説明

今川焼きの製造方法及び製造装置

【課題】 今川焼きの製造に要する時間又は手間を低減すること。また、比較的皮が薄く、また比較的堅い、従来のものと食感の異なる今川焼きの製造を可能とすること。
【解決手段】 今川焼きを製造するために、それぞれが少なくとも1つの円筒形の窪み(19)を有する一対の焼成板(5,7)の双方を加熱し、両焼成板の加熱に先立ち又はその後に、両焼成板の一方の窪みにスラリー状の生地(21)を入れ、次いで具材(25)を入れ、また他方の焼成板の窪みにスラリー状の生地(23)を入れ、これらの生地を焼成し、次に、両焼成板の窪みを相互に閉じ合わせ、生地の焼成を完了させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子の一つである今川焼きの製造方法及び該製造方法を実施するための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今川焼きは全体に扁平な円筒状の外形を有し、該外形を規定する皮と、該皮に包まれた餡のような具材とからなり、皮は比較的軟らかく、また比較的大きい肉厚を有する。このような今川焼きを製造するための装置として、従来、それぞれが少なくとも1つの円筒形の窪みを有する一対の焼成板であって両焼成板の窪みが同方向に開放される状態と、両焼成板が相互に当接され、これにより両焼成板の窪みが相互に閉じ合わされる状態との間で揺動可能であるように相互に連結された一対の焼成板からなるものが知られている(後記特許文献1の図1参照)。
【0003】
これによれば、今川焼きを製造するため、両焼成板をこれらの窪みが上方に向けて開放するように水平に置き、両焼成板をこれらの下方からガスバーナーの火炎で加熱する。次に、両焼成板の窪みのそれぞれに、小麦粉を水で溶いてなるスラリー状の生地を入れ、一方の焼成板の窪みに生地の上から具材を入れる。これにより、両窪み内の生地を焼成する。前記生地の焼成が完了する前に、両焼成板の一方の上に他方の焼成板を重ね合わせるべく他方の焼成板を一方の焼成板に向けて揺動させ、これにより両焼成板の窪みを相互に閉じ合わせる。これにより、両窪み内の生地は互いに他の一方に接し、引き続く焼成の進行に伴い互いに接合し、一体となった両生地に具材が内包された焼成物が形成される。しかし、上下に重ね合わされた両焼成板のうちの上方に位置する他方の焼成板は、前記ガスバーナーによる直接の加熱を受けない。このため、前記他方(上方)の焼成板による生地の焼成能力は低く、生地同士の接合部は完全に焼成されない。そこで、前記上方の焼成板を反対方向に揺動させ、これにより前記バスバーナーで加熱されている前記一方(下方)の焼成板の窪み上に前記焼成物を残し、前記下方の焼成板上で前記焼成物を1又は複数回裏返し、前記焼成物の焼成を完了させる。その結果、前記生地同士の接合部が完全に焼成され、焼成完了物である今川焼きが製造される。
【特許文献1】特開2001−327252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の今川焼きの製造においては、両焼成板の窪みの閉じ合わせ後における加熱が前記下方の焼成板に対してのみ行われ、前記上方の焼成板に対しては行われないことから、両焼成板間で前記焼成物を完全に焼成することができず、両焼成板の窪みの閉じ合わせを解除した後、前記焼成物を裏返してのさらなる焼成を必要とする。このため、従来にあっては、今川焼きの製造に時間と手間を要するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、今川焼きの製造に要する時間又は手間を低減することにある。また、前記従来の製造装置又は製造方法によって得られる今川焼きは、その皮が比較的厚く、また柔軟であるところ、本発明の他の目的は、これとは逆に比較的皮が薄く、また比較的堅い、食感の異なる今川焼きの製造を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1に記載の発明は、今川焼きの製造方法に係り、それぞれが少なくとも1つの円筒形の窪みを有する一対の焼成板の双方を加熱すること、両焼成板の加熱に先立ち又はその後に両焼成板の一方の窪みにスラリー状の生地を入れ、次いで具材を入れ、また他方の焼成板の窪みにスラリー状の生地を入れ、前記生地を焼成すること、両焼成板の窪みを相互に閉じ合わせ、前記生地の焼成を完了させることを含む、
ことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、両焼成板の一方の窪みに入れられた生地及び他方の焼成板の窪みに入れられた生地を両焼成板の加熱により焼成し、前記生地が完全に焼成される前に、両焼成板の窪みを相互に閉じ合わせる。本発明にあっては、両焼成板の窪みを相互に閉じ合わせておく間、両焼成板の双方を加熱することから、焼成が不完全な状態にある生地同士の接合部を完全に焼成し、前記生地の焼成を完了することができる。その後、両焼成板の窪みの閉じ合わせを解除し、これらを開放することにより、両焼成板間から焼成完了物である今川焼きを取り出すことができる。このことから、本発明によれば、従来のように両焼成板の窪みの閉じ合わせを解除した後に生地の焼成を完了させるために行う焼成未了物の裏返しの作業が必要でなく、今川焼きの製造に要する時間を節減し、また労力を軽減することができる。
【0008】
(請求項2に記載の発明の特徴)
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成要素を備えた上で、前記具材を、前記一方の焼成板の窪みからその外部に盛り上がるように入れることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、一方の焼成板の窪みにその外部に盛り上がるように入れることにより、両焼成板の窪みを閉じ合わせるとき、両窪み内の焼成完了前の生地がこれらの間の具材を押し潰し、同時に両窪み内の生地が前記具材から前記窪みの壁面に向けて圧迫され、圧密される。その結果、前記生地の焼成が完了したとき、比較的堅い皮を有する今川焼きが製造される。このようにして得られる今川焼きは、従来の比較的軟らかい皮を有する今川焼きとは食感を異にする新規な焼き菓子をなす。また、前記具材を比較的多量にすれば、前記具材による前記生地に対する圧迫量が増大するため、より薄く、またより硬い皮を有する今川焼きが得られる。皮の薄い今川焼きもまた従来の今川焼きとは食感を異にする新規な焼き菓子をなす。
【0010】
(請求項3に記載の発明の特徴)
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成要素を備えた上で、前記窪みが相互に閉じ合わされた両焼成板を上下に重ね合わせること、重ね合わされた両焼成板の上下関係を少なくとも1回逆にすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、両焼成板を上下に重ね合わせて両焼成板の窪み中の生地を焼成するとき、上方の焼成板からはその周囲への放熱が生じ、また、下方の焼成板から上方の焼成板へ向けての熱の移動が生じる。このため、上下の焼成板にわずかな温度差が生じ、上方の焼成板に接する生地の焼き色と下方の焼成板に接する生地の焼き色とに差が生じることがある。この差は、両焼成板の上下関係を逆にして、焼き色の薄い生地をさらに焼くことにより、解消することができる。
【0012】
(請求項4に記載の発明の特徴)
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の今川焼きの製造方法を実施するための今川焼きの製造装置に係り、それぞれが少なくとも1つの円筒形の窪みを有する一対の焼成板であって両焼成板の窪みが同方向に開放される状態と、両焼成板の窪みが相互に閉じ合わされる状態との間で揺動可能であるように相互に連結された一対の焼成板と、各焼成板に取り付けられた、各焼成板を加熱するための加熱手段とを含むことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、両焼成板のそれぞれにこれらを加熱するための加熱手段を設けたことから、今川焼きの製造に際し、両焼成板の窪みへの生地及び具材の投入並びにその後の両焼成板の窪みの相互閉じ合わせの間、両焼成板をほぼ同温度での加熱状態下におき、前記生地の焼成をその開始からその完了まで連続的に進行させることができる。このことから、両焼成板の加熱温度に大きな差が生じることにより必要とした作業、すなわち両焼成板の窪みの閉じ合わせを解除した後の焼成未了の焼成物を片方の焼成板上でさらに焼くための前記焼成物の裏返し作業を不要とすることができる。
【0014】
(請求項5に記載の発明の特徴)
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明の構成要素を備えた上で、各焼成板は、前記窪みが互いに閉じ合わされた両焼成板が上下に重ね合わされ、両焼成板の窪みが互いに閉じ合わされるとき、両焼成板の窪みに入れられた前記生地及び前記具材に対して押圧力を及ぼすことが可能である重量を有することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、両焼成板をそれぞれ重量物で構成することにより、両焼成板の窪みが互いに閉じ合わせされたときの両窪み内の生地による前記具材の押し潰し、前記生地に対する前記具材による前記窪みの壁面に向けての圧迫及びその維持を上方に位置する焼成板の重量をもって賄うことができる。
【0016】
(請求項6に記載の発明の特徴)
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の発明の構成要素を備えた上で、前記加熱手段は電熱器からなることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、各焼成板に取り付けられる加熱手段を電熱器とすることにより、各焼成板の加熱温度の調整や制御を容易に行うことができ、また電熱器は比較的小型のものを採用することにより、今川焼きの製造装置自体をよりコンパクトなものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、今川焼きの製造に要する時間又は労力を低減することができる。また、従来の製造装置又は製造方法によって得られる今川焼きは、その皮が比較的厚く、また柔軟であるところ、本発明によれば、これとは逆に比較的皮が堅い、あるいはさらに比較的薄い、食感の異なる今川焼きを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1を参照すると、本発明に係る今川焼きの製造方法を実施するための製造装置が全体に符号1で示されている。図示の例においては、2つの製造装置1が台3の上に並べて配置されている。今川焼きの製造装置1は、鉄のような金属製の一対の焼成板5,7と、これらの両焼成板5,7にそれぞれ取り付けられた2つの加熱手段9とを含む。
【0020】
両焼成板5,7は、それぞれ、全体に矩形の平面形状を有し、互いに揺動可能であるように連結されている。図1に示す例においては、両焼成板5,7を揺動可能に連結するため、各焼成板5,7の互いに相対する両側面(より詳細には、前記矩形の短辺側の両側面)にそれぞれ一対のアーム部材11が取り付けられている。図1の右側に示す後記「開いた」状態の製造装置1を参照すると、並べて配置された両焼成板5,7の一方の両アーム部材11と、他方の焼成板7の両アーム部材11とが、それぞれ、互いに他の一方の焼成板に向けて伸びかつ部分的に重なり合っている。これらのアーム部材11の2つの重なり合う部分をそれぞれ一対のボルト13が貫通している。これにより、両焼成板5,7が両ボルト13の共通の軸線の周りに揺動可能に連結されている。また、台3には互いに相対する一対のブラケット15が固定されている。両焼成板5,7は両ブラケット15間に配置され、さらにこれらの両ブラケット15をそれぞれ両ボルト13が貫通している。これにより、両焼成板5,7は、両ボルト13を介して互いに揺動可能であるように台3に取り付けられている。
【0021】
各焼成板5,7には、これを揺動させるための補助手段として、その両側面の一方に、アーム部材11に隣接するハンドル17が取り付けられている。ハンドル17を把持して両焼成板5,7のいずれか一方を両ボルト13の軸線の周りに揺動させることにより、両焼成板5,7をこれらが台3上に並列に載置された状態(図1の右側に示す両焼成板5,7の状態)におき、あるいは一方の焼成板5の上に他方の焼成板7が重ね合わされた状態(図1の左側に示す両焼成板5,7の状態)におくことができる。両焼成板5,7は、台3上に並列に載置された状態にあるときは、その形態から、「開いた」状態にあるということができ、また、一方の焼成板5の上に他方の焼成板7が重ね合わされた状態にあるときは、その形態から、「閉じた」状態にあるということができる。
【0022】
両焼成板5,7は、それぞれ、今川焼きを製造するための材料であるスラリー状の生地と餡のような具材とを入れるための少なくとも1つの円筒形の窪み19を有する。図1に示す例では、同一形状及び同一寸法を有する10個(5個X2列)の窪み19が設けられている。窪み19は各焼成板5,7の表面に開口するように配置されている。他方、各焼成板5,7の表面の反対側の裏面には加熱手段9が配置されている。
【0023】
両焼成板5,7が「開いた」状態にあるときはこれらの表面が一つの平面上にあり、また上方に向けられている。したがって、両焼成板5,7が「開いた」状態にあるとき、両焼成板5,7の表面に開口する全ての窪み19は同方向である上方向に開放されているということができる。
【0024】
両焼成板5,7の「開いた」状態で見て、一方の焼成板5の10個の窪み19と、他方の焼成板7の10個の窪み19とは、それぞれ、両焼成板5,7の揺動軸線すなわち両ボルト13の共通軸線に平行な直線に関して線対称に配置されている。また、両焼成板5,7が「閉じた」状態にあるとき、両焼成板5,7はこれらの表面において互いに当接する。したがって、両焼成板5,7が「閉じた」状態にあるとき、下方に位置する焼成板5の表面に開口する各窪み19と上方に位置する焼成板7の表面に開口する各窪み19とは互いに対向しかつ共同して今川焼きが形成される1つの閉じた空間を規定するように、互いに閉じ合わされる。
【0025】
各焼成板5,7の裏面に配置された、各焼成板5,7を加熱するための加熱手段9は、電熱器からなる。前記電熱器は、その発熱温度を調整しまた制御し、これにより各焼成板5,7の加熱温度を所望の値に設定するためのコントローラ20と、電力線22とを介して、電源(図示せず)に接続されている。
【0026】
次に、製造装置1を使用して実施する本発明に係る今川焼きの製造方法について説明する。
【0027】
まず、加熱手段9に電力を供給することにより、両焼成板5,7を加熱する。加熱温度は、コントローラ20の操作により、両焼成板5,7の窪み19に入れられる前記生地の焼成に適する例えば150〜190℃に設定する。両焼成板5,7の加熱は、好ましくは、これらを「閉じた」状態で行う。これにより、加熱中の両焼成板5,7からの放熱を最小限にすることができる。
【0028】
両焼成板5,7が所定の加熱温度に達した後、「閉じた」状態にある両焼成板5,7のいずれか一方、例えば焼成板7を両ボルト13の軸線の周りに揺動させ、両焼成板5,7を「閉じた」状態から、「開いた」状態におく。
【0029】
次に、両焼成板5,7を「開いた」状態におくことにより現れた、上方に向けて開放する各窪み19に今川焼きを製造するための材料を入れる。より詳細には、図2に示すように、一方の焼成板5の窪み19にスラリー状の生地21を入れ、次いで他方の焼成板7の窪み19に同様のスラリー状の生地23を入れ、最後に一方の焼成板5の窪み19に生地21の上から具材25を入れる。各窪み19に生地21,23及び具材25を入れる順序は、前記した順序に限らず、任意に定めることができる。また、各窪み19に生地21,23及び具材25を入れる作業は、前記したように両焼成板5,7を加熱した後に行うことに代えて、両焼成板5,7の加熱前に行い、前記窪み内への生地21,23及び具材25投入作業の完了後に両焼成板5,7を加熱してもよい。あるいは、又、前記作業を両焼成板5,7が所定の加熱温度に達する前に行ってもよい。
【0030】
スラリー状の生地21,23は小麦粉、又は小麦粉を主成分として例えばベーキングパウダー、増粘多糖類、大豆、卵、ミルク等を含む混合粉を水に溶かしてなる流体からなる。前記小麦粉又は前記混合粉と水との重量比は、例えば100対100〜130とすることができる。また、具材25は、通常、餡からなるが、餡以外の例えばクリームのようなものを任意に選択することができる。
【0031】
窪み19に入れる生地21,23の量及び具材25の量は、窪み19の大きさを考慮して任意に設定することができる。一例を挙げると、各窪み19の直径及び深さがそれぞれ73mm及び15mmである場合、生地21,23の量を30〜40gとし、また具材25の量を90〜100gとすることができる。
【0032】
両焼成板5,7の各窪み19に入れられた生地21,23は、時間の経過にしたがって、加熱状態にある窪み19の円形の底壁及び円筒形の周側壁に直に接する表面からその内部に向けて焼き上げられる。すなわち焼成される。生地21,23は、窪み19における焼成により、一端(上端)開放の円筒状の形態に成形される。
【0033】
生地21,23の焼成が完了する前、すなわち生地21,23の焼成がその内部全体に及ぶ前に、両焼成板5,7をこれらのハンドル17を握って互いに他の一方に向けて揺動させて両焼成板5,7を相互に当接させ、これにより両焼成板5,7の各窪み19同士を互いに閉じ合わせる。両焼成板5,7を互いに他の一方に向けて揺動させることにより、両焼成板5,7の揺動の間、焼成未了の生地21,23及び具材25が窪み19から抜け落ちることを防止することができる。両焼成板5,7が相互に当接されると、前記焼成未了の生地21,23及び具材25は、互いに閉じ合わされた両焼成板5,7の両窪み19内に保持される。その結果、両窪み19内の円筒状を呈する焼成未了の生地同士21,23がこれらの開放端において互いに接し、具材25はこれらの両生地21,23に内包される。その後、この保持状態を維持する。
【0034】
本発明に係る今川焼きの製造方法においては、両焼成板5,7の双方をこれらの当接後においても引き続き加熱する。この間に両窪み19内の生地21,23の焼成が進行する。焼成の進行に伴い、両窪み19内の生地21,23はこれらの互いに接する開放端同士が接合されて一体となり、その後、生地21,23の焼成が完了する。生地21,23の焼成の完了時期は、例えば両焼成板5,7を相互に当接させた後の経過時間を計ることにより、あるいは、両焼成板5,7をわずかに開いて生地21,23の表面の焼け具合を見ることにより、知ることができる。本発明によれば、両焼成板5,7の双方を加熱することにより、両窪み19内に保持された生地21,23の焼成完了に要する時間を、両焼成板のいずれか一方のみを加熱する従来方法と比べて短縮することができる。前記した条件下での生地21,23の焼成開始から焼成完了までに要する時間は5〜6分間であり、これは従来の約半分の時間である。
【0035】
両焼成板5,7を互いに他の一方に向けて当接させた後、この当接を維持したまま、両ハンドル17を持って両焼成板5,7を台3の両ブラケット15に関して揺動させ、一方の焼成板5の上に他方の焼成板7が重なり合う状態(図1における左側に配置された製造装置1の状態)にする。この状態下で両焼成板5,7の加熱を継続し、生地21,23の焼成の完了を待つ。両焼成板5,7を上下に重ね合わせて生地21,23の前記焼成の完了を待つとき、上方の焼成板7が発する熱の一部が外部に放射され、下方の焼成板5が発する熱の一部が生地21、具材25及び生地23を順次に経て上方へ移動することから、両焼成板5,7の加熱温度にわずかな差が生じ、このために高温下におかれる下方の生地21の表面と、これよりも低温下におかれる上方の生地23の表面とで焼き色に差が生じることがある。これを解消するために、重ね合わされ「閉じた」状態にある両焼成板5,7を両ブラケット15に関して揺動させ、これらの上下関係を少なくとも一回逆にする。こうすることで、焼き色の薄い生地23を高温側に移し、また焼き色の濃い生地21を低温側に移すことができ、これにより、両生地21,23の表面の焼き色をほぼ同じになる様に調整することができる。
【0036】
生地21,23の焼成の完了により、両焼成板5,7の両窪み19中に焼成完了物である今川焼きが形成される。前記今川焼きは、両焼成板5,7を「閉じた」状態から「開いた」状態におくことにより、いずれか一方の焼成板5,7の窪み19上に露出させ、取り出すことができる。
【0037】
また、本発明に係る今川焼きの製造方法においては、希望に応じて、「開いた」状態にある焼成板5の窪み19に具材25を生地21の上から入れるとき、具材25が窪み19からその外部(図2においては窪み19の上方空間)に盛り上がり、突出するようにする。これによれば、両焼成板5,7を互いに他の一方に向けて揺動させて互いに当接させるとき、窪み19から突出する具材25が両焼成板5,7の押圧力を受けて押し潰される。より正確には、両焼成板5,7の窪み19内の生地21,23の押圧力を受けて押し潰される。同時に、具材25はこれが押し潰されるとき、すなわち塑性変形するとき、両生地21,23内に占める具材25の体積を増大させる。その結果、両生地21,23の焼成未了の部分が具材25から両窪み19の底壁及び周側壁、特に前記底壁に向けて強く押圧され、前記焼成未了の部分の厚さが減少する。この厚さの減少の度合いは具材25の量によって異なり、具材25の量が多いほど、前記焼成未了の部分の厚さはより小さいものとなる。
【0038】
前記焼成の完了までの間、上下に重ね合わされた両焼成板5,7間の生地21,23及び具材25を押圧下におくためには、両焼成板5,7の相互当接を維持することが必要であるが、これは、両ハンドル17をもって両焼成板5,7を互いに他の一方に押さえ付けることにより、あるいは両焼成板5,7をこれらの相互当接を維持することを可能とする重量を有するものとすることにより可能である。一例を挙げれば、前記した寸法の窪み19を有する各焼成板5,7は縦538mmX横165mmX厚さ25mmの大きさを有するところ、各焼成板5,7は、加熱手段9を含めて、約8.0Kgの重量を有する。
【0039】
具材25の圧迫を受ける状態で焼成された両生地21,23、すなわちこのようにして製造された今川焼き27の上下の皮29,31(図3及び図4参照)は、これらがこのような圧迫を受けない状態で焼成される場合と比べて、堅く、薄い性質を有する。このため、この今川焼き27は、皮が厚く軟らかい従来の今川焼きとは異なる、パリパリとした食感を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る今川焼きの製造装置の斜視図である。
【図2】今川焼きの製造装置の一部をなす一対の焼成板であって該焼成板の窪みに生地及び具材を入れた状態の焼成板の部分斜視図である。
【図3】本発明に係る製造方法を実施するための製造装置を用いて製造された今川焼きの斜視図である。
【図4】図3の線X−Xに沿って得た横断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 今川焼きの製造装置
5,7 焼成板
9 加熱手段
19 窪み
21,23 生地
25 具材
27 今川焼き
29,31 皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが少なくとも1つの円筒形の窪みを有する一対の焼成板の双方を加熱すること、
両焼成板の加熱に先立ち又はその後に両焼成板の一方の窪みにスラリー状の生地を入れ、次いで具材を入れ、また他方の焼成板の窪みにスラリー状の生地を入れ、前記生地を焼成すること、
両焼成板の窪みを相互に閉じ合わせ、前記生地の焼成を完了させること、
ことを特徴とする、今川焼きの製造方法。
【請求項2】
前記具材を、前記一方の焼成板の窪みからその外部へ盛り上がるように入れる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記窪みが相互に閉じ合わされた両焼成板を上下に重ね合わせること、
重ね合わされた両焼成板の上下関係を少なくとも1回逆にする、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の今川焼きの製造方法を実施するための今川焼きの製造装置であって、
それぞれが少なくとも1つの円筒形の窪みを有する一対の焼成板であって両焼成板の窪みが同方向に開放される状態と、両焼成板の窪みが相互に閉じ合わされる状態との間で揺動可能であるように相互に連結された一対の焼成板と、
各焼成板に取り付けられた、各焼成板を加熱するための加熱手段と、を含む、
ことを特徴とする、製造装置。
【請求項5】
各焼成板は、前記窪みが互いに閉じ合わされた両焼成板が上下に重ね合わされるとき、両焼成板の窪みに入れられた前記生地及び前記具材に対して押圧力を及ぼすことが可能である重量を有する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の製造装置。
【請求項6】
前記加熱手段は電熱器からなる、
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−100657(P2009−100657A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273368(P2007−273368)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(396007557)株式会社大和田製作所 (6)
【Fターム(参考)】