説明

保護膜形成用組成物および保護膜の剥離方法

【課題】ウエーハの加工の際に、ウエーハ保持面を保護する保護膜特性が優れており、とくに使用後、不要になった保護膜を特定のウエーハ洗浄液を使用することなく、容易に剥離して除去できる保護膜が得られる保護膜形成用組成物および該保護膜を環境負荷が伴わず剥離除去できる剥離方法を提供すること。
【解決手段】少なくともポリビニルブチラール樹脂(a)と、ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを含有する被膜形成材料(A)と、一般式(1)で表される化合物(B)とを有機溶媒中に含有することを特徴とする保護膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、液晶用基板などの薄い板状基板(ウエーハ)を研磨加工など、ウエーハを加工する際に、加工面とは反対側のウエーハ面を保護するウエーハ用保護膜が得られる保護膜形成用組成物(以下、単に「保護膜形成用組成物」という場合がある)に関し、さらに詳しくは、研磨剤などのウエーハ加工剤に対する耐性、耐擦傷性、耐熱性、および加工後、不要になった保護膜を剥離除去できる剥離性(以下、これらを纏めて「保護膜特性」という場合がある)が優れたウエーハ用保護膜が得られる保護膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ウエーハの研磨加工では、ウエーハが裏面入射型の撮像素子(赤外線撮像素子)などにおいては、ウエーハ保持面(半導体素子作成面)の反対面である裏面から検出すべき光が入射されるために、該裏面を平にしておく必要があり、ウエーハ保持面の裏面に相当する研磨面を研磨する。
【0003】
上記のウエーハの研磨加工は、ウエーハが動かないように研磨面とは反対側の片面であるウエーハ保持面を、吸引などによりウエーハホルダーに保持し、研磨面を研磨機の回転定盤上に圧力をかけながら押しつけ、アルカリ性の研磨剤を滴下しながら研磨面を研磨する。上記のウエーハの研磨が終了すると、研磨面に残った不要の研磨剤をアルカリ性の洗浄液などの洗浄剤を使用して洗浄除去する。
【0004】
従来、上記の研磨加工は、ウエーハ保持面を保護しないで研磨を行うために、ウエーハ保持面が研磨剤により腐食されたり、汚れたり、あるいはウエーハ保持面をウエーハホルダーに吸着保持、あるいは加工に伴う搬送の際にウエーハ保持面に傷が付く危険性がある。このことは、ウエーハの半導体素子作成面に悪影響を及ぼす。
【0005】
上記の問題点の対策として、ある種のウエーハの研磨方法(特許文献1)が開示されている。特許文献1に開示のウエーハの研磨方法は、ウエーハ保持面に高重合度のポリビニルブチラール樹脂の単体成分を保護膜として被覆して研磨を行っている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、不要となった上記保護膜を、ウエーハの洗浄工程中で使用するオゾンガスを溶解させた水と、アンモニア・過酸化水素水を主成分とする特定のアルカリ洗浄液を用いてウエーハの洗浄を兼ねながら保護膜を洗浄除去しているために、ウエーハ洗浄と保護膜洗浄除去の管理が複雑となり、ウエーハの洗浄条件によっては不要となった保護膜の洗浄が不充分となる危険性が伴う。また、上記の洗浄液による保護膜の洗浄除去は環境負荷が伴う。さらに、洗浄液の廃液中に保護膜成分が溶解されているために、廃液自体が増粘し、廃液の処理に難点がある。また、保護膜は、塗膜形成時に熱処理をするために、その熱処理の条件によって保護膜の洗浄除去性が左右される不安定性がある。上記の保護膜成分のポリビニルブチラール樹脂は、高重合度で分子量が大きいものが使用されているために、上記の現象がより顕著になる。
【0007】
上述のことから、ウエーハの加工の際に、ウエーハ保持面を保護する保護膜特性が優れており、とくに使用後、不要になった保護膜を特定のウエーハ洗浄液を使用することなく、容易に剥離して除去できる保護膜が得られる保護膜形成用組成物、および該保護膜を環境負荷が伴わず容易に剥離除去できる剥離方法が要望されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3664605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、ウエーハの加工の際に、ウエーハ保持面を保護する保護膜特性が優れており、とくに使用後、不要になった保護膜を特定のウエーハ洗浄液を使用することなく、容易に剥離して除去できる保護膜が得られる保護膜形成用組成物および該保護膜を環境負荷が伴わず剥離除去できる剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の被膜形成材料(A)と化合物(B)とを有機溶媒中に含有してなる保護膜形成用組成物が、ウエーハの加工の際に、ウエーハ保持面を保護する保護膜特性が優れており、とくに使用後、不要になった保護膜を特定のウエーハ洗浄液を使用することなく、特定の剥離方法により容易に剥離除去できる保護膜が得られる保護膜形成用組成物であることを見出した。すなわち、本発明は、少なくともポリビニルブチラール樹脂(a)と、ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを含有する被膜形成材料(A)と、下記一般式(1)で表される化合物(B)とを有機溶媒中に含有することを特徴とする保護膜形成用組成物を提供する。

(上記式中において、mは0〜100の整数であり、nは1〜100の整数である。また、Rはアルキレン基を、R’は水素原子または1価の有機基を表し、yおよびzはそれぞれ0〜100の整数であり、同時に0であることはない。)
【0011】
また、本発明の好ましい実施形態では、前記ポリビニルブチラール樹脂(a)と、前記ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを、a/b=2/8〜5/5(質量比)の割合で含有しており、前記ポリビニルブチラール樹脂(a)の数平均分子量が、10,000〜40,000であり、前記ポリビニルブチラール樹脂(a)のガラス転移温度が50℃〜90℃、水酸基量が50mol%以下、およびブチル化度が50mol%以上であり、前記ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)の数平均分子量が、10,000〜140,000であり、前記ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)のガラス転移温度が100℃〜120℃、水酸基量が20mol%〜30mol%、およびアセタール化度が70mol%〜80mol%であり、前記被膜形成材料(A)の固形分濃度が、0.2質量%〜30質量%であり、前記化合物(B)が、被膜形成材料(A)の固形分総量中に0.1質量%〜3質量%占める量を含有しており、および前記化合物(B)のHLBが2〜17であるのが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記の保護膜形成用組成物を、基材に塗布して形成した保護膜を下記の1または2の方法で基材面から剥離することを特徴とする保護膜の剥離方法を提供する。
1.40℃の温水スプレーにて保護膜を基材面から剥離する。
2.保護膜を粘着面に接着させながら基材面から剥離する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保護膜特性が優れたウエーハ用保護膜が得られる保護膜形成用組成物、および、不要になった上記保護膜を特定の洗浄剤を使用することなく、環境負荷が伴うことなく容易に剥離除去できる剥離方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明を特徴づける被膜形成材料(A)は、少なくともポリビニルブチラール樹脂(a)と、ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを含有している。上記の各々の成分単独では、保護膜特性が優れたウエーハ用保護膜が得られ難いために適宜混合して使用する。
【0015】
上記の被膜形成材料(A)は、好ましくはポリビニルブチラール樹脂(a)と、ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを、a/b=2/8〜5/5(質量比)になるように含有する。上記のa成分とb成分とを上記の割合で混合することにより、保護膜特性が優れたウエーハ用保護膜が得られる。上記のa成分の配合割合が多くなり過ぎると、得られる保護膜の耐熱性、および塗膜強度が低下する。一方、a成分の配合割合が少な過ぎると、得られる保護膜の基材に対する密着性が低下する。
【0016】
前記のa成分は、公知の合成方法により、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたポリビニルアルコールを酸触媒のもとでブチルアルデヒドを反応させた生成物であり、数平均分子量が10,000〜140,000の範囲内にある低重合度から高重合度のポリビニルブチラール樹脂など、好ましくは数平均分子量が10,000〜40,000程度の低重合度のポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。上記のa成分の数平均分子量が、大き過ぎると得られる保護膜形成用組成物の溶液粘度が上昇して塗布性、および接着力が低下する。一方、上記の数平均分子量が小さ過ぎると、得られる保護膜の強度が低下する。なお、本発明における数平均分子量は、テトラヒドロフランを溶離液としたウオーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)150cを用いて、カラム温度35℃、流量1ml/分にてGPC測定を行い、その結果から計算したポリスチレン換算の値である。上記のカラムは昭和電工(株)shodex KF−802、804、806を用いた。
【0017】
また、前記a成分は、好ましくはガラス転移温度が50℃〜90℃、水酸基量が50mol%以下、およびブチル化度が50mol%以上、より好ましくはガラス転移温度が50℃〜80℃、水酸基量が20mol%〜40mol%、ブチル化度が60mol%〜80mol%のポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。上記のガラス転移温度、水酸基量、ブチル化度を有するポリビニルブチラール樹脂が最適な保護膜特性を得るのに有効である。上記の水酸基量が多過ぎると、得られる保護膜の耐水性が低下し、一方、水酸基量が少な過ぎると、保護膜の基材への密着性、温水剥離性が低下する。また、上記ブチル化度が高くなると、得られる保護膜の耐擦傷性が低下し、一方、ブチル化度が低いと、得られる保護膜の耐水性が低下する。
【0018】
上記のa成分としては、例えば、数平均分子量19,000、水酸基量36mol%、ブチル化度63±3mol%、ガラス転移温度66℃のポリビニルブチラール樹脂、数平均分子量20,000、水酸基量30mol%、ブチル化度69±3mol%、ガラス転移温度63℃のポリビニルブチラール樹脂、数平均分子量27,000、水酸基量36mol%、ブチル化度63±3mol%、ガラス転移温度68℃のポリビニルブチラール樹脂、数平均分子量28,000、水酸基量29mol%、ブチル化度70±3mol%、ガラス転移温度64℃のポリビニルブチラール樹脂、数平均分子量32,000、水酸基量21mol%、ブチル化度77mol%以上、ガラス転移温度62℃のポリビニルブチラール樹脂、数平均分子量15,000、水酸基量28mol%、ブチル化度71±3mol%、ガラス転移温度59℃のポリビニルブチラール樹脂、数平均分子量23,000、水酸基量22mol%、ブチル化度74±3mol%、ガラス転移温度61℃のポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。上記のa成分は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
上記のa成分としては、積水化学工業(株)から、エスレックB「BL−1」、エスレックB「BL−1H」、エスレックB「BL−2」、エスレックB「BL−2H」、エスレックB「BL−5」、エスレックB「BL−10」、エスレックB「BL−S」などの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0020】
本発明における前記a成分の水酸基量およびブチル化度は、下記の方法により得られた値である。
[操作]
1)a成分の粘度測定用溶液を低圧ポリエチレンシート上に流延する。
2)風乾(予備乾燥)後、真空乾燥(60±5℃、減圧度9.47×104Pa以上5時間)を行って試料フィルムを作成する(膜厚10〜20μm程度、2980cm-1CH2Vasの透過率が10〜45%のフィルム)。
3)試料フィルムをポリエチレンシートより剥がし、赤外分光光度計(日立製作所製、260−10型)にてIR吸収スペクトルを求める。
4)検量線を用いて水酸基量、および残存アセチル基量を求め、ブチル化度を算出する。上記の検量線は、下記により求めたものである。
[検量線]
ポリビニルブチラール試験方法(JISK6728)によって酢酸ビニルおよびビニルブチラールを実測し、その結果よりビニルアルコールを求めてW%をmol%に換算する。これにより得られたビニルアルコール(mol%)および酢酸ビニル(mol%)を横軸にとり、フィルム吸光度の比を縦軸にとってブチラール用の検量線とする。上記の検量線を用いて下記計算により水酸基量、および残存アセチル基量を求め、ブチル化度を算出する。
[計算]
1)3900cm-1と2300cm-1付近の一番高い点および1900cm-1と1600cm-1付近の透過率の一番高い点を結びそれぞれのベースラインとする。
2)吸光度D(LogI0/I)を求める。
3500cm-1DOH、2980cm-1DCH2Vas、2900cm-1DCH2Vs、1740cm-1DCO
3)DOH/DCH2Vas、DOH/DCH2Vs、DCO/DCH2Vas、およびDCO/DCH2Vsを求め検量線より水酸基量、残存アセチル基の量を求める。
・水酸基(mol%)=84.97×DOH/DCH2Vas+6.45(1)
=64.851×DOH/DCH2Vas+3.63(2)
上記の(1)および(2)の平均値を水酸基量とする。
・残存アセチル基(mol%)=18.87×DCO/DCH2Vas(3)
=12.48×DCO/DCH2Vs(4)
上記の(3)および(4)の平均値をアセチル基とする。
・ブチル化度(mol%)=100−(水酸基量mol%+アセチル基量mol%)
【0021】
また、本発明におけるガラス転移温度は、DSC法により、試料5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れ密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量分析計(DSC)DSC−220を用いて200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定した値である。
【0022】
また、前記のa成分と併用するb成分は、公知の合成方法により、ポリビニルアルコールとアセトアルデヒドとを反応させた反応生成物であり、数平均分子量が10,000〜140,000、好ましくは20,000〜30,000であるポリビニルアセトアセタール樹脂である。上記のb成分は、特に、前記のa成分と併用することにより、得られる保護膜の耐熱性を向上させる。上記のb成分の数平均分子量が大き過ぎると、得られる保護膜形成用組成物の粘度が上昇して塗布性が低下する。一方、上記の数平均分子量が小さ過ぎると、得られる保護膜の強度が低下する。
【0023】
また、上記のb成分は、好ましくはガラス転移温度が100℃〜120℃、水酸基量が20mol%〜30mol%、およびアセタール化度が70mol%〜80mol%、より好ましくはガラス転移温度が100℃〜110℃、水酸基量が20mol%〜30mol%、アセタール化度が74±3mol%のポリビニルアセトアセタール樹脂が挙げられる。上記のガラス転移温度、水酸基量、アセタール化度を有し、前記の数平均分子量の範囲のものが、前記のa成分と前記配合割合になるように混合することにより最適な保護膜特性を得る。上記のガラス転移温度が低過ぎると得られる保護膜の耐熱性が低下するので好ましくない。また、上記の水酸基量が高過ぎると、得られる保護膜の耐水性が低下し、一方、水酸基量が低過ぎると、温水剥離性が低下する。また、アセタール化度が高過ぎると、得られる保護膜の温水剥離性が低下し、一方、アセタール化度が低いと、得られる保護膜の耐水性が低下する。
【0024】
上記のb成分としては、例えば、数平均分子量17,000、水酸基量25mol%、アセタール化度74±3mol%、ガラス転移温度106℃のポリビニルアセトアセタール樹脂、数平均分子量27,000、水酸基量25mol%、アセタール化度74±3mol%、ガラス転移温度107℃のポリビニルアセトアセタール樹脂、数平均分子量108,000、水酸基量25mol%、アセタール化度74±3mol%、ガラス転移温度110℃のポリビニルアセトアセタール樹脂、数平均分子量130,000、水酸基量25mol%、アセタール化度74±3mol%、ガラス転移温度110℃のポリビニルアセトアセタール樹脂などが挙げられる。上記のb成分は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
上記のb成分としては、積水化学工業(株)から、エスレックK「KS−10」、エスレックK「KS−1」、エスレックK「KS−3」、エスレックK「KS−5」などの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0026】
本発明における前記のb成分のアセタール化度および水酸基量は、下記の方法にて求めた値である。
1)試料フィルムの作成
ガラス板上に張り合せたポリエチレンフィルムの上に試料のポリビニルアセトアセタール樹脂溶液を塗布し、ガラス棒で試料を流延させて試料の被膜(2940cm-1の透過率が33%〜37%になるような厚みに調製する)を作る。試料フィルムを赤外線乾燥機にて15分間予備乾燥した後、真空乾燥機にて60℃、5時間本乾燥を行い、その後、デシケーターにて20分間放冷する。
2)赤外分光光度計による試料の測定
赤外分光光度計(日立製作所製、260−10型)にて、波長4000cm-1〜650cm-1での吸収チャートを得る。
3)アセタール化度の算出
(1)3700cm-1と2100cm-1付近の透過率の一番高い点および780cm-1と730cm-1付近の透過率の一番高い点を結びそれぞれのベースラインとする。
(2)吸光度D(LogI0/I)を求める。
2940cm-1DCH2、760cm-1DC66
(3)上記の(2)で求めた値から、下記の式よりアセタール化度を求めた。
アセタール化度(mol%)=53.979×(DCH2/DC66)−0.967
また、水酸基量は、残存アセチル基量を測定(前記のa成分と同様にし)し、下記の式より求めた。
水酸基量(mol%)=100−(アセタール化度mol%)+アセチル基量(mol%)
【0027】
また、本発明を特徴づける化合物Bは、下記の一般式(1)で表される化合物である。

(上記式中において、mは0〜100の整数であり、nは1〜100の整数である。また、Rはアルキレン基を、R’は水素原子または1価の有機基を表し、yおよびzはそれぞれ0〜100の整数であり、同時に0であることはない。)
【0028】
上記の化合物Bは、分子内に上記のXである有機基を有する非反応性のポリエーテル変性シリコーンオイルである。上記化合物Bは、得られる保護膜の基材からの剥離性、および保護膜の耐擦傷性を向上させるために配合され、好ましくは被膜形成材料(A)の固形分総量中に0.1質量%〜3質量%占める量を含有している。上記の配合量が多過ぎると、得られる保護膜形成用組成物の基材への塗布性が低下し、また、基材への密着性を阻害する。一方、上記配合量が少な過ぎると、不要になった保護膜を剥離除去する際に、充分な剥離性が得られなく、保護膜が基材に残る危険性がある。また、得られる保護膜の耐擦傷性が低下する。
【0029】
また、前記化合物BのHLBが、2〜17であるのが好ましく、より好ましくはHLBが10〜13である。上記のHLBが高過ぎると、得られる保護膜形成用組成物の保護膜の温水スプレーによる剥離性は向上するが、湿度が高い場合、基材への密着性が低下する。一方、上記のHLBが低過ぎると、保護膜の基材への密着性、および不要になった保護膜の温水スプレーによる剥離性が低下する。なお、本発明におけるHLBは、下記の計算式から算出された値である。
HLB=7+11.7LogMW/MO
(MW:親水部の原子量の和、MO:親油部の原子量の和)
【0030】
前記化合物Bとしては、例えば、信越化学工業(株)から、「KF−351A」、「KF−352A」、「KF−353」、「KF−354L」、「KF−355A」、「KF−615A」、「KF−945」、「KF−640」、「KF−642」、「KF−643」、「KF−6020」、「X−22−6191」、「X−22−4515」などの商品名で入手して、本発明で使用することができる。
【0031】
本発明の保護膜形成用組成物は、前記の被膜形成材料(A)と、化合物(B)と、必要に応じて本発明の目的を妨げない範囲においてその他添加剤とを有機溶媒中に適宜に配合し、好ましくは被膜形成材料(A)を構成する前記のポリビニルブチラール樹脂(a)とポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを前記範囲内になるように配合し、また、化合物(B)は被膜形成材料(A)の固形分総量中の前記範内になるように配合し、公知の方法にて均一に混合分散して調製する。上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−オクタノール、ベンジルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジオキサン、メチレンクロライド、クロロホルムなどが挙げられる。
【0032】
上記の保護膜形成用組成物は、被膜形成材料(A)の固形分濃度が、好ましくは0.2質量%〜30質量%になるように調製する。上記の固形分濃度が高過ぎると、増粘して基材への塗布性が低下する。一方、固形分濃度が低過ぎると、得られる保護膜の塗膜強度が弱くなり保護膜性が低下する。
【0033】
前記の添加剤としては、例えば、フタル酸エステル、燐酸エステル、脂肪酸エステルグリコール誘導体などの可塑剤、アルキルフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ニトロセルロース、ブチル化メラミン樹脂などが挙げられる。
【0034】
前記の保護膜形成用組成物を使用する例としては、例えば、半導体基板のシリコンウエーハ基材の片面にスピンコート塗工機により、前記保護膜形成用組成物を膜厚2μm〜3μm程度になるように塗布し、80℃〜120℃で乾燥し、ウエーハ表面に保護膜を形成する。上記の保護膜が形成されているウエーハ面を研磨機のウエーハホルダーにセットし、反対面のウエーハ面を研磨剤を滴下しながら研磨加工する。研磨加工終了後、ウエーハホルダーより、保護膜が形成されているウエーハを取り出し、ウエーハ面を覆っている保護膜を下記の1または2の剥離方法により除去する。
すなわち、
1)40℃の温水スプレーにて保護膜を基材面から剥離する。
2)保護膜を粘着面に接着させながら基材面から剥離する。
などの剥離方法が挙げられる。
【0035】
上記の剥離方法1)は、研磨加工などの加工処理が終了した保護膜が形成されているウエーハを、ロボットなどで搬送しながら40℃の温水を、流量250g/minにて90秒間スプレーして、ウエーハ基材面から保護膜を膜ごと剥離する。剥離された保護膜は、水中から分別され破棄される。
【0036】
上記の剥離方法2)は、研磨加工などの加工処理が終了した保護膜が形成されているウエーハを、ロボットなどで搬送しながら、保護膜面を粘着ロール、あるいは粘着シートなどの粘着面にタッチさせながらウエーハ基材面から保護膜ごと剥離する。
【実施例】
【0037】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1〜5](保護膜形成用組成物J1〜J5)
被膜形成材料(A)と、化合物(B)と、有機溶媒とを表1のように配合し、均一に混合溶解して本発明の保護膜形成用組成物J1〜J5を調製した。なお、上記の被膜形成材料(A)および化合物(B)は下記の通りである。
[被膜形成材料(A)]:
a成分:
a1:数平均分子量19,000、水酸基量36mol%、ブチル化度63±3mol%、ガラス転移温度66℃であるポリビニルブチラール樹脂。
a2:数平均分子量28,000、水酸基量29mol%、ブチル化度70±3mol%、ガラス転移温度64℃であるポリビニルブチラール樹脂。
b成分:
b1:数平均分子量27,000、水酸基量25mol%、アセタール化度74±3mol%、ガラス転移温度107℃であるポリビニルアセトアセタール樹脂。
b2:数平均分子量130,000、水酸基量25mol%、アセタール化度74±3mol%、ガラス転移温度110℃であるポリビニルアセトアセタール樹脂。
[化合物(B)]:
非反応性ポリエーテル変性シリコーンオイル(HLB12、信越化学工業(株)製、KF−355A)
【0039】
[比較例1〜2](保護膜形成用組成物K1〜K2)
実施例1および3において化合物(B)を使用しない以外は表1のように各々の成分を配合し均一に混合溶解して保護膜形成用組成物K1〜K2を調製した。
【0040】
[比較例3](保護膜形成用組成物K3)
被膜形成材料(W)として、数平均分子量115,000、水酸基量29mol%、ブチル化度58±3mol%、ガラス転移温度62℃のポリビニルブチラール樹脂のみを使用し、化合物(B)を使用しない以外は表1のように各々の成分を配合し均一に混合溶解して保護膜形成用組成物K3を調製した。
【0041】

【0042】
前記で得られた各々の保護膜形成用組成物を用いて、6inのシリコンウエーハ表面にスピンコーターを使用して3μm(乾燥厚み)になるように塗布し、100℃に加熱されたホットプレート上で30秒間乾燥させ保護膜を有するウエーハ試料を作成した。上記の得られた保護膜の、ウエーハ加工剤に対する耐性、耐擦傷性、耐熱性、および剥離性に関し下記の方法により測定し評価した。評価結果を表2に示す。
【0043】
(ウエーハ加工剤に対する耐性)
下記の評価方法からウエーハ加工剤に対する耐性を評価した。
0.3%水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬し、保護膜表面の状態を下記の評価方法により評価した。
○:保護膜が、膨潤したり、侵食された状態が全く認められない。
△:保護膜が、膨潤したり、侵食された状態がわずかに認められる。
×:保護膜が、膨潤したり、侵食された状態がかなり認められる。
【0044】
(耐擦傷性)
新東科学(株)製、HEIDON TYPE 14DRを使用して、保護膜面をスチールウール#0000により荷重500g/2cm角で10往復擦り、擦った後の傷の状態を下記の評価方法により評価した。
○:保護膜面に傷が、全く認められない。
△:保護膜面に傷が、わずかに認められる。
×:保護膜面に傷が、かなり認められる。
【0045】
(耐熱性)
100℃に加熱されたホットプレート上に前記試料を保護膜面を上にして60秒間置き、保護膜の表面状態を下記の評価方法により評価した。
○:保護膜の表面に、熱変化が全く認められない。
△:保護膜の表面が、わずかに軟化している。
×:保護膜の表面に、熱だれがかなり認められる。
【0046】
(剥離性)
前記のウエーハ試料を、下記の1および2の方法によりウエーハ基材面から保護膜を剥離し、剥離の状態を下記の評価方法により評価した。
1.保護膜面に40℃の温水を、流量250g/minにて90秒間スプレーして、ウエーハ基材面から保護膜を膜ごと剥離する。
2.保護膜面にセロテープ(登録商標)を貼りつけ、テープ剥離により保護膜をテープごとウエーハ基材面から剥離する。
○:ウエーハ基材面より保護膜が容易に剥離する。
△:ウエーハ基材面に、わずかに保護膜の剥離残りが認められる。
×:ウエーハ基材面より保護膜が剥離しない。
【0047】

【0048】
上記の評価結果より、本発明の保護膜形成用組成物は、保護膜特性が優れた保護膜が得られる保護膜形成用組成物であることが実証された。特に、従来の保護膜形成用組成物に比べて耐熱性や、耐擦傷性が優れており、不要となった保護膜を環境負荷が伴う洗浄剤を使用することなく、剥離方法1あるいは2によって容易に剥離除去することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の保護膜形成用組成物は、保護膜特性が優れた保護膜が得られ、特に、環境負荷が伴わず不要となった保護膜を容易に剥離除去できることから、シリコン半導体基板、液晶基板などのウエーハを加工する際に、ウエーハ面を保護するウエーハ用保護膜が得られる保護膜形成用組成物として有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリビニルブチラール樹脂(a)と、ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを含有する被膜形成材料(A)と、下記一般式(1)で表される化合物(B)とを有機溶媒中に含有することを特徴とする保護膜形成用組成物。

(上記式中において、mは0〜100の整数であり、nは1〜100の整数である。また、Rはアルキレン基を、R’は水素原子または1価の有機基を表し、yおよびzはそれぞれ0〜100の整数であり、同時に0であることはない。)
【請求項2】
前記ポリビニルブチラール樹脂(a)と、前記ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)とを、a/b=2/8〜5/5(質量比)の割合で含有している請求項1に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルブチラール樹脂(a)の数平均分子量が、10,000〜40,000である請求項1または2に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルブチラール樹脂(a)のガラス転移温度が50℃〜90℃、水酸基量が50mol%以下、およびブチル化度が50mol%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)の数平均分子量が、10,000〜140,000である請求項1または2に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルアセトアセタール樹脂(b)のガラス転移温度が100℃〜120℃、水酸基量が20mol%〜30mol%、およびアセタール化度が70mol%〜80mol%である請求項1、2、および5のいずれか1項に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項7】
前記被膜形成材料(A)の固形分濃度が、0.2質量%〜30質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項8】
前記化合物(B)が、被膜形成材料(A)の固形分総量中に0.1質量%〜3質量%を占める量で含有されている請求項1に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項9】
前記化合物(B)のHLBが、2〜17である請求項1または8に記載の保護膜形成用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の保護膜形成用組成物を、基材に塗布して形成した保護膜を下記の1または2の方法で基材面から剥離することを特徴とする保護膜の剥離方法。
1.40℃の温水スプレーにて保護膜を基材面から剥離する。
2.保護膜を粘着面に接着させながら基材面から剥離する。

【公開番号】特開2010−24342(P2010−24342A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187085(P2008−187085)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】