信号処理装置、及びレーダ装置。
【課題】 電子スキャン方式のレーダ装置においてアンテナ間隔をある程度離間させた状態であっても、方位角検出範囲を広角化する。
【解決手段】 目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置は、前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成する合成手段と、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有するので、アンテナ対の間に仮想アンテナを配置した場合にこの仮想アンテナにより得られるビート信号と同じ位相の合成ビート信号を得ることができ、ビート信号と合成ビート信号とに基づき方位角を検出することで、アンテナ間隔をある程度離間させたままで位相折り返しが発生しない方位角検出範囲を広角化できる。
【解決手段】 目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置は、前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成する合成手段と、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有するので、アンテナ対の間に仮想アンテナを配置した場合にこの仮想アンテナにより得られるビート信号と同じ位相の合成ビート信号を得ることができ、ビート信号と合成ビート信号とに基づき方位角を検出することで、アンテナ間隔をある程度離間させたままで位相折り返しが発生しない方位角検出範囲を広角化できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記送信信号と前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置に関し、特に、前記ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両における自動制御を支援する手段として、自車両周囲の目標物体を検出する車載用のレーダ装置が用いられる。レーダ装置により目標物体の方位角を検出する方法として電子スキャン方式が知られており、かかるレーダ装置の一例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
電子スキャン方式のレーダ装置は、レーダ装置正面に向け送信したレーダ信号が目標物体により反射されると、その反射信号を受信用のアンテナ対で受信信号対として受信する。このとき、アンテナ対は一定間隔離間しているので、目標物体から各アンテナに至る反射信号の経路長には目標物体の方位角(ここではレーダ装置正面を0度とする)に応じて差が生じ、そのため受信信号対をダウンコンバートしたビート信号対に位相差が生じる。電子スキャン方式のレーダ装置は、マイクロコンピュータなどの信号処理装置によりビート信号対を処理し、ビート信号対の位相差と、アンテナ間隔及びビート信号の波長から目標物体の方位角を検出する。
【0004】
かかる電子スキャン方式の一類型として、所定間隔離間して配列された2つ以上のアンテナにより得られるアンテナごとのビート信号群を合成し、ビート信号間の位相差を変化させることでビート信号群の合成振幅のレベルを変化させ、合成振幅のレベルが最大となるときの位相差に対応する方位角を検出するデジタルビームフォーミング(DBF)方式があげられる。また、2つのアンテナにおけるビート信号対の位相差を検出し、検出した位相差に対応する方位角を演算処理や予め記憶したマップデータなどにより求める位相モノパルス方式も、電子スキャン方式に含まれる。
【特許文献1】特開2000−258524号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電子スキャン方式では、目標物体の方位角が大きくなることによってアンテナ間隔に対する反射信号対の経路長差がビート信号の波長を超えると、経路長差に基づくビート信号の位相が−π〜πの範囲を超え、いわゆる位相の折り返しが発生する場合がある。かかる場合を考慮すると、検出された位相差を仮にφとしたとき、目標物体は位相差φ±2kπ(k=0、1、2、・・・)に対応する複数の方位角のいずれかに位置する可能性があり、ビート信号対の位相差から方位角が一意に求まらないという問題がある。
【0006】
かかる問題に対し従来、アンテナの受信面をある程度の大きさにすることで、受信信号のビーム幅を位相折り返しが発生しない方位角範囲(以下、便宜上、方位角検出範囲という)に限定する方法が提案されている。この方法によれば、方位角検出範囲内に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られ、方位角検出範囲外に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られないので、所期のレベルを有するビート信号対の位相差φ(つまりφ±2kπにおいてk=0としたときの位相差φ)から方位角を一意に検出できる。
【0007】
ところで近年では、電子スキャン方式を用いた車載用のレーダ装置が、自車線前方を走行する先行車両の追尾だけでなく、隣接車線の対向車両や自車両前方を横切る他車両や歩行者、あるいは路側の静止物といった目標物体を検出し、これらの目標物体との衝突回避や衝突時の衝撃緩和を行うような車両制御のために用いられる傾向にある。すると、先行車両の追尾の場合より広い方位角範囲で目標物体を検出することが求められる。
【0008】
この点、反射信号対の経路長差はアンテナ間隔が狭いほど小さくなるので、アンテナ間隔を狭くすることで方位角検出範囲を広角化することが原理上は可能である。しかしながら、アンテナの物理的なサイズの制約により、アンテナ間隔を狭くするには自ずと限界がある。また、広角化した方位角検出範囲内に受信信号のビーム幅を絞りつつ、ある程度以上のレベルの受信信号を得るためには、アンテナの受信面はある程度の大きさを必要とするので、このこともアンテナ間隔を狭めることを困難にする。
【0009】
そこで、上記に鑑みてなされた本発明の目的は、電子スキャン方式のレーダ装置においてアンテナ間隔をある程度離間させた状態であっても、方位角検出範囲を広角化できる信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成する合成手段と、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有する信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記側面によれば、前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成することで、アンテナ対の間に仮想アンテナを配置した場合にこの仮想アンテナにより得られるビート信号と同じ位相の合成ビート信号を得ることができる。そして前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出することで、実際のアンテナ間隔より狭いアンテナ間隔のアンテナ対、つまり実際のアンテナの1つと仮想アンテナとによるビート信号に基づき方位角検出ができるので、アンテナ間隔をある程度離間させたままで位相折り返しが発生しない方位角検出範囲を広角化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0013】
図1は、本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。電子スキャン方式のレーダ装置10は、一例として、車両1の前部フロントグリル内、あるいはバンパー内に搭載され、車両1前方の探索領域にレーダ信号(電磁波)を送信し、探索領域からの反射信号を複数のアンテナで受信する。そして、レーダ装置10は、アンテナごとのビート信号を生成してこれをマイクロコンピュータなどの信号処理装置により処理し、探索領域内の目標物体の方位角、さらに相対距離、相対速度を検出する。ここで目標物体は、例えば車両1の先行車両、対向車両、歩行者、あるいは路側の静止物などである。
【0014】
そして、車両制御装置100は、レーダ装置10による検出結果に基づいて車両1のアクチュエータを駆動して車両1の挙動を制御する。例えば、先行車両を追尾して一定の車間距離で追従走行したり、目標物体との衝突が生じる蓋然性の大きさを相対速度や相対距離から判断し、衝突が予測される場合には衝突を回避したり、あるいは、警報装置や乗員保護装置を作動させたりする。
【0015】
なお、ここで示した使用状況は一例であって、レーダ装置10を車両1の前側部、側部、後部、あるいは後側部に搭載し、車両1の前側方、側方、後方、あるいは後側方の探索領域において目標物体を検出することも可能である。
【0016】
また、以下の説明では、レーダ装置10が車両に搭載される場合を例として説明するが、レーダ装置10は車両以外の航空機や船舶などの移動体に搭載することも可能である。
【0017】
図2は、第1の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。ここでは、レーダ装置10は、電子スキャン方式のうちDBF方式を採用したレーダ装置である。また、レーダ装置10は、周波数変調した連続波をレーダ信号として送受信するFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式を併用する。
【0018】
レーダ装置10は、レーダ信号を生成して送信用アンテナ11から送信し、目標物体からの反射信号を複数の受信用アンテナ12_1、12_2、12_3で受信した後、受信信号群からビート信号群を生成するレーダ送受信機30と、ビート信号群を処理する信号処理装置14とを有する。
【0019】
レーダ送受信機30では、変調信号生成器16が三角波状の変調信号を生成し、電圧制御発振器(VCO)18が三角波の上昇区間で周波数が漸増し、三角波の下降区間で周波数が漸減するミリ波長の連続波(電磁波)をレ−ダ信号として出力する。分配器20がレ−ダ信号を送信信号とロ−カル信号とに電力分配すると、送信信号は増幅器19により増幅され、送信用のアンテナ11から送信される。この送信信号が目標物体により反射されると、任意の間隔で配列された受信用のアンテナ12_1、12_2、12_3により受信信号群として受信される。受信信号群はそれぞれ増幅器13_1、13_2、13_3により増幅されて、スイッチ回路28に入力される。なおここでは、説明の便宜上、3つの受信用のアンテナを備える構成を例示するが、アンテナ数は2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0020】
スイッチ回路28は、信号処理装置14からの切替指示信号に応答してアンテナ12_1、12_2、12_3ごとの受信信号を時分割でミキサ22に入力する。一方、分配器20により電力分配されたロ−カル信号も、ミキサ22に入力される。ミキサ22は、ロ−カル信号と各受信信号とを混合し、ロ−カル信号と各受信信号との周波数差、つまり送信信号と各受信信号との周波数差を周波数とするビ−ト信号群を出力する。ここにおいて、ミリ波長の受信信号群は中間周波数のビート信号群にダウンコンバートされる。
【0021】
ここで、送信信号と1つの受信信号の周波数変化を図3(A)に示す。送信信号の周波数は、実線で示すように、周波数fm(例えば400Hz)の三角波の周波数変調信号に従って、中心周波数f0(例えば76.5GHz)、周波数変調幅ΔF(例えば200MHz)で周波数が直線的に上昇及び下降する。ここでは、1対の周波数上昇期間(アップ期間)と周波数下降期間(ダウン期間)とが1変調周期に対応する。これに対し、受信信号の周波数は、破線で示すように、これを反射した目標物体の相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラ周波数γ分の偏移を受ける。その結果、送受信信号には、アップ期間で周波数差α、ダウン期間で周波数差βが生じる。よって、両者の周波数差に対応する周波数のビート信号の周波数(ビート周波数)は、図3(B)に示すように、アップ期間でビート周波数α、ダウン期間でビート周波数βとなる。そして、このビート周波数α、βと目標物体の相対距離R、相対速度Vには次の式で示す関係が成立する。ただし、ここでCは光速である。
【0022】
R=C・(α+β)/(8・ΔF・fm) …式(1)
V=C・(β−α)/(4・f0) …式(2)
図2に戻り、上記のようなビ−ト信号群はそれぞれA/D変換器24によりサンプリングされてデジタルデ−タに変換され、信号処理装置14に取り込まれる。ここにおいて、アンテナ12_1、12_2、12_3により同時に受信された受信信号群からスイッチ回路28の動作により略同時に生成されたビート信号群のデジタルデータが、信号処理装置14に取り込まれる。
【0023】
信号処理装置14は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備えた周知のマイクロコンピュ−タを有し、更に、ビート信号群のデジタルデータに対し高速フ−リエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を実行するための演算処理装置(例えばDSP:Digital Signal Processor)を有する。
【0024】
信号処理装置14は、ビート信号群のうち隣接するアンテナ対から得られたビート信号対を合成して合成ビート信号を生成する合成手段14aと、合成ビート信号を含むビ−ト信号群に対しDBF処理を行うことで、目標物体が位置する方位角を検出する方位角検出手段14b、後に詳述する方法でビート信号群あるいは合成ビート信号群のレベルを補正する補正手段14cを有する。合成手段14a、方位角検出手段14b、補正手段14cは、いずれも後に詳述する手順を記述したプログラムとこれに従い動作するCPUとで構成される。信号処理装置14は、さらに次に述べる手順に従ってビート信号群を処理して目標物体の相対距離、相対速度を検出し、検出した目標物体の方位角、相対距離、相対速度を車両制御装置100に出力する。
【0025】
図4は、信号処理装置14が実行するメインの動作手順を説明するフローチャート図である。図4に示す手順は、送信信号の1変調周期ごとに実行される。まず、信号処理装置14は、ビート信号群のそれぞれに対しアップ期間、ダウン期間ごとにFFT処理を実行してその周波数スペクトルを検出し、周波数スペクトルでピークを形成するビート周波数を検出する(S2)。そして、信号処理装置14は、ピークを形成するビート周波数のビート信号群を用いてDBF処理を実行し、目標物体の方位角を検出する(S4)。
【0026】
そして、信号処理装置14は、アップ期間とダウン期間とで検出したビート周波数のうち、ビート信号のレベルや検出した方位角が一致するビート周波数同士を対応付け(ペアリング)して(S6)、上述した式(1)、(2)により目標物体の相対距離、相対速度を検出する(S8)。そして、信号処理装置14は、検出結果が過去複数の検出サイクルで連続性を有するかを確認し(S10)、一定以上の履歴接続が確認された検出結果を車両制御装置100に出力する(S12)。
【0027】
ここで、上記の手順S4における方位角検出方法について詳述する。まず、説明の便宜上、図5を用いて一般的な電子スキャン方式における方位角検出原理を説明する。図5(A)では、アンテナ12_1、12_2により方位角θ(0度以外とする)に位置する目標物体から到来する反射信号対を受信する場合を例として示す。ここで、反射信号対の経路を平行とみなすと、アンテナ間隔dに比例してΔd(=d・sinθ)の経路長差が生じる。すると、反射信号対はアンテナ12_2に到達する時間の方が経路長差Δdの分遅延する。よって、受信信号対をダウンコンバートしたビート信号Sb_1、Sb_2の波長をλとすると、ビート信号Sb_1、Sb_2では、受信時間差に応じた位相差φ(=Δd・2π/λ)が生じる。よって、ビート信号対の位相差φと、目標物体の方位角θの間には次式の関係が成り立つ。
【0028】
θ=arcsin(λ・φ/(2π・d)) ・・・式(3)
ところで、方位角θが大きくなると、図5(B)に示すように反射信号対の経路長差Δdが大きくなり、受信時間差におけるビート信号Sb_2の位相が2πを超え、いわゆる位相の折り返しが生じる場合がある。このような位相折り返しが生じると、ビート信号Sb_1、Sb_2の位相差φと方位角θとは次式のような関係になり、位相差φから方位角θが一意に特定できなくなる。
【0029】
θ=arcsin(λ・(φ±2kπ)/(2π・d)) (k=0,1,2,…) ・・・式(4)
ここで、位相差φは、-π≦φ≦πの範囲で検出されるので、位相の折り返しが発生しない方位角検出範囲は上記の式(4)により次のように示される。
【0030】
-arcsin(λ/(2d)) < θ < arcsin(λ/(2d)) ・・・式(5)
ここで、上記式(5)に示される方位角検出範囲において位相差から方位角を一意に検出するために、アンテナ12_1、12_2における受信信号対それぞれのビーム幅を上記の方位角検出範囲内に限定する。すなわち、アンテナ12_1、12_2を、図6に示すようなアンテナパターンを有するアンテナで構成する。そうすることで、方位角検出範囲内に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られ、方位角検出範囲外に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られないので、所期のレベルを有するビート信号対が得られたときには、その位相差φに基づき、上記式(3)により上記式(5)の範囲内で方位角θを一意に検出できる。
【0031】
次に、上記の方位角検出範囲において目標物体の方位角を検出するDBF処理について、図7を用いて説明する。図7(A)に示すように、一定間隔dで配列されたアンテナ12_1、12_2、12_3により方位角θから到来する反射信号群を受信するとき、受信信号群は受信面において位相差を有するので振幅が互いに打ち消されるが、方位角θに対し直角をなす面(同位相面)においては受信信号群が同位相になるので、合成振幅のレベルが最大となる。すなわち、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3には、隣接するビート信号対に等しい位相差φが生じているので互いに振幅を打ち消しあうが、この位相差φを相殺するような位相差をオフセットとして与えることで、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3を同位相にでき、ビート信号群の合成振幅のレベルが最大となる。このとき、換言すると、アンテナ12_1、12_2、12_3の指向性が方位角θに一致する。
【0032】
このことから、DBF処理では、隣接するビート信号対に任意に位相差を与えながらビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の合成振幅のレベルを算出し、これが最大となるときの位相差φを特定することで、その位相差φに対応する方位角θを検出する。
【0033】
具体的には、方位角検出手段14bは、デジタル演算により、上記の式(3)を用いて方位角をパラメータとする関数としてビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の合成振幅Eを導出する。そして、図7(B)に示すように、方位角方向における合成振幅Eのレベルを算出し、そのピークが形成されるときの方位角θを検出する。
【0034】
ここで、第1の実施形態において上記式(5)により示された方位角検出範囲を広角化する方法について説明する。
【0035】
図8は、第1の実施形態における方位角検出範囲の広角化について説明する図である。まず図8(A)では、アンテナ12_1、12_2による受信信号対から生成されたビート信号Sb_1、Sb_2を例として示す。信号処理装置14における合成手段14aは、まずデジタル演算によりビート信号Sb_1、Sb_2を合成して、合成ビート信号Sb_12を生成する。ここで合成ビート信号Sb_12は、ビート信号Sb_1、Sb_2と同じビート周波数を有し、最大振幅がビート信号Sb_1、Sb_2の最大振幅の和となるような信号である。そして、ビート信号Sb_1と合成ビート信号Sb_12の位相差、および合成ビート信号Sb_12とビート信号Sb_2の位相差は、ビート信号Sb_1、Sb_2の位相差の2分の1となる。すなわち、合成ビート信号Sb_12は、アンテナ12_1、12_2の中間に仮想アンテナ12_12が位置するとした場合に、この仮想アンテナ12_12による受信信号から生成されたビート信号と同じ位相を有する。
【0036】
ここで、ビート信号Sb_1、Sb_2と合成ビート信号Sb_12とを用いて上述したようなDBF処理を実行することで、アンテナ12_1と仮想アンテナ12_12におけるビート信号Sb_1、Sb_12の位相差、及び、仮想アンテナ12_12とアンテナ12_2におけるビート信号Sb_12、Sb_2の位相差に基づく方位角検出を行うことができる。すなわち、実際のアンテナ12_1、12_2よりアンテナ間隔が狭いアンテナ対により得られたビート信号を用いてDBF処理を実行した場合と同じ結果が得られる。これは、上記の式(5)において、アンテナ間隔dの代わりにd/2とした場合に対応する。よって、方位角検出範囲を広角化できる。
【0037】
ここでは、説明の便宜上アンテナ12_1、12_2を例として説明したが、隣接するアンテナ12_2、12_3のビート信号対に対してもこの処理を適用できる。そうすることで、図8(B)に示すように、アンテナ12_1、12_2、12_3におけるビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と、仮想アンテナ12_12、12_23における合成ビート信号Sb_12、Sb_23とを用いてDBF処理を実行した場合と同じ結果が得られる。
【0038】
すなわち、第1の実施形態によれば、3つのアンテナの配列により5つのアンテナの配列と等価な構成を実現できる。よって、方位角検出範囲を広角化するだけでなく、より多くのビート信号を用いてDBF処理を行うことができるので、方位角方向におけるビート信号群の合成振幅のレベルの変化量を急峻にできる。よって、方位角分解能が向上する。
【0039】
図9は、第1の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。図9の手順は、図4に示した手順S4のサブルーチンに対応する。まず、合成手段14aは、隣接するアンテナ対ごとのビート信号対を合成し、合成ビート信号群を生成する(S40)。次に、方位角検出手段14bは、合成ビート信号群を含むすべてのビート信号群に対し、上述したDBF処理を実行し、目標物体の方位角θを検出する(S42)。このような手順によれば、物理的なアンテナ間隔を変更することなく方位角検出範囲を広角化できる。
【0040】
次に、第1の実施形態における変形例について説明する。上述したように、合成ビート信号Sb_12あるいはSb_23の最大振幅のレベルは、それぞれ合成されたビート信号Sb_1、Sb_2、あるいはビート信号Sb_2、Sb_3の最大振幅のレベルの和になる。
【0041】
このことを図10(A)に示す。ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の方位角に対する最大振幅のレベルP_1と、合成ビート信号Sb_12、Sb_23の方位角に対する最大振幅のレベルP_2の比較において、方位角検出範囲の中央ではレベルP_2がレベルP_1を上回り、端部ではレベルP_1がレベルP_2を上回る。すると、DBF処理により合成振幅Eのレベルの最大値を検出する際に、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルが不均一となる。すると、方位角の検出誤差が発生する原因となる。
【0042】
そこで、変形例では、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルと、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルが同等となるような補正を行う。例えば、図10(B)に示すように、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルP2を例えばPm_1のように補正する。具体的な補正の方法としては、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルに所定の補正係数(例えば2分の1)を乗じて補正する。あるいは、図10(C)に示すように、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルP1を例えばPm_2のように補正する。具体的な補正の方法としては、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルに所定の補正係数(例えば2)を乗じて補正する。
【0043】
このようにしてビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルを同等にしてDBF処理を行うことで、方位角の検出誤差を防止できる。
【0044】
ところで上記のような補正をした場合であっても、方位角検出範囲の端部においてはビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベル差が大きい。すると、実際に方位角検出範囲の端部に目標物体が位置するときに、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルが相対的に小さい分、DBF処理の際にビート信号群の合成振幅のレベルにおいて好適なピークが形成されず、したがって方位角の検出もれや検出誤差が生じるおそれがある。
【0045】
そこで、さらなる変形例として、前回の検出サイクルで検出した方位角が方位角検出範囲の端部にある場合には、再度合成ビート信号Sb_12、Sb_23あるいはビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルを補正する。具体的には、図11(A)に示すように、補正後の合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルPm_1とビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルP1との差を所定の方位角刻みごとに補正値として予めROMに記憶しておき(例えば、前回検出方位角θ1に対しては補正値ΔL1、前回検出方位角θ2に対しては補正値ΔL2)、前回検出された方位角に対応する補正値をROMから読み出して、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルに加算する。
【0046】
あるいは、図11(B)に示すように、補正後のビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルPm_2と合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルP_2との差を所定の方位角刻みごとに補正値として予めROMに記憶しておき(例えば、前回検出方位角θ1に対しては補正値ΔL11、前回検出方位角θ2に対しては補正値ΔL21)、前回検出された方位角に対応する補正値をROMから読み出して、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルから減算する。
【0047】
そして、かかる再補正後のビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3、及び合成ビート信号Sb_12、Sb_23を用いて再度DBF処理を実行することで方位角を検出し直す。そうすることで、前回検出された方位角に対応する合成振幅がピークを形成しやすくなるので、方位角の検出もれや誤差が生じるおそれを低減できる。
【0048】
図12は、上記の変形例及びさらなる変形例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。図12の手順は、図9で示したフローチャート図の変形例である。すなわち、合成手段14aが合成ビート信号を生成すると(S40)、補正手段14cは合成ビート信号あるいはビート信号のレベルに所定の補正係数を乗じて補正する(S40a)。そして、前回の検出サイクルで検出された方位角が方位角検出範囲の端部であれば(S41aのYES)、補正手段14cは、補正後の合成ビート信号あるいはビート信号のレベルに対し前回検出方位角に対応した補正値を加算または減算して再度補正を実行する(S41b)。そして、方位角検出手段14bは、再補正後の合成ビート信号及びビート信号群を用いてDBFを実行し、方位角を検出する(S42)。
【0049】
このような手順によれば、合成ビート信号Sb_12、Sb_23の最大振幅がビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の最大振幅より大きくなることに起因する方位角の検出もれや検出誤差を防止できる。すなわち、方位角検出範囲を広角化した場合における方位角検出精度を向上できる。
【0050】
図13は、第2の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。第2の実施形態では、レーダ装置10は、電子スキャン方式のうち位相モノパルス方式を採用したレーダ装置である。図2で示した第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0051】
ここでは、レーダ送受信機30は、目標物体からの反射信号を2つの受信用アンテナ12_1、12_2で受信し、それぞれからビート信号対を生成する。そして、信号処理装置14は、ビート信号対を合成して合成ビート信号を生成する合成手段14aと、ビート信号対と合成ビート信号とを用いて位相モノパルスパルス方式により目標物体の方位角を検出する方位角検出手段14bとを有する。
【0052】
図14は、第2の実施形態における信号処理装置14のメインの動作手順を説明するフローチャート図である。このフローチャート図は、図4で示した第1の実施形態における手順のうち手順S4の代わりに手順S4aを実行する点が異なる。すなわち、方位角検出手段14bは、ビート信号対を用いて位相モノパルス方式により方位角を検出する(S4a)。
【0053】
ここで、手順S4aにおける方位角検出方法について説明する。位相モノパルス方式では、方位角検出手段14bは、図5(A)において示したビート信号対の位相差φをFFT結果から検出し、位相差φに基づき、上述の式(3)により方位角θを検出する。その際、式(3)を計算する演算処理を実行してもよいし、予め位相差φに方位角θを対応付けたマップデータをROMに記憶しておき、位相差φに対応する方位角θを読み出すことで方位角θを検出してもよい。
【0054】
図15は、位相差と方位角とを対応づけたマップデータの一例を示す図である。図15(A)のマップデータでは、アンテナ12_1、12_2のアンテナ間隔dをビート信号対の1波長λとした場合のビート信号対の位相差(縦軸)と方位角(横軸)との対応を示す。ここで、位相折り返しが発生しない方位角範囲θa〜θbが方位角検出範囲である。この場合、図示するように、位相差φ1からは、方位角θbで位相折り返しが発生することにより複数の方位角、つまり位相差φ1に対応するθ1と、位相差φ1+2πに対応するθ12が求められ、位相差φ2からは、方位角θaで位相折り返しが発生することにより、複数の方位角、つまり位相差φ2に対応するθ2と、位相差φ2+2πに対応するθ22が求められるので、位相差から方位角が一意に求まらない。この場合、アンテナ12_1、12_2での受信信号対のビーム幅を方位角検出範囲(θa〜θb)内に限定するように構成することで、方位角検出範囲で位相差φから方位角θを一意に検出することができる。
【0055】
ここで、第2の実施形態では、次に示すような方法により、上記の方位角検出範囲を広角化する。すなわち、図8(A)において示したように、信号処理装置14における合成手段14aは、アンテナ12_1、12_2による受信信号対から生成されたビート信号Sb_1、Sb_2をデジタル演算により合成して、合成ビート信号Sb_12を生成する。すると、合成ビート信号Sb_12は、アンテナ12_1、12_2の中間に位置する仮想アンテナ12_12による受信信号から生成されたビート信号と同じ位相を有し、そのときアンテナ12_1または12_2と仮想アンテナ12_12との距離はd/2、つまりビート信号の波長λの2分の1となる。
【0056】
このとき、上述した式(5)においてアンテナ間隔dの代わりにd/2として、さらにd/2=λ/2であるので、方位角検出範囲を−90度〜+90度の範囲まで広角化できる。よって、−90度〜+90度を位相折り返しが発生しない方位角検出範囲とする図15(B)のマップデータにおいて、ビート信号と合成ビート信号の位相差(縦軸)と方位角(横軸)とが対応付けられ、したがって位相差φから方位角θを一意に求めることができる。これにより、アンテナ間隔をビート信号の波長より狭くすることが困難な場合であっても、方位角検出範囲を広角化することができる。
【0057】
さらに、第2の実施形態における好適な実施例として、図15(A)、(B)のマップデータを組み合わせて用いることが可能である。図15(A)、(B)のマップデータを比較すると、図15(B)のマップデータは上述したように位相差から方位角を一意に求めることができる反面、位相差の変化量に対する方位角の変化量が図15(A)のマップデータより小さい。すなわち、図15(B)のマップデータを用いた場合の方位角分解能は、図15(A)のマップデータを用いた場合より低い。
【0058】
そこで、図16に示すように、まず図15(B)のマップデータM2を用いて位相差φに対応する方位角θ10を検出する。このとき検出された方位角θ10は、比較的低い方位角分解能で検出される。次に、図15(A)のマップデータM1を用いて位相差φに対応する方位角を検出すると、方位角θ20、θ11が検出される。このとき検出された方位角θ20、θ11は、比較的高い方位角分解能で検出される。ここで、先にマップデータM2により検出した方位角θ10により近似するのは方位角θ11であるので、方位角θ20は位相折り返しによる虚像であると判断できる。そして、最終的に高い方位角分解能で検出された方位角θ11を検出方位角として採用する。そうすることで、図15(B)のマップデータM2のみを用いた場合より高い方位角分解能で方位角を検出できるので、方位角検出精度が向上する。
【0059】
第2の実施形態における好適な実施例によれば、図17に示すようにアンテナ12_1、12_2、12_3を備えた場合において、間隔dに配置されたアンテナ12_1、12_3を用いた方位角検出と、間隔d/2に配置されたアンテナ12_1、12_2とを用いた方位角検出とを組み合わせて実行する場合と同じ結果を得ることができる。すなわち、より少ないアンテナ数でしかもアンテナ間隔を狭くすることが困難な場合であっても、精度よく方位角検出を実行できる。
【0060】
図18は、第2の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。図18に示す手順は、図14に示した手順S4aのサブルーチンに対応する。まず、合成手段14aは、隣接するアンテナ対ごとのビート信号対を合成し、合成ビート信号を生成する(S40)。次に、方位角検出手段14bは、ビート信号と合成ビート信号との位相差φに基づき、位相モノパルス方式により方位角を検出する(S44)。ここでは、一例として図15(B)のマップデータを用いて方位角を検出する。このような手順によれば、物理的なアンテナ間隔を変更することなく方位角検出範囲を広角化できる。
【0061】
さらに好適な実施例による手順を実行する場合には、方位角検出手段14bは、ビート信号対の位相差φに基づき、位相モノパルス方式により図15(B)のマップデータを用いて方位角を検出し(S46)、手順S44で検出した方位角に近似する方位角を検出方位角として採用する(S48)。このような手順によれば、方位角検出範囲を広角化した場合において、方位角の検出精度を向上できる。
【0062】
上述した第1、第2の実施形態におけるさらなる実施例として、目標物体の状態に応じて方位角検出範囲を広角化する方法が可能である。例えば、信号処理装置14は、過去に検出された目標物体の方位角が自車両正面方向にあるときや、目標物体の相対距離が遠距離であるときには方位角検出範囲の広角化を行わない。これは、正面方向や遠距離の目標物体を検出するのに方位角検出範囲を広角化する必要はなく、広角化をする際の演算処理処理負荷を軽減するためである。
【0063】
一方、目標物体の方位角が自車両の側面方向寄りにあるときや近距離にある場合には、方位角検出範囲を広角化することで、目標物体の検出精度を向上させる。
【0064】
この実施例ではさらに、車両の走行状態に応じて方位角検出範囲を広角化する方法が可能である。この場合、信号処理装置14は、車両の車速センサから走行速度信号を取得して車両の走行速度を検出する。あるいはステアリング制御装置やヨーレートセンサから操舵角や旋回半径を取得することで、車両1が旋回中であることを検出する。そして、自車両が高速で走行しているときや直線道路を走行しているときには、検出対象となる目標物体は自車線前方つまり自車両正面方向に位置する蓋然性が大きいので、方位角検出範囲の広角化を行わない。そうすることで、広角化をする際の演算処理処理負荷を軽減する。一方、自車両が低速で走行しているときやカーブを旋回しているときには、検出対象となる目標物体は隣接車線から近距離に割り込んでくる他車両や路側の静止物などである蓋然性が大きいので、検出範囲を広角化することで、目標物体の検出精度を向上させる。
【0065】
なお、船舶や航空機といった移動体にレーダ装置10を搭載した場合においては、その移動体の移動状態に応じて方位角検出範囲を広角化する方法が可能である。信号処理装置14は、移動体の速度センサから移動速度信号を取得して移動体の移動速度を検出する。あるいは操舵制御装置やヨーレートセンサから操舵角や旋回半径を取得することで、その移動体が旋回中であることを検出する。そして、移動体が高速で移動しているときや直進しているときには、検出対象となる目標物体は移動体の進行方向前方に位置する蓋然性が大きいので、方位角検出範囲の広角化を行わない。そうすることで、広角化をする際の演算処理処理負荷を軽減する。一方、移動体が低速で走行しているときやカーブを旋回しているときには、検出対象となる目標物体は移動体の進路以外に位置する蓋然性が大きいので、検出範囲を広角化することで、目標物体の検出精度を向上させる。
【0066】
図19は、かかる実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。図19の手順は、図4に示したメインの動作手順のうち手順S4のサブルーチンに対応する。
【0067】
信号処理装置14では、方位角検出手段14bが、車両その他の移動体の移動状態あるいは目標物体の状態に基づき、方位角検出範囲の広角化が必要であるかを判断する(S50)。そして、必要である場合には(S50のYES)、広角化処理を行う(S52)。ここで、上述した図14または図17の手順が、手順S52のサブルーチンとして実行される。一方、必要でない場合には(50のNO)、広角化処理を伴わないDBFあるいは位相モノパルス方式による方位角検出を実行する(S54)。
【0068】
このような手順によれば、信号処理装置14全体としての処理負荷を軽減することができる。よって、車両制御装置100に対する検出結果の出力を早くすることができ、車両制御上の安全性が向上できる。
【0069】
上述の説明では、DBF方式または位相モノパルス方式による方位角検出方法を示した。しかし、アンテナ対により得られるビート信号対の位相差に基づき目標物体の方位角を検出する方法であって、アンテナ間隔を狭くすることにより位相折り返しが生じない範囲を広角化できる方法であれば、上記の他に、MUSIC(Multiple Signal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、CAPON法といった公知の方位角検出方法にも上記第1、第2の実施形態は適用できる。
【0070】
以上、説明したとおり、本発明によれば、前記ビート信号対を合成して合成ビート信号を生成することで、アンテナ対の間に仮想アンテナを配置した場合にこの仮想アンテナにより得られるビート信号と同じ位相の合成ビート信号を得ることができる。そして前記ビート信号対のいずれかと前記合成ビート信号との位相差に基づいて前記目標物体の方位角を検出することで、実際のアンテナ間隔より狭いアンテナ間隔のアンテナ対によるビート信号対に基づき方位角検出ができるので、アンテナ間隔をある程度離間させたままで位相折り返しが発生しない方位角検出範囲を広角化できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図2】第1の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。
【図3】送信信号と1つの受信信号の周波数変化を説明する図である。
【図4】信号処理装置14が実行するメインの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図5】電子スキャン方式における方位角検出原理を説明する図である。
【図6】受信用アンテナのアンテナパターンを説明する図である。
【図7】DBF処理について説明する図である。
【図8】第1の実施形態における方位角検出範囲の広角化について説明する図である。
【図9】第1の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。
【図10】第1の実施形態における変形例について説明する図である。
【図11】第1の実施形態におけるさらなる変形例について説明する図である。
【図12】変形例及びさらなる変形例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。
【図13】第2の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。
【図14】第2の実施形態における信号処理装置14のメインの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図15】位相差と方位角とを対応づけたマップデータの一例を示す図である。
【図16】第2の実施形態における好適な実施例におけるマップデータを示す図である。
【図17】好適な実施例の効果を説明する図である。
【図18】第2の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。
【図19】第1、第2の実施形態の実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0072】
1:車両、10:レーダ装置、12_1〜3:アンテナ、14:信号処理装置、14a:合成手段、14b:方位角検出手段、14c:補正手段、30:レーダ送受信機
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記送信信号と前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置に関し、特に、前記ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの車両における自動制御を支援する手段として、自車両周囲の目標物体を検出する車載用のレーダ装置が用いられる。レーダ装置により目標物体の方位角を検出する方法として電子スキャン方式が知られており、かかるレーダ装置の一例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
電子スキャン方式のレーダ装置は、レーダ装置正面に向け送信したレーダ信号が目標物体により反射されると、その反射信号を受信用のアンテナ対で受信信号対として受信する。このとき、アンテナ対は一定間隔離間しているので、目標物体から各アンテナに至る反射信号の経路長には目標物体の方位角(ここではレーダ装置正面を0度とする)に応じて差が生じ、そのため受信信号対をダウンコンバートしたビート信号対に位相差が生じる。電子スキャン方式のレーダ装置は、マイクロコンピュータなどの信号処理装置によりビート信号対を処理し、ビート信号対の位相差と、アンテナ間隔及びビート信号の波長から目標物体の方位角を検出する。
【0004】
かかる電子スキャン方式の一類型として、所定間隔離間して配列された2つ以上のアンテナにより得られるアンテナごとのビート信号群を合成し、ビート信号間の位相差を変化させることでビート信号群の合成振幅のレベルを変化させ、合成振幅のレベルが最大となるときの位相差に対応する方位角を検出するデジタルビームフォーミング(DBF)方式があげられる。また、2つのアンテナにおけるビート信号対の位相差を検出し、検出した位相差に対応する方位角を演算処理や予め記憶したマップデータなどにより求める位相モノパルス方式も、電子スキャン方式に含まれる。
【特許文献1】特開2000−258524号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電子スキャン方式では、目標物体の方位角が大きくなることによってアンテナ間隔に対する反射信号対の経路長差がビート信号の波長を超えると、経路長差に基づくビート信号の位相が−π〜πの範囲を超え、いわゆる位相の折り返しが発生する場合がある。かかる場合を考慮すると、検出された位相差を仮にφとしたとき、目標物体は位相差φ±2kπ(k=0、1、2、・・・)に対応する複数の方位角のいずれかに位置する可能性があり、ビート信号対の位相差から方位角が一意に求まらないという問題がある。
【0006】
かかる問題に対し従来、アンテナの受信面をある程度の大きさにすることで、受信信号のビーム幅を位相折り返しが発生しない方位角範囲(以下、便宜上、方位角検出範囲という)に限定する方法が提案されている。この方法によれば、方位角検出範囲内に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られ、方位角検出範囲外に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られないので、所期のレベルを有するビート信号対の位相差φ(つまりφ±2kπにおいてk=0としたときの位相差φ)から方位角を一意に検出できる。
【0007】
ところで近年では、電子スキャン方式を用いた車載用のレーダ装置が、自車線前方を走行する先行車両の追尾だけでなく、隣接車線の対向車両や自車両前方を横切る他車両や歩行者、あるいは路側の静止物といった目標物体を検出し、これらの目標物体との衝突回避や衝突時の衝撃緩和を行うような車両制御のために用いられる傾向にある。すると、先行車両の追尾の場合より広い方位角範囲で目標物体を検出することが求められる。
【0008】
この点、反射信号対の経路長差はアンテナ間隔が狭いほど小さくなるので、アンテナ間隔を狭くすることで方位角検出範囲を広角化することが原理上は可能である。しかしながら、アンテナの物理的なサイズの制約により、アンテナ間隔を狭くするには自ずと限界がある。また、広角化した方位角検出範囲内に受信信号のビーム幅を絞りつつ、ある程度以上のレベルの受信信号を得るためには、アンテナの受信面はある程度の大きさを必要とするので、このこともアンテナ間隔を狭めることを困難にする。
【0009】
そこで、上記に鑑みてなされた本発明の目的は、電子スキャン方式のレーダ装置においてアンテナ間隔をある程度離間させた状態であっても、方位角検出範囲を広角化できる信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成する合成手段と、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有する信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記側面によれば、前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成することで、アンテナ対の間に仮想アンテナを配置した場合にこの仮想アンテナにより得られるビート信号と同じ位相の合成ビート信号を得ることができる。そして前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出することで、実際のアンテナ間隔より狭いアンテナ間隔のアンテナ対、つまり実際のアンテナの1つと仮想アンテナとによるビート信号に基づき方位角検出ができるので、アンテナ間隔をある程度離間させたままで位相折り返しが発生しない方位角検出範囲を広角化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0013】
図1は、本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。電子スキャン方式のレーダ装置10は、一例として、車両1の前部フロントグリル内、あるいはバンパー内に搭載され、車両1前方の探索領域にレーダ信号(電磁波)を送信し、探索領域からの反射信号を複数のアンテナで受信する。そして、レーダ装置10は、アンテナごとのビート信号を生成してこれをマイクロコンピュータなどの信号処理装置により処理し、探索領域内の目標物体の方位角、さらに相対距離、相対速度を検出する。ここで目標物体は、例えば車両1の先行車両、対向車両、歩行者、あるいは路側の静止物などである。
【0014】
そして、車両制御装置100は、レーダ装置10による検出結果に基づいて車両1のアクチュエータを駆動して車両1の挙動を制御する。例えば、先行車両を追尾して一定の車間距離で追従走行したり、目標物体との衝突が生じる蓋然性の大きさを相対速度や相対距離から判断し、衝突が予測される場合には衝突を回避したり、あるいは、警報装置や乗員保護装置を作動させたりする。
【0015】
なお、ここで示した使用状況は一例であって、レーダ装置10を車両1の前側部、側部、後部、あるいは後側部に搭載し、車両1の前側方、側方、後方、あるいは後側方の探索領域において目標物体を検出することも可能である。
【0016】
また、以下の説明では、レーダ装置10が車両に搭載される場合を例として説明するが、レーダ装置10は車両以外の航空機や船舶などの移動体に搭載することも可能である。
【0017】
図2は、第1の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。ここでは、レーダ装置10は、電子スキャン方式のうちDBF方式を採用したレーダ装置である。また、レーダ装置10は、周波数変調した連続波をレーダ信号として送受信するFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式を併用する。
【0018】
レーダ装置10は、レーダ信号を生成して送信用アンテナ11から送信し、目標物体からの反射信号を複数の受信用アンテナ12_1、12_2、12_3で受信した後、受信信号群からビート信号群を生成するレーダ送受信機30と、ビート信号群を処理する信号処理装置14とを有する。
【0019】
レーダ送受信機30では、変調信号生成器16が三角波状の変調信号を生成し、電圧制御発振器(VCO)18が三角波の上昇区間で周波数が漸増し、三角波の下降区間で周波数が漸減するミリ波長の連続波(電磁波)をレ−ダ信号として出力する。分配器20がレ−ダ信号を送信信号とロ−カル信号とに電力分配すると、送信信号は増幅器19により増幅され、送信用のアンテナ11から送信される。この送信信号が目標物体により反射されると、任意の間隔で配列された受信用のアンテナ12_1、12_2、12_3により受信信号群として受信される。受信信号群はそれぞれ増幅器13_1、13_2、13_3により増幅されて、スイッチ回路28に入力される。なおここでは、説明の便宜上、3つの受信用のアンテナを備える構成を例示するが、アンテナ数は2つ、あるいは4つ以上であってもよい。
【0020】
スイッチ回路28は、信号処理装置14からの切替指示信号に応答してアンテナ12_1、12_2、12_3ごとの受信信号を時分割でミキサ22に入力する。一方、分配器20により電力分配されたロ−カル信号も、ミキサ22に入力される。ミキサ22は、ロ−カル信号と各受信信号とを混合し、ロ−カル信号と各受信信号との周波数差、つまり送信信号と各受信信号との周波数差を周波数とするビ−ト信号群を出力する。ここにおいて、ミリ波長の受信信号群は中間周波数のビート信号群にダウンコンバートされる。
【0021】
ここで、送信信号と1つの受信信号の周波数変化を図3(A)に示す。送信信号の周波数は、実線で示すように、周波数fm(例えば400Hz)の三角波の周波数変調信号に従って、中心周波数f0(例えば76.5GHz)、周波数変調幅ΔF(例えば200MHz)で周波数が直線的に上昇及び下降する。ここでは、1対の周波数上昇期間(アップ期間)と周波数下降期間(ダウン期間)とが1変調周期に対応する。これに対し、受信信号の周波数は、破線で示すように、これを反射した目標物体の相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラ周波数γ分の偏移を受ける。その結果、送受信信号には、アップ期間で周波数差α、ダウン期間で周波数差βが生じる。よって、両者の周波数差に対応する周波数のビート信号の周波数(ビート周波数)は、図3(B)に示すように、アップ期間でビート周波数α、ダウン期間でビート周波数βとなる。そして、このビート周波数α、βと目標物体の相対距離R、相対速度Vには次の式で示す関係が成立する。ただし、ここでCは光速である。
【0022】
R=C・(α+β)/(8・ΔF・fm) …式(1)
V=C・(β−α)/(4・f0) …式(2)
図2に戻り、上記のようなビ−ト信号群はそれぞれA/D変換器24によりサンプリングされてデジタルデ−タに変換され、信号処理装置14に取り込まれる。ここにおいて、アンテナ12_1、12_2、12_3により同時に受信された受信信号群からスイッチ回路28の動作により略同時に生成されたビート信号群のデジタルデータが、信号処理装置14に取り込まれる。
【0023】
信号処理装置14は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備えた周知のマイクロコンピュ−タを有し、更に、ビート信号群のデジタルデータに対し高速フ−リエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を実行するための演算処理装置(例えばDSP:Digital Signal Processor)を有する。
【0024】
信号処理装置14は、ビート信号群のうち隣接するアンテナ対から得られたビート信号対を合成して合成ビート信号を生成する合成手段14aと、合成ビート信号を含むビ−ト信号群に対しDBF処理を行うことで、目標物体が位置する方位角を検出する方位角検出手段14b、後に詳述する方法でビート信号群あるいは合成ビート信号群のレベルを補正する補正手段14cを有する。合成手段14a、方位角検出手段14b、補正手段14cは、いずれも後に詳述する手順を記述したプログラムとこれに従い動作するCPUとで構成される。信号処理装置14は、さらに次に述べる手順に従ってビート信号群を処理して目標物体の相対距離、相対速度を検出し、検出した目標物体の方位角、相対距離、相対速度を車両制御装置100に出力する。
【0025】
図4は、信号処理装置14が実行するメインの動作手順を説明するフローチャート図である。図4に示す手順は、送信信号の1変調周期ごとに実行される。まず、信号処理装置14は、ビート信号群のそれぞれに対しアップ期間、ダウン期間ごとにFFT処理を実行してその周波数スペクトルを検出し、周波数スペクトルでピークを形成するビート周波数を検出する(S2)。そして、信号処理装置14は、ピークを形成するビート周波数のビート信号群を用いてDBF処理を実行し、目標物体の方位角を検出する(S4)。
【0026】
そして、信号処理装置14は、アップ期間とダウン期間とで検出したビート周波数のうち、ビート信号のレベルや検出した方位角が一致するビート周波数同士を対応付け(ペアリング)して(S6)、上述した式(1)、(2)により目標物体の相対距離、相対速度を検出する(S8)。そして、信号処理装置14は、検出結果が過去複数の検出サイクルで連続性を有するかを確認し(S10)、一定以上の履歴接続が確認された検出結果を車両制御装置100に出力する(S12)。
【0027】
ここで、上記の手順S4における方位角検出方法について詳述する。まず、説明の便宜上、図5を用いて一般的な電子スキャン方式における方位角検出原理を説明する。図5(A)では、アンテナ12_1、12_2により方位角θ(0度以外とする)に位置する目標物体から到来する反射信号対を受信する場合を例として示す。ここで、反射信号対の経路を平行とみなすと、アンテナ間隔dに比例してΔd(=d・sinθ)の経路長差が生じる。すると、反射信号対はアンテナ12_2に到達する時間の方が経路長差Δdの分遅延する。よって、受信信号対をダウンコンバートしたビート信号Sb_1、Sb_2の波長をλとすると、ビート信号Sb_1、Sb_2では、受信時間差に応じた位相差φ(=Δd・2π/λ)が生じる。よって、ビート信号対の位相差φと、目標物体の方位角θの間には次式の関係が成り立つ。
【0028】
θ=arcsin(λ・φ/(2π・d)) ・・・式(3)
ところで、方位角θが大きくなると、図5(B)に示すように反射信号対の経路長差Δdが大きくなり、受信時間差におけるビート信号Sb_2の位相が2πを超え、いわゆる位相の折り返しが生じる場合がある。このような位相折り返しが生じると、ビート信号Sb_1、Sb_2の位相差φと方位角θとは次式のような関係になり、位相差φから方位角θが一意に特定できなくなる。
【0029】
θ=arcsin(λ・(φ±2kπ)/(2π・d)) (k=0,1,2,…) ・・・式(4)
ここで、位相差φは、-π≦φ≦πの範囲で検出されるので、位相の折り返しが発生しない方位角検出範囲は上記の式(4)により次のように示される。
【0030】
-arcsin(λ/(2d)) < θ < arcsin(λ/(2d)) ・・・式(5)
ここで、上記式(5)に示される方位角検出範囲において位相差から方位角を一意に検出するために、アンテナ12_1、12_2における受信信号対それぞれのビーム幅を上記の方位角検出範囲内に限定する。すなわち、アンテナ12_1、12_2を、図6に示すようなアンテナパターンを有するアンテナで構成する。そうすることで、方位角検出範囲内に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られ、方位角検出範囲外に位置する目標物体からは所期のレベルのビート信号が得られないので、所期のレベルを有するビート信号対が得られたときには、その位相差φに基づき、上記式(3)により上記式(5)の範囲内で方位角θを一意に検出できる。
【0031】
次に、上記の方位角検出範囲において目標物体の方位角を検出するDBF処理について、図7を用いて説明する。図7(A)に示すように、一定間隔dで配列されたアンテナ12_1、12_2、12_3により方位角θから到来する反射信号群を受信するとき、受信信号群は受信面において位相差を有するので振幅が互いに打ち消されるが、方位角θに対し直角をなす面(同位相面)においては受信信号群が同位相になるので、合成振幅のレベルが最大となる。すなわち、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3には、隣接するビート信号対に等しい位相差φが生じているので互いに振幅を打ち消しあうが、この位相差φを相殺するような位相差をオフセットとして与えることで、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3を同位相にでき、ビート信号群の合成振幅のレベルが最大となる。このとき、換言すると、アンテナ12_1、12_2、12_3の指向性が方位角θに一致する。
【0032】
このことから、DBF処理では、隣接するビート信号対に任意に位相差を与えながらビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の合成振幅のレベルを算出し、これが最大となるときの位相差φを特定することで、その位相差φに対応する方位角θを検出する。
【0033】
具体的には、方位角検出手段14bは、デジタル演算により、上記の式(3)を用いて方位角をパラメータとする関数としてビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の合成振幅Eを導出する。そして、図7(B)に示すように、方位角方向における合成振幅Eのレベルを算出し、そのピークが形成されるときの方位角θを検出する。
【0034】
ここで、第1の実施形態において上記式(5)により示された方位角検出範囲を広角化する方法について説明する。
【0035】
図8は、第1の実施形態における方位角検出範囲の広角化について説明する図である。まず図8(A)では、アンテナ12_1、12_2による受信信号対から生成されたビート信号Sb_1、Sb_2を例として示す。信号処理装置14における合成手段14aは、まずデジタル演算によりビート信号Sb_1、Sb_2を合成して、合成ビート信号Sb_12を生成する。ここで合成ビート信号Sb_12は、ビート信号Sb_1、Sb_2と同じビート周波数を有し、最大振幅がビート信号Sb_1、Sb_2の最大振幅の和となるような信号である。そして、ビート信号Sb_1と合成ビート信号Sb_12の位相差、および合成ビート信号Sb_12とビート信号Sb_2の位相差は、ビート信号Sb_1、Sb_2の位相差の2分の1となる。すなわち、合成ビート信号Sb_12は、アンテナ12_1、12_2の中間に仮想アンテナ12_12が位置するとした場合に、この仮想アンテナ12_12による受信信号から生成されたビート信号と同じ位相を有する。
【0036】
ここで、ビート信号Sb_1、Sb_2と合成ビート信号Sb_12とを用いて上述したようなDBF処理を実行することで、アンテナ12_1と仮想アンテナ12_12におけるビート信号Sb_1、Sb_12の位相差、及び、仮想アンテナ12_12とアンテナ12_2におけるビート信号Sb_12、Sb_2の位相差に基づく方位角検出を行うことができる。すなわち、実際のアンテナ12_1、12_2よりアンテナ間隔が狭いアンテナ対により得られたビート信号を用いてDBF処理を実行した場合と同じ結果が得られる。これは、上記の式(5)において、アンテナ間隔dの代わりにd/2とした場合に対応する。よって、方位角検出範囲を広角化できる。
【0037】
ここでは、説明の便宜上アンテナ12_1、12_2を例として説明したが、隣接するアンテナ12_2、12_3のビート信号対に対してもこの処理を適用できる。そうすることで、図8(B)に示すように、アンテナ12_1、12_2、12_3におけるビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と、仮想アンテナ12_12、12_23における合成ビート信号Sb_12、Sb_23とを用いてDBF処理を実行した場合と同じ結果が得られる。
【0038】
すなわち、第1の実施形態によれば、3つのアンテナの配列により5つのアンテナの配列と等価な構成を実現できる。よって、方位角検出範囲を広角化するだけでなく、より多くのビート信号を用いてDBF処理を行うことができるので、方位角方向におけるビート信号群の合成振幅のレベルの変化量を急峻にできる。よって、方位角分解能が向上する。
【0039】
図9は、第1の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。図9の手順は、図4に示した手順S4のサブルーチンに対応する。まず、合成手段14aは、隣接するアンテナ対ごとのビート信号対を合成し、合成ビート信号群を生成する(S40)。次に、方位角検出手段14bは、合成ビート信号群を含むすべてのビート信号群に対し、上述したDBF処理を実行し、目標物体の方位角θを検出する(S42)。このような手順によれば、物理的なアンテナ間隔を変更することなく方位角検出範囲を広角化できる。
【0040】
次に、第1の実施形態における変形例について説明する。上述したように、合成ビート信号Sb_12あるいはSb_23の最大振幅のレベルは、それぞれ合成されたビート信号Sb_1、Sb_2、あるいはビート信号Sb_2、Sb_3の最大振幅のレベルの和になる。
【0041】
このことを図10(A)に示す。ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の方位角に対する最大振幅のレベルP_1と、合成ビート信号Sb_12、Sb_23の方位角に対する最大振幅のレベルP_2の比較において、方位角検出範囲の中央ではレベルP_2がレベルP_1を上回り、端部ではレベルP_1がレベルP_2を上回る。すると、DBF処理により合成振幅Eのレベルの最大値を検出する際に、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルが不均一となる。すると、方位角の検出誤差が発生する原因となる。
【0042】
そこで、変形例では、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルと、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルが同等となるような補正を行う。例えば、図10(B)に示すように、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルP2を例えばPm_1のように補正する。具体的な補正の方法としては、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルに所定の補正係数(例えば2分の1)を乗じて補正する。あるいは、図10(C)に示すように、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルP1を例えばPm_2のように補正する。具体的な補正の方法としては、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルに所定の補正係数(例えば2)を乗じて補正する。
【0043】
このようにしてビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルを同等にしてDBF処理を行うことで、方位角の検出誤差を防止できる。
【0044】
ところで上記のような補正をした場合であっても、方位角検出範囲の端部においてはビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3と合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベル差が大きい。すると、実際に方位角検出範囲の端部に目標物体が位置するときに、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルが相対的に小さい分、DBF処理の際にビート信号群の合成振幅のレベルにおいて好適なピークが形成されず、したがって方位角の検出もれや検出誤差が生じるおそれがある。
【0045】
そこで、さらなる変形例として、前回の検出サイクルで検出した方位角が方位角検出範囲の端部にある場合には、再度合成ビート信号Sb_12、Sb_23あるいはビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルを補正する。具体的には、図11(A)に示すように、補正後の合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルPm_1とビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルP1との差を所定の方位角刻みごとに補正値として予めROMに記憶しておき(例えば、前回検出方位角θ1に対しては補正値ΔL1、前回検出方位角θ2に対しては補正値ΔL2)、前回検出された方位角に対応する補正値をROMから読み出して、合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルに加算する。
【0046】
あるいは、図11(B)に示すように、補正後のビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルPm_2と合成ビート信号Sb_12、Sb_23のレベルP_2との差を所定の方位角刻みごとに補正値として予めROMに記憶しておき(例えば、前回検出方位角θ1に対しては補正値ΔL11、前回検出方位角θ2に対しては補正値ΔL21)、前回検出された方位角に対応する補正値をROMから読み出して、ビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3のレベルから減算する。
【0047】
そして、かかる再補正後のビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3、及び合成ビート信号Sb_12、Sb_23を用いて再度DBF処理を実行することで方位角を検出し直す。そうすることで、前回検出された方位角に対応する合成振幅がピークを形成しやすくなるので、方位角の検出もれや誤差が生じるおそれを低減できる。
【0048】
図12は、上記の変形例及びさらなる変形例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。図12の手順は、図9で示したフローチャート図の変形例である。すなわち、合成手段14aが合成ビート信号を生成すると(S40)、補正手段14cは合成ビート信号あるいはビート信号のレベルに所定の補正係数を乗じて補正する(S40a)。そして、前回の検出サイクルで検出された方位角が方位角検出範囲の端部であれば(S41aのYES)、補正手段14cは、補正後の合成ビート信号あるいはビート信号のレベルに対し前回検出方位角に対応した補正値を加算または減算して再度補正を実行する(S41b)。そして、方位角検出手段14bは、再補正後の合成ビート信号及びビート信号群を用いてDBFを実行し、方位角を検出する(S42)。
【0049】
このような手順によれば、合成ビート信号Sb_12、Sb_23の最大振幅がビート信号Sb_1、Sb_2、Sb_3の最大振幅より大きくなることに起因する方位角の検出もれや検出誤差を防止できる。すなわち、方位角検出範囲を広角化した場合における方位角検出精度を向上できる。
【0050】
図13は、第2の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。第2の実施形態では、レーダ装置10は、電子スキャン方式のうち位相モノパルス方式を採用したレーダ装置である。図2で示した第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0051】
ここでは、レーダ送受信機30は、目標物体からの反射信号を2つの受信用アンテナ12_1、12_2で受信し、それぞれからビート信号対を生成する。そして、信号処理装置14は、ビート信号対を合成して合成ビート信号を生成する合成手段14aと、ビート信号対と合成ビート信号とを用いて位相モノパルスパルス方式により目標物体の方位角を検出する方位角検出手段14bとを有する。
【0052】
図14は、第2の実施形態における信号処理装置14のメインの動作手順を説明するフローチャート図である。このフローチャート図は、図4で示した第1の実施形態における手順のうち手順S4の代わりに手順S4aを実行する点が異なる。すなわち、方位角検出手段14bは、ビート信号対を用いて位相モノパルス方式により方位角を検出する(S4a)。
【0053】
ここで、手順S4aにおける方位角検出方法について説明する。位相モノパルス方式では、方位角検出手段14bは、図5(A)において示したビート信号対の位相差φをFFT結果から検出し、位相差φに基づき、上述の式(3)により方位角θを検出する。その際、式(3)を計算する演算処理を実行してもよいし、予め位相差φに方位角θを対応付けたマップデータをROMに記憶しておき、位相差φに対応する方位角θを読み出すことで方位角θを検出してもよい。
【0054】
図15は、位相差と方位角とを対応づけたマップデータの一例を示す図である。図15(A)のマップデータでは、アンテナ12_1、12_2のアンテナ間隔dをビート信号対の1波長λとした場合のビート信号対の位相差(縦軸)と方位角(横軸)との対応を示す。ここで、位相折り返しが発生しない方位角範囲θa〜θbが方位角検出範囲である。この場合、図示するように、位相差φ1からは、方位角θbで位相折り返しが発生することにより複数の方位角、つまり位相差φ1に対応するθ1と、位相差φ1+2πに対応するθ12が求められ、位相差φ2からは、方位角θaで位相折り返しが発生することにより、複数の方位角、つまり位相差φ2に対応するθ2と、位相差φ2+2πに対応するθ22が求められるので、位相差から方位角が一意に求まらない。この場合、アンテナ12_1、12_2での受信信号対のビーム幅を方位角検出範囲(θa〜θb)内に限定するように構成することで、方位角検出範囲で位相差φから方位角θを一意に検出することができる。
【0055】
ここで、第2の実施形態では、次に示すような方法により、上記の方位角検出範囲を広角化する。すなわち、図8(A)において示したように、信号処理装置14における合成手段14aは、アンテナ12_1、12_2による受信信号対から生成されたビート信号Sb_1、Sb_2をデジタル演算により合成して、合成ビート信号Sb_12を生成する。すると、合成ビート信号Sb_12は、アンテナ12_1、12_2の中間に位置する仮想アンテナ12_12による受信信号から生成されたビート信号と同じ位相を有し、そのときアンテナ12_1または12_2と仮想アンテナ12_12との距離はd/2、つまりビート信号の波長λの2分の1となる。
【0056】
このとき、上述した式(5)においてアンテナ間隔dの代わりにd/2として、さらにd/2=λ/2であるので、方位角検出範囲を−90度〜+90度の範囲まで広角化できる。よって、−90度〜+90度を位相折り返しが発生しない方位角検出範囲とする図15(B)のマップデータにおいて、ビート信号と合成ビート信号の位相差(縦軸)と方位角(横軸)とが対応付けられ、したがって位相差φから方位角θを一意に求めることができる。これにより、アンテナ間隔をビート信号の波長より狭くすることが困難な場合であっても、方位角検出範囲を広角化することができる。
【0057】
さらに、第2の実施形態における好適な実施例として、図15(A)、(B)のマップデータを組み合わせて用いることが可能である。図15(A)、(B)のマップデータを比較すると、図15(B)のマップデータは上述したように位相差から方位角を一意に求めることができる反面、位相差の変化量に対する方位角の変化量が図15(A)のマップデータより小さい。すなわち、図15(B)のマップデータを用いた場合の方位角分解能は、図15(A)のマップデータを用いた場合より低い。
【0058】
そこで、図16に示すように、まず図15(B)のマップデータM2を用いて位相差φに対応する方位角θ10を検出する。このとき検出された方位角θ10は、比較的低い方位角分解能で検出される。次に、図15(A)のマップデータM1を用いて位相差φに対応する方位角を検出すると、方位角θ20、θ11が検出される。このとき検出された方位角θ20、θ11は、比較的高い方位角分解能で検出される。ここで、先にマップデータM2により検出した方位角θ10により近似するのは方位角θ11であるので、方位角θ20は位相折り返しによる虚像であると判断できる。そして、最終的に高い方位角分解能で検出された方位角θ11を検出方位角として採用する。そうすることで、図15(B)のマップデータM2のみを用いた場合より高い方位角分解能で方位角を検出できるので、方位角検出精度が向上する。
【0059】
第2の実施形態における好適な実施例によれば、図17に示すようにアンテナ12_1、12_2、12_3を備えた場合において、間隔dに配置されたアンテナ12_1、12_3を用いた方位角検出と、間隔d/2に配置されたアンテナ12_1、12_2とを用いた方位角検出とを組み合わせて実行する場合と同じ結果を得ることができる。すなわち、より少ないアンテナ数でしかもアンテナ間隔を狭くすることが困難な場合であっても、精度よく方位角検出を実行できる。
【0060】
図18は、第2の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。図18に示す手順は、図14に示した手順S4aのサブルーチンに対応する。まず、合成手段14aは、隣接するアンテナ対ごとのビート信号対を合成し、合成ビート信号を生成する(S40)。次に、方位角検出手段14bは、ビート信号と合成ビート信号との位相差φに基づき、位相モノパルス方式により方位角を検出する(S44)。ここでは、一例として図15(B)のマップデータを用いて方位角を検出する。このような手順によれば、物理的なアンテナ間隔を変更することなく方位角検出範囲を広角化できる。
【0061】
さらに好適な実施例による手順を実行する場合には、方位角検出手段14bは、ビート信号対の位相差φに基づき、位相モノパルス方式により図15(B)のマップデータを用いて方位角を検出し(S46)、手順S44で検出した方位角に近似する方位角を検出方位角として採用する(S48)。このような手順によれば、方位角検出範囲を広角化した場合において、方位角の検出精度を向上できる。
【0062】
上述した第1、第2の実施形態におけるさらなる実施例として、目標物体の状態に応じて方位角検出範囲を広角化する方法が可能である。例えば、信号処理装置14は、過去に検出された目標物体の方位角が自車両正面方向にあるときや、目標物体の相対距離が遠距離であるときには方位角検出範囲の広角化を行わない。これは、正面方向や遠距離の目標物体を検出するのに方位角検出範囲を広角化する必要はなく、広角化をする際の演算処理処理負荷を軽減するためである。
【0063】
一方、目標物体の方位角が自車両の側面方向寄りにあるときや近距離にある場合には、方位角検出範囲を広角化することで、目標物体の検出精度を向上させる。
【0064】
この実施例ではさらに、車両の走行状態に応じて方位角検出範囲を広角化する方法が可能である。この場合、信号処理装置14は、車両の車速センサから走行速度信号を取得して車両の走行速度を検出する。あるいはステアリング制御装置やヨーレートセンサから操舵角や旋回半径を取得することで、車両1が旋回中であることを検出する。そして、自車両が高速で走行しているときや直線道路を走行しているときには、検出対象となる目標物体は自車線前方つまり自車両正面方向に位置する蓋然性が大きいので、方位角検出範囲の広角化を行わない。そうすることで、広角化をする際の演算処理処理負荷を軽減する。一方、自車両が低速で走行しているときやカーブを旋回しているときには、検出対象となる目標物体は隣接車線から近距離に割り込んでくる他車両や路側の静止物などである蓋然性が大きいので、検出範囲を広角化することで、目標物体の検出精度を向上させる。
【0065】
なお、船舶や航空機といった移動体にレーダ装置10を搭載した場合においては、その移動体の移動状態に応じて方位角検出範囲を広角化する方法が可能である。信号処理装置14は、移動体の速度センサから移動速度信号を取得して移動体の移動速度を検出する。あるいは操舵制御装置やヨーレートセンサから操舵角や旋回半径を取得することで、その移動体が旋回中であることを検出する。そして、移動体が高速で移動しているときや直進しているときには、検出対象となる目標物体は移動体の進行方向前方に位置する蓋然性が大きいので、方位角検出範囲の広角化を行わない。そうすることで、広角化をする際の演算処理処理負荷を軽減する。一方、移動体が低速で走行しているときやカーブを旋回しているときには、検出対象となる目標物体は移動体の進路以外に位置する蓋然性が大きいので、検出範囲を広角化することで、目標物体の検出精度を向上させる。
【0066】
図19は、かかる実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。図19の手順は、図4に示したメインの動作手順のうち手順S4のサブルーチンに対応する。
【0067】
信号処理装置14では、方位角検出手段14bが、車両その他の移動体の移動状態あるいは目標物体の状態に基づき、方位角検出範囲の広角化が必要であるかを判断する(S50)。そして、必要である場合には(S50のYES)、広角化処理を行う(S52)。ここで、上述した図14または図17の手順が、手順S52のサブルーチンとして実行される。一方、必要でない場合には(50のNO)、広角化処理を伴わないDBFあるいは位相モノパルス方式による方位角検出を実行する(S54)。
【0068】
このような手順によれば、信号処理装置14全体としての処理負荷を軽減することができる。よって、車両制御装置100に対する検出結果の出力を早くすることができ、車両制御上の安全性が向上できる。
【0069】
上述の説明では、DBF方式または位相モノパルス方式による方位角検出方法を示した。しかし、アンテナ対により得られるビート信号対の位相差に基づき目標物体の方位角を検出する方法であって、アンテナ間隔を狭くすることにより位相折り返しが生じない範囲を広角化できる方法であれば、上記の他に、MUSIC(Multiple Signal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、CAPON法といった公知の方位角検出方法にも上記第1、第2の実施形態は適用できる。
【0070】
以上、説明したとおり、本発明によれば、前記ビート信号対を合成して合成ビート信号を生成することで、アンテナ対の間に仮想アンテナを配置した場合にこの仮想アンテナにより得られるビート信号と同じ位相の合成ビート信号を得ることができる。そして前記ビート信号対のいずれかと前記合成ビート信号との位相差に基づいて前記目標物体の方位角を検出することで、実際のアンテナ間隔より狭いアンテナ間隔のアンテナ対によるビート信号対に基づき方位角検出ができるので、アンテナ間隔をある程度離間させたままで位相折り返しが発生しない方位角検出範囲を広角化できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明が適用されるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図2】第1の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。
【図3】送信信号と1つの受信信号の周波数変化を説明する図である。
【図4】信号処理装置14が実行するメインの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図5】電子スキャン方式における方位角検出原理を説明する図である。
【図6】受信用アンテナのアンテナパターンを説明する図である。
【図7】DBF処理について説明する図である。
【図8】第1の実施形態における方位角検出範囲の広角化について説明する図である。
【図9】第1の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。
【図10】第1の実施形態における変形例について説明する図である。
【図11】第1の実施形態におけるさらなる変形例について説明する図である。
【図12】変形例及びさらなる変形例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。
【図13】第2の実施形態におけるレーダ装置10の構成を説明する図である。
【図14】第2の実施形態における信号処理装置14のメインの動作手順を説明するフローチャート図である。
【図15】位相差と方位角とを対応づけたマップデータの一例を示す図である。
【図16】第2の実施形態における好適な実施例におけるマップデータを示す図である。
【図17】好適な実施例の効果を説明する図である。
【図18】第2の実施形態における方位角検出手順を説明するフローチャート図である。
【図19】第1、第2の実施形態の実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0072】
1:車両、10:レーダ装置、12_1〜3:アンテナ、14:信号処理装置、14a:合成手段、14b:方位角検出手段、14c:補正手段、30:レーダ送受信機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成する合成手段と、
前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記方位角検出手段は、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号との位相差に基づいて前記目標物体の方位角を検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記合成ビート信号のレベルが前記ビート信号のレベルと同等になるように前記合成ビート信号または前記ビート信号のいずれかのレベルを補正する補正手段を有し、
前記方位角検出手段は、前記補正手段により同等のレベルとなった前記ビート信号と前記合成ビート信号とに基づき前記方位角を検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記補正手段は、前記検出された方位角に対応する前記ビート信号と合成ビート信号のレベルが同等となるように前記ビート信号または前記合成ビート信号のいずれかのレベルを補正し、
前記方位角検出手段は、前記補正手段により前記検出方位角に対応するレベルが同等となった前記ビート信号と前記合成ビート信号とに基づきさらに前記方位角を検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記レーダ送受信機は移動体に搭載され、
前記方位角検出手段は、前記移動体の移動状態または前記目標物体の状態のいずれかに基づいて、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記方位角を検出する第1の方位角検出処理と、前記ビート信号に基づいて前記方位角を検出する第2の方位角検出処理のいずれかを選択して実行することを特徴とする信号処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。
【請求項1】
目標物体に反射された送信信号を複数のアンテナで受信して前記アンテナごとのビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記ビート信号を合成して合成ビート信号を生成する合成手段と、
前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記目標物体の方位角を検出する方位角検出手段とを有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記方位角検出手段は、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号との位相差に基づいて前記目標物体の方位角を検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記合成ビート信号のレベルが前記ビート信号のレベルと同等になるように前記合成ビート信号または前記ビート信号のいずれかのレベルを補正する補正手段を有し、
前記方位角検出手段は、前記補正手段により同等のレベルとなった前記ビート信号と前記合成ビート信号とに基づき前記方位角を検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記補正手段は、前記検出された方位角に対応する前記ビート信号と合成ビート信号のレベルが同等となるように前記ビート信号または前記合成ビート信号のいずれかのレベルを補正し、
前記方位角検出手段は、前記補正手段により前記検出方位角に対応するレベルが同等となった前記ビート信号と前記合成ビート信号とに基づきさらに前記方位角を検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記レーダ送受信機は移動体に搭載され、
前記方位角検出手段は、前記移動体の移動状態または前記目標物体の状態のいずれかに基づいて、前記ビート信号のいずれかと前記合成ビート信号に基づいて前記方位角を検出する第1の方位角検出処理と、前記ビート信号に基づいて前記方位角を検出する第2の方位角検出処理のいずれかを選択して実行することを特徴とする信号処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−71865(P2010−71865A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240998(P2008−240998)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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