説明

中空エンジンバルブの製造方法

【課題】製造工程の簡素化及び製造コストの低減を図ることができる中空エンジンバルブの製造方法を提供する。
【解決手段】半完成品1aにおける中空軸部の外径寸法及び内径寸法を段階的に縮径させると共に、当該中空軸部の長さを段階的に延伸させるように、この中空軸部を孔形状が異なった複数の成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mn´に順次挿入して、その絞り加工を順次行うことにより、中空軸部を所定形状に成形するようにした中空エンジンバルブの製造方法において、半完成品1aに対して、所定硬度以下となるように熱処理を施し、内径d2´に調整したダイスDin´の成形孔Mn´によって、中空軸部12の開口縁部をその内側に増肉させて、軸端封止部15を成形し、この軸端封止部15の隙間を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工程の簡素化及び製造コストの低減を図るようにした中空エンジンバルブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンバルブの中には、エンジンの高出力化及び高性能化に伴って、その内部を中空に形成すると共に、この中空部内に冷媒用の金属ナトリウムを封入したものが種々提供されている。これにより、中実のエンジンバルブと比べて、軽量化が図られると共に、封入された金属ナトリウムの働きにより、熱伝導性の向上が図られるようになっている。このような、従来の中空エンジンバルブの製造方法は、例えば、特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4282900号公報
【特許文献2】特許第4390291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の中空エンジンバルブの製造方法では、複数の部材を個々に製造した後、最終的に、それらの部材同士を接合することにより、完成品としての中空エンジンバルブを得るようにしている。これにより、中空エンジンバルブを製造するには、数多くの工程を経なければならないため、製造工程が複雑になると共に、製造コストの増大を招くおそれがある。
【0005】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、製造工程の簡素化及び製造コストの低減を図ることができる中空エンジンバルブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する第1の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
半完成品における中空軸部の外径寸法及び内径寸法を段階的に縮径させると共に、前記中空軸部の長さを段階的に延伸させるように、前記中空軸部を孔形状が異なった複数の成形孔に順次挿入して、その絞り加工を順次行うことにより、前記中空軸部を所定形状に成形するようにした中空エンジンバルブの製造方法において、
半完成品に対して、所定硬度以下となるように熱処理を施し、
孔径を調整した最後の前記成形孔によって、前記中空軸部の開口縁部をその内側に増肉させて、軸端封止部を成形し、
前記軸端封止部の隙間を接合する
ことを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決する第2の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
最後の前記成形孔における前記中空軸部を成形する軸成形部の孔径を調整する
ことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する第3の発明に係る中空エンジンバルブの製造方法は、
最後の前記成形孔による絞り加工前に、前記中空軸部内に冷媒を注入する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
従って、本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法によれば、所定硬度以下となるように熱処理を施した半完成品を、孔径を調整した成形孔によって、中空軸部の開口縁部がその内側に増肉するように成形した後、この増肉により成形された軸端封止部の隙間を接合することにより、中空エンジンバルブ1を構成する部品点数を少なくすることができるので、製造工程の簡素化及び製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法が適用される冷間鍛造装置の概略構成図である。
【図2】(a)は冷間鍛造装置の第n絞り工程に設けられるダイスの縦断面図と、このダイスにより成形された半完成品の縦断面図、(b)は冷間鍛造装置の第n絞り工程に従来設けられていたダイスの縦断面図と、このダイスにより成形された半完成品の縦断面図である。
【図3】本発明に係る製造方法により製造される中空エンジンバルブの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
先ず、図3に示すように、本発明に係る製造方法により製造される中空エンジンバルブ1は、車両等におけるエンジンの吸気バルブまたは排気バルブとして使用されるものであって、その内部には、冷媒用の金属ナトリウムNが封入されている。
【0013】
中空エンジンバルブ1は、弁傘部11と中空軸部12と軸端封止部15とが一体成形されたものであって、その内部には、中空孔13が弁傘部11と中空軸部12とに亘って形成されている。また、詳細は後述するが、軸端封止部15は、中空孔13内に金属ナトリウムNが注入された状態で、中空軸部12の基端(上端)側における開口縁部が、その内側に増肉するように閉じることによって成形されるものである。そして、最後に、軸端封止部15における中央部の隙間を接合するようになっている。
【0014】
即ち、中空エンジンバルブ1を後述する冷間鍛造装置20等を用いて製造し、その冷間鍛造中に、中空孔13内に金属ナトリウムNを注入した後、軸端封止部15の接合を行う。これにより、完成品としての中空エンジンバルブ1を得ることができる。なお、使用条件によっては、金属ナトリウムNを封入しない場合もある。
【0015】
次に、冷間鍛造装置20の構成について、図1及び図2(a),(b)を用いて説明する。
【0016】
図1に示した冷間鍛造装置20は、半完成品1aに対して、絞り(冷間鍛造)加工を順次行うことにより、中空エンジンバルブ1を成形するものである。この冷間鍛造装置20の下部には、プレスベッド21が設けられる一方、その上部には、ラム22がプレスベッド21と対向するように設けられており、このラム22は上下方向に移動可能に支持されている。
【0017】
ラム22の下面には、筒状のダイスDi1,Di2,Di(m−1),Dim,Di(n−1),Din´が、半完成品の搬送方向に沿って直列に設けられている。但し、添え字mはm番目を示し、添え字nはn番目(最後)を示しており、m<nで、mとnとはいずれも3以上の正の整数となっている。
【0018】
ダイスDi1,Di2,Di(m−1),Dim,Di(n−1),Din´の中央部には、円形横断面をなす成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mn´が開口されており、これらの内径は、搬送方向下流側に向かうに従って、漸次小径となるように形成されている。また、成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mn´の長さ(深さ)は、L1,L2,L(m−1),Lm,L(n−1),Lnとなっており、これらの長さL1,L2,L(m−1),Lm,L(n−1),Lnは、搬送方向下流側に向かうに従って、漸次長くなるように形成されている。即ち、これらの長さは、L1<L2<L(m−1)<Lm<L(n−1)<Lnとなるように設定されている。
【0019】
一方、プレスベッド21の上面には、半完成品1a,1b,1m,1n及び中空エンジンバルブ1が、図示しない搬送手段によって、搬送及び位置決め可能となっている。
【0020】
ここで、ダイスDin´について、図2(a),(b)を用いて説明する。
【0021】
ダイスDin´は、ダイスDi(n−1)が成形した半完成品1nに対して絞り加工を行うことにより、半完成品(接合未実施)としての中空エンジンバルブ1を得るものである。そして、この中空エンジンバルブ1においては、中空軸部12の開口縁部がその内側に膨れるように閉じることにより、軸端封止部15が成形されることになる。即ち、冷間鍛造装置20では、従来使用されていた、中空軸部の肉厚が一定で、且つ、その開口縁部が開口するような中空エンジンバルブ(弁本体)1xを成形するためのダイスDinに替えて、ダイスDin´を設けている。
【0022】
図2(a)に示すように、ダイスDin´の成形孔Mn´は、その長さがLnに形成されており、中空エンジンバルブ1の弁傘部11の上部を最終的に成形するための成形部(弁傘成形部)Man´と、この成形部Man´の上部に連続的に形成され、且つ、中空エンジンバルブ1の中空軸部12及び軸端封止部15を成形するための成形部(軸成形部)Mbn´とを有している。そして、成形部Man´の最大内径はDnに形成されており、成形部Mbn´の内径はdn´に形成されている。
【0023】
このようなダイスDin´を用いて絞り加工を行うことにより、中空エンジンバルブ1の長さ(高さ)がln´に成形され、更に、中空軸部12及び軸端封止部15の外径がdn´に成形されると共に、中空軸部12の内径がdn2に成形されることになる。
【0024】
一方、図2(b)に示すように、ダイスDinの成形孔Mnは、その長さがLnに形成されており、中空エンジンバルブ1xの弁傘部の上部を最終的に成形するための成形部Manと、この成形部Manの上部に連続的に形成され、且つ、中空エンジンバルブ1xの中空軸部を成形するための成形部Mbnとを有している。そして、成形部Manの最大内径はDnに形成されており、成形部Mbnの内径は内径dn´よいも大きいdn(dn>dn´)に形成されている。
【0025】
このようなダイスDinを用いて絞り加工を行うことにより、中空エンジンバルブ1xの長さ(高さ)が長さln´よりも長いln(ln>ln´)に成形され、更に、中空軸部の外径が外径dn´よりも大きいdn(dn>dn´)に成形されると共に、その中間軸部の内径がdn2に成形されることになる。
【0026】
即ち、ダイスDinに対して、ダイスDin´を、内径dn´が内径dnよりも小さくなるように設定することにより、このダイスDin´によって、中空軸部12の開口部を塞ぐための軸端封止部15を有する中空エンジンバルブ1を成形することができる。
【0027】
従って、中空エンジンバルブ1を製造する場合には、先ず、図示しない中実丸棒素材を熱間鍛造して、半完成品1aを成形した後、この半完成品1aに対して、所定硬度以下となるように熱処理を施す。次いで、この所定硬度以下の半完成品1aを、冷間鍛造装置20のプレスベッド21上におけるダイスDi1に対応した位置に位置決めする。
【0028】
そして、ラム22の昇降動作と搬送手段の搬送動作及び位置決め動作を順次行って、ダイスDi1,Di2,Di(m−1),Dim,Di(n−1),Din´によるn回の絞り加工を順次行うようにする。これにより、半完成品1aが、半完成品1b,1m,1nと順に成形され、これに伴って、それぞれの中空軸部の外径寸法及び内径寸法が段階的に縮径されると共に、それぞれの中空軸部の長さが段階的に延伸されることになり、最終的に中空エンジンバルブ1が成形される。
【0029】
ここで、半完成品1aに対して、所定硬度以下となるように熱処理を施すことにより、この半完成品1a及びこれ以降の半完成品1b,1m,1nにおいては、その硬度が低くなるに従って、その中空軸部の肉厚が厚くなり易くなると共に、その中空軸部の長さが延び難くなる。
【0030】
このように、調質された半完成品1nを、内径dn´に調整されたダイスDin´の成形孔Mn´によって、絞り上げることにより、中空エンジンバルブ1を、中空軸部12の開口縁部がその内側に増肉するように成形することができる。また、ダイスDi1,Di2,Di(m−1),Dim,Di(n−1)の絞り加工においては、これらの成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1)の孔形状を、従来のものと比べて調整していないので、それぞれの中空軸部の開口縁部が開放したままの状態で成形されるようになっている。
【0031】
なお、ダイスDin´の絞り加工時において、1回の絞り加工で、中空軸部12の開口縁部がその内側に閉じないときには、その開口縁部が増肉して閉じるまで、複数回の絞り加工を行うようにする。また、成形孔M1,M2,M(m−1),Mm,M(n−1),Mn´は、半完成品1a,1b,1m,1nにおける弁傘部の下部を押圧しないため、それらの弁傘部の最大外径は、Doのままで保持されることになる。
【0032】
次いで、冷間鍛造装置20におけるダイスDi1,Di2,Di(m−1),Dim,Di(n−1)のいずれかの絞り加工後に、金属ナトリウムNが中空孔13内に注入されているため、軸端封止部15の隙間に対して、例えば、フィラー溶接やノンフィラー溶接等による接合を行うことにより、完成品としての中空エンジンバルブ1が製造されることになる。なお、軸端封止部15は、高温の排気ガスに晒されることがないため、その隙間に対して、溶接以外にも、ロー付け等による接合を行うようにしても構わない。
【0033】
従って、本発明に係る中空エンジンバルブの製造方法によれば、所定硬度以下となるように熱処理を施した半完成品1nを、内径dn´に調整したダイスDin´の成形孔Mn´によって、中空軸部12の開口縁部がその内側に増肉するように成形した後、この増肉により成形された軸端封止部15の隙間を接合することにより、中空エンジンバルブ1を構成する部品点数を少なくすることができるので、製造工程の簡素化及び製造コストの低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ダイスを交換可能とすることにより、形状が異なった中空エンジンバルブを1つの製造装置で製造することを目的とした中空エンジンバルブ製造装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 中空エンジンバルブ
1a,1b,1m,1n 半完成品
11 弁傘部
12 中空軸部
13 中空孔
15 軸端封止部
20 冷間鍛造装置
21 プレスベッド
22 ラム
Di ダイス
M 成形孔
Ma,Mb 成形部
N 金属ナトリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半完成品における中空軸部の外径寸法及び内径寸法を段階的に縮径させると共に、前記中空軸部の長さを段階的に延伸させるように、前記中空軸部を孔形状が異なった複数の成形孔に順次挿入して、その絞り加工を順次行うことにより、前記中空軸部を所定形状に成形するようにした中空エンジンバルブの製造方法において、
半完成品に対して、所定硬度以下となるように熱処理を施し、
孔径を調整した最後の前記成形孔によって、前記中空軸部の開口縁部をその内側に増肉させて、軸端封止部を成形し、
前記軸端封止部の隙間を接合する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の中空エンジンバルブの製造方法において、
最後の前記成形孔における前記中空軸部を成形する軸成形部の孔径を調整する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の中空エンジンバルブの製造方法において、
最後の前記成形孔による絞り加工前に、前記中空軸部内に冷媒を注入する
ことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−177718(P2011−177718A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41411(P2010−41411)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(508282203)株式会社 吉村カンパニー (14)
【Fターム(参考)】