説明

使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法

【課題】使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する。
【解決手段】使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程11と、第1工程11の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が5〜25質量%となるようにスラリーを作製する第2工程12と、第2工程12で作製したスラリーを硝酸で処理して金属を浸出させる第3工程13と、第3工程13の処理液を固液分離することにより浸出残渣を得る第4工程14と、第4工程14で得られた浸出残渣を塩酸で処理して金属を浸出させる第5工程15と、第5工程15の処理液をろ過することによりろ液を得る第6工程16と、第6工程16で得られたろ液にアルカリを加え、次いで炭酸塩を加えて沈殿を析出させる第7工程と、第7工程で生成した沈殿を固液分離した後、洗浄して酸化物と、炭酸塩とを得る第8工程18と、第8工程18で得られた酸化物と炭酸塩を焼成した後、微粉末に粉砕する第9工程19とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の廃棄材料に含まれる金属を回収する方法に関する。更に詳しくは、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を効率よく回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属は、あらゆる技術分野において、製品を製造するための材料として不可欠な存在となっており、その使用量は増加の一途を辿っており、それに伴って莫大な量の廃棄物の処理が問題となっている。近年、循環型経済社会を形成する取り組みが広く行われており、リサイクル技術開発や事業化が活発化している。廃棄材料から再利用可能な金属を回収してリサイクルする方法は、各種の分野に及んでおり、例えば、化合物半導体の破損ウェーハや切断屑などの各種スクラップからガリウムを回収する方法や、貴金属メッキの廃液から貴金属を回収する方法、燃料電池の電解質から金属を回収する方法など多岐に及んでいる。
【0003】
燃料電池の分野においては、燃料電池の電極を構成する触媒層から触媒である貴金属を回収する方法であって、触媒層を構成する貴金属および貴金属を担持する炭素粉の混合体を極性溶媒および塩基性化合物で構成される電着液の中に入れて炭素粉をイオン化し、電気泳動により炭素粉を電極上に析出させて分離し、炭素粉が分離した電着液から貴金属を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−207003号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池は、一般的に、電解質の種類により、固体酸化物形、溶融炭酸塩形、リン酸形、高分子電解質形、及びアルカリ水溶液形の5種類に大きく分類され、上記特許文献1に記載される貴金属の回収方法は、高分子電解質形の燃料電池におけるものであり、固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法についてはこれまで開示されていない。
【0005】
本発明の目的は、固体酸化物形燃料電池の発電セルから固体電解質層を構成する金属を回収できる金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、Sm、Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni、Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La、Sr、Ga、Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物型燃料電池セルから金属を回収する方法であって、使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程と、第1工程の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が5〜25質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、第2工程で作製したスラリーを濃度0.8〜4mol/lの硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第3工程と、第3工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る第4工程と、第4工程で得られた浸出残渣を濃度5〜12mol/lの塩酸で処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる第5工程と、第5工程の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る第6工程と、第6工程で得られたろ液にアルカリを加え、次いで炭酸塩を加えて沈殿を析出させる第7工程と、第7工程で生成した沈殿を固液分離した後、洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物と、Srの炭酸塩とを得る第8工程と、第8工程で得られた酸化物と炭酸塩を焼成した後、微粉末に粉砕する第9工程とを含むことを特徴とする金属の回収方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の回収方法によれば、使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程と、第1工程の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が5〜25質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、第2工程で作製したスラリーを濃度0.8〜4mol/lの硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第3工程と、第3工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る第4工程と、第4工程で得られた浸出残渣を濃度5〜12mol/lの塩酸で処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる第5工程と、第5工程の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る第6工程と、第6工程で得られたろ液にアルカリを加え、次いで炭酸塩を加えて沈殿を析出させる第7工程と、第7工程で生成した沈殿を固液分離した後、洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物と、Srの炭酸塩とを得る第8工程と、第8工程で得られた酸化物と炭酸塩を焼成した後、微粉末に粉砕する第9工程とを経ることにより、使用済み固体酸化物形燃料電池セルから固体電解質層を構成する金属を回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明を実施するための最良の形態を図1に基づいて説明する。
【0009】
固体酸化物形燃料電池の構造は、一般に、空気極層と燃料極層の間に固体電解質層が配された積層構造を有する発電セルと、この発電セルの空気極層の外側に積層させた空気極集電体及び発電セルの燃料極の外側に積層させた燃料極集電体と、空気極集電体の外側に積層された空気極集電体側セパレータ及び燃料極集電体の外側に積層された燃料極側セパレータにより構成される基本構造を有している。
【0010】
発電セルの固体電解質層で使用される材料は、酸化物イオン伝導体であり、例えば、一般式:La1-XSrXGa1-Y-ZMgYZ3(式中、A=Co、Fe、Ni、Cuの1種又は2種以上、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表されるランタンガレート系酸化物イオン伝導体などが使用されている。また発電セルの燃料極層は、例えば、一般式:Ce1-mm2(式中、BはSm、La、Gd、Y、Caの1種または2種以上、mは0<m≦0.4)で表されるB(ただし、BはSm、La、Gd、Y、Caの1種または2種以上を示す。以下、同じ)ドープされたセリア粒とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体からなることが知られている。更に空気極は、(Sm、Sr)CoO3、(La、Sr)MnO3などのセラミックスで構成されている。
【0011】
本発明は、Sm、Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni、Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La、Sr、Ga、Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法である。具体的には、例えば、空気極層が(Sm0.5Sr0.5)CoO3のセラミックス、燃料極層がCe0.8Sm0.22とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体、固体電解質層がLa0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.053のランタンガレート系酸化物イオン伝導体で構成された発電セルなどから金属を回収する方法である。
【0012】
本発明は、図1に示す、以下の第1〜9の工程を経ることにより、上記固体電解質層に含まれる金属を回収することができる。
【0013】
第1工程11では、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルを微粉末に粉砕する。粉砕には衝撃作用による粉砕能力に優れ、摩砕作用により単体分離性が向上するなどの理由から、振動ミルにて粉砕することが好適であり、平均粒径10〜200μmの微粉末に粉砕することが好ましい。微粉末の平均粒径が下限値未満では浮選速度が遅くなり効率が低下するため好ましくなく、上限値を越えると粒子が重くなり過ぎ、浮揚困難になるため好ましくない。
【0014】
第2工程12では、第1工程11で粉砕した微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が5〜25質量%となるようにスラリーを作製する。パルプ濃度を上記範囲内としたのは、下限値未満では処理量が少ないために処理速度が遅くなり、上限値を越えると浸出率が低下するからである。このうち、パルプ濃度は、好ましくは15〜25質量%、更に好ましくは20質量%である。
【0015】
第3工程13では、第2工程12で作製したスラリーを濃度0.8〜4mol/lの硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる。この硝酸による処理で浸出するSr及びCoは、固体電解質極層に含まれるSr及びCoではなく、主に空気極層に含まれるSr及びCoである。固体電解質極層に含まれるSr及びCoよりも主に空気極層に含まれるSr及びCoが浸出する技術的理由は、緻密体である固体電解質層と比べて、多孔質体である空気極層の方が構成する粒子の粒径が小さく、表面積が大きいためであると推察される。硝酸の濃度を上記範囲内にしたのは、下限値未満では空気極層、燃料極層の一部が浸出せず、上限値を越えると燃料極層に含まれるNiが酸化被膜を形成して浸出しないからである。また硝酸で処理する際の温度は、好ましくは10〜40℃、更に好ましくは15〜25℃である。硝酸で処理する際の温度が10〜40℃であれば、空気極層、燃料極層を選択的に浸出させる点において好適であり、下限値未満では浸出速度が低下し、上限値を越えると固体電解質層が浸出するため好ましくない。
【0016】
第4工程14では、第3工程13の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る。
【0017】
第5工程15では、第4工程14で得られた浸出残渣を濃度5〜12mol/lの塩酸で浸出処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる。この塩酸による処理で浸出するSr及びCoは、空気極層に含まれるSr及びCoではなく、主に固体電解質極層に含まれるSr及びCoである。空気極層に含まれるSr及びCoは第3工程13の処理液に含まれ、第4工程14で得られる浸出残渣には含まれないと推察される。塩酸の濃度を5〜12mol/lとしたのは、下限値未満ではGaの浸出率が低下する不具合が生じ、12mol/lは塩酸としてほぼ限界の高濃度であるからである。また、塩酸で処理する際の温度は、好ましくは60〜80℃である。塩酸で処理する際の温度が60〜80℃であれば、安定して効率よく浸出が可能であるため好適であり、下限値未満ではLa、Sr、Gaの浸出率が低下するため好ましくなく、上限値を越えると塩化水素が揮発するため好ましくない。
【0018】
第6工程16では、第5工程15の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る。
【0019】
第7工程17では、第6工程16で得られたろ液をアルカリを加えた後、炭酸塩を加えて沈殿を析出させる。アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが挙げられる。アルカリを加えた後のpHとしては8〜12が好ましい。
【0020】
第8工程18では、第7工程17で生成した沈殿を、例えば、ろ過のような固液分離を行った後、洗浄してLa、Sr、Ga及びMgの酸化物と、Srの炭酸塩とを得る。
【0021】
第9工程19では、第8工程18で得られた酸化物と炭酸塩を焼成し、ランタンガレート系酸化物とした後、平均粒径が好ましくは0.5〜10μm、更に好ましくは1.3μmの微粉末に粉砕する。平均粒径が上記範囲の微粉末は、固体電解質の緻密体を作製する点において好適だからである。
【0022】
以上、本発明の第1〜9の工程を経ることにより、固体電解質層の原料となる金属を回収することができる。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0024】
<実施例1>
先ず、使用済みの発電セルを振動ミルにて平均粒径55μmの微粉末に粉砕した後、蒸留水200mlに、この微粉末30gを入れ、パルプ濃度が15質量%になるようにスラリーを作製した。次いで、このスラリーを濃度1mol/lの硝酸で2時間、室温で浸出処理した後、ろ過による固液分離を行い、浸出残渣を得た。次いで、得られた浸出残渣23.8gを、濃度6mol/lの塩酸120mlで2時間、温度60℃で浸出処理した後、ろ過した。得られたろ液に1mol/l及び0.001mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10とした後、炭酸ナトリウム3gを加え、ろ過した。得られた沈殿を蒸留水で洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物とSrの炭酸塩とした後、更に、これらの酸化物と炭酸塩を大気中、温度1250℃で6時間焼成した後、ボールミルにて平均粒径1.3μmの固体電解質層の原料粉を得た。
【0025】
<比較例1>
硝酸の濃度を0.1mol/lとしたこと以外は実施例1と同じ方法により、固体電解質層の原料粉を得た。
【0026】
<比較例2>
塩酸の濃度を2mol/lとしたこと以外は実施例1と同じ方法により、固体電解質層の原料粉を得た。
【0027】
<評価1>
実施例1、及び比較例1,2で得られた固体電解質層の原料粉0.2gを王水で溶解後、蒸発乾固し、希塩酸で再溶解して不溶分を除去した後、ICP分析装置(ジャーレルアッシュ社製:ICAP−88)で電解質品位を測定した。
【0028】
また回収率は蒸留水に入れた微粉末の重量に対して、得られた固体電解質層の原料粉重量の比として求めた。
【0029】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1と比較例1,2を比較すると比較例1では、実施例1よりも回収率は高かったものの、電解質品位が低下した。一方、比較例2では実施例1と同程度の電解質品位の原料粉が得られたものの、回収率が低下した。このことから、本発明の回収方法が効果的であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法を示す工程図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm、Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni、Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La、Sr、Ga、Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物型燃料電池セルから金属を回収する方法であって、
前記使用済みセルを微粉末に粉砕する第1工程と、
前記第1工程の微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が5〜25質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、
前記第2工程で作製したスラリーを濃度0.8〜4mol/lの硝酸で処理してSm、Sr、Co及びNiを含む金属を浸出させる第3工程と、
前記第3工程の処理液を固液分離することによりLa、Sr、Ga、Mg、Co及びCeを含む浸出残渣を得る第4工程と、
前記第4工程で得られた浸出残渣を濃度5〜12mol/lの塩酸で処理してLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属を浸出させる第5工程と、
前記第5工程の処理液をろ過することによりLa、Sr、Ga、Mg及びCoを主として含有するろ液を得る第6工程と、
前記第6工程で得られたろ液にアルカリを加え、次いで炭酸塩を加えて沈殿を析出させる第7工程と、
前記第7工程で生成した沈殿を固液分離した後、洗浄してLa、Ga、Mg及びCoの酸化物と、Srの炭酸塩とを得る第8工程と、
前記第8工程で得られた酸化物と炭酸塩を焼成した後、微粉末に粉砕する第9工程と
を含むことを特徴とする金属の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−144220(P2009−144220A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324730(P2007−324730)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】