説明

作業車輌

【課題】変速用電動モータに対してパルス幅変調制御を行う作業車輌において、前記変速用電動モータの駆動開始時に該変速用電動モータの動作不良が生じることを防止する。
【解決手段】制御装置は、パルス幅変調制御実行時における変速用電動モータへの最初の制御信号、及び、HST目標出力とHST実出力との偏差が不感帯範囲内にある前記変速用電動モータの非作動状態から前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合における前記変速用電動モータへの最初の制御信号については、前記偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから走行部へ至る走行系伝動経路に介挿されたHSTの出力調整部材が変速用電動モータによって作動されるように構成された除雪機等の作業車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
走行系伝動経路に介挿されたHSTの出力調整部材が変速用電動モータによって作動される除雪機等の作業車輌が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
詳しくは、前記作業車輌は、前記HSTと、人為操作可能な変速操作部材と、前記HSTの出力調整部材を作動させる前記変速用電動モータと、前記変速操作部材の操作状態を検出する変速操作側センサと、前記HSTの出力状態を検出する変速出力側センサと、前記変速用電動モータの作動制御を司る制御装置とを備えている。
【0004】
前記制御装置には、前記変速操作部材の操作状態(操作位置又は操作量)に応じた前記HSTの目標出力に関する制御データが備えられている。
即ち、前記制御装置は、前記HSTが前記変速操作部材の操作状態に応じた出力状態となるように、前記制御データに基づき前記変速用電動モータに制御信号を出力するようになっている。
【0005】
詳しくは、ハンチング現象等の発生を防止して前記出力調整部材の作動状態(即ち、前記HSTの出力状態)を前記変速操作部材の操作状態に対応した状態にスムースに移行させる為に、前記制御装置はパルス幅変調制御を実行するように構成されている。
【0006】
前記パルス幅変調制御は、前記変速操作側センサからの信号に基づくHST目標出力と前記変速出力側センサからの信号に基づくHST実出力との間に所定の不感帯範囲を超えた偏差が生じている場合には前記偏差の大きさに応じたパルス幅の制御信号を前記変速用電動モータに出力するものである。
【0007】
前記制御装置がパルス幅変調制御を実行するように構成することで、前記HST実出力をスムースに前記HST目標出力に一致させることができるが、その一方で、前記変速用電動モータの作動開始時に該変速用電動モータの動作不良を引き起こす恐れがあった。
【0008】
詳しくは、前記出力調整部材が所定期間に亘って一定の状態に保持されていると、前記変速用電動モータから前記出力調整部材へ至るリンク構造がその状態に「固まる」場合がある。
このような場合に、前記制御装置がパルス幅変調制御を実行すると、前記変速用電動モータの作動を開始できない事態が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−055924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、変速操作部材の操作状態に基づくHST目標出力とHST実出力との偏差の大きさに応じたパルス幅の制御信号を出力するパルス幅変調制御によって前記HSTの出力調整部材を操作する変速用電動モータの作動制御を行う作業車輌であって、前記変速用電動モータの作動開始時に該変速用電動モータが動作不良を起こすことを有効に防止し得る作業車輌の提供を、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成する為に、エンジンから走行部へ至る走行系伝動経路に介挿されたHSTと、人為操作可能な変速操作部材と、前記HSTの出力調整部材を作動させる変速用電動モータと、前記変速操作部材の操作状態を検出する変速操作側センサと、前記HSTの出力状態を検出する変速出力側センサと、前記変速用電動モータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記制御装置が前記変速操作部材の操作状態に応じたHST目標出力に関する制御データを有し且つ前記変速操作側センサからの信号に基づく前記HST目標出力と前記変速出力側センサからの信号に基づくHST実出力との間に所定の不感帯範囲を超えた偏差が生じた場合には前記偏差の大きさに応じたパルス幅の制御信号を前記変速用電動モータに出力するパルス幅変調制御を行うように構成されている作業車輌において、前記制御装置は、パルス幅変調制御実行時における前記変速用電動モータへの最初の制御信号、及び、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差が前記不感帯範囲内にある前記変速用電動モータの非作動状態から前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合における前記変速用電動モータへの最初の制御信号については、前記偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力する作業車輌を提供する。
【0012】
一形態においては、前記走行系伝動経路の動力伝達を係脱させる為の走行クラッチ操作部材と、前記走行クラッチ操作部材の操作状態を検出する走行クラッチセンサとを備え、前記制御装置は、前記走行クラッチセンサからの信号に基づき前記走行クラッチ操作部材が動力遮断操作されたと判断すると、前記変速操作部材の操作状態に拘わらず前記HSTの中立状態を前記HST目標出力としてパルス幅変調制御を実行するように構成される。
前記一形態においては、好ましくは、前記制御装置は、前記走行クラッチ操作部材への人為操作に基づくパルス幅変調制御の実行時における前記変速用電動モータへの最初の制御信号については、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力するように構成される。
【0013】
好ましくは、前記所定パルス幅は前記制御信号の出力基準時間に対して100%とされる。
【0014】
前記種々の構成において、前記変速用電動モータは、好ましくは、前記制御装置からの制御信号に基づき回転駆動されるモータ本体と、前記モータ本体から外方へ延在された出力軸とを備え、前記出力軸は、基端部が前記モータ本体に連結された駆動軸本体及び前記駆動軸本体の先端部から径方向外方へ延びる駆動アームを有する駆動軸と、前記駆動アームを囲繞するカラー部材と、前記駆動軸本体と同軸上において対向配置される従動軸本体及び前記従動軸本体における前記駆動軸と対向する側の端部から径方向外方へ延在された従動アームを有する従動軸と、前記従動アームにおける径方向外方を向く外端面及び前記カラー部材の内周面の間に配置されたコンタクト部材とを備え得る。
前記駆動アームは、周方向を向く側面が前記従動アームにおける周方向を向く側面及び前記コンタクト部材を周方向に押圧するように構成される。
前記従動アームの前記外端面は、前記従動軸の回転軸線方向に沿って視た際に、前記外端面の周方向中心点及び前記従動軸の回転中心を結ぶ仮想線に対して略直交している。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る作業車輌によれば、制御装置がパルス幅変調制御実行時における変速用電動モータへの最初の制御信号、及び、HST目標出力とHST実出力との偏差が不感帯範囲内にある為に前記変速用電動モータが非作動状態とされている状態から前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合における前記変速用電動モータへの最初の制御信号については、前記偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力するように構成されているので、前記変速用電動モータの駆動開始時に該変速用電動モータが動作不良を起こすことを有効に防止又は低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る作業車輌の概略側面図である。
【図2】図2は、図1に示す前記作業車輌の概略平面図である。
【図3】図3は、図1及び図2に示す前記作業車輌の伝動模式図である。
【図4】図4は、図1〜図3に示す前記作業車輌における制御装置のシステムブロック図である。
【図5】図5(a)は、図1〜図3に示す前記作業車輌における変速用電動モータの部分縦断側面図である。図5(b)及び(c)は、図5(a)におけるV−V線に沿った断面図であり、図5(b)及び(c)は、それぞれ、前記変速用電動モータの駆動状態及び駆動停止状態を示している。
【図6】図6は、図1〜図3に示す前記作業車輌における前記制御装置に収納された変速制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る作業車輌の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1〜図3は、それぞれ、本実施の形態に係る作業車輌1の概略側面図,概略平面図及び伝動模式図である。
【0018】
図1及び2に示すように、本実施の形態に係る前記作業車輌1は歩行型除雪機の形態をなしている。
詳しくは、前記作業車輌1は、機体フレーム10と、前記機体フレーム10に支持されたエンジン20と、左右一対の走行部30L,30Rと、前記機体フレーム10の前方側に配設され且つ前記エンジン20からの回転動力によって駆動される作業部40と、前記エンジン20から前記走行部30L,30Rへ至る伝動経路に介挿されたトランスミッション50と、前記機体フレーム10の後方側に配設された操作部70とを備えている。
【0019】
前記除雪機の形態をなす前記作業車輌1においては、前記作業部40は、走行上における雪を集約して放出する除雪部とされている。
【0020】
具体的には、前記作業部40は、図1〜図3に示すように、前記機体フレーム10の前方側に配設された掻き込みオーガ41と、前記掻き込みオーガ41を囲繞するオーガハウジング42と、前記オーガハウジング42に連通された状態で後方へ延びるブロアハウジング43と、前記ブロアハウジング43に内装されたブロア44と、前記ブロア44の上方に配設されたシュータ45とを備えている。
【0021】
前記掻き込みオーガ41は、前記エンジン20から伝達される回転動力によって機体幅方向に沿った回転軸回りに回転駆動されて、走行路上における雪を機体幅方向中央に掻き集めて前記ブロアハウジング43内の前記ブロア44に向けて送るように構成されている。
具体的には、前記掻き込みオーガ41は、前記エンジン20に作動連結された状態で機体幅方向に沿うように前記オーガハウジング42に軸線回り回転可能に支持されたオーガ駆動軸41aと、前記オーガ駆動軸41aの外周面に螺旋状に設けられた突起41bとを備えている。
【0022】
前記オーガハウジング42は、前下方が開放された状態で前記掻き込みオーガ41を囲繞している。
前記ブロアハウジング43は、基端側が前記機体フレーム10に連結され且つ先端側が前記オーガハウジング42に連結された状態で、前記ブロア44を収容している。
【0023】
前記ブロア44は、前記エンジン20から伝達される回転動力によって駆動され、前記掻き込みオーガ41から前記ブロアハウジング43内に搬送されてきた雪を前記シュータ45に向けて跳ね飛ばすように構成されている。
【0024】
前記シュータ45は、前記ブロア44によって飛ばされた雪の放出ガイドとして作用する。
具体的には、前記シュータ45は基端部が前記ブロアハウジング43に連結された筒状部材とされている。
本実施の形態においては、前記シュータ45は、前記ブロアハウジング43の上面に略垂直方向に沿った回転軸回り回転可能に連結された基端側部材と、基端側部材に対して略水平方向に沿った回転軸回り回動可能に連結された先端側部材とを有しており、前記シュータ45を介して放出される雪の放出方向及び放出角度が調整可能とされている。
【0025】
前記作業部40は、図3に示すように、作業機系伝動機構100を介して前記エンジン20から回転動力を入力している。
詳しくは、図1及び図2に示すように、前記エンジン20は、前記作業部40の後方において前記機体フレーム10に支持されたエンジン本体21と、前記エンジン本体21から前方へ突出されたエンジン出力軸22とを有している。
そして、前記作業機系伝動機構100は、前記エンジン出力軸22と前記作業部40の入力軸40aとを作動連結している。
【0026】
本実施の形態においては、前記作業機系伝動機構100は、図1及び図3に示すように、プーリ・ベルト式伝動機構とされている。
詳しくは、前記作業機系伝動機構100は、図1及び図3に示すように、前記エンジン出力軸22に相対回転不能に支持された作業機系駆動側プーリ101と、前記作業機40の入力軸40aに相対回転不能に支持された作業機系従動側プーリ102と、前記駆動側及び従動側プーリ101,102に巻き回された作業機系無端帯103とを有している。
【0027】
なお、本実施の形態においては、図1に示すように、前記エンジン出力軸22は、中間部位において前記機体フレーム10に連結されたブラケット11に軸受け(図示省略)を介して支持されており、前記作業機系駆動側プーリ101は前記エンジン出力軸22のうち前記ブラケット11より前方側に位置する部分に支持されている。
【0028】
さらに、本実施の形態に係る前記作業車輌1は、図1及び図3に示すように、前記作業機系伝動機構100の伝動状態を選択的に係脱する作業クラッチ機構105を備えている。
前記作業クラッチ機構105は、例えば、前記エンジン出力軸22と前記作業機系駆動側プーリ101との間に配設され、前記作業機系駆動側プーリ101を前記エンジン出力軸22に対して相対回転不能とするクラッチ係合状態と前記作業機系駆動側プーリ101を前記エンジン出力軸22に対して相対回転自在とするクラッチ遮断状態とをとり得るように構成される。
【0029】
前記トランスミッション50は、前記エンジン20より後方側において前記機体フレーム10に支持されている。
前記トランスミッション50は、図1〜図3に示すように、前記エンジン20からの回転動力を無段変速するHST510と、左右一対の旋回用電動モータ520L,520Rと、前記HST510からの走行回転動力及び対応する前記旋回用電動モータ520L,520Rからの旋回回転動力を合成して対応する前記走行部30L,30Rへ向けて出力する左右一対の差動機構530L,530Rと、前記差動機構503L,530Rを収容するミッションケース550とを備えている。
【0030】
前記HST510は、図3に示すように、前記エンジン20に作動連結されたポンプ軸511と、前記ポンプ軸511に相対回転不能に支持された油圧ポンプ512と、前記油圧ポンプ512に一対のHSTライン519を介して流体接続された油圧モータ514と、前記油圧モータ514を相対回転不能に支持するモータ軸513と、前記油圧ポンプ512及び前記油圧モータ514のうち可変容積型とされた少なくとも一方(本実施の形態においては前記油圧ポンプ512であり、以下、可変容積部材という)の吸引/吐出量及び吸引/吐出方向を変化させる出力調整部材515とを備えている。
【0031】
本実施の形態においては、前記HST510は、前記ミッションケース550の後端面に支持されており、前記ポンプ軸511は、前記ミッションケース550から前方へ延びる走行系伝動軸115及び走行系第1伝動機構110を介して前記エンジン出力軸22に作動連結されている。
【0032】
詳しくは、前記ミッションケース550には、後端部が前記ポンプ軸511に軸線回り相対回転不能に連結され且つ前端部が前記ミッションケース550から前方へ延在された前記走行系伝動軸115が支持されている。
なお、前記走行系伝動軸115は、図1に示すように、前端部が前記ブラケット11に軸受けされている。
【0033】
前記走行系第1伝動機構110は、前記エンジン出力軸22と前記走行系伝動軸115とを作動連結している。
本実施の形態においては、図1及び図3に示すように、前記走行系第1伝動機構110はプーリ・ベルト伝動機構とされている。
【0034】
詳しくは、前記走行系第1伝動機構110は、図1及び図3に示すように、前記エンジン出力軸22に相対回転不能に支持された走行系駆動側プーリ111と、前記走行系伝動軸115に相対回転不能に支持された走行系従動側プーリ112と、前記駆動側及び従動側プーリ111,112に巻き回された走行系無端帯113とを有している。
なお、本実施の形態において、前記走行系駆動側プーリ111は、図1に示すように、前記エンジン出力軸22のうち前記ブラケット11より後方側に位置する部分に支持されている。
【0035】
本実施の形態においては、前記油圧ポンプ512及び前記油圧モータ514はアキシャルピストン型とされている。
従って、前記出力調整部材515は、揺動軸回りの傾転位置に応じて前記可変容積部材(本実施の形態においては前記油圧ポンプ512)の吸引/吐出量及び吸引/吐出方向を変化させる可動斜板(図示せず)と、自己の軸線回りの回動に応じて前記可動斜板が前記揺動軸回りに傾転するように前記可動斜板に連結された制御軸515a(図2参照)とを有している。
なお、図2中の符号515bは、前記制御軸515aに相対回転不能に支持された制御アームである。
【0036】
前記出力調整部材515は以下のように作動する。
前記可動斜板が前記揺動軸回り中立位置に位置されると、前記ポンプ軸511が軸線回りに回転駆動されても、前記油圧ポンプ512が圧油を吐出せず、従って、前記油圧モータ514及び前記モータ軸513の回転が停止されるHST中立状態が現出される。
【0037】
前記可動斜板が前記中立位置から前記揺動軸回り一方側へ傾転されると、前記油圧ポンプ512が前記可動斜板の傾転方向に応じた方向に前記可動斜板の傾転角度に応じた量の圧油を吐出し、これにより、前記油圧モータ514及び前記モータ軸513が前記可動斜板の傾転方向に応じた第1回転方向へ前記可動斜板の傾転角度に応じた回転速度で回転する。
つまり、前記可動斜板が前記中立位置から前記揺動軸回り一方側へ傾転されると、前記モータ軸513は車輌前進方向又は車輌後進方向の一方(例えば前進方向)に、前記可動斜板の傾転角度に応じた回転速度で回転する。
【0038】
前記可動斜板が前記中立位置から前記揺動軸回り他方側へ傾転されると、前記油圧ポンプ512が前記可動斜板の傾転方向に応じた方向に前記可動斜板の傾転角度に応じた量の圧油を吐出し、これにより、前記油圧モータ514及び前記モータ軸513が前記可動斜板の傾転方向に応じた第2回転方向へ前記可動斜板の傾転角度に応じた回転速度で回転する。
つまり、前記可動斜板が前記中立位置から前記揺動軸回り他方側へ傾転されると、前記モータ軸513は車輌前進方向又は車輌後進方向の他方(例えば後進方向)に、前記可動斜板の傾転角度に応じた回転速度で回転する。
【0039】
次に、前記左右一対の差動機構530L,530Rについて説明する。
なお、前記左右一対の差動機構530L,530Rは、前記作業車輌1の長手方向中央面を基準にして互いに対して対称とされている。
従って、図中、左側の差動機構530L及び右側の差動機構530Rの構成部材に対して末尾の文字をそれぞれL及びRとした同一符号を用いている。
【0040】
前記左側の差動機構530Lは、前記HST510から作動的に回転動力を入力する第1要素と、対応する左側の旋回用電動モータ520Lから作動的に回転動力を入力する第2要素と、対応する左側の走行部30Lへ回転動力を出力する第3要素とを備えている。
【0041】
同様に、前記右側の差動機構530Rは、前記HST510から作動的に回転動力を入力する第1要素と、対応する右側の旋回用電動モータ520Rから作動的に回転動力を入力する第2要素と、対応する右側の走行部30Rへ回転動力を出力する第3要素とを備えている。
【0042】
斯かる構成を備えた前記作業車輌1においては、前記旋回用電動モータ520L,520Rから対応する前記差動機構530L,530Rの前記第2要素へ入力される回転動力が旋回用の制動回転動力として作用する。即ち、左側及び右側の前記旋回用電動モータ520L,520Rから対応する前記差動機構530L,530Rの前記第2要素に回転動力を入力することで、前記左右一対の差動機構530L,530Rの第3要素間に回転速度差を生じさせ、これにより、前記作業車輌1の左又は右旋回を現出させる。
【0043】
本実施の形態においては、図3に示すように、サンギヤ531L(531R),リングギヤ535L(535R)及びキャリア534L(534R)がそれぞれ前記第1〜第3要素として作用している。
【0044】
即ち、前記差動機構30L(30R)は、前記HST510の前記モータ軸513に作動連結された前記サンギヤ531L(531R)と、前記サンギヤ531L(531R)の回りを公転し得るように該サンギヤ531L(531R)と噛合する遊星ギヤ532L(532R)と、前記遊星ギヤ532L(532R)を相対回転自在に支持すると共に該遊星ギヤ532L(532R)の公転に従って前記サンギヤ531L(531R)の回りを公転する前記キャリア534L(534R)と、前記遊星ギヤ532L(532R)と噛合する内歯を有し且つ外周面において対応する前記旋回用電動モータ520L(520R)に作動連結された前記リングギヤ535L(535R)とを備えている。
【0045】
本実施の形態においては、前記サンギヤ531L(531R)は、前記ミッションケース550内に収容された走行系第2伝動機構120を介して前記モータ軸513に作動連結されている。
【0046】
詳しくは、図3に示すように、前記走行系第2伝動機構120は、機体幅方向に沿うように前記ミッションケース550に収容された第1伝動軸121と、機体幅方向に沿い且つ両端部に前記左右一対の差動機構の前記サンギヤがそれぞれ相対回転不能に支持された第2伝動軸125と、前記モータ軸513及び前記第1伝動軸121を作動連結する上流側伝動機構122と、前記第1及び第2伝動軸121,125を作動連結する下流側伝動機構126とを有している。
【0047】
本実施の形態においては、前記モータ軸513は車輌前後方向に沿っている。
従って、前記上流側伝動機構122は、前記モータ軸513における前記ミッションケース550内に突入された端部に相対回転不能に支持された駆動側ベベルギヤ122aと、前記駆動側ベベルギヤ122aに噛合された状態で前記第1伝動軸121に相対回転不能に支持された従動側ベベルギヤ122bとを含んでいる。
なお、前記モータ軸513から前記第1伝動軸121に回転動力が減速伝達されるように、前記駆動側ベベルギヤ122aが小径とされ且つ前記従動側ベベルギヤ122bが大径とされている。
【0048】
前記下流側伝動機構126は、前記第1伝動軸121に相対回転不能に支持された駆動側スプロケット126aと、前記第2伝動軸125に相対回転不能に支持された従動側スプロケット126bと、前記駆動側スプロケット126a及び前記従動側スプロケット126bに巻き回されたチェーン126cとを備えている。
なお、前記第1伝動軸121から前記第2伝動軸125へ回転動力が減速伝達されるように、前記駆動側スプロケット126aが小径とされ且つ前記従動側スプロケット126bが大径とされている。
【0049】
好ましくは、前記モータ軸513から前記左右一対の差動機構530L,530Rのサンギヤ531L,531Rへ至る伝動経路に選択的に制動力を付加し得るブレーキ機構130が備えられる。
本実施の形態においては、図3に示すように、前記ブレーキ機構130は、前記第1伝動軸121に選択的に制動力を付加し得るように構成されている。
【0050】
本実施の形態においては、前記リングギヤ535L(535R)は、対応する前記旋回用電動モータ520L(520R)の出力軸522L(522R)に作動連結されている。
詳しくは、前記左右一対の旋回用電動モータ520L,520Rは、それぞれ、前記ミッションケース550の外側面に支持された電動モータ本体521L,521Rと、先端部が前記ミッションケース550内に突入された出力軸522L,522Rとを有している。
【0051】
前記旋回用電動モータ520L(520R)の前記出力軸522L(522R)には、ウォームアップギヤ523L(523R)が相対回転不能に設けられており、対応する前記差動機構530L(530R)の前記リングギヤ531L(531R)の外周面に前記ウォームアップギヤ523L(523R)と噛合するギヤが設けられている。
【0052】
なお、前記左右一対の旋回用電動モータ520L,520Rは、前記作業車輌1に備えられた発電機25及びバッテリ26からの電力によって駆動される。
図4に、前記作業車輌1に備えられる下記制御装置400のシステムブロック図を示す。
即ち、前記作業車輌1は、図4に示すように、前記エンジン31の回転動力によって電力を発生させる発電機25と、前記発電機25によって発生された電力を蓄電するバッテリ26とを備えており、前記一対の旋回用電動モータ520L,520Rは前記バッテリ26(及び前記発電機25)を駆動源として作動する。なお、図4中の符号28は前記エンジン20を始動させる為のスタータである。
【0053】
前記キャリア534L(534R)には、対応する前記走行部30L(30R)の走行駆動軸31L(31R)が連結されている。
本実施の形態においては、前記走行部30L(30R)はクローラ式走行装置を有している。
【0054】
詳しくは、前記走行部30L(30R)は、図1〜図3に示すように、対応する前記差動機構530L(530R)の前記キャリア534L(534R)に連結された状態で機体幅方向に沿った前記走行駆動軸31L(31R)と、前記走行駆動軸31L(31R)に相対回転不能に支持された駆動スプロケット32L(32R)と、前記走行駆動軸31L(31R)から機体前後方向に離間された位置で機体幅方向に沿うように配設された走行従動軸33L(33R)と、前記走行従動軸33L(33R)に相対回転不能に支持された従動スプロケット34L(34R)と、前記駆動スプロケット32L(32R)及び前記従動スプロケット34L(34R)に巻き回されたクローラ35L(35R)とを備えている。
当然ながら、前記走行部30L(30R)が、前記クローラ式走行装置に代えて、ホイール式走行装置を有することも可能である。
【0055】
前記左右一対の走行部30L,30Rは、図2に示すように、さらに、左右一対のトラックフレーム38L,38Rを有している。
前記トラックフレーム38L(38R)の機体前後方向一方側(本実施の形態においては後方側)には、対応する前記走行駆動軸31L(31R)が軸受け(図示せず)を介して軸線回り回転可能に挿通され、且つ、機体前後方向他方側(本実施の形態においては前方側)には、対応する前記走行従動軸33L(33R)が軸受け(図示せず)を介して軸線回り回転可能に挿通されている。
【0056】
本実施の形態においては、前記左右一対の走行部30L,30Rは、前記作業車輌1に備えられる油圧シリンダ装置90によって前記機体フレーム10に対して前記走行駆動軸31L,31R回りに相対移動し得るようになっている。
詳しくは、前記一対のトラックフレーム38L,38Rは、図2に示すように、機体前後方向他方側(本実施の形態においては前方側)寄りの部分において連結フレーム39を介して互いに連結されている。
そして、前記油圧シリンダ装置90は、一端側が前記機体フレーム10に直接又は間接的に連結され、且つ、他端側が前記連結フレーム39に連結されている。
【0057】
前記操作部70は、図1及び図2に示すように、前記機体フレーム10から後方且つ上方へ延びるように前記機体フレーム10に立設されたハンドルフレーム71と、前記HST510の出力状態を変化させる為に前記ハンドルフレーム71に直接又は間接的に設けられた人為操作可能な変速操作部材72と、前記左右一対の旋回用電動モータ520L,520Rの出力状態をそれぞれ独立して変化させる為に前記ハンドルフレーム71に直接又は間接的に設けられた人為操作可能な左右一対の旋回操作部材73L,73Rとを備えている。
【0058】
前記変速操作部材72は、好ましくは、前記HST510を中立状態とさせて前記作業車輌1の走行を停止させる中立位置、前記作業車輌1の車速が前進側に最大となる前進側最高速位置、前記前進側最高速位置より遅い所定の前進側最高作業速位置、前記作業車輌1の車速が後進側に最大となる後進側最高速位置及び前記後進側最高速位置より遅い所定の後進側最高作業速位置にそれぞれ係止可能とされる。
前記好ましい形態は、例えば、前記変速操作部材72をガイドするシフトゲート(図示せず)を、前記各操作位置に段部を有する階段状に形成することによって容易に実現可能である。
【0059】
本実施の形態においては、図1及び図2に示すように、前記変速操作部材72は、前記ハンドルフレーム71に支持された操作ボックス700に設けられている。
前記操作ボックス700には、さらに、前記作業クラッチ機構105を人為操作する為の作業クラッチ操作部材74も設けられている。
【0060】
前記左右一対の旋回操作部材73L,73Rは、互いに対して機体幅方向に離間された状態で前記ハンドルフレーム71に設けられている。
詳しくは、前記ハンドルフレーム71は、下端部が前記機体フレーム10に支持され且つ上端部が把持部とされた左右一対の支持フレーム710L,710Rを有している。
【0061】
そして、前記左右一対の旋回操作部材73L,73Rは、それぞれ、基端部が対応する前記支持フレーム710L,710Rの把持部に機体幅方向に沿った支持軸回り揺動可能に連結されており、人為操作に応じて自由端部が前記把持部に対して接離するようになっている。
【0062】
好ましくは、前記旋回操作部材73L(73R)の自由端部を対応する前記支持フレーム710L(710R)の前記把持部から離間する方向へ付勢する戻しバネ(図示せず)が備えられる。
斯かる構成においては、人為操作力によって前記戻しバネの付勢力に抗して前記旋回操作部材73L(73R)を対応する前記支持フレーム710L(710R)の前記把持部に近接させることで該旋回操作部材73L(73R)が作動位置に位置され、且つ、人為操作力を解除することで該旋回操作部材73L(73R)が非作動位置に位置される。
なお、図1中の符号26aは、前記支持フレーム710L,710Rに架設されたバッテリ台である。
【0063】
次に、本実施の形態に係る前記作業車輌1の制御構造について説明する。
図4に示すように、前記作業車輌1は、前記変速操作部材72の操作状態を検出する変速操作側センサ410と、前記HST510の出力調整部材515を作動させる変速アクチュエータとして作用する変速用電動モータ80と、前記HST510の出力状態を検出する変速出力側センサ420と、変速制御プログラムに従って前記変速用電動モータ80の作動制御を司る制御装置400とを備えている。
なお、前記変速用電動モータ80は、前記バッテリ26(及び前記発電機25)を駆動源として作動する。
【0064】
前記制御装置400は、前記変速出力側センサ420からの信号に基づくHST実出力が前記変速操作側センサ410からの信号に基づくHST目標出力に一致する(所定の不感帯範囲に入る)ように、前記変速用電動モータ80の作動制御を行う。
【0065】
詳しくは、前記制御装置400は、前記各種センサ等から入力される信号に基づいて演算処理を実行する制御演算手段を含む演算部401(以下CPUという)と、前記変速制御プログラムや制御データ等を記憶するROM及び前記演算部による演算中に生成されるデータを一時的に保持するRAMを含む記憶部402とを備えている。
【0066】
前記制御装置400は、前記記憶部402に収納された前記制御データとして、前記変速操作部材72の操作状態に応じたHST目標出力に関する変速制御データを有している。
前記変速制御データは、例えば、制御用換算式又はLUT(ルックアップテーブル)とされる。
【0067】
前記変速操作側センサ410は、例えば、前記変速操作部材72の操作位置を検出するポテンショセンサ、又は、前記変速操作部材72の操作方向及び操作量を累積的に検出するセンサとされる。
前記変速出力側センサ420は、例えば、前記変速用電動モータ80の作動位置を検出するポテンショセンサ421、前記出力調整部材515の作動位置(前記制御軸515a又は前記制御軸515aに連結される前記制御アーム515bの位置)を検出するポテンショセンサ422、又は、前記モータ軸513から前記第2伝動軸125へ至る伝動経路の何れかの回転部材の回転方向及び回転速度を検出する回転センサ423とされる。
【0068】
なお、本実施の形態に係る前記作業車輌1は、図4に示すように、さらに、前記左右一対の旋回操作部材73L,73Rの操作状態をそれぞれ検出する左右一対の旋回操作側センサ430L,430Rと、前記左右一対の旋回用電動モータ520L,520Rの出力状態をそれぞれ検出する左右一対の旋回出力側センサ440L,440Rとを有している。
【0069】
前記制御装置400は、前記変速制御プログラムに加えて、旋回制御プログラムを有しており、前記旋回制御プログラムに従って前記一対の旋回出力側センサ440L,440Rからの信号に基づく前記一対の旋回用電動モータ520L,520Rの出力状態が前記一対の旋回操作側センサ73L,73Rからの信号に基づく目標出力となるように、前記一対の旋回用電動モータ520L,520Rの作動制御を行っている。
【0070】
ここで、前記変速制御プログラムについて説明する。
前記変速制御プログラムは、前記HST目標出力と前記HST実出力との間に所定の不感帯範囲を超えた偏差が生じた場合には前記偏差の大きさに応じたパルス幅の制御信号を前記変速用電動モータ80に出力するパルス幅変調制御プログラムを有している。
【0071】
前記パルス幅変調制御プログラムを備えることにより、前記HST実出力をスムースに前記HST目標出力に一致させることができるが、その一方で、前記変速用電動モータ80の作動開始時に該変速用電動モータ80の動作不良を引き起こす恐れがある。
【0072】
即ち、前記出力調整部材515が所定期間に亘って一定の状態に保持されていると、前記変速用電動モータ80から前記出力調整部材515へ至るリンク構造がその状態に「固まる」場合がある。
例えば、前記エンジン20を始動させて前記パルス幅変調制御プログラムが起動されてから前記変速用電動モータ80を最初に作動させる場合や、前記パルス幅変調制御プログラムによって前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差が前記不感帯範囲内にあるように前記変速用電動モータ80が作動され、その後に前記変速用電動モータ80が非作動状態とされてから、前記変速操作部材72への人為操作によって前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合に前記変速用電動モータ80を最初に作動させる場合には、前記リンク構造に「固まり」が生じ易い。
このような場合に、前記制御装置400が、前記偏差に応じたパルス幅の制御信号しか出力しないとすると、前記変速用電動モータ80の作動を開始できない事態が生じる。
【0073】
この点を考慮して、本実施の形態に係る前記作業車輌1においては、前記制御装置400は、パルス幅変調制御実行時における前記変速用電動モータ80への最初の制御信号、及び、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差が前記不感帯範囲内にある為に前記変速用電動モータ80が非作動状態となっている状態から前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合における前記変速用電動モータ80への最初の制御信号については、前記偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力するように構成されている。
前記所定パルス幅は、所望値に設定可能であるが、好ましくは、所定の制御信号出力基準時間(例えば10ms)に対して100%とされる。
【0074】
好ましくは、前記変速用電動モータ80は、該変速用電動モータ80によって操作される部材(本実施の形態においては前記出力調整部材515)からの反力によってロックされるクラッチ式逆転防止機構付電動モータとされる。
斯かる構成によれば、前記変速用電動モータ80によって前記出力調整部材515が所定状態に操作された後に前記変速用電動モータ80を非作動状態としても、前記出力調整部材515をその所定状態に有効に保持することができる。
【0075】
図5(a)に、前記クラッチ式逆転防止機構付電動モータ80の部分縦断側面図を示す。
又、図5(b)及び(c)に、前記図5(a)におけるV-V線に沿った断面図を示す。
【0076】
図5に示すように、前記クラッチ式逆転防止機構付電動モータ80は、前記制御装置400からの制御信号に基づき回転駆動されるモータ本体(図示せず)と、前記モータ本体から外方へ延在された出力軸81とを備えている。
【0077】
前記出力軸81は、基端部が前記モータ本体に連結された駆動軸本体811及び前記駆動軸本体811の先端部から径方向外方へ延びる駆動アーム812を有する駆動軸810と、前記駆動アーム812を囲繞するカラー部材820と、前記駆動軸本体811と同軸上において対向配置される従動軸本体831及び前記従動軸本体831における前記駆動軸810と対向する側の端部から径方向外方へ延在された従動アーム832を有する従動軸830と、前記従動アーム832における径方向外方を向く外端面832a及び前記カラー部材820の内周面の間に配置されたコンタクト部材840とを備えている。
【0078】
前記駆動アーム812は、周方向を向く側面が前記従動アーム832における周方向を向く側面及び前記コンタクト部材840を周方向に押圧するように構成されている。
前記従動アーム832の前記外端面は、前記従動軸830の回転軸線方向に沿って視た際に、前記外端面の周方向中心点及び前記従動軸の回転中心を結ぶ仮想線ILに対して略直交している。
【0079】
斯かる構成の前記クラッチ式逆転防止機構付電動モータ80は以下のように作動する。
前記制御装置400から車輌前進側又は後進側の何れかの方向(例えば車輌前進方向)への制御信号が入力されると、前記モータ本体が前記駆動軸810を軸線回り第1方向D1に回転させ、前記駆動アーム812が前記従動軸830及び前記コンタクト部材840を前記第1方向D1に押圧する。これにより、前記従動軸530が前記第1方向と同一方向d1に回転し、前記出力調整部材が前記第1方向D1に対応した方向(例えば車輌前進方向)へ操作される(図5(b)参照)。
そして、前記HST実出力が前記HST目標出力に一致すると(所定の不感帯範囲に入ると)、前記モータ本体は前記駆動軸810の回転を停止する。
【0080】
ところで、前記出力調整部材515には、前記可変容積部材(本実施の形態においては前記油圧ポンプ512)から、常時、中立方向への力が作用する。さらに、所望により、前記出力調整部材515には中立バネを含む中立復帰機構が備えられる。
従って、前記変速用電動モータ80が作動停止状態となると、前記変速用電動モータ80が有するブレーキ力(図5(c)における矢印B)に抗する範囲で前記出力調整部材は中立方向へ若干量だけ戻る。
【0081】
この際、図5(c)に示すように、前記出力調整部材515に作動連結されている前記従動軸830は前記中立方向に対応した第2方向d2へ回転するが、フリー状態の前記コンタクト部材840の位置変化は生じない。
前述の通り、前記従動軸830の前記従動アーム832の前記外端面832aは、前記従動軸830の回転軸線方向に沿って視た際に、前記外端面832aの周方向中心点及び前記従動軸830の回転中心を結ぶ仮想線ILに対して略直交している為、前記従動軸830の第2方向d2への回転によって前記コンタクト部材840が前記カラー部材820の内周面に押し付けられ、これにより、前記従動軸830が回転不能なロック状態となる(図5(c)参照)。
従って、前記変速用電動モータ80によって前記出力調整部材515が所定状態に操作された後に、前記変速用電動モータ80が作動停止状態とされても前記出力調整部材515をその所定状態に有効に保持することができる。
【0082】
前記ロック状態は、前記駆動軸810を強い力で回転させることによって解除される。
この点に関し、本実施の形態に係る前記作業車輌1においては、前述の通り、前記制御装置400が、パルス幅変調制御実行時における前記変速用電動モータ80への最初の制御信号、及び、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差が前記不感帯範囲内にある為に前記変速用電動モータ80が非作動状態とされている状態から前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合における前記変速用電動モータ80への最初の制御信号については、前記偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅(例えば100%)の制御信号を出力する。
従って、前記変速用電動モータ80のロック状態を確実に解除させることができる。
【0083】
又、好ましくは、本実施の形態に係る作業車輌1に、図4に示すように、前記走行系伝動経路の動力伝達を係脱させる為の走行クラッチ操作部材75と、前記走行クラッチ操作部材75の操作状態を検出する走行クラッチセンサ450とを備えることができる。
【0084】
斯かる好ましい形態においては、前記制御装置400は、前記走行クラッチセンサ450からの信号に基づき前記走行クラッチ操作部材75が動力遮断操作されたと判断すると、前記変速操作部材72の操作状態に拘わらず前記HST510の中立状態を前記HST目標出力としてパルス幅変調制御を実行するように構成される。
斯かる構成によれば、必要な場合に前記作業車輌1を可及的速やかに走行停止させることができる。
【0085】
前記走行クラッチ操作部材75は、例えば、前記操作部70に備えられるデッドマンクラッチレバーとされる。
詳しくは、前記ハンドルフレーム71には、図1及び図2に示すように、前記左右一対の支持フレーム710L,710Rの自由端部同士を連結する機体幅方向に沿った連結フレーム711が備えられる。
【0086】
そして、前記デッドマンクラッチレバーの形態をなす前記走行クラッチ操作部材75は、前記連結フレーム711から離間する方向へ付勢部材(図示せず)によって付勢された状態で、前記連結フレーム711から離間されたクラッチ解除位置及び前記連結フレームに近接されたクラッチ係合位置をとり得るように車輌幅方向に沿った回動軸回りに揺動可能に前記ハンドルフレーム71に支持される。
【0087】
即ち、前記デッドマンクラッチレバーの形態をなす前記走行クラッチ操作部材75は、前記付勢部材の付勢力に抗して前記連結フレーム711と共に把持されることでクラッチ係合位置に位置し、且つ、把持状態から解放されることで前記付勢部材の付勢力によってクラッチ解除位置に位置する。
【0088】
前記好ましい形態におけるように、前記制御装置400が前記走行クラッチセンサ450からの信号に基づき前記走行クラッチ操作部材75がクラッチ解除位置に位置されたと判断すると、前記変速操作部材72の操作状態に拘わらず前記HST510の中立状態を前記HST目標出力としてパルス幅変調制御を実行するように構成されている場合には、前記制御装置400は、前記走行クラッチ操作部材75への人為操作に基づくパルス幅変調制御の実行時における前記変速用電動モータ80への最初の制御信号については、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅(例えば100%)の制御信号を出力するように構成され得る。
斯かる構成によれば、前記走行クラッチ操作部材75への人為操作に基づく前記変速用電動モータ80の作動開始時に該変速用電動モータ80が動作不良を引き起こすことを有効に防止できる。
【0089】
図6に、前記変速制御プログラムのフローチャートを示す。
前記変速制御プログラムは、前記エンジン20の駆動開始(及び場合によってはモード選択スイッチへの人為操作)に伴ってスタートする。
【0090】
まず、ステップ10において、前記走行クラッチセンサ450からの信号に基づき前記走行系伝動経路を動力伝達状態とすべきか否かが判断され、YESの場合(即ち、前記走行クラッチ操作部材75がクラッチ係合位置に位置されている場合)にはステップ11へ移行し、NOの場合(即ち、前記走行クラッチ操作部材75がクラッチ解除位置に位置されている場合)にはステップ31へ移行する。
【0091】
ステップ11においては、前記変速出力側センサ420及び前記変速操作側センサ410からの信号に基づき前記HST実出力及び前記HST目標出力間の偏差が所定の不感帯範囲を越えているか否かが判断され、YESの場合(即ち、前記変速操作部材72が操作された場合)にはステップ12へ移行し、NOの場合(即ち、前記変速操作部材72が操作されていない場合)には後述するステップ20へ移行する。
【0092】
ステップ12においては、前記制御装置400は、前記HST実出力を前記HST目標出力へ近づける方向へ前記変速用電動モータ80を駆動させる制御信号であって、所定パルス幅(例えば100%)を有する制御信号を出力する。
【0093】
ステップ12に後続するステップ13及びステップ14においては、パルス幅変調制御が実行される。
即ち、ステップ13において、前記変速出力側センサ420及び前記変速操作側センサ410からの信号に基づき前記HST実出力及び前記HST目標出力間の偏差が所定の不感帯範囲を越えているか否かが判断される。
【0094】
ステップ13においてYESの場合には、前記制御装置400は前記変速用電動モータ80に前記偏差の大きさに応じた制御信号を出力し(ステップ14)、ステップ13へ戻る。
ステップ13においてNOの場合(即ち、前記HST実出力が前記HST目標出力に対して所定の不感帯幅内に入った場合)には、パルス幅変調制御を終了してステップ20へ移行する。
なお、前記制御装置400は、前記記憶部402に、前記偏差の大きさとパルス幅との関係に関する(演算式又はルックアップテーブル等の)制御データを有している。
【0095】
ステップ20においては、前記変速制御プログラムを終了するか否かが判断される。前記変速制御プログラムを終了するか否かは、例えば、前記エンジン20が停止したか否かに基づき判断される。
ステップ20においてYESの場合には前記変速制御プログラムが終了され、NOの場合にはステップ10へ戻る。
【0096】
ステップ10においてNOの場合(即ち、前記走行クラッチ操作部材75がクラッチ解除位置に位置されている場合)には、前述の通り、ステップ31へ移行する。
【0097】
ステップ31においては、前記制御装置400は、前記出力調整部材515が中立方向へ操作されるように前記変速用電動モータ80へ所定パルス幅(例えば100%)の制御信号を出力する。
即ち、前記制御装置400は、ステップ31において、HST中立状態を前記HST目標出力とし、前記HST実出力を前記HST目標出力へ近づける方向へ前記変速用電動モータ80を駆動させる制御信号であって、所定パルス幅(例えば100%)を有する制御信号を出力する。
【0098】
ステップ31に後続するステップ32及びステップ33においては、パルス幅変調制御が実行される。
即ち、ステップ32において、前記変速出力側センサ420及び前記変速操作側センサ410からの信号に基づき前記HST実出力及び前記HST目標出力(この場合はHST中立状態)間の偏差が所定の不感帯範囲を越えているか否かが判断される。
【0099】
ステップ32においてYESの場合には、前記制御装置400は前記変速用電動モータ80に前記偏差の大きさに応じた制御信号を出力し(ステップ33)、ステップ32へ戻る。
ステップ32においてNOの場合(即ち、前記HST実出力が前記HST目標出力(HST中立状態)に対して所定の不感帯幅内に入った場合)には、パルス幅変調制御を終了してステップ20へ移行する。
【符号の説明】
【0100】
1 作業車輌
72 変速操作部材
75 走行クラッチ操作部材
80 変速用電動モータ
81 変速用電動モータの出力軸
400 制御装置
410 変速操作側センサ
420 変速出力側センサ
450 走行クラッチセンサ
510 HST
515 出力調整部材
810 変速用電動モータの出力軸における駆動軸
811 駆動軸本体
812 駆動アーム
820 カラー部材
830 変速用電動モータの出力軸における従動軸
831 従動軸本体
832 従動アーム
832a 従動アームの径方向外方を向く外端面
840 コンタクト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから走行部へ至る走行系伝動経路に介挿されたHSTと、人為操作可能な変速操作部材と、前記HSTの出力調整部材を作動させる変速用電動モータと、前記変速操作部材の操作状態を検出する変速操作側センサと、前記HSTの出力状態を検出する変速出力側センサと、前記変速用電動モータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記制御装置が前記変速操作部材の操作状態に応じたHST目標出力に関する制御データを有し且つ前記変速操作側センサからの信号に基づく前記HST目標出力と前記変速出力側センサからの信号に基づくHST実出力との間に所定の不感帯範囲を超えた偏差が生じた場合には前記偏差の大きさに応じたパルス幅の制御信号を前記変速用電動モータに出力するパルス幅変調制御を行うように構成されている作業車輌において、
前記制御装置は、パルス幅変調制御実行時における前記変速用電動モータへの最初の制御信号、及び、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差が前記不感帯範囲内にある前記変速用電動モータの非作動状態から前記偏差が前記不感帯範囲を超えた場合における前記変速用電動モータへの最初の制御信号については、前記偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力することを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
前記走行系伝動経路の動力伝達を係脱させる為の走行クラッチ操作部材と、
前記走行クラッチ操作部材の操作状態を検出する走行クラッチセンサとを備え、
前記制御装置は、前記走行クラッチセンサからの信号に基づき前記走行クラッチ操作部材が動力遮断操作されたと判断すると、前記変速操作部材の操作状態に拘わらず前記HSTの中立状態を前記HST目標出力としてパルス幅変調制御を実行するように構成されており、
前記制御装置は、前記走行クラッチ操作部材への人為操作に基づくパルス幅変調制御の実行時における前記変速用電動モータへの最初の制御信号については、前記HST目標出力と前記HST実出力との偏差の大きさに拘わらず所定パルス幅の制御信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の作業車輌。
【請求項3】
前記所定パルス幅は前記制御信号の出力基準時間に対して100%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の作業車輌。
【請求項4】
前記変速用電動モータは、前記制御装置からの制御信号に基づき回転駆動されるモータ本体と、前記モータ本体から外方へ延在された出力軸とを備え、
前記出力軸は、基端部が前記モータ本体に連結された駆動軸本体及び前記駆動軸本体の先端部から径方向外方へ延びる駆動アームを有する駆動軸と、前記駆動アームを囲繞するカラー部材と、前記駆動軸本体と同軸上において対向配置される従動軸本体及び前記従動軸本体における前記駆動軸と対向する側の端部から径方向外方へ延在された従動アームを有する従動軸と、前記従動アームにおける径方向外方を向く外端面及び前記カラー部材の内周面の間に配置されたコンタクト部材とを備え、
前記駆動アームは、周方向を向く側面が前記従動アームにおける周方向を向く側面及び前記コンタクト部材を周方向に押圧するように構成され、
前記従動アームの前記外端面は、前記従動軸の回転軸線方向に沿って視た際に、前記外端面の周方向中心点及び前記従動軸の回転中心を結ぶ仮想線に対して略直交していることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の作業車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180939(P2010−180939A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24499(P2009−24499)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】