説明

低湿度検出システム及び方法

【課題】低湿度状況下におけるフォギング状態を予期することができるように、相対湿度が10%未満のときに湿度を正確に検知する方法を提供すること。
【解決手段】自動車内において低レベル(即ち10%未満)の湿度を検出する方法及びシステムである。自動車の乗員数を絶対湿度係数に乗じて乗員が放出する全体の絶対湿度を得ることによって自動車内の全体の絶対湿度が決定される。乗員が放出する全体の絶対湿度に自動車の外部の絶対湿度を加えて、車室の全体の絶対湿度を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の環境制御システム及び方法に関する。詳しくは、本発明は、相対湿度が10%未満のときのフォギング状態を自動的に検出するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車の制御システムにおいて、車両の窓ガラスのフォギング(曇り)対策するための措置は、車両の乗員による手作業で行われている。通常、このような措置は、主に、車両用の暖房、換気及び空調システム(HVACシステム)を作動させてデフロストモードにする作業であり、この作業は、フォギング状態が発生した後で行われる。この場合、フォギング状態を低減させるのに或る程度の時間が必要となる。このようなシステムは、自動制御には適しておらず、また、迫り来るフォギング状態を予期するものではない。
【0003】
自動HVAC制御システムを内蔵する車両において、フォギングが起こり得るのか否かを判断するために、内外の状況を感知することが提案されてきた。このようなシステムは、ガラス温度センサ及び湿度センサを備えている。ガラス温度センサは、フロントガラスの内側表面に取り付けられており、湿度センサは、フロントガラスに隣接して配設されている。該システムは、感知されたガラス温度と感知された車室内湿度とを利用して、フォギング状態が潜在的に存在するか否かを判断して、HVACシステムを作動させる。しかし、このようなシステムの場合、高額なセンサを追加して、多大な労力を費やして、HVACシステムに電気的に接続させるように設置する必要がある。
【0004】
従って、上記の不都合を解消するためには、ガラス温度を算出する既存のセンサを使用して、所要のセンサの数を減らして車両に掛かる費用を減らすことが提言されてきた。この手法は、本願の出願人が譲受人となっている下記の特許文献1及び特許文献2に開示されており、この2件の特許文献の内容を本書の一部として含めることとする。この2件の文献において、ガラス温度は、車速と周囲温度とを測定する既存のセンサから得られたデータから算出される。また、この2件の文献に開示された方法は、車両内部の相対湿度を決定する湿度センサを使用している。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第10/881347号
【特許文献2】米国特許出願第10/881406号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この湿度センサは、相対湿度が10%未満であるときのような低レベルの湿度を測定及び感知する際には難儀する。従って、上記2件の特許文献に示された方法では、低湿度状態におけるHVACシステムの応答性には限界がある。
【0007】
従って、相対湿度が10%未満のときに湿度を正確に検知することによって、低湿度状況下におけるフォギング状態を予期することができるシステム及び方法が当業界で求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の概念に従って自動車内の絶対湿度を検出する方法を提供することによって、上述の問題は解消される。この方法は、車室を形成するとともにHVACシステムと一体型のセンサアセンブリと外部温度センサとを備える自動車を提供するステップと、自動車の乗員の数を算出するステップと、乗員が放出する全体の絶対湿度を得るために、乗員の数に絶対湿度係数を乗じるステップと、外部絶対湿度を決定するステップと、車室の全体の絶対湿度を得るために、乗員が放出する全体の絶対湿度に外部絶対湿度を加えるステップと、を含む方法である。
【0009】
本発明の他の概念によると、自動車内の低レベルの湿度を検出する方法が提供される。この方法は、車室を形成するとともにHVACシステムと一体型のセンサアセンブリと外部温度センサとを備える自動車を提供するステップと、車室内の相対湿度を一体型のセンサアセンブリで測定するステップと、相対湿度が所定値よりも低いか否かを判断するステップと、自動車の乗員の数を算出するステップと、乗員が放出する全体の絶対湿度を得るために、乗員の数に絶対湿度係数を乗じるステップと、外部絶対湿度を決定するステップと、車室の全体の絶対湿度を得るために、乗員が放出する全体の絶対湿度に外部絶対湿度を加えるステップと、を含む方法である。
【0010】
本発明の上記以外の特徴及び効果は以下の説明を読むことによって当業者には明白となる。
【0011】
本発明は、ある部品及び構成においては物理的な形態を有するものであり、これらの好適な実施例を以下で説明するとともに添付の図面で図示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2は、本発明の低湿度検出システムを備える自動防曇システムを内蔵している車両10を示している。自動防曇システムは、車両のコンピュータによるHVACシステムに内蔵されており、好ましくは、幾つかの動作モードを備える。以下で説明するHVACシステムの一部を構成する自動防曇システムは、HVACシステムが自動動作モードにあるときに動作して、1つの動作又は連続する複数の動作を絶え間なく行うように意図されたシステムである。
【0013】
自動動作モードにおいて、使用者は、所望の車室温度を設定し、HVACシステムのコンピュータ又は制御器は、車両固有の物理的特性に合わせたHVACシステムの動作特性を示す1つ又はそれ以上の所定のプログラム及び各種センサからの信号に応じて必要な計算を行う。自動HVAC制御モードの際、空調装置(A/C)の作動、通気孔の作動、及びファン速度の変更は、HVACシステムのコンピュータ又は制御器に記憶されたコンピュータアルゴリズムに従って自動的に制御される。
【0014】
本発明は、後述する1つ又はそれ以上の更なるアルゴリズムを導入している。このアルゴリズムは、自動動作モードにおけるHVACシステムの既存のアルゴリズムと関連して使用される。また、該アルゴリズムは、凝縮状態即ちフォギング状態を自動的に計算し、この計算に応じてHVACシステムの作動(A/C電力の制御、通気孔の制御、ファン速度の制御)を適正に行うように設計されている。更に、以下の説明から分かるように、本発明に従って、HVACシステムの応答は、凝縮即ちガラスが曇る可能性のレベルに応じて変化する。HVACシステムの基本的な動作特性は概ね当業界では周知なので、該システムの基本的な動作特性及び方法は、本発明の自動フォギング状態感知システム及び方法に関する部分についてのみ以降で説明する。
【0015】
図1及び図2を参照すると、車両10は、乗員室即ち車室を形成するボディと、乗員室の前部にあるダッシュボード14に配設されているHVAC制御及び表示パネル12と、フロントガラス16を含む一連の窓ガラスと、を備えている。HVAC制御及び表示パネル12は、一連の個々のプッシュボタンでもよいが、好ましくは、使用者がスクリーン上の1つ又はそれ以上のメニューを介してHVACシステムの動作を制御できるタッチスクリーン12aとして提供されている。例えば、使用者は、動作モード(フルオートモード/セミオートモード/手動モード)と、空調装置(A/C)の動作と、新鮮な空気の取り入れ/空気の再循環と、を選択するとともに、空気流即ち通気孔出口(即ち、動作モードがセミオート又は手動モードであるときに、デフロスト用通気孔18a、ダッシュボード用通気孔18b、フロア用通気孔18c、或いはこれらの通気孔の組み合わせ)を選択して、所望の車室温度を選択することができる。動作モードがフルオートモードのとき、使用者は所望の車室温度を入力して、HVACシステムは、該システムを適切に作動させる所定のコンピュータアルゴリズムに従って、感知された状況に応答する。通常、タッチスクリーン12aは、当業界では周知のナビゲーションスクリーン及びエンターテイメント・センター(entertainment center)等の他の様々な機能を提供する。
【0016】
当業者には分かるように、車両10の走行中に空気がフロントガラス16上を通るとき、フロントガラス16の温度は、通常、他の車両ガラスの温度とは異なり、特に、車両が高速で走行しているときには、周囲の温度と異なることがある。従って、従来の車両では、デフロスト用通気孔に空気を間断なく送り込んでいるので、フロントガラス16は、フォギング状態の発生による影響をあまり受けにくいと考えられる。
【0017】
車両10は、更に、外部(周囲)温度センサ20を備えており、該センサ20は、車両10の比較的前方位置に配設され、望ましくは、フロントバンパー内に配設される。通常、当業界では、周囲温度センサ20の配置箇所として選ばれる箇所は様々であるので、本発明においても、周囲温度センサの位置は、実施例に示された位置に限定されるものではない。周囲温度センサは、現在、広く車両に設けられており、例えば、操作者は、HVAC制御及び表示パネル12等の表示パネル又はスクリーン上に周囲温度を表示させることができる。
【0018】
車両10は、一体型の車室温度及び湿度センサモジュール22即ち一体型の車室温度及び湿度センサアセンブリ22を備えており、該アセンブリ22は、図2に示されるように、車両のダッシュボードにおいてHVAC制御及び表示パネル12に隣接して配設される。このアセンブリ22をダッシュボード14上の比較的密閉された場所に配置することによって、太陽からの負荷等の環境による影響がセンサの動作に及ぼすことを防止する。更に、ダッシュボードにアセンブリ22を配置することによって、組み付けの際に余分な工程を必要とすることなく、該アセンブリ22を設置して、従来の配線に用いられるハーネスを介してHVAC制御システムに該アセンブリ22を電気的に接続することが比較的簡単となる。
【0019】
一体型の車室温度及び湿度センサアセンブリ22は、様々な理由で個別に設けられたセンサよりも好ましい。第1の理由として、この一体型のセンサアセンブリは、個々の即ちそれぞれ別個の複数のセンサに比べて、かなり安い費用で入手可能である。第2の理由として、車室内の温度及び湿度の双方を感知する単体の一体型センサアセンブリを1つの箇所で使用するので、所定の車両モデルに対して繰り返し一貫した結果が得られる。しかし、本発明の幾つかの概念においては、この好ましい一体型センサアセンブリを使用することは強制的なものではなく、むしろ、製造及び組立が比較的高価ではあるが個々の複数のセンサを互いに隣接させて配設させて該アセンブリと同等の機能性を持つように使用してもよい。更に、温度センサ及び湿度センサはフロントダッシュボードに配設されていることが好ましいが、該センサを配設する場所は必ずしもフロントダッシュボードである必要はない。むしろ、該センサは車両内のいろいろな場所に移動させてもよい。しかし、フロントガラスが曇ることを防止或いは低減させるのが本発明の概念であるので、センサの配設箇所は車室内の前方であることが望ましい。
【0020】
しかし、車両内部の露点を決定するために温度と湿度とを車室内の同じ箇所で感知することが好ましい。温度センサ及び湿度センサが適正に校正されている限り露点は車室内では一定であるので、温度センサ及び湿度センサを配設する箇所は車室内の箇所であればどのような箇所でもよい。例えば、車室の後方或いは前部座席の間にあるセンタコンソールに該センサを配設させてもよい。
【0021】
露点とは、空気中の水が凝縮する温度のことである。湿度とは、空気中の水蒸気の量のことであり、絶対湿度と呼ばれることもある。絶対湿度とは、空気の単位体積当たりに存在する水蒸気量のことであり、通常、kg/mで表される。相対湿度とは、詳しくは、所定の温度における空気中の水の量又は絶対湿度と、その所定の温度における空気中に含むことができる水の最大量と、の比であり、百分率で示される湿度のことである。相対湿度は、温度に依存し水を保持するための空気の能力を補うために調整可能である。露点は湿度に関係しており、湿度が上がるにつれて露点も上がる。従って、周囲の温度と湿度(絶対湿度及び相対湿度)と露点との間には周知の緊密な関係がある。このことから、絶対湿度又は相対湿度及び周囲の温度が特定されていれば、露点を容易に導き出すことができる。本発明は、周囲温度と湿度と露点との関係を利用して、車室温度と、車室の絶対湿度又は相対湿度と、に基づいて露点を算出する。
【0022】
相対湿度センサが低レベル(即ち10%未満)の湿度を正確に測定することは難しい。従って、本発明は、車室内の相対湿度次第で、絶対湿度或いは相対湿度を利用して露点を決定する。詳しくは、車室内での相対湿度のレベルが低い(即ち10%未満の)場合、本発明は、相対湿度を測定するために一体型センサアセンブリ22を使用することはない。むしろ、本発明は、後述するように、車室内の絶対湿度を算出し、この絶対湿度を利用して露点を決定する。反対に、車室内の相対湿度が10%以上の場合、本発明は、車室内の相対湿度を測定するために一体型センサアセンブリ22を利用する。従って、相対湿度が10%以上の場合に、相対湿度を利用して露点を決定する。
【0023】
図3のフローチャートは、本発明がどのように絶対湿度又は相対湿度を決定するのかを示している。上述したように、車室内の相対湿度が10%未満であるとき、本発明は、絶対湿度を算出して露点を決定する。従って、ステップ50において、本発明は、相対湿度(RH)が10%未満であるか否かを判断する。相対湿度が10%未満でないと判断した場合、ステップ52に進み、一体型センサアセンブリ22は、相対湿度(RH)を測定して、以下で説明する図4に従って動作する。ステップ50において相対湿度が10%未満であると判断した場合、ステップ54において車両内における乗員の人数(N)を判断する。この人数の判断は、赤外線技術及び座席の重量センサ等の当業界では周知の手段によって行われる。このような手段は周知であるのでその説明は本書では省略する。乗員の数(N)が判明した後、ステップ56に進み、車室内の全体の絶対湿度(AH)を以下の数式(1)を用いて算出する。

AH=(N)X AH(係数)+AH(周囲)・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

AH(係数)とは、人が放出する絶対湿度の平均の量であり、AH(周囲)とは、車両の外側の空気の絶対湿度のことである。AH(係数)は、実験によって得られた係数であり、本発明者は、数多くの人の個々の絶対湿度を測定する実験を行った。この測定された全体の絶対湿度を人の数で割ることによって、平均的な人が放出する絶対湿度の平均の係数を得た。従って、AH(係数)に乗員の数(N)を乗じれば、車両内の乗員が放出する絶対湿度の全体量となる。AH(周囲)は、既存の周囲温度センサ20で車両の外部の温度である外部(周囲)温度を測定し、好ましくはHVAC制御器又はコンピュータに記憶されているルックアップテーブルから対応する絶対湿度を決定することによって、決まる。従って、周囲温度は周囲温度センサ20を介してHVAC制御器又はコンピュータに入力されて、対応する絶対湿度が決まり、この絶対湿度は、上述した乗員が放出する全体の絶対湿度に加算される。この方法により、車両内の湿度が10%未満であるときの車両内の全体の絶対湿度を正確に決めることができる。全体の絶対湿度(AH)が決まると、図4に示される過程に進み、後述するように露点が決まる。
【0024】
図4を参照すると、絶対湿度又は相対湿度が決まると、露点が決まる。露点は、HVAC制御器又はコンピュータに記憶されているルックアップテーブルを利用することによって決まる。言い換えれば、一体型センサアセンブリ22によって測定される車室温度と、絶対湿度又は相対湿度とがHVAC制御器又はコンピュータに入力されたとき、後述するように、対応する露点が出力されて更なる計算に使用される。
【0025】
図4を更に参照すると、空気中の水蒸気は、露点又は露点より低い温度の表面上で凝縮することは周知である。従って、フロントガラス16上で凝縮が起こる(フロントガラス16が曇る)か否かを判断するためには、フロントガラス16の温度を決定する必要がある。上述のように、フロントガラス16の温度を直接測定することは可能である。しかし、フロントガラス16の温度を直接測定するには、設置及び交換が高額で難しいセンサを追加する必要があるとともに、既存の構造(即ち、ダッシュボードアセンブリ)及び既存の組立作業に変更を加える必要がある。従って、フロントガラスの温度センサを別個に用意するのは好ましくない。フロントガラスの温度センサを別個に設ける代わりに、本発明者は、或る所定の車両において、車室の温度が所定温度(車両が暖まっていることを示す温度)よりも高いとき、フロントガラスの温度が車両の外部の温度(周囲温度)と車速との関数となることが実験を通じて分かった。車室の温度が所定温度(車両が冷えていることを示す温度)よりも低いとき、フロントガラスの温度は周囲温度と実質的に等しい。本発明は、このような事実を利用しており、感知された車室の温度に応じて、フロントガラスの温度を周囲温度と車速との関数又は周囲温度の関数として算出即ち推測する。この情報は、HVAC制御器又はコンピュータのルックアップテーブルに記憶されていることが好ましく、後述するように、周囲温度と車速とが入力されると、それに対応するフロントガラスの温度が出力されて更なる計算工程に使用される。
【0026】
露点とフロントガラスの温度とが確定すると、以下の数式(2)に基づいてフォッグマージン(Fog Margin)と呼ばれる値が算出される。

フォッグマージン = フロントガラスの温度 ー 露点・・・・・・(2)
【0027】
フォッグマージンは、以下で述べるように、HVACシステムを制御するための制御パラメータとして使用される。該フォッグマージンは、車室内の快適なレベルを制御し、このフォッグマージンによる制御は、感知された温度のみに基づいて行われる制御に比べて良好である。例えば、フォッグマージンを制御パラメータとして使用すれば、空調装置の過剰な動作が原因で車室内の空気が過剰に乾燥することを防止できる。
【0028】
簡素化した制御システムにおいて、“露点”の定義に基づいて考えると、フロントガラスの温度が露点よりも高い温度である限り、フロントガラス上で凝縮は起こらない、即ち、フロントガラスは曇らない。反対に、フロントガラスの温度が露点以下である場合、フォギング状態が存在する(フロントガラス上に凝縮が起こる、即ち、フロントガラスが曇る)。従って、フロントガラスの温度が露点以下のときに適切な動作モード(A/C及び又はデフロストモード)が作動するように、HVACシステムを制御することは可能である。このようなシステムは、ある状況においては良好に稼働し、フォギング状態の計算機能のないHVACシステムに比べて良好な結果を確実に提供する。
【0029】
しかし、本発明者は、凝縮即ちフォギング状態を予見するために露点とフロントガラスの温度とを算出することは、理論的には有効な推測に基づいてはいるが、フォギング状態の最適な制御、即ち、フォギング状態の防止にはならないことが分かった。更に、本発明者は、上記の算出工程では、起こり得るフォギング状態の可能性を予見できず、状況が凝縮(フロントガラスが曇ること)に適した状況となった場合にしか対応できないことが分かった。
【0030】
従って、算出した露点と算出したフロントガラスの温度とを比較してHVACシステムを制御する方法は、せいぜい、実際にフォギング状態が発生した後での対処方法であり、フォギング状態の最初の発生を防止する方法ではない。従って、上記の露点とフロントガラスの温度との比較に基づく制御システムは、フォギング状態に対する反応型のシステムであり、予見型のシステムではない。更に、算出した露点と算出したフロントガラスの温度とを比較してHVACシステムを制御するのは不完全な手法であり、フォギング状態が実際に存在するときに該フォギング状態を示す結果を常に提供することはできないことが実験を通じて分かった。このような欠点は、各種の環境(例えば、太陽からの負荷、風、雨、雪等)の変化と、車両に使用されるセンサ(例えば、湿度センサ、温度センサ)が抱える固有の不正確さと、がもたらす結果であると考えられている。
【0031】
従って、本発明者は、所定の周囲温度とガラス温度において、凝縮が起こる即ちガラスが曇る湿度として算出された湿度と、凝縮が起こる即ちガラスが曇る実際の湿度と、の間には差が存在することが分かった(この差を以降、曇り予想度(fog predictability)と称する)。本発明者は、また、湿度センサの精度(以降、センサ精度と称する)が車室内の相対湿度を決める精度の一因となっていることが分かった。従って、本発明者は、曇り予想度及びセンサ精度が相対湿度の不適切な推測をもたらし、結果として、露点の不正確な算出を招くものであると判断した。この曇り予想度及びセンサ精度による不正確さを補うために、感知した相対湿度を、湿度マージン(humidity margin)と呼ばれる係数で調整する。湿度マージンは以下の数式(3)を用いて算出される。

湿度マージン(%)= 曇り予想度(%)+ センサ精度(%)・・・・(3)

上記の数式(3)において、曇り予想度及びセンサ精度は定数である。
【0032】
湿度マージンが決まると、露点マージンが図5及び図6に示されるように決まる。詳しくは、図6は、車室温度と露点との関係を示すグラフであり、感知した相対湿度を湿度マージンで調整することが露点マージンに対応することを示している。露点マージンとは、上述したように感知した相対湿度の予想される誤差を補うための露点の上げ幅又は下げ幅のことである。露点マージンは、以下で述べるように、感知したフォギング状態に対する応答を調整するとともにフォギング状態即ち曇りを防止するためにHVACシステムを制御する制御パラメータ即ち設定値として使用される。
【0033】
本発明者は、曇り予想度が3%でありセンサ精度が5%であることが実験を通じて分かった。従って、上記の数式(3)に従い、湿度マージンは8%となる。8%の湿度マージンは2.3℃の露点マージンに対応しており、この露点マージンの値を繰り上げて3℃とする。従って、算出されたフロントガラスの温度が露点よりも3℃以上高い温度である限り、フォギング状態は発生しない。曇り予想度は、本発明の自動防曇システムが装備される車両のモデル毎に実験を行って決定する必要がある。更に、湿度センサのセンサ精度は型及びモデル毎に変わるので、センサ精度は実験を通じて確認する必要がある。
【0034】
図7及び図8を参照すると、本発明の制御方法が示されている。図7及び図8において、露点マージンをDPMとして称し、フォッグマージンをFMと称することとする。まず、ステップ100において、フォッグマージンが露点マージン(DPM)と第1の所定量Aとの和以上であるか否かを判断する。即ち、FM≧DPM+Aの場合、フォッグマージンは高いので、曇る恐れはない(図8参照)。制御方法はステップ102に進む。ステップ102において、周囲の空気の温度(Tam)が第1の所定温度D以下であるか否かを判断する。Tamが第1の所定温度D以下の場合、ステップ103において、HVACシステムの通気孔の出口温度(TAO)が第2の所定温度E以上であるか否かを判断する。TAOの算出は、当業界では周知であり、感知した車室の温度、太陽からの負荷、周囲温度等の数多くのパラメータに基づいて行われるが、主に、使用者が入力する所望の車室温度の目標値に基づいて行われる。算出された出口温度(TAO)は、ファン速度及び通気孔の選択の制御を行う自動動作モードによく使用されることは当業界では周知であり、また、前述の記載から分かるように、制御システムのある部分においてこのような制御に変更を加えて応答性を向上させるのは当業界では周知である。本件の場合、TAOが第2の所定温度E以上である場合、防曇目的の空調は不要であると判断して、A/Cをオフにして(ステップ104)、ファン速度及び通気孔の選択は、TAOに従い、HVAC制御器によって制御される。
【0035】
しかし、ステップ103において、TAOが第2の所定温度E以上でない場合、エバポレータの温度に関係する空調装置の動作は、グラフで示される好ましくは線形で示される所定の関係に従って、フォッグマージンに基づき最大電力と最小電力との間で変化する(ステップ106)。所定の関係に従って、空調装置は、フォッグマージン(FM)が露点マージンと等しいときには最大電力(即ち、最低のエバポレータ温度Tevap=3℃)で動作する。また、空調装置は、フォッグマージンが露点マージンと第1の所定量Aとの和以上(FM≧DPM+A)であるときには最小電力(即ち、最高のエバポレータ温度Tevap=9℃)で動作する。図示されるように、FM=DPMとFM=DPM+Aとの間では、エバポレータ温度は線形的に変化するので、空調装置の動作(電力)も線形的に変化する。ステップ103でTAOが第2の所定温度E以上でない場合においては、フォッグマージンは、(ステップ100で判断されたように)露点マージンと所定量Aとの和以上であるので、空調装置は、最小電力を設定して(例えば、最高のエバポレータ温度Tevap=9℃で)動作する。
【0036】
ステップ106のグラフには示されていないが、フルオート動作モードを維持する際、ファン速度と通気孔の選択は、算出された出口温度(TAO)の関数となる所定の関係に従ってHVAC制御器によって決定される。
【0037】
ステップ102において、周囲温度(Tam)が第1の所定温度Dよりも高いと判断した場合、ステップ106において、空調装置は、上述の所定の関係に従って制御される。従って、フォッグマージンが露点マージンと所定量Aとの和以上であると判断されているので、空調装置は、最小電力を設定して(エバポレータ温度=9℃で)動作する。前述したように、ファン速度及び通気孔の選択は、TAOに応じて即ちTAOの関数としてHVAC制御器によって制御される。
【0038】
ステップ100において、フォッグマージンが露点マージンと所定量Aとの和よりも小さいと判断された場合、ステップ108において、フォッグマージンが露点マージン以上(FM≧DPM)であるか否かを判断する。フォッグマージンが露点マージン以上である場合、曇る恐れが多少ある(図8参照)。従って、曇り即ち凝縮を防止するための措置を取る必要がある。従って、ステップ106において、空調装置は、上記の所定の関係に従って制御されて、空調装置の電力/エバポレータ温度が露点マージンと相関関係を持つ。前述の説明を参照すると、フォッグマージンは、ステップ100及びステップ108において、露点マージンと、露点マージンと所定量Aとの和と、の間にある(即ち、DPM≦FM<DPM+A)と判断されているので、空調装置は、(FM=DPMのときの)最大電力の設定値と、(FM=DPM+Aのときの)最小電力の設定値と、の間において対応する電力の設定値で動作する。前述のステップと同様に、ファン速度及び通気孔の選択は、算出された出口温度(TAO)に対する所定の関係に従って制御される。
【0039】
一方、ステップ108において、フォッグマージンが露点マージン以上ではないとき(即ち、FM<DPMのとき)、曇り即ち凝縮が起こる危険性が高くなる(図8参照)。また、フロントガラス上において凝縮が既に起きている即ちフロントガラスが既に曇っている可能性がある。このような状況は、車両が最初に走り出したとき或いは車両がある程度の時間走行した後で自動制御が開始したときに起こり得るものである。従って、以下で述べるステップにおいては、ガラスが曇る可能性のある状況に対する応答は、フォッグマージン及び周囲温度に基づいて決定される。
【0040】
ステップ110において、フォッグマージンが露点マージンから第2の所定量だけ引いた値よりも大きいか否かを判断する。フォッグマージンが露点マージンから第2の所定量だけ引いた値よりも大きい場合(即ち、DPM>FM≧(DPM−B)の場合)、ステップ112において、周囲温度(Tam)が第2の所定周囲温度(F)以上か否かを判断する。この点に関し、第2の所定周囲温度はかなり低い温度であることと、凝縮が起こる恐れは温度が低下するにつれて高くなることとを考慮する。従って、制御システムの応答は、温度が第2の所定周囲温度(F)以上か該温度(F)よりも低いのかに依存する。
【0041】
周囲温度が第2の所定周囲温度以上(Tam≧F)の場合、HVACの動作モード(通気孔の選択)は、出口温度(TAO)との所定の関係に従って制御され、ファンは、僅かに高い速度(1.5V+TAOによって決定したファン速度)で稼働し、空調装置は、最大電力(Tevap=3℃)で動作する。
【0042】
周囲温度が第2の所定周囲温度よりも低い(Tam<F)の場合、より強力な応答が指示される。従って、ステップ116において、デフロスト用通気孔及びフロア用通気孔が作動し(モード=H/D)、空調装置は最大電力(Tevap=3℃)で動作し、ファンは、比較的高い速度(3V+TAOによって決定したファン速度)で稼働する。
【0043】
ステップ110において、フォッグマージンが露点マージンから第2の所定量Bを引いた値以上でないと判断した場合(即ち、FM<DPM−Bの場合)、ステップ118において、相対湿度が所定の相対湿度の値以上(RH≧C%)であるか否かを判断する。従って、相対湿度が所定の相対湿度の値よりも低い場合(即ち、RH<C%の場合)、フォッグマージンが低くても、凝縮が起こる恐れは比較的低いと判断されて、ステップ112において、上述したようにHVACシステムが適切に応答する。
【0044】
相対湿度が所定の相対湿度の値(C)以上である場合、ステップ120において、周囲温度(Tam)は、ステップ112と同様に、第2の所定周囲温度(F)と比較される。しかし、フォッグマージンがかなり小さく、場合によっては、負の値であるので、より強力な応答が必要となる。
【0045】
従って、ステップ120において、周囲温度が第2の所定周囲温度以上である判断した場合、ステップ122において、動作モードは、上述したように出口温度(TAO)によって制御され、ファンは、中程度の高い速度(4V+TAOによって決定される速度)で稼働し、空調装置は、最大電力(Tevap=3℃)で動作する。ステップ120において、周囲温度が第2の所定周囲温度よりも低いと判断した場合、ステップ124において、デフロスト用通気孔が作動し、空調装置は最大電力(Tevap=3℃)で動作し、ファンは、高い速度の設定値(6V+TAOによって決定される速度)で稼働する。
【0046】
上記の制御ロジックを使用する試験は発明者によって行われ、上記の所定量又は所定値としての適切な値を決定した。即ち、露点マージンは前述のように3であり、第1の所定量Aは8であり、第2の所定量Bは4(露点マージン+1)であり、所定の相対湿度の値Cは11%であり(この値は、センサが感知可能な値の下限値に好ましくは等しい値であるか又は該下限値よりも僅かに大きい値である)、第1の所定周囲温度Dは18℃であり、所定の出口温度(TAO)Eは12℃であり、第2の所定周囲温度Fは8℃であった。
【0047】
これらの値は、車両毎に異なり上記の数値に限定されるものではない。むしろ、当業者は、制御システムが設置されている車両に関する単純な実験に基づく適した値に換えることによって、低レベルの相対湿度(即ち、10%未満)を検出する機能を含む本発明の自動防曇制御装置を再形成できる。
【0048】
本発明は、感知した状態と算出した値と所定の値とに基づいて、低費用で効率的な自動防曇制御システムを提供できるように互いに強力する幾つかの関連発明を開示している。例えば、本願は、周囲温度と車速とに基づいてフロントガラスの温度を算出する装置及び方法と、所定値である曇り予想精度及びセンサ精度に基づいて露点マージンを算出する装置及び方法と、感知した車室の相対湿度及び温度と算出したフロントガラスの温度との関数としてフォッグマージンを決定する装置及び方法と、HVACの動作を制御するためにフォッグマージンを利用する装置及び方法、詳しくは、算出したフォッグマージンに基づいてHVACの応答を調整する装置及び方法と、フォッグマージンに基づく応答を算出された露点マージンで補う方法と、低湿度レベル(即ち10%未満)の状況下で相対湿度を検出する装置及び方法と、を開示する。
【0049】
本発明の実施例を説明及び図示したが、これらの実施例は、例示にすぎず、本発明を限定するものではなく、本発明は特許請求の範囲によってのみ解釈されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のシステムを備えるとともに本発明の方法を実行する典型的な車両を示す図。
【図2】本発明を備える車両内部の上面図。
【図3】車両内部の絶対湿度を決定する方法のフローチャートを示す図。
【図4】フォッグマージンを決定する方法のフローチャートを示す図。
【図5】曇り予想度とセンサ精度とに基づいて露点マージンを決定する方法のフローチャートを示す図。
【図6】車室温度と露点との関係及び露点マージンを示したグラフを示す図。
【図7】本発明に係わる車両の防曇状態制御方法のフローチャートを示す図。
【図8】フォッグマージンと凝縮とHVACの動作とファン速度と通気孔の制御との関係を示す図。
【符号の説明】
【0051】
10 自動車
22 一体型のセンサアセンブリ
20 外部温度センサ
N 自動車の乗員の数
AH(係数)絶対湿度係数
AH(周囲)外部絶対湿度
AH 車室の全体の絶対湿度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車内の絶対湿度を検出する方法であって、
車室を形成するとともにHVACシステムと一体型のセンサアセンブリと外部温度センサとを備える自動車を提供するステップと、
前記自動車の乗員の数を算出するステップと、
前記乗員が放出する全体の絶対湿度を得るために、前記乗員の数に絶対湿度係数を乗じるステップと、
外部絶対湿度を決定するステップと、
前記車室の全体の絶対湿度を得るために、前記乗員が放出する全体の絶対湿度に前記外部絶対湿度を加えるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記絶対湿度係数は、実験によって決定される値であるとともに、平均的な人が放出する絶対湿度の値である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HVACシステムはコンピュータを備えており、前記外部絶対湿度を決定するステップは、
前記自動車の外部の温度を前記外部温度センサで測定するステップと、
前記自動車の外部の温度に基づき、前記HVACシステムの前記コンピュータに記憶されているルックアップテーブルから前記自動車の外部の温度に対応する外部絶対湿度を決定するステップと、
を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
自動車内の湿度を検出する方法であって、
車室を形成するとともにHVACシステムと一体型のセンサアセンブリと外部温度センサとを備える自動車を提供するステップと、
前記車室内の相対湿度を前記一体型のセンサアセンブリで測定するステップと、
前記相対湿度が所定値よりも低いか否かを判断するステップと、
前記自動車の乗員の数を算出するステップと、
前記乗員が放出する全体の絶対湿度を得るために、前記乗員の数に絶対湿度係数を乗じるステップと、
外部絶対湿度を決定するステップと、
前記車室の全体の絶対湿度を得るために、前記乗員が放出する全体の絶対湿度に前記外部絶対湿度を加えるステップと、
を含む方法。
【請求項5】
前記所定の値は10%である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記絶対湿度係数は、実験によって決定される値であるとともに、平均的な人が放出する絶対湿度の値である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記HVACシステムはコンピュータを備えており、前記外部絶対湿度を決定するステップは、
前記自動車の外部の温度を前記外部温度センサで測定するステップと、
前記自動車の外部の温度に基づき、前記HVACシステムの前記コンピュータに記憶されているルックアップテーブルから前記自動車の外部の温度に対応する外部絶対湿度を決定するステップと、
を含む請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−40403(P2009−40403A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197919(P2008−197919)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】