説明

作業車の走行伝動構造

【課題】 左右の走行装置を各別に駆動する一対の静油圧式無段変速装置を備える伝動構造でありながら、左右走行装置の駆動負荷が相違しても、左右走行装置の速度差が発生しにくいように優れた直進性が発揮されるようにするとともに構造簡単に得ることができるようにする。
【解決手段】 左右走行装置1それぞれの伝動系に、静油圧式無段変速装置35及び遊星変速装置40を設けてある。静油圧式無段変速装置35は、走行伝動軸24に伝達されたエンジン出力を油圧ポンプ36に入力してモータ軸38から出力する。遊星変速装置40は、走行伝動軸24に伝達されたエンジン出力をキャリヤ43に入力し、静油圧式無段変速装置35のモータ軸38からの出力を太陽ギヤ42に入力し、リングギヤ45から走行装置1のクローラ駆動軸1aに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車の走行伝動構造、詳しくは、左右一対の走行装置を各別に駆動する一対の静油圧式無段変速装置を備えた走行伝動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特許文献1に示されるように、エンジン5の出力が入力軸24に伝達されるとともにこの入力軸24からギヤG1,G2,G3を介して一対の静油圧式無段変速装置21,22のポンプ軸21a,22aに伝達され、一方の静油圧式無段変速装置21のモータ軸21bからの出力が副変速機構25、ギヤ機構28を介して左側のクローラ走行装置1の車軸29に伝達され、他方の静油圧式無段変速装置22のモータ軸22bからの出力が副変速機構30、ギヤ機構32を介して右側のクローラ走行装置1の車軸33に伝達されるようにコンバインの走行伝動構造を開発した。
【0003】
この種の走行伝動構造を採用したものにあっては、直進走行するように左右走行装置の静油圧式無段変速装置が同一速度の変速状態に操作されていても、左右走行装置の駆動負荷が大幅に異なる事態が発生すると、この負荷相違のために両無段変速装置の間に速度差が発生し、直進性を確保しにくくなることがある。殊に、高速で走行する際、両無段変速装置の速度差が比較的小であっても、速度差による影響が出やすい傾向にある。
【0004】
このため、従来、特許文献1に示されるように、左側の走行装置1の車軸29にギヤ機構28を介して連動されている第1中間軸26と、右側の走行装置1の車軸33にギヤ機構28を介して連動されている第1中間軸31との間に設けた直進クラッチ50を備えるとともに、左走行用の無段変速装置21と右走行用の無段変速装置22が共に同方向に同量操作されているとき、つまり、直進操作状態のとき、直進クラッチ50を入り操作する制御手段を備えていた。すなわち、第1中間軸26と31が一体化されて左右の走行装置1の車軸29,33が同速度で駆動されるように直進性を図っていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−34724号公報(段落〔0021〕−〔0023〕,〔0028〕、図2,3,4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来の技術を採用した場合、直進クラッチの切り換え操作や切り換え制御を行なわせる操作油路や制御油路などを備える必要があり、この面から構造が複雑になるなどの問題があった。
【0007】
本発明の目的は、左右の走行装置をそれぞれ静油圧式無段変速装置の操作によって変速するものでありながら、直進性が優れた状態に、かつ、構造簡単に得ることができる作業車の走行伝動構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本第1発明による作業車の走行伝動構造にあっては、エンジン出力を左側の走行装置に伝達する左走行伝動系、及び、エンジン出力を右側の走行装置に伝達する右走行伝動系に、エンジン出力が入力される静油圧式無段変速装置、及び、エンジン出力が入力されるキャリヤを備えた遊星変速装置を設け、
前記両走行伝動系において、
前記静油圧式無段変速装置の出力が前記遊星変速装置の太陽ギヤに入力されるように、かつ、前記遊星変速装置のリングギヤから前記走行装置に出力されるように構成してある。
【0009】
すなわち、遊星変速装置のキャリヤがエンジン出力によって、太陽ギヤが静油圧式無段変速装置の出力によってそれぞれ回転駆動されて遊星ギヤが作動し、これによってリングギヤが回転駆動されてリングギヤから走行装置に出力されるものだから、遊星変速装置をギヤ比が適切に設定されたものにすれば、静油圧式無段変速装置が変速操作されると、リングギヤから出力される駆動力が変速して走行装置が変速駆動されるようにすることができる。また、エンジンから遊星変速装置に入力されて走行装置の駆動力となる動力と、静油圧式無段変速から遊星変速装置に入力されて走行装置の駆動力となる動力とによって走行装置が駆動されて、左右走行装置の駆動負荷が相違しても、両無段変速装置の間に速度差を発生しにくくしながら走行装置が駆動されるようにすることができる。さらに、エンジンから遊星変速装置に入力されて走行装置の駆動力となる動力と、静油圧式無段変速から遊星変速装置に入力されて走行装置の駆動力となる動力との比率が、静油圧式無段変速装置が変速操作されるに伴って変化し、リングギヤの出力速度が増速して走行装置の駆動速度が速くなるほど、エンジンから遊星変速装置に入力されて走行装置の駆動力となる動力の割合が増大し、左右走行装置の駆動負荷が相違しても、この負荷相違に起因する両無段変速装置の速度差がより発生しにくくなったり、発生しなくなったりすることができる。
【0010】
従って、本第1発明によれば、一対の静油圧式無段変速装置によって左右走行装置の駆動速度を各別にかつ無段階に変速して機体の操向操作を行なうことができるものでありながら、左右走行装置の駆動負荷が相違する事態が発生しても、左右走行装置の速度差が発生して走行向きが変化する事態が発生しにくいように、かつ、この走行向き変化は、走行速度が高速であるほど発生しにくいように優れた直進性を発揮させることができる。
しかも、無段変速装置からの入力によって太陽ギヤが回動駆動されることによって遊星変速装置が作動することにより、従来の直進クラッチの操作油路及び制御油路の如き特別な操作や制御のための構成を省略して構造を簡略化し、経済面などで有利に得ることができる。
【0011】
本第2発明にあっては、本第1発明の構成において、前記静油圧式無段変速装置が最高速度の変速状態になると、前記遊星変速装置の前記キャリヤと前記リングギヤとが同一又はほぼ同一の回転速度で回動するとともに前記リングギヤが前進駆動力を出力するように前記遊星変速装置を構成してある。
【0012】
すなわち、静油圧式無段変速装置が最高速度の変速状態に変速操作されると、遊星変速装置のキャリヤとリングギヤとが同一又はほぼ同一の回転速度で回動するとともにリングギヤが前進駆動力を出力するようになり、エンジンから遊星変速装置に入力されて走行装置の駆動力となる動力の割合が大になり、左右走行装置の駆動負荷が相違しても、この負荷相違に起因する両無段変速装置の速度差がより発生しにくいようにしながら、又は、発生しないようにしながら走行装置を最高速度で駆動することがきる。
【0013】
従って、本第2発明によれば、走行速度を速くするほど、左右走行装置の負荷相違が発生しても、左右走行装置の速度差が発生して走行向きが変化する事態が発生しにくいように、かつ、最高速度で走行するとき、左右走行装置の負荷相違に起因する走行向き変化が最も発生しにくいように優れた直進性を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、左右一対のクローラ式走行装置1,1によって自走するように構成し、かつ、運転座席2が装備された運転部などを備えた自走機体の機体フレーム3の前部に、前処理部10のフレーム11の基端側を機体横向きの軸芯まわりで回動自在に連結するとともに、前記前処理部フレーム11に昇降シリンダ4を連動させ、前記機体フレーム3の機体後方側に、脱穀装置5及び穀粒タンク6を設けて、コンバインを構成してある。
【0015】
このコンバインは、稲や麦などの収穫作用を行なうものであり、昇降シリンダ4を伸縮操作すると、この昇降シリンダ4が前処理部フレーム11を機体フレーム3に対して揺動昇降操作することにより、前処理部10を引起し装置12の下端部などが地面上近くに位置した下降作業状態と、引起し装置12などが地面上から上昇して離れた上昇非作業状態とに昇降操作する。前処理部10を下降作業状態にして自走機体を走行させると、前処理部10は、機体横方向に並ぶ複数の前記引起し装置12よって植立穀稈を引き起こし処理するとともに各引起し装置12からの植立穀稈をバリカン形の刈取装置13によって刈取り処理し、刈取り装置13からの刈取穀稈を株元側に作用する挟持搬送装置と、穂先側に作用する係止搬送装置とを備えた搬送装置14によって機体後方側に搬送して脱穀装置5の脱穀フィードチェーン5aの始端部に供給する。脱穀装置5は、脱穀フィードチェーン5aによって刈取穀稈の株元側を機体後方向きに挟持搬送しながら刈取穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理する。穀粒タンク6は、脱穀装置5からの脱穀粒を回収して貯留していく。
【0016】
自走機体の運転座席2の下方にエンジン7を設け、このエンジン7の駆動力が左右の走行装置1及び前処理部10に伝達する伝動構造を、図2に示す如く構成してある。
【0017】
すなわち、エンジン7の出力軸7aからの出力を、伝動ベルト20を介して中間軸21の一端側に伝達するとともにこの中間軸21の他端側からギヤ22,23を介して走行伝動軸24に伝達するように構成し、この走行伝動動24に伝達されたエンジン出力を、走行伝動軸24の一端側から左走行用の変速装置30に入力し、この変速装置30の出力軸31からの出力を、この出力軸31が一体回動自在に備えている出力軸ギヤ32、左側の走行装置1のクローラ駆動軸1aが一体回動自在に備えている入力ギヤ33を介して左側の走行装置1のクローラ駆動軸1aに伝達するように左走行伝動系を構成してある。前記走行伝動軸24に伝達されたエンジン出力を、走行伝動軸24の他端側から右走行用の変速装置30に入力し、この変速装置30の出力軸31からの出力を、この出力軸31が一体回動自在に備えている出力軸ギヤ32、右側の走行装置1のクローラ駆動軸1aが一体回動自在に備えている入力ギヤ33を介して右側の走行装置1のクローラ駆動軸1aに伝達するように右走行伝動系を構成してある。
【0018】
前記中間軸21に伝達されたエンジン出力を、中間軸21の一端側に連結された中間軸ギヤ25、この中間軸ギヤ25に噛合った入力軸ギヤ26が連結された入力軸51を備えた前処理用の変速装置50、この変速装置50の出力軸52と、前処理部10の入力軸16に装着された伝動ベルト15を介して前処理部10の入力軸16に伝達するように前処理伝動系を構成してある。
【0019】
図2に示すように、左走行伝動系に設けた前記左走行用の変速装置30も、右走行伝動系に設けた前記右走行用の変速装置30も、前記走行伝動軸24に装着された油圧ポンプ36を備えた静油圧式無段変速装置35、この静油圧式無段変速装置35に連結されたミッションケース41の内部に位置する遊星変速装置40を備えて構成してある。
【0020】
左走行用の変速装置30の前記無段変速装置35も、右走行用の変速装置30の前記無段変速装置35も、前記走行伝動軸24がポンプ軸になっているアキシャルプランジャ形で、かつ、可変容量形の前記油圧ポンプ36、及び、この油圧ポンプ36に駆動回路(図示せず)を介して接続されたアキシャルプランジャ形の油圧モータ37を備えて成り、エンジン7の出力がポンプ軸(走行伝動軸24)に入力されて油圧ポンプ36が駆動され、この油圧ポンプ36からの圧油によって油圧モータ37が駆動されてモータ軸38から出力する。
【0021】
各無段変速装置35のモータ軸38の一端側がミッションケース41の内部に配置して前記遊星変速装置40の太陽ギヤ42に一体回動自在に連結されおり、各無段変速装置35は、油圧ポンプ36の斜板操作軸でなる変速操作部39が操作されることにより、エンジン7からの駆動力を前進側と後進側の駆動力に変換してモータ軸38から出力して遊星変速装置40の太陽ギヤ42を前進側や後進側に回動駆動するように前進側や後進側の変速状態になったり、モータ軸38からの出力を停止して遊星変速装置40の太陽ギヤ42の駆動を停止するように中立状態になったりする。
【0022】
左走行用の変速装置30の前記遊星変速装置40も、右走行用の変速装置30の前記遊星変速装置40も、前記太陽ギヤ42、前記モータ軸38に相対回転自在に支持されているキャリヤ43、このキャリヤ43の回転方向での複数箇所に支軸を介して回転自在に支持されているとともに太陽ギヤ42に噛合っている遊星ギヤ44、各遊星ギヤ44に噛合っているリングギヤ45を備えて構成してある。
【0023】
各遊星変速装置40において、キャリヤ43は、このキャリヤ43の外周部の全周囲にわたって設けた外歯ギヤ部により、前記走行伝動軸24が一体回転自在に備えている伝動ギヤ24aに噛合っており、リングギヤ45は、リングギヤ45の側部から延出した回転軸46によって前記出力軸31に一体回動自在に連動されている。太陽ギヤ42は、モータ軸38に一体回転自在に連結されていることにより、各遊星変速装置40は、走行伝動軸24からキャリヤ43にエンジン出力が入力されてキャリヤ43が回動駆動され、無段変速装置35のモータ軸38からの出力が太陽ギヤ42に入力されて太陽ギヤ42が回転駆動されることによって各遊星ギヤ44が作動し、これによってリングギヤ45が回転駆動されてリングギヤ45から回転軸46を介して出力軸31に出力する。
【0024】
左走行用の変速装置30においても、右走行用の変速装置30においても、無段変速装置35の速度状態と、走行装置1の駆動速度(車速)との関係、及び、無段変速装置35が各速度状態に操作された場合における無段変速装置35と遊星変速装置40の動力比、すなわち、走行駆動軸24から遊星変速装置40にエンジン出力が入力されて走行装置1の駆動力となる動力GDと、無段変速装置35からの遊星変速装置40に入力されて走行装置1の駆動力となる動力HDとの比率が図3に示す如くなる状態に遊星変速装置40が作動するように遊星変速装置40のギヤ比を設定してある。
【0025】
すなわち、無段変速装置35が前進側の最高速度fmの変速状態に操作されると、遊星変速装置40のキャリヤ43とリングギヤ45とが同一の回転速度で回動駆動され、走行駆動軸24から遊星変速装置40に伝達される駆動力のみによって走行装置1が前進側に最高速度FMで駆動されるように、かつ、無段変速装置35が前進側の最高速度fmと中立状態nとの間の設定低速度faの変速状態に操作されると、遊星変速装置40が出力停止して走行装置1が停止されるように、さらに、無段変速装置35が前進側の前記設定低速度faと、中立状態nの間の変速状態に操作されると、遊星変速装置40が後進側の駆動力を出力して走行装置1が後進側に駆動されるように、さらに、無段変速装置35が中立状態nに操作されると、遊星変速装置40が後進側の最高速度の駆動力を出力し、無段変速装置35から遊星変速装置40に伝達される駆動力のみによって走行装置1が後進側に最高速度RMで駆動されるように設定してある。
【0026】
つまり、自走機体を走行させるに当たり、左走行用変速装置30の無段変速装置35の変速操作部39と、右走行用変速装置30の無段変速装置35の変速操作部39とを各別に操作し、両無段変速装置35を同一の速度状態になるように変速操作すると、左側の走行装置1と右側の走行装置1が共に前進側又は後進側に同一の駆動速度で駆動され、自走機体が前進側又は後進側に直進走行する。そして、両無段変速装置35を異なる速度状態になるように変速操作すると、左側の走行装置1と右側の走行装置1が異なる駆動速度で共に前進側や後進側に駆動されて、あるいは、同一の駆動速度であっても一方が前進側で他方が後進側に駆動されて、自走機体が旋回走行する。
尚、図2に示す油圧ポンプ70は、各無段変速装置35に作動油を補給するものである。
【0027】
図2に示すように、前処理伝動系に設けた前記変速装置50は、前記入力軸51に装着された油圧ポンプ56を備えた静油圧式無段変速装置55、この静油圧式無段変速装置55に連結されたミッションケース61の内部に位置する遊星変速装置60を備えて構成してある。
【0028】
前記無段変速装置55は、アキシャルプランジャ形で、かつ、可変容量形の前記油圧ポンプ56、及び、この油圧ポンプ56に駆動回路(図示せず)を介して接続されたアキシャルプランジャ形の油圧モータ57を備えて構成してある。図2に示すように、前記入力軸51が前記油圧ポンプ56のポンプ軸になっており、前記油圧モータ57のモータ軸58の一端側が前記ミッションケース61の内部に位置して前記遊星変速装置60の太陽ギヤ62に一体回動自在に連結されており、前記無段変速装置55は、エンジン7の出力がポンプ軸(入力軸51)に入力されて油圧ポンプ56が駆動され、この油圧ポンプ56からの圧油によって油圧モータ57を駆動してモータ軸58からの出力を遊星変速装置60の太陽ギヤ62に伝達する。
【0029】
すなわち、無段変速装置55は、油圧ポンプ56の斜板操作軸でなる変速操作部59が操作されることにより、エンジン7からの駆動力を正回転側と逆回転側の駆動力に変換してモータ軸58から出力して遊星変速装置60の太陽ギヤ62を正回転側や逆回転側に回動駆動するように正回転側や逆回転側の変速状態になったり、モータ軸58からの出力を停止して遊星変速装置60の太陽ギヤ62の駆動を停止するように中立状態になったりする。
【0030】
図2に示すように、前記遊星変速装置60は、前記太陽ギヤ62、前記モータ軸58に相対回転自在に支持されていて太陽ギヤ62と相対回転自在な状態になっているキャリヤ63、このキャリヤ63の周方向での複数箇所に支軸を介して回動自在に支持されているとともに太陽ギヤ62に噛合っている遊星ギヤ64、各遊星ギヤ64に噛合っているリングギヤ65を備えて構成してある。
【0031】
前記キャリヤ63は、このキャリヤ63の外周部の全周囲にわたって設けた外歯ギヤ部により、前記入力軸51が一体回転自在に備えている伝動ギヤ51aに噛合っており、リングギヤ65は、リングギヤ65の側部から延出した回転軸66によって前記出力軸52に一体回動自在に連動されている。太陽ギヤ62は、モータ軸58に一体回転自在に連結されていることにより、遊星変速装置60は、入力軸51からキャリヤ63にエンジン出力が入力されてキャリヤ63が回動駆動され、無段変速装置55のモータ軸58からの出力が太陽ギヤ62に入力されて太陽ギヤ62が回転駆動されることによって各遊星ギヤ64が作動し、これによってリングギヤ65が回動駆動されてリングギヤ65から回転軸66を介して出力軸52に出力する。
【0032】
無段変速装置55の速度状態と、遊星変速装置60の出力速度との関係が図4に示す如くなる状態に遊星変速装置60が作動するように遊星変速装置60のギヤ比を設定してある。
すなわち、無段変速装置55が正回転側と逆回転側のいずれに変速操作されても、遊星変速装置60が前処理部10を正回転方向に駆動する正回転駆動力を出力する状態になるように、かつ、無段変速装置55が正回転側の最高速度fmの変速状態に変速操作されると、遊星変速装置60が最高速度UMの正回転駆動力を出力する状態になるように、さらに、無段変速装置55が中立状態nに変速操作されると、遊星変速装置60が最高速度fmの1/2の回転速度UAの正回転駆動力を出力する状態になるように、さらに、無段変速装置55が逆回転側の最高速度rmの変速状態に変速操作されると、遊星変速装置60が出力停止状態になるように設定してある。
【0033】
つまり、無段変速装置55の変速操作部59を操作することによって前処理部10が変速駆動されるのであり、無段変速装置55を中立状態nに変速操作すると、前処理部10が最高速度の1/2の駆動速度で駆動され、無段変速装置55を中立状態nから正回転側に高速側に変速操作していくほど、前処理部10が増速して駆動され、無段変速装置55を前進側の最高速度fmの変速状態に変速操作すると、前処理部10が最高速度で駆動される。無段変速装置55を中立状態nから逆回転側に高速側に変速操作していくほど、前処理部10が減速して駆動され、無段変速装置55を逆回転側の最高速度rmの変速状態に変速操作すると、前処理部10が停止する。
【0034】
〔別実施例〕
図5は、別の実施形態を備えた走行用の変速装置30での、無段変速装置35の速度状態と、走行装置1の駆動速度(車速)との関係、及び、無段変速装置35が各速度状態に操作された場合における無段変速装置35と遊星変速装置40の前記動力比を示している。
【0035】
この変速装置30にあっては、無段変速装置35が前進側の最高速度fmの変速状態に操作されると、遊星変速装置40のキャリヤ43とリングギヤ45とがほぼ同一の回転速度で回動駆動され、走行駆動軸24から遊星変速装置40に伝達される駆動力と、無段変速装置35から遊星変速装置40に伝達される駆動力とによって走行装置1が前進側に最高速度FMで駆動されるように、かつ、無段変速装置35が前進側の最高速度fmと中立状態nとの間の設定低速度faの変速状態に操作されると、遊星変速装置40が出力停止して走行装置1が停止されるように、さらに、無段変速装置35が前進側の前記設定低速度faと、中立状態nの間の変速状態に操作されると、遊星変速装置40が後進側の駆動力を出力して走行装置1が後進側に駆動されるように、さらに、無段変速装置35が中立状態nに操作されると、遊星変速装置40が後進側の最高速度の駆動力を出力し、走行装置1が無段変速装置35から遊星変速装置40に伝達される駆動力のみで後進側に最高速度RMで駆動されるように、遊星変速装置40のギヤ比を設定してある。
【0036】
コンバインに備えられる伝動構造の他、人参や玉ねぎなどの各種作物を収穫する作業機に備えられる伝動構造にも本発明は適用することができる。従って、コンバイン、人参や玉ねぎを収穫する作業機などを総称して作業車と呼称する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】コンバイン全体の側面図
【図2】伝動構造の概略図
【図3】無段変速装置と動力比の関係を示す説明図
【図4】無段変速装置と遊星変速装置の速度関係を示す説明図
【図5】別の実施形態を備えた変速装置の無段変速装置と動力比の関係を示す説明図
【符号の説明】
【0038】
1 走行装置
35 静油圧式無段変速装置
40 遊星変速装置
42 太陽ギヤ
43 キャリヤ
45 リングギヤ
fm 静油圧式無段変速装置の最高速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン出力を左側の走行装置に伝達する左走行伝動系、及び、エンジン出力を右側の走行装置に伝達する右走行伝動系に、エンジン出力が入力される静油圧式無段変速装置、及び、エンジン出力が入力されるキャリヤを備えた遊星変速装置を設け、
前記両走行伝動系において、
前記静油圧式無段変速装置の出力が前記遊星変速装置の太陽ギヤに入力されるように、かつ、前記遊星変速装置のリングギヤから前記走行装置に出力されるように構成してある作業車の走行伝動構造。
【請求項2】
前記静油圧式無段変速装置が最高速度の変速状態になると、前記遊星変速装置の前記キャリヤと前記リングギヤとが同一又はほぼ同一の回転速度で回動するとともに前記リングギヤが前進駆動力を出力するように前記遊星変速装置を構成してある請求項1記載の作業車の走行伝動構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275104(P2006−275104A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92322(P2005−92322)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】