説明

体液採取装置

【課題】生体表面に針を刺したり、レーザ光を照射するなどして微小開口を形成し、体液を採取するようにした体液採取装置において、体液の採取を、気密、かつ低侵襲に行う。
【解決手段】生体表面に移動部材50を内蔵した帽状の支持部材20を貼付け、その上にレーザ照射装置30を搭載して、移動手段60によって移動部材50の貫通孔53がレーザ光源31に臨んだ状態で微小開口を形成し、その後支持部材20はそのままで、移動手段60を操作して、移動部材50の吸引室54が前記微小開口に臨んだ状態でポンプによって滲出した体液を測定装置へ吸出す。したがって、微小開口の形成から体液の採取までを、装置を取外すことなく一連の操作で行うことができ、微小開口に吸引室54をずれなく設置することができるとともに、気密に作業中を行える。また、吸引室54と貫通孔53とが別であるので、吸引室54を極小容積にして、低侵襲で採取を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体表面にレーザ光などで微小開口を穿孔して、細胞間質液や血液などの体液を採取するようにした体液採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体からの体液採取には、最も一般的なものとして注射針による血液採取があるが、患者の不安や苦痛、さらに注射針に付着した細菌等による感染という問題があった。また、たとえば術後の経過を見るために、グルコース濃度(血糖値)を30分や1時間毎にモニタリングする場合のように、連続採取となると、そのたび毎に体に注射針を刺す必要があり、皮膚が硬くなったりして、患者への負担は過大であった。
【0003】
そこで、そのような負担を軽減するために、血液ではなく、細胞間質液を採取するという方法が近年注目を集めている。これは、血管が通っている真皮層に届かない深さの微小開口であっても、そこから滲み出してくる細胞間質液は、血球等がないことを除けば、血液とほぼ同じ成分を有するので、血液検査の代替になり、しかも穿孔時の痛みがない(少ない)ためである。
【0004】
特許文献1では、別途の装置で生体表面に穿設された微小開口上に被せ、底面の開口部分から体液を吸い出して、オリフィス部分に設けられたセンサによって種々の測定を行う組織インターフェース装置が提案されている。しかしながら、この従来技術では、前記微小開口を穿孔する装置と体液を吸引する装置とが別体であるので、作成した微小開口に対して、装置を正確に位置決めしないと、測定ができないという問題がある。また、作業が煩雑である。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、特許文献2には、ベース部材となる整合装置を生体表面上の所望位置に位置決めし、その整合装置に穿孔装置とセンサ装置とを交換して取付けることで、連続モニタリングにあたっての信頼性の向上が図られている。
【0006】
一方、特許文献3には、開口部の回りに一対の酵素電極を備えた交換チップを底部に配置し、上部に設けたレーザ源からのレーザ光を前記開口部を通して生体表面に照射し、形成された微小開口から滲出した体液のグルコース濃度を前記酵素電極で検出する生体計測装置が提案されている。
【特許文献1】特表2003−514244号公報
【特許文献2】特表2003−501222号公報
【特許文献3】特開2003−265444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の従来技術では、特許文献1の従来技術と同様に、穿孔装置を取外し、センサ装置を取付けて採取を行うので、作業中に外部から侵入してくる細菌等による感染や体液の品質が劣化するという問題がある。
【0008】
特許文献3の従来技術では、吸引室の容積が大きく、体液を吸引する際に大きな力が必要となり、低侵襲での作業が行えないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、微小開口の穿孔から体液の採取を、気密、かつ低侵襲に行うことができる体液採取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の体液採取装置は、生体表面にレーザ光を照射するなどして穿孔して微小開口を形成し、体液を採取する体液採取装置において、前記微小開口を形成するための器具またはエネルギ源と、底面が開放して前記生体表面に密着設置され、天面に前記器具またはエネルギ源が搭載される支持部材と、前記支持部材内に収納され、前記微小開口を形成するための器具またはエネルギが通過することができる経路と、前記微小開口を覆う吸引室とが前記生体表面と略平行に並んで設置される移動部材と、前記吸引室に接続され、体液を吸引する吸引手段と、前記移動部材を前記支持部材内で、生体表面に対して近接および離反変位ならびに生体表面と略平行に変位させる移動手段とを備えて構成されることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、生体表面に針を刺したり、レーザ光を照射するなどして微小開口を形成し、体液を採取するにあたって、帽状のように底面が開放し、しかもフランジを有するなどして前記生体表面に密着設置可能で、ベース部材となる支持部材を前記生体表面に密着設置し、その天面に前記微小開口を形成するための器具またはレーザ源などのエネルギ源を搭載するとともに、前記支持部材内には移動部材を設け、その移動部材を移動手段によって、前記支持部材内で、生体表面に対して近接および離反変位ならびに生体表面と略平行に変位可能とする。そして、前記移動部材には、前記微小開口を形成するための器具(前記針など)またはエネルギ(前記レーザ光など)が通過することができる経路と、前記微小開口を覆う吸引室とを前記生体表面と略平行に並んで配置しておくとともに、前記吸引室には滲出した体液を吸引する吸引手段を接続しておく。
【0012】
したがって、使用者は、先ず移動部材の経路が前記器具またはエネルギ源に臨んだ状態で前記微小開口を形成させ、支持部材はそのままで、移動部材を一旦生体表面から上昇(離反)させて前記生体表面と略平行に移動させ、形成された微小開口に吸引室が臨んだ状態で下降(近接)させて該移動部材を生体表面に密着させ、前記吸引手段によって前記吸引室内を負圧にして、滲出した体液を測定装置へ供給し、或いは試験紙に染み込ませて別途設置された測定装置での測定を可能にする。
【0013】
これによって、微小開口の形成から体液の採取までを、装置を取外すことなく、一連の操作で行うことができ、穿孔された微小開口に対して、精密な位置決めが要求される吸引室をずれなく設置することができるとともに、気密に作業を行えるので、作業中に外部から侵入してくる細菌等による感染や体液の品質劣化を防ぐことができる。また、吸引室と前記経路とを別に形成しているので、吸引室を極小容積にして、必要な量の体液の採取を微弱な吸引力で短時間に行うことができ、患者に苦痛や負担をかけずに低侵襲で体液採取を行うことができるとともに、前記微小開口を形成するための器具またはエネルギ源を取外し自在とすることと合わせて、該体液採取装置の小型化を図ることができる。
【0014】
また、本発明の体液採取装置では、前記微小開口を形成するエネルギ源としてレーザ光源が用いられることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、針に比べてより痛みが少なく、衛生的である。
【0016】
さらにまた、本発明の体液採取装置では、前記移動部材における前記経路の終端には、前記レーザ光を吸収することで発熱する吸収体が設けられることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、生体表面に前記微小開口を形成するにあたって、前記レーザ光が生体表面に直接吸収されなくても、吸収体で吸収されることで、それによって発生した熱で微小開口を形成することができる。
【0018】
したがって、レーザ光源を任意に選択することができるとともに、最小限のパワーで必要な大きさおよび深さの微小開口を作成することができ、レーザ光源を小型化することもできる。
【0019】
また、本発明の体液採取装置では、前記レーザ光源と前記移動部材の前記経路との間には、光路を前記経路の中心からシフトさせる光学部材が設けられるとともに、その光学部材を入射光軸を略回転中心として回転させる回転手段をさらに備えることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、前記微小開口を形成するエネルギ源としてレーザ光源を用いる場合、該レーザ光源と前記移動部材の前記経路との間にプリズムなどの光学部材を介在することで、光路を前記経路の中心からシフトさせることができ、その光学部材を回転手段で入射光軸を略回転中心として回転させることで、前記微小開口を複数形成することができる。
【0021】
したがって、同じ時間でより多くの体液を採取、或いは同じ量の体液をより短時間で採取することができるようになる。
【0022】
さらにまた、本発明の体液採取装置では、前記レーザ光源は前記支持部材から取外し可能であり、前記レーザ光源と支持部材との間には、相互の位置決めを行う位置決め手段が設けられ、前記レーザ光源側では、位置決めが行われていないと前記レーザ光の放射を禁止するロック機構が設けられていることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、前記レーザ光源を前記支持部材から取外し可能とすることで、長時間に亘って採取する場合に、煩雑さを解消することができるとともに、複数の患者でレーザ光源を共用可能にすることができる。そして、そのように取外し可能としても、相互の位置決めを行う位置決め手段を設けることで、定められた位置に正確に微小開口を形成することができる。さらに、前記レーザ光源側にはロック機構が設けられており、そのロック機構が前記位置決め手段で位置決めが行われていないと前記レーザ光の放射を禁止するので、レーザ光の漏光を防止し、安全性を向上することができる。
【0024】
また、本発明の体液採取装置では、前記吸引室はドーム状に形成され、その頂部に前記吸引手段への吸引口が設けられることを特徴とする。
【0025】
上記の構成によれば、吸引室がドーム状に形成されることで、吸引手段の吸引作用によって生体表面がその内面に沿って若干盛り上がり、その頂部に設けられている吸引口と微小開口との距離が近くなる。
【0026】
したがって、体液を効率良く吸い上げることができる。
【0027】
さらにまた、本発明の体液採取装置は、前記吸引室から吸引手段までの管路の一部に、穿孔可能な樹脂製の栓を設置することを特徴とする。
【0028】
上記の構成によれば、吸引室から吸引手段までの間の管路に、穿孔可能な樹脂製の栓を設け、それを注射針で穿孔することで、別の管路へ体液を吸い上げることができる。
【0029】
したがって、採取した体液を患者の近くに置けない検出装置や、該体液採取装置に組み込むことができない検出装置にも利用することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の体液採取装置は、以上のように、生体表面に針を刺したり、レーザ光を照射するなどして微小開口を形成し、体液を採取するにあたって、帽状のように底面が開放し、しかもフランジを有するなどして前記生体表面に密着設置可能で、ベース部材となる支持部材を前記生体表面に密着設置し、その天面に前記微小開口を形成するための器具またはレーザ源などのエネルギ源を搭載するとともに、前記支持部材内には移動部材を設け、その移動部材を移動手段によって、前記支持部材内で、生体表面に対して近接および離反変位ならびに生体表面と略平行に変位可能にするとともに、前記移動部材には、前記微小開口を形成するための器具(前記針など)またはエネルギ(前記レーザ光など)が通過することができる経路と、前記微小開口を覆う吸引室とを前記生体表面と略平行に並んで配置しておくとともに、前記吸引室には滲出した体液を吸引する吸引手段を接続しておく。
【0031】
それゆえ、使用者は、先ず移動部材の経路が前記器具またはエネルギ源に臨んだ状態で前記微小開口を形成させ、支持部材はそのままで、移動部材を一旦生体表面から上昇(離反)させて前記生体表面と略平行に移動させ、形成された微小開口に吸引室が臨んだ状態で下降(近接)させて該移動部材を生体表面に密着させ、前記吸引手段によって前記吸引室内を負圧にして、滲出した体液を測定装置へ供給し、或いは試験紙に染み込ませて別途設置された測定装置での測定を可能にする。これによって、微小開口の形成から体液の採取までを、装置を取外すことなく、一連の操作で行うことができ、穿孔された微小開口に対して、精密な位置決めが要求される吸引室をずれなく設置することができるとともに、気密に作業中を行えるので、作業中に外部から侵入してくる細菌等による感染や体液の品質劣化を防ぐことができる。また、吸引室と前記経路とを別に形成しているので、吸引室を極小容積にして、必要な量の体液の採取を微弱な吸引力で短時間に行うことができ、患者に苦痛や負担をかけずに低侵襲で体液採取を行うことができるとともに、前記微小開口を形成するための器具またはエネルギ源を取外し自在とすることと合わせて、該体液採取装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[実施の形態1]
図1および図2は、本発明の実施の一形態に係る体液採取装置1,11の構造を示す斜視図である。図1の体液採取装置1は、大略的に、帽状に形成されてフランジ21を有し、底面が開放して生体表面に密着設置されるベース部材である支持部材20と、微小開口を形成するためのエネルギ源であり、前記支持部材20における帽状の天面22に搭載されるレーザ照射装置30と、前記支持部材20内に収納される移動部材50と、前記移動部材50を前記支持部材20内で、生体表面に対して近接および離反変位ならびに生体表面と略平行に変位させる移動手段60と、滲出した体液を吸引する吸引手段である図示しないポンプとを備えて構成される。図2で示すもう1つの体液採取装置11は、前記レーザ照射装置30に代えて、微小開口を形成するための器具である穿孔装置40が用いられるだけで、残余の構成は体液採取装置1と同様である。
【0033】
図3は前記支持部材20の斜視図であり、図4は前記移動部材50の斜視図であり、図5はそれらを組付けた状態を示す斜視図であり、図6および図7は前記組付けた状態での動作を説明するための断面図である。前記支持部材20は、大略的に前記帽状に形成され、前記フランジ21と、側壁23と、天板24とを有する本体25と、前記天面22に立設される複数の位置決めピン26と、前記天板24の裏面に取付けられるマグネット27とを備えて構成される。前記本体25は、樹脂製で、前記側壁23の外径は3.5cm程度に形成され、前記天板24には、その円形の中心からシフトして、直径5mm程度の開口28が形成されている。なお、この開口28は、前記レーザ照射装置30が使用される場合には、レーザ光に対して透明な板で閉塞されていてもよい。前記位置決めピン26は、前記天面22から1mm程度突出して形成されている。前記フランジ21の裏面には、生体表面に該支持部材20を固定するための粘着テープが備え付けられている。さらにまた、前記側壁23には、後述するような形状の操作孔29が形成されている。
【0034】
一方、前記移動部材50は、樹脂製で円盤形状の本体51に、その一側面から半径方向外方に突出した前記移動手段60を備えて構成される。前記本体51は、前記支持部材20内に収納されるので、厚さ1cm、直径3cm程度の大きさに形成され、前記開口28に対応して、その中心からシフトして、直径5mm程度の円形で、前記微小開口を形成するための器具またはエネルギが通過することができる経路となる貫通孔53が形成されるとともに、前記貫通孔53とは周方向にずれた位置に、前記微小開口を覆う吸引室54が形成されている。前記貫通孔53も、前記レーザ照射装置30が使用される場合には、レーザ光に対して透明な板で閉塞されていてもよい。
【0035】
また、前記移動部材50において、前記レーザ照射装置30が使用される場合には、生体表面に密着することができる前記貫通孔53の出口には、カーボンブラック等のレーザ光の吸収特性が高く、吸収して発熱することで生体表面(角質層)2に前記微小開口を穿孔することができる材料から成る吸収体55が貼付けられている。ここで、レーザ光を用いて生体表面2に微小開口3を作成するにあたって、前記生体表面2に吸収されるレーザ光を用いて直接微小開口3を作成する場合と、上述のように吸収体55に一旦吸収させて、その発熱で微小開口3を作成する場合とが考えられる。前記吸収体55を用いる場合、該吸収体55の吸収波長を生体の吸収波長から大きくずらせておくことで、レーザ光を誤射しても生体表面を傷付けることはなく、安全性を向上することができる。また、前記吸収体55を用いることで、レーザ光源31を任意に選択することができるとともに、最小限のパワーで必要な大きさおよび深さの微小開口3を作成することができ、レーザ光源31を小型化することもできる。
【0036】
前記吸引室54は、直径4mm程度、深さ2mm程度のドーム状に窪んだ狭小な空間に形成され、図8で拡大して示すように、その頂部54aには、直径・高さ2mm程度の円柱形状の吸引口56が設けられ、その吸引口56は、外径3mm、内径1mm程度の管路57によって、管継手から成る前記移動手段60に接続されている。移動手段60には前記ポンプや測定器或いはサンプル採取器などへのチューブが連結される。また、本体51は、硬質の樹脂製であるが、前記管路57の一部は、軟質の樹脂が使用されるなどして、穿孔可能な樹脂製の栓58となっている。前記吸引口56内には、酵素電極などの特定の成分にのみに反応して電極間に電流を流す一対の電極59が設けられており、該電極59間に生じた電流は、外部に設置された信号検出機器によって検出することができる。
【0037】
このように構成された移動部材50は、前記移動手段60が取付けられた状態で該移動手段60を操作孔29に挿通した後、本体51が支持部材20内に嵌め込まれ、或いは前記移動手段60を取外した状態で本体51が支持部材20内に嵌め込まれた後、前記操作孔29から移動手段60が本体51にねじ込まれることで、前記操作孔29の範囲で移動部材50が支持部材20内で回転自在に、両者が一体化する。このように一体化した部材50,20を、複合ユニットと称する。なお、移動部材50の回転が円滑に行われるように、該移動部材50の中心をピンで支持部材20に枢支してもよく、或いは操作用に移動手段60と反対側に、前記吸引口56と繋がらないダミーの、或いは別の吸引口と繋がるもう1つの移動手段60が設けられてもよい。
【0038】
一方、前記レーザ照射装置30は、大略的に、生体表面2に微小開口3を形成するエネルギ源であるレーザ光源31と、適宜設けられる光学系32と、前記レーザ光源31を駆動する駆動回路33とが、円筒の両端部が端板で閉塞されて成る筐体34内に収納されて構成される。前記筐体34の底面35には、前記位置決めピン26が嵌り込む位置決め凹所36が形成されるとともに、前記マグネット27に吸着するマグネット37が設けられている。また、前記底面35には、前記開口28に対向する開口38が形成されている。前記開口38も、前記開口28と同様に、レーザ光に対して透明な部材で閉塞されていてもよい。
【0039】
前記レーザ光源31は、パルス発振が可能なレーザであり、前記駆動回路33は、患者に与える負担を小さくするために、前記レーザ光源31をパルス発振させ、短時間で高出力のレーザ照射を行わせ、生体表面2に、真皮層4に達しない前記微小開口3を形成させる。但し、生体表面2に微小開口3が作成できるのに充分な出力を得られれば良いので、必要以上に高出力のレーザを使用する必要はない。以上の条件を満たすのであれば、使用するレーザはマルチモードレーザやシングルモードレーザ等の種類は問わない。このレーザ光源31を用いることで、後述する針41を用いる穿孔装置40に比べて、より痛みが少なく、衛生的である。
【0040】
本実施の形態では、前記光学系32は、図9で示すように、前記レーザ光源31からのレーザ光を前記吸収体55の表面または生体表面2に集光させるレンズ32aに、その光軸32bを前記移動部材50の貫通孔53の中心からシフトさせる光学部材である回転板32cを備えて構成される。平板のガラスなどから成る前記回転板32cが前記光軸32bに対して傾斜して設けられており、その回転板32cを前記光軸32bを回転中心として回転させて前記レーザ光をパルスで照射することで、前記生体表面2に複数の微小開口3を形成することができる。ロック機構となる対を成す前記位置決めピン26および位置決め凹所36またはマグネット27,37は、近接スイッチとしての機能も有しており、両者が離間している状態では、前記駆動回路33はレーザ光源31の発振を禁止する(ロックを掛ける)。
【0041】
これに対して、前記穿孔装置40は、大略的に、生体表面2に微小開口3を形成する器具である針41と、その針41を昇降駆動することができる駆動機構42とが、円筒の両端部が端板で閉塞されて成る筐体44内に収納されて構成される。前記筐体44の底面45には、前記筐体34と同様に、前記位置決めピン26が嵌り込む位置決め凹所46が形成されるとともに、前記マグネット27に吸着するマグネット47が設けられている。また、前記底面45には、前記開口28に対向し、前記針41が出没する開口48が形成されている。この穿孔装置40でも、前記針41が駆動機構42によって電気的に昇降駆動される場合には、その駆動回路が前記位置決めピン26および位置決め凹所36またはマグネット27,47の出力に応答し、支持部材20に搭載されていない状態では、針41が突出しないようにロックを掛けるようにしてもよい。
【0042】
上述のように構成される体液採取装置1,11において、以下に体液採取手順について説明する。先ず、前記複合ユニットの底面を生体表面2に押し付けることで、前記フランジ21の裏面に貼付けられた粘着テープによって該複合ユニットが生体表面2に固定される。粘着テープの粘着力は、或る程度力を加えても該複合ユニットが生体表面2から剥がれない程度の粘着力でよい。粘着力が不足する場合には、医療用のテープなどでフランジ21の上からテープ止めを行ったり、或いは前記フランジ21の裏面に粘着テープが設けられておらず、その医療用のテープのみで固定されるなど、複合ユニットの取付けについては任意である。
【0043】
次に、前記レーザ照射装置30または穿孔装置40が、支持部材20の天面22上に、それらの位置決め凹所36,46に位置決めピン26が嵌り込むように搭載され、マグネット37,47とマグネット27との吸着によって固定される。これによって、レーザ照射装置30または穿孔装置40の開口38,48が、支持部材20の開口28と連通する。次に、前記移動手段60が操作孔29の孔開け位置となるように操作され、前記貫通孔53が、開口28;38,48と連通する。
【0044】
ここで、図3で示すように、前記操作孔29は、前記円筒状の側壁23において、前記孔開け位置を有し、軸方向に延びる第1の垂下部29aと、その上端から水平(周)方向に延びる移動部29bと、前記移動部29bの終端から垂下する(軸方向に延びる)第2の垂下部29cと、前記第2の垂下部29cの下端から水平(周)方向に延びて、後述の吸引位置を有するロック部29dとを備えて構成される。
【0045】
前記移動手段60が第2の垂下部29cまで移動されると、移動部材50の自重によって前記移動手段60は第2の垂下部29cの底部まで落下し、この状態で前記移動手段60がロック部29dまで周方向に移動されると、移動部材50が生体表面2に密着して前記孔開け位置に達した状態となる。こうして移動部材50がロックされた状態で生体表面2に複数の前記微小開口3が穿孔される。
【0046】
続いて、前記移動手段60が持ち上げられることで移動部材50が生体表面2から離反し、その状態で前記移動手段60が周方向に移動されることで該移動手段60が移動部29bを通過し、第1の垂下部29aに移って下降すると再び移動部材50が生体表面2に密着し、図7で示すように、前記微小開口3を前記吸引室54が覆う吸引位置となる。こうして、生体表面2を傷付けずに移動部材50を移動させることができる。なお、移動部材50の外周面と支持部材20の内周面との隙間に潤滑剤を塗布しておくことで、移動の滑りが良くなるとともに、隙間が埋まることで密閉性を向上することができる。
【0047】
その後、管継手となる前記移動手段60に前記ポンプや測定器或いはサンプル採取器などへのチューブが連結されると、負圧によって前記移動部材50の生体表面2からの浮き上がりが防止されつつ、体液が採取され、前記電極59によるグルコース濃度測定などが行われる。このとき、吸引室54内の負圧によって、図8で示すように生体表面2が若干盛り上がり、ドーム状に形成される該吸引室54の頂部54aに設けられた吸引口56と微小開口3との距離が近くなり、体液を効率良く吸引口56内へ吸い上げることができる。所定の量の体液を吸い上げた後は、自動または手動で前記ポンプが停止される。なお、前記微小開口3の穿孔後は、マグネット37,47;27によって支持部材20に吸着されているだけのレーザ照射装置30および穿孔装置40は、取外されてもよい。
【0048】
また、前記吸引室54から吸引口56および管路57まで体液で満たされた状態で、前記栓58に注射針やセンサが差込まれることで、前記移動手段60に連なる機器以外に、別途に体液を採取することができる。これによって、採取した体液を患者の近くに置けない検出装置や、複合ユニットに組込むことができない検出装置にも利用することができる。以上の操作で体液を採取した後は、複合ユニットが生体表面2から取外されて、適宜処分される。
【0049】
以上のように、本発明の体液採取装置1,11は、移動部材50が孔開け位置に位置した状態で微小開口3を形成し、支持部材20はそのままで、移動手段60を操作して、移動部材50を一旦生体表面2から上昇(離反)させて前記生体表面2と略平行に移動させ、形成された微小開口3に吸引室54が臨んだ状態で下降(近接)させて該移動部材50を生体表面2に密着させ、ポンプなどの吸引手段によって前記吸引室54内を負圧にして、滲出した体液を測定装置へ供給し、或いは試験紙に染み込ませて別途設置された測定装置での測定を可能にするので、微小開口3の形成から体液の採取までを、装置を取外すことなく、一連の操作で行うことができ、穿孔された微小開口3に対して、精密な位置決めが要求される吸引室54をずれなく設置することができるとともに、気密に作業中を行えるので、作業中に外部から侵入してくる細菌等による感染や体液の品質劣化を防ぐことができる。また、吸引室54と貫通孔53とを別に形成しているので、吸引室54を極小容積にして、必要な量の体液の採取を微弱な吸引力で短時間に行うことができ、患者に苦痛や負担をかけずに低侵襲で体液採取を行うことができるとともに、前記微小開口3を形成するためのレーザ照射装置30および穿孔装置40を取外し自在とすることと合わせて、該体液採取装置1,11の小型化を図ることができる。
【0050】
また、前記微小開口3を形成するエネルギ源としてレーザ光源31を用いるにあたって、該レーザ光源31と前記移動部材50の貫通孔53との間に、光軸32bを前記貫通孔53の中心からシフトさせる回転板32cを介在し、その回転板32cを回転手段で前記光軸32bを回転中心として回転させて前記微小開口3を複数形成するので、同じ時間でより多くの体液を採取、或いは同じ量の体液をより短時間で採取することができるようになる。
【0051】
さらにまた、前記レーザ照射装置30および穿孔装置40を支持部材20から取外し可能とすることで、長時間に亘って採取する場合に、煩雑さを解消することができるとともに、複数の患者で該レーザ照射装置30および穿孔装置40を共用可能にすることができる。そして、そのように取外し可能としても、両者の間に相互の位置決めを行う位置決めピン26および位置決め凹所36,46を設けるとともに、前記レーザ照射装置30の場合には、駆動回路33が、位置決めが行われていないと前記レーザ光源31の発振を禁止する(ロックを掛ける)ので、レーザ光の漏光を防止し、安全性を向上することができる。
【0052】
[実施の形態2]
図10は、本発明の実施の他の形態に係る体液採取装置における移動部材50’の構造を示す斜視図である。この移動部材50’は、前述の図4で示す移動部材50に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、この移動部材50’では、本体51’には、複数の吸引室54’が形成されることである。総ての吸引室54’には、管継手である前記移動手段60が連通しているけれども、微小開口3に臨まない吸引室では、吸引を行っても体液が滲出しないので、吸引が行われない。対応する支持部材は、長手状の移動部29bから、前記第2の垂下部29cおよびそれに連なるロック部29dが複数形成されることになる。
【0053】
このように構成することで、同一患者に対して所定時間毎に体液を採取する必要がある場合に、吸引室54を毎回新しくすることができ、精密かつ衛生的な測定を行うことができる。
【0054】
[実施の形態3]
図11〜図13は、本発明の実施のさらに他の形態に係る体液採取装置における複合ユニットの構造を示す斜視図であり、図11は支持部材20''の斜視図であり、図12は移動部材50''の斜視図であり、図13はそれらを組付けた状態を示す斜視図であり、それぞれ前述の図3〜図5に類似している。注目すべきは、前述の複合ユニットでは移動部材50,50’が回転移動であったのに対して、この複合ユニットの移動部材50''は、直線移動することである。このため、移動部材50''の本体51''は矩形板状、それに対応して、支持部材20''も箱形に形成される。このように移動部材50,50’,50''の形状は、形成すべき吸引室54の大きさや数などに対応して適宜選択されればよく、またその移動も、前記移動手段60の操作による手動式だけでなく、例えばバネの弾性を利用した機械式や、モータの回転を利用した電気式などでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の一形態に係る体液採取装置の構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る体液採取装置の構造を示す斜視図である。
【図3】前記体液採取装置における支持部材の斜視図である。
【図4】前記体液採取装置における移動部材の斜視図である。
【図5】図3および図4の部材を組付けた状態を示す斜視図である。
【図6】前記図5の状態での動作を説明するための断面図である。
【図7】前記図5の状態での動作を説明するための断面図である。
【図8】前記移動部材を拡大して示す断面図である。
【図9】図1で示す体液採取装置に用いられるレーザ照射装置の構造を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の他の形態に係る体液採取装置における移動部材の構造を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施のさらに他の形態に係る体液採取装置における支持部材の斜視図である。
【図12】本発明の実施のさらに他の形態に係る体液採取装置における移動部材の斜視図である。
【図13】図11および図12の部材を組付けた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1,11 体液採取装置
2 生体表面
3 微小開口
4 真皮層
20,20'' 支持部材
21 フランジ
22 天面
23 側壁
24 天板
25,51,51’ 本体
26 位置決めピン
27,37,47 マグネット
28,38,48 開口
29 操作孔
30 レーザ照射装置
31 レーザ光源
32 光学系
32a レンズ
32c 回転板
33 駆動回路
34,44 筐体
36,46 位置決め凹所
40 穿孔装置
41 針
42 駆動機構
50,50’,50'' 移動部材
53 貫通孔
54,54’ 吸引室
55 吸収体
56 吸引口
57 管路
58 栓
59 電極
60 移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面に微小開口を形成し、体液を採取する体液採取装置において、
前記微小開口を形成するための器具またはエネルギ源と、
底面が開放して前記生体表面に密着設置され、天面に前記器具またはエネルギ源が搭載される支持部材と、
前記支持部材内に収納され、前記微小開口を形成するための器具またはエネルギが通過することができる経路と、前記微小開口を覆う吸引室とが前記生体表面と略平行に並んで設置される移動部材と、
前記吸引室に接続され、体液を吸引する吸引手段と、
前記移動部材を前記支持部材内で、生体表面に対して近接および離反変位ならびに生体表面と略平行に変位させる移動手段とを備えて構成されることを特徴とする体液採取装置。
【請求項2】
前記微小開口を形成するエネルギ源としてレーザ光源が用いられることを特徴とする請求項1記載の体液採取装置。
【請求項3】
前記移動部材における前記経路の終端には、前記レーザ光を吸収することで発熱する吸収体が設けられていることを特徴とする請求項2記載の体液採取装置。
【請求項4】
前記レーザ光源と前記移動部材の前記経路との間には、光路を前記経路の中心からシフトさせる光学部材が設けられるとともに、その光学部材を入射光軸を略回転中心として回転させる回転手段をさらに備えることを特徴とする請求項2または3記載の体液採取装置。
【請求項5】
前記レーザ光源は前記支持部材から取外し可能であり、前記レーザ光源と支持部材との間には、相互の位置決めを行う位置決め手段が設けられ、前記レーザ光源側では、位置決めが行われていないと前記レーザ光の放射を禁止するロック機構が設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の体液採取装置。
【請求項6】
前記吸引室はドーム状に形成され、その頂部に前記吸引手段への吸引口が設けられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の体液採取装置。
【請求項7】
前記吸引室から吸引手段までの管路の一部に、穿孔可能な樹脂製の栓を設置することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の体液採取装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−226042(P2009−226042A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75955(P2008−75955)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】