説明

侵入物検知装置および電波反射器

【課題】検知対象物と非検知対象物との識別精度を高め、誤検知を低減し得る信頼性の高い侵入物検知装置を提供する。
【解決手段】レーダ1の送受信アンテナ1aをパラボラアンテナにより構成し、電波反射器2を複数のリフレクタからなるリフレクタアレイ6により構成し、レーダ1近傍の送信波5および電波反射器2近傍の反射波7のビーム幅A1,A2を、検知対象から除外すべき鳥9などの非検知対象物が遮蔽し得るビーム幅Cよりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発射した電波の反射波を受信して、検知領域内に侵入した侵入物を検知する侵入物検知装置、および侵入物検知装置などに用いられて好適な電波反射器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防犯などの用途において侵入者や侵入物の検知を行うものとして、赤外線センサ装置、超音波センサ装置、電波式レーダ装置などの種々の侵入物検知装置が提案されている。これらの侵入物検知装置のなかでも、電波を利用した方式の電波式レーダ装置は、雨、雪、風あるいは粉塵などの自然環境変動要因に対する影響を極めて受けづらいという利点を有するため、屋外などの設置場所において信頼性の高い侵入物検知を実現できるものとして注目を集めている。
【0003】
この種の電波式レーダ装置としては、たとえば図18に示すようなものが知られている。このレーダ100は、電波の送受信を行うアンテナ103を備えて構成されている。レーダ100は、アンテナ103から所定の方向に送信波105を発射しておき、ビームを遮った物体により反射された反射波をアンテナ103で受信し、その受信電力強度を観測することで侵入物の在・不在を検知している。
【特許文献1】特開昭55−72883号公報
【特許文献2】特開昭55−74690号公報
【特許文献3】特開昭64−31292号公報
【特許文献4】特開2000−266861号公報
【特許文献5】特開平1−170103号公報
【特許文献6】特開平8−181535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、侵入物検知装置にあっては、検知の対象とすべき検知対象物と、検知の対象から除外すべき非検知対象物とが予め明確になっていることが多い。たとえば、防犯用の侵入物検知装置の場合では、検知対象物は侵入者たる人間(特に成人)に限られ、それ以外の物体、すなわち鳥や犬などの小動物やボールなどの飛来物などは非検知対象物となる。誤検知(非検知対象物を侵入物と誤って検知すること)を無くし、侵入物検知装置の信頼性を高めるためには、このような検知対象物と非検知対象物の識別精度をいかに高めるかが大きな技術的課題として存在する。
【0005】
ところで、上記従来技術の侵入物検知装置では、レーダ100から発射された送信波105は、アンテナ103の指向性に依存して、レーダ100から離れるにつれ広がりながら伝搬していく。それゆえ、レーダ100から十分に離れた場所では、鳥109などの非検知対象物に対してビーム幅(ビーム径)が十分な広がりを持つ。
【0006】
その付近を鳥109などが通過した場合は、ビームの全ては遮られず、ビームの一部が反射されるにすぎないので、レーダ100で観測される受信電力強度は小さいが、侵入者108が通過した場合はビームの大半が反射されるため受信電力強度が大きなものとなる。これにより、侵入者108と鳥109との識別を比較的容易に行うことができていた。
【0007】
しかしながら、レーダ100近傍においては、ビーム幅A100が狭いため、鳥109など人間よりも小型の物体が通過した場合であっても、大半のビームが遮蔽・反射されて
しまうこととなり、鳥109と侵入者108との場合でレーダ100の受信電力にほとんど差がみられない。
【0008】
したがって、従来構成の装置では、レーダ100近傍において、検知対象物と非検知対象物との識別を行うことが非常に困難であり、鳥など(特にカラス)を侵入者として誤検知してしまうという問題が極めて深刻なものとなっていた。
【0009】
上記課題を解決するための方法として、たとえば特開昭55−72883号公報や特開昭55−74690号公報では、次のような構成が提案されている。すなわち、送信波と受信波の偏波面が互いに略直交するようにアンテナを構成することで、アンテナ近傍を通過する昆虫などの小物体からの一次反射波は受信せず、遠方を通過する人間などの大物体からの二次反射波だけを主に受信するようにして、誤検知の低減を図らんとするものである。
【0010】
確かに、送信波の波長に対して十分小さい昆虫ならば、一次反射において偏波面が変化しないので誤検知を防ぐことができる。しかしながら、鳥などの小動物のように波長に対してかなりの大きさをもつ物体の場合は、一次反射においても偏波面が変化してしまうし、人間と同様の二次反射を生ずるため、上記方法では誤検知を防ぐことはできない。ましてや、レーダ近傍においては、人間の場合と鳥の場合とでビームの遮蔽・反射の状態に異なるところがないので、両者を明確に識別することは不可能であるといえる。
【0011】
また、この方法では、二度以上反射を繰り返した二次反射波を主に受信することになるため、受信波が明りょうなピークを有さず、受信電力も小さくなってしまうので、全体としての検知精度を高めることが難しい。また、地面での反射を前提としているので、ビームを地面方向に傾ける必要があり、自ずから検知領域が狭い範囲に限定されてしまうという問題もある。
【0012】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、検知対象物と非検知対象物との識別精度を高め、誤検知を低減し得る信頼性の高い侵入物検知装置を提供することにある。
【0013】
また、この種の装置に用いられて好適な電波反射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明にあっては、電波の送信および受信を行う送受信手段を有するレーダと、該レーダから送信された電波を同レーダに向けて反射する反射手段と、を備え、前記レーダと前記反射手段の間を伝搬している電波のビームからなる検知領域内に侵入した侵入物を検知する侵入物検知装置において、前記レーダ近傍の送信波および前記反射手段近傍の反射波のビーム断面積を、検知対象から除外すべき所定の非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくしたことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、レーダ近傍あるいは反射手段近傍の検知領域内を非検知対象物が通過した場合であっても、当該非検知対象物がビームを全て遮ることがない。それゆえ、検知対象物がビームを遮った場合と非検知対象物がビームを遮った場合とで、レーダによって受信される受信電力に明確な差異が生じ、両対象物を容易に識別できるようになる。
【0016】
発射した電波の反射波を利用するレーダには、発射する電波にパルス波を用いるパルスレーダと周波数変調波を用いる連続波レーダとがあり、さらに変調方式にもFM(frequency modulation),AM(amplitude modulation),PAM(pulse amplitude modulation)等の方式があるが、本発明にはいずれのレーダも好適に用いることができる。使用す
る電波の周波数帯は特に限定されることはないが、好適にはミリ波またはマイクロ波を用いるとよい。
【0017】
また、レーダと反射手段の配置としては、両者を互いに対向するように設置して検知領域を直線状にする構成が最も単純な構成であるが、レーダと反射手段との間にビームの進路を偏向させる偏向部材を設けて、検知領域を非直線状に構成することもできる。単数または複数の偏向部材によりビームの進路を曲げて中継することにより、設置場所の制約などに応じて、検知領域をたとえばくの字やコの字、あるいはロの字のように構成することもできる。なお、偏向とは、反射、屈折、回折などの作用により電波の進行方向を曲げることをいう。偏向部材としてはたとえば平面反射板のようなものを好適に用いることができる。
【0018】
設置場所に関していえば、本発明では電波を利用しているため、雨、雪、風あるいは粉塵などの自然環境変動要因に対する影響を極めて受けづらく屋外などの設置環境下でも好適に用いることができる。特にレーダの電波発射部分や反射手段の反射部分、偏向部材などが埃や砂粒で汚れたとしても、ビーム強度の減衰や乱反射などの影響を受けることがほとんどなく、赤外線や光を用いた侵入物検知装置に比べて、耐環境性、信頼性および利便性に優れる。
【0019】
上記検知対象物および非検知対象物の選び方は、本発明を適用する用途によって異なる。たとえば防犯上の目的で侵入者たる人間を検知する場合には、人間(特に成人)が検知対象物であり、人間よりも小型の物体、すなわち鳥や犬などの小動物やボールなどの飛来物などが非検知対象物に該当する。あるいは、本発明を規格外品を検出する目的、たとえば所定のサイズを超える物体と当該サイズ以下の物体とを識別する目的で用いる場合には、当該サイズを超える物体が検知対象物となり、それ以下の物体が非検知対象物となる。
【0020】
レーダ近傍の送信波および反射手段近傍の反射波のビーム断面積を、非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積に比べてどの程度大きくすればよいかの選び方についても、本発明を適用する用途によって異なる。一つに、検知対象物と非検知対象物の大きさの差、すなわち検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積と非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積との差が、レーダの受信電力の差として十分に観測可能となる程度に、上記送信波および反射波のビーム断面積を設定するとよい。また、電波は光に比べて波長が長いため、物体の材質や厚みによっては照射された電波の一部が物体内を通過することがある。それゆえ、検知対象物と非検知対象物のそれぞれの材質や厚み、電波の透過率などが予定されている場合は、かかる条件を加味して上記送信波および反射波のビーム断面積を設定することも好適である。
【0021】
また、この発明の一実施態様においては、前記レーダ近傍の送信波および前記反射手段近傍の反射波のビーム断面が、前記非検知対象物が遮蔽し得る最大のビーム断面に対して、少なくとも一方向に広がりを有する構成を好適に採用できる。
【0022】
このように少なくとも一方向に送信波および反射波のビーム断面が広がりを有していれば、非検知対象物がビームを全て遮ることがないので、レーダによって受信される受信電力に明確な差異が生じ、両対象物の識別が可能となる。また、送信波および反射波のビーム断面を多方向または全方向に広げる構成を採用すれば、両対象物の識別性がさらに向上する。ただし、ビーム断面の拡大は、レーダおよび反射手段の大型化を招く要因ともなることから、本装置の設置条件と両対象物の識別性とのバランスを加味して、ビーム断面の拡大方向を決定することが好ましい。たとえば、設置条件としてレーダや反射手段の水平方向(幅方向)の上限が定められている場合には、垂直方向(高さ方向)にビーム断面を拡大すればよいし、逆の場合は水平方向にビーム断面を拡大すればよい。
【0023】
上記送受信手段は、電波の送信を行う送信手段と電波の受信を行う受信手段とをそれぞれ別体で設ける構成とすることもできるし、送信機能と受信機能とを兼ね備えた単一の部材で構成することもできる。
【0024】
そして、レーダ近傍のビーム断面を広げるための一実施態様としては、送受信手段として、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有する開口面アンテナを用いる構成が好適である。
【0025】
開口面アンテナとは、開口状の面から電波を放射するアンテナであり、たとえばパラボラアンテナのように一次放射源からの電波を反射させる反射部材を備えたもの、電波レンズのように電磁的なレンズを用いて一次放射源からの電波を拡大するものなどを含む。この中でも、オフセットパラボラアンテナや誘電体レンズを用いたレンズアンテナを好適に採用することができる。このような開口面アンテナを用いることにより、ビーム断面(ビーム幅)が大きく、広がりの少ない平行ビームであって、且つ高利得の平面波を容易に得ることができる。
【0026】
なお、アンテナの送受可逆性により、かかる構成を反射手段近傍のビーム断面を広げるための手段として適用することも可能である。すなわち、パラボラアンテナの一次放射源の代わりに電波を反射するリフレクタなどの副反射部材を用い、前記反射手段が、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きい開口面積を有する主反射部材と、この主反射部材で反射・集中された電波を主反射部材に向けて反射する副反射部材とを備える構成、あるいは、レンズアンテナの一次放射源の代わりに副反射部材を用い、前記反射手段が、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きい開口面積を有する電波レンズと、この電波レンズで集中された電波を電波レンズに向けて反射する副反射部材とを備える構成などを採り得る。これらの構成により、反射手段近傍においてビーム断面(ビーム幅)が大きく、広がりの少ない平行ビームであって、平面波となる反射波を容易に得ることができる。
【0027】
反射手段の他の実施態様として、前記反射手段は、開口面を揃えて配置された複数のリフレクタからなるリフレクタアレイであって、該リフレクタアレイ全体の開口面積が前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きい構成を好適に採用することができる。
【0028】
ここでいうリフレクタとは、少なくとも電波を反射する反射部と、反射部で反射された電波が平面波として放射される開口面とを有した部材をいう。この開口面は、物理的に現れる面の場合もあれば、反射波が同位相となる平面を仮想的に定義した面の場合もある。
【0029】
この構成により、個々のリフレクタの反射波のビーム幅は小さいものの、リフレクタアレイ全体としてみれば、非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面よりも大きいので、反射手段近傍における非検知対象物の識別精度を確保することができる。また、リフレクタの配置構成の選び方により、リフレクタアレイの形状を自由に設定することができるので、上述したように反射波のビーム断面を一方向または多方向に広げるような構成を容易に実現できる。この点は、設置場所の制約など反射手段のサイズに制限がある場合に特に有利となる。
【0030】
なお、リフレクタの開口面の配置態様としては、全てのリフレクタの開口面を同一平面上に揃える構成が最も単純である。この構成は製造が容易であるという利点を有する。
【0031】
また、他の配置態様としては、複数のリフレクタのそれぞれの開口面が電波の同位相面
に略沿うように配置されている構成を好適に採用できる。
【0032】
複数のリフレクタを並べて構成したリフレクタアレイにあっては、ビーム軸近傍に配置されたリフレクタとビーム軸から遠方に配置されたリフレクタとで、レーダの電波放射源からの距離にわずかながら差異が生ずる。その差異が電波の波長に比べて無視できる程度に小さい場合には、開口面を同一平面上に揃える上記の構成で特に問題が生ずることはない。しかし、その差異が大きくなると、各リフレクタの反射波同士に位相のズレが生じ、電波の干渉が起こることがある。そこで、各リフレクタの開口面を電波の同位相面に略沿わせることで、反射波同士に位相のズレが生じることを防止でき、リフレクタの反射効率を高めて、反射手段近傍における非検知対象物の識別精度を確保することができる。
【0033】
また、反射手段の他の実施態様として、前記反射手段は、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有するリフレクタであることが好適である。
【0034】
この構成によれば、リフレクタアレイのようにリフレクタ同士の位相ズレを防ぐような手立てを講じる必要がなくなり、製造が極めて容易となる。かかる簡易な構成によっても、反射手段近傍における非検知対象物の識別精度を確保することができる。
【0035】
このようなリフレクタの形状としては種々のものが考えられるが、その一つとして、リフレクタは、側面を反射面、底面を開口面とする錐体状または錐台状を呈して、且つ、底面を含む角部のうち少なくとも1つが切り欠かれた形状を有することが好適である。さらに好ましくは、前記リフレクタは、互いに直交する3つの反射面を備えた三角錐体状または三角錐台状を呈しているとよい。
【0036】
上述したように、設置場所の制約などにより反射手段のサイズに制限がある場合も多いが、底面を含む角部を切り欠いたことで、限られた範囲の中で、リフレクタの開口面積を確保しつつ、リフレクタ外形の小型化を図ることができる。また、錐台状の形状を採用した場合は、頂部が平らになっているので、錐体状の形状に比べ、さらなる小型化を図ることができる。
【0037】
また、上記本発明の構成を別の観点から捉えれば、本発明は、電波の送信および受信を行う送受信手段を有するレーダと、該レーダから送信された電波を同レーダに向けて反射する反射手段と、を備え、前記レーダと前記反射手段の間を伝搬している電波のビームからなる検知領域内に侵入した侵入物を検知する侵入物検知装置において、前記レーダ近傍の送信波を、検知対象から除外すべき所定の非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくする送信波拡大手段を設けたことを特徴とする。そして、前記反射手段の反射波を、検知対象から除外すべき所定の非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくする反射波拡大手段を設けたこと特徴とする。
【0038】
また、上記各構成は回帰反射型の侵入物検知装置に関する構成として述べたが、これらのうちレーダに関する構成については直接反射型の侵入物検知装置にも好適に適用することができる。すなわち、直接反射型の侵入物検知装置に係る発明は、電波の送信および受信を行う送受信手段を有するレーダを備え、侵入物からの反射波を受信して侵入物を検知する侵入物検知装置において、前記レーダ近傍の送信波のビーム断面積を、検知対象から除外すべき所定の非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくしたことを特徴とする構成である。この場合も、送受信手段として上記開口面アンテナを好適に用いることができる。
【0039】
上記各構成の送受信手段または反射手段を支持する支持体としては、送受信手段または反射手段が固定される固定部と、支持体が傾斜したときに固定部を支持体設置面に対して
平行運動可能とする平行運動機構と、を備えている構成を好適に採用することができる。
【0040】
この構成によれば、支持体が、風雨や飛来物の衝突など、外環境から何らかの衝撃を受けて傾きを生じたとしても、固定部と支持体設置面との平行は保たれるので、送受信手段および反射手段が支持体の傾きの影響を受けることはない。したがって、送受信手段から発射されるビームの進行方向、および反射手段開口面とビームとの相対角度が常に一定に保たれ、ビーム軸のズレによる受信電力の低下や識別精度の低下などを未然に防止することができる。
【0041】
加えて、前記送受信手段または前記反射手段と前記支持体とを覆うレドームを備えて、且つ、前記支持体は前記レドームに対して弾性部材を介して接続されていることが好適である。
【0042】
この構成によれば、弾性部材が外環境からの衝撃を緩和する衝撃吸収手段としての機能を果たすとともに、支持体が傾きを生じたとしても、弾性部材の弾性復元力により支持体の傾きが是正されることとなるので、ビーム軸のズレによる受信電力の低下や識別精度の低下などをより一層防止することが可能となる。
【0043】
さらに、上述した反射手段の各構成は、独立して電波反射器の発明として捉えることができる。これらの電波反射器は、上述した作用効果を奏するものであり、侵入物検知装置の反射手段として用いられて好適なものであるが、その適用範囲は侵入物検知装置に限られず、電波式レーダ装置全般に用いることが可能である。
【発明の効果】
【0044】
以上説明したように、本発明の構成によれば、検知対象物と非検知対象物との識別精度が向上するので、誤検知を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ここでは本発明を防犯用の侵入物検知装置に適用した例を示す。なお、侵入物検知装置で検知すべき検知対象物としては人間(特に成人)を、検知対象から除外すべき非検知対象物としては、鳥や犬などの小動物およびボールなどの飛来物を想定している。
【0046】
(第1の実施の形態)
図1〜図7を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る侵入物検知装置について説明する。
【0047】
図1は、本実施の形態の侵入物検知装置の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、侵入物検知装置は、レーダ1と、レーダ1に対向して設置された電波反射器2とから構成される、いわゆる回帰反射型レーダ装置である。
【0048】
レーダ1は、電波の送信および受信を行う送受信手段としての送受信アンテナ1aを備える。送受信アンテナ1aは、開口面アンテナの一形態であるオフセットパラボラアンテナとして構成され、電波の一次放射源3と反射鏡4を備えている。反射鏡4は、回転放物面からなる反射面を有するもので、その形状は一次放射源3から放射される電波の周波数に依存して決定されている。また、反射鏡4の開口面は、非検知対象物たる鳥9に比べて十分に大きな開口面積を有している。すなわち、送受信アンテナ1aは、非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有している。
【0049】
電波の送信時、一次放射源3から反射鏡4に向けて放射された送信波(電波)5は、反
射鏡4によって反射され、その開口面において位相の揃った平面波として放射される。この平面波としての送信波5は、比較的鋭い指向性を有し、広がりの少ない平行ビームとなる。この送信波5は、レーダ1近傍において既に、検知対象物たる人間8の高さHよりも小さく、且つ、非検知対象物たる鳥9の高さCよりも十分に大きな垂直方向のビーム幅A1を有することとなる。
【0050】
また、電波の受信時には、電波反射器2によって反射された反射波7は、反射鏡4によって反射・集中されて、一次放射源3にて受信される。
【0051】
電波反射器2は、レーダ1から送信された送信波5を同レーダ1に向けて反射する反射手段としてのリフレクタアレイ6を備えて構成されている。このリフレクタアレイ6は、入射された電波を入射方向と略反対の方向に向けて反射する性質を有するリフレクタを複数配置して構成されたもので、リフレクタアレイ6全体としてもその性質を保存している。
【0052】
本実施の形態のリフレクタアレイ6の構成を図2および図3に示す。図2(a)は、リフレクタアレイ6の一部分を示す斜視図であり、同図(b)は、リフレクタアレイ6の構成要素であるリフレクタ11の形状を示す斜視図である。図3(a)は、リフレクタアレイ6の正面図であり、同図(b)は、リフレクタアレイ6のB−B断面図である。
【0053】
図2および図3に併せ示すように、リフレクタアレイ6は、開口面11bを揃えて配置された比較的小型の複数のリフレクタ11の集合体として構成されている。このリフレクタアレイ6は、たとえば樹脂製の基体10の表面を切削加工して三角錐体状の凹部を複数形成し、その凹部の表面にAlなどの金属を蒸着することにより作製することができる。
【0054】
各々のリフレクタ11は、互いに直交する3つの反射面11aを備えた三角錐体状を呈しており、その底面に相当するところが開口面11bとなっている。反射面11aはそれぞれ合同の直角二等辺三角形であり、開口面11bは正三角形となる。なお、リフレクタの形状はこれに限られず、例えば開口面が四角形のものや六角形のものなど種々の形状のものを採用することができる。
【0055】
電波反射器2は屋外での耐環境性向上のために円筒状の縦長のレドームなどに収納されるケースが多く、外形サイズの制限を受けることが多い。しかし、上記のように比較的小型のリフレクタ11を複数配置する構成とすれば、リフレクタ11の配置構成の選び方しだいで、最適な開口面積を確保したまま電波反射器2の小型化を図ることができる。
【0056】
本実施の形態では、電波反射器2を縦長のレドームに収納することを想定して、水平方向に4列、垂直方向に7行の28個のリフレクタ11を配列した縦長のリフレクタアレイ6を用いている。すなわち、水平方向の幅については、設置場所の制約から比較的小さく設定し、垂直方向の幅については、リフレクタアレイ6全体の開口面積が非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくなるように設定している。
【0057】
かかる構成のリフレクタアレイ6を用いた場合、図1に示すように、リフレクタアレイ6によって反射された反射波(電波)7は、その開口面において位相の揃った平面波として放射され、送信波5と略同様の平行ビームとなる。この反射波7は、電波反射器2近傍において既に、検知対象物たる人間8の高さHよりも小さく、且つ、非検知対象物たる鳥9の高さCよりも十分に大きな垂直方向のビーム幅A2を有することとなる。
【0058】
このように本装置では、レーダ1と電波反射器2との間に、平行ビームからなる検知領域D(警戒線とも称す。)が形成される。この検知領域Dは、レーダ1の送受信アンテナ
1a開口面から電波反射器2のリフレクタアレイ6開口面までの全域に亘り、少なくとも垂直方向において、鳥9などの非検知対象物が遮蔽し得る最大のビーム断面よりも広い幅を有している。したがって、レーダ1近傍または電波反射器2近傍においても、検知領域D中間部と同様の精度で侵入物検知を行うことができる。
【0059】
次に、図4を参照してレーダ1の内部構成について詳しく説明する。図4は、レーダ1の構成を示す機能ブロック図である。
【0060】
レーダ1はFM−CW方式(FM - continuous wave method)ミリ波レーダを構成して
おり、同図に示すように、送受信アンテナ1a、FM変調器12、発信器13、サーキュレータ14、ミキサ15、A/D変換器16、FFT処理部17、および信号解析部18を備えた構成となっている。FM−CW方式とは、連続波にFMの変調をかけて送信し、送信波と反射波の位相差に基づいて物体の存在および物体までの距離を検知する方式である。
【0061】
FM変調器12は、発信器13にて生成される送信波信号の周波数を制御するためのブロックである。FM変調器12は、送信周波数が基準周波数を中心にして所定の周波数偏移で直線的に変化するように制御信号を生成し、発信器13に出力する。本実施の形態では、基準周波数を76GHz、最大周波数偏移を±100MHzに設定しており、電波の波長は約4mmとなる。
【0062】
発信器13は、FM変調器12から入力された制御信号に基づいて送信波信号を変調するブロックである。ここで変調された送信波信号は、サーキュレータ14およびミキサ15に入力される。
【0063】
サーキュレータ14は、送信波と受信波の信号を分波するための装置である。このサーキュレータ14は3つの端子を有し、それぞれ発信器13、送受信アンテナ1a、ミキサ15に接続されている。サーキュレータ14の3つの端子間では、入力と出力の方向が循環的に定まっており、発信器13から入力された送信波信号は送受信アンテナ1aに出力され、送受信アンテナ1aから入力された受信波信号はミキサ15に出力される。
【0064】
ミキサ15は、発信器13から入力された送信波信号の周波数と、サーキュレータ14から入力された受信波信号の周波数との間の位相差に基づきビート信号を生成するための周波数混合器である。
【0065】
A/D変換器16は、ミキサ15から得られたビート信号をディジタル信号に変換するための装置である。
【0066】
FFT処理部17は、ミキサ15において生成されA/D変換器16によってディジタル信号に変換されたビート信号に対して、FFT(fast fourier transform;高速フーリエ変換)処理を行うブロックである。FFT処理が行われたビート信号は、スペクトル変換されて、周波数と受信電力強度のパラメータによって表されるスペクトルデータに変換される。
【0067】
図5は、横軸に周波数、縦軸に受信電力強度をとったスペクトルデータの一例を示すグラフである。このグラフにおいて、ピークは何らかの物体からの反射波を示しており、ピークの周波数は、その物体のレーダ1からの距離を示していることになる。このグラフにおいて、ピークP1は検知領域内に侵入した物体からの直接反射波に対応しており、ピークP2は、電波反射器2からの回帰反射波に対応している。ピークの周波数は、その物体または電波反射器2のレーダ1からの距離に対応している。
【0068】
信号解析部18は、FFT処理部17によって得られたスペクトルデータ(観測波形)に基づいて、検知領域内への侵入者あるいは侵入物を検知するブロックである。侵入者あるいは侵入物が不在の場合には、ピークP1は現れず、ピークP2が定常的に現れるスペクトルデータを観測することができる。そして、侵入者等が存在する場合には、ピークP1が出現し、逆にピークP2の強度が弱くなる。このときのピーク強度の変動量は物体が遮蔽するビーム量によって異なる。信号解析部18は、これらのピークの変動量を観測することで、侵入した物体が検知対象物か否かの判定を行う。
【0069】
信号解析部18において行われる判定処理の流れについて、図6のフローチャートを参照しながら説明する。侵入物検知装置の稼動中は、以下の判定処理が所定の単位時間間隔で実行される。
【0070】
まず判定処理が開始されると、ステップS1において、本装置が回帰反射波の測定処理を実行可能か否かの判断を行う。実行不可と判断された場合は、回帰反射波に基づく判定処理をスキップする。ここで実行不可と判断されるケースとしては、たとえば、本装置を直接反射型レーダ装置として使用しているケース、何らかの要因により電波反射器2からの回帰反射波の定常観測ができないケースなどが考えられる。
【0071】
一方、ステップS1において実行可能と判断された場合には、ステップS2において回帰反射波に基づく判定処理を実行する。ここでは、まず単位時間について所定回数の回帰反射波の観測を行い、得られたスペクトルデータの平均化処理を行って、単位時間のFFT瞬時値を演算する。一般に、瞬間的に得られるデータは、物体の移動や向きなどの状態によって増減があり、ノイズ成分の影響も大きいので、このように単位時間あたりの複数の観測データを平均することでS/N比の高いデータを得ることができる。
【0072】
次に、得られたFFT瞬時値と、メモリなどの記憶部にあらかじめ記憶されているFFT平均値とを比較する。このFFT平均値は、検知領域内に侵入物が存在しない場合の定常的な受信電力強度を示す値である。
【0073】
図7(a)は、横軸に時間、縦軸に受信電力強度をとった、回帰反射波のスペクトルデータの一例を示すグラフである。このグラフは時間の経過に伴うFFT瞬時値の変化を示したものである。なお、縦軸の受信電力強度は、FFT平均値に対する相対値(差分値)を示している。
【0074】
このグラフにおいて、検知領域内に侵入物が存在しない場合には定常的な受信電力強度としてFFT平均値と略同じ値が観測されている。PB1の部分は、レーダ1近傍を鳥が横切った場合の観測データを示し、PH1の部分は、同様の箇所を人間が横切った場合の観測データを示している。
【0075】
本実施の形態では、レーダ1近傍の送信波のビーム断面積を、鳥などの非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくしている。したがって、レーダ1近傍の検知領域内を鳥などが通過した場合であっても、一部のビームが遮られるにすぎないので、受信電力強度の低下は約6dB程度にとどまる。一方、検知領域内に人間が侵入した場合には、ビームの大半が遮られることとなり、受信電力強度が約14dBほど低下する。
【0076】
このように、本実施の形態によれば、レーダ1近傍の検知領域であっても、検知対象物がビームを遮った場合と非検知対象物がビームを遮った場合とで、受信電力強度に明確な差異が生ずる。なお、電波反射器2近傍の検知領域についても同様の結果が得られる。
【0077】
ステップS2においては、まずFFT瞬時値とFFT平均値との差分を計算する。そして、この差分値が−8dB未満であれば変数Aに0.9を代入し、−8以上−10dB未満であれば1.0を代入し、−10dB以上−12dB未満であれば1.2を代入し、−12dB以上であれば1.4を代入する。たとえば、図7(a)の例であれば、PB1の部分におけるFFT瞬時値については、差分値が約−6dBであるので、変数Aには0.9が代入される。また、PH1の部分におけるFFT瞬時値については、差分値が約−14dBであるので、変数Aには1.4が代入される。
【0078】
次に、ステップS3において、本装置が直接反射波の測定処理を実行可能か否かの判断を行う。実行不可と判断された場合は、ステップS4に移行し、異常終了である旨のエラーコードを返して処理を終了する。なお、ここで実行不可と判断された場合であっても、ステップS2において回帰反射波の測定処理を実行している場合には、直接反射波に基づく判定処理をスキップして、ステップS6に処理を進める。
【0079】
一方、ステップS3において実行可能と判断された場合には、ステップS5において直接反射波に基づく判定処理を実行する。ここでは、まず単位時間について所定回数の直接反射波の観測を行い、得られたスペクトルデータの平均化処理を行って、単位時間のFFT瞬時値を演算する。平均化処理についてはステップS2で行ったものと同様である。
【0080】
次に、得られたFFT瞬時値と、メモリなどの記憶部にあらかじめ記憶されている侵入者の判定値とを比較する。この判定値は、検知領域内に検知対象物(侵入者)が存在する場合に得られる受信電力強度に基づき設定される値である。好ましくは、非検知対象物である鳥や飛来物などから得られうる受信電力強度よりも十分に大きく、且つ、検知対象物であるとの確実性を得るに足る下限値よりも小さく設定するとよい。下限値よりも小さく設定するのは、判定値にある程度の余裕をもたせることで、侵入者を非検知対象物と誤って判定してしまうことを防止するためである。なお、直接反射波の受信電力強度はレーダ1から侵入物までの距離に応じて変化するため、距離に応じた複数の判定値をあらかじめ用意しておき、直接反射波のピーク周波数に基づきステップS3で用いる判定値を選択することが好ましい。
【0081】
図7(b)は、横軸に時間、縦軸に受信電力強度をとった、直接反射波のスペクトルデータの一例を示すグラフである。このグラフは時間の経過に伴うFFT瞬時値の変化を示したものである。なお、縦軸の受信電力強度は、上記判定値に対する相対値(差分値)を示している。
【0082】
このグラフにおいて、検知領域内に侵入物が存在しない場合には定常的な受信電力強度として−22dBのノイズが観測されている。PB2の部分は、レーダ1近傍を鳥が横切った場合の観測データを示し、PH2の部分は、同様の箇所を人間が横切った場合の観測データを示している。
【0083】
本実施の形態では、レーダ1近傍の送信波のビーム断面積を、鳥などの非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくしている。したがって、レーダ1近傍の検知領域内を鳥などが通過した場合であっても、一部のビームが反射されるにすぎないので、受信電力強度の増加は約18dB程度にとどまり、あらかじめ記憶している判定値(グラフでは0dB)には届かない(約−4dBほど小さい)。一方、検知領域内に人間が侵入した場合には、ビームの大半が反射されることとなり、受信電力強度が約26dBほど増加して、上記判定値を超えることがわかる。
【0084】
このように、本実施の形態によれば、レーダ1近傍の検知領域であっても、検知対象物がビームを遮った場合と非検知対象物がビームを遮った場合とで、受信電力強度に明確な
差異が生ずる。なお、電波反射器2近傍の検知領域についても同様の結果が得られる。
【0085】
ステップS5においては、まずFFT瞬時値と判定値との差分を計算する。そして、この差分値が+0dB未満であれば変数Bに0.9を代入し、+0以上+1dB未満であれば1.0を代入し、+1dB以上+3dB未満であれば1.2を代入し、+3dB以上であれば1.4を代入する。たとえば、図7(b)の例であれば、PB2の部分におけるFFT瞬時値については、差分値が約−4dBであるので、変数Bには0.9が代入される。また、PH2の部分におけるFFT瞬時値については、差分値が約+4dBであるので、変数Bには1.4が代入される。
【0086】
次に、ステップS6において、変数Aと変数Bの結果を乗算し、その結果が1.0以上か否かが判断される。なお、ステップS2またはステップS5の処理のいずれか一方しか実行していない場合には、変数同士の乗算は行わず、値の代入された変数のみで上記判断を行う。
【0087】
ここで1.0以上と判断された場合は、観測されたピークが検知対象物のもの、すなわち侵入者が存在すると判定する。一方、1.0未満と判断された場合には、観測されたピークは検知対象物のものではない、すなわち侵入者は存在しないと判定する。
【0088】
以上述べたように、本実施の形態によれば、レーダ1近傍あるいは電波反射器2近傍においても、検知対象物による受信電力と非検知対象物による受信電力とを明確に識別することができるので、侵入物が検知対象物であるか否かの判定を高精度に行うことができる。
【0089】
また、回帰反射波の測定結果と直接反射波の測定結果とを組み合わせた値に基づき判定を行うため、ノイズなどの影響を受けづらく、判定結果の信頼性が向上し、誤検知が少なくなる。
【0090】
次に、本発明の他の実施の形態について説明を行う。以下の説明では、第1の実施の形態と同一の構成部分について同一の符号を付して詳しい説明は省略し、第1の実施の形態と異なる特徴部分を中心に説明を行う。
【0091】
(第2の実施の形態)
図8には、本発明の第2の実施の形態が示されている。上記第1の実施の形態では、送受信手段としてパラボラアンテナを用いたが、本実施の形態では、レンズアンテナで構成している。
【0092】
同図に示すように、本実施の形態の送受信アンテナ1bは、開口面アンテナの一形態であるレンズアンテナとして構成され、電波の一次放射源3と、電波レンズとしての凹レンズ19および凸レンズ20とを備えている。
【0093】
凹レンズ19および凸レンズ20は、セラミックや樹脂などの誘電率の高い材料からなる誘電体レンズである。これらは、光学レンズと同様な形状に構成することができる。なお、一次放射源3からの電波の広がりが大きい場合は、凹レンズ19を用いなくてもよい。
【0094】
電波の送信時、一次放射源3から凹レンズ19に向けて放射された送信波21は、凹レンズ19により拡大され、凸レンズ20により平行ビームに屈折されて、その開口面において位相の揃った平面波として放射される。この平面波としての送信波21は、比較的鋭い指向性を有し、広がりの少ない平行ビームとなる。
【0095】
送受信アンテナ1bは、非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有するので、この送信波21は、レーダ近傍において既に、非検知対象物たる鳥よりも十分に大きなビーム幅を有することになる。
【0096】
したがって、本実施の形態の構成によっても、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0097】
(第3の実施の形態)
図9には、本発明の第3の実施の形態が示されている。
【0098】
レーダに使われる電波の周波数として76GHzのものを選んだ場合、その波長は4mmとなるので、レーダの電波が往復することを考えると、見通し直線距離(電波の経路差の半分)が2mmごとに電波が強めあう点が存在し、またその点から1mmずれたところに電波が弱めあう点が存在することになる。これは電波の干渉によるものである。したがって、図中破線で示したように、リフレクタ11の開口面11bを同一平面上に揃える構成とした場合、上記電波の干渉が生じ、反射効率が悪くなることがある。
【0099】
そこで本実施の形態では、リフレクタ11の開口面11b′が電波の同位相面23に略沿うように、各リフレクタ11を配置している。すなわち、レーダから各リフレクタ11までの距離が等距離Rとなるように、半径Rの球面上に開口面11b′を揃えた構成とする。
【0100】
なお、各開口面11b′を上記球面上に厳密に沿わせる必要はなく、電波の干渉を防止するためであれば、レーダから各リフレクタ11までの距離のバラツキが波長の1/4未満、すなわち1mm未満におさまれば十分である。
【0101】
かかる構成によれば、上記第1の実施の形態と同様の作用効果に加えて、反射波同士の位相のズレや干渉が生じることを防止でき、リフレクタ22の反射効率を高めて、電波反射器2近傍における非検知対象物の識別精度を一層向上させることが可能となる。
【0102】
(第4の実施の形態)
図10および図11には、本発明の第4の実施の形態が示されている。上記第1の実施の形態では、小型のリフレクタを複数並べたリフレクタアレイを用いたが、本実施の形態では、大型の単一のリフレクタを用いて電波反射器を構成している。
【0103】
一般に、リフレクタは、その開口面積に応じた反射電力を得ることができるので、リフレクタの開口面を大きく設けることが望ましい。しかしながら、リフレクタを実際に長期間屋外で用いる際には、気候変動や汚れなどの影響を避けるために、図10に示すように、電波を通しやすい物質で作られたレドーム25で覆い、リフレクタ24を保護するのが通例である。本来レドーム25そのものに大きさの制限はないが、実際に装置を設置する環境での制約や、受風面積を小さくして簡易に設置しようとすると、レドーム外形の大きさには一定の制約が生まれる。したがって、その限られた範囲の中でリフレクタ24の開口面積を大きくする必要がある。
【0104】
そこで本実施の形態では、リフレクタ24を次のような形状とする。
【0105】
図10および図11に併せ示すように、リフレクタ24は、側面を反射面24b、底面を開口面24aとする三角錐体状を呈して、且つ、開口面24aを含む角部のうち1つの角部24cを切り欠いた形状を有している。本実施の形態では、設置環境の制約としてレ
ドーム25の高さが制限されている場合を想定し、リフレクタ24の上部に突出する角部24cを略水平方向に切り欠く形状とした。
【0106】
また、リフレクタ24の開口面24aは、非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有するように設定されている。
【0107】
リフレクタ24は、板金等の電波反射材で構成するか、あるいは非金属の骨組の表面に電波反射材料を塗布することにより作製することができる。
【0108】
このリフレクタ24を設置する際は、ビーム軸と開口面24aが所定の角度θをなすように傾けて設置することが好ましい。この角度θは、リフレクタ24の反射効率が最大となる角度をさす。このように開口面を傾けたときに最大反射効率が得られるのは、角部24cを切り欠いたことにより、開口面24aおよび反射面24bの形状が非対称形となったためと考えられる。なお、本実施の形態の形状の場合、ビーム軸とリフレクタ24の開口面24aとの成す角度θが約102°のときに、最大の反射効率が得られた。
【0109】
上記構成によれば、同一の高さ制限の下では、開口面が正三角形をなす従来形状のリフレクタに比べて、水平方向に広い開口面積を確保することができる。つまり、リフレクタ外形の小型化と、リフレクタ24の開口面積の拡大、ひいてはリフレクタ24の反射電力の増大を両立することができるのである。なお、角部24cを切り欠いた場合であっても、入射された電波を入射方向と略反対の方向に向けて反射する性質は保たれている。
【0110】
そして、リフレクタ24の開口面積を非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも十分に大きくすることができるので、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0111】
加えて、単一のリフレクタ24により構成したので、上述したリフレクタアレイのようにリフレクタ同士の位相ズレや電波の干渉を防ぐような手立てを講じる必要がなくなり、製造が極めて容易となる。
【0112】
なお、図12〜図14は、本実施の形態のリフレクタの変形例である。図12に示すリフレクタ26は、頂部26cを開口面26aと略平行な平面にて構成した三角錐台形状を呈している。図13に示すリフレクタ27は、三角錐体状を呈して、且つ、開口面27aを含む角部のうち2つの角部27bを切り欠いた形状を呈している。また図14に示すリフレクタ28は、図13のリフレクタ27を三角錐台形状にしたものである。
【0113】
これらのリフレクタ26,27,28であっても、本実施の形態のリフレクタ24に準じた作用効果を得ることができる。特に、リフレクタ24,26は、垂直方向の設置幅に制約があるときに、リフレクタ27,28は、水平方向の設置幅に制約があるときに有利となる。また、三角錐台形状を呈するリフレクタ26,28については、奥行き方向(ビーム軸方向)のサイズの小型化も図ることができる。
【0114】
(第5の実施の形態)
図15には、本発明の第5の実施の形態が示されている。
【0115】
同図に示すように、リフレクタアレイ6の支持枠(支持体)は、リフレクタアレイ6が固定される固定部29と、この固定部29を支える脚部31と、設置面上に配置される底部30とを備えて構成される。
【0116】
固定部29と脚部31はピン継手をもって連結されており、所定の大きさ以上の外力を
受けたときには、互いに回動する構成となっている。また、脚部31と底部30も同様にピン継手により連結されている。すなわち、この支持枠は、固定部29を自由クランク、底部30を固定クランク、脚部31をリンクとした平行クランク機構(平行運動機構)を備えている。
【0117】
この構成によれば、動物の衝突や飛来物の衝突、風雨の影響など、支持枠が外環境から何らかの衝撃を受けても、脚部31が傾くことでその衝撃が吸収され、支持枠が屈曲などの変形を起こすことがない。そして、脚部31が傾斜しても、固定部29と設置面との平行は保たれるので、リフレクタアレイ6の開口面とビームとの相対角度は常に一定に保たれ、ビーム軸のズレによる反射電力、受信電力の低下や識別精度の低下などを防止することができる。
【0118】
また、図16に示すように、支持枠の一部を、リフレクタアレイ6および支持枠を覆うレドーム32に対して、スプリング33などの弾性部材を介して接続する構成を採るとより好ましい。
【0119】
この構成によれば、スプリング33が外環境からの衝撃を緩和する衝撃吸収手段としての機能を果たすとともに、脚部31が傾斜したとしても、スプリング33の弾性復元力により脚部31の傾きが是正され、リフレクタアレイ6が正位置に戻されることとなる。したがって、反射電力や受信電力の低下や、識別精度の低下などをより一層防止することが可能となる。
【0120】
(他の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、レーダ1と電波反射器2とを互いに対向するように設置して、検知領域Dを直線状にしているが、本装置の配置はこれに限られない。たとえば、図17に示すように、レーダ1と電波反射器2の間にビームの進路(電波の進行方向)を偏向させる偏向部材としての反射器34を配設することにより、ビームの進路を曲げて、検知領域をたとえばくの字(同図(a))やコの字、あるいはロの字(同図(b))のように構成することもできる。なお、本実施の形態では、反射器34として、入射角に等しい反射角で電波を反射する平面反射板を用いている。
【0121】
かかる構成により検知領域を非直線状にすることができるので、たとえば、建物の全周囲や見通しの悪い曲がりくねった場所などに、検知領域を張り巡らせることが容易となる。つまり、単一のレーダ1で複数箇所の侵入物検知を行うことが可能となり、装置の利便性が向上するとともに、レーダ1に比べて安価な反射器34の追加だけで済むので、コストメリットが大きい。
【0122】
赤外線センサや光センサなどで同様の構成を採った場合、反射器34に埃や砂粒等が付着すると赤外線や光の減衰が激しく実用にはならなかったが、本装置では赤外線等よりも波長がはるかに長い電波を採用しているため、反射器34の反射面に埃や砂粒等が付着した場合であっても減衰が少なく、屋外環境で長期間の使用をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る侵入物検知装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】(a)は、同実施の形態に係るリフレクタアレイの一部分を示す斜視図であり、(b)は、同リフレクタアレイの構成要素であるリフレクタの形状を示す斜視図である。
【図3】同リフレクタアレイの構成を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図4】同実施の形態に係るレーダの構成を示す機能ブロック図である。
【図5】横軸に周波数、縦軸に受信電力強度をとったスペクトルデータの一例を示すグラフである。
【図6】検知対象物か否かを判定する判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】横軸に時間、縦軸に受信電力強度をとったスペクトルデータの一例を示すグラフであり、(a)は回帰反射波のデータの一例、(b)は直接反射波のデータの一例を示すものである。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るレーダの構成を示す概略図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るリフレクタアレイを示す断面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る侵入物検知装置の全体構成を示す概略図である。
【図11】同実施の形態に係るリフレクタの構成を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図12】同リフレクタの変形例を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図13】同リフレクタの変形例を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図14】同リフレクタの変形例を示す概略図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図15】本発明の第5の実施の形態に係る電波反射器の構成を示す概略図である。
【図16】同電波反射器の変形例を示す概略図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る侵入物検知装置の他の構成例を示す概略図である。
【図18】従来の侵入物検知装置の全体構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0124】
1 レーダ
1a,1b 送受信アンテナ(送受信手段)
2 電波反射器(反射手段)
3 一次放射源
4 反射鏡
5 送信波
6 リフレクタアレイ
7 反射波
8 人間
9 鳥
10 基体
11 リフレクタ
11a 反射面
11b 開口面
12 FM変調器
13 発信器
14 サーキュレータ
15 ミキサ
16 A/D変換器
17 FFT処理部
18 信号解析部
19 凹レンズ
20 凸レンズ
21 送信波
22 リフレクタ
23 同位相面
24 リフレクタ
24a 開口面
24b 反射面
24c 角部
25 レドーム
26 リフレクタ
26a 開口面
26c 頂部
27 リフレクタ
27a 開口面
27b 角部
28 リフレクタ
29 固定部
30 底部
31 脚部
32 レドーム
33 スプリング(弾性部材)
34 反射器(偏向部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の送信および受信を行う送受信手段を有するレーダと、
該レーダから送信された電波を同レーダに向けて反射する反射手段と、を備え、
前記レーダと前記反射手段の間を伝搬している電波のビームからなる検知領域内に侵入した侵入物を検知する侵入物検知装置において、
前記レーダ近傍の送信波および前記反射手段近傍の反射波のビーム断面積を、検知対象から除外すべき所定の非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくしたことを特徴とする侵入物検知装置。
【請求項2】
前記レーダ近傍の送信波および前記反射手段近傍の反射波のビーム断面は、前記非検知対象物が遮蔽し得る最大のビーム断面に対して、少なくとも一方向に広がりを有していることを特徴とする請求項1に記載の侵入物検知装置。
【請求項3】
前記送受信手段は、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有する開口面アンテナであることを特徴とする請求項1または2に記載の侵入物検知装置。
【請求項4】
前記反射手段は、開口面を揃えて配置された複数のリフレクタからなるリフレクタアレイであって、
該リフレクタアレイ全体の開口面積が前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1,2または3に記載の侵入物検知装置。
【請求項5】
前記複数のリフレクタは、それぞれの開口面が電波の同位相面に略沿うように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の侵入物検知装置。
【請求項6】
前記反射手段は、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有するリフレクタであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の侵入物検知装置。
【請求項7】
前記リフレクタは、側面を反射面、底面を開口面とする錐体状または錐台状を呈して、且つ、底面を含む角部のうち少なくとも1つが切り欠かれた形状を有することを特徴とする請求項6に記載の侵入物検知装置。
【請求項8】
前記リフレクタは、互いに直交する3つの反射面を備えた三角錐体状または三角錐台状を呈していることを特徴とする請求項7に記載の侵入物検知装置。
【請求項9】
前記送受信手段または前記反射手段を支持する支持体は、
該送受信手段または該反射手段が固定される固定部と、
支持体が傾斜したときに該固定部を支持体設置面に対して平行運動可能とする平行運動機構と、を備えていることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の侵入物検知装置。
【請求項10】
前記送受信手段または前記反射手段と前記支持体とを覆うレドームを備えて、且つ、前記支持体は前記レドームに対して弾性部材を介して接続されていることを特徴とする請求項9に記載の侵入物検知装置。
【請求項11】
前記レーダと前記反射手段との間にビームの進路を偏向させる偏向部材を設けて、検知領域を非直線状に構成したことを特徴とする請求項1乃至10のうちいずれか1項に記載の侵入物検知装置。
【請求項12】
電波の送信および受信を行う送受信手段を有するレーダを備え、侵入物からの反射波を受信して侵入物を検知する侵入物検知装置において、
前記レーダ近傍の送信波のビーム断面積を、検知対象から除外すべき所定の非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きくしたことを特徴とする侵入物検知装置。
【請求項13】
前記送受信手段は、前記非検知対象物が遮蔽し得るビーム断面積よりも大きな開口面積を有する開口面アンテナであることを特徴とする請求項12に記載の侵入物検知装置。
【請求項14】
入射された電波を入射方向と略反対の方向に反射する電波反射器であって、
開口面を揃えて配置された複数のリフレクタからなるリフレクタアレイを備えたことを特徴とする電波反射器。
【請求項15】
前記複数のリフレクタは、それぞれの開口面が電波の同位相面に略沿うように配置されていることを特徴とする請求項14に記載の電波反射器。
【請求項16】
入射された電波を入射方向と略反対の方向に反射する電波反射器であって、
側面を反射面、底面を開口面とする錐体状または錐台状を呈して、且つ、底面を含む角部のうち少なくとも1つが切り欠かれた形状を有するリフレクタを備えたことを特徴とする電波反射器。
【請求項17】
前記リフレクタは、互いに直交する3つの反射面を備えた三角錐体状または三角錐台状を呈していることを特徴とする請求項16に記載の電波反射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−153878(P2006−153878A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341131(P2005−341131)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【分割の表示】特願2001−338325(P2001−338325)の分割
【原出願日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】