説明

作業車の伝動装置

【課題】静油圧式無段変速装置による動力伝達の断続、及びPTOクラッチの入り切り操作を互いに連係作動させて、残耕部分の発生も少なく、かつ任意の操作タイミングで、軽快に行えるようにする。
【解決手段】静油圧式無段変速装置23の油圧ポンプ23Pから油圧モータ23Mへの駆動回路における高圧作動油を油タンクへ導く停止操作ペダル60を設け、停止操作ペダル60の踏み込み操作で、静油圧式無段変速装置23を中立位置に操作し、PTOクラッチ24を切り操作し、踏み込み解除側への操作で、PTOクラッチ24の入り操作が行われるように連係させ、踏み込み側への操作で静油圧式無段変速装置23が中立位置に復帰した後にPTOクラッチ24が切られ、踏み込み解除側への操作では走行が開始される前にPTOクラッチ24の入り操作が行われるように操作タイミングを設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備え、前記走行駆動系に走行装置への動力を変速して伝達する静油圧式無段変速装置を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備えた作業車の伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業車の伝動装置としては、下記[1]及び[2]に記載の構造のものが従来より知られている。
[1]両サイドブレーキペダルを踏み込み操作すると、走行用の変速装置を停止状態にするとともに、PTOクラッチを切り操作するよう構成したもの(例えば、特許文献1参照)。
[2]静油圧式無段変速装置の油圧ポンプから油圧モータへの駆動回路における高圧作動油を、バイパス回路に送り込む状態と、そのバイパス回路への送り込みを解除する状態とに択一切換操作自在な操作手段を設けたもの(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2008−137436号公報(段落番号0028、0029、0035、0037、図3、図4)
【特許文献2】特開昭63−38030号公報(公報明細書の第2頁右上欄、及び、同頁右下欄、並びに、公報図面の図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記[1]に示す従来構造のものでは、例えば、トラクタ本機の後部にロータリ耕耘装置を連結してPTO軸で駆動する耕耘作業において、耕耘作業中に走行停止を行う場合、両サイドブレーキペダルを踏み込み操作して走行停止を行うことで自動的にPTOクラッチが切られるので、回転駆動されるロータリ耕耘装置によってトラクタ本機が押されて停止距離が長くなることを回避することができる点で有用なものである。
しかしながら、この構造のものでは、両サイドブレーキペダルを操作するものであるため、その操作力としては比較的大きな踏力を要するものであり、また、片方のサイドブレーキペダルを踏んで機体旋回を行っているときには停止操作を行えないという不便さがある。
【0005】
また、上記[2]に示す従来構造のものでは、サイドブレーキペダルではなく、変速レバーの中立位置、もしくは操縦席の位置を検出するスイッチを設けて、そのスイッチの検出信号に基づいて、油圧ポンプから油圧モータへの駆動回路における高圧作動油を、バイパス回路に送り込む状態と、そのバイパス回路への送り込みを解除する状態とに切り換えられるようにしている。この構造によれば、静油圧式無段変速装置による駆動状態を動力伝達がなされない状態に切り換えることはできるものであるが、その操作に連動してPTOクラッチの操作を行うことはできず、また、静油圧式無段変速装置の斜板を中立位置に戻し操作することもできない。
【0006】
本発明の目的は、静油圧式無段変速装置による動力伝達の断続、及びPTOクラッチの入り切り操作を互いに連係作動させて、残耕部分の発生も少なく、かつ任意の操作タイミングで、軽快に行えるようにした作業車の伝動装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備え、前記走行駆動系に走行装置への動力を変速して伝達する静油圧式無段変速装置を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備え、
前記静油圧式無段変速装置の油圧ポンプから油圧モータへの駆動回路における高圧作動油を油タンクへ導く動力遮断状態と、その動力遮断状態を解除して油圧モータを駆動する状態とに択一切換操作自在な停止操作ペダルを設けるとともに、前記停止操作ペダルによる停止操作に伴って前記静油圧式無段変速装置の斜板を中立位置に戻し操作する斜板角度制御手段を設け、
前記停止操作ペダルに対して前記静油圧式無段変速装置とPTOクラッチとは、停止操作ペダルの踏み込み操作に伴って、静油圧式無段変速装置を中立位置に操作するとともにPTOクラッチを切り操作し、停止操作ペダルの踏み込み解除側への操作に伴って、PTOクラッチの入り操作が行われるように連係させてあり、かつ、前記停止操作ペダルの踏み込み側への操作では、前記静油圧式無段変速装置が中立位置に復帰した後にPTOクラッチが切り操作され、前記停止操作ペダルの踏み込み解除側への操作では、前記静油圧式無段変速装置による走行が開始される前にPTOクラッチの入り操作が行われるように操作タイミングを設定してあることを特徴とする。
【0008】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明の作業車の伝動装置では、停止操作ペダルに対して静油圧式無段変速装置とPTOクラッチとを連係させて、停止操作ペダルの操作を行うだけで自動的に静油圧式無段変速装置における高圧作動油の給排による動力断続と、PTOクラッチの入り切り操作とを行えるようにしてある。
そして、停止操作ペダルの踏み込み側への操作では、静油圧式無段変速装置が中立位置に復帰した後にPTOクラッチが切り操作され、前記停止操作ペダルの踏み込み解除側への操作では、前記静油圧式無段変速装置による走行が開始される前にPTOクラッチの入り操作が行われるように操作タイミングを設定してある。したがって、静油圧式無段変速装置が中立位置に復帰しないうちにPTOクラッチが切り操作されたり、PTOクラッチの入り操作が行われる前に静油圧式無段変速装置による走行が開始される場合に比べて、圃場に残耕部分が残る可能性を少なくすることができる。
【0009】
したがって、停止操作ペダルの操作を行うだけで、静油圧式無段変速装置による動力伝達の断続、及びPTOクラッチの入り切り操作を互いに連係作動させて操作性の良い操作を行うことができる。
また、その連係作動も、停止操作ペダルの踏み込み側への操作では、静油圧式無段変速装置が中立位置に復帰した後にPTOクラッチが切り操作され、停止操作ペダルの踏み込み解除側への操作では、静油圧式無段変速装置による走行が開始される前にPTOクラッチの入り操作が行われるように操作タイミングを設定して、圃場に残耕部分が残る可能性を少なくした操作を行える利点がある。
【0010】
〔解決手段2〕
本発明の作業車の伝動装置における第2の解決手段は、請求項2の記載のように、静油圧式無段変速装置の斜板角度を変更して目標速度を設定する目標速度設定手段を備え、斜板角度制御手段は、静油圧式無段変速装置の中立位置から前記目標速度に対応する斜板角度に達するまでの斜板角度変更速度を、予め設定された増速率で緩やかに変化させるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段2にかかる本発明の作業車の伝動装置では、斜板角度制御手段が、静油圧式無段変速装置の中立位置から前記目標速度に対応する斜板角度に達するまでの斜板角度変更速度を、予め設定された増速率で緩やかに変化させるように構成されているので、停止操作ペダルでの静油圧式無段変速装置の停止後、再び機体を発進させる際に、予め設定された増速率で緩やかに斜板角度を変化させて、ゆっくりと機体を発進させることができる。
【0012】
したがって、単なる停止操作ペダルでの、静油圧式無段変速装置による動力伝達の断続やPTOクラッチの入り切り操作を行うだけで、機体の急発進をも回避した走行制御をも行うことができる利点がある。
【0013】
〔解決手段3〕
本発明の作業車の伝動装置における第3の解決手段は、請求項3の記載のように、停止操作ペダルは、左右一対のサイドブレーキペダルとは別に設けたペダルによって構成してあることを特徴とする。
【0014】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段3にかかる本発明の作業車の伝動装置では、停止操作ペダルが、左右一対のサイドブレーキペダルとは別に設けたペダルによって構成してあるので、停止操作ペダルとして、大きな踏力の必要がない軽い操作で行える構造のものを採用し易い。
また、サイドブレーキペダルの片方を操作している旋回作業中においても、そのサイドブレーキペダルを一旦戻し操作する必要なく、ただちに停止操作ペダルの操作を行うことができる。
【0015】
したがって、軽快な操作を行えるペダルを、任意のタイミングで操作し得るところの、操作性の良い停止操作ペダルで得られる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】耕耘機仕様に構成されたトラクタを示す全体側面図である。
【図2】伝動系を示す線図である。
【図3】制御系を示すブロック図である。
【図4】サイドブレーキペダルの動作説明図である。
【図5】サイドブレーキペダルと停止操作ペダルとの配置状態を示す平面図である。
【図6】静油圧式の無段変速装置の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔作業車の全体構成〕
図1に、本発明における伝動装置を備える作業車の一例であるところの、ロータリ耕耘機仕様に構成されたトラクタが示されている。
このトラクタは、前輪2および後輪3を備えた四輪駆動型のトラクタ本機1の後部にロータリ耕耘装置4を昇降自在に連結して構成されている。トラクタ本機1の車体は、エンジン5、主クラッチハウジング6、主変速ケース7、ミッドケース8、および、ミッションケース9を直列に直結したモノボディ型に構成されている。エンジン5に連結された前フレーム10に前車軸ケース11がローリング可能に支持され、この前車軸ケース11の左右に前輪2が操向操作可能に支持されるとともに、ミッションケース9の左右に後輪3が軸支されている。ミッションケース9の後部に、リフトアーム12によって駆動昇降されるリンク機構13が装備され、このリンク機構13にロータリ耕耘装置4が連結されている。
【0018】
〔伝動系の構成〕
図2に、トラクタ本機1における伝動系が示されている。エンジン5の出力は、主クラッチ15を経て主変速ケース7に備えられた入力軸16に伝達され、主変速ケース7に備えられた出力軸17から取り出された変速動力が、ギヤ式の副変速装置18で3段に変速された後、後部デフ装置19およびサイドブレーキ22を介して左右の後輪3に伝達される。副変速装置18で変速された走行系動力の一部がミッションケース9の下部から取り出されて、伝動軸20を介して前車軸ケース11に伝達され、前部デフ装置21を介して左右の前輪2に伝達される。
【0019】
主変速ケース7には静油圧式の無段変速装置(HST)23が内装されている。無段変速装置23は、アキシャルプランジャ式に構成された可変容量型の油圧ポンプ23Pと油圧モータ23Mとからなり、前記入力軸16によって定速で回転駆動される油圧ポンプ23Pにおける斜板角度を変更して、吐出される圧油の吐出方向および吐出量を変更することで、その圧油を受ける油圧モータ23Mの前記出力軸17を、正転あるいは逆転で無段階に回転作動させるよう構成されている。
【0020】
前記入力軸16は油圧ポンプ23Pを貫通して後方に延出され、この入力軸16に伝達された定速回転動力の一部が、ミッドケース8に内装されたPTOクラッチ24を経て更に後方に伝達され、ミッションケース9の後部に突設したPTO軸25から取り出されて、走行変速に関係なく定速のPTO動力でロータリ耕耘装置4が駆動される。
【0021】
前記無段変速装置23(HST)は、油圧サーボ手段によって変速制御されており、その構成が図3及び図6に示されている。
無段変速装置23における油圧ポンプ23Pの斜板角度は、復動式のサーボシリンダ30によって正逆に変更操作可能に構成されるとともに、斜板角度がポテンショメータを利用した斜板角センサ31で検出されて制御装置32に入力される。サーボシリンダ30は、斜板角度を零にする中立位置に一対の復帰バネ33によって復帰付勢されるとともに、制御装置32に接続された前進用の比例制御弁34と後進用の比例制御弁35を介した油圧制御によってサーボシリンダ30が伸縮作動するようになっている。
【0022】
前記比例制御弁34,35は、通電制御されない状態においてサーボシリンダ30をタンクに連通する復帰位置に付勢されており、両比例制御弁34,35が共に復帰位置にある時、サーボシリンダ30が自由状態となって、無段変速装置23が中立に復帰するようになっている。ポンプ36から比例制御弁34,35への圧油供給径路にはリリーフ弁37が備えられ、油圧サーボ手段におけるシステム圧の最高圧が制限されている。
【0023】
〔変速操作系の構成〕
トラクタ本機1には変速操作具として変速ペダル38と変速レバー39が装備されている。変速ペダル38は図5に示すように運転座席14の足元右側に配備され、変速レバー39は運転座席14の左横側に配備されている。
変速ペダル38は、前後に踏み分け可能に構成され、かつ、図示されていないカム機構によって機械的に中立位置に復帰付勢されている。
この変速ペダル38の踏み込み位置がポテンショメータ40で検出されて制御装置32に入力されており、ポテンショメータ40で検出された変速ペダル38の踏み込み位置情報と、前記斜板角センサ31からのフィードバック情報、及び後述する停止操作ペダル60の作動を検出する停止操作検出スイッチ61の検出情報に基づいて、制御装置32に備えられたサーボ制御手段100により、比例制御弁34,35が作動制御される。
つまり、前記サーボ制御手段100では、ポテンショメータ40で検出された変速ペダル38の踏み込み方向および踏み込み量に応じてサーボシリンダ30を伸縮作動させるように比例制御弁34,35の作動を制御し、変速ペダル38の踏み込みに対応した斜板角度とすることにより、無段階の前進変速および後進変速を行なう。
そして、ポテンショメータ40が変速ペダル38の踏み込み解除を検出すると、比例制御弁34,35の作動を制御して変速ペダル38を中立位置に自動復帰させ、走行推進力の出力を断ち、走行を停止するように制御する。
【0024】
前記変速レバー39は、図示しないが変速ペダル38を前進変速方向にのみ操作可能であるように、片当たり状態で機械連係されるとともに、任意の操作位置に摩擦保持可能に支持されており、その変速レバー39の操作位置は、前記変速ペダル38の操作位置を検出するポテンショメータ40で検出される。変速レバー39を連係解除位置nに保持した状態では、変速レバー39と変速ペダル38との連係が解除され、変速ペダル38は前進域から後進域までの全域において踏み込み操作可能となる。
変速レバー39を図3に示す連係解除位置nから前方に操作するに連れて変速ペダル38が前方踏み込み方向(前進増速方向)に接当操作され、変速レバー39を前進変速域の任意の操作位置に摩擦保持することで、中立位置へ復帰付勢されている変速ペダル38の中立復帰が阻止されて任意の前進変速域に保持され、変速レバー39の操作位置に対応した任意の速度による定速前進走行が行われる。つまり、この変速レバー39が、静油圧式無段変速装置の目標速度を設定するための目標速度設定手段を構成している。
なお、変速レバー39によって変速ペダル38が前進変速域の中間位置に保持されている状態では、変速ペダル38をそれ以上の前進増速方向へ踏み込み操作することが許容され、踏み込みを解除すれば変速レバー39で設定した速度まで復帰するようになっている。
【0025】
〔サイドブレーキペダルに対する連係構成〕
図6に示すように、変速ペダル38の近傍には、左右のサイドブレーキ22に各別にリンク連動された一対の制動操作具としてのサイドブレーキペダル41が左右に並列して配備されるとともに、左右のサイドブレーキペダル41はリンク機構42を介して作動アーム43に連動連結されている。
このリンク機構42は、片方のサイドブレーキペダル41を走行停止方向である踏み込み方向に操作しただけでは作動アーム43が回動されることはなく、両サイドブレーキペダル41を同時に踏み込み操作した時だけ、その踏み込み量に応じた角度で作動アーム43が回動されるよう構成されており、この作動アーム43の回動角度がポテンショメータ44によって検出されて前記制御装置32に入力される。
【0026】
前記PTOクラッチ24は、油圧が印加されるとクラッチ入り作動し、油圧の印加が解除されるとバネ付勢力で切り操作される多板式の摩擦クラッチで構成されており、印加される油圧が前記制御装置32に接続された電磁式の比例制御弁45を介して制御されるようになっている。
運転座席14の右横側にはPTOクラッチレバー46が配備されており、このPTOクラッチレバー46の操作位置がPTO入切スイッチ47で検知されて、その検知情報が制御装置32に入力されている。また、制御装置32に対しては、PTOクラッチ24と左右のサイドブレーキ22とが連係作動する状態と、その連係作動を解除して、PTOクラッチ24と左右のサイドブレーキ22とが各々独立して作動する状態とに切換操作するための連係状態切換スイッチ48も接続されている。
制御装置32には、前記作動アーム43の回動角度を検出するポテンショメータ44と、PTO入切スイッチ47と、連係状態切換スイッチ48との検出情報に基づいて、電磁式の比例制御弁45に制御信号を出力する第1PTO圧制御手段101が備えられている。
【0027】
したがって、PTOクラッチレバー46が「切」位置に操作されると、油圧の印加が解除されるように比例制御弁45が制御されて、PTOクラッチ24がクラッチ切り状態となり、PTOクラッチレバー46が「入」位置に操作されると、所定の高い油圧が印加されるように、制御装置32から比例制御弁45へ制御信号が出力されて、PTOクラッチ24がクラッチ入り状態となる。
そして、前記連係状態切換スイッチ48が「切」状態であると、制御装置32は、上記のPTOクラッチレバー46の操作位置に応じて、左右のサイドブレーキペダル41の操作とは関係なく、PTOクラッチ24を「切」、又は「入り」の状態に維持する。
前記連係状態切換スイッチ48が「入」に操作されていて、かつ、上記PTOクラッチレバー46の操作位置が「入」であるときに限って、左右のサイドブレーキペダル41の操作に連係させてPTOクラッチ24を次のように制御する。
【0028】
左右のサイドブレーキペダル41が同時踏み状態で操作された場合、そのサイドブレーキペダル41の踏み込み量が大きくなるに連れて各サイドブレーキ22の制動力が増大するとともに、変速操作用の油圧サーボ手段であるサーボシリンダ30とPTOクラッチ24入り切り用の比例制御弁45が以下のように制御される。
【0029】
変速レバー39を任意の前進位置に保持して前進速度を設定するとともに、PTOクラッチレバー46を「入」位置に操作している状態で、図4に実線で示すように、左右のサイドブレーキペダル41を踏み込み解除して復帰位置(a)に戻すと、両サイドブレーキ22が制動解除状態にあるとともに、前進用の比例制御弁34が通電制御されてサーボシリンダ30が所定位置まで作動され、無段変速装置23は変速レバー39の操作位置に対応した前進変速状態に保持される。かつ、PTOクラッチ24には、第1PTO圧制御手段101が比例制御弁45に制御信号を出力し、PTOクラッチ24に高い油圧が供給されてクラッチ入り状態がもたらされるように制御する。
【0030】
この状態から両サイドブレーキペダル41を同時に踏み込み操作すると、その踏み込み量の増加に伴って左右のサイドブレーキ22が制動作用を発揮するとともに、前記作動アーム43の回動角度に基づいてサーボシリンダ30が減速方向に作動制御され、走行速度が変速レバー39で設定された前進速度から次第に低下してゆく。
【0031】
両サイドブレーキペダル41を、予め設定された第1踏込み位置(b)まで同時に踏み込み操作すると、変速レバー39が前進変速域に保持されているにかかわらず、サーボ制御手段100により両比例制御弁34,35への通電が遮断された状態がもたらされ、サーボシリンダ30が中立位置に復帰されて無段変速装置23は中立状態となり、無段変速装置23による走行駆動が停止される。
【0032】
両サイドブレーキペダル41を前記第1踏込み位置(b)を越えて更に踏み込み操作するに連れて、両サイドブレーキペダル41の踏み込み操作量は増え、制動力も次第に増大するが、PTOクラッチ24のクラッチ圧は、図5に示すように、前記復帰位置(a)に位置していた状態からほとんど変化しないままで一定の圧に保たれて入り状態に維持されている。しかし、両サイドブレーキペダル41が、各サイドブレーキ22の最大制動力を得られる程度の操作位置として予め設定された第2踏込み位置(c)まで踏み込まれると、そのことを検出したポテンショメータ44からの検出信号に伴って、第1PTO圧制御手段101が比例制御弁45を油路開放側へ作動させるように制御信号を出力し、前記PTOクラッチ24のクラッチ圧を急速に低下させ、PTOクラッチ24は摩擦力が消滅して完全にクラッチ切り状態となる。
【0033】
なお、前輪2を操向しながら旋回内側となる一方のサイドブレーキペダル41だけを踏み込んで小回り旋回する際には、作動アーム43が回動しないので、上記した減速制御やPTOクラッチ24の切り制御が行われることはない。
【0034】
両サイドブレーキペダル41を前記第2踏込み位置(c)を越えた踏み込み限界位置にある第3踏込み位置(d)まで踏み込むと、作動アーム43の回動に基づいて油圧サーボ手段の前記リリーフ弁37が機械的に強制開放され、油圧サーボ手段のシステム圧が零まで低下され、走行変速用の比例制御弁34,35がどのような制御作動状態にあっても、サーボシリンダ30への圧油供給が解除され、無段変速装置23が中立復帰される。
【0035】
このように、両サイドブレーキペダル41を第3踏込み位置(d)まで大きく踏み込むと、サーボシリンダ30への圧油供給を強制解除して無段変速装置23を中立復帰させるので、万一、走行中に電気系の故障によって比例制御弁34,35が復帰位置に戻らないような事態が発生しても、両サイドブレーキペダル41を踏み込み限界まで踏み込みさえすれば、無段変速装置23を中立復帰させて走行停止することができる。
【0036】
上記両サイドブレーキペダル41とPTOクラッチ24、及びサーボシリンダ30の連動関係は、両サイドブレーキペダル41の踏み込み方向及び踏み込み解除方向の何れの方向でも同様に作用する。
【0037】
〔停止操作ペダルに対する連係構成〕
図6に示すように、前進時に高圧側となる第1油路A等と前進時に低圧側となる第2油路Bとを備える静油圧式の無段変速装置23には、その無段変速装置23の駆動用回路である第1油路Aの油圧を開放して、走行装置への動力伝達を遮断するための停止操作ペダル60が設けられている。
すなわち、無段変速装置23における前進走行時に高圧となる第1油路Aと油タンクTとに亘って戻り油路63を設け、戻り油路63にアンロード弁64を設け、戻り油路63におけるアンロード弁64と油タンクTとの間に絞り弁65を設けてある。前記停止操作ペダル60は、アンロード弁64によって、無段変速装置23の第1油路Aの油圧を開放して、走行装置への動力伝達を遮断するように構成されている。
【0038】
そして、上記停止操作ペダル60の踏み込みによる動力伝達遮断状態を検出する停止操作検出スイッチ61を備え、この停止操作検出スイッチ61の検出信号が制御装置32に伝達される。
制御装置32では、停止操作検出スイッチ61によって検出された停止操作ペダル60の踏み込み状態の有無に基づいて、前記比例制御弁45を操作する第2PTO圧制御手段102が備えられ、また、前記サーボシリンダ30への圧油供給を行う比例制御弁34,35を操作するサーボ制御手段100も、前記停止操作検出スイッチ61によって検出された停止操作ペダル60の踏み込み状態の有無に基づいて制御される。
【0039】
前記第2PTO圧制御手段102では、入り又は切りの2状態を択一検出する停止操作検出スイッチ61が入り状態であるときに、停止操作ペダル60の踏み込みであると判断し、停止操作検出スイッチ61が切り状態であるときに、停止操作ペダル60の踏み込み解除状態であると判断する。
この第2PTO圧制御手段102では、停止操作検出スイッチ61が切り状態から入り状態に切り換えられると、前記比例制御弁45に対してPTOクラッチ24を切り操作するように制御指令を出力する。
逆に、停止操作検出スイッチ61が入り状態から切り状態に切り換えられると、前記比例制御弁45に対してPTOクラッチ24を入り操作するように制御指令を出力する。
【0040】
前記サーボ制御手段100でも、前記停止操作検出スイッチ61が入り状態であるときに、停止操作ペダル60の踏み込みであると判断し、停止操作検出スイッチ61が切り状態であるときに、停止操作ペダル60の踏み込み解除状態であると判断する。
そして、前記停止操作検出スイッチ61が入り状態であるときに、前記サーボシリンダ30への圧油供給を行う比例制御弁34,35への通電を断ち、図6に示すように比例制御弁34,35を圧油排出側へ切り換えて、サーボシリンダ30の圧力室を油タンクに連通させ、復帰バネ33,33の作用でサーボシリンダ30を中立位置に復帰させることにより、油圧ポンプ23Pを中立位置へ復帰操作する。
逆に、停止操作検出スイッチ61が切り状態に操作されると、前記サーボシリンダ30への圧油供給を行う比例制御弁34,35へ通電して、図6に示す状態から前進用の比例制御弁34を圧油供給側へ切り換えて、サーボシリンダ30の前進用圧力室に圧油を供給し、油圧ポンプ23Pを前進側へ操作する。
【0041】
前記油圧ポンプ23Pの斜板が前進側へ操作される斜板操作量は、前記変速ペダル38及び変速レバー39の操作位置を検出するポテンショメータ40の検出信号に基づいて設定される。
つまり、前記サーボ制御手段100が、前記ポテンショメータ40の検出信号に基づいて検出された変速レバー39の操作位置に対応する静油圧式の無段変速装置23の斜板角度を、静油圧式の無段変速装置23の目標速度に対応する斜板角度として設定し、この目標速度に達するように前記油圧ポンプ23Pの斜板角度を変更する。
また、このとき、サーボシリンダ30が油圧ポンプ23Pの斜板角度を変更する速度は、サーボ制御手段100によって予め記憶設定されている増速率にしたがって、比較的緩やかに行われ、機体の急発進を生じないように設定されている。このように、変速レバー39の操作位置を検出するポテンショメータ40が静油圧式の無段変速装置23の目標速度を設定する目標速度設定手段として働き、前記サーボ制御手段100、及び比例制御弁34,35、ならびに前記サーボシリンダ30が斜板角度制御手段を構成している。
【0042】
そして、前記停止操作検出スイッチ61の検出信号が入力される前記第2PTO圧制御手段102、及びサーボ制御手段100は、前記停止操作ペダル60の踏み込み側への操作、つまり停止操作検出スイッチ61の入りが検出されると、前記無段変速装置23が中立位置に復帰した後にPTOクラッチ24が切り操作される。逆に、前記停止操作ペダル60の踏み込み解除側への操作、つまり停止操作検出スイッチ61の切りが検出されると、前記無段変速装置23による走行が開始される前にPTOクラッチ24の入り操作が行われるように、相互の操作タイミングを設定してある。
この操作タイミングは、前記比例制御弁34,35を圧油排出側へ切り換えてから、サーボシリンダ30が中立位置に復帰するまでに要すると予測される程度のタイムラグによって、及び、前記PTOクラッチ24へ圧油を供給する比例制御弁45が圧油供給側に切り換えられてから、PTOクラッチ24のクラッチ圧が所定圧に達すると予測される程度のタイムラグによって設定してある。
【0043】
前記第2PTO圧制御手段102と前記第1PTO圧制御手段101とは、その何れか一方が選択されて前記比例制御弁45を制御するように構成されているものであり、かつ、前記両サイドブレーキペダル41が操作されて作動アーム43の回動角度をポテンショメータ44が検出した状態では、前記第1PTO圧制御手段101によって前記比例制御弁45を制御するように構成されている。
したがって、このように第1PTO圧制御手段101によって前記比例制御弁45を制御している状態では、前記停止操作ペダル60が踏み込まれたことを停止操作検出スイッチ61が検出しても、これに優先して前記第1PTO圧制御手段101によるPTOクラッチ圧の制御が行われる。また、先に、前記停止操作ペダル60が踏み込まれたことを停止操作検出スイッチ61が検出して前記第2PTO圧制御手段102によるPTOクラッチ圧の制御が行われていても、前記両サイドブレーキペダル41が操作されて、ポテンショメータ44による検出信号が前記第1PTO圧制御手段101に送られると、前記第2PTO圧制御手段102による制御を停止して、前記第1PTO圧制御手段101による制御が優先して行われる。
【0044】
〔別実施形態の1〕
上記実施形態では、静油圧式の無段変速装置23の前進走行側の駆動回路である第1油路Aにのみ連通する状態で、油タンクTへの戻り油路63及びアンロード弁64を設けて、これを停止操作ペダル60で操作するように構成したものを例示したが、これに限らず、前記油タンクTへの戻り油路63及びアンロード弁64を、後進走行側の第2油路Bにも連通する状態で設けて、これらの両方のアンロード弁64,64を停止操作ペダル60で同時に操作して、前進側、後進側の何れにおいても停止操作を行えるように構成してもよい。
この場合、停止操作ペダル60を踏み込む前に走行機体が前進側と後進側の何れの側に走行していたかを、前記変速レバー39の操作位置を検出するポテンショメータ40からの検出信号によってサーボ制御手段100のメモリで記憶しておき、停止操作ペダル60が踏み込み解除側へ操作されたときの機体発進方向を前記メモリから呼び出して、停止前の走行方向と同方向に進行するように制御すればよい。
【0045】
〔別実施形態の2〕
上記実施形態では、停止操作ペダル60の操作に対する静油圧式の無段変速装置23とPTOクラッチ24との操作タイミングを、前述したタイムラグを設けることによって設定していたが、これに限らず、例えば走行伝動系に車速センサーを設け、PTO伝動系にPTO軸の回転を検出するセンサーを設けるなどして、実際に走行が開始された、あるいは、実際にPTO軸が回転し始めたことを検出して動作タイミングを設定してもよい。
【0046】
〔別実施形態の3〕
停止操作ペダル60で操作される停止操作機構としては、静油圧式の無段変速装置23に限らず、ギヤ式変速装置や、走行クラッチであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明が適用される作業車の伝動装置としては、田植機やコンバインの伝動装置、あるいは草刈機や除雪車の伝動装置などであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
23 静油圧式無段変速装置
23P 油圧ポンプ
23M 油圧モータ
24 PTOクラッチ
25 外部動力取り出し軸
32 制御手段
41 サイドブレーキペダル
60 停止操作ペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン動力を走行装置に伝達する走行駆動系と、エンジン動力を外部動力取り出し軸に伝達する作業装置駆動系とを備え、前記走行駆動系に走行装置への動力を変速して伝達する静油圧式無段変速装置を備えるとともに、前記作業装置駆動系に外部動力取り出し軸への動力伝達を断続する油圧操作式のPTOクラッチを備え、
前記静油圧式無段変速装置の油圧ポンプから油圧モータへの駆動回路における高圧作動油を油タンクへ導く動力遮断状態と、その動力遮断状態を解除して油圧モータを駆動する状態とに択一切換操作自在な停止操作ペダルを設けるとともに、前記停止操作ペダルによる停止操作に伴って前記静油圧式無段変速装置の斜板を中立位置に戻し操作する斜板角度制御手段を設け、
前記停止操作ペダルに対して前記静油圧式無段変速装置とPTOクラッチとは、停止操作ペダルの踏み込み操作に伴って、静油圧式無段変速装置を中立位置に操作するとともにPTOクラッチを切り操作し、停止操作ペダルの踏み込み解除側への操作に伴って、PTOクラッチの入り操作が行われるように連係させてあり、かつ、前記停止操作ペダルの踏み込み側への操作では、前記静油圧式無段変速装置が中立位置に復帰した後にPTOクラッチが切り操作され、前記停止操作ペダルの踏み込み解除側への操作では、前記静油圧式無段変速装置による走行が開始される前にPTOクラッチの入り操作が行われるように操作タイミングを設定してあることを特徴とする作業車の伝動装置。
【請求項2】
静油圧式無段変速装置の斜板角度を変更して目標速度を設定する目標速度設定手段を備え、斜板角度制御手段は、静油圧式無段変速装置の中立位置から前記目標速度に対応する斜板角度に達するまでの斜板角度変更速度を、予め設定された増速率で緩やかに変化させるように構成されている請求項1記載の作業車の伝動装置。
【請求項3】
停止操作ペダルは、左右一対のサイドブレーキペダルとは別に設けたペダルによって構成してある請求項1又は2記載の作業車の伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−234863(P2010−234863A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82757(P2009−82757)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】