説明

保護膜および該保護膜を備えた磁気記録媒体

【課題】保護膜の膜厚を薄くしつつ、耐久性および耐食性を向上させると同時に潤滑膜に対する保護膜表面の結合力を増加させる。さらに、該保護膜を備えた良好な電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体のための保護膜であって、該保護膜がフッ素と窒素とを含んでいることを特徴とする保護膜である。磁気記録媒体のための保護膜を製造する方法であって、基体と該基体上に形成される金属膜層とを含む積層体の上に該保護膜を形成する工程と、フッ素含有ガスおよび窒素含有ガス中で該保護膜をプラズマ処理する工程とを含むことを特徴とする方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜および該保護膜を備えた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摺動部材または耐摩耗部材のコーティングには、種々の材料で形成された硬質被膜が用いられる。このような硬質被膜のうち、カーボンを用いたものとしてダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜がある。DLC膜は、優れた表面平滑性および大きな硬度を有し、表面被膜として適している。従来、DLC膜は、スパッタリング法、プラズマCVD法等を用いて形成されている。
【0003】
磁気記録媒体においては、一般に磁気記録層上にプラズマCVD法で形成したDLC膜から成る保護膜が成膜される。保護膜の目的は、耐久性、耐食性の機能を付与することにより、磁気記録層を磁気ヘッドの接触、摺動による損傷、および腐食から保護することである。
【0004】
近年、磁気記録媒体の記録方式は、長手方式から、より記録密度を高められる垂直方式に切り替わっている。長手方式の場合と同様に、垂直方式においても、より記録密度を高めるためには、磁気記録媒体の保護膜の膜厚をできるだけ薄くして、電磁変換特性を良好に保つ必要がある。
【0005】
保護膜を薄くするために、炭化水素ガスを用いるプラズマCVD法によって形成した保護膜を、アルゴンプラズマ処理および窒素プラズマ処理する方法(特許文献1)が提案されている。
【0006】
また、磁気記録媒体の保護膜としてDLC膜/フッ素含有DLC膜の積層構成を用いること(特許文献2)が提案されている。
【0007】
さらに、カーボン系材料からなる保護膜の後処理として、N2などの不活性ガスまたはCF4などのフッ化カーボン系ガスでプラズマ処理して、その密度または抵抗率を膜厚方向で変化させて、表面層の高抵抗化および緻密化を行い、保護膜の膜厚を低減すること(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−55680号公報
【特許文献2】特開平8−129747号公報
【特許文献3】特開平6−301969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の方法では保護膜の膜厚を薄くしつつ、耐久性および耐食性を向上させると同時に潤滑膜に対する保護膜表面の結合力を増加させることは難しかった。
【0010】
本発明の目的は、保護膜の膜厚を薄くしつつ、耐久性および耐食性を向上させると同時に潤滑膜に対する保護膜表面の結合力を増加させることができる保護膜および該保護膜を備えた磁気記録媒体を提供することである。さらに、本発明の目的は、該保護膜を備えた良好な電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様である磁気記録媒体のための保護膜は、該保護膜がフッ素と窒素とを含んでいることを特徴とする。ここで、該フッ素が、該保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在することが好ましい。また、該窒素が、該保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在することが好ましい。さらに、該保護膜の膜厚が、1.7nm以上2.3nm以下であることが好ましい。また、該保護膜が、非晶質炭素から形成されていることが好ましい。さらに、フッ素の添加量が5〜20at.%(原子%)であり、かつ、窒素の添加量が5〜20at.%であることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様である磁気記録媒体は、基体と、該基体上に位置する金属膜層と、該金属膜層上に位置する保護膜とを備え、該保護膜が、上述の第1の態様に記載の保護膜である。ここで、該保護膜上に潤滑膜をさらに有しても良い。該潤滑膜の膜厚が0.6nm以上1.0nm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の第3の態様である、磁気記録媒体のための保護膜を製造する方法は、基体と該基体上に形成される金属膜層とを含む積層体の上に該保護膜を形成する工程と、フッ素含有ガスおよび窒素含有ガス中で該保護膜をプラズマ処理する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、保護膜の膜厚を薄くしつつ、耐久性および耐食性を向上させると同時に潤滑膜に対する保護膜表面の結合力を増加させることが可能となる。さらに、該保護膜を備えた磁気記録媒体が、良好な電磁変換特性を得ることが可能となる。フッ素が、保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在すれば、耐久性および耐食性がより良好となる。窒素が、保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在すれば、保護膜の表面に潤滑膜を設けた場合に、潤滑膜がより剥がれにくくなる。保護膜の膜厚が1.7nm以上2.3nm以下であると、磁気ヘッドとのスペーシングロスがなく、良好な電磁変換特性が得られ、且つ、耐久性および耐食性も良好である。フッ素の添加量および窒素の添加量が、いずれも5〜20at.%であると、良好な耐久性および耐食性が得られるという効果が得られる。保護膜上に潤滑膜が位置しており、該潤滑膜の膜厚が0.6nm以上1.0nm以下であると、磁気ヘッドとのスペーシングロスがなく、良好な電磁変換特性が得られ、且つ、耐久性も良好である。
【0015】
本願発明において、フッ素は、保護膜表面の耐久性および耐食性を向上させ、窒素は、潤滑膜に対する保護膜表面の結合力を増加させる。本願発明者は、保護膜表面の耐久性および耐食性を向上させるフッ素と、保護膜表面の結合力を増加させる窒素とが、保護膜表面近傍に並存して両方の有利な効果を同時に示し得ることを見出した。本願発明者は、保護膜のガスプラズマ処理において、フッ素含有ガスと窒素含有ガスとを両方用いれば、耐久性および耐食性と、潤滑膜に対する耐剥離性とを同時に維持しうることを見出したのである。保護膜のガスプラズマ処理において、フッ素含有ガスと窒素含有ガスとを両方用いることが従来困難であった理由は、フッ素含有ガスと窒素含有ガスとを両方用いようとすると、いずれかの効果が薄れてしまったためである。保護膜のガスプラズマ処理において、フッ素含有ガスと窒素含有ガスとを両方用いる際に工夫した点は、ガスプラズマ処理の条件を最適化したことである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】耐久性が潤滑膜の膜厚に依存することを示す図である。
【図2】耐食性がDLC膜の膜厚に依存することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態において、炭化水素ガスを原料として用いるプラズマCVD法によって、保護膜として非晶質炭素膜を形成するのが好ましい。非晶質炭素は、DLCであるのが好ましい。用いることができる炭化水素ガスは、エチレン、アセチレン、メタン、ベンゼンなどを含む。本発明の保護膜は、後述するプラズマ処理の結果、主成分としての非晶質炭素に加えてフッ素および窒素を含む。以下に説明される実施例においては、保護膜としてDLC膜を形成し、DLC膜の形成にはプラズマCVD装置が用いられている。
【0018】
保護膜が形成される被成膜基板は、基板上に金属膜層を積層することによって形成される。基体上に形成される金属膜層は、少なくとも磁気記録層を含む。金属膜層は、任意選択的に、磁気記録層と基体との間に、非磁性下地層、軟磁性層、シード層、中間層などの層をさらに含んでもよい。以下に説明される実施例においては、直径95mm、厚さ1.75mmのアルミニウム基体上に、下地層、中間層、磁気記録層を成膜して被成膜基板を形成している。
【0019】
基体は、好ましくは非磁性であり、磁気記録媒体の製造に従来から用いられている任意の材料を用いることができる。たとえば、Ni−Pメッキを施されたアルミ合金、ガラス、セラミック、プラスチック、シリコンなどの材料を用いて基体を作製することができる。
【0020】
磁気記録層は、少なくともCoとPtを含む合金の強磁性材料を用いて形成することができる。強磁性材料の磁化容易軸は、磁気記録を行う方向に向かって配向していることが必要である。例えば、垂直磁気記録を行うためには、磁気記録層の材料の磁化容易軸(六方最密充填(hcp)構造のc軸)が、記録媒体表面(すなわち基体の主平面)に垂直方向に配向していることが必要である。
【0021】
あるいはまた、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料を用いて、単層または多層からなる垂直磁気記録層を形成することがさらに好ましい。用いることができるグラニュラー構造を有する材料は、CoPt−SiO2、CoCrPtO、CoCrPt−SiO2、CoCrPt−TiO2、CoCrPt−Al23、CoPt−AlN、CoCrPt−Si34などを含むが、これらに限定されるものではない。本発明においては、グラニュラー構造を有する材料を用いることによって、垂直磁気記録層内で近接する磁性結晶粒間の磁気的分離を促進し、ノイズの低減、SNRの向上および記録分解能の向上といった媒体特性の改善を図ることができる。
【0022】
任意選択的に設けてもよい非磁性下地層は、Ti、又はCrTi合金のようなCrを含む非磁性材料を用いて形成することができる。
【0023】
任意選択的に設けてもよい軟磁性層は、FeTaC、センダスト(FeSiAl)合金などの結晶性材料;FeTaC、CoFeNi、CoNiPなどの微結晶性材料;又はCoZrNd、CoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料を用いて形成することができる。軟磁性層は、垂直磁気記録媒体において、磁気ヘッドの発生する垂直方向磁界を磁気記録層に集中させる機能を有する。軟磁性層の膜厚は、記録に使用する磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が変化するが、概ね10nm以上500nm以下程度であることが、生産性との兼ね合いから好ましい。
【0024】
任意選択的に設けてもよいシード層は、NiFeAl、NiFeSi、NiFeNb、NiFeB、NiFeNbB、NiFeMo、NiFeCrなどのようなパーマロイ系材料;CoNiFe、CoNiFeSi、CoNiFeB、CoNiFeNbなどのようなパーマロイ系材料にCoをさらに添加した材料;Co;あるいはCoB,CoSi,CoNi,CoFeなどのCo基合金を用いて形成することができる。シード層は、磁気記録層の結晶構造を制御するのに充分な膜厚を有することが好ましく、通常の場合、3nm以上50nm以下の膜厚を有することが好ましい。
【0025】
任意選択的に設けてもよい中間層は、Ru、若しくはRuを主成分とする合金を用いて形成することができる。中間層は、通常0.1nm以上20nm以下の膜厚を有する。このような範囲内の膜厚とすることによって、磁気記録層の磁気特性や電磁変換特性を劣化させることなしに、高密度記録に必要な特性を磁気記録層に付与することが可能となる。
【0026】
非磁性下地層、軟磁性層、シード層、中間層および磁気記録層の形成は、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。
【0027】
保護層の形成は、プラズマCVD法を用いて行うことができる。プラズマ発生のための電力供給は、容量結合式で実施してもよく、誘導結合式で実施してもよい。供給する電力としては、直流電力、HF電力(周波数:数十〜数百kHz)、RF電力(周波数:13.56MHz、27.12MHz、40.68MHzなど)、マイクロ波(周波数:2.45GHz)などを使用することができる。プラズマの発生装置としては、平行平板型装置、フィラメント型装置、ECRプラズマ発生装置、ヘリコン波プラズマ発生装置などを用いることができる。本発明においては、フィラメント型プラズマCVD装置を用いることが好ましい。以下に示す実施例においては、フィラメント型のプラズマCVD装置を用いて、カソードフィラメントに所定の電流を供給して熱電子を放出させながら、装置内にエチレンガスを導入してエチレンプラズマを生成している。
【0028】
被成膜基板として用いる基体および金属膜層の積層体に対してバイアス電圧を印加して、DLC膜の堆積を促進してもよい。たとえば、被成膜基板に対して−40〜−120Vを印加することができる。以下に示す実施例においては、基板バイアスにより成膜種を被成膜基板に引き込んでDLC膜を形成しており、このときのアノード電位は+60V、基板バイアス電位は−120Vである。
【0029】
保護膜の膜厚は、1.7nm以上2.3nm以下であるのが好ましい。保護膜の膜厚が1.7nm未満であると、耐久性および耐食性が悪化するという不都合があり、保護膜の膜厚が2.3nmを超えると磁気ヘッドとのスペーシングロスが増加し、電磁変換特性が悪化する。
【0030】
保護膜にフッ素を導入するためのフッ素含有ガスとして、例えばテトラフルオロメタンガス、ヘキサフルオロエタンガス等のフッ素系ガスを用いることができる。フッ素含有ガスは、純粋なフッ素系ガスであってもよいし、フッ素系ガスと他のガスとの混合ガスであってもよい。この場合、他のガスは、例えばヘリウム、ネオン、アルゴンなどの不活性ガスを含む。
【0031】
保護膜に窒素を導入するための窒素含有ガスは、純粋な窒素ガスであってもよいし、窒素ガスと他のガスとの混合ガスであってもよい。この場合、他のガスは、例えばヘリウム、ネオン、アルゴンなどの不活性ガスを含む。
【0032】
保護膜にフッ素および窒素を導入するために、プラズマ発生手段を用いることができる。プラズマ発生のための電力供給方式、装置および供給する電力は、保護膜を形成する際と同じものを使用することができる。例えば、保護膜を形成する際に用いたプラズマCVD装置と同じ種類の別のプラズマCVD装置を用いることができる。あるいは、保護膜を形成する際に用いたプラズマCVD装置内のガスを置換することによって、保護膜を形成する際に用いたプラズマCVD装置で保護膜にフッ素および窒素を導入することもできる。
【0033】
フッ素は、保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在するのが好ましい。フッ素が、保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域より深い領域に存在すると、保護膜表面と潤滑膜との結合性が悪化するため好ましくない。フッ素の深さは、プラズマ処理工程におけるプラズマ処理時間によって制御する。このプラズマ処理時間は、0.5秒〜2.0秒の範囲であるのが好ましい。
【0034】
窒素は、保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在するのが好ましい。窒素が、保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域より深い領域に存在すると、耐食性が悪化するため好ましくない。窒素の深さは、プラズマ処理工程におけるプラズマ処理時間によって制御する。このプラズマ処理時間は、0.5秒〜2.0秒の範囲であるのが好ましい。
【0035】
窒素の添加量およびフッ素の添加量は、保護膜の全原子数を基準として、いずれも5〜20at.%が好ましい。窒素の添加量が5at.%未満となると、保護膜表面と潤滑膜との結合性が悪化するため好ましくない。又は、窒素の添加量が20at.%を超えると、耐食性が悪化するため好ましくない。フッ素の添加量が5at.%未満となると、耐久性および耐食性が悪化するため好ましくない。又は、フッ素の添加量が20at.%を超えると、保護膜表面と潤滑膜との結合性が悪化するため好ましくない。
【0036】
保護膜上に潤滑膜が位置しており、該潤滑膜の膜厚が0.6nm以上1.0nm以下であるのが好ましい。潤滑膜の膜厚が0.6nm未満であると、耐久性が悪化するという不都合がある。潤滑膜の膜厚が1.0nmを超えると、磁気ヘッドとのスペーシングロスが増加し、電磁変換特性が悪化する。
【0037】
フッ素含有ガスとしてテトラフルオロメタンガスを用いた場合、テトラフルオロメタンガス流量は、放電の安定性という理由で、20sccm〜100sccmが好ましい。窒素含有ガスとして純粋な窒素ガスを用いた場合、窒素ガス流量は、放電の安定性という理由で、20sccm〜100sccmが好ましい。
【0038】
フッ素含有ガスおよび窒素含有ガスが同時に存在する中で保護膜をプラズマ処理すると、フッ素による耐久性および耐食性の改善、窒素による保護膜表面と潤滑膜との結合性の改善という効果が短いプラズマ処理時間で得られ、単位時間当たりの磁気記録媒体の生産枚数を増やすことが出来るため好ましい。他方、フッ素含有ガス中で保護膜をプラズマ処理した後、窒素含有ガス中で保護膜をプラズマ処理すると、フッ素による耐久性および耐食性の改善、窒素による保護膜表面と潤滑膜との結合性の改善という効果がより顕著に得られるため好ましい。
【0039】
本願発明は、保護膜(好ましくはDLC膜)の表面から0.5nmの深さまでの領域にフッ素と窒素とを同時に含有させたことを特徴としている。フッ素の効果は、保護膜の耐久性向上および耐食性向上である。窒素の効果は、保護膜表面と潤滑膜との結合性確保である。以下に説明される実施例においては、フッ素と窒素のいずれか一方が欠けることにより、性能が劣化することが比較例を参照して示されている。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
最初に、直径95mm、厚さ1.75mmのアルミニウム基体上に、下地層、中間層、および磁気記録層を順次積層して被成膜基板を形成した。下地層は、CoZrNbから形成されており、膜厚は40nmであった。中間層は、Ruから形成されており、膜厚は15nmであった。磁気記録層は、CoCrPt−SiO2から形成されており、膜厚は15nmであった。
【0041】
得られた被成膜基板を、フィラメント型のプラズマCVD装置の成膜室に装着した。成膜室に、流量40sccmのエチレンガスを導入した。カソードフィラメントとアノードとの間に180Vの直流電力を印加した。カソードフィラメントから熱電子を放出してエチレンプラズマを発生させた。このときの成膜室内の圧力は0.53Paであった。そして、被成膜基板に対して−120V(対接地)のバイアス電圧を印加してDLC膜を堆積させた。このときのアノード電位は+60Vとした。成膜時間を調整し、エチレンガス流量を40sccm、エミッション電流を0.50Aとして、膜厚2.2nmのDLC膜を形成した。
【0042】
前述のプラズマCVD装置と同じ種類の別のプラズマCVD装置において、窒素ガス流量を50sccm、テトラフルオロメタンガス流量を40sccm、処理時間を1.0sとして、DLC膜の表面を窒化処理およびフッ化処理した。
【0043】
DLC膜の膜厚はXRF(X−ray Fluorescence)にて測定した。DLC膜の組成とそのデプスプロファイルはXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)にて測定した。DLC膜は主として炭素と水素から成り、フッ素、窒素はDLC膜の表面から約0.4nmまでの深さ領域に存在した。DLC膜の膜厚は2.2nmで変化していなかった。フッ素の添加量は10at.%であり、窒素の添加量は10at.%であった。
【0044】
このようにして形成した保護膜の上に、パーフルオロポリエーテルを主体とする液体潤滑剤をディップ法により塗布し、膜厚0.9nmの潤滑膜を形成した。
【0045】
このようにして作製したサンプルに、直径2mmのアルチックボールを所定の荷重、線速度で摺動させて保護膜が破断するまでの摺動回数を測定した。摺動回数は320回と多く、良好な結果を示した。
【0046】
また、このようにして作製したサンプルに所定濃度の硝酸水溶液を滴下、抽出し、Co溶出量をICP−MS(Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometry)で測定した。Co溶出量は0.012ng/cm2と少なく、良好な結果を示した。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同様にして膜厚2.2nmの保護膜を形成した。DLC膜の表面の窒化処理およびフッ化処理も実施例1と同じとした。この保護膜の上に、パーフルオロポリエーテルを主体とする液体潤滑剤をディップ法の引き抜き速度を調整して塗布し、膜厚0.8nmの潤滑膜と、膜厚0.7nmの潤滑膜を形成した。
【0048】
このようにして作製したサンプルに、直径2mmのアルチックボールを所定の荷重、線速度で摺動させて保護膜が破断するまでの摺動回数を測定した。摺動回数はそれぞれ280回、260回と多く、良好な結果を示した。
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、成膜時間を調整し、膜厚2.0nmのDLC膜と、膜厚1.8nmのDLC膜を形成した。DLC膜の表面の窒化処理およびフッ化処理も実施例1と同じとした。フッ素の添加量は10at.%であり、窒素の添加量は10at.%であった。
【0050】
このようにして形成した保護膜の上に、パーフルオロポリエーテルを主体とする液体潤滑剤をディップ法により塗布し、膜厚0.9nmの潤滑膜を形成した。
【0051】
このようにして作製したサンプルに所定濃度の硝酸水溶液を滴下、抽出し、Co溶出量をICP−MSで測定した。Co溶出量はそれぞれ0.017ng/cm2、0.025ng/cm2と少なく、良好な結果を示した。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、テトラフルオロメタンガス流量を0sccm、窒素ガス流量を50sccmとしてサンプルを作製した。DLC膜の膜厚は2.2nm、潤滑膜の膜厚は0.9nmであった。
【0053】
DLC膜の膜厚はXRFにて測定した。DLC膜の組成とそのデプスプロファイルはXPSにて測定した。DLC膜は主として炭素と水素、および表面から約0.4nmまでの深さ領域に存在する窒素から成り、フッ素を含有していなかった。窒素の添加量は13at.%であった。
【0054】
このようにして作製したサンプルに、直径2mmのアルチックボールを所定の荷重、線速度で摺動させて保護膜が破断するまでの摺動回数を測定した。摺動回数は220回と少なく、不良な結果を示した。
【0055】
また、このようにして作製したサンプルに所定濃度の硝酸水溶液を滴下、抽出し、Co溶出量をICP−MSで測定した。Co溶出量は0.034ng/cm2と多く、不良な結果を示した。
【0056】
(比較例2)
比較例1と同様にして形成した膜厚2.2nmの保護膜の上に、パーフルオロポリエーテルを主体とする液体潤滑剤をディップ法の引き抜き速度を調整して塗布し、膜厚0.8nmの潤滑膜と、膜厚0.7nmの潤滑膜を形成した。
【0057】
このようにして作製したサンプルに、直径2mmのアルチックボールを所定の荷重、線速度で摺動させて保護膜が破断するまでの摺動回数を測定した。摺動回数はそれぞれ190回、170回と少なく、不良な結果を示した。
【0058】
(比較例3)
比較例1と同様の方法により、成膜時間を調整し、膜厚2.0nmのDLC膜と、膜厚1.8nmのDLC膜を形成した。窒素の添加量は13at.%であった。
【0059】
このようにして形成した保護膜の上に、パーフルオロポリエーテルを主体とする液体潤滑剤をディップ法により塗布し、膜厚0.9nmの潤滑膜を形成した。
【0060】
このようにして作製したサンプルに所定濃度の硝酸水溶液を滴下、抽出し、Co溶出量をICP−MSで測定した。Co溶出量はそれぞれ0.040ng/cm2、0.055ng/cm2と多く、不良な結果を示した。
【0061】
(比較例4)
潤滑膜の膜厚を1.2nmとしたことを除いて、比較例1の手順を繰り返してサンプルを作製した。保護膜の膜厚は、2.2nmであった。
【0062】
摺動回数は360回と良好な結果を示したが、磁気ヘッドとのスペーシングロスが増加したため電磁変換特性が悪化した。
【0063】
(比較例5)
DLC膜の膜厚を2.5nmとしたことを除いて、比較例1の手順を繰り返してサンプルを作製した。潤滑膜の膜厚は、0.9nmであった。窒素の添加量は13at.%であった。
【0064】
Co溶出量は0.028ng/cm2と良好な結果を示したが、磁気ヘッドとのスペーシングロスが増加したため電磁変換特性が悪化した。
【0065】
(比較例6)
実施例1と同様の方法により、窒素ガス流量を0sccm、テトラフルオロメタンガス流量を40sccm、処理時間を1.0sとしてDLC膜の表面にフッ化処理のみ施したサンプルを作製した。DLC膜の膜厚は2.2nm、潤滑膜の膜厚は0.9nmである。フッ素添加量は13at.%であった。
【0066】
このようにして作製したサンプルに、直径2mmのアルチックボールを所定の荷重、線速度で摺動させて保護膜が破断するまでの摺動回数を測定した。摺動回数は240回と少なく、不良な結果を示した。これは、DLC膜の表面に窒素が無いことにより、潤滑膜が剥がれ易くなっているためと考えられる。
【0067】
(参考例1)
潤滑膜の膜厚を1.2nmとしたことを除いて、実施例1の手順を繰り返してサンプルを作製した。保護膜の膜厚は、2.2nmであった。
【0068】
摺動回数は530回と良好な結果を示したが、磁気ヘッドとのスペーシングロスが増加したため電磁変換特性が悪化した。
【0069】
(参考例2)
DLC膜の膜厚を2.5nmとしたことを除いて、実施例1の手順を繰り返してサンプルを作製した。潤滑膜の膜厚は、0.9nmであった。フッ素の添加量は10at.%であり、窒素の添加量は10at.%であった。
【0070】
Co溶出量は0.008ng/cm2と良好な結果を示したが、磁気ヘッドとのスペーシングロスが増加したため電磁変換特性が悪化した。
【0071】
第1表は、実施例1、2、比較例1、2、4、6、参考例1について得られた摺動回数およびその評価を示す。第2表は、実施例1、3、比較例1、3、5、参考例2について得られたCo溶出量およびその評価を示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体のための保護膜であって、該保護膜がフッ素と窒素とを含んでいることを特徴とする保護膜。
【請求項2】
該フッ素が、該保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在することを特徴とする請求項1に記載の保護膜。
【請求項3】
該窒素が、該保護膜の表面から0.5nmの深さまでの領域に存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の保護膜。
【請求項4】
該保護膜の膜厚が、1.7nm以上2.3nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の保護膜。
【請求項5】
該保護膜が、非晶質炭素から形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の保護膜。
【請求項6】
フッ素の添加量および窒素の添加量が、いずれも5〜20at.%であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の保護膜。
【請求項7】
基体と、該基体上に位置する金属膜層と、該金属膜層上に位置する保護膜とを備えた磁気記録媒体であって、該保護膜が、請求項1から6のいずれかに記載の保護膜であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
該保護膜上に潤滑膜が位置しており、該潤滑膜の膜厚が0.6nm以上1.0nm以下であることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気記録媒体のための保護膜を製造する方法であって、基体と該基体上に形成される金属膜層とを含む積層体の上に該保護膜を形成する工程と、フッ素含有ガスおよび窒素含有ガス中で該保護膜をプラズマ処理する工程とを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−99180(P2012−99180A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246358(P2010−246358)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】