説明

作業車両

【課題】操向ハンドル10の回動操作に応じて走行機体を左又は右に旋回させる構成の作業車両において、走行機体の進行方向を修正する際に、操向ハンドル10を細かく切り足したり切り戻したりする手間をなくす。
【解決手段】操向ハンドル10のハンドルホイル部94に、走行機体の進行方向を微調節操作するためのステアリングスイッチ100を備える。ステアリングスイッチ100における左右方向の操作は、操向ハンドル10の回動操作に拘らず、常に許容される構成にする。すなわち、ステアリングスイッチ100と操向ハンドル10とは互いに独立的に操作し得るように構成する。そして、操向ハンドル10の単位操作量に対する走行機体1の旋回動作量は、ステアリングスイッチ100の単位操作量に対する走行機体1の旋回動作量と比べて格段に大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような作業車両に係り、より詳しくは、当該作業車両における走行機体を操向操作するための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業車両としてのコンバインにおいては、走行機体に搭載されたエンジンの動力を、直進用駆動手段や旋回用駆動手段を介して、左右の走行クローラに伝達するように構成されている。
【0003】
かかる構成のコンバインの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1のコンバインでは、直進用駆動手段の駆動出力量、すなわち走行機体の直進速度は、走行機体の操縦部に設けられた主変速レバーの操作量に応じて調節される。主変速レバーが中立位置にあれば、走行機体は直進しない。
【0004】
一方、旋回用駆動手段の駆動出力量、すなわち走行機体の進行(旋回)方向及び旋回速度は、操縦部のうち操縦座席の前方に立設された丸型の操向ハンドルの回動方向及び回動操作量に応じて調節される。
【特許文献1】特開平11−43068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、操向ハンドルの回動操作に応じて走行機体を左又は右に旋回させる構成では、圃場状況の悪さ(例えば湿田等)や操向ハンドルの回動操作に対する応答性等が影響して、走行機体の実際の旋回量とオペレータの操作感覚とがずれることも多い。
【0006】
この場合、オペレータは操向ハンドルを切り足したり切り戻したりして、走行機体の進行方向を修正するのであるが、方向修正が僅かであっても、操向ハンドルの切り足し・切り戻しを小刻みに行わざるを得ないため、方向修正に手間がかかって面倒であるし、作業性も悪いという問題があった。
【0007】
そこで、本願発明は、上記の問題を解消した作業車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を解決するため、請求項1の発明に係る作業車両は、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を作業部と走行部とに伝達するように構成されている一方、前記走行機体の進行方向を変更操作するための操向ハンドルを備えており、前記操向ハンドルのハンドルホイル部には、前記走行機体の進行方向を微調節操作するための手動入力手段を有しており、前記操向ハンドルの回動操作に拘らず、前記手動入力手段の操作を常に許容するように構成されているというものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記作業部への動力伝達を継断するための作業クラッチを備えており、前記作業クラッチが入り状態のときは前記手動入力手段の操作を許容し、前記作業クラッチが切り状態のときは前記手動入力手段の操作を規制するように構成されているというものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記操向ハンドルの回動操作位置を検出するための回動検出手段と、前記走行機体の進行方向を検出するための進行方向検出手段と、前記進行方向検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体の自動操向制御を実行するための制御手段とを備えており、前記制御手段は、前記自動操向制御の実行中に前記手動入力手段を操作したときは、当該手動入力操作が前記自動操向制御より優先するように制御するというものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記操向ハンドルの回動操作位置を検出するための回動検出手段と、前記走行機体の進行方向を検出するための進行方向検出手段と、前記進行方向検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体の自動操向制御を実行するための制御手段とを備えており、前記制御手段は、前記回動検出手段の検出情報にて、前記操向ハンドルが中立位置から左右の所定回動角度の範囲より大きく回動していると判断したときには、前記自動操向制御を実行しないというものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によると、走行機体の進行方向を変更操作するための操向ハンドルのハンドルホイル部には、前記走行機体の進行方向を微調節操作するための手動入力手段を有しており、前記操向ハンドルの回動操作に拘らず、前記手動入力手段の操作を常に許容するように構成されているから、前記操向ハンドルと前記手動入力手段との両方を操作すれば、前記操向ハンドルの回動操作量に応じた旋回動作量と、前記手動入力手段の操作量に応じた微小旋回動作量との総和の分だけ、前記走行機体の左右方向への旋回動作が実行されることになる。
【0013】
このため、例えば前記走行機体が直進しているとき(前記操向ハンドルが中立状態のとき)に前記手動入力手段を操作すれば、前記走行機体は当然に左又は右に微小旋回(微修正)できる。
【0014】
また、例えば前記操向ハンドルの回動操作中に前記手動入力手段を操作すれば、前記操向ハンドルの回動操作量に応じた旋回動作量に、前記手動入力手段の操作量に応じた微小旋回動作量の分を補完して、前記走行機体の左右方向への旋回動作を実行できる。つまり、回動操作中の前記操向ハンドルを細かく切り足したり切り戻したりしなくても、前記走行機体の旋回動作量の調節・修正を確実且つ簡単に実行できる。
【0015】
従って、オペレータにとって前記走行機体の進行方向の調節操作が極めて行い易く、操作性がよいという効果を奏する。
【0016】
請求項2の発明では、前記作業部への動力伝達を継断するための作業クラッチを備えており、前記作業クラッチが入り状態のときは前記手動入力手段の操作を許容し、前記作業クラッチが切り状態のときは前記手動入力手段の操作を規制する(機能させない)ように構成されている。
【0017】
前記作業クラッチが切り状態のときというのは、路上走行や畦越え等の非作業状態のとき、すなわち、作業中以外のときに相当する。このため、請求項2のように構成すると、路上走行等の非作業時に、前記手動入力手段に誤って触れたりしても、前記手動入力手段による前記走行機体の微小旋回動は実行されず、オペレータの意図に反して前記走行機体が予想外の方向を向くおそれを確実に抑制できる。従って、走行安全性が向上するという効果を奏する。
【0018】
請求項3の発明は、前記操向ハンドルの回動操作位置を検出するための回動検出手段と、前記走行機体の進行方向を検出するための進行方向検出手段と、前記進行方向検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体の自動操向制御を実行するための制御手段とを備えており、前記制御手段は、前記自動操向制御の実行中に前記手動入力手段を操作したときは、当該操作が前記自動操向制御より優先するように制御することを特徴としている。
【0019】
この構成によると、自動操向制御の実行中であっても前記手動入力手段を操作すれば、自動操向制御の状態とは関係なく、前記走行機体の微小旋回動を直ちに実行できる。従って、前記手動入力手段の操作性が格段に向上するという効果を奏する。
【0020】
請求項4の発明は、前記操向ハンドルの回動操作位置を検出するための回動検出手段と、前記走行機体の進行方向を検出するための進行方向検出手段と、前記進行方向検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体の自動操向制御を実行するための制御手段とを備えており、前記制御手段は、前記回動検出手段の検出情報にて、前記操向ハンドルが中立位置から左右の微小回動角度の範囲より大きく回動していると判断したときには、前記自動操向制御を実行しないことを特徴としている。
【0021】
この構成によると、例えば自動操向制御の実行中に、圃場の枕地(畦際)で前記走行機体を方向転換(通常旋回)させたりしても、自動操向制御に基づく前記走行機体の微小旋回動は実行されないことになる。このため、オペレータの意図に反して前記走行機体が蛇行したり予想以上に大きく左右旋回したりするおそれを低減できるから、スムーズに刈取脱穀作業を実行できると共に、走行安全性の向上にも寄与できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、作業車両としてのコンバインに適用した場合の図面(図1〜図14)に基づいて説明する。図1はコンバインの側面図、図2はコンバインの平面図、図3は刈取部における各装置の配置関係を示す概略正面図、図4は刈取部における前部の概略平面図、図5は走行機体前部の正面説明図、図6はコンバインにおける動力伝達系統のスケルトン図、図7はミッションケース内の動力伝達系統を示すスケルトン図、図8はコンバインの油圧回路図、図9は主変速レバー及び操向ハンドルと油圧式駆動装置との連結関係を模式的に示す説明図、図10は操縦部の平面図、図11は操向ハンドルの拡大平面図、図12はコントローラの機能ブロック図、図13は自動操向制御のフローチャート、図14は操向ハンドルの別例を示す拡大平面図である。
【0023】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
【0024】
実施形態における6条刈り用の自走自脱型コンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈C(未刈穀稈、図4参照)を刈り取りながら取り込む刈取部3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
【0025】
走行機体1には、フィードチェーン7付きの脱穀部6と、脱穀後の穀粒を貯留するための穀粒タンク8とが横並び状に搭載されている。実施形態では、脱穀部6が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク8が走行機体1の進行方向右側に配置されている。刈取部3や脱穀部6は特許請求の範囲に記載した作業部に相当する。
【0026】
刈取部3と穀粒タンク8との間には操縦部9が設けられている。操縦部9内には、走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作するための丸型の操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン12が配置されている。エンジン12の前方には、当該エンジン12からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース13が配置されている。
【0027】
刈取部3は、バリカン式の刈刃装置14、6条分の穀稈引起装置15、穀稈搬送装置16及び分草体17(実施形態では7つ)を備えている。刈刃装置14は、刈取部3の骨組を構成する刈取フレーム5の下方に配置されている。穀稈引起装置15は刈取フレーム5の上方に配置されている。穀稈搬送装置16は穀稈引起装置15とフィードチェーン7の前端部との間に配置されている。分草体17は穀稈引起装置15の下部前方に突設されている。刈取部3にて刈り取りられた刈取穀稈は、フィードチェーン7に受け継ぎ搬送され、脱穀部6にて脱穀処理される。
【0028】
脱穀部6の扱室には、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴18が内蔵されている。扱胴18の下方には、扱網やチャフシーブ等による揺動選別と唐箕ファンの風による風選別とを行うための選別装置20が配置されている。該選別装置20による選別を経て、走行機体1の下部にある一番受け樋(図示せず)に集められた精粒等の一番物は、一番コンベヤ及び揚穀コンベヤ(共に図示せず)を介して穀粒タンク8に集積される。
【0029】
枝梗付き穀粒等の二番物は、一番受け樋の後方にある二番受け樋及び還元コンベヤ(共に図示せず)を介して処理胴19に送られ、当該処理胴19にて再脱穀される。再脱穀後の二番物は選別装置20に戻されて再選別される。
【0030】
藁屑は、脱穀部6の後部に配置された吸引ファン(図示せず)に吸い込まれたのち、走行機体1の後部に形成された排出口から走行機体1の外部へ排出される。穀粒タンク8内の穀粒は、排出オーガ21を介して走行機体1の外部に搬出される。
【0031】
なお、フィードチェーン7の後端から排稈チェーン22(図2参照)に受け継がれた排稈は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、若しくは排稈カッタ(図示せず)にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0032】
(2).刈取部の構造
次に、主として図3及び図4を参照しながら、刈取部の構造について説明する。
【0033】
前述の通り、刈取部3は、バリカン式の刈刃装置14、6条分の穀稈引起装置15、穀稈搬送装置16及び分草体17を備えている。
【0034】
穀稈引起装置15は、分草体17を介して取り込んだ植立穀稈C(未刈穀稈)を起立させる引起タイン31を有する6条分の引起ケース30と、これら各引起ケース30の後方下部に配置されたスターホイル32及び掻き込みベルト33により構成されている。スターホイル32及び掻き込みベルト33は、これらの組に対応する引起タイン31にて引き起こされた未刈穀稈の根元部を後方に掻き込むためのものである。スターホイル32及び掻き込みベルト33にて掻き込まれた植立穀稈Cの根元部がバリカン式の刈刃装置14にて切断される。
【0035】
穀稈搬送装置16は、右下部搬送チェーン34及び右上部搬送タイン35と、中央下部搬送チェーン36及び中央上部搬送タイン37と、左下部搬送チェーン38及び左上部搬送タイン39と、縦搬送チェーン40と、縦搬送タイン41と、第1補助搬送チェーン42及び第2補助搬送チェーン43とを備えている。
【0036】
右下部搬送チェーン34及び右上部搬送タイン35は、右2条分の刈取穀稈を左斜め後方に搬送するためのものである。中央下部搬送チェーン36及び中央上部搬送タイン37は、中央2条分の刈取穀稈を後方に搬送して右下部搬送チェーン34及び右上部搬送タイン35の送り中間部近傍に合流させるためのものである。左下部搬送チェーン38及び左上部搬送タイン39は、左2条分の刈取穀稈を右斜め後方に搬送して右下部搬送チェーン34及び右上部搬送タイン35の送り終端部近傍に合流させるためのものである。
【0037】
縦搬送チェーン40は、右下部搬送チェーン34の送り終端部にて合流した6条分の刈取穀稈(以下、合流穀稈という)の根元部をフィードチェーン7に受け継ぎ搬送するためのものである。縦搬送タイン41は、右上部搬送タイン35の送り終端部にて合流した合流穀稈の穂先部を脱穀部6に搬送するためのものである。第1補助搬送チェーン42及び第2補助搬送チェーン43は、縦搬送チェーン40とフィードチェーン7との間で合流穀稈の根元寄り中途部の搬送を中継するためのものである。
【0038】
縦搬送チェーン40にて横倒しの姿勢で送られてきた合流穀稈の根元部は、第1及び第2補助搬送チェーン42,43を経由して、フィードチェーン7の始端部に受け継がれる。そして、当該合流穀稈の穂先部が脱穀部6における扱室内の扱胴18にて脱穀処理される。
【0039】
図4に示すように、7つの分草体17のうち右端から数えて2番目の分草体17の下面側には、左方向に突出して図4の平面視で反時計回り方向に回動可能な触角レバー52付きの左操向センサ50と、右方向に突出して図4の平面視で時計回り方向に回動可能な触角レバー53付きの右操向センサ51とが配置されている。
【0040】
左右の操向センサ50,51は、各触角レバー52,53が圃場の植立穀稈C(未刈穀稈)に接触しているか否かを感知することにより、走行機体1が所定の方向(例えば後述する条方向等)に沿って走行しているか否かを検出する接触式(リミットスイッチ式)のものである。
【0041】
両触角レバー52,53の先端間の距離は、圃場における条方向(田植時の植え付け方向、図4のX方向参照)の株間隔Lより短く設定されている。このため、走行機体1を条方向(図4のX方向)に進行させる条刈りのときに、左右の操向センサ50,51がほぼ同時に植立穀稈Cを感知することはない。なお、条方向の株間隔Lは30cm前後であるのが一般的である。左右の操向センサ50,51は、特許請求の範囲に記載した進行方向検出手段に相当する。
【0042】
図4に示すように、穀稈引起装置15の下部前端側には、刈取部3内に取り込まれた刈取穀稈が通過したか否かを検出するための穀稈通過センサ54(実施形態では3つ)が2条分の穀稈通過箇所毎に配置されている。穀稈通過センサ54も、前述した左右の操向センサ50,51と同様な接触式(リミットスイッチ式)のものである。すなわち、各穀稈通過センサ54から穀稈通過箇所に向けて突出した感知体55が刈取穀稈に接触しているか否かを感知することにより、刈取部3内に搬送途中の刈取穀稈があるか否かを検出するというものである。
【0043】
なお、図2及び図4に示すように、6条分の穀稈引起装置15のうち左右両端に位置した穀稈引起装置15の裏面側には、刈取部3の対地高さ(圃場面に対する刈取部3の高さ)を検出するための超音波センサ56が、発信器の発信部(ホーン部)と受信器の受信部とを圃場面に向けた状態で取り付けられている。刈取部3の対地高さは、超音波センサ56の検出値から求められる。超音波センサ56の設置高さと刈刃装置14の設置高さとが異なる場合には、超音波センサ56の検出値を基にした所定の換算にて、刈取部3の対地高さが求められる。
【0044】
また、詳細は図示していないが、刈取フレーム5のうち回動中心に近い基端部には、刈取部3の対機体高さ(走行機体1に対する刈取部3の相対高さ)を検出するための昇降ポジションセンサ57(図12参照)が取り付けられている。刈取部3の対機体高さは、昇降ポジションセンサ57で検出された刈取フレーム5の昇降回動角度から求められる。
【0045】
(3).コンバインの動力伝達系統
次に、図5〜図7を参照しながら、コンバインの動力伝達系統について説明する。
【0046】
実施形態の自走自脱型コンバインでは、エンジン12からの動力をミッションケース13内の油圧式駆動装置62等にて適宜変速し、ミッションケース13から左右外向きに突出した駆動出力軸24を介して左右の駆動輪25に出力するように構成されている。
【0047】
エンジン12は前後外向きに突出した出力軸60を備えている。エンジン12からの動力の一方は、出力軸60の前端から自在継手軸61及びミッションケース13の入力軸59を介してミッションケース13内の油圧式駆動装置62に伝達される。
【0048】
ミッションケース13内には、エンジン12からの動力を変速するための油圧式駆動装置62と、複数の変速段を有する副変速機構85と、左右一対の遊星ギヤ機構157等を有する差動ギヤ機構86とが内装されている(図7参照)。
【0049】
油圧式駆動装置62は、第1油圧ポンプ150及び第1油圧モータ151からなる直進用HST式変速機構63と、第2油圧ポンプ152及び第2油圧モータ153からなる旋回用HST式変速機構64とを備えている。
【0050】
出力軸60から油圧式駆動装置62に向かう動力は、第1油圧ポンプ150の直進用ポンプ軸65と第2油圧ポンプ152の旋回用ポンプ軸66とにそれぞれ伝達される。直進用HST式変速機構63においては、直進用ポンプ軸65に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ150から第1油圧モータ151に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用HST式変速機構64においては、旋回用ポンプ軸66に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ152から第2油圧モータ153に向けて作動油が適宜送り込まれる。
【0051】
なお、旋回用ポンプ軸66上には、各油圧ポンプ65,66及び油圧モータ67,68に作動油を供給するためのチャージポンプ179が取り付けられている。このチャージポンプ179は、旋回用ポンプ軸66と連動可能で、且つエンジン12の回転動力にて駆動するように構成されている。
【0052】
直進用HST式変速機構63においては、操縦部9に配置された主変速レバー131(詳細は後述する)のシフト位置や操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第1油圧ポンプ150における回転斜板180(図8参照)の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ151への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ151から左右に突出した直進用モータ軸67の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0053】
第1油圧モータ151における直進用モータ軸67の回転動力は、従来から周知の歯車機構からなる副変速機構85に伝達される一方、プーリ・ベルト伝動系及び刈取クラッチ82を介して、後述するカウンタケース72から走行機体1の中央側に突出した同調入力軸75(図6参照)にも分岐して伝達される。
【0054】
副変速機構85は、操縦部9に配置された副変速レバー132(詳細は後述する)の操作にて、直進用モータ軸67からの回転動力(回転方向及び回転数)の調節範囲を低速、高速及び中立という3段階の変速段に切り換え可能に構成されている。なお、副変速機構85の構成要素であるブレーキ軸154には、湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ手段155が設けられている。
【0055】
副変速機構85からの回転動力は、ブレーキ軸154に固着された副変速出力ギヤ156から差動ギヤ機構86に伝達される。差動ギヤ機構86は、左右一対の遊星ギヤ機構157と、これら遊星ギヤ機構157とブレーキ軸154との間に位置した中継軸158とを備えている。中継軸158の中央部に固着されたセンターギヤ159は、ブレーキ軸154の副変速出力ギヤ156と噛み合っている。中継軸158のうちセンターギヤ159を挟んで左右両側に固着されたサイドギヤ160は、各々対応するリングギヤ165(詳細は後述する)の外周面と噛み合っている。
【0056】
左右一対の遊星ギヤ機構157は左右対称状に形成されており、複数個の遊星ギヤ162を同一半径上に回転可能に軸支してなる左右一対のキャリヤ161を備えている。これら両キャリヤ161は、同一軸線上において適宜間隔を開けて相対向するように配置されている。
【0057】
左右両キャリヤ161の間に位置した太陽軸163の左右両側には太陽ギヤ部材164が回動可能に軸支されている。各太陽ギヤ部材164は、これに対応するキャリア161の各遊星ギヤ162と噛み合っている。太陽軸163における左右の端部は各キャリヤ161の回転中心部に位置した軸受けに回転可能に軸支されている。
【0058】
内周面の内歯と外周面の外歯とを有する左右一対のリングギヤ165は、その内歯を複数個の遊星ギヤ162に噛み合わせるようにして、太陽軸163と同心状に配置されている。各リングギヤ165は、キャリア161の外側面から左右外向きに突出した駆動出力軸24に、軸受けを介して回転可能に軸支されている。
【0059】
副変速機構85からの回転動力は、中継軸158における左右のサイドギヤ160を介して左右の遊星ギヤ機構157に伝達される。左右の遊星ギヤ機構157に伝達された回転動力は、各キャリヤ161の駆動出力軸24に同方向の同一回転数にて伝達される。
【0060】
他方、旋回用HST式変速機構64においては、操縦部9に配置された操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ152における回転斜板182(図8参照)の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ153への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ153から突出した旋回用モータ軸68の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0061】
旋回用モータ軸68には旋回出力ギヤ166が回転可能に軸支されている。また、旋回用モータ軸68の先端部には、これと旋回出力ギヤ166とを制動するための操向ブレーキ手段167が設けられている。
【0062】
第2油圧モータ153における旋回用モータ軸68の回転動力は、旋回用モータ軸68の旋回用出力ギヤ166から、操向クラッチ手段169を有するクラッチ軸168の伝動ギヤ170を介して、正転ギヤ171と逆転ギヤ172とに伝達される。正転ギヤ171は、太陽軸163回りに回転可能に軸支された左右一対の入力ギヤ173の一方(実施形態では右)と噛み合っている。逆転ギヤ172は他方の入力ギヤ173(実施形態では左)と噛み合っている。左右の入力ギヤ173は、それぞれ対応する太陽ギヤ部材164と一体的に回転するように構成されている。
【0063】
第2油圧モータ153の正回転(逆回転)により、正転ギヤ171及び右入力ギヤ173を介して、右太陽ギヤ部材164を所定回転数にて正回転(逆回転)させると、左太陽ギヤ部材164は、逆転ギヤ及び左入力ギヤを介して、右太陽ギヤ部材と同一回転数にて逆回転(正回転)する。そして、左右の太陽ギヤ部材164を介して左右の遊星ギヤ機構157に伝達された回転動力は、互いに逆方向の同一回転数にて左右のキャリヤ161の駆動出力軸24に伝達される。
【0064】
以上のことから分かるように、直進用モータ軸67や旋回用モータ軸68からの変速出力は、副変速機構85及び差動ギヤ機構86を経由して、左右の走行クローラ2の駆動輪25に伝達され、その結果、左右の走行クローラ2ひいては走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決まる。
【0065】
すなわち、旋回用モータ軸68の駆動を停止させた状態で直進用モータ軸67を正又は逆回転方向に駆動させると、直進用モータ軸67からの回転動力は、副変速機構85及び差動ギヤ機構86を経由して、左右の走行クローラ2の駆動輪25に同方向の同一回転数にて伝達され、走行機体1は直進走行する。この場合、直進用モータ軸67(直進用HST式変速機構63)が正回転方向に駆動すれば走行機体1は前進し、逆回転方向に駆動すれば走行機体1は後退することになる。
【0066】
逆に、直進用モータ軸67の駆動を停止させた状態で旋回用モータ軸68を正又は逆回転方向に駆動させると、旋回用モータ軸68から差動ギヤ機構86を経由した回転動力にて、左右の走行クローラ2の駆動輪25のうち一方が前進回転、他方が後退回転して、走行機体1はその場でスピンターンする。
【0067】
また、直進用モータ軸67を駆動させつつ旋回用モータ軸68を駆動させると、左右の走行クローラ2の駆動速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながらスピンターン旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回する。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の駆動速度差に応じて決定される。
【0068】
なお、直進用ポンプ軸65及び旋回用ポンプ軸66とミッションケース13の入力軸59との間で動力を中継するファン軸174には、ラジエータ用の冷却ファン175が取り付けられている。実施形態では、ファン軸174から伝達ギヤ機構176を介して、直進用ポンプ軸65と旋回用ポンプ軸66との両方に動力伝達するように構成されている。
【0069】
また、実施形態では、ファン軸174から伝達ギヤ機構176を経由して直進用ポンプ軸65に伝達された動力を、当該直進用ポンプ軸65に取り付けられた車速定速クラッチ177、車速定速機構178及び直進用モータ軸67を介して、副変速機構85に直接伝達し得るように構成されている。このため、車速定速クラッチ177を入り状態にすると、エンジン12からの動力は、直進用HST式変速機構63を経由することなく、副変速機構85に直接伝達され、その結果、エンジン12の定回転駆動にて走行機体1が一定の車速で走行する。
【0070】
一方、エンジン12からの他の動力は、出力軸60の後端から、排出オーガ21とエンジン12の一側方に配置されたカウンタケース72という2つの方向に分岐して伝達される。
【0071】
出力軸60から排出オーガ21に向かう分岐動力は、排出クラッチ69を介して穀粒タンク8内の底コンベヤ70及び縦コンベヤ(図示せず)に伝達され、次いで、排出オーガ21内の排出コンベヤ(図示せず)に動力伝達される。
【0072】
出力軸60からカウンタケース72に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ71を介してカウンタケース72の脱穀入力軸73に伝達され、この脱穀入力軸73から更に2つの方向に分岐して伝達される。
【0073】
脱穀入力軸73に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、扱胴6や処理胴19(図6では図示省略)の回転軸等に伝達され、扱胴6や処理胴19を回転駆動させる。脱穀入力軸73からの他の動力は、その中途部に設けられたべベルギヤ機構を介してカウンタケース72の定速回転軸74に伝達される。
【0074】
ここで、カウンタケース72は、前述した脱穀入力軸73及び定速回転軸74と、互いに定速回転軸74と平行状に延びる同調入力軸75、車速同調軸76、刈取伝動軸77及びFC入力軸78と、同調入力軸75と車速同調軸76とに関連させた刈取変速機構79と、定速回転軸74と車速同調軸76とに関連させた刈取定速機構80と、車速同調軸76とFC入力軸78とに関連させたFC変速機構81とを備えている。
【0075】
定速回転軸74に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、図示しない選別装置や排稈チェーン22(図6では図示省略)等に伝達される。定速回転軸74からの他の動力は、刈取部3が車速(走行速度)と同調して駆動しない場合に、刈取定速機構80を介して車速同調軸76に伝達され、この車速同調軸76から刈取伝動軸77を介して刈取部3の各装置14〜16に動力伝達される。
【0076】
一方、同調入力軸75には、直進用モータ軸67の回転動力の一部が作業クラッチとしての刈取クラッチ82を介して伝達される。同調入力軸75に伝わった回転動力は、刈取部3が車速と同調して駆動する場合に、ワンウェイクラッチ83及び刈取変速機構79を介して車速同調軸76に伝達され、車速同調軸76から刈取伝動軸77を介して刈取部3の各装置14〜16に動力伝達される。なお、ワンウェイクラッチ83は、直進用モータ軸67が正回転時のみ動力伝達するように構成されている。
【0077】
車速同調軸76に伝わった動力は、FC変速機構81及びFCクラッチ84を介してFC入力軸78に伝達され、このFC入力軸78からの動力伝達にてフィードチェーン7が回行駆動するように構成されている。
【0078】
(4).コンバインの油圧回路構造
次に、図8を参照しながら、コンバインの油圧回路構造について説明する。
【0079】
図8に示すコンバインの油圧回路190は、前述したチャージポンプ179と、第1油圧ポンプ150における回転斜板180の傾斜角度を変更調節するための主変速シリンダ191と、主変速シリンダ191への作動油の供給を調節するための手動変速バルブ192と、第1油圧ポンプ150の出力を所定量減速するための電磁中立バルブ193とを備えている。
【0080】
主変速シリンダ191は、手動変速バルブ192及び電磁中立バルブ193を介してチャージポンプ179に接続されている。手動変速バルブ192は、主に主変速レバー131にて切換操作可能に構成されている。電磁中立バルブ193は、主変速レバー131の中立操作に対応した電磁ソレノイド194の駆動にて自動的に切換作動する構成になっている。
【0081】
主変速レバー131の操作にて手動変速バルブ192を切換作動させると、主変速シリンダ191が伸縮作動して、第1油圧ポンプ150における回転斜板180の傾斜角度が変更され、第1油圧モータ151への作動油の吐出方向及び吐出量が変わる。その結果、第1油圧モータ151における直進用モータ軸67の回転方向及び回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする直進変速動作が実行される。
【0082】
また、回転斜板180の角度調節動作にて手動変速バルブ192が中立復帰するフィードバック動作も実行可能になっている。すなわち、主変速レバー131を中立操作したときは、この操作に応じて回転斜板180を中立状態に戻すと共に、電磁ソレノイド194の励磁にて電磁中立バルブ193を自動的に切換作動させることにより、第1油圧ポンプ150の出力を略零にする。その結果、第1油圧モータ151における直進用モータ軸67の回転駆動が停止する。
【0083】
チャージポンプ179には、電磁副変速バルブ195を介して、第1油圧モータ151における回転斜板181の傾斜角度を変更調節するための副変速シリンダ196が接続されている。
【0084】
この場合、副変速スイッチ(図示せず)の操作に呼応した電磁副変速バルブ195の自動切換作動にて副変速シリンダ196が伸縮作動して、第1油圧モータ151における回転斜板181の傾斜角度を強制的に変化させ、第1油圧モータ151の出力を高速又は低速に選択的に切り換えるように構成されている。
【0085】
電磁副変速バルブ195が中立状態のときは、油タンクでもあるミッションケース13に副変速シリンダ196が連通し、第1油圧モータ151における回転斜板181の傾斜角度を、第1油圧ポンプ150と第1油圧モータ151とをつなぐ閉回路197中の作動油だけで調節するように構成されている。
【0086】
コンバインの油圧回路190は、前述の構成に加えて、第2油圧ポンプ152における回転斜板182の傾斜角度を変更調節するための旋回シリンダ201と、旋回シリンダ201への作動油の供給を調節するための手動旋回バルブ202及び電磁自動操向バルブ203とを備えている。
【0087】
旋回シリンダ201は、手動旋回バルブ202及び電磁自動操向バルブ203を介してチャージポンプ179に接続されている。手動旋回バルブ202は、主に操向ハンドル10にて切換操作可能に構成されている。電磁自動操向バルブ203は、左右の操向ソレノイド204,205の駆動にて自動的に切換作動する構成になっている。
【0088】
操向ハンドル10の回動操作にて手動旋回バルブ202を切換作動させると、旋回シリンダ201が伸縮作動して、第2油圧ポンプ152における回転斜板182の傾斜角度が変更され、第2油圧モータ153への作動油の吐出方向及び吐出量が変わる。その結果、第2油圧モータ153における旋回用モータ軸68の回転方向及び回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする左右旋回動作が実行される。
【0089】
また、この場合も、回転斜板182の角度調節動作にて手動旋回バルブ202が中立復帰するフィードバック動作を実行可能になっている。すなわち、操向ハンドル10の回動操作位置が後述する中立位置N(図11参照)にあるときは、回転斜板182を中立状態に戻して第2油圧ポンプ152の出力を略零にすることにより、操向ハンドル10の回動操作による第2油圧モータ153の回転駆動が停止する。
【0090】
操向ハンドル10の回動操作位置が後述する中立領域NE(図11参照)内にある場合は、操向ハンドル10の回動操作に対する応答性等の影響で、手動旋回バルブ202がほとんど機能(切換作動)せず、走行機体1は操向ハンドル10の回動操作量に比例しての旋回動作を実行しない。
【0091】
かかる場合において、左右の操向ソレノイド204,205の励磁にて電磁自動操向バルブ203を自動的に切換作動させると、旋回シリンダ201が伸縮作動して、第2油圧ポンプ152における回転斜板182の傾斜角度が変更され、第2油圧モータ153への作動油の吐出方向及び吐出量が変わる。その結果、第2油圧モータ153における旋回用モータ軸68の回転方向及び回転数を変更する進行方向修正動作が実行される。
【0092】
他方、実施形態では、主変速レバー131を中立位置以外の位置に傾動操作した状態で、操向ハンドル10を中立位置N以外の位置に回動操作すると、主変速レバー131の操作方向及び操作量に比例して第1油圧ポンプ150ひいては第1油圧モータ151の出力を正逆方向に増減させると共に、主変速レバー131の操作量に比例して第2油圧ポンプ152ひいては第2油圧モータ153の出力も変更するように構成されている。この場合は、主変速レバー131を高速側に操作するほど走行機体1の旋回半径が小さくなり、走行機体1が、車速に関係なく、常に操向ハンドル10の回動操作量に応じた大きさの旋回半径で左又は右に旋回する設定になっている。
【0093】
また逆に、操向ハンドル10の回動操作量に比例して、各油圧ポンプ150,151ひいては各油圧モータ152,153の出力を変更するようにも構成されている。この場合は、操向ハンドル10の回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど走行機体1の車速が減速する設定になっている。
【0094】
なお、主変速レバー131が中立位置にあるときは、操向ハンドル10を回動操作しても、手動旋回バルブ202を中立状態に維持して第2油圧ポンプ152の出力を略零にすることにより、第2油圧モータ153の回転駆動を阻止するように構成されている。
【0095】
ところで、コンバインの油圧回路190は、前述の構成に加えて、刈取変速機構79の構成要素である刈取変速スライダ(図示せず)を作動させるための刈取変速シリンダ206と、刈取定速機構の構成要素である切換スライダ(図示せず)を作動させるための刈取定速シリンダ207と、脱穀クラッチ71を入り切り作動させるための脱穀シリンダ208と、車速定速クラッチ177を入り切り作動させるための車速定速シリンダ209とを備えている。
【0096】
チャージポンプ179には、刈取変速シリンダ206、刈取定速シリンダ207、脱穀シリンダ208及び車速定速シリンダ209がそれぞれバルブ210〜213を介して並列に接続されている。チャージポンプ179と刈取変速シリンダ206との間には、刈取変速バルブ210が配置されており、チャージポンプ179と刈取定速シリンダ207との間には刈取定速バルブ211が配置されている。チャージポンプ179と脱穀シリンダ208との間には脱穀バルブ212が配置されており、チャージポンプ179と車速定速シリンダ209との間には車速定速バルブ213が配置されている。
【0097】
(5).主変速レバー及び操向ハンドルと油圧式駆動手段との連結構造
次に、図9を参照しながら、主変速レバー及び操向ハンドルと油圧式駆動装置との連結構造について説明する。
【0098】
操縦部9に配置された主変速レバー131は、中継リンク機構219を介して、後述するステアリングコラム90(図10参照)内に配置された機械的切換手段220に連動連結されている。また、操向ハンドル10を下方から支持するハンドル軸92も機械的切換手段220に連動連結されている。
【0099】
実施形態の機械的切換手段220は、
1.主変速レバー131を中立位置以外の位置に傾動操作した状態で、操向ハンドル10を中立位置N以外の位置に回動操作すると、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど走行機体1の車速(前進及び後退時の旋回速度)が減速する、
2.主変速レバー131を前進及び後退のいずれの方向に傾動操作した場合でも、操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致する(操向ハンドル10を右に回せば走行機体1は右旋回し、操向ハンドル10を左に回せば走行機体1は左旋回する)、
3.主変速レバー131が中立位置にあるときは操向ハンドル10を操作しても機能しない、
という各種動作を実行するために、主変速レバー131や操向ハンドル10からの操作力を適宜変換して、ステアリングコラム90の下端部に回動可能に配置された縦長の二重軸221に伝達するように構成されている。
【0100】
なお、機械的切換手段220自体は本願発明と直接的に関係しないので詳述しないが、必要であれば特開2002−274421号公報等を参照されたい。
【0101】
機械的切換手段220に関連付けられた二重軸221は、互いに独立して回動可能な直進用外筒軸222と旋回用内軸223とにより縦長同心状に形成されている。直進用外筒軸222は、ミッションケース13の一側面から外向きに突出した直進用回動軸225に、直進用リンク機構224を介して連動連結されている。一方、旋回用内軸223は、ミッションケース13の他側面から外向きに突出した旋回用回動軸227に、旋回用リンク機構226を介して連動連結されている。
【0102】
ここで、直進用回動軸225は、直進用HST式変速機構63における第1油圧ポンプ150の回転斜板180の傾斜角度を調節するためのものであり、直進用HST式変速機構63の変速出力を調節する調節部として機能する。旋回用回動軸227は、旋回用HST式変速機構64における第2油圧ポンプ152の回転斜板182の傾斜角度を調節するためのものであり、旋回用HST式変速機構64の変速出力を調節する調節部として機能する。
【0103】
直進用リンク機構224は、ミッションケース13の上面にブラケット228を介して固定された支持筒229に回動可能に挿入された横支軸230、直進用外筒軸222に突設された直進用回動アーム231と横支軸230の一端(実施形態では右端)に固着された直進用第1揺動アーム232とをつなぐ直進用中継杆233、並びに、横支軸230の他端(実施形態では左端)に固着された直進用第2揺動アーム234と直進用回動軸225に取り付けられた直進用操作アーム235とをつなぐ直進用連動杆236とを備えている。
【0104】
直進用中継杆233の一端部(実施形態では前端部)は、直進用外筒軸222側の直進用回動アーム231に、縦向きの枢着ピン237にて回動可能に枢着されている。直進用中継杆233の他端部(実施形態では後端部)は、横支軸230側の直進用第1揺動アーム232に、左右横向きの枢着ピン238を介して回動可能に枢着されている。
【0105】
直進用連動杆236の一端部(実施形態では上端部)は、横支軸230側の直進用第2揺動アーム234に、左右横向きの枢着ピン239にて回動可能に枢着されている。直進用連動杆236の他端部(実施形態では下端部)は、直進用回動軸225側の直進用操作アーム235に、前後横向きの枢着ピン240を介して回動可能に枢着されている。
【0106】
主変速レバー131を中立位置から前方に傾動操作した場合は、中継リンク機構219を介して機械的切換手段220が直進用外筒軸222及び直進用回動アーム231を旋回用内軸223回りの矢印SA方向に一体的に回動させることにより、直進用中継杆233が前方に引っ張られて(移動して)、直進用第1揺動アーム232、横支軸230及び直進用第2揺動アーム234が横支軸220回りの矢印SB方向に一体的に回動する。
【0107】
そして、直進用第2揺動アーム234が矢印SB方向への回動移動にて直進用連動杆236を引き上げることにより、直進用操作アーム235ひいては直進用回動軸225が矢印SC方向(前進増速方向(又は後退減速方向))に回動する。その結果、走行機体1は主変速レバー131の前向き傾動操作量に比例して前進動作を実行する。
【0108】
反対に、主変速レバー131を中立位置から後方に傾動操作した場合は、中継リンク機構219を介して機械的切換手段220が直進用外筒軸222及び直進用回動アーム231を矢印SD方向に一体的に回動させることにより、直進用中継杆233が後方に移動して、直進用第1揺動アーム232、横支軸230及び直進用第2揺動アーム234が先ほどとは逆の矢印SE方向に一体的に回動する。
【0109】
そして、直進用第2揺動アーム234が矢印SE方向への回動移動にて直進用連動杆236を押し下げることにより、直進用操作アーム235ひいては直進用回動軸225が矢印SF方向(後退増速方向(又は前進減速方向))に回動する。その結果、走行機体1は主変速レバー131の後ろ向き傾動操作量に比例して後退動作を実行する。
【0110】
一方、旋回用リンク機構226は、横支軸230における支持筒229からの突出部位に回動可能に被嵌された回動筒241、旋回用内軸223に突設された旋回用回動アーム242と回動筒241に突設された略棒状の旋回用第1揺動アーム243とをつなぐ旋回用中継杆244、並びに、回動筒241に突設された旋回用第2揺動アーム245と旋回用回動軸227に取り付けられた旋回用操作アーム246とをつなぐ旋回用連動杆247とを備えている。
【0111】
旋回用中継杆244の一端部(実施形態では前端部)は、旋回用内軸223側の旋回用回動アーム242に、縦向きの枢着ピン248にて回動可能に枢着されている。旋回用中継杆244の他端部(実施形態では後端部)は、回動筒241側の旋回用第1揺動アーム243に、左右横向きの枢着ピン249を介して回動可能に枢着されている。
【0112】
旋回用連動杆247の一端部(実施形態では上端部)は、回動筒241側の旋回用第2揺動アーム245に、左右横向きの枢着ピン250にて回動可能に枢着されている。旋回用連動杆247の他端部(実施形態では下端部)は、旋回用回動軸227側の旋回用操作アーム246に、前後横向きの枢着ピン251を介して回動可能に枢着されている。
【0113】
例えば主変速レバー131を前傾させた状態で操向ハンドル10を左方向に回動操作した場合は、ハンドル軸92を介して機械的切換手段220が旋回用内軸223及び旋回用回動アーム242を矢印TA方向に一体的に回動させることにより、旋回用中継杆244が前方に引っ張られて、旋回用第1揺動アーム243、回動筒241及び旋回用第2揺動アーム245が横支軸230回りの矢印TB方向に一体的に回動する。
【0114】
そして、旋回用第2揺動アーム245が矢印TB方向への回動移動にて旋回用連動杆247を引き上げることにより、旋回用操作アーム246ひいては旋回用回動軸227が矢印TC方向(前進左旋回方向)に回動する。その結果、走行機体1は操向ハンドル10の左方向への回動操作量に比例して左旋回動作を実行する。
【0115】
この場合、直進用リンク機構224は、機械的切換手段220の作用により、操向ハンドル10の左方向への回動操作量に比例して直進用回動軸225を矢印SF方向(前進減速方向)に回動させ、そのときの旋回半径に対応して走行機体1の前進旋回速度を減速させる。
【0116】
反対に、主変速レバー131を前傾させた状態で操向ハンドル10を右方向に回動操作した場合は、ハンドル軸92を介して機械的切換手段220が旋回用内軸223及び旋回用回動アーム242を矢印TD方向に一体的に回動させることにより、旋回用中継杆244が後方に移動して、旋回用第1揺動アーム243、回動筒241及び旋回用第2揺動アーム245が先ほどとは逆の矢印TE方向に一体的に回動する。
【0117】
そして、旋回用第2揺動アーム245が矢印TE方向への回動移動にて旋回用連動杆247を押し下げることにより、旋回用操作アーム246ひいては旋回用回動軸227が矢印TF方向(前進右旋回方向)に回動する。その結果、走行機体1は操向ハンドル10の右方向への回動操作量に比例して右旋回動作を実行する。
【0118】
この場合も、直進用リンク機構224は、機械的切換手段220の作用により、操向ハンドル10の右方向への回動操作量に比例して直進用回動軸225を矢印SF方向(前進減速方向)に回動させ、そのときの旋回半径に対応して走行機体1の前進旋回速度を減速させる。
【0119】
なお、主変速レバー131を後傾させた状態で操向ハンドル10を左右に回動操作した場合は、旋回用リンク機構226及び直進用リンク機構224の動作がそれぞれ前記態様の逆になる。すなわち、前進左旋回時の両リンク機構226,224の動作は後退右旋回時のそれと同じである一方、前進右旋回時の両リンク機構226,224の動作は後退左旋回時のそれと同じに設定されている。
【0120】
(6).操縦部内の各種操作手段の構成
次に、主として図10及び図11を参照しながら、操縦部9内に配置された各種操作手段について説明する。
【0121】
操縦部9における操縦座席11の前方には、縦長のステアリングコラム90と、このステアリングコラム90から左右横向きに延びるフロントパネル体91とが配置されている。ステアリングコラム90から上向きに突出したハンドル軸92(図9及び図11参照)には、走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作するための丸型の操向ハンドル10が取り付けられている。
【0122】
操向ハンドル10の回動操作位置が中立位置N(直進位置ともいう)から左右に第1微小回動角度の範囲内、すなわち図11に示す中立領域NEにあるときは、油圧回路190の手動旋回バルブ202はほとんど機能(切換作動)せず、走行機体1は操向ハンドル10の回動操作量に比例しての旋回動作を実行しない(いわゆる遊びの状態を維持する)ように構成されている。
【0123】
そして、操向ハンドル10の回動操作位置が中立領域Nより外側の通常旋回領域LT,RT(図11参照)にあるときは、手動旋回バルブ202が切換作動して、走行機体1が操向ハンドル10の回動操作量に比例しての旋回動作を行うように構成されている。いうまでもないが、操向ハンドル10から手を離せば、当該操向ハンドル10は中立位置Nに自動的に復帰するように構成されている。
【0124】
実施形態では、中立領域NEの角度範囲が中立位置Nを挟んで左右に15°ずつ(計30°)程度の大きさに設定されている。また、操向ハンドル10の回動可能範囲は中立位置Nを挟んで左右に約135°ずつ程度の大きさに設定されている(図11参照)。
【0125】
ステアリングコラム90内には、操向ハンドル10の回動操作位置(回動操作量でもよい)を検出するための回動検出手段としての回動位置センサ93や、操向ハンドル10が中立位置Nにあるか否かを検出するための直進センサ99がハンドル軸92に関連させて設けられている(図12参照)。実施形態の回動位置センサ93は、ロータリエンコーダ式又はロータリポテンショメータ式のものである。
【0126】
操向ハンドル10における略環状のハンドルホイル部94の内側には、液晶表示装置96等を有するセンターパネル体95が配置されている。なお、センターパネル体95はステアリングコラム90にのみ固定されていて、操向ハンドル10には連結していないので、操向ハンドル10を回動操作しても、センターパネル体95ひいては液晶表示装置96は動かず、常にオペレータから画面が見易い状態になっている。
【0127】
ハンドルホイル部94における左右一方(実施形態では右側)にある握り部の上面には、手動入力手段としてのステアリングスイッチ100が設けられている。このステアリングスイッチ100は、前後及び左右方向(十字方向)に操作可能に構成されたいわゆる十字方向型スイッチである。
【0128】
実施形態のステアリングスイッチ100は、これを前方に押し操作している間、枕地(畦際)での走行機体1の方向転換に必要な高さ位置まで刈取部3を強制上昇させる強制リフト動作を実行し、後方に押し操作している間は、刈取部3を所定の刈高さ位置に強制下降させる強制セット動作を実行するように構成されている。
【0129】
ステアリングスイッチ100を左又は右に押し操作している間は、左又は右の操向ソレノイド204,205の励磁により油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203(図8及び図12参照)が作動して、走行機体1を左又は右に微小旋回(微修正)させるように構成されている。
【0130】
ステアリングスイッチ100における左右方向の操作は、操向ハンドル10の回動操作に拘らず、常に許容される構成になっている。すなわち、ステアリングスイッチ100と操向ハンドル10とは、互いに独立的に操作し得る(別々に操作し得る)ように構成されている。その上、操向ハンドル10の単位操作量に対する走行機体1の旋回動作量は、ステアリングスイッチ100の単位操作量に対する走行機体1の旋回動作量と比べて格段に大きく設定されている。
【0131】
従って、操向ハンドル10とステアリングスイッチ100との両方を操作すれば、油圧回路190中の手動旋回バルブ202と電磁自動操向バルブ203との両方が切換作動して、操向ハンドル10の回動操作量に応じた旋回動作量と、ステアリングスイッチ100の押下操作量に応じた微小旋回動作量との総和の分だけ、走行機体1の左右方向への旋回動作が実行される。換言すると、走行機体1は、操向ハンドル10の回動操作量に応じた旋回動作量よりも、ステアリングスイッチ100の押下操作量に応じた微小旋回動作量の分だけ、大きく又は小さく旋回するのである。
【0132】
このように構成すると、操向ハンドル10の回動操作位置が中立領域NE内にあるときに、ステアリングスイッチ100を左又は右に押し操作すれば、これに応じて走行機体1が左又は右に微小旋回(微修正)するから、かかる左右への押し操作により、刈取部3の分草体17を圃場の植立穀稈C列に沿わせる条合せ動作を実行できる。
【0133】
また、操向ハンドル10の回動操作位置が通常旋回領域LT,RTにあるとき(中立領域NEから外れているとき)に、ステアリングスイッチ100を左又は右に操作すれば、操向ハンドル10の回動操作量に応じた旋回動作量に、ステアリングスイッチ100の押下操作量に応じた微小旋回動作量の分を補完して、走行機体1の左右方向への旋回動作を実行できる。つまり、回動操作中の操向ハンドル10を細かく切り足したり切り戻したりしなくても、走行機体1の旋回動作量の調節・修正を確実且つ簡単に実行できる。従って、オペレータにとって走行機体1の進行方向の調節操作が極めて行い易く、操作性がよいという効果を奏する。
【0134】
ところで、ハンドルホイル部94のステアリングスイッチ100に関しては、刈取クラッチ82が入り状態のときはステアリングスイッチ100における左右方向の操作を許容し、刈取クラッチ82が切り状態のときはステアリングスイッチ100における左右方向の操作を規制する(機能しない)ように構成されている。
【0135】
ここで、ステアリングスイッチ100における左右方向の操作を規制する(機能しない)とは、ステアリングスイッチ100を左又は右に操作しても、油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203を切換作動させないことと、ステアリングスイッチ100の左右方向の操作自体を不能にすることとを含んだ表現(意味)である。実施形態では、刈取クラッチ82が入り状態であれば、油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203を切換作動させず、中立状態に維持するように構成されている。
【0136】
刈取クラッチ82が切り状態のときというのは、クラッチレバー133をガイド溝135における左右溝部135aの左端位置に傾動させたときであり、クラッチレバー133をかかる位置に傾動させておくのは、路上走行や畦越え等の非農作業状態のとき、すなわち、刈取脱穀作業中以外のときである。
【0137】
このため、路上走行等の非農作業時に、ステアリングスイッチ100を誤って左右方向に操作したりしても、ステアリングスイッチ100による走行機体1の微小旋回動は実行されず、オペレータの意図に反して走行機体1が予想外の方向を向くおそれを確実に抑制できる。従って、走行安全性が向上するという効果を奏する。
【0138】
一方、ステアリングスイッチ100における前後方向の操作も、操向ハンドル10の回動操作位置が中立領域NEにあるときにのみ許容される設定になっている。すなわち、操向ハンドル10の回動操作位置が中立領域NEにあるときにのみ、ステアリングスイッチ100における前後方向の操作にて、強制リフト動作や強制セット動作が実行される。いうまでもないが、ステアリングスイッチ100から手指を離せば、当該ステアリングスイッチ100は自らの中立位置に自動復帰するように構成されている。
【0139】
なお、ハンドルホイル部94における他方(実施形態では左側)にある握り部の上面には、警笛102(ホーン、図12参照)を鳴らす操作を行うためのホーンスイッチ103が設けられている。
【0140】
左右のフロントパネル体91上には、操作用の各種スイッチ類及び設定用のダイヤル類が複数配置されている。例えば左側のフロントパネル体91上には、自動刈高さスイッチ104、刈高さ設定ダイヤル105、選別調節ダイヤル106、及び自動操向スイッチ107等が配置されている。自動刈高さスイッチ104は、刈取部3を所定の刈高さ位置に維持する自動刈高さ制御の入り切りを操作するためのものである。刈高さ設定ダイヤル105は、自動刈高さ制御時の刈高さ位置を設定操作するためのものである。選別調節ダイヤル106は、選別装置20における穀粒の選別状態を調節操作するためのものである。自動操向スイッチ107は、走行機体1を圃場の植立穀稈C列に沿わせて走行させる自動操向制御の入り切りを操作するためのものである。
【0141】
右側のフロントパネル体91上には、自動車速スイッチ108、自動水平スイッチ109、傾斜設定ダイヤル110、及び自動扱ぎ深さスイッチ111等が配置されている。自動車速スイッチ108は、エンジン12の過負荷時に車速を減速して刈取部3や脱穀部6の回転駆動を一定に保持する自動車速制御の入り切りを操作するためのものである。自動水平スイッチ109は、走行機体1を左右水平な姿勢に維持する自動水平制御の入り切りを操作するためのものである。傾斜設定ダイヤル110は、走行機体1の左右傾斜角度を設定操作するためのものである。自動扱ぎ深さスイッチ111は、脱穀部6に対する刈取穀稈の扱ぎ深さ位置を所定位置に維持する自動扱ぎ深さ制御の入り切りを操作するためのものである。
【0142】
なお、いずれのスイッチ104,107,108,109,111も、1回の押下で1つのONパルス信号を発するプッシュスイッチ(モーメンタリスイッチ)であり、ノンロックタイプのものである。各スイッチ104,107,108,109,111を1回押下して入り操作したときは、その上方にあるスイッチランプ114,117,118,119,121が点灯し、もう1回押下して切り操作したときは、スイッチランプ114,117,118,119,121が消灯するように構成されている。
【0143】
操縦座席11の一側方(実施形態では左側)には、前後に長いサイドパネル体130が配置されている。このサイドパネル体130上には、前方から順に、主変速レバー131、副変速レバー132及びクラッチレバー133が配置されている。
【0144】
主変速レバー131は、走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものであり、サイドパネル体130における平面視クランク状のガイド溝134に沿って前後傾動可能に構成されている。
【0145】
主変速レバー131をほぼ垂直な姿勢の中立位置(停止位置)から前方に倒すと、走行機体1は前進する。主変速レバー131の前方への倒れ角度が大きいほど、走行機体1の前進速度が速くなる。反対に、主変速レバー131を中立位置から後方に倒すと、走行機体1は後退する。主変速レバー131の後方への倒れ角度が大きいほど、走行機体1の後退速度が速くなる。
【0146】
副変速レバー132は、作業状態に応じて油圧式駆動装置62の副変速機構85を変更操作して、油圧式駆動装置62の出力及び回転数を所定範囲に設定保持するためのものである。副変速レバー132も前後傾動可能に構成されている。
【0147】
クラッチレバー133は、刈取部3の動力継断操作用のレバーと脱穀部6の動力継断操作用のレバーとを1本で兼ねたものであり、サイドパネル130における平面視略L字状のガイド溝135に沿って左右及び前後方向に傾動可能に構成されている。
【0148】
実施形態のクラッチレバー133は、ガイド溝135における左右溝部135aの左端位置に傾動させると刈取クラッチ82及び脱穀クラッチ71(図6参照)が共に切り状態となり、左右溝部135aの右端位置(前後溝部135bの後端位置でもある)に傾動させると脱穀クラッチ71のみが入り状態となり、前後溝部135bの前端位置に傾動させると両クラッチ82,71とも入り状態となるように構成されている。
【0149】
(7).制御手段の構成
次に、図12を参照しながら、走行機体1の条合せ動作や自動操向制御を実行するための構成について説明する。
【0150】
詳細は図示していないが、制御手段としてのマイクロコンピュータ等のコントローラ140は、各種演算処理や制御を実行するための中央処理装置(CPU)、制御プログラムやデータを記憶させるための読み出し専用メモリ(ROM)、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるための随時読み書き可能メモリ(RAM)、タイマ機能としてのクロック、各入出力系機器(センサやアクチュエータ等)とデータのやり取りをする入出力インターフェイス(図示せず)等を備えている。
【0151】
コントローラ140の入力インターフェイスには、操向ハンドル10の回動検出手段としての回動位置センサ93、直進センサ99、手動入力手段としてのステアリングスイッチ100、ホーンスイッチ103、主変速レバー131、副変速レバー132、クラッチレバー133、自動刈高さスイッチ104、刈高さ設定ダイヤル105、選別調節ダイヤル106、自動操向スイッチ107、自動車速スイッチ108、自動水平スイッチ109、傾斜設定ダイヤル110、自動扱ぎ深さスイッチ111、これら各スイッチ104,107,108,109,111に対応したスイッチランプ114,117,118,119,121、コンバイン全体の電源を入り切り操作するための電源スイッチ136、左右の操向センサ50,51、3つの穀稈通過センサ54、左右の超音波センサ56、及び、昇降ポジションセンサ57等がそれぞれ接続されている。
【0152】
他方、コントローラ140の出力インターフェイスには、電磁自動操向バルブ203を切換作動させるための左右の操向ソレノイド204,205、刈取クラッチアクチュエータを駆動させるための刈取駆動回路137、脱穀シリンダ208を駆動させるための脱穀駆動回路138、油圧シリンダ4を駆動させるための昇降駆動回路139、液晶表示装置96、及び、警笛102(ホーン)等がそれぞれ接続されている。
【0153】
(8).自動操向制御の態様
次に、図13に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の自動操向制御の一例について説明する。
【0154】
まず、スタートに続いて、クラッチレバー133がガイド溝135における前後溝部135bの前端位置(刈取部3への動力継ぎ位置)にあるか否か、すなわち、刈取クラッチ82が入り状態か否かを判別する(ステップS1)。
【0155】
クラッチレバー133がガイド溝135における前後溝部135bの前端位置以外の位置にあるときは(S1:NO)、刈取クラッチ82は切り状態であるからリターンする。クラッチレバー133がガイド溝135における前後溝部135bの前端位置にあるときは(S1:YES)、刈取クラッチ82は入り状態であるから、次いで、回動位置センサ93にて検出された操向ハンドル10の回動操作位置が、中立位置Nを挟んで左右の第2微小回動角度の範囲内、すなわち図11に示す自動操向可能領域ASにあるか否かを判別する(ステップS2)。
【0156】
この場合、自動操向可能領域ASの角度範囲は中立位置Nを挟んで左右に10°ずつ(計20°)程度の大きさに設定されているが、当該角度範囲は中立領域NEの角度範囲以下であればよく、中立領域NEの角度範囲と一致していても差し支えない。
【0157】
ステップS2において、操向ハンドル10の回動操作位置が自動操向可能領域ASから外れているときは(S2:NO)、操向ハンドル10を通常旋回領域LT,RT又はこれに近いところまで回動操作した状態、換言すると、操向ハンドル10が自動操向可能領域ASより大きく回動した状態であるから、操向ハンドル10の回動操作量に基づいて油圧回路190中の手動旋回バルブ202を作動させて、走行機体1の左右方向への旋回動作を実行し(ステップS3)、その後リターンする。
【0158】
ステップS2において、操向ハンドル10の回動操作位置が自動操向可能領域ASにあるときは(S2:YES)、操向ハンドル10を回動操作していない状態であるから、次いで、ステアリングスイッチ100を左又は右方向に操作したか否かを判別する(ステップS4)。
【0159】
ステアリングスイッチ100を左方向に操作したときは(S4:左)、油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203を自動的に切換作動させて、走行機体1を左方向に微小旋回させる条合せ動作を実行し(ステップS5)、その後リターンする。また、ステアリングスイッチ100を右方向に操作したときは(S4:右)、油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203を自動的に切換作動させて、走行機体1を右方向に微小旋回させる条合せ動作を実行し(ステップS6)、その後リターンする。
【0160】
ステアリングスイッチ100を左右いずれの方向にも操作していないときは(S4:OFF)、次いで、操縦部9内の自動操向スイッチ107が入り状態か否かを判別する(ステップS7)。
【0161】
自動操向スイッチ107が切り状態であれば(S7:NO)、リターンする。自動操向スイッチ107が入り状態であれば(S7:YES)、コントローラ140は走行機体1が自動操向可能な状態(直進状態)にあると判断し、以後のステップにおいて、左右の操向センサ50,51の検出情報に応じて走行機体1を圃場の植立穀稈C列に沿わせて走行させる自動操向制御を実行する(ステップS8〜S11)。
【0162】
この場合は、まずステップS8において、左操向センサ50のみが入り状態か否かを判別する。左操向センサ50に関して上記条件を満たしているときは(S8:YES)、油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203を切換作動させて、走行機体1の左方向への微小旋回動作を実行し(ステップS9)、その後リターンする。
【0163】
左操向センサ50に関して上記条件を満たしていないときは(S8:NO)、次いで、右操向センサ51のみが入り状態か否かを判別する(ステップS10)。右操向センサ51に関して上記条件を満たしているときは(S10:YES)、油圧回路190中の電磁自動操向バルブ203を切換作動させて、走行機体1の右方向への微小旋回動作を実行し(ステップS11)、その後リターンする。
【0164】
右操向センサ51に関して上記条件を満たしていないときは(S10:NO)、そのままリターンする。そして、上述のような制御を繰り返すのである。かかる制御態様から分かるように、実施形態では、ステアリングスイッチ100の左右方向の操作(条合せ動作)が走行機体1の自動操向制御に優先して処理される。
【0165】
以上のように制御すると、仮に自動操向制御の実行中であっても、ステアリングスイッチ100を左右方向に操作すれば、自動操向制御の状態とは関係なく(全く別個に)、走行機体1の微小旋回動(条合せ動作)を直ちに実行でき、ステアリングスイッチ100の操作性が格段に向上する。
【0166】
また、例えば自動操向制御の実行中に、圃場の枕地(畦際)で走行機体1を方向転換(通常旋回)させたりしても、自動操向制御に基づく走行機体1の微小旋回動は実行されない。このため、オペレータの意図に反して走行機体1が蛇行したり予想以上に大きく左右旋回したりするおそれを低減できるから、スムーズに刈取脱穀作業を行えると共に、走行安全性の向上にも寄与できるのである。
【0167】
(9).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば、本願発明は、前述のような自走自脱型コンバインに限らず、普通型コンバインやトラクタ等の農作業機やクレーン車等の特殊作業用車両のような各種作業車両に対して広く適用できる。
【0168】
操向ハンドルにおけるハンドルホイル部の形状は、前述のような丸型(環状)のものに限らず、図14に示すようなU字型のもの等も採用できる。図14に示す操向ハンドル10′においては、U字型ハンドルホイル部94′における左右一方(図14では右側)にある握り部の上面に、手動入力手段としてのステアリングスイッチ100′が設けられており、他方(図14では左側)にある握り部の上面には、ホーンスイッチ103′が設けられている。ステアリングスイッチ100′は、左右方向に操作可能に構成された二方向型スイッチである。なお、図14では、ハンドルホイル部94′の内側に、前述の実施形態のようなセンターパネル体が配置されていない。
【0169】
手動操作手段としてのステアリングスイッチは、走行機体1を左又は右に微小旋回(微修正)させる操作のためのものであれば、十字方向型スイッチでもよいし、二方向型スイッチでもよい。
【0170】
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】刈取部における各装置の配置関係を示す概略正面図である。
【図4】刈取部における前部の概略平面図である。
【図5】走行機体前部の正面説明図である。
【図6】コンバインにおける動力伝達系統のスケルトン図である。
【図7】ミッションケース内の動力伝達系統を示すスケルトン図である。
【図8】コンバインの油圧回路図である。
【図9】主変速レバー及び操向ハンドルと油圧式駆動手段との連結関係を模式的に示す説明図である。
【図10】操縦部の平面図である。
【図11】操向ハンドルの拡大平面図である。
【図12】コントローラの機能ブロック図である。
【図13】自動操向制御のフローチャートである。
【図14】操向ハンドルの別例を示す拡大平面図である。
【符号の説明】
【0172】
AS 自動操向可能領域
N 中立位置
NE 中立領域
LT,RT 通常旋回領域
1 走行機体
2 走行部としての走行クローラ
3 作業部としての刈取部
6 作業部としての脱穀部
9 操縦部
10 操向ハンドル
50,51 進行方向検出手段としての操向センサ
62 油圧駆動装置
63 走行用HST式変速機構
64 旋回用HST式変速機構
82 作業クラッチとしての刈取クラッチ
92 ハンドル軸
93 回動検出手段としての回動位置センサ
94 ハンドルホイル部
100 手動入力手段としてのステアリングスイッチ
101 自動旋回駆動回路
107 自動操向スイッチ
131 主変速レバー
132 副変速レバー
133 クラッチレバー
140 制御手段としてのコントローラ
150 第1油圧ポンプ
151 第1油圧モータ
152 第2油圧ポンプ
153 第2油圧モータ
190 油圧回路
201 旋回シリンダ
202 手動旋回バルブ
203 電磁自動操向バルブ
204,205 操向ソレノイド
220 機械的切換手段
221 二重軸
224 直進用リンク機構
225 直進用回動軸
226 旋回用リンク機構
227 旋回用回動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に搭載されたエンジンからの動力を作業部と走行部とに伝達するように構成されている一方、前記走行機体の進行方向を変更操作するための操向ハンドルを備えており、前記操向ハンドルのハンドルホイル部には、前記走行機体の進行方向を微調節操作するための手動入力手段を有しており、
前記操向ハンドルの回動操作に拘らず、前記手動入力手段の操作を常に許容するように構成されていることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記作業部への動力伝達を継断するための作業クラッチを備えており、
前記作業クラッチが入り状態のときは前記手動入力手段の操作を許容し、前記作業クラッチが切り状態のときは前記手動入力手段の操作を規制するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
前記操向ハンドルの回動操作位置を検出するための回動検出手段と、前記走行機体の進行方向を検出するための進行方向検出手段と、前記進行方向検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体の自動操向制御を実行するための制御手段とを備えており、
前記制御手段は、前記自動操向制御の実行中に前記手動入力手段を操作したときは、当該手動入力操作が前記自動操向制御より優先するように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載した作業車両。
【請求項4】
前記操向ハンドルの回動操作位置を検出するための回動検出手段と、前記走行機体の進行方向を検出するための進行方向検出手段と、前記進行方向検出手段の検出情報に基づいて前記走行機体の自動操向制御を実行するための制御手段とを備えており、
前記制御手段は、前記回動検出手段の検出情報にて、前記操向ハンドルが中立位置から左右の所定回動角度の範囲より大きく回動していると判断したときには、前記自動操向制御を実行しないことを特徴とする請求項1又は2に記載した作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−62866(P2008−62866A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245148(P2006−245148)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】