説明

中性電解液でエッチング可能な積層体

【課題】金属系薄膜のエッチングに使用されるエッチング液はいずれも強酸や強アルカリ、あるいは金属塩化物溶液等の人体に有害な液体であり、劇物や毒物であって、取り扱いや処理に特に気をつけなければならない材料であった。
【解決手段】非導電性基材2上に金属系薄膜導電層3と表面抵抗率が2×108Ω/□以下の値である非金属導電性膜4が、この順または逆順に直接積層されて設けられてなることを特徴とする、中性電解液でエッチング可能な積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性電解液で導電性金属をエッチングすることが可能な積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、蒸着やスパッタリング、めっき等で設けられた金属膜のエッチングには、材料に応じてアルカリ性や酸性のエッチング液が使用されている。例えば、最も多く利用されているアルミニウムの蒸着薄膜を基材上から除去する場合には、強アルカリである水酸化ナトリウム水溶液が使用されている。
【0003】
また、電気回路に一般的に使用される銅は、塩化第二鉄溶液などのエッチング液中に銅イオンとして溶解させることでエッチングを行っている。
【特許文献1】特開平9−125265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのエッチングに使用されるエッチング液はいずれも強酸や強アルカリ、あるいは金属塩化物溶液等、人体に有害な液体であり、劇物や毒物であって、取り扱いや処理に特に気をつけなければならない材料であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであって、請求項1に記載の発明は、非導電性基材上に金属系薄膜導電層と表面抵抗率が2×108Ω/□以下の値である非金属導電性膜が設けられてなることを特徴とする中性電解液でエッチング可能な積層体である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記非金属導電材料が、ポリアニリン系導電ポリマー、ポリチオフェン系導電ポリマーのいずれかからなることを特徴とする中性電解液でエッチング可能な積層体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層体は、強酸や強アルカリといった取り扱いに特に注意しなければならないエッチング液を使用することなく、中性の電解液でエッチング可能であるため、安全性が高く、環境負荷も小さいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面を使って本発明を詳細に説明する。
【0009】
図1は本発明の積層体の実施態様の構成を示す断面説明図である。積層体1は基材2上に金属系薄膜導電層3、非金属導電性膜4が順次積層されている。
【0010】
基材2はエッチングされる金属系薄膜導電層3を支持するもので、紙、プラスチック、ガラス、基板のような非導電性材料であれば従来公知のものが使用可能である。厚みや強度も目的に合わせて適宜選択すればよい。
【0011】
金属系薄膜導電層3は、蒸着、スパッタリングのような気相コーティング法やめっきのようなウエット法で設けた導電性のある金属薄膜である。例えば、アルミやスズが使用可能である。厚みは、導電性が得られる膜厚であって、アルミであれば40〜100nm、スズであれば50〜200nm程度が好ましい。
【0012】
非金属導電性膜4は、導電性を有する非金属の膜であって、例えばカーボンブラックを分散して導電性を付与したインキを塗工したものや、いわゆる導電性ポリマーを分散したインキを塗工したものが使用可能である。この膜の導電性は、表面抵抗率が2×108Ω/□以下であることが好ましい。導電性ポリマーとしては、ポリアニリン系やポリチオフェン系等の電子伝導性導電性ポリマーが好適に使用できる。
【0013】
次に、本発明の積層体のエッチング原理について説明する。例えば、炭素棒とアルミニウムを食塩水の中に入れる。このままでは回路が形成されていないので何も起こらない。次に、両者を導体で接続することを考える。この状態は電池であり、炭素棒が正極、アルミニウムが負極として動作する。電子はアルミニウム側から炭素棒側に流れ、このとき、アルミニウムは食塩水中に溶け出していく。
【0014】
本発明の積層体はこの原理を利用したものであり、炭素棒に相当する非金属導電性膜4上にアルミニウムに相当する金属系導電薄膜層3を直接設けている。すなわち、この状態は両者が導体で接続されたのと同じことであるから、電解質液に浸漬するだけで電池反応が生じ、結果としてアルミニウムに相当する金属系導電薄膜層3が溶出し、エッチングされる。
【0015】
このとき使用する金属系導電薄膜層3は、水素よりイオン化傾向が大きいもので、なおかつ導電性の高い金属であればよく、典型的な例としてはアルミニウム、ニッケル、スズ等が使用可能である。導電性の目安としては、体積抵抗率が50×10-8Ωm以下であることが望ましい。膜厚は金属光沢が得られる膜厚以上であればよいが、エッチング効率を考慮すると、500nm以下、好ましくは200nm以下である。
【0016】
また、非金属導電性膜4は、上述のエッチング原理における炭素棒の働きをするもので、非金属材料で形成された導電性膜である。例えば、樹脂中にカーボンブラックを分散した導電インキや電子伝導性の導電性ポリマーを主体とした導電インキを薄膜として設けたものである。
【0017】
導電性ポリマーとしては従来公知の材料を適宜使用できるが、例えばポリアニリン系やポリチオフェン系の導電性ポリマーが利用しやすい。この膜が炭素棒の代わりとなるためにはある程度の導電性を持つ必要があり、発明者の実験によれば表面抵抗率が2×108Ω/□以下である必要がある。これ以上の抵抗値では、単なる絶縁体となってしまうか、エッチングに非常に長い時間がかかってしまうかで、実用的ではない。
【0018】
金属系導電薄膜層3と非金属導電性膜4を設ける順番は逆でもよい。すなわち、基材2上に非金属導電性膜4を先に設け、金属系導電薄膜層3を設けてもよい。これは、電解質液が浸透さえしていけば電池反応が生じるためであり、通常はこれらの膜であれば十分に電解質液が浸透していけるからである。
【実施例1】
【0019】
基材として25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製25T−60)を用い、この上にカーボンブラックを分散した下記<カーボンインキ層の組成>からなる混合物をサンドミルにて分散して導電性インキを得、これをワイヤーバーにて1μm厚で設けて非金属導電性膜4とし、その上に蒸着法にてスズを100nmの厚みで設け、金属系薄膜導電層3とした。このときの非金属導電性膜4の表面抵抗率は4×105Ω/□、スズの表面抵抗率は4Ω/□であった。
【0020】
<カーボンインキ層の組成>
・導電カーボン粉末 5部
・塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 10部
・メチルエチルケトン 45部
・トルエン 45部
【0021】
このようにして得られた積層体1を5%食塩水液に30分浸漬してエッチングの様子を観察した。以下の実施例、比較例においても、同様に観察した。
【実施例2】
【0022】
実施例1の導電カーボン粉末の量を2重量部に減らした以外は同様に作成し、積層体1を得た。このときの非金属導電性膜4の表面抵抗率は8×107Ω/□であった。
【実施例3】
【0023】
アルミ蒸着済25μ厚PETフィルム((株)東レ製メタルミー25SS)上に下記<導電ポリマー層の組成1>からなる非金属導電性膜4を0.1μm厚で設けた。金属系薄膜導電層3としては、PETフィルム上のアルミ蒸着層をそのまま利用した。このときの非金属導電性膜4の表面抵抗率は7×106Ω/□、アルミニウムの表面抵抗率は1Ω/□であった。
【0024】
<導電ポリマー層の組成1>
・ポリチオフェン系導電インキ
出光テクノファイン(株)製 EL−coat 12.5部
・同希釈液
出光テクノファイン(株)製 EL−coat用希釈液 12.5部
・希釈溶剤
イソプロピルアルコール 75部
【実施例4】
【0025】
導電ポリマー層の組成を下記<導電ポリマー層の組成2>のように変更した以外は実施例3と同様に積層体1を作成した。このときの非金属導電性膜4の表面抵抗率は2×108Ω/□であった。
【0026】
<導電ポリマー層の組成2>
・ポリチオフェン系導電インキ
出光テクノファイン(株)製 EL−coat 5部
・同希釈液
出光テクノファイン(株)製 EL−coat用希釈液 5部
・希釈溶剤
イソプロピルアルコール 90部
【0027】
<比較例1>
実施例1の導電カーボン粉末の量を1重量部に減らした以外は同様に作成し、積層体1を得た。このときの非金属導電性膜4の表面抵抗率は7×109Ω/□であった。
【0028】
<比較例2>
実施例3の導電ポリマー層の組成を下記<導電ポリマー層の組成3>のように変更した以外は実施例3と同様に積層体1を作成した。このときの非金属導電性膜4の表面抵抗率は5×1010Ω/□であった。
【0029】
<導電ポリマー層の組成3>
・ポリチオフェン系導電インキ
出光テクノファイン(株)製 EL−coat 2.5部
・同希釈液
出光テクノファイン(株)製 EL−coat用希釈液 2.5部
・希釈溶剤
イソプロピルアルコール 95部
【0030】
表1にこれらの評価結果をまとめた。この結果から、非金属導電性膜4の表面抵抗率が2×108Ω/□以下であれば30分の間に金属系薄膜導電層3をほぼ除去可能であることがわかる。しかし、これを超えると30分では除去できず、エッチング性は劣ることもわかる。
【0031】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の積層体の構成を示す断面説明図。
【符号の説明】
【0033】
1 積層体
2 基材
3 金属系薄膜導電層
4 非金属導電性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性基材上に金属系薄膜導電層と表面抵抗率が2×108Ω/□以下の値である非金属導電性膜が、この順または逆順に直接積層されて設けられてなることを特徴とする中性電解液でエッチング可能な積層体。
【請求項2】
前記非金属導電性膜の導電材料が、ポリアニリン系導電ポリマー、ポリチオフェン系導電ポリマーのいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載の中性電解液でエッチング可能な積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−101568(P2009−101568A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274953(P2007−274953)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】