説明

保熱器、及び電気湯沸かし器

【課題】熱の有効活用を可能とし、かつ、設計の自由度が高い保熱器の提供。
【解決手段】熱源とシートとを有し、前記熱源と前記シートとの距離が1.0mm以上50mm以下であり、前記シートが、独立した空洞を有する樹脂フィルムを少なくとも有し、前記樹脂フィルムにおける前記空洞が前記樹脂フィルムの厚み方向と直交して配向しており、前記厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であり、かつ、前記樹脂フィルムの厚みが1.0mm以下である保熱器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気湯沸かし器などに使用できる保熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気湯沸かし器、冷蔵庫等などの電化製品は、内部の温度を保持するための保熱機能を有している。電気湯沸かし器には、水を沸かすために電力が使用されているが、水が沸いた後の保熱のためにも電力が使用されている。そして、保熱のために使用する電力を抑えるために保熱材が使用されている。冷蔵庫も電気湯沸かし器と同様に、低温になった保温室及び冷蔵室を保熱するために電力が使用され、その電力の使用を抑えるために保熱材が使用されている。近年、エネルギー消費の削減が望まれている中、少ない消費電力で前記電化製品の保熱ができれば、エネルギー消費の削減が可能となる。更には、熱を有効活用することができる。
【0003】
これまでに、電気湯沸かし器等に使用できる保熱が可能な部材として、ガラスウールなどの芯材と、熱溶着層、ガスバリア層、及び保護層を有するラミネート構造の外被材とを備え、前記熱溶着層が融点200℃以上の樹脂フィルムからなり、前記ガスバリア層及び前記保護層の樹脂フィルムの融点が、前記熱溶着層の樹脂フィルムの融点よりも高い部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この部材は、高温環境においても使用でき、かつ長期間の保熱が可能である。
しかしながら、この部材は、芯材にガラスウールなどを用いているため柔軟性が十分ではなく、前記部材の形状を熱源の形状に合わせて任意に変形させることが困難である。そのため、前記部材を、熱源と前記部材とからなる機器に用いた場合には、機器の設計の自由度が低くなるという問題がある。
【0004】
また、保熱性を有するフィルムとして、金属蒸着プラスチックフィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この提案の金属蒸着プラスチックフィルムは、金属蒸着膜と空洞を有する多孔質プラスチックフィルムとから形成されている。この金属蒸着プラスチックフィルムは、金属蒸着膜の付着強度が高いという利点を有する。
しかしながら、この多孔質プラスチックフィルムは、空洞を有しており、保熱性を高める構造であるものの、その空洞は、空洞の多くが特定個所で互いにつながった構造をしており、独立した空洞ではなく、その空洞の配向及び形状が制御されていないため、その保熱性は十分ではないという問題がある。また、熱源に対するこの多孔質プラスチックフィルムの配置の仕方によっては、物品の小型化に対して問題がある。
【0005】
したがって、保熱によって熱の有効活用を可能とし、更に、設計の自由度が高い機器の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−332929号公報
【特許文献2】特開昭55−48990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、熱の有効活用を可能とし、かつ、設計の自由度が高い保熱器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 熱源とシートとを有し、
前記熱源と前記シートとの距離が、1.0mm以上50mm以下であり、
前記シートが、独立した空洞を有する樹脂フィルムを少なくとも有し、
前記樹脂フィルムにおける前記空洞が、前記樹脂フィルムの厚み方向と直交して配向しており、
前記厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であり、かつ、
前記樹脂フィルムの厚みが、1.0mm以下であることを特徴とする保熱器である。
該<1>の保熱器において、前記熱源と前記シートとの間を1.0mm以上50mm以下とすることで、小型化を可能にしつつ、その空間にある空気により、前記熱源からの熱は、前記保熱器の外部に伝わりにくくなる。そして、前記樹脂フィルムは、独立した空洞を有し、樹脂フィルムの厚み方向と直交して配向し、かつ特定範囲のアスペクト比を有することから、空洞が連結して配向が不規則な樹脂フィルムよりも優れた保熱性を有し、そのため、前記熱源からの熱は、前記保熱器の外部に更に伝わりにくくなり、前記熱源は断熱され、効率よく保熱される。また、前記樹脂フィルムの柔軟性により、前記樹脂フィルムは自由に変形させることができる。この結果、前記保熱器は、熱の有効活用を可能とし、更に、設計の自由度を高くすることができる。
<2> シートが、樹脂フィルムにおける熱源側の面に熱伝導層を有し、前記熱伝導層の厚みが1.0mm以下である前記<1>に記載の保熱器である。
該<2>の保熱器において、前記熱伝導層が、前記樹脂フィルムにおける熱源側の面に配置されていることで、前記熱源からの熱は、前記樹脂フィルムに伝達される前に前記熱伝導層の面方向に伝達するため、前記熱源からの熱は、前記シートに均一に広がる。その結果、前記熱源の保熱にむらがなく、均一な保熱が可能となる。
<3> 樹脂フィルムにおける熱源側の面とは反対側の面に変形防止材を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の保熱器である。
該<3>の保熱器において、前記変形防止材が、前記樹脂フィルムにおける熱源側の面とは反対側の面に配置されていることで、保熱に影響を与えることなく、前記シートの反りなどの変形を抑え、前記保熱器は長期の使用にも耐えるものとなる。
<4> 複数の変形防止材が、平面形状であったシートを変形させた方向と平行な方向に直交する方向に配列されてなる前記<3>に記載の保熱器である。
<5> 樹脂フィルムが、結晶性ポリマーのみからなる前記<1>から<4>のいずれかに記載の保熱器である。
<6> 樹脂フィルムの熱伝導率が、0.08W/mK以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載の保熱器である。
<7> 独立した空洞の割合が、全ての空洞に対して80体積%以上である前記<1>から<6>のいずれかに記載の保熱器である。
<8> 熱伝導層の熱伝導率が、1.0W/mK以上である前記<2>から<7>のいずれかに記載の保熱器である。
<9> 熱源が、貯湯容器である前記<1>から<8>のいずれかに記載の保熱器である。
<10> 前記<9>に記載の保熱器を有する電気湯沸かし器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、熱の有効利用を可能とし、かつ、設計の自由度が高い保熱器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置のフロー図である。
【図2A】図2Aは、アスペクト比を説明するための図であって、独立した空洞を有する樹脂フィルムの斜視図である。
【図2B】図2Bは、アスペクト比を説明するための図であって、図2Aにおける独立した空洞を有する樹脂フィルムのA−A’断面図である。
【図2C】図2Cは、アスペクト比を説明するための図であって、図2Aにおける独立した空洞を有する樹脂フィルムのB−B’断面図である。
【図3】図3は、円筒状の独立した空洞を有する樹脂フィルムに、変形防止材を配列している斜視図である。
【図4】図4は、実施例14で作製した樹脂フィルム7の断面写真(図2AのA−A’断面に相当する断面写真)である。
【図5】図5は、比較例4で作製した樹脂フィルム10の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(保熱器)
本発明の保熱器は、熱源とシートとを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の構成を有する。
【0012】
<熱源>
前記熱源としては、常温よりも高温及び低温の少なくともいずれかになる部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気湯沸かし器の貯湯容器、冷蔵庫の保温室及び冷蔵室、水筒などが挙げられる。
【0013】
<シート>
前記シートとしては、独立した空洞を有する樹脂フィルムを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の構成を有する。
【0014】
−独立した空洞を有する樹脂フィルム−
前記独立した空洞を有する樹脂フィルムが有する前記空洞とは、前記樹脂フィルム内部に存在する、真空状態のドメイン又は気相のドメインを意味する。前記独立した空洞とは、空洞の周囲に樹脂が存在する状態で2つ以上の空洞が連結していない状態を指す。前記独立した空洞は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析することにより確認することができる。
【0015】
前記独立した空洞の割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、全ての空洞に対して80体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、95体積%以上が特に好ましい。前記独立した空洞の割合が前記特に好ましい範囲内であると、保熱性の点で有利である。ここで、前記独立した空洞の割合は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析することにより求めることができる。
【0016】
前記空洞は、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの厚み方向と直交して配向している。そして、前記空洞は、特定範囲のアスペクト比を有している。前記独立した空洞を有する樹脂フィルムは、独立した空洞を有し、その空洞が特定の配向及び特定範囲のアスペクト比を有することで、高い保熱性を得ることができる。そのため、本発明の保熱器は、熱の有効活用が可能である。
【0017】
前記アスペクト比とは、前記厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比(以下、「アスペクト比」と省略することがある。)を意味する。
前記アスペクト比としては、10以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15以上が好ましく、20以上がより好ましい。前記アスペクト比が20以上であると、保熱性及び前記シートのクッション性を高めることができる点で、有利である。
【0018】
図2A〜2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aは、独立した空洞を有する樹脂フィルムの斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける独立した空洞を有する樹脂フィルムのA−A’断面図であり、図2Cは、図2Aにおける独立した空洞を有する樹脂フィルムのB−B’断面図である。
【0019】
前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、「厚み方向における前記空洞の平均長さ(r(μm))」は、独立した空洞を有する樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)における空洞100の平均の厚みr(図2B参照)に相当する。また、「空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L(μm))」は、独立した空洞を有する樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、前記第一の延伸方向に平行な断面(図2AにおけるB−B’断面)における空洞100の平均の長さL(図2C参照)に相当する。
【0020】
なお、前記第一の延伸方向とは、延伸が1軸のみの場合には、その1軸の延伸方向を示す。通常は、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸を行うため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
また、延伸が2軸以上の場合には、空洞形成を目的とした延伸方向のうち少なくとも1方向を示す。通常は、2軸以上の延伸においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われ、かつ、この縦延伸により空洞を形成することが可能であるため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
【0021】
ここで、前記厚み方向における前記空洞の平均長さ(r(μm))は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。同様に、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L(μm))は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0022】
前記厚み方向における前記空洞の平均の個数Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、15個以上が更に好ましい。
【0023】
前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の個数」は、独立した空洞を有する樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)において、膜厚方向に含まれる空洞100の個数に相当する。
ここで、前記厚み方向における前記空洞の平均の個数Pは、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0024】
前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの熱伝導率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.08(W/mK)以下であることが好ましく、0.06(W/mK)以下であることがより好ましい。前記熱伝導率が、前記好ましい範囲内にあると、保熱性を高めることができる点で、有利である。
【0025】
ここで、前記熱伝導率は、熱拡散率、比熱、密度の測定値の積によって算出することができる。前記熱拡散率は一般的にはレーザーフラッシュ法(例えば、TC−7000((株)真空理工製))により測定できる。前記比熱はDSCによりJIS K7123に記載の方法に従って測定できる。前記密度は一定面積の質量とその厚みを測定することにより、算出することができる。
【0026】
前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの厚みとしては、1.0mm以下であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01mm以上0.5mm以下が好ましく、0.02mm以上0.2mm以下がより好ましく、0.04mm以上0.18mm以下が特に好ましい。前記独立した空洞を有樹脂フィルムの厚みが、1.0mmを超えると、加工性が低下する、特に曲げることが困難になることがある。一方、前記厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、取扱いが容易となる点、及び曲率半径が小さい熱源にも十分に追随して曲げることができる点で有利である。なお、本発明において、前記厚みは、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムを1枚で使用する場合には、1枚の厚みをいい、複数枚を積層して使用する場合には、積層した複数枚の合計の厚みをいう。
【0027】
前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマーのみからなるものでもよいし、結晶性ポリマー以外のその他の成分を含むものであってもよい。
これらの中でも、前記結晶性ポリマーのみからなるものが、保熱性を高めることができる点で、有利である。
【0028】
−−結晶性ポリマー−−
一般に、ポリマーは、結晶性ポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられるが、結晶性ポリマーといえども100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
したがって、前記結晶性ポリマーとしては、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0029】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン類(例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアミド類(PA)(例えば、ナイロン−6など)、ポリアセタール類(POM)、ポリエステル類(例えば、PET、PEN、PTT、PBT、PPT、PHT、PBN、PES、PBSなど)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド類(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン類(PEEK)、液晶ポリマー類(LCP)、フッ素樹脂、アイソタクティックポリプロピレン(isoPP)などが挙げられる。その中でも、耐久性、力学強度、製造及びコストの観点から、ポリオレフィン類、ポリエステル類、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、液晶ポリマー類(LCP)が好ましく、ポリオレフィン類、ポリエステル類がより好ましい。また、これらのうち2種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
【0030】
前記結晶性ポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Pa・s〜700Pa・sが好ましく、70Pa・s〜500Pa・sがより好ましく、80Pa・s〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が50Pa・s〜700Pa・sであると、溶融製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形状が安定し、均一に製膜しやすくなる点、また、溶融製膜時の粘度が適切になって押出ししやすくなったり、製膜時の溶融膜がレベリングされて凹凸を低減できたりする点で好ましい。
ここで、前記溶融粘度は、プレートタイプのレオメーターやキャピラリーレオメーターにより測定することができる。
【0031】
前記結晶性ポリマーの極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が特に好ましい。前記IVが0.4〜1.2であると、製膜されたフィルムの強度が高くなり、効率よく延伸することができる点で好ましい。
ここで、前記IVは、ウベローデ型粘度計により測定することができる。
【0032】
前記結晶性ポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40℃〜350℃が好ましく、100℃〜300℃がより好ましく、100℃〜260℃が特に好ましい。前記融点が40℃〜350℃であると、通常の使用で予想される温度範囲で形を保ちやすくなる点で好ましく、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な製膜ができる点で好ましい。
ここで、前記融点は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0033】
−−−ポリエステル樹脂−−−
前記ポリエステル類(以下、「ポリエステル樹脂」と称する。)は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物の総称を意味する。したがって、前記結晶性ポリマーとして好適な前記ポリエステル樹脂としては、前記例示したPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPT(ポリペンタメチレンテレフタレート)、PHT(ポリヘキサメチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)だけでなく、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0034】
前記ジカルボン酸成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられる。
【0035】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0036】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。前記脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸の中では、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸がより好ましい。
【0037】
前記ジオール成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0038】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。
前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
前記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどが挙げられる。
【0039】
前記ポリエステル樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Pa・s〜700Pa・sが好ましく、70Pa・s〜500Pa・sがより好ましく、80Pa・s〜300Pa・sが特に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記溶融粘度が50Pa・s〜700Pa・sであると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点、及び、製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形態が維持しやすくなって、安定的に成形できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で好ましい。
【0040】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が特に好ましい。前記IVが大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記IVが0.4〜1.2であると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。さらに、前記IVが0.4〜1.2であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で好ましい。加えて、前記IVが0.4〜1.2であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で好ましい。
【0041】
前記ポリエステル樹脂の融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐熱性や製膜性などの観点から、70℃〜300℃が好ましく、90℃〜270℃がより好ましい。
【0042】
なお、前記ポリエステル樹脂として、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ1種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、2種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、2種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0043】
前記2種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、製膜時や溶融押出し時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0044】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光線透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル系以外の樹脂を添加してもよい。
【0045】
結晶性ポリマーのみからなる前記独立した空洞を有する樹脂フィルムは、無機系微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を特に添加しなくても、簡便な工程で空洞を形成させることができる。これにより、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムのリサイクル性を高めることができる。さらに、不活性ガスを予め樹脂の中に溶け込ませるための特殊な設備も必要としない。なお、結晶性ポリマーのみからなる前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法については、後記する。
【0046】
ここで、結晶性ポリマーのみからなる前記独立した空洞を有する樹脂フィルムは、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じて前記結晶性ポリマー以外のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、耐熱安定剤、酸化防止剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤などが挙げられる。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性ポリマー以外の成分(例えば、後記する各成分など)が検出されるかどうかで判別できる。
【0047】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機系微粒子、前記結晶性ポリマーと相溶しない樹脂などが挙げられる。
【0048】
−独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法−
−−結晶性ポリマーのみからなる独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法−−
前記結晶性ポリマーのみからなる独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくともポリマー成形体を2倍〜8倍延伸する延伸工程を含むことが好ましい。前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法は、更に必要に応じて製膜工程などのその他の工程を含んでもよい。
なお、前記ポリマー成形体とは、前記結晶性ポリマーのみからなり、特に空洞を有していないものを示し、例えば、ポリマーフィルム、ポリマーシートなどが挙げられる。
【0049】
−−−延伸工程−−−
前記延伸工程では、前記ポリマー成形体が少なくとも1軸に延伸される。そして、前記延伸工程により、ポリマー成形体が延伸されるとともに、その内部に第一の延伸方向に沿って配向した空洞が形成されることで、独立した空洞を有する樹脂フィルムが得られる。
【0050】
延伸により空洞が形成される理由としては、前記ポリマー成形体を構成する少なくとも1種類の結晶性ポリマーが、複数種類の結晶状態からなり、延伸時に伸張し難い結晶を含む相で、硬い結晶間の樹脂が引きちぎられるような形で剥離延伸されることにより、これが空洞形成源となって空洞が形成されるものと考えられる。
なお、このような延伸による空洞形成は、結晶性ポリマーが1種類の場合だけではなく、2種類以上の結晶性ポリマーが、ブレンド又は共重合されている場合であっても可能である。
【0051】
前記延伸の方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸が挙げられるが、いずれの延伸方法においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われることが好ましい。
【0052】
一般に、縦延伸においては、ロールの組合せやロール間の速度差により、縦延伸の段数や延伸速度を調節することができる。
前記縦延伸の段数としては、1段以上であれば特に制限はないが、より安定して高速に延伸することができる点及び製造の歩留まりや機械の制約の点から、2段以上に縦延伸することが好ましい。また、2段以上に縦延伸することは、1段目の延伸によりネッキングの発生を確認したうえで、2段目の延伸により空洞を形成させることができる点においても、有利である。
【0053】
−−−延伸速度−−−
前記縦延伸の延伸速度としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10mm/min〜36,000mm/minが好ましく、800mm/min〜24,000mm/minがより好ましく、1,200mm/min〜12,000mm/minが更に好ましい。前記延伸速度が、10mm/min以上であると、充分なネッキングを発現させやすい点で好ましい。また、前記延伸速度が、36,000mm/min以下であると、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせずにコストを低減できる点で好ましい。したがって、前記延伸速度が、10mm/min〜36,000mm/minであると、充分なネッキングを発現させやすく、かつ、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせずにコストを低減できる点で好ましい。
【0054】
より具体的には、1段延伸の場合の延伸速度としては、1,000mm/min〜36,000mm/minが好ましく、1,100mm/min〜24,000mm/minがより好ましく、1,200mm/min〜12,000mm/minが更に好ましい。
【0055】
2段延伸の場合には、1段目の延伸を、ネッキングを発現させることを主なる目的とした予備的な延伸とすることが好ましい。前記予備的な延伸の延伸速度としては、10mm/min〜300mm/minが好ましく、40mm/min〜220mm/minがより好ましく、70mm/min〜150mm/minが更に好ましい。
【0056】
そして、2段延伸における、前記予備的な延伸(1段目の延伸)によりネッキングを発現させた後の2段目の延伸速度は、前記予備的な延伸の延伸速度と変えることが好ましい。前記予備的延伸によりネッキングを発現させた後の、2段目の延伸速度としては、600mm/min〜36,000mm/minが好ましく、800mm/min〜24,000mm/minがより好ましく、1,200mm/min〜15,000mm/minが更に好ましい。
【0057】
−−−延伸温度−−−
延伸時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
延伸温度をT(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが好ましく、
(Tg−25)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することがより好ましく、
(Tg−20)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが更に好ましい。
【0058】
一般に、延伸温度(℃)が高いほど延伸張力も低めに抑えられて容易に延伸できるが、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)−30}℃以上、{ガラス転移温度(Tg)+70}℃以下であると、空洞含有率が高くなり、アスペクト比が10以上になりやすく、かつ、充分に空洞が発現する点で好ましい。
ここで、前記延伸温度T(℃)は、非接触式温度計により測定することができる。また、前記ガラス転移温度Tg(℃)は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0059】
なお、前記延伸工程において、空洞の発現の妨げにならない範囲で、横延伸はしてもよく、しなくてもよい。また横延伸をする場合には、横延伸工程を利用してフィルムを緩和させたり、熱処理を行ったりしてもよい。
また、延伸後の成形体は、形状安定化などの目的で、更に熱を加えて熱収縮させたり、張力を加えたりする等の処理をしてもよい。
【0060】
前記ポリマー成形体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマーがポリオレフィン類、ポリエステル樹脂及びポリアミド類などである場合には、溶融製膜方法により好適に製造することができる。
また、前記ポリマー成形体の製造は、前記延伸工程と独立に行ってもよく、連続的に行ってもよい。
【0061】
図1は、独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置のフロー図である。
図1に示すように、原料樹脂11は、押出機12(原料形状や、製造規模によって、二軸押出機を用いたり、単軸押出し機を用いたりする)内部で熱溶融、混練された後、Tダイ13から柔らかい板状(フィルム又はシート状)に吐出される。
次に、吐出されたフィルム又はシートFは、キャスティングロール14で冷却固化されて、製膜される。製膜されたフィルム又はシートF(「ポリマー成形体」に相当する)は、縦延伸機15に送られる。
そして、製膜されたフィルム又はシートFは、縦延伸機15内で再び加熱され、速度の異なるロール15a間で、縦に延伸される。この縦延伸により、フィルム又はシートFの内部に延伸方向に沿って空洞が形成される。そして、空洞が形成されたフィルム又はシートFは、横延伸機16の左右のクリップ16aで両端を把持されて、巻取機側(図示せず)へ送られながら横に延伸されて、独立した空洞を有する樹脂フィルム1となる。なお、前記工程において、縦延伸のみを行ったフィルム又はシートFを横延伸機16に供さず、独立した空洞を有する樹脂フィルム1として使用してもよい。
【0062】
−−その他の製造方法−−
前記結晶性ポリマーのみからなる独立した空洞を有する樹脂フィルムの製造方法以外の、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムを作製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエステル樹脂フィルムなどの樹脂フィルムの中に無機系微粒子などを含有させておき、樹脂の延伸製膜時に無機微粒子などと樹脂界面とが剥離することにより作製する方法、主たる成分である樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂)に、その樹脂と相溶しない(非相溶の)別の樹脂を添加して混練する事により2相構造(例えば海島構造)を形成し、樹脂の延伸製膜時に主たる成分である樹脂と、そこに添加・混練された別の樹脂との界面を剥離することにより作製する方法などが挙げられる。
【0063】
−その他の構成−
前記その他の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、独立した空洞を有する樹脂フィルムの片面に熱伝導層を有するものなどが挙げられる。また、前記シートは、前記独立した空洞を有する樹脂フィルム以外の樹脂フィルム(例えば、空洞を有さない樹脂フィルム)を有していてもよい。なお、前記シートにおいて、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムは、1枚で用いてもよいし、複数枚を積層して用いてもよい。なお、複数枚の前記独立した空洞を有する樹脂フィルムを積層する場合には、本発明の効果を損なわない限り、接着剤を用いてもよい。
【0064】
前記シートの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01mm以上1.0mm以下が好ましく、0.02mm以上0.5mm以下がより好ましく、0.04mm以上0.2mm以下が特に好ましい。前記シートの厚みが、1.0mmを超えると、加工性が低下する、特に曲げることが困難になることがある。一方、前記シートの厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、取扱いが容易となる点、及び曲率半径が小さい熱源にも十分に追随して曲げることができる点で有利である。
【0065】
前記シートの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平面状、円筒状などが挙げられる。
前記シートは、例えば、四角形に切り出した前記シートを丸め対向する2辺を接合して円筒状にして使用してもよい。円筒状にした前記シートは、前記熱源が円筒状の場合に、前記円筒状の熱源の湾曲側面に沿って所定の距離を有するように配置させることができる。このように、本発明の保熱器は、前記熱源の形状に応じて、前記シートを自由に配置できることから、設計の自由度が高い。
【0066】
−熱伝導層−
前記熱伝導層は、熱伝導性を有する材料から形成される層である。
前記熱伝導層の熱伝導率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0W/mK以上が好ましく、20W/mK以上がより好ましく、100W/mK以上が特に好ましい。前記熱伝導率が、1.0W/mK未満であると、熱が面内に均一に伝導する時間が長く保熱性が悪くなることがある。前記熱伝導率が、前記特に好ましい範囲内であると、保熱性の点で有利である。
前記熱伝導性を有する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アモルファスシリカ(1.5W/mK)、水晶(9W/mK)、ダイヤモンド(2,000W/mK)、ステンレス(30W/mK)、鉄(80W/mK)、グラファイト(150W/mK)、アルミニウム(236W/mK)、銅(400W/mK以上)、銀(420W/mK以上)、金(320W/mK)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、グラファイト、アルミニウム及び銅が、コスト及び加工性の点で好ましい。
【0067】
前記熱伝導層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1.0mm以下が好ましく、1×10−6mm以上0.3mm以下がより好ましく、1×10−5mm以上0.1mm以下が特に好ましい。前記熱伝導層の厚みが、1.0mmを超えると、加工が困難になることがある。一方、前記熱伝導層の厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、保熱器を作成する場合の加工性の点で有利である。
【0068】
前記熱伝導層の形成位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの片面、及び両面のいずれであってもよい。
また、前記熱源との配置関係における、前記熱伝導層の形成位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面、及び前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面とは反対側の面のいずれであってもよい。
これらの中でも、前記熱伝導層の形成位置が、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面であること、即ち、前記シートが、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面に前記熱伝導層を有していることが、熱の均一性の点で有利である。
【0069】
前記熱伝導層を前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの面に形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの面に蒸着装置を用いて蒸着により形成する方法、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの面に熱伝導性を有するフィルムを貼り付ける方法などが挙げられる。前記熱伝導層を前記独立した空洞を有する樹脂フィルムに貼り付ける際には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて接着剤を用いてもよい。
【0070】
<熱源とシートとの距離>
前記熱源と前記シートとの距離としては、1.0mm以上50mm以下であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1.0mm以上20mm以下が好ましく、1.0mm以上10mm以下がより好ましく、1.0mm以上2.5mm以下が特に好ましい。前記熱源と前記シートとの距離が1.0mm未満であると、前記シートのうねりなどで前記シートが前記熱源と接触して保熱性を損なう場合があり、50mmを超えると、前記熱源と前記シートとの間の空間に存在する空気の流動が大きくなり熱が逃げてしまい保熱性を損なうことがある。一方、前記特に好ましい範囲内であると、前記熱源と前記シートとの間の空間に存在する空気の流動が小さいため、保熱性を損なうことがない点で、有利である。
前記熱源と前記シートとの距離を調整する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記熱源と前記シートとの間に金属線(ワイヤー)や樹脂などのスペーサーを挟む方法が挙げられる。
前記熱源と前記シートとの間に前記金属線を挟む場合の前記金属線の本数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1本でもよいし、2本以上でもよい。
例えば、前記熱源が円筒状の場合には、スペーサーとなる金属線を前記熱源の外周に等間隔に複数本配置させることにより、前記熱源と前記シートとの距離を調整できる。
【0071】
<その他の構成>
−変形防止材−
前記変形防止材は、熱による前記シートの変形を防止する部材である。
前記シートの変形が防止できれば、前記シートの変形による前記シートの保熱性の低下を抑え、ひいては、本発明の保熱器による熱の有効活用をより可能にする。前記シートの変形の具体例としては、熱による前記シートの反り、うねりなどが挙げられる。
【0072】
前記変形防止材を構成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等のプラスチックなどが挙げられる。
前記変形防止材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シート状、柱状などが挙げられる。
【0073】
前記変形防止材の形成位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面、及び前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面とは反対側の面のいずれであってもよい。
これらの中でも、前記変形防止材の形成位置が、前記独立した空洞を有する樹脂フィルムにおける前記熱源側の面とは反対側の面であることが、保熱に影響を与えることなく、前記熱源からの熱による前記シートのうねりを抑えることができる点で有利である。
【0074】
また、前記変形防止材の形成位置としては、複数の前記変形防止材が、平面形状であった前記シートを変形させた方向と平行な方向に直交する方向に配列されていることが、前記シートの柔軟性を損なうことなく、前記熱源からの熱による前記シートの変形(例えば、反り)を防止できる点で、有利である。
複数の前記変形防止材が、平面形状であった前記独立した空洞を有する樹脂フィルムを変形させた方向と平行な方向に直交する方向に配列されている構成の一例を、図3を参照して説明する。図3は、柱状の変形防止材32を配列した、円筒状の独立した空洞を有する樹脂フィルム31の斜視図である。図3では、複数の前記変形防止材32を、円筒状の独立した空洞を有する樹脂フィルム31の湾曲方向(平面形状であった独立した空洞を有する樹脂フィルムを変形させた方向)と平行な方向と直交する方向に、適度な間隔を空けて配列させている。
【0075】
前記変形防止材を前記独立した空洞を有する樹脂フィルムの面に形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、貼り付ける方法などが挙げられる。貼り付ける際には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて接着剤を用いてもよい。
【0076】
(電気湯沸かし器)
本発明の電気湯沸かし器は、前記保熱器を有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0077】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、筐体、ヒーター、電気配線、スイッチなどが挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全ての本発明の技術的範囲に包含される。
【0079】
(実施例1)
極限粘度(IV)=0.71であるPBT(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融押出機を用いて245℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚み390μmのポリマー成形体(ポリマーフィルム)を作製した。このポリマー成形体(ポリマーフィルム)を1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、40℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で1軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、510mm/minの速度で、同一方向に更に1軸延伸し、厚み110μmの樹脂フィルム1(独立した空洞を有する樹脂フィルム1)を作製した。この樹脂フィルム1をシート1とした。
前記樹脂フィルムについて、後述の測定、及び評価を行った。測定結果及び評価結果を表1に示す。
次に、電気湯沸かし器(商品名:VIP魔法瓶 NC−SU221、松下電器社製)の外側の筐体を取り外し、貯湯容器とヒーター部分のみとした。前記貯湯容器の周りにスペーサー1(直径1.0mmの金属線)を巻いた。前記スペーサー1を巻いた前記貯湯容器の周りに、前記貯湯容器と前記シート1との距離が均一に1.0mmとなるように前記シート1を巻き、保熱器を作製した。
前記保熱器について、下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0080】
<測定>
<<1>>熱伝導率の測定
熱拡散率は、TC−7000((株)真空理工製)を用いて測定した。樹脂フィルム両面をスプレーにより黒化し室温で測定した。密度、比熱は後述の方法で測定し、3つの測定値の積から熱伝導率を求めた。
密度は、一定面積を切り取り、その質量を天秤で測定し、その厚みを膜厚計で測定し、質量を体積で割ることで求めた。
比熱はJIS K7123に記載の方法で求めた。DSCとしては、Q1000(TAインスツルメント社製)を用いた。
【0081】
<<2>>厚みの測定
−樹脂フィルムの厚みー
キーエンス社製、ロングレンジ接触式変位計AF030(測定部)、AF350(指示部)を用いて測定した。
−蒸着層の厚み−
断面が露出したシートの小片を包埋樹脂で包埋し超薄切片作成後、透過型電子顕微鏡(JEM2010型、日本電子製)により厚みを測定した。または、シートの断面を露出させ、走査型電子顕微鏡(S−4700型、日立ハイテクノロジーズ製)により厚みを測定した。
【0082】
<<3>>空洞の有無
光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真を観察して、空洞の有無を確認した。
【0083】
<<4>>独立した空洞の有無
光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析して、独立した空洞の有無を確認した。
【0084】
<<5>>独立した空洞の割合
光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析して、独立した空洞の割合を求めた。
【0085】
<<6>>配向の方向
配向の方向は、樹脂フィルムの縦延伸方向に対して平行な方向と垂直な方向のそれぞれの断面を露出させ、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡により撮影した写真により確認した。
なお、表1及び表2中の記載は以下の意味である。
MD:全ての空洞が縦延伸方向(厚み方向と直交する方向)に配向している。
MD向きが多い:6割以上10割未満の空洞が縦延伸方向(厚み方向と直交する方向)に配向している。
MD/TD同等:5割の空洞が縦延伸方向(厚み方向と直交する方向)に配向しており、5割の空洞が横延伸方向(厚み方向と直交する方向)に配向している。
【0086】
<<7>>アスペクト比の測定
樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2B参照)と、前記樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、前記縦延伸方向に平行な断面(図2C参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300倍〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、前記各断面写真において測定枠をそれぞれ設定した。この測定枠は、その枠内に空洞が50個〜100個含まれるように設定した。
次に、測定枠に含まれる空洞の数を計測し、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の1個づつの厚み(r)を測定し、その平均の厚さをrとした。また、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の1個づつの長さ(L)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、r及びLは、それぞれ下記の(2)式及び(3)式で表すことができる。
r=(Σr)/m ・・・(2)
L=(ΣL)/n ・・・(3)
そして、L/rを算出し、アスペクト比とした。
【0087】
<評価>
<<1>>柔軟性
作製したシートの柔軟性を下記の評価基準で評価した。評価結果を表1に示す。
○:折れ目を作らずに貯湯容器を取り囲むことができ、かつシートを熱源から取り外すと元の平面状に戻すことができる。
△:一部折れ目ができるが貯湯容器を取り囲むことができ、かつシートを熱源から取り外すと一部折り目がついたまま元の平面状に戻すことができる。
×:折れてしまい、貯湯容器を取り囲むことができず、かつシートを熱源から取り外すと変形したまま元の平面状に戻すことができない。
【0088】
<<2>>消費電力低減効果
作製した保熱器を90℃で48時間保温し、そのときの消費電力(W)を測定した。消費電力(W)と比較例1の保熱器の消費電力(W)を比較し、下記式により低減効果を数値化した。
低減効果(%)=〔(W−W)/W〕×100
低減効果を下記の評価基準で評価した結果を表1に示す。
◎:2%以上の低減効果
○:1%以上2%未満の低減効果
△:0%を超え1%未満の低減効果
×:低減効果なし(0%以下)
【0089】
<<3>>熱の均一性
温度が変化すると色表示で表される小型熱画像カメラ(CPA−0150 チノー製)により熱の均一性を測定した。
前記測定結果を基に以下の評価基準で評価した結果を表1に示す。
○:画像上の任意の30点を選択し温度計測し、温度差の範囲が平均値から2℃以内
△:画像上の任意の30点を選択し温度計測し、温度差の範囲が平均値から2℃を超えて5℃未満
×:画像上の任意の30点を選択し温度計測し、温度差の範囲が平均値から5℃以上
【0090】
<<4>>変形防止効果
作製した保熱器を90℃で48時間保温した後、シ−トのうねりを目視により確認した。
以下の評価基準で評価した結果を表1に示す。
○:目視でうねりが見られない。
△:うねりにより一箇所〜二箇所、熱源と接していた。
×:うねりにより三箇所以上、熱源と接していた。
【0091】
(実施例2)
実施例1で得た樹脂フィルム1を横方向にテンターにより横延伸した。具体的には、50℃の加温雰囲気下で、300mm/minで2倍に横延伸し、150℃で熱固定した後に冷却して巻取り、厚み53μmの樹脂フィルム2(独立した空洞を有する樹脂フィルム2)を作製した。この樹脂フィルム2をシート2とした。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート2を用い、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例3)
蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、実施例1で得た樹脂フィルム1の片面に厚み100nmの銅を蒸着し、シート3を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート3を用い、熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例4)
蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、実施例2で得た樹脂フィルム2の片面に厚み100nmの銅を蒸着し、シート4を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート4を用い、熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例5)
実施例1で得た樹脂フィルム1を接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)を用いて8枚に重ねて厚み0.88mmにした。続いて、蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、重ねた樹脂フィルムの片面に厚み50nmのアルミニウムを蒸着し、シート5を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート5を用い、かつシート5の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例6)
実施例4において銅の代わりに厚み100nmのアルミニウムを蒸着し、シート6を得た。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート6を用い、熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例7)
極限粘度(IV)=0.69であるPET(ポリエチレンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融押出機を用いて295℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚み380μmのポリマー成形体(ポリマーフィルム)を作製した。続いて、このポリマー成形体(ポリマーフィルム)を1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、70℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で1軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、510mm/minの速度で、同一方向に更に1軸延伸し、厚み100μmの樹脂フィルム3(独立した空洞を有する樹脂フィルム3)を作製した。この樹脂フィルム3をシート7とした。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート7を用いた以外は実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例8)
実施例7で得た樹脂フィルム3を横方向にテンターにより横延伸した。具体的には120℃の加温雰囲気下、300mm/minで3.5倍に横延伸し、200℃で熱固定した後に冷却して巻取り、厚み50μmの樹脂フィルム4(独立した空洞を有する樹脂フィルム4)を作製した。
次に、該樹脂フィルム4の片面に厚み0.5mmのグラファイトフィルム(商品名:HT1220AP、グラフテック社製)を接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)で2枚貼り合わせ、シート8を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート8を用い、かつシート8の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム、前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例9)
実施例8で得た樹脂フィルム4の片面に厚み0.012mmのアルミホイル(商品名:三菱ホイル、三菱アルミニウム社製)を接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)で貼り合わせ、シート9を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート9を用い、かつシート9の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例10)
実施例7で得た樹脂フィルム3を接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)を用いて5枚重ねて厚み0.5mmとした。重ねた樹脂フィルムの片面に厚み0.5mmのグラファイトフィルム(商品名:HT1220AP、グラフテック社製)を接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)で2枚貼り合わせ、シート10を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート10を用い、かつシート10の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例11)
ポリプロピレン(ポリプロピレン100%樹脂、Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、MFI:35g/10min(ASTM D1238、230℃・2.16kg)、Tm:170℃〜175℃)を、溶融押出機を用いてTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚み410μmのポリマー成形体(ポリマーフィルム)を作製した。続いて、このポリマー成形体(ポリマーフィルム)を1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、ロール延伸機を用いて25℃で送り出しが10mm/min、ネッキングが発生したことを確認した後、延伸ロールが510mm/minの速度で1軸延伸し、厚み70μmの樹脂フィルム5(独立した空洞を有する樹脂フィルム5)を作製した。この樹脂フィルム5をシート11とした。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート11を用いた以外は実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム、及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例12)
実施例11で得た樹脂フィルム5を横方向にテンターにより横延伸した。具体的には40℃の加温雰囲気下、50mm/minで5倍に横延伸し、100℃で熱固定した後に冷却して巻取り、厚み10μmの樹脂フィルム6(独立した空洞を有する樹脂フィルム6)を作製した。次に、蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、該樹脂フィルム6の片面に厚み100nmの銅を蒸着し、シート12を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート12を用い、かつシート12の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム、前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例13)
実施例11で得た5枚の樹脂フィルム5と実施例12で得た5枚の樹脂フィルム6とを接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)を用いて重ねて0.4mmの樹脂フィルムを作製した。次に、蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製))を用いて、重ねた樹脂フィルムの片面に厚み100nmの銅を蒸着し、シート13を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート13を用い、かつシート13の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例14)
テレフタル酸166質量部とエチレングリコール75質量部を用いた通常のエステル化反応により得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03質量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06質量部添加して重縮合反応を行い、極限粘度(IV)=0.66のポリエチレンテレフタレートを得た。このポリエチレンテレフタレート100質量部に対し、三井化学(株)製ポリメチルペンテン(TPX、タイプRT18。以下PMPと略記する。)15質量部をチップ状態のままドライブレンドしたものをホッパーに充填した。続いて、溶融押出機を用いて245℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚み2,100μmのポリマー成形体(ポリマーフィルム)を作製した。続いて、このポリマー成形体(ポリマーフィルム)を通常の逐次2軸延伸装置にて製膜した。具体的には、赤外線ヒーターにより90℃の加温雰囲気下で、周速比3.3倍で縦延伸を行い、ついで横方向にテンターにより130℃の加熱雰囲気下で3.5倍に横延伸後220℃で熱固定した後、幅方向に4%弛緩させた。その後、冷却して巻き取り、厚み180μmの樹脂フィルム7(独立した空洞を有する樹脂フィルム7)を作製した。
次に、蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、樹脂フィルム7の片面に厚み100nmの銅を蒸着し、シート14を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート14を用い、かつシート14の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム、前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
また、作製した樹脂フィルム7の断面写真(図2AのA−A’断面に相当する断面写真)を図4に示す。
【0104】
(実施例15)
実施例2で得た樹脂フィルム2の片面に厚み0.5mmのグラファイトフィルム(商品名:HT1220AP、グラフテック社製)を接着剤(エアゾール接着剤、スプレーのり99、3M製)で4枚貼り合わせ、シート15を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート15を用い、かつシート15の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0105】
(実施例16)
実施例1において、スペーサー1の代わりにスペーサー2(直径3.0mmのMDX6:三菱瓦斯化学製のストランド:金型直径3.0mmから押し出した糸)を用い、前記貯湯容器と前記シート1との距離が均一に3.0mmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0106】
(実施例17)
実施例4において、シート4の熱伝導層が貯湯容器側の面とは反対面にくるようにした以外は、実施例4と同様にして、保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
(実施例18)
実施例1で得たシート1に、変形防止材1(縦20cm×横1cm×厚み0.3cmのアルミ板)を0.5cm間隔で30枚貼り付けた。
次に、実施例1の筐体を取り外した電気湯沸かし器の貯湯容器の周りに、前記スペーサー1を巻いた。前記スペーサー1を巻いた前記貯湯容器の周りに、前記変形防止材1を貼り付けたシート1と前記貯湯容器との距離が均一に1.0mmとなるように巻き、保熱器を作製した。なお、前記変形防止材1が前記シート1の湾曲方向と平行な方向に直交する方向に配列し、かつ、前記変形防止材1が前記シート1における熱源側の面とは反対側の面に貼り付いた状態になるように巻きつけた。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0108】
(実施例19)
実施例4で得たシート4の樹脂フィルム面に、前記変形防止材1を0.5cm間隔で30枚貼り付けた。
次に、実施例18において、前記変形防止材1を貼り付けたシート1に代えて前記変形防止材1を貼り付けたシート4を用いた以外は、実施例18と同様にして、保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0109】
(実施例20)
実施例5で得たシート5の樹脂フィルム面に、前記変形防止材1を0.5cm間隔で30枚貼り付けた。
次に、実施例18において、前記変形防止材1を貼り付けたシート1に代えて前記変形防止材1を貼り付けたシート5を用いた以外は、実施例18と同様にして、保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0110】
(実施例21)
実施例9で得たシート9の樹脂フィルム面に、前記変形防止材1を0.5cm間隔で30枚貼り付けた。
次に、実施例18において、前記変形防止材1を貼り付けたシート1に代えて前記変形防止材1を貼り付けたシート5を用いた以外は、実施例18と同様にして、保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
(実施例22)
実施例13で得たシート13の樹脂フィルム面に、前記変形防止材1を0.5cm間隔で30枚貼り付けた。
次に、実施例18において、前記変形防止材1を貼り付けたシート1に代えて前記変形防止材1を貼り付けたシート13を用いた以外は、実施例18と同様にして、保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
(比較例1)
実施例1の筐体を取り外した電気湯沸かし器の貯湯容器の周りに、前記スペーサー1を巻いた。続いて、前記スペーサー1を巻いた前記貯湯容器の周りに、前記貯湯容器と前記シート1との距離が均一に1.0mmとなるように厚み0.012mmのアルミホイル(商品名:三菱ホイル、三菱アルミニウム社製)を巻き、比較用の保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0113】
(比較例2)
極限粘度(IV)=0.71であるPBT(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融押出機を用いて245℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚み120μmのポリマー成形体(ポリマーフィルム)を作製した。このポリマー成形体(ポリマーフィルム)を延伸せず空洞のない樹脂フィルム8を作製した。蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、該樹脂フィルム8の片面に厚み50nmのアルミニウムを蒸着し、シート16を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート16を用い、かつシート16の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、比較用の保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム、前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0114】
(比較例3)
極限粘度(IV)=0.66であるPET(ポリエチンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融押出機を用いて295℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚み1.50mmのポリマー成形体(ポリマーフィルム)を得た。このポリマー成形体(ポリマーフィルム)を延伸せず空洞のない樹脂フィルム9を作製した。次に、樹脂フィルム9の片面に厚み0.5mmのグラファイトフィルム(商品名:HT1220AP、グラフテック社製)を2枚接着剤で貼り合わせ、シート17を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート17を用い、かつシート17の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、比較用の保熱器を作製した。
前記樹脂フィルム、前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0115】
(比較例4)
厚み400μmの未延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに、二酸化炭素を浸透圧力60kg/cmで浸透させた。このフィルムを2枚の厚み50μmのSPS(シンジオタクチックポリスチレン)フィルムで挟んで、ラミネート温度200℃でラミネートした。このラミネート工程において、ラミネートする際の加熱によって、含浸している二酸化炭素が発泡し多孔質なプラスチック部が形成された。発泡後、2枚のSPSフィルムを剥がし、全体として空孔率約36vol%、厚み1.5mmのプラスチック発泡樹脂フィルム10を得た。
次に、蒸着装置(商品名:VPC−410、アルバック機工株式会社製)を用いて、前記樹脂フィルム10の片面に厚み100nmの銅を蒸着し、シート18を作製した。
次に、実施例1において、シート1に代えてシート18を用い、かつシート18の熱伝導層が貯湯容器側の面にくるようにした以外は、実施例1と同様にして、比較用の保熱器を作製した。
前記シート及び前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
また、作製した樹脂フィルム10の断面写真を図5に示す。
【0116】
(比較例5)
実施例1において、スペーサー3(直径0.5mmの金属線)を用い、前記貯湯容器と前記シート1との距離が均一に0.5mmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、比較用の保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0117】
(比較例6)
実施例1において、スペーサー4(縦20cm×横6.0cm×厚み0.3cmのアルミ板)8枚を用い、前記貯湯容器を中心にして8枚の前記スペーサー4を放射状に並べ、前記スペーサーの横幅を利用して、前記貯湯容器と前記シート1との距離が均一に60mmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、比較用の保熱器を作製した。
前記保熱器について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
以上の結果から、本発明の保熱器である実施例1〜22の保熱器は、その部材を構成するシートが柔軟性に優れると共に、電気湯沸かし器に用いた場合に、電気湯沸かし器の消費電力を低減させる効果があることがわかった。消費電力の低減は、熱源の熱の放散防止を示していることから、本発明の保熱器により熱を有効活用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の保熱器は、熱の有効活用を可能とし、かつ、設計の自由度が高いため、例えば、電気湯沸かし器などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0122】
1 独立した空洞を有する樹脂フィルム
1a 表面
11 原料
12 押出機
13 Tダイ
14 キャスティングロール
15 縦延伸機
15a ロール
16 横延伸機
16a クリップ
100 空洞
F フィルム又はシート
L 空洞の配向方向における空洞の長さ
r 空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の長さ
31 独立した空洞を有する樹脂フィルム
32 変形防止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源とシートとを有し、
前記熱源と前記シートとの距離が、1.0mm以上50mm以下であり、
前記シートが、独立した空洞を有する樹脂フィルムを少なくとも有し、
前記樹脂フィルムにおける前記空洞が、前記樹脂フィルムの厚み方向と直交して配向しており、
前記厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であり、かつ、
前記樹脂フィルムの厚みが、1.0mm以下であることを特徴とする保熱器。
【請求項2】
シートが、樹脂フィルムにおける熱源側の面に熱伝導層を有し、前記熱伝導層の厚みが1.0mm以下である請求項1に記載の保熱器。
【請求項3】
樹脂フィルムにおける熱源側の面とは反対側の面に変形防止材を有する請求項1から2のいずれかに記載の保熱器。
【請求項4】
複数の変形防止材が、平面形状であったシートを変形させた方向と平行な方向に直交する方向に配列されてなる請求項3に記載の保熱器。
【請求項5】
樹脂フィルムが、結晶性ポリマーのみからなる請求項1から4のいずれかに記載の保熱器。
【請求項6】
樹脂フィルムの熱伝導率が、0.08W/mK以下である請求項1から5のいずれかに記載の保熱器。
【請求項7】
独立した空洞の割合が、全ての空洞に対して80体積%以上である請求項1から6のいずれかに記載の保熱器。
【請求項8】
熱伝導層の熱伝導率が、1.0W/mK以上である請求項2から7のいずれかに記載の保熱器。
【請求項9】
熱源が、貯湯容器である請求項1から8のいずれかに記載の保熱器。
【請求項10】
請求項9に記載の保熱器を有する電気湯沸かし器。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−185374(P2011−185374A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52188(P2010−52188)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】