説明

作業車

【課題】作業車の発進時にはフットペダルでエンジンの出力を調節しながら走行クラッチを繋ぐ操作をするが、このエンジン出力調整と走行クラッチを繋ぐタイミングの調整(いわゆる、半クラッチ操作)は操作に慣れていないと難しく、エンストになってしまう。
そこで、本発明では、この半クラッチ操作を簡単にして発進時におけるエンストの虞を無くすることを課題とする。
【解決手段】蓄圧式燃料噴射制御を行うエンジンを搭載した作業車において、負荷変動にかかわらず所定エンジン回転数を維持するアイソクロナス制御Aを手動変速レバー2で行い、負荷に応じてエンジン回転数が変動するドループ制御Bをフットペダル3で行うと共に、それぞれの変更操作を行うことでその変更操作側制御A,Bを優先処理すべく設定し、走行速度が所定速度以下の発進時には、前記アイソクロナス制御Aを行うように構成してなる作業車の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインやトラクタ或いは田植機等の農作業車、その他一般の作業車等に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタやコンバイン或いは田植機等の農作業車、その他一般の作業車等は、例えば特開平10−159605号公報に記載の如く、エンジンの回転数変更手段として足踏みによって変速を入力するフットペダルと手動によって変速を入力する手動変速レバーを設けている。
【0003】
また、エンジンの出力回転数を変更する手段として、ガバナに回転制御用のアクチュエータを接続し、このアクチュエータを作動してガバナの燃料噴射量を変更しエンジンを制御することが行われている。
【特許文献1】特開平10−159605号公報
【特許文献2】特開2000−220486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業車は、エンジンの負荷が変動しても出力を調整して一定のエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御を手動変速レバーで行い、フットペダルで負荷に応じてエンジン回転数が変動するドループ制御を用いて走行速度の変更を行うようにしている。そして、機体の発進時には、フットペダルによるドループ制御でエンジンの回転を制御している。
【0005】
機体の発進時にはフットペダルでエンジンの出力を調節しながら走行クラッチを繋ぐ操作をするが、このエンジン出力調整と走行クラッチを繋ぐタイミングの調整(いわゆる、半クラッチ操作)は操作に慣れていないと難しく、エンストになってしまう。
【0006】
そこで、本発明では、この半クラッチ操作を簡単にして発進時におけるエンストの虞を無くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、請求項1の発明は、蓄圧式燃料噴射制御を行うエンジンを搭載した作業車において、負荷変動にかかわらず所定エンジン回転数を維持するアイソクロナス制御(A)を手動変速レバー(2)で行い、負荷に応じてエンジン回転数が変動するドループ制御(B)をフットペダル(3)で行うと共に、それぞれの変更操作を行うことでその変更操作側制御(A),(B)を優先処理すべく設定し、走行速度が所定速度以下の発進時には、前記アイソクロナス制御(A)を行うように構成してなる作業車の構成とする。
【0008】
この請求項1記載の発明では、走行速度が零から徐々にスピードを上げる発進時に負荷変動にかかわらず所定エンジン回転数を維持するアイソクロナス制御Aでエンジンを制御するので、走行クラッチの接続による負荷変動にかかわらずエンジンが所定回転数を維持するのでエンストを生じることが無い。
【0009】
また、請求項2の発明の如く、作業車を走行停止させると、前記アイソクロナス制御(A)に復帰すべくしてなる請求項1に記載の作業車の構成とすることで、ドループ制御Bで停止したとしても、常に発進時にはアイソクロナス制御Aによる発進になる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によると、上記の如く、走行負荷が大きく半クラッチ操作の難しい作業車においても、特別な操作をすることなく、フットペダル3を踏み込んで走行クラッチを繋げば、エンストになることなくスムースな発進が出来ることになる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明では、走行開始時に必ずアイソクロナス制御Aとなり、スムースな発進が出来る。
なお、通常は、フットペダル3で発進を行うのであるが、手動変速レバー2で発進を行っても上記の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンについてその概要を説明する。蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンとは、各気筒へ燃料を噴射するインジェクタ10への燃料供給を必要な圧力に制御したコモンレール(蓄圧室)11を介して行うもので、図3に示すシステム図で燃料噴射制御状態を説明する。
【0013】
燃料タンク12内の燃料は吸入通路13により燃料フィルタ14を介してエンジンで駆動される高圧ポンプ9に吸入され、この高圧ポンプ9によって加圧された高圧燃料は流入圧制御弁20で圧をコントロールされて吐出通路15によりコモンレール11に導かれて蓄えられる。
【0014】
コモンレール11内の高圧燃料は各高圧燃料供給通路16により気筒数分のインジェクタ(燃料噴射弁)10に供給され、エンジンコントロールユニット(以下「ECU」という)17からの指令に基づき、気筒ごとにインジェクタ10の電磁弁が開弁作動して、高圧燃料がエンジンの各燃焼室内に噴射供給される。
【0015】
各インジェクタ10での余剰燃料(リターン燃料)は各リターン通路18により共通のリターン通路19へ導かれ、このリターン通路19によって燃料タンク12へ戻される。
また、コモンレール11内の燃料圧力(コモンレール圧力)を制御するため、コモンレール11の端部に圧力制御弁35が設けられている。この圧力制御弁35はECU17からのデューティ信号によって燃料タンク12への余剰燃料のリターン通路19の戻り流量を調整するものであり、これによりコモンレール11内の燃料吐出圧力を制御することが出来る。具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧力を設定し、コモンレール圧センサ21により検出されるコモンレール圧力がこの目標コモンレール圧力と一致するように、圧力制御弁35の開度を制御する。
【0016】
図4は、ECU17の信号入力制御ブロック図である。
手動変速レバー2の回動位置を検出するポテンショメータ5からの変速信号とフットペダル3の回動位置を検出するポテンショメータ6からの変速信号がECU17に入力する。この他に、エンジン回転数センサ22、気筒判別センサ23、吸入空気のターボ圧センサ24、吸入温度センサ25、ラジエータ水温センサ26、吸入空気温度センサ27、コモンレール圧センサ21、タイマー28、走行速度センサ32、ブレーキセンサ33の各情報がECU17へ入力する。
【0017】
このECU17からはグロープラグ制御信号29、インジェクタ制御信号30、コモンレール圧制御信号31、走行クラッチ36へON・OFF信号が出力される。
エンジン回転数と出力トルクの関係において、ECU17には、図5に示すアイソクロナス制御Aとドループ制御B及び重負荷制御Cの三種類の制御モードを設けている。
【0018】
アイソクロナス制御Aは、負荷が変動しても回転数が一定になるように出力を負荷に応じて変更する制御で、手動変速レバー2の回動すなわちレバー用ポテンショメータ5によって設定回転数を変更するようにして、通常の農作業を行う場合に使用する。例えば、コンバインであれば収穫作業であり、トラクタであれば耕運作業であって、収穫物が多くて負荷が増大しても耕地が固くて耕運刃に抵抗がかかっても出力が変動して回転数を維持するので、最適作業状態を維持しながら運転作業者が楽に操縦できる。出力の変動はインジェクタ制御信号30とコモンレール圧制御信号31でインジェクタ10での燃料噴射量の変更と噴射タイミングの変更によって行う。
【0019】
ドループ制御Bは、負荷による回転数の変動で出力も変動する制御で、フットペダル3の踏み込みによるフットペダル用ポテンショメータ6の回動で回転数を変更するようにして、農作業を行わず移動走行する場合に使用する。単なる移動のために走行する場合には、例えばブレーキをかけて走行速度を減速したり停止したりしようとすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため、この走行速度の減速ないし停止を安全に行うことができ、また、例えば、登坂時におけるエンジンの負荷状態を操縦者が察知できる。
【0020】
重負荷制御Cは、アイソクロナス制御Aで出力を負荷に応じて変更しようとしても一定の回転数を維持できなくなった場合に回転数を上昇させて出力を上げる制御で、特にエンジンの負荷限界近くで農作業を行う場合に使用する。例えば、トラクタで耕運作業を行っている際に特に硬い耕地に出くわした場合にこの重負荷制御Cを用いるとエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがない。
【0021】
この重負荷制御Cは、ドループ制御Bで増速したにもかかわらず負荷が大きくて減速する場合に使用しても良い。
なお、このエンジン出力限界近くでの作業時にはエンジン回転数が増加するので、走行速度も速くなるが、これを防ぐために走行伝動経路に変速機を設け走行速度を一定にするよう制御すれば良い。
【0022】
次に、このディーゼルエンジンの制御状態を図1と図2のフローチャートで説明する。
制御がスタートすると、まずステップS1でアイソクロナス制御Aに設定する。そして、フットペダル3の踏み込みをフットペダル用ポテンショメータ6で感知し、YESならばステップS3の走行速度判断に移り、走行速度が2km/h以上ならば(YES)、ステップS4のドループ制御Bに制御方法を変更する。
【0023】
ペダル3の回動が無く(NO)或いは走行速度が2km/h未満であれば(NO)、ステップS1のアイソクロナス制御Aに戻りその制御を繰り返す。
ドループ制御B中にブレーキセンサ33のON信号が所定時間持続することにより停止操作を受ける(ステップS5)と、ステップS9の停止処理に移行する。ステップS6で手動変速レバー2の入力を感知すると、ステップS7のアイソクロナス制御Aに制御方法を変更する。この場合は、通常コンバインによる収穫作業やトラクタによる耕耘作業時である。
【0024】
ステップS8でブレーキセンサ33のON信号により停止操作を受ける(YES)と、ステップS9の停止処理に移行する。
ステップS9の停止処理は、図2の如く処理する。すなわち、ステップS10で走行速度が1km/h以下(YES)と判断し、ステップS11でエンジン回転数が1000rpm以下になった(YES)と判断すると、ステップS12でアイソクロナス制御Aに戻し、ステップS13で走行クラッチを切り、停止状態になる。これら二つの条件が揃わなければ制御の切り換えと走行クラッチの切を行わない。
【0025】
上記の如く、機体の発進時にはアイソクロナス制御Aを用いるが、クラッチペダルの回動を検出するポテンショメータを設け、クラッチペダルが踏み込まれて徐々に離しながらクラッチを繋いでいる操作すなわち発進操作を検出して走行クラッチ作動用油圧シリンダの動きをゆっくりとして、発進速度を適正に制御して急発進を防ぐようにすることも出来る。
【0026】
なお、アイソクロナス制御A或いはドループ制御B中に負荷の増大を感知すれば、重負荷制御Cに移行するのであるが、その移行制御フローの説明は省略する。
次に、蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンにおいて、燃料噴射の異常が発生した場合の対応を説明する。
【0027】
燃料噴射は、図3で説明したように、ECU17からの燃料噴射信号によってインジェクタ10のソレノイドを作動させて設定時間だけ開弁し燃料をシリンダ内へ噴射するが、インジェクタ10の弁が異常により開弁したままになると燃料が供給されたままになってエンジンの回転が上昇するので、設定回転数以上の回転をエンジン回転数センサ23で検出するとコモンレール11に設けた圧力制御弁35を開くことで燃料を燃料タンク12へ戻すか高圧ポンプ9へ流入する燃料を停止してエンジンを停止する。なお、エンジンを停止するには時間がかかりすぎる場合には、走行動力伝動系に設けた伝動クラッチを切りブレーキを作動して暴走を防ぐ。
【0028】
また、インジェクタ10の異常を検出する手段として、噴射に伴う圧低下サイクルをコモンレール圧センサ21が検出監視し、この圧低下サイクルとECU17からの噴射指令が一致しなくなることで異常を検出する方法やインジェクタ10の針弁の動きを監視する針弁センサを設け、この針弁センサの動きがECU17の開弁指令タイミングと不一致することで検出するようにしても良い。
【0029】
さらに、エンジンは各気筒の爆発で回転が上昇しているので、エンジン回転センサ22による回転上昇サイクルを判定してエンジンの異常を判断することも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明実施例の制御モード切り換えフローチャート図
【図2】本発明実施例の制御モード切り換えフローチャート図
【図3】本発明による蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンの概略構成図
【図4】本発明実施例の制御ブロック図
【図5】本発明実施例の制御モード図
【図6】本発明実施例の変速操作信号入力図
【符号の説明】
【0031】
A アイソクロナス制御
B ドループ制御
C 重負荷制御
2 手動変速レバー
3 フットペダル
5 手動変速レバー用ポテンショメータ(レバーメータ)
6 フットペダル用ポテンショメータ(ペダルメータ)
9 高圧ポンプ
10 インジェクタ
11 コモンレール(蓄圧室)
12 燃料タンク
13 吸入通路
14 フィルタ
15 吐出通路
16 高圧燃料供給通路
17 エンジンコントロールユニット(ECU)
18 リターン通路
19 リターン通路
20 圧力制御弁
21 コモンレール圧センサ
22 エンジン回転数センサ
23 気筒判別センサ
24 吸入空気のターボ圧センサ
25 吸入温度センサ
26 ラジエータ水温センサ
27 吸入空気温度センサ
28 タイマー28
29 グロープラグ制御信号
30 インジェクタ制御信号
31 コモンレール圧制御信号
32 走行速度センサ
33 ブレーキセンサ
35 圧力制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄圧式燃料噴射制御を行うエンジンを搭載した作業車において、負荷変動にかかわらず所定エンジン回転数を維持するアイソクロナス制御(A)を手動変速レバー(2)で行い、負荷に応じてエンジン回転数が変動するドループ制御(B)をフットペダル(3)で行うと共に、それぞれの変更操作を行うことでその変更操作側制御(A),(B)を優先処理すべく設定し、走行速度が所定速度以下の発進時には、前記アイソクロナス制御(A)を行うように構成してなる作業車。
【請求項2】
作業車を走行停止させると、前記アイソクロナス制御(A)に復帰すべくしてなる請求項1に記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−198299(P2007−198299A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19112(P2006−19112)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】