説明

保湿剤、抗酸化剤、抗老化剤、皮膚化粧料及び美容用飲食品

【課題】 肌荒れ、皮膚の老化及びこれらに伴って生じる各種皮膚疾患を予防・改善する上で有用な保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤、コラーゲン産生促進剤、皮膚化粧料及び美容用飲食品を提供する。
【解決手段】 保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤、コラーゲン産生促進剤、皮膚化粧料及び美容用飲食品に五斂子の花部からの抽出物を含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物からの抽出物を有効成分とする保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤及びコラーゲン産生促進剤並びに植物からの抽出物を配合した皮膚化粧料及び美容用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の老化、肌荒れに伴う各種皮膚疾患などの原因や発症機構は多種多様であるが、その主な原因としては、皮膚の保湿機能の低下、生体内で生じた活性酸素、細胞外マトリックス構成成分の減少・変性などが挙げられる。
【0003】
環境などの外的要因やストレスなどの内的要因によって皮膚の保湿機能が低下すると、皮膚は乾燥し、弾力性も失われて、かさかさした状態になる。このような乾燥肌は、アトピー性皮膚炎や様々なスキントラブルを招くおそれがあり、さらには、シワなどの深刻な状態を招くと考えられている。したがって、皮膚組織に保湿成分を与えることにより、アトピー性皮膚炎や肌荒れなどの炎症、シワの形成などの皮膚の老化を予防・改善できるものと考えられる。
【0004】
また、近年生体成分を酸化させる要因として活性酸素が注目されており、生体への悪影響が問題となっている。活性酸素は、主に生体細胞内におけるエネルギー代謝過程で生じるものであり、スーパーオキサイド(すなわち酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン:・O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシラジカル(・OH)及び一重項酸素()などがある。これらの活性酸素は、好中球やマクロファージなどの食細胞による細胞内殺菌機構に関与するものであり、ウイルスや癌細胞の除去に重要な役割を果たしているが、活性酸素が過剰に生成されると、活性酸素が細胞膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、各種疾患を誘発するおそれがある。例えば、過酸化水素は、炎症、過酸化脂質の生成、種々の酵素の失活及びDNAの損傷などを引き起こすことが知られている。
【0005】
通常、過酸化水素がカタラーゼなどの過酸化水素分解酵素により分解されることで、生体内の過酸化水素濃度は低く維持され、その結果、過酸化水素によって生じる細胞や組織の酸化障害は回避されている。しかし、カタラーゼは加齢に伴ってその産生量が減少することが知られているため、カタラーゼの産生を促進させることによって、生体内中の余剰の過酸化水素を分解し、細胞や組織の酸化障害を予防・改善することができるものと考えられる。
【0006】
また、過酸化水素によって生じる細胞障害を予防・改善して、細胞の恒常性を高めることができれば、皮膚組織のターンオーバーサイクルを正常に維持することができると考えられる。したがって、カタラーゼ産生を促進したり、過酸化水素によって生じる細胞障害を予防・改善したりすることによって、皮膚の老化を予防・改善できるものと考えられる。
【0007】
一方、皮膚の表皮及び真皮は、表皮細胞、線維芽細胞及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するエラスチン、ヒアルロン酸、コラーゲンなどの細胞外マトリックスにより構成されている。若い皮膚においては、これら皮膚組織の相互作用が恒常性を保つことにより水分保持、柔軟性、弾力性などが確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0008】
ところが、紫外線の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄など、ある種の外的要因の影響があったり加齢が進んだりすると、細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンなどの産生量が減少するとともに、分解や変性を引き起こす。その結果、皮膚の弾力性は低下し、肌は張りを失い、肌荒れ、シミ・シワの形成などの老化症状を呈するようになる。
【0009】
このように、老化に伴う皮膚組織の変化、すなわち、シミ・シワの形成、きめの消失、弾力性の低下などには、コラーゲンなどの真皮マトリックス成分の減少・変性が関与している。したがって、コラーゲンの産生を促進することにより、皮膚の老化を防止・改善することができるものと考えられる。
【0010】
このような考えに基づき、従来から、保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素による細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有する物質を、安全性の点で有利な天然物より取得する試みがなされており、例えば、五斂子の葉部からの抽出物(特許文献1)、スターフルーツの果実からの抽出物(特許文献2)、イロハモミジ抽出物(特許文献3)、クスノハガシワ抽出物(特許文献4)などに有効性が確認されている。
【特許文献1】特開2002−226323号公報
【特許文献2】特開2003−300893号公報
【特許文献3】特開2003−113068号公報
【特許文献4】特開2003−146837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、天然物の中から、保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用、コラーゲン産生促進作用を有する成分を見出し、その成分を有効成分とした保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤及びコラーゲン産生促進剤並びに上記成分を配合した皮膚化粧料及び美容用飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤及びコラーゲン産生促進剤は、五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
ここで、本明細書において「過酸化水素細胞障害」とは、過酸化水素が原因となって生じる細胞障害、特に炎症、過酸化脂質生成、種々の酵素の失活、DNA損傷などの酸化障害を意味し、皮膚組織障害などの組織障害も含む。また、上記細胞は、過酸化水素によって障害が生じる生体細胞である限り特に限定されることはない。
【0014】
また、本発明の皮膚化粧料及び美容用飲食品は、五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を配合したことを特徴とする。
【0015】
なお、五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物が保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用及びコラーゲン産生促進作用を有し、皮膚の老化の予防・改善に有効であることは全く知られておらず、このことは本発明の新知見である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、五斂子の花部からの抽出物が有する保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用及びコラーゲン産生促進作用に基づく保湿効果、抗酸化効果及び抗老化効果に優れ、安全性の高い保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤、コラーゲン産生促進剤、皮膚化粧料及び美容用飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔保湿剤,抗酸化剤,カタラーゼ産生促進剤,過酸化水素細胞障害の予防・改善剤,抗老化剤及びコラーゲン産生促進剤〕
本発明の保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤及びコラーゲン産生促進剤は、五斂子(学名:Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有するものである。
【0018】
ここで、「五斂子の花部からの抽出物」には、抽出処理によって五斂子の花部から得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0019】
本発明において使用する抽出原料は、五斂子の花部である。ここで、「花」とは、一般に、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、雄しべ、心皮等の器官が含まれる。本発明において抽出原料として使用する「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、その一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
【0020】
五斂子(学名:Averrhoa carambola L.)は、カタバミ科に属し、新鮮な果実は食用にされる。五斂子は、中国では紀元前から文献に記載され、その果実は断面が星形であることからスターフルーツとも呼ばれている。五斂子は、沖縄、中国東南部や雲南その他熱帯各地で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0021】
抽出原料として使用する五斂子の花部は、採取後ただちに乾燥し粉砕したものが適当である。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。五斂子の花部は、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、五斂子の花部の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0022】
五斂子の花部からの抽出物に含有される保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有する抽出物を得ることができる。
【0023】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合液を、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用するのが特に好ましい。五斂子の花部に含有される保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有する物質は、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合液を抽出溶媒とする抽出処理によって容易に抽出することができる。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水などのほか、こられに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、滅菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0025】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトンなどの低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの炭素数2〜5の多価アルコールが挙げられる。
【0026】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比を7:3〜2:8(容量比)とすることができる。
【0027】
抽出処理は、五斂子の花部に含有される可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定されることはなく、常法に従って行うことができる。抽出処理の際には、特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温又は還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
【0028】
例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料(五斂子の花部)を投入し、ときどき攪拌しながら可溶性成分を溶出させる。この際、抽出溶媒量は通常、抽出原料(五斂子の花部)の5〜15倍量(質量比)であり、抽出時間は通常1〜3時間であり、抽出温度は通常、常温〜95℃であることが好ましい。
【0029】
抽出処理により可溶性成分を溶出させた後、濾過して抽出残渣を除去することによって、抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0030】
また、五斂子の花部は特有の匂いと味を有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚化粧料や美容用飲食品に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。精製は、具体的には活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理などによって行うことができる。
【0031】
以上のようにして得られる抽出物は、保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有しており、それらの作用を利用して保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤又はコラーゲン産生促進剤として使用することができる。
【0032】
保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤又はコラーゲン産生促進剤は、上記五斂子の花部からの抽出物のみからなるものでもよいし、上記五斂子の花部からの抽出物を製剤化したものでもよい。
【0033】
上記五斂子の花部からの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容され得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、トローチ剤、液剤、注射剤、座剤、貼付剤、塗布剤、点眼剤、点鼻剤等、任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。
【0034】
なお、本発明の保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤又はコラーゲン産生促進剤は、必要に応じて、保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0035】
本発明の保湿剤は、有効成分である五斂子の花部からの抽出物が有する皮膚に対する保湿作用を通じて、皮膚の老化、肌荒れなどを予防・改善することができる。ただし、本発明の保湿剤は、これらの用途以外にも、保湿作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0036】
また、本発明の抗酸化剤は、有効成分である五斂子の花部からの抽出物が有するカタラーゼ産生促進作用及び/又は過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を通じて、過酸化水素によって生じる細胞障害・組織障害又は皮膚の老化などを予防・改善することができる。ただし、本発明の抗酸化剤は、これらの用途以外にも、カタラーゼ産生促進作用及び/又は過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0037】
さらに、本発明のカタラーゼ産生促進剤は、有効成分である五斂子の花部からの抽出物が有するカタラーゼ産生促進作用を通じて、生体内におけるカタラーゼの産生を促進することができる。これにより、カタラーゼが生体内で生じた過酸化水素を分解することができ、細胞や組織の酸化障害、例えば、細胞の老化や癌化などを予防・改善することができる。ただし、本発明のカタラーゼ産生促進剤は、これらの用途以外にも、カタラーゼ産生促進作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0038】
さらにまた、本発明の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤は、有効成分である五斂子の花部からの抽出物が有する過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を通じて、細胞や組織の酸化障害や皮膚の老化などを予防・改善することができる。ここで、上記過酸化水素細胞障害の予防・改善作用は、上記カタラーゼ産生促進作用に基づいて発揮されるものであってもよいし、その他の作用に基づいて発揮されるものであってもよい。ただし、本発明の過酸化水素細胞障害の予防・改善剤は、これらの用途以外にも、過酸化水素細胞障害を予防・改善する作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0039】
本発明の抗老化剤は、有効成分である五斂子の花部からの抽出物が有するコラーゲン産生促進作用を通じて、皮膚の老化を予防・改善することができる。ただし、本発明の抗老化剤は、これらの用途以外にも、コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0040】
また、本発明のコラーゲン産生促進剤は、有効成分である五斂子の花部からの抽出物が有するコラーゲン産生促進作用により、コラーゲンの産生を促進することができる。これにより、真皮マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンの減少・変性を抑制することができ、皮膚の老化を予防・改善することができる。ただし、本発明のコラーゲン産生促進剤は、これらの用途以外にも、コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義あるすべての用途に用いることができる。
【0041】
〔皮膚化粧料〕
上記五斂子の花部からの抽出物は、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合、五斂子の花部からの抽出物をそのまま配合してもよいし、当該抽出物から製剤化した保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤又はコラーゲン産生促進剤を配合してもよい。また、保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤又はコラーゲン産生促進剤を皮膚化粧料に配合する場合には、それらの剤の1種を配合してもよいし、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0042】
五斂子の花部からの抽出物を配合し得る皮膚化粧料は特に限定されないが、その具体例として、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤等、任意の形態が可能である。
【0043】
本発明の皮膚化粧料における五斂子の花部からの抽出物の配合量は、皮膚化粧料の種類や抽出物の生理活性などによって適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な五斂子の花部からの抽出物に換算して約0.001〜10質量%である。
【0044】
本発明の皮膚化粧料は、五斂子の花部からの抽出物が有する保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を妨げない限り、皮膚化粧料の通常の製造に用いられる主剤又は助剤、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤等を併用することができる。このように併用することにより、より一般性のある製品となり、また、それにより、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0045】
〔美容用飲食品〕
上記五斂子の花部からの抽出物は、保湿作用、カタラーゼ産生促進作用、過酸化水素細胞障害の予防・改善作用又はコラーゲン産生促進作用を有するものであり、消化管で消化されるようなものではないことが確認されており、安全性にも優れているため、美容用飲食品に配合するのに好適である。この場合に、五斂子の花部からの抽出物をそのまま配合してもよいし、五斂子の花部からの抽出物から製剤化した保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤又はコラーゲン産生促進剤を配合してもよい。
【0046】
ここで、「美容用飲食品」とは、美肌を図ることを目的とした飲食物、又は肌荒れ、皮膚の老化及びこれらに伴って生じる各種皮膚疾患を予防・改善することを目的とした飲食物を意味する。
【0047】
上記五斂子の花部からの抽出物、又は保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤若しくはコラーゲン産生促進剤を美容用飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、性別、症状等を考慮して適宜調整することができるが、標準的な五斂子の花部からの抽出物に換算して、添加対象飲食品の質量に対して約0.01〜10質量%になるようにするのが好ましい。
【0048】
本発明の美容用飲食品は、五斂子の花部からの抽出物をその活性を妨げないような任意の飲食品に配合したものであってもよいし、当該抽出物を主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0049】
本発明の美容用飲食品を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類などの任意の助剤を添加して任意の形状の飲食品にすることができる。
【0050】
五斂子の花部からの抽出物を配合し得る飲食品は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などが挙げられ、これらの飲食品に上記五斂子の花部からの抽出物を配合するときに、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0051】
以上説明した本発明の保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素細胞障害の予防・改善剤、抗老化剤、コラーゲン産生促進剤、皮膚化粧料及び美容用飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、製造例、試験例及び配合例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の各例に何ら限定されるものではない。
【0053】
〔製造例1〕
五斂子の花部の粗粉砕物100gを抽出溶媒1000mLに投入し、80℃の温度条件下で3時間加熱抽出を行った。その後濾過し、濾液を減圧下にて濃縮し、さらに乾燥して五斂子の花部からの抽出物を得た。抽出溶媒として水、50%エタノール(水とエタノールとの容量比=1:1)及び80%エタノール(水とエタノールとの容量比=1:4)を用いたときの各抽出物の収率を表1に示す。
【0054】
[表1]
試 料 抽出溶媒 抽出物収率(%)
1 水 13.4
2 50%エタノール 18.9
3 80%エタノール 14.2
【0055】
[試験例1]保湿作用試験
製造例1で得られた試料1〜3について、下記の試験方法により保湿作用を試験した。
【0056】
試料1〜3の抽出物の0.05質量%水溶液(試料溶液1〜3)、1%グリセリン(試料溶液4)、精製水(試料溶液5)を、それぞれ直径8mmのペーパーディスク(東洋製作所製,質量:約0.017g)に10μLずつ滴下した。これらのペーパーディスクを試験室内に放置し、8分経過するまで1分ごとにペーパーディスクの質量を測定した。0分の質量を100%として各試料溶液の水分残存率(%)を求めた。なお、試験は、室温23℃、湿度55%の条件下で行った。
表2に、上記試験の結果を示す。
【0057】
[表2]水分残存率(%)
時間(分)
試料溶液 0 1 2 3 4 5 6 7 8
1 100.0 91.8 86.6 81.4 76.3 71.1 66.0 60.8 55.7
2 100.0 92.3 87.5 82.7 76.9 72.1 67.3 62.5 57.7
3 100.0 94.2 89.3 83.5 78.6 73.8 68.9 64.1 59.2
4 100.0 95.6 90.1 84.6 79.1 73.6 68.1 62.6 57.1
5 100.0 93.8 87.7 81.5 75.3 69.1 63.0 56.8 50.6
【0058】
表2に示すように、五斂子の花部からの抽出物を含有する試料溶液(試料溶液1〜3)はいずれも精製水(試料溶液5)に比して水分残存率が高く、グリセリン(保湿剤)を含有する試料溶液(試料溶液4)とほぼ同様の水分残存率を示した。この結果から、五斂子の花部からの抽出物は、優れた保湿作用を有することが確認できた。
【0059】
[試験例2]カタラーゼ産生促進作用試験
製造例1で得られた試料1〜3について、下記の試験方法によりカタラーゼ産生促進作用を試験した。
【0060】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBSを含有するα−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、4.0×10cells/mLの細胞濃度になるように5%FBSを含有するα−MEM培養液で希釈した後、48穴プレートに1穴当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0061】
培養終了後、培養液を除去し、1%FBSを含有するα−MEM培養液に試料を溶解した試料溶液(試料濃度:100μg/mL)を各穴に200μLずつ添加し、24時間培養した。培養後、PBS(−)中で超音波破砕を行い、その細胞破砕液中に存在するカタラーゼ量を間接ELISA法により測定した。
【0062】
同時に、ヒト正常皮膚線維芽細胞の全タンパク量を定量し、全タンパク量当たりのカタラーゼ量を求めた。試料添加時の全タンパク量当たりのカタラーゼ産生促進率は、下記の式により算出した。
【0063】
カタラーゼ産生促進率(%)=A/B×100
上記式において、「A」は「試料添加時の全タンパク量当たりのカタラーゼ量」を、「B」は「試料無添加時の全タンパク量当たりのカタラーゼ量」を示す。
上記試験の結果を表3に示す。
【0064】
[表3]
試 料 カタラーゼ産生促進率(%)
1 101.0
2 106.8
3 173.1
【0065】
表3に示すように、五斂子の花部からの抽出物は、優れたカタラーゼ産生促進作用を有することが確認された。
【0066】
[試験例3]過酸化水素細胞障害の予防・改善作用試験
製造例1で得られた試料1〜3について、下記の試験方法により過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を試験した。
【0067】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)1×10個を、80cmフラスコで、10%FBSを含有するα−MEM培養液(pH:7.2)を用いて、37℃、5%CO−95%airの条件下で5日間前培養した。前培養した細胞をトリプシン処理により集め、5%FBSを含有するα−MEM培養液を用いて2.5×10cells/mLの細胞濃度に調整し、48穴のマイクロプレートに1穴当たり200μLずつ分注し、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。
【0068】
培養後、培養液を除去し、1%FBSを含有するα−MEM培養液に各試料を溶解した試料溶液(試料濃度:400μg/mL)を、各ウェルに200μLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、400μLのPBS(−)で洗浄し、過酸化水素を溶解したHank’s緩衝液(過酸化水素最終濃度:1mM)を200μL添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で2時間培養した。
【0069】
また、過酸化水素を溶解していないHank’s緩衝液を200μL添加し、同様の条件で培養した。さらに、試料溶液を添加せずに培養し、培養後、過酸化水素を溶解したHank’s緩衝液を200μL添加し、同様の条件で培養した。
【0070】
培養後、400μLのPBS(−)で洗浄し、1%FBSを含有するα−MEM培養液で溶解した0.05mg/mLのニュートラルレッド溶液を、200μLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で2.5時間培養した。この後、ニュートラルレッド溶液を除去し、エタノール・酢酸溶液(エタノール:酢酸:水=50:1:49)300μLを各ウェルに加え、色素を抽出した。その後、マイクロプレートリーダーを用い540nmでの吸光度を測定し、過酸化水素障害抑制率(%)を求めた。なお、過酸化水素障害抑制率は、下記の計算式により算出した。
【0071】
過酸化水素障害抑制率(%)={(Nt−C)−(Nt−Sa)}/(Nt−C)×100
上記式において、「Nt」は「試料溶液無添加・過酸化水素溶液無添加」の吸光度を、「C」は「試料溶液無添加・過酸化水素溶液添加」の吸光度を、「Sa」は「試料溶液添加・過酸化水素溶液添加」の吸光度を示す。
上記試験の結果を表4に示す。
【0072】
[表4]
試 料 過酸化水素障害抑制率(%)
1 9.4
2 17.7
3 16.8
試料無添加 0
【0073】
表4に示すように、五斂子の花部からの抽出物(試料1〜3)は、いずれも高い過酸化水素障害抑制率を示した。この結果から、五斂子の花部からの抽出物は、優れた過酸化水素細胞障害の予防・改善作用を有することが確認された。
【0074】
[試験例4]コラーゲン産生促進作用
製造例1で得られた試料1〜3について、下記の試験方法によりコラーゲン産生促進作用を試験した。
【0075】
ヒトの線維芽細胞を96穴プレートに播種し、37℃、5%CO−95%airの条件下において、試料添加培地(試料濃度:200μg/mL)で数日間培養した後、培養液の上清90μLをELISA用プレートに移し換え、4℃の温度条件下で、一晩、プレートに吸着させた後、溶液を除去し、0.05%Tween−20を含有するリン酸生理緩衝液(PBS−T)により洗浄を行った。
【0076】
洗浄後、1%ウシ血清アルブミンを含有するリン酸生理緩衝液で、ブロッキング操作を行い、溶液を除去し、0.05%Tween−20を含有するリン酸生理緩衝液(PBS−T)により洗浄を行い、抗ヒトコラーゲンタイプI抗体(ウサギIgG抗体,ケミコン社製)と反応させた。溶液を除去し、0.05%Tween−20を含有するリン酸生理緩衝液(PBS−T)により洗浄を行い、HRP標識抗ウサギIgG抗体と反応させた後、同様の洗浄操作を行い、発色反応を行った。
【0077】
コラーゲン産生促進率は、標準品を用いて上記ELISA法を行い、その結果から検量線を作成し、その検量線から試料添加時のコラーゲン産生量及び試料無添加時のコラーゲン産生量を求め、試料無添加時のコラーゲン産生量を100%として算出した。
上記試験の結果を表5に示す。
【0078】
[表5]
試 料 コラーゲン産生促進率(%)
1 230.9
2 322.5
3 224.1
【0079】
表5に示すように、五斂子の花部からの抽出物は、極めて優れたコラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0080】
[配合例1]
下記の組成の化粧水を常法より製造した。
五斂子花部水抽出物(製造例1) 1.0g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
グリセリン 4.0g
ジプロピレングリコール 2.0g
五斂子葉50%エタノール抽出物 1.0g
カミツレ抽出物 0.5g
ゲンノショウコ抽出物 0.1g
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン
デシルテトラデシルエーテル 0.7g
エタノール 3.0g
香料 適量
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0081】
[配合例2]
下記の組成の美容液を常法により製造した。
五斂子花部80%エタノール抽出物(製造例1) 1.0g
カルボキシビニルポリマー 0.2g
キサンタンガム 0.2g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1g
ポリエチレングリコール 3.0g
黄杞抽出物 0.5g
ニンジン抽出物 1.0g
グリセリン 6.0g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
L−アルギニン 0.15g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0082】
[配合例3]
下記組成のクリームを常法により製造した。
五斂子花部50%エタノール抽出物(製造例1) 1.0g
モノステアリン酸ポリエチレングリコール 2.0g
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 5.0g
ステアリン酸 2.0g
セタノール 2.0g
シソ抽出物 1.0g
ローズマリー抽出物 1.0g
スクワラン 12.0g
マカダミアナッツ油 3.0g
メチルポリシロキサン 0.2g
香料 適量
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
1,3−ブチレングリコール 7.0g
キサンタンガム 0.2g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0083】
[配合例4]
下記の原料を均一に混合して、常法により顆粒状にした後に打錠して、錠剤状栄養補助食品を製造した。
五斂子花部水抽出物(製造例1) 30.0g
マルチトール 47.0g
結晶セルロース 15.0g
ショ糖脂肪酸エステル 8.0g
【0084】
[配合例5]
下記の原料を均一に混合して、顆粒状に形成して栄養補助食品を製造した。
五斂子花部50%エタノール抽出物(製造例1) 34質量部
ビートオリゴ糖 1000質量部
ビタミンC 167質量部
ステビア抽出物 10質量部
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の保湿剤、抗酸化剤、カタラーゼ産生促進剤、過酸化水素による組織障害の予防・改善剤、抗老化剤及びコラーゲン産生促進剤並びに皮膚化粧料及び美容用飲食品は、肌荒れ、シミ・シワの形成など、皮膚の老化の予防・改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする保湿剤。
【請求項2】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項3】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするカタラーゼ産生促進剤。
【請求項4】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする過酸化水素細胞障害の予防・改善剤。
【請求項5】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項6】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項7】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項8】
五斂子(Averrhoa carambola L.)の花部からの抽出物を配合したことを特徴とする美容用飲食品。

【公開番号】特開2006−8571(P2006−8571A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187049(P2004−187049)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】