説明

低温流体用昇圧装置

【課題】シリンダブロックの温度上昇を防止することができ、加圧室内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができて、加圧室内に吸い込まれた低温流体を所望の圧力にまで効率よく昇圧させることができる低温流体用昇圧装置を提供すること。
【解決手段】シリンダライナ76の外周面には、その上端が開放端とされ、その下端が閉塞端とされて上下方向に延びる凹所76bが、周方向に沿って複数本設けられており、シリンダブロック74の側面には、前記シリンダブロック74と断熱真空容器75との間に形成された空間内に溜められた低温流体Lを、前記シリンダライナ76の外周面に設けられた前記凹所76b内に導く貫通穴74aが、周方向に沿って複数個設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温の流体を圧縮して昇圧させる低温流体用昇圧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低温(0℃以下)の流体(例えば、水素)を圧縮して昇圧させる低温流体用昇圧装置としては、ピストンヘッドにピストンリングを有するピストン式のものが知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】遠藤拓也ほか著、「新エネルギー自動車」、山海堂、1995年1月、p.221−222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、最近では低温流体を大気圧から1.3MPa程度にまで圧縮するピストンを備えた低温流体用昇圧装置が提案されている。
しかしながら、このような低温流体用昇圧装置では、ピストンにより低温流体が1.3MPa程度にまで圧縮されることとなる。そのため、ピストンのピストンリングの内周面側に流れ込んだ高圧の低温流体が、ピストンリングの外周面をシリンダの内周面に強く押しつけるように作用し、これらピストンリングとシリンダ壁との摩擦が激しくなって、摩擦による発熱が著しく増加し、この熱がピストンに伝わってピストンの側に吸い込まれた大気圧状態の低温流体の一部が蒸発気化(ボイルオフ)してしまい、所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで圧縮することができないといった問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、シリンダブロックの温度上昇を防止することができ、加圧室内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができて、加圧室内に吸い込まれた低温流体を所望の圧力にまで効率よく昇圧させることができる低温流体用昇圧装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
請求項1に記載の低温流体用昇圧装置は、外周面にピストンリングを有するピストンと、前記ピストンを摺動可能に収容し、前記ピストンの一端面により低温流体が圧縮される加圧室を有するシリンダライナと、その内周面が前記シリンダライナの外周面と接するようにして前記シリンダライナを収容するシリンダブロックと、前記ピストンおよび前記シリンダブロックを収容する断熱真空容器と、を備えるとともに、前記シリンダブロックと前記断熱真空容器との間に形成された空間内に、低温流体が溜められた低温流体用昇圧装置であって、前記シリンダライナの外周面には、その上端が開放端とされ、その下端が閉塞端とされて上下方向に延びる凹所が、周方向に沿って複数本設けられており、前記シリンダブロックの側面には、前記シリンダブロックと前記断熱真空容器との間に形成された空間内に溜められた前記低温流体を、前記シリンダライナの外周面に設けられた前記凹所内に導く貫通穴が、周方向に沿って複数個設けられていることを特徴とする。
このような低温流体用昇圧装置によれば、シリンダブロックとシリンダライナとの間に凹所が設けられ、この凹所内には低温流体が常に満たされているので、ピストンリングがシリンダライナの内壁面に沿って摺動することにより発生する摩擦熱を、低温流体で十分に冷却されたシリンダライナを介して効率よく回収することができ、装置全体の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダライナ内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができるとともに、断熱真空容器内に貯められた低温流体の蒸発気化を防止することができる。
【0007】
請求項2に記載の低温流体用昇圧装置は、外周面にピストンリングを有するピストンと、前記ピストンを摺動可能に収容し、前記ピストンの一端面により低温流体が圧縮される加圧室を有するシリンダライナと、その内周面が前記シリンダライナの外周面と接するようにして前記シリンダライナを収容するとともに、大気圧状態の前記低温流体を前記加圧室に導く流体流入口、および前記ピストンの一端面により圧縮された前記低温流体が流出する流体流出口が底面に設けられたシリンダブロックと、を備えた低温流体用昇圧装置であって、前記シリンダライナの肉厚部には、その上端および下端が開放端とされて上下方向に延びる連通穴が、周方向に沿って複数本設けられており、前記連通穴内にはそれぞれ、その外周面が前記連通穴の内周面と接するパイプが嵌入されているとともに、前記パイプのうち、一のパイプの上流端と、前記流体流出口とは、配管を介して接続され、前記一のパイプの下流端と、前記一のパイプに隣接して配置された他のパイプの上流端とは、接続管を介して接続されており、前記流体流出口から前記シリンダブロックの外部に導き出された前記低温流体が、前記パイプ内を、周方向に沿って順次通過していくように構成されていることを特徴とする。
このような低温流体用昇圧装置によれば、シリンダライナの肉厚部内に複数本のパイプが設けられ、これらパイプ内には低温流体が常時通過させられているので、ピストンリングがシリンダライナの内壁面に沿って摺動することにより発生する摩擦熱を、低温流体で十分に冷却されたシリンダライナを介して効率よく回収することができ、装置全体の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダライナ内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。
【0008】
請求項3に記載の燃料供給装置は、上記いずれかの低温流体用昇圧装置と、前記低温流体用昇圧装置により昇圧された低温流体をガス化する蒸発器と、前記蒸発器によりガス化された低温流体を一時貯溜しておく気蓄器とが設けられていることを特徴とする。
このような燃料供給装置によれば、低温流体用昇圧装置により昇圧された低温流体は、蒸発器によりガス化されて一時気蓄器に溜められた後、ユースポイント(例えば、エンジン等)に供給されることとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリンダブロックの温度上昇を防止することができ、加圧室内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができて、加圧室内に吸い込まれた低温流体を所望の圧力にまで効率よく昇圧させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による低温流体用昇圧装置の第1参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図2】本発明による低温流体用昇圧装置の第2参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図3】本発明による低温流体用昇圧装置の第3参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図4】本発明による低温流体用昇圧装置の第4参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図5】本発明による低温流体用昇圧装置の第5参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図6】本発明による低温流体用昇圧装置の第6参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図7】本発明による低温流体用昇圧装置の第7参考実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図8】本発明による低温流体用昇圧装置の第1実施形態を示す図であって、(a)は概略縦断面図、(b)シリンダライナの全体斜視図である。
【図9】本発明による低温流体用昇圧装置の第2実施形態を示す図であって、(a)は概略縦断面図、(b)シリンダライナの全体斜視図である。
【図10】本発明による低温流体用昇圧装置の第2実施形態を具備した燃料供給装置の概略構成図である。
【図11】本発明による低温流体用昇圧装置の第8参考実施形態を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による低温流体用昇圧装置の第1参考実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る低温流体用昇圧装置1は、第1段圧縮部10と、第2段圧縮部20とを主たる要素として構成されたものである。
第1段圧縮部10は、ピストン(第1のピストン)11と、ピストンロッド12と、シリンダブロック(第1のシリンダブロック)13と、断熱真空容器(第1の断熱真空容器)14とを備えたものである。
ピストン11は、シリンダブロック13の内部に形成されたシリンダ13a内に往復動可能に収容された概略円筒状を呈する部材であり、その一端面(図1において下側の端面)により低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)が圧縮され得るようになっている。
また、ピストン11の外周面(すなわち、シリンダ13aの内周面(シリンダ壁)と対向する面)には図示しないリング溝が形成されているとともに、このリング溝内にはピストンリング11aが配置されている。
【0012】
ピストンロッド12は、断面視円形を呈する概略棒状の部材であり、その一端部は、ピストン11の他端面中央部に連結されているとともに、その他端部は、図示しない動力伝達部に接続されている。
動力伝達部は、図示しない駆動源からの動力によりピストンロッド12を、例えば、2mmのストロークで上下方向に直線的に往復動させるものである。
【0013】
シリンダブロック13は、その内部に概略中空円筒状のシリンダ13aを有する部材である。シリンダ13aの底面(図1において下側の面)には、大気圧状態の低温流体が流入する流体流入口13bが設けられており、また、シリンダ13aの内周面(図1において右側の面)には、圧縮された(1.3MPa程度に昇圧された)低温流体が流出する流体流出口13cが設けられている。流体流入口13bの上流側近傍および流体流出口13cの下流側近傍に位置する配管17にはそれぞれ逆止弁(チェック弁)15,16が設けられている。
【0014】
断熱真空容器14は、その内部が真空とされ、かつその内部に、例えば、銅板等の輻射シールド板(図示せず)が配置された容器である。この断熱真空容器14内には、低温流体Lが貯溜(あるいは別途供給)されるようになっており、前述したシリンダブロック13の略全体が低温流体L内に浸かるように収容されている。
【0015】
以上の構成から、第1段圧縮部10では、駆動源からの動力により上下方向へ直線的に往復動するピストンロッド12により、このピストンロッド12の一端部に接続されたピストン11がシリンダ13a内を往復動し、流体流入口13bからシリンダ13a内に吸入された低温流体が、ピストン11の一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)に加圧(昇圧)された後、流体流出口13cからシリンダブロック14の外部に導き出されるようになっている。
【0016】
第2段圧縮部20は、ピストン(第2のピストン)21と、ピストンロッド22と、シリンダブロック(第2のシリンダブロック)23と、断熱真空容器(第2の断熱真空容器)24とを備えたものである。
ピストン21は、シリンダブロック23の内部に形成されたシリンダ23a内に往復動可能に収容された概略円筒状を呈する部材であり、その一端面(図1において下側の端面)により第1段圧縮部10で圧縮された低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)がさらに圧縮され得るようになっている。
また、ピストン21の外周面(すなわち、シリンダ23aの内周面(シリンダ壁)と対向する面)には図示しないリング溝が形成されているとともに、このリング溝内にはピストンリング21aが配置されている。
【0017】
ピストンロッド22は、断面視円形を呈する概略棒状の部材であり、その一端部は、ピストン21の他端面中央部に連結されているとともに、その他端部は、図示しない動力伝達部に接続されている。
動力伝達部は、図示しない駆動源からの動力によりピストンロッド22を、例えば、2mmのストロークで上下方向に直線的に往復動させるものである。
【0018】
シリンダブロック23は、その内部に概略中空円筒状のシリンダ23aを有する部材である。シリンダ23aの底面(図1において下側の面)には、第1段圧縮部10で圧縮された低温流体が流入する流体流入口23bが設けられており、また、シリンダ23aの内周面(図1において右側の面)には、圧縮された(100MPa程度に昇圧された)低温流体が流出する流体流出口23cが設けられている。流体流入口23bの上流側に位置する配管17には前述した逆止弁(チェック弁)16が配置されており、流体流出口23cの下流側近傍に位置する配管17には逆止弁(チェック弁)25が設けられている。
【0019】
断熱真空容器24は、その内部が真空とされ、かつその内部に、例えば、銅板等の輻射シールド板(図示せず)が配置された容器であり、その内部に前述したシリンダブロック23が収容されている。
【0020】
以上の構成から、第2段圧縮部20では、駆動源からの動力により上下方向へ直線的に往復動するピストンロッド22により、このピストンロッド22の一端部に接続されたピストン21がシリンダ23a内を往復動し、流体流入口23bからシリンダ23a内に吸入された低温流体が、ピストン21の一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、100MPa程度)に加圧(昇圧)された後、流体流出口23cから断熱真空容器24の外部に導き出されるようになっている。
【0021】
そして、逆止弁25よりも下流側に位置する配管17には、第2段圧縮部20により圧縮された低温流体を加熱してガス化させる蒸発器(熱交換器)30と、この蒸発器30によりガス化された低温流体を一時(一旦)貯めておく(貯溜しておく)気蓄器(蓄圧器)40とが設けられている。気蓄器40内のガス化された低温流体は、配管17を介してユースポイント(例えば、エンジン等)に供給されるとともに消費される。そして、これら蒸発器30と、気蓄器40と、低温流体用昇圧装置1とを主たる要素として燃料供給装置が構成されている。
【0022】
本実施形態による低温流体用昇圧装置1によれば、第1段圧縮部10と第2段圧縮部20とが分離独立して設けられている(構成されている)ので、発熱量の多い第2段圧縮部20の熱が第1段圧縮部10に伝達されることを防止することができて、第1段圧縮部10の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダ13a内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができるとともに、断熱真空容器14内に貯められた低温流体の蒸発気化を防止することができる。
【0023】
本発明による低温流体用昇圧装置の第2参考実施形態を、図2を用いて説明する。
本実施形態における低温流体用昇圧装置1aは、第1段圧縮部10の流体流出口13cと第2段圧縮部20の流体流入口23bとを連通する配管17aが、低熱伝導率の材料(例えば、SUS304、SUS316、チタン合金等)で構成されているという点で前述した第1参考実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第1参考実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0024】
本実施形態による低温流体用昇圧装置1aによれば、第1段圧縮部10と第2段圧縮部20とが、低熱伝導率の材料からなる配管17aにより接続されているので、発熱量の多い第2段圧縮部20の熱が第1段圧縮部10に伝達されることをさらに防止することができて、第1段圧縮部10の温度上昇をさらに防止することができる。
これにより、シリンダ13a内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまでさらに効率よく圧縮することができるとともに、断熱真空容器14内に貯められた低温流体の蒸発気化をさらに防止することができる。
なお、第2段圧縮部20における発熱量が数百Wとした場合に、第1段圧縮部10に伝達される熱量が10W以下となるように、配管17aの材料、管長さ、および管厚みが選択されていればさらに好適である。
これにより、第1段圧縮部10における低温流体の蒸発気化量を略ゼロ(零)にすることができる。
【0025】
本発明による低温流体用昇圧装置の第3参考実施形態を、図3を用いて説明する。
本実施形態における低温流体用昇圧装置1bは、シリンダブロック23を冷却するための第1冷却部27と、輻射シールド板26を冷却するための第2冷却部28とを具備しているという点で前述した第1参考実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第1参考実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0026】
第1冷却部27は、シリンダブロック23の外周面に接するようにして配置された配管17からなり、この配管17内を通過する低温流体によってシリンダ23a内で発生した熱が持ち去られる(奪われる)とともに、第2段圧縮部20aの低温化が図られるようになっている。
第2冷却部28は、輻射シールド板26の外周面(あるいは内周面)に接するようにして配置された配管17からなり、この配管17内を通過する低温流体によって輻射シールド板26全体が冷却され、第2段圧縮部20aのさらなる低温化が図られるようになっている。
【0027】
本実施形態による低温流体用昇圧装置1bによれば、第1段圧縮部10と第2段圧縮部20aとが分離独立して設けられている(構成されている)ので、発熱量の多い第2段圧縮部20aの熱が第1段圧縮部10に伝達されることを防止することができて、第1段圧縮部10の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダ13a内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができるとともに、断熱真空容器14内に貯められた低温流体の蒸発気化を防止することができる。
また、第1冷却部27および第2冷却部28内を通過する低温流体に、第2段圧縮部20aで発生した熱が奪い去られることとなるので、第2段圧縮部20の温度上昇をより一層防止することができて、第1段圧縮部10の温度上昇をより一層防止することができる。
【0028】
なお、本実施形態では第1冷却部27および第2冷却部28の双方を具備させたものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、いずれか一方の冷却部のみを具備させることも可能である。
また、これら冷却部の双方あるいはいずれか一方と、第2参考実施形態のところで説明した配管17aとを組み合わせることも可能であり、これによりさらなる効果が期待できる。
【0029】
本発明による低温流体用昇圧装置の第4参考実施形態を、図4を用いて説明する。
図4に示すように、本実施形態に係る低温流体用昇圧装置2は、ピストン51と、ピストンロッド52と、シリンダブロック53と、断熱真空容器54とを主たる要素として構成されたものである。
ピストン51は、シリンダブロック53の内部に形成されたシリンダ53a内に往復動可能に収容された断面視略十字状を呈する概略円筒状の部材であり、その大径部51aの一端面(図1において上側の端面)および小径部51bの一端面(図1において下側の面)により低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)がそれぞれ圧縮され得るようになっている。
また、これらピストン51の大径部51aおよび小径部51bの外周面(すなわち、シリンダ53aの内周面(シリンダ壁)と対向する面)にはそれぞれリング溝が形成されているとともに、これらリング溝内にはピストンリング51a’,51b’がそれぞれ配置されている。
【0030】
大径部51aを挟んで小径部51bと反対の側には、シリンダヘッド55の中央部を貫通する中径部51cが設けられている。この中径部51cの外周面(すなわち、シリンダヘッド55の内周面と対向する面)にはリング溝が形成されているとともに、このリング溝内にはピストンリング51c’が配置されている。
ピストン51の内部には、大径部51aの一端面に向かって開口する流路入口51d’と、小径部51bの一端面に開口する流路出口51”とを連通する連通路51dが形成されている。また、流路出口51”の下流側近傍には、第1の吐出ポート51eが設けられている。
【0031】
ピストンロッド52は、断面視円形を呈する概略棒状の部材であり、その一端部は、中径部51cの一端面中央部に連結されているとともに、その他端部は、図示しない動力伝達部に接続されている。
動力伝達部は、図示しない駆動源からの動力によりピストンロッド52を、例えば、2mmのストロークで上下方向に直線的に往復動させるものである。
【0032】
シリンダブロック53は、その内部に概略中空円筒状のシリンダ53aを有する部材である。また、シリンダ53aは、ピストン51の大径部51aを摺動可能に収容する第1のシリンダ53a’と、ピストン51の小径部51bを摺動可能に収容する第2のシリンダ53a”とを有している。この第2のシリンダ53a”の外側には、シリンダブロック53の外周面に接するようにして配置された配管57からなる第1冷却部67が設けられており、この配管57内を通過する低温流体によって第2のシリンダ53a”内で発生した熱が持ち去られる(奪われる)ようになっている。
シリンダブロック53の底部(図4における下端部)には、第2の吐出ポート53bが設けられているとともに、シリンダブロック53の頂部(図4における上端部)には、シリンダヘッド55が設けられている。
シリンダヘッド55は、シリンダブロック53の一端面(図4において上側の端面)を覆って、シリンダブロック53の内部に形成された第1のシリンダ53a’の開口端を塞ぐものである。
このシリンダヘッド55の一端面(図4において下側の端面)、すなわち、大径部51aの一端面と対向する側の面には、吸入ポート55aが設けられている。この吸入ポート55aおよび前述した第1の吐出ポート51e、第2の吐出ポート53bにはそれぞれ、ボール型チェックバルブ56(簡略化のためスプリングは図示していない)が設けられており、低温流体の吸入および吐出が制御されるようになっている。
また、吸入ポート55aおよび第2の吐出ポート53bには、それぞれ配管57が接続されている。
【0033】
断熱真空容器54は、その内部が真空とされ、かつその内部に、例えば、銅板等の輻射シールド板66が配置された容器であり、その内部に前述したシリンダブロック53が収容されている。輻射シールド板66の外周面には、この外周面に接するようにして配置された配管57からなる第2冷却部68が設けられており、この配管57内を通過する低温流体によって輻射シールド板66全体が冷却されるようになっている。
【0034】
以上の構成から、駆動源からの動力によりピストンロッド52が上下方向へ直線的に往復動させられると、このピストンロッド52に連結されたピストン51が上下方向へ直線的に往復動し、配管57を通って吸入ポート55aから第1加圧室(すなわち、大径部51aの一端面、シリンダヘッド55の一端面、および第1のシリンダ53a’の内周面により囲まれた空間)S1内に低温流体が吸入される。第1加圧室S1内に吸入された低温流体は、大径部51aの一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)に加圧(昇圧)された後、連通路51dおよび第1の吐出ポート51eを通って第2加圧室(すなわち、小径部51bの一端面、第2のシリンダ53a”の底面、および第2のシリンダ53a”の内周面により囲まれた空間)S2内に導かれる。第2加圧室S2内に導かれた低温流体は、小径部51bの一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、100MPa程度)に加圧(昇圧)された後、第2の吐出ポート53bから配管57を通って断熱真空容器54の外部に導き出されるようになっている。
【0035】
そして、断熱真空容器54の下流側に位置する配管57には、第2の吐出ポート53bから吐出された低温流体を加熱してガス化させる蒸発器(熱交換器)30と、この蒸発器30によりガス化された低温流体を一時(一旦)貯めておく(貯溜しておく)気蓄器(蓄圧器)40とが設けられている。気蓄器40内のガス化された低温流体は、配管57を介してユースポイント(例えば、エンジン等)に供給されるとともに消費される。そして、これら蒸発器30と、気蓄器40と、低温流体用昇圧装置1とを主たる要素として燃料供給装置が構成されている。
【0036】
本実施形態による低温流体用昇圧装置2によれば、第1冷却部67により第2加圧室S2側のシリンダブロック53が冷却されるとともに、第2冷却部68により輻射シールド板66全体が冷却されるようになっているので、発熱量の多い第2加圧室S2の熱が第1加圧室S1に伝達されることを防止することができて、第1加圧室S1の温度上昇を防止することができる。
これにより、第1加圧室S1内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。
【0037】
なお、本実施形態では第1冷却部67および第2冷却部68の双方を具備させたものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、いずれか一方の冷却部のみを具備させることも可能である。
【0038】
本発明による低温流体用昇圧装置の第5参考実施形態を、図5を用いて説明する。
本実施形態における低温流体用昇圧装置2aは、少なくとも第1のシリンダ53a’と第2のシリンダ53a”との間に位置するシリンダブロック153のフランジ部Fが、低熱伝導率の材料(例えば、SUS304、SUS316、チタン合金等)で構成されているという点で前述した第4参考実施形態のものと異なる。すなわち、第4参考実施形態のところで説明した第1冷却部67および第2冷却部68の代わりに、低熱伝導率の材料からなるフランジ部Fを有するシリンダブロック153が設けられているという点で前述した第4参考実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第4参考実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0039】
本実施形態による低温流体用昇圧装置2aによれば、低熱伝導率の材料からなるフランジ部Fにより発熱量の多い第2加圧室S2の熱が第1加圧室S1に伝達されることを防止することができて、第1加圧室S1の温度上昇を防止することができる。
これにより、第1加圧室S1内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。
なお、第2加圧室S2における発熱量が数百Wとした場合に、第1加圧室S1に伝達される熱量が10W以下となるように、フランジ部Fの材料および板厚が選択されていればさらに好適である。
これにより、第1加圧室S1における低温流体の蒸発気化量を略ゼロ(零)にすることができる。
【0040】
本発明による低温流体用昇圧装置の第6参考実施形態を、図6を用いて説明する。
本実施形態における低温流体用昇圧装置2bは、第4参考実施形態のところで説明した第1冷却部67および第2冷却部68の代わりに、断熱真空容器154の内部にタンクTが設けられているという点で前述した第4参考実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第4参考実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0041】
タンクTは、断熱真空容器154の上部に配置されており、その内部には低温流体Lが貯溜(あるいは別途供給)されている。また、図6に示すように、シリンダブロック53の上部(すなわち、内部に第1加圧室S1が存する部分)のみが低温流体L中に浸かるように構成されている。
【0042】
本実施形態による低温流体用昇圧装置2bによれば、タンクT内に貯溜(あるいは別途供給)された低温流体Lにより第1加圧室S1側のシリンダブロック53が常に冷却されることとなるので、発熱量の多い第2加圧室S2の熱が第1加圧室S1に伝達されることを防止することができて、第1加圧室S1の温度上昇を防止することができる。
これにより、第1加圧室S1内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。
【0043】
本発明による低温流体用昇圧装置の第7参考実施形態を、図7を用いて説明する。
本実施形態に係る低温流体用昇圧装置3は、図3に示す第1段圧縮部10が省略されているとともに、第2段圧縮部20aを構成する断熱真空容器24とシリンダブロック23との間に低温流体Lが貯溜(あるいは別途供給)されているという点で前述した第3参考実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、前述した第3参考実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
また、符号35は流体流入口23bの上流側近傍に位置する配管17に設けられた逆止弁(チェック弁)である。
【0044】
本実施形態による低温流体用昇圧装置3によれば、断熱真空容器24とシリンダブロック23との間に貯溜(あるいは別途供給)された低温流体Lと、第1冷却部27および第2冷却部28内を通過する低温流体とにより、シリンダブロック23の内部で発生した熱が奪い去られることとなるので、シリンダブロック23の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダ23a内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、100MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。また、装置の構成を簡略化することができる。
【0045】
本発明による低温流体用昇圧装置の第1実施形態を、図8を用いて説明する。
図8(a)に示すように、低温流体用昇圧装置70は、図示しない駆動部と、この駆動部により駆動されるポンプ部71とを主たる要素として構成されたものである。
ポンプ部71は、ピストン72と、ピストンロッド73と、シリンダブロック74と、断熱真空容器75とを備えたものである。
ピストン72は、シリンダブロック74の内側に接して設けられた(嵌入された)シリンダライナ76内に往復動可能に収容された概略円筒状を呈する部材であり、その一端面(図8(a)において下側の端面)により低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)が圧縮され得るようになっている。
また、ピストン72の外周面(すなわち、シリンダライナ76の内周面(シリンダ壁)76aと対向する面)には、周方向に沿って複数本(本実施形態では3本)のリング溝77が形成されているとともに、これらリング溝77内には、ピストンリング(図示せず)がそれぞれ配置されている。
【0046】
ピストンロッド73は、断面視円形を呈する概略棒状の部材であり、その一端部は、ピストン72の他端面中央部に連結されているとともに、その他端部は、図示しない駆動部の動力伝達部に接続されている。
動力伝達部は、駆動源からの動力によりピストンロッド73を、例えば、2mmのストロークで上下方向に直線的に往復動させるものである。
【0047】
シリンダブロック74は、その内部に概略中空円筒状のシリンダライナ76が配置されたものであり、例えば、オーステナイト系のステンレス(例えば、SUS316やSUS304等)から作られている。また、シリンダブロック74の側面(例えば、図8(a)において左側および右側の面)には、断熱真空容器75内に溜められた低温流体Lを、シリンダライナ76の外周面に形成された凹所76a内に導くための複数個(本実施形態では6個)の貫通穴74aが、周方向に沿って等間隔(本実施形態では60度間隔)に設けられている。シリンダブロック74の底面(図8(a)において下側の面)には、大気圧状態の低温流体をシリンダライナ76の内側に導く流体流入口78と、ピストン72の一端面により圧縮された(1.3MPa程度に昇圧された)低温流体が流出する流体流出口79とが設けられている。これら流体流入口78および流体流出口79には配管80がそれぞれ接続されており、流体流入口78の上流側近傍および流体流出口79の下流側近傍に位置する配管80にはそれぞれ逆止弁(チェック弁)81,82が設けられている。
また、シリンダブロック74の上面(図8(a)において上側の面)には、ピストンロッド73が貫通する貫通穴83が設けられているとともに、ピストンロッド73と貫通穴83との間には低温シール84が設けられている。
【0048】
断熱真空容器75は、その内部が真空とされ、かつその内部に、例えば、銅板等の輻射シールド板(図示せず)が配置された容器である。この断熱真空容器75内には、低温流体Lが貯留(あるいは別途供給)されるようになっており、前述したシリンダブロック74全体が低温流体L内に浸かるように収容されている。
【0049】
以上の構成により、低温流体用昇圧装置70では、駆動源からの動力により上下方向へ直線的に往復動するピストンロッド73により、このピストンロッド73の一端部に接続されたピストン72がシリンダライナ76内を往復動し、流体流入口78からシリンダライナ76内に吸入された低温流体が、ピストン72の一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)に加圧(昇圧)された後、流体流出口79からシリンダブロック74の外部に導き出されるようになっている。
【0050】
つぎに、シリンダライナ76ついて、図8(b)を用いてさらに詳しく説明する。
ピストンライナ76は、摩耗しにくい金属材料(例えば、ステライト、マルテンサイト系のステンレス(例えば、SUS440C)等)からなり、その外周面には、高さ方向(図8において上下方向)に沿って複数本(本実施形態では6本)の凹所76bが設けられている。これら凹所76bは、その一端(図8において上側の端)が開放端(開放状態)とされ、その下端(図8において下側の端)が閉塞端(閉塞状態)とされている。
そして、各凹所76b内には、各凹所76bに対応して設けられた貫通穴74aを通って断熱真空容器75内に溜められた低温流体Lが流入するようになっており、これにより、シリンダライナ76全体が効率よく冷却されることとなる。また、シリンダライナ76からの熱を受けて蒸発気化した低温流体Lは、凹所76bの開放端から流出していくようになっている。
【0051】
本実施形態による低温流体用昇圧装置70によれば、シリンダブロック74とシリンダライナ76との間に凹所76bが設けられ、この凹所76b内には低温流体Lが常に満たされているので、ピストンリングがシリンダライナ76の内壁面76aに沿って摺動することにより発生する摩擦熱を、低温流体Lで十分に冷却されたシリンダライナ76を介して効率よく回収することができ、装置全体の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダライナ76内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができるとともに、断熱真空容器75内に貯められた低温流体の蒸発気化を防止することができる。
【0052】
本発明による低温流体用昇圧装置の第2実施形態を、図9および図10を用いて説明する。
図9(a)に示すように、低温流体用昇圧装置90は、図示しない駆動部と、この駆動部により駆動されるポンプ部91とを主たる要素として構成されたものである。
ポンプ部91は、ピストン92と、ピストンロッド93と、シリンダブロック94とを備えたものである。
ピストン92は、シリンダブロック94の内側に接して設けられた(嵌入された)シリンダライナ96内に往復動可能に収容された概略円筒状を呈する部材であり、その一端面(図9(a)において下側の端面)により低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)が圧縮され得るようになっている。
また、ピストン92の外周面(すなわち、シリンダライナ96の内周面(シリンダ壁)96aと対向する面)には、周方向に沿って複数本(本実施形態では3本)のリング溝97が形成されているとともに、これらリング溝97内には、ピストンリング(図示せず)がそれぞれ配置されている。
【0053】
ピストンロッド93は、断面視円形を呈する概略棒状の部材であり、その一端部は、ピストン92の他端面中央部に連結されているとともに、その他端部は、図示しない駆動部の動力伝達部に接続されている。
動力伝達部は、駆動源からの動力によりピストンロッド93を、例えば、2mmのストロークで上下方向に直線的に往復動させるものである。
【0054】
シリンダブロック94は、その内部に概略中空円筒状のシリンダライナ96が配置されたものであり、例えば、オーステナイト系のステンレス(例えば、SUS316やSUS304等)から作られている。また、シリンダブロック94の底面(図9(a)において下側の面)には、大気圧状態の低温流体をシリンダライナ96の内側に導く流体流入口98と、ピストン92の一端面により圧縮された(1.3MPa程度に昇圧された)低温流体が流出する流体流出口99とが設けられている。これら流体流入口98および流体流出口99には配管100がそれぞれ接続されており、流体流入口98の上流側近傍および流体流出口99の下流側近傍に位置する配管100にはそれぞれ逆止弁(チェック弁)101,102が設けられている。
また、シリンダブロック94の上面(図9(a)において上側の面)には、ピストンロッド93が貫通する貫通穴103が設けられているとともに、ピストンロッド93と貫通穴103との間には低温シール104が設けられている。
【0055】
以上の構成により、低温流体用昇圧装置90では、駆動源からの動力により上下方向へ直線的に往復動するピストンロッド93により、このピストンロッド93の一端部に接続されたピストン92がシリンダライナ96内を往復動し、流体流入口98からシリンダライナ96内に吸入された低温流体が、ピストン92の一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)に加圧(昇圧)された後、流体流出口99からシリンダブロック94の外部に導き出されるようになっている。
【0056】
つぎに、シリンダライナ96ついて、図9(b)を用いてさらに詳しく説明する。
ピストンライナ96は、摩耗しにくい金属材料(例えば、ステライト、マルテンサイト系のステンレス(例えば、SUS440C)等)からなり、その肉厚部には、高さ方向(図9において上下方向)に沿って、その両端(図9において上側の端および下側の端)が開放端(開放状態)とされた、複数本(本実施形態では6本)の連通穴が設けられている。また、これら連通穴内にはそれぞれ、例えば、銅やステンレスから作られたパイプ96bが、連通穴の内側に接するように、冷やし嵌めにより嵌入されている。一のパイプ96bと、この一のパイプ96bに隣接して配置された他のパイプ96bとは、例えば、銅やステンレスから作られた複数本(本実施形態では5本)の接続管106により接続されている。また、流体流出口99の下流側に設けられた配管100は、一のパイプ96bに接続されており、流体流出口99からシリンダブロック94の外部に導き出された低温流体が、シリンダライナ96の肉厚部に設けられたパイプ96b内を、周方向に沿って順次通過していくようになっている(図9(b)または図10参照)。
【0057】
そして、最も下流側に位置するパイプ96bの出口端には配管100が接続されているとともに、この配管100には、低温流体用昇圧装置90により圧縮された低温流体を加熱してガス化させる蒸発器(熱交換器)30と、この蒸発器30によりガス化された低温流体を一時(一旦)貯めておく(貯溜しておく)気蓄器(蓄圧器)40とが設けられている。気蓄器40内のガス化された低温流体は、配管100を介してユースポイント(例えば、エンジン等)に供給されるとともに消費される。そして、これら蒸発器30と、気蓄器40と、低温流体用昇圧装置90とを主たる要素として燃料供給装置が構成されている。なお、図10中の符号107,108はそれぞれ、バルブ(開閉弁)を示している。
【0058】
本実施形態による低温流体用昇圧装置90によれば、シリンダライナ76の肉厚部内に複数本のパイプ96bが設けられ、これらパイプ96b内には低温流体が常時通過させられているので、ピストンリングがシリンダライナ96の内壁面96aに沿って摺動することにより発生する摩擦熱を、低温流体で十分に冷却されたシリンダライナ96を介して効率よく回収することができ、装置全体の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダライナ96内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。
【0059】
本発明による低温流体用昇圧装置の第8参考実施形態を、図11を用いて説明する。
図11に示すように、低温流体用昇圧装置110は、図示しない駆動部と、この駆動部により駆動されるポンプ部111とを主たる要素として構成されたものである。
ポンプ部111は、ピストン112と、ピストンロッド113と、シリンダブロック114と、断熱真空容器115とを備えたものである。
ピストン112は、その高さ方向における中間部に、周方向に沿って凹所112aが形成された、断面視I字状を呈する概略円筒状の部材で、シリンダブロック114の内部に形成されたシリンダ114b内に往復動可能に収容されており、その一端面(図11において下側の端面)により低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)が圧縮され得るようになっている。
ピストン112の一端部(図11において凹所112aの下側に位置する拡径した部分)および他端部(図11において凹所112aの上側に位置する拡径した部分)の外周面(すなわち、シリンダ114bの内周面(シリンダ壁)と対向する面)には、周方向に沿ってそれぞれリング溝117が一本ずつ形成されているとともに、これらリング溝117内には、ピストンリング(図示せず)がそれぞれ配置されている。
また、ピストン112の他端部の周端部には、板厚方向(図11において上下方向)に貫通する連通穴112bが、周方向に沿って複数個(例えば、60度間隔で6個)設けられている。
【0060】
ピストンロッド113は、断面視円形を呈する概略棒状の部材であり、その一端部は、ピストン112の他端面中央部に連結されているとともに、その他端部は、図示しない駆動部の動力伝達部に接続されている。
動力伝達部は、駆動源からの動力によりピストンロッド113を、例えば、2mmのストロークで上下方向に直線的に往復動させるものである。
【0061】
シリンダブロック114は、その内部に概略中空円筒状のシリンダ114bを有する部材であり、その側面(例えば、図11において左側および右側の面)には、断熱真空容器115内に溜められた低温流体Lを、シリンダ114b内に導くための複数個(例えば、6個)の貫通穴114aが、周方向に沿って等間隔(例えば、60度間隔)に設けられている。シリンダブロック114の底面(図11において下側の面)には、大気圧状態の低温流体をシリンダ114bの内側に導く流体流入口118と、ピストン112の一端面により圧縮された(1.3MPa程度に昇圧された)低温流体が流出する流体流出口119とが設けられている。これら流体流入口118および流体流出口119には配管180がそれぞれ接続されており、流体流入口118の上流側近傍および流体流出口119の下流側近傍に位置する配管180にはそれぞれ逆止弁(チェック弁)181,182が設けられている。
また、シリンダブロック114の上面(図11において上側の面)には、ピストンロッド113が貫通する貫通穴183が設けられているとともに、ピストンロッド113と貫通穴83との間には低温シール84が設けられている。
【0062】
断熱真空容器115は、その内部が真空とされ、かつその内部に、例えば、銅板等の輻射シールド板(図示せず)が配置された容器である。この断熱真空容器115内には、低温流体Lが貯留(あるいは別途供給)されるようになっており、前述したシリンダブロック114全体が低温流体L内に浸かるように収容されている。
【0063】
以上の構成により、低温流体用昇圧装置110では、駆動源からの動力により上下方向へ直線的に往復動するピストンロッド113により、このピストンロッド113の一端部に接続されたピストン112がシリンダ114b内を往復動し、流体流入口118からシリンダ114b内に吸入された低温流体が、ピストン112の一端面により圧縮されて、所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)に加圧(昇圧)された後、流体流出口119からシリンダブロック114の外部に導き出されるようになっている。
また、ピストン112が下死点から上死点に移動するときには、ピストン112の凹所112a内に、シリンダブロック114の側面に形成された貫通穴114aおよびピストン112の他端部に形成された連通穴112bを通って断熱真空容器115内に溜められた低温流体Lが流入するようになっており、これにより、ピストン112全体が効率よく冷却されることとなる。一方、ピストン112が上死点から下死点に移動するときには、ピストン112(あるいはシリンダ114)からの熱を受けて蒸発気化した低温流体Lが、連通穴112bおよび貫通穴114aを通って断熱真空容器115内に戻されるようになっている。
【0064】
本実施形態による低温流体用昇圧装置110によれば、ピストン112の凹所112a内に低温流体Lが導かれ、ピストン112全体が冷却されることとなるので、ピストンリングがシリンダ114bの内壁面に沿って摺動することにより発生する摩擦熱を、低温流体Lで十分に冷却されたピストン112(あるいはシリンダ114)を介して効率よく回収することができ、装置全体の温度上昇を防止することができる。
これにより、シリンダ114b内に吸い込まれた低温流体の蒸発気化を防止することができ、低温流体を所望の圧力(例えば、1.3MPa程度)にまで効率よく圧縮することができる。
【0065】
なお、本実施形態では第1冷却部27および第2冷却部28の双方を具備させたものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、いずれか一方の冷却部のみを具備させることも可能である。
また、第3参考実施形態のところで説明した第1冷却部27および第2冷却部28は、第1段圧縮部10のシリンダブロック13および断熱真空容器14にも適用することができる。
【0066】
さらに、第3参考実施形態、第4参考実施形態、および第7参考実施形態のところで説明した第2冷却部28,68は、これら第2冷却部28,68を構成する配管17,57が、輻射シールド板26,66の外周面(あるいは内周面)に沿って、上方から下方に(あるいは下方から上方に)向かって巻き付けられているとさらに好適である。
これにより、輻射シールド板26,66全体を最も効果的に冷却することができる。
【0067】
さらに、第3参考実施形態および第7参考実施形態のところで説明した第1冷却部27の代わりに、第1実施形態および第2実施形態のところで説明した構成(すなわち、シリンダライナ76,96を低温流体で冷却する構成)を採用することもできる。
【0068】
さらにまた、第1実施形態および第2実施形態のところで説明した構成(すなわち、シリンダライナ76,96を低温流体で冷却する構成)は、第1参考実施形態ないし第3参考実施形態のところで説明したシリンダブロック13、第1参考実施形態および第2参考実施形態のところで説明したシリンダブロック23、および第4参考実施形態ないし第6参考実施形態のところで説明したシリンダブロック53,153にも適宜必要に応じて適用することができる。
【0069】
さらにまた、第1参考実施形態ないし第3参考実施形態、および第7参考実施形態のところで説明した逆止弁16,25は、断熱真空容器14,24の内側に配置されているとさらに好適である。このようにすることにより、デッドスペースを低減させることができ、装置を配置するときの自由度が増すこととなる。
【0070】
さらにまた、第2実施形態のところで説明したシリンダライナ96は、第1実施形態と同様、断熱真空容器75内に貯留(あるいは別途供給)された低温流体L内に、直接漬けるようにすることもできる。これにより、パイプ96bおよび接続管106を省略することができて、製造コストの低減化を図ることができる。
【0071】
さらにまた、第2実施形態のところで説明したパイプ96bおよび接続管106は、単なる一本のパイプで構成することもできる。このようにすることにより、パイプ96bと接続管106とを接続する継ぎ手をなくすことができるので、製造コストの低減化を図ることができるとともに、継ぎ手からのリークをなくすことができ、装置の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0072】
30 蒸発器
40 気蓄器
70 低温流体用昇圧装置
72 ピストン
74 シリンダブロック
74a 貫通穴
75 断熱真空容器
76 シリンダライナ
76b 凹所
77 ピストンリング
90 低温流体用昇圧装置
92 ピストン
94 シリンダブロック
96 シリンダライナ
96b パイプ
97 ピストンリング
98 流体流入口
99 流体流出口
100 配管
106 接続管
L 低温流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にピストンリングを有するピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容し、前記ピストンの一端面により低温流体が圧縮される加圧室を有するシリンダライナと、
その内周面が前記シリンダライナの外周面と接するようにして前記シリンダライナを収容するシリンダブロックと、
前記ピストンおよび前記シリンダブロックを収容する断熱真空容器と、を備えるとともに、
前記シリンダブロックと前記断熱真空容器との間に形成された空間内に、低温流体が溜められた低温流体用昇圧装置であって、
前記シリンダライナの外周面には、その上端が開放端とされ、その下端が閉塞端とされて上下方向に延びる凹所が、周方向に沿って複数本設けられており、
前記シリンダブロックの側面には、前記シリンダブロックと前記断熱真空容器との間に形成された空間内に溜められた前記低温流体を、前記シリンダライナの外周面に設けられた前記凹所内に導く貫通穴が、周方向に沿って複数個設けられていることを特徴とする低温流体用昇圧装置。
【請求項2】
外周面にピストンリングを有するピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容し、前記ピストンの一端面により低温流体が圧縮される加圧室を有するシリンダライナと、
その内周面が前記シリンダライナの外周面と接するようにして前記シリンダライナを収容するとともに、大気圧状態の前記低温流体を前記加圧室に導く流体流入口、および前記ピストンの一端面により圧縮された前記低温流体が流出する流体流出口が底面に設けられたシリンダブロックと、を備えた低温流体用昇圧装置であって、
前記シリンダライナの肉厚部には、その上端および下端が開放端とされて上下方向に延びる連通穴が、周方向に沿って複数本設けられており、
前記連通穴内にはそれぞれ、その外周面が前記連通穴の内周面と接するパイプが嵌入されているとともに、
前記パイプのうち、一のパイプの上流端と、前記流体流出口とは、配管を介して接続され、前記一のパイプの下流端と、前記一のパイプに隣接して配置された他のパイプの上流端とは、接続管を介して接続されており、前記流体流出口から前記シリンダブロックの外部に導き出された前記低温流体が、前記パイプ内を、周方向に沿って順次通過していくように構成されていることを特徴とする低温流体用昇圧装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の低温流体用昇圧装置と、
前記低温流体用昇圧装置により昇圧された低温流体をガス化する蒸発器と、
前記蒸発器によりガス化された低温流体を一時貯溜しておく気蓄器と、が設けられていることを特徴とする燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−163105(P2012−163105A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83886(P2012−83886)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2010−118382(P2010−118382)の分割
【原出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年11月28日付け 平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素安全利用等基盤技術開発/水素インフラに関する研究開発/液体水素直接高圧ガス化昇圧ポンプの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】