説明

作業機の油圧システム

【課題】ポンプの吐出油の一部をタンクに戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータに送るように制御した作業機の油圧システムにおいて、油圧アクチュエータの動作速度の改善を図る。
【解決手段】走行用の制御バルブV1,V2と他の制御バルブV3〜9とを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータM1又は他の油圧アクチュエータM2,C3〜9の一方を微速操作する際に、該微速操作される側の制御バルブに供給される吐出油を微速操作されない側の制御バルブに供給するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプの吐出油の一部をタンクに戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータに送るように制御する作業機の油圧システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベル等の作業機の油圧システムとして、油圧ポンプの吐出油の一部をタンクに戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータに送るように制御することにより、エネルギーロスを抑制した油圧システムが特許文献1に開示されている。
この油圧システムは、油圧アクチュエータを制御するクローズドセンター型方向制御バルブからなる制御バルブと、可変容量型油圧ポンプによって構成されたポンプと、該ポンプ及び前記制御バルブを制御するコントローラとを備え、
コントローラにおいて、ポンプの仮定の吐出流量である設定吐出流量からポンプの実際の吐出流量を減算した流量値と、制御バルブの操作量から算出される予定のブリードオフ面積値とからポンプの目標吐出圧を算出し、該目標吐出圧とポンプの実際の吐出圧との偏差に基づいて算出される指令信号によってポンプの吐出流量を制御している。
【0003】
また、油圧ショベルは、クローラ式走行装置からなる左右一対の走行装置と、機体の前部に設けられた掘削装置を有する。
左右の走行装置の各々には、該走行装置を駆動するための油圧モータからなる走行モータが装備され、この走行モータを制御する走行用の制御バルブは左右走行装置の各々に対して設けられている。
【0004】
掘削装置は、基部が機体の前部に上下揺動自在に枢支連結されたブームと、このブームの先端側に上下揺動自在に枢支連結されたアームと、このアームの先端側に揺動自在に枢支連結されたバケットとを有し、これらブーム、アーム、バケットは、油圧シリンダからなるブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダによって揺動駆動され、これらブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダは、ブーム用制御バルブ、アーム用制御バルブ、バケット用制御バルブによって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3745038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の油圧システムにおいて、第1・第2の2つのポンプを設け、左右の走行装置の直進性を確保するために、掘削装置用の制御バルブを操作しないで走行用の制御バルブを操作したときに、第1ポンプの吐出油を一方の走行用の制御バルブに、第2ポンプの吐出油を他方の走行用の制御バルブに、それぞれ独立して供給可能とする第1切替位置と、走行用制御バルブと掘削装置用の制御バルブの内の少なくとも1つとを同時操作したときに、第1ポンプの吐出油を走行用の制御バルブに供給すると共に第2ポンプの吐出油を掘削装置用の制御バルブに供給する第2切替位置とに切替自在な走行直進弁を設けた場合、走行装置と掘削装置とを同時操作したときに、走行用の制御バルブの操作量に応じた圧油が第1ポンプから走行モータに供給され、掘削装置用の制御バルブの操作量に応じた圧油が第2ポンプから掘削装置用の油圧シリンダに供給されるので、走行モータには第1ポンプからの圧油しか流れず、また、掘削装置用の油圧シリンダには第2ポンプからの圧油しか流れない。
【0007】
したがって、前記作業機の油圧システムに、第1・第2ポンプを設けると共に前記走行直進弁を設けた場合、走行装置と掘削装置とを同時操作する場合の、掘削装置又は走行装置の動作が遅い場合がある。
そこで、本発明は、前記問題点に鑑み、ポンプの吐出油の一部をタンクに戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータに送るように制御した作業機の油圧システムにおいて、油圧アクチュエータの動作速度の改善を図った作業機の油圧システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
請求項1に係る発明では、油圧アクチュエータを制御する制御バルブと、可変容量型油圧ポンプによって構成されたポンプと、該ポンプ及び前記制御バルブを制御するコントローラとを備え、
前記ポンプの吐出油の一部をタンクに戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータに送るべく、コントローラにおいて、ポンプの仮定の吐出流量である設定吐出流量からポンプの実際の吐出流量を減算した流量値と、制御バルブの操作量から算出される予定のブリードオフ面積値とからポンプの目標吐出圧を算出し、該目標吐出圧とポンプの実際の吐出圧との偏差に基づいて算出される指令信号によってポンプの吐出流量を制御する作業機の油圧システムにおいて、
左右の走行装置の各々に装備された走行駆動用油圧アクチュエータを制御する走行用の制御バルブを左右走行装置の各々に対して備え、前記走行装置以外の被駆動体を駆動すべく装備された他の油圧アクチュエータを制御する他の制御バルブを備え、第1・第2の2つのポンプを備え、
前記他の制御バルブを操作しないで走行用の制御バルブを操作したときに、第1ポンプの吐出油を一方の走行用の制御バルブに、第2ポンプの吐出油を他方の走行用の制御バルブに、それぞれ独立して供給可能とする第1切替位置と、
走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作したときに、第1ポンプの吐出油を走行用の制御バルブに供給すると共に、第2ポンプの吐出油を他の制御バルブに供給する第2切替位置とに切替自在な走行直進弁を設け、
走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータ又は他の油圧アクチュエータの一方を微速操作する際に、該微速操作される側の制御バルブに供給される吐出油を微速操作されない側の制御バルブに供給するよう構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、走行直進弁を各走行用の制御バルブの上流側に配置すると共に各走行用の制御バルブの下流側にそれぞれ他の制御バルブを配置し、走行直進弁に第1ポンプ及び第2ポンプの吐出路を接続し、
走行直進弁を第2切替位置に切り替えた状態で第2ポンプから圧油が供給される圧油供給路を設け、この圧油供給路から他の制御バルブの各々に圧油を供給可能とし、
走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際に、第1ポンプの吐出油を一方の走行用の制御バルブ及び該制御バルブの下流側の他の制御バルブを通して下流側に流す第1センターバイパス油路と、第2ポンプの吐出油を他方の走行用の制御バルブ及び該制御バルブの下流側の他の制御バルブを通して下流側に流す第2センターバイパス油路とを設け、
各走行用制御バルブの下流側で各センターバイパス油路と圧油供給路とを接続すると共に圧油供給路から各センターバイパス油路への圧油の逆流を阻止するチェック弁が介装された連通油路を設け、
走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータを微速操作する際に、第1ポンプの吐出油を第1・第2センターバイパス油路から連通油路を介して圧油供給路に流すように制御することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、各センターバイパス油路の油路終端はタンクに連通していると共に該油路終端側に該油路を開閉する切替弁を設けたことを特徴とする。
請求項4に係る発明では、各センターバイパス油路の油路終端側に、走行用の制御バルブ及び他の制御バルブの中立時における該センターバイパス油路の圧よりも高い設定圧に設定された低圧リリーフ弁を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明では、走行直進弁を各走行用の制御バルブの上流側に配置すると共に各走行用の制御バルブの下流側にそれぞれ他の制御バルブを配置し、走行直進弁に第1ポンプ及び第2ポンプの吐出路を接続し、
走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際に、第1ポンプの吐出油を一方の走行用の制御バルブ及び該制御バルブの下流側の他の制御バルブを通して下流側に流す第1センターバイパス油路と、第2ポンプの吐出油を他方の走行用の制御バルブ及び該制御バルブの下流側の他の制御バルブを通して下流側に流す第2センターバイパス油路とを設け、
各センターバイパス油路の油路終端はタンクに連通していると共に該油路終端側に走行用の制御バルブ及び他の制御バルブの中立時におけるセンターバイパス油路の圧よりも高い設定圧に設定された低圧リリーフ弁を設け、
各制御バルブを中立位置から操作した際に、油圧アクチュエータに対して圧油を給排するアクチュエータポートが開く前にセンターバイパス油路が閉じるように該各制御バルブを構成し、
走行直進弁に第1ポンプと第2ポンプの吐出油を合流する第3切替位置を設け、走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータを微速操作する際に、走行直進弁を第3切替位置に切り替えて第1ポンプの吐出油を圧油供給路に流すように制御することを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明では、走行用の制御バルブの上流側において、圧油供給路とセンターバイパス油路とを接続し且つセンターバイパス油路から圧油供給路への圧油の逆流を阻止するチェック弁と該チェック弁の上流側に設けた絞りとが介装された流通油路を設け、
走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際であって且つ他の油圧アクチュエータを微速操作する際に、第2ポンプの吐出油を圧油供給路から流通油路を介してセンターバイパス油路に流すように制御することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明では、各走行用の制御バルブを操作しないで他の制御バルブを操作したときには、走行直進弁は第1切替位置に切り替えられて、第1ポンプの吐出油が第1センターバイパス油路及び連通油路を介して圧油供給路に流れると共に第2ポンプの吐出油が第2センターバイパス油路及び連通油路を介して圧油供給路に流れるよう構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明によれば、走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータ又は他の油圧アクチュエータの一方を微速操作する際に、該微速操作される側の制御バルブに供給される吐出油を微速操作されない側の制御バルブに供給するよう構成することで、走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際における、走行装置又は他の被駆動体の動作速度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、走行駆動用油圧アクチュエータを微速操作する際に、第1ポンプの吐出油を第1・第2センターバイパス油路から連通油路を介して圧油供給路に流すように制御することにより、走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際における、他の被駆動体の動作速度の向上を図ることができる。
請求項3に係る発明によれば、各センターバイパス油路の油路終端に設けた切替弁を閉じることにより、ポンプの吐出油の一部をタンクに戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータに送る制御をすることができると共に、必要な場合にセンターバイパス油路を開くことができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、切替弁を開位置にしておくと、圧油を各センターバイパス油路を介してタンクにブリードさせたいときに、低圧リリーフ弁の設定圧よりも高い圧で該低圧リリーフ弁が自動的に開くので至便である。
請求項5に係る発明によれば、走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際における、他の被駆動体の動作速度の向上を図ることができる。
【0017】
また、走行用の制御バルブ及び他の制御バルブの中立時において圧油をセンターバイパス油路を介してタンクにブリードさせたいときには低圧リリーフ弁の設定圧よりも高い圧で低圧リリーフ弁が自動的に開き、制御バルブを操作すればセンターバイパス油路が閉じるので至便である。
請求項6に係る発明によれば、走行用の制御バルブと他の制御バルブとを同時操作する際における、走行装置の動作速度の向上を図ることができる。
【0018】
請求項7に係る発明によれば、他の制御バルブのみを操作したときに、第1・2センターバイパス油路及び連通油路を介して圧油供給路に流れる用に構成したので、油圧システムの簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】作業機の側面図である。
【図2】第1実施形態の油圧システムの概略構成図である。
【図3】第1実施形態の油圧システムの要部の構成図である。
【図4】ポンプ圧力制御部の概略構成図である。
【図5】油圧システムのブロック図である。
【図6】油圧システムの制御バルブにおけるスプールストロークと各油路の開口面積を表すグラフである。
【図7】第2実施形態の油圧システムの要部の構成図である。
【図8】油圧システムの制御バルブにおけるスプールストロークと各油路の開口面積を表すグラフ図である。
【図9】変形例に係る回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1〜図6は第1実施形態を示しており、図1において、1はバックホー(作業機)であり、該バックホー1は下部の走行体2と、この走行体2上に上下方向の旋回軸心回りに旋回可能に搭載された上部の旋回体3とから主構成されている。
走行体2は、油圧モータ(走行駆動用油圧アクチュエータ)からなる走行モータM1によって無端帯状のクローラベルト4を周方向に循環回走させるように構成したクローラ式の走行装置5をトラックフレーム6の左右両側に備えている。
【0021】
前記トラックフレーム6の前部にはドーザ装置7が設けられ、油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)からなるドーザシリンダC1の伸縮によって上下揺動駆動される。
旋回体3は、トラックフレーム6上に旋回軸心回りに回動自在に搭載された旋回台8と、この旋回台8の前部に装備された掘削装置9と、旋回台8上に搭載されたキャビン10とを備えている。
【0022】
旋回台8には、エンジンE、作動油タンクT(以下、単にタンクTという)、バッテリーBa、第1ポンプP1、第2ポンプP2、第3ポンプP3、ラジエータ、燃料タンク等が設けられている。
前記旋回台8(被駆動体)は、油圧モータ(油圧アクチュエータ)からなる旋回モータM2によって旋回駆動される。
【0023】
この旋回台8の前部には、該旋回台8から前方突出状に支持ブラケット11が設けられ、この支持ブラケット11には、スイングブラケット12が上下方向の軸心回りに左右揺動自在に支持されている。このスイングブラケット12は、油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)からなるスイングシリンダC2によって左右に揺動駆動される。
掘削装置9は、基部側がスイングブラケット12の上部に左右軸回りに回動自在に枢支連結されて上下揺動自在とされたブーム13(被駆動体)と、このブーム13の先端側に左右軸回りに回動自在に枢支連結されて上下揺動自在とされたアーム14(被駆動体)と、このアーム14の先端側に左右軸回りに回動自在に枢支連結されて前後揺動自在とされたバケット15(被駆動体)とから主構成されている。
【0024】
ブーム13は該ブーム13とスイングブラケット12との間に介装されたブームシリンダC3によって上下揺動駆動され、アーム14は該アーム14とブーム13との間に介装されたアームシリンダC4によって上下揺動駆動され、バケット15は該バケット15とアーム14との間に介装されたバケットシリンダC5によって揺動駆動される。
前記ブームシリンダC3、アームシリンダC4及びバケットシリンダC5は油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)によって構成されている。
【0025】
また、当該バックホー1にあっては、アーム14の先端側に、例えば、バケット15の代わりに油圧ブレーカ等の油圧アクチュエータを有する油圧アタッチメント(被駆動体)を取り付けて使用することが可能とされている。
次に、図2〜図5を参照してバックホー1に装備された各種油圧アクチュエータM1,M2,C1〜C5を作動させる油圧システム16について説明する。
【0026】
油圧システム16は、図2に示すように、前記第1ポンプP1、第2ポンプP2及び第3ポンプP3と、第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Pp(吐出量Q)を制御すべく第1、第2ポンプP1,P2の各々について設けられたポンプ圧力制御部17と、前記各種油圧アクチュエータM1,M2,C1〜5を制御する制御バルブV1〜11と、制御バルブV1〜9を操作する操作手段18と、走行直進弁V12と、ポンプ圧力制御部17(第1、第2ポンプP1,P2)及び制御バルブV1〜9等を電子制御するコントローラ19等を有する。
【0027】
前記第1ポンプP1、第2ポンプP2及び第3ポンプP3はエンジンE(等の駆動源)によって回転駆動される。また、第1、第2ポンプP1,P2は、斜板等のポンプ容量制御機構を備えた可変容量型油圧ポンプ(斜板形可変容量アキシャルポンプ)で構成され、第3ポンプは定容量型油圧ポンプによって構成されている。
次に、第1、第2ポンプP1,P2の吐出油制御系の構造を図4を参照して説明するが、第1ポンプP1と第2ポンプP2の吐出油制御系の構造は同様に構成されているので、一方を図示し他方の図示は省略する。
【0028】
図4に示すように、第1、第2ポンプP1,P2の斜板20の一端にはポンプバネ21が内蔵された押圧ピストン22のピストンロッド22aが連結され、該斜板20の他端にはポンプアクチュエータ23のピストンロッド23aが連結されており、第1、第2ポンプP1,P2の各斜板20を自己圧及びポンプバネ21によって押圧ピストン22を介してポンプ流量を増加する方向に押圧させるよう構成されていると共に、この押圧ピストン22の押圧力に対抗する力をポンプアクチュエータ23によって斜板20に作用させるよう構成され、ポンプアクチュエータ23のピストンロッド23aを出退させることで、第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qを調節することができる。
【0029】
なお、エンジンEの停止時などには、押圧ピストン22のポンプバネ21の付勢力によって、斜板20が最大角となる。
前記ポンプ圧力制御部17は、第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Ppが目標吐出圧SPとなるように、第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qをポンプアクチュエータ23を介してコントロールするものである。このポンプ圧力制御部17の入力は、第1、第2ポンプP1,P2の吐出路24a,24bからの作動油、及び上述した目標吐出圧SPに基づいてコントローラ19から出力される圧力出力信号D1(指令信号)であり、出力として、ポンプアクチュエータ23へ作動油を供給する。
【0030】
ポンプ圧力制御部17は、ポンプアクチュエータ23への作動油の流れを制御するポンプ制御弁25と、このポンプ制御弁25のスプールの一端に所定の圧を立てるための電磁リリーフ弁26とを備えている。
前記電磁リリーフ弁26は、コントローラ19から出力される比例ソレノイド28への入力電流が上がるとポンプリリーフ圧Prが下がるネガティブ型であって、弁体を油路閉じ方向に付勢する調節バネ27と、この調節バネ27の付勢方向と対抗する電磁リリーフ弁26上流側の回路圧と、コントローラ19から出力される圧力出力信号D1によって比例ソレノイド28が発生する力とのバランスにより制御される。
【0031】
上述のポンプ制御弁25のスプールの一端には、第1、第2ポンプP1,P2の吐出路24a,24bから直接届く作動油によって第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Pp(自己圧)がかかり、スプールの他端には、ポンプ制御弁25に備え付けられたバネ29による付勢力、及び電磁リリーフ弁26により制御されるポンプリリーフ圧Prがかかっている。
【0032】
このポンプリリーフ圧Prを電気的に(圧力出力信号D1で)調節することによって、コントローラ19は、ポンプアクチュエータ23への作動油の流入・流出でポンプアクチュエータ23のピストンロッド23aを出退させて斜板20を操作でき、第1、第2ポンプP1,P2をポンプ吐出圧Ppが目標吐出圧SPとなるように制御できると共に、ポンプ吐出量Qの制御も可能となる。
【0033】
なお、ポンプ圧力制御部17は、電磁リリーフ弁26がネガティブ型であるので、急遽バッテリBaからの電流が途絶えた場合等の非常時でも、第1、第2ポンプP1,P2は最大圧等の所定の圧力で可動し、第1、第2ポンプP1,P2が所定のポンプ吐出量Qを確保して各油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5に必要な作動油を供給し、油圧システム16をダウンさせない。
【0034】
ポンプ圧力制御部17は、第1、第2ポンプP1,P2の斜板20の傾斜角(後述の傾斜入力信号H1)を電気的に検出する傾斜センサ30を有しており、この第1、第2ポンプP1,P2の斜板20の傾斜角に基づいて、コントローラ19で第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qが換算される。
図2及び図3に示すように、各種油圧アクチュエータM1,M2,C1〜C5を制御する制御バルブV1〜V11は、左右一方の走行モータM1を制御する一方の走行用制御バルブV1、左右他方の走行モータM1を制御する他方の走行用制御バルブV2、旋回モータM2を制御する制御する旋回用制御バルブV3、ブームシリンダC3を制御する第1、第2ブーム用制御バルブV4,V5、アームシリンダC4を制御する第1、第2アーム用制御バルブV6,V7、バケットシリンダC5を制御するバケット用制御バルブV8、アーム14に取り付けられる油圧アタッチメントを制御する補助用制御バルブV9、スイングシリンダC2を制御するスイング用制御バルブV10及びドーザシリンダC1を制御するドーザ用制御バルブV11が設けられている。
【0035】
各制御バルブV1〜11は、中立位置からスプールの軸心方向一方又は他方に摺動することで圧油の方向が切り替えられるセンターバイパス型の直動スプール形方向切替弁から構成されており、圧油を流入させるポンプポート31と、タンクTに連通するタンクポート32と、油圧管路33a,33bを介して対応する(制御対象の)油圧アクチュエータM1,M2,C1〜5に接続される一対のアクチュエータポート34a,34bと、バイパス通路35とを有する。
【0036】
一方及び他方の走行用制御バルブV1,V2、旋回用制御バルブV3、第1、第2ブーム用制御バルブV4,V5、第1、第2アーム用制御バルブV6,V7と、バケット用制御バルブV8及び補助用制御バルブV9は、スプールを一端側から付勢する付勢バネ36と、この付勢バネ36の付勢力に抗してスプールを移動させる比例ソレノイド37とを備えていて、比例ソレノイド37に通電する電流値に比例させてスプールを無断階に摺動させることにより各ポート31,32,34a,34b及びバイパス通路35の開度を任意にとることができる電磁比例弁によって構成されている。
【0037】
また、これら制御バルブV1〜9は、中立位置では、各ポート31,32,34a,34bが閉じていると共にバイパス通路35が全開であり、中立位置からスプールを摺動させると、図6に示すように、ポンプポート31から油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5に対して圧油を送る油路PC及び油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5からタンクTへ圧油を戻す油路CTが徐々に開いていくと共にバイパス通路35が徐々に閉じていく。また、前記油路PC及び油路CTが開き始める際にバイパス通路35は、まだ閉じていない状態に構成されている。
【0038】
これら制御バルブV1〜9には、第1、第2ポンプP1,P2からの吐出油が供給され、左右の走行モータM1、旋回モータM2、ブームシリンダC3、アームシリンダC4、バケットシリンダ5及び油圧アタッチメントが第1、第2ポンプP1,P2の吐出油によって駆動される。
前記第1ブーム用制御バルブV4と第2ブーム用制御バルブV5とは同時に作動してブームシリンダC3を駆動し、また、第1アーム用制御バルブV6と第2アーム用制御バルブV7とは同時に作動してアームシリンダC4を駆動する。
【0039】
前記操作手段18は、前記電磁比例弁からなる制御バルブV1〜9を操作するものであり、本実施形態では、前後又は左右等に傾動操作される操作レバー18aを有する。
前記第1ブーム用制御バルブV4と第2ブーム用制御バルブV5とは1つの操作手段によって同時操作され、第1アーム用制御バルブV6と第2アーム用制御バルブV7も1つの操作手段によって同時操作される。また、その他の電磁比例弁からなる制御バルブV1、V2、V3、V8、V9各々に対して1つの操作手段18が設けられている。
【0040】
各操作手段18には操作センサ38が設けられ、操作レバー18aを中立位置から傾動方向一方又は他方に傾動操作すると、該操作レバー18aの操作方向及び操作レバー18aの操作量sが操作センサ38によって電気的に検出されるよう構成されている。
この操作方向及び操作量sに応じた操作信号H2はコントローラ19に入力され、コントローラ19は、この操作信号H2に基づいて操作対象の制御バルブV1〜9の比例ソレノイド37へと指令信号D2を出力する。この指令信号D2によって操作対象の制御バルブV1〜9のスプールが操作手段18の操作量sに比例して中立位置から一方又は他方に操作される(操作手段18の操作量sに比例して対応する制御バルブV1〜9のスプールが制御される)。
【0041】
したがって、操作レバー18aを中立位置から一方に傾動すると操作対象の制御バルブV1〜9のスプールが中立位置から一方に摺動し、操作レバー18aを中立位置から他方に傾動すると操作対象の制御バルブV1〜9のスプールが中立位置から他方に摺動し、操作レバー18aの中立位置からの操作量sが大きくなると、操作対象の制御バルブV1〜9の中立位置からのスプールストロークが大きくなる。
【0042】
一方、スイング用制御バルブV10と、ドーザ用制御バルブV11とは、人力によってスプールを無断階に摺動させることにより各ポート31,32,34a,34b及びバイパス通路35の開度を任意にとることができる人力式の方向切替弁によって構成されている。これら制御バルブV10,V11には、第3ポンプP3からの吐出油が供給され、スイングシリンダC2及びドーザシリンダC1が第3ポンプP3の吐出油によって駆動される。
【0043】
また、これら制御バルブV10,V11のスプールストロークと各ポート31,32,34a,34b及びセンター通路35の開口面積との関係は前記制御バルブV1〜9と同様に構成されている。
本実施形態の油圧回路では、一方の走行用制御バルブV1の下流側に旋回用制御バルブV3が配置され、該旋回用制御バルブV3の下流側に第1アーム用制御バルブV6が配置され、該第1アーム用制御バルブV6の下流側に第1ブーム用制御バルブV4が配置されている。
【0044】
また、他方の走行用制御バルブV2の下流側には第2ブーム用制御バルブV5が配置され、該第2ブーム用制御バルブV5の下流側にはバケット用制御バルブV8が配置され、該バケット用制御バルブV8の下流側には第2アーム用制御バルブV7が配置され、該第2アーム用制御バルブV7の下流側には補助用制御バルブV9が配置されている。
また、スイング用制御バルブV10の下流側にドーザ用制御バルブV11が配置されている。
【0045】
なお、制御バルブV1〜11の配置は、これに限定されることはない。
前記走行直進弁V12は第1、第2ポンプP1,P2の圧油の方向を切り替えるものであり、該走行直進弁V12は各走行用制御バルブV1,V2の上流側に配置されている。
この走行直進弁V12は第1切替位置66aと、第2切替位置66bとに切替自在な方向切替弁によって構成されていると共に、スプールを一端側から付勢する付勢バネ67と、この付勢バネ67の付勢力に抗してスプールを移動させるソレノイド68とを備えており、付勢バネ67の付勢力により第1切替位置66aに切り替えられ、ソレノイド68を励磁することにより第2切替位置66bに切り替えられる電磁弁によって構成されている。
【0046】
走行直進弁V12のソレノイド68はコントローラ19からの励磁信号D5によって励磁される。
この走行直進弁V12は第1、第2入力ポート69a,69bと、第1、第2出力ポート70a,70bとを有し、第1切替位置66aでは第1入力ポート69aと第2出力ポート70bとが閉鎖されると共に第2入力ポート69bと第1出力ポート70aとが連通し、第2切替位置66bでは第1入力ポート69aと第1出力ポート70aとが連通すると共に第2入力ポート69bと第2出力ポート70bとが連通する。
【0047】
また、油圧システム16には、走行直進弁V12の第1入力ポート69aから一方の走行用制御バルブV1、旋回用制御バルブV3、第1アーム用制御バルブV6、第1ブーム用制御バルブV4の各バイパス通路35を順に通ってタンクTに至る第1センターバイパス油路71と、走行直進弁V12の第1出力ポート70aから他方の走行用制御バルブV2、第2ブーム用制御バルブV5、バケット用制御バルブV8、第2アーム用制御バルブV7、補助用制御バルブV9の各バイパス通路35を順に通ってタンクTに至る第2センターバイパス油路72とが設けられている。
【0048】
第1ポンプP1の吐出路24aは第1センターバイパス油路71の、走行直進弁V12と一方の走行用制御バルブV1との間に接続されている。したがって、第1ポンプP1の吐出路24aは第1センターバイパス油路71を介して走行直進弁V12の第1入力ポート69aに接続されている。
また、第2ポンプP2の吐出路24bは走行直進弁V12の第2入力ポート69bに接続されている。
【0049】
また、一方の走行用制御バルブV1のポンプポート31は第1センターバイパス油路71に接続路64を介して接続され、他方の走行用制御バルブV2のポンプポート31は第2センターバイパス油路72に接続路65を介して接続されている。
また、油圧システム16には、第1、第2ポンプP1,P2の吐出路24a,24bの圧油を制御バルブV3〜9に供給するための圧油供給路73が設けられていると共に、この圧油供給路73と第1、第2センターバイパス油路71,72とを接続する連通油路74a〜d及び流通油路75が設けられている。
【0050】
前記圧油供給路73は走行直進弁V12の第2出力ポート70bに接続油路76を介して接続されていると共に、該圧油供給路73の油路一端が第1ブーム用制御バルブV4のポンプポート31に接続され、圧油供給路73の油路他端が補助用制御バルブV9のポンプポート31に接続されている。
また、旋回用制御バルブV3、第2ブーム用制御バルブV5、第1アーム用制御バルブV6、第2アーム用制御バルブV7及びバケット制御バルブV8のポンプポート31は分岐油路77を介して圧油供給路73に接続されている。
【0051】
圧油供給路73の一端側及び他端側並びに各分岐油路77に逆流防止用のチェック弁が設けられている。
連通油路74a〜dは、一方の走行用制御バルブV1と旋回用制御バルブV3との間に設けられた第1連通油路74aと、旋回用制御バルブV3と第1アーム用制御バルブV6との間に設けられた第2連通油路74bと、他方の走行用制御バルブV2と第1ブーム用制御バルブV5との間に設けられた第3連通油路74cと、第1ブーム用制御バルブV5とバケット用制御バルブV8との間に設けられた第4連通油路74dとが設けられている。
【0052】
各連通油路74a〜dには、圧油供給路73から第1、第2センターバイパス油路71,72への圧油の逆流を阻止するチェック弁78が設けられている。
流通油路75は、走行直進弁V12と他方の走行用制御バルブV2との間に設けられ、該流通油路75には、第2センターバイパス油路72から圧油供給路73への圧油の逆流を防止するチェック弁79と、このチェック弁79の上流側に配置された絞り80とが設けられている。
【0053】
圧油供給路73には、接続油路76の接続部aと第1連通油路74aの接続部bとの間及び該接続部bと第2連通油路74bの接続部cとの間に、前記接続部cから接続部aへの圧油の逆流を阻止するチェック弁81が設けられ、前記接続部aと第3連通油路74cの接続部dとの間及び該接続部dと第4連通油路74dの接続部eとの間に、接続部eから接続部aへの圧油の逆流を阻止するチェック弁81が設けられている。
【0054】
また、圧油供給路73の前記接続部bと該接続部bの下流側のチェック弁81との間には絞り82Aが設けられ、圧油供給路73の前記接続部dと該接続部dの下流側のチェック弁81との間には絞り82Bが設けられている。
前記第1センターバイパス油路71の油路終端側で且つ最下流位置にある制御バルブである第1ブーム用制御バルブV4より下流側、及び、第2センターバイパス油路72の油路終端側で且つ最下流位置にある制御バルブである補助用制御バルブV9より下流側には、それぞれ低圧リリーフ弁42が設けられている。
【0055】
この低圧リリーフ弁42の設定圧は、エンジンE回転中での制御バルブV1〜9の中立時における第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Pp(中立目標吐出圧)よりも高く設定されており、エンジンE回転中での制御バルブV1〜9の中立時における第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Ppでは開かないように設定されている。
本実施形態においては、制御バルブV1〜9の中立時における第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Ppは、ポンプ制御弁25のバネ29と電磁リリーフ弁26の調節バネ27とによりメカ的に35Kgf/cm2を確保するように設定されており、低圧リリーフ弁42の設定圧はこの制御バルブV1〜9の中立時における第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Ppより高い圧、例えば40Kgf/cm2とされ、通常は、制御バルブV1〜9の中立時において第1、第2ポンプP1,P2の吐出油がタンクTにブリードされない。
【0056】
また、第1、第2センターバイパス油路71,72の油路終端側の、低圧リリーフ弁42の上流側(又は下流側)には、第1、第2センターバイパス油路71,72を開閉する切替弁43が設けられている。
この切替弁43は、圧油の流通を許容する開位置43aと、圧油の流通を遮断する閉位置43bとに切替自在とされ、開位置43aに切替える方向に付勢する付勢バネ44と、この付勢バネ44の付勢方向と拮抗するように配備されたON/OFFソレノイド45とを有しており、コントローラ19からの励磁信号D3によりソレノイド45が励磁されると閉位置43bに切り替えられ、ソレノイドが消磁されると付勢バネ44の付勢力により開位置43aに切り替えられる。
【0057】
この切替弁43は、エンジンE始動後、いずれの操作手段18も操作されていないときには開位置43aとされ、少なくとも1つの操作手段18を操作したときにコントローラ19から励磁信号D3が出力されて閉位置43bに切り替えられる(又は、エンジンEの始動後直ぐにコントローラ19から励磁信号D3が出力されて閉位置43bに切り替えられるようになっていてもよい)。
【0058】
したがって、操作手段18を操作しているときに第1、第2センターバイパス油路71,72タンクTへの圧油のブリードがない状態とされる。
また、油圧システム16は、ポンプPの吐出圧Ppを電気的に検出する圧力センサ46を有しており、前記コントローラ19は、A/D変換器、演算器、D/A変換器等で構成される。
【0059】
前記コントローラ19には、第1、第2ポンプP1,P2の斜板20の傾斜角がポテンショメータ、ロータリエンコーダ等から傾斜入力信号H1として入力され、制御バルブV1〜9の操作量sが操作センサ38から操作信号H2として入力され、第1、第2ポンプP1,P2の吐出圧Ppが圧力センサ46から圧力入力信号H3として入力される。
また、コントローラ19はポンプ圧力制御部17のポンプリリーフ圧Prを圧力出力信号D1として出力する。また、コントローラ19は切替弁43を閉位置とする励磁信号D3も出力する。
【0060】
なお、コントローラ19は、圧力出力信号D1の代わりに、第1、第2ポンプP1,P2に対してポンプ吐出量Qを指令する容量出力信号D1’を出力することとしてもよい。
コントローラ19は、以下のポンプ制御を行う。
この制御は、第1、第2センターバイパス油路71,72の閉鎖時において、制御バルブV1〜9の操作量s(スプールストローク)に応じて目標吐出圧SPを算出し、必要な吐出圧Ppとなるように第1、第2ポンプP1,P2を制御する。
【0061】
まずは目標吐出圧SPの算出方法を以下に述べる。
目標吐出圧SPは、以下の式(1)〜(4)に基づいて決定される。
SQ=Qa+Qb+ΔQ ・・・(1)
SQ:ポンプ(P1,P2)の設定吐出量(ポンプ(P1,P2)の仮定の吐出量)
Qa:アクチュエータ流量
Qb:ブリードオフ流量
ΔQ:差流量
式(1)では、まず設定吐出量SQを求めているが、この設定吐出量SQとは、ポンプ(P1,P2)の最大吐出量Qmaxを上限とする設定値であって、作業機1の走行、ブーム13等の揺動などの使用状態に応じて必要となるアクチュエータ流量Qa及びブリードオフ流量Qbと、生じうる差流量ΔQとの和として計算される。
【0062】
式(1)におけるブリードオフ流量Qbは、流量係数Kqと、使用状態に応じて予定されるブリードオフ面積値Bと、その使用状態に応じて必要な目標吐出圧SPとを用いて、次の式(2)の関係式で表せる。
Qb=Kq×B×√SP ・・・(2)
Qb:ブリードオフ流量
Kp:流量係数
B :予定のブリードオフ面積値
SP:目標吐出圧
ここで、式(2)中のブリードオフ面積値Bとは、コントローラ19内に予め用意され且つ制御バルブV1〜9の操作量s(複数の制御バルブV1〜9を操作する場合は操作量sの総和)を入力とする関数によって算出される値であって、この関数の出力値である作動油タンクTに連通する通路(ブリードオフ通路)の開口面積値をいう。
【0063】
式(1)における差流量ΔQはほとんど0に近いので無視すると、目標吐出圧SPは、以下の式(3)によって静的に求めることができる。
SP={(SQ−Qa)/(Kq×B)}2 ・・・(3)
SP:目標吐出圧
SQ:ポンプ(P1,P2)の設定吐出量
Qa:アクチュエータ流量
Kp:流量係数
B :予定のブリードオフ面積値
式(3)において、第1、第2センターバイパス油路71,72を閉じている際には作動油がタンクTに排油されないのであるから、回路上のわずかな漏れを無視すれば、ポンプ(P1,P2)の吐出量Q(つまり、斜板20の傾斜入力信号H1)を、式(1)、(3)中のアクチュエータ流量Qaを表す信号として代替できる。
【0064】
SP={(SQ−Q)/(Kq×B)}2 ・・・(4)
SP:目標吐出圧
SQ:ポンプ(P1,P2)の設定吐出量
Q :ポンプ(P1,P2)の実際の吐出量
Kp:流量係数
B :予定のブリードオフ面積値
次に、式(4)における右辺中の分子を流量値Xa(=SQ−Q)と、分母をブリードオフ特性値Xb(=Kq×B)として、図5のブロック図を参照して、油圧システムの制御を説明する。
【0065】
図5に示すように、コントローラ19は、設定吐出量算出部51で使用状態に応じて設定した設定吐出量SQから、ポンプ(P1,P2)からの傾斜入力信号H1をポンプ吐出量換算部52によって換算したポンプ吐出量Qを減算して流量値Xaを算出する。
次にコントローラ19は、操作手段18の操作量s(操作信号H2)に応じた予定のブリードオフ面積値Bに対して、流量係数Kpを乗じてブリードオフ特性値Xbを算出する。
【0066】
上述した流量値Xaを、ブリードオフ特性値Xbで除し、その値を2乗する演算を行い、目標吐出圧SPを求める(式(4)参照)。
そして、この目標吐出圧SPに基づき、ポンプ(P1,P2)の吐出圧Ppのクローズドループ制御を行う。つまり、目標吐出圧SPからポンプ(P1,P2)の吐出圧Pp(圧力入力信号H3)を減算し、目標吐出圧SPとフィードバックされた吐出圧Pとの偏差に対して位相補償機能を持ったゲイン(Gc)を掛けた圧力出力信号D1(指令信号)を、ポンプ圧力制御部17へ出力する。
【0067】
ポンプ圧力制御部17は、圧力出力信号D1に従って電磁リリーフ弁26のポンプリリーフ圧Prを調節して、ポンプアクチュエータ23を介して斜板20を操作することによって、ポンプ(P1,P2)の吐出圧Ppが目標吐出圧SPに収束するように制御する。
なお、前記クローズドループ制御を行うことで、式(1)における差流量ΔQに影響するポンプ配管ボリューム及び漏れ分を補償し、打ち消すことができる。
【0068】
全制御バルブV1〜9の中立時には、コントローラ19へ操作信号H2として0が入力される。この場合、コントローラ19で計算されるブリードオフ面積値Bは最大、つまり式(4)における右辺中の分母であるブリードオフ特性値Xbが、分子である流量値Xaに比べて相対的に大きくなって、目標吐出圧SPの値は小さくなる。
実際には、ポンプ吐出量Qは回路のわずかな漏れ分しか必要とせず、アクチュエータ速度(つまり、アクチュエータ流量Qa)もほとんど0と入力されるため、ポンプ(P1,P2)は、最低限必要な中立目標吐出圧(=(SQ/Kq×B)2)分だけの圧を保てばよく、エネルギーの浪費が低減される。
【0069】
制御バルブV1〜9の中立時には、ポンプリリーフ圧Prが電磁リリーフ弁26の調節バネ27の圧と同等の圧となるように電磁リリーフ弁26の比例ソレノイド28に圧力出力信号D1がコントローラ19から出力される。したがって、中立目標吐出圧の値は、電磁リリーフ弁26による圧損分や漏れ分を考慮して、ポンプ制御弁25のバネ29と電磁リリーフ弁26の調節バネ27とによりメカ的に35Kgf/cm2とされる。
【0070】
制御バルブV1〜9を中立位置から操作位置に移動すると、コントローラ19上のブリードオフ面積値Bが小さくなって、目標吐出圧SPの値はいったん大きくなる。
しかし、目標吐出圧SPが油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5にかかる負荷圧よりも高くなり、油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5の油室へ作動油が流入し始めると、目標吐出圧SPの値を保持すべくポンプPの吐出量Q(アクチュエータ流量Qa)が増大して、油圧アクチュエータの作動速度M1,M2,C1〜5が上がる。
【0071】
ポンプ吐出量Qが増大するということは、式(4)における右辺中の分子である流量値Xa(=SQ−Q)が、分母であるブリードオフ特性値Xbに比べて相対的に小さくなるから、目標吐出圧SPの値は逆に小さくなる。
このように、目標吐出圧SPが上下して徐々に操作手段18の操作量sに見合ったアクチュエータ速度を維持するポンプ(P1,P2)の吐出圧Pp、ポンプ(P1,P2)の吐出量Qに収束して、操作手段18の操作量sから算出した予定のブリードオフ面積値Bに応じた必要なだけの目標吐出圧SPとすべくポンプPが流量制御される。
【0072】
よって、実際のポンプ(P1,P2)の吐出量Qは、回路上の漏れを無視すれば、油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5に供給された分に限られ、エネルギーの無駄が減る。
前記実施形態の油圧システム16にあっては、走行直進弁は、以下の(A)又は(B)の場合に第1切替位置66aに切り替えられ、(C)の場合に第2切替位置66bに切り替えられる。
(A)ブーム13(第1及び第2ブーム用制御バルブV4,V5)、アーム14(第1及び第2アーム用制御バルブV6,V7)、バケット15(バケット用制御バルブV8)、旋回台8(旋回用制御バルブV3)、油圧アタッチメント(補助用制御バルブV9)を操作しないで左右走行装置5(一方・他方の走行用制御バルブV1,V2)のうちの少なくとも1つを操作する場合。
(B)左右走行装置5(一方及び他方の走行用制御バルブV1,V2)を操作しないでブーム13(第1及び第2ブーム用制御バルブV4,V5)、アーム14(第1及び第2アーム用制御バルブV6,V7)、バケット15(バケット用制御バルブV8)、旋回台8(旋回油圧制御バルブV3)、油圧アタッチメント(補助用制御バルブV9)のうちの少なくとも1つを操作する場合。
(C)ブーム13(第1及び第2ブーム用制御バルブV4,V5)、アーム14(第1・第2アーム用制御バルブV6,V7)、バケット15(バケット用制御バルブV8)、旋回台8(旋回油圧制御バルブV3)、油圧アタッチメント(補助用制御バルブV9)のうちの少なくとも1つと、左右走行装置5(一方・他方の走行用制御バルブV1,V2)のうちの少なくとも1つとを同時操作する場合。
【0073】
先ず、前記(A)の場合について説明する。
この場合、第1ポンプP1の吐出油が第1センターバイパス油路71、接続路64を介して一方の走行用制御バルブV1に供給され、第2ポンプP2の吐出油が第2センターバイパス油路72、接続路65を介して一方の走行用制御バルブV1に供給される。これによって、走行の直進性が確保される。
【0074】
また、一方の走行用制御バルブV1を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第1ポンプP1が流量制御され、他方の走行用制御バルブV2を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第2ポンプP2が流量制御される。
次に、前記(B)の場合について説明する。
この場合、第1ポンプP1の吐出油が第1センターバイパス油路71、第1、第2連通油路74a,74bを介して圧油供給路73に流れ、該圧油供給路73から旋回用制御バルブV3、第1アーム用制御バルブV6、第1ブーム用制御バルブV4に供給され、第2ポンプP2の吐出油が第2センターバイパス油路72、第3,第4連通油路74c,74dを介して圧油供給路73に流れ、該圧油供給路73から第2ブーム用制御バルブV5、バケット用制御バルブV8、第2アーム用制御バルブV7、補助用制御バルブV9に供給される。
【0075】
また、ブーム13、アーム14を操作する場合は、第1及び第2ブーム用制御バルブV4,V5、第1及び第2アーム用制御バルブV6,V7を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第1、第2ポンプP1,P2が流量制御され、旋回台8を操作する場合は、旋回用制御バルブV3を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第1ポンプP1が流量制御され、バケット15、油圧アタッチメントを操作する場合は、バケット用制御バルブV8、補助用制御バルブV9を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第2ポンプP2が流量制御される。
【0076】
次に、(C)の場合について説明する。
この場合、基本的に、一方・他方の走行用制御バルブV1,V2を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第1ポンプP1が流量制御されて該第1ポンプP1の吐出油が第1センターバイパス油路71を介して一方の走行用制御バルブV1に供給されると共に第2センターバイパス油路72を介して他方の走行用制御バルブV2に供給される。また、旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメントを制御する制御バルブV3〜9を操作する操作手段18の操作量sに基づいて第2ポンプP2が流量制御されて該第2ポンプP2の吐出油が接続油路76を介して圧油供給路73に流れ、該圧油供給路73から前記制御バルブV3〜9に供給される。
【0077】
しかしながら、左右走行装置5を制御する制御バルブV1,V2、又は、旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメントを制御する制御バルブV3〜9の一方が微速操作される場合は、該微速操作される側の制御バルブに供給される吐出油の一部が微速操作されない側の制御バルブに供給されるように第1、第2ポンプP1,P2が流量制御される。これによって、走行用の制御バルブV1,V2と他の制御バルブV3〜9とを同時操作する際において、左右走行装置5、又は、旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメントの一方の動作速度の向上を図ることができる。
【0078】
左右走行装置5を微速操作する場合は、第1ポンプP1の吐出油の一部が走行モータM1に供給され、該第1ポンプP1の余剰の吐出油が第1センターバイパス油路71、第1、第2連通油路74a,74bを介して圧油供給路73に流れると共に、第2センターバイパス油路72、第3、第4連通油路74c,74dを介して圧油供給路73に流れる。
また、旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメントのうちの1つ以上を操作する場合であって且つ微速操作する場合は、第2ポンプP2の吐出油の一部が旋回モータM2、ブームシリンダC3、アームシリンダC4、バケットシリンダC5、油圧アタッチメントに供給され、該第2ポンプP2の余剰の吐出油が圧油供給路73から流通油路75を介して第1、第2センターバイパス油路71,72に流れる。
【0079】
図7は油圧システム16の第2実施形態を示す要部の回路図を示している。
前記第1実施形態と異なる点は、走行直進弁V12が、第1ポンプP1からの圧油と第2ポンプP2からの圧油とを合流する第3切替位置66cを有していると共に電磁比例弁で構成されている点、前記切替弁43が設けられていなく且つ図9に示すように、制御バルブV1〜9が、ポンプポート31から油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5に対して圧油を送る油路PC及び油圧アクチュエータM1,M2,C1〜5からタンクTへ圧油を戻す油路CTが開く前にバイパス通路35が閉じるように構成されていて、切替弁43がなくても、制御バルブV1〜9(左右走行装置5、旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメント)の操作時に、第1、第2ポンプP1,P2からの圧油がタンクTにブリードされることがない点である。
【0080】
その他の構成については前記第1実施形態と同様に構成される。
この第2実施形態にあっては、前記(A)の場合、(B)の場合は前記第1実施形態と同様に制御される。
また、(C)の場合であって、且つ左右走行装置5、旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメントを微速操作しない場合又は旋回台8、ブーム13、アーム14、バケット15、油圧アタッチメントを微速操作する場合は、走行直進弁V12は第2切替位置43bに切り替えられて前記第1実施形態と同様に制御される。
【0081】
また、(C)の場合であって、左右走行装置5を微速操作する場合は、一方・他方の走行用制御バルブV1,V2の下流側に第1、第2センターバイパス油路71,72を介して圧油が流れないので、走行直進弁V12は第3切替位置43cに切り替えられる。これによって、第1ポンプP1の余剰油が圧油供給路73に流れる。
また、第3切替位置43cにおいて、合流路83には絞りが設けられているので、走行モータM1に優先して圧油が流れる。
【0082】
また、本実施形態の油圧システム16にあっては、運転者が、エンジンEを始動させるため、エンジンキー(エンジン始動手段)を回すと、バッテリBaが立ち上がりコントローラ19を起動させるよう、エンジン始動手段56から始動入力信号H4がコントローラ19に入力される。
従来の油圧システム16ではエンジンEを始動させる際に、ポンプPの吐出油をタンクTへ逃がせず回路が高圧になり、エンジンE始動用のセルモータやバッテリに負荷がかかっているが、本実施形態の油圧システム16では、エンジンEを始動させれば、例え、ポンプ吐出量Qが最大で且つポンプ圧力制御部17におけるネガティブ型電磁リリーフ弁26の最大リリーフ圧(例えば250Kgf/cm2)が高くても、低圧リリーフ弁42のリリーフ圧が40Kgf/cm2であるため、第1、第2センターバイパス油路71,72から作動油が逃げて、小さい力でエンジンを始動できる(なお、エンジンE始動時には、走行直進弁V12は第1切替位置43aとされる)。
【0083】
したがって、セルモータにかかる負荷を減らすことができるため、バッテリBaの電圧容量を増やしたり、エンジン始動用に別バッテリBaを設ける必要がなくなり、バッテリBaを小型化できる。
また、エンジン始動後、制御バルブV1〜9の中立時には、中立目標吐出圧は、35Kgf/cm2であって、低圧リリーフ弁42のリリーフ圧の40Kgf/cm2より低いため、作動油が無駄にタンクTに排油されることはない。
【0084】
制御バルブV1〜9の操作時においては、ポンプ(P1,P2)から油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5へ至る油路及び油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5からタンクTへ至る油路が開く前に、切替弁43によって第1、第2センターバイパス油路71,72を閉じれば、上述した制御と同様に目標吐出圧SPをコントロールすることができる。
【0085】
また、本実施形態の油圧システム16にあっては、作動油の温度を電気的に検出する温度センサ57が設けられており、該温度センサ57で検出された作動油の温度は温度入力信号H6でコントローラ19に入力される。
そして、制御バルブV1〜9の中立時で且つ作動油の温度が所定温度(例えば、0℃から20℃)以下である時に、第1、第2ポンプP1、P2の吐出圧Ppを低圧リリーフ弁42の設定圧よりも高くする(例えば、50Kgf/cm2にする)制御を行うことにより、第1、第2センターバイパス油路71,72を介して作動油をタンクTにブリードさせる(この場合も、走行直進弁V12は第1切替位置43aとされている)。
【0086】
したがって、寒冷地等で作業機を使用する場合など、制御バルブV1〜9が低温であっても、スプールを操作する前に内部に作動油を流して制御バルブV1〜9をヒートアップさせることにより、制御バルブV1〜9のスプール動作への影響を低減できる。
さらに、当該油圧システム16は、図4に示すように、ポンプアクチュエータ23へ作動油を送る油路58とタンクTとを連通する連通油路59に可変絞り60が介装され、この可変絞り60はコントローラ19で絞り量を調整可能とされ、コントローラ19からの遅延出力信号D4で連通油路59からタンクTへ排油される作動油の流量を制御することができる。
【0087】
そして、作業機1で連続くい打ちや連続バケット土落し等をする際に、ブーム用制御バルブV4,5やバケット用制御バルブV8のスプールが連続して往復操作された場合に、該スプールの中立位置への戻りに対して遅れて第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qを減らすように、前記可変絞り60の開度を調節する制御をする。
これによれば、例えば、操作手段18の操作レバー18aを上げ100%→中立位置0%→下げ100%とした際に、コントローラ19(遅延出力信号D4)でスプール15の中立位置への戻りに対して遅れて第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qを減らすこととなり、第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qが100%→50%→100%となる。
【0088】
つまり、制御バルブV4,5(V8)の操作量sが中立位置0%であれば、これに応じた第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qは本来0となるが、前記制御をすることによって第1、第2ポンプP1,P2の吐出量Qが0まで下がりきらずに、制御バルブV1〜9の中立時であってもポンプ最大吐出量Qmaxの50%の作動油が吐き出されることを意味する。
【0089】
これによって、連続くい打ち動作等で制御バルブV4,5(V8)のスプールが連続往復動作される場合に、スプールが中立位置に戻ってもポンプ吐出量Qが0とはならないために、往復動作の応答性が向上する。
また、このとき、制御バルブV4,5(V8)の操作量sに応じた吐出量Qを超えた作動油が第1、第2ポンプP1,P2から吐き出されるが、第1、第2センターバイパス油路71,72を開くことにより、制御バルブV4,5(V8)の操作量sに応じた吐出量Qを超えた作動油が吐き出されても、該作動油をタンクTに逃がして、油圧システム16の回路内の昇圧を抑えることが可能となる。
【0090】
また、バックホー1にあっては、ブーム13(又はアーム14)を下降動作させる際、ブームシリンダC3(又はアームシリンダC4)の圧油供給側の負荷が小さくなると、第1、第2ポンプP1,P2の吐出量が増大していき、何の対策も講じていない場合は、ブーム13等の自重降下速度に第1、第2ポンプP1,P2の流量供給が追いつかずに、圧油供給量不足が生じ、ブーム13等が瞬間的に停止する「息継ぎ」という現象が起こる。
【0091】
そこで、本実施形態の油圧システム16では、コントローラ19に圧油供給不足検出部53を設け、この圧油供給不足検出部53によって圧油の供給不足の前兆を検出し、圧油供給量不足が生じる前兆が検出されると、コントローラ19からブーム用制御バルブV4,5(又はアーム用制御バルブV6,7)にスプールを戻す指令信号D2’を出力して該スプールを戻すようにしている。
【0092】
このとき、操作手段18の操作量sは変わらず、該操作手段18の操作信号H2から予定のブリードオフ面積値Bが算出され、また、ポンプPの設定吐出量SQは変わらないので、ブームシリンダC3等に対する圧油の供給流量は略保存され且つブームシリンダC3等からの圧油の排出量は少なくなるので、ブームシリンダC3等に対する圧油の供給不足が生じず、「息継ぎ」現象を防止することができる。
【0093】
また、コントローラ19によるスプールの制御によって「息継ぎ」現象を防止することができるので、ブーム13等の下降動作の際におけるブームシリンダC3等からの圧油の戻り側の回路に息継ぎ防止用の絞りを設けなくてもよいので、或いは、ブーム13等の下降動作の際におけるブームシリンダC3等からの圧油の戻り側の回路に絞りを設ける場合であっても該絞りの開口面積を大きくすることができるので、エンジンEが高回転のときには効率よくブーム13等を操作することができる。
【0094】
本実施形態では、圧油供給量不足が生じる前兆を検出する第1の検出方法としては、目標吐出圧SPの値が所定値よりも下がったことでブームシリンダC3等に対する圧油供給量不足の前兆を検出する方法を採用しており、ブーム用制御バルブV6等のスプールを戻すことにより、目標吐出圧SPの値が所定値(例えば、50Kgf/cm2)未満にならないように制御している。
【0095】
また、圧油供給量不足が生じる前兆を検出する第2の検出方法としては、前記式(4)の(SQ−Q)の値がゼロ近くの所定値よりも下がったことでブームシリンダC3等に対する圧油供給量不足の前兆を検出する方法を採用している。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。作業機の油圧システム16等の各構成又は全体の構造、形状、寸法などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【0096】
例えば、第1実施形態の油圧システム16において、図9(a)に示すように、切替弁43を、付勢バネ44で閉位置43bに切替える方向に付勢すると共にコントローラ19からの励磁信号D3によりソレノイド45が励磁されると開位置43aに切り替えられるよう構成してもよい。
この場合、エンジン始動時に、エンジン始動手段56からコントローラ19に入力される始動入力信号H4によって、切替弁43に開き出力信号(ON/OFFソレノイド45を励磁させる電流)を送って、切替弁43のスプールを開位置43aにする。
【0097】
また、制御バルブV1〜9のヒートアップ制御時や、連続くい打ちや連続バケット土落し等の制御時に第1、第2センターバイパス油路71,72を介して圧油をブリードさせる際にも切替弁43のスプールを開位置43aにする。
なお、第1、第2センターバイパス油路71,72を閉じる際には、切替弁43のソレノイド45へ送っていた励磁信号D3の出力を中断するだけでよく、中断後は、付勢バネ44の付勢によって切替弁43が閉位置43bに移動し、第1、第2センターバイパス油路71,72は閉じる。
【0098】
また、第1実施形態の油圧システム16において、図9(b)に示すように、低圧リリーフ弁42を省略し、第1、第2センターバイパス油路71,72の油路終端側に、コントローラ19で第1、第2センターバイパス油路71,72の開度を調節可能な電磁比例弁61を設けてもよい。
この電磁比例弁61は、エンジンEの始動時には開き信号によって第1、第2センターバイパス油路71,72を開き、エンジンEの始動後には、閉じ信号によって第1、第2センターバイパス油路71,72を閉じる。
【0099】
また、制御バルブV1〜9のヒートアップ制御時、連続くい打ちや連続バケット土落し等の制御時における中立時には開き信号によって第1、第2センターバイパス油路71,72を開き、また、第1、第2ポンプP1,P2から油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5へ至る油路及び油圧アクチュエータM1,M2,C3〜5からタンクTへ至る油路が開く前に、閉じ信号によって第1、第2センターバイパス油路71,72を閉じる。
【0100】
なお、第1、第2センターバイパス油路71,72を閉じる際に、電磁比例弁61を徐々に閉じることによって、油圧システム16内にサージ圧が立つことを防止できる。
また、電磁比例弁61の代わりに、パイロット圧による比例弁や、上述した切替弁43であってもよい。切替弁43の場合、開き出力信号及び閉じ出力信号を受けるタイミングは、上述した電磁比例弁61と同様である。
【0101】
中立目標吐出圧は35Kgf/cm2とし、リリーフ弁11の所定のリリーフ圧は40Kgf/cm2としていたが、中立目標吐出圧30Kgf/cm2に対してリリーフ圧を35Kgf/cm2とするなど、リリーフ圧が中立目標吐出圧SP’よりも高く設定されていればよい。
【符号の説明】
【0102】
5 走行装置
8 旋回台(被駆動体)
13 ブーム(被駆動体)
14 アーム(被駆動体)
15 バケット(被駆動体)
19 コントローラ
24a 吐出路
24b 吐出路
42 低圧リリーフ弁
43 切替弁
66a 第1切替位置
66b 第2切替位置
66c 第3切替位置
71 第1センターバイパス油路
72 第2センターバイパス油路(72)とを設け、
73 圧油供給路
74a 連通油路
74b 連通油路
74c 連通油路
74d 連通油路
75 流通油路
78 チェック弁
79 チェック弁
80 絞り
M1 走行モータ(油圧アクチュエータ)
M2 旋回モータ(油圧アクチュエータ)
C3 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
C4 アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
C5 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
V1 一方の走行用の制御バルブ
V2 他方の走行用の制御バルブ
V3 旋回用制御バルブ(他の制御バルブ)
V4 第1ブーム用制御バルブ(他の制御バルブ)
V5 第2ブーム用制御バルブ(他の制御バルブ)
V6 第1アーム用制御バルブ(他の制御バルブ)
V7 第2アーム用制御バルブ(他の制御バルブ)
V8 バケット用制御バルブ(他の制御バルブ)
V9 補助用制御バルブ(他の制御バルブ)
V12 走行直進弁
P1 第1ポンプ
P2 第2ポンプ
T タンク
SQ 設定吐出流量
Qa ポンプの実際の吐出流量
s 制御バルブの操作量
B 予定のブリードオフ面積値
SP 目標吐出圧
Pp ポンプの実際の吐出圧
D1 指令信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータ(M1,M2,C3〜5)を制御する制御バルブ(V1〜9)と、可変容量型油圧ポンプによって構成されたポンプ(P1,P2)と、該ポンプ(P1,P2)及び前記制御バルブ(V1〜9)を制御するコントローラ(19)とを備え、
前記ポンプ(P1,P2)の吐出油の一部をタンク(T)に戻すことなく該吐出油を油圧アクチュエータ(M1,M2,C3〜5)に送るべく、コントローラ(19)において、ポンプ(P1,P2)の仮定の吐出流量である設定吐出流量(SQ)からポンプ(P1,P2)の実際の吐出流量(Qa)を減算した流量値と、制御バルブ(V1〜9)の操作量(s)から算出される予定のブリードオフ面積値(B)とからポンプ(P1,P2)の目標吐出圧(SP)を算出し、該目標吐出圧(SP)とポンプ(P1,P2)の実際の吐出圧(Pp)との偏差に基づいて算出される指令信号(D1)によってポンプ(P1,P2)の吐出流量を制御する作業機の油圧システムにおいて、
左右の走行装置(5)の各々に装備された走行駆動用油圧アクチュエータ(M1)を制御する走行用の制御バルブ(V1,V2)を左右走行装置(5)の各々に対して備え、前記走行装置(5)以外の被駆動体(8,13,14,15)を駆動すべく装備された他の油圧アクチュエータ(M2,C3〜5)を制御する他の制御バルブ(V3〜9)を備え、第1・第2の2つのポンプ(P1,P2)を備え、
前記他の制御バルブ(V3〜9)を操作しないで走行用の制御バルブ(V1,V2)を操作したときに、第1ポンプ(P1)の吐出油を一方の走行用の制御バルブ(V1)に、第2ポンプ(P2)の吐出油を他方の走行用の制御バルブ(V2)に、それぞれ独立して供給可能とする第1切替位置(66a)と、
走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作したときに、第1ポンプ(P1)の吐出油を走行用の制御バルブ(V1,V2)に供給すると共に、第2ポンプ(P2)の吐出油を他の制御バルブ(V3〜9)に供給する第2切替位置(66b)とに切替自在な走行直進弁(V12)を設け、
走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータ(M1)又は他の油圧アクチュエータ(M2,C3〜9)の一方を微速操作する際に、該微速操作される側の制御バルブに供給される吐出油を微速操作されない側の制御バルブに供給するよう構成したことを特徴とする作業機の油圧システム。
【請求項2】
走行直進弁(V12)を各走行用の制御バルブ(V1,V2)の上流側に配置すると共に各走行用の制御バルブ(V1,V2)の下流側にそれぞれ他の制御バルブ(V3〜9)を配置し、走行直進弁(V12)に第1ポンプ(P1)及び第2ポンプ(P2)の吐出路(24a,24b)を接続し、
走行直進弁(V12)を第2切替位置(66b)に切り替えた状態で第2ポンプ(P2)から圧油が供給される圧油供給路(73)を設け、この圧油供給路(73)から他の制御バルブ(V3〜9)の各々に圧油を供給可能とし、
走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作する際に、第1ポンプ(P1)の吐出油を一方の走行用の制御バルブ(V1)及び該制御バルブ(V1)の下流側の他の制御バルブ(V3,4,6)を通して下流側に流す第1センターバイパス油路(71)と、第2ポンプ(P2)の吐出油を他方の走行用の制御バルブ(V2)及び該制御バルブ(V2)の下流側の他の制御バルブ(V5,8,7,9)を通して下流側に流す第2センターバイパス油路(72)とを設け、
各走行用の制御バルブ(V1,V2)の下流側で各センターバイパス油路(71,72)と圧油供給路(73)とを接続すると共に圧油供給路(73)から各センターバイパス油路(71,72)への圧油の逆流を阻止するチェック弁(78)が介装された連通油路(74a〜d)を設け、
走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータ(M1)を微速操作する際に、第1ポンプ(P1)の吐出油を第1・第2センターバイパス油路(71,72)から連通油路(74a〜d)を介して圧油供給路(73)に流すように制御することを特徴とする請求項1に記載の作業機の油圧システム。
【請求項3】
各センターバイパス油路(71,72)の油路終端はタンク(T)に連通していると共に該油路終端側に該油路を開閉する切替弁(43)を設けたことを特徴とする請求項2に記載の作業機の油圧システム。
【請求項4】
各センターバイパス油路(71,72)の油路終端側に、走行用の制御バルブ(V1,V2)及び他の制御バルブ(V3〜9)の中立時におけるセンターバイパス油路(71,72)の圧よりも高い設定圧に設定された低圧リリーフ弁(42)を設けたことを特徴とする請求項3に記載の作業機の油圧システム。
【請求項5】
走行直進弁(V12)を各走行用の制御バルブ(V1,V2)の上流側に配置すると共に各走行用の制御バルブ(V1,V2)の下流側にそれぞれ他の制御バルブ(V3〜9)を配置し、走行直進弁(V12)に第1ポンプ(P1)及び第2ポンプ(P2)の吐出路(24a,24b)を接続し、
走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作する際に、第1ポンプ(P1)の吐出油を一方の走行用の制御バルブ(V1)及び該制御バルブ(V1)の下流側の他の制御バルブ(V3,4,6)を通して下流側に流す第1センターバイパス油路(71)と、第2ポンプ(P2)の吐出油を他方の走行用の制御バルブ(V2)及び該制御バルブ(V2)の下流側の他の制御バルブ(V5,7,8,9)を通して下流側に流す第2センターバイパス油路(72)とを設け、
各センターバイパス油路(71,72)の油路終端はタンク(T)に連通していると共に該油路終端側に走行用の制御バルブ(V1,V2)及び他の制御バルブ(V3〜9)の中立時におけるセンターバイパス油路(71,72)の圧よりも高い設定圧に設定された低圧リリーフ弁(42)を設け、
各制御バルブ(V1〜9)を中立位置から操作した際に、油圧アクチュエータ(M1,M2,C3〜9)に対して圧油を給排するアクチュエータポート(34a,34b)が開く前に各センターバイパス油路(71,72)が閉じるように該各制御バルブ(V1〜9)を構成し、
走行直進弁(V12)に第1ポンプ(P1)と第2ポンプ(P2)の吐出油を合流する第3切替位置(66c)を設け、走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作する際であって且つ走行駆動用油圧アクチュエータ(M1)を微速操作する際に、走行直進弁(V12)を第3切替位置(66c)に切り替えて第1ポンプ(P1)の吐出油を圧油供給路(73)に流すように制御することを特徴とする請求項1に記載の作業機の油圧システム。
【請求項6】
走行用の制御バルブ(V2)の上流側において、圧油供給路(73)とセンターバイパス油路(72)とを接続し且つ該センターバイパス油路(72)から圧油供給路(73)への圧油の逆流を阻止するチェック弁(79)と該チェック弁(79)の上流側に設けた絞り(80)とが介装された流通油路(75)を設け、
走行用の制御バルブ(V1,V2)と他の制御バルブ(V3〜9)とを同時操作する際であって且つ他の油圧アクチュエータ(M2,C3〜5)を微速操作する際に、第2ポンプ(P2)の吐出油を圧油供給路(73)から流通油路(75)を介して各センターバイパス油路(71,72)に流すように制御することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。
【請求項7】
各走行用の制御バルブ(V1,V2)を操作しないで他の制御バルブ(V3〜9)を操作したときには、走行直進弁(V12)は第1切替位置(66a)に切り替えられて、第1ポンプ(P1)の吐出油が第1センターバイパス油路(71)及び連通油路(74a〜d)を介して圧油供給路(73)に流れると共に第2ポンプ(P2)の吐出油が第2センターバイパス油路(72)及び連通油路(74a〜d)を介して圧油供給路(73)に流れるよう構成したことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の作業機の油圧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140763(P2012−140763A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292488(P2010−292488)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】