説明

作業機械

【課題】オペレータに操作上の違和感を与えにくく、かつ、予め設定された作業予定時間内で蓄電池に蓄えられた電力を有効利用できるハイブリット式又はバッテリ式の作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械を起動した後の所定時間t1で蓄電装置60の蓄電量の減少量を求め、この求められた減少量と蓄電装置60の蓄電残量とから作業可能時間t2を求める。また、この求められた作業可能時間t2が、予め設定された作業予定時間からこれまでの実作業時間を減算した作業予定の残り時間に達するか否かを判定し、達しないと判定したときには、作業可能時間が作業予定の残り時間に達することが可能な値にポンプ吸収馬力最大値を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプの駆動源として蓄電装置からの電力の供給を受けて力行駆動する電動機を備えたハイブリッド式又はバッテリ式の作業機械に係り、特に、蓄電装置に蓄えられた電力の有効な利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド式作業機械は、原動機と、蓄電装置に蓄えられた電力で力行駆動する電動機(一般的には電動・発電機が用いられるが、本明細書では、これを含んで「電動機」と表記する。)とで油圧ポンプを駆動し、この油圧ポンプから吐出される圧油により油圧アクチュエータを駆動して、所要の作業を行う構成になっている。ハイブリット式作業機械の運転中に蓄電装置の蓄電量が放電不能となる下限値に到達した場合には、蓄電装置からの放電を停止して電動機の力行駆動を停止し、ポンプ吸収馬力最大値を原動機の最大定格トルク以下に変更する必要がある。
【0003】
しかし、蓄電装置の蓄電量が下限値に到達した段階で、いきなり原動機のみによる油圧ポンプの駆動に切り替えると、負荷に対して原動機単体では持ちこたえることができず、エンジンストールに陥る可能性がある。また、蓄電装置の蓄電量が下限値に到達した段階で、ポンプ吸収馬力最大値が急激に低下するため、オペレータに操作上の違和感を与えるという問題もある。さらには、一日の予め設定された作業予定時間の途中で蓄電装置の蓄電量が下限値に到達すると、それ以降は作業機械の能力が低下するため、予定された作業を完了できないなどの問題も生じる。
【0004】
このような問題点を解消するため、蓄電装置の蓄電残量が予め設定された第1の所定値以下まで減少したときには、そのときの蓄電装置の蓄電残量に応じて電動機の力行トルク値を制限するようにポンプ吸収馬力最大値を低下し、蓄電装置の蓄電残量が予め設定された第2の所定値以下まで減少したときには、電動機の力行動作を禁止して、ポンプ吸収馬力最大値を原動機の定格出力で駆動できる値まで更に低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このようにすると、ハイブリット式作業機械の運転中にポンプ吸収馬力最大値がいきなり原動機の最大定格トルク以下には低下せず、蓄電装置の蓄電残量に応じて段階的に低下されるので、エンジンストールを回避することができると共に、オペレータに与える操作上の違和感を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3941951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によっても、蓄電装置の蓄電残量が予め設定された第1の所定値以下まで減少した段階で、ポンプ吸収馬力最大値がいきなり蓄電装置の蓄電残量に応じたレベルまで低下されるので、未だオペレータに与える違和感が大きい。また、特許文献1には、作業機械の動作モードに応じて電動機の作動を制御し、電力の無駄を抑制する技術については記載されているが、予め設定された作業予定時間を考慮し、作業予定時間の終了時刻においても電動機のアシスト駆動を維持する技術については何ら記載されておらず、作業予定時間の途中で蓄電装置の蓄電量が下限値に到達してしまうことを防止することができない。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、蓄電池の蓄電残量が所定値以下に低下した場合にも、オペレータに操作上の違和感を与えにくく、かつ、予め設定された作業予定時間内で蓄電池に蓄えられた電力を有効利用できるハイブリット式又はバッテリ式の作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の技術的な課題を解決するため、油圧ポンプと、当該油圧ポンプを駆動する電動機と、前記電動機に力行時の電力を供給する蓄電装置と、当該蓄電装置の蓄電量に応じてポンプ吸収馬力最大値を制御する制御装置とを備えた作業機械において、前記制御装置は、予め設定された蓄電量変化計測時間内における前記蓄電装置の蓄電量の減少量を求め、この求められた減少量と前記蓄電装置の蓄電残量とから作業可能時間を求めると共に、この求められた作業可能時間が、予め設定された作業予定時間からこれまでの実作業時間を減算した作業予定の残り時間に達するか否かを判定し、達しないと判定したときには、前記作業可能時間が前記作業予定の残り時間に達することが可能な値に前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させることを特徴とする。
【0009】
ハイブリット式又はバッテリ式の作業機械の電力消費率は、作業現場の状況(平坦地であるか傾斜面であるか等)と実行する作業の内容とで決まり、一日の作業を通じてほぼ一定である。したがって、作業開始直後の蓄電量変化計測時間内における蓄電装置の蓄電量の減少量を求めれば、この求められた減少量で蓄電装置の蓄電残量を除算することにより、電動機の力行駆動が可能な作業可能時間を求めることができる。また、この求められた作業可能時間と、予め設定された作業予定時間からこれまでの実作業時間を減算した作業予定の残り時間とを比較することにより、作業可能時間が作業予定の残り時間を超えるか否かを判定することができる。この場合において、ポンプ吸収馬力最大値を低下させれば、作業機械の電力消費率が低下するため、作業可能時間を延長することができ、かつ、作業可能時間を作業予定の残り時間に一致させるポンプ新吸収馬力最大値を求めることができる。そして、このようにすると、ポンプ吸収馬力最大値を、蓄電装置の蓄電量の低下に伴って、予め設定された作業時間の開始時刻から終了時刻に至るまでほぼ一律に低下させることができるので、オペレータに操作上の違和感を与えにくく、また、作業時間の終了時刻に至るまで電動機の駆動を確保することができるので、高い作業性を維持することができる。
【0010】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記油圧ポンプを駆動するための原動機であって、定格出力トルクが前記ポンプ吸収馬力最大値よりも小さいものを更に備え、前記制御装置は、前記求められた作業可能時間が、前記作業予定の残り時間に達しないと判定したときにも、前記原動機をその定格出力トルクで運転することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によると、ハイブリッド式の作業機械の原動機を小型化することができ、燃料消費量、排ガス量及び騒音の低減を図ることができる。
【0012】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記制御装置は、前記蓄電装置の蓄電量、前記作業予定時間及び前記実作業時間から低下後の前記ポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値を算出する蓄電残量監視手段と、この蓄電残量監視手段から出力される前記新ポンプ吸収馬力最大値、前記原動機の回転数及び前記油圧ポンプの吐出圧から前記油圧ポンプの傾転角信号の最小値を算出する負荷トルク制御手段を備えることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によると、従来知られている一般的な作業機械用の制御装置に蓄電残量監視手段と負荷トルク制御手段を付設するだけで、本発明に係る作業機械に適用可能な制御装置を構築できるので、本発明に係る作業機械の実施を低コストに行うことができる。
【0014】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記作業予定時間として、一日の作業開始予定時刻から作業終了予定時刻までの時間を設定すると共に、前記蓄電量変化計測時間として、一日の作業開始時刻からの一定時間を設定することを特徴とする。
【0015】
コンセントから充電装置に直接充電する、所謂プラグインハイブリッド式の作業機械については、夜間のうちに充電を完了しておき、朝から夕方までの昼間に作業を行うという作業態様をとることが考えられる。この場合、朝の作業開始予定時刻から夕方の作業終了予定時刻までの時間が作業予定時間として設定される。また、朝一番の作業機械の起動時からの一定時間を蓄電量変化計測時間として設定する。これにより、夕方の作業終了予定時刻まで、電動機によるアシスト駆動が可能になる。
【0016】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記作業予定時間として、一日の作業開始予定時刻から作業終了予定時刻までの時間を設定すると共に、前記蓄電量変化計測時間として、一日の作業開始時刻からの一定時間と、前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させた後の任意に設定された時刻からの一定時間に設定することを特徴とする。
【0017】
かかる構成によると、蓄電量変化計測時間を、朝一番の作業機械の起動時からの一定時間だけでなく、作業予定時間内の任意の時刻に複数回設定することができるので、ポンプ吸収馬力最大値を蓄電残量に応じてよりきめ細かく修正することができる。
【0018】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記制御装置は、前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させる際、低下前の前記ポンプ吸収馬力最大値である旧ポンプ吸収馬力最大値から、低下後の前記ポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値まで、多段階に又は連続的に低下させることを特徴とする。
【0019】
かかる構成によると、ポンプ吸収馬力最大値を緩やかに低下できるので、オペレータが操作上の違和感を感じにくく、オペレータの疲労を緩和することができる。
【0020】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記制御装置は、前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させる際、当該ポンプ吸収馬力最大値を、目標流量が異なる複数の領域に分割し、低下前の前記ポンプ吸収馬力最大値である旧ポンプ吸収馬力最大値のうちの、目標流量が高い領域から順に時間差をつけて、低下後の前記ポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値まで低下させることを特徴とする。
【0021】
オペレータは、油圧アクチュエータが高速で動作している状態、即ち、油圧アクチュエータを流れる圧油の流量が高い状態では、ポンプ吸収馬力最大値が多少低下しても、その変化を感得しにくい。逆に、油圧アクチュエータを流れる圧油の流量が低い状態では、ポンプ吸収馬力最大値を僅かに低下しても、その変化を敏感に感得する。したがって、目標流量が高い領域からポンプ吸収馬力最大値を順次低下させることで、オペレータに操作上の違和感を感得させることなく、スムーズにポンプ吸収馬力最大値を遷移させることができる。
【0022】
また本発明は、前記構成の作業機械において、前記実作業時間のカウントは、アワーメータを用いて行い、該アワーメータは、ゲートロック手段により機械各部が操作禁止状態に切り替えられた場合は、その間の実作業時間のカウントを中止することを特徴とする。
【0023】
かかる構成によると、ゲートロック手段により機械各部が操作禁止状態に切り替えられている時間、即ち、作業機械が作業を休止している時間を実作業時間としてカウントしないので、より作業の実情に適合した正確な新ポンプ吸収馬力最大値の算出が可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ハイブリット式又はバッテリ式の作業機械において、予め設定された蓄電量変化計測時間内における蓄電装置の蓄電量の減少量を求め、この求められた減少量と蓄電装置の蓄電残量とから作業可能時間を求めると共に、この求められた作業可能時間が、予め設定された作業予定時間からこれまでの実作業時間を減算した作業予定の残り時間に達するか否かを判定し、達しないと判定したときには、作業可能時間が作業予定の残り時間に達することが可能な値にポンプ吸収馬力最大値を低下させるので、ポンプ吸収馬力最大値を、蓄電装置の蓄電量の低下に伴って、予め設定された作業時間の開始時刻から終了時刻に至るまでほぼ一律に低下させることができ、作業機械の操作性を良好なものにすることができる。また、作業時間の終了時刻に至るまで、電動機の駆動を確保することができるので、高い作業性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るプラグインハイブリッド式油圧ショベルの構成図である。
【図2】実施形態に係るプラグインハイブリッド式油圧ショベルのシステム構成図である。
【図3】実施形態に係るプラグインハイブリッド式油圧ショベルに備えられる蓄電装置監視手段の制御手順を示すフローチャートである。
【図4】実施例1に係るポンプ吸収馬力最大値の遷移図である。
【図5】実施例1に係る傾転角最小値の遷移図である。
【図6】実施例1に係る制御方法を適用した場合における蓄電量、原動機出力及び電動機力行出力の変化を示す図である。
【図7】実施例2に係るポンプ吸収馬力最大値の遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の作業機械につき、油圧ポンプを原動機と蓄電装置の放電電力で力行駆動する電動機で駆動し、油圧ポンプから吐出される圧油を用いて油圧アクチュエータを駆動するハイブリット式の油圧ショベルであって、ポンプ定格吸収馬力が原動機の定格出力よりも高く、蓄電装置の蓄電量を設定した運転時間で消費し切るプラグインハイブリット式のショベル機械を例にとって説明する。本発明は、プラグインハイブリット式の油圧ショベルのほか、油圧ポンプを電動機のみで駆動するバッテリ方式の油圧ショベルにも適用することができる。また、油圧ショベル以外のハイブリッド式又はバッテリ式の作業機械にも適用することができる。
【実施例1】
【0027】
図1に示すプラグインハイブリット式の油圧ショベル10は、稼動部位として、ブーム101,アーム102,バケット103,クローラ104及び旋回体100を有している。ブーム101、アーム102、バケット103は、それぞれ油圧アクチュエータである油圧シリンダ20a,20b,20cで駆動される。また走行用クローラ104は、油圧アクチュエータである油圧モータ20dで駆動され、旋回体100も油圧アクチュエータである図示しない油圧モータで駆動される。これらの各油圧アクチュエータ20a〜20dは、油圧ポンプ30から吐出される圧油で駆動される。油圧ポンプ30は、可変容量型の油圧ポンプであり、その容量(1回転で吐出する圧油の量)は、傾転角を変更することで変更できる。油圧ポンプ30の駆動軸は、原動機40及び電動機50と同軸に接続されており、油圧ポンプ30は、原動機40の回転と電動機50の力行で動作する。電動機50は、インバータ51及びチョッパ61を介して蓄電装置60と電気的に接続されており、電動機50の力行出力は、チョッパ61にて変圧され、インバータ51にて交流に変換された蓄電装置60からの放電電力により行われる。油圧ポンプ30、原動機40、電動機50、インバータ51、蓄電装置60、チョッパ61及びこれらを制御する制御装置70は、旋回体100に搭載される。なお、電動機50は、原動機40の駆動力で発電し、蓄電装置60に充電することも可能である。また、旋回体100の油圧モータを電機モータに置き換えた場合には、電動機50の発電電力でこの旋回用の電機モータを駆動することも可能である。
【0028】
原動機40としては、油圧ポンプ30のポンプ吸収馬力最大値よりも定格出力トルクが小さいものが備えられる。制御装置70は、ポンプ吸収馬力最大値の変更に拘わらず、原動機40をその定格出力トルクで運転する。これにより、ハイブリッド式の作業機械の原動機を小型化することができ、燃料消費量、排ガス量及び騒音の低減を図ることができる。
【0029】
図2に示すように、制御装置70は、油圧ポンプ30から検出される油圧ポンプ吐出圧、原動機40から検出される原動機回転数、チョッパ61を含むインバータ回路から検出される蓄電装置60の蓄電量、図示しないタイマーから出力される作業予定時間、蓄電量変化計測時間、動作時間及び分割演算時間、図示しないアワーメータから出力される実作業時間、並びに図示しない操作レバーから出力される操作レバー信号を取り込み、油圧ポンプ30に対して最終傾転角信号を出力する。この制御装置70には、油圧ポンプ吐出圧と操作レバー信号とから傾転角信号を算出して出力する通常の制御手段70cに加えて、蓄電量、作業予定時間、蓄電量変化計測時間、動作時間及び実作業時間から補正後のポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値を算出して出力する監視手段(蓄電残量監視手段)70aと、監視手段70aから出力される新ポンプ吸収馬力最大値から油圧ポンプ30の傾転角の最小値を算出して出力する負荷トルク制御手段70bとを備えている。かかる構成によると、従来知られている一般的な作業機械用の制御装置に、蓄電残量の監視手段70aと負荷トルク制御手段70bを付設するだけで、本発明に係る作業機械に適用可能な制御装置を構築できるので、実施形態に係る作業機械の実施を低コストに行うことができる。
【0030】
通常の制御手段70cは、オペレータが操作する操作レバーから出力される操作レバー信号と、油圧ポンプ30から検出される油圧ポンプ吐出圧とから、油圧ポンプ30の吸収馬力を制御する傾転角信号を出力すると共に、油圧ポンプ30の吸収馬力に応じて、原動機40及び電動機50の出力制御を行う。そして、通常の制御手段70cから出力される傾転角信号は、監視手段70a及び負荷トルク制御手段70bから出力される傾転角信号最小値で制限される。この制御により電動機50が力行すれば、消費エネルギーの分だけ蓄電装置60の蓄電量が低下する。なお、図2においては、公知に属する事項であり、かつ本発明の要旨でもないので、原動機40及び電動機50の出力制御部分については、図示を省略する。
【0031】
なお、図2に示す作業予定時間とは、蓄電装置60に蓄えられた電力により電動機50を力行駆動することが求められる時間であり、通常は一日の作業時間である7.5時間或いは8時間に設定される。また、蓄電量変化計測時間とは、蓄電装置60の蓄電量の減少量を計測するための時間であり、少なくとも原動機40が起動した時刻からの一定時間、例えば10分間に設定される。また、動作時間とは、制御装置70が新ポンプ吸収馬力最大値の算出を繰り返す総時間であり、例えば10分間に設定される。また、分割演算時間とは、制御装置70が新ポンプ吸収馬力最大値の算出を行うピッチであり、例えば1分間に設定される。したがって、制御装置70が行う新ポンプ吸収馬力最大値の繰り返し算出回数nは、この場合、10回となる。
【0032】
以下、図3〜図6を用いて、制御装置70が実行する蓄電装置60の蓄電量に応じたポンプ吸収馬力最大値の制御について説明する。
【0033】
運転開始時においては、図4に示すように、ポンプ吸収馬力最大値として初期値(旧ポンプ吸収馬力最大値)Pmaxoldが設定されており、傾転角信号最小値は、図5に示すように、これに応じた特性aになっている。即ち、オペレータが操作レバーを最大限に操作すると、制御装置70から出力される最終傾転角信号はPmaxoldに相当した値となり、原動機40の定格出力より大きくなって、その不足分は、電動機50の力行駆動で補うことになる。
【0034】
監視手段70aは、図3のステップS1で、作業開始時刻から予め設定された蓄電量変化計測時間t1における、電動機50の力行に伴う蓄電量の減少量を算出する。次いで、この算出された蓄電量の減少量と蓄電量変化計測時間t1とから、作業を継続可能な作業可能時間を算出し、図3のステップS2で、この算出された作業可能時間が、予め設定された作業予定の残り時間t2よりも短いか否かを判定する。図6(a)の例では、作業可能時間が作業予定時間の残り時間t2よりも小さくなっている。このように、作業可能時間の方が作業予定の残り時間t2よりも短いと判定した場合(YES)は、図3のステップS3に移行して、蓄電装置60の蓄電残量と作業予定時間と蓄電量変化計測時間t1とから、作業予定の残り時間t2の範囲で電動機50の力行駆動を可能とする新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewを算出する。
【0035】
新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewは、下記の方法で算出することができる。即ち、図6(b)から明らかなように、新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewは、原動機40の定格出力Pengmaxと電動機50による加算分PM2の和として求められる。そこで、蓄電量変化計測時間t1での蓄電装置60の平均出力と、作業予定の残り時間t2での蓄電装置60の平均出力の比が、初期状態における電動機50による加算分PM1と蓄電量変化計測時間t1を経過した後の電動機50による加算分PM2の比と仮定する。つまり、図6(a)に示すように、蓄電量変化計測時間t1中の消費蓄電量をΔQe1、蓄電量変化計測時間t1を経過した後の残蓄電量をΔQe2としたとき、
ΔQe1/t1:ΔQe2/t2=PM1:PM2とする。
【0036】
これを解くと、
maxnew=PM2+Pengmax
=(ΔQe1/t1)/(ΔQe2/t2)×PM1+Pengmax
として求められる。
【0037】
ほかには、実ポンプ吸収馬力から原動機40の定格出力Pengmaxを差し引いた実値から、蓄電装置60の平均出力を算出する方法も考えられる。
【0038】
本実施形態においては、旧ポンプ吸収馬力最大値Pmaxoldから新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewへの変更を、設定された分割演算時間毎に、設定された動作時間が終了するまで、複数回に分けて行う。即ち、図3のステップS3で新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewを算出した後、ステップS4に移行して、旧ポンプ吸収馬力最大値Pmaxoldと新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewの差分をn分割して、1回当たりのポンプ吸収馬力最大値の調整量ΔPを算出する。次いで、ステップS5に移行して、ポンプ吸収馬力最大値PmaxをPmaxold−ΔPと置き、負荷トルク制御手段70bによりこれに応じた傾転角信号最小値を出力する。以下、ステップS6において、この動作を、予め設定された動作時間が終了するまで、分割演算時間(本例では、1分間)ごとに行う。これにより、傾転角信号最小値は、特性aから特性b、特性bから特性cと順次低下し、これに伴ってポンプ吸収馬力最大値は、図6(b)に示すように、旧ポンプ吸収馬力最大値Pmaxoldから新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewまで、緩やかに変化する。なお、分割演算時間の設定及び旧ポンプ吸収馬力最大値Pmaxoldと新ポンプ吸収馬力最大値Pmaxnewの差分の大きさによっては、この変化が段階的になる。このようにすることにより、ポンプ吸収馬力最大値を緩やかに低下できるので、オペレータが操作上の違和感を感じにくく、オペレータの疲労を緩和することができる。
【0039】
なお、図3のステップS2で、算出された作業可能時間が予め設定された作業予定の残り時間t2よりも長いと判定した場合(NO)は、図3のステップS7に移行し、ポンプ吸収馬力最大値Pmaxが初期値よりも低下しているか否かを判定する。そして、低下していると判定した場合(YES)は、ステップS3に移行し、低下していないと判定した場合(NO)は、ステップS1に戻る。これにより、蓄電装置60の蓄電残量を有効に利用することができる。
【0040】
なお、本実施例においては、蓄電量変化計測時間t1を、一日の作業開始時刻からの一定時間のみに割り当てたが、これに加えて、ポンプ吸収馬力最大値を低下させた後の任意に設定された時刻からの一定時間に設定することもできる。このようにすると、ポンプ吸収馬力最大値を蓄電装置60の蓄電量に応じてよりきめ細かく修正することができる。また、実作業時間のカウントに関しては、ゲートロック手段により機械各部が操作禁止状態に切り替えられた場合に、その間の実作業時間のカウントを中止する構成とすることもできる。このようにすると、ゲートロック手段により機械各部が操作禁止状態に切り替えられている時間、即ち、作業機械が作業を休止している時間を実作業時間としてカウントしないので、より作業の実情に適合した正確な新吸収馬力最大値の算出が可能になる。
【実施例2】
【0041】
次に、図7を用いて、本発明に係る作業機械の実施例2を説明する。本実施例は、図7に示すように、新旧間のポンプ吸収馬力最大値の差分を、目標流量Qが高い領域A、目標流量Qが中間の領域B、及び目標流量Qが低い領域Cに分割し、ポンプ吸収馬力最大値を減少する際、最初に、旧ポンプ吸収馬力最大値の領域Aに相当する部分を新ポンプ吸収馬力最大値に減少し、次いで、旧ポンプ吸収馬力最大値の領域Bに相当する部分を新ポンプ吸収馬力最大値に減少し、最後に、旧ポンプ吸収馬力最大値の領域Cに相当する部分を新ポンプ吸収馬力最大値に減少する。オペレータは、油圧アクチュエータが高速で動作している状態、即ち、油圧アクチュエータを流れる圧油の流量が高い状態では、ポンプ吸収馬力最大値が多少低下しても、その変化を感得しにくく、逆に、油圧アクチュエータを流れる圧油の流量が低い状態では、ポンプ吸収馬力最大値を僅かに低下しても、その変化を敏感に感得するので、上述のように目標流量が高い領域からポンプ吸収馬力最大値を低下させることで、オペレータに操作上の違和感を感得させることなく、スムーズにポンプ吸収馬力最大値を遷移させることができる。
【0042】
本発明の作業機械は、ポンプ吸収馬力最大値を、蓄電装置の蓄電量の減少に伴って、予め設定された作業時間の開始時刻から終了時刻に至るまでほぼ一律に低下させることができるので、オペレータに操作上の違和感を与えにくく、オペレータの疲労を軽減することができる。また、作業時間の終了時刻に至るまで電動機の駆動を確保することができるので、高い作業性を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、プラグインハイブリッド式又はバッテリ式の油圧ショベル等の作業機械に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 ハイブリッド方式ショベル機械
20 油圧アクチュエータ
20a ブーム駆動用油圧シリンダ
20b アーム駆動用油圧シリンダ
20c バケット駆動用油圧シリンダ
20d クローラ駆動用油圧モータ
30 油圧ポンプ
40 原動機
50 電動機
60 蓄電装置
70 制御装置
70a 監視手段
70b 負荷トルク制御手段
100 旋回体
101 ブーム
102 アーム
103 バケット
104 クローラ
emax 蓄電装置の蓄電量最大値
emin 蓄電装置の蓄電量下限値
t1 蓄電量変化計測時間
t2 作業予定の残り時間
ΔQe1 t1中に消費された蓄電量
ΔQe2 t2中に消費できる蓄電量
engmax 原動機の最大定格出力
PM1 t1中の電動機出力
PM2 t2中の電動機出力
maxold 旧ポンプ吸収馬力最大値
maxnew 新ポンプ吸収馬力最大値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、当該油圧ポンプを駆動する電動機と、前記電動機に力行時の電力を供給する蓄電装置と、当該蓄電装置の蓄電量に応じてポンプ吸収馬力最大値を制御する制御装置とを備えた作業機械において、
前記制御装置は、予め設定された蓄電量変化計測時間内における前記蓄電装置の蓄電量の減少量を求め、この求められた減少量と前記蓄電装置の蓄電残量とから作業可能時間を求めると共に、この求められた作業可能時間が、予め設定された作業予定時間からこれまでの実作業時間を減算した作業予定時間の残り時間に達するか否かを判定し、達しないと判定したときには、前記作業可能時間が前記作業予定時間の残り時間に達することが可能な値に前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させることを特徴とする作業機械。
【請求項2】
前記油圧ポンプを駆動するための原動機であって、定格出力トルクが前記ポンプ吸収馬力最大値よりも小さいものを更に備え、前記制御装置は、前記求められた作業可能時間が、前記作業予定時間の残り時間に達しないと判定したときにも、前記原動機をその定格出力トルクで運転することを特徴とする請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記蓄電装置の蓄電量、前記作業予定時間及び前記実作業時間から低下後の前記ポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値を算出する蓄電残量監視手段と、この蓄電残量監視手段から出力される前記新ポンプ吸収馬力最大値、前記原動機の回転数及び前記油圧ポンプの吐出圧から前記油圧ポンプの傾転角信号の最小値を算出する負荷トルク制御手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記作業予定時間として、一日の作業開始予定時刻から作業終了予定時刻までの時間を設定すると共に、前記蓄電量変化計測時間として、一日の作業開始時刻からの一定時間を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項5】
前記作業予定時間として、一日の作業開始予定時刻から作業終了予定時刻までの時間を設定すると共に、前記蓄電量変化計測時間として、一日の作業開始時刻からの一定時間と、前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させた後の任意に設定された時刻からの一定時間に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項6】
前記制御装置は、前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させる際、低下前の前記ポンプ吸収馬力最大値である旧ポンプ吸収馬力最大値から、低下後の前記ポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値まで、多段階に又は連続的に低下させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項7】
前記制御装置は、前記ポンプ吸収馬力最大値を低下させる際、当該ポンプ吸収馬力最大値を、目標流量が異なる複数の領域に分割し、低下前の前記ポンプ吸収馬力最大値である旧ポンプ吸収馬力最大値のうちの、目標流量が高い領域から順に時間差をつけて、低下後の前記ポンプ吸収馬力最大値である新ポンプ吸収馬力最大値まで低下させることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項8】
前記実作業時間のカウントは、アワーメータを用いて行い、該アワーメータは、ゲートロック手段により機械各部が操作禁止状態に切り替えられた場合は、その間の実作業時間のカウントを中止することを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158931(P2012−158931A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19924(P2011−19924)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】