説明

両面冷却型半導体パワーモジュール

【課題】 両面冷却型の半導体パワーモジュールにおいて、半導体チップの放熱性や信頼性の低下を抑えつつ、溢れたはんだによるリードフレーム間のショートや半導体チップ面内でのショートの発生を防止する。
【解決手段】 半導体素子と、第1の突起面が半導体素子の一方の面に形成された電極部とはんだで接続されている第1のリードフレームと、半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されている第2のリードフレームと、第1のリードフレームと熱的に接続された第1の放熱部材と、第2のリードフレームと熱的に接続された第2の放熱部材とを備えた両面冷却型半導体パワーモジュールにおいて、第1の突起面は半導体素子の一方の面に形成されたはんだ接続する電極部よりも小さい形状を有し、第1の突起面と電極部との形状の寸法差が第1の突起面の方向により異なるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リード端子に対し半導体部品をはんだにより接続して構成し、半導体部品の両面を冷却するする両面冷却型半導体パワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電力の変換や制御を行う半導体パワーモジュールでは、従来、チップの片面を基板上にはんだ接続し、もう一方の面をワイヤボンディングにより接続することにより、電気的な接続及び基板への放熱を実現していた。ところが、半導体パワーモジュールの小型化や高放熱化の要求から、半導体チップ(半導体素子)の表裏両面をはんだ接続し、半導体チップの両面から冷却する方法も採用されるようになってきた。半導体チップの両面から冷却する方法を採用している半導体パワーモジュールの例が特許文献1や特許文献2、特許文献3に記載されている。この両面冷却方式の半導体パワーモジュールでは、半導体チップをヒートシンクにはんだ接続した後モールド樹脂により封止した構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−77464号公報
【特許文献2】特開2005−244166号公報
【特許文献3】特開2003−110064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、半導体パワーモジュールの放熱性をより高くするために、半導体チップを熱伝導率の高い金属材料により作られた導体板にはんだ接続し、この導体板を放熱ベースに接続する構成を採用している。この導体板を低コスト化するために薄い板状の材料を用いてプレス加工により形成した場合(以下、これをリードフレームと呼ぶ)、プレス加工上の理由から加工による変形や反り量のばらつきが数十μmと大きいため寸法公差が大きくなる。
【0005】
半導体チップの冷却効率を上げるために、このような変形や反りによる寸法のばらつきが大きいリードフレームを半導体チップの両面にはんだ接続する場合、リードフレームの寸法公差を考慮し、接続箇所に供給するはんだ量を設計する必要がある。リードフレームの変形や反りによる寸法公差が大きい場合、リードフレームと半導体チップの距離、及びリードフレームともう一方のリードフレームの距離のばらつきも大きくなる。上記距離が大きい場合にも未接続とならないようなはんだ量を供給する必要があるが、これらの距離が小さくなるリードフレームの組み合わせの場合にはリードフレームと半導体チップの間に供給したはんだがリードフレームと半導体チップの間から溢れるため、この溢れたはんだにより半導体チップの両方のリードフレームがショートしたり、半導体チップ上に形成された他の電極部とショートすることが懸念される。
【0006】
このショートを回避するために有効な方法として、リードフレームのはんだ接続部に突起やスペーサを設ける方法が考えられる。ただし、この形成する突起やスペーサに関しては、反り量のばらつきや供給するはんだ量、接続後の放熱性、信頼性を考慮して寸法を設計する必要がある。放熱性、信頼性を重視する場合、突起やスペーサの面積を大きくする必要があるが、この場合チップ電極との寸法差が小さくなり、はんだフィレットが小さくなる。溢れたはんだが表面張力により集まりやすくなり、ショートが発生しやすくなる可能性がある。一方、この問題の回避を考え、突起やスペーサの面積を小さくした場合、放熱性や信頼性の低下が懸念される。
【0007】
特許文献1には、半導体チップから発生した熱を導体板を介して放熱ベースに伝達する半導体パワーモジュールの構成が記載されているが、半導体チップの両面に導体板を半田で接続するときに、半導体チップの両面に供給したはんだ半導体チップの脇にあふれ出て両面の導体板の間で接続したり、半導体チップの一方の面の側に形成された他の電極パッドと接続することにより半導体チップ回路の短絡(ショート)を発生させてしまうのを防止することについては配慮されていない。
【0008】
また、特許文献2には、ヒートシンクブロックをリードフレームと半導体チップの間に設けた構成が記載されている。しかし特許文献1には、ヒートシンクブロックを半導体チップの一方の側に設けた構成しか開示しておらず、ヒートシンクブロックを半導体チップの両方の側に設けることによって顕在化してくる上記した問題を解決することについては配慮されていない。
【0009】
本発明の課題は、半導体チップの放熱性や信頼性の低下を最低限に抑えつつ、溢れたはんだによるリードフレーム間のショートや半導体チップ面内でのショートの発生を防止するはんだ接続部構造を有する両面冷却型の半導体パワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した従来技術の課題を解決するために、本発明では、半導体素子と、第1の突起面を有してこの第1の突起面が半導体素子の一方の面に形成された電極部とはんだで接続されている第1のリードフレームと、半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されている第2のリードフレームと、第1のリードフレームと熱的に接続された第1の放熱部材と、第2のリードフレームと熱的に接続された第2の放熱部材とを備えた両面冷却型半導体パワーモジュールにおいて、第1のリードフレームの第1の突起面は半導体素子の一方の面に形成されたはんだ接続する電極部よりも小さい形状を有し、第1の突起面と電極部との形状の寸法差が第1の突起面の方向により異なるように構成した。
【0011】
また、上記した従来技術の課題を解決するために、本発明では、半導体素子と、第1の突起面を有してこの第1の突起面が半導体素子の一方の面に形成された電極部とはんだで接続されている第1のリードフレームと、半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されている第2のリードフレームと、第1のリードフレームと熱的に接続された第1の放熱部材と、第2のリードフレームと熱的に接続された第2の放熱部材とを備えた両面冷却型半導体パワーモジュールにおいて、第1のリードフレームの第1の突起面とこの第1の突起面にはんだ接続された半導体素子の電極部との間にははんだフィレットが形成され、このはんだフィレットの大きさが、第1の突起面の方向により異なるように形成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、はんだ接続部にはんだフィレットが形成される方向を制御することができるので、半導体チップを両面冷却するタイプの半導体モジュールにおいて、半導体チップの両面間の短絡の発生や、一方のチップ面内でリードフレームとのはんだ接続に与らない電極パッドとの短絡の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】チップの両面から冷却する方法を採用しているモジュールの斜視図である。
【図1B】チップの両面から冷却する方法を採用しているモジュールの断面図である。
【図2】本発明におけるはんだ接続部の基本構造を示した模式図である。
【図3】リードフレームとはんだ接続する半導体チップの電極面に対してリードフレームの凸状はんだ接続部を投影し状態を示す半導体チップの平面図である。
【図4A】リードフレームの凸状はんだ接続部を半導体チップの電極面にはんだ接続した状態を図3のL−L線に沿った断面を示す断面図である。
【図4B】リードフレームの凸状はんだ接続部を半導体チップの電極面にはんだ接続した状態を図3のM−M線に沿った断面を示す断面図である。
【図5】上下異形材リードフレームの加工方向の組み合わせにより、一方のリードフレームの反りの影響を低減できるメカニズムを示した模式図を示す表である。
【図6】実施例1において検討したサンプルに関し、チップの電極面に対してリード凸部はんだ接続面を投影し、リードの凸部はんだ接続面の寸法とチップ電極面の寸法を示した表である。
【図7】実施例1において、ショート発生数についてまとめた結果を示す表である。
【図8】実施例2において検討したサンプルに関し、チップの電極面に対してリード凸部はんだ接続面を投影した状態を示す半導体チップの平面図である。
【図9】実施例2において、ショート発生数についてまとめた結果を示す表である。
【図10】実施例3において、検討に用いたリードの概要を示した表である。
【図11】実施例3において、ショート発生数についてまとめた結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
チップの両面を冷却する方法を採用している両面冷却型半導体パワーモジュールの構成の外観を示す斜視図を図1Aに、また、図1AにおけるN−N断面図を図1Bに示す。
【0015】
図1A及び図1Bに示した構成において、両面冷却型半導体パワーモジュール100は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やダイオードなどの半導体チップ101、半導体チップ101の裏面側と接続する第1のリードフレーム102、第1の絶縁部材103、フィン104が多数形成された第1の放熱部材105、半導体チップ101の表面側と接続する第2のリードフレーム106、第2の絶縁部材107、フィン108が多数形成された第2の放熱部材109、半導体チップ101を含む第1のリードフレーム102と第2のリードフレーム106との間の空間に充填された第一の封止樹脂110、第一の封止樹脂110が充填された第1のリードフレーム102と第2のリードフレーム106とを挿入して第1の絶縁部材103と第2の絶縁部材107とが熱圧着されたモジュールケース111、モジュールケースの内部の隙間に充填された第二の封止樹脂112、バスバー121、ゲートピン122、中間バスバー123、バスバー121とゲートピン122と中間バスバー123との下部を覆う補助モールド体124、補助モールド体124をモジュールケース111に固定するネジ125を備えて構成されている。
【0016】
半導体チップ101と、第1のリードフレーム102及び第2のリードフレーム106との接続部の構成を図2に示す。半導体チップ101は、一方の101−1がIGBT、他方の101−2がダイオードである。以下、IGBT101−1とダイオード101−2とを組にして半導体チップ101と記す。半導体チップ101は、IGBT101−1が裏面側を第1のリードフレーム102とはんだ10−1aで接続し、表面側を第2のリードフレーム106とはんだ10−1bで接続している。IGBT101−1の表面側と接続する第2のリードフレーム106に凸状のはんだ接続部106−1aを形成している。一方、ダイオード101−2は裏面側を第1のリードフレーム102とはんだ10−2aで接続し、表面側を第2のリードフレーム106とはんだ10−2bで接続している。ダイオード101−2の表面側と接続する第2のリードフレーム106に凸状のはんだ接続部106−2aを形成している。
【0017】
本発明では、この凸状のはんだ接続部106−1a及び106−2aにおけるはんだ10−1b,10−2bの接続面106−1b,106−2bに関し、この接続面106−1b,106−2bの1辺の長さと、これに対向する半導体チップ101(IGBT101−1,ダイオード101−2)の電極面における前記凸部はんだ接続部106−1a,106−2aのはんだ接続面106−1b,106−2bの1辺に平行な1辺の長さとの差が、前記凸状のはんだ接続部106−1a,106−2aの接続面106−1b,106−2bの1辺と直角に交わる他辺の長さと、これに対向する半導体チップ101−1,101−2の電極面における前記凸状のはんだ接続部106−1a,106−2aの接続面106−1b,106−2bの他辺に平行な1辺の長さとの差よりも大きくなるように前記凸状のはんだ接続部106−1a,106−2aの接続面106−1b,106−2bの寸法を設定することにより、前記凸状のはんだ接続部106−1a,106−2aの接続面106−1b,106−2bと半導体チップ101−1,101−2の表面側101−1a,101−2bとの間から溢れるはんだ10−1a,10−2aの流出方向(はんだ10−1a,10−2aの濡れ方)を制御し、半導体チップ101(IGBT101−1,ダイオード101−2)の両側に供給されたはんだ10−1aとはんだ10−1b,はんだ10−2aとはんだ10−2bとのショートを防止するものである。
【0018】
第2のリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aの寸法と半導体チップ101(IGBT101−1)の表面側101−1aに形成されている電極部寸法について図3に示す。図3は半導体チップ101(IGBT101−1)の表面側101−1aに形成された電極面(主電極パッド101−1c及び制御用電極パッド101−1d)に対し、第2のリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aのはんだ接続面106−1bを投影(図3において、主電極パッド101−1cの中のハッチングされている領域106−1c)した図である。
【0019】
図3において、半導体チップ101(IGBT101−1)をはんだ接続するための主電極パッド101−1cのX方向の寸法をE1,Y方向の寸法をE2,主電極パッド101−1cの上に投影された第2のリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aのはんだ接続面106−1bの投影領域のX方向の寸法をD1,Y方向の寸法をD2とした時に、E1−D1>E2−D2となるよう凸状のはんだ接続部106−1aのはんだ接続面106−1bの寸法を決定する。主電極パッド101−1cの寸法とリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aのはんだ接続面106−1bの寸法を上記のような関係になるように設定すると、半導体チップ101(IGBT101−1)とリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aとをはんだ10−1bで接続したときに、図4Aに示すように、図3のL−L線に沿った断面においてリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1b(図3のハッチングした領域106−1c)のY方向の辺:106−1aY1に沿った方向のほうが、図4Bに示すように図3のM−M線に沿った断面におけるX方向の辺:106−1aX1に沿った方向よりもより多くのはんだ10−1bが半導体チップ101−1とリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aとの間から外にはみ出して、リードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aの側面に付着してフィレット10−1cが形成される。これと比べて、図4Bで形成されるフィレット10−1dは小さい。
【0020】
このように、半導体チップ101(IGBT101−1)のはんだ接続領域とリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aのはんだ接続領域の寸法差が異なるように設定しておくことにより、はんだ10−1aで接続するときに半導体チップ101(IGBT101−1)とリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aとの間からはみ出したはんだ部材をリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aの側面の上記寸法差が大きい側に流れ出る量を多くし、上記寸法差が小さい側に流れ出る量を少なくするように制御することができる。その結果、上記寸法差が大きい側の凸状のはんだ接続部106−1aの側面の側に、上記寸法差が小さい側の凸状のはんだ接続部106−1aの側面の側に比べてより大きなはんだフィレットが形成される。
【0021】
第2のリードフレーム106の構造の都合又は、半導体チップ101(IGBT101−1)の表面側の面101−1aの電極パッドの配置により、逆にE2−D2>E1−D1としてもよいが、図3のように半導体チップ101(IGBT101−1)の表面側101−1aに制御用電極パッド101−1dなどの他の電極を有する場合、その電極面(図3の場合には制御用電極パッド101−1d)の存在する向きの辺(図3の場合にはX方向の辺)に関し、はんだフィレットが短くなるようE1−D1>E2−D2とする方が好適である。また、半導体チップ101(IGBT101−1)の表面側101−1aとリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106−1aとの間に供給したはんだ10−1bの流れをより効果的に制御したい場合には、(E1−D1)/(E2−D2)の値を1.5以上とするのが望ましい。
【0022】
上記した例においては、半導体チップ101としてIGBT101−1をリードフレーム106及び102とはんだ接続する例を説明したが、ダイオード101−2をリードフレーム106及び102とはんだ接続する場合にも、同様な寸法関係とすればよい。
【0023】
リードフレーム106の上に凸状のはんだ接続部106−1aを作成する方法としては、プレス加工による成形、スペーサ接続、異形材を用いた成形等がある。これらの方法のうち、プレス加工については加工後の寸法精度に難点があるため、接続部におけるはんだ厚の設計難易度が高くなると考えられる。また、スペーサ接続では、上述のように接続部の数が増加するため、接続プロセスが複雑化するデメリットがある。よって異形材を用いた成形が好適と考えられる。
【0024】
異型材を用いてリードフレーム106及び102を形成する場合について、図5を用いて説明する。異形材を用いた成形では、押し出し加工、あるいは引き抜き加工により例えばリードフレーム106に凸部506aを形成した素材に対し、プレスによる追加工を行いリードフレーム106の外形、及び半導体チップの電極と接続するための凸状のはんだ接続部106aを形成する。リードフレーム102についても同様に加工して凸状のはんだ接続部102aを形成する。このとき、リードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aは他方のリードフレーム102の凸状のはんだ接続部102aと重なる部分に設ける。このとき、このリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aを形成させるための素材の異形材加工方向111が、図5の欄501に示すような、他方のリードフレーム102の異形材加工方向112と平行な向きではなく、欄502に示すように、他方のリードフレーム102の異形材加工方向512に対して直角又は直角に近い方向513とするのが望ましい。
【0025】
この場合、リードフレーム102および106の加工により発生する反り量のばらつきが大きいとしても、図5の欄501に示すような、素材の異形材加工方向511と異形材加工方向512とが平行な場合のリードフレーム102と106との間隔D1のばらつき幅と比べて、図5の欄502に示すような、素材の異形材加工方向513と異形材加工方向512とが異なる場合にはリードフレーム102と106との間隔D2のばらつき幅を低減できる。これにより、半導体チップ101とリードフレーム106との間から流出したはんだが、もう一方のリードフレーム102と接触しにくくなり、ショートの発生を防止できる。特に、本実施例のように、リードフレーム102と106との間に複数の半導体チップ101を並列に有する場合には、ばらつき幅低減による効果が顕著である。異形材は圧延により形成するため、比較的安価に凸部を形成可能である。また、リードフレームの構造に関し、この引き抜き材の引き抜き方向の制約は無い。よって一方のリードフレームに対しもう一方のリードフレームの引き抜き方向を変えることは、コストアップの要因とならない。
【0026】
また、一方のリードフレーム102の異形材加工方向と、もう一方のリードフレーム106の異形材加工方向が90°前後で交わるようにすると、リードフレーム102と106との凸状のはんだ接続部102aと106aとの交わる部分を最も小さく設計でき、溢れたはんだによるショートのリスクを最も軽減できる。
【0027】
さらには、流出したはんだをもう一方のリードフレームに近接させないよう、はんだだまりとして溝や窪み等を作成してもよい。
【0028】
この他、ショートを防止するために、はんだの流出量を低減する工夫が必要である。リードフレーム成形時の加工により、はんだ接続部近傍での反りやうねりなどのばらつきを増大させるような加工は低減すべきである。
【0029】
はんだ材に関しては、一般的なSn系はんだが好適である。濡れ性を向上させる場合には、Sn−Ag系のはんだを用いてもよい。半導体チップのNiメタライズ消失が問題になる場合には、Sn−Cu系のはんだを用いても良い。
【0030】
はんだ接続方法については、従来技術のダイボンディングプロセスのうち、はんだシート、はんだワイヤ供給、溶融したはんだの直接供給等が望ましい。半導体チップあるいはリードフレーム上に錘を載せる、チップやリードフレームを供給するときにスクラブさせる等の方法を付加しても良い。
【0031】
接続条件に関しては、採用するはんだの融点直上から350℃程度までの間から選定すればよい。濡れ性を向上させる場合には高温側、Niメタライズ消失が問題になる場合には低温側の温度が好適である。接続時の雰囲気は、大気中よりもN2雰囲気の方が望ましい。さらに濡れ性を向上させるためには、H2や蟻酸等の還元雰囲気とすべきである。
【0032】
リードフレームの表面処理に関しては、何も施さないCu無垢の状態でも良い。ただし、防錆剤等の処理を行っている場合には、はんだの濡れ性が低下する恐れがあるため、接続条件の適正化や防錆剤除去等の対策が必要である。
【0033】
濡れ性向上やはんだ接続界面の信頼性向上を目的とし、リードフレーム102及び106にめっきを施しても良い。
【0034】
尚、図2、図4A,B及び図5に示した構成においては、下側のリードフレーム102に凸状のはんだ接続部102aを形成した構成について説明したが、下側のリードフレーム102には凸状のはんだ接続部102aを形成せずに平坦な板状のままで用いても良い。但し、その場合にも、材料として異形材を用いて、半導体チップ101とはんだ接続したときに、押出し加工又は引き抜き加工の方向が上側のリードフレーム106の押出し加工又は引き抜き加工の方向と直交するように組合わせる。
【0035】
以上に説明したしたように、本実施形態による半導体パワーモジュールのはんだ接続部において、はんだフィレットはリードフレーム凸部に対しある1辺とこれに直角に交わる他辺とで異なる長さに形成される。このとき、半導体チップとリードフレームとの間からはんだが溢れた場合でも、寸法効果による表面張力の影響の差のため、はんだはフィレットの長い部分へ流出しようとする。即ち、はんだはフィレットの長い凸部の側に流出し、フィレットの短い凸部の側への流出は少なく、流出する方向を制御することができる。
【0036】
はんだのショートを防止する場合、単純には全ての辺に関して凸部寸法を小さく(はんだフィレットを長く)作成する方法が考えられるが、この場合放熱性や信頼性の低下が懸念される。パワーモジュールのはんだ接続部を上記に説明したように構成することにより、チップの放熱性や信頼性の低下を最低限に抑えつつ、溢れたはんだによるリードフレーム間のショートを容易に防止するはんだ接続部構造を得ることができる。
【実施例1】
【0037】
本発明の実施例を以下に示す。今回検討したサンプルに関し、リードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aと半導体チップ101の電極面の寸法について図6に示す。半導体チップ101の表裏面に接続するリードフレーム102及び106は平板を切削加工し作成した。外形寸法が14mm×12.5mm(厚さ0.1mm、電極面611のサイズ11.6mm×11.7mm)の半導体チップ101に対し、欄601にはリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面612を正方形(11mm角)、欄602にはリードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面613を長方形(長辺11mm、短辺10mm)とした。
【0038】
はんだ10a及び10bはシート状のSn3Ag0.5Cuはんだを用いた。はんだシート10a及び10bは0.15mmとし、意図的にはんだをもらせるため半導体チップ101と上下リードフレーム102及び106の間のギャップをそれぞれ0.1mmとした。リフローは真空リフロー装置を用い、250℃ピークの温度プロファイルを用いて接続した。
【0039】
それぞれ20個のサンプルに対しはんだ接続を行い、ショート発生の有無を確認した。ショート発生数についてまとめた結果を図7に示す。欄701に示したリードフレーム106のはんだ接続面611を正方形とした場合、ショートが発生していたが、欄702に示したはんだ接続面612を長方形としたリードフレーム602の場合ショートは発生しなかった。
【実施例2】
【0040】
半導体チップ101の電極面811の寸法を一定にして、リードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面812の寸法を変化させた場合のショート防止効果について検討した。今回検討したサンプルに関し、リードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面812と半導体チップ101の電極面811の寸法について図8に示す。半導体チップ101の表裏面に接続するリードフレーム102及び106は異形材を用いて作成した。外形寸法が14mm×12.5mm(厚さ0.1mm、電極面サイズ11.6mm×11.7mm)の半導体チップ101に対し、リードフレーム106の凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面812を長方形とし、その辺の長さの組み合わせを11mm×11.2mm、11mm×11mm、11mm×10.8mm、11mm×10.6mmとした。はんだ10a及び10bはシート状のSn3Ag0.5Cuはんだを用いた。はんだシート10a及び10bは0.15mmとし、意図的にはんだをもらせるためチップと上下リードフレーム102及び106の間のギャップをそれぞれ0.1mmとした。リフローは真空リフロー装置を用い、250℃ピークの温度プロファイルを用いて接続した。
【0041】
それぞれ20個のサンプルに対しはんだ接続を行い、ショート発生の有無を確認した。20個のサンプルに対するショート発生数について、図3中に示す(E1−D1)/(E2−D2)の値とともにまとめた結果を図9に示す。凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面812に関し、欄903の11mm×10.8mmの場合、及び欄904の11mm×10.6mmの場合に欄901及び欄902に示した結果と比較してショートの発生率が大きく低下していることから、チップの電極面に対し、(E1−D1)/(E2−D2)の値を1.5以上とした場合にショート発生割合が少ないことが分かった。
【実施例3】
【0042】
異形材を用いた場合のショート抑制効果について検討した。今回検討したサンプルに関し、リードフレーム102’及び106’の概要を図10に示す。今回は半導体チップ101として、2種類の半導体チップを用いた。半導体チップの表裏面に接続するリードフレーム102’及び106’は異形材を用いて作成した。2種類の半導体チップのうち、大きい方の半導体チップは14mm×12.5mm(厚さ0.1mm、電極面サイズ11.6mm×11.7mm)であり、欄1001に示すように、リードフレーム106’の凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面1011の幅を、長辺で11mm、短辺で10.8mmとした。もう一方の小さい方の半導体チップに関して、接続後のはんだフィレットの長さが大きい方の半導体チップのフィレットと同じ寸法となるよう、凸状のはんだ接続部106aのはんだ接続面1012の寸法を決定した。欄1001に示した上側のリードフレーム106’に対してその引き抜き方向が平行となる向き、及び垂直となる向きで欄1002に示した下側のリードフレーム102’を作成し、それぞれを大きい半導体チップ及び小さい半導体チップとはんだ接続した。
【0043】
はんだ10a及び10bはシート状のSn3Ag0.5Cuはんだを用いた。はんだシート10a及び10bは0.15mmとし、意図的にはんだをもらせるため半導体チップと上下リードフレーム102’と106’との間のギャップをそれぞれ0.1mmとした。リフローは真空リフロー装置を用い、250℃ピークの温度プロファイルを用いて接続した。
【0044】
それぞれ20個のサンプルに対しはんだ接続を行い、ショート発生の有無を確認した。その結果、図11に示すように、欄1101に示した引き抜き方向が平行となる上下リードフレーム102’と106’との組み合わせでは溢れたはんだによる上下のリードのショートが発生したが、欄1102に示した引き抜き方向が垂直となる上下リードフレーム102’と106’との組み合わせではショートは発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
今後の高度情報化社会において電気エネルギの需要は高く、また、環境問題における省エネや、CO2排出の低減を目的とした化石燃料削減によるオール電化等の要求から、電力を高効率で使用するパワーエレクトロニクスの役割がますます重要になると考えられる。パワーエレクトロニクス分野においてはモジュールの小型化、高放熱化の要求が大きく、これらの検討が必須である。本発明はチップの両面をはんだ接続する全てモジュールに対し有効であると考えられる。
【符号の説明】
【0046】
10a,10b…はんだ 100…パワーモジュール 101…半導体チップ 102、106…リードフレーム 103,107…絶縁部材 105,109…放熱部材 111…モジュールケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、
第1の突起面を有して該第1の突起面が前記半導体素子の一方の面に形成された電極部とはんだで接続されている第1のリードフレームと、
前記半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されている第2のリードフレームと、
前記第1のリードフレームと熱的に接続された第1の放熱部材と、
前記第2のリードフレームと熱的に接続された第2の放熱部材と
を備えた半導体パワーモジュールであって、
前記第1のリードフレームの第1の突起面は前記半導体素子の一方の面に形成されたはんだ接続する電極部よりも小さい形状を有し、前記第1の突起面と該電極部との形状の寸法差は、前記第1の突起面の方向により異なることを特徴とする両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項2】
前記第2のリードフレームは第2の突起面を有して該第2の突起面が前記半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されていることを特徴とする請求項1記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項3】
前記第1のリードフレームの第1の突起面と前記半導体素子の一方の面に形成されたはんだ接続する電極部とはそれぞれ矩形又は矩形に近い形状を有し、前記第1の突起面の矩形の1つの辺と該第1の突起面の矩形の1つの辺に対応する前記電極部の1つの辺との長さの差は、前記第1の突起面の矩形の前記1つの辺に隣接する辺と該隣接する辺に対応する前記電極部の辺との長さの差よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項4】
前記半導体素子の前記第1のリードフレームの第1の突起面とはんだ接続される面の側には、前記第1の突起面の矩形の前記1つの辺に隣接する辺に対応する前記電極部の辺に沿って前記第1の突起面とはんだ接続される電極とは異なる電極が形成されていることを特徴とする請求項3記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項5】
前記第1のリードフレームと前記第2のリードフレームとはそれぞれ異形材を押出し加工又は引き抜き加工により形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項6】
前記第1のリードフレームと前記第2のリードフレームとは互いに前記異形材の押出し加工又は引き抜き加工の加工方向が異なることを特徴とする請求項5記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項7】
前記第1のリードフレームと前記第2のリードフレームとの間に、複数の半導体素子をはんだにより接続して有することを特徴とする請求項6記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項8】
半導体素子と、
第1の突起面を有して該第1の突起面が前記半導体素子の一方の面に形成された電極部とはんだで接続されている第1のリードフレームと、
前記半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されている第2のリードフレームと、
前記第1のリードフレームと熱的に接続された第1の放熱部材と、
前記第2のリードフレームと熱的に接続された第2の放熱部材と
を備えた半導体パワーモジュールであって、
前記第1のリードフレームの第1の突起面と該第1の突起面にはんだ接続された前記半導体素子の電極部との間にははんだフィレットが形成され、該はんだフィレットの大きさが、前記第1の突起面の方向により異なることを特徴とする両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項9】
前記第2のリードフレームは第2の突起面を有して該第2の突起面が前記半導体素子の前記一方の面と反対側の面に形成された電極部とはんだで接続されていることを特徴とする請求項8記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項10】
前記第1のリードフレームの第1の突起面と前記半導体素子の一方の面に形成されたはんだ接続する電極部とはそれぞれ矩形又は矩形に近い形状を有し、前記第1の突起面の矩形の1つの辺と該第1の突起面の矩形の1つの辺に対応する前記電極部の1つの辺との長さの差は、前記第1の突起面の矩形の前記1つの辺に隣接する辺と該隣接する辺に対応する前記電極部の辺との長さの差よりも大きく、該長さの差が大きい前記第1の突起面の矩形の1つの辺と該第1の突起面の矩形の1つの辺に対応する前記電極部の1つの辺との間には大きいフィレットが形成されており、前記長さの差が小さい前記第1の突起面の矩形の前記1つの辺に隣接する辺と該隣接する辺に対応する前記電極部の辺との間には小さいフィレットが形成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。
【請求項11】
前記小さいフィレットが形成される前記第1の突起面の矩形の前記1つの辺に隣接する辺に対応する前記電極部の辺に沿って前記第1の突起面とはんだ接続される電極とは異なる電極が形成されていることを特徴とする請求項10記載の両面冷却型半導体パワーモジュール。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−69825(P2013−69825A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206785(P2011−206785)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】