説明

作業機のステアリング操作構造

【課題】 作業機のステアリング操作構造において、不具合なく油圧ポンプを好適に駆動することができるようにする。
【解決手段】 機体前部に配備されたミッションケース9に操向自在な前輪を装備し、ミッションケース9に上下方向から挿通支承したステアリング軸88の下部と前輪のステアリング機構とを連動連結するとともに、エンジンに連動連結されて横架されたポンプ駆動軸78で作業用圧油を供給する油圧ポンプを駆動するよう構成した作業機のステアリング操作構造において、ポンプ駆動軸78を、ステアリング軸88より機体後方のケース内においてミッションケース9に挿通支承してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4輪走行式の作業機に利用するステアリング操作構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記作業機の一例である田植機のステアリング操作構造として、例えば、特許文献1に開示されているように、機体前部に配備されたミッションケースに操向自在な前輪を装備し、ミッションケースに上下方向から挿通支承したステアリング軸の下部と前輪のステアリング機構とを連動連結するとともに、エンジンに連動連結されて横架されたポンプ駆動軸で作業用圧油供給用の油圧ポンプを駆動するよう構成したものが知られている。
【特許文献1】特開2000−272359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来構造においては、ミッションケースの上下高さを有効に利用した大きいスパンでステアリング軸を確実に支持することができる特徴を有するものであるが、ポンプ駆動軸がミッションケースの前方外部に配備されているために、油圧ポンプの入力軸を貫通支持する軸支部が外部に露出することになり、この軸支部からのオイル漏れを防止するために厳重なオイルシール構造を必要とするものとなっていた。
【0004】
油圧ポンプの入力軸とポンプ駆動軸とを同心に連結するには、入力軸とポンプ駆動軸とを連結スリーブに挿入してスプライン連結することが多く、この場合、スプライン嵌合部における酸化磨耗を防止するために頻繁にグリース充填を行うことが望ましいが、このスプライン嵌合部が機体内方の狭小な箇所であるために、グリース充填が省かれたり、忘れられたりしがちであった。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、上記のような不具合なく油圧ポンプを好適に駆動することができるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、機体前部に配備されたミッションケースに操向自在な前輪を装備し、前記ミッションケースに上下方向から挿通支承したステアリング軸の下部と前輪のステアリング機構とを連動連結するとともに、エンジンに連動連結されて横架されたポンプ駆動軸で作業用圧油を供給する油圧ポンプを駆動するよう構成した作業機のステアリング操作構造において、
前記ポンプ駆動軸を、前記ステアリング軸より機体後方のケース内においてミッションケースに挿通支承してあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、油圧ポンプの入力軸軸支部をミッションケースの内部に連通させることができ、油圧ポンプからのリーク油が軸支部から流出したとしてもミッションケースに流入するだけで機外に洩れ出ることはない。
【0008】
ポンプ駆動軸と油圧ポンプの入力軸との連結部をミッションケース内に配置することができるので、連結部を潤滑油飛沫が多く飛散する雰囲気中に位置させたり、潤滑油に浸漬させたりすることができ、ポンプ駆動軸と油圧ポンプの入力軸とをスプライン連結しても、スプライン嵌合部を常に潤滑しておくことができる。
【0009】
従って、第1の発明によると、ポンプ駆動軸の合理的な配置改良によって、油圧ポンプにおける入力軸軸支部におけるオイルシール構造を簡素化することができるとともに、ポンプ駆動軸と油圧ポンプの入力軸との連結部の潤滑メンテナンスを不要にすることができるようになった。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記ミッションケースの側面に連結した静油圧式無段変速装置の入力軸を前記エンジンに連動連結するとともに、前記静油圧式無段変速装置の出力軸をミッションケース内の伝動系に連動連結し、前記入力軸と前記ポンプ駆動軸とを同心に連結してあるものである。
【0011】
上記構成によると、静油圧式無段変速装置の入力軸をエンジンからポンプ駆動軸への動力伝達を行う伝動軸に兼用することができ、第1の発明の上記効果をもたらすとともに、エンジンからポンプ駆動軸への伝動構造を簡素化することができる。
【0012】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記ステアリング軸を後倒れ傾斜姿勢に配備し、ミッションケースの上方に配備されたステアリングハンドルとステアリング軸とを同心に配備してあるものである。
【0013】
上記構成によると、ステアリングハンドルを操作しやすい後倒れ傾斜姿勢に軸支しながら、ステアリングハンドルとステアリング軸とを自在継ぎ手の介在なく連動連結することができ、第1または2の発明の上記効果をもたらすとともに、ステアリング操作構造の簡素化を図ることができる。
【0014】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか一つの発明において、
前記ステアリング軸をトルクジェネレータで駆動回動するよう構成してあるものである。
【0015】
上記構成によると、第1〜3のいずれか一つの発明の上記効果をもたらすとともに、軽快な前輪操向を行うことができる。
【0016】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか一の発明において、
前記ミッションケースから前方に延出した前フレームに前記エンジンを搭載するとともに、この前フレームに前記前輪の最大操向角度を規制する接当部を備えてあるものである。
【0017】
上記構成によると、第1〜4のいずれか一の発明の上記効果をもたらすとともに、前輪が過剰に操向されて、ステアリング機構が損傷することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1および図2に、作業機の一例として乗用型の田植機の側面および平面がそれぞれ示されている。この田植機は、操向自在な左右一対の前輪1と操向不能な左右一対の後輪2とを備えた四輪駆動型の走行機体3の後部に、作業装置として6条植え使用の苗植付け装置4が、油圧シリンダ5によって駆動される平行四連式のリンク機構6を介して昇降自在に連結されるとともに、機体後部に施肥装置7が装備された基本構造を備えている。
【0019】
前記走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を左右に装備した後部伝動ケース10がローリング可能に支持されている。ミッションケース9からは前方に向けて前フレーム11が延出され、この前フレーム11にエンジン12が横向に搭載されてボンネット13で覆われている。エンジン12の後方に位置する搭乗運転部には、前輪1を操向操作するステアリングハンドル14、運転座席15、ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備の苗を3段づつ載置収容する予備苗のせ台17が備えられている。
【0020】
前記苗植付け装置4は、6条分のマット状苗を並列載置して左右方向に所定ストロークで往復移動される苗のせ台21、苗のせ台21下端から1株分ずつ苗を切り出して田面に植付けてゆく6組の回転式の植付け機構22、田面の植付け箇所を整地するよう並列配備された3個の整地フロート23、等を備えて構成されている。
【0021】
前記施肥装置7の主部は、運転座席15と苗植付け装置4との間において走行機体3に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量づつ繰り出す回転ロール式の繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各整地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28、などを備え、作溝器27によって田面T形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0022】
図3および図4に伝動系の概略が示されている。
前記ミッションケース9の左側面には、静油圧式の無段変速装置(HST)からなる主変速装置30が連結されてエンジン12にベルト連動されるとともに、主変速装置30の出力がミッションケース9に入力されて走行系と作業系とに分岐される。分岐された走行系の動力がギヤ式の副変速機構31を経て前輪1および後輪2に伝達されるとともに、分岐された作業系の動力がギヤ式のPTO変速機構(株間変速機構)32およびPTOクラッチ(植付けクラッチ)33を経てPTO軸34から後方に向けて取り出され、取り出された動力が伝動軸35aおよび伸縮伝動軸35bを介して苗植付け装置4に伝達される。
【0023】
前記主変速装置30には、圧油吐出方向を正逆に切換えるとともにその吐出量を無段階に変更可能な可変容量型の油圧ポンプPと、この油圧ポンプPからの圧油を受けて回転駆動される定容量型の油圧モータMとが内臓されており、油圧ポンプPを駆動する入力軸(ポンプ軸)36がエンジン12にベルト掛け連動されて駆動され、油圧モータMの出力軸(ポンプ軸)37から取り出された変速動力がミッションケース9に伝達される。
【0024】
主変速装置30は、ステアリングハンドル14の左脇に前後揺動可能、かつ、任意の操作位置に保持可能に配備された主変速レバー18にリンク連係されており、主変速レバー18を中立位置に操作することで油圧ポンプPからの圧油吐出量が零となって走行が停止され、主変速レバー18を中立位置より前方に操作することで、油圧ポンプPから正方向に圧油が吐出されて前進での無段変速が行われ、中立位置より後方に操作することで、油圧ポンプPから逆方向に圧油が吐出されて後進での無段変速が行われるようになっている。
【0025】
ミッションケース9に入力された動力の一部は前記副変速機構31によって高低2段に変速された後、デフ装置38に伝達され、デフ装置38で左右の差動軸39に分岐されて前輪1に伝達される。デフ装置38に伝達された動力の一部がベベルギヤで分岐されて後輪駆動軸40からケース外に取り出され、機体下部に沿って配備された伝動軸41を介して後部伝動ケース10に伝達された後、多板式のサイドクラッチ42を介して左右の後輪2に伝達される。
【0026】
前記デフ装置38には、左右の差動軸39を一体化するデフロック機構43が備えられている。このデフロック機構43は、足元後方箇所に配備されたデフロックペダル44にリンク連係されており、デフロックペダル44を踏み込み操作することで、左右の前輪1を等速で駆動することができるようになっている。前記後輪駆動軸40には多板式のブレーキ45が装備されて、足元の右側前方箇所に配備されたブレーキペダル46にブレーキ45が連係されており、ブレーキペダル46を踏み込み操作して後輪駆動軸40を制動することで走行系全体を制動し、前輪1および後輪2を同時に制動することができるようになっている。ブレーキペダル46は主変速レバー18の操作系にも接当連係されており、ブレーキペダル46を踏み込むことで、前進変速域あるいは後進変速域にある主変速レバー18が強制的に中立位置まで戻されるようになっている。
【0027】
詳細な構造は図示されていないが、左右のサイドクラッチ42は前輪1の操向に連動して自動操作されるものであり、ステアリングハンドル14によって前輪1を左または右に設定角度(例えば30°)以上に操向すると、旋回内側となる後輪2のサイドクラッチ42が自動的に切り操作されて、左右の前輪1と旋回外側の後輪2とによる3輪駆動で小回り旋回が実行されるようになっている。
【0028】
上記ミッションケース9の内部構造の詳細が図5〜図7に示されている。
前記ミッションケース9は、アルミダイキャスト製の左右の分割ケース部分9a,9bをボルト連結して構成されており、このミッションケース9に横架支承された入力用の伝動軸50が主変速装置30の出力軸37に同心に連結されている。主変速装置30からの出力を受けて正逆に無段変速されて回転駆動される伝動軸50と、これと平行に軸受け支承された走行系変速軸51とが前記副変速機構31を介して連動連結されている。
【0029】
副変速機構31は、伝動軸50の左半部に固設された大小のギヤG1,G2と、走行系変速軸51にスプライン装着されたシフトギヤSGとで構成されており、シフトギヤSGを図5において右方にシフトしてその大径ギヤG3を前記ギヤG2に咬合させることで「低速」がもたらされ、シフトギヤSGを図5において左方にシフトしてその小径ギヤG4を前記ギヤG1に咬合させることで「高速」がもたらされ、その変速動力が変速軸51の右端に固着した出力ギヤG5から取り出されるようになっている。副変速機構31の前記シフトギヤSGをシフト操作する変速操作軸52は、運転座席15の左横側に前後揺動可能に配備された副変速レバー19の前後揺動操作によって押し引き操作されるようになっている。
【0030】
前輪駆動用の前記デフ装置38におけるデフギヤケース53がミッションケース9の下部に軸受け支承されており、このデフギヤケース53の右端部近くに固着した大径の入力ギヤG6が走行系変速軸51の出力ギヤG5に咬合連動され、副変速機構31からの変速動力が大きく減速されてデフ装置38に伝達される。前記デフロック機構43は、左方の差動軸39にシフト可能にキー連結したシフトカラー54をデフギヤケース53の左端部に爪咬合させることで、左右の差動軸39を一体回動させるよう構成されており、シフトカラー54をシフト操作するデフロック操作軸55が前記デフロックペダル44にリンク連係されている。
【0031】
デフギヤケース53の右端寄り箇所に固着されたベベルギヤG7と、前記後輪駆動軸40の前端に一体形成されたベベルギヤG8とが咬合され、デフ装置38に伝達された走行用動力の一部が後輪駆動軸40から取り出されるようになっている。この後輪駆動軸40に装備されたブレーキ45は、後輪駆動軸40にスプライン外嵌した複数枚の摩擦板57と、ケース内面に回動不能に係合支持されて前記摩擦板57とを交互に積層される複数枚の制動板56と、後輪駆動軸40にシフト可能に外嵌装着された押圧カラー58とからなり、押圧カラー58を前方にシフト操作して摩擦板57と制動板56とを圧接重合することで後輪駆動軸40を摩擦制動するよう構成されている。
【0032】
押圧カラー58を前後にシフト操作する回動操作軸59が前記ブレーキペダル46にリンク連係されており、ブレーキペダル46を踏み込み操作しない状態では、ブレーキペダル46の復帰付勢力によって押圧カラー58が押圧解除位置に後退され、ブレーキペダル46を復帰付勢力に抗して踏み込み操作することで、押圧カラー58が押圧シフトされるようになっている。この回動操作軸59は、ミッションケース9における左側の分割ケース部分9aの軸受けボス部9eに右横外方から挿入支持されており、右側の分割ケース部分9bから一体突設された接当部9cが回動操作軸59の外端に接近して対向配備されることで、回動操作軸59の抜出しが阻止されるようなっている。
【0033】
前記伝動軸50の右半部にはPTO伝動部材60が外嵌装着されている。このPTO伝動部材60は、一方向クラッチ61を介して伝動軸50に外嵌装着されたボス部62、伝動軸50に遊嵌装着された出力部63とで構成されており、ボス部62の左端部に出力部63が軸心方向から爪咬合されて、ボス部62と出力部63とが一体回動するようになっている。一方向クラッチ61は伝動軸50の正転動力のみをボス部62に伝達する特性のものが使用されており、正逆転する伝動軸50の正転動力のみがPTO伝動部材60の出力部63から取り出されて、前記PTO変速機構32に伝達されるようになっている。
【0034】
PTO変速機構32は、走行系変速軸51の右半部に遊嵌支持された筒軸状の中間伝動軸64、この中間伝動軸64に外嵌固着された入力部65、中間伝動軸64に並列して外嵌固着された複数個(この例では6個)の駆動側ギヤG11〜G16、走行系変速軸51と平行に軸受け支承されたPTO系変速軸66、このPTO系変速軸66に並列して遊嵌装着されるとともに前記駆動側ギヤG11〜G16のそれぞれに常時咬合された複数個の従動側ギヤG17〜G22、等で構成されている。
【0035】
前記入力部65はPTO変速機構32におけるケース内方側の端部に位置して、PTO伝動部材60の出力部63に対向して配備され、出力部63に形成された小径の出力ギヤG9と入力部65に形成された大径の入力ギヤG10が咬合連動されて、PTO伝動部材60の正転動力がPTO変速機構32の中間伝動軸64に減速伝達されるようになっている。
【0036】
従動側ギヤG17〜G22を遊嵌支持したPTO系変速軸66の右半部は筒軸部66aに構成されており、この筒軸部66aのギヤ装着箇所ごとに、半径方向に出退変位可能に伝動ボール67が周方向複数個ずつ係合装着されている。伝動ボール67が筒軸部66aの外周より内方に没入することで、外嵌装着した従動側ギヤG17〜G22の遊転を許容し、伝動ボール67が筒軸部66aの外周より突出して従動側ギヤG17〜G22の内周に沿って形成した多数の係合凹部68に係入することで、この従動側ギヤG17〜G22とPTO系変速軸66とが一体回動する伝動状態になるよう構成されており、6個の従動側ギヤG17〜G22のうちのいずれか1個を選択して上記伝動状態に選択することで、PTO系変速軸66を6段に変速することができるようになっている。
【0037】
PTO系変速軸66における筒軸部66aの内部中心には、軸心方向に往復移動可能に変速操作軸69が挿通配備されている。この変速操作軸69の外径は、前記伝動ボール67が筒軸部66aの外周から内方に落ち込み退入するに足りる空間が形成されるよう小径に形成されるとともに、変速操作軸69のケース内方端部には筒軸部66aの内周に摺接する大径部69aがフランジ状に装着されており、変速操作軸69をシフト操作して、軸心方向に並列配備されている6組の伝動ボール67のいずれか一組を大径部69aで外周に押し出し変位させることで、6組の常噛みギヤ対の一組を伝動状態にして、中間伝動軸64からPTO系変速軸66へ所望の伝動比で動力伝達を行うようになっている。
【0038】
変速操作軸69には6個の環状溝70がギヤ並列ピッチに対応したピッチで並列形成されるとともに、ミッションケース9の壁部には、環状溝70の一つに係合されるデテントボール71がバネ付勢されて装備されており、変速操作軸69が選択された6段の各変速操作位置に安定保持されるよう構成されている。
【0039】
PTO系変速軸66の左端部に連結固定された出力ベベルギヤG23と、前記PTO軸34に遊嵌装着された入力ベベルギヤG24とが咬合され、入力ベベルギヤG24に伝達された作業用動力が前記PTOクラッチ33を介してPTO軸34に伝達されるようになっている。
【0040】
PTOクラッチ33は、前記入力ベベルギヤG24が連結装備された駆動側クラッチ部材72と、PTO軸34にスライド可能にスプライン装着された従動側クラッチ部材73と、この従動側クラッチ部材73を駆動側クラッチ部材72に向けてスライド付勢するクラッチバネ74とが備えられた爪クラッチに構成されている。従動側クラッチ部材73が付勢スライドされて駆動側クラッチ部72に爪咬合されることで、駆動側クラッチ部材72からPTO軸34に動力伝達される「クラッチ入り」状態がもたらされ、従動側クラッチ部材73がクラッチバネ74に抗して後退スライドされることで、駆動側クラッチ部材72からPTO軸34への動力伝達が遮断される「クラッチ切り」状態がもたらされるようになっている。
【0041】
従動側クラッチ部材73には、回動位相によって軸心方向の高さが変化する傾斜カム75が形成されるとともに、PTOクラッチ装着部位の横側にはクラッチ操作軸76が内外にスライド操作可能に配備されている。図6に示すように、クラッチ操作軸76が外方に引退操作されていると、従動側クラッチ部73が付勢スライドされて上記「クラッチ入り」状態がもたらされ、クラッチ操作軸76が内方に突入操作されると、クラッチ操作軸76の先端部が傾斜カム75の回動軌跡に入り、軸心方向位置が固定されたクラッチ操作軸76に対して傾斜カム75が乗り上がり、クラッチ操作軸76と傾斜カム75との乗り上がりカム作用によって従動側クラッチ部材73はその回動に伴って強制的にクラッチバネ74に抗して後退変位され、爪咬合が外れた「クラッチ切り」状態がもたらされる。
【0042】
このように構成された、PTOクラッチ33は、従動側クラッチ部材73が所定の回転位相で「クラッチ切り」状態がもたらされる定位置停止機能を備えており、この「クラッチ切り」状態では、前記植付け機構22が田面Tから浮上した回動位相で停止するようPTO伝動系の回動位相が設定されている。
【0043】
図5,図9に示すように、ミッションケース9の前部右側面には、前記油圧シリンダ5、および、後述するパワーステアリング手段、等の油圧源となる油圧ポンプ77が横向きに連結されるとともに、この油圧ポンプ77を駆動するポンプ駆動軸78がミッションケース9内に横向きに配備されている。ポンプ駆動軸78の一端が前記主変速装置30における入力軸36のケース内延出端に連結スリーブ79を介して同心にスプライン連結されるとともに、ポンプ駆動軸78の他端が油圧ポンプ77の入力軸80に連結スリーブ81を介して同心にスプライン連結され、主変速装置30に入力されたエンジン動力で油圧ポンプ77が駆動されるようになっている。
【0044】
図8,図9示すように、ミッションケース9の前部上面にはパワーステアリング用の油圧式トルクジェネレータ85が若干後倒れ姿勢で連結され、トルクジェネレータ85から上方に向けて延出されたステアリング操作軸86の上端に前記ステアリングハンドル14が連結されている。トルクジェネレータ85の下面からは油圧式にトルクアップされる出力軸87がステアリング操作軸86と同じ後倒れ傾斜角度をもって突設されるとともに、この出力軸87に同心に連結されたステアリング軸88が、前記ポンプ駆動軸78より前方においてミッションケース9内に突入され、ステアリングハンドル14、ステアリング操作軸86、および、ステアリング軸88が後倒れ傾斜した一直線上において同心に配置されている。
【0045】
ミッションケース9の前部底壁には回動軸89が貫通装備され、この回動軸89のケース内部位に連結されたセクトギヤ90とステアリング軸88の下端部に一体形成されたピニオンギヤ91が咬合されるとともに、回動軸89のケース外端部に前輪操向用のピットマンアーム92が連結され、ピットマンアーム92の遊端部から左右に枢支延出されたタイロッド93が、左右前輪1を操向するナックルアーム1aに連結されている。図11に示すように、ピットマンアーム92の左右端に形成された接当端92aが、前フレーム22の基部から下向きに突設された接当部11aの左右端に受け止められることで、前輪1の左方または右方への最大操向角度が制限されるようになっている。
【0046】
図9に示すように、ミッションケース9の右側面にはオイルフィルタ95が取り付けられている。図10の油圧回路図に示すように、ミッションケース9に貯留された潤滑油が作動油としてオイルフィルタ95に導入され、ここで浄化された作動油がケース壁に形成された油路aを介して前記油圧ポンプ77に吸引され、油圧ポンプ77で加圧吐出された作動油が外部配管96を介してトルクジェネレータ85に供給されるようになっている。トルクジェネレータ85から送出された戻り油が外部配管97を介して苗植付け装置昇降用油圧回路に導かれ、制御バルブ98を介して前記油圧シリンダ5の作動に使用され、さらに、制御バルブ98から送出された作動油が主変速装置30のチャージ用油路bに供給された後、その余剰油がミッションケース9に還元されるようになっている。
【0047】
図9に示すように、主変速装置30のケーシング内に充満した余剰油は、ミッションケース9の内に配備された配管99を介してミッションケース9の左側の前車軸ケース部9dに導入された後、ミッションケース9内に戻されるようになっている。
【0048】
図8に示すように、ミッションケース9の前部上端には気液分離室を備えたブレザープラグ82が装着されるとともに、ミッションケース9の上面には挿抜可能なオイルゲージ83が取り付けられている。
【0049】
〔他の実施例〕
(1)トルクジェネレータ85を鉛直姿勢でミッションケース9に連結するとともに、トルクジェネレータ77から鉛直上方に延出されたステアリング操作軸86と、ステアリングハンドル14とを後傾斜するハンドル軸(図示せず)および自在継ぎ手(図示せず)で連動連結して実施することもできる。
【0050】
(2)本発明は、トルクジェネレータ85を備えないマニュアルステアリング仕様の機種に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】田植機の全体側面図
【図2】田植機の全体平面図
【図3】伝動系の概略図
【図4】伝動系の概略図
【図5】ミッションケースの主部を横断した平面図
【図6】ミッションケースの一部を展開した断面図
【図7】PTO変速機構の展開断面図
【図8】ミッションケースの前部を縦断した右側面図
【図9】ミッションケースの前部を縦断した正面図
【図10】油圧回路図
【図11】前輪最大操向角度の規制構造を示す平面図
【符号の説明】
【0052】
1 前輪
9 ミッションケース
11 前フレーム
12 エンジン
14 ステアリングハンドル
30 静油圧式無段変速装置
36 入力軸
37 出力軸
77 油圧ポンプ
78 ポンプ駆動軸
85 トルクジェネレータ
88 ステアリング軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前部に配備されたミッションケースに操向自在な前輪を装備し、前記ミッションケースに上下方向から挿通支承したステアリング軸の下部と前輪のステアリング機構とを連動連結するとともに、エンジンに連動連結されて横架されたポンプ駆動軸で作業用圧油を供給する油圧ポンプを駆動するよう構成した作業機のステアリング操作構造において、
前記ポンプ駆動軸を、前記ステアリング軸より機体後方のケース内においてミッションケースに挿通支承してあることを特徴とする作業機のステアリング操作構造。
【請求項2】
前記ミッションケースの側面に連結した静油圧式無段変速装置の入力軸を前記エンジンに連動連結するとともに、前記静油圧式無段変速装置の出力軸をミッションケース内の伝動系に連動連結し、前記入力軸と前記ポンプ駆動軸とを同心に連結してある請求項1記載の作業機のステアリング操作構造。
【請求項3】
前記ステアリング軸を後倒れ傾斜姿勢に配備し、ミッションケースの上方に配備されたステアリングハンドルとステアリング軸とを同心に配備してある請求項1または2に記載の作業機のステアリング操作構造。
【請求項4】
前記ステアリング軸をトルクジェネレータで駆動回動するよう構成してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の作業機のステアリング操作構造。
【請求項5】
前記ミッションケースから前方に延出した前フレームに前記エンジンを搭載するとともに、この前フレームに前記前輪の最大操向角度を規制する接当部を備えてある請求項1〜4のいずれか一項に記載の作業機のステアリング操作構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−325529(P2007−325529A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158596(P2006−158596)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】