説明

中和処理容器用材料

【課題】
潜熱回収型給湯器などの、排ガスから生じたドレン水を中和して排水するために、中和処理を行うための中和処理容器の材料を提供する。
【解決手段】
排ガスから潜熱を回収する際に生成したドレン水を中和する中和処理容器用材料であって、11〜25質量%のCrを含有する含Cr鋼を基材とし、基材の表面に5〜60g/mのZnを含有する被覆物が存在することを特徴とする中和処理容器用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱回収型給湯器などの、排ガスから生じたドレン水を中和して排水するために、中和処理を行うための中和処理容器の材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
京都議定書の発効により地球温暖化への関心も一段と高まり、環境汚染物質のみならず、温室効果ガスであるCO2の排出量削減への取組みも強く求められている。燃焼機器である以上、CO2の排出は必須であり、排出量削減には効率の改善により同一熱出力に対する燃料消費量を低減させることが最も有効であるが、現状の効率をさらに高めるためには、燃焼により生じた水蒸気を凝縮させ、その潜熱も回収する必要がある。ガス給湯ならびに石油焚き給湯機器ともにそれらの潜熱を回収して二次熱交換に利用して給湯や暖房などに利用する給湯システムが増加している。
【0003】
燃焼ガス中に含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物が凝縮水に溶解して強酸性溶液となるため、潜熱回収器で生じる強酸性凝縮水は、pH=3.0程度であり、そのままでは排水できない。水質汚濁防止法では、排水のpH=5.8〜8.6に規制されている。そのため、凝縮水を自動的に中和処理してから排水する装置が必要となる。このため、上述したような潜熱回収型給湯器には、中和剤として炭酸カルシウムや酸化マグネシウムを用いたドレン中和装置が備えられる。一般的に中和剤が充填された容器はドレン水や外気に対する耐食性が要求されるため、樹脂製のものが用いられる。
特許文献1には潜熱回収型給湯器等で発生する酸性の凝縮水に対して、中和能力を維持したままコンパクト化した装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−170011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドレン水中和装置は中和剤で充填されたドレン水路に古いドレン水が溜まる構造であるため、新しいドレン水と古いドレン水との入れ替えがうまくいかず、古いドレン水に邪魔されて新しいドレン水が中和剤と接触しにくくなっていた。この結果、十分な中和能力を得るためのドレン水と中和剤との接触面積を確保するために、ドレン水路を長くしなければならず、装置が大型化してしまい、給湯器内での設置場所を確保することが大変であった。また、樹脂製の中和容器は強度不足を補うために容器を厚肉化する必要があるために装置が重量化してしまう。給湯機器はマンションなど集合住宅での使用も多くなったことから小型、軽量化が求められており、中和装置容器にもよりコンパクトにすることが望まれている。
【0006】
しかし、前述の特許文献1のように中和処理槽の構造を複雑化することは製造性が低下し、製造コストの上昇を招くとともに充填する中和剤の量を激的に減らすことは困難であり、軽量化に対しては必ずしも充分ではない。中和処理槽の小型、軽量化のためには中和剤を減らすあるいは用いらずとも、中和機能を有するような中和処理装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題を解決するために、中和処理容器を構成する材料にドレン水の中和能を付与する技術を検討した。さらに軽量化が図れるように肉厚が薄くて強度と耐食性を有する金属材料を調査、検討した。その結果、11〜25質量%Crを含むCr含有鋼の表面にZnを含有する被覆層が存在する場合にドレン水に対して中和効果が発現し、特に5〜60g/mのZn被覆層中にNi,Fe,Co,AlおよびMgの1以上を含有する場合にその効果が高くなることを見出した。
【0008】
本発明の具体的な構成は、以下の通りである。
請求項1に記載の発明は、潜熱回収型給湯器などにおいて、排ガスから潜熱を回収する際に生成したドレン水を中和する中和処理容器用材料であって、11〜25質量%のCrを含有する含Cr鋼を基材とし、基材の表面に5〜60g/mのZnを含有する被覆物が存在することを特徴とする中和処理容器用材料である。
請求項2に記載の発明は、表面のZnを含む被覆物がNi,Fe,Co,AlおよびMgの1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の中和処理容器用材料である。
【発明の効果】
【0009】
Znはドレン水などの低pH環境では容易に腐食する。Znをドレン水に接触させた場合に、Znの腐食にともないpH=3程度の水であればカソード反応で水の還元反応が起こり、水酸基が生成されるためにpHは上昇していく。さらに生成する腐食生成物中の水酸化亜鉛が解離することにより、pH緩衝作用を有する。Zn被覆層中にNi,Fe,Co,AlおよびMgの1種以上が存在する場合には、それらの金属種の加水分解反応における下限界pHが各金属種によって決まっており、pH=3より高い限界pHを示すことから、より中和反応に対しては有効にはたらく。またそれらの金属種と存在することにより腐食生成物の粘性が上がり、長期にわたって鋼板の表面に存在することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】煮沸結露試験条件
【図2】CCT条件
【図3】中和能評価条件
【図4】模擬凝縮水のpH変化
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における中処理容器の材料に11〜25質量%Crを用いることにより、Zn被覆層が犠牲溶解してもドレン水に対して耐食性を有するために、内面から穴あき腐食に至ることはない。また熱交換器周辺は外気より海塩粒子が侵入するために海岸近辺で長期間にわたって使用されると塩害腐食環境が形成され、構造によっては各種部品との隙間部分が存在し、隙間腐食の懸念もある。しかし、Zn被覆層を有する11〜25質量%Crはこれらの塩害腐食に対しても極めて耐食性、耐隙間腐食性を有する。Znの腐食生成物の防食作用はCr含有鋼の隙間腐食を抑制するのに極めて有効である。隙間腐食においては(1)隙間内外の酸素濃淡電池に起因し、(2)隙間内の腐食が進行することにより溶解したCrイオンが加水分解反応を起こす際pHが低下し、隙間内はより厳しい腐食環境となり、(3)さらに電気的中性を保つために隙間外のClが隙間内に侵入するため、Cl濃度の濃縮が生じる。隙間内にZnめっき層が存在するとその犠牲溶解は基より腐食生成物に変わることにより、(2)の隙間内pH低下を腐食生成物の緩衝作用により抑制できる。その結果、(3)のCl濃縮も生じない。したがって、特にCl濃度が濃縮するような隙間環境では容易に腐食生成物が生成されるため、隙間構造でも有効に作用できる。
【0012】
また金属材料であるために強度を有しており、薄肉化が可能であり、溶接による接合や絞り加工より容器を成型することが可能である。樹脂と比較するとリサイクルも容易であり、環境に優しい。少量の中和剤と併用することにより長期的に中和能を持続させることができる。
【0013】
本発明では11〜25質量%のCr含有鋼を中和処理槽の基材に用いる。Crは不動態皮膜の構成元素で耐孔食性、耐隙間腐食性および一般の耐食性を向上させる。またZn被覆層の腐食によるZnの腐食生成物による防食作用はCrが11質量%以上の場合に発現する。Cr含有量が多いほど容器の耐食性は向上するが、あまりCrを多くすると機械的性質や靱性を損ねステンレス鋼の製造コスト増に繋がる。したがって本発明ではCrの含有量を11〜25質量%とした。また、本発明におけるCr含有鋼にはそのCr含有量であれば材料は問わず、SUS304やSUS316などのJIS規格に定められた種々のステンレス鋼も本発明に係る基材として適用可能である。溶接時の鋭敏化抑制のためにTiやNbなどの安定化元素を添加してもよい。
【0014】
本発明におけるZn被覆層の形成は電気めっき、溶融めっき、蒸着めっきのいずれの方法でもよい。Zn被覆層で中和機能ならびに耐食性を持たせるのに有効な被覆量は5g/m2以上である。被覆量が多いほど中和能ならびに耐食性には有利であるが、被覆層が厚いと溶接によりZn脆化割れを起こし、強度の低下をもたらす。さらにコスト的にも不利になる。中和処理容器としての溶接加工性を得るためには、溶接によるZnの脆化割れを抑制するために、Zn被覆量を60g/m以下にする必要がある。
【0015】
Zn被覆層にはNi,Fe,Co,AlおよびMgの1種以上が存在してもよい。その含有量はZnに対して比率が少なくてもよく、20質量%以下の含有量が望ましい。前述のごとくそれらの金属種の存在によりZn被覆層の耐食性が向上するとともに、それらの各種金属のもつ加水分解時の下限界pHによりpHが下がりにくくなる。また腐食生成物に粘性をもたせる作用も有する。特にNiを含有する場合にその作用は顕著となる。Zn−Ni合金電気めっきの場合、Ni組成は5〜20%でよく、それ以上の組成でも防食作用は認められるがNiは異常型共析を起こすために高組成での電気めっきは困難となる。
【0016】
また本発明における中和処理容器用材料は容器以外にも容器内にドレン水の流路材としての利用も可能である。流路材に利用することによりZn被覆層の表面積が増え、中和能力が向上する。また内部に従来用いている中和剤を少量充填することも可能である。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例をあげて本発明の作用効果を具体的に示す。
[実施例1]
表1に示す化学成分を有する鋼を実験室的に溶製し、熱間圧延にて板厚3.0mmの熱延板を作製した。その後、板厚1.0mmにまで冷間圧延し、975〜1050℃で仕上焼鈍を施し、酸洗した。 鋼No.1〜5は本発明の中和処理層基材の成分である。熱処理時の鋭敏化を考慮してTiやNbなどの安定化元素を少量添加している。鋼No.4はSUS304、鋼No.5はSUS436Lである。鋼No.6は本発明の基材のCr成分を外れるものであり、鋼No.7は普通鋼である。
【0018】
【表1】

【0019】
これらの鋼を用いて電気めっき法と溶融めっき法によってZn被覆層およびNi,Fe,Co,AlおよびMgの1種以上を含有する合金層をもうけた。表2にサンプルの明細を示す。電気めっきは硫酸系のめっき浴を用い、60℃で電流密度20A/dm2で実験室的に実施した。溶融めっきの場合には硫酸系のFeめっき浴を用いて2g/m2のプレめっきを施した後に還元式めっき炉で溶融めっきを実施した。比較としてZn被覆層を有しないCr含有鋼であるサンプルH、被覆層の付着量が本発明に満たないサンプルIおよび本発明の被覆層とは異なる溶融Alめっきを施したサンプルJも準備した。
【0020】
【表2】

【0021】
本サンプルを用いて、排ガスの凝縮水を模擬した試験液を用い、20℃の試験液に1週間浸漬した後のpHを測定し中和能を評価した。試験液にはSO42-:20ppm、NO3-:100ppmの水溶液を用いた。試験液の調整はいずれもアンモニウム塩で行った。初期pH=3.0である。試験液量を150mlとし、50×100mmのサンプルを半浸漬した。
【0022】
耐食性を評価するために、上述の模擬凝縮水を用いて煮沸結露試験ならびに塩乾湿複合サイクル試験(CCT)を実施した。図1に煮沸結露試験条件を示す。煮沸結露試験では試験片を試験液に半浸漬状態で浸漬し、130℃の乾燥器内で7h乾燥させ、その後30℃、相対湿度80%の湿潤状態で17h保持した。これを10回繰返した。図2にCCT試験条件を示す。CCTは塩水噴霧、乾燥および湿潤の3ステップからなり、ステンレス鋼の赤さび発生に寄与しない塩水噴霧時間は短くしている。試験片は供試鋼から50×100mmの短冊型試験片を切り出し、切断端面をシリコン樹脂でシールし75°の角度で試験機に設置した。試験サイクルは200サイクルとした。耐塩害性の評価として試験片に生じた孔食深さを調べた。
【0023】
表3に各サンプルの中和能ならびに耐食性試験結果を示す。
本発明例A〜Eにおいては模擬凝縮水に浸漬後1週間経過してもpH=6.5以上であり、中和能を有していた。さらに煮沸結露試験ならびにCCTにおいても腐食による最大侵食深さは0.2mm以下であり、良好な耐食性を示しした。一方、比較例F,Gは表面にZn被覆物が存在するためにpHの中和能を有していたが、煮沸結露試験あるいはCCTにおいて最大侵食深さが0.2mmを超えており、耐食性が充分でなかった。さらに比較例H〜Jは表面に本発明範囲内の付着量のZn被覆層が存在しないために、模擬凝縮水に浸漬1週間経過してもpHに対する中和能を有しておらず、耐食性も充分でなかった。本発明により潜熱回収型給湯器などの排ガスから生じたドレン水を中和するための中和処理容器として用いることで、容器自体でドレン水の中和ができるとともに耐食性も有することがわかった。
【0024】
【表3】

【0025】
[実施例2]
本発明における中和能を、中和剤を用いた場合と比較検討した。供試材には表2のサンプルNo.Aを用いた。試験方法を図3に示す。試験液には実施例1で用いた模擬凝縮水を用い、中和剤である炭酸カルシウムを150mlの試験液に対して5g、18g添加した試験液を比較に用いた。模擬凝縮水中に35cmの面積のサンプルNo.Aを浸漬させ、24hのpH変化を調査した。図4に模擬凝縮水のpH変化を示す。発明例であるサンプルNo.Aを模擬凝縮水中に浸漬した場合は21時間後には模擬凝縮水のpHが7まで中和されており、一般的に用いられる炭酸カルシウムの中和速度と比較して早かった。本結果から本発明による材料は潜熱回収型給湯器などの排ガスから生じたドレン水を中和するための中和処理容器材料として、現状用いられている中和剤を用いることなく、早期にドレン水を中和できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上に説明したように、本発明による材料を潜熱回収型給湯器などの排ガスから生じたドレン水を中和するための中和処理容器材料として用いることにより中和剤を省略し、容器自体の薄肉化による軽量化をはかることにより、二次熱交換器を用いたガス、石油焚き潜熱回収型給湯器の小型軽量化が可能となる。本中和処理容器材料は容器の外板以外にもドレン水の流路材料として用いることが可能であり、ドレン水と接触できる表面積が多いほどその中和能は高くなる。また、少量の中和剤と併用することにより中和能を上げることが可能となる。本中和処理容器用材料は潜熱回収型給湯器以外にも例えば自動車などの排ガスを利用する熱交換器のドレン水中和処理部品用としても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜熱回収型給湯器などにおいて、排ガスから潜熱を回収する際に生成したドレン水を中和する中和処理容器用材料であって、11〜25質量%のCrを含有する含Cr鋼を基材とし、基材の表面に5〜60g/mのZnを含有する被覆物が存在することを特徴とする中和処理容器用材料。
【請求項2】
表面のZnを含む被覆物がNi,Fe,Co,AlおよびMgの1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の中和処理容器用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202256(P2011−202256A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72632(P2010−72632)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】