説明

低酢酸エチル層を含む複合材構造体

【課題】経皮的搬送デバイスを作製するのに適切な方法を提供する。
【解決手段】経皮的搬送デバイスを作製するのに適切な方法であって、連続して(a)ライナーフィルム層;(b)酢酸ビニル繰り返し単位の含有量が0〜15wt%である閉じ込め層、該層は熱接着コポリエステル樹脂又はエチレン酢酸ビニル成分と非極性ポリマーとの組み合わせのどちらかを含む;及び、(c)厚み20μm未満のポリエステルフィルム層を含む。薬剤層はライナーフィルム層と閉じ込め層との間又は閉じ込め層内の凹形のくぼみ内にある。エチレン−酢酸ビニル成分及びABAブロックコポリマーを含む組成物であって、ブロックコポリマーのAセグメントはスチレンセグメントである。酢酸ビニル繰り返し単位を1から15wt%の間で含む組成物は他の溶媒を含まない組成物の全重量に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合材フィルム構造体に関する。より詳細には、それは酢酸ビニル含量が低いフィルム層を組み込んだフィルム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人体において最も大きく最も近づき易い器官である。皮膚の透過性、及び薬剤を血流に搬送するその性能によって、皮膚は理想的な薬剤搬送経路となる。経皮的な薬剤搬送(TDD)システムは、皮膚を通して薬剤を搬送することによって、この可能性を利用し、それらの投与をより容易にする。「パッチ」としても知られるそのような搬送システムは、近年薬剤を投与するためにますます重要な手段となってきた。これらのシステムは、胃−腸管の回避及び肝臓を通る「最初の経路(first−pass)」、はたらく場所に近いところへの塗布、保持され及び調整が容易な効果等の利点を示し、これらは一般的に他の投与形式では達成されない。
【0003】
実際には、投与されるべき薬剤を含むTDDはホストの組織上部に配置される。薬剤はデバイスの容器に放出可能な状態で格納され、その後、拡散又は別の方法でホストに輸送される。そのような搬送は、局所的、経皮的、経粘膜的又は他の組織を通過する薬剤の搬送に使用されてよく、局所的又は全身的病状に対して治療的処理をする。パッチデバイスは薬理学的処理、美容的処理、栄養補給的処理及び/又は同様のものに使用されてよい。そのようなシステムは、時間制御された方法で、ホルモン補充療法、疼痛管理、狭心症、禁煙、産児制限、及びパーキンソン病等の神経障害等の目的で、様々な薬剤成分の投薬において使用が増大してきた。典型的な経皮的システムは、薬剤、薬剤を含むリザーバ又は層、及びTDDを使用者に付着する接着剤を含むある種の支持材料を含む。支持材料は一般的にポリエステルであって、薬剤(又は、薬剤調合物)及び接着剤に対して不活性であり、どのような薬剤調合物であってもそれを通して通過させない。しかしながら、多くのTDDは支持層と薬剤との間の層を含み、該層はエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体からなり、隣接する層の間に接着性を与えるために使用されることがある。しかしながら、そのような層を使用することの不都合の一つは、EVA層がない場合に予想されるものと比較して、使用者への薬剤の搬送が遅い可能性があることであって、望ましい投与量を搬送するため、結果的により大きいパッチサイズに対する潜在的な必要性をもたらす。従って、EVA層の接着機能を提供する代替的方法が必要とされる一方で、求められていない薬剤相互作用を最小にして、薬剤放出を遅くする必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,379,454号明細書
【特許文献2】米国特許第3,107,139号明細書
【特許文献3】米国特許第3,871,947号明細書
【特許文献4】米国特許第4,165,210号明細書
【特許文献5】英国特許出願第1,115,007号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd.Ed.,Vol.12,Wiley,N.Y.,pp.1−313
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの局面において、本発明は連続して以下を含む複合材構造体を提供する。
(a)ライナーフィルム層;
(b)酢酸ビニル繰り返し単位の含有量が0〜15wt%である閉じ込め層、該層は熱接着コポリエステル樹脂又はエチレン酢酸ビニル成分と非極性ポリマーとの組み合わせのどちらかを含む;及び、
(c)厚み20μm未満のポリエステルフィルム層。
【0007】
複合材構造体は、ライナーフィルム層と閉じ込め層との間、又は閉じ込め層内のライナーフィルム層に対向する凹形のくぼみ内部のどちらかに薬剤層をさらに含む。
【0008】
他の局面では、本発明は、エチレン酢酸ビニル成分及びABA型ブロックコポリマーを含む組成物を提供し、ブロックコポリマーのAセグメントはスチレンセグメントである。酢酸ビニル繰り返し単位を1から15wt%の間で含む組成物は他の溶媒を含まない組成物の全重量に基づく。
【0009】
さらにもう1つの実施形態において、本発明は複合材構造体を作成する方法を提供して、前記方法は連続して以下を含む:
(a)希釈剤、エチレン−酢酸ビニル成分及び非極性ポリマーを含む液体混合物を基板表面に塗布する段階;及び、
(b)1〜15wt%の間の酢酸ビニル繰り返し単位を含むコーティングを提供するために希釈剤を除去する段階。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、特に経皮的薬剤搬送(TDD)デバイスとしての使用に適切な複合材フィルム構造体を提供する。特に、本発明の複合材構造体はそれを構成するポリマー内部に0〜15wt%の間の酢酸ビニル繰り返し単位を含有する閉じ込め層を含み、それによって該層とTDD内部に含まれる薬剤との間の相互作用を最小化する。この構造体はユーザーへの薬剤のより速い移動を提供する可能性があり、それによって性能を改善する。多くの種類のTDDデバイスが、この特徴を利用して、本発明に従って調製されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一つの局面による例示的な複合材構造体の断面図であって、薬剤層が閉じ込め層内の薄膜及び凹形のくぼみによって画定される空間内に包含される。
【図2】本発明の他の局面による例示的な複合材構造体の断面図であって、薬剤層が接着層と閉じ込め層との間に挟まれる。
【図3】本発明のさらなる局面による例示的な複合材構造体の断面図であって、薬剤層がライナー層及び接着層の凹形のくぼみによって画定される空間内に包含される。
【図4】本発明のさらに他の局面による例示的な複合材構造体の断面図であって、薬剤層が薄膜及び閉じ込め層内のプライマーコートされた凹形のくぼみによって画定される空間内に包含される。
【図5】本発明のさらに他の局面による例示的な複合材構造体の断面図であって、薬剤層が薄膜とプライマーコートされた閉じ込め層との間に挟まれる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明は図を参照して説明され、全ての図で同じ数字は同じ要素を示す。このような図は、制限するよりむしろ説明することが意図されており、本発明の説明を容易にするためここに含まれる。図は一定の比率ではなく、工学的図画としては意図されていない。
【0013】
図1を参照すると、本発明は10で示される複合材構造体を提供する。構造体は連続してライナーフィルム層12、接着層22、任意に膜26、膜26と接触している薬剤層18を含む凹形のくぼみ20を有する閉じ込め層14、、任意にプライマー層28、及びポリエステルフィルム層16を含む。閉じ込め層14は膜26とも接触している。
【0014】
図2は、本発明による、110で示される他の複合材構造体を示す。構造体は、連続して、ライナーフィルム層112、接着層122、薬剤層118、閉じ込め層114、任意にプライマー層128、及びポリエステルフィルム層116を含む。
【0015】
図3を参照すると、本発明による、210で示される他の複合材構造体が示される。構造体はライナーフィルム層212及びライナーフィルム層212に接触している薬剤層218を含む凹形のくぼみ220を有する接着層222を含む。接着剤は、閉じ込め層214と同様、ライナーフィルム層212と接触している。閉じ込め層214は、挿入された(しかし任意の)プライマー層228によってポリエステルフィルム層216に接続される。
【0016】
図4は、本発明による、310で示される他の複合材構造体を示す。構造体は、連続して、ライナーフィルム層312、接着層322、任意に膜326、及び膜326に接触している薬剤層318を含む。この実施形態では任意のプライマー層328に接触している薬剤は閉じ込め層314の中の凹形のくぼみ320内に含まれる。閉じ込め層314は膜326及びポリエステルフィルム層316と接触する。
【0017】
図5を参照すると、本発明による、410で示される他の複合材構造体が示される。構造体は、連続して、ライナーフィルム層412、接着層422、任意に膜426、薬剤層418、任意にプライマー層428、閉じ込め層414及びポリエステルフィルム層416を含む。
【0018】
図1−5に示された例示的な実施形態の詳細な記述が今提供される。
【0019】
ライナーフィルム層
放出ライナーとしても知られるライナーフィルム層12、112、212、312、412は、TDD複合材構造体に含まれる薬剤を投与するために複合材構造体の接着層22、122、222、322、422を皮膚に押しつける前に、使用者によってはがされるよう設計されたフィルム層である。膜が接着層から適切に除去可能であるならば、及びリリース膜がはがされた後接着層が使用者の皮膚に張り付くことが可能であるならば、当業者に知られる多くのリリース膜のいずれが使用されてもよい。一つの適切なリリース膜、76μmの厚いフッ化ポリマーによって覆われたポリエステル膜、がScotchpack(TM)#1022という商品名で、ミネソタ州セントポールのスリーエム株式会社によって販売される。一般に、フッ化ポリマー放出表面を有する非シリコーンの放出ライナーが好ましく、シリコーン、アクリル酸塩、ポリイソブチレン及びゴムベースの接着剤を含む多種多様な皮膚接触接着剤からの良好な放出を提供する。しかしながら、シリコーンコートされたライナー又は他のライナーが使用されてよい。
【0020】
薬剤層
薬剤層18、118、218、318、418が多種多様な薬剤の有効成分のいずれを含んでもよい。これらは閉経期関連のホルモンアンバランス、痛み、狭心症及びその他等、いろいろな状態を治療又は防ぐために使われてよい。それらは喫煙の中止、産児制限、乗り物酔いの防止、パーキンソン病等の神経の障害及び他の症状の治療のために使われてよく、ニトログリセリン、スコポラミン、エストラジオール及びニコチン等の例示的な成分を含んでよい。多くの場合、薬剤は1つ以上の賦形剤、EVAポリマー等のキャリア、角質層の障壁を減らす透過強化剤(penetration enhancers)及び/又は他の材料と混合される。従って、薬剤層18、118、218、318、418のための組成物を調製する方法及び処方は非常に幅広く、TDDによって特定される特別なタイプの医学的治療に関係がある当業者に知られている。ここに使われた用語「薬剤層」はTDDの中でどんな形又は大きさの薬剤容器でも包含するように意図される。薬剤層は固体、半固体、ゲル、液体、又は他のいかなる形態であってもよい。
【0021】
接着層
接着層22、122、222、322、422は、ライナーが除去されたとき、ライナーフィルム層12、112、212、312、412及び使用者の皮膚に、はがすことが可能な又は非永久的接着性の結合を形成することが可能な接触接着剤である。接着層はどんな厚さであってもよいが、典型的には10から100μmの間の厚みを有する。フィルム複合材の技術において知られる多くの接着剤のいずれでも、接着層22、122、222、322、422を形成するために周知の塗布技術を用いて使用されてよい。シリコーン、ポリアクリル酸塩、ポリイソブチレン及びゴムベースの接着剤が典型的に使用されてよく、溶媒溶液から通常塗布され、様々なものが当業者に知られている。適切な接着剤の一つの例は、高分子量ポリイソブテン、低分子量ポリイソブテン及び鉱油を混合することによって、米国特許第4,379,454号明細書に記述されるように、調製されてよく、厚み50μmの混合物の層をシリコーン処理された厚さ75μmのPETリリースライナーフィルム上部にキャストすることによって塗布されてよい。
【0022】

膜26、326、426は投与される特定の薬剤に必要な透過性を有する高密度又はミクロ多孔性ポリマー膜から作られてよい。典型的な膜はEVAフィルム又はミクロ多孔性フィルムを含み、様々な供給元から購入可能である。例として、スリーエム株式会社から購入可能であるCoTran(TM)の制御されたカリパス(caliper)膜が挙げられる。EVA膜が例示的であるけれども、投与される特定の薬剤の必要に適するどのような膜でも本発明による使用に適する。
【0023】
プライマー層
典型的には、複合材構造体内で他の層へポリエステルフィルム層を接着するとき、プライマー層が接着性を増すために使われてよい。例えば、図1−3を参照して、プライマー層28、128、228は、それが接触する層に適切な接着性を提供することが可能な多くの材料のいずれであってもよい。典型的なプライマーは、ポリアクリル酸塩、エチレン−アクリル酸(EAA)コポリマー、アモルファスポリエステル、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)及びポリエチレンイミン(PEI)を含む。特に、EAAプライマーは一般的にEVAを含む層及びポリエステル層の両方に良好な接着性を提供して、典型的には殆どの薬剤と相互作用せず、及び/又はそれらの速度又は搬送を遅らせない。適切な溶媒からキャスティングすることによって提供されてよいプライマー層は、典型的に0.01から0.10μmの厚みを有する。EAA又は他のプライマーが同じく閉じ込め層と他の層の間に接着性を改善するために使用されてよい。例えば、図4及び5を参照して、閉じ込め層314、414の各々薬剤層318、418への接着性は、プライマー層328、428の使用によって強化されてよい。もしもEAAがプライマー層であるなら、それはグラビア印刷ローラー又は当業者に知られる他の手段を使って水溶液から塗布されてよい。適切なEAAコポリマーが多くのコマーシャルソース、例えばミシガン州ミッドランド、ダウ・ケミカルから購入可能なPRIMACOR(登録商標)樹脂、デラウェア州ウィルミントン、デュポン社から購入可能なNUCREL(登録商標)樹脂、及びテキサス州ヒューストン、ExxonMobil Chemical社から購入可能なEscor(登録商標)のいずれからでも得られてよい。
【0024】
ポリエステルフィルム層
フィルム層16、116、216、316、416はポリエステルフィルム、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又はポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムである。フィルムは20μm未満の厚さであってよいが、典型的には5から18μmの間の厚みを有し、より典型的には9から15μmの間の厚みを有する。20μm未満の厚みを用いることによって、通常使用される典型的に25から50μmの厚みを有するPETフィルムで得られるであろうものと比較して、非常に快適な及びより柔軟な及び外観のよいTDDを提供することが見出された。
【0025】
ポリエチレンテレフタレートポリマー調製技術は当業者によく知られていて、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,2nd.Ed.,Vol.12,Wiley,N.Y.,pp.1−313等の多くの文献に開示される。適切なジカルボン酸又はその低級アルキルジエステルとエチレングリコールとを縮合重合することによって、典型的にはポリマーが得られる。例えば、ポリエチレンテレフタレートがテレフタル酸又はそのエステルから形成され、及びポリエチレンナフタレートが2,7−ナフタレンジカルボン酸又はそのエステルから形成される。
【0026】
発明のある実施形態では、フィルム層16、116、216、316、416において使用されるポリエステルは、50から65℃の間、典型的には58から61℃の間のガラス転移温度、及び228から240℃の間、典型的に232から238℃の間の融点を有する。ポリエステルは広範囲の、典型的には約0.5から約0.8の間の、及び一般的には約0.6の固有粘度を有してよい。本発明の目的のために、ポリエステルの固有粘度は溶媒としてo−クロロフェノールを用いて25℃で測定される。
【0027】
典型的に、しかし必要なことではないが、ポリエステルフィルム層16、116、216、316、416を形成するために使われるフィルムは二軸配向している。典型的には約78〜125℃の範囲の温度で、2つの相互に垂直な方向に連続して複合体を延伸することによって、ポリエステルフィルムの二軸配向が達成されてよい。延伸操作の後に、寸法拘束の下で、典型的には150から250℃の間の温度で、ヒートセッティングが行なわれることが好ましい。延伸及びヒートセッティングの適切な工程が米国特許第3,107,139号明細書に開示される。
【0028】
ポリエステルフィルム層16、116、216、316、416は割れ、破砕、ピンホール、又は他の欠陥を形成することなく処理され又は複合材構造体の他の層に接着される性能を典型的に改善する滑剤(slip additive)を同じく含んでよい。タルク、粘土等どのような滑剤が使用されてよいが、典型的には添加物はシリカである。滑剤の全充填量は添加物の正確なタイプ、ポリエステルフィルム層16、116、216、316、416の正確な組成物及び恐らく他の因子に依存する。光沢がないか、又は低グロスのフィルムが好ましく、層を形成するポリマーに関連して典型的に0.5から3wt%の間、より典型的には1から2wt%の間の量である。本発明の一つの例示的な実施形態において、1.1%のシリカが使われる。適切なシリカとして、W.R.Grace&Co.,Davidson Chemical Division of Columbia,MDのSyloid(登録商標)ED2、244、620及び74、及びノースカロライナ州Research Triangle ParkのFuji Silysia Chemical Ltd.から購入可能な、Sylysia(TM)シリカが挙げられる。ポリエステルフィルム16、116、216、316、416を作るために適切な材料は、デラウェア州ウィルミントン、デュポンテイジンフィルムから購入可能な、Melinex(登録商標)376、377及び378、及びMylar(登録商標)EB11ポリエステルフィルムを含む。このようなフィルムはASTM D1003によって測定されたとき60°での光沢50%以下である。本発明のある実施形態では、ポリエステルフィルム層16、116、216、316、416は、砂つや消し等の機械的磨耗によって形成されたつや消しを有し、それは望ましい、より皮膚に近い外観をそれを含むTDDに付与する傾向がある。このような光沢がないフィルムが様々なソースから利用可能であって、及び60°での光沢が15%以下、典型的には約8%未満である。適切な例として、Tetoron(登録商標)サンドマットフィルムという名前でデラウェア州、ウィルミントン、デュポン−テイジンフィルムによって販売され、約6%の光沢を有する。
【0029】
閉じ込め層
閉じ込め層14、114、214、314、414が、1つ以上のポリマーの形態で0から15wt%の間の酢酸ビニル繰り返し単位を含み、厚さは典型的に3から15μmの間である。発明者は、この層の酢酸ビニル含有量を15wt%以下、好ましくは約12wt%以下に保持することによって、薬剤との相互作用を減少させ、層の酢酸ビニル含有量がより高い場合と比較してより高速の薬剤搬送をしばしば可能とすることを見出した。
【0030】
閉じ込め層14、114、214、314、414は、EVAポリマーだけを含む典型的な従来技術の材料で通常作られるものよりも薄い。このようなフィルムは利用可能なEVA押出しコーティング技術における限界に起因して、典型的には厚み15μmを超える。これはTDDのパッチを、より堅く、使用者に対して快適ではないものとし、使用者の衣類を通してより視認可能なものとする。さらに、発明者は、この層が厚いことによってある場合には望ましい性能を達成しない結果をもたらす可能性があり、これは薬剤とこの層との相互作用に起因するものであって、その厚みが大きいことが、層を、薬剤を保持してその放出を遅らせるリザーバとしてはたらく結果につながる可能性があると考える。従って、溶媒コーティングによって調製された従来技術のEVAフィルムは典型的には酢酸ビニル含有量が非常に高く、一方で酢酸ビニル含有量が低いものは押出によって作られるのみである可能性があり、その結果本発明の目的を達成するには厚すぎる。このことは以下でさらに詳細に論じられるであろう。
【0031】
所望される低レベルの酢酸ビニル含有量を達成する一つの方法は、酢酸ビニル繰り返し単位を全く含まないポリマーを使用することである。従って、本発明の例示的な実施形態では、閉じ込め層14、114、214、314、414は酢酸ビニルを含まない熱接着コポリエステル樹脂、特に、テレフタル酸、イソフタル酸及びヘキサヒドロテレフタル酸等の、一つ以上の二塩基性芳香族カルボン酸から誘導されたコポリエステル樹脂、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びネオペンチルグリコール等の、一つ以上のグリコールを含む。酢酸ビニル繰り返し単位を含まないことに加えて、熱接着コポリエステル樹脂は、中程度の熱を適用するとき流動して隣接する表面に付着することができ、その結果本発明による複合材構造体を組み立てることを容易にする。
【0032】
特に、閉じ込め層14、114、214、314、414がテレフタル酸を含むポリエステルを含んでよい。好ましいコポリエステルは、テレフタル酸と、イソフタル酸及びヘキサヒドロテレフタル酸のうち一つ又は両方と、一つ以上のグリコール、好ましくはエチレングリコールとから得られる。アモルファスの状態で十分な接着特性を提供する例示的なコポリエステルはエチレンテレフタレート及びエチレンイソフタレートであって、特にモル比で60から90mol%のエチレンテレフタレート、及び対応して40から10mol%のエチレンイソフタレートを含むものである。特に好ましいコポリエステルは70から85mol%エチレンテレフタレート及び30から15mol%のエチレンイソフタレートを含み、例えば約80mol%のエチレンテレフタレート及び約20mol%のエチレンイソフタレートのコポリエステルである。
【0033】
本発明によるフィルム複合材構造体の製造において、ポリエステルフィルム層16、116、216、316、416と閉じ込め層14、114、214、314、414とを一緒にフィルム複合体の形態で供給することは有利である可能性がある。これはポリエステルフィルム層16、116、216、316、416の表面上への溶媒キャスティング又は閉じ込め層の押し出しによって形成されてよい。ポリエステルフィルム層16、116、216、316、416は二軸配向のポリエチレンテレフタレートを含み、閉じ込め層14、114、214、314、414が上述のコポリエステル樹脂である場合、フィルム複合体は、例えば概括的に米国特許第3,871,947号明細書に記述されるように、複数のオリフィスダイを通した多押出(multiple extrusion)又は複合層の共押出と、その後の一つ以上の方向への延伸及びヒートセッティングによる分子配向を含むプロセスによって好都合に作られてよい。都合の良いプロセス及び、単一チャネル共押出として知られる共押出の装置が、米国特許第4,165,210号明細書及び英国特許出願第1,115,007号明細書に開示される。前記方法は、二つの異なる押出機から同時に第1及び第2の二つのポリエステルの流れを押し出し、二つの流れを管内で一つにして押出ダイのマニフォールドへと導き、二つのポリエステルが混合することなく流れの異なる領域を占有するように層流の条件下で二つのポリエステルをダイを通じて一緒に押出すことを含み、その結果フィルム複合体を製造する。
【0034】
上記のとおり、典型的には約70から110℃の範囲の温度で、2つの相互に垂直な方向に連続して複合体を延伸することによって、フィルム複合体のポリエチレンテレフタレート部分の二軸配向が達成されてよい。一般的に、複合体を延伸するために適用する条件は、部分的にコポリエステル層を結晶化させるよう機能する可能性があり、このような場合寸法を拘束してコポリエステル層の結晶溶融温度よりも高い温度で、しかしポリエチレンテレフタレート部の結晶溶融温度よりも低い温度で、フィルム複合体をヒートセットすることが好ましい。その後複合体は、冷却が可能な状態とされるか、又は冷却され、コポリエステル層を本質的にアモルファスにする一方で、ポリエチレンテレフタレート層内は高い結晶性が保持される。従って、延伸操作の後寸法拘束下で、典型的には170から200℃の範囲の温度でヒートセッティングが行われることが好ましい。
【0035】
閉じ込め層14、114、214、314、414において所望される低レベルの酢酸ビニル含有量を達成するもう1つの方法は、ブレンドの全酢酸ビニル含有量が15wt%未満であるという条件下で、一つ以上の相対的に酢酸ビニル含有量の高いエチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマーを酢酸ビニルを含有しない(又は含有量が低い)他の樹脂と組み合わせることである。典型的には、酢酸ビニルのレベルは1から15wt%の間であって、より典型的には8から12wt%の間である。発明者らは、そのようなブレンドの使用は、酢酸ビニルの含有量が十分に低く、層の放出特性が非常に良好な閉じ込め層の形成を可能にすることを見出した。
【0036】
溶媒コーティングは、押出コーティングによって得られるものと比較して薄いコーティングを同様に形成できる可能性があるが、溶媒コートのみされることが可能なEVA樹脂(他の樹脂と共にではなく)は典型的にはコーティング溶媒における樹脂溶解を可能にするために少なくとも28wt%の酢酸ビニル含有量を有する。しかしながら、この高い酢酸ビニル含有量は、薬剤との相互作用を増加させ、その放出を遅らせる可能性がある。この点に関して、本発明によって提供された方法及び複合材構造体の一つの利点は、溶媒等の希釈剤からキャスティングすることによって薄い低酢酸ビニル含有フィルムを提供し、その結果溶融押出によって低酢酸ビニル含有EVA樹脂から単にフィルムを形成する等の従来技術によって提供されるであろうフィルムと比較して薄いものの形成を可能にすることである。特別の理論又は説明によって縛られることを望まないが、酢酸ビニル含有量を低くしておくことによって、特に薄い閉じ込め層と組み合わせられるとき、閉じ込め層に溶解するか、又は会合する薬剤の量を最小にして性能を改善すると考えられる。
【0037】
閉じ込め層14、114、214、314、414を形成する例示的組成物は、一つ以上のEVA樹脂と、例えばポリブテン、ポリイソブチレン、エチレン/オクテン又はエチレン/ヘキセンコポリマー、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)ターポリマー等の一つ以上の非極性ポリマー、例えばスチレンAセグメントを有するSBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)及びSEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン)ABAブロックコポリマー等のABAブロックコポリマー又はターポリマーを含み、例えばテキサス州、ヒューストン、Kraton(登録商標) Polymers US LLCから購入可能なKraton(登録商標)D樹脂が例として挙げられる。特に適切な樹脂はBセグメントが飽和脂肪族セグメントであるものであって、例えばKraton(登録商標)G−1650、G−1651、G−1652、G−1654X及びG−1657M等のKraton(登録商標)Gシリーズ樹脂である。これらのタイプの混合物は(今まで)有機溶媒に可溶性であることが分かっており、薄膜を提供することができ、一方でTDDの作成において望まれる低い酢酸ビニル含有量を保持する。
【0038】
典型的には、エチレン−酢酸ビニル成分は、エチレン−酢酸ビニル成分及びABAブロックコポリマーを併せた重量に関して35から75wt%の間である。典型的には、フィルムキャスティングに関して溶媒に対する十分な溶解度を得るために、EVA樹脂の酢酸ビニル含有量は少なくとも23wt%であろう。特に、もしEVAがアクリル酸又はメタクリル酸繰り返し単位を構成する場合には単一のEVAが使われてよく、それは様々な基板に良好な接着を容易にすると考えられる。このような樹脂は、しかしながら、以下に記述されるように、二つ又は三つのEVA樹脂混合物におけるEVAの一つとして使われてよい。アクリル酸又はメタクリル酸繰り返し単位の適切なレベルはどのようなレベルであってもよいが、典型的には樹脂の0.1から10wt%の間であるだろう。一つの適切な選択はデラウェア州ウィルミントンのデュポンが販売するElvax(登録商標)4260EVAであって、28wt%の酢酸ビニル及び1wt%のメタクリル酸繰り返し単位を含む。
【0039】
2つ以上のEVAポリマーの混合物の使用が、薄膜等広範囲の基板に対する接着性を改善する可能性があり、EVAの融点が異なることに起因して結合温度の範囲にわたって良好な結合強度を可能にする。様々な基板と結合することにおいて、これはより良い性能及び柔軟性を提供する可能性がある。
【0040】
従って、ある実施形態において、エチレン−酢酸ビニル成分は酢酸ビニル繰り返し単位を26から30wt%の間で含む第1のEVAポリマー、及び酢酸ビニル繰り返し単位を31から35wt%の間含む第2のエバEVAポリマーを含む。EVA成分は酢酸ビニル繰り返し単位を36から42wt%の間含む第3のEVAポリマーをさらに含んでよい。第1及び第2のEVAポリマーはEVA成分全体に対して25から95wt%の間で各々寄与し、第3のEVAポリマー(もし存在する場合)は5から25wt%の間で寄与する。
【0041】
適切なEVA樹脂は多くの製造業者のいずれからでも商業的に入手されてよい。例としては、イタリア、Cuggiono(MI)、Ichemcoから入手可能なElvax(登録商標)265、3180、3182、3190及び4260 UE653−04、、Escorene(登録商標)UL7720(全て酢酸ビニル28wt%);Elvax(登録商標)3185及びEscorene(登録商標)Ultra UL7840(全て酢酸ビニル33wt%);及びElvax(登録商標)40W、40L−03及び40L−08(全て酢酸ビニル40wt%)。Escorene(登録商標)樹脂はテキサス州ヒューストンのExxonMobil Chemical社から入手可能である。
【0042】
閉じ込め層14、114、214、314、414を形成するための組成物が、もし一つ以上のEVA樹脂及び非極性ポリマーに基づく場合、典型的に粘着付与剤樹脂も含む。多くのこのような樹脂が入手可能であって、選択はおそらく他の要因と同様に、使用されたEVA及び非極性ポリマーの特定の組み合わせに依存するであろう。粘着付与剤の一つの適切なものは、フロリダ州、ジャクソンビル、Arizona Chemical、から入手可能なSylvares(TM)7115等のポリテルペン樹脂を含む。他の有用な添加物が同様に含まれてよく、その用途は当業者に知られているであろう。このような他の添加物は、非制限的な例として、滑剤及び耐ブロック(anti−block)シリカゲルを含んでよい。例示的な滑剤は、ダブリン、OH、のウィトコ株式会社によって販売されるKemamide(登録商標)E及びKemamide(登録商標)W20等の合成ワックスを含み、他方例示的なシリカゲルは、メリーランド州コロンビア、W.R.グレイス社のデビソン化学物質部門から入手可能なSyloid(登録商標)244及びSyloid(登録商標)620を含む。
【0043】
閉じ込め層14、114、214、314、414は、調製される本発明の特定の実施形態に依存して、適切な層に希釈剤、EVA成分及び一つ以上の非極性ポリマーを含む液体混合物を塗布して、その後希釈剤を除去することによって形成されてよい。希釈剤は典型的には有機液体であって、EVA及び非極性ポリマーのうち一つ又は両方のための溶媒であってよい。その結果、混合物は分散系又は分散されたポリマーが非溶解性であるか、又は膨張した一つ以上のポリマー、一つ以上のポリマーの溶液、又はこれらの組み合わせを含んでよい。液体混合物の塗布は、例えばグラビア印刷ローラーコーティングを含む、当業者に知られるどのような方法によって実施されてよい。希釈剤の除去は、例えば加熱、空気で吹く、又は真空下での除去を含む、どのような都合のよい手段によってでもよい。結果として生じるフィルムはどのような厚さのものであってよいが、典型的には通常厚さ20μm未満、典型的には厚さ5から15μmの間、より典型的には11から14μmの間である。例えば、約12.5μmの厚みが使われてよい。フィルムは、ポリマーの均一な混合物、二つ以上のポリマーの相互貫通ネットワーク、又は一つ以上のポリマーの一つ以上の他のポリマーへの分散系を含んでよい。コーティングを形成した後で、薬剤層18、118、218、318、418、又はプライマー層16、116、216、316、416、又は接着層22、122、222、322、422がその上に形成されてよい。もしそれがプライマー層又は接着層である場合、続いて薬剤層がその層の表面上に形成される。
【0044】
図1、4、及び3に示されるように、閉じ込め層14、314又は接着層222は各々部分的に薬剤層18、318、218を含む凹形のくぼみ20、320又は220を含んでよい。そのようなくぼみは、典型的には、材料を柔らかくするために閉じ込め層及び接着層を含む層のアセンブリを加熱することによって、及び柔らかくなった層を各々膜26、326又はライナーフィルム層212上に乗せられた対応する薬剤層18、318、218に対して加圧することによって形成されてよい。様々な処理方法及び組み合わせシーケンスは図1−5による複合材構造体を作るために使用されてよく、これら全てがこの発明の範囲内であると考慮されることは理解されるだろう。
【0045】

EVA成分とスチレンABAブロックコポリマーを含む層が、wt%で量が示される以下の成分から調製される。
スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンABAブロックコポリマー 33%
ポリテルペン粘着性樹脂 25%
酢酸ビニル成分33%のEVA 18%
酢酸ビニル成分28%、メタクリル酸成分1%のEVA 16%
酢酸ビニル成分33%のEVA 5.4%
合成ワックス 1.2%
耐ブロックシリカゲル 1.5%
【0046】
上記成分は、15−20%固体レベルで80/20 wt/wt トルエン/テトラヒドロフラン混合物に溶解され、グラビア印刷ローラーを用いて、EAAプライマーコーティングを有する12μmの厚みのPETフィルム(Melinex(登録商標)377)のプライマーを有する側に塗布され、その後80−90℃の温風を吹き付けることにより溶媒を蒸発させる。結果として得られるフィルムは酢酸ビニル繰り返し単位の含有量が約12wt%であり、約9−10μmの厚みを有する。従って組み合わされたPET及びコーティング組成物の最終的な厚さは約22μmであり、厚みが約33−50μmである典型的な従来技術の構造体と比較してずっと薄い。
【0047】
特定の実施形態に関連して本発明が説明され、記述されるけれども、本発明は示される細部に限定されることは意図されない。むしろ、本発明から逸脱することなく、クレームの範囲と等価物の範囲内で種々の修正が細部において行なわれてよい。
【符号の説明】
【0048】
12、112、212、312、412 ライナーフィルム層
14、114、214、314、414 閉じ込め層
16、116、216、316、416 ポリエステルフィルム層
22、122、222、322、422 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)希釈剤、エチレン−酢酸ビニル成分及び非極性ポリマーを含む液体混合物を基板表面に塗布する段階;及び、
(b)酢酸ビニル繰り返し単位を1〜15wt%の間で含むコーティングを提供するために希釈剤を除去する段階、
を連続して含み、
前記非極性ポリマーがABA型ブロックコポリマーを含み、前記ブロックコポリマーのAセグメントはスチレンセグメントであり、前記ブロックコポリマーのBセグメントは飽和脂肪族セグメントである、複合材構造体を作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233201(P2012−233201A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174726(P2012−174726)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【分割の表示】特願2007−546658(P2007−546658)の分割
【原出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(505077426)デュポン・テイジン・フィルムズ・ユー・エス・リミテッド・パートナーシップ (9)
【Fターム(参考)】