説明

作業具の移動装置およびローダ装置

【課題】 共通の駆動源で作業具を2軸方向に移動可能で、構成が簡略な作業具の移動装置を提供する。
【解決手段】 移動装置1は、作業具2を、レール3に沿って移動させ、かつレール3と交差する方向に移動させる。走行用駆動源7,8を搭載し、レール3上を走行する第1および第2走行体4,5と、これら第1および第2走行体4,5の間に位置し、レール3上を走行する中央走行体6と、この中央走行体6にレール3方向と交差する方向に移動自在に設けられ、作業具2が取付けられる移動部材12とを備える。一端が第1走行体4に固定され、中間部が、中央走行体6に設けた第1案内点15、移動部材12に設けた中間案内点17、中央走行体6に設けた第2案内点16の順に巻き掛けられ、他端が第2走行体5に固定された巻掛体18を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ローダ装置のワークハンド等を移動させる移動装置、およびその移動装置により移動させられるワークハンドを備えたローダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤等の工作機械に対するワークの供給および排出や、複数の工作機械間でのワークの搬送に、ガントリ式のローダ装置が広く用いられている。例えば図9に示すように、ガントリ式のローダ装置91は、水平に設置したレール92上を走行する走行体93に前後移動台94を設け、この前後移動台94に昇降ロッド95を昇降自在に設け、この昇降ロッド95の下端にワークは把持するワークハンド96を設けて構成されている。走行体93を走行させる走行用駆動源(図示せず)、前後移動台94を移動させる移動駆動源94a、および昇降ロッド95を昇降させる昇降駆動源(図示せず)はそれぞれ個別に設けられており、これらの各駆動源を互いに連係して制御することにより、ワークハンド96をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の3軸方向に移動させる。各駆動源としては、制御の容易なサーボモータを用いることが多い。
【0003】
上記従来のように、ワークハンド96の各軸方向の移動をそれぞれ個別の駆動源で行うのは、移動方向分だけ駆動源が必要であり、かつ各駆動源はその移動方向の最大出力の容量を要する。加えて、サーボモータは比較的重量が重い。そのため、ローダ装置全体の重量が重く、運転効率があまり良くないということが問題とされていた。この問題に対し、図10に示すように、ワークハンド等の作業具102の複数軸方向の移動を共通の駆動源113,114で行わせることにより、駆動源の数の低減および小容量化を図った提案がされている(特許文献1)。
【0004】
この他に、従来、図11に示すように、レール122上を走行可能な2台の走行体123,124間にリンク機構125を設け、両走行体123,124間の間隔を変えることで、リンク機構125を介して作業具126をレール122と直交する方向に進退させるものが提案されている。
【特許文献1】特開2000−107973号公報
【特許文献2】特開2000−210832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の提案のローダ装置101は、ワークハンド等の作業具102を垂直方向(Y軸方向)と水平方向(Z軸方向)に移動させる2軸移動の構成であり、作業具102をY軸方向に移動可能に案内するY方向案内ブロック103と、このY方向案内ブロック103をZ軸方向に移動可能に案内するZ方向案内レール部材104とを備え、作業具102、Y方向案内ブロック103、およびZ方向案内レール部材104に設けたプーリ105〜111にベルト等の巻掛体112を巻き掛け、この巻掛体112を、正逆回転可能な2個のモータ等からなる駆動源113,114で駆動するようにしたものである。2個の駆動源113,114の回転を制御することにより、Y方向案内ブロック103に対し作業具102をY軸方向に移動させ、かつZ方向案内レール部材104に対しY方向案内ブロック103をZ軸方向に移動させる。
【0006】
図から明らかなように、この提案のローダ装置101は、Z方向案内レール部材104の全長にわたって巻掛体112を設ける必要がある。作業具102のZ軸方向の最大移動距離が短い場合はあまり問題ないと思われるが、同最大移動距離が長い場合、例えば複数の工作機械間で作業具102が長い距離を移動させるように構成した場合、巻掛体112が長くなりすぎて、移動の精度、コスト、保守管理等の面で問題の発生することが予想される。
【0007】
また、特許文献2に提案の装置121は、2台の走行体123,124の走行によって作業具126のレール122と直交する方向の位置を変えることができるが、走行体123,124の走行によって作業具126はレール122に沿う方向にも移動するため、レール122の端に近い位置で作業具126をレール122と直交する方向に移動させることができないという問題がある。
【0008】
この発明の目的は、共通の駆動源で作業具を2軸方向に移動可能で、構成が簡略な作業具の移動装置を提供することである。
この発明の他の目的は、作業具のレールに沿った移動、およびレールと交差する方向の移動を効率良く行わせることである。
この発明のさらに他の目的は、レール方向位置がレール端に近い位置で、作業具をレールと交差する方向に移動させられるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、共通の駆動源で作業具を2軸方向に移動可能で、構成が簡略なローダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の作業具の移動装置は、作業具を、レールに沿って移動させ、かつ前記レールと交差する方向に移動させる移動装置であって、走行用駆動源を搭載し、前記レール上を走行する第1および第2走行体と、これら第1および第2走行体の間に位置し、前記レール上を走行する中央走行体と、この中央走行体にレール方向と交差する方向に移動自在に設けられ、前記作業具が取付けられる移動部材とを備える。一端が前記第1走行体に固定され、中間部が、前記中央走行体に設けた第1案内点、前記移動部材に設けた中間案内点、前記中央走行体に設けた第2案内点の順に巻き掛けられ、他端が前記第2走行体に固定された巻掛体を設ける。
【0010】
この構成の移動装置は、次のように動作する。すなわち、走行用駆動源を搭載して自力走行可能な第1および第2走行体を走行させることにより、これら第1および第2走行体と巻掛体で連結された中央走行体もそれに伴って走行し、この中央走行体に設けられた作業具がレールに沿って移動する。また、第1および第2走行体の相対位置を変更させれば、巻掛体の第1案内点と第2案内点間の長さが変わることにより、中央走行体に対し移動部材が移動し、この移動部材に取付けられた作業具がレールと交差する方向に移動する。これら第1および第2走行体の走行、並びに第1および第2走行体の相対位置変更はいずれも、第1および第2走行体に搭載した走行用駆動源だけで行える。少ない駆動源を有効活用することで、移動装置全体の軽量化と構成簡略化を図ることができる。また、2個の走行用駆動源を協働させることで、各走行用駆動源の小型化を図れる。
【0011】
この発明において、前記第1および第2走行体を同方向に同速度で走行させることで、前記作業具を前記レールに沿って移動させ、かつ前記第1および第2走行体の相対距離を変更することで、前記作業具を前記レールと交差する方向に移動させるように、前記各走行用駆動源を制御する移動制御手段を設けるのが良い。
第1および第2走行体を同方向に同速度で走行させれば、それぞれの走行体に搭載された2個の走行用駆動源の協働で、作業具をレールに沿って効率良く移動させることができる。また、第1および第2走行体の相対距離を変更すれば、それぞれの走行体に搭載された2個の走行用駆動源の協働で、作業具をレールと交差する方向に効率良く移動させることができる。各走行用駆動源を移動制御手段で制御することにより、上記動作を精度良く行える。
【0012】
また、前記第1および第2走行体の走行をそれぞれ個別に阻止可能なロック機構を設け、前記移動制御手段により、いずれか一方の走行体の走行を前記ロック機構により阻止した状態で他方の走行体を走行させることで、前記作業具を前記レールと交差する方向に移動させるように前記各走行用駆動源を制御してもよい。
いずれか一方の走行体の走行をロック機構により阻止した状態で他方の走行体を走行させることによっても、作業具をレールと交差する方向に移動させられる。この場合、レール端側の走行体の走行を阻止させることにより、レール端に近いレール方向位置で作業具を移動させられる。
【0013】
この発明のローダ装置は、移動装置により、レールに沿って移動させ、かつ前記レールと交差する方向に移動させられるワークハンドを備えたローダ装置であって、前記移動装置は、走行用駆動源を搭載し、前記レール上を走行する第1および第2走行体と、これら第1および第2走行体の間に位置し、前記レール上を走行する中央走行体と、この中央走行体にレール方向と交差する方向に移動自在に設けられ、前記ワークハンドが取付けられる移動部材とを備える。一端が前記第1走行体に固定され、中間部が、前記中央走行体に設けた第1案内点、前記移動部材に設けた中間案内点、前記中央走行体に設けた第2案内点の順に巻き掛けられ、他端が前記第2走行体に固定された巻掛体を設ける。
【0014】
この構成によれば、移動装置により、ワークハンドが次のように動作する。すなわち、走行用駆動源を搭載して自力走行可能な第1および第2走行体を走行させることにより、これら第1および第2走行体と巻掛体で連結された中央走行体もそれに伴って走行し、この中央走行体に設けられたワークハンドがレールに沿って移動する。また、第1および第2走行体の相対位置を変更させれば、第1案内点と第2案内点間の巻掛体の長さが変わることにより、中央走行体に対し移動部材が移動し、この移動部材に取付けられたワークハンドがレールと交差する方向に移動する。これら第1および第2走行体の走行、並びに第1および第2走行体の相対位置変更はいずれも、第1および第2走行体に搭載した走行用駆動源だけで行える。少ない駆動源を有効活用することで、移動装置全体の軽量化と構成簡略化を図ることができる。また、2個の走行用駆動源を協働させることで、各走行用駆動源の小型化を図れる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の作業具の移動装置は、作業具を、レールに沿って移動させ、かつ前記レールと交差する方向に移動させる移動装置であって、走行用駆動源を搭載し、前記レール上を走行する第1および第2走行体と、これら第1および第2走行体の間に位置し、前記レール上を走行する中央走行体と、この中央走行体にレール方向と交差する方向に移動自在に設けられ、前記作業具が取付けられる移動部材とを備え、一端が前記第1走行体に固定され、中間部が、前記中央走行体に設けた第1案内点、前記移動部材に設けた中間案内点、前記中央走行体に設けた第2案内点の順に巻き掛けられ、他端が前記第2走行体に固定された巻掛体を設けたため、共通の駆動源で作業具を2軸方向に移動可能であり、かつ構成が簡略である。
【0016】
前記第1および第2走行体を同方向に同速度で走行させることで、前記作業具を前記レールに沿って移動させ、かつ前記第1および第2走行体の相対距離を変更することで、前記作業具を前記レールと交差する方向に移動させるように、前記各走行用駆動源を制御する移動制御手段を設けた場合は、作業具のレールに沿った移動、およびレールと交差する方向の移動を効率良く行わせることができる。
【0017】
また、前記第1および第2走行体の走行をそれぞれ個別に阻止可能なロック機構を設け、前記移動制御手段により、いずれか一方の走行体の走行を前記ロック機構により阻止した状態で他方の走行体を走行させることで、前記作業具を前記レールと交差する方向に移動させるように前記各走行用駆動源を制御する場合は、レール方向位置がレール端に近い位置で、作業具をレールと交差する方向に移動させられる。
【0018】
この発明のローダ装置は、移動装置により、レールに沿って移動させ、かつ前記レールと交差する方向に移動させられるワークハンドを備えたローダ装置であって、前記移動装置は、走行用駆動源を搭載し、前記レール上を走行する第1および第2走行体と、これら第1および第2走行体の間に位置し、前記レール上を走行する中央走行体と、この中央走行体にレール方向と交差する方向に移動自在に設けられ、前記ワークハンドが取付けられる移動部材とを備え、一端が前記第1走行体に固定され、中間部が、前記中央走行体に設けた第1案内点、前記移動部材に設けた中間案内点、前記中央走行体に設けた第2案内点の順に巻き掛けられ、他端が前記第2走行体に固定された巻掛体を設けたため、共通の駆動源で作業具を2軸方向に移動可能であり、かつ構成が簡略である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。図1および図2に示す作業具の移動装置は、複数の工作機械間でワークを搬送するローダ装置1である。この場合の作業具は、ワークを把持可能なワークハンド2である。
【0020】
ローダ装置1は、工作機械の上方に水平に設置されたレール3上を走行する3台の走行体4,5,6を備える。各走行体4,5,6は共に、レール3上にローラ(図示せず)を介して移動自在に支持されている。両側の第1および第2走行体4,5は、それぞれ走行用駆動源7,8を搭載して自走可能である。この実施形態では、走行用駆動源7,8はリニアモータであり、レール3に、その長さ方向に沿うコイル7a,8aが設けられ、第1および第2走行体4,5に、走行用駆動源の一部である電磁石7b,8bが設けられている。なお、走行用駆動源7,8は回転型のモータであってもよい。
【0021】
第1および第2走行体4,5には、それぞれ個別に走行を阻止可能なロック機構9,10が設けられている。ロック機構9,10は、例えば摩擦板(図示せず)をレール3に押し当てるブレーキからなる構成とすることができる。ロック機構9,10は、ロック駆動源9a,10a(図4)により駆動される。中央の中央走行体6は、後で説明する巻掛伝達装置14の作用により、第1および第2走行体4,5の走行に伴って走行する。
【0022】
中央走行体6は昇降ガイド11を有し、この昇降ガイド11に沿って昇降自在に、移動部材である昇降部材12が設けられている。昇降部材12は上下に長い部材であり、この昇降部材12の上下方向に沿うガイド溝12aに前記昇降ガイド11が摺動自在に係合している。昇降部材12は、付勢手段13により上向きに付勢されている。この実施形態の場合、付勢手段13は、昇降部材12の下部と中央走行体6との間に設けた引っ張りばねである。作業具であるワークハンド2は、昇降部材12の下端に取付けられる。
【0023】
各走行体4,5,6および昇降部材12は、巻掛伝達装置14により互いに連係して動作するように構成されている。巻掛伝達装置14は、中央走行体6に設けられた第1および第2案内点15,16と、昇降部材12に設けられた中間案内点17と、これら案内点15,16,17に巻き掛けた巻掛体18とでなる。詳しくは、巻掛体18は、一端が第1走行体4に固定され、中間部が第1案内点15、中間案内点17、第2案内点16の順に巻き掛けられ、他端が第2走行体5に固定されている。この実施形態の場合、中間案内点17は、昇降部材12の上端部に設けられている。例えば、巻掛体18はワイヤ、各案内点15,16,17は回転自在に支持されたプーリである。他に、巻掛体18をチェーン、各案内点15,16,17をスプロケットとしてもよい。あるいは、ベルトとベルト車とであってもよい。
【0024】
ワークハンド2はスイベル式のものであり、傾斜した回転中心21回りに回転する回転台22に2個のローダチャック23A,23Bが前向き姿勢(Z軸方向)と下向き姿勢(Y軸方向)とに設けられ、これら両ローダチャック23A,23Bの位置は回転台22の回転により互いに入れ替え可能とされている。回転台22は、回転駆動源24により回転させられる。回転駆動源24は、例えば電動モータである。これらローダチャック23A,23Bは、ワークをつかむ3つの開閉式チャック爪23aを有する。チャック爪23aは、開閉駆動源25A,25Bによりそれぞれ開閉させられる。開閉駆動源25A,25Bは、例えばエアシリンダである。このワークハンド2は、昇降部材12に固定された固定板26に対して、前後移動自在に支持され、前後移動駆動源27により前後移動させられる。前後移動駆動源27は、例えばサーボモータである。
【0025】
図3はローダ装置1の設置例を示す。このローダ装置1は、直線状に配置された複数の工作機械28間でワークの搬送を行うものであり、各工作機械28の並びに沿ってレール3が設けられている。工作機械28は、例えば旋盤である。工作機械28以外の機械、例えば計測器類(図示せず)を設置してもよい。
【0026】
ローダ装置1の制御装置について、図4と共に説明する。制御装置30はコンピュータからなり、ワークハンド2を制御するワークハンド制御手段31と、ワークハンド2の移動を制御する移動制御手段32とで構成される。
【0027】
さらに、ワークハンド制御手段31は、開閉制御部33A,33Bと回転制御部34と前後移動制御部35とで構成される。開閉制御部33A,33Bは、ローダチャック23A,23Bの開閉駆動源25A,25Bに出力して、それぞれのチャック爪23aを開閉させる。回転制御部34は、回転駆動源24に出力して、ローダチャック23A,23Bの位置を入れ替える。前後移動制御部35は、前後移動駆動源27に出力して、固定板26に対しワークハンド2を前後移動させる。
【0028】
また、移動制御手段32は、第1走行体走行制御部36と第1走行体ロック制御部37と第2走行体走行制御部38と第2走行体ロック制御部39とで構成される。第1走行体制御部36は、走行用駆動源7に出力して、第1走行体4を走行させる。具体的には、電磁石7bを励磁すると共にコイル7aに電流を流す。第1走行体ロック制御部37は、ロック駆動源9aに出力して、第1走行体4のロック機構9を機能および機能解除させる。第2走行体制御部38は、走行用駆動源8に出力して、第2走行体5を走行させる。具体的には、電磁石8bを励磁すると共にコイル8aに電流を流す。第2走行体ロック制御部39は、ロック駆動源10aに出力して、第2走行体4のロック機構10を機能および機能解除させる。
【0029】
図5は、ワークハンド2をレール3に沿って移動させるときの状態を示す。図のように第1および第2走行体4,5を中央走行体6の両側に当接させることにより、付勢手段13の作用で昇降部材12が上昇させられて、ワークハンド2が昇降範囲の最上端に位置する。この状態で、第1および第2走行体4,5を同方向に同速度で走行させることで、第1および第2走行体4,5と共に中央走行体6が同速度で走行する。それにより、ワークハンド2がレール3に沿って移動する。
【0030】
図6は、ワークハンド2を下降させるときの状態を示す。図のように第1および第2走行体4,5をそれぞれ中央走行体6から離れる方向に走行させることで、巻掛体18の第1案内点15と第2案内点16間の距離が短くなる。その結果、付勢手段13の付勢力に抗して昇降部材12が巻掛体18により引き下げられて、ワークハンド2が下降する。逆に、第1および第2走行体4,5をそれぞれ中央走行体6に接近する方向に走行させれば、ワークハンド2が上昇する。つまり、第1および第2走行体4,5の相対距離を変更することで、ワークハンド2をレール3と交差する方向に移動させる。巻掛体18は、回転自在に支持されたプーリ等の案内点15,16,17に巻き掛けられているので、力伝達の損失がほとんど無く、第1および第2走行体4,5の走行力が、そのまま昇降部材12を昇降させる力として伝わる。
【0031】
図7は、レール3端でワークハンド2を下降させるときの状態を示す。第1および第2走行体4,5のうちレール3端側の走行体(図の場合、第1走行体4)のロック機構9を機能状態にし、もう一方の走行体(図の場合、第2走行体5)を中央走行体6から離れる方向に走行させる。それにより、前記同様、巻掛体18の第1案内点15と第2案内点16間の距離が短くなり、ワークハンド2が下降する。この場合、片方の走行体5だけを走行させるが、走行体5の走行距離が図6の場合の2倍になるので、昇降部材12を前記場合と同じ力で昇降させられる。このように一方の走行体の走行を阻止した状態で昇降部材12を昇降させることができるため、レール3端でもワークハンド2を昇降させることが可能である。
【0032】
図3において、例えば一番左の工作機械28(1)で第1段階の加工を行い、その右の工作機械28(2)で第2段階の加工を行い、以下順に工作機械28(3),27(4)で加工が進められるものとする。各工作機械28の加工進行状況に関する情報は、制御装置30(図4)に逐次送信される。その場合、ローダ装置1は、以下のように動作する。
【0033】
まず、移動制御手段32の第1走行体制御部36および第2走行体制御部38の制御により、各走行体4,5,6を工作機械28(1)に対応する左右位置まで移動させる(図5参照)と共に、ワークハンド2を工作機械(1)の高さまで下降させる(図6参照)。次に、ワークハンド制御手段31の前後移動制御部35の制御により、ワークハンド2を工作機械(1)に向けて前進させ、かつ開閉制御部33A(または33B)の制御により、前向き姿勢にあるローダチャック23A(または23B)のチャック爪23aを閉じて、工作機械28(1)の加工済みワークを受け取る。仮に、ローダチャック23Aでワークを受け取ったとする。ワークを受け取ったなら、前後移動制御部35の制御により、ワークハンド2を後退させる。
【0034】
なお、工作機械28(1)に対応する左右位置がレール3端である場合は、次のようにしてワークハンド2を昇降させる。すなわち、第1走行体4側がレール3端であると仮定して、第1走行体ロック制御部37および第2走行体走行制御部38の制御により、第1走行体4のロック機構9を機能状態にし、第2走行体5を中央走行体6から離れる方向に走行させる(図7参照)。これによっても、ワークハンド2を下降させることができる。逆に、第1走行体4のロック機構9を機能状態にしたまま、第2走行体5を中央走行体6に接近させれば、ワークハンド2が上昇する。
【0035】
その後、移動制御手段32の第1走行体制御部36および第2走行体制御部38の制御により、ワークハンド2を上昇させてから、各走行体4,5,6を工作機械28(2)に対応する左右位置まで移動させ、ワークハンド2を工作機械(2)の高さまで下降させる。そして、ワークハンド制御手段31の各制御部33A,33B,34,35の制御により、空いているローダチャック23Bで工作機械28(2)の加工済みワークを受け取り、ローダチャック23Aのワークを工作機械28(2)に渡す。以下、工作機械28(3),27(4)に対しても同様にワークの受け渡しを行う。
【0036】
このローダ装置1によれば、自力走行可能な第1および第2走行体4,5を走行させることにより、これら第1および第2走行体4,5と巻掛体18で連結された中央走行体6もそれに伴って走行し、この中央走行体6に設けられたワークハンド2がレール3に沿って移動する。また、第1および第2走行体4,5の相対位置を変更させれば、巻掛体18の第1案内点15と第2案内点16間の長さが変わることにより、中央走行体6に対し昇降部材12が昇降し、この昇降部材12に取付けられたワークハンド2が昇降する。第1および第2走行体4,5の走行、並びに第1および第2走行体4,5の相対位置変更はいずれも、第1および第2走行体4,5に搭載した走行用駆動源7,8だけで行える。少ない駆動源を有効活用することで、ローダ装置1の軽量化と構成簡略化を図ることができる。また、2個の走行用駆動源7,8を協働させることで、各走行用駆動源7,8の小型化を図れる。
【0037】
また、この構成のローダ装置1は、いずれか一方の自走式の走行体4,5の走行をロック機構9,10により阻止した状態で他方の走行体4,5を走行させることによっても、ワークハンド2を昇降させることができるため、レール3端でもワークハンド2を昇降させることが可能である。そのため、ローダ装置1の可動域が広い。言い換えれば、レール3の長さを短くできる。
【0038】
この実施形態では、走行用駆動源7,8をリニアモータとしたため、第1および第2走行体4,5には走行用駆動源7,8の一部である電磁石7b,8bだけを搭載すればよく、より一層軽量化と構成簡略化を図ることが可能になっている。また、走行用駆動源7,8がリニアモータであれば、配線が不要であるため、ローダ装置1の設置が容易である。走行用駆動源7,8およびロック駆動源9a,10aは移動制御手段32で制御されるため、ワークハンド2を精度良く移動させられる。
【0039】
図8はローダ装置1の異なる設置例を示す。このローダ装置1は、各工作機械28の並びに沿ってレール3がループ状に設けられている。この場合も、前記同様にワークハンド2のレール3に沿う移動、およびレール3と直交する方向の移動すなわち昇降が行われる。第1および第2走行体4,5の走行用駆動源7,8がリニアモータであるため、レール3に沿ってどこまでもワークハンド2を移動させることができる。
【0040】
上記実施形態では、第1および第2走行体4,5だけが自力走行可能としたが、中央走行体6にも走行用駆動源を搭載して自力走行可能にしてもよい。中央走行体6も自力走行可能とすれば、ローダ装置1全体の走行能力を向上させることができる。
【0041】
また、上記実施形態とは逆に、第1および第2案内点15,16よりも下方に中間案内点17を位置させ、第1および第2走行体4,5をそれぞれ中央走行体6から離れる方向に走行させることで、巻掛体18により昇降部材12を引き上げて、ワークハンド2を上昇させる構成としてもよい。その場合、第1および第2走行体4,5を中央走行体6側に接近させるとき、昇降部材12が自重で下降するため、付勢手段13が不要である。
【0042】
さらに、上記実施形態は、ワークハンド2が取付けられる移動部材が中央走行体6に対し上下方向に移動する昇降部材12であるが、移動部材を上下方向以外の方向に移動するように設けてもよい。例えば、移動部材を、中央走行体6に対しレール3と直交する水平方向に移動させることができる。また、レール3と直交させずに、斜めに移動するようにしてもよい。
【0043】
移動部材に取付けられる作業具はワークハンド2以外のものであってもよい。例えば、工作機械のドリル等の工具、レーザ等のカッティング工具であってもよい。つまり、この発明はローダ装置1以外の作業具の移動装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施形態にかかるローダ装置の正面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】同ローダ装置の設置例を示す平面図である。
【図4】同ローダ装置の制御装置のブロック図である。
【図5】同ローダ装置の動作の例を示す正面図である。
【図6】同ローダ装置の異なる動作の例を示す正面図である。
【図7】同ローダ装置のさらに異なる動作の例を示す正面図である。
【図8】同ローダ装置の異なる設置例を示す平面図である。
【図9】(A)は従来のローダ装置の正面図、(B)はその側面図である。
【図10】第1の提案例のローダ装置の正面図である。
【図11】第2の提案例の装置の正面図である。
【符号の説明】
【0045】
1…ローダ装置(移動装置)
2…ワークハンド(作業具)
3…レール
4…第1走行体
5…第2走行体
6…中央走行体
7,8…走行用駆動源
9,10…ロック機構
12…昇降部材(移動部材)
14…巻掛伝達装置
15…第1案内点
16…第2案内点
17…中間案内点
18…巻掛体
32…移動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業具を、レールに沿って移動させ、かつ前記レールと交差する方向に移動させる移動装置であって、
走行用駆動源を搭載し、前記レール上を走行する第1および第2走行体と、これら第1および第2走行体の間に位置し、前記レール上を走行する中央走行体と、この中央走行体にレール方向と交差する方向に移動自在に設けられ、前記作業具が取付けられる移動部材とを備え、
一端が前記第1走行体に固定され、中間部が、前記中央走行体に設けた第1案内点、前記移動部材に設けた中間案内点、前記中央走行体に設けた第2案内点の順に巻き掛けられ、他端が前記第2走行体に固定された巻掛体を設けた作業具の移動装置。
【請求項2】
前記第1および第2走行体を同方向に同速度で走行させることで、前記作業具を前記レールに沿って移動させ、かつ前記第1および第2走行体の相対距離を変更することで、前記作業具を前記レールと交差する方向に移動させるように、前記各走行用駆動源を制御する移動制御手段を設けた請求項1記載の作業具の移動装置。
【請求項3】
前記第1および第2走行体の走行をそれぞれ個別に阻止可能なロック機構を設け、前記移動制御手段により、いずれか一方の走行体の走行を前記ロック機構により阻止した状態で他方の走行体を走行させることで、前記作業具を前記レールと交差する方向に移動させるように前記各走行用駆動源を制御する請求項2記載の作業具の移動装置。
【請求項4】
移動装置により、レールに沿って移動させ、かつ前記レールと交差する方向に移動させられるワークハンドを備えたローダ装置であって、
前記移動装置は、
走行用駆動源を搭載し、前記レール上を走行する第1および第2走行体と、これら第1および第2走行体の間に位置し、前記レール上を走行する中央走行体と、この中央走行体にレール方向と交差する方向に移動自在に設けられ、前記ワークハンドが取付けられる移動部材とを備え、
一端が前記第1走行体に固定され、中間部が、前記中央走行体に設けた第1案内点、前記移動部材に設けた中間案内点、前記中央走行体に設けた第2案内点の順に巻き掛けられ、他端が前記第2走行体に固定された巻掛体を設けた、
ローダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−149269(P2010−149269A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332999(P2008−332999)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】