCa2/An2が0.5〜0.9のものが好ましい。
【0057】
次に、本発明における両性高分子1と両性高分子3を併用した組成物について説明する。当該組成物は、いずれもカチオンリッチな両性高分子である両性高分子1と両性高分子3を併用し、それらを構成するカチオン性単量体単位とアニオン性単量体の差が大きいものと小さいものを併用するものである。
この場合のCa1/An1としては1.2〜40.0が好ましく、Ca3/An3としては1.2〜40.0が好ましい。
│(Ca1−An1)−(Ca3−An3)│としては1.5〜40.0が好ましい。この値が1.5に満たないと、ブレンドによる高性能の凝集性能を発揮できないことがある。
【0058】
両性高分子1〜同3は、前記単量体割合を満たす様にカチオン性単量体とアニオン性単量体を共重合して得ることができる。
【0059】
本発明の組成物は、両性高分子1に、両性高分子2又は両性高分子3を混合することにより製造することができる。又、後記する汚泥の脱水や抄紙工程においては、それぞれの成分を別々に添加することもできる。
両性高分子1〜同3としては、それぞれ1種を使用することも、2種以上を併用することもでき、両性高分子1〜同3の1種づつを使用することが簡便であり好ましい。
【0060】
組成物における両性高分子の割合としては、目的に応じて適宜設定すれば良いが、両性高分子1及び同2からなる組成物の場合は、両性高分子1が40〜90質量%及び両性高分子2が60〜10質量%の範囲が好ましい。
両性高分子1及び同3からなる組成物の場合は、両性高分子1が10〜90質量%及び両性高分子3が90〜10質量%の範囲が好ましい。
【0061】
両性高分子凝集剤として粉末のものを使用する場合には、使用に際して、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム及びスルファミン酸等を添加することが好ましい。又、脱水処理に悪影響がでないかぎり公知の添加剤と混合して使用しても良い。
【0062】
3.用途
本発明で得られる組成物は、種々の用途に応用することが可能であり、特に高分子凝集剤として有用である。高分子凝集剤としては、さらに汚泥脱水剤、及び歩留向上剤等の製紙工程における抄紙用薬剤等に好ましく使用できる。
本発明の高分子凝集剤は、特に汚泥脱水剤及び歩留向上剤として有用なものである。以下、汚泥脱水剤及び歩留向上剤について説明する。
【0063】
3−1.汚泥脱水剤及び汚泥の脱水方法
本発明の高分子凝集剤を汚泥脱水剤(以下高分子凝集剤ということもある)として使用する場合、高分子としては、粉末状のものや逆相乳化物が好ましい。実際の使用に当たっては、高分子が粉末の場合には、粉末を水に溶解させ水溶液として使用する。又、高分子が逆相乳化物の場合には、水で希釈、転相させて水中油型エマルションとして使用する。
又、汚泥脱水剤として粉末のものを使用する場合には、使用に際して、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム及びスルファミン酸等を添加することが好ましい。又、脱水処理に悪影響がでないかぎり公知の添加剤と混合して使用しても良い。
【0064】
本発明の汚泥脱水剤は、種々の汚泥に適用可能であり、下水、し尿、並びに食品工業、化学工業及びパルプ又は製紙工業汚泥等の一般産業排水で生じる有機性汚泥及び凝集沈降汚泥を含む混合汚泥等を挙げることができる。
本発明の汚泥脱水剤は、特に繊維分が少ない汚泥や余剰比率の高い汚泥に好ましく適用できるものである。具体的には、余剰比率が10SS%以上の汚泥に好ましく適用でき、より好ましくは20〜50SS%の汚泥に適用できる。
【0065】
本発明の汚泥脱水剤を使用する脱水方法は、具体的には、汚泥に汚泥脱水剤を添加した後、脱水する方法である。
まず、汚泥に汚泥脱水剤を添加し、汚泥フロックを形成させる。フロックの形成方法は、公知の方法に従えば良い。
【0066】
又、必要に応じて、無機凝集剤、有機カチオン性化合物、カチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用することができる。
【0067】
無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄及び硫酸第一鉄及びポリ硫酸鉄等を例示できる。
【0068】
有機カチオン性化合物としては、ポリマーポリアミン、ポリアミジン及びカチオン性界面活性剤等を例示できる。
【0069】
無機凝集剤又は有機カチオン性化合物を添加した場合においては、pHを4〜8とすることが、より効果的に汚泥の処理を行うことができるため好ましい。
pHの調整方法としては、無機凝集剤又は有機カチオン性化合物を添加した後、当該pH値を満たす場合は、特にpH調整の必要はないが、本発明で限定する範囲を満たさない場合は、酸又はアルカリを添加して調整する。
酸としては、塩酸、硫酸、酢酸及びスルファミン酸等を挙げることができる。又、アルカリとしては、苛性ソーダ、苛性カリ、消石灰及びアンモニア等が挙げられる。
【0070】
カチオン性高分子凝集剤としては、前記したカチオン性単量体の単独重合体及び前記したカチオン性単量体及びノニオン性単量体の共重合体等を挙げることができる。
【0071】
アニオン性高分子凝集剤としては、前記したアニオン性単量体の単独重合体及び前記したアニオン性単量体及びノニオン性単量体の共重合体等を挙げることができる。
【0072】
高分子凝集剤の汚泥に対する添加割合としては、5〜500ppmが好ましく、SSに対しては0.05〜1質量%が好ましい。高分子凝集剤とその他の高分子凝集剤を併用する場合は、全高分子凝集剤の合計量が前記添加割合を満たすことが好ましい。
【0073】
汚泥脱水剤、その他凝集剤の添加量、攪拌速度、攪拌時間等は、従来行われている脱水条件に従えば良い。
【0074】
このようにして形成したフロックは、公知の手段を用いて脱水し、脱水ケーキとする。
【0075】
脱水装置としては、スクリュープレス型脱水機、ベルトプレス型脱水機、フィルタープレス型脱水機及びスクリューデカンター等を例示することが出来る。
【0076】
又、本発明の汚泥脱水剤は、濾過部を有する造粒濃縮槽を使用する脱水方法にも適用可能である。
具体的には、汚泥に、無機凝集剤を添加し、さらに汚泥脱水剤を添加した後、又は汚泥脱水剤と共に、該汚泥の濾過部を有する造粒濃縮槽に導入し、該濾過部からろ液を取り出すと共に造粒し、この造粒物を脱水機で脱水処理する方法等が挙げられる。
【0077】
3−2.歩留向上剤及び抄紙方法
本発明の組成物を歩留向上剤として使用する場合、高分子としては、粉末状のものや逆相乳化物が好ましい。実際の使用に当たっては、前記と同様に、高分子が粉末の場合には、粉末を水に溶解させ水溶液として使用し、高分子が逆相乳化物の場合には、水で希釈、転相させて水中油型エマルションとして使用する。この場合の固形分としては、いずれの場合も、0.01〜0.5質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。
【0078】
本発明の組成物を使用した抄紙方法は、常法に従えば良く、紙料に対して、本発明の組成物を添加した後、抄紙すれば良い。
歩留向上剤の添加方法としては常法に従えば良く、例えば、紙料を抄紙機に送入する最終濃度に希釈する際、又は希釈後に添加する。
【0079】
歩留向上剤が適用される紙料としては、通常の抄紙工程で使用されるものであればよく、通常、少なくともパルプ及び填料を含み、必要に応じて填料以外の添加剤、具体的には、サイズ剤、定着剤、紙力増強剤及び着色剤等を含むものである。
本発明の歩留向上剤は、パルプとして、パルプ中に占める脱墨古紙等の古紙比率が比較的高いものに好ましく適用できる。又、本発明の歩留向上剤は、填料比率の高い抄紙系、中性抄紙系、高速抄紙系に好ましく適用できる。
填料としては、白土、カオリン、アガライト、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸石灰、硫酸バリウム、酸化亜鉛及び酸化チタン等が挙げられる。サイズ剤としては、アクリル酸・スチレン共重合体等が挙げられ、定着剤としては、硫酸バンド、カチオン澱粉及びアルキルケテンダイマー等が挙げられ、紙力増強剤としては、澱粉及びカチオン性又は両性ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0080】
歩留向上剤の好ましい添加割合としては、紙料中の乾燥パルプ質量当たり、0.005〜0.8質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5質量%である。
歩留向上剤の添加後の紙料のpHとしては、5〜10に維持することが好ましく、より好ましくは5〜8である。歩留向上剤の添加後に、紙料は直ちに抄紙機に送入される。
【発明の効果】
【0081】
本発明の組成物によれば、高分子凝集剤として使用した場合、汚泥脱水剤として種々の汚泥に対して、凝集攪拌混和槽でのフロックの成長性とその維持性という造粒性に特に優れ、濾過速度が速く、得られるフロックの自立性及び剥離性に優れるという、各種脱水性能に優れたものとなる。
又、歩留向上剤としては、抄紙工程における添加場所、タイミング等の影響を受けにくい1液タイプとして使用することができ、紙の地合性と抄紙工程の歩留率を高度にバランス化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
本発明は、2種以上の両性高分子を含む組成物であって、前記両性高分子として両性高分子1と両性高分子2とを併用してなる組成物であるか、又は両性高分子1と両性高分子3とを併用してなる組成物である。
当該組成物としては、両性高分子凝集剤として好ましく使用できる。
高分子凝集剤の好ましい用途としては、汚泥脱水剤及び歩留向上剤が挙げられる。
汚泥脱水剤として使用する場合、汚泥に対して、汚泥脱水剤を添加した後、脱水する汚泥の脱水方法に好ましく使用でき、歩留向上剤として使用する場合、紙料に対して歩留向上剤を添加した後、抄紙する抄紙方法に好ましく使用できる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
尚、以下において、「%」とは、質量%を意味し、「部」とは質量部を意味する。
【0084】
○製造例1
ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩(以下、「DAC」という。)水溶液、アクリル酸(以下、「AA」という。)水溶液及びアクリルアミド(以下、「AM」という。)水溶液を、各単量体がモル比でDAC/AA/AM=42/5/53(重量比でDAC/AA/AM=66.3/3.0/30.7)で固形分56%となる様に、ステンレス製反応容器に合計760g仕込んだ。
両性化澱粉スラリー〔王子コンスターチ(株)製エースKT−245。固形分:22%以下、「KT−245」という。〕を、イオン交換水を使用して、固形分5%まで希釈し、さらに80℃で30分加熱しクッキングし、固形分6%の両性化澱粉スラリーとした。当該両性化澱粉スラリーを、単量体及び澱粉の固形分換算合計量に対して3%分に相当する213gを仕込み、イオン交換水を20g加えて、全単量体及び澱粉の固形分濃度43%、総重量1.0kgに調整して、攪拌分散させた。
続いて、窒素ガスを60分間溶液に吹き込みながら溶液温度を10℃に調節後、全単量体及び澱粉の固形分重量を基準として、アゾビスアミジノプロパン塩酸塩(以下、V−50という。)を1000ppm、塩化第二銅を0.3ppm、過硫酸アンモニウムを30ppm、亜硫酸水素ナトリウムを30ppmとなるように加えて、反応容器の上方から、100Wブラックライトを用いて6.0mW/cm2の照射強度で60分間照射して重合を行い、含水ゲル状の水溶性両性高分子を得た。
得られた両性高分子を容器から取り出し、実施例1と同様の条件で乾燥・粉砕して粉末状の両性高分子を得た。この両性高分子をSCR−1という。
得られた高分子について、塩粘度を測定した。その結果を表1に示す。
【0085】
○製造例2〜同8
使用する成分及び割合を、下記表1の通り変更する以外は製造例1と同様の方法で水溶性高分子を製造した。尚、製造例4〜同8については、澱粉を使用せず、単量体のみを使用した。
得られた水溶性高分子について、0.5%塩粘度を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
〇実施例1(汚泥脱水剤の用途)
両性高分子としてSCR−1の70部とSAR−1の30部を使用し、これらを混合して組成物を製造し、これを高分子凝集剤(以下SBL−1という)として使用した。
製紙汚泥(SS:38,200mg/l、VSS:21,700mg/l、繊維分580mg/l)200mlを300mlのビーカーに採取し、スリーワンモーターで100rpmにて60秒間攪拌後、続いて高分子凝集剤の0.2%水溶液を汚泥に対して、80ppm添加した後、スリーワンモーターで100rpmにて60秒間攪拌してフロックを形成させた。この時のフロックの造粒性を下記の3段階で評価し、得られたフロックの粒径を測定した。
その後、ヌッチェに、80メッシュの濾布を敷き、その上に円筒を立て、前記汚泥フロック分散液を円筒内に流し込み、重力濾過した。10秒後の濾液容量を測定し、これを濾過速度とした。得られた濾液の外観を目視で観察し、下記の3段階で評価した。濾過後、円筒を取り外し、得られたケーキについて、下記の3段階で評価した。
評価結果を表3に示す。
【0088】
・造粒性
優:攪拌すると直ちに粒径の大きなフロックを形成し、攪拌によってフロックが破壊され難かった。
良:攪拌すると直ちに粒径の大きなフロックを形成するが、攪拌によってフロックが破壊され易かった。
不良:攪拌を続けても粒径の比較的小さなフロックしか形成せず、例え形成しても攪拌により破壊されやすかった
【0089】
・濾過外観
優:完全に透明。良好:僅かに浮遊物あり。不良:多くの浮遊物あり。
【0090】
・自立性
優:完全にケーキが自力で立った。良好:僅かにケーキが流れた。不良:ケーキが流れてしまった。
【0091】
○比較例1及び同2(汚泥脱水剤の用途)
高分子凝集剤として、実施例1と同様の方法で、下記表2に示す組成物(BL−1)を調製した。
高分子凝集剤として、下記表3に示す凝集剤を使用する以外は、実施例1と同様にして汚泥の脱水処理を行った。
実施例1と同様に評価した結果を、表3に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
実施例の高分子凝集剤は、各種汚泥脱水性能に優れるものであった。
これに対して、比較例1で使用した高分子凝集剤BL−1は、SBL−1の澱粉未変性ブレンド体に相当するものであるが、攪拌と続けるとフロックが破壊されやすく、その結果として各種脱水性能が不十分なものであった。比較例2で使用した高分子凝集剤CO−1は、SBL−1と同じ単量体組成であるが単一の両性高分子からなり、澱粉変性されていないものであるが、これもフロックの造粒性に劣り、各種脱水性能が不充分なものであった。
【0095】
〇実施例2(汚泥脱水剤の用途)
両性高分子としてSCR−1の50部とSCR−2の50部を使用し、これらを混合して組成物を製造し、これを高分子凝集剤(以下SBL−2という)として使用した。
製紙汚泥(SS:13,600mg/l、VSS:10,000mg/l、繊維分4100mg/l)200mlを使用し、高分子凝集剤の0.2%水溶液を汚泥に対して、30ppmを添加する以外は、実施例1と同様の方法でフロックを形成させた。
実施例1と同様に評価した結果を、表5に示す。
【0096】
○比較例3及び同4(汚泥脱水剤の用途)
高分子凝集剤として、実施例2と同様の方法で、下記表4に示す組成物(BL−2)を調製した。
高分子凝集剤として、下記表5に示す凝集剤を使用する以外は、実施例2と同様にして汚泥の脱水処理を行った。
実施例2と同様に評価した結果を、表5に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
実施例の高分子凝集剤は、各種汚泥脱水性能に優れるものであった。
これに対して、比較例3で使用した両性高分子凝集剤BL−2は、SBL−2の澱粉未変性ブレンド体に相当するものであるが、攪拌を続けるとフロックが破壊されやすく、その結果として各種脱水性能が不十分なものであった。比較例4で使用したC−1はSBL−2と同じ単量体組成であるが単一の両性高分子からなり澱粉変性されていないものであるが、これもフロックの造粒性に劣り、各種脱水性能が不十分なものであった。
【0100】
〇実施例3(歩留向上剤の用途)
歩留向上剤として、SBL−1の0.05質量%を含む水溶液を使用した。
脱墨古紙及び広葉樹クラフトパルプを、離解、叩解し、脱墨古紙(50SS%)と広葉樹クラフトバルプ(50SS%)とからなる固形分1%のパルプスラリー(以下原料パルプスラリーという)を使用した。尚、古紙及びパルプの離解は、1%の試料を使用する以外は、JIS P 8121に準拠したカナダ標準ろ水度(カナディアン スタンダード フリーネス、以下CSFという)で350mlとなるまで行った。
原料パルプスラリーに、1000rpmで攪拌しながら、下記[1]〜[5]の成分を30秒おきにこの順で添加し、ダイナミックドレネージジャー法にて総歩留率を測定した。又地合性は歩留向上剤添加後のパルプスラリーを使用して、熊谷理機工業(株)製角型ブロンズスクリ−ンにより抄紙し、角型シートマシーンプレスにてプレス後、オートドライヤー100℃にて乾燥して出来た紙の地合をフォーメーションテスターによって地合指数(数値大程良好)を測定した。
得られた結果を表6に示す。尚、パルプスラリーの最終pHは7.9であった。
【0101】
[1]軽質炭酸カルシウム:20%(パルプスラリー中のパルプ固形分に対する割合。以下、単に「対パルプ」と表す)
[2]カチオン澱粉:0.3%(対パルプ)
[3]硫酸バンド:1.7%(対パルプ)
[4]紙力増強剤〔DAC/AA/AM=20/10/70(モル比)の共重合体の15%水溶液。粘度;3500mPa.s〕:0.5%
[5]歩留向上剤:250ppm(対パルプ)
【0102】
〇比較例5及び同6(歩留向上剤の用途)
歩留向上剤として表4に示したものを使用した以外は実施例3と同様の方法により歩留向上剤としての性能を評価した。得られた結果を表4に示す。
【0103】
【表6】

【0104】
表6の結果より、本発明の歩留向上剤は、総歩留率と地合性が共に優れているのに対し、比較例5及び同6では、総歩留率又は地合性のいずれかが不十分なものであった。
【0105】
○実施例4(歩留向上剤の用途)
歩留向上剤として、SBL−2の0.05質量%を含む水溶液を使用し、脱墨古紙パルプを、離解、叩解し、脱墨古紙(100SS%)で固形分1%のパルプスラリーを使用した以外は、実施例3と同様の方法により抄紙を行い、評価した。
得られた結果を表7に示す。尚、パルプスラリーの最終pHは7.9であった。
【0106】
〇比較例7及び同8(歩留向上剤の用途)
歩留向上剤として表7に示したものを使用した以外は実施例4と同様の方法により歩留向上剤としての性能を評価した。得られた結果を表7に示す。
【0107】
【表7】

【0108】
表7の結果より、本発明の歩留向上剤は、総歩留率と地合性が共に優れているのに対し、比較例7及び同8では、総歩留率又は地合性のいずれかが不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の組成物は、高分子凝集剤として好ましく利用でき、特に汚泥脱水剤及び歩留向上剤としてより好ましく利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類の存在下に、カチオン性ラジカル重合性単量体とアニオン性ラジカル重合性単量体を重合させて得られた2種以上の両性水溶性高分子を含む組成物であって、前記高分子として、下記式(1)を満たす両性高分子(以下両性高分子1という)と、下記式(2)を満たす両性高分子(以下両性高分子2という)又は下記式(3)及び式(4)を満たす両性高分子(以下両性高分子3という)を併用してなる組成物。
〔式1〕
Ca1/An1≧1 ・・・・(1)
〔式2〕
Ca2/An2<1 ・・・・(2)
〔式3〕
Ca3/An3≧1 ・・・・(3)
〔式4〕
│(Ca1−An1)−(Ca3−An3)│≧1.5 ・・・・(4)
〔尚、上記式(1)〜(4)において、Ca1及びAn1は、それぞれ、両性高分子1における全構成単量体の合計量を100モルに換算した場合における、全カチオン性単量体量及び全アニオン性単量体量のモル数を表し、Ca2及びAn2は、それぞれ前記と同様に、両性高分子2における全カチオン性単量体量及び全アニオン性単量体量のモル数を表し、Ca3及びAn3は、それぞれ前記と同様に、両性高分子3における全カチオン性単量体量及び全アニオン性単量体量のモル数を表す。〕
【請求項2】
請求項1記載の組成物を含有してなる高分子凝集剤。
【請求項3】
請求項2記載の高分子凝集剤からなる汚泥脱水剤。
【請求項4】
汚泥に対して、請求項3に記載の汚泥脱水剤を添加した後、脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法。
【請求項5】
請求項2記載の高分子凝集剤からなる歩留向上剤。
【請求項6】
紙料に対して、請求項5記載の歩留向上剤を添加した後、抄紙することを特徴とする抄紙方法。

【国際公開番号】WO2005/068552
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517122(P2005−517122)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000635
【国際出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】