説明

偏光ガラス、光アイソレーターおよび偏光ガラスの製造方法

【課題】 比較的簡単に製造が可能でしかも表面反射の問題等のない偏光ガラス、光アイソレーターおよび偏光ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 ガラス基体中に配向分散された形状異方性金属粒子を含む偏光ガラスであって、前記金属粒子濃度が、偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光通信などに利用される小型光アイソレーター、光スイッチもしくは電気磁気センサー等の重要な構成部品の一つである偏光子として用いられる偏光ガラス、光アイソレーターおよび偏光ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス中に形状異方性を有する金属微粒子、例えば、銀粒子や銅粒子が配向・分散されたガラスは、その金属の光吸収波長帯が入射偏光方向によって異なるために偏光子になることが知られている。なお、ここで、形状異方性とは、縦寸法と横寸法とが異なることをいい、配向とは、多数の形状異方性粒子の長手方向がそろって特定の方向を向いていることをいい、分散とは、形状異方性粒子が互いに分離して配置されていることをいう。
【0003】
上述のような偏光ガラスとしては、例えば、ガラス基板の両主表面に、イオン交換処理を施し、両主表面からガラス中にAgイオンを導入した後、熱処理によってAgコロイド微粒子を形成し、引き続きガラス基板を延伸し、Ag微粒子に形状異方性を与えて偏光ガラスとするものである(非特許文献1参照)。この偏光ガラスは、比較的製造が容易であり、製造コストを低減できるので、注目されてきている。
【0004】
【非特許文献1】K.J.Berg GlassSci.Technol.68 C1 (1995), P554
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来の偏光ガラスにあっては、イオン交換によって生成する銀粒子の存在する領域がガラス表面近くの極く薄い層に限定される。しかも、さらに延伸を加えることで、ガラスの厚みは縮小され、全体の厚さが200μmの偏光ガラスにおいては、通常表面から3〜5μm程度の極く薄い層に延伸された銀粒子が存在することになる。図5は従来の偏光ガラスの説明図であって図5(a)が従来の偏光ガラスの部分断面図であり図5(b)が従来の偏光ガラスの偏光作用を行う光の進行方向におけるAg粒子の濃度分布を示す図である。図5に示されるように、従来の偏光ガラス10は、ガラス基体としてのガラス基板12の両主表面近傍の領域14に、形状異方性を有する銀の微粒子13が配向して分散されているものである。Ag粒子の濃度分布は、図5(b)に示されるように、ガラス基板12の表面近傍で高く、内部になるにつれ濃度が減少してゆく減衰曲線を描くのが一般的である。
【0006】
このような偏光ガラスを用いて光アイソレーターを作製すると、以下のような欠点があることが判明した。以下、この点について説明する。図6は従来の偏光ガラスを用いて光アイソレータを構成した場合の作用説明図である。図6において、光アイソレータ100は、互いの偏光軸が45度傾けられた2枚の偏光ガラス10a,10bの間にファラデー
ローテータとしてのガーネット結晶20を配置し、このガーネット結晶20を、2つの永久磁石30a,30bで挟み、その磁場下に置くようにしたものである。なお、偏光ガラス10a,10bは、ガラス基板の両主表面近傍に、図5に示されるような分布を有する形状異方性の銀粒子が一方向に配向されて分散されているものである。
【0007】
いま、光アイソレータ100の図中左方に配置されたLD光源40からの光が光アイソレータ100を通過して図中右方に配置された光ファイバ50に至る場合を考える。LD光源40から出射された光は、直交する光成分a,bを有するが、光アイソレータ100の偏光ガラス10aを通過すると、光成分a,bのうち、金属の延伸方向に平行な光成分
aを吸収し、垂直方向の光成分bのみを有する光を透過する。この透過した光成分bの光(直線偏光)は、ガーネット結晶20を通過する際に偏波面が45度ファラデー回転して光成分cを有する光になる。光成分cの光は、偏光ガラス10aに対して45度偏光軸が傾けられた偏光ガラス10bをそのまま透過して、光ファイバ50に入射され、伝送される。
【0008】
このとき、光ファイバ内での断線等の故障により、伝送光が戻ってきた場合、光の直線偏波が崩れて光成分d1,d2等を有する光になって、偏光ガラス10bに入射する。この入射した光のうち、この偏光ガラス10bを通過できるのは、上述の光成分cに対してその偏波面が同じである成分eを有する光(直線偏光)のみである。この光成分eの光は、ガーネット結晶20に入射してそれを通過すると、その偏波面が45度回転させられて光成分fの光になる。光成分fは、その偏波面が前記偏光ガラス10aの偏光軸と直交することになるので、本来ならほぼ完全に吸収されることになる。これによって、光ファイバ50からの戻り光がLD光源に戻るのがほぼ阻止されることになるはずである。LD光源に戻り光が入射すると、光出力がゆらぎ不安定となるので、光アイソレーターは、LD光源への戻り光の防止として利用され、信頼性の高い光通信には欠かせないものとなっている。
【0009】
しかしながら、本願発明者の研究によれば、上記偏光ガラスを用いた光アイソレータは、偏光ガラスの性能等から予想されるアイソレーションに比較して、実際に得られるアイソレーションがかなり小さいことが判明した。そこで、この原因を究明したところ、以下の事実が判明した。以下、この点を説明する。図6において、上述の通り、戻り光である光成分fは、その偏波面が前記偏光ガラス10aの偏光軸と直交することになるので、本来なら偏光ガラス10aによってほぼ完全に吸収されるはずである。ところが、偏光ガラス10aのガーネット結晶20に貼り合わせた側の表面では、銀粒子の濃度がが高い為に本来プラズマ吸収されるべき光である成分fの光の一部が、反射してしまい、光ファイバ50側の偏光ガラス10bに向かってガーネット結晶20内を光αとして伝播する。この時光αは、ガーネット結晶20内を伝播する間に偏波面が45度回転させられ、光成分gの光となって偏光ガラス10bにいたる。そして、偏光ガラス10bも、表面近傍で銀粒子の濃度が高いので、成分gの光αの一部が反射されて光βとなってガーネット結晶20内を伝播する。光βもガーネット結晶20内を伝播する間に偏波面が45度回転させられ、成分hの光となって再度偏光ガラス10aにいたる。ここで、成分hの偏波面は、上述の成分bの偏波面と同じであって、偏光ガラス10aを通過できる偏波であるため、この成分hの光は偏光ガラス10aをそのまま通過して、LD光源にそのまま入射してしまうことになり、これによって、アイソレーション性能を悪化させてしまうことになる。
【0010】
なお、上述のような偏光ガラス10a,10bの表面反射は、偏光ガラス10a,10bの金属濃度が表面で高いことによる反射光なので、偏光ガラス10a,10bの両主表面に反射防止膜(ARコート)を施しても、本質的に改善されない。また、LD光源40からの出射光が、最初に偏光ガラス10a,に入射する際の反射光は、偏光ガラス10a、ガーネット結晶20、偏光ガラス10bよりなる一体型のアイソレータ100を少し傾けることで、光源へ直接戻ることを防ぐことができる。しかしながら、光ファイバ50等への伝送光が戻り光となって戻ってきた場合には、偏光ガラス等を傾けていてもその戻り光を防ぐことはできないので、光アイソレータ100のアイソレーションが低いことに起因する戻り光が光源に入射されることになる。
【0011】
このような偏光ガラスを使用した光アイソレーターにおいて、その性能指数を示すアイソレーション(Iso:dB)は、次の式で算出される。
Iso(dB)=−10Log{Rn+10(−X/10)}・・・(1)
ここで、Rは偏光ガラスの吸収方向の直線偏光の反射率を、nは反射回数を、Xは偏光
ガラスでの反射率Rが0のときのアイソレーターのIso(dB)を表す。図6に示されるように、戻り光は、合計2回反射されるので、R分だけ反射が0のときのアイソレーションから劣化することになる。例えば、Xが40dBあったとしても、反射率Rが3%あれば、(1)式よりIsoは30dBと計算される。
【0012】
図7は偏光ガラスの吸収方向の直線偏光の反射率Rとアイソレーション(Iso:dB)との関係を示す図である。図においては、偏光ガラスでの反射率Rが0のときのアイソレーターのIso(dB)Xが40dB、35dB、32dBの場合について示している。この図から明らかなように、表面で形状異方性金属微粒子の濃度が高い偏光ガラスを用いて、光アイソレーターを作製した場合、反射率の影響が無視できなくなり、反射率が0のときのアイソレーションが40dBあっても、反射率が3%を超えると、光アイソレーター仕様の下限であるアイソレーション30dB以上を下回り、性能の低下を招いてしまう。
【0013】
さらに、両主表面に金属微粒子含有層を有するガラス板を延伸して偏光ガラスを作製する製造方法では、形状異方性金属粒子を含む層厚が数μmと薄いので、延伸後の偏光ガラスシート厚さを研磨等で目標厚さに揃えようとしたとき、研磨により金属微粒子部分がなくなってしまうので、偏光ガラスの厚さを所定値に調整することが難しいという問題もあった。偏光ガラスの厚さが揃っていないと、例えば光アイソレーターを多数組み上げる際に、ガーネット膜の両側に偏光ガラスを貼り合わせた一体型のアイソレーターの厚さが揃わず、これを収容するホルダーのサイズが一定とならず、ホルダーの大量生産ができないという、生産上の大きな障害がある。
【0014】
本発明は、上述の背景のもとでなされたものであり、比較的簡単に製造が可能でしかも表面反射の問題等のない偏光ガラス、光アイソレーターおよび偏光ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)ガラス基体中に配向分散された形状異方性金属粒子を含む偏光ガラスであって、前記金属粒子濃度が、偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有することを特徴とする偏光ガラス。
(2)前記金属粒子が、金属銀微粒子または金属銅微粒子であることを特徴とする(1)に記載の偏光ガラス。
(3)前記形状異方性金属粒子を含む層の厚さが合計で20μm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の偏光ガラス。
(4)全体の厚さが、50μm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の偏光ガラス。
(5)中心波長が1.31μmである波長域の光及び中心波長が1.55μmである波長域の光の、一方または両方に対する消光比が30dB以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の偏光ガラス。
(6)(1)〜(5)のいずれか1に記載の偏光ガラスを用いたことを特徴とする光アイソレーター。
(7)ファラデー回転素子及び少なくとも一つの偏光子を構成部品として含む光アイソレーターであって、前記偏光子として(1)〜(5)のいずれか1に記載の偏光ガラスを用いたことを特徴とする光アイソレーター。
(8)ガラス基体中に配向分散された形状異方性金属粒子を含む偏光ガラスを製造する偏
光ガラスの製造方法であって、
前記形状異方性金属粒子濃度が表面付近で高く、内部方向に減少してゆく濃度分布を有する金属粒子含有層を少なくとも一主表面に有する偏光ガラス2枚を、前記互いの金属粒子の配向方向が一致するように前記金属粒子含有層を有する主表面を対向させて密着させ、他方の非密着主表面に金属粒子層がある場合にはその金属粒子含有層を取り除くことによって、
前記金属粒子濃度が、偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有する偏光ガラスを製造することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
(9)ガラス基板の主表面にイオン交換法により金属イオンを導入し、金属イオン濃度がガラス表面付近で高く、内部方向に減少してゆく濃度分布を有する金属イオン含有層を有する金属イオン含有ガラス基板を作製し、
前記金属イオン含有ガラス基板を加熱することによって、金属粒子を生成させて金属粒子濃度がガラス基板表面付近で高く、内部方向に減少してゆく濃度分布を有する金属粒子含有層を有する金属粒子含有ガラス基板を作製し、
前記金属粒子含有ガラス基板を2枚用意し、該ガラス基板の金属粒子生成面をお互いに密着させた後、加熱延伸することにより、前記金属粒子を一方向に配向された形状異方性金属粒子に形成させることによって、
偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有する偏光ガラスを製造することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラス表面にイオン交換法により金属イオンを導入し、これを加熱することによって、金属粒子を生成させ、これを加熱延伸するという比較的簡単な方法を用いて作製した場合でも、表面反射が問題にならない偏光ガラスを得ることが可能になる。また、表面近傍には形状異方性粒子がほとんど存在しないので、表面近傍を、研磨、エッチング等の手段で落とすことにより、偏光ガラスを所定の厚さに調整することが容易に可能になる。さらに、偏光作用を示す光の進行方向(厚さ方向)における中央部分での形状異方性金属粒子を含有する層厚が合計で10μm以内と薄いので、偏光特性を損なわずに偏光ガラスの厚さを50μm以下の薄い偏光ガラスを作製することも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本願発明の実施の形態1にかかる偏光ガラスの説明図であって図1(a)が本実施の形態1にかかる偏光ガラスの部分断面図であり図1(b)が本実施の形態1にかかる偏光ガラスの偏光作用を行う光の進行方向における銀等の金属粒子の濃度分布を示す図である。図1に示されるように、本実施の形態1に係る偏光ガラス1は、ガラス基体としてのガラス基板2中に、形状異方性を有する金属微粒子3が配向して分散されているものである。この金属微粒子3の寸法は、長手方向が50〜210nm、長手方向と直交する方向が、10〜30nm程度である。
【0018】
前記金属微粒子3は、図に示されるように長手方向が偏光作用を受ける光Lの進行方向
(厚さ方向)に対して直交する方向を向いているものである。また、図1(b)に示されるように、偏光作用を行う光の進行方向における金属粒子の濃度分布は、ガラス基板2の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基板2の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基板2のほぼ
中央部近傍で最大になり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有している。中央部近傍における濃度は、1×10〜1×1012 個/mm程度であればよ
い。偏光ガラス1の厚さt1は、0.03〜0.6mm、金属粒子の存在する領域4の厚さt2は、5〜30μmである。
【0019】
図2は実施の形態1にかかる偏光ガラス1の製造工程の説明図である。以下、図2を参照にしながら実施の形態1にかかる偏光ガラス1の製造工程を説明する。まず、図5に示される従来の偏光ガラス10を2枚作製する(図2(a)参照)。次に、2枚の偏光ガラス10同士を形状異方性金属粒子の配向が一致するように互いの表面を対向し密着させる(図2(b)参照)。次いで、密着されていない表面近傍にある金属微粒子含有層14を研磨やエッチング等で取り除く(図2(c)参照)。これにより、実施の形態1にかかる偏光ガラス1を得ることができる。
【0020】
ここで、従来の偏光ガラス10に、形状異方性金属粒子の長手方向に平行な直線偏波を入射すると、表面付近での高濃度の金属の存在により、比較的高い反射率が生じ、反射光が発生する。これは、ガラス表面の金属微粒子濃度が高くなっているので、鏡による反射に似て、高い反射率を示すと考えられる。これに対して、本実施の形態にかかる偏光ガラス1では、表面での金属による反射はなく、直線偏波は偏光ガラス1の内部に入射してゆき、緩やかな金属微粒子濃度の増加に伴い、反射率は次第に増加するが、金属微粒子のプラズマ吸収で直線偏波の強度も除々に減少してゆくので、高濃度の金属含有箇所(接合面)に達しても、その反射光強度は従来型と比べて弱いものとなる。
【0021】
図3は実施の形態2にかかる偏光ガラスの説明図であって図3(a)が実施の形態2にかかる偏光ガラスの部分断面図であり図3(b)が実施の形態2にかかる偏光ガラスの偏光作用を行う光の進行方向における金属粒子の濃度分布を示す図である。図3に示されるように、この実施の形態2に係る偏光ガラス1も上述の実施の形態1に係る偏光ガラスと同様に、イオン交換法を用いて両主表面近傍に形状異方性金属粒子層を形成させた従来の偏光ガラスを2枚密着させて作製したものであるが、その用いる2枚の偏光ガラスが、上記実施の形態1の場合と異なるものである。
【0022】
すなわち、この実施の形態2で用いる2枚の偏光ガラスは、最表面での形状異方性金属粒子濃度を2段イオン交換法などで比較的低くし、最表面から数μm内部で形状異方性金属粒子濃度が最高となり、そこから内部にかけて除々に濃度が低下してゆく偏光ガラスで、金属微粒子濃度分布の変化が、最表面から金属微粒子濃度の最高箇所にいたるまでの変化より、金属微粒子濃度の最高箇所から内部方向に該濃度が実質的にゼロとなる箇所にいたるまでの変化のほうが緩やかになっているものである。この実施の形態にかかる偏光ガラスは、金属粒子の濃度分布の変化が緩やかであるので、さらに光の反射を小さく抑えることが可能になる。
【0023】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
硝酸ナトリウムと硝酸銀をwt%で2:1に混合した溶融塩を450℃に加熱し、厚さ2mmの市販の白板ガラスを50時間浸漬し、ガラス中のナトリウムと溶融塩中の銀イオンをイオン交換した。続いて、このイオン交換した白板ガラスを、650℃で10時間熱処理し、約45μmの球形の銀微粒子を析出させた。白板ガラスの両表面から深さ30μmにわたり、この銀微粒子が確認された。
【0024】
続いて、この銀微粒子を析出させたガラス板を、約700℃に加熱して延伸した。得られたガラステープは、厚さ0.2±0.03mmで銀を含有している層は、両表面から3μmの深さだった。このガラステープから延伸方向に平行に10mm角に切り出したガラス
片を試料(C)とした(従来の偏光ガラスに対応)。
【0025】
2枚の試料(C)の延伸方向を正確に揃えて銀含有層同士を低融点ガラスを介して加熱密着させた。さらに、このガラス片の貼り合わせをしなかった2面の表面を研磨で均等に落とし、厚さを0.2mmtとし、試料(A)とした(実施の形態1の偏光ガラスに対応
)。試料(A)は、研磨により、ガラス両表面の銀含有層は完全に除去され、厚さの中央部分の貼り合わせた部分に銀含有層を有するだけとなった。また厚さ精度は、0.2±0.002mmだった。
【0026】
また、試料(C)の一つの主表面を研磨して銀粒子が含まれる層を除去し、この片面研磨で厚さを0.1mmtとしたガラス片を2枚作成した。このガラス片2枚を、延伸方向
を正確に揃えて銀含有層同士を低融点ガラスを介して加熱密着させ、試料(B)とした(実施の形態2の偏光ガラスに対応)。試料(B)は、研磨により、ガラス両表面の銀含有層は完全に除去され、厚さの中央部分の貼り合わせた部分に銀含有層を有するだけとなった。また厚さ精度は、0.2±0.005mmだった。
【0027】
次に、1.31μmのLD光源を用いて、ガラス試料(A)、(B)、(C)の消光比
を測定した。消光比は、次式で表わされる。
消光比=−10Log(Pout/Pin) 〔dB〕
通常の反射率が0.15%程度の偏光ガラスで、消光比が45dB以上あっても、ガー
ネット結晶の回転角の精度や2枚の偏光ガラスの貼り合わせ精度によって、光アイソレーターのアイソレーションは35dB程度になるのが一般的である。
【0028】
次に、試料(A)、(B)、(C)の反射率を測定した結果を示す。図4は試料(A)、(B)、(C)の反射率の測定に用いた測定系を示す図である。図4に示されるように、光源65からの光は、グラントンプソンプリズム61を通して一方向の直線偏波に変換され、無偏光分波器62を通して測定試料64に入射される。ここで、反射光がある場合には、反射光は再び無偏光分波器62に入射し、検出器63の方向Cに回折し、検出器63によって検出される。
【0029】
はじめに、Al(アルミニウム)をコートした反射板をマッチングオイル66を介して測定試料64の配置位置に置き、検出器63に入射される反射光強度を測定する。次に測定する偏光ガラス(測定試料)64を入射する直線偏波を吸収する向き(延伸方向と平行)にマッチングオイル66を介して測定試料64の配置位置に置き、透過光bが最小になる角度での反射光を測定する。ここでマッチングオイル66は、材質の屈折率差による反射の影響を無くす働きをしている。はじめに測定したAlコート反射板の反射光強度P(Al)に対する、各偏光ガラス試料の反射光P(g)の割合から反射率Rを次式によって算出した。
R=P(g)/P(Al)
【0030】
その後、試料(A)、(B)、(C)をそれぞれ2枚と45度偏波面が回転するガーネット結晶、永久磁石を用いて、光アイソレーターを組み上げ、それぞれのアイソレーション値を測定した。これらの結果を、上記測定した試料(A)、(B)、(C)の反射率とともに表1に示す。
【表1】

【0031】
(実施例2)
実施例1と同様にイオン交換し、熱処理して銀微粒子を析出させたガラス板2枚を、銀微粒子を含有する層同士を、低融点ガラスを介して加熱密着させた。このガラス板を約710℃で加熱延伸して、厚さ0.4±0.05mmのガラステープを得た。このガラステープから延伸方向に平行に10mm角に切り出し、両表面を均等に研磨して、厚さ0.2m
mtに仕上げ、試料(D)とした。試料(D)は、研磨により、ガラス両表面の銀含有層は完全に除去され、厚さの中央部分の貼り合わせた部分に銀含有層を約6μmの厚さで有するだけとなった。また試料(D)の厚さ精度は、0.2±0.002mmだった。
【0032】
実施例1と同様に、試料(D)の消光比、反射率、を測定し、2枚の試料(D)を用いて、実施例1と同様に光アイソレーターを作製し、アイソレーションを測定した。これらの結果を後述の表2に示す。上記ガラステープから延伸方向に平行に5mm角に切り出し、両表面を均等に研磨して、厚さ30μmに仕上げ、試料(E)とした。試料(E)の厚さ精度は、30±8μmだった。また、試料(E)と同様に、研磨によりガラス両表面の銀含有層は完全に除去され、厚さの中央部分の貼り合わせた部分に銀含有層を約6μmの厚さで有するだけだった。
試料(E)の消光比と反射率を実施例1と同様に測定し、2枚の試料(E)を用いて、実施例1と同様に光アイソレーターを作製し、アイソレーションを測定した。結果を後述する表2に示す。
【0033】
(実施例3)
厚さ1.5mmの白板を実施例1と同様にイオン交換し、このガラス板2枚を、イオン
交換面同士を対向させ、平坦なアルミナ板に載せ、約2Kgのセラミック板の重しをしながら、650℃で10時間の熱処理をした。2枚のガラス板は融着されており、ガラス板厚は、2.8mmtだった。この融着ガラス板の両表面では、深さ30μmにわたり、約
50μmのほぼ球形の銀微粒子が析出していた。またこの融着ガラス板の厚さの中央部分では、厚さ約60μmにわたり、約45μmのほぼ球形の銀微粒子が析出していた。
【0034】
続いて、この銀微粒子を析出させた融着ガラス板を、約710℃に加熱して延伸した。得られたガラステープは、厚さ0.28±0.03mmだった。このガラステープから延伸方向に平行に10mm角に切り出し、フッ酸水溶液のエッチング液に浸漬し、両表面を均等にエッチングして、厚さ0.2mmtに仕上げ、試料(F)とした。試料(F)は、エ
ッチングにより、ガラス両表面の銀含有層は完全に除去され、厚さの中央部分の融着した部分に銀含有層を約6μmの厚さで有するだけとなった。また試料(F)の厚さ精度は、0.2±0.01mmだった。実施例1と同様に、消光比、反射率、を測定し、2枚の試料(F)を用いて、実施例1と同様に光アイソレーターを作製し、アイソレーションを測定した。結果を後述する表2に示す。
【0035】
(実施例4)
厚さ1.1mmの白板の片表面にCr膜を厚さ0.5μmの厚さで蒸着した後、該白板を
実施例1と同様にイオン交換した。続いて、イオン交換面を耐酸テープでマスキングし、Cr膜のみを硫酸とフッ酸の混酸で剥離した後、耐酸テープを取り、イオン交換面同士を対向させ、実施例3と同様に熱処理して、2枚のガラスを融着するのと同時に銀微粒子を析出させた。この融着ガラス板の厚さは、2.0mmtで、両表面では、銀微粒子は全く
析出していなかった。またこの融着ガラス板の厚さの中央部分では、厚さ約60μmにわたり、約45μmのほぼ球形の銀微粒子が析出していた。
【0036】
次に、この銀微粒子を析出させた融着ガラス板を、約700℃に加熱して延伸した。得られたガラステープは、厚さ0.2±0.03mmだった。このガラステープから延伸方向に平行に10mm角に切り出し、試料(G)とした。試料(G)は、厚さの中央部分の融着した部分に銀含有層を約6μmの厚さで有するだけだった。実施例1と同様に、消光比、反射率、を測定し、2枚の試料(G)を用いて、実施例1と同様に光アイソレーターを作製し、アイソレーションを測定した。結果を後述する表2に示す。
【0037】
(実施例5)
硝酸ナトリウムと硝酸銀をwt%で4:1に混合した溶融塩を480℃に加熱し、厚さ2mmの市販の白板ガラスを150時間浸漬し、ガラス中のナトリウムと溶融塩中の銀イオンをイオン交換した。続いて、このイオン交換した白板ガラスを、400℃の硝酸ナトリウムの溶融塩中に70時間浸漬し、ガラス表面近くの銀イオン濃度を低下させた後、水素雰囲気下で620℃の温度で10時間熱処理し、約50μmの球形の銀微粒子を析出させた。白板ガラスの両表面から深さ90μmにわたり、この銀微粒子が確認された。続いて、この銀微粒子を析出させたガラス板を、約700℃に加熱して延伸した。得られたガラステープは、厚さ0.2±0.03mmで銀を含有している層は、両表面から9μmの深さだった。銀粒子濃度は、最表面から3μm内部の箇所で最大となり、それから内部方向にかけて除々に該濃度は減少し、最表面から9μmの箇所で銀濃度は実質的にゼロになった。
【0038】
このガラステープから延伸方向に平行に10mm角に切り出したガラス片を試料(I)とした。試料(I)の一つの主表面を研磨で落とし、片面研磨で厚さを0.1mmtとし
たガラス片を2枚作成した。このガラス片2枚を、延伸方向を正確に揃えて銀含有層同士をUV光硬化型樹脂を使用して密着させ、試料(H)とした。試料(H)は、研磨により、ガラス両表面の銀含有層は完全に除去され、厚さの中央部分の貼り合わせた部分に銀含有層を有するだけとなった。また厚さ精度は、0.2±0.003mmだった。実施例1と同様に、試料(H)、(I)の消光比、反射率、を測定した。また、2枚の試料(H)と2枚の試料(I)を用いて、実施例1と同様にそれぞれ光アイソレーターを作製し、アイソレーションを測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば、光通信などに利用される小型光アイソレーター、光スイッチもしくは電気磁気センサー等の重要な構成部品の一つである偏光子として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本願発明の実施の形態1にかかる偏光ガラスの説明図であって図1(a)が本実施の形態1にかかる偏光ガラスの部分断面図であり図1(b)が本実施の形態1にかかる偏光ガラスの偏光作用を行う光の進行方向における銀等の金属粒子の濃度分布を示す図である。
【図2】実施の形態1にかかる偏光ガラス1の製造工程の説明図である。
【図3】実施の形態2にかかる偏光ガラスの説明図であって図3(a)が実施の形態2にかかる偏光ガラスの部分断面図であり図3(b)が実施の形態2にかかる偏光ガラスの偏光作用を行う光の進行方向における金属粒子の濃度分布を示す図である。
【図4】試料(A)〜(I)の反射率の測定に用いた測定系を示す図である。
【図5】従来の偏光ガラスの説明図であって図5(a)が従来の偏光ガラスの部分断面図であり図5(b)が従来の偏光ガラスの偏光作用を行う光の進行方向におけるAg粒子の濃度分布を示す図である。
【図6】従来の偏光ガラスを用いて光アイソレータを構成した場合の作用説明図である。
【図7】偏光ガラスの吸収方向の直線偏光の反射率Rとアイソレーションとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 偏光ガラス
2 ガラス基板
3 金属微粒子
4 金属微粒子の存在する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基体中に配向分散された形状異方性金属粒子を含む偏光ガラスであって、前記金属粒子濃度が、偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有することを特徴とする偏光ガラス。
【請求項2】
前記金属粒子が、金属銀微粒子または金属銅微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の偏光ガラス。
【請求項3】
前記形状異方性金属粒子を含む層の厚さが合計で20μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光ガラス。
【請求項4】
全体の厚さが、50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項5】
中心波長が1.31μmである波長域の光及び中心波長が1.55μmである波長域の光の、一方または両方に対する消光比が30dB以上である請求項1〜4のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光ガラスを用いたことを特徴とする光アイソレーター。
【請求項7】
ファラデー回転素子及び少なくとも一つの偏光子を構成部品として含む光アイソレーターであって、前記偏光子として請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光ガラスを用いたことを特徴とする光アイソレーター。
【請求項8】
ガラス基体中に配向分散された形状異方性金属粒子を含む偏光ガラスを製造する偏光ガラスの製造方法であって、
前記形状異方性金属粒子濃度が表面付近で高く、内部方向に減少してゆく濃度分布を有する金属粒子含有層を少なくとも一主表面に有する偏光ガラス2枚を、前記互いの金属粒子の配向方向が一致するように前記金属粒子含有層を有する主表面を対向させて密着させ、他方の非密着主表面に金属粒子層がある場合にはその金属粒子含有層を取り除くことによって、
前記金属粒子濃度が、偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有する偏光ガラスを製造することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。
【請求項9】
ガラス基板の主表面にイオン交換法により金属イオンを導入し、金属イオン濃度がガラス表面付近で高く、内部方向に減少してゆく濃度分布を有する金属イオン含有層を有する金属イオン含有ガラス基板を作製し、
前記金属イオン含有ガラス基板を加熱することによって、金属粒子を生成させて金属粒子濃度がガラス基板表面付近で高く、内部方向に減少してゆく濃度分布を有する金属粒子含有層を有する金属粒子含有ガラス基板を作製し、
前記金属粒子含有ガラス基板を2枚用意し、該ガラス基板の金属粒子生成面をお互いに密着させた後、加熱延伸することにより、前記金属粒子を一方向に配向された形状異方性
金属粒子に形成させることによって、
偏光作用を示す光の進行方向において、前記ガラス基体の一方の側の表面近傍及び他方の側の表面近傍ではほぼゼロであり、前記ガラス基体の一方の側から他方の側へ向かうにしたがって次第に増加していき、前記ガラス基体内で所定の範囲の大きさになり、次に他方の側に向かうに従って次第に減少する分布を有する偏光ガラスを製造することを特徴とする偏光ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−265119(P2009−265119A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110652(P2008−110652)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(592032430)HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社 (44)
【Fターム(参考)】