説明

作業車

【課題】片輪が浮いてしまう姿勢で、坂道での逸走の回避および作業の安全を図ることができる高所作業車を提供する。
【解決手段】油圧ポンプP1からの油の供給を受けて回転駆動されて駆動輪を駆動する第1及び第2走行モータM1,M2とを備える。さらに、油圧ポンプP1の一方のポートに繋がる第1油路L1と、第1油路から分岐して前記第1および前記第2油圧モータの一方のポートに繋がる第1-1分岐油路および第1-2分岐油路と、油圧ポンプP1の他方のポートに繋がる第2油路L2と、第2油路L2から分岐して第1および第2油圧モータM1,M2の他方のポートに繋がる第2-1分岐油路および第2-2分岐油路と、第1-1および第1-2分岐油路内にそれぞれ設けられ、走行操作手段の操作に基づいて第1および第2油圧モータを駆動する方向への油の流れを許容するがこれと逆方向の油の流れを規制する第1および第2走行制御弁とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の駆動輪をそれぞれ油圧モータにより駆動して走行する構成の作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車輪式の自走作業車として、従来より静油圧式変速機(HST)を備えたものがある。例えば、自走式高所作業車があり、この高所作業車は、車体に設けられてエンジン、電気モータ等の原動機により駆動される油圧ポンプと、左右一対の駆動輪をそれぞれ駆動可能な左右一対の油圧モータ(走行モータ)とを備え、油圧ポンプから吐出された作動油を分流させて左右の油圧モータに供給してこれを駆動し、これら左右の油圧モータにより左右の駆動輪を回転駆動して走行させるように構成されている。このような油圧ポンプおよび油圧モータを用いた静油圧式変速機は、特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1-168051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような静油圧式変速機を用いた作業車が傾斜地で駐車中において、路面の凹凸、傾斜などにより左右一対の駆動輪のうちのいずれかが浮き上がることがある。このような状態では、浮き上がった方の駆動輪の回転抵抗が非常に小さくなるのに対して、接地している方の駆動輪は傾斜地での傾斜に応じて車両が下り方向に走行するように回転駆動力を受ける。この状態であっても、駐車状態では左右の走行モータに備えられたネガティブブレーキが作用し、且つ油圧ポンプからの油圧供給が遮断されて油圧ロック状態であるため車両はそのままの状態で保持される。しかしながらこの状態から作業台に搭乗した作業者が操作装置に設けられた走行操作レバーを例えば前進側に操作すると、ネガティブブレーキが解除され油圧ポンプからの油圧が前進側に供給されるのであるが、油圧ポンプからの供給油圧が油圧モータに到達してこれが回転駆動されるまでの間において、接地している駆動輪が傾斜に応じた回転駆動力を受けて回転されてこの駆動輪を回転駆動する油圧モータが回転され、この油圧モータから吐出された作動油が分流部を通って浮き上がって回転抵抗が小さくなった駆動輪に設けられた油圧モータに供給され、これが回転駆動されるという現象、すなわち、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向に回転されるという現象が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、静油圧式変速機を用いて走行される構成の作業車において、坂道で片側の駆動輪が浮き上がって駐車した状態から発進走行する場合でも、駆動輪が下り方向に回転する現象が生じることがなく、安定した発進走行を行わせることができるような構成の作業車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る作業車は、前後に位置した左右一対の車輪を有し、前後いずれかにおける左右一対の駆動輪を駆動して走行する作業車であって、走行操作される走行操作手段と、原動機により駆動されるとともに前記走行操作手段の操作に応じて吐出制御が可能な可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの油の供給を受けて回転駆動されて前記左右一対の駆動輪をそれぞれ駆動する第1油圧モータ(例えば、実施形態における第1走行モータM1)及び第2油圧モータ(例えば、実施形態における第2走行モータM2)と、前記油圧ポンプの一方のポートに繋がる第1油路と、前記第1油路から分岐して前記第1および前記第2油圧モータの一方のポートに繋がる第1-1分岐油路および第1-2分岐油路と、前記油圧ポンプの他方のポートに繋がる第2油路と、前記第2油路から分岐して前記第1および前記第2油圧モータの他方のポートに繋がる第2-1分岐油路および第2-2分岐油路と、前記第1-1および前記第1-2分岐油路内にそれぞれ設けられ、前記走行操作手段の操作に基づいて前記第1および前記第2油圧モータを駆動する方向への油の流れを許容するがこれと逆方向の油の流れを規制する第1および第2走行制御弁とを備えて構成される。
【0007】
なお、上記構成の作業車において、前記第1走行制御弁が、前記第1-1分岐油路を2分割した2つの分割油路内にそれぞれ逆向きに逆止弁を配設するとともにこれら2つの分割油路のいずれか一方を選択する第1切換弁とから構成され、前記第2走行制御弁が、前記第1-2分岐油路を2分割した2つの分割油路内にそれぞれ逆向きに逆止弁を配設するとともにこれら2つの分割油路のいずれか一方を選択する第2切換弁とから構成されても良い。
【0008】
上記構成の作業車において、前記第1走行制御弁が、前記走行操作手段の操作に基づいて、前記第1-1分岐油路での一方向への油の流れのみを許容する第1切換位置および他方向への油の流れのみを許容する第2切換位置に切換可能な第1ロジック弁から構成され、前記第2走行制御弁が、前記走行操作手段の操作に基づいて、前記第1-2分岐油路での一方向への油の流れのみを許容する第1切換位置および他方向への油の流れのみを許容する第2切換位置に切換可能な第2ロジック弁から構成されても良い。
【0009】
さらに、上記構成の作業車において、前記第1油路から前記第1-1および前記第1-2分岐油路への分岐部および前記第2油路から前記第2-1および前記第2-2分岐油路への分岐部のいずれかに分集流弁が設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る作業車によれば、傾斜地で左右の駆動輪の一方が浮き上がった場合でも、第1および第2走行制御弁が、走行操作手段の操作に基づいて第1および第2油圧モータを駆動する方向とは逆方向の油の流れを規制するので、接地した側の駆動輪に設けられた油圧モータから吐出される油が浮き上がった駆動輪に設けられた油圧モータに流れることが規制され、接地した側の駆動輪が下り方向に回転するという現象が生じることがなくなる。このため、坂道駐車から発進するときでの発進走行性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る油圧回路を示す図である。
【図2】本発明を適用した自走式高所作業車の斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る油圧回路を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る油圧回路を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る油圧回路を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る弁体の斜体図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図2に本発明に係る作業車の一例としての自走式高所作業車を示しており、まず、この図を参照してこの高所作業車1の全体構成について説明する。高所作業車1は、車体3の前後左右に前後輪2a,2bを有しており、左右一対の前輪2aもしくは後輪2bが油圧モータから構成される第1、第2走行モータM1,M2の作動により走行駆動される。車体3上に油圧モータから構成される旋回モータ11の作動により車体3に対して水平方向に旋回動自在に取り付けられて構成された旋回台4が配設されており、この旋回台4の上部には、起伏シリンダ12の伸縮作動により車体3に対して起伏動自在に構成されたブーム5が枢結されている。
【0013】
ブーム5は旋回台4に枢結された基端ブーム5a、中間ブーム5b、先端ブーム5cからなり、それぞれ入れ子状に嵌挿されて、ブーム内部に配設された伸縮シリンダ13の伸縮作動(およびこの伸縮シリンダ13の伸縮作動に伴って作動する図示しない伸縮ワイヤー機構)の作用によって伸縮可能に構成されている。ブーム5の先端部には図示しないレベリングシリンダの作動によりブーム5の起伏角によらず常時垂直に延びた状態を維持する垂直ポスト6が配設され、さらに、この垂直ポスト6に設けられた図示しない油圧モータからなる首振りモータの作動により垂直ポスト6廻りに旋回動(首振動)自在に構成された作業台8が取り付けられている。
【0014】
作業台8には、車両の走行操作やブーム5の作動操作を行うための操作装置10が配設されており、作業台8に搭乗する作業者はこの操作装置10を操作することにより、第1、第2走行モータM1,M2や旋回モータ11、起伏シリンダ12、伸縮シリンダ13、首振りモータ等の各油圧アクチュエータを作動させ、高所作業車1を作業現場まで移動させるとともに、ブーム5を旋回動、起伏動、伸縮動等させて、作業台8を所望もしくは任意の高所に移動させて高所作業を行うことができるように構成されている。なお、第1および第2走行モータM1,M2には油圧力を受けて解放され、油圧力が無くなるとバネ力を受けて作動してこれらの回転を制動するネガティブブレーキが設けられている。このネガティブブレーキは駐車時に油圧力が解放されて第1および第2走行モータM1,M2を制動し、走行時に油圧力が供給されて制動が解除されるようになっている。
【0015】
[第1実施形態]
次に、この高所作業車1に備えられて第1および第2走行モータM1,M2を駆動するための第1実施形態に係る走行駆動装置構成の構成を図1及び図3に示す油圧回路図を参照して説明する。この走行駆動装置は、原動機(図示せず)により駆動される可変容量型の走行用の油圧ポンプP1と、左右一対の駆動輪をそれぞれ駆動する上記第1および第2走行モータM1,M2と、油圧ポンプP1から吐出された作動油を分流して第1および第2走行モータM1,M2に供給させる分集流弁70と、この分集流弁70により分岐されて第1および第2走行モータM1,M2に繋がる油路内にそれぞれ配設された第1および第2走行制御弁20,30とを備え、図示のように回路接続されている。なお、可変容量型の油圧ポンプP1は、操作装置10に設けられた走行操作レバー(前後進切換操作や、走行速度調整操作が行われるレバー)の操作に応じてその吐出方向および吐出容量制御が行われる。
【0016】
具体的な回路接続構成として、まず、油圧ポンプP1の一方のポートに繋がる第1油路L1および他方のポートに繋がる第2油路L2を備える。上述のように走行操作レバーの操作に応じて油圧ポンプP1は吐出方向および容量制御が行われるが、ここでは前進時に第1油路L1に油が吐出されるとともに第2油路L2から油が吸入され、後進時に第2油路L2に油が吐出されるとともに第1油路L1から油が吸入される構成として説明する。なお、この関係は逆でも良い。
【0017】
第1油路L1は分集流弁70により分岐されて第1-1分岐油路L1-1および第1-2分岐油路L1-2に繋がる。第1-1分岐油路L1-1には第1走行制御弁20が設けられるとともに第1走行モータM1の一方のポートに繋がる。第1-2分岐油路L1-2には第2走行制御弁30が設けられるとともに第2走行モータM2の一方のポートに繋がる。なお、第1-1分岐油路L1-1および第1-2分岐油路L1-2における第1および第2走行制御弁20,30より分集流弁側の油路を分集流弁側第1-1および第1-2分岐油路L1-1(1)、L1-2(1)と称し、第1および第2走行モータ側の油路をモータ側第1-1および第1-2分岐油路L1-1(2)、L1-2(2)と称する。
【0018】
第1および第2走行モータM1,M2の他方のポートにはそれぞれ第2-1分岐油路L2-1および第2-2分岐油路L2-2が繋がるとともに、これら第2-1分岐油路L2-1および第2-2分岐油路L2-2は合流点Sにおいて合流されて上記第2油路L2に繋がる。なお、分集流弁70は第1油路L1から流れ込む油を第1-1分岐油路L1-1および第1-2分岐油路L1-2に所定の流量比率で分流させるための弁であり、本例では等分して分流させるように設定されている。
【0019】
第1走行制御弁20は、ABC接続タイプの油圧パイロット駆動式の三位置切換弁25と、分割油路L20a内に配設された逆止弁CV1と、分割油路L20b内に配設された逆止弁CV2とを備え、分割油路L20a、L20bは合流されてモータ側第1-1分岐油路L1-1(2)に繋がる。なお、両逆止弁CV1、CV2は図示のように互いに逆向きに配設されている。また、Cポートは分集流弁側第1-1分岐油路L1-1(1)と繋がっている。切換弁25のスプールは中立位置(図1に示す位置)およびこの中立位置から左右に移動した左右動位置に切換可能であり、中立位置のときにはA、B両ポートとCポートを連通させ、スプールが右動した右動位置のときにはBポートをブロックするとともに、AポートをCポートに接続し、スプールが左動した左動位置のときには、Aポートをブロックするとともに、BポートをCポートに接続する。
【0020】
第2走行制御弁30は上記第1走行制御弁20と同一構成であり、ABC接続タイプの油圧パイロット駆動式の三位置切換弁35と、分割油路L30a内に配設された逆止弁CV3と、分割油路L30b内に配設された逆止弁CV4とを備え、分割油路L30a、L30bは合流されてモータ側第1-2分岐油路L1-2(2)に繋がる。なお、両逆止弁CV3、CV4は図示のように互いに逆向きに配設されている。また、Cポートは分集流弁側第1-2分岐油路L1-2(1)と繋がっている。切換弁35のスプールは中立位置(図1に示す位置)およびこの中立位置から左右に移動した左右動位置に切換可能であり、中立位置のときにはA、B両ポートとCポートを連通させ、スプールが右動した右動位置のときにはBポートをブロックするとともに、AポートをCポートに接続し、スプールが左動した左動位置のときには、Aポートをブロックするとともに、BポートをCポートに接続する。
【0021】
第1および第2走行制御弁20,30を構成する切換弁25、35は油圧パイロット切換式の弁であり、それぞれ左のパイロットポート25a、35aに第1パイロット油路Lp(1)が繋がり、右のパイロットポート25b、35bに第2パイロット油路Lp(2)が繋がる。これら第1および第2パイロット油路Lp(1)、Lp(2)は、電磁パイロット弁40を介して補助油圧ポンプP2に繋がり、補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油が、電磁パイロット弁40により選択されて第1および第2パイロット油路Lp(1)、Lp(2)に供給される。
【0022】
電磁パイロット弁40は図1に示すように、EFPT接続タイプの電磁駆動三位置切換弁であり、上記操作装置10に設けられた走行操作レバーの前後進切換操作に応じて位置切換制御が行われる。具体的には、走行操作レバーが中立位置に位置したときには、電磁パイロット弁40は図1に示す中立位置に位置して第1および第2パイロット油路Lp(1)、Lp(2)をともにタンクTに接続させる(ドレンさせる)。この結果、第1および第2走行制御弁20,30はともに図1に示すように中立位置に位置する。
【0023】
一方、走行操作レバーが前進側に操作されたときには、電磁パイロット弁40は図3に示す左動位置に位置して第1パイロット油路Lp(1)に補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油を供給させ、第2パイロット油Lp(2)をタンクTに接続させる(ドレンさせる)。この結果、第1および第2走行制御弁20,30は左のパイロットポート25a、35aにパイロット圧油を受けてともに図3に示すように右動位置に移動される。逆に走行操作レバーが後進側に操作されたときには、電磁パイロット弁40は右動位置に位置して第2パイロット油路Lp(2)に補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油を供給させ、第1パイロット油Lp(1)をタンクTに接続させる(ドレンさせる)。この結果、第1および第2走行制御弁20,30は右のパイロットポート25b、35bにパイロット圧油を受けてともに左動位置に移動される。
【0024】
補助油圧ポンプP2は補給油ポンプとしても用いられるように構成されており、補助油圧ポンプP2からの吐出油が補給油路Lcから、それぞれ逆止弁CV5、CV6を有する分岐補給油路Lc(1)およびLc(2)を通って第1-1分岐油路L1-1および第1-2分岐油路L1-2に供給され、油の漏れ等に対応して油の補給を行う。
【0025】
次に、高所作業車1が走行する際における走行制御および作動について、図1および図3を参照して説明する。まず、高所作業車1が前進走行する場合について説明する。高所作業車1の走行制御は、作業台8に搭乗した作業者が操作装置10に設けられた走行操作レバーを操作して行われ、前進走行はこの走行操作レバーを前進側に操作することにより行われる。走行操作レバーが前進側に操作されると、ネガティブブレーキが解除され、上述したように、可変容量型の油圧ポンプP1が中立状態(吐出油量が無い状態)から第1油路L1に油を吐出する状態になり、その吐出油量は走行操作レバーの操作量に対応して可変設定される。このとき同時に、これも上述したように、電磁パイロット弁40が中立位置から図3に示すように左動位置に移動され、第1および第2走行制御弁20,30の切換弁25,35は左のパイロットポート25a、35aにパイロット圧油を受けてともに図3に示すように右動位置に移動される。
【0026】
これにより、油圧ポンプP1から吐出されて第1油路L1内に供給された作動油は分集流弁70に至り、分集流弁70により第1-1分岐油路L1-1および第1-2分岐油路L1-2に分岐され、第1および第2走行制御弁20,30の切換弁25のC、Aポートを通って流れ、切換弁25から第1および第2走行モータM1,M2への作動油の流れのみを許容する逆止弁CV1、CV3を介して(このとき、分割油路L20b,L30bは切換弁25,35によりブロックされる)、第1および第2走行モータM1,M2の一方のポートに流入して、これら第1および第2走行モータM1,M2を回転駆動する。そして、作動油は第1および第2走行モータM1,M2の他方のポートからそれぞれ第2-1分岐油路L2-1および第2-2分岐油路L2-2に排出され、合流点Sにおいて合流されて、第2油路L2を経て油圧ポンプP1に戻る。この結果、走行操作レバーの前進側への操作に応じて第1および第2走行モータM1,M2が回転駆動され、これらにより駆動される前輪2aもしくは後輪2bのいずれか(すなわち駆動輪)が回転駆動され、高所作業車1が前進走行する。
【0027】
一方、走行操作レバーが後進側に操作され、高所作業車1が後進走行する場合についての作動は、上記と逆の油の流れとなる。すなわち、走行操作レバーが後進側に操作されると、ネガティブブレーキが解除され、可変容量型の油圧ポンプP1が第2油路L2に油を吐出する状態となる。このとき同時に、電磁パイロット弁40が右動位置に移動され、第1および第2走行制御弁20,30は右のパイロットポート25b、35bにパイロット圧油を受けて左動位置に移動される。この後の油の流れは上述の前進走行の場合と逆になるだけであるので、その説明は省略する。
【0028】
ところで、例えば、前上がり傾斜で駐車した状態(登坂路で駐車した状態)から、走行操作レバーが前進側に操作されたときに、油圧ポンプからの供給油圧が油圧モータに到達してこれが回転駆動されるまでの間において、接地している駆動輪が傾斜に応じた回転駆動力を受けて回転されてこの駆動輪を回転駆動する走行モータが回転され、この走行モータから吐出された作動油が分流部を通って浮き上がって回転抵抗が小さくなった駆動輪に設けられた走行モータに供給され、これが回転駆動されるという現象、すなわち、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向に回転されるという現象が生じるおそれがある。
【0029】
しかしながら、この高所作業車1の走行駆動装置では、このような現象が生じないようになっており、これについて以下に説明する。走行操作レバーが前進側に操作されると、左右の走行モータM1,M2のネガティブブレーキが解除されるとともに油圧ポンプP1からの吐出油が第1油路L1に供給され、分集流弁70により分岐されて第1-1,1-2分岐油路L1-1,L1-2に供給される。このとき、油圧ポンプP1からの吐出油が第1-1,1-2分岐油路L1-1,L1-2に到達してこれら油路内の油圧が上昇する前に、接地している駆動輪の走行モータ(例えば、第1走行モータM1)が傾斜に応じた駆動力を受けて後進方向に回転された場合、第1走行モータM1から分集流弁側第1-1分岐油路L1-1(2)に吐出された油は、第1走行制御弁20に設けられた逆止弁CV1および切換弁25のスプールブロックにより遮断され、分集流弁側に流れることが阻止される。これにより、第1走行モータM1が逆転方向に回転駆動されることを防止することができる。この結果、上述したような従来での問題、すなわち、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときに、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、後進方向であり走行操作方向と逆の方向)に回転されるという現象が生じることを確実に防止することができる。この結果、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときでの発進走行性を向上することができる。
【0030】
但し、前下がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを後進側に操作したときに、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、前進方向であり走行操作方向と逆の方向)に回転されるという現象の発生を阻止することはできない。しかしながら、この場合の傾斜に沿った駆動輪の回転を阻止するには、第2-1および第2-2分岐油路L2-1,L2-2内に走行制御弁20,30を配設すれば良い。
【0031】
また、前下がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときと、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを後進側に操作したときには、上記回路の構成上、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、後進方向)に回転されるという現象の発生を阻止することはできない。しかしながら、この場合には走行操作レバーの操作方向へ駆動輪が回転される現象となるので、この現象が問題となることは少ない。この場合の傾斜に沿った駆動輪の回転を阻止するには、第2-1および第2-2分岐油路L2-1,L2-2内に走行制御弁20,30を配設すれば良い。
【0032】
なお、第2-1および第2-2分岐油路L2-1,L2-2内にも走行制御弁20,30を配設すれば、上述の第1実施形態に比べて、第1走行モータM1から合流点側第2-1分岐油路L2-1に吐出された油は合流点Sを経て逆止弁CV3に至るまでの距離が短縮できるため、この場合も傾斜に沿った駆動輪の回転を確実防止することができるし、それに伴い安全性を向上させるという効果も得られる。
【0033】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る走行駆動装置の構成を図4に示す油圧回路図を参照して説明する。この走行駆動装置は、図1および図3に示した上記第1実施形態の走行駆動装置における第1および第2走行制御弁20,30と同一構成の第1および第2走行制御弁120,130の配置位置構成が相違し、且つ、三位置切換弁からなる電磁パイロット弁40に代えて二位置切換弁からなるパイロット切換弁140を有する構成であり、その他の構成は上記第1実施形態の走行駆動装置とほぼ同一である。このため、以下において、第1実施形態と同一構成部分については同一符号を付してその説明を簡略化もしくは省略して説明する。
【0034】
第1走行制御弁120は、ABC接続タイプの油圧パイロット駆動式の二位置切換弁125と、Aポートに接続された分割油路L120a内に配設された逆止弁CV1と、Bポートに接続された分割油路L120b内に配設された逆止弁CV2とを備え、分割油路L120a、L120bは合流されてモータ側第2-1分岐油路L2-1(2)に繋がる。なお、両逆止弁CV1、CV2は図示のように互いに逆向きに配設されている。また、Cポートは合流点側第2-1分岐油路L2-1(1)と繋がっている。切換弁125のスプールは左動位置およびこの左動位置(図4に示す位置)から右に移動した右動位置に切換可能であり、左動位置のときにはパイロットポート125a,135aにパイロット圧油を受けてともに他端部にあるスプリング126,136が左方向へ押圧され、Bポートをブロックするとともに、AポートをCポートに接続し、右動位置のときにはスプリング126,136の付勢力によりスプールが右動し、Aポートをブロックするとともに、BポートをCポートに接続する。
【0035】
第2走行制御弁130は上記第1走行制御弁120と同一構成であり、ABC接続タイプの油圧パイロット駆動式の二位置切換弁135と、Aポートに接続された分割油路L130a内に配設された逆止弁CV3と、Bポートに接続された分割油路L130b内に配設された逆止弁CV4とを備え、分割油路L130a、L130bは合流されてモータ側第2-2分岐油路L2-2(2)に繋がる。なお、両逆止弁CV3、CV4は図示のように互いに逆向きに配設されている。また、Cポートは合流点側第2-2分岐油路L2-2(1)と繋がっている。切換弁135のスプールは左動位置(図4に示す位置)およびこの左動位置から右に移動した右動位置に切換可能であり、左位置のときには、Bポートをブロックするとともに、AポートをCポートに接続し、スプールが右動した右切換え位置のときには、Aポートをブロックするとともに、BポートをCポートに接続する。
【0036】
第1および第2走行制御弁120,130を構成する切換弁125,135は油圧パイロット切換式の弁であり、それぞれのパイロットポート125a,135aにパイロット油路Lpが繋がる。なお、それらのパイロットポート125a,135aの他端部にスプリング126,136が介装される。パイロット油路Lpは、電磁パイロット弁140を介して補助油圧ポンプP2に繋がり、補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油が、電磁パイロット弁140によりパイロット油路Lpに供給される。
【0037】
電磁パイロット弁140は図4に示すように、DPT接続タイプの電磁駆動二位置切換弁であり、上記操作装置10に設けられた走行操作レバーの前後進切換操作に応じて位置切換制御が行われる。具体的には、走行操作レバーが前進位置に位置したときには、電磁パイロット弁140は左動位置に位置してパイロット油路Lpに補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油を供給させる。この結果、第1および第2走行制御弁120,130の切換弁125,135はパイロットポート125a,135aにパイロット圧油を受けてともに左動位置に移動される。一方、走行操作レバーが後進側に操作されたときには、電磁パイロット弁140はスプリング146の付勢力により右動位置に移動され、パイロット油路LpをタンクTに接続させる(ドレンさせる)。この結果、第1および第2走行制御弁120,130はスプリング126,136の付勢力により右動位置に移動される。
【0038】
次に、高所作業車1が走行する際における走行制御および作動について、図4を参照して説明する。まず、高所作業車1が前進走行する場合について説明する。走行操作レバーが前進側に操作されると、上述したように、電磁パイロット弁140が左動位置に位置して、第1および第2走行制御弁120,130の切換弁125,135はパイロットポート125a,135aにパイロット圧油を受けてともに左動位置に移動される。
【0039】
これにより、油圧ポンプP1から吐出された作動油は分集流弁70を経て第1および第2走行モータM1,M2へ供給される。そして、第1および第2走行モータM1,M2から排出された作動油は切換弁125,135から合流点Sへの作動油の流れのみを許容する逆止弁CV1、CV3を介して、第1および第2走行制御弁120,130の切換弁125のA、Cポートを通って流れ、合流点Sを経て油圧ポンプP1に戻る。この結果、走行操作レバーの前進側への操作に応じて第1および第2走行モータM1,M2が回転駆動され、これらにより駆動される前輪2aもしくは後輪2bのいずれか(すなわち駆動輪)が回転駆動され、高所作業車1が前進走行する。
【0040】
一方、走行操作レバーが後進側に操作され、高所作業車1が後進走行する場合についての作動は、上記と逆の油の流れとなる。すなわち、走行操作レバーが後進側に操作されると、ネガティブブレーキが解除され、可変容量型の油圧ポンプP1が第2油路L2に油を吐出する状態となる。このとき同時に、電磁パイロット弁140が右動位置に移動され、第1および第2走行制御弁120、130の右のパイロットポート125a,135aに作用するパイロット圧油が解放され、スプリング126,136の付勢を受けて右動位置に移動される。この後の油の流れは上述の前進走行の場合と逆になるだけであるので、その説明は省略する。
【0041】
ところで、この高所作業車1においても、傾斜地で左右一対の駆動輪のうちのいずれかが浮き上がった場合に上述した問題ある現象が生じないようになっており、これについて以下に説明する。例えば、前上がり傾斜で駐車した状態で走行操作レバーが前進側に操作されると、ネガティブブレーキが解除されるとともに油圧ポンプP1からの吐出油が第1油路L1に供給され、分集流弁70により分岐されて第1-1,1-2分岐油路L1-1,L1-2に供給される。このとき、油圧ポンプP1からの吐出油が第1-1,1-2分岐油路L1-1,L1-2に到達してこれら油路内の油圧が上昇する前に、接地している駆動輪の走行モータ(例えば、第1走行モータM1)が傾斜に応じた駆動力を受けて後進方向に回転された場合、合流点Sから第1走行モータ側第2-1分岐油路L2-1(1)に吸入される油の流れが第1走行制御弁120に設けられた逆止弁CV1により遮断され、第1走行モータ側に流れることが阻止される。これにより、第1走行モータM1が逆転方向(後進方向)に回転駆動されることを防止することができる。この結果、上述したように、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときでの発進走行性を向上することができる。
【0042】
但し、前下がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを後進側に操作したときに、接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、前進方向)に回転されるという現象の発生を阻止することはできない。しかしながら、この場合の傾斜に沿った駆動輪の回転を阻止するには、第1-1および第1-2分岐油路L1-1,L1-2内に走行制御弁120,130を配設すれば良い。
【0043】
また、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときと、前下がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを後進側に操作したときには、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、後進方向)に回転されるという現象の発生を阻止することはできない。この場合の傾斜に沿った駆動輪の回転を阻止するには、第1-1および第1-2分岐油路L1-1,L1-2内に走行制御弁120,130を配設すれば良い。
【0044】
なお、第1-1および第1-2分岐油路L1-1,L1-2内にも走行制御弁120,130を配設すれば、上述の第2実施形態に比べて、第1および第2走行モータM1,M2のいずれかから吐出された油は分集流弁側から逆止弁に至るまでの距離が短縮できるため、この場合も傾斜に沿った駆動輪の回転を確実防止することができるし、それに伴い安全性を向上させるという効果も得られる。
【0045】
上述の第2実施形態においては、第1実施形態に比べて構成が簡単であり、コストが安価であるという効果も得られる。
【0046】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る走行駆動装置の構成を図5に示す油圧回路図を参照して説明する。この走行駆動装置は、図1および図3に示した上記第1実施形態の走行駆動装置における第1および第2走行制御弁20,30に代えて、ロジック弁221,231を有した第1および第2走行制御弁220,230を有し、且つ、三位置切換弁からなる電磁パイロット弁40に代えて二位置切換弁からなる電磁パイロット切換弁240を有する構成であり、その他の構成は上記第1実施形態の走行駆動装置と同一である。このため、以下において、第1実施形態と同一構成部分については同一符号を付してその説明を簡略化もしくは省略して説明する。
【0047】
第1走行制御弁220は、ロジック弁221と、ABC接続タイプの油圧パイロット駆動式の二位置切換弁225とを備え、切換弁225のスプールは右動位置(図5に示す位置)およびこの右動位置から左動した左動位置に切換可能であり、右動位置のときにはCポートをブロックするとともに、A、B両ポート、とH、G両ポートを連通させ、左動位置のときには、Bポートをブロックするとともに、A、C両ポート、とH、E両ポートを連通させる。
【0048】
第2走行制御弁230は上記第1走行制御弁220と同一構成であり、ロジック弁231と、ABC接続タイプの油圧パイロット駆動式の二位置切換弁235とを備え、切換弁235のスプールは左動位置(図5に示す位置)およびこの左動位置から右動した右動位置に切換可能であり、左動位置のときにはCポートをブロックするとともに、A、B両ポート、とH、G両ポートを連通させ、右動位置のときには、Bポートをブロックするとともに、A、C両ポート、とH、E両ポートを連通させる。
【0049】
第1および第2走行制御弁220,230を構成する切換弁225は油圧パイロット切換式の弁であり、それぞれのパイロットポート225a,235aにパイロット油路Lpが繋がる。パイロット油路Lpは電磁パイロット弁240を介して補助油圧ポンプP2に繋がり、補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油が、電磁パイロット弁240によりパイロット油路Lpに供給される。また、Eポートは分集流弁側第1-1および第2-1分岐油路L1-1(1)、L2-1(1)と繋がっており、Fポートは第1および第2走行モータM1,M2の一方のポートに繋がっている。
【0050】
電磁パイロット弁240は図5に示すように、DPT接続タイプの電磁駆動二位置切換弁であり、上記操作装置10に設けられた走行操作レバーの前後進切換操作に応じて位置切換制御が行われる。具体的には、走行操作レバーが前進側に操作されたときには、電磁パイロット弁240は図5に示す右動位置に位置してパイロット油路LpにタンクTに接続させる(ドレンさせる)。この結果、第1走行制御弁220は右動位置に位置するとともに、第2走行制御弁230は左動位置に位置する。
【0051】
一方、走行操作レバーが後進側に操作されたときには、電磁パイロット弁240は左動位置に移動され、パイロット油路Lpに補助油圧ポンプP2から供給されるパイロット圧油を供給させ、タンクTをブロックする。この結果、第1走行制御弁220の切換弁225はパイロットポート225aにパイロット圧油を受けて左動位置に移動され、第2走行制御弁230の切換弁235はパイロットポート235aにパイロット圧油を受けて右動位置に移動される。
【0052】
ロジック弁221,231は、EFGH接続タイプの油圧駆動式の二位置切換弁であり、ロジック弁221,231の空間内に油圧の増減によって上下動する弁体223,233と、付勢力Fを有するバネ222,232と、EポートとFポートとGポートとを連通する第1弁室228,238と、AポートとHポートとを連通する第2弁室227,237とを備え、ロジック弁221,231空間内の圧力によって位置切換制御が行われる。具体的には以下に説明するように制御される。
【0053】
図6に示すように、弁体223,233それぞれの小径側弁体端面の面積をA、弁体223,233それぞれの大径側弁体内端面の面積をB、油圧ポンプP1の吐出圧をPP、ロジック弁221,231それぞれの空間内の圧力をPi、第1および第2走行モータM1,M2それぞれの圧力をPMとする。
【0054】
まず、高所作業車1が前進走行する場合でのロジック弁221,231の作動について説明する。このときには上述したように、電磁パイロット弁240が図5に示すように右動位置に位置する。この結果、ロジック弁221,231の空間内の圧力Piは第1および第2走行モータM1,M2の圧力PMと同一となる。油圧ポンプP1から吐出された作動油は分集流弁70を経て、第1弁室228,238に流入しようとする際に、油圧ポンプP1の吐出圧PPが弁体223,233に作用する面積はAであり、その面積Aに掛かる力FPはFP=PP・Aである。このため、第1弁室228,238が受ける力FLはFL=PP・A+Pi・Bとなる。一方、第2弁室227,237が受ける力FUはFU=Pi(A+B)+FKである。油圧ポンプP1からの吐出油が弁体223,233の受圧面に掛かる力はPi・A+FKに達したときに(FL>FU)、弁体223,233が図において上動する方向に移動するとともにE、F、Gポートを開く。一方、油圧ポンプP1からの吐出油が弁体223,233の受圧面に掛かる力はPi・A+FKに未満のときに(FL<FU)、弁体223,233が下降しロジック弁221,231の下部の内壁面に当接してE、F、Gポートを閉じる。
【0055】
次に、高所作業車1が後進走行する場合でのロジック弁221,231の作動について説明する。このときには、電磁パイロット弁240が右動位置から左動位置に移動される。この結果、ロジック弁221,231の空間内の圧力Pは油圧ポンプP1の吐出圧Pと同一となる。油圧ポンプP1から第2油路L2内に吐出された作動油は合流点Sを経て第1および第2走行モータM1,M2へ供給され、第1および第2走行モータM1,M2のポートから排出された作動油は、ロジック弁221,231のFポートに流入しようとする際に、第1および第2モータM1,M2の圧力PMが弁体223,233に作用する面積はBとなり、その面積Bに掛かる力FPはFP=PP・Bである。このため、第1弁室228,238が受ける力FはF=PP・B+Pi・Aとなる。一方、第2弁室227,237が受ける力FはF=Pi(A+B)+FKである。油圧ポンプP1からの吐出油が弁体223,233の受圧面に掛かる力はP・B+FKに達したときに(FU>FL)、弁体223,233が上動するとともにE、F、Gポートを開く。一方、油圧ポンプP1からの吐出油が弁体223,233の受圧面に掛かる力がPi・B+FKに未満のときに(FU<FL)、弁体223,233が下降しロジック弁221,231の下部の内壁面に当接してE、F、Gポートを閉じる。
【0056】
次に、高所作業車1が走行する際における走行制御および作動について、図5を参照して説明する。まず、高所作業車1が前進走行する場合について説明する。走行操作レバーが前進側に操作されると、上述したように、可変容量型の油圧ポンプP1が中立状態(吐出油量が無い状態)から第1油路L1に吐出する状態になり、電磁パイロット弁240が右動位置に位置し、第1走行制御弁220は右動位置に位置するとともに、第2走行制御弁230は左動位置に位置する。
【0057】
これにより、油圧ポンプP1から吐出された作動油は分集流弁70を経て第1および第2走行制御弁220,230のロジック弁221,231のEポートに流入し、上述したように、弁体223,233の受圧面に掛かる力がP・A+FKに達したときに、弁体223,233が上動するとともにE、F、Gポートを開いて、作動油がEポートから第1弁室228,238に流入し、第1弁室228,238を通ってFポートへ流出し、第1および第2走行モータM1,M2へ供給される。この結果、走行操作レバーの前進側への操作に応じて第1および第2走行モータM1,M2が回転駆動され、これらにより駆動される前輪2aもしくは後輪2bのいずれか(すなわち駆動輪)が回転駆動され、高所作業車1が前進走行する。
【0058】
一方、走行操作レバーが後進側に操作され、高所作業車1が後進走行する場合についての作動は、上記と逆の油の流れとなる。すなわち、走行操作レバーが後進側に操作されると、ネガティブブレーキが解除され、可変容量型の油圧ポンプP1が第2油路L2に油を吐出する状態となる。このとき同時に、電磁パイロット弁240が左動位置に移動され、第1および第2走行制御弁220、230の切換弁225,235はパイロット圧を受けて左動および右動位置に移動される。この後の油の流れは上述の前進走行の場合と逆になるだけであるので、その説明は省略する。
【0059】
ところでこの実施形態においても、高所作業車1が傾斜地で、路面の凹凸、傾斜などにより左右一対の駆動輪のうちのいずれかが浮き上がった場合での上述した問題ある現象を防止できる構成となっており、これについて以下に説明する。例えば、前上がり傾斜で駐車した高所作業車1は、走行操作レバーが前進側に操作されると、左右の走行モータM1,M2のネガティブブレーキが解除されるとともに油圧ポンプP1からの吐出油が第1油路L1に供給され、分集流弁70により分岐されて第1-1,1-2分岐油路L1-1,L1-2に供給される。このとき、油圧ポンプP1からの吐出油が第1-1,1-2分岐油路L1-1,L1-2に到達してこれら油路内の油圧が上昇する前に、接地している駆動輪の走行モータ(例えば、第1走行モータM1)が傾斜に応じた駆動力を受けて後進方向に回転された場合、第1走行モータM1から分集流弁側第1-1分岐油路L1-1(2)に吐出された油は、第1走行制御弁220のFポートに流入する際に、油圧ポンプP1からの吐出油が弁体223,233の受圧面に掛かる力はPi・A+FK未満であるため、弁体223,233が下降しロジック弁221,231の下部の内壁面に当接してE、F、Gポートを閉じることにより遮断され、分集流弁側に流れることが阻止される。これにより、第1走行モータM1が逆転方向に回転駆動されることを防止することができる。この結果、上述したように、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときでの発進走行性を向上することができる。
【0060】
但し、前下がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを後進側に操作したときに、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、後進方向)に回転されるという現象の発生を阻止することはできない。しかしながら、この場合の傾斜に沿った駆動輪の回転を阻止するには、第2-1および第2-2分岐油路L2-1,L2-2内に走行制御弁220,230を配設すれば良い。
【0061】
また、前下がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを前進側に操作したときと、前上がり傾斜で駐車した状態から走行操作レバーを後進側に操作したときには、浮き上がった駆動輪が空転するとともに接地した駆動輪が傾斜下り方向(すなわち、後進方向)に回転されるという現象の発生を阻止することはできない。しかしながら、この場合には走行操作レバーの操作方向へ駆動輪が回転される現象となるので、特に問題となることは少ない。但し、この場合の傾斜に沿った駆動輪の回転を阻止するには、第2-1および第2-2分岐油路L2-1,L2-2内に走行制御弁220,230を配設すれば良い。
【0062】
上述のように、2つの互いに逆向きに配置される逆止弁CV1,CV2,CV3,CV4に代えて、ロジック弁221,231を有する構成では、第1、2の実施形態に比べて部品点数が減少し構成が簡単となり、コストが低減できる。また、第1、2実施形態の構成では走行駆動装置のスプールからの少量の油漏れにより、接地した駆動輪が傾斜下り方向にゆっくり逸走するという現象が生じる可能性があるが、上述の実施形態におけるロジック弁221,231ではバネ222,232の付勢力により、その弁体223,233が切換弁225,235の油路にシートしており、完全に切換弁225,235の油路とロジック弁221,231の油路との間を遮断可能である。このため、切換弁225,235からの油漏れを確実に防止することができ、接地した駆動輪が傾斜下り方向にゆっくり逸走するという現象を確実に防止することができる。
【0063】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示されたものに限定されない。例えば、第1実施形態では、第1、第2走行制御弁20,30は、第1、第2走行モータM1,M2と分集流弁70との間に配置される構成であったが、これに限定されるものではなく、第1、第2走行制御弁20,30は、第1、第2走行モータM1,M2の前後位置のいずれかに配置させる若しくは前後位置の両方に配置させる構成としてもよい。また、第1、第2走行制御弁20,30は、油の逆止を行えるものと油路の切換えを行えるものを組み合わせて駆動することが可能な構成としてもよい。
【0064】
さらに、本発明が適用される対象は必ずしも高所作業車でなくてもよく、他の作業車(例えば、クレーン車や穴掘り建柱車など)であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 高所作業車
P1 油圧ポンプ
M1 第1走行モータ
M2 第2走行モータ
20 第1走行制御弁
30 第2走行制御弁
70 分集流弁
CV1,CV2,CV3,CV4 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に位置した左右一対の車輪を有し、前後いずれかにおける左右一対の駆動輪を駆動して走行する作業車であって、
走行操作される走行操作手段と、
原動機により駆動されるとともに前記走行操作手段の操作に応じて吐出制御が可能な可変容量型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの油の供給を受けて回転駆動されて前記左右一対の駆動輪をそれぞれ駆動する第1油圧モータ及び第2油圧モータと、
前記油圧ポンプの一方のポートに繋がる第1油路と、
前記第1油路から分岐して前記第1および前記第2油圧モータの一方のポートに繋がる第1-1分岐油路および第1-2分岐油路と、
前記油圧ポンプの他方のポートに繋がる第2油路と、
前記第2油路から分岐して前記第1および前記第2油圧モータの他方のポートに繋がる第2-1分岐油路および第2-2分岐油路と、
前記第1-1および前記第1-2分岐油路内にそれぞれ設けられ、前記走行操作手段の操作に基づいて前記第1および前記第2油圧モータを駆動する方向への油の流れを許容するがこれと逆方向の油の流れを規制する第1および第2走行制御弁と
を備えて構成される作業車。
【請求項2】
前記第1走行制御弁が、前記第1-1分岐油路を2分割した2つの分割油路内にそれぞれ逆向きに逆止弁を配設するとともにこれら2つの分割油路のいずれか一方を選択する第1切換弁とから構成され、
前記第2走行制御弁が、前記第1-2分岐油路を2分割した2つの分割油路内にそれぞれ逆向きに逆止弁を配設するとともにこれら2つの分割油路のいずれか一方を選択する第2切換弁とから構成されたことを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記第1走行制御弁が、前記走行操作手段の操作に基づいて、前記第1-1分岐油路での一方向への油の流れのみを許容する第1切換位置および他方向への油の流れのみを許容する第2切換位置に切換可能な第1ロジック弁から構成され、
前記第2走行制御弁が、前記走行操作手段の操作に基づいて、前記第1-2分岐油路での一方向への油の流れのみを許容する第1切換位置および他方向への油の流れのみを許容する第2切換位置に切換可能な第2ロジック弁から構成されたことを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項4】
前記第1油路から前記第1-1および前記第1-2分岐油路への分岐部および前記第2油路から前記第2-1および前記第2-2分岐油路への分岐部のいずれかに分集流弁が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−17421(P2011−17421A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164085(P2009−164085)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000116644)株式会社アイチコーポレーション (168)
【Fターム(参考)】