説明

倒立振子型移動体

【課題】 倒立振子型移動体の周囲にいる通行人等に倒立振子型移動体の走行方向を報知し注意喚起する。
【解決手段】 倒立振子型移動体1であって、フレーム2と、フレームに設けられ、任意の方向に走行させる走行ユニット3と、走行方向および走行速度を操作するための走行方向および走行速度に関する操作入力信号(傾斜角)を生じさせる傾斜センサ7と、操作入力信号に応じて走行ユニットの走行方向および走行速度に関する目標値を設定し、走行方向および走行速度を目標値の走行方向および走行速度に一致させるように走行ユニットの駆動制御を行う倒立振子制御ユニット5と、フレームに設けられたランプユニット400とを有し、制御ユニットは、走行方向に関する操作入力信号または目標値に基づいてランプユニット400の作動制御を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立姿勢を維持しつつ移動する倒立振子型移動体に関する。より詳しくは、倒立振子型移動体の走行状態(走行方向)を、搭乗者や周囲の人に認識させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
別個の電動モータによってそれぞれ駆動される一対の駆動体と、これら一対の駆動体の間に挟持され、駆動体から摩擦力を受けて駆動される1つの主輪とから構成される走行ユニットを備えた倒立振子型移動体が公知になっている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る主輪は、無端円環状の環状体と、環状体の環方向に複数個配置され、各々自身の配置位置における環状体の接線方向と平行な回転軸回りに回転可能なドリブンローラとを備え、ドリブンローラが駆動体と接触して駆動される。ドリブンローラが、環状体の接線方向の回転軸回りに回転(自転)する場合には、倒立振子型移動体は左右方向に推力を得て、ドリブンローラが環状体の環方向に回転(公転)する場合には、倒立振子型移動体は前後方向に推力を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第08/132779号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る倒立振子型移動体は、一般的な自動車や自動2輪車と異なり旋回によらず左右方向への直進移動が可能であり、方向転換の自由度が高い。そのため、倒立振子型移動体の周囲にいる通行人等が倒立振子型移動体の走行方向を予測し難いという問題がある。
【0005】
本発明は以上の問題を鑑みてなされたものであって、倒立振子型移動体の周囲にいる通行人等に倒立振子型移動体の走行方向を報知し、通行人等に注意喚起を促すことができる倒立振子型移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明は、倒立振子型移動体(1)であって、基体(2)と、前記基体に設けられ、前記基体を床面上において前後方向および左右方向を含む任意の方向に走行させる走行ユニット(3)と、前記基体に設けられ、前記基体の走行方向および走行速度を変化させるための操作入力信号を生じさせる操作入力検出手段(7)と、前記基体に設けられ、前記操作入力信号に応じて前記走行ユニットの走行方向および走行速度に関する目標値を設定し、前記基体の走行方向および走行速度を前記目標値の走行方向および走行速度に一致させるように前記走行ユニットの駆動制御を行う制御手段(5)と、前記基体に設けられた報知手段(400)とを有し、前記制御手段は、走行方向に関する前記操作入力信号または前記目標値に基づいて前記報知手段の作動制御を行うことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、倒立振子型移動体が走行しようとする方向に基づいた報知が行われ、倒立振子型移動体の周囲の者に注意喚起を行うことができる。報知手段には、視覚的に注意喚起するランプの発光や、聴覚的に注意喚起する音声や警告音の発生等が含まれる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記制御手段は、さらに、走行速度に関する前記操作入力信号または前記目標値に基づいて前記報知手段の作動制御を行うことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、報知手段は走行速度に応じて適切な場合に作動されるようになる。例えば、作動走行速度が遅い場合のような報知手段による注意喚起の必要性が低いときには、報知手段の作動を停止したり、出力を弱めたりすることができる。
【0010】
第3の発明は、前記制御手段は、前記操作入力信号または前記目標値の左右方向への走行速度の絶対値が、前記操作入力信号または前記目標値の前後方向への走行速度の絶対値の増大に伴って増大する閾値を超えた場合に前記報知手段を作動させることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、前後方向への走行速度に対する左右方向への走行速度の比が小さい場合には、報知手段の作動を停止または弱める等の制御が可能になる。例えば、前後方向への走行速度に対する左右方向への走行速度の比が小さい場合には、左進(左折)や右進(右折)に対する報知を行わないようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成によれば、倒立振子型移動体は、走行しようとする方向に基づいて、報知手段を作動させ、倒立振子型移動体の周囲にいる通行人等に走行方向について注意喚起することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】倒立振子型移動体の搭乗可能状態(サドルおよびステップを展開した状態)を示す斜視図
【図2】倒立振子型移動体の収納状態(サドルおよびステップを格納した状態)を示す斜視図
【図3】倒立振子型移動体の搭乗可能状態を示す背面図
【図4】倒立振子型移動体の分解斜視図
【図5】倒立振子型移動体を一部破断して示す側面図
【図6】上部構造体の分解斜視図
【図7】図1のVII−VII断面図
【図8】図1のVIII−VIII断面図
【図9】図8の要部拡大断面図
【図10】電装ユニットを示す斜視図
【図11】上部構造体と下部構造体の連結構造を一部破断して示す斜視図
【図12】上部構造体と下部構造体の連結構造を示す断面図
【図13】倒立振子型移動体の制御系を示すブロック図
【図14】倒立振子型移動体の搭乗様式を示す斜視図
【図15】ランプユニットの制御手順を示すフロー図
【図16】点灯させるランプを選択するために使用されるマップ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る倒立振子型移動体の詳細について説明する。説明にあたり、倒立振子型移動体およびその構成要素の方向は、鉛直方向を上下方向とし、鉛直方向に直交する水平面において互いに直交する前後方向および左右方向を図示のように定める。なお、左右対称に設けられる同一の部材に関しては、番号の添え字にL、Rを付し、一方についてのみ説明する。
【0015】
<倒立振子型移動体の全体構成>
図1〜図5に示されているように、倒立振子型移動体(以下、単に移動体と略称する)1は、概ね上下方向に延在する骨格構造としてのフレーム(基体)2と、フレーム2の下部に設けられた走行ユニット3と、フレーム2の上部に設けられた着座ユニット4と、フレーム2の内部に設けられた電装ユニット11と、フレーム2の上部に設けられ、各ユニットおよびセンサに電力を供給するバッテリユニット10とを主要構成要素として有している。電装ユニット11は、倒立振子制御ユニット(制御手段。以下、単に制御ユニットと略称する)5と、上部荷重センサ6と、傾斜センサ(操作入力検出手段)7とを備えている。制御ユニット5は、倒立振子制御に基づいて各種センサからの入力信号に応じて走行ユニット3を駆動制御し、移動体1を倒立姿勢に維持する。また、移動体1は、電装ユニット11とは別体に、ステップ荷重センサ8やロータリエンコーダ9L,9Rを適所に備えている。また、フレーム2の外面には移動体1の走行状態(走行方向)を搭乗者や移動体1の周囲の人に視覚的に報知するためのランプユニット(報知手段)400が設けられている。
【0016】
<フレームの構成>
図1に示されているように、フレーム2は、中空の外殻構造をなし、前後方向の幅が左右方向の幅に比べて大きい扁平形状を呈している。また、フレーム2は、上下方向における中央に全周にわたってくびれ部2Aを有する。くびれ部2Aでは、前後方向が左右方向よりも大きく凹んでいる。フレーム2は、左右方向から見て略8の字状を呈する。フレーム2は、そのくびれ部2Aにおいて上下に分割されており、図4に示されているように、別体の上部フレーム21と下部フレーム22とから構成されている。上部フレーム21および下部フレーム22は、それぞれカーボンプリプレグシートを熱硬化させることによって形成されたドライカーボン(炭素繊維強化樹脂:CFRP)で構成されている。上部フレーム21と下部フレーム22とは、後述する上部荷重センサ6(図5)を介して連結されている。
【0017】
図5に示されているように、上部フレーム21は、中央部に左右方向に貫通するサドル格納部24を形成するように環状に形成され、その環状部分が中空に形成されている。環状部分に形成される内部空間26は、サドル格納部24を基準として前部内部空間26A、後部内部空間26B、上部内部空間26C、下部内部空間26Dとする。上部フレーム21の下端部には、下方に向けて開口する下部開口部25が形成されており、下部内部空間26Dと外部とが連通している。また、上部フレーム21の上端部には、上方に向けて開口する上部開口部27が形成されており、上部内部空間26Cと外部とが連通している。サドル格納部24の上壁部分には、上部内部空間26Cとサドル格納部24とを連通するサドル取付孔28が形成されている。サドル格納部24の下壁部分であって下部開口部25の上方に位置する部分には、サドル格納部24から下方に向けて凹設された接続凹部29が形成されており、接続凹部29の底部の中央部には、貫通孔である連結孔30が形成されている。接続凹部29および連結孔30は、後述する下部構造体14との接続部をなす。
【0018】
図3に示されているように、上部フレーム21の後部外面には、スイッチ盤40が埋設されている。スイッチ盤40は、移動体1の主電源をオンオフする電源スイッチ41と、移動体1の主電源のオンオフ状態を表示する電源ランプ42とを備えている。
【0019】
図6に示されているように、上部フレーム21の下部内部空間26Dの内壁には、接続凹部29を挟んで左右方向に位置するように、一対の金属製の支持ベース51L,51Rが接着されている。各支持ベース51L,51Rは、下方を向く水平面を有して前後方向に延在し、下方を向いて開口する雌ねじ孔を有している。
【0020】
図4に示されているように、下部フレーム22は、上部開口部31および下部開口部32を有して筒状に形成されている。下部フレーム22の左右の側壁33は概ね上下方向に延在し、かつ互いに平行となっている。下部フレーム22の前後の壁34A,34Bは、上側から下側に進むにつれて前後方向に膨出し、左右方向から見て下部フレーム22の下部は半円状となっている。この下部フレーム22の半円状をなす下部は、走行ユニット3の上半部を収容する収容空間35を画成している。
【0021】
左右の側壁33には、下部開口部32に連続する半円状の切欠部36がそれぞれ形成されている。左右の切欠部36は、左右方向の軸線をもって、互いに同軸に配置されている。切欠部36と下部開口部32の境界部分には、切欠部36の周縁を延長するように下方へと延出する突片37が前後に1つずつ形成されている。前後の壁34A,34Bの上部であってくびれ部2Aを形成する部分には、通気孔39がそれぞれ形成されている。通気孔39は、左右方向に延在する長孔状の貫通孔であって、上下方向に複数個が平行に列設されている。
【0022】
下部フレーム22の左右の側壁33における上部開口部31付近の内壁には、一対の金属製の支持ベース53L,53Rがそれぞれ接着されている。各支持ベース53は前後方向に延在し、その上面は水平面となっている。各支持ベース53の前後端近傍には、上下方向に貫通する雌ねじ孔54(図11)がそれぞれ形成されている。
【0023】
図5に示されているように、上部フレーム21には着座ユニット4、バッテリユニット10等が装着されて上部構造体13を構成し、下部フレーム22には、走行ユニット3、電装ユニット11、各種センサ8,9等(図4、図8)が装着されて下部構造体14を構成する。上部構造体13と下部構造体14とは、互いに分離可能となっている。
【0024】
<ランプユニットの構成>
ランプユニット400は、前進灯401と、後進灯402と、左進灯403と、右進灯404とから構成されている。前進灯〜右進灯401〜404のそれぞれは、複数のLEDを備えたLED基板と、LED基板を覆う光透過性のカバーとから構成されている。本実施形態では、例えば、前進灯〜右進灯401〜404のLEDに赤色発光ダイオードを使用するが、発光色は任意の色であってよい。
【0025】
図1に示すように、前進灯401は、略長方形状を呈し、下部フレーム22の前壁34Aの上下方向における中間部に、上下方向に延在するように取り付けられている。より詳細には、前進灯401は、前壁34Aの前方へと膨出する部分の肩部、すなわち斜め上方を向く面に取り付けられている。このように、前進灯401が取り付けられる部位は斜め上方を向くため、移動体1の搭乗者からも視認可能となっている。
【0026】
図3に示すように、後進灯402は、略長方形状を呈し、下部フレーム22の後壁34Bの上下方向における中間部に、上下方向に延在するように取り付けられている。左進灯403および右進灯404は、略正方形状を呈し、下部フレーム22の後壁34Bの後進灯402の上方であって、左方または右方に変位した位置に取り付けられている。
【0027】
図5に示すように、前進灯〜右進灯401〜404のそれぞれは、下部フレーム22の対応する位置に形成された貫通孔に嵌め込まれ、接着材によって固定されている。なお、固定方法は、各種方法を用いることができ、下部フレーム22の外面に前進灯〜右進灯401〜404を接着してもよいし、ねじ等を用いて締結してもよい。前進灯〜右進灯401〜404は、配線によって、制御ユニット5と接続されており、制御ユニット5によって発光が制御されている。
【0028】
<着座ユニットの構成>
図7に示されているように、着座ユニット4は、ベース本体61と、左右一対のサドルアーム62L,62Rと、左右一対のサドル63L,63Rとを備えている。ベース本体61は、上部フレーム21の上部開口部27を通して上部内部空間26Cに配置され、その上壁が上部開口部27を閉塞している。ベース本体61は、その下部に前後方向に延設された支持軸65を備えている。
【0029】
支持軸65には、左右一対のサドルアーム62L,62Rの基端部66L,66Rが枢支されている。各サドルアーム62L,62Rは、基端部66L,66Rから上部フレーム21のサドル取付孔28を通過して延出し、先端部67L,67Rが上部フレーム21の外部に位置している。左サドルアーム62Lは、その先端部67Lが基端部66Lに対して下方、すなわちサドル格納部24内に位置する格納位置から、基端部66Lに対して概ね左方に位置する使用位置(展開位置)へと回動可能になっている。同様に、右サドルアーム62Rは、その先端部67Rが基端部66Rに対して概ね下方に位置する格納位置から、基端部66Rに対して概ね右方に位置する使用位置(展開位置)へと回動可能になっている。左右のサドルアーム62L,62Rは、それぞれ使用位置において下に凸となるように湾曲した形状に形成されている。
【0030】
各サドルアーム62L,62Rは、図示しないリンク機構を介して互いに連結されており、一方が格納位置にある場合には他方も格納位置に位置し、一方が使用位置にある場合には他方も格納位置に位置するように連動して回動するようになっている。また、ベース本体61は図示しないロック機構を備えている。ロック機構は、各サドルアーム62L,62Rが格納位置または使用位置に位置する状態で、各サドルアーム62L,62Rに設けられた係合孔に選択的に係合して各サドルアーム62L,62Rを格納位置または使用位置に保持する。
【0031】
各サドルアーム62L,62Rの先端部67L,67Rには、それぞれサドル63L,63Rが設けられている。各サドル63L,63Rは、先端部67L,67Rに連結された支持部69L,69Rと、支持部69L,69Rに取り付けられた円盤状のクッション部70L,70Rとを備えている。クッション部70L,70Rは、一側面が支持部69L,69Rに取り付けられ、他側面が着座面を形成する。サドルアーム62L,62Rが使用位置に位置する状態において、クッション部70L,70Rは、支持部69L,69Rの上方に配置され、着座面が上方を向く。クッション部70L,70Rの着座面には、搭乗者(着座者)の左右の臀部や大腿部が載せられる。このようにして、搭乗者の荷重は、サドル63L,63R、サドルアーム62L,62R、ベース本体61を介して上部フレーム21に加わるようになっている。
【0032】
サドルアーム62L,62Rが格納位置に位置する状態では、サドル63L,63Rの支持部69L,69Rはサドル格納部24内に位置し、クッション部70L,70Rはその着座面が左方外方または右方外方を向き、サドル格納部24を閉塞する。
【0033】
ベース本体61の上面を形成する上壁には、操作者による移動体1の支持に供される格納式のハンドル71が設けられている。ハンドル71は、不使用時はベース本体61の上壁に凹設されたハンドル格納部72に格納され、図2中の実線で示される状態になる。一方、使用時には、ハンドル71は、図2中の2点鎖線で示すように、前後の脚部71Aが上方にスライドしてベース本体61の上方に突出する。操作者は、ハンドル71を把持して、移動体1を持ち上げて運んだり、運転停止中の移動体1を支えてその傾倒を防止したりすることができる。
【0034】
<走行ユニットの構成>
図8および図9に示されているように、走行ユニット3は、支持部材としての左右一対のマウント部材81L,81Rと、左右一対のマウント部材81L,81Rにそれぞれ取り付けられた左右一対の電動モータ82L,82Rと、電動モータ82L,82Rの出力を減速して伝達する減速装置としての波動歯車装置83L,83Rと、波動歯車装置83L,83Rを介して電動モータ82L,82Rにそれぞれ回転させられる駆動体84L,84Rと、左右の駆動体84L,84Rによって回転させられる主輪85とを備えている。マウント部材81L,81R、電動モータ82L,82R、波動歯車装置83L,83Rは、左右対称形であるため、左方の構成について説明し、右方の構成については説明を省略する。なお、駆動体84L,84Rは、一部の構成が左右で異なるため、同一の構成については右側の説明を省略し、異なる構成についてのみ右側も説明する。
【0035】
図8に示されているように、マウント部材81Lは、一端に底部91Lを有する一方、他端が開口した円筒状部材であって、開口端に径方向外側に延出するフランジ部92Lを複数備えている。マウント部材81Lの底部91Lの中心部には貫通孔93Lが形成されている。マウント部材81Lの円筒部の内部には、電動モータ82Lが配置されている。
【0036】
電動モータ82LはブラシレスDCモータであって、ステータコイル(図示しない)等を備えた円筒状のステータハウジング95Lと、ステータハウジング95L内に回転自在に支持されるともに永久磁石を備え、一端がステータハウジング95Lの外方に延出したロータ軸96Lとを備えている。ステータハウジング95Lの外周部には、その径方向に向けてフランジ部97Lが突設されている。フランジ部97Lは、スペーサ98Lを介してマウント部材81Lの底部91Lにボルト締結されている。これにより、フランジ部97Lと底部91Lとの間には空間が形成されている。このようにして、ロータ軸96Lの軸線が、マウント部材81Lの軸線と一致するように、電動モータ82Lはマウント部材81Lに固定されている。ロータ軸96Lは、マウント部材81Lの貫通孔93Lを通過して、マウント部材81Lの外部へと延出している。ロータ軸96Lの先端には、波動歯車装置83Lが設けられている。また、ロータ軸96Lの他端側には、ロータリエンコーダ9Lが設けられている。ロータリエンコーダ9Lは、公知のものであってよく、そのケーシングがステータハウジング95Lに取り付けられ、ロータ軸96Lの回転位置を検出する。
【0037】
波動歯車装置83Lは、周知の構造のものであり、高剛性かつ外周が楕円形状に形成された入力部材としてのウェーブプラグ101Lと、ウェーブプラグ101Lの外周部に嵌め込み装着された可撓性のウェーブベアリング102Lと、ウェーブベアリング102Lの外周面に嵌め込み装着され、外周面に外歯が形成された薄肉円筒形状の可撓性の外歯部材103Lと、内周面に外歯部材103Lの外歯と噛み合う内歯が形成された高剛性かつリング形状の出力部材としての内歯部材104Lとを有する。外歯部材103Lの一側は、マウント部材81Lの貫通孔93Lを通過してマウント部材81Lの円筒部の内部へと延び、径方向外方へと延びるフランジ部105Lを備えている。フランジ部105Lは、マウント部材81Lの底部91Lと電動モータ82Lのフランジ部97Lとの間に配置されている。ウェーブプラグ101Lは、ロータ軸96Lと同軸に連結されており、ロータ軸96Lによってウェーブプラグ101Lが回転させられることによって、内歯部材104Lが減速された回転速度で回転させられる。内歯部材104Lは、後述する駆動体84Lのドライブディスク121Lに連結されている。
【0038】
図8〜図9に示されているように、駆動体84Lは、ドライブディスク121Lと、ドライブディスク121Lに支持された複数のドライブローラ122Lとを備えている。ドライブディスク121Lは、円盤状部材であって、その回転中心に貫通孔133Lを備えた円板部123Lと、円板部123Lの外周部から円板部123Lの回転軸方向における一側に全周方向にわたって突設された大径環部124Lと、円板部123Lから円板部123Lの回転軸方向における他側に回転軸と同軸に突設された小径環部125Lとを備えている。ドライブディスク121Lの大径環部124Lの内径は、マウント部材81Lの円筒部よりも大径に形成されている。
【0039】
大径環部124Lは、ローラ軸126Lによって回転可能に支持されたドライブローラ122Lを円周方向に等間隔に複数個備えている。ドライブローラ122Lは、金属や硬質プラスチック等の高剛性材料により構成されている。
【0040】
各ドライブローラ122Lは、それぞれの回転面がドライブディスク121Lの軸線(回転中心)に対して直交でも平行でもないように配置され、かつそれぞれの回転面がドライブディスク121Lの軸線を回転中心とする回転対称となるように配置されている。ドライブディスク121Lに対するドライブローラ122Lの位置関係は、はす歯傘歯車に対する歯部の位置関係に近似している。より詳細な説明が必要であれば、国際公開2008/139740号パンフレットを参照されたい。ドライブローラ122Lの外周部は、大径環部124Lの外周面より外方に突出するようにローラ軸126Lの位置が調整されている。
【0041】
ここで、右ドライブディスク121Rと左ドライブディスク121Lとでは、小径環部125L,125Rの構造が相違している。右ドライブディスク121Rの小径環部125Rの内径は、左ドライブディスク121Lの小径環部125Rの外径よりも大きく形成されている。右ドライブディスク121Rの他の構成は、左ドライブディスク121Lの構成と同様である。
【0042】
ドライブディスク121Lは大径環部124Lの内周部において、クロスローラ軸受135Lを介してマウント部材81Lの円筒部の外周部に回転自在に支持されている。この状態で、ドライブディスク121Lの軸線(回転軸)は、マウント部材81Lの軸線と同軸になっている。クロスローラ軸受135Lは、ラジアル荷重とアキシャル荷重(スラスト荷重)を支持することができるころがり軸受である。クロスローラ軸受135Lは、ドライブディスク121Lおよびマウント部材81Lにそれぞれ締結される締結リング137L,138Lによって抜け止めがなされている。この構成により、ドライブディスク121Lは、マウント部材81Lに対して、相対位置が固定されている。
【0043】
ドライブディスク121Lがマウント部材81Lに支持された状態で、ドライブディスク121Lの円板部123Lの貫通孔133L内には、波動歯車装置83Lが配置された状態となる。そして、波動歯車装置83Lの内歯部材104Lは、その外周部においてドライブディスク121Lの円板部123Lとボルト締結されている。以上の構成により、電動モータ82Lの出力が波動歯車装置83Lを介して減速された後、ドライブディスク121Lに伝達されるようになっている。
【0044】
左右のドライブディスク121L,121Rは、互いの小径環部125L,125Rがクロスローラ軸受140を介して同軸に設けられている。クロスローラ軸受140は、左ドライブディスク121Lの小径環部125Lの外周部に嵌着されるとともに、右ドライブディスク121Rの小径環部125Rの内周部に嵌着されている。クロスローラ軸受140は、左ドライブディスク121Lの小径環部125Lおよび右ドライブディスク121Rの小径環部125Rにそれぞれ締結される締結リング141,142によって抜け止めがなされている。この構成により、左右のドライブディスク121L,125Rは、その軸線方向における相対位置が互いに固定されている。
【0045】
以上の構成によって、左右のマウント部材81L,81Rの軸線、左右の電動モータ82L,82Rの軸線(回転中心)、左右の波動歯車装置83L,83Rの回転中心、左右のドライブディスク121L,121Rの軸線(回転中心)は全て同軸上に配置されている。以下、これらの一致した軸線を走行ユニット3の回転軸線Aという。
【0046】
左右のドライブディスク121L,121Rが連結された状態(すなわち、左右の駆動体84L,84Rが組みつけられた状態)において、左右のドライブローラ122L,122Rは、所定の距離だけ離間した位置に配置され、左右のドライブローラ122L,122Rの間には主輪85が配置される。
【0047】
主輪85は、角柱体により構成された無端円環状の環状体161と、環状体161の外周部に嵌着された複数個のインナスリーブ162と、各インナスリーブ162の外周部にボール軸受163を介して回転可能に支持された複数の筒状のドリブンローラ164とにより構成されている。ドリブンローラ164は、ボール軸受163の外周部に嵌着される金属製円筒部164Aと、金属製円筒部164Aの外周面に加硫接着されたゴム製円筒部164Bとにより構成されている。ゴム製円筒部164Bの材質は、ゴムに限られず、可撓性を有する他の樹脂材料等であってもよい。ドリブンローラ164のゴム製円筒部164Bは、移動体1の使用状態(走行状態)において、路面に接地する。
【0048】
ドリブンローラ164は、インナスリーブ162とともに環状体161の環方向(周方向)に複数個設けられ、主輪85の外端面をなす。また、各ドリブンローラ164は、自身の配置位置における環状体161の接線方向に平行な回転軸回りに回転可能になっている。このドリブンローラ164の環状体161の接線方向に平行な回転軸回りに回転を自転という。隣り合うドリブンローラ164間には、円盤状のカバー166が装着されており、ボール軸受163に異物が噛み込むことを防止している。
【0049】
ドリブンローラ164によって形成される主輪85の内径は、ドライブローラ122L,122Rによって形成される駆動体84L,84Rの外径よりも小さく設定されている。一方、主輪85の外径は、駆動体84L,84Rの外径よりも大きく形成されている。ここで、主輪85の外径および内径は、各ドリブンローラ164同士を結ぶ仮想線に対して定められる。同様に、駆動体84L,84Rの外径は、各ドライブローラ122L,122L同士を結ぶ仮想線に対して定められる。主輪85を介装して左右の駆動体84L,84Rを組み合わせることによって、主輪85は左右の駆動体84L,84R間に挟持される。
【0050】
主輪85が左右の駆動体84L,84Rに組みつけられた状態において、ドリブンローラ164のゴム製円筒部164Bの外周面と、左右のドライブローラ122L,122Rの外周面とが接触し、摩擦によってドライブディスク121L,121Rの回転力(推進力)がドライブローラ122L,122Rを介してドリブンローラ164に伝達される。
【0051】
ドリブンローラ164と左右のドライブローラ122L,122Rとの個数上の関係は、最下部分において路面に接地しているドリブンローラ164のそれぞれに、少なくとも左右一組のドライブローラ122L,122Rが接触するように設定されている。これにより、路面に接地しているドリブンローラ164のそれぞれに、ドライブローラ122L,122Rを介してドライブディスク121L,121Rの回転力が与えられる。
【0052】
本実施形態に係る走行ユニット3は、左右の電動モータ82L,82Rによって左右のドライブディスク121L,121Rの回転方向あるいは(および)回転速度を互いに相違させると、ドライブローラ122L,122Rによって、左右のドライブディスク121L,121Rの回転力による円周(接線)方向の力に対して直交する向きの分力が、左右のドライブローラ122L,122Rとドリブンローラ164との接触面に作用する。この分力により、ドリブンローラ164は、自身の中心軸線周りに回転(自転)することになる。
【0053】
このドリブンローラ164の回転は、左右のドライブディスク121L,121Rの回転速度差によって定まる。例えば、左右のドライブディスク121L,121Rを互いに同一速度で逆向きに回転させると、ドリブンローラ164は主輪85の周方向に回転(公転)せず、ドリブンローラ164の自転だけが生じる。すなわち、主輪85は左右方向の駆動力(推進力)を生じさせる。
【0054】
これに対し、左右のドライブディスク121L,121Rの回転方向および回転速度が同一である場合には、ドリブンローラ164は自転することがなく主輪85の周方向に回転し、主輪85が回転する。すなわち、主輪85は前後方向の駆動力(推進力)を生じさせる。このドリブンローラ164の主輪85の周方向への回転(主輪85の輪中心回りの回転)を公転という。
【0055】
以上のように、ドリブンローラ164の自転および公転を任意の割合で組み合わせることにより、走行ユニット3は前後左右の任意の方向に駆動力を生じさせることができる。
【0056】
次に、走行ユニット3の下部フレーム22への固定構造について説明する。図4に示されているように、走行ユニット3は、その軸線Aが左右方向と平行になるように下部フレーム22の収容空間35の内部にその上半部が配置される。この状態で、図8に示されているように、走行ユニット3の左右マウント部材81L,81Rのフランジ部92L,92Rが、下部フレーム22の左右の側壁33における切欠部36の周縁部および突片37の内側面に当接する。
【0057】
図4および図8に示されているように、下部フレーム22の左右の側壁33のそれぞれの外部には、左右のステップベース180L,180Rが設けられる。各ステップベース180L,180Rは、金属材料から形成されて環形状をなし、切欠部36の周縁部および2つの突片37に沿う形状に形成されている。左右のマウント部材81L,81Rのフランジ部92L,92Rには適所にボルト孔が形成されており、切欠部36の周縁部および2つの突片37、ステップベース180L,180Rのボルト孔に対応する適所には貫通孔が形成されている。ステップベース180L,180Rと走行ユニット3の左右のマウント部材81L,81Rのフランジ部92L,92Rとは、切欠部36の周縁部および2つの突片37を介装した状態でボルト締結される。これにより、ステップベース180L,180Rおよび走行ユニット3が下部フレーム22に固定される。なお、走行ユニット3を下部フレーム22に取り付ける際に、左右のマウント部材81L,81Rと下部フレーム22との間に、それぞれ円環状の走行ユニットカバー189L,189Rを介装してもよい。走行ユニットカバー189L,189Rは、主輪85および駆動体84L,84Rの側部を覆い、異物の侵入を防止する。
【0058】
図8に示されているように、各ステップベース180L,180Rの下部の内側面は、両突片37間に形成された空間を通過してマウント部材81L,81Rと当接している。一方、各ステップベース180L,180Rの下部の外側面からは左右方向に突出するとともに下方へと垂れ下がった舌片状の突出部181L,181Rが形成されている。突出部181L,181Rは放熱板として機能し、走行ユニット3の電動モータ82L,82Rで発生した熱が、マウント部材81Lと81Rを介してステップベース180L,180Rに伝わり、突出部181L,181Rから主として外部に放熱される。
【0059】
各突出部181L,181Rには、ステップ183L,183Rが回動可能に支持されている。各ステップ183L,183Rは、基端部において概ね前後方向に延在する回動軸をもって各突出部181L,181Rに支持されており、その先端部が基端部の概ね上方に位置し、下部フレーム22に概ね沿った状態となる格納位置と、その先端部が基端部の概ね左右方向に位置し、下部フレーム22から突出した状態となる使用位置との間で回動可能となっている。
【0060】
図4に示されているように、左右のステップベース180L,180Rの外表面には、ステップ荷重センサ8が貼付されている。ステップ荷重センサ8は、公知のひずみゲージであって、ステップ183L,183Rに荷重が加わった際のステップベース180L,180Rのひずみを検出する。
【0061】
図1〜図4に示されているように、下部フレーム22の下端部には、走行ユニット3の下半部を路面との接地部位を除いて隠蔽するための下部カバー185が取り付けられる。また、下部フレーム22の左右の側壁33の外側面には、各突出部181L,181Rおよび各ステップ183L,183Rを除いて各ステップベース180L,180Rを隠蔽するためのサイドカバー186L,186Rが取り付けられている。
【0062】
<電装ユニットの構成>
図10に示されているように、電装ユニット11を構成する制御ユニット5と、上部荷重センサ6と、傾斜センサ7とは、骨格となる電装マウントフレーム202に取り付けられて一体となっている。以下の電装ユニット11の説明では、電装ユニット11が下部フレーム22に取り付けられた状態を基準にして、前後、左右、上下の方向を設定する。
【0063】
電装マウントフレーム202は、略矩形状をなし、中央部に空間を備えたフレーム部材である。図11に示されているように、電装マウントフレーム202は、下部フレーム22の左右の支持ベース53L,53R間を架橋可能に左右方向の長さが設定されている。すなわち、電装マウントフレーム202は、その周縁部が左右の支持ベース53L,53R上に載置可能な大きさに設定されている。電装マウントフレーム202は、左右の支持ベース53L,53R上に載置された状態において、左右の支持ベース53L,53Rの各雌ねじ孔54に対応する位置に上下方向に貫通する貫通孔203を備えている。
【0064】
上部荷重センサ6は、z軸方向(鉛直方向)の力およびx軸(前後方向)、y軸(左右方向)回りのモーメントを検出可能な3軸力センサから構成されている。上部荷重センサ6は、センサ基盤を内蔵するボディ部205と、このボディ部205から上方に突出する入力軸206とを有している。入力軸206は、円柱状に形成され、検出する外力が入力される。入力軸206の外周には基端から先端にわたって雄ねじ溝が形成されている。ボディ部201は、電装マウントフレーム上に載置され、ねじ締結されている。
【0065】
入力軸206の基端部の外周部には、板状の連結部材ベース210が取り付けられている。連結部材ベース210は、中央に雌ねじ孔を有し、この雌ねじ孔が基端部206Bの雄ねじ溝と螺合することによって入力軸206に固定されている。なお、入力軸206の先端は、連結部材ベース210が入力軸206に取り付けられた状態で、連結部材ベース210の上方に突出している。
【0066】
連結部材ベース210の前部には、前方に延出する第1コネクタベース211がねじ締結されている。連結部材ベース210の後部には、後方に延出する第2コネクタベース212がねじ締結されている。
【0067】
第1コネクタベース211には、後述する電源基板242から延びる配線の一端に設けられた第1コネクタ214がねじ締結されている。また、第1コネクタベース211には、上方へと向けて突出する柱状の第1ガイドピン215が設けられている。
【0068】
第2コネクタベース212には、後述する制御基板241から延びる配線の一端に設けられた第2コネクタ216がねじ締結されている。また、第2コネクタベース212には、上方へと向けて突出する柱状の第2ガイドピン217が設けられている。
【0069】
傾斜センサ7は、公知のジャイロスコープである。傾斜センサ7は、電装マウントフレーム202の内部から下部へと延在するように配置され、電装マウントフレーム202にねじ締結されている。傾斜センサ7は、鉛直方向(上下方向)を基準にして、鉛直方向からの傾斜角を検出する。傾斜センサ7は、後述するように、搭乗者の体重移動という操作入力に対する操作入力信号としての傾斜角を制御回路261に出力する操作入力検出手段として機能する。
【0070】
図10に示されているように、制御ユニット5は、制御基板241と、電源基板242と、左モータドライバ基板243と、右モータドライバ基板244と、I/Oインターフェース基板245と、送風ファン247とを備えている。
【0071】
制御基板241は、マイクロコンピュータを構成するCPUを有し、電動モータ82L,82R等の制御に供される制御回路261を備えた基板である。制御基板241は、スペーサを介して電装マウントフレーム202の後方に取り付けられている。制御基板241は、基板面が前後方向を向くように上下方向に延設されており、電装マウントフレーム202の後方から下方へと延出している。
【0072】
電源基板242は、バッテリユニット10から供給された電源電圧を所定の電圧に変換する電圧制御回路(図示しない)を備えた基板である。電源基板242は、電装マウントフレーム202の前端部から下方へと延出する連結部材251によって電装マウントフレーム202の下方に、前後方向かつ左右方向に延在するように取り付けられている。また、電源基板242の後端は、連結部材252を介して制御基板241の下端と連結されている。
【0073】
左モータドライバ基板243および右モータドライバ基板244は、それぞれ電動モータ82L,82RのPWM制御に供される左または右ドライバ回路(インバータ回路)253,254を備えた基板である。左モータドライバ基板243は、スペーサを介して電源基板242の下方に、電源基板242と平行に取り付けられている。右モータドライバ基板244は、スペーサを介して左モータドライバ基板243の下方に、左モータドライバ基板243と平行に取り付けられている。この構成により、電源基板242と左モータドライバ基板243との間と、左モータドライバ基板243と右モータドライバ基板244との間には、前後方向に延在する通気路が形成される。
【0074】
I/Oインターフェース基板245は、入力インターフェース回路265および出力インターフェース回路266を備えた基板である。I/Oインターフェース基板245は、スペーサを介して制御基板241の後方に、制御基板241と平行に取り付けられている。
【0075】
送風ファン247は、軸流ファンである。送風ファン247は、連結部材251の下端に締結され、左モータドライバ基板243および右モータドライバ基板244の前方に配置されている。このとき、送風ファン247の吸い込み口が前方を向き、吐き出し口が後方を向くように配置されている。
【0076】
次に、電装ユニット11の下部フレーム22への固定構造について説明する。図11に示されているように、電装マウントフレーム202の各貫通孔203には、可撓性を有するゴムブッシュ270が装着される。ゴムブッシュ270は、両端が開口した円筒部と、円筒部の一端および他端に径方向外方にむけて形成されたフランジ部とを有する。ゴムブッシュ270は、各貫通孔203に装着された状態において、各フランジ部が貫通孔203の上端および下端の周縁を覆う。ゴムブッシュ270が装着された電装マウントフレーム202を下部フレーム22の左右の支持ベース53L,53R上に載置し、各ゴムブッシュ270にボルト272を挿通し、ボルト272の先端を支持ベース53L,53Rの各雌ねじ孔54に螺着させる。以上のようにして、電装マウントフレーム202は、ゴムブッシュ270を介して支持ベース53L,53Rに支持される。以上の固定構造によって、下部フレーム22からの振動は、ゴムブッシュ270で緩衝(遮断)され、電装ユニット11に伝達され難くなっている。
【0077】
電装ユニット11は、下部フレーム22に取り付けられた状態において、下部フレーム22のくびれ部2A内に位置し、送風ファン247、左モータドライバ基板243、右モータドライバ基板244は、下部フレーム22の前後壁34A,34Bに形成された通気孔39間に配置される。この構成により、前方の通気孔39から導入された冷却空気は、送風ファン247を通過して、左モータドライバ基板243と右モータドライバ基板244との間に形成された通気路を通過し、後方の通気孔39から排出される。このため、電装ユニット11の中でも特に発熱量が大きい左および右モータドライバ基板243,244を効率良く冷却することができる。また、電装ユニット11が下部フレーム22のくびれ部2A内に配置されていることから、通気孔39間の流路長が短く、電装ユニット11を効率良く冷却することができる。
【0078】
<バッテリユニットの構成>
図5および図6に示されているように、バッテリユニット10は前後に2つあり、各バッテリユニット10は、複数個のバッテリ281と、1つのバッテリマネジメント基板282とを備えている。各バッテリユニットにおける複数個のバッテリ281は、それぞれ円柱状を呈し、それぞれが円柱状の側面において互いに連結されて1組にまとめられている。各バッテリマネジメント基板282は、マイクロコンピュータを構成するCPUと、メモリとを備えたバッテリマネジメント回路285が形成されており、各バッテリ281に連結されている。バッテリマネジメント回路285は、各バッテリ281の充放電や使用するバッテリ281の選択を行う。
【0079】
各バッテリユニット10は、上部フレーム21の下部開口部25を通して、上部フレーム21の前部内部空間26Aと、後部内部空間26Bとに分離して挿入され、上部フレーム21の各支持ベース51L,51Rにねじ締結されたバッテリブラケット291によって下方から支持されている。
【0080】
バッテリブラケット291の前部には、前方に延出する第3コネクタベース294がねじ締結されている。バッテリブラケット291の後部には、後方に延出する第4コネクタベース295がねじ締結されている。
【0081】
第3コネクタベース294には、バッテリマネジメント基板282から延びる配線の一端に設けられた第3コネクタ297がねじ締結されている。第3コネクタ297は、第1コネクタ214と結合可能なように相補的な形状に形成されている。また、第3コネクタベース294には、上下方向に延在する第1ガイド孔298が設けられている。
【0082】
第4コネクタベース295には、スイッチ盤40から延びる配線の一端に設けられた第4コネクタ301がねじ締結されている。第4コネクタ301は、第2コネクタ216と結合可能なように相補的な形状に形成されている。また、第4コネクタベース295には、上下方向に延在する第2ガイド孔302が設けられている。
【0083】
<上部構造体と下部構造体の連結構造>
上部フレーム21、着座ユニット4、バッテリユニット10等から構成される上部構造体13と、下部フレーム22、走行ユニット3、電装ユニット11等から構成させる下部構造体14との連結構造を図11および図12を参照して説明する。図11の斜視図では、説明のため、一部の構成を取り除いて図示している。図11および図12に示されるように上部フレーム21の下部開口部25と下部フレーム22の上部開口部31とを対向させるようにして配置し、上部構造体13の第1ガイド孔298に下部構造体14の第1ガイドピン215を挿入するとともに、上部構造体13の第2ガイド孔302に下部構造体14の第2ガイドピン217を挿入し、上部構造体13と下部構造体14とを組み合わせる。この状態で、第1コネクタ214は第3コネクタ297に連結され、第2コネクタ216は第4コネクタ301に連結される。これにより、上部構造体13と下部構造体14とが電気的に接続され、両者の間で電力供給や制御信号の送受が可能となる。
【0084】
また、上部フレーム21の接続凹部29の下面は、上部荷重センサ6の入力軸206に連結された連結部材ベース210の上面に当接し、入力軸206の先端部は接続凹部29の連結孔30を下方から上方に向けて貫通する。この状態で、入力軸206の先端部にナット314を螺合させ、連結部材ベース210とナット314との間に接続凹部29の底部を挟持させる。このようにして、上部フレーム21と上部荷重センサ6の入力軸206とが連結される。このとき、下部フレーム22の上部開口部31を画成する周縁部は、上部フレーム21の下部開口部25を画成する周縁部よりもやや小径に形成されており、上部開口部31を画成する周縁部は、上部フレーム21の下部開口部25を画成する周縁部の内側に遊嵌された状態になる。
【0085】
以上の連結構造によって、上部構造体13は上部荷重センサ6を介して下部構造体14に支持される。そのため、搭乗者が着座ユニット4に着座すると、搭乗者の荷重は上部構造体13を介して上部荷重センサ6の入力軸206に入力される。
【0086】
<倒立振子制御系の構成>
図13に示されているように、制御回路261には、入力インターフェース回路265を介して、上部荷重センサ6、傾斜センサ7、ステップ荷重センサ8、ロータリエンコーダ9L,9R、バッテリマネジメント回路285からの信号が入力される。制御回路261は、倒立振子制御を行うものであって、入力される各種信号に基づいて、移動体1を倒立状態に維持すべく、左ドライバ回路253および右ドライバ回路254を駆動させるためのPWM信号を生成する。
【0087】
上部荷重センサ6は、入力軸206に入力される荷重に応じた信号を、制御回路261に出力する。ステップ荷重センサ8は、ステップ183L,183Rに加わる荷重に応じた信号を、制御回路261に出力する。傾斜センサ7は、所定の基準線に対する自身の傾きに応じた信号を制御回路261に出力する。左右のロータリエンコーダ9L,9Rは、ロータ軸96L,97Rの回転位置に応じた信号を、制御回路261に出力する。
【0088】
制御回路261は、上部荷重センサ6からの信号に基づいて、入力軸206に入力される荷重を算出し、算出した荷重と所定の閾値とを比較して、着座ユニット4に搭乗者が着座しているか否かを判定する。また、制御回路261は、ステップ荷重センサ8からの信号に基づいて、ステップ183L,183Rに加わる荷重を算出し、算出した荷重と所定の閾値とを比較して、ステップ183L,183Rに搭乗者が足を乗せているか否かを判定する。
【0089】
制御回路261は、着座ユニット4に着座しているか否かの判定結果と、ステップ183L,183Rへ足を乗せているか否かの判定結果とに基づいて、移動体1への搭乗者の有無および搭乗者の搭乗姿勢を判定する。本実施形態に係る移動体1では、図14に示されるように、搭乗者は、着座ユニット4に着座して搭乗する着座搭乗姿勢(図中A)と、左右のステップ183L,183R上に起立し、格納位置にある着座ユニット4のクッション部を膝部および大腿部で挟みこむようにして搭乗する起立搭乗姿勢とをとることができる。着座ユニット4に着座していないと判定され、ステップ183L,183Rへ足を乗せていないと判定された場合には、移動体1に搭乗者はない(非搭乗状態)と判定される。着座ユニット4に着座していると判定された場合には、移動体1に搭乗者が着座搭乗姿勢で搭乗している(着座搭乗状態)と判定される。着座ユニット4に着座していないと判定され、ステップ183L,183Rに足を乗せていると判定された場合には、移動体1に搭乗者が起立搭乗姿勢で搭乗している(起立搭乗状態)と判定される。
【0090】
制御回路261は、ロータリエンコーダ9L,9Rからの信号に基づいて、左右の電動モータ82L,82Rの回転速度を算出し、左右の電動モータ82L,82Rの駆動制御に用いる。
【0091】
制御回路261は、傾斜センサ7からの信号に基づいて、下部構造体14の軸線と鉛直軸線Cとのなす角度である傾斜角θを所定の演算処理により算出する。下部構造体14の軸線は、図3に示すように、下部フレーム22の長軸(すなわち、上下方向に延在する線)に沿った線である。傾斜角θは、前後方向をx軸(前方向を正、後方向を負とする)、左右方向をy軸(右方向を正、左方向を負とする)、鉛直方向をz軸(上方向を正、下方向を負とする)とするxyz座標系を想定すると、x軸方向への傾斜角であるx成分θxと、y軸方向への傾斜角であるy成分θyとで表される。また、制御回路261は、傾斜角θを時間で微分することによって傾斜角速度θdを算出する。傾斜角速度θdは、x軸方向への傾斜角速度であるx成分θdxと、y軸方向への傾斜角速度であるy成分θdyとで表される。
【0092】
また、制御回路261は、傾斜角速度θd、移動体1および搭乗者を含む全体の重心高さ、回転輪の半径(前後方向の場合は環状体161の半径であり、左右方向の場合はドリブンローラ164の半径)、回転輪の回転速度等に基づいて所定の演算を行い、重心速度Vbを算出する。重心速度Vbは、x軸方向への成分である前後重心速度Vbxと、y軸方向への成分である左右重心速度Vbyとで表される。本実施形態に係る移動体1では、図14に示されているように、搭乗者は着座搭乗状態(図中のA)や起立搭乗状態(図中のB)で搭乗することができる。そのため、移動体1および搭乗者を含む全体の重心高さは、移動体1に搭乗者が搭乗していない非搭乗状態、着座搭乗状態、起立搭乗状態で変化する。
【0093】
制御回路261は、傾斜角θ、傾斜角速度θd、重心速度Vbに基づいて倒立振子制御を行う。倒立振子制御では、傾斜角を制御目標値である基準角θtに一致させるとともに、傾斜角速度θdおよび重心速度Vbが0となるように、左右の電動モータ82L,82Rの制御目標値を算出する。基準角θtは移動体1の非搭乗状態、着座搭乗状態、起立搭乗状態の各状態に対して予め設定されている。そして、制御回路261は、制御目標値にに基づいて、左ドライバ回路253および右ドライバ回路254を制御するためのPWM信号を生成する。左ドライバ回路253および右ドライバ回路254は、PWM信号に応じて左右の電動モータ82L,82Rに電力を供給し、左右の電動モータ82L,82Rを駆動する。
【0094】
以上の構成によって、移動体1は、倒立振子制御によって、軸線が基準角θtに一致した倒立状態に維持される。移動体1への走行操作(操作入力)は、搭乗者の体重移動によって行われる。搭乗者が進みたい方向に体重移動することによって、下部構造体14の軸線が進みたい方向に傾倒する。すると、操作入力検出手段としての傾斜センサ7が傾斜角θに対応する操作入力信号を制御回路261に出力し、制御回路261が傾斜角θを算出し、傾斜角θを各搭乗状態における基準角θtに一致させるように走行ユニット3を駆動する。その結果、移動体1は搭乗者が進みたい方向に移動する。このとき、搭乗者の体重移動速度に応じて傾斜角速度θdが変化する。以上のように、移動体1に対する操作入力は搭乗者の体重移動であり、操作入力検出手段としての傾斜センサ7が操作入力を検出して操作入力信号を発生させる。
【0095】
次にランプユニット400の発光制御手順について図15のフロー図を参照して説明する。図15に示すように、最初に、制御回路261は、操作入力検出手段として傾斜センサ7からの信号に基づいて前後重心速度Vbxおよび左右重心速度Vbyを算出する(S1)。次に、制御回路261は、前後重心速度Vbxおよび左右重心速度Vbyに基づいて、予め記憶されたランプ選択マップ(図16)を参照し、発光させるランプ(前進灯401〜右進灯404)を選択する(S2)。そして、制御回路261は、選択されたランプを発光させる(S3)。
【0096】
<実施形態の作用効果>
上述したように、傾斜角速度θdが生じる方向に移動体1が走行(進行)するため、制御回路261が傾斜センサ7からの信号に基づいて算出した重心速度Vbに基づいてランプユニット400を発光させることによって、走行方向に応じたランプが発光し、移動体1の周囲の人はランプユニット400の発光状態から移動体1の移動方向を予測することができる。このとき、搭乗者は、従来の車両のように方向指示器(ウィンカー)の操作を別途行う必要がない。
【0097】
図16に示すマップでは、前後重心速度Vbxが前進方向に増大するほど、左進灯403および右進灯404を発光させるための左右重心速度Vbyの絶対値を増大させるようにしている。これにより、前進方向への走行速度に対する左右方向への走行速度の比が小さくなるような場合には、左進灯403または右進灯404の報知を行わないようにすることができる。また、前後重心速度Vbxが前進方向に大きくなるような場合には、前進灯401によって搭乗者に注意喚起を行うことができる。なお、移動体1の走行に起因して搭乗者が意図しない左右方向への走行速度が生じた場合に、左進灯403および右進灯404が発光しないように、左進灯403および右進灯404を発光させるための閾値間には不感帯が設けられている。
【0098】
<一部変形実施形態>
上述した実施形態では、重心速度Vbに基づいて発光させるランプを選択したが、移動体1にジョイステック等の重心速度の変化を伴わない操作入力手段を設け、この操作入力手段の操作によって生成される目標重心速度Vtに基づいて発光させるランプを選択してもよい。この場合には、制御回路261は、倒立振子制御に基づいて重心速度Vbが目標重心速度Vtに一致するように左右の電動モータ82L,82Rを駆動する。
【0099】
目標重心速度Vtと同様の方向に重心速度Vbが生じるため、目標重心速度Vtに基づいてランプユニット400を発光させることによって、走行方向に応じたランプを発光させることができる。
【0100】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。前進灯401〜右進灯404の形状やレイアウトは、適宜変更可能である。例えば、左進灯403および右進灯404を左右のサドル63L,63Rの下部に設けてもよい。この場合には、左進灯403と右進灯404との距離が離れるとともに、左進灯403および右進灯404が移動体1のより側方に配置されるため、左進または右進を認識しやすくなる。また、左進灯および右進灯を、左右方向に発光部位が複数列設された1つのランプとして構成し、左進時には発光部位を右側から左側へと順に点灯させ、右進時には発光部位を左側から右側へと順に点灯させるような構成としてもよい。また、ランプはLEDに限られず、公知の電球(バルブ)を適用することができる。また、報知手段は、視覚的に注意喚起を行うLED等のランプだけでなく、聴覚的に注意喚起を行う音声や警告音等の発生装置であってもよい。
【0101】
以上の実施形態では、重心速度Vbまたは目標重心速度Vtに基づいて発光させるランプを選択したが、移動体1の傾斜角θや傾斜角速度θdに基づいて発光させるランプを選択してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…倒立振子型移動体、2…フレーム(基体)、3…走行ユニット、4…着座ユニット、5…制御ユニット、5…倒立振子制御ユニット(制御手段)、6…荷重センサ、7…傾斜センサ(操作入力検出手段)、10…バッテリユニット、11…電装ユニット、13…上部構造体、14…下部構造体、21…上部フレーム、22…下部フレーム、24…サドル格納部、29…接続凹部、36…切欠部、63L,68R…サドル、82L,82R…電動モータ、84L,84R…駆動体、85…主輪、121L,121R…ドライブディスク、122L,122R…ドライブローラ、161…環状体、164…ドリブンローラ、180L,180R…ステップベース、183L,183R…ステップ、261…制御回路、253…左ドライバ回路、254…右ドライバ回路、265…入力インターフェース回路、266…出力インターフェース回路、281…バッテリ、285…バッテリマネジメント回路(給電制御手段)、400…ランプユニット(報知手段)、401…前進灯、402…後進灯、403…左進灯、404…右進灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倒立振子型移動体であって、
基体と、
前記基体に設けられ、前記基体を床面上において前後方向および左右方向を含む任意の方向に走行させる走行ユニットと、
前記基体に設けられ、前記基体の走行方向および走行速度を変化させるための操作入力信号を生成する操作入力検出手段と、
前記基体に設けられ、前記操作入力信号に応じて前記走行ユニットの走行方向および走行速度に関する目標値を設定し、前記基体の走行方向および走行速度を前記目標値の走行方向および走行速度に一致させるように前記走行ユニットの駆動制御を行う制御手段と、
前記基体に設けられた報知手段と
を有し、
前記制御手段は、走行方向に関する前記操作入力信号または前記目標値に基づいて前記報知手段の作動制御を行うことを特徴とする倒立振子型移動体。
【請求項2】
前記制御手段は、さらに、走行速度に関する前記操作入力信号または前記目標値に基づいて前記報知手段の作動制御を行うことを特徴とする、請求項1に記載の倒立振子型移動体。
【請求項3】
前記制御手段は、前記操作入力信号または前記目標値の左右方向への走行速度の絶対値が、前記操作入力信号または前記目標値の前後方向への走行速度の絶対値の増大に伴って増大する閾値を超えた場合に前記報知手段を作動させることを特徴とする、請求項2に記載の倒立振子型移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−63208(P2011−63208A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217830(P2009−217830)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】