説明

乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置

【課題】安価で高精度の乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置の提供。
【解決手段】上記課題は、駆動トルク指令によって出力されるトルク出力情報をモニターするモニター手段9Bと、減速機の入力側軸の回転を検出する回転検出手段10と、電磁コイルへの電流供給の開始を検出するコイル動作検出手段11Bと、このコイル動作検出手段11Bで電流供給を開始してから回転検出手段10が回転を検出するまでの第1時間を検出する駆動軸回転開始検出手段12と、コイル動作検出手段11Bで電流供給を開始してからモニター手段9Bでトルク出力値が上昇を開始するまでの第2時間を検出するトルク指令上昇開始検出手段13と、第1時間若しくは第2時間のいずれかの時間が正規値以上である場合に、マグネットブレーキ7のストローク異常と診断する第1診断手段14とからなる構成によって、達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターなどの保守作業に用いられる乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置としては、乗客コンベアの通常運行時にマグネットブレーキのブレーキ動作電流を検出して現時点での、そのマグネットブレーキの状態情報を抽出し、これを乗客コンベア新設時の初期状態情報と比較することで、マグネットブレーキの異常度を診断するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−5675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した特開平11−5675号公報に記載された乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置では、ブレーキ動作電流を検出するために、診断専用の電流検出器を、格別に設ける必要があり、高コスト化を招いてしまうとともに、その電流検出器では、電圧変動や設置環境温度の変動の影響により診断精度の向上を図ることができないという問題があった。
【0004】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、低コスト化及び高精度化を図り得る乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、電動機の駆動力が減速機を介して伝達されて回転する回転体を押圧することで前記回転体を制動する可動片と、電流が供給されることにより前記可動片を磁力で吸引して前記回転体の制動を開放させる電磁コイルを少なくとも備えてなる乗客コンベア用マグネットブレーキの動作状態を診断するための診断装置において、前記電動機へ駆動トルク指令を与えてその駆動を制御するトルク指令手段と、前記駆動トルク指令によって出力されるトルク出力情報をモニターするモニター手段と、前記減速機の入力側軸の回転を検出する回転検出手段と、前記電磁コイルへの電流供給の開始を検出するコイル動作検出手段と、このコイル動作検出手段による電流供給の開始検出から前記回転検出手段が回転を検出するまでの第1時間を検出する駆動軸回転開始検出手段と、前記コイル動作検出手段による電流供給の開始検出から前記モニター手段によって検出される前記トルク指令出力値が上昇を開始するまでの第2時間を検出するトルク指令出力上昇開始検出手段と、前記第1時間若しくは前記第2時間の少なくとも一方の時間と正規値とを比較して前記第1時間若しくは前記第2時間のいずれかの時間が前記正規値以上である場合にマグネットブレーキのストローク異常と診断する第1診断手段とを少なくとも備えてなる構成としたことを特徴としている。
【0006】
さらに、本発明は、前記正規値を、乗客コンベア新設時にてマグネットブレーキが劣化・摩耗が発生していない状態(初期状態)で得られるところの、前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始検出から前記回転検出手段が回転を検出するまでの時間の約130%に相当する時間若しくは前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始検出から前記モニター手段によって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間の約130%に相当する時間としたことを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明は、前記第1診断手段に替えて、時間差率算出手段及び第2診断手段を設け、前記時間差率算出手段を、前記第1時間T1と前記第2時間T2の比率を算出する構成とするとともに、前記第2診断手段を、前記時間差率算出手段で算出された比率と設定値とを比較し、その比率が設定値以上である場合に、マグネットブレーキのストローク異常と診断する構成としたことを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明は、前記設定値を、乗客コンベア新設時にて前記マグネットブレーキが劣化・摩耗が発生していない状態で得られるところの、前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始から前記回転検出手段が回転を検出するまでの時間と前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始から前記モニター手段によって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間との比率の約150%としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、駆動軸回転開始時間とトルク出力の上昇開始時間の変化で、マグネットブレーキの動作状態を診断するようにしたので、専用の電流検出器を設けることなく、乗客コンベアに既設されている乗客コンベア制御装置及びインバータ装置を流用することを可能にして低コスト化及び高精度化を図り、かつ、保全作業者の熟練及び経験に依存することなく、その保全作業者の診断作業の労力の軽減化を図ることを可能にする乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置の実施形態を、図1〜図7に、基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る乗客コンベアの電動機駆動部の要部正面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る乗客コンベアのマグネットブレーキ部の要部側面図である。図3は、本発明の一実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置の構成を示す機能ブロック図である。図4は、本発明の一実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置により得られる各出力と時間との関係を示す特性図である。図5は、本発明の一実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置による診断動作の流れを説明するためのフローチャートである。図6は、本発明の他実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置の構成を示す機能ブロック図である。図7は、本発明の他実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置による診断動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【0011】
図1に示す本発明の一実施形態に係るエスカレーターなどのインバータ制御方式を採用した乗客コンベアの電動機駆動部1は、電動機(モータ)2で発生させた駆動力がベルト3によって減速器4の入力側軸4Aに伝達され、しかも、その減速器4の出力側軸4Bの駆動力が動力チェーン5を介して駆動スプロケット6に伝達されるように構成することにより、その駆動スプロケット6によって、複数個の踏み段を無端状に連結する踏み段チェーン(図示せず)を駆動させることで、複数個の踏み段を走行させるようにしてある。
【0012】
踏み段の走行を停止させるには、減速器4の入力側軸4Aに軸支されたデイスク方式の乗客コンベア用マグネットブレーキ7(以下、マグネットブレーキ7と称する。)によって、減速器4の入力側軸4Aの回転を停止させることにより、行われる。マグネットブレーキ7は、図2に示すように、減速器4の側面に設けたコア7Aと、このコア7Aの外方に位置して減速器4の入力側軸4Aに摺動可能に設けた可動片7Bと、この可動片7Bの外方に位置して減速器4の入力側軸4Aに歯車などで連結された回転体7Cと、この回転体7Cの外方に位置して減速器4の側面に設けたコア7Aに締結具7Dにより固定したサイドプレート7Eと、コア7Aに設けた電磁コイル7Fと、コア7Aに設けられて可動片7Bを回転体7Cに押圧させるばね力を有する複数個のコイルばねなどからなるところの制動ばね7Gとから構成されている。
【0013】
マグネットブレーキ7は、電磁コイル7Fに通電して発生する磁力によって可動片7Bを吸引することにより、入力側軸4Aと一緒に回転する回転体7Cを自由と(開放)させることで、制動を開放させるとともに、電磁コイル7Fへの通電を遮断して磁力を消失されて制動ばね7Gのばね力によって可動片7Bを回転体7Cへ押し付けることにより、サイドプレート7Eと可動片7Bによって回転体7Cを挟持することで、回転体7Cの回転を制動するようにしてある。
【0014】
図3に示す本発明の一実施形態に係るマグネットブレーキ7の診断装置8は、エスカレーターの加速及び減速の加減速度を制御するために電動機2へ駆動トルク指令を与えてその駆動を制御するトルク指令手段9Aと、駆動トルク指令によって出力されるトルク出力情報(モータ駆動出力情報)をモニターするモニター手段9Bと、マグネットブレーキ7が軸支されている減速器4の入力側軸4Aの回転数を検出する回転検出器からなる回転検出手段10と、電磁コイル7Fへの電流供給の開始を検出するコイル動作検出手段11Bと、このコイル動作検出手段11Bによって検出される電流供給の開始検出から回転検出手段10が回転を検出するまでの第1時間T1(以下、駆動軸回転開始時間T1という。)を検出する駆動軸回転開始検出手段12と、コイル動作検出手段11Bによって検出される電流供給の開始検出からモニター手段9Bによって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの第2時間T2(以下、上昇開始時間T2という)を検出するトルク指令上昇開始検出手段13と、マグネットブレーキ7の動作状態を診断する第1診断手段14とから少なくとも構成されている。
【0015】
インバータ装置9は、図3に示すように、モータ2へ駆動トルク指令を与えてそのモータ2を制御するトルク指令手段9Aと、トルク指令手段9Aの駆動トルク指令によって出力されるトルク出力情報(モータ駆動出力情報)をモニターするモニター手段9Bと、マグネットブレーキ7に加えられた電圧値を算出する電圧値算出手段9Cとが少なくとも包含される構成としてある。乗客コンベア制御装置11は、図3に示すように、インバータ装置9の指令に応じて命令やモータ2の駆動開始とマグネットブレーキ7への電流供給開始の順序などを司るCPU(中央処理装置)11Aと、マグネットブレーキ7の電磁コイル7Fへの電流供給開始を検出するコイル動作検出手段11Bとが少なくとも包含される構成としてある。第1診断手段14による診断結果は、図3に示すように、遠隔地などに設置されている監視センター15に送信されるようにしてある。監視センター15では、第1診断手段14から送信されてきた診断結果を格納するとともに、マグネットブレーキ7の動作状態を監視するようにしてある。
【0016】
第1診断手段14は、診断時に駆動軸回転開始検出手段12により検出された現時点の駆動軸回転開始時間T1若しくは診断時にトルク指令出力上昇開始検出手段13により検出された現時点の上昇開始時間T2の少なくとも一方の時間と正規時間値(以下、正規値と称する。)を比較した結果と、インバータ装置9の電圧値算出手段9Cで算出した電圧値の両方からマグネットブレーキ7の動作状態を診断して、駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2のいずれかの時間が正規値以上である場合には、マグネットブレーキ7のストロークが異常と診断するとともに、駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2のいずれかの時間が正規値未満である場合には、マグネットブレーキ7の動作状態が管理値内であってマグネットブレーキ7のストロークが正常であると診断するように構成されている。なお、ここで、正規値とは、乗客コンベア新設時にてマグネットブレーキ7が劣化・摩耗が発生していない状態(初期状態)で得られるところの、コイル動作検出手段11Bによって検出される電流供給の開始検出から回転検出手段10が回転を検出するまでの時間の約130%に相当する時間T01(以下、正規駆動開始時間T01という。)若しくはコイル動作検出手段11Bによって検出される電流供給の開始検出からモニター手段9Bによって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間の約130%に相当する時間(以下、正規上昇開始時間T02という。)をいう。この正規値は、乗客コンベア新設時に検出(計測)して、第1診断手段14に予め格納するようにしている。なお、本実施形態例では、正規駆動開始時間T01を、300msに、かつ、正規上昇開始時間T02を、350msに、それぞれ設定してある。
【0017】
上記一実施形態に係るマグネットブレーキ7の診断装置8により得られるところの、トルク指令出力、回転検出器出力及びブレーキ動作信号出力と時間との関係を示す特性は、図4に示すようになる。すなわち、ブレーキ動作信号が図4に示すように出力されると、その出力の開始から駆動軸回転開始時間T1を経過すると回転検出器出力がなされ、しかも、ブレーキ動作信号の出力の開始から上昇開始時間T2を経過するとトルク指令出力が上昇を開始するようになる。
【0018】
次に、上記一実施形態に係るマグネットブレーキ7の診断装置8よる診断動作の流れを、図5に基づき、説明する。
【0019】
まず、図5のステップS1において、エスカレーター(乗客コンベア)へ起動命令(トルク指令)が与えられたか否かを判断する。図5のステップS1において、エスカレーター(乗客コンベア)へ起動命令(トルク指令)が与えられたと判断されると、図5のステップS2に進み、マグネットブレーキ7が制動状態にあるか否かが判断される。図5のステップS2において、制動状態にあると判断されると、図5のステップS3に進む。
【0020】
次いで、図5のステップS3において、マグネットブレーキ7が制動状態のまま、インバータ装置9のトルク指令手段9Aより電動機2へトルク指令を与えることで、トルクを掛ける。この時のトルクは、ベルト3とマグネットブレーキ7とがスリップすることのない定格トルクの10%〜100%を目安とする。
【0021】
次いで、図5のステップS4において、乗客コンベア制御装置11のCPU11Aによりマグネットブレーキ7へ電流を供給して、マグネットブレーキ7を開放させた後、図5のステップS5に進み、その開放時マグネットブレーキ7の動作電圧(駆動電圧)値を算出する。なお、ここで、電動機2にトルクを掛けた状態でブレーキ開放を行うのは、回転体7Cを開放してから減速器4の入力側軸4Aが回転を始めるまでの間に遊びがない状態として、駆動軸回転開始時間T1と上昇開始時間T2を正確に検出できるようにするためである。
【0022】
次いで、図5のステップS6において、インバータ装置9のコイル動作検出手段11Bによるマグネットブレーキ7の電磁コイル7Fへの電流供給開始の検出と回転検出器からなる回転検出手段10の出力値(回転検出器出力)とから駆動軸回転開始検出手段12を用いて駆動軸回転開始時間T1を検出した後、図5のステップS7に進み、インバータ装置9のコイル動作検出手段11Bによるマグネットブレーキ7の電磁コイル7Fへの電流供給開始の検出とモニター手段9Bによって検出されるトルク指令出力値とからトルク指令出力上昇開始検出手段13を用いて上昇開始時間T2を検出する。なお、ここで、マグネットブレーキ7のサイドプレート7Eと可動片7Bのいずれか一方若しくは両方が経年摩耗すると、制動状態が開放されるまでのブレーキストロークが大きくなり、駆動軸回転開始時間T1及び上昇開始時間T2が長くなる。すなわち、ブレーキストロークが大きくなると、可動片7Bが回転体7Cから離れるまでに必要とするブレーキの物理的動作量も大きくなるために、減速器4の入力側軸4Aが回転を開始するまでの駆動軸回転開始時間T1が長くなる。また、可動片7Bが回転体7Cから離れるまでに必要とするブレーキの物理的動作量も大きくなると、マグネットブレーキ7の電磁コイル7Fへの電流供給を開始してから実際に電動機2のトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間、すなわち、上昇開始時間T2が長くなる。
【0023】
次いで、図5のステップS8において、図5のステップS6にて検出された駆動軸回転開始時間T1及び図5のステップS7にて検出された上昇開始時間T2を第1診断手段14に取り込み格納するとともに、駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2が、その第1診断手段14に予め格納された正規値(正規駆動開始時間T01若しくは正規上昇開始時間T02)以上か否かを判断する。
【0024】
図5のステップS8において、駆動軸回転開始時間T1が正規駆動開始時間T01未満若しくは上昇開始時間T2が正規上昇開始時間T02未満と判断された場合には、図5のステップS9に進み、マグネットブレーキ7の動作状態は管理値以内であると判断し、その判断結果を、図5のステップS16に示すように、監視センター15に送信して、その監視センター15にて図5のステップS9の判断結果を格納する。
【0025】
また、図5のステップS8において、駆動軸回転開始時間T1が正規駆動開始時間T01以上若しくは上昇開始時間T2が正規上昇開始時間T02以上と判断された場合には、図5のステップS10に進み、マグネットブレーキ7の動作電圧が正常か否かを判断する。
【0026】
次いで、図5のステップS10において、マグネットブレーキ7の動作電圧が正常である場合には、図5のステップS11に進み、過去に検出(計測)した駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2の値の加重平均値が、正規値、すなわち、正規駆動開始時間T01若しくは正規上昇開始時間T02を超えたか否かを判断する。
【0027】
次いで、図5のステップS11において、駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2の値の加重平均値が、正規駆動開始時間T01若しくは正規上昇開始時間T02を超えたと判断された場合には、図5のステップS12に進み、マグネットブレーキ7は動作異常であると判断し、その判断結果を、図5のステップS16に示すように、監視センター15に送信して、その監視センター15にて図5のステップS12の判断結果を格納する。
【0028】
また、図5のステップS11において、駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2の値の加重平均値が、正規値、すなわち、正規駆動開始時間T01若しくは正規上昇開始時間T02を超えないと判断された場合には、図5のステップS9に進み、マグネットブレーキ7の動作状態は管理値以内であると判断し、その判断結果を、図5のステップS16に示すように、監視センター15に送信してその監視センター15にて格納する。
【0029】
また、図5のステップS10において、マグネットブレーキ7の動作電圧が正常でないと判断された場合には、図5のステップS13に進み、マグネットブレーキ7の動作電圧の異常が所定回(例えば、3回)以上発生したか否かを判断する。そして、図5のステップS13において、マグネットブレーキ7の動作電圧の異常が所定回(例えば、3回)以上発生したと判断された場合には、図5のステップS14に進み、マグネットブレーキ7は動作電圧異常であると判断し、その判断結果を、図5のステップS16に示すように、監視センター15に送信して、その監視センター15にて図5のステップS14の判断結果を格納する。
【0030】
また、図5のステップS13において、マグネットブレーキ7の動作電圧の異常が所定回(例えば、3回)以上発生していないと判断された場合には、図5のステップS15に進み、図5のステップS6にて検出された駆動軸回転開始時間T1及び図5のステップS7にて検出された上昇開始時間T2に加重平均を加えない処理をしてマグネットブレーキ7の動作電圧異常があったことを、図5のステップS16に示すように、監視センター15に送信して、その監視センター15にて格納する。この図5のステップS13によって、エスカレーターの設置された建屋の電力使用状態による電圧異常が発生した場合を、マグネットブレーキ7の異常と診断されることが阻止される。
【0031】
上記構成のマグネットブレーキ7の診断装置8によれば、専用の電流検出器を設けることなく、乗客コンベアに既設されている乗客コンベア制御装置11及びインバータ装置9を流用することにより、マグネットブレーキ7の動作状態を診断し得るので、低コスト化を図ることができるとともに、しかも、保全作業者の熟練及び経験に依存することなく、マグネットブレーキ7の動作状態を診断し得るので、その保全作業者の診断作業の労力の軽減化を図ることができる。
【0032】
さらに、上記構成のマグネットブレーキ7の診断装置8によれば、電動機2へ予めトルクを加えた状態でマグネットブレーキ7を吸引し、この時の駆動軸回転開始時間T1とトルク出力の上昇開始時間T2の変化で、マグネットブレーキ7の動作状態を監視することができ、マグネットブレーキ7を常時適正に維持することを可能にすることができる。
【0033】
次に、上記マグネットブレーキ7の他実施形態に係る診断装置20を、図6及び図7に基づき説明する。図6〜図7において、図1〜図5と同一符号は、同一内容を表している。
【0034】
本発明の他実施形態に係る診断装置20は、図6に示すように、上記一実施形態に係る診断装置7の第1診断手段14に替えて、時間差率算出手段21及び第2診断手段22を設けるようにしたものである。時間差率算出手段21は、駆動軸回転開始時間T1と上昇開始時間T2の比率T1/T2を算出する機能を有している。
【0035】
図6の第2診断手段22は、時間差率算出手段21で算出された比率T1/T2(算出時間差率)と正規時間差(以下、設定値と称する。)と比較し、その比率T1/T2が設定値以上である場合にマグネットブレーキ7のストロークが異常であると診断し、かつ、その比率T1/T2が設定値未満である場合にマグネットブレーキ7の動作状態が管理値内であってマグネットブレーキ7のストロークが正常であると診断する構成としたものである。ここで、設定値とは、乗客コンベア新設時にてマグネットブレーキ7が劣化・摩耗が発生していない状態(初期状態)で得られるところの、コイル動作検出手段11Bによって検出される電流供給の開始から回転検出手段10が回転を検出するまでの時間とコイル動作検出手段11Bによって検出される電流供給の開始からモニター手段9Bによって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間の比率の約150%をいう。なお、この設定値は、乗客コンベア新設時に検出(計測)して、第2診断手段22に予め格納するようにしている。
【0036】
次に、上記他実施形態に係る診断装置20による診断動作の流れを、図7に基づき、説明する。なお、図7に示すステップS1〜S7及びステップS9〜S16については、図5のステップS1〜S7及びステップS9〜S16と全く同一であるので説明を省略する。
【0037】
上記一実施形態に係る診断装置8よる診断動作の流れと上記他実施形態に係る診断装置20よる診断動作の流れとは、前者が図5のステップS8であるのに対して、後者が図7のステップS8Aである点で相違している。すなわち、図5のステップS8では、図5のステップS6にて検出された駆動軸回転開始時間T1及び図5のステップS7にて検出された上昇開始時間T2を第1診断手段14に取り込み格納するとともに、駆動軸回転開始時間T1若しくは上昇開始時間T2が、その第1診断手段14に予め格納された正規値(正規駆動開始時間T01若しくは正規上昇開始時間T02)以上か否かを判断するのに対して、図7のステップS8Aでは、図7のステップS6にて検出された駆動軸回転開始時間T1及び図7のステップS7にて検出された上昇開始時間T2を時間差率算出手段21に取り込んで、前記第2時間と前記駆動軸回転開始時間T1の比率(T1/T2)を算出して、その算出された比率(T1/T2)と設定値とを比較し、その比率(T1/T2)が設定値以上であるか否かを判断するようにしている。
【0038】
そして、比率(T1/T2)が設定値以上である場合、図7のステップS10に進み、かつ、比率(T1/T2)が設定値未満である場合、図7のステップS16に進むようにしてある。
【0039】
上記他実施形態に係る診断装置20では、マグネットブレーキ7へ電流を供給してから減速器4の入力側軸4Aは、マグネットブレーキ7の可動片7Bが物理的に完全に吸引される前に、可動片7Bと当接しながらも回転するため、ブレーキストロークが大きくなるにつれて、駆動軸回転開始時間T1が長くなるが、その変化量(傾き)は小さくなる。それに対して、マグネットブレーキ7へ電流供給を開始してから電動機2へ指令したトルク出力値が上昇を開始するには、マグネットブレーキ7の可動片7Bが物理的に完全に吸引された後となるため、第2時間T2(上昇開始時間)が長くなるが、ブレーキストロークが大きくなるにつれて、駆動軸回転開始時間T1が長くなるが、その変化量(傾き)は大きくなる。したがって、ブレーキストロークが大きくなるにつれて、比率(T1/T2)も大きくなるので、この比率(T1/T2)が設定値以上になった場合に、マグネットブレーキ7のストローク異常と診断することができる。
【0040】
以上のように、他実施形態に係る診断装置20によっても、専用の電流検出器を設けることなく、乗客コンベアに既設されている乗客コンベア制御装置11及びインバータ装置9を流用することにより、マグネットブレーキ7の動作状態を診断し得るので、低コスト化を図ることができるとともに、しかも、保全作業者の熟練及び経験に依存することなく、マグネットブレーキ7の動作状態を診断し得るので、その保全作業者の診断作業の労力の軽減化を図ることができる。
【0041】
さらに、上記構成の他実施形態に係る診断装置20によれば、上記一実施形態に係る診断装置8において必要な正規駆動開始時間T01及び正規上昇開始時間T02の検出及び記憶が不必要であるので、その分の低コスト化及び保全作業者の診断作業の労力の軽減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る乗客コンベアの電動機駆動部の要部正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る乗客コンベア用マグネットブレーキの要部側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置により得られる各出力と時間との関係を示す特性図である。
【図5】本発明の一実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置による診断動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の他実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図7】本発明の他実施形態に係り、乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置による診断動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 乗客コンベアの電動機駆動部
2 電動機
3 ベルト
4 減速器
4A 入力側軸
4B 出力側軸
5 動力チェーン
6 駆動スプロケット
7 乗客コンベア用マグネットブレーキ
7A コア
7B 可動片
7C 回転体
7D 締結具
7E サイドプレート
7F 電磁コイル
7G 制動ばね
8 乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置(一実施例)
9 インバータ装置
9A トルク指令手段
9B モニター手段
10 回転検出手段
11 乗客コンベア制御装置
11A CPU
11B コイル動作検出手段
12 駆動軸回転開始検出手段
13 トルク指令上昇開始検出手段
14 第1診断手段
15 監視センター
20 乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置(他実施例)
21 時間差率算出手段
22 第2診断手段
T1 第1時間(駆動軸回転開始時間)
T2 第2時間(上昇開始時間)
T01 正規駆動開始時間
T02 正規上昇開始時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の駆動力が減速機を介して伝達されて回転する回転体を押圧することで前記回転体を制動する可動片と、電流が供給されることにより前記可動片を磁力で吸引して前記回転体の制動を開放させる電磁コイルを少なくとも備えてなる乗客コンベア用マグネットブレーキの動作状態を診断するための診断装置において、前記電動機へ駆動トルク指令を与えてその駆動を制御するトルク指令手段と、前記駆動トルク指令によって出力されるトルク出力情報をモニターするモニター手段と、前記減速機の入力側軸の回転を検出する回転検出手段と、前記電磁コイルへの電流供給の開始を検出するコイル動作検出手段と、このコイル動作検出手段による電流供給の開始検出から前記回転検出手段が回転を検出するまでの第1時間を検出する駆動軸回転開始検出手段と、前記コイル動作検出手段による電流供給の開始検出から前記モニター手段によって検出される前記トルク指令出力値が上昇を開始するまでの第2時間を検出するトルク指令上昇開始検出手段と、前記第1時間若しくは前記第2時間の少なくとも一方の時間と正規値とを比較して前記第1時間若しくは前記第2時間のいずれかの時間が前記正規値以上である場合にマグネットブレーキのストローク異常と診断する第1診断手段とを少なくとも備えてなることを特徴とする乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置。
【請求項2】
前記正規値を、乗客コンベア新設時にてマグネットブレーキが劣化・摩耗が発生していない状態で得られるところの、前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始検出から前記回転検出手段が回転を検出するまでの時間の約130%に相当する時間若しくは前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始検出から前記モニター手段によって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間の約130%に相当する時間としたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置。
【請求項3】
前記第1診断手段に替えて、時間差率算出手段及び第2診断手段を設け、前記時間差率算出手段を、前記第1時間と前記第2時間の比率を算出する構成とするとともに、前記第2診断手段を、前記時間差率算出手段で算出された比率と設定値とを比較し、その比率が設定値以上である場合に、マグネットブレーキのストローク異常と診断する構成としたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置。
【請求項4】
前記設定値を、乗客コンベア新設時にて前記マグネットブレーキが劣化・摩耗が発生していない状態で得られるところの、前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始検出から前記回転検出手段が回転を検出するまでの時間と前記コイル動作検出手段によって検出される電流供給の開始検出から前記モニター手段によって検出されるトルク指令出力値が上昇を開始するまでの時間との比率の約150%としたことを特徴とする請求項3記載の乗客コンベア用マグネットブレーキの診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−265931(P2008−265931A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109552(P2007−109552)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】